秋入学は難題山積 一橋大、早大は 独自案を提起 ·...

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2012 / 5 学研・進学情報 -6- -7- 2012 / 5 学研・進学情報 18 22 10 18 10 11 30 30 13 30 調10 20 東大提起の秋入学の行方を探る 秋入学は難題山積 一橋大、早大は 独自案を提起 東大が提起した「秋入学」が、マスコミだけでなく、 一般市民からも関心を呼んでいる。しかし、当初の歓迎 ムードから、徐々に大きな教育改革の中の一環として考 えるべきという大学が多くなっている。秋入学の動向と、 そのメリット・デメリットを検証する。 特集 10 53 調11 11 12 ●特集 東大提起の秋入学の行方を探る 表1 秋入学をめぐる論点 メリット デメリット 東京大学中間報告 (東大で実施した 場合) ①国際的に多い秋入学によって優 秀な留学生や帰国子女を確保しや すくなる。東大生も海外留学しや すくなる。 ②学期の途中で夏休みなど長期休 暇が入らないため、教育研究など 勉強の効率が上がる。 ③4月から大学入学までの半年間 で、有意義で多様なな社会体験を 充実することができる。 ④資格試験の受験を1年遅らせた り、また授業が終わった夏季休暇 を就活に充てるなどによって、学 期中は学業に専念できる。 ⑤就職における新卒一括採用の多 様化のきっかけになる可能性があ る。 ①優秀な高校生が海外を含む他大 学に流出する可能性がある。 ②他大学と長期休暇がずれて、部 活動の交流などが難しくなる。 ③事実上の修業年限が延び、その 間の家計の負担が大きくなる。 ④入学までに入学者の学力が低下 する恐れがある。 ⑤現在主流の4月一括採用からス ケジュールが外れ、就職が難しく なるおそれがある。 ⑥社会に出る期間が半年遅れて、 収入が減る。また年金にも影響が 出てくる。

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Page 1: 秋入学は難題山積 一橋大、早大は 独自案を提起 · る大学院生の数字(約数字の多くが秋入学を実施してい 20%)で、 東大提起の秋入学の行方を探る

2012 / 5 学研・進学情報 -6--7- 2012 / 5 学研・進学情報

ギャップタームが最大の難題

 

2012年1月18日、東大が入

学時期について、春入学から秋入

学への全面移行を求める提言を中

間報告書としてまとめた。今後、

経済界などへ説明・告知を行い、

早ければ5年後の導入を目指すと

いう。

 

この秋入学については、昨年秋

から討議された印象があるが、実

は6月22日の政府による「産学連

携によるグローバル人材育成推進

会議」において、国際感覚を身に

つけたグロ―バル人材育成と、今

後10年間で、18歳人口の10%とな

る約11万人が、1年以上の留学や

海外在住経験を持つことを目指す

という中間報告をまとめていた。

 

しかし、ここで疑問になるのは、

2020年を目途に30万人の留学

生を受け入れる計画はどうなった

かについてである。2009年度

にスタートした秋入学と同じ目的

のグローバル30である。

 

教職員の増強、奨学金の提供、

海外拠点事務所の開設、留学生向

けの「学生寮」の建設など、各大

学に毎年度2~4億円の国から財

政支援が行われる予定であったが、

実際に採択されたのは13校であっ

た。加えて、行政刷新会議による

事業仕分けで「予算縮減」対象と

され、2010年度の予算は3割

削減となった。

 

このようなグローバル人材育成

推進会議の動向と、グローバル30

の進展しない現状を見て、東大が

秋入学を具体的に提案したのに違

いない。

 

加えて、秋入学が一般にもわか

りやすい提案だったために、多く

の議論を呼んでいるというのが現

状である。

 

中間報告では、「秋入学を採用

する国が世界全体の約7割(欧米

では約8割)を占めており、国際

基準というべき秋入学とのズレが、

学生と教員の国際交流を制約する

要素の一つ」と指摘している。

 

現実には、海外からの留学生は

日本学生支援機構の調べで、学部

生・大学院生を合計した人数では、

早稲田大が3、393人(同6・

3%)、東大が2、877人(同

10・0%)で、それなりの数は確

保している。

 

