博物館紀要概要 2006/大扉 2006 · 的 な 手 法 が 認 め ら ... 北 朝 〜 室 町...
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新規収蔵品紹介
凡
例
・平成十七年度中に購入、寄贈等により新たに館蔵品登録されたも
のを掲載した。
・整理・調査・修復等の事情により、展示や一般公開までに時間が
かかるものも含まれる。
〈絵画〉
�名
称
絹本著色沙門地獄草紙断簡(沸屎地獄)
�時
代
平安〜鎌倉時代(十二世紀)
�品質・形状
絹本著色
�伝来・作者
益田家伝来、作者未詳
�寸
法
縦一二三・六�、横一一四・〇�
�館蔵品番号
一三五七
�作品概要
益田家に伝来した全七段からなる沙門地獄草紙第
五段「沸屎地獄」に相当するものである。沙門地獄草紙は辟邪絵
(奈良国立博物館蔵)とともに長らく一組の地獄草紙として伝わっ
てきた絵巻の名品として知られる。人物描写において下描きや隈
取を丁寧に施すという平安時代大和絵の伝統的な手法が認められ
る一方、馬頭羅刹の肉身に用いられる極度の肥痩を伴った線描な
どに鎌倉時代への過渡的な様相も見て取れることから、その制作
時期は平安末期から鎌倉初頭と考えられるだろう。
(谷口耕生)
163 8 (2006)
〈絵画〉
�名
称
探幽縮図(仏画集)
一帖
�時
代
江戸時代(十七世紀)
�品質・形状
紙本墨画
画帖貼込
�伝来・作者
狩野探幽
�寸
法
(画帖)縦二〇・八�、横一九・〇�
(各図)縦一三・五〜一四・二�
横八・九〜一七・七�
�館蔵品番号
一三六四
�備
考
財団法人仏教美術協会より寄贈
�作品概要
江戸時代の狩野派の基礎を確立した狩野探幽(一
六〇二〜一六七四)が、古画鑑定の手控えとして作成した、縮小模
写。諸大名家等から持ち込まれる多数の作品を、逐一記録したと
思われる。各図には月日・所蔵者・画家等の所見を注記するが、
時折年紀も有するものがあり、本品のうち二図には、寛文二年
(一六六二)・同十三年(一六七三)とある。ただし、もとは一図ず
つの紙片であったものを、後代に順不同に画帖に貼り込んだもの
であり、すべて同時期の作とは言えない。また、探幽の筆とは認
められないものも一部混じっている。主題については、仏画類に
限定して集めている点に本品の特色がある。当時の古画伝存の状
況や、それに対する認識の様子を示す重要な資料として、美術史
研究の上で利用価値が高い。
(中島博)
〈書跡〉
�名
称
写経手鑑「紫の水」
一帖
�時
代
奈良時代〜鎌倉時代(八〜十四世紀)、
調製は昭和五十年
�品質・形状
折帖
�伝来・作者
赤坂水戸幸(調製)
�寸
法
縦三八・〇�、横三〇・八�、厚四・五�
�館蔵品番号
一三六一
�作品概要
手鑑とは筆跡の手本や鑑賞用に折帖に古人のすぐ
れた筆跡を貼り込んだもので、本品は奈良時代から鎌倉時代まで
の古写経の名品三十八葉を貼り込んでいる。絵因果経、大聖武、
紫紙金字金光明最勝王経、二月堂焼経といった奈良朝写経や正倉
164
院文書をはじめ、飯室切や装飾無量義経、戸隠切、泉福寺装飾華
厳経、紺紙金字宝塔経など平安朝の装飾経を代表するものまで豪
華に取り揃えている。また、それぞれは通常の「切(断簡)」より
も行数が多く、視覚的にも強い印象を与える。当館の書跡部門を
代表する逸品と評価され得る。
(西山厚)
〈彫刻〉
�名
称
木造伎楽面
力士
一面
�時
代
鎌倉時代(十二世紀末〜十三世紀初)
�品質・形状
木造(キリ材)、漆塗
�伝来・作者
未詳
�寸
法
全長(現状)三四・〇�、頭頂-
顎二九・五�、
最大奥二三・五�
�館蔵品番号
一三五六
�作品概要
遺例の少ない鎌倉時代の伎楽面の新出資料で、保
存状態も良好である。同時代の作例では、東大寺所蔵の治道面・
師子児面に比定される二面、および京都・神童寺所蔵の力士面が
知られるのみである。筋肉の隆起を的確に描写した忿怒相で、口
をへの字に結ぶ形式は金剛力士像の吽形にならったものと考えら
れる。無銘ではあるが、その作風には東大寺南大門像、岐阜・円
鏡寺像、兵庫・石龕寺像などの鎌倉前期の仁王像の頭部に通ずる
特徴がうかがえ、南都の有力仏師の手になると推測される。
(稲本泰生)
165 8 (2006)
〈彫刻〉
�名
称
木造十一面観音坐像
�時
代
南北朝〜室町時代(十四〜十五世紀)
�品質・形状
木造
�伝来・作者
未詳
�寸
法
像高二二・七�
�館蔵品番号
一三五九
�備
考
前田榮氏より寄贈
�作品概要
南北朝末ないし室町初期(十四―十五世紀)の製作
いん
ば
ぶっ
し
とみられる。当代に活躍した院派仏師の作とみられ、秀でた目鼻
