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Page 1: 硬脳膜下hydromaに よる若年者脳性高血圧の1例 - …...硬脳膜下hydromaに よる若年者脳性高血圧の1例 国立大蔵病院高血,圧セソター(医長 横田

硬脳膜下hydromaに よる若年者脳性高血圧の1例

国立大蔵病院高血,圧セソター(医 長 横田 曄)

篠 崎 有 三 大 谷 良 樹

慶応義塾大学医学部内科(指 導 浅野誠一教授)

小 沢 幸 雄 荒 井 寿 朗

和 田 孝 雄 猿 田 享 男

A CASE OF CEREBRAL JUVENILE HYPERTENSION

DUE TO SUBDURAL HYDROMA

YUZO SHINOZAKI and Yoshiki OTANI

Hypertension Center, National Okura Hospital

(Chief Physician: Akira Yokota)

Yukio OZAWA, Toshiro ARAI, Takao WADA and Takao SARUTA

Department of Internal Medicine, School of Medicine, Keio University

(Director: Prof. Seiichi Asano)

概要 若 年者の二次性 高血圧の うち,脳 性高血圧 と思われ る症例 は極め て少 ない.そ の報告は主 と し

て髄圧 充進 に よる もの と思われ る.わ れ われ は最近髄 圧亢進 と眼底に乳 頭浮 腫,出 血像 をあ らわ し,

高血圧 を呈 した脳性hydromaの1例 を経験 したので報告す る.症 例 は27才 の男で,主 訴は頭重,霧 視

で,他 覚的 には,上 記の所見 と 血圧190/120㎜ ㎏が あ り,angiography,脳 波所見 から 右側頭 部硬 膜

下hydromaを 疑い,手 術に て確認 して除 去 し,髄 圧 降下 とともに血圧 は130/80mmHgに 下降 した.従

来外科 領域での散見す る報 告は,硬 脳膜 下腔 に脳脊髄液が貯留 し,そ のための特有 の自他覚 症状 を伴

な うが,一 般に髄圧亢進 や うつ血乳頭 を呈せ ず,高 血 圧の記載 はほ とん ど見 当 らない.わ れわれの症

例はそ の点で 興味 があ り,数 少 ないcurable hypertensionの1例 といえ よう.

は じめに

若年者の高血圧に対 して,や 〓もすると若年性

高血圧 と気易 く診断名 をつけて済 ませ,漫 然と降

圧薬投与を行 ないがちなものである.し か し原病

を分析 し検討 してみると,か なりの頻度で二次性

高血圧 が発見せ られ,な かでも原病 によつては

外科的な方法 により治療可能な高 血圧 も少な くな

い.と くに,近年,内 分泌性高血圧(褐 色細胞腫,原

発性アル ドステロン症),血 管性高血圧(大 動脈縮

窄,腎 血管性高血圧)な どは,診 断および治療技

術の進歩に伴 ない発見頻度が高 くな り,治 癒の恩

恵 に浴 す る入 々 が次 第 に増 加 して お り,ま こ とに

喜 ば しい 。

わ れ わ れ は,年 来,若 年 者 の高 血 圧 を対 象 と し

て診 察 を行 な い,す で に300例 に達 し,こ れ らcur

able hypertensionに 属 す る もの の発 見 に努 め て来

た.そ して珍 しい 脳 性 起 原 に よ るcurable hypertensionの1例 を見 出 した.こ の例 は 硬 脳 膜 下hyd

romaに よつ て 髄 圧 亢 進 か ら乳 頭 浮 腫 お よび 高 血

圧 を呈 し,外 科 的 処置 に よ り降 圧,治 癒 した 症 例

で あ る.

硬 脳膜 下hydromaは,1916年Payr1)に よ り外 傷

後 の併 発 症 と して初 め て紹 介 され,そ の後 外 科 的昭和41年7月9日 第177回 関東地方会推薦

(70) 日内会誌 第55卷 第9号

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篠 崎 有三他5名 1015

な報 告 例 は 散 見 され るが,高 血圧 に つ い て記 載 の

あ る論文 は ほ とん ど見 当 らな い.こ の よ うに過 去

に お い て高 血 圧 に 関 心 の払 わ れ な か つ た 稀 な疾 患

も,高 血 圧 の診 察 の 際 には 念 頭 に お く必 要 が あ ろ

う.以 下 わ れ わ れ の治 験 例 につ い て 述 べ る.

