建築装飾パターンブックの変遷* · (1...

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A τ 斗- E J 弘、 建築装飾パターンブックの変遷ー一一筆 写本 彫 物書 系絵様雛形 の 書 誌 的 考 察一 一 善村 鈴木規夫叫*河田 博料** 小川 明***** 日田 l. 江戸時代前期 2. 江戸時代中期 3. 江戸時代後期 4. 明治時代 近世建築における装飾性, とりわけ社寺建築の細部意匠については ,従来の 日本建築史にお いて,その表現のダイナ ミズムが看過さ れ,必ずしも正当な歴史的評価がなされていたとはい いがたい。近年になって,日本史上の,特に江戸時代の文化史的価値がみなおされるととも に, 建築史の分野において も,全国的に近世社寺建築緊急調査が実施され,また各地の近世大 工組の建築活動に関する研究が進めら れるなど,その歴史的価値が徐々 にみなおされるように なってきた。 しかし,それら個々の調査 ・分析は,ょうやく地域レベルでまとめられつつある 程度で,それを包括する体系的な研究は,いまだ試みられる段階にない。乙れを体系的に究明 するためには ,個 々の遺構に関する総括的分析と 並行して,その設計意図を明白にする大工棟 梁の著 わした建築書の考察 もまた不可欠であろう。 そ乙で,本研究は,日 本 の建築書,な かんずく和蓄のうち ,細部意匠に関する系統的記述の * 1990 2 17 日受理,近世建築,細部意匠,絵様雛形,変遷,流行 (財)文化財建造物保存技術協会 料* 名古屋工業大学 材 料 修 成 建設専門学校 材 料 キ 岐阜工業高等専門学校 料材料 名古屋工業大学

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  • ミA、 τ斗-E岡 J弘、

    建 築装飾パターンブックの変遷*

    ー一一筆写本彫物書系絵様雛形の書誌的考察一一

    麓 和 善村 鈴木規夫叫*河田 克 博料**

    小川 英 明***** 内 藤 日田

    l. 江戸時代前期

    2. 江戸時代中期

    3. 江戸時代後期

    4. 明治時代

    近世建築における装飾性,とりわけ社寺建築の細部意匠については,従来の日本建築史にお

    いて,その表現のダイナ ミズムが看過され,必ずしも正当な歴史的評価がなされていたとはい

    いがたい。近年になって,日本史上の,特に江戸時代の文化史的価値がみなおされるととも

    に, 建築史の分野においても,全国的に近世社寺建築緊急調査が実施され,また各地の近世大

    工組の建築活動に関する研究が進められるなど,その歴史的価値が徐々にみなおされるように

    なってきた。 しかし,それら個々の調査 ・分析は,ょうやく地域レベルでまとめられつつある

    程度で,それを包括する体系的な研究は,いまだ試みられる段階にない。乙れを体系的に究明

    するためには,個々の遺構に関する総括的分析と並行して,その設計意図を明白にする大工棟

    梁の著わした建築書の考察もまた不可欠であろう。

    そ乙で,本研究は,日本の建築書,なかんずく和蓄のうち,細部意匠に関する系統的記述の

    * 1990年 2月17日受理,近世建築,細部意匠,絵様雛形,変遷,流行料 (財)文化財建造物保存技術協会

    料* 名古屋工業大学

    材料修成建設専門学校

    材料キ岐阜工業高等専門学校

    料材料 名古屋工業大学

  • 技術と文明 6巻 l号(2)

    あるものを,とりあえず「絵様雛形」と総称して集成し,その書誌的考察と記載内容の分析に

    よって, 「絵様雛形」の時代的 ・内容的特質を究明しようとするものである。

    と乙ろで,中 ・近世lζ著わされた日本の建築書は,現在約 500本が知られているが,そのう

    ち「絵様雛形」とみる ζ とのできる史料は,江戸 ・明治時代lζ著わされており,約80本にもお

    よぶ。 ζれらの史料をその記載内容によって分けると,木割蓄における細部意匠を抽出し図面

    化したもの,すなわち絵様のプロポーションが木割によって裏付けられたものと,木割とは全

    く無関係lζ特定建築部位の彫物図案集として著わされたものの 2種類に大別する乙とができ

    る。本研究においては,前者を木割書系絵様雛形,後者を彫物書系絵様雛形と仮称している。

    そして,前稿までにおいて,①木割書系絵様雛形については,流派意識によって建仁寺流と四

    天王寺流に大別され,さらに建仁寺流は,その内容によって,木割書系絵様雛形の主流と認め

    られる江戸建仁寺流I類本,その展開としてカタログ化の傾向を強めた江戸建仁寺流E類本,

    絵様を木割の付図としか扱わない加賀建仁寺流に分類される乙と,②彫物書系絵様雛形のうち,

    まず木版本については,木害1J書系絵様雛形にみられたような特徴的系譜を見出すととはでき

    ず,逆に木容jや流派意識にとらわれる ζ となく自由に展開する変遷過程に,まさに彫物書系と

    しての特質がある乙と,③その変遷過程を大局的にみると,宝暦以前が成立期,宝暦以後の江

    戸時代後期が発展期,明治時代が普及期に位置づけられ,加えて木版本彫物書系絵様雛形にお

    いては,時代に即した各部材どとの特徴的変化を具体的lζ看取するととができ,細部意匠の変

    遷を考えるうえで,それらの特徴的変化を年代判定の指標とするととができる乙と,以上の点

    について明らかにしてきた。

    ひき続き筆写本彫物書系絵様雛形の考察lζ移るが,まず本稿では,30本にもおよぶ史料を,

    江戸時代前期(元和~万治, 1615~1660),中期(寛文~寛延, 1661~1750),後期(宝暦~慶応, 1751~

    1867),明治時代(1868~1911),以上 4時期に時代区分して,成立年時順に 年代不詳の史料

    については記載内容により推定一一書誌的考察を行なう。そして,個々の絵様内容に関する考

    察は別稿に譲るとして,とりあえず書誌のうえから筆写本彫物書系絵様雛形の変遷を通観する

    とともに,その特質を明らかに した(, )0

    1. 江戸時代前期

    江戸時代前期の史料としては,むしろ例外的ともいえるほどに早く成立した『家作彫物図』

    があるのみである。その内容は次のとおりである。

    (1)麓和善・岡本真理子 ・渡辺勝彦 ・内藤昌「木寄l書系絵様雛形の系譜」,『建築史学』第10号,昭和63年3月→参照。

    (2)麓和善・河田克博 ・若山滋 ・内藤昌「木版本彫物書系絵様雛形の時代的特質J,『建築史学』第13号,平成元年9月→参照。

    (3)麓和善 ・鈴木規夫 ・岡本真理子 ・河田克博・内藤昌「木版本彫物書系絵様雛形の内容的特質」,『建築史学』第14号,平成2年3月→参照。

    2

  • 建築装飾パターン 7•ツクの変遷(1tll ・ 鈴木・ i河悶 ・ 小川 ・ 内藤)

    ① 『家作彫物図』(国会図書館所蔵)

    薄茶表紙 ・袋綴 ・1冊 ・美濃本

    (26. ScmX 19. 7cm)

    表紙題築lζ 「家作彫物図」, 扉題

    lと「家作彫物図全」とある。そして,

    扉裏に「寛永元年(1624)/霜月日」

    (/印改行、以下同)と記されてお

    り,管見したと ζろ,絵様雛形とし

    ては最も古い。また,その横lζ 「明

    治十五年(1882)ノ年十一月五日/加

    藤金太郎」と所持者の筆になると思われる墨書がある。

    図- 1

    記載内容は,額 ・大瓶束(図 1 )・手挟 ・持送り ・木鼻 ・墓股 ・鬼板 ・虹梁 ・水煙 ・飾金具

    ・懸魚 ・図案 ・組物 ・花頭窓など広範囲lζ収録されているが,その配列は無秩序である。飾金

    具等に名称が記されており,また組物 ・額には木書jの説明が付いている。

    2. 江戸時代中期

    元禄14年(1701)から寛延3年 (1750)までの 50年聞に, 『絵様(長谷川本)』とその類本2

    本,および 『番匠秘事木端江容』 ・『番匠志導教』 ・「匠家雛形上之巻』 ・『(甲良家伝来)絵

    様』 ・『番匠秘事絵本拘」,以上8本が著された。次にとれらについて考察する。

    ② 「絵様(長谷川本)』(東京大学所蔵)

    紺表紙 ・巻子本 ・全 5巻(第 1巻29.Scm X 384. 6cm,第2巻28.5cm×430.2c田, 第3巻27.9c田×573.0

    cm,第4巻27.7c皿X545. Ocm,第5巻27.9c皿×468.6c皿)

