残留農薬スクリーニング法における hplc 分析条件...
TRANSCRIPT
広島市衛生研究所年報第21号 (2002)
残留農薬スクリーニング法における HPLC分析条件の検討
中島 三恵
宮野高光
長谷川宏行
福田 裕
山名正史
小 串 恭 子
萱 島 隆 之
佐々木珠生
山本修
前報 1)において,食品による健康被害や苦情等に迅速に対処するためガスク
ロマトグラフィー(GC)による有機リン系農薬一斉分析法について報告した。今
回,同様の目的で 61種(63物質)の農薬について高速液体クロマトグラフィー
(HPLC)によるスクリーニング法の検討を行った。 2種類の HPLC分析カラムを
使用することにより各農薬の分別が可能であった。また, 2種類の国相カラム
を用いることにより精製操作を短時間で行うことができた。ほうれんそうによ
る添加回収実験結果は数種類の農薬を除いて約 70----120%の範囲であり,おお
むね良好であった。
キーワード: 残留農薬,高速液体クロマトグラフィー,固相カラム,フォト
ダイオードアレイ検出器
lま じめに
食品衛生法で残留基準が設定されている農薬は
平成 14年 3月 13日告示分(平成 14年 4月 1日適
用)を含め現在 229種にのぼり,なかでも近年は
HPLCを用いて分析するものが増加している。ま
た昨今,多発傾向にある食品を原因とする健康被
害に迅速に対応するには, GCあるし、は GC/MSで
分析が困難な熱分解性物質等についても迅速に分
析・特定する必要がある。
今回,食品に対する健康危機管理体制の整備の
一環として,また将来的にしC/MSを導入した際の
一斉分析法の足掛かりとして,告示法ではポスト
カラム蛍光法となっている N-メチルカーパメー
ト系農薬 2)および HPLC-蛍光法で分析するエトキ
シキン 3)を含む61種目物質の農薬について, HPLC
フォトダイオードアレイ検出器を用いた残留農薬
スクリーニング法を検討したので報告する。
方 法
試料
添加回収実験用試料としてほうれんそうを使
用した。
2 試薬
今回検討した農薬は,食品衛生法で残留基準
が設定されている農薬 50種 (52物質)を含む
61種 (63物質)であり,すべて市販の農薬標準
品を使用した。 HPLC分析時各農薬の保持時聞
が極力重ならないよう,分析対象農薬を 3 グ/レ
一プ(A,BおよびC)に分けた。なお,メタベンズ
チアズ、ロンとシプロジニルは保持時間確認の指
標として各グループに加えた。表 1に分析対象
農薬および食品衛生法における残留基準の有無
を示す。
3 装置
高速液体クロマトグラフ:島津製 LC-10A
フォトダイオードアレイ検出器:
島津製 SPD一M10A
4 HPLC測定条件
カラム:①InertsilODS-2 (4.6mmφx 150mm)
②Inertsil PH (4.6mm rt X 150mm)
(ジーエルサイエンス社製)
移動相流速:1.0ml/min
カラム温度:400
C
注入量:20μl
測定波長:① 220nm ② 240nm ③ 253nm
④ 270nm ⑤ 290nm
移動相 :A液 水・アセトニトリル (9:1)
B液 水・アセトニトリル(1:9)
グラジエント条件を表 2に示す。
表2
時間 (min)
グラジエント条件
B液(%)ODS-2カラム PHカラム
10 5
10 5
95 80
95 80
イニシャル
1.0 46.0
56.0
円
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広島市衛生研究所年報第21号 (2∞2)
Sep-Pak Plus tC18 (ウォーターズ社製)
アセトニトリル 5m!でコンディショニングした。
Sep-Pak Plus Silica ウォーターズ社製)
アセトニトリル 5m!,ジクロロメタン 5m!でコンデ
ィショニングした。
6 誌験溶液の調製
細切した試料10gに塩化ナトリウム4gおよびア
セトニトリル 20m!を添加し, 10分間接とう抽出
した。その後 2700rpmで 10分間遠心分離を行い,
アセトニトリル層を分取し,フリット付リザーパ
ーに無水硫酸ナトリウム 5gを加え Sep-PakPlus
tC18に接続したものに全量を負荷した。アセトニ
トリル 2----3m!で国相カラムを洗い,両流出液を合
わせて約1m!まで減圧濃縮後,この液にジクロロ
メタン 3m!を加え Sep-PakPlus Silicaに負荷し,
アセトニトリル・ジクロロメタン (3: 7) 20m!で
溶出した。溶出液を約 0.5m!まで減圧濃縮後,ア
セトニトリルで 1m!に定容し,試験溶液とした。
分析方法のフローチャートを図 1に示す。
固相カラム5 表1 分析対象農薬および残留基準の有無
Na 農薬名 残留基準の有無
グループA
O
O O
O一O一O一O一O一O一O一O一O一O一O一05一O一06
ヲB
l オキサミル
