体罰防止マニュアル...場合,肯定的な態度を示す教職員と,それを否定する教職員との間に相互不信という状況が発...

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体罰防止マニュアル (改訂版) 平成 25 年8月 茨城県教育委員会

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体罰防止マニュアル

(改訂版)

平成25年8月

茨城県教育委員会

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目 次

1 体罰とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2 体罰は人権侵害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

3 子どもの心と信頼を砕く体罰 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

4 体罰の実態調査から見えてくるもの ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

5 体罰の発生

(1) 体罰が発生した場面,態様等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

(2) 体罰を行った教職員の責任 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

(3) 教職員の懲戒処分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

6 体罰の未然防止と根絶に向けて

(1) 体罰根絶のための視点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(2) 体罰のない学校をつくるために教職員に求められること ・・・・・・・・10

(3) 体罰根絶に向けた学校の取組 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

(4) 体罰事件の判例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

7 体罰防止のためのチェック項目 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

8 行動に問題のある児童生徒の理解と対応について ・・・・・・・・・・・・ 18

(1) 行動に問題のある児童生徒を理解するために ・・・・・・・・・・・・ 19

(2) ABC分析の手順 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

(3) ABC分析 聞き取り項目(例) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

9 事例を通じた研修 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28

(1) 事例を通じた研修Ⅰ・Ⅱ(小学校) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

(2) 事例を通じた研修 Ⅲ・Ⅳ(中学校) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

(3) 事例を通じた研修Ⅴ(特別支援学校) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

(4) 事例を通じた研修 Ⅵ (高校) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

(5) 事例を通じた研修Ⅶ(授業,部活動以外 高校) ・・・・・・・・・・・・ 34

(6) 事例を通じた研修Ⅷ (運動部活動) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

10 学校における体罰の実態把握に係る調査について ・・・・・・・・・・・・ 36

引用・参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

体罰発生時の対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

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1 体罰とは

体罰は,学校教育法第11条で禁止されており,校長及び教員は,児童生徒への指導に当たり,

いかなる場合も体罰を加えることはできません。体罰は,児童生徒の心身に癒しがたい傷を残し,

学校や教員に対する信頼関係を損なうものです。また,正常な倫理観を養うことはできず,むし

ろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ,いじめ・暴力行為・不登校などの連鎖を生む恐

れがあります。

【身体に対する侵害を内容とする「体罰」の例】

授業態度について指導したが反抗的な言動をした複数の生徒らの頬を平手打ちする。 立ち歩きの多い生徒を叱ったが,席に着かないため,頬をつねって席に着かせる。 生徒指導に応じず,生徒の腕を引いたところ,振り払ったため,当該生徒の頭を平手

で叩く。 部活動顧問の指示に従わなかったため,当該生徒の頬を殴打する。 【肉体的苦痛を与える「体罰」の例】

放課後に児童を教室に残留させ,児童生徒がトイレに行きたいと訴えたが,一切,室

外に出ることを許さない。 別室指導のため,給食の時間を含めて長く別室に留め置き,一切,室外に出ることを

許さない。

□認められる懲戒の例(通常,懲戒権の範囲内と判断されると考えられる行為)(ただし肉体的

苦痛を伴わないものに限る。)

・ 学習課題や清掃活動を課す。 ・ 立ち歩きの多い児童生徒を叱って席に着かせる。 ・ 練習に遅刻した生徒を試合に出さずに見学させる。 □正当な行為の例(通常,正当防衛,正当行為と判断されると考えられる行為)

・ 児童生徒が教員の指導に反抗して教員の足を蹴ったため,体を強く押さえる。 ・ 全校集会中に,大声を出して集会を妨げる行為があった生徒を冷静にさせ,別の場所で指

導するため,別の場所に移るよう指導したが,なおも大声を出し続けて抵抗したため,生

徒の腕を手で引っ張って移動させる。 ・ 他の生徒をからかっていた生徒を指導しようとしたところ,当該生徒が教員に暴言を吐き

つばを吐いて逃げ出そうとしたため,生徒が落ち着くまでの数分間,肩を両手でつかんで

壁へ押しつけ,制止させる。 ・ 試合中に相手チームの選手とトラブルになり,殴りかかろうとする生徒を,押さえつけて

制止させる。

「体罰」と「懲戒」は別のものです。

※個別の事案が体罰に該当するか等を判断するに当たっては,当該児童生徒の年齢,健康,心身の

発達状況,当該行為が行われた場所的及び時間的環境,懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え,個々

の事案ごとに判断する必要があります。

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2 体罰は人権侵害

茨城県人権施策推進基本計画(平成16年2月)

