対外直接投資と企業の生産性 - jica...対外直接投資と企業の生産性...

41
対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業 の生産性の差異の観点からの分析を試みた。立地選択の分析の際には直接投資を実施する 企業の生産性は全て同質であるという仮定がなされるものの、これはあまり現実的ではな く実際には個々の企業において生産性の差異は存在し、それが海外進出の形態に影響を及 ぼす可能性がある。先行研究においては、水平的直接投資を実施する企業は輸出企業、国 内企業と比べて生産性が最も高いことが実証分析されているが、垂直的直接投資と比較、 検討したケースはあまり例がない。そこで本論文では、「生産性が高い企業ほど、垂直的直 接投資と比べて相対的に水平的直接投資が実行される確率が高まる」という仮説を、日本 の製造業の全 16 産業に属する企業データを用いて TFP(全要素生産性)を計測し、クロ スセクションによるプロビット回帰を行った。その結果、最も生産性の高い企業が水平的 直接投資を実施し、ついで垂直的直接投資、国内企業という順番となることが明らかにな った。さらに、水平的直接投資と垂直的直接投資の両者の比較に注目した場合、水平的直 接投資は企業の生産性が高いほど実行される確率が高くなるが、その反面、垂直的直接投 資は企業の規模が大きいほど実行される確率が高まるものの、生産性との相関は低いこと が実証された。また、産業ごとの特性を見ると、技術集約的産業の方が海外進出の際に生 産性がより大きな決定要因となることが明らかになった。以上のことから、対外直接投資 を分析する際には、直接投資受入国と自国の生産要素の差異や制度の相違に加えて、水平 と垂直の違いを考慮して対外直接投資を実施する企業の生産性に関しても着目する必要が あると言える。

Upload: others

Post on 03-Apr-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

対外直接投資と企業の生産性

~日本製造業の実証分析~

要約

本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

の生産性の差異の観点からの分析を試みた。立地選択の分析の際には直接投資を実施する

企業の生産性は全て同質であるという仮定がなされるものの、これはあまり現実的ではな

く実際には個々の企業において生産性の差異は存在し、それが海外進出の形態に影響を及

ぼす可能性がある。先行研究においては、水平的直接投資を実施する企業は輸出企業、国

内企業と比べて生産性が最も高いことが実証分析されているが、垂直的直接投資と比較、

検討したケースはあまり例がない。そこで本論文では、「生産性が高い企業ほど、垂直的直

接投資と比べて相対的に水平的直接投資が実行される確率が高まる」という仮説を、日本

の製造業の全 16 産業に属する企業データを用いて TFP(全要素生産性)を計測し、クロスセクションによるプロビット回帰を行った。その結果、最も生産性の高い企業が水平的

直接投資を実施し、ついで垂直的直接投資、国内企業という順番となることが明らかにな

った。さらに、水平的直接投資と垂直的直接投資の両者の比較に注目した場合、水平的直

接投資は企業の生産性が高いほど実行される確率が高くなるが、その反面、垂直的直接投

資は企業の規模が大きいほど実行される確率が高まるものの、生産性との相関は低いこと

が実証された。また、産業ごとの特性を見ると、技術集約的産業の方が海外進出の際に生

産性がより大きな決定要因となることが明らかになった。以上のことから、対外直接投資

を分析する際には、直接投資受入国と自国の生産要素の差異や制度の相違に加えて、水平

と垂直の違いを考慮して対外直接投資を実施する企業の生産性に関しても着目する必要が

あると言える。

Page 2: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

1

目次

1 研究動機 2 2 先行研究 6

2.1 先行研究① Brainard(1997) 2.2 先行研究② Helpman, Melitz and Yeaple(2004) 2.3 先行研究③ Girma, Kneller, and Pisu(2005) 2.4 先行研究④ Head and Ries(2003) 2.5 まとめ