2 メソミノレ
3 アルジカルプ
4 メトノレカ/ルプ (MTMC)5 アミノカルプ
6 ベンダイオカルプ
7 メタベンズチアズロン
8 カノレノ〈リノル
9 エチオフェンカルプ
10 イソプロカルプ
11 イナベンフィド
12 ジクロメジン
13 フェノプカルプ (BPMC)14 ミクロプタニノレ
15 シクロスノレファムロン
16 メノミニピリム
17 シプロジニル
18 テプフェノジド
19 トリフルミゾール
20 トリクラミド
21 テフルベンズロン
22 ノレフェヌロン
23 フノレフェノクスロン
24 クロルフルアズロン
グル
結果と
HPLC分析条件の検討
今回, 2種類のカラム(Inertsil00S-2, Inertsil
PH) について各農薬の保持時間の検討を行い,分
析時聞が 60分以内になるようグラジエント条件
を設定した。移動相については,今回は多種類の
農薬を同一条件で分析することを目的としたため,
塩等を含まない水・アセトニトリル系を用いるこ
ととした。表 3に各農薬の HPLCカラム別保持時
間を示す。いずれのカラムにおいても 55分以内に
すべての農薬が溶出した。 1種類のカラムではピ
察考
O
O一O一O一O一O一O一O一O一O一O
O一O一00
25 レナシル
26 プロポキスル(PHC)27 カノレボフラン
28 キシリルカルプ(MPMC)29 XMC 30 メチオカルプ
31 フェナリモル
32 クミノレロン
33 メフェナセット
34 ジフルベンズロン
35 イプロジオン
36 ピラゾキシフェン
37 エトベンザニド
38 クロフェンテジン
39 ヘキサフルムロン
40 イソキサチオン
41 フェンピロキシメート (2)
42 ヘキシチアゾクス
43 フェンピロキシメート (E)44 シラブノレオフェン
アセトニトリル20ml.NaCI4g
アセトニトリル・ジクロロメタン(3: 7) 2印吋
分析方法のフローチャート
アセトニトリル1同定容
無水硫酸ナトリウム5g
27∞rpm, 1印吋n
図 1
-37ー
グ/レ
45 イミダクロプリド
46 アセタミプリド
47 シモキサニル
48 チオジカルプ
49 ピリミカーブ
50 チウラム
51 ベンスルフロンメチル O 52 ジメトモルフ (E) ()
53 ジメトモルフ (2) ()
54 アゾキシストロピン O 55 ダイムロン O 56 クロロタロニル(TPN) 0 57 ピテルタノール O 58 エトキシキン O 59 キノメチオネート O 60 ペンシクロン O 61 ホキシム O 62 ぺントキサゾン O 1回一王下ヲ正予ヲP ,/?i;r:--一一一一一一一σ一一 一
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O
O O
広島市衛生研究所年報第2H号(2∞2)
表3 各農薬のHPLCカラム別保持時間および精製後の回収率
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…
農薬名
-38-
広島市衛生研究所年報第21号 (2002)
リルカノレブ (MPMC)の分離が困難であった。図
2および3に各 HPLCカラムの 220nmにおける農
薬標準液のクロマトグラムを示す。また,表 4に各
農薬の測定波長を示す。
ークが重なるものがあるが,異な る性質のカラム
を併用することによりほとんどの農薬を分離する
ことができた。しかし,今回の分析条件ではカノレボ
フランと ベンダイオカルブ,ピリミカーブとキ シ
std A
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(番号は表 lの農薬名に対応)
20
図 2
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20
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O
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10-
O
mln 40
標準液のクロマトグラム (InertsiI PH)
(番号は表 lの農薬名に対応)
ny
qJ
20
図 3
広島市衛生研究所年報第21号 (2∞2)
表 4 各農薬の測定波長
?ループA グループB グループC
No.豊芸名 測定波長 (nm) No.農薬主 測定波長 (nm) No.農薬名 測定波長 (nm)
