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2016年8月3日 特定胚等研究専門委員会 動物性集合胚をめぐる 倫理的・法的・社会的 課題(ELSI)と現状 東京大学医科学研究所 神里彩子 1 文部科学省 科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会 特定胚等研究専門委員会 2016年8月3日

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2016年8月3日特定胚等研究専門委員会

動物性集合胚をめぐる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)と現状

東京大学医科学研究所

神里彩子

1

文部科学省科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会

特定胚等研究専門委員会2016年8月3日

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スタンプ
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今日のご報告内容

1.動物性集合胚等に関する海外の規制状況と動向

1)アメリカーNational Academies, NIH

2)イギリス

3)International Society for Stem Cell Research(ISSCR)

2.動物性集合胚に関する日本の規制状況と今後の課題

3.動物性集合胚等をめぐる倫理的・社会的問題

4 .まとめ

2

注釈)「動物性集合胚」「ヒト-動物キメラ」が混在しますが、「ヒト-動物キメラ」> 「動物性集合胚」

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1.動物性集合胚等に関する海外の規制状況と動向

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ヒト-動物キメラ研究規制の概略

ヒトの細胞や遺伝子を動物個体へ移植する研究の歴史は長く、日常的に行われている。

Ex. ・ ヒト癌細胞のSCIDマウスへの移植

・ヒトES細胞、ヒトiPS細胞のSCIDマウスへの移植によるテラトーマ形成

・ヒト神経幹細胞の脊髄損傷モデル/パーキンソン病モデルマウス、ラット、サルへの移植

ヒトの細胞や遺伝子について「ヒト対象研究」規制 動物実験規制

※これが国際的に標準型

ヒトES細胞/多能性細胞の登場により、これらの細胞の動物への移植も従来通りの対応で良いか?という問題浮上。近年、アメリカやイギリス等で検討。

日本の動物性集合胚の規制は世界的に先進的な取り組みだった

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1)アメリカ

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Guidelines for Research on Human Embryonic Stem Cells (2010 Amendments)

C.現時点では許容されるべきではないヒトES細胞研究(1.3(c) ) 受精後14日以降又は原始線条形成の開始以降のヒト胚の体外で

の培養を伴う研究。

ヒト以外の霊長類の胚盤胞にヒトES細胞を導入する研究。ヒトES細胞が導入され、生殖細胞系列に寄与した可能性のある動

物の繁殖。6

A. IACUC等の義務づけられている審査を経ることで許容されるヒトES細胞研究(1.3(a) )

B. Embryonic Stem Cell Research Oversight (ESCRO)による追加的審査及び承認を経ることで許容されるヒトES細胞研究(1.3(b))胚、胎仔、出生後の発生段階を問わずヒト及び霊長類以外の動物

にヒトES細胞を導入することを伴う研究胚、胎仔、出生後の発生段階を問わずヒト以外の霊長類にヒトES

細胞を導入することを伴う研究

ヒトES細胞を動物に導入する研究

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ヒトES細胞を動物に導入する研究の要件:

少なくとも次の3点について特別な配慮を払わなければならない。(1.3(b))

①移植した細胞が動物の組織に定着し、組み込まれる範囲

②移植した細胞の分化の程度

③移植した細胞の動物組織の機能への影響

ヒトES細胞のヒト以外の脊椎動物の胚、胎仔、成体との結合を伴う全ての研究計画は、動物福祉に関する審査のためにIACUCに、また、生じるキメラに対するヒトの寄与の影響を検討するためにESCROに申請しなければならない。(6.4)

ヒト以外の哺乳類の胚盤胞へのヒトES細胞の導入は、他の研究では必要とする情報が得られない場合にのみ検討するべきである。(6.7) 7

Cont.

