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特集 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 27 金型要件チェックツールによる部品量産品質の早期 作り込み A Mold Requirement Check Tool That Enables the Quality of Mass- Produced Parts to Be Established Early in the Development Process 富士ゼロックスは、従来、製品設計出図後の金型設計、製造を外 部メーカーに委託しており、金型の技術的な知見を保有していな かった。このため、金型の要件設定を十分に作り込めず、出図後に 手戻りが多く発生し、金型製造リードタイムの長期化を招いてい た。そこで、出図前に金型要件を作り込む、抜本的なプロセス改革 を行った。その手段として、独自の3D-CADデータ形状認識技術 に基づき3D-CADモデルから金型要件の不適合箇所を自動抽出 する、「金型要件チェックツール」を開発した。その結果、出図後 の金型の不具合に起因する手戻りを大幅に削減することができ た。本稿では、ツール開発に至る背景、開発経緯と構成技術、ツー ルの概要と展開効果、および社外サービスを含めた今後の展開に ついて述べる。 Abstract At Fuji Xerox, after we issue engineering drawings for parts, we outsource the design and manufacture of the molds for those parts. In the past, technical know-how on molds was not accumulated in Fuji Xerox, and mold requirements often were not sufficiently reflected in the designs and drawings of the parts. In many cases, Fuji Xerox engineers had to make changes in the designs and drawings of parts in order to reflect mold requirements after the drawings had been issued, increasing the lead time required for the manufacturers to design and manufacture the molds. To address this, we introduced a fundamental change in the product development process in order to ensure that mold requirements are sufficiently reflected in the designs and drawings of parts before the drawings are issued. To achieve this, we utilized our 3D-CAD data feature recognition technology to develop a “mold requirement check tool” that checks the 3D-CAD models and automatically detects and specifies any nonconformities with the mold requirements. As a result, we succeeded in reducing the number of modifications made due to trouble occurring in molds after the issue of the drawings. This paper describes how and why we decided to develop the check tool, the background of its development, the technologies used, an overview of the tool, the effects of its introduction, and future plans for the tool, such as providing it to other companies as a solution service. 執筆者 萩原正明(Masaaki Hagiwara沼内寿浩(Toshihiro Numauchi吉塚公則(Masanori Yoshizukaモノ作り技術本部 部材技術開発部 Parts & Material technology and development, Production Technology【キーワード】 金型、プラスチック、プレス、デジタル、形式知 化、規格化、3D形状認識技術、クラウド、チェッ クツール、3D-CAD、サービスビジネス Keywordsmold, die, plastic, press, digital, explicit knowledge, tacit knowledge, standardization, 3D feature recognition technology, cloud, check tool, 3D-CAD, service business

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特集

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 27

金型要件チェックツールによる部品量産品質の早期作り込み A Mold Requirement Check Tool That Enables the Quality of Mass-Produced Parts to Be Established Early in the Development Process

