現代年金学とその計量モデル - jili.or.jp · 第1章 年金財政論の意義と目的...
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現代年金学とその計量モデル
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松 本 浩太郎(年金アクチュアリー)
第1章 年金財政論の意義と目的
第2章 社会経済の変化と年金財政
第3章 年金財政健全化の指標、渋沢の指標
第4章 遺族、障害給付のTerminal funding
第5章 田中、金子の福祉モデル
第6尊 公的年金の財政計画とその在り方
第7章 積立方式と賦課方式
第8章 修正賦課方式と修正積立方式
第9章 責任準備金の増加限度
第10章 年金基金の運動法則
第11章 退職金の自動スライド制の年金化
L、 T I*
第1章 年金財政論の意義と目的
現代年金学はつぎの三つの部門から構成されている。
1.類型論(Cathegory theory)
2.機能論(Function theory)
3.財政論(Financing theory)
そしてこれら三部門は、相互に深い関連があるために、それぞれの
部門を独立してのべることは困難であるが、全部門と年金制度全体と
の融合、分析がはからllてこそ、年金制度存立の意味があるo 本章で
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現代年金学とその計量モデル
はとくに財政論を中心としてのべる。
所得保障としての年金制度を未来永遠に健全に、確保し得るための
財政の仕組みを明らかにするとともに、未来永遠にわたる収支の動向
を策定する技術的開発、その資金が機関投資家としての運用等が年金
財政論の目的である。あわせて、社会経済の変動、年金制度の改正等
が年金財政に及ぼす影響を分析、究明し、かつその財政対策を提示す
ることも含まれている。そして未来永遠の年金財政の健全性を確保す
ることが、果して可能なりや否やという命題が提起されるが、これは
年金哲学の問題であるからここでは触れないでおこう。
さて、年金財政論にはミクロの財政論と、マクロの財政論とがある0
(1)ミクロの財政論-保険数理的健全性
ミクロの財政論はいわゆる年金の数理(pension mathematics)と
いわれるものであって、生命保険数理論(actuarial theory)を基盤
として、これに社会保険の特殊性すなわち
① 強制加入
② 永遠の保険契約(permanent policy)
③ 非営利的、利益配当なし保険
等を加味して、厚生省初代数理課長亀田豊治朗博士(1885-1944)が、
1920年すなわち大正9年(註 当時博士は国鉄共済組合主席アクチュ
アリー)に開発構築されたものである。
また博士は最初この理論を国鉄共済組合の年金財政に活用され、引
きつゞき今日まで半世紀以上にわたり、わが国共済組合では博士の理
論を踏襲している。そして年金の数理はつぎにのべる保険数理的健全
性(actuarial soundness)の確保をもって、年金財政健全性の指標
としている。
定義 いつ如何なる瞬間においても、収支相等の原則が成立するに
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現代年金学とその計量モデル
足る資産を保有していることを、 「保険数理的に健全である」という。
すなわち、不等式
資産≧支出現価一収入現価
が成立する場合をいう。
そして上式の右辺を責任準備金 reserve W )と定義する。
W-責任準備金-支出現価一収入現価・-----・-・・-(2)
さて、収支相等の原則の適用にあたって考慮する問題点はいろいろ
あるが、まづ次の二点が重要である。
(丑 収支相等の原則の通用対象の範囲、大きさ、つまり適用人員を
現在加入員のみとするか、或いは未来永遠の加入員を含めるか等
② 収支相等の原則の適用期間の長短、つまり一年間の収支の均衡
を見るか、あるいは現在加入員が全部消滅(年金受給者となり、
全部死亡するまで)の有限期間とするか、さらに未来永遠にわた
る収入現価と支出現価の均衡をはかるか、とくに、未来永遠にわた
る収入又は支出現価という概念が果して何を意味しているか、等
の価値判断
これら二つの通用についての区分から、現在、亀田博士が開拓され
た財政方式にはおおむねつぎの三っがある。
㈹ 加入年令式平準保険料、いわゆる数理的保険料(actuarial
contribution)といわれるもの
(B)年金現価積立保険料(terminal funding)
(C)綜合保険料(aggregate cost method)
wEm
これから解る通り、年金制度の財政方式にはどの方法が正しいとい
うことは云い難いと思う。どの財政方式を採用することが適切である
か、どの方式が都会が良いか等ということは可能であろう。これを裏
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現代年金額とその計量モデル
書きした様に、米国の年金アクチュアリー D. C. Bronson はつぎ
の様にのべている。
Actuarial soundness means different things for different
peoples
すなわちp「保険数理的健全性は各人各様に理解される」とは、まさ
に至言である。即ち年金数理論の多様性の認識である。
(2)マクロの年金財政論-計量モデル
マクロの年金財政論も亦ミクロの年金数理論の延長、拡大と考えて
よい。年金保険数理論では、この内容は取扱いの対象となり得ない。
すなわち
① 過去勤務年金
② ベース・アップ
③ 年金額のスライド
④ 給付の改善
等は年金数理の健全性を適用困難とならしめる場合が生ずる。これら
②~④は経済変動に応え得る年金制度として、所得保障の機能を確保
し得るためには当然採用すべきものであるにもかかわらず、古典派の
年金の数理では否定的結論さえでて来るo
たとえば、未来永遠にわたる収支相等の粧別は、ベース・アップや
スライドの割合(註以下これを"成長率"と称し、記号Cで示す)が、
予定利率iより大きい場合には、未来永遠にわたる収入現価とか支出
現価という概念は、無限大に発散してしまうので意味がない。すなわ
ち成長率Cを計算基礎にとり入れた場合の未来永遠の現価は
Ol〇
∑0 (誓)t -∑ ( 1弓T十 )~
- ゝ for i≦C
であるO そして予定利率iの役割を演ずる因子は
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現代年金学とその計量モデル
i-C≦ for ≦C
l+C
として作用するものである。 「成長率Cが予定利率iよりも大きくな
れば、予定利率は却ってマイナスとなる」から積立金の役割は生じ難
い。すなわち利息収入はマイナスである。従ってさきにのべた責任準
備金Vは次式より不定形となる。
Ⅴ-責任準備金---∞-不 定 形
これは明かに矛盾であるO最早、一定額の責任準備金の算出は不可
能であり、積立方式は完全に否定されてしまうであろう。
以上の論旨から理解される通り、高度成長経済(註i≦Cの経済)
のもとでは保険数理的健全性、つまり収支相等の原則の成立は放きし
をければならない。のみならず資本主義経済のもとでは、 「年金制度
は実施後おおむね、三分の二世紀以上を経れば、保険数理的健全性は
放きせざるを得ない」というのが欧米先進国の歴史であり実状である0
これがため、高度成長経済下では収支相等の原則の代りに、今後数
年乃至数十年間にわたり、収支非卓の原則さえ成立すれば差支えない
といわれている。そのために用いられるのが収支計画表の策定であり、
最早この段階では平準保険料(註 ここでは数理的保険料のこと)は
排して段階式保険料におきかえられる。これがいわゆる修正積立方式
とか修正放課方式である。
これを数式で示そう。 Tを年金制度実施後の経過年数とすれば
MT 第丁年度始めの保有資産
P T 〝 中の保険料収入
BT 〝 中の年金給付
l 予定利率
△MT-MT+l -MT 第丁年度中の増加資産
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現代年金学とその計量モデル
然るとき、収支計画表はつぎの高橋の循環方程式で算出される。
Mt+i -M.t(1+i)+Pt (1+÷)-St<1+Y>△Mt>O
Pt<Pt十 for t-1 -・・---・、 50
こうした循環方程式で年金財政の将来を卜する方法がわが国の七つ
の公的年金(私学共済を除く)で活用されている。
この高橋の循環方程式の解は次の通りである。
Pt-St
Mt+i -(1+ ‡l+i)<与
第2章 社会経済の変化と年金財政
積立方式か賦課方式か、或いは否かの論議はあくまで相対的なもの
であって、年金制度の性格、給付金が定額か報酬比例か、という給付
の型態、適用対象の大きさ、成熟係数の大小、年金制度実施後の経過
年数、ベース・アップの割合、スライドの率、組合員増加率等々、い
わゆる成長率、予定利率、年金支給開始年令、数理的保険料、整理資
源、公費負担等を変数とする計量モデルとして示されている。これら
15個の変数の大小如何によって積立方式か献課方式かゞ決まるであろ
う。第T年度始めの積立金の額をMT とすれば、積立金に関するつぎ
の小山の皆年金モデルが得られる。
Mr-M (R,、R2、Bl、B2、 E、 m、 T、C,、C2、C3、i、r、p、
R B C
q、 G)
ここに15個の変数はつぎの通りである。
R 公的年金、私的年金、協約年金
Bl 給付の形態、定額制とか報酬比例制
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.現代年金学とその計量モデル
B2 有期年金、終身年金
E 適用対象とその範囲
m 成熟係数(既裁定年金者数と加入人員との比率)
T 制度実施後の年数
Cl ベース・アップの割合
C2 スライドの割合
C3 被保険者数の増加率
1 利子率
r 年金支給開始年令(定年退職年令)
p 段階式保険料(数理的保険料を含む)
q 整理資源
G 公費負担(事業主負担を含む)
これら一般計量モデルの展開は本章では省略する。たゞこのモデル
の貴も簡単ないわゆる吾孫子の極限方程式を示しておこうO すなわち、
昭和12年馬場大蔵大臣が三分半国庫債券-と五分利国債を低利借換の