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B. ESCROによる追加的審査及び承認を経ることで許容されるヒト多能性細胞研究(7.3(ⅱ) )

移植されたヒト多能性幹細胞が神経又は生殖の細胞や組織になる可能性が大きい実験。その際、少なくとも次の3点について特別な配慮を払わなければならない。

①移植した細胞が動物の組織に定着し、組み込まれる範囲

②移植した細胞の分化の程度

③移植した細胞の動物組織の機能への影響

8

ヒト多能性幹細胞を動物に導入する研究

A. IACUC等の義務づけられている審査を経ることで許容されるヒト多能性幹細胞研究(7.3(ⅰ) )

C.現時点では実施/許容されるべきではないヒト多能性幹細胞研究(導入した細胞が神経組織や生殖細胞系列へ寄与する可能性に関する更なる研究が行われるまで)ヒト以外の霊長類の胚にヒト多能性幹細胞を導入する研究。(7.3(ⅲ) )ヒト多能性幹細胞を導入され、生殖細胞系列に寄与する可能性のある動物の交配。(7.5)

Cont.

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Section IV. 適格なソースに由来するヒトES細胞及び/又はヒトiPS細胞を用いた場合であっても、NIHから助成を受けることのできない研究

A. ヒトES細胞(たとえガイドラインに従って提供された胚から樹立されたものであっても)又はヒトiPS細胞を霊長類(ヒトを除く)の胚盤胞に導入する研究。

B. ヒトES細胞(たとえガイドラインに従って提供された胚から樹立されたものであっても)又はヒトiPS細胞の導入が生殖細胞系列に寄与した可能性がある場合の動物の交配を伴う研究

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NIH Guidelines for Research Using Human Stem Cells (2009)

これ以外のキメラ研究については、助成の条件を特に設けていない。

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NIHの動向-助成の停止

NIH Research Involving Introduction of Human Pluripotent Cells into Non-Human Vertebrate Animal Pre-Gastrulation Embryos (Notice Number: NOT-D-15-158)

2015年9月23日に通知を発出。

目的:ヒト以外の脊椎動物の原腸形成以前の段階の胚にヒト多能性細胞を導入する研究に対する助成は、NIHがこの研究領域についての政策変更に関する検討が終わるまで行わない。

背景:急速に研究の範囲が拡大していることを受けて、NIHはこの領域における科学の状況、検討しなければならない倫理的課題、そして、このタイプの研究に伴う動物福祉に関する懸念を評価するために慎重に検討することとする。

施行:2015年9月23日~NIHが政策通知を発出するまで、新たな又は競争的なグラント申請や契約に対して助成しない。

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研究者の声

Izpisúa Belmonte “I'm not upset. Quite the opposite. I think it is great that we openly openly discuss this and hope that a conclusion is reached,” reached,” he says.

Science 16 Oct 2015:Vol. 350, Issue 6258, pp. 261-262

Science 06 Nov 2015:Vol. 350, Issue 6261, pp. 640

Given that the objective of the NIH is to enable discoveries that advance human health, the restrictions presented n NOT-OD-15-158 serve to impede scientific progress in regenerative medicine and should be lifted.

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NIHの動向-議論Workshop on Research with Animals Containing Human Cells

November 6, 2015

8:30am to 5:00pmSession I: Introducing Human Pluripotent Cells into Early‐Stage Non‐Human Vertebrate Animal Embryos

Jacob Hanna, MD, PhD – Weizmann Institute of Science

Juan Carlos Izpisua Belmonte, PhD – Salk Institute for Biological Studies

Hiromitsu Nakauchi, MD, PhD – Stanford University School of Medicine

Walter Low, PhD – University of Minnesota and Recombinetics Inc. Qi Zhou, PhD – Institute of Zoology, Chinese Academy of Sciences

Session II: Introducing Human Neural Stem Cells or Progenitor Cells into Non‐Human Vertebrate Animal Embryos or FetusesSession III: Ensuring the Responsible Conduct of Research with Animals Containing Human Cells

これ以降、見直しの進捗など公表されていない。

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2)イギリス

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Home Office. Guidance on the use of human material in animals

• 2016年2月、Home Officeがガイダンスを公表。

• 2011年に発表されたthe Academy of Medical Sciencesの報告書の勧告を承認し、それに基づく規制方針を提示。

カテゴリー1:研究における動物利用の一般的な問題以上の問題はないカテゴリー

Animal Containing Human Material(ACHM)の大部分が該当。

他の動物実験と同様に、ASPAに基づく監督と規制。

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Cont.