    全 5巻で構成され,各巻の表紙題築lと「絵様五巻之内 ー(二~五)」とある。そして,第

    1巻奥書に「平内伝/長谷川仁兵衛之慰宗明図之固/元禄十四年(1701)辛巳九月」,第 3巻奥

    書lと「平内大隅」,第4巻奥書に「第拾壱庭平内大隅」と記されており,第 2~4巻の巻頭

    および巻末に四天王寺流の角印が押されている。後述のとおり,本書の類本が多数あるので,

    本稿では他書と区別して「長谷川本」と呼称するととにする。

    記載内容は,第 1巻に墓)J交・木鼻 ・懸魚,第 2巻lζ虹梁,第 3巻lζ木鼻 ・虹梁 ・懸;低第4

    巻l乙懸魚 ・大瓶束 ・木i1・擬宝珠 ・墓股,第5巻lζ木鼻 ・懸焦が記されており(表一 1),いず

    れも渦文 ・繰形の組み合わせによる抽象模様である(図 2)。各巻とも図は大きく描かれてお

    り,第3~ 5巻には図の大半lと「御拝殿妻虹梁下肘木」・「勅額御門唐破風掛;ぬ」などと,特定

    建物名や部材名が記されている。

    図- 1 『家作彫物図』 寛永元年(1624) 国会図書館所蔵

    3

  • 表 1 『絵様』類本記載内容異同対照表

    『絵様(長谷川本)』 『(絵様戸崎本)』 r*'針葉(政治本)』 f勅額御門唐破風車魚J 『絵様集(甲良本)』全 5巻 全 2巻 全5巻 会 1巻 全 l巻

    巻ー図 巻図 巻図 図 図1-1 悲 JI生 一一一 1-1一一 2-7 5 1-2 II ー 1 2 ーー 2-8 4裏ー151 3木鼻 一一一 1-3 2 9 1-4 II 一一一 1-4 2 10 4哀ー121-5 II 一一一 1-5 2-11 17 1-6 II 一←ー 1 6 一一 2 12 18 1-7 II 一一一 1ー7 一一一 2 13 1 -8 34 1-8懸魚 一一 l 8 2 14 38 1-9木鼻 一一一 1-9 2 15 4装ー141 10 II 一一一 1-10 一一一 2 16 2 2-1虹梁 5-1 6 36 2-2 II 5-2 7 10 2-3 II 5-3 8 8

    共 2-4 II 5-4 4裳 16 9 11 3-1木鼻 3 1 13 3-2 II 3-2 14 3 3 II 3 3 3 4 II 3-4 3-5 II 3-5

    i盈3 6 II 3-6 3-7 II 3-7 33 3-8虹梁 3-8 3-9木鼻 3 9 32 3-10虹梁 3 10 12 3 11木必 3-11 7 3-12懸魚 3 12

    グコ3 13木 fj;.. 3-13 3 3 14 ,, 3-14 21 4-1懸魚 4-1 1-3 6 4-2大瓶束 4-2 19 4 3木鼻 4-3 25 4-4 II 4-4 4-5 II 4-5 1-4・5 4裏-4・11ー 2

    阻るら 4 6 II 4-7 24 4-7 ’j 4-6 1-9 4-8擬宝珠 4 8 20 4 9木鼻 4 9 1-10 4 10萎股 4-10 3 1 4 11木鼻 4-11 31 4-12懸魚 4 12 1 4

    様 5 1木鼻 ←一一 2-1 ーー← 2-1 22 5 2 II 」一一 2-2 ← 2-2 4説 10 23 5-3 ’j ←ー← 2 3 ← 2 3 5 4 II ←一一 2-4 一一← 2-4 4裏-5 30 5-5 II ←一一 2 5 ← 2 5 1-3 5 6 II 一一一 2-6 一一トー 2 6 5-7 II 一一一 2 7 ト 5 5 10 29 5 8懸魚 一一一 2 8 ト 5 6 11 16 5 9木鼻 一一一 2 9 28 5 10 II 一一一 2 10 トー 5 ー7 12 5-11 II 一一一 2 ll 』 5 8 13 35 5-12 " 2-12一一一』 5 9 14 37

    4袈 7手挟 トー 4

    4議-8 ”- 5 4装 13木鼻 27

    1-1墓股 ・木0 l 2虹梁 9 木 I}~

    国1-6・7木鼻 1 11~13木鼻 15 懸魚1-14懸魚 l 15~17鬼板 26 木鼻

    有 1 18破風 1-19・20高欄 39 懸魚

    (7) 1 21・22門2義一l~5手挟 2裂-6~9基股

    絵 2義一10~16図案 2袈 17~19懸魚

    稼4裳 1・2高欄 4裏 3木鼻4裏 6懸魚 4裳 9木鼻4~ 17虹梁

  • 建築装飾ノマターンプックの変遷(麓・鈴木 ・河田 ・小川 ・内藤)

    ///

    わー’一図-2

    なお,本書の第 l巻と第 5巻の写本が秋田県立図書館にも所蔵されている。

    @ 『絵様(政治本)』(東京大学所蔵)

    茶横縞表紙 ・巻子本 ・全 5巻(第 1巻27.5c皿×541.?c皿, 第2巻27.5cm×563.Ocm, 第3巻27.5cm×

    559.6cm,第4巻27.5cm x 543. 5cm,第5巻27.5c皿X514.7c皿)

    表紙題築は, 第 1巻が「三代目/平撤退)絵様伝図」,第 2巻が「絵様露管息」,第 3~ 5

    巻が「絵様」となっている。本稿では他の類本と区別して「政治本」と呼称する。第 1巻の最

    後lと「平内政治図之 花押」と記された門の建地割が2図あり,第 2・3巻奥蓄には「平内大

    隅」,第 4巻英書』ζは「四天王寺流 平内大隅」と記されている。また, 第 2・4巻は裏面に

    も図が描かれており ,第 2巻裏の最後の図には「万治 2 (1659)亥ノ年/御本丸御広間中門破

    風懸魚之ひれ」と記されている。そして,各巻の巻頭および巻末に四天王寺流の角印が押され

    ている。

    記載内容は,第 2巻~ 5巻が長谷川本の全5巻と符合し(ただし政治本にのみ記された図が1図

    ある),また第 l巻および第4巻裏に記された38図中19図が,同じく 政治本の第 2~ 5巻所収の

    図と符合する(表一1)。そして,第 4巻裏の残り 19図もとれらと同様の抽象模様である。一すさのおのみζと やまたのおろち

    方, 第 2巻裏の図は, 素斐I!鳥尊が八岐大蛇を退治する伝説 (図-3)や龍などをモチーフとした

    具象模様で,他の巻とは趣が異なる。

    本番:の成立年時は明らかでないが,上記のとおり長谷川本に平内政治自身が新たな絵様を書

    図-2 『絵様(長谷川本)』 元禄14年(1701) 東京大学所蔵

    (4) 『(絵様戸11府本)』(秋田県立図書館所蔵)無表紙・巻子本 ・全2巻(第 l巻27.?cm×379.5cm,第2巻27.?cm×469.Scm) 全2巻からなるが,いずれも表紙・標題がなく,本稿では「戸11街本」と仮称する。 第1巻lζ奥書がふ

    たつある。ひとつは長谷川本第1巻の写しで, 「平内伝/長谷川仁兵衛之慰宗明図之/元禄十四年(17

    01)辛巳九月」とあり,もうひとつは「子時文政五年(1822)午六月中旬/於江府写之/戸崎縫殿/源知重」とある。記載内容は,第 l巻が長谷川本の第 1巻,第2巻が同じく第5巻と全く一致している。

    (5) 平内大隅政治は,寛文4年(1664)大隅応勝の嫡子として生まれ,天和3年 (1683)跡式,享保元年(1716)死去している。 (『平内家由緒1'9=.i他)

    (6)万治度江戸城本丸の造営には,平内家第2代大隅応l勝が棟梁頭と して出仕しており,その時の設計図と考えられる。(「御本丸御{乍事御書付』 ・『柳営日次記j.r御本丸御作事万人用井直段ノ帳』,以上『東京市史稿皇城篇第武』明治45年3月博文館刊所収)。

    5

  • 技術と文明 6巻 1号( 6)

    き加えたものであることから,長谷川

    本成立後で政治の在世中,すなわち宝

    永(1704)から正徳(1715)頃に成立し

    たと考えられる。

    なお,本書の第 4巻の一部と第 5巻

    の写本が,長谷川本 ・政治本と とも

    に,平内家史料のひとつとして東京大

    学に所蔵されている。

    ④ 『絵様集(甲良本)』(東京都立中央図

    書館所蔵)

    茶布表紙 ・巻子本 ・1巻(24.6cm X

    1062. Bern)

    東京都立中央図書館所蔵の甲良家史

    料のひとつである。表紙題築は「絵様

    集」 となっているが,他の類本と区別

    して 「甲良本」と呼称する。奥書等は

    なく ,筆写年時は不詳である。

    記載内容は,39図中34図が長谷川本

    と政治本のいず、れとも符合し,また政

    治本にしかない第 4巻裏に記載の図と

    図-3

    図-4

    一致するものも l図ある(表一 1)。 ただし,記載JI演は全く異なり,長谷川本 ・政治本lと記され

    ていた特定建物名 ・部材名もない。ま た,一部に若干手を加えた図もある。なお, 39図中残り

    の4図は木鼻と懸魚で,前 2書には見られなかった新たな意匠のものもある(図-4)。

    ⑤『番匠秘事 木端江容』 (国会図書館所蔵)

