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白表紙 解雇に関する「法と経済学」の知見

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白表紙

解雇に関する「法と経済学」の知見

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はじめに

1.本資料の目的

本資料は、2009 年に Edward Elgar から刊行されたダウ・シュミット、ハリス、ロベル編

『労働と雇用の法と経済学』(Kenneth G. Dau-Schmidt, Seth D. Harris, Orly Lobel "Labor and

Employment Law and Economics") 所収の概観論文のうち、アン・ソフィー・ヴァンデンベ

ルグ(Ann-Sophie Vandenberghe)執筆の第2章「雇用契約(Employment contract)」と、J.H.

ヴァーカーク(J.H.Verkerke)執筆の第16章「解雇(Discharge)」を訳出したものである。

同書は「法と経済学の百科事典(Encyclopedia of Law and Economics)」の第2巻であり、

労働法の広範な各分野について、経済学と法学の専門家により詳細な解説がされている。

その目次は以下の通りである。

Introduction

PART I: THE ECONOMICS OF REGULATING THE LABOR MARKET

1. Labor Law and Employment Regulation: Neoclassical and Institutional Perspectives (Bruce E.

Kaufman)

PART II: GOVERNANCE AND SELF-GOVERNANCE OF EMPLOYMENT RELATIONSHIPS

2. Employment Contracts (Ann-Sophie Vandenberghe)

3. Regulating Unions and Collective Bargaining (Kenneth G. Dau-Schmidt and Arthur R. Traynor)

PART III: EMPLOYMENT TERMS AND CONDITIONS AND THEIR REGULATION

4. Investments in Adult Lifelong Learning (Lisa M. Lynch)

5. Minimum Wage Legislation (Simon Deakin and Frank Wilkinson)

6. Health Insurance (David A. Hyman)

7. International Executive Pay: Current Practices and Future Trends (Randall S. Thomas)

8. Workers’ Compensation (John F. Burton, Jr. )

9. Occupational Safety and Health Regulation (Sidney A. Shapiro)

10. Employment Discrimination (Stewart J. Schwab)

11. Accommodating Families (Joyce P. Jacobsen)

12. Workplace Disability (Seth D. Harris and Michael Ashley Stein)

13. Adjudication of Workplace Disputes (Douglas M. Mahony and Hoyt N. Wheeler)

PART IV: REGULATING EMPLOYMENT OF SPECIAL POPULATIONS

14. The Economics of Child Labor (Alessandro Cigno)

15. The Economics of Slavery, Forced Labor and Human Trafficking (Patrick Belser)

PART V: GOVERNING TERMINATION AND POST-EMPLOYMENT RELATIONSHIPS

16. Discharge (J.H. Verkerke)

17. Unemployment (Stephen A. Woodbury)

18. Intellectual Property and Restrictive Covenants(Orly Lobel)

19. Pensions and Retirement (Jonathan Barry Forman)

PART VI: GOVERNING GLOBAL LABOR MARKETS

20. Migration and Labor Markets: A Brief Survey (Jagdeep S. Bhandari)

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21. Employee Collective Action in a Global Economy (Jeffrey M. Hirsch)

22. National Regulation in a Global Economy: New Governance Approaches to 21st Century Work

Law (Orly Lobel)

23. International Labor Standards and International Trade: An Economic Overview (Richard N.

Block and Jonas Zoninsein)

PART VII: THE FUTURE OF LABOR AND EMPLOYMENT LAW

24. A Labor Law for the Digital Era: The Future of Labor and Employment Law in the United

States (Katherine V.W. Stone)

Index

全24章はいずれも今日の労働法政策の課題について法と経済学の視点から興味深い

示唆を与えてくれる概観論文であるが、そのうち特に第2章と第16章は、今後解雇を

はじめとする雇用終了をめぐる労働契約法政策が議論の焦点となっていくことが予想さ

れることから、政策論議を活性化する上で有用と思われ、その全訳をここに資料として

刊行することとしたものである。

以下、この「はじめに」においては、日本において解雇に関する法と経済学をめぐる

議論がやや不幸な経緯をたどったことを紹介し、本資料を刊行する意義について略述し

たい。

2.規制改革会議の「意見書」と福井・大竹編著のインパクト

労働法をめぐる法と経済学の議論が世間の注目を集めたのは、2007年5月21日に規制

改革会議再チャレンジワーキンググループ労働タスクフォース(座長:福井秀夫)が公表

した「脱格差と活力をもたらす労働市場へ~労働法制の抜本的見直しを~」という政策文

書によってであった。同文書は次のような表現で労働法規制をほぼ全面的に批判してい

た。

・・・労働者保護の色彩が強い現在の労働法制は、逆に、企業の正規雇用を敬遠させ、派

遣・請負等非正規雇用の増大、さらには、より保護の弱い非正規社員、なかでもパートタ

イム労働者等の雇用の増大につながっているとの指摘がある。解雇規制を中心として裁判

例の積み重ねで厳しい要件が課され、社会情勢・経営環境の変化に伴って雇用と需要のミ

スマッチが起きた状況においても、人的資源の機動的な効率化・適正化を困難にし、同時

に個々の労働者の再チャレンジを阻害している。・・・

・・・一部に残存する神話のように、労働者の権利を強めれば、その労働者の保護が図られ

るという考え方は誤っている。不用意に最低賃金を引き上げることは、その賃金に見合う

生産性を発揮できない労働者の失業をもたらし、そのような人々の生活をかえって困窮さ

せることにつながる。過度に女性労働者の権利を強化すると、かえって最初から雇用を手

控える結果となるなどの副作用を生じる可能性もある。正規社員の解雇を厳しく規制する

ことは、非正規雇用へのシフトを企業に誘発し、労働者の地位を全体としてより脆弱なも

のとする結果を導く。一定期間派遣労働を継続したら雇用の申し込みを使用者に義務付け

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ることは、正規雇用を増やすどころか、派遣労働者の期限前の派遣取り止めを誘発し、派

遣労働者の地位を危うくする。長時間労働に問題があるからといって、画一的な労働時間

上限規制を導入することは、脱法行為を誘発するのみならず、自由な意思で適正で十分な

対価給付を得て働く労働者の利益と、そのような労働によって生産効率を高めることがで

きる使用者の利益の双方を増進する機会を無理やりに放棄させる。

真の労働者の保護は、「権利の強化」によるものではなく、むしろ、望まない契約を押

し付けられることがなく、知ることのできない隠された事情のない契約を、自らの自由な

意思で選び取れるようにする環境を整備すること、すなわち、労働契約に関する情報の非

対称を解消することこそ、本質的な課題というべきである。市場の失敗としての情報の非

対称に関する必要にして十分な介入の限度を超えて労働市場に対して法や判例が介入する

ことには根拠がなく、画一的な数量規制、強行規定による自由な意思の合致による契約へ

の介入など真に労働者の保護とならない規制を撤廃することこそ、労働市場の流動化、脱

格差社会、生産性向上などのすべてに通じる根源的な政策課題なのである。

行政庁、労働法・労働経済研究者などには、このような意味でのごく初歩の公共政策に

関する原理すら理解しない議論を開陳する向きも多い。当会議としては、理論的根拠のあ

いまいな議論で労働政策が決せられることに対しては、重大な危惧を表明せざるを得ない

と考えている。

労働法の立法に関わる「行政庁、労働法・労働経済研究者など」を「ごく初歩の公共政

策に関する原理すら理解しない議論を開陳する向き」とまで揶揄するこの政策文書は、労

働関係者から多くの反発を招いた。とりわけその中で労働政策形成にかかる三者構成原則

を「特定の利害関係は特定の行動をもたらすことに照らすと、使用者側委員、労働側委員

といった利害団体の代表が調整を行う現行の政策決定の在り方を改め、利害当事者から広

く、意見を聞きつつも、フェアな政策決定機関にその政策決定を委ねるべきである」と全

面否定する議論を展開した点については、筆者も含めた広範な議論の展開があり、JILPT

においても2010年3月に資料シリーズNo.67として『政労使三者構成の政策検討に係る制

度・慣行に関する調査-ILO・仏・独・蘭・英・EU調査-』を刊行している。

一方、同文書に先立って2006年12月に刊行された福井秀夫・大竹文雄編著『脱格差社会

と雇用法制-法と経済学で考える』(日本評論社)は、編者の一人が上記労働タスクフォ

ース座長の福井秀夫であり、タイトルに同じ「脱格差」というやや異様な言葉が用いられ

ていることからも、同文書の理論的根拠を展開した著作と見られた。同書の目次は以下の

通りであり、一部に必ずしも同一の思想に立っていないと見られるものもあるが、概ね上

記労働タスクフォースの議論を「法と経済学」の立場から論証しようとしているものと見

られた。

はじめに

序 章 効率化原則と既得権保護原則/八田達夫

第1章 解雇規制が助長する格差社会/福井秀夫

第2章 「不完備契約理論」に基づく解雇規制正当化論の問題点/常木 淳

第3章 労働紛争の解決手続きへの一視点/太田勝造

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第4章 解雇規制がもたらす社会の歪み/久米良昭

第5章 雇用市場における不確実性と情報の非対称性/安藤至大

第6章 公務員の身分保障に対する控えめな疑問/安念潤司

第7章 解雇規制は雇用機会を減らし格差を拡大させる/大竹文雄・奥平寛子

第8章 解雇判例・就業規則不利益変更判例の実態等と労働契約法のあり方/和田一郎

第9章 「労働契約法」と労働時間法制の規制改革/八代尚宏

本書はその「はじめに」において、次のように繰り返し「法と経済学」の理論を用いた

ことを強調しており、圧倒的に多くの労働法研究者たちにとっては、本書が拠って立って

いる立場こそが「法と経済学」という学問分野そのものであるという強い印象を与えたで

あろうと思われる。

・・・本書は、このような問いかけに答えて、格差社会問題と雇用法制との関わりを中心

に、「法と経済学」によって、通念の裏にある真実を多角的に抉り出そうとした試みであ

る。・・・

本書は、「法と経済学」を雇用法制や格差社会問題に対して応用することに大きい意義

があると考える研究者・実務家が結集し、・・・

本書の特徴は次の通りである。第1は、法学と経済学との共同作業を徹底して図ったこ

とである。「法と経済学」によれば、法や判例が社会経済的に及ぼす影響を客観的に分析

することができ、法解釈に対しても立法論に対しても、新たな知見を付与することができ

る。・・・

・・・第3は、日本の労働市場・労働現場の実態に対して、「法と経済学」の方法による検

証作業を行ったことである。・・・

第4は、法的判断が依拠する判例・学説についても、「法と経済学」の観点から整合性

の検証ができることを明らかにしたことである。・・・

第5は、・・・「法と経済学」の成果は、様々なレベルで現実の政策にも活用可能であるこ

とを随所で示した。

もっとも、本書は「法学と経済学との共同作業」と謳っているにもかかわらず、労働法

研究者は一人も参加していない。リーダー格の福井秀夫自身、法学部を卒業し建設省に入

省して政策研究大学院大学教授を務めており、専門は「行政法」で、その業績はもっぱら

不動産法の経済学的分析に係るものであった。

とはいえ、労働法研究者や労働専門弁護士たちに対する本書のインパクトは大きかった

ようで、日本労働弁護団の機関誌『季刊・労働者の権利』2007年夏号は「解雇規制をあら

ためて考える」という特集を組み、全面的な反論を試みた。

特集1 解雇規制をあらためて考える

解題 解雇規制を改めて、考える 鴨田哲郎

現実的政策提言を欠いた新古典派経済原理主義キャンペーン-福井・大竹編著『脱格差社

会と雇用法制-法と経済学から考える』 小宮文人

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解雇規制をめぐる効率と公正 -福井・大竹編著『脱格差社会と雇用法制』(日本評論

社・2006年)の検討- 土田道夫・石田信平

「解雇ルール」の実態と展望-労使間取引をどう再構築するか- 野川忍

日本は「解雇制限的な法制」をもつ国か-エールフランス事件とダンロップ事件- 野

田進

解雇規制とフレクシキュリティ 濱口桂一郎

大竹判例分析に異議あり-基礎データを検証する- 労働弁護団 大竹判例分析検証チ

ーム

同特集の論考で筆者は、「同書は労働経済学や本来の「法と経済学」の立場から見ても

問題点が多く、これを経済学そのものと考えて「法学に対する新自由主義からの果たし

状」などといきり立つのはいささか敵を高く評価しすぎている感がある。要は、法と経済

学の対話はもっと豊かでありうるのであり、同書に過度にとらわれることは好ましくな

い」と述べたが、同書の影響力は否定すべくもなかった。

3.解雇に係る法と経済学の諸文献

一方で、21世紀になってから労働法における立法論の比重が高まりを見せる中、労働法

の経済学的検討を試みる著作がいくつか出現するようになった。その中でも、2008年1月

に刊行された荒木尚志・大内伸哉・大竹文雄・神林龍編『雇用社会の法と経済』(有斐閣)

は、それぞれ11名ずつの労働法学者と労働経済学者が10のテーマについて論点を提示し合

う構成となっている。はしがきによれば「何とかして労働経済学との『対話』を継続し,

実りある成果を出したいという労働法学者のリクエストに, 心ある労働経済学者に応えて

もらって出来上がったもの」であり、多くは分担執筆であるが、第6章「有期雇用の法規

制」(両角道代・神林龍)のように共同執筆の段階に至っているものもある。しかし、も

っとも関心が高いであろう第1章「解雇規制」(荒木尚志・大竹文雄)は、残念ながらい

ささか平板な「いかにも法学者風の議論」に対して「いかにも経済学者風の反論」を並列した

だけという印象が強いものとなっている(筆者の書評(『日本労働研究雑誌』2008年

8月号)参照)。

その解雇規制についても、この前後の時期にいくつかの法学者と経済学者による共同作

業が行われている。2002年12月に刊行された大竹文雄・大内伸哉・山川隆一編『解雇法制

を考える-法学と経済学の視点』(勁草書房)は、今日に至るまで日本における解雇に係

る法と経済学の研究成果としてはもっとも理論水準の高いものであろう。

また、2008年3月に刊行された神林龍編著『解雇規制の法と経済』(日本評論社)は、

詳細な実証分析を踏まえて解雇ルールのあり方を論じている。

さらに最近では、2018年2月に刊行された大内伸哉・川口大司編著『解雇規制を問い直

す』(有斐閣)が、望ましい金銭補償のあり方として完全補償ルールを提示している。

こういった諸文献は大変有意義なものであるが、当然のことながら研究者、とりわけ経

済学の研究者にとっては、自らの提示する新知見が研究業績となるのであり、単なる研究

状況の概観は業績となるものではないので、そもそも労働に関する法と経済学の標準的知

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見がどのようなものであるのかを自らの見解を交えずに淡々と紹介したような文献は逆に

見当たらない。

この背景には、法学と経済学における研究態勢のあり方の違いもあるように思われる。

法学研究者がほぼ日本語による国内法の研究を共通の対象として共有し、外国法の研究は

その使用言語ごとに分立しているのに対し、経済学研究者は日本人であっても英語による

論文がベースであり、英語文献を日本語に翻訳することが業績となりにくいのではなかろ

うか。そのため、労働に関する法と経済学についての標準的な知見についても、労働法学

者にとっては知識の欠落部分となってしまうように思われる。

2014年3月に刊行された『ジュリスト増刊 労働法の争点』(有斐閣)では、最後の論

点として大内伸哉が「労働における「法と経済学」」を執筆しているが、上述の諸著作を

もとに「労働法学は、なぜ「法と経済学」を敬遠してきたか?」を中心に論じており、も

ちろん分量の関係もあるが、これを読んでも労働の法と経済学の概要が分かるようなもの

にはなっていない。また、2018年に刊行された全6巻の『講座・労働法の再生』(日本評

論社)にも、法と経済学をテーマとした章は含まれていない。

このような状況に鑑み、主として経済学の素養に欠ける法律研究者が、欧米における労

働に関する法と経済学の標準的な知見を知るための素材として、そのもっとも包括的な文

献の一部を訳出することが有益であろうと思われる。Edward Elgar から刊行されている「法

と経済学の百科事典(Encyclopedia of Law and Economics)」は、今日まで 10 巻が刊行され、

その第 2 巻が労働法に関するものであるので、これを訳出することとした。

冒頭に述べたとおり、本資料は、2009 年に Edward Elgar から刊行されたダウ・シュミッ

ト、ハリス、ロベル編『労働と雇用の法と経済学』(Kenneth G. Dau-Schmidt, Seth D. Harris,

Orly Lobel "Labor and Employment Law and Economics") 所収の概観論文のうち、アン・ソフ

ィー・ヴァンデンベルグ(Ann-Sophie Vandenberghe)執筆の第2章「雇用契約(Employment

contract)」と、J.H.ヴァーカーク(J.H.Verkerke)執筆の第16章「解雇(Discharge)」を訳

出したものである。この 2 章を選んだのは、労働法分野の中でもっとも法と経済学が頻繁

に引用され、議論も激しい分野であるからである。

本資料が、とりわけ経済学の素養に乏しい多くの法律研究者によって参照され、その研

究を重ねる上で何らかの役に立つならば幸甚である。

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第2部 雇用関係の統治と自治

第2章 雇用契約 アン・ソフィー・ヴァンデンベルグ(Ann-Sophie Vandenberghe)

1 はじめに

個別雇用契約は契約であり、労働法の第一の焦点は雇用の契約関係に関わる。他の契約

のように、雇用契約は交換-ここでは労働とその対価たる報酬に関わる両当事者間の合意

関係である。法的拘束力ある契約の締結に係る標準的ルールが雇用契約に適用される。契

約違反は損害を受けた側に法的救済を請求する権利を与える。一般的な契約法の標準的ル

ールは全ての契約に共通する問題の解決を目指している。一般契約法に関する法と経済学

の文献は、標準的な契約ルールがいかに履行と違反、信頼への最適なインセンティブと事

前の情報の非対称性の補正を提供するかを説明している。

それならなぜ雇用契約のための特別ルールが必要なのか?我々は一般契約法が雇用契約

から生じうる全ての紛争を処理するには不適当であるような雇用契約の特徴に焦点を当て

る必要がある(Collins 2003, p6)。伝統的な労働法の法的正当化と説明は雇用関係の弱い側

としての労働者を保護することにある。労働者は使用者に比べてより弱い交渉上の地位に

いるので、その不平等を補償する仕組みとして労働者に有利な雇用ルールを通じ保護が必

要であるというわけである。これは特定の場合の特定の労働者には真実であるかも知れな

いが、現代労働法のパラダイムとして労働者が事前にも(契約締結前にも)事後にも(契

約締結後にも)弱い交渉上の地位にあることを認める理由はない。これは雇用契約を支配

する別の法制度が必要でないという趣旨ではない。実際本章で示すように、雇用契約の特

別ルールには立派な経済的理由がある。結局、多くの雇用契約には標準契約にはない特徴

があり、それゆえ雇用契約に関する法制度や裁判制度の特別の役割について能率がよいと

の議論がなされる。

2 雇用契約の典型的な特徴

雇用契約の典型的な特徴について論ずる前に、まずもってなぜ雇用の当事者が契約を求

めるのかを理解する必要がある。契約は財や役務の交換である。しかしながら、交換は必

ずしも契約を必要とはしない。単なる役務と賃金の交換ではなく契約を選択するのはなぜ

か?契約は契約当事者がさまざまな時にとることに合意した行動に向けて、一般的にその

定める条件の機能として法的圧力を掛ける法的道具である(Shavell 2004)。当事者は機会主

義的行動の危険を避けるために、裁判所により契約が強制履行されることを求める。機会

主義の危険は契約義務の履行が同時的ではないことから生ずる(Posner 1992, p89)。それゆ

え法的強制がなければ(かつ純粋に利己的行動、繰り返しプレイなし、評判サンクション

なし、公正さへの選好なしを前提すれば)最後に履行する当事者は機会主義的に履行義務

を保留したり変えたりするインセンティブを有することになる。

機会主義的行動の問題は、さまざまな場合に当事者がとるべき行動を特定し、履行しな

い当事者が法的制裁を受けるようにする契約を策定することで解決できる。雇用当事者は

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しばしば関係特殊的な投資をする。労働者は単一の使用者とのキャリアを追求するにつれ