○ 県では,「誰もが健やかに暮らせるやすらぎに満ちた社会」の実現を目指していますが,そ

のためには,人権尊重の精神が不可欠です。 ○ 人権とは,「人が人らしく生きていくために社会によって認められた権利」であり,一人一

人の人権が尊重されるとともに,一人一人が互いに人権を尊重しあい,共生できる人権意識を

育てていくことが必要です。 ○ 学校教育においては,教育活動全体を通して人権尊重の精神を養うとともに,差別や偏見を

もたない児童生徒の育成に努めています。特に,児童生徒の発達段階に即した指導方法の工夫

改善や教職員の指導力向上を図る研修の充実に努めています。また,学校と家庭との連携を図

り,様々な体験や学習をとおして児童生徒の豊かな人権感覚や人権意識の育成に努めています。 ○ 学校や施設における子どもへの体罰は,重大な人権侵害でありますが,学校において体罰で

はないかとして調査した事案が毎年発生しています。 ○ 教職員は,体罰が法律により禁止されていることを常に自覚し,児童生徒の指導に当たる際,

いかなる場合にも体罰を用いてはならないことを十分に認識する必要があります。 児童の権利に関する条約(平成元年11月20日),第44回国連総会採択

(我が国においては,平成6年 5月 22日に効力が生じています。) ○ 本条約の発効を契機として,更に一層,児童生徒の基本的人権に十分配慮し,一人一人を大

切にした教育が行われることが求められています。 【第 19 条(1)】 締約国は,児童が父母,法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間にお

いて,あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力,傷害若しくは虐待,放置若しくは怠慢な取

扱い,不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な

立法上,行政上,社会上及び教育上の措置をとる。 【第 28 条(2)】 締約国は,学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用される

ことを確保するためのすべての適当な措置をとる。

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3 子どもの心と信頼を砕く体罰

□ 児童生徒の心に大きな傷を残します!

子どもを叩いたり,殴ったり,蹴ったりする体罰は,子どもの心に深い傷を負わせることに

なります。その傷は,恐怖心,屈辱感を与えるだけでなく,子どもに無力感や劣等感を増大さ

せることになります。また,体罰では,正常な倫理観を養うことはできず,むしろ児童生徒に

力による解決への志向を助長し,いじめや暴力などの土壌を生んでしまう恐れがあります。体

罰を,行き過ぎた指導と誤った考え方がみられますが,体罰は指導の行き過ぎではなく,暴力

以外の何ものでもありません。子どもの心に大きな傷を残し,子どもの心と信頼を砕く体罰は,

今後根絶しなければならない大きな課題です。

□ 肯定か否定かという論議は,成り立ちません! 子どもたちの身勝手な態度を何度口頭で注意しても効果がないことから,つい体罰に走った

場合,肯定的な態度を示す教職員と,それを否定する教職員との間に相互不信という状況が発

生してしまいます。肯定派の教職員は,否定派を「体罰はやむを得ない場合もある」「一定の

限度内であればよい」「法律は法律,教育は別」「身体を張っていない」という言葉で非難し,

反対派は「教育の営みではない」という言葉で反論します。教育理念や教育観の違いに関する

議論は大切ですが,体罰に肯定か否定かという議論は成り立ちません。教職員間の不一致は指

導効果を弱め,ますます両派の教職員の相互不信が深刻になり,教職員集団の信頼関係が崩れ

てしまいます。

□ 教職員と児童生徒との信頼関係を崩します! 子どもたちは学校において,様々な教職員との人間関係,信頼関係の中で成長を遂げていき

ます。しかし,一人でも体罰によって指導する教職員がいた場合,表面的にはその怖さに従う

そぶりを示しますが,内面的には不安や恨み,反発心などを持つようになり,教職員集団全体

に対する不信感を抱かせるようになります。さらに,力の弱い教職員の指導に対して,子ども

が横柄な態度をとるなど,教職員によって接し方を変えるという事態が発生することにもつな

がります。たとえ一つの体罰でも,教職員と児童生徒との信頼関係は,崩れてしまいます。そ

して,その修復には,何倍もの時間と労力がかかります。信頼関係を維持していくためにも,

教職員一人一人が体罰によらず自信を持って指導ができるような力を身に付けていかなけれ

ばなりません。 □ たとえ1回であっても,学校不信を招きます! 教職員と児童生徒との信頼関係が崩れれば,保護者・地域からの不信感が増し,やがては地

域全体の信頼を失う結果となります。学校教育で成果を上げていくためには,保護者・地域の

理解と協力が不可欠であり,教職員への信頼が第一です。たとえ1回の体罰でも,学校不信を

招いてしまいます。 時には厳しさを求めても,どの保護者も自分の子どもが大切にされることを願っています。 厳しさとは,体罰による指導ではなく,子どもを思う優しさの上に成り立った,あきらめない 指導,粘り強い指導であり,体罰とは無縁のものです。

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4 体罰の実態調査から見えてくるもの

★ 体罰は暴力であり,指導ではない!

★ 体罰からは,何も生まれない!

★ 体罰で,子どもの心は開かない!

その行為・・・体罰は暴力であり,指導ではない!

○ 頭をたたく ○ 平手でたたく ○ 殴る ○ 蹴る

○ 物で・・・(ほうき・ペットボトル・ペン・棒・ラケット・スパイク・バット等)

○ 物にぶつける ○ 物を投げる

子どもの思いは?