    濃緑茶表紙 ・袋綴 ・1冊 ・半紙本(22.Bc皿x15. 2cm)

    表紙題主主に「番匠秘事 木端江容」,内題に「木端江容」とある。そして,内題の横には「享

    保九(1724)甲辰年十月写之/児玉重矩固」 と記され, また奥蓄には 「重矩写之」とあ る。児

    玉重矩は江戸幕府小普請方棟梁で,木割書系絵様雛形の『番匠雛形絵様』(享保11年一1726)・

    『番匠秘事 袖鑑』(明和3年一1766)も筆写している。

    図-3 『絵様(政治本)』宝永初(1704)~正徳末(1715)頃東京大学所蔵図 4 『絵様集(甲良本)』享保(1720)~寛延(1750)頃東京都立中央図書館所蔵(7) 『勅額御門唐破風懸魚j(東京大学所蔵)

    紺地黄模様入布表紙 ・巻子本 ・1巻(27.4cm x 819. 5cm) 表紙題箆は「JIYJ額御門唐破風懸魚Jとなっているが,とれは最初に記された図の名称をそのまま表題

    としたものである。奥書等はなく,筆写年時は不明。(8)前掲書(注 1)参照。

    6

  • 建築装飾パターンフ,・・;;クの変遷(滋 ・鈴木 ・河問 ・小川・ 内藤)

    表- 2 『番匠秘事木端江容』 ・「家作彫物図』対照表

    (ただし, 『家作彫物図』は『番匠秘事木端江容』と一致する絵i様のみ記載)

    『番匠秘事木端江容』 『家作彫物図』 『番匠秘事木端江容』 『家作彫物図』

    全 lf冊 享 保9年 (1724) 全 1冊寛永元年(1624) 全 l冊 享保9年(1724) 全 l冊寛永元年(1624)

    図番 図番 図番 図番

    大瓶東 2 38 鋳金具 44

    2 II 24 39 JI 45

    3 II ー26 40 II 43 4 II 41 II 42

    5 JI 98 42 II 39

    6 II 28 43 II 41

    7 基股 27 44 木鼻 20

    8 JI 11 45 II 21

    9 II 22 46 II 92

    10 II 71 47 II

    11 持送り 48 II

    12 基 II生 12 49 II

    13 JI 10 50 II 7

    14 虹梁 38 51 II 25

    15 木王手 90 52 fl 23

    16 虹梁 32 53 fl 103

    17 fl ー94 54 fl 8 18 木鼻・虹梁 29 55 懸魚 67

    19 手挟 5 56 fl 64

    20 木鼻 3 57 fl

    21 ” 6 58 II

    22 子挟 4 59 II

    23 木 if~ 60 II

    24 JI =さ 9,35 61 鬼板

    25 II 62 II 59

    26 JI 9 63 II 16

    27 II 37 64 II

    28 II 37 65 II

    29 II 66 II

    30 務金具 49 67 II

    31 II 99 68 fl 14

    32 釈杖彫 69 組物

    33 JI 70 木鼻

    34 fl 71 組物

    35 fl 72 (広間妻立面図)

    36 鋳金具 51 73 (玄関立面図)

    37 JI 46 74 (玄関平面図)

    7

  • 技術と文明 6巻 1号( 8)

    図- 5

    肘い回青蕗

    図- 6

    記載内容は,大瓶束 ・墓股 ・虹

    梁 ・手挟 ・持送り ・木鼻 ・釈杖彫

    .飾金具 ・懸魚 ・鬼板が部材どと

    にまとめて記されている。その大

    半は『家作彫物図』所収の図と一

    致しているが(表-2), 懸魚 ・鬼

    板iζ斬新な意匠のものもあり(図

    -5),注目される。

    @ 『番匠志導教」(国会図書館所蔵)

    薄茶地紺模様入表紙 ・袋癒 ・1

    冊 ・美濃本(27.Scm x 22. 3cm)

    表紙題築および内題ともに「番

    匠志導教」となっている。そし

    て,自序に「享保 十五年(1730)

    /成仲秋月 (8月)/平野氏六十

    一歳書之」と記されている。

    本書は前半と後半で内容が異なっており,まず前半部は,鋭 ・木鼻 ・図案(動物) ・大瓶束 ・

    間斗束 ・墓股 ・懸魚 ・鬼板 ・鰭(図 的 ・手挟が描かれ,典型的な 絵様雛形となっている。一

    方,後半部は,鐙 ・鐘楼 ・門扉 ・唐戸などの木容!の後lζ, 図案 0師子) ・木鼻 ・虹梁が記され

    ているが,木鼻 ・虹梁の図は前半部の図lζ比べて筆跡がぎζちない。そして,後半部は見聞き

    右端下方に丁数が「一」から「十二」まで通して記されている。なお,前半部lとは,木版本彫

    物書系絵様雛形の 『大匠雛形 彫物絵本』(正徳4年一1714~享保2年一1717f1J)と同じ図が多く記

    されている。 図の大半lζ名称が記されている。

    ⑦ 『匠家雛形 上之巻』(東京都立中央図書館所蔵)

    淡青色布表紙 ・巻子本 ・1巻(27.3cm x 1536. lcm)

    表紙題主主lζ 「匠家雛形 上之巻」とある。 『匠家おrn形』は,上中下 3巻からなるが,そのう

    ち上巻が絵様雛形となっている。また, 下巻は現存しない。

    奥書lと「右図面者/延享四丁卯(1747)夏写」 とあり, その後に建仁寺流の角印が押されて

    いる。また,巻の中ほどに 「東都官匠溝口若狭源林期l字子印号文山」と記されているので,江

    戸幕府小普請方棟梁溝口家の建築書と思われる。

    本書も前半部と後半部で内容が異なっている。まず,前半部は木割書系絵様雛形で,拳鼻 ・

    鬼板 ・JMi:魚 ・宝珠など, 「建仁寺派家伝書 匠用小割図』・『(甲良宗賀伝来目録) 小割図』 他と

    図- 5 『番匠秘事 木端江容』享保9年(1724) 国会図書館所蔵図 6 『番匠志導教』 享保15年(1730) 国会図書館所蔵

    8

  • 建築装飾パターンプックの変遷(滋 ・鈴木・何回 ・小川・内藤)

    同ーも しくは類似の図があるのに対

    し,後半部は木割に関する記述のな

    い彫物書系絵様雛形となっている。

    本稿で考察の対象とする後半部の

    記載内容は,木鼻 ・墓股 ・図案 ・運

    筆 ・虹梁 ・大瓶束 (図ー7)・結綿 ・

    懸魚 ・天井絵などからなるが,その

    配列は無秩序である。なお,運筆lζ

    関する記載があらわれるのは, 管見

    したと乙ろ本書が最初である。

    ③ 『(甲良家伝来)絵様』(東京都立中

    央図書館所蔵)

    焦茶金ち らし表紙 ・巻子本 ・1巻

    (28. 7 cm X 666. Ocm)

    江戸幕府作事方大棟梁甲良家伝来

    本で,表紙題築lとは「絵様」とある。

    奥害等がなく,筆写年I時は不詳であ

    る。

    記載内容は,運筆 ・虹梁 ・木品 ・

    懸魚 ・図案からなるが,その大半が

    単純な抽象模様である。

    @『番匠秘事絵本相』(国会図書館所蔵)

    紺表紙 ・袋綴 ・1冊 ・美濃本(28.lcm×20. 2cm)

    図-7

    ~i ~

    図- 8

    表紙題築lと「番匠秘事絵本拘」,内題lζ 「絵本拘」とある。また,奥書には「奥村三重郎

    /敬白/寛延三 (1750)庚午年」とあり, その横に「和泉圏第三大区四小区/日根郡楢井村/

    城野彦六/大工碧之助」と明治初期lζ所持者によって記されたと考えられる墨書がある。

    記載内容は,鬼板 ・懸魚 ・墓股 ・手挟 ・虹梁 ・大瓶束 ・木品(図-8)からなり,部材別lζ整

    然と並べられている。ただし,最後lと記された木鼻2図は,それ以前の図にくらべて筆跡が著

    しく劣っており, 明らかに後補である。

    図-7 『匠家雛形 上之巻』 延享4年(1747) 東京都立中央図岱館所蔵図-8 『番匠秘事絵本拘JJJ:延3年(1750) 国会図書館所蔵

    (9)前掲書(注 1)参照。

    9

  • 技術と文明 6巻 1号(10)

    3. 江戸時代後期

    江戸時代後期は,宝暦(1751)~天明 (1788)頃,寛政 (1789)~享和(1803)頃,文化(1804)