症 例

患 者:     ,27才,男,建 築 会 社 の現 場

主 任..

主 訴:頭 重,霧 視.

既往 歴:数 年 前 建 築 の 現 場 主 任 と し て 勤 務

中,頭 部 打 撲 を うけ た こ とが あ る.

家 族 歴:特 記 す べ き もの な し.

現 病 歴:昭 和41年2月 中 旬 よ り頭 重 と霧 視 を

訴 え て2月23日 内科 外 来 を 受 診,190/122㎜Hgの

高 血 圧 と眼底 浮 腫,出 血 像 を認 め,精 査 の 目的 で

3月10日 高 血圧 セ ン ター に入 院 した.

入 院 時 所 見:身 長170.5㎝,体 重67kg,体 温

36.5℃,顔 貌 正 常.脈 拍66/分 で整,緊 張正 常.橈

骨 動 脈 硬 化 な し.血 圧170/120mmHg.呼 吸 数18/

分 で胸 腹 呼 吸.可 視 粘 膜 に 黄 疸,貧 血 な し.甲

状 腺 お よび全 身 リン パ節 腫 な し.肺 肝 境 界 は第6

肋 骨.心 比 較 的 濁 音界 正 常,心 音 清.肺 呼 吸 音正

常.腹 部 は平 坦 で 肝,腎,脾 を触 知 せ ず,血 管 性

雑 音 を聴 取 せ ず,圧 痛 な し.下 肢 に浮 腫 な く,腱

反 射 正 常 で病 的反 射 な し.神 経 学 的 異 常 所 見 を認

め ず.

入 院 時検 査 成 績:尿;淡 黄 色 透 明,比 重1018・

蛋 白(一),糖(一),ウ ロ ビ リン(一),ウ ロ ビ リノ

ー ゲ ン(一) ,沈 渣 異 常 な し.屎;肉 眼 的 所 見 に異

常 な く,虫 卵(一),潜 血 反 応(一).血 液;赤 血 球

数440万,血 色 素(ザ ー リ)90%,血 色 素 指 数

1.02,ヘ マ トク リ ッ ト44%,白 血球 数4700,白 血 球

百 分 率 で 好 中球 は桿 状 核10%,分 葉 核46%で,好

酸 球3%,好 塩基 球0%,リ ン パ球38%,単 球3%.

赤 沈;中 間 値2.25㎜.血 清 電 解 質;Na 137.7

mEq/1, K 4.3mEq/1, Cl 110mEq/l, Ca4.5mEq/l,

P2.2mEq/1,血 清 総 コ レス テ ロー ル152mg/dl.血

清 総 蛋 白量7.2g/dl.血 清 蛋 白分 画;alb3.55

g/d1, α-gl0.67g/dl, β-g11.339/dl,γ-gl1.65g/dl.

血清 梅 毒 反 応 陰 性.ブ ドウ糖 負 荷 試 験;血 糖 空腹:

時64mg/dl, 30'110mg/dI, 60'74mg/d1, 120'55

mg/dl, 180'55mg/dl.血 中残 余 窒 素19.4mg/dl.

腎機 能;Fischberg濃 縮 試 験 は比 重1024, 1028,

1028. PSP testは15'40%, 120'で 計84%. creati

nin clearance 97.6cc/min. BMR-13%.髄 液;

無 色 透 明,圧 は 臥位 に て350mmH20, Quecken-

stedt現 象 陰 性,細 胞数5/3, Nonne-APrlt反 応(一),

pandy反 応(一),蛋 白量Nissl-Esbach1/2分 画,糖

量50mg/dl,培 養 で細 菌,ビ ー ル ス お よび真 菌 を

認 め ず.尿 中VMA(vanillyl-mandelic acid)2.19

mg/svu(SVUは 尿 中 ク レ ア チ ニ ン標 準 容 積 単 位).