膨大な投資をする。彼らは自らの使用者にとってより有用な技能や知識-経済学者が企業

特殊的人的資本と呼ぶもの-の獲得に投資する(Becker 1975)。使用者もまた関係に投資す

る。彼らは探索・採用のコストを負担し、その労働者の企業特殊的技能の形成を賄う。い

ったん関係特殊的投資がなされたら、その投資は交換が完遂する前になされるので、履行

は常に非同時的となる(De Geest 近刊)。それゆえ、関係特殊的投資があれば、当事者は機

会主義的行動を避けるために法的に履行可能な契約を求めることになる。しかしながら、

次項以下で詳述される雇用関係の典型的な特徴のために、法的に履行可能な完全に状況対

応的な(contingent)契約の利用によって機会主義的な行動を防止することは不可能である。

それゆえ、当事者は「関係的契約」に帰結する特別に適合された契約装置を追求しなけれ

ばならない。

イ 関係的契約としての雇用

ゲーツとスコット(Goetz and Scott 1981, p1091)によれば、当事者がよく定義された義務

の取り決めの重要な条件を縮減することができない場合に契約は関係的である。雇用当事

者はなぜ完全に状況対応的な完備契約を結ぶことができないのだろうか。クライン(Klein

1980, p356)は契約の不完備性に二つの理由を示す。「第一に、不確実性は膨大な数の可能

な偶然的状況の存在を意味し、その可能性の全てを知り、事前に対応を特定することはき

わめてコストがかかる。第二に、労働者が任務を完遂するのに投入するエネルギーのレベ

ルのように、特定の契約上の履行は測定にきわめてコストが掛かる。それゆえ、契約違反

はしばしば裁判所のような第三者的履行強制者が満足するように証明することが困難であ

る。」不完備な契約構成の存在を前提に、クライン(Klein 1980, p356)は「契約関係の特定

されず履行強制できない要素の利益を得るという意味で、富を最大化する取引者は相手方

に銃を突きつけることによって取引を破る能力があり、しばしばそのインセンティブがあ

る。」と主張する。

ロ 企業特殊的人的資本

経済学者は「人的資本」という用語を、厳密に物的資本と類比的に、直ちにではなく経

年的に所得を生み出す資産という意味で用いる。それゆえ、人的資本は稼得能力という意

味で用いられる。公式の教育やオンザジョブの訓練は人的資本を作り出す活動の例である。

使用者であれ労働者であれ、合理的な人間は、それが生産性の向上や労働者の場合なら所

得の向上によって補償されるのでない限り、人的資本の創出や獲得の直接間接の費用を負

担しようとはしないだろう(Posner 1995)。経済学者は 2 種類の人的資本を区別する。一般

的人的資本と企業特殊的人的資本である。ここで興味があるのは後者である。

オンザジョブの訓練が作り出す人的資本の多くは、公式の教育によって作り出されるも

のと違い、特定の使用者の雇用の下でのみ用いることができる(「特殊人的資本」)。特

殊人的資本の形成費用は直接訓練に要した費用と労働者が働かずに学んでいた期間の逸失

所得たる間接費用からなる。誰が訓練費用を負担すべきだろうか。労働者が訓練費用を全

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て負担すると想定すれば、彼/彼女は直接訓練費用を支払い、訓練期間中は賃金を受け取

らない。労働者は、その将来の所得が暗黙に労働者の人的資本への投資の払い戻し(プラ

ス利子)の要素を含んでいると使用者が約束する場合にのみ、この投資をしようとするで

あろう。事前の情報の欠如のため、将来における正確な賃金を「計画」することは不可能

である。それゆえ、賃金は事後的に交渉されなければならないが、その交渉において使用

者は最強の地位に立つ。使用者は市場賃金よりちょっと高めだが、労働者の投資を払い戻

すには十分でない賃金を提案することができる。労働者はこれを不公平だと感じるが、彼

にできるのは会社を離職することだけであり、その場合彼は通常の市場賃金を受け取り、

企業特殊的投資の全てを失うことになる。労働者はそのような訓練に支払うのをためらう

であろう。なぜなら、それが作り出す人的資本は企業特殊的であり、彼は現職を辞めて自

分の人的資本をどこかもっと高い賃金を支払うところに持っていくというという脅迫を使

えないからである。この問題は使用者に投資全額を支払わせることで解決するだろうか?

この解決法は似たような問題を生み出す。今や労働者は市場賃金よりも高い賃金を要求す

ることで使用者をホールドアップすることができる。労働者はその投資に貢献していない

のだからそのような要求は不公平であるが、使用者にできる唯一のことは別の労働者を雇

うことであり、その場合彼は同じ投資を再びしなければならない。

ゲイリー・ベッカー(Becker 1975)によれば、使用者と労働者の両方が企業特殊的人的資

本の形成費用に貢献することで、機会主義的な脅迫をするインセンティブを最小化するこ

とができる。その場合お互いに相手が雇用を終了すると失うものがあるからである。同時

に、当事者は相手方が雇用を終了すると脅迫しても失うものは少ない。事後の交渉段階で

当事者は交渉上の地位が対等になる。事後の交渉段階で適用される条件は双方独占である。

投資費用を分担するという解決策は、事後の交渉がなお戦略的行動によって失敗しうるの

で不完全な解決策でしかない。各当事者は余剰の取り分を最大化するために資源を浪費す

るかも知れない。しかしながら、もしうまく機能すれば、現在または将来の労働者による

人的資本への投資は急な傾きの年齢賃金プロファイルを生み出す。投資期間中は労働者が

彼の企業特殊的訓練の一部を支払っているという事実を反映して所得は定額か負になる。

しかし初期訓練期間後は、所得にはそれ以前の投資の払い戻し(プラス利子)が暗黙に含

まれているという事実を反映して、彼は他のどこでよりも多く稼ぐことができる。投資を

価値あるものとするために、払い戻し期には賃金が高くなければならない。労働者は多く

の人的資本を有しその限界生産物は高いため、使用者は熟練労働者に支払うことができる

し、労働者に辞められたら企業の人的資本への投資がなくなってしまうのでその辞職を防

ぐためにもそうする誘因がある。

デ・ヘースト(De Geest 近刊)によれば、雇用当事者はこれとは異なった仕方で統治され

る不完備で関係的な契約:第三者統治を選択することもできる。第三者統治の下では、裁

判官または仲裁人がより多くの情報が入手可能な事後において賃金その他の契約上の齟齬

について決定をする(De Geest 近刊)。この解決策は二つの条件が充たされることが必要で

ある。第一に、第三者は十分な情報を有することが必要である。この条件は、労働者と企

業の間の交換の性質が、全体としての市場に特有の剰余ではなく、その取引に特有の剰余

に関わる場合には、充たすことが難しい。第二に、第三者は完全に中立的である必要があ

る。

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雇用当事者は関係特殊的な投資をしたら相手方による搾取に潜在的に脆弱になるのに、

なぜそんな投資をしようとするのかと訝しむ人もいるかも知れない。関係特殊的投資は交

換からの完全な利得を実現するために必要な時もある。しかしおそらく、協力による完全

な利得は、使用者が一般的人的資本への投資が必要な生産技術や方法、手続に切り換えた

時にも実現する。

一般的人的資本は労働者が経済のどこか他でも用いることができる技能や知識からな

る。デ・ヘースト(De Geest 近刊)の示す例では、「もし各企業が独自の簿記制度やソフト

ウェア、作業方法を使っていたら、新入労働者はまず企業特殊的訓練を受ける必要がある。

もし全ての企業が多かれ少なかれ同じ簿記制度、同じソフトウェアや作業方法を使ってい

たら、労働者は容易に企業間を移動することができる」。市場は最適な程度の標準化を生

み出しそこねることがあるので、技術標準の設定への法的介入が必要となる。

一般的人的資本への投資を誰が負担すべきだろうか。労働者は低賃金を受け入れること

により、使用者による労働者の一般的人的資本への投資を自分で負担する。使用者は、労

働者がこの資本を使って他の使用者から高い賃金を得ることを防ぐ手段がないので、その

ような負担はしないだろう。他方、労働者が人的資本への投資を負担した場合、その人的

資本を他のどこにでも持って行けるので使用者からの機会主義的なホールドアップの脅迫

に脆弱にならない。使用者が一般的人的資本への投資を負担する場合、彼の投資は競業避

止条項のような契約上の歯止めを使うことによって守られうる。

関係特殊的投資の量を減らしたり特殊人的資本を一般的人的資本で代替したりすること

は、雇用契約に関わる問題を全て解決するわけではない。次項で論ずるように、履行基準

が事前に特定できず、雇用関係の履行中の履行に関する情報が非対称的に分配されている

場合、機会主義的行動の余地はなお存在する。

ハ 代理人(エージェンシー)問題

ローゼン(Rosen 1984, p986)は雇用契約をうまく描写している。

・・・雇用契約は極めて奇妙な創造物である。というのも交換の性質がほとんどの場合明示化

されないからだ。一方では、雇用は労働者が使用者の一定の命令や指示に従う義務を負う

権威的関係である。他方では、それは労働者が広い範囲内において企業の利益のために行

動する自由裁量が与えられるという委任の重要な要素を含んでいる。契約の要素の中には

明示されたり明らかに意図されており違反に対して訴え可能なものもある・・・。しかし契約

条項の大部分は特定されないままであり、それはそれらを書き出して履行されたかどうか

を検証するのがあまりに費用がかかるからである。それゆえ、これは情報の非対称性を通

じて著しい不合意の余地があり得ることについての暗黙の了解を示している。

使用者は労働者が署名する契約案を作成するが、その条項よりも多くを期待する。雇用

契約は法的に履行強制可能な労働と報酬の交換を生み出す。賃金支払義務は明確に定義さ

れ法的に履行強制可能な義務であるが、労働の履行義務はその性質上明確に特定できず、

勤務時間中に働いていることを示すことを最低限の要請としていくつものやり方で履行す

ることができる。伝統的な雇用契約は使用者に労働力を最も利益が出るように指揮命令す

る裁量的権限を与えた。しかしながらこのやり方は使用者が労働者の知識や専門能力を引

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き出そうとする限りにおいて非効率となる(Collins 2003, p229)。現代的な雇用関係におい

ては、多くの労働者はその任務を果たすやり方においてなにがしかの裁量を有している。

それゆえ雇用関係は代理関係になぞらえることができる。代理関係とは二人の間で、そ

の一方(代理人)が任務を果たす場合に他方(依頼人)が利益を得る関係である。使用者

-依頼人は労働者-代理人が任務を遂行する際に注意し努力する方が、彼が注意や努力を

しない場合よりもより利益を得る。依頼人が代理人の努力水準を直接観察できない場合、

これが代理人問題といわれるものである。労働者はあまり努力せずに従事するかも知れず、

これはしばしば「怠け(シャーキング)」と呼ばれる。

使用者は代理人費用を最小化しようとする。労働者もまた成果を共有する限りにおいて

そうしようとする。代理人費用を縮減する一つのやり方は監視に投資することである。使

用者は常にそうする(Posner 2000)。キーボードを叩く回数を勘定するコンピュータプログ

ラムを買ったり、レジ係をビデオで撮ったり、電話交換手を盗聴したり、監督者を雇った

りする。しかし監視には費用がかかるので、それが利益を生むには限界がある。

代理人費用を縮減するもう一つのやり方は、報酬を代理人の産出量に比例させる契約を

設計することである。労働者が産出量に基づいて支払いを受ける制度は出来高賃金、歩合

制、利潤分配、ボーナス制度などと呼ばれる。産出量に基づく賃金制度の問題点は、労働

者の収入が時間により変動するリスクを負わせることにある。産出量は労働者の投入量だ

けではなく、労働者にはコントロールできない外部的要因によっても左右されるからであ

る。労働者がリスク回避的であるならば-ほとんど常にそうなのだが-彼は不運な結果に

対する保険を要求するであろう。そこで、労働者にきちんと遂行する誘因を与えつつ過剰

なリスクを背負わせないように「混合契約」を設計することが課題となる。

この問題はさらに込み入っている(Posner 2000)。一つは多重任務(マルチタスク)問題

である。たとえば教授は単一の任務ではなく、一定数の授業を(任務1)一定の質で(任務2)

行い、一定数の論文を(任務3)一定の質で(任務4)公刊するという、いくつもの任務を遂

行しなければならない。もし賃金が一つの任務の遂行、たとえば公刊論文数のみに基づい

て決まるのであれば、他の任務をきちんと遂行しようという労働者の誘因は著しく妨げら

れるであろう。解決策は全ての任務の遂行度合を測ることであるが、そうすることの取引

費用は著しく高くなるだけである。それゆえ使用者は、労働者が全ての任務の遂行に努力

すると期待して定額報酬を払うことになる。

産出量に基づく賃金制度に特有の問題は、任務を遂行するには多くの労働者が協力しな

ければならないという点にある。産出が本当にチームワークの結果であれば、産出に対す

る個々人の貢献を測定するのは困難である。他方、任務の遂行に複数の代理人の協力が必

要であるのに、代理人への報酬は個別の労働に基づいてのみなされるならば、かれらは協

力任務は怠けようとするだろう。たとえば、出来高賃金で働く労働者は組立ラインではと

ても素速く働くが、新人の訓練には時間をかけないだろう。

こみ入った話の最後は、雇用契約の当事者はどちらもしばしば代理人的な性質と依頼人

的な性質を持っていることである。労働者は使用者が適切な行為をとることに依存するこ

とがある。たとえば、労働者は特定の目標を達成することを期待されるが、使用者は労働

者に一定の訓練を提供することが期待される。目標に関しては、労働者が代理人で使用者

が依頼人であるが、訓練に関しては、その役割は逆である。もし使用者が訓練を提供しな

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いならば、労働者は遂行することが困難となろう。その結果、最適な契約は利益を両当事

者間で分割することになろう。

産出ベースの賃金制度の困難さに鑑みると、労働者が任務を怠けないようにするもう一

つのやり方は彼らに市場賃金を上回る賃金を払うことである。このやり方は「効率賃金」

理論の目的となってきた。これら理論のポイントは、代理人に「過剰に支払う」ことが怠

けやその他の不良行為を減らすやり方だということである。怠けを確実に探知できるほど

綿密な監督がされなくても、熱心に働くという約束を破っているのがみつかりその結果解

雇されるならば、市場賃金を上回る賃金を払う仕事を失うのは犠牲が大きいと労働者は理

解する。もし労働者の仕事が勤勉でなく解雇されれば、彼はより低い賃金しか稼げないと

いう危険に直面する。労働者は貴重な仕事を失いたくないので、解雇を避けるために一生

懸命働くだろう。そうしない場合よりも労働者は一生懸命働き、企業は監視費用を節約で

きるので、使用者はより高い賃金(効率賃金)を支払う余裕がある。シャピロとスティグ

リッツ(Shapiro and Stiglitz 1984)はその怠けモデルにおいて、もしすべての使用者が賃金を

引き上げる戦略をとったならば怠けない誘因は再び消え失せると述べる。仕事を怠ける労

働者に起こりうる最悪の事態は解雇されることだが、(失業がないと仮定すれば)彼は再

び同じ高賃金で雇い入れられるからである。しかしすべての企業が賃金を引き上げれば労

働供給は需要を超過して失業をもたらすであろう。失業があれば、すべての企業が同じ高

賃金を支払ったとしても労働者には怠けない誘因がある。解雇されればすぐには別の仕事

に就けないからである。

忠実な遂行を確保するこれに関係したやり方は報酬の後払いである(Posner 1995, p59)。

労働者が探知され解雇されることによる代価を高めるために、使用者は報酬を労働者のキ

ャリアの終わりの方に、たとえば手厚い年金の形に移動させることができる。もし非行が

みつかったら手厚い年金の権利を失ってしまうならば、労働者には行いを慎む誘因がある。

その年金は労働者が低い賃金を受け入れることによって賄われる。実際、彼は賃金の引き

下げに同意することで払い込んだ保証金を、非行によって解雇されれば没収されることに

なる。同様に、労働者はキャリアの前半に(限界生産物よりも)低い賃金を受け取り、後

半にはより高い賃金を受け取ることもできる(Lazear 1979)。労働者の報酬のなにがしかは

生産的行動への報償として繰り延べされることになる。この結果、企業における労働者の

キャリアにわたって右肩上がりの年齢賃金カーブがもたらされる。

3 雇用終了のルールとその帰結

イ 解雇法理の分類

(i) 随意な雇用終了 随意法理によると、期間の定めのない雇用契約はいつでも、理由が

なくても、理由の善し悪しにかかわらず、いずれの側からでも終了することができる。労

働者には、裁判所で解雇に対して訴える法的又は契約上の根拠はない。このルールによれ

ば基本的に、使用者には雇用終了の意思決定についていかなる公式の正当性も必要ない。

随意法理は雇用契約を終了する拘束を受けない自由裁量的な権限を与える。

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(ii) 雇用終了への信義則による制限 裁判所が雇用終了に信義則による制限を適用する

場合、使用者は一方的に雇用契約を終了することができるけれども、その裁量性は雇用終

了権を機会主義的に行使する権限まで含むものではない。信義則が適用される司法権にお

いては、裁判所はなお雇用終了する拘束を受けない自由裁量的な権限への強い推定を認め

ている。しかしながら信義則により、裁判所は不適切な目的に基づいていると認められる

場合、言い換えれば権限が労働者が本来予期していたのとは異なる目的で用いられた場合

に、その裁量的意思決定を制御することが可能となる。別の司法権においては似たような

機能を果たすのは、法的権利が不適切な目的で用いられたと裁判所が判断する権利濫用法

理である。信義則による制限が適用される場合、労働者は通常解雇が信義に反して行われ

たと立証する責任を負う。司法権によっては、たとえば労働者の業務遂行に全く関わりの

ない行為に基づく解雇は恣意的であるといった、解雇が信義に反しているとみなされる場

合を特定する立法がされている。その場合労働者は、使用者が理由を示して反論すべき信

義の欠如の一応の証拠を立証すればよい。

(iii) 雇用終了への正当事由による制限 さまざまな法制度には解雇の正当性や公正さを

決定する独自の定式があるが、これら「十分に正当な」「社会的に正当な」「合理的な」

「正当事由」といった抽象的な表現は全て、裁判官が解雇が正当か否かを判定するという

意味である。解雇は使用者がなにがしかの実体的かつ手続的公正さによって正当であるこ

とを立証できない限り不合理なものとみなされる。使用者は解雇の実体的理由とその理由

に照らして解雇が合理的であることを示さなければならないだけではなく、解雇を実施す

る手続が公正であったことも裁判所を説得しなければならない。労働者は解雇の合理性に

異議を唱えることができ、使用者が解雇の正当事由を立証することができなければ、労働

者は現職に復帰するか補償金を受け取ることができる。

正当事由法理はその本質において第三者統治の選択であり、雇用契約は第三者(たとえ

ば裁判官)がそれを認めた場合にのみ終了することができる。裁判所は権限の行使を審査

するだけではなく、権限がいかに行使されるべきであったかに関する自らの見解でもって

それを取り替える。使用者が非行や能力不足を雇用終了を正当化するのに十分深刻だと考

えたとしても、裁判所は合理性基準に基づいてこの判断に同意しないということは起こり

うる。

ロ 随意法理対正当事由法理の論争

上述のルールはすべてアメリカやヨーロッパの労働市場に見いだせるが、ヨーロッパで

はより強い雇用保護制度への傾向がある。ヨーロッパにおける論点がヨーロッパの労働市

場をより柔軟にするために雇用終了のルールをもっと緩やかにすべきかにあるのに対し、

アメリカでは労働者にもっと雇用保護を与える必要があるかが議論となっている。さまざ

まな雇用終了ルールの固有の利点と欠点に関する法と経済学の文献は現在進行中の論争に

貴重な貢献をするであろう。

(i) 事務費用 随意ルールの下では労働者は解雇に異議を申し立てる法的または契約上

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の根拠がないので、いずれの側も雇用終了にかかる訴訟費用を負うことはない。正当事由