    以降,以上 3時期で状況が異なる。まず,宝暦から天明頃までの約40年聞には,江戸時代中期

    にひきつづき『万ひいな困|互|全』ほか4本が著されている。ととろが,寛政から享和にかけ

    ての約15年間は,全く新たな史料が確認できない。しかし,文化 ・文政(1804~1829)頃から徐

    々に新たな史料が見えはじめ,天保(1830)から嘉永(1853)頃には,ブームとも思えるほどに

    多くの史料が著わされ,結局文化以降の約50年聞には15本にもおよぶ史料が著わされている。

    以下,乙れらの史料について考察する。

    ⑬ 『万ひいな1~111;1 全』(金沢市立図書館清水家文庫所蔵)

    薄茶表紙 ・袋綴 ・l冊 ・美濃本(25.6c田X 19.0cm)

    加賀毒事御大工清水家史料のひとつ

    である。

    表紙の破損が著しく, 外題は「万

    ひいな口口 全』と読めるだけであ

    るが,図主体の内容から, 「万ひい

    なかた(雛形) 全」が適当と三考えら

    れる。奥書等はない。

    本書も前半部と後半昔日で内容が異

    なる。まず,前半部は木苦手j書系絵様

    雛形で,組物 ・懸魚 ・高欄 ・擬宝珠

    が記されているが,その大半は 『匠

    家極秘伝』・『鬼板懸潟、割』ほかから

    図-9

    の写しである。また,後半部は彫物書系絵様雛形で,鬼板 ・宝珠 ・懸魚(図-9)・墓股 ・大瓶

    束 ・向拝 ・手挟 ・持送り ・木品 ・釈杖彫 ・図案など多岐にわたって記されており,そのなかに

    も『大匠雛形 彫物絵本』 ・『(甲良宗賀伝来目録)小割図』など,他普からの写しが少なくない。

    清水家が初めて加賀藩大工頭となったのは,宝暦9年(1759) 7代多四郎軌亮の時であり,ω

    その前後lζ記されたとする清水家史料は多い。本書が写した原本もほぼ宝麿以前に成立してい

    るので,著述年代は宝暦末 (1760)頃と思われる。

    なお,木鼻を列挙したと乙ろでは,社寺の名称を記したものも多く,他の絵様雛形のみなら

    ず,近畿一円の社寺から実例も収集して記載したととがわかる。結局,本書は広範囲な内容と

    図- 9 『万ひいな困回全』宝磨末(1760)頃金沢市立図告館清水家文庫所蔵

    側前掲書(注 1)参照。ω 内藤昌「大工技術書について」,『建築史研究』第30号,昭和36年10月参照。

    10

  • 建築装飾パターンブックの変遷(艇 ・鈴木 ・河田 ・小川・ 内藤)

    豊富な記載量を備えたまさに「万ひいなかた」であるといえる。

    ⑪ 『大工雛形』(国会図書館所蔵)

    茶表紙 ・巻子本 ・2巻(序・抜文のある巻27.5cm×468.2c皿,他の巻27.2cm×788.5c皿)

    全7巻のうちの 2巻が絵様雛形で, 表紙題主主はいずれも「大工雛形」となっている。そのう

    ちの 1巻に序および肢があり,政文最後に「子時/明和八年(1771)陽月(10月)上旬」と記さ

    れている。また,践の前には「東都大匠/立川棟梁軒藤原冨房/行年七十一歳」 と記されてお

    り,とれが本書の著者と考えられる。立川(小兵衛)富房は,初め大隅流(平内大隅政治から出た

    一派)を学ぶが, 後同ずから立川流を名乗った人物学,木版本彫物書系絵様雛形の『大和絵

    様集』(宝暦13年一1763)や『軒廻り極雛形』(明和元年一1764)も著している。また,静岡浅間神

    社などの彫物で有名な諏訪の立川和四郎富棟は,ζの立川小兵衛冨房iζ彫物の手法を学び,職

    養子に望まれて立川姓を許されていg。なお,国会図書館の明治期の目録では,本書は江戸幕府小普請方の林善次郎の写本という乙とになっている。

    記載内容は,序 ・政文のある巻が木鼻,他の巻が木鼻 ・破風品 ・持送り ・虹梁で,乙のうち

    後者では17図中14図が同著者の 『大和絵様集』と同ーの図である。また部材全体が具象模様

    (天象)の木鼻や,天象と植物の複合模様(菊水)の虹梁(図-10)など,他の史料では天保 (1830)

    ~嘉永(1850)頃以降にみられるものも 3図ある。ただし,とれら 3図は,立Jll小兵衛冨房の

    著 した原本そのままではな く, 林善次郎によって書き加えられた可能性も否定できない。

    ⑫ 『絵様其外』 (東京都立中央図書館所蔵)

    茶表紙 ・袋綴 ・l冊 ・中本(21.9c田×13.Bcm)

    表紙題主主に 「絵様」,扉題に「絵様其外」とある。また,奥書に「戊成 安永七年 (1778)/

    三月十四日/甲良吉太郎/弟為助図之」と記されている。甲良吉太郎とは,江戸幕府作事方大

    棟梁甲良家第 9代棟彊のととである。

    記載内容は, 墨壷 ・虹梁 ・組物 ・大瓶束(図一11)・持送り ・鬼板 (鰭) ・木鼻 ・図案 ・墓股 ・

    手挟 ・懸焦、など多岐にわたっている。そのモチーフは抽象模様 ・具象模様ともにあるが,なか

    でも抽象模様は従来にない装飾的なもので,抽象模様装飾化のひとつの頂点とみなすととがで

    きる。

    ⑬ 『透彫絵様』(静嘉堂文庫池上家文書所蔵)

    茶地金模様入布表紙 ・巻子本 ・1巻(29.4cm X 449. 7 cm)

    加賀藩で代々作事方の要職を勤めた池上家伝来の史料で, 表紙題築lζ 「透彫絵様」とある。

    奥書はないが,池上家の史料の大半は,寛延3年(1750)に第 7代を継ぎ,寛政元年(1789) Iζ

    (12) 細川隼人 『立川流の建築』諏訪史談会昭和47年刊参照。ω細川隼人前掲書参照。同 文化9年(1812)大棟梁見習として初出仕, 文政2年 (1819〕大棟梁となる。天保5年(1834)没

    (『甲良家史料』他)。

    11

  • 技術と文明 6巻 1号(12)

    没した猪右衛門延世によって収集整

    理されているので,本書もその在世

    中lζ著されたものと考えられる。記

    載内容は,天井板や欄聞の透彫のた

    めの図案(図一12)で,いずれもいわ

    ゆる遠州模様である。

    ⑬ 『(門外十七種)』 (東京国立博物館

    所蔵)

    白表紙 ・仮綴(巻子本を裁断) ・2

    冊(第2冊27.Sc田x41. 9c田, 第12冊

    28.0cm×41. 5cm)

    全18冊のうちの第 2冊と第12冊が

    絵様雛形である。第 1冊に門の記述

    がある乙とから「門外十七種」 と仮

    題が付けられている。

    第16冊の奥書K 「右工術指南せし

    めート巻伝進申候/文化十一 (1814)

    甲成年四月吉日 匠/八木又三郎

    様」とあり,その下に「大久保」 ・「延

    治」と読めるふたつの角印がある。

    そして, 第 2冊目録の横には 「成田

    藤助絵様之図写」とあり,また第12

    冊目録の横には「東神田 大工三吉

    図-10

    図-11

    CJ~~~恥ρ匂~;§Y?J勺.~~必長ご_5 ~

    ¥ ¥,__ Jιdシ戸元司火、可ぅ、,n,_ ノ1 『\く '8~,::=ニコ噂思鈴激件==くJ8 ノ\て_f__::_ぎち一二一l__,ブし/

    図-12

    絵様之図手本/長谷川権右衛門 絵様手本ニ習之図」と記されている。

    記載内容は,第 2冊lζ鬼板 ・木鼻 ・虹梁 ・基股 ・図案, 第12冊lζ虹梁 ・墓股 ・懸魚 ・鬼板 ・

    大瓶東が記されている。ただし, 第12冊には,木版本彫物書系絵様お!t形の『大和絵様集』 (宝

    暦13年一1763)・「秘伝 匠家絵様集』(宝暦9年一1759)・『新撰大工雛形 五』(宝暦9年)からの

    写しが多い。

    ⑬ 『(破魔矢絵様)』(秋田県立図書館所蔵)

    無表紙 ・巻子本 ・1巻(29.6cm X 355. Ocm)

    図 10 『大工雛形』 明和8年(1771) 国会図書館所蔵図-11 『絵様其外』 安永 7年(1778) 東京都立中央図書館所蔵図-12 『透彫絵様』 1'l延 3年(1750)~究政元年(1789) 静嘉2主文庫池上家文書所蔵