要 旨

富士ゼロックスは、従来、製品設計出図後の金型設計、製造を外

部メーカーに委託しており、金型の技術的な知見を保有していな

かった。このため、金型の要件設定を十分に作り込めず、出図後に

手戻りが多く発生し、金型製造リードタイムの長期化を招いてい

た。そこで、出図前に金型要件を作り込む、抜本的なプロセス改革

を行った。その手段として、独自の3D-CADデータ形状認識技術

に基づき3D-CADモデルから金型要件の不適合箇所を自動抽出

する、「金型要件チェックツール」を開発した。その結果、出図後

の金型の不具合に起因する手戻りを大幅に削減することができ

た。本稿では、ツール開発に至る背景、開発経緯と構成技術、ツー

ルの概要と展開効果、および社外サービスを含めた今後の展開に

ついて述べる。

Abstract

At Fuji Xerox, after we issue engineering drawings for parts, weoutsource the design and manufacture of the molds for those parts.In the past, technical know-how on molds was not accumulated in Fuji Xerox, and mold requirements often were not sufficientlyreflected in the designs and drawings of the parts. In many cases, Fuji Xerox engineers had to make changes in the designs anddrawings of parts in order to reflect mold requirements after thedrawings had been issued, increasing the lead time required for themanufacturers to design and manufacture the molds. To address this, we introduced a fundamental change in the productdevelopment process in order to ensure that mold requirements aresufficiently reflected in the designs and drawings of parts before thedrawings are issued. To achieve this, we utilized our 3D-CAD data feature recognition technology to develop a “mold requirementcheck tool” that checks the 3D-CAD models and automaticallydetects and specifies any nonconformities with the moldrequirements. As a result, we succeeded in reducing the number ofmodifications made due to trouble occurring in molds after the issue of the drawings. This paper describes how and why we decided todevelop the check tool, the background of its development, thetechnologies used, an overview of the tool, the effects of itsintroduction, and future plans for the tool, such as providing it toother companies as a solution service.

執筆者 萩原正明(Masaaki Hagiwara) 沼内寿浩(Toshihiro Numauchi) 吉塚公則(Masanori Yoshizuka) モノ作り技術本部 部材技術開発部 (Parts & Material technology and development,

Production Technology)

【キーワード】

金型、プラスチック、プレス、デジタル、形式知

化、規格化、3D形状認識技術、クラウド、チェッ

クツール、3D-CAD、サービスビジネス

【Keywords】

mold, die, plastic, press, digital, explicit knowledge, tacit knowledge, standardization, 3D feature recognition technology, cloud, check tool, 3D-CAD, service business

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特集

金型要件チェックツールによる部品量産品質の早期作り込み

28 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

1. はじめに

1.1 従来の金型製作プロセス

富士ゼロックスが開発する複写機やプリンターは、数千点の

部品で構成されている。その内訳は、プラスチック部品が60%、

プレス部品が30%、その他が10%で、プラスチック部品とプ

レス部品の多くは、新規に金型を製作する必要がある。

2006年当時、当社はプラスチック金型製作のほぼすべてを

金型メーカーに委託していた。このため、社内には金型製作の

知見や技術はほとんど蓄積されていなかった。

図1上段に示すとおり、製品設計部門で作成された3Dモデ

ルおよび2D図面は、出図後に金型メーカーに渡る。このとき、

部品の設計仕様は十分に作り込まれる。一方、金型要件(アン

ダーカット*1、エッジ*2、偏肉*3などの有無)は、図面を目視

で確認していたが、人による確認度合いのばらつきや大量の図

面を細部まで見切れない等の理由により、作り込みが不十分で

あった。このため、金型製作プロセス上で不具合が多数発生し

ていた。

1.2 課題と対策の方向性

図2は、プラスチック部品の金型製作における手戻りの内訳を

分析したものである。パーティングライン*4、ヒケ*5、ソリ*6、

肉抜き*7、型強度、アンダーカットなど、製品設計段階で十分

な金型要件の作り込みをしていれば防げていた不具合が全体

の76%を占める。

このような手戻りが、金型製作リードタイムを長期化させて

いた。図3に示すとおり、約半数の金型は、製作に2カ月以上を

要している。18%は3カ月以上、中には5カ月以上のリードタ

イムが必要な部品も存在した。

金型メーカーは、金型製作プロセスで発生した金型要件不具

合に対し、「検討依頼書」を作成し、当社に提出する。「検討依

頼書」には、不具合の内容と対応策がまとめて記載されており、

当社の製品設計部門は、干渉や強度、コスト等の観点で金型

メーカーからの提案を検討する。そして、採用する場合は、部

品図面を修正して再出図する。このプロセスには7~10日掛か

るため、この間金型メーカーは型起工に入れない。このような

手戻りおよび設計変更の繰り返しが、金型製作リードタイムの

長期化につながっていた。

そこで、図1下段に示すように、製品設計と並行して新たに

生産設計プロセスを設け、部品図面出図後に発生していた金型

要件、成形要件などの不具合を事前に抽出し、検討漏れを一掃

するフロントローディング活動を開始した1)。その当時実施し

た施策の詳細については、2008年度版富士ゼロックステクニ

カルレポート2)に記載しており、ここでは金型要件フロント

ローディングの活動と成果について述べる。

図1 富士ゼロックスの金型製作プロセス

図2 金型製作における不具合内訳

図3 金型製作リードタイム

*1 アンダーカット:金型から成形品を取り出す場合に、型開き方向

のみで離型できない形状 *2 エッジ:部品や金型の鋭利形状 *3 偏肉:肉厚が一定になっていない形状 *4 パーティングライン:金型の固定側型板と可動側型板の分割線 *5 ヒケ:体積収縮により表面に凹みが生じる射出成形不良 *6 ソリ:体積収縮差により金型取り出し後、部品が変形する射出成