3 分析の枠組み 11 3.1 本論文で検証する仮説 3.2 使用する変数とデータ 3.3 推定式

4 実証分析 22 4.1 標本の特性値 4.2 計量分析① 4.3 計量分析②

5 結論 29 6 図表 32 7 参考資料 39

Page 3: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

2

1.研究動機

直接投資の実証分析に関して、これまで多くの研究がなされてきた分野は企業の立地選

択の観点からその決定要因を探ることである。つまり、ある国や地域の生産要素の差異や

産業集積の差異、距離や言語、為替レート、法制度などが直接投資の決定要因として挙げ

られ、その国や地域によって影響の強い決定要因はどれであるのかを実証分析するという

ことである。例えばWakasugi(2006)では、日本企業の中国への立地選択に関する実証分析

を行っている。この論文では、日本の 6 産業の企業データを用いて、中国の各地域に日本

企業が立地選択する際の決定要因として強い影響を及ぼしているものを実証分析している。

その決定要因は、大きく分けて賃金の差異、高学歴の人的資本、経済特区、インフラ、産

業集積の 5 つを用いており、日本企業データを使ったロジットモデルで分析している。こ

のように、企業の立地選択の観点から直接投資を分析する場合には直接投資受入側の国や

地域の差異を考え、直接投資が行われる要因について分析がなされている。

これとは異なる観点からの直接投資の分析として注目を集めているのが企業の生産性の

差異の観点からの分析である。上記に挙げた立地選択の観点からの分析では、国や地域の

差異を決定要因として考えるため、直接投資を行う企業に関しては、どの企業も同質の生

産性を持っており、そのため同産業内の企業ならば、ある国や地域に対して全て共通の決

定要因で直接投資を行うと仮定している。しかし、現実を考えれば、例え同じ産業内の企

業であり同じ状況に直面したとしても、ある国や地域に直接投資による海外進出を行って

いるかどうかは異なってくる。例えば、同産業内の A 企業がその国に直接投資を行ってい

たとしても、B企業は直接投資を行っておらず、ただ単にその国に輸出という形態で海外進

Page 4: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

3

出を行っている可能性もあり、さらに C 企業は輸出も直接投資も行っていない場合も考え

られる。仮に、その受入国が外資流入政策を実施したとしても、同産業内の企業全てが一

斉に同じようにその国に直接投資を行うということは、現実的にはあてはまりにくい。同

地域に同産業内の企業が海外進出を行うかどうかの意志決定が異なってくるその要因とし

て考えられるのが企業の生産性の差異である。つまり、同産業内の企業は各々生産性が異

なってくるため、直接投資受入側の要因が変化したとしても、直接投資を行うかどうかは

直接投資を実際に実施する企業自身の要因も関係があるということである。直接投資を行

う際には当然ながら莫大な固定費用が発生する上に、工場の維持費や場合によっては輸送

費用などの変動費用も発生する。直接投資実施に伴う費用を回収できる見込みがなければ

企業は当然ながら直接投資を実施できない。つまり、生産性の高い企業であれば直接投資

を実施することが可能であり、そうではない企業は輸出を行うか国内にとどまることにな

る。このように、企業側の観点からも、海外進出形態を考えることは重要なわけである。

本論文では、この生産性の差異の観点から直接投資に関する分析の中で、あまり先行研

究でも行われていない水平的直接投資・垂直的直接投資とそれぞれのケースの企業の生産

性の差異に関する実証分析に着目した。水平的直接投資と垂直的直接投資の違いとしては、

直接投資を行うその意図の違いにある。水平的直接投資とは主に、市場規模が大きく、ま

た自国と距離があり輸送費用が多大に発生してしまう国に直接投資を行い、現地で調達、

生産、販売を行う方法である。この水平的直接投資は部品や製品の貿易を回避することで

関税や運送費、為替レートなどの輸送費用を避け、固定費用を下げることを主な目的とし

て行うものである。後者の垂直的直接投資とは、自国等で販売する製品の生産工程を分断

Page 5: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

4

化し、自国から距離が近く、かつ市場規模が小さいため物価や賃金が低く生産費用を抑え

ることが可能な国に直接投資を行い、自国から部品等を輸送して現地で組立て、最終財を

再び自国あるいは他国に輸送して販売するという方法である。この垂直的直接投資が水平

的直接投資と異なる最大の点は、貿易が伴うことである。そのため、輸送費用が発生して

しまうものの、労働や土地、工場、その他直接投資を行う際に発生する様々な費用を安価

にできる国で行うため、総費用は水平的直接投資よりも抑えることができる。つまり、水

平的直接投資は貿易と代替関係になるが、垂直的直接投資は貿易と補完関係になる点が、

両者の最大の違いである。

過去の先行研究では、企業の海外進出形態は生産性が高ければ輸出を行うようになり、

さらに高くなれば水平的直接投資を行うようになることが実証分析されている。しかし、

水平的直接投資だけでなく、垂直的直接投資を考慮すると必ずしも最も生産性の高い企業

のみが直接投資を行うとは限らないと言われている。なぜなら、水平的直接投資は市場規

模の大きい国に対して直接投資を行っているわけであるから当然、土地購入費、工場の建

設費と維持費、労働者の賃金、現地調達費、あるいは M&A の場合でも多額の費用が発生

する。つまり、投資時に莫大な固定費用が発生するわけであるから、それだけの費用を回

収する見込みのある企業でなければ投資に踏み切れない。つまり、生産性の高い企業なら

ば莫大な固定費用を回収する見込みがあるので水平的直接投資を実施することが可能とな

る。しかし、垂直的直接投資はそもそも水平的直接投資とは違い、輸送費用のような変動

費用は発生するものの固定費用を抑えて直接投資に伴う総費用を低くすることが目的であ

る。そのために市場規模が小さく生産費用が安価になる国を選択して直接投資を行い、生

Page 6: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

5

産工程を分断化してより効率的な生産ネットワークを構築するわけであるから、当然、水

平的直接投資と比較して相対的に生産性の低い企業でも垂直的直接投資は行われる可能性

がある。そうであるならば、水平的直接投資を行っている企業と垂直的直接投資を行って

いる企業に分けた場合、前者の企業の方が、生産性が高いことが予想される。この水平的、

垂直的直接投資と企業の生産性に関してはまだあまり明確に実証分析がなされた分野では

ないため、考察するに意義のある分野である。よって、この水平的直接投資と垂直的直接

投資、それと企業の生産性に関する分析に着目した。

次項からの流れを説明すると、第 2 項では企業の直接投資と生産性に関する先行研究を

紹介する。次に、第 3 項では本論文で行う実証分析の枠組みに関して説明する。次の第 4

項では実証分析結果について考察し、第 5項で本論文の結論について述べる。

Page 7: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

6

2.先行研究

この項では企業の生産性と直接投資に関する先行研究を紹介する。

この分野での先行研究としてまず挙げられるのが Helpman, Melitz and Yeaple(2004)で

ある。この論文で紹介されたモデルは他の論文で”HMYモデル”と呼ばれており、この分野

で取り上げられることの多い論文である。このモデルによって、最も生産性の高い企業が

水平的直接投資を行い、次いで輸出を行い、最も生産性の低い企業が国内に留まるという

結論が導き出された。この Helpman, Melitz and Yeaple(2004)の元となっている論文が

Brainard(1997)である。以下、この 2 つの先行研究とその他の注目すべき先行研究に関し

て言及していく。

2.1 先行研究① Brainard(1997)

この論文では、”the proximity-concentration trade-off”と呼ばれる、企業が水平的直接投

資か輸出かを決定する際に直面するトレードオフが導かれた。企業が海外進出を行う際に

輸出という形態を選択すれば、自国に生産体制を集中させることができるため企業全体で

の規模の経済の効果を大きくすることが出来る。しかし、現地へ製品を輸送することにな

るので現地市場とは近接ではなくなり輸送費が発生する。水平的直接投資はその逆であり、

現地市場へ直接アクセスすることが可能であるものの、自国に生産を集中させることはで

きなくなるので企業全体での規模の経済の効果は小さくなる。つまり、海外進出の際には、

規模の経済の効果をとるか、現地市場へのアクセスをとるか、この選択を迫られるという

トレードオフに企業は直面することになる。Brainard(1997)では、米国の企業の 27国への

Page 8: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

7

輸出額と子会社の売上高データを用いて実証分析を行い、総売上高に占める子会社の売上

高のシェアは貿易障壁、輸送費用、子会社の規模の経済性と正の相関があり、投資障壁、

企業全体の規模の経済性と負の相関があることを分析した。これはそれまでに言われてい

た”the factor-proportions hypothesis1”と呼ばれる伝統的貿易理論とは異なる発見であった。

2.2 先行研究② Helpman, Melitz and Yeaple(2004)

Helpman, Melitz and Yeaple(2004)では、Brainard(1997)のトレードオフを前提にして

直接投資と企業の生産性について分析するために、同産業内の企業の各々の生産性は同質

ではなく差異があるとして分析をした。水平的な直接投資は輸送費などの変動費用を低く

するが固定費用は莫大であり、輸出は”iceberg transport cost2”のような変動費用が発生す

るものの固定費用は低くなるという点に着目し、固定費用が莫大にかかる水平的直接投資

は生産性の高い企業が行えるというモデルを実証分析した。米国の 52産業の製造業に分類

される企業の 38カ国への輸出額と子会社の売上高データを用いて、貿易障壁、規模の経済

性、企業の生産性を説明変数に、輸出額の直接投資額に対する割合を被説明変数に用いて

実証分析を行った。その結果、貿易障壁と同水準で企業の生産性が影響を及ぼしているこ

とがわかり、企業の生産性が直接投資か輸出かという海外進出の形態に大きな影響を及ぼ

していることが分析された。最も生産性の高い企業が水平的直接投資を行い、次いで生産

性の高い企業が輸出、最後に最も生産性の低い企業が国内企業のままであるというのが

1 生産要素の供給量の違いによって、生産要素価格に差異が生じ、それが要因となって企業は垂直的な生産形態を取るというモデルのこと。 2 財の輸送に伴い、財の一部が溶けて損失が起こると仮定する氷解型輸送費用のこと。

Page 9: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

8

HMYモデルの最も重要な結論である。これを表したものが図表①である。ある一定水準の

生産性を超えれば輸出企業に、さらに高度な水準の生産性を超えれば直接投資を行う多国

籍企業となることがこの論文で示されたのである。この論文を元に、直接投資と企業の生

産性に関する分野の分析がさらになされていくこととなる。

2.3 先行研究③ Girma, Kneller, and Pisu(2005)

Girma, Kneller, and Pisu(2005)では英国の企業データを用いて、この HMYモデルが当

てはまるのかどうかを、企業の生産性として TFPとその成長率を計測して変数とし、コル

モゴロフ・スミルノフ検定3を行って分析した。その結果、HMY モデルのとおり、多国籍

業が最も生産性が高く、次いで輸出企業、最も生産性の低い企業は国内企業であることが

分析された。ただし、HMYモデルに当てはまらないケースもあることを指摘し、HMYモ

デルの問題点を 3つ指摘している。第一に、HMYモデルではその期間中の海外進出形態の

選択基準となる生産性の水準をずっと固定して考えているが、もし企業の生産性に対して

の偶発的ショックが起これば参入もしくは退出の選択水準である固定費用の値も変わって

くるはずである。第二に、企業は自身の生産性の水準を明確に判断する術がないため、ど

の基準から直接投資を行うことが可能になるかどうか、輸出が可能になるかどうかを判断

することが難しくなる。第三に、直接投資あるいは輸出を行う際の固定費用は、それを実

施する国によっても水準が変わってくる。このような結果から、ある一定の生産性水準を

3 コルモゴロフ・スミルノフ検定については、Delgado, Farinas and Ruano(2002)、Girma, Gorg and Strobl(2004)、Girma, Kneller and Pisu(2005)を参照。

