生協店舗、復活への道筋 <最終回> 生協店舗のポジショニング ... ·...

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シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回> 生協店舗のポジショニングを 具体化しよう! ~店の方向性を検証する なぜ、生協店舗のポジショニングを 「見える化」しないのか? ポジショニングとは、「位置付け」と訳される。業界の中で自店 がどの位置にあるのかを知る時には、しばしば図表で示されること が多い。また、「方向(性)」とも訳され、目指す方向(性)は、 「青果で地域一番店」とか、「ローコスト運営でEDLP」などという ように使われている。つまりこれは戦略であって、戦術では使われ ない言葉であり、店舗のポジショニングは企業(生協)トップ・幹 部の重要な判断業務になる。 またポジショニングは、業務に関わる全ての人(場合によって組織 を構成する全員)が、「今、自分たちは業界の中でどの位置にいて、こ れからどの方向に向かっていくのか」を理解・納得する上で必要不可 欠なことである。なぜなら、ポジショニングがはっきり見えるから、 MD(商品構成、価格、仕入方法、売り方、見せ方など)も決まるので ある。さらに、店舗運営(人員構成、セルフサービス・接客、発注・加 工・陳列方法など)や、店づくり(建物、外観、設備、レイアウト、内 装、什器の形状とそのコストなど)もポジショニングによって変わる。 なのに、店舗のポジショニングを明確にせず(あっても抽象的)、 具体的な決定事項は現場に任せて、本部は結果数字だけを見て、批 評していることはないか。これは生協に限ったことではないが、現 場の不満として「もっと、きちんとした方向性をトップが出してく れたら、仕事がしやすいのに」という声をしばしば聞く(陰に隠れ てコッソリ言う、現場の姿勢も問題だが)。特にここ数年は厳しい 環境の中で、余計に混沌とした状態が日常化している。 <著者プロフィール> (株)イトーヨーカ堂本 部RE(リテイル・エン ジニアリング)部にて、 数多くの新店・改装店 等の店舗企画に携わる。 1990年3月、同社を退 社し、(株)リテイル・ エンジニアリング・アソ シエイツ(REA)を設立。 現在、流通業を中心と した企業コンサルティ ングで活躍中。著書に 『売場改革の処方箋』 『攻めの店舗「力」』 (共に商業界)、『生協 「力」強化マニュアル』 『52週マーチャンダイ ジング』(コープ出版) など多数。 48 (株)REA 代表取締役 すず てつ 鈴木哲男

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シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

生協店舗のポジショニングを具体化しよう!~店の方向性を検証する

なぜ、生協店舗のポジショニングを

「見える化」しないのか?