オキサミル ② 240 25 レナシル ④ 270 45 イミダクロプリド ④ 270 2 メソミ/レ ② 240 26 プロポキスル(PHC) ① 220 46 アセタミプリド ② 240 3 アノレジカルブ ① 220 27 カノレボフラン ① 220 47 シモキサニル ② 240 4 メトルカルプ (MTMC) ① 220 28 キシリルカルプ(MPMC) ① 220 48 チオジカノレプ ② 240 5 アミノカルプ ② 240 29 XMC ① 220 49 ピリミカープ ② 240 6 ベンダイオカノレプ ① 220 30 メチオカルプー ① 220 50 チウラム ① 220 7 メタベンズチアズロン ④ 270 31 フェナリモノレ ① 220 51 ベンスノレブ ロンメチル ② 240 8 カ/レパリノレ ① 220 32 クミノレロン ① 220 52 ジメトモノレフ (E) ② 240 9 エチオフェンカルブ ① 220 33 メフェナセット ① 220 53 ジメトモルフ (2) ② 240 10 イソプロカノレプ ① 220 34 ジフルベンズロ ン ③ 253 54 アゾキシストロピン ① 220 11 イナベンフィド @ 270 35 イプロジオン ① 220 55 ダイムロン ② 240 12 ジク ロメジン ③ 253 36 ピラゾキシフェン ③ 253 56 クロ ロタロニル(TPI¥) ② 240 13 フェノブカノレプ (BPMC) ① 220 37 エトベンザニド ④ 270 57 ピテノレタノール ④ 270 14 ミクロブタニノレ ① 220 38 クロフェンテジン ④ 270 58 エトキシキン ① 220 15 シクロスノレファムロン ③ 253 39 ヘキサフノレムロ ン ③ 253 59 キノメチオネート ① 220 16 メパニピリム ④ 270 40 イソキサチオン ④ 270 60 ベンシク ロン ② 240 17 シプロジニル ④ 270 41 フェ ンピロキシメート (Z) ③ 253 61 ホキシム ⑤ 290 18 テブフェ ノジ ド ② 240 42 ヘキシチアゾクス ② 240 62 ぺントキサゾン ③ 253 19 トリフルミゾーノレ ② 240 43 フェンピロキンメート (E) ③ 253 63 エトフェンプロックス ① 220 20 トリクラミド ② 240 44 シラフノレオフェン ① 220 21 テフノレベンズロン ① 220 22 ノレフェヌロン ③ 253 23 フノレフェ ノクス ロン ③ 253 24 クロノレフノレアスロン ③ 253
2 精製方法の検討
試料中のきょ う雑物の影響を抑えるため,固相
カラムを用いた精製条件の検討を行った。今回は
分析対象農薬に Nーメチルカーパメート系農薬が
含まれるため,既報。の N-メチルカーパメート系
農薬(ポストカラム蛍光検出法)分析法に準じ,
Sep-Pak円usSilicaを用いたアセトニトリル・ジク
ロロメタン系を溶出溶媒とした。また, HPLCカラ
ムへの負荷を軽減するため,抽出液をあらかじめ
Sep-Pak Plus tC18に通すこととした。標準溶液を
用いた回収率はペンスルアロンメチル,シクロス
ルファムロンを除き 88.7""1 07 .6%とおおむね良
好であった。表 3に各農薬の添加回収結果を示す
(n=3)。
ベンスルフロンメチルシクロスルファムロン
の回収率が悪かった原因としては,濃縮操作時の
ロス,固相カラムからの溶出条件の不一致等が考
えられる。そこ で濃縮, Sep-Pak Plus tC18精製,
Sep-Pak Plus Silica精製の各段階ごとに添加回収を
行ったところ, Sep-Pak Plus Silica精製時アセト ニ ト
リル・ ジク ロロ メタ ン (3・7)20mlではほとんど
溶出していないことがわかった。そこで溶出溶媒
をアセトン 30mlにしたところ,各農薬の回収率は
85.3%および 94.0%と,良好な結果が得られた。
3 実試料への適用
本法を用い, 実試料と してほう れんそうについ
て標準溶液を添加し回収率を求めた結果を表 3に
示す (n=1)。チウラムの回収率が低く(14.0%),
イソプロカルブ,エトキシキンは妨害ピークの影
響を受け高めの回収率になったが,その他の農薬
の回収率は 69.6""119.0%であり,良好な結果が得
られた。
今回, 61種(63物質)の農薬について HPLCによ
る検討を行った。2種類の HPLCカラムを用いる
ことによりほとんどの農薬の分離・同定が可能で
あった。
今後さらに数種の異なる HPLCカラムでの分離
の検討,また未検討の HPLC分析農薬についての
保持時間・吸収スベクトノレ等のデータを蓄積して
いくことで,分析結果の信頼性が増すものと考え
る。
文 献
1) 福田 裕他:食品中の有機リン系農薬 56
種の迅速一斉分析法,広島市衛研年報, 20,38
"" 42 (2001)
2) 厚生省告示第 199号,平成 6年 6月 9日
3) 厚生省告示第 239号,平成 4年 10月 27日
4) 佐々木珠生 他:高速液体クロマトグラフィ
ー による新規残留農薬分析法の検討(その
2) ,広島市衛研年報, 15, 33~43 (1 996)
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