Page 10: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

9

越えた企業が輸出企業となるといった明確な基準点はなく、同じ生産性の企業であっても

違う形の海外進出形態を選択する不確実領域があることを指摘している。図表②では、そ

のことが表されている。

このように、基本的に HMYモデルで分析されたように生産性が高い順に、対外直接投資

を行う多国籍業、輸出企業、そして国内企業となるが、同じ生産性であっても必ず同じ海

外進出形態を選択するわけではないことを実証分析した。

2.4 先行研究④ Head and Ries(2003)

Head and Ries(2003)では HMYモデルの問題点として、水平的直接投資のケースのみし

か考慮していないことを挙げている。垂直的直接投資を行うケースを考慮すれば必ずしも

最も生産性の高い企業のみしか直接投資を行わないとは限らなくなることを指摘した。こ

の論文では 1070社の日本企業データを用いて、自国と外国市場の賃金が等しく、また自国

への供給は自国の生産施設から供給することを仮定した場合には、HMYモデルが当てはま

ることを実証分析した。つまり企業は水平的直接投資しか行わず、また自国、外国市場へ

の供給は現地の生産施設から行われ貿易が全く発生しないケースを想定していることにな

る。その後に、この仮定を崩して賃金と市場規模が自国と外国で異なる場合、そして、自

国への供給を外国施設から供給されるケースを考慮した場合には、企業は垂直的直接投資

を行うこともあり、生産性が高い企業だけが直接投資を行うわけではないことを指摘した。

Page 11: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

10

2.5 まとめ

以上までで、対外直接投資と企業の生産性に関する先行研究を、Helpman, Melitz and

Yeaple(2004)を中心に紹介してきた。これらの先行研究では、HMYモデルで提示された「最

も生産性が高い企業は水平的直接投資を行い、次いで輸出、最も生産性が低い企業は国内

に留まる」ということを実証分析も踏まえながら基本的にはこれを支持している。しかし

ながら、この HMYモデルの問題点もいくつか掲げられており、Head and Ries(2003)では

垂直的直接投資のケースを持ち出してモデルを提示し、垂直的直接投資ならば生産性の低

い企業でも実行する可能性があることに言及した。

この Head and Ries(2003)で提示された垂直および水平的直接投資の両者を考慮して企

業の生産性との実証分析を行った研究は筆者が知る限りでは、ほかにあまり例がない。Head

and Ries(2003)で企業の生産性のレンジを比較・検討し実証分析を試みているもの、この分

野での実証分析はまだまだ考察するに大いに意義のある分野であるといえる。

よって、本論文ではこの垂直および水平両者を考慮した場合に企業の生産性とどういう

関係があるのか、ということについてさらに分析していくこととする。これによって、対

外直接投資と企業の生産性に関する分析のささやかな試金石となれば幸いである。

Page 12: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

11

3.分析の枠組み

この項では、本論文で検証したい仮説を提示し、その仮説を分析するにあたっての方法

を具体的に述べていきたい。

3.1 本論文で検証する仮説

本論文では垂直的・水平的直接投資と企業の生産性に関する分析を行っていくことはそ

の理由を含めて第 1、2項でも述べた。ここではさらに詳しく本論文で検証する仮説に関し

ての設定を行いたい。

垂直的直接投資を考慮すれば HMYモデルで述べられた「最も生産性の高い企業のみが直

接投資を行う」という言い方は必ずしも適切ではなく、生産性が低かったとしても垂直的

直接投資を行う可能性がある。このことを言及したのは Head and Ries(2003)や Girma,

Kneller, and Pisu(2005)である。しかし、この分野に関しての実証分析はまだ開発途上であ

り、考察する意義があると考えられることは前項までに述べた。そこで本論文では「垂直

的直接投資を行う企業よりも水平的直接投資を行う企業のほうが、より生産性が高い」と

いう仮説を実証分析で示していくこととする。

この仮説を考えるときに重要なのがどの時点の生産性を比較し検討するかということで

ある。第一に、企業が初の海外進出の際に直接投資という形態を選択し、それを行う際に

垂直的直接投資を選択する企業と水平的直接投資を選択する企業両者の、進出前の生産性

を比較・分析し、水平的直接投資を選択する企業の方がより生産性が高いということを示

すことである。しかし、これを分析するにはデータの制約の問題がある。例えば、1960年

Page 13: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

12

に初めて海外に進出した企業の、その前年の生産性を分析するというのは財務諸表のデー

タを入手するのが困難であり、これでは比較することができない。よって、進出前の企業

の生産性を比較・分析することは現実的ではなく困難である。よって、分析することの可

能な期間はデータ入手が可能な近年の企業の財務諸表データであるため、これを用いて分

析することとする。これに関して以下で詳しく説明する。

分析にあたって、進出前の企業データを用いることが困難であるので進出後の企業デー

タ、すなわち入手可能な近年の財務諸表データを用いるが、これでは企業が初の海外進出

を行う際に水平的および垂直的直接投資のどちらの形態を選択するのか、生産性を比較し

て分析することは不可能である。もちろんデータ入手が可能な期間に海外進出を実行した

企業のデータを用いることは可能であるが、サンプル数が少なくあまり望ましくない。進

出後のデータを用いて企業の生産性を比較、分析する際に懸念される問題点は、進出後に

企業の生産性が改善されてしまうため、明確な差異が生じにくくなるのではないかという

ことである。例えば、垂直的直接投資を実行した企業が、それによってその後生産性が上

昇すれば水平的直接投資を実行している企業と同レベルの生産性水準に達する可能性があ

る。そうすると、企業の生産性に大きな差異が生じない可能性もある。しかし、垂直的直

接投資を実行した企業は、一度垂直的直接投資を実行したら永遠に水平的直接投資を行わ

ないということは現実的には考えられず、生産性を高めていけば水平的直接投資もまた実

行する可能性が考えられる。つまり、垂直的直接投資を実行した企業がその後に生産性を

高め、水平的直接投資を実行した企業の生産性に迫ったとしたら、その企業は水平的直接

投資を実施し、水平的直接投資実行企業へと形態を進化させるわけである。このように考

Page 14: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

13

えれば、たとえ、垂直的直接投資実行によるその後の生産性上昇があったとしても、その

企業が水平的直接投資を行わないならば、このグループとの間には生産性の差異がやはり

存在すると考えられる。垂直的直接投資実施企業が水平的直接投資を実施するにあたって、

様々な壁があり、その中でも生産性の水準を満たしているかどうかがこの場合には重要と

なるだろう。現実のデータから考えても垂直的あるいは水平的直接投資のみだけ実行し続

けるケースはあまり見られず、企業が自身の生産性を鑑みた上で水平および垂直的直接投

資のどちらを実行するかについて選択を行っていると考えられる。その中でも生産性が高

い企業ならば生産性の低い企業よりも、より水平的直接投資を実行する可能性が高まって

いくはずである。なぜなら、先行研究にもあるように生産性の低い企業は費用のかからな

い垂直的直接投資を行う可能性はあるけれども、水平的直接投資はその莫大な固定費用を

回収する見込みがないので実行することはない。しかし、生産性が高ければ水平的直接投

資も実行することが可能となり、垂直・水平どちらの直接投資も実行することが可能とな

るからである。結局、海外進出前であっても進出後のデータであっても、「生産性が高まれ

ば高まるほど水平的直接投資を実行する確率が高まる」という仮説の設定は現実妥当性が

あるといえる。もちろん、直接投資受入国側の要因変化によって基準となる生産性の水準

が変化する可能性はあるものの、基本的にはこのように考えて問題はない。

要約すると、進出前のデータを用いて「企業の生産性が高い企業が水平的直接投資を行

い、垂直的直接投資を行う企業は生産性が相対的に低い」ことを分析することはデータの

都合上、困難なため、進出後のデータを用いて、企業は初の海外進出後もさらに直接投資

を行うことを想定し、「企業の生産性が高まるほどさらなる水平的直接投資による海外進出

Page 15: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

14

を行う可能性が高まる」という仮説を検証することする。

さらに留意したいのは産業ごとによってその性質が異なるため、結果が多少異なってく