ポジショニングとは、「位置付け」と訳される。業界の中で自店

がどの位置にあるのかを知る時には、しばしば図表で示されること

が多い。また、「方向(性)」とも訳され、目指す方向(性)は、

「青果で地域一番店」とか、「ローコスト運営でEDLP」などという

ように使われている。つまりこれは戦略であって、戦術では使われ

ない言葉であり、店舗のポジショニングは企業(生協)トップ・幹

部の重要な判断業務になる。

またポジショニングは、業務に関わる全ての人(場合によって組織

を構成する全員)が、「今、自分たちは業界の中でどの位置にいて、こ

れからどの方向に向かっていくのか」を理解・納得する上で必要不可

欠なことである。なぜなら、ポジショニングがはっきり見えるから、

MD(商品構成、価格、仕入方法、売り方、見せ方など)も決まるので

ある。さらに、店舗運営(人員構成、セルフサービス・接客、発注・加

工・陳列方法など)や、店づくり(建物、外観、設備、レイアウト、内

装、什器の形状とそのコストなど)もポジショニングによって変わる。

なのに、店舗のポジショニングを明確にせず(あっても抽象的)、

具体的な決定事項は現場に任せて、本部は結果数字だけを見て、批

評していることはないか。これは生協に限ったことではないが、現

場の不満として「もっと、きちんとした方向性をトップが出してく

れたら、仕事がしやすいのに」という声をしばしば聞く(陰に隠れ

てコッソリ言う、現場の姿勢も問題だが)。特にここ数年は厳しい

環境の中で、余計に混沌とした状態が日常化している。

<著者プロフィール>(株)イトーヨーカ堂本部RE(リテイル・エンジニアリング)部にて、数多くの新店・改装店等の店舗企画に携わる。1990年3月、同社を退社し、(株)リテイル・エンジニアリング・アソシエイツ(REA)を設立。現在、流通業を中心とした企業コンサルティングで活躍中。著書に『売場改革の処方箋』『攻めの店舗「力」』(共に商業界)、『生協「力」強化マニュアル』『52週マーチャンダイジング』(コープ出版)など多数。

48

(株)REAリ エ ア

代表取締役 鈴すず

木き

哲てつ

男お

鈴木哲男氏

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「ポジショニングの明確化」を言うと、多くの生協の人からお叱

りを受けそうだ。「そんなことを考えなくても、地道にムダ削減に

取り組めば黒字化は可能だ。現に赤字がだいぶ減ってきた」とか、

「生協らしい取り組みで、『生協なら安心』という店をつくれば生き

残れる。これが方向性だ」と、反論されるだろうか。

あるいは、「そんなことは前からやっている。いまさら何を」と

言われるかもしれない。これは、新店プランや既存店の改装プラン

を作るたびに発表する、耳ざわりの良い「新SMフォーマット」や

「新標準モデル」「新○○坪タイプ」などを指しているのだろうか。

さらに生協では、ポジショニングを決める際、高付加価値志向を

取りがちなことは問題だ。ストコンを繰り返していくうちに「この

ような店になりたい」とイメージするうち、目指すべきポジショニ

ングがヨークベニマルやヤオコーになるようである。

もちろん、これも悪いわけではないが、そのような店をつくれば

売上高総利益が上がり、売上高営業利益率も上がって、高収益企業

(生協)になると考えてはいないか。資料1は、ヤオコーを紹介し

た「付加価値で客をひきつける」(『週刊ダイヤモンド』2011年1月

8日号)という記事での、スーパー各社のポジショニングである。

生協運営資料 2012.3 49

シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

資料1

資料出典:『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)2011年1月8日号

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つまり、高付加価値型になれば店舗事業は黒字化すると。ただ、

ヤオコーであっても最初からそれを目指してきたのではなく、長年

の工夫を積み重ね、消費者ニーズに対応していくうちに今のような

スタイルになったと思われる。今のポジショニングはあくまでマス

コミが考えた「後付け」である。

しかし、どんなに英知を集めた精緻なプラン(P)でも、行動

(D)が伴わないことが多いのではないか。Pが素晴らし過ぎて、

Dが見劣りする。あるいはPが夢物語過ぎて、Dが追い付けないの

かもしれない。さらに、検証(C)が不十分、あるいは結果オーラ

イで善しあしを判断しがちである。だから、次なるアクション(A)