心 電 図異 常 な し.胸 部X線 写 真 で 心 拡 大 な く,心

の形 態,大 動 脈,肺 野 に異 常 な し.眼 底 は 図1の

ご と く乳 頭浮 腫 お よび 出 血像 を認 め た.脳 波 で は

図2~4の ご と く左 後 頭 部 には しば しばθ波 お よ

び 潜在 性 δ波 が み られ た.双 極 導 出 法 に よ り左 頭

頂 部 お よび右 前頂 頭 部 に,ま た,と き お り右 前頭

部 に β-δ波 が 出 現 して お り,過 呼 吸 で 強調 さ れ て

い た.脳 血 管 撮 影 で は 図5の ご と く右 頸 動脈 撮 影

法 に よ り,右 側 頭 部 よ り頂 頭 部 にか け て頭 蓋 骨下

に中 大 脳 動 脈 領 域 の圧 排 を認 め た.脳 波 お よび脳

血 管撮 影 よ り考 え る と,右 側 前後 頂 頭 部 に脳 の表

在 性 の圧 排 現 象 が あ り,圧 排 を起 こす最 も可能 性

図1. 手 術前眼底像(左 側)

昭 和41年12月10日 (71)

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1016 硬 脳膜 下hydromaに よる若年者脳性 高血 圧 の1例.

図2. 脳波(単 極導 出)

図3. 脳波(双 極導 出)

図4. 脳波(双 極導 出,過 呼 吸)

のある病原 として脳腫瘍は位置的および形態的に

除 外で きるとして硬脳膜下hydromaお よ びhema

tomaが 疑われた.

入院後経過および手術所見:入 院後安静,腎

庇護 Ⅲ度食にて経過観察するも頭重および霧視の

図5. 手術前脳 血管撮影(右 側)

自覚症状は改善せず,髄 圧350~250mmH2O,血

圧170~142/96~86mm㎏ と常に高い値いを示 し,

眼底所見 も乳頭浮腫および出血像 を持続 した.ま

た高血圧は降圧薬 に対 して抵抗性 を示 した.以 上

の経過お よび検査所見 から,前 述のごとく最 も,可

能性のある硬脳膜下hydromaお よびhematomaを

疑い4月25日 外科的に開頭 し,貯 留液除去 を行 な

つた.す なわち,右 側硬脳膜下腔 より約30㏄ を排

液 し,念 のために左側 にも同様 の手術 を行ない約

10cc排液 した.液 は硬脳膜側,く も膜側 ともに灰

(72) 日内 会誌 第55卷 第9号

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篠崎 有三他5名 1017

図6. 手術 後脳血管撮影(右 側)

白色の膜様物質で被覆 され,同液は無色透明で,そ

の性状はほ 〓髄液 と同 じ性状 を呈 した.術 後約2

週間で退院 したが,そ の後 自覚症状は全 く消失 し

た.手 術後約3週 間の脳血管撮影では未だ充分で

はないが血管影の圧排像はや 〓改善 し(図6),眼

底所見にも改善がみ られ(図7),髄 圧は180mm

H20と 下降 し,血 圧 も大体130/80mmHgに 落着き,

現在外来にて観察中である(図8)。

考 案

二次性高血圧の うち脳性,す なわち中枢神経性

の原因 をもつ ものとしては,従 来,脳 腫瘍,脳

図7. 手 術後眼底像(左 側)

図8. 髄 圧 と 血圧 の推 移

炎,灰 白脊髄炎,脳 外傷,脳 圧亢進などが指摘 さ

れている.脳 腫瘍や脳炎では脳圧亢進の み で な

く,原 病により間脳 ま た は延髄の血圧調節中枢

に障害 を起 こし高血圧をひきおこすものと考えら

れる2).ま た,灰 白脊髄炎においても顔面神経核

と舌咽神経核の間 に 介在 する網様体の退行変性

が3),ま た臆外傷においては脳底動脈損傷が脳圧

の亢進以外に高血圧の原因になるもの と推定 され

昭和41年12月10日 (73)

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1018 硬 脳膜 下hydromaに よ る若 年 者 脳 性 高 血圧 の1例

て い る4).実 験 的 に は生 理 的 食 塩 水 を脳 膜 下 に注

入 し脳 圧 を高 め る と高 血 圧 が で き る とい う5).し

た がつ て臨 床 的 に も実 験 的 に も脳 圧 亢 進 と高 血 圧

の 因 果 関 係 は 明 らか で あ り,が 〓 る脳 圧 亢 進 を示

す 際 に は,そ の原 因 を検 索 し除 去 せ しめ う るな ら

ば 高 血 圧 は 治 癒 す る可能 性 が あ る.