ルールの下では不公正解雇訴訟がしばしば労働者によって提起される。訴訟の際に支払う

必要のある弁護士費用を別にしても、使用者は裁判所に対して労働者の雇用を終了する正

当な事由があることを証明しなければならない。しかしながら、正当事由とは労働者の業

務遂行が不良であるとの主張を支えるのに必要な証拠が多いということだけを意味するわ

けではない。業務遂行不良は外部者に対して立証されなければならず、それゆえ検証可能

な証拠が必要となるということを意味する(Morriss 1996, p1925)。これは、使用者は検証可

能なやり方で非行の実例を記録するための情報収集や記録保持の手続を実施する必要があ

るということである。それはまた、使用者は観察可能だが検証不可能な証拠に基づいて行

動することはできないということも意味する。多くの場合、事業成功の最重要な要素は協

調に努めることであり、それは態度と士気にかかっている。しかしこれらは外部者にもっ

とも説明しにくい要素でもある(Epstein 1995, p160)。自分の行動の理由を分かっている使

用者でもそれを外部者に説得的に表現できまい。正当事由を求めることによる費用には、

非行の実例を記録するための情報収集費用と直接間接の訴訟費用(誤審の危険を含め)が

含まれる。誤審の危険が存在するのは、裁判官は労働者の業務遂行について非対称的な情

報しか得られず、労働者の業務遂行が特定の職務の要件を満たすものであるか否かを判断

するには不十分な情報しか得られないからである。労働者の業務遂行の不十分さを立証す

ることが難しければ、使用者は不効率な労働者を賠償責任なく雇用終了することさえ難し

い。労働者がそれを知っていれば、仕事をする誘因は薄まるだろう。

これにいくぶん関わる費用としては、判決の中で事後的に合理性(正当事由)の基準に

内容を追加する不確実性の費用がある。使用者が解雇の実質的な理由を示すことに成功し

たとしても、裁判所はなお使用者がその理由で労働者を解雇することが合理的かどうかを

考慮する。使用者が解雇の時点で雇用を終了することが合理的と考えたとしても、裁判所

は事後的にそれが合理的でなかったと判断しうる。正当事由体制の下における行動の帰結

に関する不確実性は、危険回避的な使用者にとっては費用のかかるものである。

(ii) 黙示の自力執行的契約 随意雇用契約が望ましいというもう一つの経済的理由は繰

り返しゲームに関する研究からもたらされる。契約がしばらく続いたあと、一方が他方か

ら利益を引き出す目的で脅迫を図ることがありうる。繰り返しゲーム理論によれば、契約

解除の脅威はそれ自体が自力執行的契約をもたらす。随意雇用契約の場合のように被害者

が相手方による非行の後に契約から容易に脱退できることは、機会主義的行動を抑止する

十分な制裁になり得る。黙示の自力執行的契約は、機会主義的行動が訴訟の脅威によって

よりも雇用終了の脅威によって予防される契約である(Klein 1980, p358)。契約違反があっ

たかどうかの判断は当事者の裁断に委ねられる。違反があったかどうかの判断やその違反

による損害額の算定に第三者が関与することはない。一方が契約条項を破った場合の他方

の唯一の報復は、違反を見つけたら契約を終了することである。双方はその条項に違反す

るよりも遵守することで利益を得るなら、その限りにおいて契約を遵守し続ける(Telster

1980)。なお、契約から抜けるという脅しが十分な抑止になる状況は十分に厳格であり、双

方にとっての契約の価値が無限に継続すると見込まれるか、将来いかなる状態でも継続す

る蓋然性が高いことを要する(Rosen 1984)。さもなければ、終期が近づくにつれてよく知

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られた機会主義的傾向が現れ、契約はもはや自力執行的ではなくなる。この問題は「最終

期」問題という名で経済学で論じられてきた。人々は約束を守ることによる予想利益が予

想損失を上回るがゆえにそうするのである。

しかしもし引退や転職その他の退職時期が近いために先の見通しがなければどうか?あ

り得べき市場の反応は報酬の後払いである。たとえば、不正行為が発覚したら受給資格が

なくなる手厚い年金があれば、労働者は雇用の最終期においても行いを慎むだろう

(Posner 1995, p59)。だが、雇用終了における潜在的に巨額な後払い賃金の喪失は、労働者

が期待される業務遂行から逸脱することによる実際の損害に比べると、過度に厳格で不公

正な制裁に思われる。

比較的軽度の怠け事象に対しても解雇という厳しい懲罰をするという逆説を探知率の低

さが説明する。ロックとワクター(Rock and Wachter 1996, p1924)によれば、この説明は情報

の非対称性に基づく。「労働者は作業の労力を知っているが使用者は知らない。企業は監

視により知りうるが恒常的監視は費用がかかる。費用を削減するため企業は時たま監視を

する。もし高い監視費用のために怠けの多くが探知されないのであれば、企業は労働者に

対し特定の事象における予想損失よりも多額の懲罰をしなければならない。」ベンジャミ

ン・クライン(Klein 1980, p359)によれば、取引費用の重要性とほとんどの現実世界の契約

の不完備な「関係的」性質を理解した後には、雇用終了は不正による利益よりも実際の懲

罰の方が多額であるという意味で不公正でなければならない。「通常分析されるような費

用をかけずに探知され取り締まられる契約違反の場合であれば違反者側がその特定の違反

行為の損害額を費用として負担させるという解決策が経済的に理にかなっているが、ここ

では制裁は怠けによる予想純利益がゼロに等しくなるほどに多額でなければならない。」

しかしながら、こういう一見して不公正な契約の仕組みに対する明白な懸念として、随意

制度の下では使用者は報酬の後払いの責務を免れる目的で機会主義的に契約を終了する可

能性があるということも認識されてきた。この懸念については次項で論ずる。

(iii) 機会主義的雇用終了 随意ルールは使用者に雇用関係を終了する無制限の裁量的な

権限を与える。この権限はそれゆえ機会主義的なやり方で用いられうる。使用者は法的に

はそうするよう制約されていないが、事実上の制約によって縛られていると言われてきた。

労働者と企業が特定の投資の費用を分担している場合、両者とも安定的な関係を維持する

誘因がある。雇用終了する権限をいったん行使したら、どちら側も契約上の義務をそれ以

上履行しなくてもよくなるので、その権限の行使は両者の義務に影響することを想起しよ

う。労働者を解雇した使用者は暗黙の費用を負担しなければならない。つまり、彼はもは

や労働者の労働から利益を引き出すことはできない。使用者は理由もなく特定の投資をし

た労働者を解雇することは望まない。なぜならそんなことをすれば労働者だけではなく企

業自体にも損害を与えることになるからだ。使用者は生産過程の重要な一部となるべき労

働者に行った訓練による人的資本への投資を解雇によって直ちに失ってしまう。さらに、

代わりの労働者を採用する費用や訓練する費用も負担しなければならない。

しかしながら、労働者との関係への投資からの見返りを得たいという使用者の欲求は労

働者を機会主義的なやり方で解雇することを禁止するわけではないという実例がある。キ

ャリアの前半に市場を下回る賃金を受け入れることで企業特殊的人的資本の大部分を負担

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し、キャリアの後半に市場を上回る賃金によってそれを取り戻そうと期待している労働者

を想定しよう。使用者は労働者を解雇することでその期待を破ることができる。ある時点

以降、労働者の生産性は通常年齢とともに減退するが、なお取り戻しの時期にいるので、

現時点での限界生産物を超える賃金を得られるのだ。第二に、使用者は忠実な業務遂行を

確保するための手段として労働者の賃金を後払いにすることができる。使用者は労働者を

解雇することで先延ばしされた報酬支払い義務を免れることができるならばそうする誘因

がある。

なお、使用者は評判を考慮することによりそうすることを抑制するかも知れない。使用

者には「公正な」使用者だという評判を得たいという欲求がある。もし使用者が不公正ま

たは恣意的に労働者を解雇したという評判が立ったら、新規に労働者を採用するのが難し

くなったり、新採労働者の賃金を割り増ししなければならなくなるだろう。しかしながら、

評判が関係を維持する等価物だというのは不安で当てにならない認識である。機会主義的

な雇用終了の危険性が高い場合、使用者の雇用終了行動を許す契約が裁判所によって制御

されるのは、追加的な実施費用を考慮に入れたとしても効率的であろう。

(iv) 結論 随意ルールと正当事由ルールの双方とも本質的な利点と欠点がある。随意ル

ールは監視と実施の費用を節約できるが、機会主義的行動によって引き起こされる大きな

代価を伴う。正当事由ルールは労働者を機会主義的雇用終了から保護するが、実施するの

に本質的に費用がかかる。随意雇用契約はそれゆえ、(正当事由雇用契約のような)他の

非自力執行的契約の実施費用が随意雇用契約に随伴する機会主義的行動の代価との関係で

十分に巨額である場合に準拠すべきであり、正当事由雇用契約は(随意雇用契約のよう

な)自力執行的契約における機会主義的行動の代価が正当事由雇用契約に随伴する事務費

用との関係で大きい場合に準拠すべきである。随意雇用契約と正当事由雇用契約の相対的

な効率性はそれゆえ、労働市場における取引を左右する環境にかかっている。雇用取引を

取り巻く環境は各国労働市場間(ヨーロッパの労働市場対アメリカの労働市場)でも、一

国労働市場内でも、さまざまな雇用関係の間(熟練労働対不熟練労働、特定技能対一般技

能)でも、特定企業の労働者のライフサイクルの間ですら、様々でありうる。シュワブ

(Schwab 1993, p12-13)によれば、「さまざまな雇用関係があることそれ自体が、雇用終了

への単一の法的アプローチに対して否定的な示唆を与える」。さらに彼が提案するのは、

雇用のより脆弱な段階、すなわちキャリアの始めと終わりにおいてのみ労働者を保護する

ライフサイクル正当事由アプローチである。

ハ 雇用終了にかかる義務

(i) 損害賠償なし 企業は新規採用者を募集する必要があると同時に、その長期的な労働

力需要の変化ゆえに恒久的に、あるいは生産性に影響する一時的な衝撃のゆえに一時的に、

雇用を縮小する必要も生ずる。こうした離職は労働市場の効率性を高める上で重要である。

同様に、労働者の方が雇用関係がもはや利益にならないと考えることもある。たとえば、

労働者はよそにもっと良い仕事を見つけるかも知れない。雇用当事者は雇用契約を締結す

る際、契約の動機となった取引から得られる利益がいつまで続くかは確実でないと分かっ

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ているだろう。雇用契約において、労働者は現職の価値を超える求人を受ける可能性があ

る。こうした求人は不定期にやってくる。同様に、企業は取引を行った時には予見できな

かった不運に見舞われるかも知れない。取引は取引から得られる利益が双方にとって機会

費用を上回る場合に、その場合にのみ効率的である(Rosen 1984)。機会費用とは現在の取

引を完遂するために見捨てる利益であり、別の言い方をすれば、現在の取引に代替しうる

次善の策の価値である。

効率性の観点からは、雇用関係を継続することから両当事者が得る総利益が雇用終了か

ら得る総利益を下回る場合には雇用関係は終了すべきである。雇用関係から得られる利益

が消滅する時点が雇用契約締結時に予見可能であれば、期間の定めを契約に明記すること

ができるが、雇用終了の適切な時点はそう正確には予見できないので、契約は期間の定め

のないものとならざるをえない(Rosen 1984)。雇用当事者が完全に状況対応的な完備契約

を締結することができるのであれば、期間の定めのない契約は一定の不利益な事態が生じ

た場合に終了し、それ以外の場合には継続すると規定するであろう。この種の解決策はす

べてのあり得べき事態が事前に知り得、かつ事後的に容易に検証可能であることを要する。

さらに、何百万というすべてのあり得べき事態を特定することは費用がかかりすぎる。こ

うした理由から、資源の効率的配分を最大限に達成するため(つまり、効率的な雇用継続

と効率的な離職)の完全に状況対応的な完備契約は、取引費用があまりにも高すぎるため

に不可能であると結論づけることができる。では、期間の定めのない雇用契約が不完備に

ならざるを得ないのであれば、資源の効率的配分はいかにして可能なのか?

契約の法と経済学の文献においては、契約が不完備である場合、当事者に最適な遂行誘

因を与えるのは期待損害賠償額であると説明されてきた(Shavell 2004)。契約違反の場合に

期待損害賠償額が適用されるなら、当事者は遂行することが効率的であれば契約を遂行す

るし、違反することが効率的であれば契約を破って損害賠償を支払うであろう。問題は、

期待損害賠償額が期間の定めのない雇用契約の当事者にそれが効率的な時には関係を継続

し、雇用終了が効率的な時に関係を終了して補償金を支払う誘因を与え、同時に完全に状

況対応的な完備契約を起草する取引費用を節約するどうかである。言い換えれば、雇用当

事者は離職をもたらした側が相手側の損失期待額を負担するという仕組みから利益を得る

であろうか?

ミルグロムとロバーツ(Milgrom and Roberts 1992)によれば、この種の解決策には情報上

の障害がいくつもある。まず、各当事者にとっての雇用関係の特有の価値は第三者や裁判

所によって自由に知りうるものではないので、適切な支払い額の決定は問題を孕む。次に、

離職が労働者の発意によるか(辞職)使用者の発意によるか(解雇)によって異なる支払い

がされることになると、その区別はすぐに不分明となろう。ミルグロムとロバーツ(Milgrom

and Roberts 1992, p348)によれば、

使用者は労働者が辞職せざるを得ないくらいその職場生活を悲惨なものにしうるし、労

働者は使用者が解雇する以外に余地のないほど悪質な非行をすることができるので、第三

者にはどちらが責められるべきか分からない。誰が誰に支払うべきかが明らかにならない

ので、離職負担制度は極めて問題を孕むことになる。

誰が雇用終了を発意したかによって支払いを異ならせることは、雇用当事者に「お前が先

に出ていけ」ゲームをやる誘因を与えることになる(De Geest 近刊)。雇用関係を終了した

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いと考える当事者には、損害賠償を支払う義務から免れ、その代わりに損害賠償をせしめ

るために、相手方がまず辞めるように仕向ける誘因がある。「お前が先に出ていけ」ゲー

ムに勝つ見込みが高いのは誰だろうか?職場の状況を相手方に耐えられないようにするこ

とによって、相手方に負の外部効果を最も与えることができる側である。雇用終了した側

が損害賠償責任を負い、裁判所にはどちらの行為が真に関係解消をもたらしたかを検証す

ることができない制度の下では、「無実」の側が先に関係を絶ち、「有責」の側に補償金

を支払わなければならなくなる。この場合、「無実」の側が損害賠償を支払うという過ち

を避けるために、雇用終了にかかる損害賠償支払い要件を廃止した方がいいかもしれない。

デ・ヘーストら(De Geest et al. 2001)は雇用契約終了への損害賠償をやらない方がいいも

う一つの理由を挙げている。期待損害賠償制度の下では、雇用終了を発意する側は相手方

に期待利益の喪失を保障しなければならない。労働者からの終了の場合、使用者にその期

待利益を保障しなければならないという見込みがあることによって、労働者はその努力水

準を下げるかも知れない。使用者は労働者の生産性が賃金に比して高いほど利益を得るこ

とができる。もし労働者の過去の賃金に比した生産性が労働者が辞めた時の期待利益の喪

失を算定するのに用いられるのであれば、その結果として業務遂行能力の高い労働者の方

が業務遂行能力の低い労働者よりも高い損害賠償額を払わなければならなくなる。

我々の知るとおり、使用者は労働者が署名すべき契約書を作成するが、通常契約条項で

厳格に求められる以上のことをやってくれると期待している。明文の契約は、勤務時間中

に働いていることを示すといったような、検証可能だが最低限の業務遂行を定めるだけで

ある。監視は完璧にはほど遠いので、労働者はどれくらい一生懸命働くかについてなにが

しかの自由がある。誘因に基づいた賃金制度はある程度まで労働者が一生懸命働くように

動機付けするが、この目的には少なくとも本質的な動機付けが重要である。労働取引の効

率性のためには、これら誘因が破壊されないようにすることが重要である。しかし期待損

害賠償は逆効果になりうる。もし労働者が離職の際の賠償額は契約を超えた業務遂行の水

準に比例して上昇するということを知っていれば、彼は雇用契約の明文の条項で厳格に求

められていること以上はやらないようにするであろう。

結論としては、損害賠償に基づく雇用終了制度は雇用契約にとってよい考え方ではない

ということである。それなら、期待損害賠償がこの目的には使えず、雇用契約は不完備で

性質上関係的であるならば、効率的な雇用終了と効率的な雇用継続という目的はいかにし

て達成されるのだろうか?ヨーロッパの法制度の中には、使用者に対し経済的解雇をする

必要性を公的機関に説明するよう求める司法的ないし行政的仕組みを導入してきたものが

ある。理想的には公的機関は、雇用継続から得られる総利益が雇用終了から得られる総利

益を下回る場合には補償金なしの雇用終了を認め、逆の場合には雇用終了を認めないこと

によって、契約に残された落差を埋めることになる。しかしながら、経済的解雇が正当か

どうかの司法的ないし行政的判定は、コリンズ(Collins 2003, p188)の示す理由からしても

問題のある仕組みである。

そのような仕組みには、事業の必要性や可能な選択肢に関する必要な事業判断を行うこ

とが公務員には難しいというだけではなく、数多くの問題が生ずる。たとえば、裁判官は

いかにして使用者の財務予測の確実性、生産物市場の判断、他の選択肢の排除を審査でき

るのか?仮に適切な資格のある行政機関が設置されたとしても、適切な判断を行うのに必

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要な詳細な情報が使用者から得られるとは限らないし、使用者は複雑な行政手続が認める

よりも素速く行動する必要があるかも知れない。これらの理由から、経済的解雇を行う必

要があるかという実体判断の法的制御はうまく動かないように思われる。

上述の問題はすべて期間の定めのない雇用契約の雇用終了について随意終了ルールの魅

力を増大させる。随意ルールの下では、雇用終了当事者の誰も損害賠償を払う必要はない

し、第三者からの介入も必要ない。同時に、雇用当事者は明示的な完備雇用契約を作成し

履行する費用を節約することができる。随意ルールは資源配分を最適化するのだろうか。

そう見える。随意ルールの下では、使用者は期間の定めのない雇用契約を、状況の変化に

よってその継続がもはや有利でなくなれば、終了する権利がある。両当事者の利益を考慮

すれば雇用終了が実際には最適化の結果をもたらさないのであれば、雇用終了を言い渡さ

れた労働者が使用者に対して雇用終了しないよう説得するために共同の契約上の余剰を再

分割するよう交渉することは自由である。労働者にも同様に、より良い雇用機会があるの

なら雇用契約を終了する権利がある。しかしながら、より良い求人が来るということは、

従前の契約条件を変更すべく交渉し、再契約する必要性を示している。こうした再交渉に

ついてローゼン(Rosen 1984,p984)はこう述べる。

完全情報と協力があれば労働者は使用者が望まない限り決して辞職しないし、離職する

ことが双方にとって有利でない限り決して解雇されることはないので、これらの交渉は常

に双務的である。合理的な当事者は決して一方的に効率的な契約から抜けることはない。

随意雇用契約は再契約が有利な時、すなわち当該状況が実際に変化した時には、即時にこ

れらの点を契約更改して資源を節約することができる。

しかしながら、再交渉が双務的であり予見不可能な事態のために契約条項の修正が有利

となる時にのみ行われるという想定は必ずしも常に当てはまるわけではない。当該状況が

実際には変化していない時でも、たとえば相手方が大幅に関係特殊的投資をすることによ

り脆弱性を高めた場合には、一方当事者は機会主義的に契約条項を修正しようとするかも

知れない。これゆえに、随意雇用契約によって作り出される柔軟な環境の中で関係特殊的

投資を促進する余地を残す手段として、雇用当事者は予告期間、解雇手当規定、先任権ル

ール、競業避止条項を採用するのである。

(ii) 予告期間と解雇手当 多くのヨーロッパ諸国の裁判所と立法では、期間の定めのない

雇用契約にはその一方的な終了は合理的な予告期間がなければ許されないという契約に基

づく雇用条件があると解している。特定の最低予告期間を定める立法もある。約定であれ

法定であれ予告期間に違反した場合の労働者の救済は、予告期間中の賃金額の請求にとど

まる。事前予告条項は摩擦的失業の期間を短縮ないし避けるためのものである。摩擦的失

業は労働市場が本質的に流動的で労働市場の情報流通が不完全であり、失業者と求人者が

お互いを見つけるのには時間がかかるために発生する(Ehrenberg and Smith 1997, p568)。事

前予告条項によって労働者は離職前に新たな仕事を探す機会が得られ、移植後の失業期間

を短縮ないし避けることができる。労働者が予告期間が終了するまでに適切なそれに代わ

る仕事を見つけられれば望ましい。

契約に基づく予告期間は必ずしも全ての労働者に同じではない。勤続期間、年齢、賃金、

役割の類型、労働者類型(ブルーカラーかホワイトカラーか)といった諸要素が契約に基

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づく予告期間を決定するのに用いられる。異なる予告期間を適用する経済的な理屈はある