が弱くなることはないだろうか。これでは「PDCAを回す」は言葉

だけに終わる。

今後、生協ではさらに事業連帯の強化や合併の話が増えてくるだ

ろう。あらためて、組織内の誰でもが分かる、理解する、納得でき

る店の方向を示すべきである。

大震災以降、

消費者の志向に変化が起きている

今、なぜポジショニングが重要なのか。11年3月11日に発生した

東日本大震災以降、仕事を通して「世の中が少し変わった」と、肌

で感じることがある。それは消費者が、①近くて便利、②安くて便

利、③簡単で便利、を重視するようになったのではないかというこ

とである。事例を紹介する。

①「近くて便利」について

私が関係しているあるショッピングセンター(SC)では、毎年、

定期的に商圏調査を実施している。今年は、徒歩や自転車での来店、

バスや鉄道などの大量交通機関を利用して来店する客が増え、車で

の来店が減っているという調査結果であった。同じような商品をそ

ろえる競合店が増えているだけでなく、施設の魅力の有無もあるの

で、全て断定はできないが。

ただし調査会社の担当者は、「全国的にそのような傾向であり、

大震災以降、特に顕著になっている」と言っていた。

②「安くて便利」について

マンションや大きな一戸建てが並ぶ横浜市郊外の駅前で営業して

いた、業界で「高級・高質」といわれるスーパーが撤退した。比較

的所得の高い人や企業の部課長級の人が多く住む地域なので、客層

と店の商品構成が合致し、業績も良いと思われていたのに。

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シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

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その跡地に出店したのがディスカウントSMである。「地域のお

客のライフスタイルに合わないのでは」と思ったが、レジの稼働台

数から考えて、以前の倍以上の客を集めているようだ。私は、出店

の可否の一つを「店のポジショニングが客層に合っているか」で判

断しているが、今回の状況から、たとえ所得差はあっても、「消費

者は同一商品であったら、安い価格で買いたい」という心理が、以

前より強く働いているように感じる。

③「簡単で便利」について

「簡単」とは、すぐ食べられるもの、食材を残さず調理できるも

のという意味で、弁当・惣菜、下ごしらえ済み商品などになる。11

年7月、国産牛肉の一部に原発事故によるセシウム汚染が発覚し、

消費者の牛肉離れが起きた。一般的に考えれば、水産の鮮魚の利用

が増えそうだが、そうはならなかった。なんと、惣菜の売り上げが

上がったのである。その後も素材ではなく惣菜優位の状況が続いて

いる。

もう一つの事例。日清食品が11年7月に全国販売を始めたレンジ

調理の即席ご飯、「カップヌードルごはん」の売れ行きが好調で、

同社では初年度50億円の売り上げを見込んでいるそうだ。その背景

として、男性の単身者の中には調理器具を持たず、レンジで食事の

準備をする人が増えていることがあるという。

社会の変化は、生協店舗のポジショニングに

どのような影響を与えるのだろうか

資料2は、小型SM(新店)の売場面積(尺数)調査であるが、

3店とも店舗面積に比べて惣菜のスペースが広くなっている(450

坪店舗並み)。確実に「簡単で便利」の傾向が強くなっているのだ。

以上のような世の中の変化は、生協の店舗のポジショニングにどの

ような影響を与えるのだろうか。

①の「近くて便利」では、商圏が縮小し、いわゆる小商圏(狭商

圏)化の傾向が強まると考えられる。そうなると、供給高を構成す

る客数と客単価のうち、客数が減少すると考えられる。売上高(供

給高)が上がっている生協店舗を分析すると、商品力や売場力が上

がっていることは間違いないが、それ以外にも店周辺にマンション

などが建ったことで客数が自然と増え、売り上げも上がっていると

思われる例もあった。このような店では、より一層、組合員の組織

率を上げなくてはならないし、店の魅力(安さ含む)を上げ、生協

ファンを増やさなければならないだろう。

生協運営資料 2012.3 51

シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

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②の「安くて便利」では、いまだ価格が高いと思われている生協

から客(組合員)が他店へ移っていくと考えられる。そうなると客

数だけでなく、客単価を構成する商品単価と買上点数のうち、買上

点数が減りそうだ。今までもそうだろうが、全て生協で買わないで、

その都度、他店と使い分ける(買い分ける)傾向が一層強まるので

はないだろうか。

生協は価格戦略を見直し、より一層、低価格で売れる仕組み(本

部のスリム化、仕入の共同化、企画の共有化など)をつくらなけれ

ばならないだろう。

③の「簡単で便利」では、生協はまだ、素材提供型の店舗と思わ

れている。一時期、惣菜強化型店舗を「グルメスーパー」と呼び、

手間とコストが掛かることから評価しない傾向があったことは、生協

店舗の惣菜強化が遅れた原因の1つであろう。現在では300坪以上の

店舗には必ず惣菜(デリカ)売場があり、ここ数年の商品開発や売場

づくりは目を見張るほど進歩している。しかし、競合他社の進歩は

著しく、それらに比べると特に商品開発面で遅れているように思う。

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シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