    同小堀遠州好みの模様で,具体的には瓢 ・丁子 ・銀杏などを遠州独得の典雅にして単純化された曲線で

    格調高く図案化したもの。

    12

  • 建築装飾パターンブックの変巡(鎚・鈴木・河田 ・小川・内藤)

    図-13

    4野~アー一一一

    図-14

    無題であるが,上棟式用の破魔矢

    lζ関す’る絵様雛形であるので, 「破

    魔矢絵様Jと仮称する。また,奥書

    もないが,巻頭lζ 「大久保」, 巻末

    に「大久保」 (巻頭のものとは異なる)

    と「延治」の角印がある。乙れらと

    同じ角印が『(門外十七種)』 (文化

    11年一1814)第16冊にあるので,本書

    もそれと同じ頃lζ著されたものと考

    えられる。

    記載内容は,かなり装飾化された

    鏑矢と雁又矢(図一13)が交互に並び\

    最後に矢羽が記されている。

    ⑮ 『番匠秘事 j彰もの集』 (国会図

    官館所蔵)

    濃茶表紙 ・袋穣 ・1冊 ・美 濃 本

    (27. 6cm×20. 1cm)

    表紙題築lζ『番匠秘事彫もの集』

    とある。奥書には「文政十一 (1828)

    子/五月吉田/石翁図」と記され,

    また本文中狛犬の台座に「石屋/勘

    八」 ・「石工」と記されているので,

    著者は石工と考えられる。

    記載内容は,鬼板 1図 ・木鼻2図 ・懸魚 1図を除いたほかは,唐子 ・仙人等の人物や (図ー

    14),竜 ・搬麟 ・狛犬 ・獅子等の動物,植物などいずれも写実的な図案ばかりである。乙れと

    類似の図案は,木版本彫物書系絵様郵rn形の『彫工努rn形』 (文政10年一1827)にも多く記されてお

    り,同時期にとれらの絵様雛形が相次いで著された点は,時代の晴好を反映したものとして,

    特に注目されよう。

    @ 『(竹中大工道具館蔵本絵様集)』 (竹中大工道具館所蔵)

    無表紙 ・80枚(35.4cm×48.3cm)

    80枚 1組の絵様集で無装丁である。無題であるので上記のとおり仮称する。 筆写年時iζ関す

    る記述はない。

    図-13 『(破魔矢絵様)』文化11年(1814)頃秋田県立図書館所蔵図一14 『番匠秘事彫もの集』文政11年(1828) 国会図書館所蔵

    13

  • Ar-一手冬季主将汁今季詩ヰー

    、羽小中由来him

    草寺

    H

    吋汁

    u

    将司荘号表号

    6巻l号(14)技術と文明

    図-15-1

    ,;、

    区ト 15 3

    神都

    竹中大工道具館所蔵『(竹中大工道具館蔵本絵様集)』文化元年(1804)~安政3年(1856)立川流 rm下絵『立川流の建築』〔注12〕所収静岡浅間神社(神部神社 ・浅間神社)拝殿天井絵文化11年(1814)

    左狩野式部卿融川法眼藤原寛{言 右狩野中務卿伊川i法眼藤原祭信(『霊童文化財神社 ・浅間神社 ・大歳御組神社第三期修理工事報告書』所収)

    14

    図-15-1

    図ー15-2

    図 15-3

  • (左上)

    (左下)

    (右上)

    (右 下)

    図-16 1

    図-16- 1 静岡浅間神社(科部神社 ・浅間神社)拝殿天井絵文化11年(1814・装打紙墨書) 左4図 ・狩里子式部卿融川法眼藤原克信右4図 :狩野中務卿伊川法眼藤原告長信(『重要文化財 神部神社 ・浅間神社

    ・大歳御祖神社第三期修理工事報告岱』所収)

  • 図-16-2

    図-16-3

    @ ;JI!"'

    図-16-4

    図-16 2 『(竹中大工道具館蔵本絵様集)』文化元年(1804)~安政3年(1856) 竹中大工道具館所蔵図ー16-3 『絵様之巻』天保(1830)~嘉永(1850)頃中川家所蔵図-16 4 『彫絵』 嘉永4年(1851) 秋田県立図書館所蔵

  • 建築装飾パターンブックの変逃(麓 ・鈴木 ・河田 ・小川 ・内藤)

    図-17ー 1 図-17-2

    図-16-5 『彫物絵様』 嘉永4年(1851) 東京国立博物館所蔵

    関 17ー l 「(竹中大工道具館蔵本 絵様集)』文化元年(1804)~安政3年(1856) 竹中大工道具館所蔵

    図-17 2 室井八I際社(茅野市) 文政8年(1825) 立川和四郎富昌作(『立川流の建築』〔注12〕所収)

    17

  • 技術と文明 6巻 1号(18)

    格も

    晶病 図-18- 1

    'rr粉河t'iii!'

    図-18-2

    図-19-2

    図 18-1 『(竹中大工道具館蔵本 絵様集)』文化元年(1804)~安政3年(1856) 竹中大工道具館所蔵

    図ー18-2 諏訪神社上社拝殿(諏訪市) 天保6年(1835) 立川和四郎富昌作(前掲図 15-2と同じ)図-19-1 『(竹中大工道具館蔵本絵様集)』文化元年(1804)~安政3年(1856) 竹中大工道具館所蔵

    図ー19 2 青争岡浅間神社側I部神社 ・浅間神社)本殿文化10年(1813)(前掲図-15 3と同じ)

  • 建築装飾パターンブックの変遷(鶴・鈴木 ・河田 ・小川・ 内藤)

    -, ー, y ,」』 ・y

    図-20

    記載内容は,木鼻 ・虹梁 ・墓股 ・手挟 ・大瓶束 ・欄間 ・図案からなり, 1枚に 1・2図ずつ

    記されている。そして, 1枚を除いたほかはすべて写実的な具象模様で, 「(狩野)探幽守信筆」

    と記された龍の彫物下絵(図 15 1 )や天女の図(図 16- 1)もある。

    と乙ろで,本書l乙記載の絵様と近似の彫物が, 諏訪の立川流とりわけ第 2代和四郎富昌の作

    になる遺構において,多数確認するととができる(図 17-1・2, 図-18-1・2, 図-19- 1

    ・2)。特に「粟穂lζ斡」は,富昌の得意とした題材で,静岡浅間神社本殿(文化10年一1813),諏

    訪大社上社拝殿(天保6年一1835),常楽寺(嘉永4年 1851)ほか多くの遺構に見える。また,上記

    「(狩野)探幽守信筆」 と記された龍の彫物下絵と筆跡が近似の龍の下絵もある(図 15 1・

    2)。静岡浅間神社の造営工事では,狩野派の絵師も参加しており ,本書と類似の龍(図 15-

    3)や天女(図ー16- 2)を描いているので,富昌をはじめ立川流の彫物大工が,それらを模写

    あるいは参考にしながら多くの彫物下絵を書いたであろう ζ とは当然考えられる。

    以上より,本警は立川流第 2代和四郎富昌によって,彼が静岡浅間神社の工事に参加した文白骨

    化元年(1804)から,安政 3年(1856)に没するまでの聞に書かれたものと思われる。

    ⑬ 「(戸崎知重伝来 絵様集)』(秋田県立図書館所蔵)

    無表紙 ・巻子本 ・全 5巻(第l巻27.7cm x 703. Scro,第2巻27.9cm×724.Scro,第3巻27.9cm x 525. 5

    cm,第4巻27.9c皿x663. 5cm,第5巻27.Scro X 1216. Sc皿)

    無題であるが,第 l巻と第 3巻の巻頭に「戸l崎知重/図之」と記さ れているので「戸崎知重

    伝来絵様集」 と仮称する。 戸崎家は,代々秋田佐竹藩に仕えた大工で,その第11代知重は,

    文化 ・文政頃lと江戸で学び, 多くの写本を残 している。なお, 奥書等筆写年代lζ関する記載は

    fJ.V、。記載内容は,各巻とも虹梁(図 20)・木鼻 ・墓股 ・!懸魚・大瓶束などからなり,特lζ巻別に

    よる分類は意識されていない。また, 第 5巻lζは『彫工努rn形』(文政10年一1827)や『番匠秘事

    図 20 『(戸崎知重伝来絵様集)』天保(1830)~嘉永(1850)頃秋田県立図書館所蔵

    (16) 細川隼人前掲書参照。日 富昌は,永福寺旭堂(塩尻市)を建築中の安政3年(1856)IL,伐採しようと していた大俸の下敷になって不慮の死をとげたといわれている。享年75才であった。細川隼人前掲書参照。

    19

  • 技術と文明 6巻 1号(20)

    彫もの集』 (文政11年)と類似の獅子の

    図案が6図ある。乙のような写実的な

    動物等の図案は, 「(竹中大工道具館蔵

    本絵様集)』 ・『絵様之巻』(後述) ・『彫

    絵』(後述)などにも見え,前記 2害か

    ら強い影響を受けていると考えられ

    る。なお,本書lζ記載の図は,すべて

    流麗な筆跡で描かれている。

    ⑮ 『絵様之巻』(中川家所蔵)