カテゴリー2:

• 脳の機能を“人間のような”ものにする可能性のある動物(とりわけ大型動物)の脳の大きな改変を伴う研究。

• 動物体内で、機能するヒトの生殖細胞の生成又は増殖を導く可能性のある実験

• 進化上近い種とヒトとの区別において最も有用とされている動物の外観やふるまいを大幅に改変することが予想される実験

• ヒトの遺伝子やヒトの細胞をヒト以外の霊長類に導入することを伴う実験。

ASPA による規制に加えて、政府外公共機関(NDPB)Animal in Science Committeeの審査・助言を得ることが必要。助言に拘束力は無い。

※ 方法を問わない点が特徴 (public opinionを反映

※ human material in animalsという大きい枠組みも特徴

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Cont.

カテゴリー3 極めて狭い範囲のACHM実験

• 移植した(ヒトの)細胞が、発生する胎児において「センシティブ」な表現型の変化を導かないことについて説得力がある証拠がない場合に、ヒト以外の霊長類およびヒトのES細胞/多能性幹細胞との混合により作られた胚を、発生から14日以降又は原始線条形成の最初の兆候があらわれた段階以降(どちらか先に生じた方)発生させること。

• “人間のような”ふるまいを生み出すなど、ヒト以外の霊長類の脳の重要な機能的改変をもたらす可能性があると国家専門家組織において判断された、十分なヒト由来神経細胞のヒト以外の霊長類への移植。

• ヒト胚又はハイブリッド胚の産生を導く可能性のある、生殖腺にヒト由来生殖細胞をもつ、あるいは発生させる可能性のある動物の交配。

十分な科学的正当性を欠く、又は、非常に大きな生命倫理の問題を生じさせるため、現段階では認可されるべきでない。

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3)International Society for Stem Cell Research(ISSCR)

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Guidelines for Stem Cell Research and Clinical Translation (2016)2. 実験室におけるヒトES細胞研究、胚研究その他関連研究

推奨2.1.3 審査カテゴリ

カテゴリー1. (2.1.3.1)既存の審査を経て認められ、EMROによる追加的審査が免除される研究 ※Embryo Research Oversight

Ex.ES細胞株の免疫不全マウスへのヒト癌細胞の導入

カテゴリー3. (2.1.3.3)禁止される研究行為e. ヒトの配偶子を形成した可能性のあるヒト細胞を包含する動物キメラを交配させる研究

カテゴリー2. (2.1.3.2)EMROによる追加的審査を経てのみ認められる研究形態

※人の胚という観点から慎重な対応

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Cont.

推奨2.1.5 専門的な審査を必要とするヒト動物キメラ研究

中枢神経系又は生殖細胞系列のキメラ化をもたらすためにホスト動物にヒトの全能細胞又は多能性細胞を組み入れることを伴う研究は、専門的な研究管理を必要とする。そのような管理には、正確な科学知識や妥当な推測に基づく入手可能な動物に関する基本データを利用し、動物福祉の原則の入念な適用を含むべきである。

動物の中枢神経系に機能的に融合する、又は、ホスト動物体内でヒトの配偶子を生成する可能性が高いヒト細胞を用いるキメラ研究は、特別な審査が必要である。

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UK USA NA USA NIH(助成)

ISSCR

ヒトESC/iPSCの動物個体への導入

- - -

ヒトESC/iPSCの動物胚/胚盤胞への導入

- - -

霊長類の場合 ※1 ※2 -

動物の脳機能のヒト化 -

霊長類の場合 -但し※1 -但し※2

動物の外形/行動のヒト化

- - -

霊長類の場合 -但し※1 -但し※2 -

動物体内でのヒト生殖細胞の産生

ヒト生殖細胞の含有可能性のある動物の交配

まとめてみると

NIH Workshop on Research with Animals Containing Human CellsにおけるJonathan Kimmelmanのスライドを参考に試作