る事も予想される。つまり、相対的に見て生産性が重要である産業とそうではない産業が

あることが予想されるということである。この点にも注意しながら本論文で計量分析を行

っていく。図表⑥に本論文での実証分析のポイントを図示したので参照してほしい。

なお、本論文では輸出企業は分析の対象から除外している。その理由は次の 3.2項で述べ

る。

3.2 使用する変数とデータ

ここでは仮説を検証するために用いる変数とそのデータの出所について説明する。

はじめに、本論文では日本の全製造業を対象とした企業データを用いることとした。企

業データは東洋経済の「会社財務カルテ CD-ROM」を用いたので製造業は全 16産業4に分

類されており、そこに収録されている企業データを用いている。

次に、企業の水平的・垂直的直接投資に関するデータが必要である。残念ながら、水平

的および垂直的直接投資を区別しているデータは存在しない。そこで本論文では、水平的

直接投資と垂直的直接投資をそれぞれ「先進国への直接投資」と「途上国への直接投資」

と定義する。多少の解釈の歪みが生じる可能性があるが、水平的および垂直的直接投資の

性質を考えるとこのように定義してしまってもそれほど現実妥当性を失う事にはならない。

4 食料品、繊維製品、パルプ・紙、化学、医薬品、石油・石炭、ゴム製品、ガラス・土石製品、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、機械、電気機器、輸送用機器、精密機器、その他製品の 16産業に分類されている。

Page 16: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

15

よって、本論文における水平的・垂直的直接投資をこのように定義する。先進国と途上国

の定義についてであるが、OECD の開発援助委員会5に参加している諸国を先進国とした。

先進国の定義はいろいろなものがあるが比較した結果、この定義が一番妥当であると判断

し、本論文ではこれを用いることとする。

なお、本論文では水平的および垂直的直接投資を行っている企業の生産性を比較するこ

とに主眼をおいていること、また輸出企業であるかどうかが明確に判別できるデータが入

手困難であったため、輸出企業は分析の対象外とする。

海外進出の度合いを計る説明変数の候補であるが、まず各企業の途上国および先進国子

会社のそれぞれの資本金の合計を用いることが考えられる。これならば子会社あたりの投

資額の規模も考慮できるため望ましい。だが、東洋経済の『海外進出企業総覧』からこの

データを入手しようとしたが、残念ながらデータ欠如が多すぎる企業が存在するため使用

することが困難である。そこで次に企業の海外進出件数、すなわち子会社数を用いること

が考えられる。つまり、水平的直接投資を表す変数として企業の先進国への海外進出件数、

垂直的直接投資を企業の途上国への海外進出件数を変数として用いるということである。

しかし、これも説明変数としてはあまり望ましくない可能性が高い。なぜなら、各企業の

先進国と途上国への進出件数では、投資額の規模を考慮した変数になっていないので途上

国に進出する場合も先進国に進出する場合も子会社が 1 社存在すれば、同じ1社としてカ

5 参加国は、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フィンランド、スウェーデン、オーストリア、デンマーク、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、アイルランド、日

本、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、ノルウェーである。本論文

ではこれらの諸国を先進国として定義している。

Page 17: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

16

ウントするため差異はない。しかし、実際には先進国への進出と途上国への進出は費用が

大きく異なることが考えられる。これを考慮した変数でなければ有意な計量結果は得られ

ないであろう。先進国と途上国への進出には費用やリスクなどに明らかに差異が生じてい

るはずであるため、海外進出件数では現実妥当性に欠けてしまう。

そこで本論文では計量分析を行うことを可能にするためにプロビット回帰6を用いること

とした。すなわち被説明変数を先進国もしくは途上国に進出している企業を 1、そうではな

い企業を 0とする、あるいは先進国もしくは途上国に進出している企業を 1、そうではない

企業を 0 とする変数を用いて、分析していく。つまり、企業の生産性が高まれば先進国へ

の進出の確率が高まるかについての検証を行う。こうすることにより、計量による推定が

可能となる。この被説明変数を用いるために東洋経済の「海外進出企業一覧」の 2005年度

版7のデータを用いて、途上国および先進国への進出に関する被説明変数のデータを整備し

た。本論文ではこれを用いてクロスセクションによる分析を行った。推定式に関しては次

項で述べる。

次に、説明変数について考えていく。第一に、企業の生産性を表す変数であるが、多く

の先行研究では TFP を用いている。Aw, Chung and Roberts(2000a)、Aw, Chung and

Roberts(2000b)、Delgado, Farinas and Ruano(2002)、Girma, Kneller and Pisu(2005)、

Head and Ries(2003)、Helpman, Melitz and Yeaple(2004)らでは、生産性を表す変数を

6 重回帰分析において被説明変数をダミー変数に置き換えて各説明変数の影響を調べる場合に用いられる手法である。詳しくは浅野・中村(2000)などを参照。 7 本来ならばパネルデータを用いた分析を行う方が望ましいが、Excel形式で入手できた年度が 2005年度のもののみであったため、パネル形式での企業データを整備することが困難であった。そのため、クロス

セクションでの分析を行った。

Page 18: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

17

TFPとし、これを計測している。この中でも日本企業のデータを用いて TFPを計測してい

るのが Head and Ries(2003)、また、日本企業のデータを用いた TFPの計測について紹介

しているのが深尾・天野(2004)である。TFP を計測することにより生産性を計る手法は多

くの場合に使われているが、先行研究で用いられている日本企業の詳細データは学生では

入手不可能なことから、本論文では経済産業省が発行している「中小企業白書」に掲載さ

れていた TFP の計測を参考にし、TFP を計測した。「中小企業白書」によれば、各企業の

TFP成長率は以下のようになっている。

TFP成長率=付加価値額増減率-労働分配率×期末従業員数増減率

-資本分配率×有形固定資産額増減率

労働分配率=給与総額/付加価値額

資本分配率=1-労働分配率

このようにして TFP成長率を求めている。本論文ではクロスセクションでの分析を行うた

め、TFP成長率ではなく TFPレベルの計測を行った。すなわち、

αα −= 1KALY

という最も基本的なコブ・ダグラス型生産関数を想定し、この Aの部分を TFPレベルとす

る。したがって、この式を変形し、Aについて整理すると TFPレベルを算出する式となる。

Page 19: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

18

αα −= 1KLYA

これが TFPレベルである。本論文ではこの Aの部分である TFPレベルを計測した。各変

数には、それぞれ Y に各企業の付加価値額、L に各企業の期末従業員数、K に各企業の有

形固定資産額を用いた。また、労働分配率αについては、「中小企業白書」の定義どおり、

給与総額/付加価値額を用いた。ちなみに給与総額は期末従業員数×平均年間給与で計測

した。資本分配率は(1-α)で求めた。この生産関数を対数変換すると

KLYA log)1(logloglog αα −−−=

となる。直感的に、この式は「中小企業白書」の TFP成長率に近似していることがお分か

りいただけると思う。「中小企業白書」を参考にし、このような基本的なコブ・ダグラス型

関数を用いて TFPレベルの計測を行った。

企業の財務諸表データは前述したように、東洋経済の『会社財務カルテ CR-ROM』を用

いて収集した。これには各企業の付加価値データ8も掲載されており、大変便利である。財

務諸表データは単独決算のものを集めた。また、規模を表す変数として売上高を、利益を

表す変数として当期純利益を説明変数として用い、計量分析の際にこれらの効果を制御す

8 企業の付加価値額についても、計算方法によって値が変わってくる可能性がある。東洋経済の「会社財務カルテ CD-ROM」は次の計算方法によって得られる付加価値額を掲載している。 付加価値額=税引後当期純利益+租税公課+法人税等+支払利息・割引料+社債利息+役員報酬+従業員