立ちなどに特色がある。構造技法も小像とはいえ本格的で、院派
仏師の技法的特色を示す。中世院派仏師のミニチュア的な作品と
しての意義があり、室町時代彫刻資料のひとつとして貴重である。
(鈴木喜博)
〈彫刻〉
�名
称
木造毘沙門天立像
附
像内納入品
はんすりしょそん
ず
ぞう
だ
ら
に
ここのえのまもり
・版刷諸尊図像・陀羅尼等(九重守)
一巻
・御守(錦裂:
一枚
版刷経:
五紙)
・御守
一枚
・錦袋
一袋
�時
代
室町時代
宝徳三年(一四五一年)
�品質・形状
木造・紙・錦
�伝来・作者
未詳
�寸
法
像高六五・七�
�館蔵品番号
一三六〇
�備
考
前田榮氏より寄贈
�作品概要
像内に宝徳三年(一四五一)四月、祐泉の願意、宇
治成願寺伝来などの銘文が記された室町彫刻の紀年銘像。まとま
りのある姿態の動きや重量感のある下半身の表現、頭体部を前後
割矧ぎ、首と足を体部から割り放つ構造など、中世後期彫刻とし
ここのえのまもり
ての特色を示す。「九重守」等の納入品は、本像に関連する近世仏
教民俗関係資料である。(
鈴木喜博)
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〈工芸〉
�名
称
愛染明王香合仏
一合
�時
代
平安時代後期〜鎌倉時代初期(十二〜十三世紀)
�品質・形状
木製
截金
一部に彩色
�伝来・作者
未詳
�寸
法
直径六・八�、厚二・二�、
身厚一・六�
蓋厚〇・六�
�館蔵品番号
一三六五
�備
考
財団法人仏教美術協会より寄贈
�作品概要
香合仏は蓋と身からなる小さな仏龕で、香合のよ
うな外見を有するためこのように
呼ばれる。本品は白檀と推定され
る木材から彫出され、身に愛染明
王坐像を浮彫している。愛染像は
通常見られる六臂像であるが、台
座が宝瓶座でないこと、左第三手
に日輪を有している点が通形とは
異なる。唇や髪など部分的に彩色
が見られるほか、随所に截金が見
られる。蓋裏は中心に金箔を押し
た愛染種子を表し、地に石畳文を
截箔で飾っている。製作年代は平
安時代後期から鎌倉初期に推定さ
れ、愛染明王香合仏の初期作例と
して貴重である。
(内藤栄)
〈工芸〉
�名
称
重要文化財
金銅宝珠鈴・金銅独鈷鈴・金銅三鈷鈴(五種鈴のうち)
各一口
�時
代
平安時代末期〜鎌倉時代初期(十二世紀)
�品質・形状
銅鋳製
鍍金
�伝来・作者
未詳
�寸
法
①宝珠鈴
総高一四・四�(現状)
口径七・七�
②独鈷鈴
総高一七・四�
口径七・七�
③三鈷鈴
総高一七・二�
口径七・八�
�館蔵品番号
一三六二
�作品概要
寸法、鈴身を
めぐる紐帯の配置及び意匠、
鈴身から杵にかけての蓮弁飾
りの意匠、鬼目の形状などが
共通することから、これらは
元来五口一具の五種鈴として
制作され、使用されていたも
のと思われる。
本品は、鈴身の裾の開きが
小さく端正な器形を示す点や
蓮弁飾りに装飾の少ない簡素
な表現がみられる点などに平
167 8 (2006)
安後期の特色が認められる。一方、鈴身の肩張りの強い点や蓮弁
飾りが重弁となる点には鎌倉期以降にあらわれる特色が看取され、
総体に藤末鎌初の過渡期的な様式を示している。
以上のことから、本品は伝世品としては五種鈴の最古の遺例と
推測され、高い価値を有している。また鈴・杵の均整がとれた優
美な器形には優れた造形性が認められ、密教法具の優品の一つに
数えられる。
(清水健)
〈考古〉
�名
称
縄文時代遺物ほか(小野忠正コレクション)
一括
�時
代
主に縄文時代、特に後期・晩期のもの多数
�品質・形状
石製、土製、ほか
�伝来・作者
小野忠正氏収集品
�寸
法
土偶(写真左上)
高
一〇・七�、
幅
一三・二�
注口土器(写真左端)
高
一〇・二�、
胴径一五・四�
�館蔵品番号
一三六三
�作品概要
青森県出身の郷土史家小野忠正氏(故人)が、戦前
から戦後にかけて蒐集した縄文時代後・晩期を主体とする遺物の
コレクションで、総数は一万点以上を数える。過半数の遺物に出
土地の注記があり、青森・岩手県を中心とした遺物と判明する。
石器は石鏃と磨製石斧が大半を占めるが、石棒や独鈷石、青龍刀
形石製品などの信仰用具も含んでいる。土器は亀ヶ岡文化の精製
土器を主体とし、注口土器や香炉形土器、人面付土器など、造形
的に優れたものが高い完形率で存在している。また、遮光器土偶
やX字状土偶、亀形土製品、土板、岩板など、稀少かつ美術品的
にも高い価値をもつ遺物が多く、総体として亀ヶ岡文化を俯瞰で
きる優秀なコレクションとなっている。
(吉澤悟)
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