とき、吾孫子豊氏が第64回帝国議会貴族院決算委員会に提示したもの
である。なおこれよりおくれること15年にして Trowbridge氏が
Fundamentals of pensions TSA 1952に発表されている。たゞしこ
の場合はC-0である。高橋の循環方程式の極限を意味する。
Mxi + p - B + MxC -(3)- 保 給 一利収 険 増資息入 料 付 加産
これを解いて極限状態(完全成熟期)における資産の大きさは次式
で示すことができる。
P c)-P(i)
i-Cfor i>C -4
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現代年金学とその計量モデル
吾孫子の極限方程式(3)から解る通り
① i>C の場合
つまり予定利率iが成長率Cより大きい場合には、数理的保険料p
(i)は年金給付B、賦課式保険料P(c)よりも小さい。
P(i)<B-P(c)
から、完全積立方式、保険数理的健全性は確保できる。
② 1-C
すなわち予定利率iが成長率Cよりも大きい場合には、数理的保険
料P(i)は放課式保険料P<c)に相等しいo
P(i)-B-Pc)
従って、予定利率iが成長率Cに相等しくなれば、賦課式保険料は
最廉価となる。
③ i<C
つまり予定利率iが成長率Cよりも小さくなれば吾孫子の極限方程式より
Mx i- -B-P(i)<0
であるから
B<P(i
となる。すなわち積立方式の場合の方が献課式保険料Bよりも却って
大きくなるのである。
従って如何に成長率Cが高くなっても、賦課式保険料Bで充分であ
る。にも不拘、ベース・アップや年金スライドのために生じる後発P
SLを、整理資源方式で処理するアクチュア))-をときに見かけるが、
これは間違いである。つまり高度成長経済のもとでは整理資源という
概念は不要である。これを物理学に例をみれば「水はいくら熱しても
百度に達すればそれ以上の温度には上昇し難い」ということ、同じよ
うに考えればよいであろうo強制加入の制度では注意を要する0
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現代年金学とその計量モデル
この様に成長率Cが年金財政において重要な役割を演ずるようにな
れば、保険数理的健全性-責任準備金計上の意味が薄れてくる。これ
を生命保険とわが国公的年金との場合について比較対象したのが、第
1表責任準備金を負債に計上する意義である。
第1表 責任準備金を負債に計上する意義
区 分 生 命 保 険 公 的 年 金
(彰加 入 後続加 入者なし (任意) 永遠に新規加入あ り(強制)
②継 続 性 任意解約可能 永遠の契約
(診営 利 性 利益配当の基準 利益配当な し保険
④公 平 性 個人的公平性 生存権的公平性
⑤スライ ド性 な し 自動 スライ ド
⑥健 全 性保険数理的健全性 未来永遠の収支均衡
(収支相等の原則) (収支非負)
⑦責任準備金 絶対必要性 幻の責任準備金
⑧計 算 基 礎 6 つの計算基礎 (註)
6 つの計算基礎 (註)
新規加入員
初 任 給
B ase up
S ide
⑨保 険 料 平準保険料 段階式保険料
註
6つの計算基礎とは
① 予定利率 ④ 死亡生残表
② 給料指数 ⑤ 初期加入年令
③ 脱退残存表 ⑥ 年金支給開始年令
等をいう。
かくの如く責任準備金計上の意味を捨てたとはいえ、積立方式を踏
襲するいわゆる修正積立方式すなわち収支非負の原則を採用するのが、
わが国公的年金の財政では適切であると考える。
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現代年金学とその計量モデル
惟うに年金数理論を活用すべきアクチュアリーがI、逆に古典的年金
数理論に縛られてしまって、年金数理論に使われている様な事情を、
一部アクチュアリーの人々の間に見受けることがあるoアクチュアリ
ーたるものは、動態経済下にあっては年金数理論の奴隷から解放され
て、年金制度の機能を如何にして貴高に発揮出来るかについて、年金
財政健全化の仕組みと論理を開発、創造してゆくことがその義務であ
り責任であると考える。そこにこそ年金制度の未来を聞く鍵があり、
変革の哲理をさえも感ずるのである。
第3章 年金財政健全化の指標-年金財政の
健全性に関する渋沢の指標
前節で、わが国公的年金が修正積立方式を採用するにあたり、当然
ながら共済組合や適格年金では採用している、ことをのべてきた。す
なわち完全積立方式の基礎ともいうべき
平準保険料-数理的保険料+整理資源
という財源調達方式を放きして、段階式保険料方式の採用に転化せざ
るを得ないということをのべた。
しからば公的年金財政健全化の指標として、 ①如何なる蒔点におい
て、 ②どの程度保険料を引き上げるか、の基準をどこにおき、指標を
どう決めるか、という問題が提起される。
この指標判定の基準として絶対的な数値は、いまだ世界各国いずれ
の国々にも見当らないが、おおむね以下にのべる様な若干の数値が活
用されている。
(1)成熟係数
(2)給付効率(収支係数)
(3)積立比率
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現代年金学とその計量モデル
(4)給付金に対する積立倍率
(5)確率的健全性(弾力性効率)
(6)年金現価効率
これら六種類を活用して修正積立方式における、年金財政健全性判
定の指標として提示したのが、農林年金主席アクチュアリーの渋沢伊
-氏であるから、これらを修正積立方式(又は賦課)の場合の「健全
性に関する渋沢の指標」と呼んでいる。
さきに一般計量モデルでのべた様に、積立金の大小は年金制度実施
後の経過年数とか、成熟係数を何よりも基準とする必要がある。
(1)成熟係数
成熟係数とは「被保険者数に対する年金受給権者数の割合」であっ
て次式で示される。
年金受給権者数成熟係数-
被保険者数
これをわが国六つの公的年金制度について、昭和44年~48年度の5
ケ年間について比較したのが、第2表成熟係数である。
(2)給付効率(収支係数)
給付効率とは「保険料収入に対する給付金支出割合」のことで次式
で定義する。
給付金支出給付効率- -収支係数
保険料収入
これらの数値は、第3表給付効率、に算出した。
(3)積立比率
これは現在保有資産、つまり積立金の責任準備金に対する比率であ
る。すでにのべた通り責任準備金計上の意義がうすれてきているので、
それの計算さえも省略している制度が多いから、ここでは公企体、私
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現代年金学とその計量モデル
学、農林年金の三組合の分を、第4表積立比率についてのべる。すな
rSK
積 立 金積立比率-
責任準備金
で算出した数値である。
(4)給付金に対する積立倍率
これは第5表給付金の積立倍率で計算した数値であって、次式でも
とめられる。
給付金に対する積立倍率-年度末積立金
当該年度給付金支出
ここに示した「給付金に対する積立倍率」は別段意味はないが、米
国のOASDHIでは、この倍率が僅か0.6であって殆んど賦課方式
に近く、段階式保険軒を数年日毎に引き上げている.
(5)確率的健全性-弾力性効率 ヴ(t)
確率的健全性とは、 「給付稔額の伸び率に対する積立金の伸び率」
を弾力性効率vit)と称して、
v(t>i
の場合、年金財政は「確率的に健全である」と定義する。すなわち
M(t) 第t年度始めの積立金
G(t) 第t年度始めの組合員給与絵額と定義すれば
M t+1) -M(t)
弾力性効率-v(t)-G(t+1) -G(t)
G t)
であるから、もしも「弾力性効率rtt)が1より小さくなれば、すみや
かにふた,び
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現代年金学とその計量モデル
V(t)>1
となる様に保険料を段階的に引き上げる」措置を講ずればよい。
この様な方法はすでに電気通信共済会財政委員会(会長 平田冨太
郎氏)において答申したもので、現在上記共済会ではこの方法を活用
し労組の納得を得ているがため、昨年4月料率を3%から 3.5%えの
引き上げが実施されたO この答申では??(t)を弾力性係数とも呼んでい
る。
この弾力性効率を6つの年金制度について計算したのが、 「第6表
確率的健全性」である。
なお、積立金が保険数理的責任準備金である場合には、次の2式が
容易に証明出来るO
かt>l for t>oo
Urn??t -1t→cc
(6)年金現価効率
年金現価効率とは「給与総額に対する年金受給者分の責任準備金の
割合」であって、次式で定義する。
既裁定年金者責任準備金年金現価効率-
組合員給与総額
これは農林年金と私学共済について、第7表年金現価効率に計算し
てある。
要は、以上にのべた6つの渋沢の健全性指標を綜合的に勘案した上
で、段階式保険料の引上げを行うべきであろう。たゞ確率的健全性を
示す弾力憧係数v(t)にかぎり
vw≦1
とならない様にという条件さえ厳守して、段階式保険料の引上げを行
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現代年金学とその計量モデル
他 制 度 と の
第2表 成熟係数(被保険者数に対する年金受給権者数の割合)
制皮別
午皮別
国民年金 (除、福祉年金者)
被保険
者 数
年金受給権者数 成 熟 係 数 被保険
者 数
年金受給権者数
計 老令年 金 汁 こ老令
年 金 計巨 十
「年 度 千 人 千 人 r ¥ % % I K TA 千 人 %
44 2 3 ,40 7 158 0 .7
1 .0
21 ,5 82 1 ,0 19 44 7 4 .7
4 5 2 4 ,33 7 177 0 . , 22 ,2 60 1 ,188 52 0 5 .3
4 6 2 3 ,66 9 4 30 2 29 1 .8 22 ,5 14 1 ,3 7 1 60 1 6 .1
4 7 2 4 ,4 10 7 5 1 5 18 3 .1 J .I 23 ,0 73 1 ,5 72 69 6 .8
48 2 5 ,1 36 1 ,0 56 7 8 9 4 .2 3 .1 23 ,7 07 1 ,7 7 3 7 75 7 .5
制磨刺
午皮別
公共 企業体 磯貝 等共 済組 合
被保険
S ft
年金受給権者数 成 熟 係 数 被保険
者 数
年金受給権者数
計 退 職年 金 計 退 職
年 金 計 退 職年 金
.