ただし、東大においては、この

数字の多くが秋入学を実施してい

る大学院生の数字(約20%)で、

   東大提起の秋入学の行方を探る

秋入学は難題山積一橋大、早大は独自案を提起

 東大が提起した「秋入学」が、マスコミだけでなく、一般市民からも関心を呼んでいる。しかし、当初の歓迎ムードから、徐々に大きな教育改革の中の一環として考えるべきという大学が多くなっている。秋入学の動向と、そのメリット・デメリットを検証する。

特集

学部生は276人(1・9%)に

過ぎない。ハーバード大学部生の

10%に比べると、その差は大きく

開いている。

 

国内から海外へ留学する東大の

学部生にいたっては53人(0・

4%)だけである。

 

中間報告書では、留学をためら

う主な要因を、「海外の大学は秋

に始まるため、留学すると帰国し

てからの卒業が1年遅れてしまう

ため」としており、そこで大きな

障害となっている4月入学から秋

入学へと移行すべきである、と

なったのである。

 

ただし、現状では、大学入試は

春に行なわれるので、そこに空白

期間が生まれる。

 

中間報告では、それを「ギャッ

プターム」と呼び、その長所・短

所について触れている(表1参

照)。ギャップタームにおける就

学システムは、1年間を現在と同

じ2学期(セメスター)制とし、

春卒業の場合も含めて、就学期間

は4年半から5年間となる(次

ページ表2参照)。

 

中間報告では、ギャップターム

の期間中に、ボランティアや社会

経験、短期海外留学などを積ませ

ることで、現在の受験における偏

差値重視の価値観をリセットでき、

大学で学ぶ目的意識を明確化でき

る意義を強調している。

 

しかし、入試があるからこそ、

生徒の勉学意欲と基礎学力の維持

がなされている現実がある。大学

合格を決めた入学生の学力維持は

そう簡単ではない。

 

新入生特有の5月危機を考える

と、ギャップタームを安易に過ご

してしまい、秋入学の時点では、

学ぶモチベーションが下がってい

る学生がいることが予想される。

 

その意味では、学生のモチベー

ションを上げ、大学で学ぶ目的意

識を明確化できる具体策に秋入学

の成否がかかっている。

一橋大と早稲田大が

独自案提唱

 

東大は、この秋入学を単独で実

施するのでなく、主要11大学との

組織協議を呼びかけた。

 

この11大学とは北海道大、東北

大、名古屋大、京大、阪大、九大

の旧帝大系と、筑波大、東京工大、

一橋大、早大、慶大である。  

 

東大を加えたこの12大学は、グ

ローバル人材育成推進会議に参加

●特集 東大提起の秋入学の行方を探る

表1 秋入学をめぐる論点

メリット デメリット

東京大学中間報告(東大で実施した場合)

①国際的に多い秋入学によって優秀な留学生や帰国子女を確保しやすくなる。東大生も海外留学しやすくなる。②学期の途中で夏休みなど長期休暇が入らないため、教育研究など勉強の効率が上がる。③4月から大学入学までの半年間で、有意義で多様なな社会体験を充実することができる。④資格試験の受験を1年遅らせたり、また授業が終わった夏季休暇を就活に充てるなどによって、学期中は学業に専念できる。⑤就職における新卒一括採用の多様化のきっかけになる可能性がある。

①優秀な高校生が海外を含む他大学に流出する可能性がある。②他大学と長期休暇がずれて、部活動の交流などが難しくなる。③事実上の修業年限が延び、その間の家計の負担が大きくなる。④入学までに入学者の学力が低下する恐れがある。⑤現在主流の4月一括採用からスケジュールが外れ、就職が難しくなるおそれがある。⑥社会に出る期間が半年遅れて、収入が減る。また年金にも影響が出てくる。

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2012 / 5 学研・進学情報 -8--9- 2012 / 5 学研・進学情報

集中的に海外

で外国語を学

ばせ、異文化

を体験させる

ことも、その

1例である。

 

9月から始

まる国際的サ

イクルを4年

次の秋学期

(9~12月)

で終え、その

後の3カ月を総仕上げの「修了学

期」と設定すれば、卒業は4年次

の3月になる。これだと学部教育

の期間を長引かせないで済むし、

就職の日程なども変わらない。留

学生には9月入学も認め、4年次

の6月から8月の間に卒業させる

ことができるというわけだ。

 

また、早大も独自のクォーター

制を公表した(表4参照)。実は

同大のアジア太平洋研究センター

の大学院の入学時期は年2回(4

月・9月)、学期は春夏秋冬の4

学期制(クォーター制)となって

おり、おそらくこれを踏まえたも

のであろう。

 