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小括これらのガイドラインからわかることは、

• 原則として、ヒトES細胞/多能性幹細胞を動物の胚、胎仔、成体に導入することを禁止していない。ヒト-動物キメラ胚(動物性集合胚)を動物に移植することについても禁止していない。

但し、霊長類の胚/胚盤胞への導入、及び、生殖細胞系列に寄与した可能性のある動物の交配は禁止。

• 研究目的(「臓器の作成に関する基礎的研究」等)の観点からの規制なし。

• 動物性集合胚の培養期間について制限(14日以内等)なし。

次については特別な配慮をしている。

• 動物種:霊長類

• 産生される動物の特徴:脳神経細胞、生殖細胞を持つ動物。これらに加えて、イギリスでは、人のような外見、振る舞いをする可能性のある動物。

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2.動物性集合胚に関する日本の規制状況と課題

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動物性集合胚の定義

ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律

第2条第20号 次のいずれかに掲げる胚。

イ 二以上の動物性融合胚が集合して一体となった胚(当該胚と体細胞又は胚性細胞とが集合して一体となった胚を含む。)

ロ 一以上の動物性融合胚と一以上の動物胚又は体細胞若しくは胚性細胞とが集合して一体となった胚

ハ 一以上の動物胚とヒトの体細胞又はヒト受精胚、ヒト胚分割胚、ヒト胚核移植胚、人クローン胚、ヒト集合胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚、ヒト性集合胚若しくは動物性融合胚の胚性細胞とが集合して一体となった胚(当該胚と動物の体細胞又は動物胚の胚性細胞とが集合して一体となった胚を含む。)

ニ イからハまでに掲げる胚の胚性細胞であって核を有するものがヒト除核卵又は動物除核卵と融合することにより生ずる胚

23

動物性融合胚の作成は禁止(特定胚指針

第2条)

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動物性集合胚の取扱いー特定胚指針

24

目的

「ヒトに移植することが可能なヒトの細胞からなる臓器の作成に関する基礎的研究」に限り認める(特定胚指針第15条2項)

取扱い期間

原始線条が現れるまでの期間、あるいは、原始線条が現れない場合でも作成した日から起算して14日間のみ(第5条)

用いるヒト細胞の条件

・必要経費を除き無償で提供された細胞を用いること。(第3条)

・動物性集合胚の作成に細胞を用いることについて、提供者から書面による同意を得ていること。(第16条)

胎内への移植

「人又は動物の胎内に移植してはならない」(第7条)

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「動物性集合胚を用いた研究の取扱いについて」(2013年)-生命倫理専門調査会が提示した検討課題

• 「ヒトに移植することが可能なヒトの細胞からなる臓器の作成に関する基礎的研究」という作成目的の見直し(拡大)

• 移植により得られる可能性のある科学的知見の重要性を考慮すれば、人と動物との境界が曖昧となる個体を産生することによって人の尊厳を損なうおそれのないよう、科学的合理性、社会的妥当性に係る一定の要件を定め、それを満たす場合に限って、動物胎内への移植を認めることが適当。胎内移植の要件の検討。

① 禁止又は一定の制限を設けるべき動物胚の種類、移植先の動物の種類。特に 霊長類の扱い② 禁止又は一定の制限を設けるべき、集合させるヒトの細胞の種類又は作成目的とするヒトの細胞・臓器の種類。特にヒトの脳神経細胞・生殖細胞を作成対象とすることの扱い③ 移植した動物性集合胚を特定のヒト組織・臓器に分化させる技術の精度④ 動物胎内移植後の研究に必要な期間の範囲※動物愛護の観点からの配慮も必要

• 個体産生の要件の検討

• 移植の是非について、個別の研究計画ごとに適切に判断できるような体制・運用の在り方の検討

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生命倫理専門調査会の提示を受けて規制を緩和した場合

特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会動物性集合胚の取扱いに関する作業部会(第1回)資料2-1に加筆