年 度 T ¥ I K 千 人 % % r v T - V -T- ¥ %
4 4 79 1 22 9 1 60 29 .0 20 .2 18 6 6 3 3 .2
4 5 789 24 1 1 70 30 .5 2 1 .5 19 4 8 4 4 .1
4 6 7 85 25 4 1 79 32 .4 22 .t 20 3 9 4 4 .4
4 7 7 86 26 6 8>.) 33 .8 24 .0 21 4 ll 4 5 .1
4 8 78 5 27 9 1 97 35 .5 2 5 .1 22 6 12 5 5 .3
現代年金学とその計量モデル
財 政 比 較 表
国 家 公 務 月 共 済 組 合 地 方 公 務 月 等 共 済 組 合
組 合
月 数
年金受給権者数 成 熟 係 数 組 合
月 数
年金受給権者数 成 熟 係 数
計 退 職年 金
計 退 職年 金
計 退 職年 金 計 退 職
年 金
p ¥ 千人 千人 % % 千人 千人 千人 % %
1,143 136 105 ll.9 9.2 2,471 237 198 9 .6 8 .0
1,149 155 120 13.5 10.5 2,536 275 228 10 .8 9 -0
1,154 176 138 15.3 ll.9 2,622 313 259 ll.9 9、9
1,161 197 154 17 .0 13.3 27738 351 289 12 .8 ヱ0 .6
1,158 214 168 18 .5 ユ4.5 2 ,842 386 315 13 .6 ll.1
農林 漁業 団体職 員 共済組 合
組 合
員 数
年金受給権音数 成 熟 係 数
計 退 職年 金 計 退 職
年 金
r- ¥ f ¥ 千人 % %
400 19 14 4 .8 3.5
407 24 18 5.9 4.4
412 30 22 7.3 5.4
419 35 26 8 .4 6.3
426 41 30 9 ,6 7.2
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現代年金学とその計量モデル
第3表 給付効率(保険料収入に対する給付金支出の割合)
制度別
年度別
図民年金 (除,福祉年金) 厚 生 年 金 国 共 済
保険料 給付金 給付 保険料 給付金 給付 掛 金 給付金
収 入 支 出 効率 収 入 支 出 効率 収 入 支 出
年 度 百万円 百万円 % 百万円 百万円 % 百万円 百万円
4 4 68,194 9 ,566 14 .0 553 ,604 3,855 17 .9 61 ,273 34 ,701
4 5 106,433 15 ,0 57 14 .1 747 ,945 154 ,470 20 .7 71 ,866 45 ,213
4 6 122,4 13 24 ,245 19 .8 871 ,765 183 ,079 2 1.0 82 ,971 57 ,215
47 150,276 47 ,234 31.4 1 ,043 ,123 225,922 21.7 95 ,24(1 70 ,554
4 8 174,654 77 ,315 44 .3 1 ,346 ,879 331▼061 24 .6 111,9 94 ,053
給付
mi
%
56.6
62.9
69.0
74.1
84.0
(⑳国共済、地共済、公企体共済の掛金収入には、事業主たる図、地方公共
第4表 積立比率(責任準備金に対する積立金の割合)
J度別
年度写I
公 企 体 共 済 fc'. 涌
L竺 竺竺 積 立 金 積立比率 責任準備金 積 立 金
年 度 l'j 'j P ] ti W l % ft v n i 百 万 円
44 2 ,1 52 ,8 3 5 39 6 ,77 4 18 .4 94 ,6 4 5 ,5 13
4 5 2 ,5 60 ,0 6 4 4 6 6 ,26 4 18 .2 11 5 ,90 8 55 ,4 73
4 6 3 ,2 66 ,8 54 55 9 ,27 9 17 .1 1 46 ,4 14 6 7 ,26 0
4 7 3 ,8 08 ,144 65 0 ,10 3 17 .1 186 ,0 2 6 8 2 ,69 1
48 ;,6 79 ,0 1 2 7 4 8 ,58 4 16 .0 2 43 ,9 3 9 10 0 ,5 14
48.1
47.9
45.9
44.5
41.2
現代年金学とその計量モデル
地 共 済 公 企 体 共 済 私 学 共 済 農 林 年 金
掛 金 給付金 給付 m k 給付金 給 付 掛 金 給付金 給付 掛 金 給付金 給付
収 入 支 出 効率 収 入 支 出 効率 収 入 支 出 効率 収 入 支 出 効率
百万円 百万円 % 百万円 百万円 % 百万円 百万円 % 百万円 百万円 %
147 ,730 72 ,586 49 .1 48 ,203 56,191 116 .6 6,348 2,223 35 .0 16 ,474 5 ,108 31.0
175 ,704 94,480 53 .8 55ー903 68 ,529 122 .6 7 ,492 2ー620 35 .0 19 ,222 6 ,048 31.5
206 ,718 119,172 57 .6 65,828 82,380 125 .1 8 ,941 3▼271 36 .6 22 ,715 7 ,708 33.9
248 ,594 150,815 60 .7 74ー338 97,249 138 .0 10 ,887 3,733 34 .3 26 ,798 9 ,398 35 .1
307 ,563 195,446 63 .5 86,203 122,238 141 .8 13 ,435 4,552 33 .9 31 ,745 12 ,534 39.5
団体、公社としての負担分も含めているO)
農 林 年 金
責任準備金 横 立 金 積立此率
百万円 百 万円 %
2 78 ,8 03 10 0 ,0 55 35 .9
3 6 1 ,163 12 1 ,56 0 3 3 .7
4 5 1 ,6 28 14 6 ,94 5 3 2 .5
5 43 ,140 17 7 ,1 37 3 2 .6
70 5 ,9 93 2 11 ,82 9 3 0 .0
-131-
現代年金学とその計量モデル
積 立 比 率
年度末積立金第5表 給付金に対する積立倍率-
制度別
午度別
当該年度給付金支出
国民年金 (除、福祉年金 ) 厚 生 年 金
給付 金 Wt .,v & 積立倍率 給付 金 積 立 金
年度 百万 円 百万円
58 .382
百万円 百万 円
44 9,566 558,478 3,855 3,554,000
45 15,057 727,124 48 .291 154 ,470 4,420,194
46 24,245 937,401 38 ,664 183,079 5,441,567
47 47,234 1,176,092 24 .899 225,922 6,673,624
48 77,315 1 ,446 ,981 18 .715 331,061 1:194,30 1
35.952
28.615
29.723
29.540
24.752
制度別
午度別
公共企業体職員等共済組合
給付金 積立金 積立倍率 給付金 積立金
年度 百万円 (H im
7 .061
百万円 百万 円
44 56,191 396,774 2 ,223 45,513
45 68,529 466,264 6 .804 2 ,620 55,473
46 82,380 559,279 6 .789 3,271 67,260
47 97,249 650,103 6 .685 3,733 82,691
48 122,238 748,584 6 .124 4 ,552 100,514
-132-
現代年金学とその計量モデル
比 較 表
国 家 公 務 員 共 済 組 合 地方 公務 員等共 済組 合
給 付 金 積 立 金 積立倍率 給 付 金 積 立 金 積立倍率
百万円 tl 'Jl1]
16 .286
fl'J ・ U 'ljH
13 .32034 ,701 565,133 72,586 966 ,870
45 ,213 668,552 14.787 94,480 1,207 ,585 ユ2 .781
57 ,215 787,099 13.757 119,172 1 ,490 ,112 12 .504
70 ,554 921,970 13 .068 150 ,815 1,839 ,688 12 .198
94 ,053 1,073,005 ll.409 195,446 2,253 ,022 ll .528
農林 漁業団体職員共済組合
給 付 金 積 立 金 積立倍率
M Tj H 百 万円
19 .5 885 ,108 10 0 ,05 5
6 ,0 48 12 1 ,560 2 0 .09 9
7 ,7 08 14 6 ,94 5 19 .0 64
9 ,3 98 17 7 ,13 7 18 .8 48
1 2 ,5 34 2 11 ,82 9 16 .90 0
18 ,8 48 25 4 ,97 8 13 .5 28
-133-
現代年金学とその計量モデル
第6表 確率的健全性(弾力性効率) (給与総額の伸び率に対する穣
刺皮
年 別
皮刺
厚 生 年 金 国 共 済
給 与
放 線
伸び率
積立金 弾力佳 給 与
総 額
伸び率
積立金 弾力催 給 与
<」 fit
伸び率
積立金
伸び率 効 率 伸び率 効 率 伸び率
44年 度 1 .29 0 1 .2 32 0 .9 55 1 .143 1 .1 84 1 .0 3 6 1 .15 7 1 .2 67
4 5 1 .18 9 1 .24 4 1 .0 46 1 .165 1 .183 1 .0 15 1 .18 7 1 .24 9
4 6 1 .18 7 1 .2 3 1 1 .0 37 1 .153 1 .17 7 1 .0 2 1 1 .184 1 .23 4
47 1 .15 1 1 .2 26 1 .0 65 1 .135 1 .17 1 1 .0 3 2 1 .18 7 1 .2 35
4 8 1 .27 3 1 .2 28 0 .9 65 1 .180 1 .164 O .s 1 .23 1 1 .2 25
第7表 年金現価効率(給与総額に対する年金着分責任準備金の割
刺皮
・v
皮
別
私 学 共 済 .