確かに留学生は入学しやすいし、

同大では、すでに7学部で留学生

した12大学とほぼ一致する。これ

ら12大学や経済団体には、ある程

度、事前の根回しが行われていた

ようだ。

 

2008年に、文部科学省は、

大学学長に入学時期の決定権を与

えたので、法的には学長だけで決

裁できる。まして政府や産業界、

有力な大学の賛同が見込まれれば、

東大として、学内の抵抗を押し

切ってゴー・サインは出せる。

 

浜田総長の任期は2015年3

月までなので、学内の意見を集約

して任期中に具体化する戦略なの

であろう。

 

東大が1月下旬に、中間報告を

発表した直後は、呼びかけを受け

た11の大学の多くが、作業チーム

を立ち上げることを検討したいな

ど、積極的に応じるコメントを出

した。また同時に経団連や大手企

業などの経済界からも、おおむね

評価する声が多くあがった。

 

NHKや新聞各紙、週刊誌など

が行ったアンケートでも、前向き

に受け止める国立大学が多く、「慎

重」「静観」という態度は、弘前大・

福井大・茨城大など一部の地方大

学だけであった。

 

ところが、時間が経つにつれ、

教育系国立大学や公立の医療系大

学、中堅私立大学などで、秋入学

に反対する、あるいは慎重な姿勢

を示す大学もかなり出てきた。

 

今後、学長レベルの見解から、

学内の検討会議が開始され論議が

深まると、現場教員や実務家から

の意見も反映され、さらに慎重派

の大学が増加するだろう。

 

呼びかけを受けた11大学の中で

も、一橋大は4月に一応入学し、

秋に授業開始という独自案を公表

した(表3参照)。

 

秋までを「導入学期」とし、4

~7月に語学や歴史、理工系科目

など大学で学ぶ基礎教育を実施す

るという。ただ、これでは、実質、

大学における専門教育の期間が3

年半になり、学力低下が懸念され

るという声もある。

 

その点について、同大学の山内

学長は、日本経済新聞のインタ

ビューで、おおむね次のように

語っている。

「国際的競争や交流をよりスムー

ズにする目的なら、学期サイクル

を世界に同調させ、合格は3月、

入学は9月という秋入学の形式に

こだわる必要はない。4月に入学

させ、9月から国際的サイクルの

学期運営(『秋学期〈9~12月〉』『春

学期〈1~5/6月〉』)を始めれ

ば、世界と同調するので目的は達

成する」

 

4月から9月までは、大学が責

任をもって教育し、それぞれの大

学の教育目標を実現するための基

礎教育を行う。

 

それが導入学期で、一橋大の目

標は「スマートで強靭なグローバ

ルリーダーの育成」を目指してい

る。複数の特別プログラムを準備

し、通常の学期ではできないこと

を実行する。海外の大学と提携し、

表2 中間報告による秋入学イメージ

表3 一橋大のイメージ

の9月入学を実施している。

2011年9月には259人の留

学生が入学、英語のみで卒業でき

るコースもある。また外国にも年

間1000人の学部生・大学院生

が留学しており、実績はある。

 

これら以外にも考えられるのは、

日本人学生にも春入学と秋入学を

共存させる方法だ。しかし、同じ

授業を1年間に2度行なわなけれ

ばならず、コストの問題が発生す

る。秋入学の規模を縮小しても、

秋入学の学生たちが就職の採用サ

イクルから外れて、結果として半

年余分に大学を過ごすことになり

かねない。過去の東洋大や早大商

学部の秋入学が失敗したのはそれ

が、主な原因だった。

 

移行するなら採用サイクルも含

めて全面的に、という選択のほう

がすっきりするが、果たしてその

ようになるだろうか。

秋入学は日本の職業社会に

リンクできるか

 

日本の企業・官公庁は、3月卒

業・4月入社の新卒一括採用シス

テムを取っている。行政機関やほ

とんどの企業の会計年度と重なり、

長年の間に日本社会に定着したシ

ステムである。

 

現在の大卒就職戦線の採用サイ

クルでは、大企業内定のピークは

4~5月で、夏から秋の採用は、

実質的に公務員試験受験組や帰国

子女を念頭に置いている企業が多

い。大学の就職担当者では、通年

採用や秋採用は、いわば例外的で、

春から5月までが勝負と認識して

いる。

 

