ひとの一生の骨量変化について - yowakai.org ·...

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財団法人三菱養和会 ひとの一生の骨量変化について 1.臓器の保護 脳や内臓などの臓器が、外部から直接衝撃を受けないように骨が保護しています。 2.立って歩くために身体を支える 骨が身体をしっかり支えているために、人間は立って生活できるのです。 3.カルシウムの貯蔵 体内のカルシウムの99%が骨に蓄えられています。残りの1%は血液中および各臓器、筋肉 にありますが、血液によって各組織に運ばれ、心臓や脳などの機能を正常に保つ働きをし ています。そのため、血液中のカルシウム量は常に一定に保たれていなければならず、血 液中のカルシウムが不足したときに供給できるように骨は「カルシウム貯蔵庫」の役割を 果たしています。 ●骨は生きています 骨の壊されるところには、破骨細胞とい う骨を壊すことを担当している非常に大 きな細胞が現われ、これが骨の表面に張 り付き、骨が吸収(破壊)されます。 そして、ある程度骨を溶かしてしまうと、 破骨細胞はその仕事を終えて骨の表面か ら離れます。そこに、骨芽細胞と呼ばれ る骨を作る細胞が現われ、この骨芽細胞 がコラーゲンなど骨の構造をつくる蛋白 質を分泌します。 エーザイ㈱「よくわかる骨粗鬆症」より 女性の骨代謝モデル ●骨のサイクル(骨代謝)

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Page 1: ひとの一生の骨量変化について - yowakai.org · 骨の壊されるところには、破骨細胞とい う骨を壊すことを担当している非常に大 きな細胞が現われ、これが骨の表面に張

財団法人三菱養和会

― ひとの一生の骨量変化について ―

1.臓器の保護

脳や内臓などの臓器が、外部から直接衝撃を受けないように骨が保護しています。

2.立って歩くために身体を支える

骨が身体をしっかり支えているために、人間は立って生活できるのです。

3.カルシウムの貯蔵

体内のカルシウムの99%が骨に蓄えられています。残りの1%は血液中および各臓器、筋肉

にありますが、血液によって各組織に運ばれ、心臓や脳などの機能を正常に保つ働きをし

ています。そのため、血液中のカルシウム量は常に一定に保たれていなければならず、血

液中のカルシウムが不足したときに供給できるように骨は「カルシウム貯蔵庫」の役割を

果たしています。

●骨は生きています

骨の壊されるところには、破骨細胞とい

う骨を壊すことを担当している非常に大

きな細胞が現われ、これが骨の表面に張

り付き、骨が吸収(破壊)されます。

そして、ある程度骨を溶かしてしまうと、

破骨細胞はその仕事を終えて骨の表面か

ら離れます。そこに、骨芽細胞と呼ばれ

る骨を作る細胞が現われ、この骨芽細胞

がコラーゲンなど骨の構造をつくる蛋白

質を分泌します。

エーザイ㈱「よくわかる骨粗鬆症」より

女性の骨代謝モデル ●骨のサイクル(骨代謝)

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財団法人三菱養和会

●人間の骨量の変化 骨は成長と共に 20 歳代を最大に骨量が増え、

その後徐々に減少していきます。特に、女性

はホルモンの関係で 40 歳代頃から急激に骨

量が減少します。

したがって、更年期の女性にとって骨量の減

少を食い止めることは極めて重要です。平均

寿命の長い女性にとって、更年期以後の長い

人生をイキイキと過ごすためには丈夫な骨を

保ち、骨粗鬆症にならない生活習慣を身につ

けるようにしましょう。当会における21, 915例の超音波骨量量測定においても、男女共に

踵骨骨量は20歳以前に最大骨量となり、加齢

に伴ない減少傾向が認められます。 下のグラフは小児から高齢者までの骨量測定

の結果を示しました。

●思春期における骨量変化 骨代謝は、思春期から 20 歳前後にかけて骨形

成が骨吸収(破壊)比べて上回ります。女子

中学生 72 名に関して、初経発来後の期間と踵

骨骨量変化を検討しました。その結果、右図

に示すように、初経未発来、初経発来 1 年未

満および初経発来1年以上2年未満群に比べ、

2 年以上 3 年未満群が有意に高い結果が得ら

れました。つまり、踵骨骨量は初経発来後 2年以上経過後に急激に増加しました。

骨量の加齢変化

日本骨形態計測学会雑誌. 11(1) 1-6, 2001 永田瑞穂ほか

二次性徴による骨量の増大

より高い最大骨量の獲得

より緩徐な骨量減少

骨折の予防

量 女 性

男 性

骨吸収

骨形成骨吸収

骨形成

8~19歳 56歳~

思春期 成熟期 更年期 高齢期

初経 閉経

20~44歳 45~55歳

二次性徴による骨量の増大

より高い最大骨量の獲得

より緩徐な骨量減少

骨折の予防

量 女 性

男 性

骨吸収

骨形成骨吸収

骨形成

8~19歳 56歳~

思春期 成熟期 更年期 高齢期

初経 閉経

20~44歳 45~55歳

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

5

0 20 40 60 80 100

女性 14076回(名)