給 与 絵 頗 年 金 者 分 年 金 現 価 ( 参 考 )
( 年 額 ) 責 任 準備金 効 率 対,総責任準備金 対, 積立金
年度 百万円 (I h I'] % % %
44 10 1 ,05 1 7 ,7 13 7 .6 8 .1 16 .9
4 5 1 18 ,65 4 9 ,4 7 1 8 .0 8▼2 17 .1
4 6 14 3 ,63 5 12 ,3 79 8 .6 8 5 18 .4
4 7 1 73 ,9 30 15 ,8 23 9 .1 8 .5 19 .1
48 2 18 ,23 2 23 ,6 39 10 .8 9 47 23 .5
(参 考) 資料はすべて「昭和49年版 社会保障統計年報」 (一部、昭和48年
-134-
現代年金学とその計量モデル
立会の伸び率)
公 企 体 共 揖 私 学 共 済 農 林 年 金
給 与
総 額
伸 び率
積 立金 弾力催 給 与
絵 頗
伸び率
積立 金 弾 力佳 給 与
& M
伸 び率
積 立金 弾力佳
伸 び率 効 率 伸 び率 効 率 伸 び率 効 率
1 .147 1 .18 1 1 .03 0 1 .1 74 1 .2 24 1 .04 3 1 .167 1 .2 20 1 .04 5
1 .157 1 .17 5 1 .0 16 1 .1 74 1 .2 19 1 .0 38 1 .176 1 .2 15 1 .03 3
1 .146 1 .19 9 1 .04 6 1 .2 11 1 .2 12 1 .00 1 1 .184 1 .20 9 1 .0 21
1 .134 1 .16 2 1 .02 5 1 .2 11 1 .2 29 1 .0 15 1 .17 1 1 .2 0 5 1 .02 9
1 .162 1 .15 1 0 .99 1 1 .2 55 1 .2 16 0 .9 69 1 .2 1 1 1 .196 0 .9
農 林 年 金
給 与 給 顔 年 金 者 分 年 金 現 価 ( 参 考 )
←キ Si'l ! 責 任準備 金 効 率 対 ,総責 任準備金 対 , 積 立金
W l l'l 百万 円 1 % % %
182 ,6 9 1 3 5 ,5 11 19 .4 12 .7 3 5 .5
2 14 ,8 12 48 ,13 7 2 2 .4 13 .3 39 .6
25 4 ,4 36 8 ,9 99 27 .1 15 .3 47 .0
29 7 ,8 87 87 ,9 14 29 .5 16 .2 49 .6
3 60 ,6 26 14 1 ,9 4 5 39 .4 20 .1 6 7 .0
版および私学共済統計)による。
-135-
現代年金学とその計量モデル
第8表 遺族・障害給付のターミナルファンディング(保険料)
区
分
午皮
給 与 年 額
①
遺 族 年 金 障 害 年 金
新規発 生 現 価 P 新規発生 現 価 P
年 金 額 ② (②÷①) .年 金 額 ③ (③÷① )
年 度 千 円 千 円 千円 % 千円 千 円 %
45 20 0 ,224 ,59 5 7 8 ,08 81 ,0 14 ,7 33
16 %
5 .0 7
4 .2 6 )22 ,362 24 2 ,19 1
1 .2 1
1 .02
4 6 236 ,6 18 ,9 3 1 1 15 ,70 81 ,50 3 ,5 95
16 %
6 .3 F
(5 .3 3 30 ,2 8 1 3 2 7 ,95 71 .39
1 .17
47 27 9 ,14 6 ,0 3 9 12 1 ,05 81 ,5 73 ,117
18ー0
5 .6 4
4 .7433 ,4 98 36 2 ,79 8
1 .30
1 .09
4 8 330 ,6 8 2 ,284 154 ,22 12 ,00 4 ,0 62
18 %
6 .0 6
5 .0948 ,4 80 52 5 ,060
1 .59
1 .34
4942 1 ,0 3 2 ,78 1
32 2 ,10 44 ,18 5 ,6 58 9 .9 4
76 ,384 8 2 7 ,27 31 .96
(変更予算書より) 18 % 8 .15 ) 1 .6 1
数保
理険
的料
~46年 度 1216 % (10 霊 完) 0 .79 %
(0 .66 % )
47年度以降 1118 % ( 9 霊 Z0 ) 0 .58 %
0 .47 % )
(参 考)
① カッコ内は国庫補助分を除いたもの。
② 給与年額は、年度内掛金収入を掛金率96‰で除したもの。
③ 年金現価率は、 44年度再計算時(47年度適用)の平均値。
ィ.遺族年金-12.99474
ロ.障害年金-10.83045
-136-
現代年金学とその計量モデル
遺 族 】 時 金 W 9 - Bf 4 -
汁額 P 額 P
㊨ (④ ÷① ) ⑤ (⑤ ÷① )
千 円 % 千 円 % %
3 1 ,1 230 .16
3 ,05 20 .02 6 .4 6
0 .1 3 ( 0 .0 2 ) 5 .4 3
3 3 ,4 300 .14
6 ,07 10 .0 3 7 .9 1
(0 .12 0 .0 3 (6 .6 5 )
3 4 ,7 540 .1 2
4 ,14 40 .0 1 7 .0 7
0 .10 0 .0 1) 5 .9 4
3 4 ,83 40 .l l
4 ,09 50 .0 1 7 ▼7 7
0 .09 (0 .0 1 6 .5 3
1 ,56 70 .00
8 ,18 40 .0 2 l l .9 2
0 .00 (0 .0 2 (9 .78 )
0 .6 0 % 0 .0 3 % 1 4 .2 5%
0 .5 0 % ) 0 .03 % l l .9 7%
0 2 3 % 0 .00 % 1 2 .32 %
0 .19 % (0 .00 % 1 0 .10 %
-137-
現代年金学とその計量モテンレ
えばよい,という一つの決め手はあり得ると思う。
ただし、保険数理的健全性が崩壊して修正積立方式や修正朕課方式
を採用している場合、年金財政の健全性の水準比較とか、各種の公的
年金の調整や統会を行う場合の年金財政の健全性判定基準にあたって
は、必ずこれらの渋沢の健全性の指標を算出して、比較検討しこれら
6つを要因として改めて年金数理を構築したい。
さらに進んでこれら渋沢の健全化の指標と保険数理的諸関係の公式
との連関を究明することはきわめて重要な課題であるが、いまだ全く
未解決の分野である。これこそ高度成長下の年金数理論であろう。
第4章 遺族、障害給付のTerminal funding 保険料)
これは1918年(大正7年)に、国鉄共済組合の業務災害給付保険料
算定に活用されたのが貴初である。現在ではスウェーデンのATP (
white colorの協約年金)の遺族、障害給付を始め、 STP (blue
colorの協約年金)で活用されている。これは年金制度即時成熟化の
ためにはまことに妙案である。
わが国の公的年金でもこの際、遺族、障害給付の保険料は脱退残存
表を用いることなく、 Terminal funding方式によることの方が、低
くなっているので適切だと考える。
すなわち第8表遺族、障害給付のターミナルフアンディング(保険
料)を活用すれば次の通りである。
① たとえば農林年金で、 Terminal funding方式によれば保険料
率は、昭和45-49年度 5.43%、 6.65%、 5.94%、 6.53%、 9.78%
である。
② これに対して脱退残存表による数理的保険料は47年度までが、
14.25%、 47年度以降は12.32%となって、何れもTerminal fund-
-138-
現代年金学とその計量モデル
ing方式の場合より低い保険料となっている。
なお、 Terminal fundingによる保険料は次式で計算する。
当該年度新規発生年金者の年金現価保険料-
組合員給与総額
これらの保険料を農林年金について、昭和45-49年度まで算出した
のが第8表である。これらTerminal fundingによる保険料は、数理
的保険料よりもはるかに低廉に済んでいるD従って、遺族、障害給付
の財源率はスウェーデンの様にTerminal fundingによることの方が
合理的であると考えられる。国鉄共済組合では大正7年(1918)に公
傷給付にこの方式を通用している。
第5章 田中、金子の福祉モデル
高賃金、高負担、高福祉といわれているが、負担を高くすればどれ
だけ福祉が大きくなるかを、算出するいわゆる福祉モデルを農林年金
の副アクチュアリー田中康資、私学共済の郡アクチュアリー金子登の
両氏が開拓した。
この考え方はベース・アップやスライドの割合を、予定利率と綜合
して計算するもので、段階式保険料の合理性を裏書きしているもので
ある。
(1)福祉率Wは次式で定義する。
数理的保険料福祉率-W-予定利率×
P
- i X-
0
ここに
i 予定利率
本人負担掛金率
-139-
現代年金学とその計量モデル
P 数理的保険料
o 本人負担の掛金率
C ベース・アップ率又はスライドの割合、いわゆる成長率
なお福祉率は昭和48年度では9.8%である。
(2)高福祉率 W
これは利子率と成長率を組み合わせた概念である。
高福祉率-w-予定利率+ (震う音孟芸) )
数理的保険料
本人負担掛金率- i +c X-
上述の高福祉率は農林年金では、昭和48年度が実に44.1%となって
いる。
(3)田中、金子の福祉モデル
いわゆる成長率がCからC十△Cに上昇すれば、数理的保険料Pは
P+△Pに、また本人負担料金率0は0+△0に上昇する。この場合
高福祉率Wが低下しないためには、本人掛金負担率の増加△0に制
約が生ずるO この増分△Oの限界を示したのが次式である、田中、金
子の福祉モデルである。
・o<oX(烹+△P △C、 △P
i +
上式は、次の不等式を△Oについて解けば容易に得られる。
すなわち w<w+△W
である′から △Oについて
(i・車三≦ i+c十△C)×の不等式を解けばよい。
-140-
P+△P
o+△o
現代年金学とその計量モデル
従って田中、金子の福祉モデルから、段階式保険料の引き上げ分中
本人負担の保険料
o+△O
の上限がきまる。高負担はよいが負担の公正を守らねばならぬ。
要するに低成長下では、福祉抑制のみならず「高負担、低福祉」に
さえおち入るおそれがあるので、この危険に歯止めをかけ、検証する
役Hがこの田中、金子の福祉モデルの意義と役割であり、高福祉の美
名のもとに高負担o+△Oの収奪にブレーキをかけてくれるのが、こ
の田中、金子の福祉モデルである。すなわち負担公正の限界である。
もとより、高負担、高福祉が実現するための唯一の代替こそは「低
貯蓄」であるから、福祉国家達成のためには永年にわたる日本国民の
慣習である「高貯蓄」を放きしなければならないであろう。
第6章 公的年金の財政計画とそのあり方
以上の説明を通じて理解される通り、ベース・アップや年金スライ
ドが今日のように毎年定期的に実施される状態にあって、保険数理的
健全性を維持してゆくことは適切でないのみならず、理論的には間違
いである。従って、責任準備金計上の意義は殆んど皆無に等しく、数
理的保険料とか整理資源という平準保険料方式を排して、段階式保険
料に移行すべきである。将来は私的年金さえも段階式保険料方式の採
用に踏み切るのが望ましいであろう。