さて,若 年 者 ご 次 性 高 血 圧 の統 計 的 観 察 に よ れ

ば,脳 性 高 血 圧 の例 は極 め て少 数 で あ り,わ れ わ

れ6)の 昭 和41年2月 現 在 の 調 査 で も総 員300名 中

に 二 次 性 高 血 圧 は80名 で あ り,そ の うち脳 性 高 血

圧 は 僅 か2名 で,い ず れ もが 脳 圧 亢 進 を示 し,そ の

原 因 は 臨 床 的 に無 菌 性 髄 膜 炎 と思 わ れ る もの で あ

つ た.同 じ若 年 者 高血 圧 の 統 計 で,武 内7)の もの は

64名 中1名 の ギ ラ ンバ レー 症 候 群 を,KUhns8)の も

の は71名 中1名 の脳 底 動 脈 瘤 な い し脳 膜 出 血 例 を

報告 し,い ず れ も高 血 圧 の原 因 は脳 圧 亢 進 と関 係

が あ る よ うに 考 え られ,脳 性 に高 血圧 を来 た し う

るほ か の 原 因 の もの は 報 告 さ れ て い な い.け だ し

脳 幹 中枢 の障 害,血 管 障 害 の 診 断 は 困難 で髄 圧 亢

進 の み が 客観 的 な証 左 とな り うる た め で あろ う.

硬脳 膜 下hydromaと い う診 断 名 はDandy9)(1932

年)に よ り初 め て呼 称 せ られ,そ の ほ か硬 脳 膜 下

hygroma,硬 脳 膜 下effusion, traumatic serous me

ningitisな ど と 呼 ば れ てい るが,今 日一 般 的 に は

硬 脳 膜下hydromaま た は 硬 脳 膜 下hygromaと い う

名 称 が慣 用 せ られ,と くに両 者 の使 い 分 け に特 別

の意 味 は な い よ うで あ る.

Curtisl0)に よ る と硬 脳 膜 下hydromaは 炎症 性 脳

疾 患 時 お よび外 傷 後 に来 る もの が あ り,外 傷 後 の

もの は急 性,亜 急 性,慢 性 の 三 つ の タ イ プに分 け

られ,前 者 は 予後 不 良 で あ り,後2者 は外 科 手 術

に よ り予 後 は良 好 とい う.そ の原 因 は あ く まで脳

外 傷 に よ るが,自 覚 お よ び他 覚 的 症 状 は硬 脳 膜 下

hematomaに 類 似 して い る. McConnell11)がpos-

traumatic syndromeと して 分 類 し た 頭 部 外 傷 に

よ り神経 症状 を の こす 慢 性 型75例 に つ い て み る

と,20例 は頭 痛 だ け を,7例 は め まい だ け を,38

例 は め まい と精 神 不 安 定 症 状 を訴 え,こ の うち65

例 が硬 脳 膜下hydromaを もつ てい た とい う.そ し

てそ の 総 べ て に頭 蓋 内 に貯 留 した脳 脊 髄 液 圧 の 亢

進 が あ つ た が,腰 椎 穿 刺 で は髄 圧 の上 昇 を認 め て

い ない.Wolff12)の2例 も外 傷 後 直 ち に頭 痛 を訴

え,そ の 後 しば ら くして め まい,精 神 不 安定 症

状,悪 心,〓 吐,し まい に は さ く乱,失 神 状態 を

来 た してお り,2例 と も髄 圧 亢 進 は な く,鬱 血 乳

頭 もな か つ た とい う.そ してhydromaが 相 当大 き

い と きは 神 経 学 的 な他 覚 的所 見 で確 診 で き るが,

そ の症 状 が全 くない か軽 度 の と き には 診 断 が 困 難

で あ る と して い る.

また,hydromaの 内容 液 は透 明 で 無 色 か 黄 色 を

呈 し,脳 脊 髄 液 そ の もの で あ り,く も膜 が 断裂 して

脳 脊 髄 液 が 硬脳 膜 下 腔 に漏 出 す る結果 生 ず る もの

で,そ の こ と をMcConnel113)はpneumoencephalo-

grphyで 証 明 し,貯 留 液 は くも膜 の 断裂 部 がball

valveの 効 果 を呈 して 非 可 逆 的 に 蓄 積 す る とい つ

てい る.さ らに そ の 際 硬 脳 膜 下 腔 に早 く液 が集 つ

た と きは透 明,無 色 で脳 脊 髄 液 だ け で あ り,遅 く

集 つ た と きに は 着 色 した,血 液 と脳 脊 髄 液 の混 合

液 で あ ろ う とい う意 見 もあ る10).Wo1ff12)は 外 傷

に よる少 量 の 出血 が くも膜 の貼 塞 を来 た し,そ の

結 果 脳 脊 髄 液 の 逆 流 を防 ぐ働 き を してhydromaを

形 成 し,さ らに外 傷 の シ ョ ック に よ りvasomotoric

な作 用 で血 圧 低 下,つ い で脳 内圧 の低 下 を と くに

立 位 に おい て ひ き起 こ し,そ の こ と も液 の逆 流 を

防 い で貯 留 を助 け る こ とに な り,次 第 に脳 内圧 が

回 復 す るに つ れ て流 通 を阻 止 され た貯 留 液 は そ れ

自身 の部 屋 を形 成 す る よ うに な る と し てい る.

