幹細胞から臓器を作成するko マウスは 成体まで発育できた 15 b....

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1 (平成22年12月17日 ヒトES委員会説明資料) 東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究 研究プロジェクト名:「中内幹細胞制御プロジェクト」 幹細胞から臓器を作成する 中内 啓光 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について

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Page 1: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

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(平成22年12月17日 ヒトES委員会説明資料)

東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター

JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究

研究プロジェクト名:「中内幹細胞制御プロジェクト」

幹細胞から臓器を作成する

中内 啓光

幹細胞から臓器を作成する

動物性集合胚作成の必要性について

jbiru
テキストボックス
資料78-1-1
Page 2: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

腎不全、各種心臓疾患など、臓器不全症に対する根本的な治療には臓器移植が必要。しかし移植臓器は圧倒的に不足している。にもかかわらず試験管内で臓器を作出することは難しく、現在の再生医療が目指しているのは幹細胞から誘導した細胞を用いた細胞治療である。

最近、我々はラットiPS細胞を用いてマウス個体内でラットの膵臓を作ることに成功した。この原理がヒトとブタ等の大動物でもあてはまればブタの個体内でヒトの臓器を作成することが可能になり、移植ドナーの供給源として医療に大きく貢献できる。

さらに最近、免疫不全マウスに移植したiPS細胞由来の奇形腫からヒト造血幹細胞を誘導することに成功。遺伝性血液疾患の根治療法につながる重要な成果。臨床応用の可能性を検討するにあたっては、家畜など、より大きな動物で検証する必要がある。

マウスとラット以外の動物種(ヒトを含む)のES細胞やiPS細胞はキメラ形成能を持たない(少し分化した)多能性幹細胞であることが明らかとなってきた。

幹細胞研究の現状幹細胞研究の現状

Page 3: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

体細胞の初期化受精卵受精卵

受精受精

in vitro in vitro でで分化誘導分化誘導

分化細胞を用いた細胞療法(糖尿病、パーキンソン病、

脊髄損傷、網膜色素変性症など)

多数の患者が臓多数の患者が臓器不全症等で移植器不全症等で移植

を待っているを待っている

多能性幹細胞(ES 細胞、iPS 細胞…)

現在の再生医療が目指しているのは細胞治療現在の再生医療が目指しているのは細胞治療

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Page 4: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

体細胞の初期化受精卵受精卵

受精受精

in vitro in vitro でで分化誘導分化誘導

分化細胞を用いた細胞療法(糖尿病、パーキンソン病、

脊髄損傷、網膜色素変性症など)

多数の患者が臓多数の患者が臓器不全症等で移植器不全症等で移植

を待っているを待っている

多能性幹細胞(ES 細胞、iPS 細胞…)

現在の再生医療が目指しているのは細胞治療現在の再生医療が目指しているのは細胞治療

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Page 5: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

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キメラ動物とはキメラ動物とは

交配では精子と卵子が受精することによりそれぞれが持つ遺伝子が交ざりあう。

これに対し、キメラ動物とは(ゲノムが異なる)細胞が混じりあった状態の個体を 意味する。キメラは部分キメラと全体キメラに区別できる。

部分キメラ: 輸血や骨髄移植、臓器移植を受けた人。二卵性双生児のペアの8%が血液キメラであるし、母親の血液中に子供の血液が長年にわたって存在する場合があることが知られている。また研究分野でもマウス、ラット、羊、ウシ等の動物にヒト血液幹細胞、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、ヒトがん細胞、ヒト神経幹細胞などを移植することは日常的に行われていて、ヒト神経細胞を持つマウスなども作成されている。これらは全て部分キメラである。

全体(全身性)キメラ:発生の極めて早期にゲノムが異なる胚細胞が混じると体全体に両方の細胞が入り混じった個体が生まれてくる。異種間の胚を混ぜてキメラ個体作出まで至った例として羊とヤギのキメラ(Geep)が 1984年に生まれているが、ラット・マウス間で個体作出の成功例はない。

混合した時期に両方の細胞が多能性を持っていれば全体キメラが生まれる可能性があると考えられる。

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ES ES 細胞を細胞を 10~15個10~15個胚盤胞へ注入胚盤胞へ注入

ES ES 細胞細胞

××♀♀

♂♂

胚性幹胚性幹 (ES) (ES) 細胞によるキメラマウスの作製細胞によるキメラマウスの作製

受精後受精後 3~4日目の3~4日目の受精卵受精卵 ((=胚盤胞=胚盤胞))