    緑表紙 ・巻子本 ・1巻 (28.0cm ×

    1215.Scm)

    表紙題築iζ 「絵様之巻」 と記されている。

    図-21

    富山藩の大工中川家lζ伝わる史料のひとつであるが, 奥書等筆写年時に関する記述はない。

    記載内容は,図案 (唐子 ・動物 ・天女 ・獅子ほか) ・木鼻 ・基!没(図 21)・手挟 ・欄間 ・懸魚か

    らなる。乙のうち,図案のなかには 『番匠秘事彫もの集』(文政11年一1828)や 『(竹中大工道具

    館蔵本絵様集)』(文化元年一1804から安政 3年一1856)および木版本彫物書系絵様雛形の『彫工i~rn

    形』(文政10年一1827)と同じ図 (図ー16-2・3,図-22一l~3)が多数あ る。

    @『謂墓股』(中川家所蔵)

    紺表紙 ・巻子本 ・1巻(25.2cm×540.3cm)

    表紙題主主には「謂 墓股」 と記されている。

    本書も富山藩の大工中川家lζ伝わる史料のひとつである。奥書:等はない。

    記載内容は,標題とは関係なく大瓶束 ・虹梁 ・木品 ・図案からなり , そのなかには『 (戸崎

    知霊伝来絵様集)』と図じ図(図 23 1 . 2 )が多数ある。

    @ 「彫物絵数品」 (東京大学所蔵)

    紺布表紙 ・巻子本 ・l巻(30.1cm x 640. 3cm)

    東京大学所蔵の平内家史料で, 表紙題主主には「彫物絵 数品」 と記されている。奥書はない

    が,四天王寺流の角印が巻頭 ・巻末に付く。

    記載内容は,懸魚鰭 ・手挟 ・図案 ・木鼻からなり,いずれも植物 ・動物等の具象模様である

    (図-24)。巻頭の懸魚鋭の図は, 『絵様 (政治本)』(宝永初一1704~正徳末一1715頃)第 2巻裏に

    記されたものと同じ図であるが,本史料のほうが流麗な筆跡で描かれている。

    @ 「拾校掛漠端』 (石川県立郷土資料館荒木家文書所蔵)

    無表紙 ・巻子本 ・1巻(27.5cm x 467. 5cm)

    図-21 『絵様之巻』天保(1830)~嘉永(1850)頃 中川家所蔵

    20

  • 建築装飾ノマターンブックの変遷(麓 ・鈴木 ・河111.小川 ・内藤)

    図-22-1

    図 22-2

    ふっ、河J’

    kw

    AP之内

    η〆川\

    たU、q

    図-23 1

    図-23-2

    図-22-3

    図-22-1 『彫工雛形』 文政10年(1827) 東京大学所蔵他図 22-2 『番匠秘事彫もの集』文政11年(1828) 国会図書館所蔵図 22-3 『絵様之巻』天保(1830)~嘉永(1850)頃中川家所蔵

    図-23 1 『(戸l崎知霊伝来絵様集)』天保(1830)~嘉永(1850)頃秋田県立図書館所蔵図 23-2 『謂基股J天保(1830)~嘉永(1850)頃中川家所蔵

    21

  • 技術と文明 6巻 1号(22)

    図-24

    加賀藩の大工荒木家伝来の史料で,本紙内題

    lζ 「拾枝掛獲端」 とある。奥書等筆写年時lζ関

    する記述はない。

    記載内容は, 摸 ・龍 ・象 ・獅子な どの木鼻

    と,それに付随して組物 ・持送りが記されてい

    る。特に木鼻については,側面図のみならず下

    からの見上げ図も描いて立体的に説明してお

    り,またひとつの建築部材として竿納まで、書い

    ている点が, イ也書にない特徴として注目される

    (図-25)。

    図 25

    叫情調設怠

    図 26

    図-27

    図-24 『彫物絵数品』天保(1830)~嘉永(1850)頃東京大学所蔵

    図 25 『拾校掛猿端』天保(1830)~嘉永(1850)頃 石Jill巣立郷土資料館荒木家文書所蔵

    図-26 『(鮫絵様)』 天保9年(1838) 東京都立中央図書館所蔵

    図 27 『彫絵集』 嘉永4年(1851) 秋田県立図書館所蔵

    22

  • 建築装飾パターンブックの変選(麓 ・鈴木 ・河田 ・小川 ・内藤)

    @ 『木端絵様』(金沢市立図書館清水家文庫所蔵)

    鼠地黒亀甲模様入表紙 ・巻子本 ・1巻(27.4c田×905.3cm)

    加賀藩御大工清水室長史料のひとつで, 表紙題主主lζ 「木端絵様」 とある。奥書等筆写年時lと関

    する記述はない。

    記載内容は,摸 ・龍 ・象 ・鳳恩 ・蹴l麟などの木鼻を主体にして,それに持送りが加えられて

    いる。前述の「拾校掛摸端」と同じ図が 1組( 3図)あり , またそ乙で初めて見られた下から

    の見上げ図も 2図ある乙とから,本書は『拾校掛猿端』を参考lとして記されたと考えられる。

    @ 『(縦絵様)』(東京都立中央図書館所蔵)

    紺表紙 ・巻子本 ・l巻(29Ocm×251. 5c四)

    無題であるが, ((~~ .鴎尾lζ関する絵様雛形であるので,仮K.「鋭絵様」と呼称する。奥書lと

    「天保九年(1838〕三月/宮大棟梁/甲良若狭」 と記されている。 乙の甲良若狭とは,幕府作日目

    事方大棟梁甲良家第10代棟全のととである。

    記載内容は, 「倭様貴」 ・「明朝様鬼状頭」(図-26)・「唐山様蛍吻」など,様式の異なる鮫 ・

    騎尾が11図記されており,それぞれに名称が付されている。

    @ 『彫絵集』(秋田県立図書館所蔵)

    無表紙 ・巻子本 ・全 2巻(上巻28.2cm×763.2cm,下巻28.Ocm X 661. 9cm)

    本紙内題は,上巻が「ト 彫絵集上」,下巻が「へ 彫絵下二本之内」 となっている。

    上巻が「ト」で下巻が「へ」というのは,イロハ順からいえば逆で,最初から計画的lζ記され

    たとは考えにくく ,多数の雛形本を整理するにあたって記されたものと考えられる。

    奥書は,上下巻とも「嘉永田(1851)辛亥仲春( 2月)宇佐見生レ先(下巻は「先生」)蔵書写

    /戸崎清蔵」となっている。

    記載内容は,上巻が木鼻と持送り(図-27),下巻が図案で,いずれも写実的な具象模様であ

    る。

    @ 『彫絵』(秋田県立図書館所蔵)

    無表紙 ・巻子本 ・1巻(39.7 cm X 375. 3c皿)

    本紙内題K 「ヌ 彫絵」とあり,奥書には「嘉永四(1851)辛亥仲春( 2月)中旬写之戸崎

    重遠」 と記されている。乙れらは前述 『彫絵集』の本紙内題および奥書と同 じ筆跡で,いずれ

    も秋田佐竹藩大工戸|崎清蔵重遠が記したものと考えられる。

    US)文政12年(1829) ~ζ17才で大棟梁見習となり,天保 5年(1834) 父棟張の家職を継いで大棟梁となる。天保8年lζは若狭を,また文久元年(1861)頃ICは筑前を名のる。明治11年(1878)K66才で没す(『甲良家史料』 他)。

    側 戸崎家lζは本史料のl孟かIL. 「ヌ 彫絵Jと内題lζ記された史料(後述)と, 『(戸l崎知重伝来絵様集)」全5巻(前述)および『(絵様戸崎本) j全2巻(前述)がある。試みに 「(戸崎知重伝来絵様集)」全5巻をイ~ホ, 『(絵様戸11育本)』全2巻をチ・リ と仮定すると,乙れらの4史料金10巻で,イ~ヌまでが完全にそろう ととになる。

    23

  • 技術と文明 6巻 l号(24)

    記載内容は,天女2図および竜 ・波の4図で,いずれも写実的な図案である。 ζ のうち,天

    女の図案は, 『(竹中大工道具館蔵本絵様集)』 ・『絵様之巻』および『彫物絵様』(後述)に記載

    の天女の図と同類である (図-16-2~5)。

    @ 『彫物絵様』 (東京国立博物館所蔵)

    白表紙 ・仮綴 (巻子本裁断)・2冊 ・横本 (26.6cm x 37. Dem)

    巻子本を裁断し,袋綴 2冊lζ改めたため,図の欠損が多い。外題は「彫物絵様」となってい

    るが,とれは袋綴lζ改めてからのものと考えられる。

    奥書は, 第 2冊に「応需而図之早/忍部保高」とあるが,同じく 第 2冊なかほどに異なる筆(卯力)