給与手当+福利厚生費+退職給与引当金繰入+賃借料+減価償却費

Page 20: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

19

るために用いることとした。

3.3 推定式

最後に、本論文で用いる推定式をここで説明する。

被説明変数には、途上国、先進国それぞれのダミー変数を別に式を立てて用いる必要が

ある。次に説明変数であるが、これは前述した 3つの変数である売上高、当期純利益、TFP

を用いた。生産性が海外進出に与える影響をより明確にするために、売上高を用いること

によって規模の影響を、当期純利益を用いることによって利益の影響を、それぞれ制御す

るために用いている。以上から、本論文では以下の計量式を基本とし、これを推定するこ

ととする。

iiitki TFPprofitsaleDummy εβββα ++++= )log()log()log( 321

ただし、 iは企業を表しており、また DevAdvk ,∈ であり、これは i企業が先進国に進出

しているかどうか、発展途上国に進出しているかどうかを表す。期待される符合であるが、

当然全て正の符号が期待される。なぜなら、売上高で表した規模の大きい企業は海外進出

を行っている可能性が大きいことは容易に想像がつくであろうし、利益を多く確保できる

企業は手元資金に余剰ができるので、それを海外進出資金にあてることが可能となるから

である。そして、本論文で一番重要なのが言うまでもなく TFPの符号が正であるかどうか

である。正であるならば、TFP が高まれば高まるほど先進国に進出する確率、すなわち水

Page 21: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

20

平的直接投資を行う確率が高まることが実証される。ただし、途上国に進出する確率に関

しては、それほど先進国に進出する確率と比べて相対的に弱い相関であることが期待され

る。それによって、本論文で提示した仮説と整合的ということになる。

また、産業ごとの相違を考察するために産業ダミーを用いていく。つまり、ある産業の

企業を 1、そうではない企業を 0とするダミー変数を用いていくということである。ダミー

変数は、 )log( ij TFPDummy × とする係数ダミーを用いる。ただし、 16,2,1 L=j であり、

「会社財務カルテ」で分類されている 16産業を表す。このことによって、各産業の中でも

海外進出の際に、特に TFP すなわち生産性に関して弾力的な産業を見出すことができる。

産業ダミーは、基準とする産業以外のダミー変数を全て説明変数として推定式に加え、基

準とする産業を変えていき、その都度推定を行うという方式をとる。つまり、この場合は

16 産業を対象としているので 1 つを除いた 15 産業のダミー変数を推定式に加え、推定を

行う。次に取り除く産業を変えて再び推定する。これを合計 16回繰り返すことになる。推

計の際に取り除いた産業が基準となり、他産業のダミー係数の符号や t値と比較することが

可能となり、産業ごとの特徴を割り出すことができる。この推定方法を用いて、特にどの

産業が TFPを高めていけば海外進出が可能になるかどうかを見出していく。

参考に、1産業を基準とした場合の推定式を以下に記載する。

iii

iii

iii

iii

iii

iiitki

TFPDummyTFPDummyTFPDummyTFPDummyTFPDummy

TFPDummyTFPDummyTFPDummyTFPDummyTFPDummyTFPDummyTFPDummyTFPDummyTFPDummy

TFPDummyTFPprofitsaleDummy

εββββββββ

ββββββ

ββββα

+++++++++

++++++

++++=

)log()log()log()log()log(

)log()log()log()log()log()log()log()log()log(

)log()log()log()log(

16181517

141613151214

11131012911

8107968

574635

24321

Page 22: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

21

この推定式では、 )log(1 iTFPDummy × が抜けている。つまり、1産業を基準とするわけで

あるから、この産業以外のダミー係数を加えることによってその産業の特性を見出すわけ

である。このようにして基準とする産業を変えていき、16 本の推定式を推定することとな

る。

期待される結果としては、当然ながら労働集約的な産業よりも高度な技術を用いて生産

を行う技術集約的な産業の方がより TFPの係数が正に大きくなる、つまり弾力的であるこ

とが予想される。

Page 23: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

22

4.実証分析

この項では、前項で説明したフレームワークを元に計量分析を行っていき、本論文の仮

説に対する実証を行っていく。

4.1 標本の特性値

はじめに、推定式を用いた計量分析の前に標本特性値について見ていく。ここでは企業

を先進国進出企業、途上国進出企業、国内企業の 3つのグループ9に分け、それぞれの平均

と中央値、標準偏差と変動係数を計算した。図表③がその結果である。

まず平均と中央値をみると、どの項目に関しても先進国進出企業の値が大きいことがわ

かる。よって、先進国に進出している企業は規模も利益も大きく、生産性も高いことがわ

かる。しかし、途上国進出企業と国内企業で比べてみると、売上高、当期純利益は途上国

進出企業の方が大きいが、TFP に関しては、平均は国内企業の方が高いが中央値は途上国

進出企業の方が大きい。このように、途上国進出企業と国内企業の生産性の比較は明確に

区分されない。このことは仮説と整合的である。すなわち、必ずしも生産性が高い企業ば

かりが、途上国に進出するわけではないことが示唆されている。

9 本論文のグループ分けに関してだが、現実の企業データを見ると先進国および途上国のどちらにも進出している企業が多い。このような企業は本論文では先進国に進出している企業に分類した。なぜならば、

先進国のみに進出している企業はほとんどあまり存在しないが途上国のみに進出している企業は多く存在

しているからである。よって、先進国に一件でも進出実績がある企業は全て先進国進出企業とし、先進国

に一件の進出実績もない企業グループの中で、さらに途上国に進出している企業グループとそうでないグ

ループ、つまり海外進出件数が一件もない国内企業グループの3つに分類した。図表④に、各グループの

企業数を掲載した。

Page 24: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

23

4.2 計量分析①

ここからは前項で述べた計量式を推定して、実証分析を行っていく。

ここでは全企業を対象としたプロビット分析を行う。被説明変数に先進国および途上国

に進出しているかどうかのダミー変数を用いるので、先進国進出に関するダミー変数を被

説明変数に用いた場合は、先進国進出企業を 1 とし、先進国に進出していない企業を 0 と

する。進出していない企業の内訳は、全企業が対象なので途上国のみ進出企業と国内企業

となる。推計式は以下のようになる。

)1()log()log()log( 321 LiiitAdvi TFPprofitsaleDummy εβββα ++++=

次に途上国進出に関するダミー変数を被説明変数に用いた場合は、途上国進出企業を 1

とし、途上国に進出していない企業を 0 とする。進出していない企業の内訳は、全企業が

対象なので先進国のみ進出企業と国内企業の両方になってしまうがこれでは結果に不都合

な可能性が生じる。なぜなら、仮説から考えれば先進国に進出している企業の方が途上国

に進出している企業よりも生産性が高いと推測されているので、このままプロビット回帰

を行ったとしても、有意な値が推計されない可能性がある。なぜなら、前項の分析でもわ

かったように先進国進出企業は国内企業と比べて規模、利益、生産性全てにおいて高い可

能性が大きく、国内企業と先進国進出企業を同一として扱うのはあまり現実妥当性がない10。

10 なお、先進国進出に関する推定では、先進国に進出していない企業は途上国のみ進出企業と国内企業の両方を含めているが、前項の分析でもわかるように先進国進出企業は両者どちらと比べても規模、利益、