のだろうか?予告期間が労働者が離職後に予想される摩擦的失業期間を短縮ないし避ける

ためのものであるなら、予告期間は適切なそれに代わる仕事を見つけるのに必要な平均期

間に従って様々になるだろう。

労働者が仕事を探し就職する速度は、他の何よりも当該労働市場において一定期間内に

提供される求人数にかかっている。厚みのある労働市場では求人が多いのに対して、希薄

な労働市場ではどの時期にも求人が少ない。たとえば、石油タンカーの担保交渉のみを専

門に取り扱う法律事務所で働いている弁護士は、解雇された時に同等の報酬を得られる地

位を見つけるのにとても苦労するだろう(Posner 1992, p148)。市場には常に何らかの種類の

仕事はあるだろうが、特定の専門分野の弁護士の労働市場は希薄なので、石油タンカーの

担保を専門に取り扱うもう一つ別の法律事務所の仕事を見つけるのには時間がかかるだろ

う。しかしそれゆえに一層、そういう専門的な事務所で働く弁護士は労働条件として、も

し解雇する場合には同等の報酬を得られる地位を見つけるのに必要な平均期間に相当する

予告期間の間給料を支払い続けることを要求するであろう。実際、もっと雇用機会の多い

法律分野で仕事を始めることもできたのだから、市場が希薄な仕事に従事することによっ

てこの例の弁護士は代替的雇用機会を放棄しているのである。放棄された代替的雇用機会

は雇用契約における特別の信頼形式である。予告期間はこの信頼をなにがしか保護してい

る(De Geest 近刊)。

デ・ヘースト(De Geest 近刊)も、ホワイトカラー労働者とブルーカラー労働者の間で付

与される予告期間に差を設ける法制度の存在にかつては意味があったことを説明してい

る。歴史上製造業や農業の雇用(主としてブルーカラーの仕事)がサービス業の雇用(主

としてホワイトカラーの仕事)よりも多い時代があった。ホワイトカラー労働者が離職後

適切な仕事を見つけるにはブルーカラー労働者よりも時間がかかったので、ホワイトカラ

ー労働者にはより長い予告期間が必要であった。しかし時が流れ、産業別就業構造の変化

によって、ホワイトカラーの仕事が拡大する一方、ブルーカラーの仕事(とりわけ農業分

野)は収縮してきた。それゆえホワイトカラーとブルーカラーの格差は経済的観点からは

より無意味になったのだが、なお予告期間の長さを決めるために格差を維持している法制

度がある。

一方、各業種における生産技術の変化によっても労働者は新たな技能を身につけ新たな

仕事を見つける必要がある。ブルーカラーの仕事でもホワイトカラーの仕事でも技能労働

者への需要は総じて増加してきた。人的資本への投資(技能と知識)は労働者の生産性を

高め、技能労働者が(訓練期間後に)稼得する賃金も上昇する。人的資本には企業特殊的、

つまり特定の使用者に雇用されていてのみ労働者の生産性を高め、その賃金を引き上げる

ものがある。一般に低賃金の求人よりも高賃金の求人を見つける方が難しいので、離職後

同等の報酬を得られる仕事を見つけるのには平均してより時間がかかる。労働者が以前稼

いでいたのと同じくらい高い賃金を払ってくれる仕事を見つけるのは不可能だということ

もありうる。予告期間の計算に勤続期間と賃金額が用いられるのは、企業特殊的な訓練を

受けた労働者が離職後適切なそれに代わる仕事を見つけるのが困難であることを物語って

いる。勤続期間が労働者が特定の仕事に行ってきた投資量の代理変数として使われるのは、

労働者は特定の企業での勤続期間が長くなればなるほど企業特殊的人的資本を蓄積してい

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るとみられるからである。賃金水準が投資量の代理変数として使われるのは、賃金が高け

れば高いほどそこには企業特殊的人的資本への報酬が暗黙に含まれているだろうからであ

る。

年齢は新たな仕事を見つける能力を引き下げるだろう。我々も知るように、使用者は高

齢労働者を雇いたがらない(Hutchens 1988)。流動性知能は年齢とともに低下する上に、高

齢労働者は職業上の余命が短いため訓練に投資しても見返りが少ないので、高齢労働者を

訓練する費用は若年労働者を訓練する費用よりも高くつく(Posner 1995, p329)。この「年齢

効果」が高齢労働者へのより長い予告期間を説明する。高齢労働者により長い予告期間を

付与することが高齢労働者の雇用費用を高め、ひいては使用者に高齢労働者を雇おうとい

う気を削ぐことになるので、これは理解しがたい。

使用者が予告期間に気が進まない理由はいわゆる「最終期」問題である。予告期間の満

了後は雇用が終了することがわかっている労働者は一生懸命働く動機がなくなり、もっと

悪いことに会社の物品を盗んだり壊したりして大きな負の外部性をもたらすかも知れず、

そうした不正行為に刑罰を科するというのは現実的でない。我々が知るとおり、使用者は

予告期間に相当する補償金を支払わなくてはならなくても、即時に雇用を終了することの

方を好む。これに代わる解決策は解雇手当を支払うことである。法制度の中には、使用者

が一方的に雇用契約を終了した場合に労働者には解雇手当を受け取る権利がある司法ない

し行政上の制度がある。解雇手当額の計算に用いられる要素は予告期間の長さの決定に用

いられるものと似ており、とりわけ勤続期間と賃金額、時に年齢である。

もし雇用終了の脅しがもっぱら労働者の業務遂行を動機付ける手段であるとみなすので

あれば、予告期間や解雇手当は業務遂行不良への懲罰を制約し、有益な履行強制装置とし

ての雇用終了の力を弱めることになる。この懸念に一定程度応えて法制度は、予告期間や

解雇手当が無条件に適用されないようにしている。もし労働者が根本的な契約違反に関わ

っていたら、雇用終了の「緊急の事由」に基づいて、使用者はいかなるものであれ予告期

間に相当する手当を支払うことなく一方的かつ即時に契約を終了することが認められる。

同様に、労働者が雇用関係の解消を引き起こす上で重大な過失があった場合は解雇手当は

不支給ないし減額される。

(iii) 競業避止条項 競業避止条項は雇用契約終了後一定期間労働者が同業種の使用者と

雇用契約を結んだり同業種で自ら事業を始めることを禁止するものである。同条項への違

反があれば、使用者は差止の救済を求めることができる。つまり、労働者は競業避止条項

の適用範囲内において、他の使用者の下で働くことが禁止されるということである。多く

の法制度では、競業避止条項は疑いの目で見られている。その履行には法的及び司法上の

制約が課せられている。

雇用契約において競業避止条項を用いる一つの経済的根拠は、営業秘密や顧客への信用

といった作り出すのには費用がかかるが費用をかけずに広めることのできる機密情報の生

産への投資を保護することである。競業避止条項のもう一つの経済的根拠は、労働者の一

般的人的資本への投資を保護することである。競業避止条項を使えなければ、使用者は自

分が負担した人的資本を使って労働者が他の使用者から高賃金を得ることに対して保護さ

れない。もちろん、当事者は使用者がその投資からの見返りを確保できる手段として、そ

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の間は労働者が損失補償をしなければ辞めることができない特定の期間を雇用契約に規定

することができるが、競業避止条項は随意雇用契約のような柔軟な環境においても使用者

をその投資の盗用から保護するのである。契約の履行を直接に強制する期間の定めある雇

用契約と異なり、競業避止条項は間接的な契約の強制である。労働者は賠償せずに辞職す

ることができ、競業避止条項に違反して他の使用者の下で働き出した場合にのみ制裁を受

ける。

競業避止条項の利用を規制ないし制約することが効率的であり得るというポズナーとト

リアンティス(Posner and Triantis 2001)による経済的理由付けは、競業避止条項が使用者に

特定の人的資本への投資の費用(の一部)を第三者に外部化することを可能にすることに

ある。使用者がその投資の費用を全て内部化しない場合、特定の投資をする事前の誘因は

過大になりがちである。従来の雇用当事者が-通常将来の使用者とともに-金銭の支払に

よって労働者を競業避止条項から解放するという合意をする場合、費用を外部化している

可能性がある。そのような合意は、新たな仕事につくことによる利益が従前の仕事による

利益を上回っている場合には労働市場の効率性を高める上で重要である。競業避止解放合

意では、従前の使用者は少なくとも従前の労働者から受け取ることを期待していた剰余の

損失を補償するのに十分な支払いを求めるだろう。特定の投資が支払額を増加させる限り

において、従前の使用者はその投資の費用を新たな使用者に外部化することができる。現

在の使用者が-競業避止条項を採用することにより-その労働者の将来の使用者との交渉

において特定の投資の費用を外部化できることに気がついたら、特定の人的資本への投資

は過大になるだろう。この資源の不効率な利用は、裁判所が雇用当事者の競業避止条項を

導入する自由に介入する効率論的根拠である。

4 契約締結前情報の問題

イ 契約締結前の情報提供義務

他の市場と同様、雇用契約の市場にも情報の非対称性の問題が存在する。労働者は、学

歴、過去の仕事ぶり、やる気、健康など、その仕事の生産性に影響するいくつもの特徴に

関する情報について優位にある。使用者は仕事内容、キャリア機会、企業の将来性といっ

た情報について優位にある。情報の非対称性は効率的な求人と求職の結合を妨げるので是

正されるべきである。当事者は交渉している契約締結前の段階で情報を交換する機会があ

る。しかしながら、現実世界の雇用契約の締結においては、両当事者は沈黙を守るかある

いはいくつかの側面について嘘をつくかも知れない。問題は、そのような行動がそれによ

り不利益を被った側に、錯誤、詐欺その他の法理に基づいて、雇用契約の解除や損害賠償

など法的救済を求める権利を与えるかである。法的観点からは、悪意、不誠実、虚偽また

は事実不告知といった要素の存否は訴訟の結果に影響を及ぼすが、経済的観点からは、情

報の作成や開示に与える誘因という観点からルールが分析される。

契約締結前情報に関する法と経済学の文献の中心的洞察は、効率的なルールは最少費用

情報収集者によって情報が作成、開示されるという効果をもたらすというものである

(Kronman 1978)。雇用契約の締結交渉に適用すると、この場合労働者が最少費用情報収集

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者であるので、その個人的特徴に関する情報を作成、開示する誘因を与えるようなやり方

でルールを適用すべきということを意味する。同様に、仕事内容や経営に関しては使用者

が最少費用情報収集者である。法的用語でいえば、これは効率性の観点からは、一方当事

者が交換の潜在価値に影響し、自分が最少費用収集者であるところの情報に関し事実を告

知せずまたは虚偽を述べた場合、雇用当事者は損害賠償または雇用契約の解除を請求する

権利を有するべきであるということを意味する。

しかしながら、最少費用情報収集者ルールには効率性の論拠からいくつもの例外がある

(De Geest et al. 1999)。まず、情報は相手側に十分関連性のあるものであって初めて作成、

開示される。最少費用情報収集者に相手方にあまり関連性のない情報を作成、開示させる

ことは資源の無駄遣いである。交換の価値を査定する上で意味のないような事項について

は、雇用当事者に「嘘をつく権利」を与えることにすら効率性の論拠がある。関連性のな

い事項については積極的に情報を提供する義務を解除するが、聞かれた場合に関連性のな

い事項について嘘をつかない義務は解除しないことにすると、相手方がその不誠実を、そ

の不誠実さとはなんの関係もない理由で契約を後悔するようになった時に、契約解除や損

害賠償請求の言い訳に使う可能性がある。もちろん、いかなる情報が関連性のあるものと

みなされるかを決める必要がある。労働者にとっては、賃金、労働状況、確実性など広義

の報酬に関わるものであれば情報は関連性がある。使用者にとっては、労働者の生産性に

関わる情報が関連性がある。

次に、雇用当事者は企業情報を開示することを義務づけられるべきではない。雇用当事

者の一方が作成に費用がかかるが他の関係者に広めるのは容易な情報を有しているという

ことは起こりうる。ただ乗りを避け、生産的な情報を作成する誘因を維持するため、雇用

当事者は企業情報に関しては沈黙を守ったり嘘をいう権利を持つべきである。第三に雇用

当事者は、性質上主観的であるがゆえにあるいは一般的に認められた発言の定義が存在し

ないがゆえに、検証不可能な発言をする自由があるべきである。

上述の種類の効率性分析が含意するところは以下の通りである。労働者は短期的ないし

中期的にその労働生産性を引き下げることのない健康面について嘘をつく権利がある。し

かしながら、妊娠のように短期的ないし中期的にその生産性に影響する健康状況に関する

情報は正直に開示すべきである。労働者はそれが特定の職務に不適合でない限り犯罪歴に

関する情報を開示する必要はない。労働者は卒業証書や前職の賃金のようにその生産性を

予測させる検証可能な情報については正直であるべきである。しかしながら、たとえ自分

でも本当じゃないかも知れないと思っていたとしても、その能力に関する検証不可能な発

言をすることは自由である。たとえば、労働者は「わたしは一生懸命働く」とか「英語が

とてもうまい」とか「最良の従業員だ」と言っても構わない。こういった発言の妥当性を

を査定する一般的に認められた基準は存在せず、性質上主観的である。こうした発言をす

る労働者が本気でそう信じているかどうかも査定のしようがない。それゆえ、こういった

検証不可能な発言は訴訟の対象とすべきではない。使用者は雇用の初期における賃金その

他の手当のような検証可能な事実については正直であるべきだが、「会社の雰囲気はとて

も楽しい」といった検証不可能な発言をする自由はあるべきである。

現行法について言えば、法制度は時に効率性分析が反対の結論に達しているような情報

を正直に開示する義務を免除している。これはたとえば、妊娠中の女性がその妊娠につい

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て嘘をつく権利を認めている法律のような場合である。

ロ 試用期間

雇用保護法制のある法制度では、雇用当事者が雇用契約に試用期間条項を挿入すること

が一般的である。雇用保護法制は試用期間中は適用されないが、通常合意された試用期間

は法定の上限期間を超えて延長することはできない。

デ・ヘースト(De Geest 近刊)によれば、試用期間は一方において労働者の能力に関する

情報を得る上でも、他方において広義の報酬についても、費用のかかる手段である。雇用

契約の開始以前に当事者の一方に既に情報が入手可能である程度に応じて、最良の解決策

は情報を有する当事者に、前述の線に沿ってその情報を開示するように誘導することであ

る。試用期間はまた別の意味でも費用がかかる。雇用保護が当事者に関係特殊的投資を誘

導するために必要であるとみなされる場合、試用期間中はそれが一時的に適用できないと

いう事実は、不効率にも当事者にそのような投資を遅らせるかもしれない。

ハ 差別的なシグナル

使用者は求職者についてほとんど知らない。彼らの中から選抜する際、使用者は業務遂

行を予測するためシグナルに頼る(Spence 1973)。たとえば、大学卒の学位を持つ求職者は

容易に使用者に成績証明書を渡すことができる。大学卒の学位は知性のような、使用者が

評価するが面接では直接観察できない特性をシグナルとして示す。労働市場シグナリング

のもともとのモデルは、シグナルが何ら本質的価値を持たない場合に生じうる「出世競争」

に関するものである。個人はその場合、シグナルを示すことに過剰投資してしまう。

別の種類のシグナルは差別的なシグナルである。差別的なシグナリングにおいては、性

別、人種、年齢といった一定の特性が観察できない変数のシグナルとして用いられる

(Cooter 1994)。差別的シグナルの問題は過剰投資をもたらすことではなく、差別的シグナ

ルの「被害者」がその人的資本に投資する誘因を削いでしまうことにある。差別的シグナ

リングはまた、意思決定者が観察できない特徴を判断するためにさまざまな統計的近似値

に依存することを意味する統計的差別としても知られている。差別禁止法が適用される場

合、年齢、人種、性別といった差別的シグナルの利用は禁止される。

しかしながら、差別的シグナルを用いることは取引費用により説明できる。採用決定の

基礎として容易に決定できる特徴をシグナルとして用いることで、情報収集の費用を節約

することができる。例示すると、男性は平均的に女性よりも身体能力が強いので、強健さ

が必要な仕事に応募してくる女性を全て拒否する使用者もいる。そうすることで使用者は

しばしば強健な女性を拒否し柔弱な男性を採用するという過ちをする。そうした過ちの費

用が個人個人の情報を収集する費用よりも低いのであれば、シグナルの利用は利益を最大

化し、競争は差別的慣行を強化するであろう(Cooter 1994)。

差別的シグナルを用いることへの通常の反対理由は、それがその属する集団の平均的経

験の経路をたどらない非典型的な集団の成員に対して不公正であることである。統計的差

別のために、その真の特性によって正当化されるよりもずっと低い処遇を受ける労働者が

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生じうる。これはまた、ある集団で平均を超える能力のある成員に対して、その集団の平

均的成員としてしか扱われないために、人的資本に最適投資しようとする誘因を歪めるで

あろう。それは確かだが、年齢、性別、人種といった差別的シグナルの利用を法的に禁止

することは、使用者に対し全ての求職者についてより費用のかかる代替指標に頼らせるこ

とになるので、その効果を元通りにする一番割安なやり方ではない。労働者の遂行能力を

個別に評価する費用が法外に高い場合、というか通常そうだが、特定の代理変数の利用を

禁止することは別の代理変数で代替することをもたらす。ポズナー(Posner 1995, p327)によ

れば、雇用における代理変数として年齢を用いることにより生じる過小投資の問題は転嫁

されるだけで解決されるわけではない。「誰であれ新たな代理変数によって、それが彼の

能力を正確に測定するものではないという意味において「不公正に」不利益を被る者は、

その人的資本に最適投資をする誘因を失うであろう。そしてもし新たな代理変数がより効

率的でない場合、というかそうでなければ政府の推奨なしに間違いなく採用されていたは

ずであるからおそらくそうなのだが、使用者の労働費用が上昇するために賃金が低下し、

低賃金ゆえに労働者がその人的資本に投資する誘因が縮小することになろう。」

クーター(Cooter 1994)によれば、差別的シグナルの利用を禁止するよりも割安な解決策

は、雇用差別の潜在的被害者についての情報の流通を増強することである。より良い条件

に見合うだけの特徴を有する個別労働者は、その情報を作成し信頼できるやり方で通知す

ることを前提に使用者にその情報を提供することができる。統計的差別に対するこの種の

市場に基づく救済に対する反対論は、その情報を利用する個人は使用者に通知するために

追加的な費用を負う必要があるということにある。クーター(Cooter 1994)によれば、この

反対論は国が無料で労働者に関する追加的情報を提供するならば克服しうる。

5 他のあり得べき個別交渉の失敗

雇用契約規制に適用される市場規制の経済理論によれば、雇用契約の内容を規制する経

済的根拠には市場の失敗とそれを矯正する政策を明らかにすることが必要である。雇用当

事者は完全市場で効率的な雇用契約に向けて交渉していると想定される。効率的な雇用条

件とは、履行を約束する者の費用が当該履行の相手方にとっての価値よりも低いような条

件である。司法や規制による介入が経済的観点からして適切であるためには、特定の市場

の失敗が明示されなければならない。法と経済学の文献の大部分は、契約規制の経済的根

拠を示そうとする。そうした根拠の中には、独占力のような交渉力の不均等、外部経済性、

公共財、情報問題がある。雇用契約が不効率になると推定する理由はあるだろうか?