    跡で「嘉永田 (1851)辛亥年/西月上旬写之/上田光忠(花押)」 と記されている。そして,そ

    の前後で体裁が異なっており,前半部は上下2列に図が並べて描かれているのに対し, 後半部

    は紙幅いっぱいに l図ずつ描かれている。また図の大半に名称が記されているが,前半部の筆

    跡はなかほどにある上田光忠の筆跡と同じであり,後半部の筆跡は最後に記された忍部保高の

    筆跡と同じである。したがって,第 2冊は,2種類の全く異なる巻子本が 1冊にまとめられて

    いる乙とがわかる。一方,第 1冊は, 第 2冊の後半と同 じく全図とも紙幅いっぱいに l図ずつ

    描かれており,そ乙 lと記された名称も忍部保高の筆跡と同じである。 しかし,第 2巻後半部と

    全く同じ図が3図あるので, 筆者は同じながらも別の巻子本である可能性がある。いずれに し

    ても,本警は,上回光忠と忍部保高によって著された異なる巻子本を裁断し,袋綴 2冊に改め

    たものである。

    記載内容は, 第 1冊が木鼻 ・六葉

    .鬼板 ・墓股 ・大瓶束 ・懸魚 ・図案

    ・持送り ・虹梁,第 2冊前半が木鼻

    ・手挟 ・懸魚 ・墓股(図 28)・大瓶

    束 ・脇陣子 ・欄間 ・図案,第 2冊後

    半が鬼板 ・墓股 ・大瓶束 ・六葉 ・懸

    魚 ・木鼻 ・虹梁 ・宝珠 ・組物などか

    らなる。そして, 第 l冊には木割書図-28

    系絵様雛形である 「彫工雛形』(文政10年一1827)を参考にしたと考えられる向拝の図や, 「(竹

    中大工道具館蔵本絵様集) 」・「絵様之巻」・『彫絵』と同類の天女の図案があり (図ー16- 2~ 5)'

    また第2間後半には木割書系絵様雛形の 『大和絵様集』(宝暦13年一1763)から引用の鬼板 ・六葉

    の図がある。なお, 第 2冊後半には,図の大半lζ木割の記述がある。

    ⑧『番匠秘事 彫ものJ(国会図書館所蔵)

    濃緑茶表紙 ・袋綴 ・l冊 ・横本 (14.2cm×19.Scm)

    図 28 『彫物絵様』 嘉永4年(1851) 東京国立博物館所蔵

    24

  • 図 30-1

    図-30-2

    語専私

    P2

    図-29 『番匠秘事 j彩もの』嘉永(1850)頃国会図書館所蔵

    図 30-1 『番匠秘事左官図式』安政5年(1858)~明治中(1890)頃国会図書館所蔵

    図-30-2 橋戸稲荷神社本殿(束京) 年代不詳入江長八作(清水其i澄他編『伊豆長八作品集』〔上巻〕平成元年 松崎町振興公社発行所収)

    『番匠秘事 左官図式』安政5年(1858)~明治中(1890)頃 国会図書館所蔵

    叫,、一rn

    図-29

    図-31

  • 技術と文明 6巻 l号(26)

    江戸幕府小普請方棟梁児玉家伝来本で,表紙題箆lζ 「番匠秘事彫もの」と記されているて

    四周単辺の匡郭(10.4cm x 16. 4c田)があり,木版本の版下として著されたものと考えられる。奥

    書等筆写年l時l乙関する記載はない。

    記載内容は,墓股 ・手挟(図-29)からなり,すべて写実的な具象模様である。図の多くに

    「北ヨ リー」などと位置を示す番付が記されているので, 実際の設計にあたって描いたものを

    雛形本としてまとめたと考えられる。

    4. 明治時代

    明治時代になると,筆写本は少なくなり,わず、かに『番匠秘事左官図式』 ・『百窓集Jの2

    本のみである。次lζζれらについて三考察する。

    @『番匠秘事左官図式』(国会図書館所蔵)

    濃緑茶表紙 ・袋綴 ・1冊 ・半紙本(24.2cm x 16. 3cm)

    本書も江戸幕府小普請方棟梁児玉家伝来本で,表紙題主主に「番匠秘事 左官図式」と記され

    ている。 奥書等筆写年時lζ関する記載はない。

    本書は,標題のとおり左官工事,特lζ漆喰彫刻のための絵様雛形である。記載内容は,土蔵

    の戸口および扉 (図ー30-1)・鬼板 ・天井中心飾 ・虹梁 ・懸魚 ・妻飾 ・柄振板 ・持送りなどかω

    らなる。乙のような漆喰彫刻は,江戸時代末期から流行しは じめ,入江長八のような名工があ

    らわれて,明治から昭和初期の洋風建築の装飾へと展開する。本書には洋風建築に特有の天井

    中心飾の図(図-31)が記きれており ,しかもそれが和風模様である乙とから,~,"安政 5 年(1白開港以降明治中(1890)頃以前・1ζ著されたものと考えられるが, 一応明治時代の史料として扱

    つ。

    @ 『百窓集』(東京国立博物館所蔵)

    紺表紙 ・袋綴 ・1冊 ・横本(11.8cm x 17. Dem)

    表紙に「百窓集」 と記されている。また, 序文中に「明治二十一 (1888)の春」とあり,そ

    れに続いて,上下2巻のうちまず上巻五十窓を書いた旨が 記されている。そして序文最後に

    「葬細工の告余暇に/古一舘/十仙@」と記されている。

    記載内容は,序にあるとおり,窓および透しの図案が 1頁に 1図ずつ50図が描かれ,それぞ

    れに名称が付されている。

    帥文化12年 (1815)伊豆松崎に生まれる。 12才のとろから左官識に就き,のちに江戸IL:出て左官播磨屋の養子となって10代田金兵衛を悶ぐ。漆喰彫刻lζ長じて橋戸稲荷神社(東京)本殿扉の狐や岩科小学校(柏崎)客室小壁の千羽鶴など,多くの傑作を残している。明治22年(1889)105才で没す。伊豆長八とも呼ばれる(結城索明『伊豆長八』昭和55年復刻伊豆長八作品保存会刊参照)。

    担I) 遺構lとおいて和風模様の天井中心飾が確認できるのは,旧山梨県東山梨郡役所 (愛知県明治村, 明治13年一1880),豊平館(札幌,明治13年),旧新潟県議会議事堂(新潟,明治16年)など,いずれも明治初期の洋風建築である。

    26

  • 建築装飾パターンブックの変遜(慾 ・鈴木 ・河問 ・小川・内藤)

    以上, 筆写本彫物書系絵様雛形30本の書誌的考察を行なったが,乙乙で改めて,すでにその

    特質が明らかとなった木割審系絵様雛形や木版本彫物書系絵様雛形と比較する ζ とによって,

    筆写本彫物書系絵様縦形の特質を概括し,本稿の結論としたい。

    まず, 『絵様』類本のように,四天王寺流の平内家によって著わされたものが,建仁寺流の

    甲良家やさらには秋田佐竹藩の戸11府家など流派を越えて伝写された史料が存在するととから,

    意匠内容に流派意識による ζだわりはない ζ とがわかる。

    また, 「絵様」類本のように伝写関係にある史料も一部に存在するが,全体的には内容が多

    様で,木寄l書系絵様雛形lとみ られたような特徴的系譜を見出すととはできない。

    次に,同じく特徴的系譜がなく自由な変遷過程lζ特質がある木版本彫物書系絵様雛形と比較

    する。まず,史料の成立年時をみると, 木)坂本の場合は, 正徳 ・享保期(1714~1721) K 2史

    料,宝暦期(1759~1763)に 3史料,文政~嘉永期(1827~1851)に10史料, 明治期(1880~1894)

    に8史料,以上4時期lζ集中的に刊行されている。それに対して,筆写本の場合は,筆写年時ω

    を特定できない史料が多いものの,初出の『家作彫物図』 (寛永元年一1624)が例外的に早く成

    立している ζ とと,寛政~享和期(1789~1803)の史料がないととを除けば,元禄末 (1701〕か

    ら明治中(1890)頃まで,時期的に分散して成立している(表-3)。乙の相違は,木版本が絵様

    の発展段階どとに流行的K刊行されたのに対して,筆写本はたえず新たな意匠を求めて模索的

    lζ著されたとみる乙とができょ う。

    そして,乙のような新たな意匠の模索につとめたのは, 江戸幕府作事方大棟梁の平内家 ・甲

    良家,同小普請方棟梁の児玉家 ・溝口家,加賀藩作事奉行の池上家,同作事方御大工頭の清水

    家など上級大工職の家柄にあるものや,彫物大工と して江戸時代後期に台頭 してきた諏訪の立

    川家である。彼らがその地位を保守あるいは確立するためには,たえず技術の継承と研鎖lζ励

    まなければならず,それが継続的に著わされたとれらの筆写本において具現化したとみる乙と

    ができ,木版本がほとんど無名の著者によって一時的に刊行されているのと対照的である。

    なかでも,彫物大工として諏訪立川流の名声を不動のものにした第 2代和四郎富昌が,静岡

    浅間神社の工事において狩野派の絵師からその技法を吸収し, 多くの彫物下絵を描いている

    が,それが程なく富山藩 ・秋田佐竹藩の大工をはじめその後の絵様縦形の筆者によって伝写さ

    れている点は,ちょうど写実的具象模様による建築装飾の最盛期と時期を同じくしており,改

    めて注目される。

    いずれにしても,絵様の変遷過程における特徴的変化を抽出するのKは,流行を直接的に反

    影 しており, また年代の明らかな史料の多い木版本のほうが分析しやすかったのであるが,そ

    122) 奥書等筆写年時IC関する記述のない史料については,記載内容から およその成立年時を推定している。その詳細は別稿を予定している。

    27

  • 技術と文明 6巻 l号(28)