では①如何なる時点に、 ②どの程度引き上げるか、という問題を解
決しなければならぬ。これには次の二つの財政方式が提示される。
(A)確率的健全性による方法
(B)共済組合の給付が厚生年金を上廻る部分を考慮した財政方式
(渋沢の財政理論)
-141-
現代年金学とその計量モデル
これ等についてのべる。
(A)確率的健全性による方法
次に示す弾力性係数 承t)
vW-M(T+1)-M(T) G (T+l)-G (T)
M (T) G (T)
が1より小さくなった年度をT年度とすれば、向う5年間V(T+t)
t-l、 2、 3、 4、 5)が1より大きくなるだけ
V(T+t) >1 for t-1、 2、 3、 4、 5
資産M(T)を大きくするために、保険料を引き上げる必要がある。この
場合5年間は平準保険料を維持し変更を加えない。
(B)共済組合の給付が厚生年金を上廻る部分を考慮した財政方式
(渋沢の財政理論)
この方法は農林年金の主席アクチュアリー渋沢伊一氏により提示さ
れた。すぐれた財政方式としてここに推奨したい。従って一般にこれ
ら一連の理論を渋沢の年金財政の理論とよびたい。
農林年金や私学共済は社会保障制度の一環であり、被用者年金つま
り職域年金の中核ともいうべき厚生年金の部分と、それを上廻る労務
管理的性格とを併せ持ったものである。つまり厚生年金の福利厚生化
となった協約年金(註、多数事業主年金)という性格を反映した財政
方式が考えられる。以下仝年金をモデルとしての渋沢の財政方式をの
べる。協約年金はある種の綜合設立の調整年金である。
まづ記号を定義する。
Pl 農林年金の数理的保険料
P2 11 で厚生年金相当給付を行うとした場合の数理的保険
料。従って
Pl>Pa である。
-142-
現代年金学とその計量モデル
Pi-Pi労務管理的部分。これは職域負担部分で将来組合員との均衡
で完全積立にすべき性格
とすれば、 PlとP2についての財政方式を区分して取扱うことができる。
まづP2については、厚生年金相当部分であるから仝年金と同様の積
立比率、つまり段階式保険料を採用する。すなわち厚年の平準保険料
は1。。。、及び段階保険料は男子孟であるから、積立比率に代-て段
階調整率を求めれば
段階式保険料 76段階調整率- -0.644
平準保険料 118
となる。この段階調整率を農林年金のP2に乗じた料率を通用する。た
ゞ、農林年金と厚生年金では成熟係数を異にしている点等をどのよう
に加味するかはなお充分検討の余地は残されている。
このための試案として渋沢の公式が有効であると思う。
1
段階調整率-- (Pl-P, +p2×0.644×αiPl
ここにαは成熟係数を勘案化した-定律であって、一例として49年
度農林年金成熟係数は
農林年金 7 %
厚生年金 3%
であるから
α-1+ (0.07-0.03 -1.04
とおくのである。或いは完全成熟状態までの遅速を勘案して完全成熟
率を33.3%と仮定する。そこで末成熟度を
農林年金 33.3%- 7%-26.3%
厚生年金 33.3%- 3 %-30.3%
とすれば
-143-
現代年金学とその計量モデル
α-1+30.3
,26.3-1
- 1 +0.152-1.152
とすることができるであろう。
以上要するに、 (A)の平田博士の確率的健全性と、 (B)の渋沢の指標、
の何れを活用するかの是非は、公的年金計理運営政策論にゆだねるの
ほかはないと思うo
Lかしなから、高度成長経済のもとでは貴早、成長率Cを無視した
幻の数理的保険料に従っているのであるから、かっての保険数理的健
全性という純粋持続は、かいまみるべくもなくなった。いまやわれわ
れは年金数理を通じて、その上に(durch die Rentenmatematik
uber die Rentenmatematik hinaus)伝統的な年金数理論を改めて、
スライドやベ-ス・アップを肯定した年金財政論発想の転換が迫られ
て来ていることを知るのである。
さらばこそ(A)、 (B)何れの方式を採用するにせよ、事前において、年
金財政の健全性に関する渋沢の指標すなわち、 (彰成熟係数、 (塾給付効
率、 ③積立比率、 ④給付金に対する積立倍率、 ⑤弾力性係数、 ⑥年金
現価効率等の数値を算出し、かつその動向を推計しておく必要がある0
そして高負担、低福祉の弊に落ち入ることのないよう、たえず田中、
金子の福祉モデルで検討しておけば充分である。
低成長必らずLも低福祉に非らざることは、福祉国家スウェーデン
が如実にこれを物語っている。全国の成長率は常に5%以下、つまり
金利水準以下の低成長の経済(註i>C であるが、世界一の福祉
国家となっている。ここにこそ、低成長下における福祉国家発展の経
済法則を発見することができるであろう。
惟うに十数年間にわたる高度成長経済は、自然主義的なリアルな理
念や方法を通じて、年金計理運営論を西方浄土の世界へと導くという
-144-
現代年金学とその計量モデル
革新的な事態をひきおこした。最早一世紀以上も憧博の的であった年
金数理は、偶像崇拝にすぎないことに気がつきはじめたのである。
すべからく年金アクチュアリーは、古典的な保険数理的健全性の奴
隷から解放されて、現代の年金制度に相応しい自由な構想のもとで、
財政方式を開拓する命運が訪づれて来ていることを自覚してほしいと
思うO年金数理論はあくまでも、年金舶旨埠のために奉仕しか、と思
う。保険数理的健全性の厳守にのみ捉われて、年金制度の機能を抹殺
してしまっては断じてならない。
従ってここに改めて年金数理をつぎの様に定義したいと思う。
定義 年金制度が所得保障の機能を確保する条件のもとで、年金財
政が崩壊しないための財政の仕組みを明かにすることが年金数理の目
的である。
従って、 「年金財政が崩壊しないための財政の仕組み」は各種各様
に存在するから、われわれはこにその多様性を究明し、 「年金制度の
財政諸方式に関する研究」の開発が要請されるであろう。
かくして、保険数理的健全性や年金数理論のなかに潜在していた、
決定論的世界観の崩壊の日はウェルナー・ -イゼンベルク博士(1901
-1976.2.1)の逝去とともに、わが年金財政論にも迷いに押し寄せて
来た。
第7章 積立方式と放課方式
積立方式(capitalisation method, funding method)と賦課方式
( pay-as-you-go system, assessment method)は年金財政の根
本問題であるだけに、近来マスコミを始め非常な関心を呼んできてい
るO たとえば本年元旦号の日本経済新聞の28ページにも、首題の記事
が見えている。まづ新聞の要旨を紹介解説しつつ、これに若干の批判
-145-
現代年金学とその計量モデル
を加えてみよう。すなわち、
年金財政計理運営の方式をめぐって、賦課方式にするか積み立て方
式にするかの議論が始まってすでに久しい。その年に必要な年金給付
額を保険料として徴収する賦課方式に対し、将来増大してゆく給付額
に備え積み立てをつづけてゆきその積立金の利息と保険料で年金給付
を賄ってゆくのが、積み立て方式である。
従って年金制度が実施後一週期を循環したいわゆる完全成熟状態に
到達した場合の収支の均衡を示したのがいわゆるつぎの吾孫子の極限
方程式(1)である。
Mx + P - Bヽ y- ノ
利息収入 保険料 年金給付
つまり、資産積立金Mに利子率iを乗じて得た利息収入Mxiと、
保険料Pとの和が、年金給付Bに等しいならば、一年間の収支は均衡
するのであるo
現在、わが国の8つの公的年金のうち7つまでは、年金給付やベー
ス・アップやスライドをしながらも、将来の老令化社会にそなえて、
保険料を積み立ててゆくという、いわゆる修正積み立て方式を採用し
ている。しかし財政のきわめてすぐれている私学共済組合と、年金ス
ライドを禁止されている適格年金と調整年金は依然として、完全積み
立て方式に準拠しているo
Lかし、修正積み立て方式には野党側などからいろいろと批判があ
り、すぐに賦課方式に切り替えるべきだと主張する声も多いO賦課
方式にすれば横み立てる必要がないから保険料も低くて済むし、現在
と同じ保険料にすれば、より高い給付が受けられる。というのが理由
嗣!Jt*
これに対して政府は朕課方式に断固反対の構えで、厚生省の説明で
-146-
現代年金学とその計量モデル
は老令化の進んでいない現在、蹴課方式を導入すれば保険料は現行の
2分の1以下で済むが、老令化社会が進行するにつれて保険料は急激
に引き上げてゆかなければならず、安定した老令化になる昭和85年ご
ろには、給与の4分の1近くを保険料として徴収しなければならない、
という。同省の言い分としては急激な後代負担を避けるために今から、
計画的に資金化をはかり積み立てている、ということである。
野党側は急激な後代負担を避けるためには、当然大幅な国庫負担を
導入する、という考え方に立っているわけで、この歩み寄りを見せず、
対立は続いている。しかし、財政方式をめぐるこの議論は「しょせん
言葉の問題」と指摘する関係者も少くない。積み立て方式であれ、放
課方式であれ、これまで見てきたような財源対策も含めて、いかに国
民的合意を得られるような財政運営の撰訳をするかが、最も重要なこ
と、という意見である。だが国民はよく解らないだろう。
社会保障制度審議会の意見書でも「わが国のように諸外匡=こ例をみ
ない急速な老令化の進む場合、積み立て方式と放課方式とを二者択一
的にこだわることは妥当でない」として、 「要は租税を含めて当代負
担と後代負担、その後代負担に続くまたその後代負担が、いかに公正
に合理的に行われるかにある」としている。政治の撰沢はここでも求
められているわけだ。だが国民は安易な後代負担に納得しない。
以上が日経の記事の要約である、この内容では誤解をまねくし、ま
た解説は不充分であるので、若干の批判をつぎに列記しよう。
lo まづ年金制度がなんであるかという、年金類型論からの分析を
明かにしていない、羅漢とした議論である。なるほど強制加入の
公的年金であっても、定額制の国民年金-いわゆる田中厚相の
提唱する基礎年金とか、公明党が主張する基本年金等の如し-
は賦課方式で差支えないが、報酬比例の厚生年金や共済組合は当
-147-
現代年金学とその計量モデル
然に、積立方式である。
20 年金制度の早期成熟をはかる手段としては、過去勤務年金(
past service pension)を活用導入すれば充分である。過去勤務
年金と整理資源の理解なくしては、年金制度の早期成熟化を合理
的に設計することは困難であると思う。
30 その意味から、厚生年金や調整年金は何れも積み立て方式では
あるが、綜合保険料方式であるので、これを各種の共済組合や適
格年金が採用している加入年令式平準保険料(2)と整理資源の方式
に転換することが、年金制度早期成熟化のためには都合が良いと
思う。綜合保険料方式は古典派年金学に属する。
40 そもそも年金制度の重要な機能である長期資金の蓄積を遂行す
るためには、積立方式が本流である。かかる年金機能論の立場を
見失ってはいけない。賦課方式は1601年エリザベスI世(1533-
1603)の救貧法時代の遺物であるが、この救貧法が高度に進化し
たのが定額制の国民年金であるから、基礎年金や基本年金構想の
中で賦課方式が主張されることはきわめて妥当である。