労働弁護士にとっては、雇用契約を法的規制すべき基本的論拠は交渉力の不均等の認識

である。労働者が事後的にうまくやれないような交渉に陥りがちであるのは確かだが、い

かなる意味においても労働者が系統的に搾取されているというのはきわめてありそうもな

いことである(Fischel 1984)。使用者が買手独占であるという意味における交渉力の不均等

は、市場の失敗であり、使用者はめったに買手独占ではないし、たとえそうだったとして

も雇用契約における不効率な非賃金条件がこれだけ広がっていることを説明することはで

きない(Freed and Polsby 1989)。仕事はほとんどの労働者にとって必需品だが、職務が未充

足のままでも費用がかかるので、労働者も使用者にとっては必需品である。さらに、失業

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給付が受給できたり家族の収入が高ければ労働者が最初に提示された仕事を受け入れる必

要性は少なくなる。当事者それぞれの義務を定めた標準契約書を労働者に手渡すのは使用

者によく見られる慣行である。しかし、これを受け入れるか否かで交渉の余地がないもの

として提示される標準契約書は、不均等な交渉という命題を満足させるには疑問がある。

標準契約書とは労働者ごとに交渉し、別々の合意を作成する取引費用を削減する慣行であ

る。使用者が労働者をめぐって競争している場合、標準契約書には面倒な条項は含まれな

いであろう。競い合う使用者は労働者に、さまざまな価格でさまざまな便益のパッケージ

を提示する。このさまざまな機会という観点からすると、暗黙のうちに交渉が行われてい

ると言ってよい。特定の市場の全ての労働者があらゆる機会において市場で競争的に行動

できるように情報を与えられていることは必要はない。情報を持った十分な数の買い手が

いる限り、企業は劣った労働条件や市場以下の賃金提示することはできないだろう

(Schwartz and Wilde 1979)。

しかしながら、十分な数の労働者が完全な情報を得られそうにない特定のタイプの雇用

リスクを切り離すことは可能である。典型例は労働安全衛生リスクである。完全な情報を

得た労働者は予期される災害や疾病の費用について完全な知識を有するであろう。賃金格

差を補償する過程において、より危険な仕事を提示する使用者はリスクの増大を労働者に

補償するために、より安全な仕事を提供する使用者よりも高い賃金を支払わなければなら

ない。それゆえ、労働者をより低い賃金で惹き付けることが可能になるので使用者には安

全防護措置をとる最適な誘因がある。この分析は情報問題を考慮に入れると変わる。職場

の危険性は通常とても低いので労働者に情報提供する費用は法外に高くなるため、労働者

は職場の危険性について十分な知識がないであろう。これはつまり、賃金格差を補償する

ことは不効率に小さく、職場の安全は過度に低くなることを意味する。これが、多くの法

制度でそうなっているように、使用者が労働災害に責任を負うようにしている経済学的な

説明である。

雇用契約条件を規制するもう一つの経済学的理由は、有害な外部経済性の存在である。

特定の契約条件を採用することは第三者に損失を与える可能性があり、取引費用はこれら

の費用を内部化することを妨げうる。たとえば、もし使用者に、違法な行為の遂行を拒否

したり違法な活動を通報したり(内部告発)する労働者の雇用契約を終了する無制限の権

利があれば、社会全体が損失を被ることになる。シュワブ(Schwab 1996)は、多くの不当解

雇法は裁判所によるこれら第三者効果の探索として理解しうると説明している。

6 結論

ほとんどの雇用契約が性質上関係的であるという認識は、それゆえ一般契約法が雇用契

約との関係で生ずる全ての紛争を取り扱うのに不適切であるので、労働法の特定の規則を

理解する上で重要である。関係的契約は雇用当事者の一方または双方によってなされた関

係特殊的投資、将来の不確実性による完全に状況対応的な完備契約を結ぶことの不可能性、

契約違反を裁判所のような第三者的履行強制者に立証可能なやり方で証明することの困難

性、そして情報の非対称性による雇用当事者が契約違反を監視することの困難性に関わる。

これら雇用契約の典型的な特徴を踏まえれば、労働法の経済的役割は、契約関係の特定さ

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れず履行強制できない要素の利益を得る雇用当事者の誘因を減らし、詳細な雇用契約を起

草し履行強制する費用を節約することによって、労働交換の共同価値を最大化するための

法的枠組を提供することにある。これは二つのやり方でなされうる。黙示の自力執行的契

約を助長する法的枠組か、第三者統治の法的枠組である。第三者統治の下では、裁判官ま

たは仲裁人が、より多くの情報が入手可能な事後において、その終了も含め雇用契約の重

要な調整について決定をすることになる。黙示の自力執行的契約の下では、当事者は相手

方が暗黙の契約条項に違反した場合には随意に雇用終了するという脅威によって協力を確

保し、第三者は暗黙の契約条項への違反があったかどうかの決定に関与しない。これら二

つの制度の間の最適な選択は、第三者に入手可能な情報の水準が適切な決定を可能にする

ようなものか、機会主義の危険性が随意雇用契約をもはや自力執行的でなくしてしまうほ

どのものかに係っている。完備性の理由から、中間的な雇用契約統治の仕組みを適用する

法制度が存在することも念頭に置くべきである。中間的法制度の出発点は、雇用契約は随

意雇用であり、使用者に契約を変更し、終了する裁量的な権力を付与するが、信義則によ

って裁判所が不当な目的に基づくと認められる裁量的な意思決定を制御することが可能と

なる。中間的な法制度においては、随意雇用契約によって作られる柔軟な環境の中で特定

の投資を奨励するための何らかの可能性を保持する手段として、告知期間や解雇手当のよ

うな条件を雇用契約に読み込むことも一般的である。

労働法のもう一つの経済的役割は、雇用契約市場における失敗を矯正することである。

たとえば、使用者の労働災害補償責任はこの目的にかなうものと説明される。最後に、立

法者が労働市場の効率的な機能を改善するために介入できるやり方についていくつかの示

唆がなされてきた。立法者は差別的なシグナルの利用によって被害を被ったであろう労働

者に関する情報の流通を増やすことができる。立法者はまた、労働者に入手可能な代替的

な雇用機会を増大させることにより雇用契約における機会主義の潜在的危険性を減らすこ

とができ、これは生産方式の標準化や移動の障壁を除去することによる労働市場の拡大に

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第5部 雇用終了とその後の関係

第16章 解雇 J.H.ヴァーカーク(J.H.Verkerke)

1 はじめに

解雇とは企業が主導する雇用関係の非自発的終了をいう。本章はこれらの雇用終了を規

律する法的ルールの経済分析に焦点を当てる。

まず法的枠組から始める。アメリカ法は主として個別解雇を制限するが、世界の他の諸

国の整理解雇法制は労働力の大量削減に対してもかなりの制約を課している。学者はしば

しば、雇用終了へのどんな制限もまとめて「雇用保護法」(EPL)とか、より正確でな

い言い方だが、「雇用保護立法」(EPL)という用語を用いる。しかしながら、我々の

関心のある「雇用保護」のさまざまなタイプをより注意深く定義することが有益であろう。

一連の二分法的な区分が雇用保護の源泉とその下で拘束される状況の両方を明確化す

る。我々はまず、法的に履行可能な制約とそうではなく労使慣行や職場の規範から生じる

ものとを区別すべきである。多くの労働者にとっては、内部労働市場を支配する自力執行

的規範の方が、解雇に異議を唱えるための迷宮のような法的根拠のどれよりも実際に強力

な雇用保護を提供する(Rock and Wachter 1996, Wachter 2004)。次に、我々は個別的雇用権

と集団的雇用権を区別する必要がある。労働組合や団体交渉の重要性の度合は各国間で実

に様々であるが、集団的代表制に対して冷ややかなことで悪名高いアメリカですら、労働

力の相当部分が雇用保護のために労働協約をあてにしている。第三に、我々は制定法とコ

モンローの区別を考慮しなければならない。たとえばヨーロッパでは立法が膨大な量の雇

用保護を提供しているが、アメリカの州裁判所は解雇に関する連邦、州、地方の制定法上

の制約を補完する重要なコモンロー上の保護を発達させてきた。

我々はまた、特定の法的保護をもたらす状況にも注意を向けるべきである。もっとも広

義の退職手当の義務は、自発的であれ非自発的であれ労働者の雇用終了に対して企業に支

払いを要請する(Lazear 1990)。より一般的には、失業保険制度が典型的に規定するように、

労働者が非自発的に雇用終了する場合にのみ退職に対して給付がされる。多くの雇用保護

制度はまた、使用者が経営上の正当事由を有している場合の雇用終了を適用除外している。

経営上の正当事由は、アメリカの失業保険制度が労働者の「重大な非行」の証明を要求し

ているように、十分厳格であり得る。さもなければ、それは使用者に労働者の不注意や能

力不足、業績不良といった証拠で解雇を正当化することを認めることになろう。しかしな

がら、より緩やかな経営上の正当事由基準もアメリカではかなり一般的で、仕事の欠如や

使用者の事業の再編成を含むいかなる合法的な経営上の理由による雇用終了でも認めてい

る。

とはいえもう一つ、正当事由の客観的基準と主観的基準という区別が存在している。よ

り制限的な客観的アプローチは、合理的な人であれば当該使用者がしたように振る舞った

であろうか否かを考慮する。対照的に、純粋に主観的な基準は当該使用者の代理人が純粋

に雇用終了に正当な理由があると信じていたか否かのみを問いただす。最後に、多くの米

国労働法が労働者を雇用終了から保護するのは、人種や性別による差別のような特定の禁

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止された理由による場合のみである。

雇用規制に関する法学文献がこれらの区別を注意深く扱うのに対して、同じ問題に関す

る経済学文献はしばしば法的な相違を無視したり、根本的に異なるタイプの規制の間の重

要な相違を不明瞭にしたりする。以下に見るように、この不正確さは、雇用保護がどのよ

うに労働市場に影響するかを明らかにすることを意図した計量経済学的業績の政策的意義

や堅実さを傷つけることになる。

これら二大分野の文献はまたいささか異なった問いを提起する。米国の法律解説者は、

裁判所や立法者が不当な解雇からの新たな法的保護を設けるべきか否かについての論争に

焦点を合わせてきた。この「正当事由論争」は数十年にわたって荒れ狂ってきたが、すぐ

には和らぎそうな気配はない。従って、以下の法的議論は伝統的な随意雇用原則を記述す

るとともに、過去数十年に発展してきた無数の制定法及びコモンロー上の例外を解説する

ことになる。

この問題に関連する経済学文献は問題の幅がいささか広い。まず、多くの学者は労働規

制がいかに雇用、労働力参加、失業、生産性その他の関心ある経済変数に影響を与えるか

について理論化してきた。解雇費用を引き上げることは必然的に解雇と新規採用の両方を

妨げるという点には誰もが同意するが、他のすべての変数の予測はモデルの構造と枢要な

媒介変数についての前提に大きく依存する(Bentolila and Bertola 1990; Bertola 1992; Addison

and Teixeira 2003)。他の理論家は、なぜ規制されない市場が最適以下の水準の雇用保護を

もたらすのかを説明しようとしてきた(Levine 1991; Schwab 1993; Kim 1997; Sunstein

2001)。これら市場の失敗のストーリーのいずれももっともらしいが、観察可能な行動に

ついては相矛盾する予測を生み出す。

この広範な理論的曖昧さを解決するために、実証的経済学者は雇用保護の水準を測定し、

法的保護と重要な経済的結果との間の相関関係を探索しようとしてきた。これらの研究は、

大きく二つのグループに分けられる。一つめは各国横断的比較研究であり、二つ目は不当

解雇に関するアメリカ各州法の違いを利用する研究である。これら実証研究文献のいずれ

も技術的洗練を高め、より頑健な推定手法を発展させてきた。しかし、以下に見るように、

法的ルールの厳格さを正確に測定することができないので、これら実証研究結果の公共政

策の指針としての価値は著しく限定されている。

2 法的枠組み

本節は、解雇に関するアメリカ法の主な特徴と他の諸国と異なる労働規制の重要な点に

ついて簡潔に述べる。また、雇用保護における主な近年の変化や趨勢についても述べる。

イ アメリカの雇用労働法

アメリカを、企業がいつでも予告なしにどんな理由でも、あるいは理由などなくても、

労働者を雇用終了できる広範な権限がある一つの国として取り扱うことは、伝統的である

し、少なくとも部分的には正当化しうる。このいわゆる「随意雇用」ルールは、表面的に

は経営者の裁量権を極大化し、労働者の解雇に異議を唱える根拠を極小化する。随意雇用

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ルールは、モンタナ州以外のすべての州で期間の定めなき雇用契約の終了についての標準

設定規定として広まっている。同州ではかつて裁判所が異常なまでに干渉的な不当解雇法

理を発展させ、経済界がこの司法による革新を取り消す立法を求めて陳情した。州の立法

機関は寛容な正当事由基準を課し、労働者の救済余地を著しく狭める使用者寄りの雇用終

了法規をもって対応した(Krueger 1991; Ewing et al. 2005)。この単独の例外を除けば、アメ

リカ法は雇用終了する企業の権利を擁護し、仕事を失った労働者の保護を排除しているよ

うに見える。

しかしながら、このアメリカの雇用の描写は不完全であり、甚だ誤解を招くものであ

る。定型的な理解とは反対に、労働力のかなりの部分が不当解雇からの法的保護を受けて

いる。2007 年には民間部門の労働者のわずか 7.5%しか労働組合員ではなかったが、ほと

んどすべての労働組合員が雇用終了に正当事由を求める規定を含む労働協約の下で働いて

おり、さらに労働組合員ではない 0.7%の労働者にもそれら協約が適用されている(US

Department of Labor, Bureau of Labor Statistics 2008; Dau-Schmidt and Haley 2007)。組合員労

働者を雇用終了する際の通常の正当性基準は非違行為による解雇や不景気による一時解雇

を認めているが、労働仲裁人は概して解雇に客観的に合理的な根拠を要求し、バックペイ

とともに復職を命ずる権限がある。それよりさらに多くのアメリカ労働者が、公務員制度

の厳格な保護の下にある連邦政府、州政府および地方自治体の職員である。2007 年に

は、労働者の約 16%が労働組合の正当事由基準とよく似た公務員保護の下にあった。アメ

リカの無組合民間部門の 15%もの使用者が雇用終了自由を制限する契約条項に同意してい

ることを示唆する証拠もある(Verkerke 1995)。さらに、より少数の労働者は期間の定めの

ある契約の下で働いており、更新拒否のリスクにさらされているとはいえ、契約期間中は

解雇から堅固に保護されている。これらの雇用保護をまとめると、アメリカ労働者の約

34%に何らかの一般的に適用される不当な雇用終了に対する法的権利があることがわか

る。

アメリカ労働法についての定型的なお話は、様々な列挙された理由による解雇を禁止す

る連邦法や州法の規定の驚くような勢揃いも無視している。連邦法だけでも、雇用終了の

禁止された理由には、人種、皮膚の色、性別、出身国、宗教、年齢、障害、労働組合への

加入、職場での団体行動、兵役、年金受給資格が含まれる。連邦法はまた、十幾つもの労

働法規に基づき権利を請求したり監督を手助けしたことに対する報復としての雇用終了に

対しても保護を加え、さらに一定範疇の内部告発者にも限られた保護を与えている。州法

や自治体条例の中には、雇用終了の禁止理由リストの中に、性的指向、婚姻上の地位、支

持政党、勤務時間外の合法的な活動への参加、体重といったことも含めているものもある。

裁判所の判決も、これら法的な禁止をこういった理由に基づく使用者によるハラスメント

に適用している。

最後に、アメリカ労働法は今や、労働者を雇用終了する企業の裁量権をさらに制限する

コモンロー法理を取り入れている。相当数の実証研究は関連する事案を、(1)公序に基づく

請求、(2)黙示の合意に基づく請求、(3)信義誠実に基づく請求の 3 つに分類している。第

1 の範疇には公序に違反する不法な解雇を主張する不法行為事案が含まれる。典型的な公

序に基づく請求は、企業が偽証のような不法行為を犯すことを拒否した労働者を解雇した

場合に生ずる。こういった事案の共通した特徴として、裁判所は使用者の行為が第三者に

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顕著な影響を与える場合に訴因を認める傾向が高い。当該解雇は単に紛争当事者の労働者

と企業に影響を与えるだけでなく、一般大衆にも害を及ぼすものでなければならない

(Schwab 1996)。対照的に、黙示の合意に基づく請求は、使用者の言動が合理的な労働者に

不当な解雇から保護されていると信じさせたような場合に生ずる。これら請求の大部分は、

進歩的な規律を論じ、雇用終了が許される根拠を列挙する従業員ハンドブックや方針マニ

ュアルに基づいている。しかしながら、圧倒的大部分の裁判管轄において、使用者は明確

で顕著な免責条項を用いることにより黙示の合意の成立を回避することができる

(Verkerke 1995, 1998)。最後に、明らかに少数のアメリカの裁判管轄においては、伝統的な

信義誠実と公正取引の法理を雇用関係に適用している。この請求の最も広く受入れられて

いる型では、使用者は既に働いた分の報酬を支払うのを回避するために解雇することを禁

止される。

我々は以下にこれら法理を分類する伝統的な手法の問題点をいくつか検討するが、最初

にアメリカ労働法を紹介するには救済についても議論する必要がある。公序違反の不法解

雇の不法行為を訴える原告は権利回復の可能性が最も高い。この場合、経済的損失と精神

的苦痛に対する損害賠償とともに無謀かつ故意の非違行為を抑止するために設計された懲

罰的賠償を含む不法行為救済の満艦飾を追求できる。黙示の合意と信義誠実の場合に利用

可能な契約上の救済はより限定的である。これらの場合、損害賠償ルールは逸失賃金のよ

うな予見可能な経済的損失の回復は認めるが、精神的苦痛や懲罰的賠償はいずれも除かれ

る。連邦法や各州法もその救済の寛大さは様々である。上述した公序違反の訴えと同等の

満額の不法行為損害賠償請求を原告に認めるものもあるが、損害賠償額や種類に上限や制

限を課するものもある。最も制限的な法規ではバックペイの期間を厳しく限定し、それゆ

え契約上の訴えで得られるよりも少額の救済しか得られないこともある。

多くの法規は裁判所が使用者に原告を元の職務に復職させるよう命令することを認めて

いる。しかし、そういった命令は復職した労働者を潜在的に敵意ある環境に置き去りにし、

使用者にさらなる解雇を正当化するに十分な業績不振を記録する機会を与えることにな

る。それゆえ、当事者は通常、違法な雇用終了の訴えを復職を除いた条件で解決する。す

なわち、使用者は原告に金銭を支払い、将来の使用者に提供されるべき紹介状の文言につ

いてしばしば交渉する。その代わりに、解雇された労働者は解決条件の秘密を守り、従前

の使用者を誹謗することを控え、企業に対するすべての法的要求を放棄することに同意す

る。この種の解決は、手続きの初期段階で解雇されたのではない解雇事件の圧倒的大部分

で見られる。その結果、アメリカ労働法が解雇に対して企業が労働者に支払う期待額に等

しい額を課税していると考えるのは全く正確である。

ロ 国際比較

世界中の解雇保護の完全な調査は本章の及ぶところではないが、より印象主義的な説明

はアメリカと他の諸国の法制度の重要な違いを明らかにするであろう。

大まかにいえば、アメリカ法は相対的に許容的な法的背景の上に特定の法的制限を重ね

焼きしている。対照的に、他の諸国の大部分は不当解雇に対する一般的な法的保護から出

発する。これら法制度では、このより制限的な背景ルールに対して小規模企業や採用間も

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ない者、有期労働者といった例外を設け、雇用の柔軟性を高めるとともに潜在的な労働市