Page 25: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

24

そこで、この推計の場合には母集団から先進国のみ進出企業を除外した。こうすれば途上

国に進出していない企業は国内企業と同義になるため、仮説の検定を行うことができるよ

うになる。以下、推定式を示す。

)2()log()log()log( 321 LiiitDevi TFPprofitsaleDummy εβββα ++++=

この推定式を元にプロビット回帰を行った。図表⑤がその推定結果である。これから明

らかなように、どの変数も正の符号であるため理論と整合しており、全て統計的に有意な

値である。よって、この結果からわかることは

1、先進国に進出している企業と国内企業を比べた場合、企業の生産性、規模、利益が上

昇するほど、企業は先進国に進出する確率が高くなる

2、途上国に進出している企業と国内企業を比べた場合、企業の生産性、規模、利益が上

昇するほど、企業は途上国に進出する確率が高くなる

つまり、先進国に進出する確率、すなわち水平的直接投資を行う確率は生産性が高まるに

つれて高まっていくという正の相関が見られた。これは仮説と整合する。また、途上国に

進出する確率、すなわち垂直的直接投資を行う確率も国内企業と比べた場合には、生産性

生産性のどの数値も上回っている。よって、この分析の場合は途上国のみ進出企業を省くことはしなかっ

た。

Page 26: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

25

が高い方が実行する確率が高まることが実証された。

次に、産業ごとの特性を見るため、産業ごとのダミー変数を用いて同じようにプロビッ

ト回帰を行った。図表⑥にその推定結果を示す。なお、売上高と純利益の項目はいずれも

統計的に有意で理論と整合的であったため、記載は割愛した。また、TFP に有意な値の出

た結果のみを記載し、他は省略した。この結果を見るとダミー変数の全てが有意ではない

ため、明確に実証分析されているわけではないが、(1)のケースでは、ゴム製品、電気機器、

輸送用機器、精密機器が、(2)のケースでは、化学、ゴム製品、電気機器、輸送用機器、精

密機器が統計的に有意かつ理論と整合的(係数が正の符号をとる)であった。よって、こ

れらの産業は TFPの上昇、すなわち生産性の上昇によって海外進出を行う確率が高まると

いうことである。

なぜ、こういう結果が生まれたのか。それは、前述した予想通り、これらの産業がほか

の産業と相対的に技術集約的産業であると考えられるからである。電気機器や精密機器の

ような産業では高度な技術を用いた生産が行われている。そのため、そういった産業の企

業にとっては労働生産性や資本生産性ではなく、それ以外の全要素生産性が重要な指標と

なる。技術集約的産業においては、この全要素生産性を高めていくことがさらなるグロー

バルな活動を可能にするのである。

これらの結果から、先進国進出に関する推定では、途上国進出企業と国内企業も母集団

に含んでいるため、(1)より

先進国進出企業の生産性 > 途上国進出企業および国内企業の生産性

Page 27: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

26

そして(2)より

途上国進出企業の生産性 > 国内企業の生産性

となることが実証されたので、

先進国進出企業の生産性 > 途上国進出企業の生産性 > 国内企業の生産性

となることが推測される。しかし、これだけではまだ明確に実証されたとは言えないので、

次項で

先進国進出企業の生産性 > 途上国進出企業の生産性

これが明確に実証分析されるかどうかを推定していくこととする。

4.3 計量分析②

ここでは、計量分析の標本を全企業から、海外進出企業のみに標本を絞って同様の計量

分析を行う。このようなことをする理由は、多国籍化を遂げた企業の中でもさらに生産性

が高い企業の方がより水平的直接投資を行う可能性が高いことを実証分析するために、標

本を海外進出企業のみにするということである。これにより、水平的か垂直的か、という

Page 28: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

27

比較分析を行うことが可能となる。

はじめに産業ダミーは用いずに推定を行う。推定式は(1)と(2)と同様のものである。繰り

返しになるが、サンプル対象は海外進出企業のみとなるので先進国進出に関する被説明変

数は、先進国進出企業が 1 となり、先進国に進出していない企業は 0 となるが、この場合

の進出していない企業の内訳は、途上国のみ進出企業だけとなる点に留意されたい。途上

国進出に関する被説明変数は、途上国進出企業が 1なり、途上国に進出していない企業は 0

となるが、この場合の進出していない企業の内訳は、先進国のみ進出企業だけとなる。図

表⑦に推定結果を示す。この結果から明らかなように、(1)のケースは全て統計的に有意で

理論とも整合している。多国籍企業の中においても生産性が高まるほど先進国への進出確

率も高まるということが推定されたことになり、前述した仮説が実証された。つまり、水

平的直接投資と垂直的直接投資を比較して考えた場合に、前者と生産性には正の相関があ

り、前者を実行している企業の方が、生産性が高いことが明らかとなった。(2)のケースで

は売上高以外は全く有意な値となっていない。これによって、企業はその規模が大きくな

れば先進国よりも途上国に進出する確率が上昇することが明らかとなった。垂直的直接投

資のケースには相対的に企業の規模が大きいことが、生産性が高いことよりも重要となる

わけであり、必ずしも生産性が高くなくとも垂直的直接投資が実行されるということがわ

かった。

次に、産業ごとの特性を見るため、産業ごとのダミー変数を用いて同じようにプロビッ

ト回帰を行った。図表⑧にその推定結果を示す。なお、売上高と純利益の項目はいずれも

統計的に有意で理論と整合的であったため、記載は割愛した。また、TFP に有意な値の出

Page 29: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

28

た結果のみを記載し、他は省略した。なお、(2)のケースの推定は、先の推定で生産性が有

意にならなかったため、割愛する。この結果を見るとダミー変数の全てが有意ではないた

め、明確に実証分析されているわけではないが、医薬品と輸送機器が TFPの上昇、すなわ

ち生産性の上昇によって海外進出を行う確率が特に高まるということが判明した。

前項での分析とあわせて、輸送機器は TFPの上昇によって先進国への進出確率すなわち

水平的直接投資を行う確率が最も高まる産業であることがわかる。技術集約的な産業であ

るため、この結果はある程度現実妥当性があるということになるだろう。また、どのプロ

ビット回帰においても有意とはならなかった産業は相対的に労働集約的であり、TFP の上

昇はとりわけ重要というわけではない。こういった産業は労働生産性や直接投資受入側の

要因、すなわち生産要素の差異(特に労働に関して)の方が重要な要因となることが推察

される。ただ、残念ながら前項の産業ダミーによる分析においても全てのダミー変数で有

意な値が出ていないことは留意しておかなくてはならない。それでも、技術集約的産業で

は、海外進出の際に生産性が大きな決定要因となるという推察が立てられたことは意義の

あることである。

さらに、全体的な傾向としても、やはり生産性が高まることにより先進国への進出確率

は高まるということがわかる。よって、水平的直接投資を実施する際には受入国側の要因

以外に、企業側の生産性という観点を含めて考えるということは重要であるということが

明らかになった。

Page 30: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

29

5.結論

本論文で検証した仮説は、「生産性が高まるほど、垂直的直接投資よりも水平的直接投資

を実行する確率が高まる」ということであった。最初の進出後であっても企業は生産性を

さらに高めることによって、その後にさらなる海外進出、特に水平的直接投資を行うこと

が可能となることを、近年の企業データを用いて計量分析した。

プロビット回帰を用いて行った結果から

先進国進出企業の生産性 > 途上国進出企業の生産性 > 国内企業の生産性

となることが明らかとなった。さらに、先進国進出企業と途上国進出企業を比較した場合

に、垂直的直接投資のみを行っている企業は水平的直接投資を行っている企業と比べて生

産性よりも企業規模が大きければそれが実行されるということが実証された。つまり、水

平的直接投資に関して言えば生産性が重要であり、垂直的直接投資に関して言えば企業規

模が重要であるというが明らかになった。また、産業ごとの特質に関しても期待した通り

技術集約的産業の方が、生産性が海外進出の決定要因としてより重要となってくることも

推察された。

以上の結果から、本論文で提示した仮説は実証分析されたといえる。すなわち、水平的

直接投資を行うにあたっては、垂直的直接投資の場合と比較して相対的に、企業の生産性

がより重要であるということがわかった。Head and Ries(2003)で述べられていたように生