形不良 *7 肉抜き:偏肉部を一定にするための形状変更

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特集

金型要件チェックツールによる部品量産品質の早期作り込み

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 29

2. 金型要件チェックツール開発経緯3)

2.1 形式知化と標準化

生産設計プロセスで金型要件、成形要件を作り込むため、ま

ずは規格を作成することにした。しかし、前述したとおり当社

に金型設計や製作の技術はほとんどなく、規格の元となるデー

タやノウハウもなかった。そこでまず、過去に発生した不具合

の分析と、当社の部品仕様に関わる問題点を、金型メーカーか

ら抽出した。それと並行して、金型を内製している関連会社で

現状の金型製作工程を調査した結果、800を超える工程がある

ことがわかった。このような活動により、金型メーカーや関連

会社にあった暗黙知を形式知化し、「製品設計規格書」を作成し

た(図4、図5)。

この規格書には製品設計という名称が付いているが、内容は

金型要件および成形要件を記載している。「一定肉厚で設計し

てください」といった基本的な規格から、金型切削の最小工具

径に依存するリブ*8先端幅、ヒケ回避に必要なリブ根元幅、金

型薄肉部の寸法などを記載している。つまり、金型成立の要件

や量産性を考慮した製品設計者向けのガイドとなっている。

2.2 金型要件チェックツールの開発

単に規格を制定するだけでは、設計者が規格に従っているか

どうかはわからない。かりに規格を十分理解している設計者で

あっても、さまざまな制約条件の下で部品設計をしている以上、

金型要件への不適合が発生する可能性は否定できない。そのた

め、簡便に金型要件の適合性を確認する仕組みが必要であった。

そこで、規格に基づき、3D-CADモデルから金型要件の不適

合箇所を自動抽出する「金型要件チェックツール」を開発した。

このツールは、市販の3D-CADのオプション機能などとは異

なる、当社のノウハウが埋め込まれたものである。

金型要件チェックに必要な情報は、部品の3D-CADデータ

のみで、属性も履歴も必要ない。そのため製品設計者は、出図

前の早い段階で、簡単に金型要件を作り込むことができる(図6)。

3. 金型要件チェックツールを支える技術

ツール開発を支えた構成技術として、形式知化技術、3D形

状認識技術、クラウド化技術の3つがあり、順に説明する。

3.1 形式知化技術

形式知化技術とは、人が頭の中で判断しているもの(暗黙知)

を数値や言葉で表す技術である。たとえばアンダーカット

チェックをするためには、型抜き方向を定義する必要がある。

人は過去の知見に基づき視覚的に判断できるが、これをコン

ピューターに判断させるのは困難である。そこで、判断を自動

化するため、金型技術者が過去に型抜き方向を定義した3D-

CADデータを数百例集め、形状と型抜き方向の判断基準を分

析し、次のプロセスを導き出した。

① 型抜き方向の決定

型抜き方向は、アンダーカット面積が小さい方向(候補1)

と、型開き量が少ない方向(候補2)から総合的に判断し

て決定する。

図4 標準化・規格化

図5 製品設計規格書(型薄肉の例)

図6 製品設計規格書(型薄肉の例)

*8 リブ:部品形状の一部で薄板部

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特集

金型要件チェックツールによる部品量産品質の早期作り込み

30 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

② CAVI*9/CORE*10方向の決定

型抜き方向のうち、表面積が小さい方をCavi側とする

(Cavi取られ*11防止観点)。

3.2 3D形状認識技術5)-12)