◆ 一方的に怒られた ■ むかつく

◆ 決めつけられた ■ なぜ,やられなければならなのか

◆ 認めてくれない ■ 口で言えばわかるのに

◆ 話を聞いてくれない ■ なぜ,自分だけ

◆ わかってくれない ■ 先生は忘れても一生忘れない

◆ 信じてくれない ■ 先生がやるならおれもやる

◆ やろうと思ったのに ■ いつか仕返ししてやる

★ 子どもは意欲を失い,無気力・失望感に陥る

★ 子どもは自信を失い,現実から逃避する,自暴自棄になる

★ 子どもとの信頼関係が失われ,反感・不信感だけが残る

背景・きっかけ・・・どんな理由があっても体罰は許されない!

○ 叱咤激励,励ましのつもりで

○ 指示どおりにできないから,指導したことができない,同じミスを繰り返す

○ 気合いを入れるため,奮起を促すため

○ やらずにふざけていた,きまりを守らない,約束を破った,うそをついた

○ 指示に従わない,再三の注意に従わない

○ 反抗的な態度(無視・とぼけ・言い訳・ふてくされる・暴言・挑発)

○ 腹が立って,感情が高ぶって

○ 担当として何とかしたいという思いから

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この指導でよかったのか・・・指導の在り方を見直そう!

○ 体罰(暴力)によらない指導法はなかったか

→ 体罰によらず,児童生徒理解に立った指導法を身に付けているか。

○ 叱咤激励,励ましのつもり

→ そう思っているのは自分だけ。子どもはそう理解していたか。

○ 指導したことができない

→ 手順や方法などを指導してきたか。頑張りを認めてきたか。

○ 何回言ってもできない

→ 次はできるようになる手立てを講じたか。あきらめずに指導したか。

○ 腹が立って,気持ちが高ぶって

→ 感情を抑えたり,コントロールしたりできなかったか。

○ 担当として何とかしたいという思いから

→ 一人に任せきりになっていないか。プレッシャーをかけていないか。

○ 体罰への認識に問題はないか

→ 関係ができているからとして体罰を正当化するような誤った認識は

ないか。

この対応で本当によかったのか・・・大事なことを忘れていないか!

○ 謝罪が受け入れられれば,体罰は許されたことになるのだろうか。

→ 体罰の事実は消えない。ここから信頼回復の取組がスタートする。

○ 「保護者は理解してくれた」は,本当にそうだろうか。

→ 児童生徒と教師の信頼関係が修復されることが本当の理解につながる。

○ 「部活動保護者会」「臨時保護者会」のねらいがはっきりしているか。

→ 学校を応援する保護者の意見が大勢を占めることにより,被害を受けた

児童生徒や保護者が孤立することのないようにする。

○ 「行き過ぎた指導」という言葉で,納得させてはいないだろうか。

→ 行為そのものが体罰であれば,許されない。

○ 体罰をした後の対応

→ 児童生徒や保護者の立場に立って,誠意ある対応を心がける。

体罰を「しない」「させない」「許さない」

体罰によらず,自信を持って指導できる教師が求められている

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5 体罰の発生

(1) 体罰が発生した場面,態様等

茨城県教育委員会が県公立学校教職員に対し,平成19年度から平成24年度まで懲戒処

分等を行った件数(事案発生142件,懲戒処分等を受けた教職員126名)から各割合を示

したものです。

<① 場面別>

<② 態様別>

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<③ 被害の状況>

(2) 体罰を行った教職員の責任

教職員本人に対して 身分や社会的信用や収入を失い,家族が苦しむということにもなりかね

ません。

① 行政上の責任 職務義務違反として(地方公務員法第 29条)戒告・減給・停職・免職の懲戒処分があります。 また,懲戒処分に該当しない場合でも,服務上の措置(文書訓告・口頭訓告など)が行われます。 ② 刑法上の責任 体罰を行ったことにより,傷害罪・暴行罪・監禁罪等の刑事上の責任を問われる場合があり

ます。なお,禁錮以上の刑に処せられた場合,地方公務員法第 28 条第4項の規定に基づき失

職します。 ③ 民事上の責任 国家賠償法による賠償責任があり,傷害に対する治療費や慰謝料等の損害賠償責任を負うこ

とがあります。また,教職員に故意又は重大な過失があったときは求償もあり得ます。 ④ 教員免許状の扱い

教育職員免許法第 10条第1項の規定に基づき免許状は失効します。

学校・保護者・地域に対して 築き上げた信頼関係が一瞬にして崩壊します。以後の教育活動

の妨げとなります。

児童生徒に対して 体罰を受けた児童生徒のみならず,周りの児童生徒にも大きな影響を与え

ます。 ① 心身の傷(教師は忘れることができても,児童生徒はなかなか忘れられない。) ② 教師を見る目の変化 ③ 児童生徒自身も暴力等で,解決しようとする危険性

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(3) 教職員の懲戒処分(校長等の監督者の処分は除く。)