50 わが国で積み立て方式の年金制度をはじめて導入採用したのは、
厚生省初代数理課長亀田豊治朗博士(1886-1944)が1920年の国
鉄共済組合に対してであった。これこそが、近代的な年金制度の
端緒ともいうべきであろう。 (大正9年3月勅令第80号参照)
60 それにしても、元来年金アクチュアリーが、純学術的に検討す
べき年金財政論が、政治の撰択に翻弄されていることこそ、政治
の越権であるばかりでなく、年金アクチュアリー諸君の毅然たる
態度も要請されるであろう。
以上が、日経の記事に対する見解である。こうした積み立て方式と
賦課方式の論争に対して、農林年金の主席アクチュアリー渋沢伊-氏
-148-
現代年金学とその計量モデル
は、放課方式と積立方式の長所と短所を第9表(3厄まとめ、かつ財源
負担の痛確度を考慮しながら、健全性、公平性、平準性、廉価性を配
慮すべきことを条件のもとに、修正積立方式を提唱している。
たヾ私学共済組合のみはわが国公的年金8つのうちで唯一つだけ、
昔ながらの完全積立方式を厳守しているが、しかし今E]の高度成長級
済のもとで、依然として完全積立方式に固執しつづけることは、今後
にいろいろの問題を残すことになると思う。それゆえに修正積立方式
えの改革を是非速かに希望したい。
第9表 放課方式と積立方式の長所と短所
放 課 方 式 積 立 方 式 区分
(1)積 立期 間 を必要 と しな いの で、(1)老 後 の費用 を被保 険者 の労働
長
所
若 干 の条件 を付 して直 ちに給 期 間 にお いて平 均 的に準 備す
付 の開 始が でき る0 る こ とに よ って過重 な 負担 を
(2)イ ンフ レに伴 う貨幣価 値 の下 次 の世 代 に残 さな くて済 む こ
蕗 に抵 抗 力が 大 きい。 とに な る。世 代 間 の公平 が保
(3)投 資 に対す る問題が生 ぜ ず、 たれ る0
制 度が 簡 明で あ る0 (2)積 立金 が あ るため 、被保 険者
(4 )未 成熟段 階 で は費用 負担 が少 お よび年 金 者 に心 理 的 に安心
ない ため発 足 に伴 う抵 抗 が少 感 を与 え、景気 変動 の短 期 的
な い0 な変動 に備 える こ とが で き る。
(3)積 立金 の利 息 を予定 で きる と
こ ろか ら、賦課 式 よ りも相 対的 に保 険料 が安 い0 廉価 性 が
保 たれ る0
(4 )積 立 金 の運用 に よ る福 祉性 、
あ るいは還 元 融資 が実 現 で き
る0
(廿牡代 間 の負 担 に著 しい格差 を (1)イン フ レ下 にお いて 、積 立 金
短
所
生 じ、負担 の公平 性 を失 う0 の 実質価 値 の下落 を伴 う0
(2 )積 立金運 用 に よる福祉 的結 び (2)積 立金 の管理 運用 が その増 大
つ きが 弱 いため 、制度 と被保 に 伴 って問 題が残 る0
険 者間 の連帯 感 を喚起 できに (3)未 成熟段 階 では 、膨大 な収 支
くい0 残 が生 じ、保 険料 自体 に批 判
(3)拠 出分 が前代 者 の保障 で あ り、 が 起 る0
被保 険者 に不 安感 を与 える0 (4)負 担の均 衡上 、高 齢者 に対 す
(4 )デ フ レの長期 化 に伴 う負担 能 る優 遇 に欠 け制度 の速 効性 を
力 の減退 か ら財政 的不安 定 を
まね く0
に ぶ らせ る0
-149-
現代年金学とその計量モデル
第8章 修正蹴課方式と修正積立方式
ひとりわが国ばかりではなく、あまねく先進主要国の年金制度は高
度成長経済(4)のもとで、近年のインフレ昂進に加えて、議会や国会が
福祉国家を標梼しつつ安易な給付水準の引き上げに走りがちである。
従って財源措置を講じないま、に放置するため、年金財政は悪化の一
途を辿り、年金財政は完全積立方式から修正積立方式えと押し流され、
とくに西独やフランスの様に成熟係数の非常に高い年金制度は、遂い
に賦課方式えと辿りつかざるを得ないであろう。人これを呼んで、 「
年金財政の危機」という。しかし財源措置を適切に講ずることを得る
ならば、危機を脱し、再び年金制度の健全回復は可能である。年金財
政の危機を、年金制度の崩壊と、即断してはならない。年金制度は永
遠の契約である。たとえ、陸軍と海軍がわが国から亡くなった現在で
も、陸、海、軍人とその遺族のための年金制度は存続している。
このような、年金制度にベース・アップや年金スライド、給付の改
善が行われている事態を、生命保険数理の言葉を借りれば、 「配当準
備金の積み立てもないのに、利益配当金の先取り」を行うのたぐいで
ある。整理資源の捻出を忘れた給付引上げは不可である。
しかし、年金財政の危機と称しても、その因って来た原因を追究分
析して、それに対応する所要財源を段階的保険料として逐次引上げ、
整理資源増加相当分の手当を行い、さらに国庫や事業主の負担分を増
加する等、周到な年金数理に準応した財政対策を講じ得さえすれば、
年金財政の危機は解消し、そしてその健全性は再び元通りにもどって
来る。給付の増額と保険料の引上げは不可分である。
年金財政の危機を何か不可抗的な、そして宿命論的な状態と錯覚に
おち入ってしまってはならない。未来永遠に継続してゆく年金制度が
一時的に遭逢する年金危機の-駒に、失望落胆してほならぬ。須らく
-150-
現代年金学とその計量モデル
年金アクチュアリーの指示と協力で癖決をはかるのが望ましい。
さて、かかる年金財政の危機の到来は、たしかに第2次大戦後の社
会保障時代に相応しく、福祉パワー(welfare power)の展開や年金
闘争(pension drive)がもたらした福祉革命の兆である。このため
に波生した深刻な財政危機は貴早伝統的な保険数理的健全性(actu- 、
aria,1 soundness)だけでは、解決に自ら限界が示された。
すなわち、保険数理的健全性を厳守すれば年金制度の第1の機能で
ある①所得保障つまり所得分配の機能を満足することができないo逆
にインフレの進行に伴い保険料の引上げを無視して、つまり保険数理
的健全性におかまいなく所得保障を遂行するために年金スライドやベ
ース・アップを実施すれば、第2の機能である②長期資金の蓄積が不
可能におち入るO まさしく、二律背反、二者択一の岐路にた、される。
かかる現実に対処するため、修正積立方式と修正賦課方式(5)という
言葉を、 -ツキリとした定義もなしに、筆者が命名して今日の慣用語
となった。この2つの財政方式の明確なる相異点についてはなお論議
の余地はあるが、共通することはつぎの3点である。
1。平準保険料方式を排して、段階式保険料方式とする。
20 年金財政の健全怪の検証は、収支計画表の策定による。
3。従って、貸借対照表には、責任準備金は勿論欠損または剰余と
いう項目は計上しない。
現在わが国の公的年金のうち、私学共済のみが完全積立方式つまり、
平準保険料方式を採用している。他の7つの公的年金は修正賦課方式
乃至修正積立方式の何れかを採用している。
具体的にこれら2つの方式を実用開拓したのは、 ①厚生省3代E]ア
クチュアリー鈴木正雄氏が修正積立方式(1954)を、 ②国鉄共済組合
4代目アクチュアリー佐藤正三氏が修正放課方式1957)の最初であ
ー151-
現代年金学とその計量モデル
am
何れにしても、年金財政は実施後の経過年数Tに応じて積立金M(T)
が増大してゆくのが原則であるから、捻契約の総資産M(T)が完全積立
方式の場合の責任準備金総額に相等しいとして、M(T)の増加経緯を明
かにしておく必要がある。
第9章責任準備金の増加限度(6)
同一保険種類の新契約が保険期間n年以上にわたり、毎年1十Cを
公比とする等比級数にて増加するとき、現在契約に対する責任準備金
が、現在保有契約高の何倍に達するかの限度を計算する。
まづ契約年令をⅩ才、経過年数をn年とし、保険種類を同一とし、
且解約失効なしとすればつぎの通りである。
0総責任準備金(0.弓-。).Rix+.(i+cr-<。.2n-Ptl:
蝣。)(1+C)~t現在契約件数・ (log,(l+i) -log,(l+C) JX+t(l+C) dt
(C)但し、PfはCを予定利率とせる契約年令Ⅹ歳に対する此保険種類の
経過年数tにおける純保険料とするo(。鳶.0,は新契約時よりn年間に
於ける凡ての払込期間に対し集計することを示す。解約失効ある場合
には、前式のIx+tの代りにⅩオ加入に対する脱退残存表の残存人員
(wlx+tを代入すればよい。
(c)(c)(il(チルメル式の場合にはPの付)に'B′を、Pの代りに串′を用いれば
よい(1)式の証明を行う。
RIF.明
(1)式の証明はつぎの微分方程式(7)による。
dVt-v,(〟;+t+8)+St^x+, -0
-152-
dt
現代年金学とその計量モデル
Vt+o-V.+o+P,-B,
(2)を書き直せば 」-loge (1+i)であるから
dVt
w-Vt I.ux+, +lOge (l+C)| -Vt |lOge (l+i)
-log* (1+C)I+Sォux+, -0
なるを以って(4)式の両辺に1.+,(1+C)~t を乗じて変化すれば
d
;fIV, (1+C)つ -vt lloge (1+1)-loge (1+C)
lx+td+cn-s,メJ tlx+t(1+C) '-(5)
となる(5)式の両辺を0からnまで積分し、 V 幸Vt-c なる各値
に対しては、(I)
lt+。Vt+。(l+C) -,l,-。Vt_ (1+C) -P,lx+,(l+C)
-Bti*+t (i+cr
なる関係式により補えば、<蝣)
Vn+。Ix+n(l+C) -V。Ix十,,-∑ P.lx十. (1+Crt(o,n十o)
+ ∑ B。Ix+。(1+C)~t(o,n+i>)
-(loge(1+i! -Ioge (1+C)汀 V,lx+t(l+C) dt-
!: st〃 蝣tlx十.(1+C)~tdt
然るに Vn+。-0、 V。-0であるからい
∑ P,lx+,(1+C手-/: s,〟 ,U+,(1+C) dt(O,n十o)
+ ∑ Btlt+x(1+C)-'(O,n+o)
なる収支相等の原則を活用することにより、
Hog.(1十 -loge(i+c)!/"V.lx+.(1+C) dt
J。ot/∠ llx+.(l+C)~ldt ∑ Btl*+ォ(1+C)n+o)
(1)
(c) ,2 P,l 皇1+C)- ∑ P.I ;i+cr- ∑ PォIx+t(l+C)~t
o, n+o) 十o)
-153--
現代年金学とその計量モデル
であるから、これより総責任準備金額について解けば
/。BV,U+,(l+C) dt-(c) (l)
(..弓 P,lx+t(l+C)~t- ∑ P,U+t(l+C)(O, n+o)
である Ioge (1+iトIoge (1+C)
いま計算時における小期間△ t内の新契約件数Elt△tとすれば、現
在保有契約の稔責任準備金は
E/。"1x+1V,(1+C) dt
である。而して現在総契約件数は
E/。nl-+. (1+C手tdt
である。依って(1)式は証明されたのでつぎの定理1を得る。
定理1 契約年令をⅩ才、満期年数をn年、保険種類は同一として
毎年1十Cの公比を以って新契約が行われ、且解約失効なしとすれば、
総責任準備金は次式で示すことができる。(c) d!