資料2 小型SMの部門別売場面積(尺数)および構成比~「簡単で便利」ニーズ(惣菜売場)は拡がっている

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私は、あと5年もしたら惣菜部門が生鮮4部門の中で売上高(供

給高)構成比で一番になると考えている(農産、水産、畜産が10%

を切り、惣菜は10%を超える)。より一層、消費者ニーズに対応し

た売場づくりを急がなければならない。

北九州地区の店舗ポジショニング例

福岡県北九州市の水巻地区では、数多くの低価格業態店が“水を

得た魚”のように暴れ回っている。完全に市民権を得ており、価格

は安いことが当たり前で、ただ安いだけでは目立たないほどだ。マ

ックスバリュー※1やザ・ビッグ※2(マックスバリューより、さら

に低価格を実現)、トライアル※3、ルミエール※4などなど。

一方、ハローデイ※5やボンラパス※6(ハローデイよりさらに高

級・高質商品の品ぞろえを強化した店舗)など、提案型業態も存在

する。特にハローデイは、商品そのものの魅力、売り方・見せ方の

魅力、POPや接客による伝え方の魅力などで好業績を続けている。

少子高齢化社会の中で、きめ細やかな客対応が支持されているのだ

ろう(価格も無視していない)。

ポジショニングをイメージしてもらうために、まず、低価格業態

の代表格、ルミエール(水巻店)と提案型業態のハローデイ(井堀

店)の店舗について、簡単に紹介しておく。

資料3-1はルミエールである。

外観は、赤地に白の「安売王ルミエール」の店名がひときわ目立

ち、「安さ」イメージと一致している。入口は買い物カゴと強烈な

低価格商品が1単品あるくらいで、売場案内図は簡単なものが1枚

だけ。サービスカウンターは物品販売兼用で、13台あるレジと簡素

な包装台がある。

農産は段ボールカット陳列が多く、単品は絞り込んでいる(トマ

ト3単品、みかん1玉39円と1袋298円、398円の3単品など)。水

産、畜産は平ケースでの販売、惣菜はバラ売りがほとんどなく、3

個・5個売り販売が中心である(生すしは10カン398円)。日配は平

ケース(NBトップブランドヨーグルト450g-128円、同・小粒納豆

ミニカップ3P-49円など)、菓子・食品・日用雑貨はゴンドラで山

積みが多い。なお、POPは価格強調で、全て手書き。生鮮4部門は

全てテナントリースで運営している。

※1 イオングループが、毎日の暮らしに欠かせない品々を地域一番の「品質・価格・品ぞろえ」で提供を目指すスーパーマーケット。全国579店(2011年度、以下同じ)。

※2 イオングループのディスカウントスーパー。EDLPを基本コンセプトに、食料品と実用衣料品を中心に取り扱っている。全国75店。

※3 (株)トライアルカンパニー(本社・福岡市)が全国展開するスーパーセンター、ディスカウントスーパー(ウォルマート流を徹底していることで有名)。全国128店。

※4 三角商事(株)(本社・福岡県苅田町)が展開するディスカウントスーパー。県内19店。

※5 (株)ハローデイ(本社・福岡県北九州市)が展開するスーパーマーケット。県内を中心に43店。

※6 (株)ボンラパス(本社・福岡市。現在、ハローデイの傘下企業)が展開する高級・高品質スーパーケット。県内に4店。

生協運営資料 2012.3 53

シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

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資料3-2は、ハローデイである。

外観は、茶色地と黒地に白で「食彩館ハローデイ」の店名と落ち

着いたサインで、店内イメージと一致している。入口には英語で表

記された「フロアガイド」と、時節柄クリスマス演出があり、会員

カード募集カウンターもあった。サービスカウンターは通常の業務

の他、店内の商品をギフト用に組み合わせたオリジナル商品の販売

も手掛け、包装や接客を重視している。

農産では主力商品の産地が多く、グレードの高いもの(高質・上

質)もある。カットフルーツと果物量り売りコーナーが目を引く。

水産には対面風自家製干物コーナーや魚惣菜コーナーがあり、平日

でも、刺し身では「本まぐろ大トロ1,980円」を品ぞろえしている。

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シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