経団連など経済団体の役員の秋

入学歓迎の発言がマスコミで報道

されているが、これはグローバル

人材育成推進会議の建前に賛同し

ているにすぎないとみたほうがよ

いだろう。

 

個々の企業の採用担当者にとっ

ては、そんなに簡単なものではな

い。法曹人口の拡大や公認会計士

合格者増に関する経団連役員の検

討会議での発言と、個々の企業の

採用姿勢のギャップを見れば容易

に想像がつくことである。

 

ましてや、単に採用人数を増や

すという単純な問題でなく、大学

の卒業時期が、春と秋に分裂した

場合、どちらにウエイトを置くか

を企業は迫られる。当然、大学間

格差の問題や、両者に同じスタン

スで対応しようとすれば、かかる

●特集 東大提起の秋入学の行方を探る

コストが今以上に増大する。

 

仮に有力大学が秋入学・卒業に

まとまっても、企業活動の存続の

ために必要な人材をその有力大学

だけで確保できるのか、あるいは

そのような人材だけで、本当に企

業を発展させることができるのか、

ということを考えると、そう簡単

に一方にシフトするのは危険であ

ろう。

 

さらに、地方の企業や中小企業

ともなれば、通年採用などは、様々

なコストの面で非常に厳しいであ

ろう。春と秋に区分された大学間

格差が企業社会にも反映すること

もありうる。

 

さらに秋に卒業する東大生など

を青田買いする企業(昔は外資系

企業がそうだった)が続出し、大

学教育の4年次後半が混乱するお

それもある。

 

現在の国家試験も春入学・春卒

表4 早稲田大学のクォーター制のイメージ

*これはモデルの1つの例です。

*日本経済新聞記事参照

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2012 / 5 学研・進学情報 -10--11- 2012 / 5 学研・進学情報

業の日程で組まれているので、同

様の問題がつきまとう。

 

司法試験、公認会計士試験、公

務員試験、弁理士試験、教職試験

などを、秋入学・秋卒業の大学に

合わせて変更しなければ、秋入学

の有力大学も相当なダメージを受

ける。

 

前述の「グローバル人材育成推

進会議」が、2012年2月27日、

大学の秋入学と公務員採用時期な

どについて検討した。法整備を含

めた議論を進めつつ、5月に結果

報告をまとめ、6月に国家戦略会

議に提出するという。

 

その場合、国家公務員採用試験

は実施時期の見直しを検討し、さ

らに司法試験、医師などの国家資

格試験の実施時期や回数も検討の

対象にするという。実現すれば国

を挙げての後押し、という印象で

ある。

教育改革の発火点になるか

 

3月7日の国立大学会協会総会

でも、様々な意見が出た。

 

東大の浜田総長は、「秋入学は

単に入学時期の問題ではなく、グ

ローバル人材育成のための教育改

革のシンボルであり、社会システ

ムと意識変革を促す」と強調した。

 

それを受けて各学長が発言し、

北大の佐伯浩総長は「国際化の必

要性は強く感じている、入試改革

と2本柱で考えている」と、前向

きな発言をしている。

 

一方、京大の松本紘総長は、「教

育改革こそ命だと思う。秋入学は

1つのオプション。国際化をにら

んで入試改革を優先して議論して

いる」と距離を置いた発言をした。

 

また、留学生の8割がアジア諸

国という鹿児島大の吉田浩己学長

は、「欧米では秋入学が主流でも、

アジア諸国では入学時期はさまざ

まだ」と話す。

 

阪大の平野俊夫総長も、現在の

秋入学の論議について「(教育の)

中身よりも、入学時期の問題に議

論に集中しすぎている。高校との

接続など高校までの教育と合わせ

た全体像の設計が必要である」と

発言し、入り口と出口とのずれを

解消し、調和することが大切と強

調した。

 

同じような論調で、金沢大の中

村信一学長の「20~30年後の社会

の姿を描いて、育てる人材像を論

じるよい機会」としている。

 

国立大協会総会の方向としては、

熊本大の谷口功学長の「入学時期

だけでなく教育改革の問題という

共通認識はできている」というこ

とであろう。

大学入試への影響は?