総責任準備金 ∑ P,lx+l(l+C) - ∑ Pォl*+t(l+C)(O, n-l , n+o)
-I
現在契約件数 Hog. (1十i)-loge (1+C) ∫;ix+l(i十C)dt
(c)
但し、 PtはCを予定利率とせる契約年令Ⅹ才に対する此保険種類の
経過年数tにおける純保険料とする(。.ミ+0,は契約時よりn年間にお
ける凡ての払込期間に対し集計することを示す。
つぎに保険事業が満期年数nよりも小さいT (<n 年前に開始せ
られ、新契約が行われる場合、定理1に対応してつぎの定理2が成立
i*X
定理2 記号は定理1と同様とすれば
(cl(c)(il娼任準備金Ix+t(l+C)(Vt-Vt)+2(pt-pt)(1+C)(。,T)-I
現在契約件数 |lOge(1+i)-loge (l+C)昭1x+t(l+C) 'dt
-154-
現代年金学とその計量モデル
第10章 年金基金の運動法則
年金制度実施丁年経過後の年金基金M(T)の負債勘定に計上される責
任準備金W(T)はつぎの三者から成りたっている。
W(T) -V (T) +n (T) -U (T)
である。ここに、第丁年度末における。
V T 被保険者集団の分
T 既裁定年金者集団の分
U (T) 整理資源現価、すなわちPSLである。
P (T T年経過時の保険料収入密度
S T) T年経過時の一時給付金の密度、但し年金は一時金の現
価に換算する。
5--lOge(1+i)
然るとき資産M(T)の運動法則としてつぎの微分方程式が成立する。
dM(T.--M (T) 」+P (T) -S (T)
d T
この微分方程式を解くとつぎの通りである。
M (T) - 〔M(o)+∫ p(tトS(t)r'edt]
依ってつぎの定理3を得る。
定理3 時期Tにおける年金基金の大きさは次式で示される。
M (T) - 〔M(o)+∫ IP(1トS刷e-"dt〕 e・・蝣 --(7)
-V (T) +tt (T) -U (T)
但し、貸借対照表において欠損も剰余も生じない場合である。
依って、定理2における被保険者集団の責任準備金V(T)は定理4と
かくことか出来る。
-155-
現代年金学とその計量モデル
定理4 毎年被保険者数がCの割合で増加加入している年金制度が
実施後丁年経過したとき、被保険者集団の責任準備金V(T)は次式で示
すことができる。但しPSLは零とする。
V(T)…!ご1(冒g(t)e-"v(t、 i ) dt
〔V (T、 iトV (T、 C)〕 l(?g(T)e-」Tf 〔p(T、 C)-p(T、 i)〕rj冒g(t)e-」tdt
8-e
ここに(4)式の記号は次の通りである。
1(冒'脱退残存表 table)による加入t年経過後の残存人員
lt 瞬間昇給率
g(t)-- -/^C)dt 加入t年経過後の給料指数
」-lOge 1+C) 瞬間増加率
Ⅴ (t、 i) 加入t年経過時予定利率i
v(t、C) 〝 〝 c
p (T、i) 加入丁年経過時予定利率i
(T. c) 〝 〝 C
の責任準備金
の純保険料
定理4の証明
(.)(l)給付事由(i)の瞬間発生率を〟(t)、そのときの給付標準をs(t)と書け
ば、定理3の保険料収入pro、および給付金S(T)は次の様に表示でき
る。
P(T)-p(i)/^g(t)e-"dt
(1)S(T)-/:i(冒g(t)e冒11)H(t)s(t)dt(1)たゞしすべてのtに対して、p(t、i)-p(i)とする。
また、被保険総人員の給料年額をG(T)と定義すれば、ここに総脱退
短(t)-‡'蝣'(t)としてl
lllG(T)-Pll冒g(t-edt
-156-
現代年金額とその計量モデル
である。つぎに責任準備金率v(t)…Ⅴ (t、 i)に関する亀田の微分方程
式(8)
dvt
dt(i)
を用いれば、この式の右辺に、士ev(t)をおいて適当に移項すれば
a-〔v(t)lltslg(t)e-」つ=l(?g(t)e-当v(t)(ff-eト∑U(t)sU)(t)+p(i)〕
dt(i)
である。この両辺を(0、T)で積分し、且,v(o)-oであるから
v(T)ll?'g(T)e-」T-U-e)/:i!?g(t)e-」tv(t)dt
-JIlでg(t)e-‡JIW%如+p(i)/Ilォg(t)e--dt-(10)
Hlを得る。
つぎに予定利率をCでおき替えた場合の収支相当の原則に依り、過
去法を用いて
-fご1`き:)g(t)e~eT∑〟"<t)slll(t如
(.;-v(T、c)llfg(T)e-ET-p(c)/Ill冒左(t)e-etdt
であるから、この式を(6)に代入して
V(T、i)l?gfne~t7--(S-e)fTJヲg(tMt)e~dt
+v(T、c)lTg(T)e-ET-p(c)/:i'?g(t)e-"dt+p(i)/:i(:き'g(t)e~dt
が得られる。
これを適当に移項して整理すれば
(8-0/11TiC曾(g(t)e-」tdt-〔Ⅴ(T、iトⅤ(T、C)〕l'きfemJET
+〔p(c)-p(i)〕∫:1㌢'g(t)edt
-v(t‖//(t)H-ff-A(t)ト‡ /i (t)s (t)+p(i) -(9)
-157-
現代年金学とその計量モデル
であるO上式の両辺を、 (tf-e)で除せば
V(T)=fTl'Pg(t)v(t、 i)e"gtdt
〔V(T、 iトⅤ(T、 C)〕晦(T)e-」T +〔p(T、 Cトp(T、 i)〕!。T](fg(t)e-」tdt
8-e
を得る。依って定理4は証明された。
さらに、完全成熟状態の場合を論じよう。
年金制度は永遠の契約であり、満期年数n年は無限遠点であるから、
定理1に対応する状態とは完全成熟の状態を指称すると考えてよい。
完全成熟状態の年金基金M(t)の運動法則は一般に吾孫子の極限方程式(9)
といわれている。完全成熟状態では、定理4において
T>W
とおけばよい。ここにWは定年退職時の年令であり、老令年金支給開
始年令に一致すると仮定して、責任準備金率は
Ⅴ (T、 ) -v (T、 ) -0
であり、被保険者集団の給料年額をG(T)とおけば、つぎの吾孫子の極
限方程式が得られる。
定理5 毎Cの割合で被保険者数が増加する年金基金M(T)は、完全
成熟状態で次式が成立する。
M (T) -p(Cトp(0
G (T -・---=・---(ll)81E
定理5は、瞬間払いの場合の極限方程式であるから、期未払いにお
き代えれば、つぎの定理6が得られる。
定理6 完全成熟状態では期未払いのとき次の方程式が成立する。
M (T) -p(C汁P(i)
i - c
G (T)
-158-
現代年金学とその計量モデル
ここで、予定利率iおよびCのときの保険料収入を、それぞれP(i)
およびP(c)と書き、かつ、 T年度中の給付金総額をBと書けば、それ
m&
P(i)- p(i)G(T)
B-P(c)- p(c)G(T)
であるから、これをを(8)に代入すれば、いわゆる吾孫子の極限方程式
となる。ここにBは放課式保険料P(c)に等しいから
M (T) ×i+P(i)-B+M (T) ×C
さらに進んで、既裁定年金者集団の責任準備金についてのべる。
Ⅹ才の既裁定年金者の責任準備金a (x)はつぎの微分方程式を解けば
よい。
da x
(u(x)+8) a(x)- 1dx
ここに、 〟(Ⅹ)はⅩオ者の年金権の瞬間消滅率である。
これを出発点として、被保険者集団における責任準備金総額*roは
定理7で示すことができる。
定理7 毎年Cの割合で年金受給者が増加するとき、年金支給開始
後T年度末における既裁定年金者集団の責任準備金r(T)(i次式となる.