資料3-1 ルミエール水巻店

建物外観 農産売場

畜産売場 日配売場

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畜産では「名古屋コーチン」や「沖縄県産アグー豚」などのこだ

わりコーナーや肉惣菜コーナーもあるが、ひき肉は料理用途に対応

して、細びきと荒びきをそろえている。惣菜では「手作りおはぎ」

や「とろ~り玉子のオムライス」など特徴のある開発商品が多いが、

価格は手頃である(弁当の中心価格は398円)。

グロッサリーでは日本全国の銘菓・名品を集めた「随想庵」、天

然酵母のパン工房(セルフ)「即興詩人」などもあるが、全国の珍

しいポテトチップスなどを集めた「B級グルメ」コーナーもある。

また、定番の主力商品(たれ、マヨネーズなど)は絞り込んでおり、

価格も安い(ワインのエンドでは498~1,080~1,980円の品ぞろえ)。

POPには商品の説明や調理の仕方、食べ方の提案などが必ず書か

生協運営資料 2012.3 55

シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

資料3-2 ハローデイ井堀店

建物外観 農産売場(果物)

畜産売場 クッキングサポート

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れている(水産のタコのところに「レバ刺し風に、ごま油と塩でど

うぞ」など)。店内では「クッキングサポート」のカウンターがあ

り、担当者がピンマイクをつけ、作り方や食べ方を説明している。

以上が、非常に対象的なルミエールを代表格とする低価格型業態

とハローデイを代表格とする提案型業態のイメージである。しかし、

どちらにも属さない業態のほうが圧倒的に多いし(エフコープもそ

の中に入る)、その中で、きちんと利益を出している企業もある。

だから、短絡的に低価格型か提案型のどちらかを選択しなければな

らないということではない。ただし、市場環境はますます厳しくな

っており(特に店舗業態以上に宅配業態の成長が目覚ましい)、価

値競争は一段と激しくなってきている。だからこそ、自店・自企業

のポジショニングを明確にし、「この商品(サービス)を買う時に

はあの店でと思い浮かぶ店(企業)」になる必要がある。

将来を見据えたポジショニングを

考えていくことが必要だ

資料4は、北九州地区の店舗ポジショニングを図示したものだ。

縦軸は「価格」(安い←→高い)、横軸は「売場づくり」(魅力あり

←→魅力なし)をとった。単純なマトリックスであるが、各店舗の

ポジショニングが分かりやすいと思う。

では今後(近未来)の日本のSMチェーンのポジショニングはど

うなるであろうか。「自企業(店)はこうしたい」と言う前に、世

の中の動向を把握しなければならない。消費増税を含む消費者の生

活コストの上昇が予想される以上、価格に対する意識はより一層、

高まると思ったほうがよい。従って、「同一商品だったら、より安

い価格で買いたい」人が増えてくるだろう。一方、「価格は高くては

困るけれど、それ以上に楽しく買い物をしたい」という人もいるだろ

う。もちろん、その他の考えを持っている人もたくさんいるはずだ。

しかし、生活に余裕のある一部の富裕層を除けば「価格が高い」

ということは許されなくなるだろう。従って、「低価格適正ゾーン

内に入っていること」が必須条件になりそうだ。これについては後

述する。そのように考えると、資料5のようなポジショニングにな

るのではなかろうか。

Aゾーンは、「低価格型業態」である。まずは価格が全てであり、

そのためにはより一層のローコスト運営を仕組み化(体内化)が必

要条件である。あえて、このゾーンを「プライス・ユートピア」と

名付けよう(格好良すぎるかもしれないが)。つまり、「価格の絶対

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的な安さが消費者の夢を実現できる」とでも訳そうか。Cゾーンは