産性の高い企業だけが直接投資を実施するわけではなく、水平および垂直の両者をそれぞ

Page 31: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

30

れ考慮する必要があるということが本論文でも実証された。

今日の世界経済においては、誘致政策のための制度間競争、特に租税競争が激しく行わ

れており、国際的平衡の観点からの制度改革が各国で必要となってきている。これらは企

業が海外進出を行う際の障壁の高さを低くするものであり、国家のボーダーレス化が進ん

でいるということに他ならない。特に発展途上国においては自国の経済成長のためにも外

国の資本ストックを流入させることは非常に重要であり、そのために誘致政策を行い、そ

のことが企業の対外直接投資を促している。他方で、近年の ITなどの技術進歩により企業

自身の生産性が上昇し、そのため、生産要素価格が高いような国にも進出することが可能

となってきている。つまり海外進出の障壁を乗り越える能力そのものが高まっており、そ

の結果、企業のグローバル化が進んでいる。垂直的直接投資は生産要素や制度などの比較

優位が大きく影響し、水平的直接投資は生産要素や制度間の比較優位に加えて各企業の研

究・開発といった努力が生み出すイノベーションによる生産性の向上が大きく影響する。

このことから、垂直的直接投資は国家のボーダーレス化の観点から、水平的直接投資を考

察するにあたっては、前者の観点に加えて企業のグローバル化の観点からの分析が必要で

あるといえる。

よって、わが国の産業政策においても、特にどの産業が技術集約的であるかどうかをよ

く考慮したうえで研究開発の奨励や知的財産権制度の整備などを進めていく必要がある。

極度の少子高齢化社会が大きな問題として立ちはだかる日本においては、企業の生産性上

昇による一国全体の技術進歩による限界生産性の向上が必要不可欠である。そのためにも、

企業自身が海外進出障壁を突破できるような生産性の向上が実現すれば、それは日本全体

Page 32: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

31

のイノベーションにもつながっていく。経済連携協定のように、他国との交渉により投資

協定などを見直すことによって受入側の制度面などの整備を促すことももちろん重要であ

るが、やはり自国の産業政策による技術進歩を促すということは対外直接投資の面からも

重要であるといえる。

Page 33: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

32

6.図表 <図表①>

出所: Girma, Kneller, and Pisu(2005) より引用

<図表②>

出所: Girma, Kneller, and Pisu(2005) より引用

Page 34: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

33

<図表③> 各企業グループの標本特性値 標本特性値 グループ sale profit TFP 平均 先進国進出企業 181872.6 5580.975 1.129599

途上国進出企業 37840.3 929.0982 1.083282 国内企業 29419.97 687.6573 1.113491

中央値 先進国進出企業 51554 1242 1.10714 途上国進出企業 17725.5 322.5 1.055122 国内企業 11904 219 1.00575

標準偏差 先進国進出企業 513730.9 26811.5 0.896564 途上国進出企業 110324.9 4859.681 0.745177 国内企業 125018.5 2964.833 2.470974

変動係数 先進国進出企業 2.824674 4.804088 0.793701 途上国進出企業 2.915539 5.230535 0.687888 国内企業 4.249443 4.311498 2.219124

<図表④> 企業グループ数データ

企業グループ 先進国および

途上国に進出 先進国のみ 途上国のみ 国内 TOTAL

食料品 38 8 22 83 151

繊維製品 25 3 30 30 88

パルプ・紙 4 6 9 9 28

化学 90 9 61 56 216

医薬品 20 7 2 21 50

石油・石炭製品 3 0 2 5 10

ゴム製品 14 1 3 3 21

ガラス・土石製品 23 3 15 30 71

鉄鋼 13 2 18 24 57

非鉄金属 17 0 8 12 37

金属製品 23 4 21 51 99

機械 112 22 41 68 243

電気機器 159 14 64 55 292

輸送用機器 70 4 13 22 109

精密機器 26 3 9 8 46

その他製品 33 1 18 57 109

TOTAL 670 87 336 534 1627

Page 35: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

34

<図表⑤> 計量分析①の推定結果(産業ダミー用いず) (1) (2)

被説明変数 Advyprobabilit Devyprobabilit

sale 0.095597*** 0.11675*** (7.31194) (8.94593)

profit 0.071855*** 0.029099*** (6.59721) (2.88602)

TFP 0.055663*** 0.062752*** (2.72316) (3.19332)

No.of Obs 1437 1363 ***は 1%水準、**は 5%水準、*は 10%水準で有意であることを示す。

Page 36: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

35

<図表⑥> 計量分析①の推定結果(産業ダミーを用いての推定) (1)のケース 1 2 3 4

TFP 0.29918*** 0.092872*** 0.10803*** 0.13283*** (2.70036) (3.78158) (2.51019) (2.78348)

産業ダミー 食料品 -0.45699*** -0.25069*** -0.26585*** -0.29064***

(-3.89881) (-5.11022) (-4.57923) (-4.53582) 繊維製品 -0.35877*** -0.15247*** -0.16763*** -0.19242***

(-2.98073) (-2.7742) (-2.60917) (-2.80491) パルプ・紙 -0.37077*** -0.16447* -0.17963* -0.20442*

(-2.53898) (-1.63903) (-1.70032) (-1.88625) 化学 -0.30854*** -0.10224** -0.11740** -0.14219***

(-2.74882) (-2.86454) (-2.41706) (-2.61169) 医薬品 -0.32020*** -0.11389* -0.12906** -0.15385**

(-2.70527) (-2.23808) (-2.11917) (-2.34942) 石油・石炭 -0.36755* -0.16124 -0.17640 -0.20120

(-1.65303) (-0.825015) (-0.889350) (-1.00735) ゴム製品 0.2063* 0.19114* 0.16635

(1.87640) (1.66084) (1.41788) ガラス・土石製品 -0.22839* -0.02209 -0.037248 -0.062043

(-1.83450) (-0.338192) (-0.509364) (-0.805165) 鉄鋼 -0.39404*** -0.18774*** -0.20290*** -0.22769***

(-3.12671) (-2.81675) (-2.71503) (-2.90894) 非鉄金属 -0.28346** -0.07715 -0.092315 -0.11711

(-1.98478) (-0.807189) (-0.915277) (-1.12612) 金属製品 -0.33343*** -0.12713*** -0.14229*** -0.16708***

(-2.91932) (-3.13384) (-2.70200) (-2.89654) 機械 -0.18295* 0.023351 0.0081902 -0.016605

(-1.65592) (0.800416) (0.183218) (-0.330016) 電気機器 -0.20630* -0.015161 -0.039956

(-1.87640) (-0.352332) (-0.820724) 輸送用機器 -0.19114* 0.015161 -0.024795

(-1.66084) (0.352332) (-0.416497) 精密機器 -0.16635 0.039956 0.024795

(-1.41788) (0.820724) (0.416497) その他製品 -0.35763*** -0.15133*** -0.16649*** -0.19129***