但し、 x-X。-Tとする。
7T(T)≡/x*a(j 、 i) e-/*-!'"- 」l)dt dx
〔a(Ⅹ、c)-a(>、i)〕e-Tg-/xotftbt +〔 (xo、i)-a 、C)〕
8- e
re-w^- ix
同様にして、完全成熟状態における既裁定年金者集団の責任準備金
については、つぎの定理8が成立する。
-159-
現代年金学とその計量モデル
定理8 毎年既裁定年金者集団がCの割合で増加してゆく場合、既
裁定年金者集団の責任準備金総額7r(T)は、完全成熟状態のとき次の式
が成立する。
a (xo、 )-a (x。、 i)T -
81e
第11章 退職金の自動スライド制の年金化(てい増年金)
退職金Sをn年確定年金(期首払)として支払う場合の年金額Rは
次式でもとめられるo ここに軸 は期首払n年確定年金現価とする0
S
a.Ti
しかしこの年金額Rはn年間一定金額であって、スライドはしないO
しかるに貴初の年金額Xx(c)は、上述の年金額Rよりも小さくとも、毎
年一定の割合Cでスライドする年金を工夫設計する芝とは容易である0
すなわちつぎの定理9が成立するoこれを永島の定理(10)という。
定理9 退職金SをCの割合で毎年期首に自動スライドするn年て
い増年金の場合、初年度の年金額X,(c)は
S
Xl(c)-n
であり、 n年始めの年金額Xn(C)は
S
Xn(c)-- 1+c)nn
である.但し、スライドの割合Cは予定利率iに一致するo
定理9の証明は容易であるからこれを省略する。
例
退職金S-1,000万円、年金支給期間n年を20年間として、 Cを5
-160-
現代年金学とその計量モデル
分5厘および8分とした場合、てい増年金の例を第10表に示す。
(1)スライドの割合C-5.5%の場合
確定年金Rは 793,169円である。
1 ,000万円≒793,169円-66,097円×12
a詞 12.60755352
しかるにてい増年金は最初は50万円であるが、 10年目には809,547
円、貴後の20年目始めには、 1,382,818円となって、確定年金793,169
円の74%強の増加である。
1 ,000万円X, 5.5% ---
n 20
S
XM(5.5%) -- (1+0.055) -n
-809,547円
S
XB(5.5%) -- ( 1 +0.055)19-n
-50万円
1,000万円
20
1,000万円
20
× 1.61909427
× 2.76564691
-1,382,818円
(2)予定利率が8分のときは、 c- となる場合
1,000万円 1,000万円-942,167円≒78,514円×12
垢司 10. 60359920
が確定年金であるが、てい増年金の場合は、初年度は依然50万円でめ
るが、 10年目の期首には999,502円、 20年目には実に、2,157,-850円に
達して、確定年金942,167円の約2.3倍に自動スライドする。
1 ,000万円
20
1 ,000万円
20
X, (8.0%) -
X,,(8.0%) -
-50万円
× 1+0.08)9-999,502円
-161-
現代年金学とその計量モデル
1,000万円X2。(8.0%) - × 1+0.08)1^-2,157,850円
20
(3)予定運用利率i (-8%)とし、自動スライドの割合C (-5.5
%の場合)
上述の場合のm年経過後の残高Amは次式で示されるから
A m = <
1 + i m - ( l + c )m
n i - c
である。依って上式に、 i-8%、 c-5.5%、m-n-20、S-1,000
万円とおけば、満20年経過後には8,956,460円が残額となる。
A2。-1,000万円{4.66095714-3.7653111[ -8,956,460円
この残額8,956,460円を原資として、さらにひきつヾき8分の予定
利率で運用すれば、なおn年後も終身間自動スライド年金として支給
することは必らずLも不可能ではないと思う。予定利率iと自動スラ
イドの割合C、および支給期間n年の間には興味ある問題が残されて
SM!
第10表 てい増年金の計算例
支 R ニ 確 -t >T - 令 X m (C )= て い 増 年 金
給
期
間
17'-* -
1 ,0 0 0万 円
li石 ー
= lL 些 互 田 - d + c )
2 0
i = 5 .5 % i = 8 .0 % c = 5 . 5 % c = 8 .0 %
1 7 9 3 , 1 6 9 円 9 4 2 ,1 6 7円 5 0 万 円 5 0 77円
5 ′′ ′′ 6 1 9 ,4 1 3 円 6 8 0 ,2 4 5 円
1 0 〟 ′′ 8 0 9 ,5 4 7 9 9 9 ,5 0 2
1 5 ′′ ′′ 1 ,0 5 8 ,0 9 6 1 ,4 6 8 ,5 9 7
2 0 ′′ ′′ 1 ,3 8 2 ,8 1 8 2 ,1 5 7 ,8 5 0
-162-
現代年金学とその計量モデル
む す び
おもうにわが国では急速な人口老令化に伴い老人福祉えの関心は急
激におこって来た。昨年2月に人口問題研究所が発表した「日本の将
来人口推計」によれば、昭和50年の総人口は1億1150万人で、そのう
ち65才以上の人口(以下、老令人口と呼ぶ)は、 877万人でその占有
率は7.9%である。
そして毎年の増加率は、総人口で1%、老令人口は3%である。従
って25年後である今世紀末の昭和75年には、総人口は1億3515万人、
老令人口は実に1879万人に達し、老令人口の占有率は13.9%に増加す
るO現在のスウェーデンの老令人口の占有率にほゞ等しくなるO この
ような人口の老令化に対応して、漸く年金制度が所得保障としての機
能を発揮するに至った。
すでに昭和36年、放小山進次郎氏により国民皆年金体制が実現し、
昭和48年には横田陽吉氏による自動スライド年金が実現し、ここに午
金時代が開幕した。
しかし、欧米先進諸国の何れをみても国の行う公的年金制度だけで
老後保障が守られている国はない。必ずゆき届いた私的年金の普及状
況を見忘れてはいけない.一国の福祉の水準は、もはや公的年金だけ
で見るべきではなく、私的年金の繁栄振りによる年金制度二元化論で
解決するのが適切である。 とくに危険なことは、年金制度を一元的
に統合しようとする統制思想であり、これはファシズムに通ずるおそ
れさえも感ずる。年金時代への時代錯誤であろう。
ただし、わが国の20オ以上のすべての国民は8つの公的年金の何れ
かに強制適用をうけ、その人口は6千万人に達している。しかし昭和
37年発足の適格年金、昭和41年実施の調整年金の通用人口は漸く1千万
人を算するにすぎず、両者の年金基金は僅か3兆円程度にすぎない。
-163-
現代年金学とその計量モデル
のみならず、年金の自動スライド制に欠けている点は重大な欠点であ
るO また整理資源が昭和17年厚生年金発足当時のごとく負債ではなく
なり、かつ修正積立方式となっている現状では、綜会保険料方式を排
して加入年令式平準保険料方式に改革するのが適当であると思う。こ
れは適格年金や各種共済組合の様な財政方式に統一したい。
幸いに減速経済は低金利時代をまぬくであろう。世は正に40年昔の
昭和10年前後からの低金利政策の推移(第11表参照)を思わせる。お
そらく昭和11年5月1日における「五分利公債の三分半利債券への臨
時借換」という様な、ドラマチックな事態を再び招来することはある
まいし、また郵便貯金の利子引下げへの強硬を抵抗もみられるので、
非常識な低金利政策の登場はあり得ないことを期待する。
そして、事業会社は低金利政策の面からみる限り株価の騰貴により
資本の調達を容易に可能ならしめ、事業債の発行や借入金の利子負担
の低下に伴う財務負担の軽減と相侯って、その余剰財源を福利厚生の
充実化に放出する秋が訪れて来たと思う。
このような財源を元手にしてこそ、適格年金や調整年金等の私的年
金にスライド制を採り入れ、かつ退職金の自動スライドによる年金化を
永島の定理(定理9)との併用によって補ってゆくならば、年金制度
は公、私を問わずして所得保障を漸く発揮する機縁にめぐり逢えると
いうべきであろう。
以上を以って本稿をおえる。
Oi
(1)黒住、中鉢、松本編、老令保障諭 ppl34.
(2)仝上 ppl26-127に年金財政の各種の方式が、図解説明してある。
(3)渋沢伊一、農林年金財源率再計算に当って(農林年金広報 昭和50
-164-
現代年金学とその計量モデル
年12月1日 pp4)
なお、積立方式と賦課方式については、日本経済新聞社編、社会煤
障の知識のpp54をみられたい。
(4)以下、高度成長経済とは「計量的には利子率iよりも、名目成長率
Cの方が大きい」経済を指す。ここに、名目成長率はインフレ率、ベ
ース・アップの割合、年金のスライドの率等で置き換えられる場合が
%m.
(51松本浩太郎編 社会保障年鑑1954年版93ページ。
(6)昭和12年頃日本アクチュアリ-会例会報告として、亀田博士の講演
内容である。
(7)亀EEl豊治朗、保険数学123ページ。
(8)黒住、中鉢、松本編、老令保障論(昭和50年) ppl31.
(9)松本浩太朗 年金の話(改訂16版) 186頁 この式をC. L. Torow-
bridgeはTSA (1952)で独立に発見し、 maturity equationと命名し
ている。吾孫子豊氏は昭和11年(1936)に発見した。
(10)この定理は出光興産株式会社人事部永島弘康氏によって発見(1976)
されたので、これを永島の定理と呼ぶ。
(ll)たとえば、フィンランドの雇用年金制度(外国年金資料 No.2)お
よび、スウェーデンの年金制度(仝上 No.10)等をみられたい。
付 記
なお、筆者が現代年金学シリーズの名称による既刊の論文はつぎの通り
&3HI
1.現代年金学シリーズI 「高度成長下における年金財政」 (日本アク
チュアリー会報第24号1971)
2.現代年金学シリーズII 「現代年金学の経済模型」 (千葉商大論叢第
-165-
現代年金学とその計量モデル
15号B、昭和46年6月)
3.現代年金学シリ-ズnI 「現代年金学の経済理論(上) 、 (下) 」
(信託第86号、第87表、昭和46年4月号、および7月号)
4.現代年金学シリーズⅣ 「現代年金学の確率模型」 (生命保険文化研
究所論集第21号、昭和47年)
5.現代年金学シリーズV 「現代年金学煉理」 (生命保険文化研究所所
報第19号、昭和47年8月)
6.現代年金学シリーズⅥ 「スウェーデンの年金制度」 (千葉商大論叢
第18号B、昭和47年11月)
7.現代年金学シリーズⅦ 「日精年金制度の機能分析(上) 、 (下) 」
(生命保険文化研究所所報第24号、第25号、昭和48年8月号および11
月号)
8.現代年金学シリーズⅧ 「末適用校の私学共済組合加入問題」 (千葉
商大論叢第11巻第2号-B 昭和48年10月)
9.現代年金学シリーズⅨ 「私的年金計理運営論」 (千葉商大論叢 第
11巻第4号-B、昭和49年3月)
-166-
現代年金学とその計量モデル
注
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