茨城県教育委員会が県公立学校教職員に対し,平成19年度から平成24年度までに懲戒

処分等を行った件数(事案発生142件,懲戒処分等を受けた教職員126名)から各割合を

示したものです。

<① 年度別件数>

<② 年代別割合>

106

80

100

停職 停職減給 減給戒告

訓告等 訓告等

訓告等訓告等

6 6

12

5

0

2

4

6

8

10

12

平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度

停職 減給 戒告 訓告等

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6 体罰の未然防止と根絶に向けて

(1)体罰根絶のための視点

先に述べたように,体罰は学校教育法第 11 条において明確に禁止されています。また, 体罰は重大な信用失墜行為であり,それを受けた本人が肉体的に傷つくばかりではなく,

その現場に接した他の子どもたちにも恐怖心を与え,精神的に傷つける弊害も指摘されて います。体罰が行われる際,そこには子どもの人権を尊重する視点が欠落しているのです。

私たち教職員は,子どもの人権を尊重し,一人一人を大切にした教育の一層の推進を図ら

なければなりません。しかし,体罰は,人権教育を推進する上で妨げとなるばかりか,子ど

もの人権を著しく侵害し,子どもの心に深い傷を負わせ,自尊感情の減退を招きます。 学校教育の現場において,体罰禁止が叫ばれ続けているにもかかわらず,いまだに体罰

がなくならない背景には,次の要因が考えられます。

① 体罰を肯定し,正当化する誤った考え方 体罰が後を絶たないのは,教職員間にも社会や保護者の間にも,愛情に基づく体罰は許さ れるし,教育的にも有効であるという「愛の鞭」肯定論が根強く残っているからだと考えら れています。これは本当に正しいのでしょうか。 大人が勝手に考えるのではなく,体罰を受ける子どもが,どう受け止めるかを考えるべき であり,子どもたちは決して「愛の鞭」とは受け止めていないはずです。子どもは,指導に 従ったように見えますが,実は痛みなどの苦痛から逃れるための行動であり,心に響く指導 にはなっていないのです。

② 教職員の指導力不足 教職員としての権威や自尊心を傷つけるような子どもの態度に,自分の感情を自制できな くなり衝動的になることがあります。 子どもの気持ちを理解しようと懸命に努力しているのに反抗されたり,無視されたり,嘘 をつかれたり,また,熱心に授業しているのに授業中の私語が絶えないなど,自分の指導が 子どもの内面に入らない指導力不足からくる「あせり」によるものと考えられます。

③ 不十分な学校の指導体制,教職員間の協力体制 教職員間の協力体制が不十分だと,効果的な指導ができないばかりか,お互いにストレス が高まり,「あせり」から体罰を起こさないともかぎりません。また,教職員が孤立し,他 の教職員の協力が得られずに指導がうまくいかない場合,子どもの態度に触れ自分の感情を コントロールできなくなり,衝動的に体罰を起こすことがあります。 教職員が互いに話し合い,協力し合うことが大切です。

④ 学校と保護者・地域との認識の違い 保護者や地域の中には,ときに体罰を含め,学校に強い指導を期待するなど,学校の取り

組もうとしている指導方針との間に認識のずれが生じることがあります。学校は,様々な機

会をとらえて体罰によらない児童生徒理解に立った指導方針を説明し,理解を求めることが

大切です。

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(2)体罰のない学校をつくるために教職員に求められること

児童生徒の人格の完成に向けた教育活動の根底には,児童生徒と教職員との心のふれあ いを通して信頼関係が構築されていなければなりません。教職員による体罰は,法律で禁 止されているだけでなく,児童生徒の人権にかかわる問題としてあってはならない行為で あり,教職員としての指導力の未熟さを表しているといえます。

① 教職員一人一人が人権意識を高める

■ 体罰は,人権の問題 学校教育の現場から体罰を根絶するには,体罰を指導法の視点から捉えるべきではなく 「人権の問題」として考えていく必要があります。人権尊重に裏打ちされた教育理念に沿

って,子どもをより深く理解して教育活動を行う日常の実践が大切です。 ■ 子どもの基本的人権の尊重 教職員一人一人が体罰は子どもの人権を侵害する絶対に許されない行為であり,指導を

困難にしてしまうことへの認識と自覚を深める必要があります。何よりもまず,教職員自 身が子どもの基本的人権を尊重することが大切です。

■ 人権に関する研修の充実 すべての教職員が,子どもの人権を侵す体罰や侮辱的な言葉,不公平な扱い等をなくす

ことは勿論,人権問題を直感的にとらえる感性及び人権への配慮が態度や行動に表れるこ とが重要です。そのためには,人権に関する研修を組織的・計画的に実施するとともに, 教職員自身が自分の教育実践を振り返ることができるような研修内容の充実を図ることが 大切です。