現在ここまで 研究内容のみならず、「規制」という面でも新しい領域

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動物性集合胚の取扱いークローン技術規制法

第4条 文部科学大臣は、ヒト胚分割胚、ヒト胚核移植胚、人クローン胚、ヒト集合胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚、ヒト性集合胚、動物性融合胚又は動物性集合胚(以下「特定胚」という。)が、人又は動物の胎内に移植された場合に人クローン個体若しくは交雑個体又は人の尊厳の保持等に与える影響がこれらに準ずる個体となるおそれがあることにかんがみ、特定胚の作成、譲受又は輸入及びこれらの行為後の取扱い(以下「特定胚の取扱い」という。)の適正を確保するため、生命現象の解明に関する科学的知見を勘案し、特定胚の取扱いに関する指針(以下「指針」という。)を定めなければならない。

第6条 1 特定胚を作成し、譲り受け、又は輸入しようとする者は、文部科学省令で定めるところにより、次に掲げる事項を文部科学大臣に届け出なければならない。① ~⑥ 略

第3条 何人も、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚を人又は動物の胎内に移植してはならない。

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動物実験に関する規制

動物の愛護及び管理に関する法律

第41条1項 動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供する場合には、科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限り動物を供する方法に代わり得るものを利用すること、できる限りその利用に供される動物の数を少なくすること等により動物を適切に利用することに配慮するものとする。

2項 動物を科学上の利用に供する場合には、その利用に必要な限度において、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならない。

28

・環境省「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(2006年) ・文部科学省「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(2006年)/厚生労働省「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」(2006年)/農林水産省「農林水産省の所管する研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(2006年)

※「出生後」の哺乳類、鳥類又は爬虫類が対象。

※ 研究内容に関する条件は、特に規定なし。

※ 動物福祉、科学的合理性、安全性の観点から、各施設の動物実験委員会で審査。

※ イギリスでは哺乳類、鳥類、爬虫類は、妊娠期間、孵化期間の半分経過時以降から対象に。

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小括:規制を緩和した場合の特定胚指針その他規制の適用範囲も要検討?

動物性集合胚を作製

動物性集合胚を母ブタ等に移植

キメラ胎仔についての研究

キメラ個体の産生

キメラ個体についての研究

摘出した臓器についての研究

臓器を人に移植する臨床試験

特定胚指針 動物実験規制

その他

〇 × ―

〇 母ブタ〇 ―

〇? 母ブタ〇胎仔×

? 〇 ―

? 〇 ―

? (動物に移植〇)

現行人対象倫理指針で対応可?

× × 現行再生医療法等で対応可?

〇は適用、×は適用外

どこまで特定胚指針でカバーできる?あるいは、カバーすることにする?

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3.動物性集合胚研究をめぐる倫理的・社会的問題

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イギリスでの意識調査

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イギリス医学アカデミー「ヒトの物質を含有する動物」プロジェクトの一環として実施。

方法:質的調査(70人対象)、量的調査(1046人)。

結果: 大多数が、ヒトの健康改善・疾病治療を

目的とした研究であることを条件に、ヒトと動物の遺伝物質の混合を伴う研究を支持。

但し、以下を持つ動物の作成については、相対的に懸念が強かった。

“人間のような” ・ 外見・ 脳・ 生殖機能

UKの政策に反映

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2012年に実施したFGI調査

目的

• 「ヒトの要素をもつ動物(Animal Containing Human Material、ACHM)に関する一般市民の意識、動物性集合胚研究とその規制に対する態度」を明らかにする。

方法

• フォーカス・グループ・インタビュー(FGI)による質的調査

対象

• 首都圏在住の一般生活者

• 20代~30代と40代~50代の男女6名ずつ計4グループ24名

対象からの除外基準

• 「動物」「宗教」「医療」と接する機会の多い人々は対象から除外。

期間

• 2012年2月実施32

楠瀬まゆみ、井上悠輔、神里彩子、武藤香織.ヒト-動物キメラの作製と利用に関する一般市民の意識調査結果(日本生命倫理学会口頭発表 2012年10月27日)