 

東大の浜田総長は記者会見で、

この秋入学への移行のコンセプト

に従って、入試の見直しを行うと

発言している。京大の松本総長も、

入試の見直しについて、積極的に

発言しており、秋入学も含めた入

試改革が、これから大きなテーマ

になってくるだろう。

 

そこでまず考えられるのは、「後

期日程廃止=前期日程一本化」で

ある。今でも東大の後期日程は形

だけという印象が強いが、前期日

程のみになった場合は、単に東大

だけの問題にとどまらない。

 

国立大学協会では「複数の受験

機会」を原則にしているので、む

しろ「分離分割」に代わる入試方

式見直しや検討が始まると考えた

方が自然であろう。 

 

また、東大は5年後(2017

年)に、この秋入学を導入する意

向を示しているが、その直前の

2015~16年度においては、新

課程入試が実施される。

 

特に、理科の「基礎あり」をめ

ぐる科目構成や、国立大学協会が

存続を希望する公民4単位科目の

存在が見直されたら、カリキュラ

ム策定は大変な作業を強いられる。

これらに加えて、秋入学の導入と

なれば、高校現場はその対応に混

乱をきたすであろう。

 

また大学が春入学グループと秋

入学グループに分かれた場合、高

校の進路指導において、入学時期

の異なる生徒を指導することにな

る。未体験な事態だけに想定外の

ことがおこりうる。

 

加えて、ギャップターム中の卒

業生も、「わが校に関係ない」と

済ませるわけにはいかない。新課

程入試に加え、これだけ課題の多

い秋入学の受験指導のシミュレー

ションをする準備期間は、ほとん

どないのである。

 

今回もまた、過去の入試改革と

同様に、高校現場や生徒がほとん

ど考慮されずに進行する展開が繰

り返されそうだ。

 

ただ実現は定かでないが、秋入

学が入試を含む教育改革の発火点

になるとすれば、それも意義のあ

ることといえよう。

(取材・文/木村誠)

 全国の進学2番手校が巨大なネットワークを作ろうとしている。2月4日、宮城県の気仙沼に、全国各地から進路指導の教員80人以上が終結。トップ校とは違うネットワークを自ら作ろうと、参加者が夜中まで話し合いながら,その礎を築こうとしていた。

 新しい進路指導の連携

トップ校とは別の

ネットワークを作る

 

東日本大震災の被災地、宮城県

気仙沼市に全国から進路指導の

リーダーたちが続々と集まった。

2月4日と5日に開かれる「進路

指導サミット」に参加するためだ。

 

この進路指導サミットの目的は、

全国の進路指導の先生をつなぐこ

と。今回で4回目となり、運営は

先生たちの手弁当で行われてきた。

今年は業者6社も含めて100人

以上が集結。自費で北海道から九

州まで、まさに全国から参加して

きた。

 

この会議の中心的な役割を担う

村上育朗先生は、会議の冒頭、トッ

プ校以外の進学校が全国規模の進

路指導ネットワークを築く意義を

強調。今、それを始めるときが来

たと強く訴えた。

 「進学に関する情報はトップ校

に集まりやすい。模試などを提供

する業者は、トップ校の進路指導

主事を集めて情報提供の場を設け、

それとは別枠でもトップ校限定の

場を特別に設けている。そこでの

情報は2番手校以下にはほとんど

伝わらない。大きな情報格差が生

じているのに、それに気づいてい

る教員がほとんどいない。このよ

うな情報格差を解消するには、

トップ校以外の進路指導の先生た

ちが自ら独自のネットワークを作

るしかない。今、これまでの岩手

県の取り組みを視察した先生や気

仙沼の進路指導サミットで知り

合った先生たちが、日本の各地で

新たな進学校ネットワークを手弁

当で作ろうとしている。もし、こ

れらのネットワークが全国的につ

ながったら、とてもおもしろいこ

とになる。みんなの思いを一つに

できれば、予想もしなかったほど

の力が生まれ、トップ校や業者以

上の情報を持てる」

 

ここ気仙沼は、全国ネットワー

ク構築の出発点なのだと、村上先

生は語気を強めた。

 

村上先生は、岩手県の公立高校

の教員として、赴任先のさまざま

な学校で進学実績を向上させて進

路指導のリーダーとして広く知ら

れるようになった先生だ。200�

6年からは岩手県の県北沿岸の進

学校を結ぶ連携事業を立ち上げ、

中心地から遠く離れた進学2番手

校をネットワーク化。「チーム岩

手」という概念を作り、トップ校

特別レポート

進学2番手校を結ぶ全国ネットワークの構築はできるか? 

   進路指導サミット in気仙沼