場の硬直性を緩和している。こうして、多数の日雇、臨時、外国人労働者が解雇からの法

的保護もなく雇用調整の矢面に立たされている。解雇への法的制限はアメリカ以外におい

てより厳格だという伝統的な印象は確かに正しいが、今日の解説者が一般読者に信じさせ

ているのに比べれば、アメリカでは解雇は高くつき、他の諸国では安く上がるのである。

文献の中には各国における雇用保護に関する多くの素晴らしい議論が含まれる。より多

くの業績は、各国横断的な比較をすべく法規定を類別し、分類している(World Bank 2007;

Heckman and Pages-Serra 2000)。雇用終了への典型的な制限としては、解雇に正当事由を

要求したり、労働者の勤続期間に比例した解雇手当を義務づける一般的な法規定がある。

解雇手当法規には、正当事由のある解雇とそうでない解雇を区別し、後者に高額の支払を

課するものもある。整理解雇法規は通常、経済的理由により雇用終了される労働者への支

払を求め、その額は労働者の勤続期間に比例して上昇する。手続規定は実に様々である

が、大部分の国には雇用終了に異議を申し立てる事案の聴聞を行う専門的な労働審判所が

ある。多くの国では、労働組合組織率がアメリカを遙かに超えており、労働組合が被解雇

労働者の利益を代表する上で重要な役割を果たしている。

こうした力強い解雇規制の存在にもかかわらず、多くの労働者は保護されたグループの

外側にこぼれ落ちている。国によって例外は様々だが、解雇規制のかからない雇用の最も

重要な源泉は有期契約、臨時・日雇労働者、試用期間、外国人労働者、そして小規模企業

の労働者である。多くの国が解雇規制を潜脱するための有期契約や臨時契約に法的制限を

課しているが、労働力のかなりの部分が変わることなく経済の中の解雇規制がかからない

部門で仕事を見つけている。この柔軟性が厳格な雇用保護法制の経済への影響をなにがし

か緩和しているように見える。

さらに、不当解雇の救済は通常アメリカよりも他の諸国のほうがずっと低額である。専

門的な労働審判所はバックペイや損害賠償についてずっと低い額を裁定する傾向にある。

エストライヒャー(Estreicher 1985)によれば、「カナダとおそらくイタリア以外では、金銭

補償額は、取るに足らないとは言わないが、アメリカの司法による救済に比べれば、控え

めで予測可能なレベルにある」。彼はまた、調査した司法権の圧倒的大部分において、復

職という救済にほとんど実際上の重要性がないと述べている。すでに見たように、復職し

た労働者がハラスメントを受けたり、また解雇するための正当事由を見つけるために綿密

な監督下に置かれたしないように確保することは難しい。

アメリカと他の諸国の雇用保護を簡潔に比較することで、顕著な制度的及び公式の違い

が明らかになるが、重要な実際上の類似点も明らかになる。アメリカにおける雇用保護は、

単一の組織化原理や統一的司法権を欠いた多くの個別の比較的特定の雇用上の権利の集積

である。しかし、これら禁止に違反した使用者は相対的に多額の損害賠償と訴訟費用を負

担しなければならない。対照的に、他の諸国の多くは労働者に雇用終了から守られる一般

的な権利を与えてはいるが、この表面上普遍的な保護はより低額であり、労働力のかなり

の部分をその対象外に置き去りにしている。それゆえ、アメリカと他の諸国の雇用保護法

の負担の総計は、伝統的な知恵が想像するよりもずっと似通っている。アメリカはより多

くのコストをより数少なく課すのに対し、他の諸国の多くは比較的控えめなコストをより

多くの雇用終了の予見しうる帰結とするのである。

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ハ 趨勢と法的変化

法改正が提案されているのは共通している。アメリカでは、相当数の法律注釈書が随意

雇用ルールを批判し、雇用保護の強化を求めている。こういった全面的な変化の唱道はと

ても成功する見込はないが、裁判所と立法機関は過去数十年間に多くの新たな雇用上の権

利を作り出してきた。対照的に、アメリカ以外の諸国における多くの改正提案は解雇への

法的制約を除去することによって解雇費用を削減しようとするものであった。これら諸国

の法的変化はいくつかの明確な形態をとっている。しかしながら多くの場合、その目的は

採用を奨励し、経済がしばしば労働市場の硬直性と結びつけられている高水準の構造的失

業を削減することにあった。

例えばスペインの改革は、小規模企業を実定法規制から適用除外し、雇用終了がより低

コストでできる契約を結ぶことを容易にした。1990 年代前半には、改革の波がラテンアメ

リカの多くの諸国を襲った。ヘックマンとパジェ・セラ(Heckman and Pagés-Serra 2000)は、

この展開の秀逸な要約を示し、その雇用への影響を探っている。2006 年には、オーストラ

リア連邦政府が労働選択法と呼ばれる広範囲な改革を実施した (Freyens and Oslington

2007)。この立法は、従業員 100 名未満の企業で雇用される労働者の随意解雇を規定すると

ともに、すべての企業において「運営上の理由」による雇用終了を認め、小規模企業にお

いて解雇条件を労働組合が交渉の議題とすることを禁止した。最近政権に復帰した労働党

政府は労働選択法が廃止した保護の多くを復活させると公約しているが、この立法は間違

いなくアメリカ法よりも極端な随意雇用制度を創設したと言えよう。

当然ながら、改革運動がすべて成功したわけではなく、雇用保護規制を強化した国すら

ある。2006 年には、フランス政府は若者の初職の雇用終了のルールを緩和しようとしたが

失敗に終わった。これら改革の目的は長期間高失業を被ってきた集団の雇用展望を改善し

ようとするものであったが、法案はストライキと社会不安を引き起こし、国際的にも大き

な注目を浴びてしまった。マリネスク(Marinescu 2007)は試用期間を 2 年から 1 年に短縮

し、同国の解雇保護の適用範囲を拡大したイギリスの法改正を研究している。

対照的に、ドイツや他の欧州諸国では試用期間の緩和が政治家によって議論された。さ

らに、世界銀行は一貫して雇用終了ルールの緩和を唱道してきた。その事業活動プロジェ

クトは様々な諸国の規制の厳格さを測定し、柔軟性が高いほど経済的成果は改善されると

論じた(World Bank 2007)。いくつか逆の流れもあるが、近年の歴史の示唆するところ、ア

メリカ以外の諸国における改革は既存の雇用保護の部分的緩和に関わるものが多い。

数多くのアメリカの法学者は随意雇用ルールをもっと一般的な雇用終了に正当事由を要

するものに置き換える立法を唱道してきた。全面改革への精力的な呼びかけにもかかわら

ず、アメリカの雇用規制は解雇に対する保護の強化に向けて、あまりにもゆっくりとしか

進んできていない。連邦議会は 1964 年、1967 年、1990 年、1991 年と、主な差別禁止法制

を制定してきた。連邦法に先立って制定された州法もあるが、多くの州法は過去数十年間

に改正や拡大がされてきた。州コモンローによる雇用保護も、同様にゆっくりとした堆積

作用を通じて発展してきた。ほぼ 1970 年代半ばに始まり、上述した公序、黙示の合意、審

議誠実を考慮する州裁判所の数は増えてきた。これら伝統的な随意雇用法理への例外が全

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国に広まるにつれ、多くの使用者は従業員を雇用終了する彼らの裁量権に新たな制約がか

かってきたことに気づく。ダウ-シュミットとハーレイ(Dau-schmidt and Haley 2007)は、こ

れら法的展開の秀逸な要約を提供しており、モリス(Morriss 1994,1995)はそれぞれの法的革

新がいつから採用されてきたのかを研究している。

3 理論的曖昧さ

正統的な経済理論は、最低賃金や支払給与税のような法的に課された雇用保護は効率的

な労働市場均衡を歪曲し、それゆえ社会的厚生を縮減すると警告する。それゆえ、持続的

な市場の失敗を明らかにすることによってのみ、我々はこの種の政府介入を正当化するこ

とができる。法と経済学の学者はこの課題に挑戦し、労働市場が社会的に最適な程度の解

雇からの保護を提供しえないという理由を片っ端から提示した。本節は、この理論的文献

の簡潔な概観を示す。驚くまでもないが、雇用保護がいかに観察可能な労働市場成果や社

会的厚生に影響するかについて、経済理論ははなはだ曖昧な予測しか与えてくれないこと

がわかるだろう。最低賃金に関するこの議論の分析については、本書第 5 章のサイモン・

ディーキンとフランク・ウィルキンソンの論文を参照のこと。

イ 予測される影響

雇用保護の経済学に関して断然最も引用される論文の中で、ラジアー(Lazear 1990)は賃

金決定の単純な静的モデルを提示している。彼は、政府が使用者に対し当初期間に雇われ

それに続くいずれかの期間に雇用終了された各労働者に金額 Q を支払うよう求めたときに

何が起こるかを検討した。効率的な雇用水準を維持するために、企業は規制のない均衡点

の額 W*よりも正確に解雇手当 Q の額だけ賃金を引き上げなければならないことをラジア

ーは示した。この調整は事後的な効率性を確保する。新たな均衡点においては、労働者は

賃金の一部としてであれ解雇手当としてであれ、確定的に金額 Q を受け取る。労働者と企

業の双方とも、就労するかあるいは労働者を雇うかを決定する際に限界的な金額 W*の支

払に直面する。ラジアーが言うように、当初の均衡のように、同じ労働者は金額 W*がその

留保賃金を超えると判断するだろうし、同じ企業は労働の限界収入生産物が W*を超える

と判断するだろう。

この規制された均衡のより難しい問題は、企業が当初期間に労働者を雇おうとすること

をいかに確保するかである。解雇手当の支払義務下にある企業は雇用の各期間において、

元の均衡賃金よりも金額 Q だけ超える総賃金支払額に直面する。ラジアーは賢明にもこの

問題を、雇用契約に署名するという特典に対する前払手数料を労働者が支払うことができ

ると示唆することで解決している。この手数料は各後続期間において雇われ続ける可能性

に金額 Q をかけた額の合計に等しくなる。手数料は後続期間の予想賃金額を相殺するの

で、企業は再び雇用契約を結ぼうとする。ラジアーはこの点で議論を要約して、「いかな

る解雇手当の支払制度も競争的な労働市場において生ずべき最適契約によって相殺されう

る」と述べている(Lazear 1990, p702)。

ラジアーの論文で最も多く引用されるのは、この後検討する実証研究結果よりもこの結

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論である。しかしながら、ラジアー自身が認めるように、このコース的な不変性という結

果はとても頑健とはいえない。もし労働者がその将来の賃金所得から前借りすることがで

きなければ、その仕事のための必要な前払手数料を払うこともできないだろう。さらに、

労働者と企業は第三者による控除や内部補助金は一切なしに、正確に同額の解雇手当をそ

れぞれ受け取り、支払わなければならない。たとえば、不完全に勤続期間に比例した失業

給付は、この必要な対応を破壊し、不効率な均衡を生み出す。ラジアーはまた、労働者は

企業が「破産を宣告することで」前払手数料を持ち逃げするのではないかと懸念すること

も示唆している。そして最後になにがしか曖昧に、「適用されうる」「他の戦略的考慮」

をほのめかしている(Lazear 1990, p704)。

こうした一般に認められている問題に加え、我々は当事者が当初期間に同意する雇用契

約の十分に正確な条件を特定するという、より基本的な失敗を追加しなければならない。

ラジアーの議論から明らかなように、雇用契約に署名することで労働者は解雇されたとき

に金額 Q の解雇手当を受け取る権利を得る。しかしながらこの事実以外には、当事者の義

務は不明である。使用者には随意に労働者を解雇する絶対的な裁量権があるのか?それと

も、契約により使用者は各解雇について、労働者の限界生産性が均衡賃金を下回るに至っ

たという証拠を挙げてその正当性を主張することを求められているのか?これらは雇用保

護の分析が役に立つのであれば直面せざるを得ない問題である。

もし随意解雇が許されるのであれば、この論文でかくもしばしば引用されてきたコース

的交渉は持続可能ではなくなる。企業は労働者から前払手数料を受け取り、その後直ちに

解雇手当 Q のコストで契約を終了することによりその収益を極大化することができる。後

続の期間において賃金を受け取ることにより当初の手数料を埋め合わせる機会が全くない

と予測するならば、労働者は手数料の支払を拒否し、想定される均衡は破綻する。しかし

また、ラジアーが労働者の前払手数料を次期の雇用継続の一連の固定された蓋然性を用い

て計算しているということも考慮しよう。我々はおそらくこのモデルの特徴から、雇用終

了の蓋然性が外生的に決定され、それゆえ使用者は雇用終了に裁量権がないと推測すべき

であろう。しかしながらそのようなルールは現実世界の雇用契約とは何ら有意味な関係が

ない。雇用継続の蓋然性が固定された体制など、欧州の解雇法制の一般的な保護にもアメ

リカの随意雇用ルールにも当てはまらない。これら両法制度とも使用者に一定のコスト Q

で労働者を雇用終了することを認め、それにより労働者が前払手数料を支払うことによる

均衡の可能性を除去しているのである。

ラジアーの論文がそのコース的不変性の結果ゆえに繰り返し引用されていることは二重

の意味で皮肉である。見てきたように、解雇手当の支払義務を「相殺」する特定の契約は、

定型的なコース的交渉への取引費用上の障壁を遥かに超える実際上及び法的な障壁に直面

する。実際、ラジアー自身が少なくともこれらの問題のいくつかを認識している。彼は不

変点を理論的な好奇心から扱っている。コースの社会的コストに関する有名な論文(Coase

1960)と同様、ラジアーは解雇手当が現実の経済に影響を与える「なにがしか不完全な」世

界の分析に焦点を合わせている。

雇用保護のより現実的な理論分析はまた、根本的に曖昧な予測を生み出してきた。まず

我々は分析を、解雇手当支払義務を超えて他の形態の労働規制も含まれるように拡張しな

ければならない。見てきたように、立法と判例が使用者の解雇の意思決定を大幅に制限し

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てきた。これら法的ルールの中には、雇用終了に正当事由が欠如していることに基づき責

任を課すものもあれば、特定の悪意ある解雇理由の証明に基づき責任を課すものもある。

また、常用労働者に与えられている権利を保護するために臨時契約や有期契約の利用を制

限する法制もある。これらの違いにもかかわらず、すべての法規制による制約を予想解雇

コストの上昇としてモデル化することは便利である。我々は以下で、法的な微妙さが法的

変数を測定する実証的努力に劇的に影響するが、解雇コストは理論分析においてかなりう

まく機能することを示す。

法的に義務づけられた雇用保護は雇用水準に対して二つの競合する影響を及ぼす。最も

明白なのは、この義務が解雇への課税として機能し、それゆえ雇用終了の割合を下げるこ

とである。しかしながらこの追加的な解雇コストを予想すると、使用者は採用も減らす。

それゆえ、雇用への正味の影響は不確定である。もしこれら解雇や採用への制約が企業の

総労働コストを増やすのであれば、我々は雇用水準の減少を予測すべきである(Hamermesh

1993)。しかしながら、この見たところ明らかな結論でさえ、労働需要の形状についての前

提に依存する(Bertola 1992; Bentolila and Bertola 1990)。例えば、もし労働需要が高いときに

労働の限界収益生産高のカーブが比較的平坦で、労働需要が低いときに比較的急傾斜であ

るならば、景気変動を通じた平均の雇用水準は解雇コストが上昇するにつれて下がるであ

ろう。この結果の背後にある直観は簡明直截である。好景気の間は、解雇コストを上昇さ

せると賃金と限界生産性を均等化するのに必要な多くの新規採用のある部分を抑止するこ

とになる。しかしながら不景気の間は、限界収益生産高のカーブが急傾斜であることは、

解雇コストが影響するのは労働市場均衡を回復するのに必要な比較的少数の解雇だけであ

ることを意味する。これらの前提のもとで、解雇コストを高めることは解雇を防ぐよりも

新規採用を抑止する方が大きく、それゆえ平均雇用水準は低下する。逆に、もし我々が労

働の限界収益生産高の形状について反対の前提に立てば、平均雇用水準は上昇する。

同様の理屈づけが示唆するのは、雇用終了への新たな法的制約のあり得べき影響は景気

変動の段階によって様々であるということである(Hamermesh 1993)。景気拡大期において

は、解雇コストは雇用終了を限定するよりも新規採用に影響するので、規制のない環境で

よりも雇用水準の増加が少ないことに注目すべきである。景気後退期においては、解雇へ

の制約はより強く働き、採用が抑止されることは比較的少ない。それゆえ、雇用水準は規

制のない状態よりも比較的高くなる。

賃金と効率性を分析しても、同様の複雑さと不確定性が示される。もし労働者が解雇保

護を企業が雇用保障を提供するコストよりも高く評価するならば、賃金率は下落し、社会

的厚生は向上し、労働者と企業は結果として生ずる余剰を分け合うであろう。しかしなが

ら、もし労働者が雇用保障の上昇に気づかないままであったり、それに何の価値も見いだ

さなかったりすれば、労働供給は変わらず、使用者のコストは上昇し、法的義務づけは労

働市場の効率性を損なうであろう。要するに、我々の唯一の疑問の余地のない理論的予測

とは、有効な雇用保護は労働異動を減少させるということだけである。

ロ 市場の失敗

雇用保護がいかに雇用水準や賃金に影響するかを予測するのは困難だが、多くの経済学

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者は規制的介入を正当化する市場の失敗の説得力のある証拠も探している。それでは、解

雇に関する最適な契約条件を労働者が求めたり企業が提供したりすることを妨げているの

は何か?この問題について、学者たちは規制されない労働市場が最適に至らない雇用保護

水準を生み出す理由を示唆することにはなはだ創造的であった。

法律注解者や改革志向者の中では、正当事由による解雇保護の唱道者がしばしば使用者

と労働者の交渉力の不均等を持ち出す。この理論によれば、使用者は特にその強大な交渉

力を濫用しがちである。彼らは労働者が賃金を引き下げて解雇保護のコストを喜んで支払

おうとしても労働者に解雇保護を与えることを拒む。しかしながら経済学的視角からする

と、この議論はそれだけでは支離滅裂と紙一重である。そこには、使用者はなぜ最適契約

と低い賃金の提示を組み合わせるのではなく、最適に至らない契約を提示することによっ

てその交渉力を行使することを選ぶのかの理由が全くない。それゆえ、他にも効率的な契

約締結を妨げるものがあるから、使用者は労働者の厚生を極大化する雇用保障条件を提供

しようとしないという説明が必要になる。

例えば、大部分の労働者が雇用終了に関する背景となる法的ルールや雇用契約の細かな

条項についてほとんど知らないと想定しよう。労働者が法的に無知であれば、雇用保護の

最適水準を求めて交渉することが難しいであろう。実際、キム(Kim 1997)によれば、多くの

労働者は重大な非行や事業所閉鎖は別としていかなる理由による解雇からも法によって保

護されていると誤って信じている。そのような誤った信念は労働者が雇用保障条項を求め

ることを妨げ、使用者が提示する雇用保護条項を過小評価したり無視したりするかもしれ

ない(Sunstein 2001)。少なくとも、この問題は情報強制的な正当事由のデフォルトルールの

必要性を示している。しかしながら、もし労働者の法的無知が持続するならば、立法者は

強制的雇用保護条項が効率性を高めるかどうかを決定しなければならない (Verkerke

1995,1998, 2003,2007)。

もう一つの情報に関連する議論は、企業がこれから採用する労働者を選抜する際に直面

する問題に焦点を当てる。応募者は通常、自分の生産的特徴について、使用者が採用を内

定する前に集められるよりも多くの情報を持っている。この情報の非対称性は、逆選択の

危険性を生み出す。契約上の雇用保障条項では、正当事由のある解雇と正当事由のない解

雇の区別は不完全にしかできない。それゆえ生産性の低い労働者の失職に対しては一定の

保険を提供することになる。これがあまりにも多くの怠け者を惹き付けてしまうことを恐

れて、企業は正当事由による解雇保護を一切提供しようとはしなくなるであろう。政府が

強制する雇用保護はそれゆえ、逆選択により企業が社会的に最適な雇用保障条項を提供で

きなくなっている場合に正当化されうる(Levine 1991)。

モラルハザードと逆選択に関連した問題が失職のリスクに対する保険の提供を妨げる。

ベルトラ(Bertola 1992)は雇用保護をリスク回避的な労働者にとって次善の保険の形でモデ

ル化した。彼の想定は企業がリスク中立的で労働者はリスク回避的という全くもっともら

しいものである。労働者にとって雇用終了の帰結が大変苛烈なものであるというのも明ら

かである。しかしながら、失職から保護する市場ベースの保険はほとんど手に入らない。

それゆえ、企業が雇用終了の際に労働者に支払いをする法的義務は部分的な保険を提供し、

労働市場の効率性を改善しうる。

雇用保護はまた局所的な公共財という性格を示すので、供給不足になり得る。おそらく

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労働者は雇用保障に何の関心もないと言いつつ、解雇に対する強い保護と引き替えに低賃