仮親の子宮に仮親の子宮に胚盤胞を移植胚盤胞を移植

キメラマウスキメラマウスの誕生の誕生

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注入された

ES細胞 (緑)胚盤胞注入注入された

ES細胞 (緑)胚盤胞注入

Page 7: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

胚盤胞補完法を利用した臓器作出の原理胚盤胞補完法を利用した臓器作出の原理

膵臓を欠損する膵臓を欠損する遺伝子改変マウス遺伝子改変マウス

胎児胎児

胚盤胞胚盤胞

受精受精

胚盤胞へ注入胚盤胞へ注入

マウス多能性幹細胞マウス多能性幹細胞(ES (ES 細胞、細胞、iPS iPS 細胞細胞……))

Pdx1KOマウス個体内でドナー

iPS細胞由来臓器が

再生されるのではないか?

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Pdx1Pdx1 KO KO マウスマウス

==

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Pdx1 Pdx1 KOKO マウスマウス+ + マウスマウス iPSiPS 細胞細胞

Pdx1 Pdx1 ヘテロマウスヘテロマウス+ + マウスマウス iPS iPS 細胞細胞

明視野明視野

EGFPEGFP

HEHE

膵島

膵島

膵臓

膵臓

EGFPEGFPDAPIDAPI

200200μμmm

5050μμmm

200200μμmm

5050μμmm

Pdx1Pdx1 KO KO マウス内にほぼ全ての細胞がマウス内にほぼ全ての細胞が

iPSiPS由来の膵臓ができていた由来の膵臓ができていた

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Page 9: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

この原理を利用してヒトの臓器を再生するには?異種動物を用いた胚盤胞補完を成功させることが必要

膵臓欠損ブタ由来胚盤胞へのヒトiPS細胞の移植

ブタ個体内でのドナーiPS細胞由来臓器の再生

臓器欠損動物

異種の壁を越えた胚盤胞補完の成立

異種の壁を越えた胚盤胞補完の成立

臓器欠損動物を作成する臓器欠損動物を作成する患者由来のiPS細胞

ブタ個体内で作成した

患者の臓器を移植

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異種動物の体内で臓器を作ることは可能か異種動物の体内で臓器を作ることは可能か ??

マウスマウス ラットラット

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iPS細胞を用いてマウス-ラット間で動作原理を確認する

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材料と方法材料と方法 : : マウスマウス‐‐ラット異種間キメラ作製ラット異種間キメラ作製

マウスマウス iPS iPS 細胞細胞

ラット同士の交配ラット同士の交配((Wistar Wistar ♂♂ x Wistar x Wistar ♀)♀)

胚盤胞注入胚盤胞注入

EGFPEGFP--Tg Tg マウスマウス ((B6B6 ♂)♂)

ラットラット iPS iPS 細胞細胞

マウス同士の交配マウス同士の交配((B6 B6 ♂♂ x BDF1 x BDF1 ♀)♀)

胚盤胞注入胚盤胞注入

ラットラット ((Wistar Wistar ♂)♂)

マウス胚盤胞+ ラット iPS 細胞

マウス胚盤胞マウス胚盤胞+ + ラットラット iPS iPS 細胞細胞

ラット胚盤胞+ マウス iPS 細胞

ラット胚盤胞ラット胚盤胞+ + マウスマウス iPS iPS 細胞細胞

偽妊娠ラット偽妊娠ラット(Wistar) (Wistar) へ移植へ移植

偽妊娠マウス偽妊娠マウス(ICR) (ICR) へ移植へ移植

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Page 12: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

マウスマウス--ラット異種間キメラはラット異種間キメラは

出生後成体まで発育可能であった出生後成体まで発育可能であった

ラット胚盤胞ラット胚盤胞+ + マウスマウス iPS iPS 細胞細胞

マウス胚盤胞マウス胚盤胞+ + ラットラット iPS iPS 細胞細胞

新生児期新生児期

成体成体明視野明視野 EGFPEGFP

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キメラの作製効率とキメリズムキメラの作製効率とキメリズム