3D形状認識技術は、3D-CADデータから特定の形状(アン

ダーカット箇所、薄肉部、リブ、ボス、穴など)を自動認識す

るもので、金型要件の適合性を自動判定するためにはキーの技

術となる。前述した、決定ロジックを元に開発した「型抜き方

向自動認識技術」を例に挙げ、自動認識技術を説明する。

① 型抜き方向の決定

・ アンダーカット面積の算出と面積が少ない方向(候補1)

の決定

CADデータを構成する任意面上の構成要素点を一定ピッ

チで抽出し、抽出した各点から座標系の+Z方向に、レー

ザーポインターの要領でビームを飛ばし、他の構成面との

衝突有無を判別する。次に、上記構成要素点の中で衝突し

た割合を算出し、面の面積と衝突割合(面の面積×衝突割

合)から、アンダーカット面積を算出する。これを全面で

計算し、+Z方向のアンダーカット面積とする。同様に

±XYZ座標方向、ボスおよび穴の軸方向で計算し、アン

ダーカットが最も少ない方向を決定する(図7)。

・ 型開き量の算出と型開きが少ない方向(候補2)の決定

CADデータから、部品のXYZ座標方向での最小寸法を算

出し、型開き量を算出する。

・型抜き方向の最終判断

候補1、2の総合判定で型抜き方向を決定する(図8)。

② Cavi/Core方向の決定

アンダーカット面積の算出と同様の方法で、各面の構成要

素点から、型抜き方向(+と-の2方向)にビームを飛ば

し、衝突がない方向(処理可能方向)を算出する(図9)。

そして、+と-各方向で、衝突がない方向の構成要素点数

を合計し、小さいほうをCavi方向、大きいほうをCore方

向とする(図10)。

3.3 クラウド化技術

クラウド化技術とは、Web上で金型要件チェック依頼から結

果の閲覧までを実現する技術である。製品設計者が、モデル

チェックから修正のプロセスの工程を出図前に実施できるよ

う、多数の部品を素早く簡単にチェックし、結果をフィード

バックする必要があった。そこでWeb上にモデルをアップロー

ドするだけで、システムが自動的に金型要件をチェックするク

ラウド環境を構築した(図11)。ここでは、次の技術を使用し

ている。

図7 衝突の判定

図9 衝突がない方向の算出

図8 型開き量と型抜き方向の決定

図10 CAVI方向とCORE方向の決定

*9 CAVI:金型の固定側 *10 CORE:金型の可動側

*11 Cavi取られ:型開き時に成形品が固定側に残り、取り出しができ

なくなる不具合

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金型要件チェックツールによる部品量産品質の早期作り込み

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 31

① Webアプリケーション構築技術

Web上で依頼から結果閲覧までを実現する技術

② データベース構築技術

依頼者ごとに、モデル名、材料などの情報をデータベース

で履歴管理する技術

4. ツールの概要と展開および効果

4.1 機能とUI

図12は、金型要件チェック結果のフィードバックシートで

ある。全10項目のチェックを実施した結果、不具合が検出され

た項目名(最左列)の背景を赤く表示している。項目名をクリッ

クすると、右側のグラフィックウィンドウにチェック結果の色

分けされた3D-CADデータが表示される。

4.2 運用プロセス

以上のように開発した金型要件チェックを、製品設計、モノ

作り、生産部門協業で運用している(図13)。

まず、製品設計者が出図前に、設計途中の3D-CADモデルを

クラウドサーバーにアップロードすると、自動で金型要件が

チェックされ、結果がフィードバックされる。製品設計者は、

この結果を見て問題箇所を修正する。本ツールの適用を始めた

当初は、前述のとおり金型の知見を有する製品設計者が少な

かったため、問題箇所が抽出されても、対処方法がわからない

ケースが頻発した。そこで金型技術者がチェック結果を確認し、

「量産性検討シート」という対処方法を記載した資料を作成、

提示するプロセスを構築した。本プロセスの運用を開始した

2011年度の適用部品数は約200部品であったが、翌年には

2,000部品程に拡大し、新規の型起工部品のほぼ全点に適用す

るに至った。しかし、金型技術者は当時わずか2名しかおらず、