「提案型業態」である。絶えず、食卓を豊かにする提案や買い物の

楽しさを演出する工夫が欠かせないので、人材育成が必要条件にな

る。このゾーンを「バリュー・ユートピア」と名付ける。

Bゾーンは、今もこれからも多くの店の姿ではあるが、今まで以

上に特徴を明確にして、組織を挙げて実現する必要がある。Aゾー

ンでもなく、Cゾーンにも入っていないと、何となく時代に取り残

されそうに思うが、現実に生き残っているのだから、消費者に支持

されているのだろう。その要因の一つは「近くて便利」である。各

種調査で「店の選択理由」の1位は、近くて便利である(食品以外

でも上位にくる)。このゾーンを「利便性提供型業態」と名付ける。

つまり「コンビニエンス・ユートピア」である。

ただし、いずれを選択しても、価格は無視できないだろう。今ま

での価格政策は、定番価格は高くてもチラシ広告に掲載するときに

は安くするという、ハイ&ロー政策が多かった。しかし、EDLP政

策をとっている低価格型業態と定番価格の価格差が広がる現状が続

けば、店に対する信頼が失われることが懸念される。最近、多くの

生協(他企業も)では、その対策として「EDLP商品」と称して、

幅広く値下げを実施して「毎日がお得」などのPOPを付けている

が、多少、乱造気味である。

「EDLP」は、「毎日お値打ち価格で販売し続けること」「継続的

な安さを実現すること」などと訳されているが、実践段階になると、

意外に言語明瞭・意味不明な言葉である。だから、その意味を「ど

こよりも絶対に一番安い」と考え、低価格を設定するだけでなく、

競合店に対抗してさらに価格を引き下げる低価格型業態もある。ま

た、「いつでも安いと感じてもらう価格と価値」と考え、どこより

も絶対的に安いとは限らないが価格はほどほどに安いという業態も

ある(生協はこのタイプが多い)。

例えば、カレールーの定番NBを205円で「EDLP」と称してい

るスーパーもあれば、178円で「EDLP」としているディスカウン

ト・スーパーもある。一体EDLPとは何か。各企業(店)とも、や

っていることが違う。EDLPの意味を市場における「低価格適正ゾ

ーン」と考えたらどうか。これが前述の「低価格適正ゾーン内に入

っている」という意味であり、資料5でいうと、網掛けした部分に

あたる。

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地域での「ナンバーワン・ポジショニング」

を明確にしよう!