金を受入れる他の労働者の意思にただ乗りしようとするだろう。しかしながら、この公共

財の議論はもっともらしさの様々な度合いの想定を明らかにする。まず、使用者が個人ご

とに契約条件を提示するというのは実際的とはいえない。個人ごとに交渉された契約は間

違いなくコストがかかるが、使用者は容易に適切な補償賃金差額を伴った雇用保障条件の

標準メニューを提供できるだろう。次に、使用者は労働者の雇用保障に関する選好を発見

するインセンティブや機会がないに違いない。しかし企業は労働市場でこれから採用する

労働者をめぐって競争し、条件について実験し、成功した採用戦略を真似する十分な機会

があるだろう。最後に、雇用保障は消費において非競合的でなければならない。しかしな

がらこの想定に反して、雇用終了に対する法的保護は採用された各労働者に追加的な予想

コストを課す。

最後にシュワブ(Schwab 1993)は全く異なった公共財の議論を提示する。彼の示唆によれ

ば、法的執行は労働者と企業の間のキャリア雇用に関する暗黙の合意の価値を増大させる。

効率賃金と人的資本モデルの両方に立脚してシュワブは、労働者がその限界生産性を超え

る賃金を受け取っている場合、そのキャリアの後期において、使用者がとりわけ労働者へ

の暗黙の約束を裏切るよう誘惑されると論じる。「ライフサイクル正当事由の初期設定」

の法的執行はそれゆえ、キャリア後期の労働者を機会主義的な雇用終了から保護しうる。

シュワブはまた、相当額の移転費を負担するか企業の求人を受入れる他の機会をあきらめ

ざるをえない新規採用労働者の保護も提案している。新規採用やキャリア後期の労働者の

正当事由による保護は雇用関係を高めるが、そのようなルールは比較的複雑で特定が困難

である。それゆえ、シュワブは裁判所がこの法理を公共財の形式で提供すべきだと論じる。

しかしながら、ヴァーカーク(Verkerke 1995)はライフサイクル正当事由が機能する基準で

あるかどうかに疑問を呈し、主導的判例が指定された保護のパターンをたどるというシュ

ワブの主張に異議を唱えている。

4 実証的研究

我々は雇用保護が労働市場にいかに影響するかについて理論的検討が不確定な予測しか

生み出さないことを見てきた。同様に、多くの潜在的な市場の失敗が想定上規制的介入を

正当化しうる。しかしながら、法的に義務づけられた雇用保護が効率性を改善するか悪化

させるかを知ることは難しい。それゆえ、我々が最大限希望することは、これらの効果を

実証的に調査し、観察可能な経済行動のパターンが様々な市場の失敗のもっともらしさに

光を当てるかどうかを探ることにある。

イ 国際比較の視角

雇用保護の変異が重要な経済的結果とどのように相関しているかを理解しようとする最

初の努力は各国間比較に基づいていた。

(i) 初期の業績

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ラジアー(Lazear 1990)はこの研究分野を、雇用保護がいかに労働市場に影響するかを明

らかにする国際比較を用いた初期の影響力の大きい努力によって開始した。この論文の実

証的部分は、解雇コストを解雇手当額と解雇予告期間の法的要件を測定する変数により探

っている。名目上はパネルデータセットであるが、多くの国は対象期間中に予告期間と解

雇手当額をたかだか 1 回は改正している。それゆえラジアーが言うように、彼の研究結果

は主として法的変数において通時的な変化よりも横断的な変異から生じている。彼によれ

ば、解雇手当の要件がより寛大であれば、失業率を高め、雇用水準と労働力参加率、実労

働時間を減少させる。ラジアーはまた、解雇コストの増大がいくつかの欧州諸国における

失業増加の相当部分を説明すると論じている。

原著公刊後の数年間、ラジアーの論文は多様な理論的、実証的考察を探求する各国比較

研究の膨大な文献を生み出した。これら分析の結果は明らかに入り交じっている。この作

業の詳細な技術的な探求に興味のある読者はアディソンとテイシェイラ (Addison and

Teixeira 2003)の優れた概観を参照のこと。初期の文献からの若干の重要点を以下に示す。

ラジアーの影響力の強い論文の実証分析はその後どちらかというとあまり精査の対象と

はならなかった。アディソンとグロッソ(Addison and Grosso 1996)は従属変数と共変数の両

方における多くの誤りを指摘し修正した。イタリアの実労働時間について週労働時間では

なく1日の労働時間を用いるとか、フランス、イタリア、ノルウェー、スペインの解雇手

当支払義務の水準を間違っていたといったことである。彼らの修正計算は、ラジアーの雇

用、労働力参加、失業率に関する結果を確認したが、解雇手当が実労働時間を減らすとい

う発見とは矛盾した。修正データを用いて、彼らは解雇予告期間が長いことが失業率の低

さ、労働時間の長さ、雇用水準や労働力参加率の高さと関連していることを見いだした。

予告期間に関するラジアーの発見とは正反対である。より際立ってアディソンとグロッソ

の修正計算が明らかにしたのは、解雇手当の変化は失業率の変化を最大に見積もってもラ

ジアーが示したのよりも遥かに少ない部分しか説明しないということである。より包括的

な異議としては、アディソン他(Addison et al. 2000)がラジアー論文で用いられた計量経済学

的手法を再計算した上で批判している。彼らは固定効果と確率効果を含む代替的定式化を

探求する。彼らは連続的相関誤差の存在を探知し、それを修正するいくつかの異なった手

法を用いる。彼らは影響力のある観察の役割を調査し、他の感度分析を遂行する。最後に、

彼らはモーメント推定量の一般的手法を用いてラジアーのモデルの動態的バージョンを分

析する。これらより洗練された推計手続では常に、解雇手当が増大するとマイナスの労働

市場結果を生み出すというラジアーの発見を確認できなかった。自己相関を修正した後は、

解雇手当の変数はほとんど統計的有意性がなく、この効果なしという発見は多くの代替的

定式化を通じて不変である。

しかしながら、これら本質的に否定的な結果から誰も法的に義務づけられた雇用保護が

効率性を高めると結論すべきではない。これらすべての研究が狭い雇用保護措置を用い、

他の重要な解雇への制約を無視している。例えば、解雇手当法制のないいくつかの国では

対象期間において効果的に個別解雇を禁止している。より完全な解雇政策の姿は確かに手

続的障壁、不公正解雇基準、臨時契約の制限、そして労働時間の全体的な柔軟性を説明す

るであろう(Grubb and Wells 1993)。さらに、解雇手当と予告期間の矛盾する結果が示唆す

るのは、こういった法的義務が微妙かつ間接的な経路を通じて行動に影響を与えうるとい

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うことである(Addison and Grosso 1996)。

より高度な計量経済学的手法とさまざまな情報源からのデータを用いた多くのその後の

研究は、統計的に有意な否定的影響を発見した。例えば、ヘックマンとパジェ-セラ

(Heckman and Pagés-Serra 2000)は、ラテンアメリカとカリブ海の 20 か国に加えて欧州の 16

カ国のデータを用いる。彼らは全勤続期間を通じて測定された予告期間と解雇手当の法的

要件を組み込んだいささか広い雇用保護指標を導き出す。1990 年代には 5 か国において規

制の負担をかなり軽減する改革が行われたにもかかわらず、ラテンアメリカの発展途上国

では依然として産業化諸国よりもおよそ 2 倍の予想解雇コストがかかる。ヘックマンとパ

ジェ-セラは雇用保障が就業率に大幅なマイナスの影響を与えることを見いだしている。

この効果は合併最小自乗法と確率効果推定においては統計的に有意であるが、固定効果仕

様においては有意でない。若年労働者への影響はとりわけ大きい。推計された弾性値が示

唆するところでは、雇用保障の義務づけはラテンアメリカの若年就業率を約 10 パーセント

ポイント減らしている。異なる諸国の研究からも、より劇的ではないが同様の効果が見い

だされている(Grubb and Wells 1993; Scarpetta 1996; Nickell 2007; Di Tella and MacCulloch

2005; Nicoletti and Scarpetta 2003)。

より厳格な雇用保障規制が雇用を抑制するという広く一貫した発見にもかかわらず、批

判者は既存の雇用保護指標が不充分であると懸念する。法的要件を解釈する際の誤りが極

めて広く見られるのだ。法施行の実効性は産業化諸国の間でも実に様々であり、発展途上

国ではさらにそうである。法律による解雇手当や予告期間の要件はより容易に観察可能で

はあるが、他の雇用規制と潜在的に複雑な仕方で相互作用する。これら他の法的制約を定

量化しようと努力すれば、研究者は扱いやすい指標を作り出すためにより恣意的な基準を

用いるよう必然的に求められる。『事業活動』という題名の、60 か国以上の何百という法

規定を定量化しようとする世界銀行の著しく野心的な努力は、この関心を適切に例証して

いる(Davis and Kruse 2007)。このプロジェクトの定量的尺度は現実世界の法慣行に多くの

複雑さと不確定性があることから必然的に抽象的なものとなる(World Bank 2007)。『事業

活動』のように、多くの国際比較プロジェクトがもっぱら雇用法制に焦点を当て、それゆ

えコモンロー諸国における規制を過小評価している。

代替的なアプローチは規制の柔軟性を測定するのに使用者の態度の調査に頼るが(Pierre

and Scarpetta 2004, 2006)、こういった価値観は本質的に不安定であるように見える(Addison

and Teixeira 2003)。大部分の企業家たちは法的制約について予測を形成する際地域的な視

角に頼る。これら予測と認識はそれゆえ国によってまた景気変動の段階によって体系的に

多様であるように見える。

実証的研究は少なくとも雇用保護が失業への流入と流出のフローを顕著に減らすという

点についてはコンセンサスを生み出した(Addison and Teixeira 2003)。このフローがいかに

して短期的及び長期的な雇用水準に影響するのかは議論の余地のある課題として残ってい

る。他の多くの業績の狭いおざなりのモデルを超えてとりわけ独創的な努力を見せて、ブ

ランシャールとウォルファーズ(Blanchard and Wolfers 2000)は欧州における高水準の失業が

雇用保護と不利な経済ショックの相互作用から生じたと論じる。彼らによれば、生産性へ

のショック、利子率、労働需要が各国間の失業水準の変異を説明するにはあまりにも斉一

的である。さらに、多くの国では近年の失業水準の上昇以前から制限的な労働規制が存在

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してきた。ブランシャールとウォルファーズは制限的な労働市場政策が経済ショックへの

ダイナミックな調整を妨げるのではないかと提起する。つまり、雇用制度によって企業が

労働者をもっと生産性の高い位置に再配置することが妨げられているような諸国におい

て、失業がもっとも増加するのである。雇用制度に関するデータは大変制約されているに

もかかわらず、彼らは相互作用効果が常に重要であることを示した。ブランシャールとウ

ォルファーズは自分たちの研究結果を予備的なものと特徴付けているが、この論文は雇用

保護が失業率にいかに影響するのかをモデル化するよりニュアンスに富んだアプローチに

向けた歓迎すべき動きである。

(ii) より近年の検討

近年、実証的論文におけるもっとも特徴的な展開は一国における規制の変化に焦点を当

てた研究の増加と企業レベルデータを活用した業績の登場である。

例えば、ピエールとスカルペッタ(Pierre and Scarpetta 2004,2006)は伝統的な各国横断的比

較を行っているが、各国の総計数値ではなく企業のミクロデータを活用している。彼らに

よれば、雇用保護の厳格さは使用者にとっての規制の柔軟性のなさとよく相関している。

これら法的制限への対応として、企業は労働者をより集中的に訓練し、より頻繁に臨時雇

用契約に依存するように見える。ゴメス-サルバドール他(Gomez-Salvador et al. 2004)は同

様に、13 か国の企業レベルデータを活用して、雇用保護が仕事のフローを減らすことを見

いだしている。

企業レベルデータへの依存にもかかわらず、そのような各国横断的研究への懸念は残る。

無視された変数が各国法制度と経済結果や行動とを相関させる努力を交絡させているかも

しれない。雇用規制のあり得べき内生性もこれら変数間の真の関係を解きほぐす我々の能

力の邪魔をしうる。内生性の問題は残るが、多くの研究は一国における特定の法改正の影

響を探るためパネルデータを利用している。これら準自然実験はあり得べき交絡変数の範

囲を狭め、相対的に弱い識別仮定を要する差分の差分法の利用を可能にする。

クグラーとピカ(Kugler and Pica 2008)は、解雇コストが労働者と仕事のフローにどう影響

するかを研究するために、通常詳細な使用者-労働者データセットを用いる。1990 年、イ

タリアの厳格な雇用保護の適用範囲が改正され、従業員 15 人未満の事業にも拡大された。

彼らはこの解雇コストの増大により小規模事業所における雇用への流入及び流出フローが

13 から 15%減少したことを見いだした。彼らはまた、小規模企業への流入率の顕著な減少

を推計したが、流出率には影響がなかった。レオナルディとピカ(Leonardi and Pica 2007)の

関連する研究によると、同じ法改正が採用時賃金を約 10%引き下げ、年功賃金カーブの傾

斜を急にしている。

マリネスク(Marinescu 2007)は、労働者が使用者を不公正解雇で訴えるのに必要な勤続期

間を 2 年から 1 年に短縮したイギリスの 1999 年雇用安定法改正を検討した。それによれ

ば、試用期間終了直前に解雇危険率のピークがあり、その直後に谷がある。彼女によれば

また、法改正後新たに適用対象となった労働者やそれより勤続期間の短い労働者までもが

解雇の危険の減少を経験している。企業はこの改正への対応として、採用の努力と訓練を

強化したように見える。この場合、より厳格な雇用保護は雇用や失業期間に何らマイナス

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の影響を与えていない。

ハント(Hunt 2000)の初期の研究は、解雇コストを下げ、労働時間の柔軟性を高めたドイ

ツの改正に企業がどう対応したかを検討するため、産業レベルのデータを用いている。彼

女によれば、これらの改革は解雇コストを引き下げることを意図したものだが、雇用調整

を加速した形跡は見られない。効果なしというこの発見をもっともよく説明するのは、こ

の改正があまりにも限定的で使用者にとって意味のある違いにならなかったからというも

のである。しかしながら、ハントによれば柔軟な労働時間を認める改正は労働者数の調整

速度を若干遅らせ、調整の限界は代替であるというモデルを支持する結果となった。

ドラド他(Dolado et al. 2007)は、若年労働者や長期・高齢失業者、障害者、臨時から常用

化した労働者といった特定グループについて解雇コストを引き下げる新たなタイプの常用

労働者を創出した 1997 年のスペイン労働法改正に焦点を当てた。彼らは雇用保護が多種多

様な労働者集団に与える影響を捉える探索・就職モデルを開発し、そのモデルによりスペ

インの労働市場の特徴を計測した。計測モデルに基づいて行われたシミュレーションの示

唆するところでは、生産性の低い労働者と頻繁な生産性ショックにさらされがちな仕事に

対象を絞った改革は、失業の送料を減少させるのに最も有効な戦略である。

ベハゲル他(Behaghel et al. 2008)は、50 歳を超える労働者の解雇に特別の税を課するフラ

ンス法を検討した。1992 年改正でこの解雇税に新たな適用除外が設けられたとき、50 歳未

満労働者と比べた 50 歳を超える労働者の失業から雇用への移行率は劇的に上昇した。彼ら

の結論は、50 歳を超える労働者に対象を絞った雇用保護はより若い労働者への著しい代替

を引き起こし、それゆえ外見的には保護される労働者の利益を損なっている。解雇税を縮

減することがこれら高齢労働者の助けになる。

最後に、欧州域外における改革措置に関する興味深い研究もある。フレイエンスとオス

リントン(Freyens and Oslington 2007)はオーストラリアの中小企業の大規模調査を用いて、

これら企業が負う解雇コストの金銭価値を計算した。彼らはまた、従業員 100 人未満の企

業を適用除外した労働選択法による改革が創出した雇用の数も推計している。彼らが推計

したおよそ 6000 人という数字は、改革を推進する政府によって示されていた 77000 人とい

う数字を遙かに下回る。

ロ アメリカ州法の効果

世界中の個別各国における法改正に焦点を当てた増え続ける研究成果に加え、雇用保護

法の効果を明らかにするためにアメリカ各州間の法的相違を用いた実証研究がますます重

要な分野となってきている。我々が既に見たように、アメリカの労働規制は解雇に対して

顕著で全国的に斉一な制約を課している。しかしながら、随意雇用法理に対する公序や黙

示の合意、信義誠実による例外はすべて州法の産物である。各州の裁判所はこれらの訴え

を容認するか否か、いかに寛容にそれらを解釈するかを決定する。多くの学者はこの横断

的かつ時系列的な変異の豊かな源泉を活用して、これら司法による革新がいかに労働市場

に影響してきたかを推計している。

ダートウゾスとカロリィ(Dertouzos and Karoly 1992,1993)の初期の研究は大きな雇用への

影響を見いだしている。2 段階準計測変数手続を用いて、彼らは不法行為による例外を採

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用している州は雇用総数で 2.9%の減少を被っていると推計している。契約による例外を容

認することもさらに 1.8%の雇用減少をもたらす。これらの推計が示唆するのは、積極的な

司法は使用者の随意に雇用終了する権利を侵食することによって、州の雇用を 5%近くも

失わせているということである。これらの発見は世間の大きな注目を集めたが、それに続

く研究はより小さな影響しか、あるいは全く影響なしと確認している。例えばマイルズ

(Miles 2000)は差分の差分法を用いて、随意雇用の例外を採用することは雇用にも失業にも

統計的に有意な影響を与えないことを見いだした。しかしながら企業は、州が黙示の合意

法理を採用すれば派遣労働サービスの利用を 15%増やす。オーター(Autor 2003)はこの関係

を確認し、黙示の合意による例外を採用すると対象期間における雇用アウトソーシングの

急上昇の 20%もの部分を説明することができると述べる。

オーター他による最近の 2 論文(Autor et al. 2004, 2006)は、随意雇用の例外が総雇用に与

える影響を理解する上で新天地を切り開いた。これら論文の一つ(Autor et al. 2006)はマイル

ズの効果なしとは対照的に、しかしダートウゾスとカロリィよりは遥かに小さな効果を見

いだしている。オーターらはマイルズと同様、差分の差分法の枠組みを用いる。彼らの中

心的な発見は、黙示の合意法理を認める州では人口に対する就業率が 0.8%から 1.6%下が

るということである。このマイナスの効果は州の固定効果、時間・地域ダミー、膨大な共

変数間の相互作用を含む代替的定式化に対して頑健である。彼らの結果は、不法行為の訴

えが雇用に対し最も大きく影響するというダートウゾスとカロリィの発見とも極めて対照

的である。公序法理も信義誠実法理も雇用や仕事のフローに対し恒常的かつ統計的に有意

な影響を与えていない。

2 論文の古い方(Autor et al. 2004)は同論文と先行論文との間の著しい対照について洞察力

に富んだ議論を行っている。相違の大部分はダートウゾスとカロリィが法的変化のあり得

べき内生性を克服するために用いた欠陥のある計測変数推計技術から生じている。不運に

も、彼らが選んだ計測変数には随意雇用の例外を採用することとは関連性のない独立の雇

用効果を有するような変数があった。この従属変数との直接の相関関係は、法的な計測変

数の推定係数が上方に偏っていることを示唆している。さらに、多くの継続的に変異する

計測変数の利用は計測変数が従属変数における他のスムーズな趨勢との相関関係を捉えて

いるに過ぎない危険性を生み出す。例えば彼らのモデルに州の時間趨勢を加えれば、州法

の影響の推計値は劇的に減少する。注意深く配置することで、差分の差分法はこれらバイ

アスをなくすことができる。

マイルズの効果なしという発見とオーターらの観察した控えめだが頑健なマイナスの効

果との間の食い違いを説明するには、研究者が法政策変数をコード化するために用いる方

法にもっと微妙な検討を加える必要がある。理論上は、我々が関心を抱いているのは、司

法が伝統的な随意雇用ルールへの新たな各例外を「容認する」時に何が起こるかを測定す

ることである。我々はこの事態をどのように定義すべきか?伝統的なアプローチでは、研

究者は不当解雇法理の3つの範疇のそれぞれを受入れる司法の決定を明らかにすることが

必要である。しかしこの作業ですら曖昧である。アメリカの州裁判所制度は事実審裁判所、

中間上訴裁判所及び州最高裁判所からなる。連邦裁判所もその様々な司法権限に基づき雇

用事案について判決を下し、連邦地方裁判所が州における法の展開を先取りしたり、妨害

したりすることも少なくない。

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さらなる複雑さはコモンロー手続の間欠的で進化的な性質から生ずる。我々は州裁判所