A. A. 異種間キメラの作製効率異種間キメラの作製効率 B. B. 胎児繊維芽細胞のキメリズム解析胎児繊維芽細胞のキメリズム解析

100100

7575

5050

2525

00

ラットラット マウスマウス マウスマウス ラットラットホスト胚ホスト胚

ドナー細胞ドナー細胞 マウスマウス iPS iPS 細胞細胞 ラットラット iPS iPS 細胞細胞

ラットラット マウスマウス マウスマウス ラットラット

マウスマウス iPS iPS 細胞細胞 ラットラット iPS iPS 細胞細胞

移植

胚移

植胚

(( 総移

植数

総移

植数

= 10

0%)

= 10

0%)

キメ

リズ

ムキ

メリ

ズム

(EG

FP

(EG

FP 陽

性率

陽性

率))

2424 2626 7070 3030100100

7575

5050

2525

00

キメラキメラ

非キメラ非キメラ

非胎児非胎児

←← 移植胚数移植胚数(%)(%) (%)(%)

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異種間胚盤胞補完法により異種間胚盤胞補完法によりマウス内にラットの臓器を作出できるか示すマウス内にラットの臓器を作出できるか示す

膵臓欠損マウス内にラット iPS 細胞由来の膵臓を作出

受精卵

ラットiPS 細胞

Pdx1 KOマウス

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Page 15: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

Pdx1 KOKO マウス+ ラット iPS 細胞

Pdx1 ヘテロマウス+ ラット iPS 細胞

明視野 EGFP

A. ラットの膵臓を持ったPdx1 KO マウス (8週目)

B. マウス内に作出されたラット膵臓の形態

ラットの膵臓を持った Pdx1 KO マウスは

成体まで発育できた

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B. B. 糖負荷後の血糖値推移糖負荷後の血糖値推移

HEHE

EGFPEGFPDAPIDAPI

200200μμmm

A. A. 膵臓の形態と膵臓の形態と EGFP EGFP 陽性細胞の分布陽性細胞の分布

Pdx1 KO マウスに作出されたラットの膵臓は

組織学的および機能的に正常な膵臓であった

(mg/dl)(mg/dl)

00

220000

440000

660000

00 3030 6060 9090 120120 ((分分))

STZSTZ--糖尿病モデル糖尿病モデル

Pdx1 Pdx1 KOKO マウスマウス+ + ラットラット iPSiPS 細胞細胞

Pdx1 Pdx1 ヘテロマウスヘテロマウス+ + ラットラット iPS iPS 細胞細胞

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200200μμmm

Page 17: 幹細胞から臓器を作成するKO マウスは 成体まで発育できた 15 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE EGFP DAPI 200 μ m A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布

テラトーマテラトーマ三胚葉系へ分化した組織を含む良性腫瘍

HSCs

造血系サイトカインやストローマ細胞を投造血系サイトカインやストローマ細胞を投与することで、テラトーマ内に与することで、テラトーマ内に

造血幹細胞を誘導できるのでは?造血幹細胞を誘導できるのでは?

テラトーマ形成を利用した造血幹細胞の誘導法テラトーマ形成を利用した造血幹細胞の誘導法

造血系サイトカインストローマ細胞

誘導された造血幹細胞は骨髄に誘導された造血幹細胞は骨髄にホーミングするのでは?ホーミングするのでは?浸透圧ポンプでサイトカインを持続投与

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1)大動物でも多能性幹細胞を使って臓器を作ることができるのか?→ ブタ等の大動物を使った動作原理の確認。

2)この原理を応用してヒトの臓器を他の動物の個体内で作出するには動物性集合胚の作成が必須である。動物性集合胚のヒトまたは動物の胎内への移植は、現在のガイドラインでは不可。(英国では可能。中国は規制無し)

→ ガイドラインの見直し→ 胚盤胞ではなく胎仔に多能性幹細胞や前駆細胞を移植する

3)マウスやラットのiPS細胞と異なりヒトのiPS細胞はキメラ形成能が無い。→ キメラ形成能を持つ本当のiPS細胞を樹立する必要がある。そのためにはキメラ形成能を調べる手段が必要。動物性集合胚の研究が必須となる。

(日本のガイドラインではin vitroで原始線状ができるまで可能)

4)ヒトと家畜のキメラを作出する際にヒト細胞が脳や生殖細胞を持つ動物ができる可能性がある。(現実には既にヒトの神経細胞を持つマウスは多数作られていて特に問題にはなっていない)

→ 胚盤胞ではなく胎仔に多能性幹細胞や前駆細胞を移植する→ 神経系や生殖系に分化しないように加工した多能性幹細胞を用いる。

今後の課題今後の課題