人権の視点から,自分の教育実践を点検してみよう

チェック No. チ ェ ッ ク 項 目

① 子どもに自ら明るいあいさつをしたり,温かい言葉をかけたりしている。 ② 指名するときは,「さん」を付けて呼んでいる。 ③ 子どもの学校・家庭での様子について把握している。 ④ 子どもの悩みや人間関係を把握している。 ⑤ 保護者の思いや願いを把握している。 ⑥ 孤立している子どもがいないか配慮している。 ⑦ 子どもの相談に乗ったり,すすんで声をかけたりしている。 ⑧ 互いのよさを認め合う場を設定している。 ⑨ 子どもへの指導や対応について,互いに相談し合っている。 ⑩ 人権尊重や,体罰・暴力の防止について,研修を定期的に行っている。

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② 子ども・保護者との信頼関係を築く ■ 長期的な展望に立って,子どもの成長を願う余裕をもち,子どもの話をじっくり聞き

時間をかけて根気強く指導するなど,自らカウンセリングマインドにより実践することが 大切です。

■ 問題行動などの結果や現象面だけを見て判断・指導するのではなく,子どもの生活背 景や実態を把握し,そのような行動に至る原因や背景を受け止め,適切に粘り強く指導 することが大切です。

■ 考え方が多様化している子どもに対して,旧態依然とした指導が通用するとは限らず, 日常的に子どもの実態把握をするとともに,最近の子どもの心理・行動様式の変化をふ

まえた対応について研修することが必要です。 ■ 学級担任だけでなく,養護教諭・カウンセラーなど多くの人が関わることで,多面的 に子どもを理解することが大切です。

③ 児童生徒理解に基づく一人一人を伸ばす指導の充実を図る ■ これまでの日常的な「指導の在り方」「児童生徒へのかかわり方」を振り返り,見直し

を図ることが必要です。 ■ 平成 25年3月 13日付け 25文科初第 1269号「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく

指導の徹底について(通知)」及び,別紙「学校教育法第 11条に規定する児童生徒の懲戒 体罰に関する参考事例」により,懲戒,体罰に関する正しい解釈と知識を身に付けること が大切です。

■ 児童生徒が楽しく学ぶための授業づくりに努め,成就感を味わえるように支援します。 ■ 児童生徒が互いに認め合い,共感的人間関係をつくることができるように支援します。 ■ 児童生徒の自己決定の場を設定します。

学校教育法第 11 条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例

「平成 25年3月 13 日付け 25文科初第 1269 号「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく 指導の徹底について(通知)」別紙」より

(1) 体罰(通常,体罰と判断されると考えられる行為) ○ 身体に対する侵害を内容とするもの ・ 体育の授業中,危険な行為をした児童の背中を足で踏みつける。 ・ 帰りの会で足をぶらぶらさせて座り,前の席の児童に足を当てた児童を,突き飛ば して転倒させる。

・ 授業態度について指導したが反抗的な言動をした複数の生徒らの頬を平手打ちする。 ・ 立ち歩きの多い生徒を叱ったが聞かず,席に着かないため,頬をつねって席に着か せる。

・ 生徒指導に応じず,下校しようとしている生徒の腕を引いたところ,生徒が腕を振 り払ったため,当該生徒の頭を平手で叩く。

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・給食の時間,ふざけていた生徒に対し,口頭で注意したが聞かなかったため,持っ ていたボールペンを投げつけ,生徒に当てる。

・ 部活動顧問の指示に従わず,ユニフォームの片付けが不十分であったため,当該生 徒の頬を殴打する。

○ 被罰者に肉体的苦痛を与えるようなもの ・ 放課後に児童を教室に残留させ,児童がトイレに行きたいと訴えたが,一切,室外

に出ることを許さない。 ・ 別室指導のため,給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め置き,一切室外に出る

ことを許さない。 ・ 宿題を忘れた児童に対して,教室の後方で正座で授業を受けるよう言い,児童が苦

痛を訴えたが,そのままの姿勢を保持させた。 (2) 認められる懲戒(通常,懲戒権の範囲内と判断されると考えられる行為)(ただし肉体的

苦痛を伴わないものに限る) ※ 学校教育法施行規則に定める退学・停学・訓告以外で認められると考えられる例 ・ 放課後等に教室に残留させる。 ・ 授業中,教室内に起立させる。 ・ 学習課題や清掃活動を課す。 ・ 学校当番を多く割り当てる。 ・ 立ち歩きの多い児童生徒を叱って席に着かせる。 ・ 練習に遅刻した生徒を試合に出さずに見学させる。

(3) 正当な行為(通常,正当防衛,正当行為と判断されると考えられる行為)

○ 児童生徒から教員等に対する暴力行為に対して,教員等が防衛のためにやむを得ずし

た有形力の行使 ・ 児童が教員の指導に反抗して教員の足を蹴ったため,児童の背後に回り,体をきつ

く押さえる。 ○ 他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為に対して,これを制止したり,目前の危