ポジショニングを考える時には「差別化しよう」とか、「オンリ

ーワンを目指そう」というような(生協はこのような発想がなぜか

多い)、「変わった業態」を目指さないことが重要である。それは、

どんなに格好良くても、珍しくても、市場に受け入れられなければ

何の意味もないからだ。

大きくは、(1)低価格業態、(2)提案型業態、(3)利便性提供型

業態の3つの道(ポジショニング)が考えられる。

1.低価格型業態(プライス・ユートピア)への道

①コンセプトは「安いことがすべて」

もちろん、不安全・不安心は論外である

②売場は「ゴチャゴチャ(ルミエール型)、あるいはすっきり

(ザ・ビッグ型)」

③運営(商品流通)は「生鮮部門はテナントリース方式(ルミエ

ール型)、あるいは直営で生鮮100%アウトパック方式(ザ・ビ

ッグの水産・畜産)」

④商品(MD)は「商品を絞る(『これだけはある』くらいの品

ぞろえ)」

⑤価格は「競合店対抗値下げの徹底(EDLPに甘えないこと)」

⑥売場運営は「アルバイト・パート社員主体」

⑦店内作業は「マルチタスク(部門を超えた複数業務)」

⑧営業時間は「短縮(~19:00まで)」

⑨陳列方法は「単品大量、箱売り、投げ込み、棚上在庫など」

⑩数字目標は「(低荒利益率で提供する以上)倍以上の売上高を

目指す」

⑪注意点は「手を抜かないで、あらゆる手段でローコスト運営を

突き詰める」

2.提案型業態(バリュー・ユートピア)への道

①コンセプトは「ちょっとおしゃれで楽しいエンターテイメント」

②売場は「各売場(特に第2マグネット)に提案があり、お客が

立ち寄れるスペース」

③運営(商品流通)はコンセプトを徹底するため「100%直営」

④商品(MD)は「松(上):竹(中):梅(下)=20:60:20の

生協運営資料 2012.3 59

シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

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グレード比率」

a)あくまで基本MDを柱にすること(味付けMD、バリエー

ションMDはサブの位置付け)

b)松(上)レベルが増えすぎると、成立は難しい。

⑤価格は「原価+コストオンが基本(主力商品は低価格適正ゾー

ン内)」。ただし、随時ハイ&ローも。

⑥売場運営は「商品知識を身につけた正社員とパート社員中心」

特に惣菜や簡単便利商品、半調理品の売場を優先

⑦店内作業は「生鮮はインストア100%、部門担当者制」

⑧陳列方法は「関連陳列や試食、メニュー提案を重視」

⑨立地による対応は「競合店や商圏人口が少ない場合は、人手を

かけない運営タイプ(あっさり型)、競合店が多く、客数が多

く見込める場合は、人手をかけ、手間もかける生鮮強化型(こ

ってり型)の2パターン展開」

⑩注意点は「高級化志向と考えないこと」

ただし、ふだんから「ハレの日」を意識した売場を見せる。

3.利便性提供型業態(コンビニエンス・ユートピア)への道

1.低価格型業態と、2.提案型業態の道を目指さないのであれ

ば、価格は低価格適正ゾーンを維持しながら、価格以外の魅力を

つくること、突き詰めることである。だからといってそんな特別

なことではない。

①「主要客に喜ばれる品ぞろえ」を特徴とする

主要客の年齢や生活様式によって、品ぞろえは変わる。基本

MDは大きくは変えずに、今まで中途半端にやってきたことを

徹底して突き詰めることである。

a)60才以上の客(組合員)に対応

超小分け生鮮食品(ひき肉33gや刺し身3切など)を必ず

品ぞろえし、オールド商品(他店では効率が悪く、扱ってい

ない高齢者志向商品)も常時そろえる(ヒントは東京のダイ

シン百貨店)

b)単身者(若い人からお年寄りまで)に対応

すぐ食べられるもの、食材を残さず調理できるもの、つま

り、惣菜や簡単便利商品、レンジアップ商品パンやカップラ

ーメンの品ぞろえや売場をさらに増やす。惣菜(揚げ物、米

飯など)では出来たて、作りたてを売り物にする(ヒントは

サミットストア渋谷本町店)

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シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