(-3.07819) (-3.25000) (-2.92571) (-3.08137)

Page 37: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

36

(2)のケース 1 2 3 4 5 TFP 0.084497** 0.30158** 0.13231*** 0.085087* 0.1847***

(2.34255) (2.27216) (5.35546) (1.88085) (3.21272) 産業ダミー 食料品 -0.29952*** -0.5166*** -0.34733*** -0.30011*** -0.39972***

(-5.92779) (-3.76751) (-7.42496) (-5.22114) (-5.75673) 繊維製品 -0.03186 -0.24894* -0.07967 -0.03245 -0.13206*

(-0.57234) (-1.79194) (-1.57082) (-0.51899) (-1.82739) パルプ・紙 -0.06885 -0.28593* -0.11666 -0.06944 -0.16905

(-0.71401) (-1.79415) (-1.23829) (-0.69002) (-1.57753) 化学 -0.21708 -0.04781 -0.00059 -0.1002

(-1.62105) (-1.32314) (-0.01155) (-1.59477) 医薬品 -0.21979*** -0.43687*** -0.2676*** -0.22038*** -0.31999***

(-3.92335) (-3.13402) (-5.16873) (-3.50716) (-4.37381) 石油・石炭 -0.00517 -0.22225 -0.05298 -0.00576 -0.10537

(-0.04173) (-1.25288) (-0.43522) (-0.04526) (-0.79763) ゴム製品 0.21708 0.16927 0.21649 0.11688

(1.62105) (1.27971) (1.5775) (0.824121) ガラス・土石製品 -0.00384 -0.22092 -0.05165 -0.00443 -0.10404

(-0.05939) (-1.55171) (-0.84365) (-0.0625) (-1.30504) 鉄鋼 -0.13122** -0.3483*** -0.17903*** -0.13181** -0.23142***

(-2.20365) (-2.47499) (-3.27059) (-1.99819) (-3.07402) 非鉄金属 0.001998 -0.21508 -0.04581 0.001409 -0.0982

(0.02186) (-1.37531) (-0.51436) (0.014709) (-0.95655) 金属製品 -0.11335*** -0.33043*** -0.16116*** -0.11394** -0.21355***

(-2.54496) (-2.45001) (-4.18903) (-2.15535) (-3.32334) 機械 -0.02157 -0.23865* -0.06939** -0.02216 -0.12177**

(-0.5745) (-1.79901) (-2.29114) (-0.4673) (-2.0395) 電気機器 0.047811 -0.16927 0.047222 -0.05239

(1.32314) (-1.27971) (1.01514) (-0.89519) 輸送用機器 0.000589 -0.21649 -0.04722 -0.09961

(0.01155) (-1.5775) (-1.01514) (-1.43718) 精密機器 0.1002 -0.11688 0.052387 0.099609

(1.59477) (-0.82412) (0.895188) (1.43718) その他製品 -0.15371*** -0.37079*** -0.20152*** -0.1543*** -0.25391***

(-3.1944) (-2.72594) (-4.65259) (-2.76185) (-3.78104) ***は 1%水準、**は 5%水準、*は 10%水準で有意であることを示す。

Page 38: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

37

<図表⑦> 計量分析②の推定結果(産業ダミーを用いず) (1) (2)

被説明変数 Advyprobabilit Devyprobabilit

sale 0.050797*** 0.038292*** (3.37586) (4.27562)

profit 0.079635*** -0.0063795 (6.24252) (-0.872882)

TFP 0.048977* 0.0048534 (1.83066) (0.308802)

No.of Obs 991 991 ***は 1%水準、**は 5%水準、*は 10%水準で有意であることを示す。

Page 39: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

38

<図表⑧> 計量分析②の推定結果(産業ダミーを用いての推定) (1)のケース 1 2

TFP 0.17857* 0.088824* (1.84014) (1.73752)

産業ダミー 食料品 -0.22201** -0.13227*

(-1.96906) (-1.75868) 繊維製品 -0.29022*** -0.20048***

(-2.63939) (-2.78842) パルプ・紙 -0.29986** -0.21012*

(-2.11003) (-1.82066) 化学 -0.24829*** -0.15854***

(-2.49175) (-2.89011) 医薬品 0.089745

(0.863059) 石油・石炭 -0.25669 -0.16694

(-1.23275) (-0.87191) ゴム製品 -0.00389 0.085854

(-0.02662) (0.711215) ガラス・土石製品 -0.14268 -0.05294

(-1.21219) (-0.63381) 鉄鋼 -0.32818** -0.23844**

(-2.40585) (-2.21033) 非鉄金属 -0.23123* -0.14149

(-1.65436) (-1.26197) 金属製品 -0.18844* -0.09869

(-1.78945) (-1.52636) 機械 -0.06586 0.023883

(-0.67134) (0.453862) 電気機器 -0.13846 -0.04872

(-1.43951) (-0.99121) 輸送用機器 -0.08975

(-0.86306) 精密機器 -0.12091 -0.03117

(-1.14597) (-0.47485) その他製品 -0.19604* -0.1063

(-1.80546) (-1.52811) ***は 1%水準、**は 5%水準、*は 10%水準で有意であることを示す。

Page 40: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

39

7.参考資料 [参考論文] Aw, Chung and Roberts(2000a) “Productivity and Turnover in the Export Market:

Micro-level Evidence from the Republic of Korea and Taiwan(China)” The World Bank Economic Review, VOL. 14, NO, 1

Aw, Chung and Roberts(2000b)“Productivity Output, and Filure: a Comparison of Taiwanese and Korea Manufacturers” The Economic Journal, 113(November), F485-510

Brainard(1997) “An empirical assessment of the proximity-concentration tradeoff between multinational sales and trade” American Economics Reviews 87(4): 520-544

Delgado, Farinas and Ruano(2002) “Firm productivity and Export markets: a non-parametric approach” Journal of International Economics 57 (2002) 397-422

Girma, Gorg and Strobl(2004) “ Exports, international investment, and plant performance: evidence from a non-parametric test” Economics Letters 83 (2004) 317-324

Girma, Kneller and Pisu(2005) “Exports versus FDI: An Empirical Test” Review of world economics 2005, Vol. 1441(2): 193-218

Head and Ries(2003) “Heterogeneity and the FDI versus export decision of Japanese manufacturers” Journal of the Japanese and International Economies 17: 448-467

Helpman, Melitz and Yeaple(2004) “Export Versus FDI with Heterogeneous Firms” American Economic Review 94(1): 300-316

Ryuhei Wakasugi(2005) “The Effects of Chinese Regional Conditions on the Location Choice of Japanese Affiliates” The Japanese Economic Review Vol. 56, No. 4, December 2005: 390-407

[参考文献] Barba Navaretti and Venables(2004) 『Multinational Firms In The World Economy』

Princeton Univ Pr 浅野・中村(2000) 『計量経済学』 有斐閣 白井早由里(2004) 『人民元と中国経済』 日本経済新聞社 深尾京司・天野倫文(2004) 『対日直接投資と日本経済』 日本経済新聞社 若杉隆平(2001) 『国際経済学』 岩波書店

Page 41: 対外直接投資と企業の生産性 - JICA...対外直接投資と企業の生産性 ~日本製造業の実証分析~ 要約 本論文では、対外直接投資に関する分析のうち、立地選択の観点からの分析ではなく企業

40

[参考WEBサイト] 「経済産業省ホームページ」 http://www.meti.go.jp/ 「経済産業省 中小企業庁:中小企業白書 2003年版」

http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h15/ 「財務省ホームページ」 http://www.mof.go.jp/ 「JETROホームページ」 http://www.jetro.go.jp/indexj.html 「日中投資促進機構」 http://www.jcipo.org/main.html