険を回避するためにやむを得ずした有形力の行使 ・ 休み時間に廊下で,他の児童を押させつけて殴るという行為に及んだ児童がいたた

め,この児童の両肩をつかんで引き離す。 ・ 全校集会中に,大声を出して集会を妨げる行為があった生徒を冷静にさせ,別の場

所で指導するため,別の場所に移るよう指導したが,なおも大声を出し続けて抵抗し

たため,生徒の腕を手で引っ張って移動させる。 ・ 他の生徒をからかっていた生徒を指導しようとしたところ,当該生徒が教員に暴言

を吐き,つばを吐いて逃げ出そうとしたため,生徒が落ち着くまでの数分間,肩を両

手でつかんで壁へ押しつけ,制止させる。 ・ 試合中に相手チームの選手とトラブルになり,殴りかかろうとする生徒を,押さえ

つけて制止させる。

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(3)体罰根絶に向けた学校の取組

① 教職員の意識改革に努め,指導力を高める ◆ 体罰は,学校教育法第 11 条において禁止されている違法行為であり,行政上,また

刑法及び民事上の責任が伴います。 ◆ 体罰は暴力・人権侵害であり,指導ではありません。 ◆ 児童生徒の心身に深刻な悪影響を与え,信頼を大きく損なう行為です。 ◆ 児童生徒は,体罰をした教職員に不信感を抱くとともに,体罰を制止できなかった教

職員に対しても体罰を容認する教職員ととらえ,学校全体の不信感につながります。 ◆ 体罰によって生まれるものは何もなく,力による解決への志向を助長させ,いじめや

暴力行為などの連鎖を生む恐れがあります。 ◆ 体罰を,「厳しい指導」「行き過ぎた指導」「愛の鞭」などといって正当化することは,

大きな誤りです。 ◆ 「信頼関係・人間関係ができているから」「少しぐらいは」は,通用しません。 ◆ 「指導の在り方」「児童生徒とのかかわり方」について振り返り,見直しを図ります。 ◆ 体罰によらない指導法,児童生徒とのかかわり方について研修し,自信を持って指導

することができる力を身に付けます。

② 生徒指導体制の在り方を点検する ◆ 生徒指導体制については,全教職員の共通理解のもとで組織的に取り組み,子ども・

保護者の心に迫る生徒指導を目指して信頼関係の確立を図ります。 ◆ 子どもに対する指導については,子どもに話す機会を十分に与えたり,複数の教職員

で指導に当たる等の配慮を必要とし,子どもを多面的な視点で理解するとともに発達・

成長過程を考慮して指導に当たります。 ◆ 問題行動に対する事例の研修や全国的な動向についての研修に努めます。 ◆ 対処療法としての生徒指導だけではなく,長期的な視野に立ち,全教育活動で生徒指

導の機能(共感的人間関係・自己存在感・自己決定)を生かし,積極的な生徒指導を心が

け,魅力ある学校づくりに努めます。 ◆ 全教職員が一人一人の児童生徒の変化に気付く眼,見逃さない眼を持つとともに,相

互に情報交換しながら根気強く指導する体制を整備します。

③ 学校体制の在り方を点検する ◆ 体罰の発生は,学校体制及び管理職の管理責任を問われる重大な問題であり,体罰を

引き起こす土壌がないか,また「場合によっては,体罰もやむを得ない」という考え方

を認める体質がないか等,常時点検します。 ◆ 教育活動全体を通して,一部の教職員,生徒指導部や学年の教職員だけで指導する等

の抱え込み指導の防止に努めるとともに,学校全体の組織的な連携が図られていること

を確認します。 ◆ 子どもが何でも気軽に話せる環境づくりなど教育相談体制の充実に努め,悩みや不安

が潜在化,深刻化しないように留意するとともに,子どもの人権・プライバシー保護に

十分配慮します。

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◆ 「体罰防止のためのチェック項目」を定期的に自己点検し,不適切な指導や体罰の疑

いのある指導がないかどうか確認します。

④ 相談窓口の周知 ◆ 被害を受けた児童生徒やその保護者等が相談しやすい相談窓口を周知する。 ◆ 「いじめ・体罰解消サポートセンター」についての周知を図る。 ○ 県央(けんおう)地区いじめ・体罰解消サポートセンター ○ 県北(けんぽく)地区いじめ・体罰解消サポートセンター ○ 鹿行(ろっこう)地区いじめ・体罰解消サポートセンター ○ 県南(けんなん)地区いじめ・体罰解消サポートセンター ○ 県西(けんせい)地区いじめ・体罰解消サポートセンター

⑤ 保護者・地域との連携 ◆ 学校が中心となり,地域ぐるみの青少年健全育成の在り方等について研修し,保護者・

関係諸機関・地域住民等との情報交換,意見交換のできる機会を増やす。同時に,その

ような場で学校の教育方針や教育活動を明確にし,理解と協力を求める。 ◆ 学校は地域の一員であるという認識に立ち,いつでも保護者や地域住民が学校を訪問 できる環境整備を進め,開かれた学校づくりに努める。