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②「主要客の悩みの解消」を特徴とする

「今晩のおかずを何にしたらよいか」と悩んでいる主婦は多

い(ある調査では約80%)。同じ悩みを持つパート職員の生活

実感を売場で十分に発揮してもらう。それらを奨励する本部の

サポートがなければ長続きしない。

a)メニュー提案を全売場で実施

生鮮部門だけでなく、酒売場にいたるまで、毎週メニュー

提案が出ている。必ず、各売場と調整し、重点商品を中心に

した同一テーマで展開する(「カレー」であれば、全売場で

カレーを提案)。「クッキングサポート」カウンターはなくて

もよい。平ケースやエンド、催事場などでメニュー提案を実

施するほか、定番の前におしゃれな什器(可動式)で提案す

る(ヒントはヤオコー若葉駅西口店)。

b)定期的な試食(試飲、試用)を実施

試食がたくさん出ている店は楽しい。一緒に来る子どもた

ちが喜ぶだけでなく、大人にも試食は商品の発見そのもので

ある。重点商品の他、新商品、珍しい商品、話題商品は必ず

試食提案を行なう。また、店にとって売れ行きの悪い商品

(ABC分析のCランク商品)は、客(組合員)がその良さ

に気付いていないと考え、計画的に実施する(ヒントはサミ

ットストア成城店の「お試し下さい」コーナー)。

③「地元密着」を特徴とする

小商圏になればなるほど、お客(組合員)一人ひとりの店へ

の支持を増やす必要がある。そのためには地域特性をつかみ、

該当する商品を定番化してでも品ぞろえする。あるいは、同じ

店、同じMDをどこの立地でも同じように推進することは、チ

ェーンストアの使命ではあるが、地域の実情(立地・客層・競

合状況など)を精査した上で、個店対応することは正しい考え

方である。

a)地場商品・地域商品を今以上にそろえる

バイヤーは基本MDのレベルを上げることが主要業務であ

る。今まで味つけMD(鈴木訳:個店特性および地域特性に

対応したMD)を余計なことと考えて、十分に対応してこな

かった。お客(組合員)は基本MDと味付けMDの意味やそ

の差を知るよしもない。地元の野菜、牛肉、地元の港から水

揚げされた鮮魚、豆腐、麺類、納豆、漬物、和菓子、牛乳、

酒、地ビール、酒粕、米、米菓など、ネットワークを駆使し

生協運営資料 2012.3 61

シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

Page 15: 生協店舗、復活への道筋 <最終回> 生協店舗のポジショニング ... · 2013-05-30 · が増えそうだが、そうはならなかった。なんと、惣菜の売り上げが

てそろえる(ヒントはヨークベニマル白河横町店)。

b)食品に特化する

今や商圏内には、全ての業種・業態が存在している。そこ

で、SMとして得意とする部門に特化する。生鮮4部門と日

配の構成比を上げ、加工食品は絞り込む。日用品はほとんど

扱わない。もし、商圏内に店舗数が少なければ、反対に多品

目主義のほうがよい(ヒントはIY食品館高井戸店)。

以上のポジショニングはそれほど変わったことではない。今まで、

生協は熱心に多くの店を見て、よいと思うことを一生懸命“あれも

これも”と、取り入れてきたように思う。結果、手が回らなくなっ

て消化不良に陥り、特徴のない店舗になってきたのではないか。

あらためて、自店のポジショニングをお客(組合員)視点から

「見える化」し、組織内にいる全員が「触れる化」(理解し、納得す

る)ようにすべきである。

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シリーズ 生協店舗、復活への道筋 <最終回>

残された時間は長くない! 知恵の共有化を急ぎ、

魅力あるチェーンストアを目指してほしい

生協の店舗事業に対して、私の表現はきつく、厳しすぎると思われるかもしれな

い。しかし、生協も含めて「小売業ガンバレ」という私のスタンスは、今までも今

も、おそらくこれからも変わらないだろう。

生協では「運動」と「事業」をどう調和していくかという難しさを伴っており、

それは他社の考えの及ばないところだ。だからといって、お客(組合員)は同じ土

俵にいる競合他社と比べて魅力のない店を、いつまでも好意的に見てはくれない。

店舗事業の健全化に向けて、多くの生協人が奮闘していることを私は知っている。

だが、その他の小売業にとっても厳しい時代は続いており、今までのやり方を大き

く変えてでも生き残ろうと日々努力しているのだ。目を覚ましてもらわないと困る。

幸い、生協には持てる資産がある。運動と事業の融合だけでなく、グローバル

(広域連帯)とローカル(地域の隅々まで)を併せ持っている。このグローカルの発

想で知恵の共有化を急ぎ、一店舗一店舗が魅力ある生協のチェーンストアを目指し

てほしい。

2年間(12回連載)、私の意見に耳を傾けていただきありがとうございました。

鈴 木 哲 男