「量産性検討シート」を1点ずつ作成するのは困難となった。

そこで、作成済みの「量産性検討シート」約1,600件を分析し、

よくある問題とその対処方法を「未然防止ガイド」にまとめ、

製品設計者に周知した。現在は、製品設計者自身が、金型要件

チェックの結果を確認し、未然防止ガイドを参照しながら問題

箇所を修正している。

4.3 適用効果

図14に、本ツールの適用の効果を示す。機種A~Fは当社が

開発した複合機で、機種Aが最も古く、まだ金型要件チェック

の運用が開始されていない2009年度の開発機種である。その

後、機種Bで金型要件チェックを一部部品に適用し、機種C以降

で全部品に展開した。機種Fは、2014年度の開発機種である。

金型の不具合による金型メーカーからの手戻り件数(グラフ上

側)を見ると、機種Aでは相当数の手戻りが発生していたこと

がわかるが、機種C以降は手戻りが1/10以下に減っている。

一方、フロントローディングによる未然防止件数(グラフ下

側)は、金型要件チェックによって出図前に問題を修正した件

数である。全部品に展開した機種Cでは、未然防止件数が大き

く増え、それに対応するように手戻り件数は大きく減少してい

る。また、機種D以降は未然防止件数そのものも減少している。

これは、機種B、Cで金型要件チェックを活用して設計仕様を修

図11 クラウド環境

図12 フィードバックシート

図13 金型要件チェック運用プロセス

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特集

金型要件チェックツールによる部品量産品質の早期作り込み

32 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

正した製品設計者が、次機種D、E、Fではこの経験を活かして

製品設計初期から金型要件が成立する仕様を作り込んだこと

に起因する。つまり、金型要件チェックの運用により、金型メー

カーからの手戻り削減と、製品設計者の金型知見やスキル向上

の両面で貢献したことになる。

5. 今後の展開

5.1 チェックメニューの拡大

以上の取り組みにより、人によるばらつきや検討漏れが抑え

られ、金型関連の手戻りはほぼなくなった。しかし、高精度部

品の品質には金型関連以外の課題も存在する。そこで、金型要

件チェックの開発で培った暗黙知の形式知化、3D形状認識技

術、クラウド化技術を活用して、現在モノ作りにおけるさまざ

まな要件作り込みのためのチェックツールを開発している。た

とえば樹脂流動解析による充填性、ソリ未然防止を行う成形要

件、測定のばらつきを事前に指摘する測定要件、成形サイクル

タイム短縮を阻害する形状を指摘するハイサイクル要件、コス

ト見積りの適正化を検討するコスト要件などである。これらは、

すべて人により行われていたモノ作り要件を形式知化し、ばら

つきを抑え、自動化することで生産性を向上させることが目的

である。

現在、我々は、各種の要件チェックツールの社内運用を順次

進めている。これらにより、量産部品品質の早期作り込み活動

は、前述の金型要件チェックだけでなく、成形品質やコストの

作り込みに貢献するシステムへと成長してきている。さらに、

単品部品の評価だけでなく、ユニット単位で評価する組み立て

容易性チェックツールの開発にも着手している。

5.2 社外サービス展開

これらの社内で培った技術は、「言行一致活動」として、社外

のお客様に販売する活動を開始している。日本の製造業におけ

るモノ作りプロセスでは、手戻りロス、金型リードタイム長期

化が共通の課題であり、それを解決するための手段としてこの

ツールが貢献できるのではないかと考えたからだ。まずは社内

で実績の上がったプラスチック部品やプレス部品用金型要件

チェックツールからサービス化し、その他の要件チェックツー

ルに関しても社内での実績を見極めたうえで展開を計画して

いく。

この金型要件チェックツールは、ソフトウェアのオンプレミ

ス版でなく、クラウドサービスとして提供している12)。これは、

お客様のデータをセキュア環境下で受け取り、自動でチェック

し、その結果をお客様が3Dビューアーで確認できる仕組みで

ある。現在、技術開発部門、マーケティング部門、営業部門お

よび販売会社の協業体制で活動を展開中である。金型の専門領

域に関する教育を営業部門向けに実施したり、技術開発部門の