年 齢

(歳)

(財)三菱養和会における骨量測定(2000年1月~2010年3月)

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

5

0 20 40 60 80 100

女性 14076回(名)

年 齢

(歳)

(財)三菱養和会における骨量測定(2000年1月~2010年3月)

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

●初経発来後年数別踵骨骨量

Values are mean±S.D.*p<0.05

<1yr. < 2yr. <3yr. 3yr.≦n=10 n=16 n=32 n=8

**

*

Values are mean±S.D.*p<0.05

<1yr. < 2yr. <3yr. 3yr.≦n=10 n=16 n=32 n=8

初経発来後年数と骨量の関係

**

*

2.0

2.5

3.0

3.5

初経未発来 n=6

●初経発来後年数別踵骨骨量

Values are mean±S.D.*p<0.05

<1yr. < 2yr. <3yr. 3yr.≦n=10 n=16 n=32 n=8

**

*

Values are mean±S.D.*p<0.05

<1yr. < 2yr. <3yr. 3yr.≦n=10 n=16 n=32 n=8

初経発来後年数と骨量の関係

**

*

2.0

2.5

3.0

3.5

初経未発来 n=6

男性 7839回(名)

年 齢

(歳)

(財)三菱養和会における骨量測定(2000年1月~2010年3月)

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

0 20 40 60 80 100

男性 7839回(名)

年 齢

(歳)

(財)三菱養和会における骨量測定(2000年1月~2010年3月)

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

0 20 40 60 80 100

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財団法人三菱養和会

右の図に示すように、閉経を中心とした約 10年間にわたる期間を指します。この時期は老

化に伴う内分泌環境の変化を経ながら、やが

て月経閉止となり、心身の活力も機能も次第

に衰退していく時期と定義されています。 女性の骨量は、性成熟期(20~45 歳)におい

て、骨形成と骨吸収の均衡が保たれているた

め、見かけ上骨量は維持されています。しか し、更年期になると女性ホルモン(エストロ ゲン)が減少するために、骨吸収が骨形成を上回るため骨量は加齢に伴い漸減し、更年期にお

いて急激に減少します。つまり、高齢者における骨量は、成長期に得られた最大骨量とそれ以

降の骨量減少速度に依存しています。

●更年期とは

(財)三菱養和会における運動実践による骨量の比較 (42~88 歳の 480 名の女性を対象として)

Journal of Physiological Anthropology

21(5) 229-234、 2002 Mizuho Nagata et al

*

運動を行っている方

運動を行っていない方

60

70

80

90

100

110

120

閉経周辺期 5年未満 10年未満 10年以上

骨量の変化率

閉経後年数

(%)

*

運動を行っている方

運動を行っていない方

60

70

80

90

100

110

120

閉経周辺期 5年未満 10年未満 10年以上

骨量の変化率

閉経後年数

(%)

閉経周辺期における各々の骨量平均値を 100%とし、閉経後年数で 5 年毎に区切り検討しました。

閉経周辺期、閉経後 5 年および 10 年以下では運動を行っていないグループと運動を行っている

グループとの間で骨量変化率(% change)に有意差は得られませんでしたが、閉経後年数 10 年

以降で運動を行っているグループが有意に高値をしめしました。運動を実践されている方の骨量

は、運動を実践していない方に比べて、閉経後の低下が緩やかとなる結果が報告されています。

このことは、運動が骨量を維持することに役立つことを示す結果です。

Climacteric period(更年期)

Perimenopause(閉経周辺期)

Fertile period(妊娠可能期間)

Senium(老年期)

Postmenopause(閉経後)

Premenopause(閉経前)

Menopause(閉経)

Jaszmann,L.J.B.:Epidemiology of the climactericsyudwne, pp. 11 In 5.

Climacteric period(更年期)

Perimenopause(閉経周辺期)

Fertile period(妊娠可能期間)

Senium(老年期)

Postmenopause(閉経後)

Premenopause(閉経前)

Menopause(閉経)

Jaszmann,L.J.B.:Epidemiology of the climactericsyudwne, pp. 11 In 5.