◆ 保護者や地域住民の一部には,体罰を容認する考え方があるかもしれないが,学校と

して体罰否定の明確な指導方針を説明し,継続的に啓発する。

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(4) 体罰事件の判例

① 判例1「顧問教諭から受けた暴行により生徒が傷害を負った事案」

(浦和地裁平成5年11 月24 日判決)

【事件のあらまし】

市立中学校バレーボール部の顧問教諭が,男子新人戦の第一試合で辛勝した後,ミ

ーティングのため出場選手を廊下に集合させ,全員に反省の言葉を述べさせた後,各

選手の頬を殴打した際,選手の一人がよろけてコンクリートの角柱の壁面に頭をぶつ

け,頸椎捻挫となり,長期欠席した。 事故については,顧問教諭の暴行によるものであったとして,市に慰謝料等180

万円の支払いが命じられた。 【判決】 市に慰謝料等180万円の支払いを命じる。

【判決のポイント】 ○ 負傷した生徒はコンクリート角柱の壁面に肩を接するような位置に立っていた

こと,顔面を殴打された生徒がその勢いで角柱側によろけることが当然に予測で

きる態様であったことなどが認められる。

○ 顧問教諭は,殴打の動機を第二試合に臨む選手に活を入れるためと主張するが,

第一試合のような試合内容では,第二試合には勝てないという焦りの感情をそのま

ま選手にぶつけたにすぎないと認めるのが相当であって,顧問教諭に本件行為を正

当化しうるに足りる教育的配慮等があったものとは認められない。 ○ 顧問教諭は,打ち所が悪ければ傷害を負わせる結果になることを経験上も知って

いた上,頭部を壁に激突させた後も,次の試合に出場させるなど何の配慮もしな

かった。また,本件行為について校長に報告せず,生徒の両親にも知らせなかっ

た。

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② 判例2「担任教諭の体罰が自殺の原因として行政責任が認められた事案」

(神戸地裁姫路支部平成12年1月31日判決) 【事件のあらまし】

市立小学校において児童が,運動会のポスター制作について担任教諭に質問したところ,

「3時限目に説明したやろ,何回同じことを言わすねん。」と大声で怒鳴り,利き手の左

平手で児童の頭頂部を1回,続けて両頬を往復で1回殴打した。教師は一旦,教卓のほう

に戻りかけたが,その時,児童が他の同級生の方を見て照れ笑いを浮かべたのを見て,馬

鹿にされたと思い立腹して,再び怒鳴りながら,左平手で頭頂部を1回,続けて両頬を往

復で1回殴打した。

児童は,帰宅後に自宅の裏山で自殺をした。

平成6年12月,教諭は暴行容疑で書類送検され,平成7年3月,罰金10万円の略式命

令を受けた。両親は教諭の体罰が自殺の原因として平成8年9月に提訴した。神戸地裁姫

路支部は平成12年1月,因果関係を認め市に約3790万円の支払いを命じ,市は控訴を断

念した。 【判決】 市に約3790万円の支払いを命じる。

【判決のポイント】 ○ 教諭は,児童の自殺の心当たりとして本件殴打行為をあげ,本件殴打事件行為後

フォローをしなかったことを後悔する旨を供述していることから,事実上の因果関

係が認められる。

○ 担任教諭が謝罪をするなどの適切な措置をとり,精神的衝撃を緩和する努力をし

ていれば,自殺を防止できた蓋然性が高いと考えられ,安全配慮義務違反にあたる。

○ 子どもの自殺が社会問題化している情勢下において教師として子どもの自殺に対する

問題意識を当然持ち得る状態にあった。「児童の自殺に関する専門的な知見」は,教師

にとって通常有しておくべき知識であった。

○ 当該児童が教師の一連の殴打行為を理不尽な暴力と受け取ったであろうことは容易に

認識し得た。

③ 判例3「個別指導中に教諭から受けた体罰により生徒が傷害を負った事案」

(名古屋地裁平成5年6月21日判決)

【事件のあらまし】 養護学校高等部「職業・家庭」の窯業の時間に,高等部2年生徒が,集中力を欠き,担当教

諭が何度注意しても,一人で作業を続けようとはしなかった。当該生徒は,一人で落ちついて

いれば,作業に取り組むことができることから,本教諭が昼休みに個別指導を実施した。 個別指導の際に,右眼(眼瞼)を手指で強く押さえる等の体罰を加え,加療3週間を要する

右眼結膜下出血の傷害を負わせた。 【判決】 市に治療関係費1千円,慰謝料30万円の支払いを命じる。 【判決のポイント】 ○体罰以外の原因による受傷の可能性を,直ちに認めることはできない。 ○動機等について判然としない部分はあるものの,職務を行うについての公権力の行使に当た

り,故意に体罰を加えて傷害を負わせたことを認めるのが相当である。

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7 体罰防止のためのチェック項目

教職員一人一人が,自分の指導について自己点検を行うことは,教職員としての力量を高

め,子どもの個性や長所を生かす積極的な指導につながります。 これまでの指導に,甘えやおごり,誤った認識はなかったか,子どもの人権を意識し,子

どもや保護者の立場に立った指導ができていたか等,常に意識とチェックをしながら日々の 教育活動に取り組むことが大切です。 下記の項目をチェックすることにより,日々の教育活動と自分の指導について振り返って

みましょう。

自分の指導を自己点検!