従業員が直接お客様を訪問し、MONOZUKURIコラボ、技術交

流会、セミナー等で広く提案したりと、社外サービス化に向け

て製販合同で活動を進めている。すでに数社のお客様に、当

サービスを利用していただいており、各社でのモノ作りプロセ

ス改革に活用いただいている。今後、当社の新たなソリュー

ションとしても拡大を図り、ビジネス貢献を進めていく。

6. おわりに

約10年前にスタートした金型製作プロセス改革では、金型

内製のための製作技術開発を実施してきた。その目的は、金型

の量産工場になることではなく、金型製作のQCDを制御する

ための技術開発と技術の内部留保であった。この中で生まれた

金型要件チェックツールは、社内の商品開発プロセスに導入す

ることにより、手戻り削減に貢献してきた。本技術開発におい

ては一貫して暗黙知を形式知化し、当社独自の3D形状認識技

術を用いたユニークなシステムを開発してきた。今後は、徹底

したフロントローディングによる全社プロセス改革の重要技

術として拡大していくとともに、社外にもソリューション提供

し、日本の製造業に向けて広く貢献していくことを目指している。

参考文献

1) 富士ゼロックスデジタルワークウェイ ~開発生産準備プロセス改革~:

https://www.fujixerox.co.jp/company/technical/production/fxdww/ ( 参 照 日 :

2016.02.13)

2) 富 士 ゼ ロ ッ ク ス テ ク ニ カ ル レ ポ ー ト No.18 2008 年 :

http://www.fujixerox.co.jp/company/technical/tr/2008/ ( 参 照 日 :

2017.02.21)

3) 富士ゼロックス開発生産準備プロセス改革推進グループ: 富士ゼロックス

はなぜ開発の手戻りを6割減らせたのか, p72-87, 日経BP社, (2011). 4) 中里博昭ほか.富士ゼロックス(株).成形不能部検出装置、成形不能部検出

システムおよび成形不能部検出プログラム.特許4623134

5) 中里博昭ほか.富士ゼロックス(株).成形不能部検出装置、成形不能部検出

システム、成形不能部検出プログラムおよび成形不能部検出方法.特許

4488060

図14 金型要件チェック適用効果

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金型要件チェックツールによる部品量産品質の早期作り込み

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 33

6) 中里博昭ほか.富士ゼロックス(株).形状検査装置および形状検査プログラ

ム.特許4609481

7) 沼内 寿浩ほか.富士ゼロックス(株).成形不能判定装置、プログラムおよび

成形不能判定方法.特許5621402 8) 沼内 寿浩ほか.富士ゼロックス(株).パーティングライン決定装置、パーティ

ングライン決定プログラム.特許5013013

9) 萩原正明ほか.富士ゼロックス(株).尖型凹凸部検出装置、尖型凹凸部検出

システム、尖型凹凸部検出プログラムおよび尖型凹凸部検出方法.特許

4862806

10) 吉塚公則ほか.富士ゼロックス(株).型抜の設定装置、型抜の設定システム、

および、型抜の設定プログラム.特許5187457 11) 吉塚公則ほか.富士ゼロックス(株).突部の検出装置、突部の検出システム、

および、突部の検出プログラム.特許5413532

12) 日経テクノロジーonline: 「樹脂部品を金型で成形可能かデータでチェック

するサービス 富士ゼロックス、自社で手戻りを1/10にしたツールを外部へ

提供」: http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/052300060/062800024/?rt=nocnt&d=1487646266947 (参照日:2017.02.13)

筆者紹介

萩原正明 モノ作り技術本部 部材技術開発部に所属

専門分野:プラ金型成形技術、デジタルマニュファクチャリング技術

沼内寿浩 モノ作り技術本部 部材技術開発部に所属

専門分野:デジタルマニュファクチャリング技術

吉塚公則 モノ作り技術本部 部材技術開発部に所属

専門分野:デジタルマニュファクチャリング技術、アプリケーショ

ンエンジニア