な お,彼 に よ る とhydromaは 袋 状 を な し,硬 脳

膜 側 は そ の壁 が硬 い 線 維 状 の 灰 白色 の 膜 状 で組 織

学 的 に はhyalin化 した 組 織 で あ り,く も膜,軟 膜

側 は 多 くの血 管 を も つ た硬 化 した浮 腫 状 を呈 し て

い る とい う.

以 上 の ご と く硬 脳 膜 下hydromaの 発 生 機 構 につ

い て 諸 説 が あ る が,未 だ確 立 した定 説 は な い よ う

で あ る.

硬脳 膜 下hydromaは 外 科 領 域 で 多 くみ つ け られ

報 告 され てい る.こ れが 外 傷 後 に発 生 し,手 術 に

よ り治 癒 せ しめ うる 点 で 当然 とい え よ う.し か

(74) 日内会誌 第55卷 第9号

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篠 崎 有 三他5名 1019

し,高 血圧 を伴 なつた症例報告は見当らない.あ

るいは髄圧亢進 を伴 なった例があり,そ のために

高 血圧 を呈 した例があつたとしても,お そらく付

随的なもの として関心 を呼ばなかつたからか も知

れない.

本症例は頭重のほかに霧視 を訴 えるのみで,神

経学的に異常な他覚所見 もな く,た またま乳頭浮

腫 と出血像 を認 めたので脳の各種検査 を行ない診

断が確立したわけであるが,手 術により確かめた

硬脳膜下hydroma中 の液は無色,透 明な髄液 と同

性質のもので,お そらく脳脊髄液 の貯留 したもの

と思われた.ま た硬脳膜,く も膜側 ともに灰白色の

肥厚 した膜 を形成 してお り,そ の点では前述の論

文に一致する.し か し過去の症例,考 案に反 し硬

脳膜下hydromaに 特有でない乳頭浮腫 と出血像お

よび髄圧亢進の存在は,多 分永い経過のうちに硬

脳膜下hydromaに よる圧迫現象が生 じて脳脊髄液

の流通障害 を来たし,そ のために上記の症状 を呈

し,手 術 により脳内の圧迫現象が とれるとともに

髄圧が低下 し,血 圧も正常に復 したものと考 えら

れる.し たがつて本症例の高血圧は髄圧亢進によ

る ものであつたと解釈 した.

本症例 を診断 した 経過 からふ り返つて考 える

と,一 般 に若年者の 高血圧には頭重,頭 痛,動

悸,め まい,肩 こり,倦 怠などの自覚症状が多 く

認められ,本 例のようにた またま眼底所見 を発見

せられれ ば脳波,脳 血管撮影によつて確信がえら

れようが,軽 度の自覚症状であった り,高 血圧そ

の もの の 自覚症 状 と して放 置 され 〓ば 原 病 の確 実

な把 握 に 欠 け る危 険 も生 じよ う.さ らに脳 性 の 高

血圧 に つ い ての検 査 は 困 難 な場 合 が 多 い こ とか ら

も診 断 が お ろ そ か に な り易 い で あろ う.し た が つ

て,わ れ わ れ は,今 後,若 年者 の高 血 圧 の診 療 に

際 し,頭 重 な どの 一般 的 な症 状 に対 して も,た 〓,

単 に 神経 症 状 と し て放 置 す る こ とな く,こ の よ う

な症 例 も念 頭 に お き必 要 に応 じて近 代 的 な脳 神経

検 査 を駆 使 し て充分 な検 索 の行 なわ れ る こ と を期

待 した い.

おわ りに

以 上 わ れ わ れ は 硬脳 膜 下hydromaに よ る若 年 者

のcurable hypertensionの1治 験 例 に つ い て 報告

した 。従 来,稀 と され てい る脳 神経 起原 の高 血 圧

の発 見 に 意 を用 い た と考 え る.

文 献

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