が特定の責任理論に対する受容性を最初に示したときに「採択」と印付けることができる

だろう。あるいはもっと必要かもしれない。おそらく、我々は裁判所が明示的に新たな法

理を支持するまで待つべきであろう。あるいは我々は裁判所において両当事者に明確にそ

の法理を適用し、そして新たなルールの理由を完全に説明する判決によって採択と印付け

ることができよう。

以前の結果を再現しようという徹底的な努力をして、オーターら(Autor et al. 2004)は三つ

の異なった分類法-Dertouzos and Karoly(1992,1993), Morriss(1995), Walsh and Schwarz(1996)

-を用いて彼らのモデルを再推計した。ダートウゾスとカロリィ及びモリスはいくつかの

点で異なる法的分類に頼っているが、彼らの法的変数を用いてオーターらは、黙示の合意

による例外のみが雇用に顕著な影響を与えていることを見いだした。しかしながら、マイ

ルズはウォルシュとシュウォルツの分類を用い、オーターらのモデルをその分類で再推計

して、マイルズの統計的に有意な効果はないという発見を再確認している。ウォルシュと

シュウォルツの説明によると、彼らは少なくとも部分的には裁判所が新たな法理を採用す

る理論的根拠を最も良く明示しているという理由で判決を選択している。対照的に、オー

ターらは新たな理論への受容性の最初の印に焦点を当てて選択している。マイルズがウォ

ルシュとシュウォルツに頼っているために、彼は往々にして法的変化の日付をあまりにも

遅く、企業が既に新たな法理の予想コストを採用決定に盛り込んでしまった後に置くこと

になっている。このため、オーターらのアプローチは法的変化の過程をより正確にモデル

化している。

我々は法的分類の間の違いを注意深く観察し、新たな法理が使用者の行動に影響を及ぼ

しそうな時点をより正確に測定する法的変数を構成しようとするオーターらの努力を賞賛

すべきであるが、彼らのアメリカ法を測定する伝統的な手法の勤勉な実践すら、解雇をめ

ぐる州のコモンローの最重要点を捉えるには貧弱な成果しか上げていない。ウォルシュと

シュウォルツの法理の分類は 3 つの例外のそれぞれについて「狭義」と「広義」の各バー

ジョンを区別している。このアプローチはより微妙さに富んでいるが、なお司法管轄の間

の本質的な違いを反映し切れていない。ダウ-シュミットとヘイリー(Dau-schmidt and

Haley 2007)は様々な随意雇用法理の例外の微妙さについて卓越した議論を展開している。

我々は最も有意味に、州裁判所の雇用契約の訴えに対する受容性をリベラル、中道、保守

の 3 つに分類することができる(Verkerke 1995)。一見したところいずれも雇用保護の特定

の理論を認めている司法権の間に劇的な違いが存在する。それゆえ、これら法的ルールの

実際上の重要性を測定する伝統的な法理の区分は大きな過ちを犯している。

随意雇用法理の例外の採用が労働市場の動態にいかに影響を及ぼすかを考察するのに総

計の雇用効果を超えて見ようとする業績もある。クグラーとセントポール(Kugler and Saint-

Paul 2004)は雇用保護が在職求職者と失業求職者に異なった影響を与えるかどうかを探求

した。彼らは随意雇用法理の例外を採用すると失業者の再就職の可能性が減少するが、在

職者の就職可能性は減少しないことを見いだした。シャンツェンバッハ(Schanzenbach 2003)

は随意雇用の例外がいかに勤続期間や勤続賃金カーブに影響するかに焦点を当てた。その

結果はそれまでの研究と広範に整合的で、公序法理も信義誠実法理も統計的に有意な効果

を与えていない。黙示の合意という例外は勤続期間を長くしている可能性があるが、勤続

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への報酬には影響を与えていない。最後に、オーターら(Autor et al. 2007)は事業所レベルの

データを用いて、雇用保護の様々な変異が生産性にいかに影響しているかを研究した。彼

らによれば、信義誠実の例外だけが仕事のフローの顕著な減少と相関しており、企業はこ

れら制約に対して資本投資と非生産的労働者の雇用増によって対応している。彼らはより

試論的に、労働生産性は上昇するが全要素生産性は下落すると示唆し、効率性へのマイナ

スの効果を示している。しかしながら、潜在的に交絡的な投資のショックもこれらの効果

を説明しうる。

若干違う観点から、マクロードとナカヴァチャラ(MacLeod and Nakavachara 2007)は法的

に執行可能な正当事由による雇用保護が非効率契約の問題を解決しうることを理論化し

た。彼らのモデルでは、企業は主として情報の非対称性のために労働者の関係特殊的投資

を過小評価する。裁判所は労働者の業績に関する追加的な情報を収集し、それゆえ不当解

雇訴訟は使用者のより注意深く選抜しようというインセンティブを改善することによって

転職率を引き下げる。雇用保護はまた、労働者がより効率的な関係特殊的投資をするよう

奨励する。そのモデルを実証的に適用することにより、マクロードとナカヴァチャラは労

働者がその仕事で受ける訓練水準に従って職業集団を区別した。彼らによれば、信義誠実

の例外と、それよりやや不斉一だが黙示の合意の例外には統計的に有意の効果が見られる。

人的投資が高い集団の推計はプラスで有意の雇用と賃金への効果が見られるが、人的投資

が低い分野ではマイナスで有意の効果が見られる。高技能労働者に観察されるプラスの雇

用と賃金への効果から、彼らはとりわけ信義誠実法理が経済的に有益な効果をもたらすと

結論している。

最後に、マラーニ(Malani 2008)は雇用保護規制の帰結を評価する根本的に異なった戦略

を示す。彼は、無過失自動車運転保険法、強制的健康保険、不法行為法改正ととともに、

随意雇用法理の例外が本体価値と使用料、賃金にどう影響するかを測定するヘドニック回

帰分析を推計した。この新規な技法を用いて、マラーニは信義誠実の例外については月額

128 ドルの、黙示の合意の例外については月額 57 ドルの極めて有意なマイナスの厚生効果

を見いだしている。これら一人当たりの効果が「信じられないくらい大きい」とその可能

性を疑いつつも、マラーニは彼の手法を弁護し、おそらくこれら随意雇用の例外には「単

に予想よりも大きな厚生への影響がある」と結論している。法的ルールを評価するヘドニ

ック分析を支持するか拒否するかは時期尚早であるが、一個の極端に狭くまれにしか持ち

出されない雇用法理が各市民の厚生を年間 1500 ドル以上も減らしていると信じるのは実

際困難であろう。興味深いことに、厚生削減効果の推計値は各例外法理を容認している州

の数と反比例している。おそらく、これらの州の何か別の重要な特徴が随意雇用の例外の

パターンと密接に相関しているのであろう。この問題は、以下で論じる法理の測定問題と

並んで、将来の研究ではもっと注意されるべきである。

ハ 雇用保護の政治経済学

もう一つ別の流れの研究業績は、雇用保護規制の採用をめぐる起源と政治的動態を説明

しようとする。クリューガー(Krueger 1991)はその影響力の大きな研究において、アメリカ

で不当解雇法制が提案され(モンタナ州では採択され)たのは、使用者の随意に雇用終了

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する権利が司法によって侵食されることへの対応であったと提起した。彼のモンタナ州の

事例研究は、この仮説のメカニズムを的確に描き出している。既に見たように、モンタナ

州最高裁判所の判決は不法解雇に対する訴えに対して異常なまでに干渉的な根拠を作り出

した。信義誠実といういささか曖昧な概念を侵害されたと訴えることによって、原告は広

範な不法行為損害賠償を受け取ることができたのである。経済団体は熱心にこれら判決を

攻め立て、巨額の損害賠償金といつ雇用終了が許されないものとなるのかについての法的

不確実性の両方に異議を唱えた。これに応じて、モンタナ州議会は不法解雇法を制定し、

よりゆるやかな雇用終了基準を規定するとともに、救済を狭く限定し、よりコストのかか

らない仲裁手続を利用するインセンティブを設けた。

クリューガーはこの因果関係の推測を支持する証拠として、提案された不当解雇立法

に関するパネルデータの分析とそれに対応する随意雇用法理の例外を認めた判決を分析す

る。彼は立法提案と信義誠実及び公序による例外並びに州で認められた例外の総数の間に

統計的に有意な関連性を見いだした。随意雇用の例外に関するデータの連続的な相関関係

は因果関係を実証的に探求するクリューガーの能力を厳しく制約する。しかしながら、交

互に現れる先行・遅行構造の探索と限定グレンジャー・シムズ因果関係テストによって、

随意雇用の例外を司法が認めることが不当解雇立法の提案に弾みを付けたという仮説がさ

らに支持された。

第 2 の研究ラインは、各国間の雇用保護の違いの起源を説明しようとする。セントポー

ル(Saint-Paul 1997, 2000)は異なる法的、社会的機構における補完的な硬直性に基づく理論

を提示した。すなわち、強力な労働組合と高度に規制された市場とは解雇に対する顕著な

法的制約により均衡を維持しようとする傾向にある。雇用保護はまた、インサイダーの力

を強化し、その現在の地位が大幅にこれら規制に依存しているような労働者の地盤を作り

出す。セントポールによれば、過去の強い雇用保護はそれゆえ今日の雇用保護を維持(あ

るいはむしろ強化)する強い政治的圧力を生み出す。結論としては、いったんある国が厳

格な雇用保護を立法したら、それを廃止するのは困難である。

セントポールの雇用保護法制に関する説明を補完する理論を提供する別の学者もい

る。市民的態度、宗教的信仰、信用取引市場における各国の違いを考察する研究もある

(Algan and Cahuc 2004, 2006)。ベローの最近の論文(Belot 2007)は、移住コストが高い(低い)

国では、労働者の雇用保護が高く(低く)つくようになると提起している。アメリカでは、

高い労働の流動性のために、平均的な労働者の有権者が低い雇用保護と相対的に高い転職

率を伴う法制度を選好するようになっている。というのも、高い転職率は流動的な労働者

がよりよい仕事を見つける機会を高めるからだ。逆に、欧州における労働の流動性への障

壁が労働者にこれら諸国で一般的なより厳格な雇用保護を重視させている。

ブリュグマン(Brügemann 2007)は、各国の労働規制の間でなぜ違いが持続するのかを説明

するさらに別のアプローチをとっている。彼は新たな雇用規制が提案され、審議され、立

法され、施行される多段階政治過程を考察した。彼のモデルでは、企業は新たな雇用保護

水準の立法後、その施行前なら雇用を調整する機会がある。労働者でもある有権者は、議

会がより厳格な法を採択したら使用者が労働力を削減しようとすると予期している。既に

厳格な解雇からの保護を有する国では、労働者はほとんど恐れを抱かず、新たな立法への

支持は衰えることがない。しかしながら、雇用保護が比較的弱い国では、労働者は施行前

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の時期にはより脆弱である。彼らは新たな保護立法をあまり支持しないであろう。ブリュ

グマンはこうして、雇用保護は廃棄するのも難しければ、作り出すのも難しいと結論づけ

る。

最後に、増え続ける研究は法的起源の分析を労働規制の違いを説明する任務にまで拡

大してきた。ボテロ他(Botero et al. 2004)は 85 か国の雇用、団体交渉、社会保障に関する法

を調査した。彼らは実定法規定に関する法的データを広範に収集し、それを用いて規制分

野ごとに検索指標を作り上げた。彼らの実証研究はこれら労働市場介入への 3 つの競合す

る説明仮説-効率性、政治権力、法的起源-を検証した。とりわけ労働法については、ボ

テロ他はコモンロー諸国の規制がフランス法起源の民法典諸国よりも非介入的であるとい

う理論の証拠を見いだしている。驚くまでもないが、左翼政権もより保護的であるが、法

的起源の影響の方が大きい。労働規制の結果は広範にこれら他の法分野で得られたものに

従っている。この相関関係は、各国がその法的起源により大幅に決定されている規制スタ

イルを採用しているという認識にさらなる証拠を与える。個別の法律は規制のスタイルに

適応する傾向にある。

5 課題

印象的で洗練された多くの研究が、解雇の法的規制が労働市場にいかに影響するかを探

索してきた。多くの賞賛すべき質の高さにもかかわらず、上記で議論されたものを超える

いくつかのしつこい問題が政策論議へのその有意義度を損なっている。例えば、多くの学

者は、雇用と賃金水準へのマイナスの影響を証明することは、労働者が得られるかもしれ

ないより多数の不安定な地位の仕事よりも、それでも残る仕事をより高く評価している可

能性の余地を残していると気づいている。しかしながら、この社会的厚生を計算するとい

うなにがしか手に負えない問題を無視しても、我々は雇用保護を理解するこれら疑いなく

創造的な努力に過度に依存することに対して慎重であるべきである。

イ いくつかの不都合な事実

雇用終了への法的保護の拡大にはむしろ明白な実証的な含意があると支持するために多

くの理論的議論が持ち出された。驚くべきことに、得られるデータがこれら含意を支持す

るか否かを決定するための努力はほとんどなされていない。前述のシャンツェンバッハ

(Schanzenbach 2003)や以下の議論が示唆するように若干の例外がある。

労働者は誤って既に不当解雇に対する法的保護あると信じているために雇用保障を交

渉しようとしないと論じるのは一般的となった(Kim 1997)。この議論の一つの含意は、より

よく情報を得た労働者は解雇に関してより保護的な契約条項を求め、得る可能性が高いと

いうことである。非組合企業における雇用契約条項の調査はそれとは逆の証拠を示してい

る(Verkerke 1995)。データの最も驚くべき特徴の一つは、契約条項は所与の使用者について

全労働者に斉一であったということである。それゆえ、中間管理職も用務員も、化学エン

ジニアも製造操作員も、みんな解雇については同一の条項の下で働いていた。さらに、調

査対象の法律事務所の中には一つも正当事由条項を含む契約を提供するものはなく、すな

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わち法に関して十分情報を有していると我々が合理的に期待するべきアソシエイト(雇用

される若手弁護士)でさえ正当事由による雇用保護の契約を有していない。

正当事由による雇用保護のためのなおもう一つの議論は、労働者の生産性についての情

報の非対称性に頼る(Levine 1991)。労働者は正当事由による雇用保護を求めることにより、

自分が相対的に生産性の低い「だめな」労働者であるというシグナルになってしまうので

はないかと恐れる可能性は十分ある。同様に、使用者は不釣り合いに多くの「だめな」求

職者を引き寄せてしまう恐れから、正当事由条項のある契約を提示するのをためらう。だ

めな労働者シグナリング理論は、個別に交渉された雇用保障条項は極めてまれであるとい

う含意がある。逆選択理論には企業が正当事由条項を提示するのは容易な篩い分け装置が

利用できるので逆選択を防ぐことができる場合だけだという含意がある。

おそらく驚くべきことに、判例法は個別交渉の説明でいっぱいである。多くの主導的判

例は正確にだめな労働者シグナリング理論が退ける雇用保障についての議論に関わってい

る。さらに、筆者自身の雇用契約慣行に関する調査も使用者の 15%が契約上の雇用保障を

提供していることを明らかにしている(Verkerke 1995)。逆選択理論によれば、だめな労働者

はこうした使用者に群れをなすはずであるが、彼らはその完全に自発的な雇用保障へのコ

ミットメントを撤回するつもりは全くないということである。労働組合の団体協約が斉一

的に雇用終了への正当事由を求めていることも、同様に不都合な事実である。入手しうる

証拠が示唆するところでは、生産性の低い労働者であふれかえるどころか、労働組合によ

る賃金上昇分は生産性の高い労働者を惹き付ける傾向にある。

同様の問題は正当事由による雇用保護をもたらす交渉力と規模の経済に基づく理論を悩

ませる(Verkerke 1995)。ここでのポイントは、この限定された実証的証拠が確定的にこれら

すべての議論を反証するということではない。むしろ、現存の契約慣行をもっと密接に観

察することの潜在的価値を示唆しているのである。これらデータのパターンにより我々は

随意雇用契約が遍在していることの共通の理論的説明のもっともらしさを評価することが

できる。

ロ 波及効果

既存の研究は波及効果にも十分な注意を払っていない。おそらくもっとも明白なのは、

全国的企業は人的資源政策や雇用文書を標準化する傾向にあることである。それゆえ、若

干の先導的な司法機構における法的革新が、全国的企業が国中の他の地域でどう振る舞う

かに直接影響を与える。ある司法機構における革新的な判決が企業に他の司法機構におけ

る同様の展開を予期させるという事実から、追加的な波及効果が生ずる。バードとスミス

(Bird and Smythe 2006)の近年の研究が示唆するところでは、こうした影響の流れは厳密な

地理的近接性ではなく連邦巡回裁判所に従っている。しかし、これら波及効果の正確な軌

跡がどうであれ、新たな判決それぞれを空白の石版に到着したもののように扱う推計戦略

は、それに先立つ法的変化から生ずる雇用効果を過小評価している。

顧客向けニューズレターを生み出しそうな展開に関するオーターら(Autor et al. 2004,

2006)の焦点は有用である。しかし、法的リスクに関する労働法律事務所の助言は通常、顧

客向けニューズレターのテーマとなる地方の判決だけではなく、もっと広範な影響を対象

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とするだろう。さらに、業界会議の経験、職業教育セミナーからの情報、法的状況の展開

に関する噂などが、採用と解雇に関する人的資源管理者や経営者の意思決定に疑いなく影

響する。法理を正確に分類する問題については、これら波及効果は揃って、雇用保護変数

に対する係数を下げるバイアスがある。

理論的に最適なアプローチは、特定の司法機構の裁判所が機会があれば所与の法理を奉

ずる蓋然性を測定しようとする。影響力のある司法機構における判決は、似たような傾向

を持つ司法機構に起こるであろうことを強力に予言する。それゆえ、主導的判例は企業に

蓋然性の予測を更新させ、労働者の採用と雇用維持を調整させ、適切な法的警戒措置を執

らせることになる。司法機構における採択の日付を測定するよりも、我々はむしろ司法機

構間の影響の流れと使用者に蓋然性を更新させる情報を測定すべきである。

最後に、ある法理を採択したものとしていないものへの伝統的な司法機構の分類は法的

な波及効果の誤った測定をさらに悪化させる。このアプローチは、ある法理を拒否した司

法機構とまだその問題に言及していない司法機構を同種のものと取り扱う。しかしながら、

明確に原状回復理論を拒否した司法機構と、単にそれを採択すべきか否かの問題に判断を

下していないだけの司法機構との間には膨大な違いがある。それゆえ、法理の分類法への

比較的単純な修正は、各司法機構における各法理について、採択、判断せず、拒否の 3 つ

を区別すべきであろう。

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