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結果:臓器不足解消を目的として動物個体を産生・利用することについての肯定的意見

• 医学の発展

• 移植待機患者・渡航移植の必要な人々のため

• 拒絶反応の克服の可能性

• 過去には信じられない研究であっても現在の人々に恩恵を与えている

• 新薬開発には犠牲が存在

• 人間が動物を食べて生きることと同じ

33

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結果:臓器不足解消を目的として動物個体を産生・利用することについての否定的意見

動物個体作製について

自然物に対する人為的操作への抵抗感 /遺伝子操作と遺伝子欠損動物の作製利用への抵抗感

キメラ動物の誕生やその処遇への懸念

•動物を犠牲にすることへの葛藤

•人に近い外見や意識をもつ未知の生物が誕生する可能性への不安

•中間的生物の処遇や対処

•人間と動物の境界の問題

•作製された生物を人間が制御できなくなることへの不安

•自分や子どもとのつながり 34

作製された臓器の移植について

作製された臓器自体の機能への不安

子孫の代を含めた長期的安全性への不安

移植による身体的・心理的影響への不安

いじめや偏見の可能性への懸念

動物に犠牲を強いることへの抵抗感

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キメラ動物誕生やその処遇への懸念の語り• 「僕の場合は、さっき言ったようにどの動物をとっても、多分自分の遺

伝子を持ったものを殺すのが抵抗あるんですけど、…」(20代男性)

• 「・・・結局、生まれた、臓器をもらったら子豚は殺すわけですよね、最後は。まあ、それが豚じゃなくて人間だったら、やっぱり、自分の子どもを殺すようなものですよね、まさに。」(30代男性)

• 「私は反対です。私は自分の子どもでも、どうしてもと思っても、そこまでのことをして、どういう豚が生まれるかわからないリスクまで背負って、その豚が自分の子どもの細胞を持ってる豚が死ぬわけですよね。そこまで自分のエゴを通せないです。」(40代女性)

• 「ましてや自分の子どもなら、子どもの細胞を持ってるものができるわけですからね、それがいちばん大きいですよね。」(40代女性)

ヒトの要素をもつ動物の死体(遺体?)処理の問題

• 「そのあとの始末というと変ですけど、考えると、それを無理に、ね、粗悪に扱われるとか、無惨に、そんなことあり得ないと思うんですけど、普通の廃棄物として処理をされてしまうことにはやっぱり、そういうところまでいっぱい考えていくと、なんか複雑ですね。」(50代女性)

35

ここから、キメラ動物について、●「臓器産生のための代替可能な動物」という存在のほか●「自分の一部を分けた特別な動物」

という存在になり得ることが示唆される。

仮に患者が死亡し患者の細胞をもった動物が残った場合、遺族にとってその動物は特別な存在となる可能性も。

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小括

本調査結果、また、イギリスの調査結果から、一般市民の懸念は、「ヒトのような知能やヒトの生殖細胞を持った動物の産生」にとどまらず多様であることが伺えた。

2015年11月に開催されたNIHのWorkshop on Research with Animals Containing Human Cells

も専門家が招聘されたのみで、一般市民が議論に参加できていないことが指摘されている。

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4.まとめ

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1. アメリカ、イギリス、ISSCRの規制の枠組みは把握できたが、実際の審査実績やどのように判断しているのかはわからない。

2. 特定胚移植後の研究について特定胚指針でカバーできるのか、どこまでカバーするか、また、他の規制等との関係性は法政策的検討課題?(生命倫理調査会の報告書:「文部科学省において特定胚指針等の見直しが早期に行われることを期待する。」)

3. 標葉らの調査結果(動物性集合胚の取扱いに関する作業部会2016年1月19日報告)より、人の臓器を持つ動物を作ることについて一般市民の支持は得られていない(「許されるべきではない」約50%)

一般市民の懐く懸念や嫌悪は多様であることが伺えることから、何についての懸念・嫌悪か把握し、「①一般市民の誤解によるもの」、「②技術で対応できるもの」、「③その他のもの」を精査し、①②については研究者からの発信も必要。