    れが一応明らかとなった現段階においては,時期的lζ分散している筆写本によって, 絵様の変

    遷過程をより詳細に究明する乙 とができるであろう。 乙の点については,別稿において具体的

    に考察する予定である。

    なお,本研究にあたって,伊藤真一氏の協力を得た乙とを付記する。

    The Transition of Pattern Books for Architectural Decoration:

    A Bibliographical Study on the Transcripts of Architectural

    Pattern Books“Horimonosho-type Eyo-Hinagata”

    by

    Kazuyoshi FUMOTO

    (Japanese Associatio且 forConservation of Architectural Monuments)

    Norio SUZUKI

    (Nagoya Institute of Technology)

    Katsuhiro KAW AT A

    (Shusei Technical College)

    Hideaki OGAWA

    (Gifu National College of Technology)

    Akira NAITO

    (Nagoya Institute of Technology)

    Th巴“Eycr-Hinagata”arear℃hitectural pattern books of detail d巴sign. They were

    written in the Edo and Meiji紅白, andcan be classifi巴din to two types; the “Kiwarisho"

    type and th巴“Horimonosho"type. The latter is furthermore subdivided into“wood-

    block Prints" and "Transcripts."

    In our previous study, w巴 r巴portedthat the Horimonosho” wood-block print was

    first d巴velopedin th巴 mid-Edoera, and was characterized by the different process

    which was completely fre巴 fromthe“Kiwari'’ method on which the Kiwarishcr-type

    Eycr-Hinagata was based. Mor巴over,the wood-block prints of the Horimonoshcr-type

    Eycr-Hinagata exhibit characteristic changes in the design of the architectural components,

    and from this dat巴 W巴 canidentify the age of the design.

    In this report, it is shown, from the bibliographical study of thirty transcripts of

    the Horimonosho-type Eyo-Hinagata, that there was a constant search for new designs

    among th巴 high-rankingofficial architects such as Heinouchi-ke and Kora-ke, and by

    the carv巴rs such as Tat巴kawa-ke. This forms a sharp contrast to the wood-block

    prints which were published, at every new dev巴lopingphase of Eyo.

    28

  • 30

    『百窓集』

    明治一

    一一

    年二

    八八八)

    29 @

    定政五年二

    八五八)1明治中ご八九

    O)頃

    『番匠秘事左官図式』

    28 @

    『番匠秘事

    彫もの』

    嘉永こ

    八五

    O)頃

    27

    『彫物絵様』

    B’

    叩山②

    『彫絵』

    II

    25 @

    『彫絵様』

    お永四年(一八丘

    24 ⑪

    『(銚絵様)』

    天保九年(一八三八)

    23 ⑮

    守木端絵様』

    JI

    22 ⑧

    『拾技掛猿端』

    II

    21 @

    『彫物絵

    @ 『

    ""' iill

    市膏股』

    I/

    19 @

    『絵様之巻』

    II

    18 @

    天保(一八三O)l嘉永ご

    八五

    O)頃

    『(戸崎知重伝

    様集)』

    @ス

    文化元年{一八O凶)l安政三年二

    八五六)頃

    『(竹中大工道具館蔵本絵様集)』

    16

    『番匠秘事

    彫もの集』文政一一

    年こ

    八二八)

    15

    『(破降天絵様)』

    文化一一年二

    一凶頃)

    14

    『(門外十七種)』

    文化一一年二

    一凶)

    13 ⑮

    寛延三年二七五O)1寛政元年二七八九

    『透彫絵様』

    l2 @

    『絵様其外』

    安永七年二七七八)

    『大工雛形』

    明利八年二七七二

    m⑧『万ひいな困回全』

    {玉暦末二七六O)頃

    9

    『番匠秘事

    寛延三年(一

    七iO)

    絵本初』

    8 @

    『(甲良家伝来)絵様』

    究延(

    一七五O)頃

    7 ⑫

    『匠家雛形

    上之{家』

    延一日干凹年二七四七)

    6

    『番匠志導教』

    享保一五年こ

    七三O)

    『番匠秘事

    木端江容』享保九年(一七二四)

    享保こ七二O)1寛延ご七五O)頃

    『絵様集(甲良本)』

    3 ⑨

    {玉永(一七O四)l正徳こ七一

    五)頃

    『絵…僚(政治本)』

    2 @

    『絵様(長谷川本)』

    元禄

    一四年(一七Oご

    平内家)}江戸幕府作事方大棟梁

    甲良家j

    児玉家)

    溝口家)

    地上家加賀務作事奉行

    清水家 同 作事方御大工頭

    荒木家同 大工

    中川家富山選 大工

    戸崎家 秋田佐竹海大工

    立川家

    諏訪立川家

    年代確定史料

    小普請方煉梁

    彫物大工

    T

    『家作彫物図』

    寛永元年二六二四)

    29 17 13

    3Di 三i

    ·~ T27 T26 ...

    一天保

    氏V

    l口15

    ., 14

    lili--寛政

    12 ... HV一安永

    口10口B

    !9 7v一寛延

    6 可

    5 ...

    3 .←一一一口一一一「

    宝正 享

    永徳 {呆

    年代推定史料口

    2 ... l’一寛永

    明治

    万文元~延久治応

    安政

    嘉永

    弘イヒ

    文政

    文化

    享平日

    天明

    明平日

    {玉暦

    寛保

    7C

    フE禄

    よ自同一円干天和

    延宝

    寛文

    万i台

    y兵

    慶安

    正f呆

    1900 1890 1880 1870 1860 1850 一一「-

    1730 l720 1710 1700 1690 1680 16/0 1660 1650 1640 1630 1620

    ... 23

    一・l

    一企圏内ノ』

    比叶

    Am;1

    4円一品氾

    i

    一au

    明一&凶

    ...... 14

    ...... 15 ... 10: 11 i

    - 12: -- l3 企畠

    8 9

    1840

    7

    1830

    ... 5

    1820

    J明

    1810

    fゑイて時戸

    1800

    弘L

    1790 1780 1770

    』』

    5

    1750

    A34

    1750 1740

    & 2

    Iイド

    イt時戸iT 期前代時戸l工

    『立川流匠家矩術

    22

    『拳鼻絵様彫物

    明治二七年(一八九四)

    倭絵様集L

    明治二四年二

    八九二以前

    完』

    ・『基股絵様彫物

    {元』

    21

    『桐円台祈巽

    ii4t 番匠秘事雛形』明治二O年(一八八七)

    20

    『当世

    番匠雛形』

    19

    『諸職絵様雛形』

    18

    匠家雛形

    『当世

    17

    コ恨ん家必要

    新撰絵様集』

    16

    『都合匠雛形』

    15

    『当世

    初心雛形』

    14

    『新選場補

    大阪縦形大全

    13

    『,陶’LLPA目的

    、A14dq

    ,,41岡町円

    彫物曲集

    12

    『匠家必用

    h龍図式

    11

    『大工絵様

    雑工縦形

    10

    『大工絵様

    雑工雛形』

    9

    ー判明刻

    大工雛形』

    8

    『大工ひなかた』

    7

    『いろは絵様』

    6

    『彫工雛形』

    @ 『大和絵様集』

    4

    『新撰大工雛形

    3

    司秘伝

    匠家絵様集』

    2

    『大匠千鑑

    凶』.

    明治一九年(一八八六

    明治

    一八年三

    八八五

    一』

    明治

    一六年(一八八

    明治一五年(一八八二)

    明治二二年(一

    八八O)

    務永四年ご

    八五

    嘉永四年二八4こ以前

    忠一品L

    {元』

    II

    寸H竹恒酬

    ii

    JI

    嘉永三年(一八五O)

    嘉永元年(一八四八)

    弘化四年二

    八四七

    天保五年二

    八三問)

    文政

    一O年(一八二七)

    {玉暦

    一三年三七六-

    五』

    宝暦九年ご七五九)

    享保六年(一七

    正徳四年(一七

    一削)i享保二年ご七

    一七)

    『大匠雛形彫物絵本』

    彫物書系絵様雛形成立年表表-3