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財団法人三菱養和会

●運動によってなぜ骨量は増えるのか?

骨は運動による力学的ストレス(運動を行ったり、歩いたりすること)を絶えず受けて、ある

一定以上の力が加わると骨形成(骨を作る作用)が優位となり骨量も増加するといわれていま

す。骨において力学的ストレスを感知する細胞として骨細胞があります。骨は、一見1本の棒

のようなイメージをお持ちでしょうが、骨細胞が集まってできています。骨細胞は骨の中で長

い突起を延ばして他の骨細胞、あるいは骨表面に存在する骨芽細胞(骨を作る細胞)とネット

ワークを形成しています。

予防医学の観点から見た場合、骨粗鬆症予防の大きな要因は、思春期において最大骨量(Peak Bone Mass)を高めることです。骨量に関与する因子は、ホルモン、加齢、遺伝等の内的要因と

栄養、運動等の外的要因が挙げられます。

●「骨量」は、思春期に増加します。 ●「骨量」は、20歳で最大になります。 ●「骨量」は、更年期に急激に低下します。

●「骨量」は、運動実践で低下が抑制されます。

運動因子

生活因子

力学的ストレス

日照、嗜好品、居住環境

ホルモン因子

加齢因子

遺伝因子

閉経(エストロゲン)

生理的骨減少

家系、民族、人種

内的因子

骨粗鬆症

(日常生活で不変)

栄養因子

カルシウム摂取

外的因子

(日常生活で調整可能)

運動因子

生活因子

力学的ストレス

日照、嗜好品、居住環境

ホルモン因子

加齢因子

遺伝因子

閉経(エストロゲン)

生理的骨減少

家系、民族、人種

内的因子

骨  量

(日常生活で不変)

栄養因子

カルシウム摂取

外的因子

(日常生活で調整可能)

運動因子

生活因子

力学的ストレス

日照、嗜好品、居住環境

ホルモン因子

加齢因子

遺伝因子

閉経(エストロゲン)

生理的骨減少

家系、民族、人種

内的因子

骨粗鬆症

(日常生活で不変)

栄養因子

カルシウム摂取

外的因子

(日常生活で調整可能)

運動因子

生活因子

力学的ストレス

日照、嗜好品、居住環境

ホルモン因子

加齢因子

遺伝因子

閉経(エストロゲン)

生理的骨減少

家系、民族、人種

内的因子

骨  量

(日常生活で不変)

栄養因子

カルシウム摂取

外的因子

(日常生活で調整可能)

骨量に関与する因子

運動が骨代謝に及ぼす影響

運動実践

(メカニカルストレス)

骨細胞間の信号

骨細胞

骨芽細胞

ネットワーク

運動が骨代謝に及ぼす影響

運動実践

(メカニカルストレス)

骨細胞間の信号

骨細胞

骨芽細胞

ネットワーク

運動が骨代謝に及ぼす影響

運動実践

(メカニカルストレス)

骨細胞間の信号

骨細胞

骨芽細胞

ネットワーク

運動が骨代謝に及ぼす影響

運動実践

(メカニカルストレス)

骨細胞間の信号

骨細胞

骨芽細胞

ネットワーク

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財団法人三菱養和会

参考文献

1) 永田瑞穂,渡辺雅之,有吉正博:女性エリートランナーにおけるオーバートレーニングが

骨代謝と月経異常に及ぼす影響. デサントスポーツ科学. 19 : 221-228,1998

2) 永田瑞穂,川上 亮,穂苅正臣,中原凱文:文部省新体力テストを用いた高齢者の体力と

日常生活活動量の評価に関する研究-前期高齢女性における運動習慣が骨量維持に及ぼ

す影響-. Osteoporosis Japan.8(4) : 93-99,2000

3) 永田瑞穂,三宅健夫,北川 淳,中原凱文:思春期女子における運動実践が骨代謝動態に

及ぼす影響. 日本骨形態計測学会雑誌. 11(1) : 1-6,2001

4) Mizuho Nagata,Takeo Miyake,Jun Kitagawa,Yoshibumi Nakahara:Effects of Exercise Practice

on the Maintenance of Radius Bone Mineral Density in Postmenopausal Women. Journal of

Physiological Anthropology. 21(5) : 229-234,2002

5) 永田瑞穂,北川 淳,山田亜希子,中原凱文,穂苅正臣:閉経前期女性における骨代謝と

動脈硬化の関連性について.Osteoporosis Japan.17(4) : 75-79,2009

2 0 1 0 年 9 月 1 日 財 団 法 人 三 菱 養 和 会 健 康 サ ポ ー ト セ ン タ ー