管理職の自己チェック

□ 指導が困難な児童生徒への対応を,一人の教師や学年だけに任せきりにしていないか。 □ 学校全体で体罰によらない指導の在り方について,全員で研修を行っているか。 □ 体罰を行ったり,体罰が行われていることを知ったりしたときに,管理職へ報告・連

絡・相談する体制はできているか。

子どもや保護者の立場で自己チェック □ 児童生徒の言動や態度に,感情的に対応することはないか。 □ 体罰は人格を傷つける行為であり,児童生徒の人権を侵害する行為であることを認識

しているか。 □ 多くの児童生徒の前で,一人の児童生徒を叱責することはないか。 □ 部活動において結果を残すために,厳しい指導も必要であると考えていないか。 □ 同僚が体罰を行った場合,制止したり注意したりすることができるか。 □ 人間関係ができていれば,多少の体罰は問題にならないと考えていないか。 □ スクールカウンセラーや養護教諭など,他の教職員等と連携して指導に当たっているか。

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8 行動に問題のある児童生徒の理解と対応について

「落ち着きがない」「教師に対して反抗的な態度をとる」「すぐにカッとなって暴力をふる

う」「何度注意しても同じ失敗をする」などの児童生徒の問題行動に対して,私たち教師は,

「怠けぐせがある」「がまんが足りない」「わがままだから」「しつけがされていない」など,

児童生徒の内部に原因を求めがちです。 そして,児童生徒の問題とされる行動を,単に無くす,あるいは,押さえるという指導を

行っていくことは,ややもすると力による指導「体罰」につながるおそれがあります。 児童生徒の問題行動を「何かを教師に訴えている」,「何かに戸惑っている」と視点を変え

て受け止めることで,冷静に原因をさぐることができるようになります。問題行動を「悪い

行動」と考えるか,「児童生徒からのメッセージ」と考えるかでその後の指導方法も違って

いきます。

児童生徒の行動に対して,「これだけ一生懸命に教えているのに」「何度も言っているのに

また,同じことをして」と考えてしまうかもしれません。 児童生徒の行動は「個人と環境との相互作用」の結果として起こります。私たち教師のか

かわり方も含めた環境の視点で,行動の背景を理解した対応が大切です。その場しのぎに感

情的に子どもに接すると,ますます児童生徒は不安定になり,悪循環を引き起こします。

暴力をふるう

落ち着きがない

反抗的な態度をとる

意欲がない

話が聞けない

服装が乱れている

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(1) 行動に問題のある児童生徒を理解するために

ここでは,応用行動分析学の方法論の一つとしての「ABC分析」を取り入れ,児童生

徒の問題とされる行動の理解とその対応について考えていきたいと思います。 応用行動分析学では,心の深層を理解するのではなく,人の心を「観察可能な行動と環

境との相互作用」から理解しようとします。 応用行動分析は,特別支援教育の場では知られている実践ですが,他の学校現場や企業,

医療や介護,スポーツなど幅広い分野でその実践的な効果が認識されています。

ある行動(B:Behavior)が,どのような状況で起きて,その行動の後,どのような結果があっ

たのかをABCの枠に入れて整理し,行動を理解することを「ABC分析」といいます。

-悪循環からの脱出へ-

どこで断ち切るか? 誰が断ち切るか?

児童生徒が指

示に従わない

児童生徒は

反発し,反抗

的になる

教師が怒っ

たり,どなっ

たりする

先行刺激

(Antecedent)

すぐ前の状況

行動

(Behavior)

後続刺激

結果事象

(Consequence)

すぐ後の結果

A B C

「環境との相互作用」って何?

ここで言う環境とは 「行動のすぐ前の状況(A:Antecedent)」と 「行動のすぐ後の結果」(C:Consequence)のこと。 つまり,行動の前後から行動を理解することが大切で

す。

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(2)ABC分析の手順

先行刺激

(Antecedent)

きっかけ

行 動(Behavior)

後続刺激結果事象

(Consequence)

直後の対応環境の変化

得たものは?

CA B

ABC分析の手順

観察可能な具体的な行動を記す。

先行刺激

(Antecedent)

きっかけ

行 動(Behavior)

後続刺激結果事象

(Consequence)

直後の対応環境の変化

得たものは?

CA B

ABC分析の手順

観察可能な具体的な行動を記す。

それでは,ABC分析の手順を見

ていきましょう。 ABC分析は,心理面の内部に原

因を求めず,目の前の行動に着目し

て,その原因を客観的に分析してい

きます。その際に「環境」という視

点が一番のポイントとなります。

個への支援環境の調整

参考:「応用行動分析で特別支援教育が変わる」 山本淳一著

個への支援環境の調整

参考:「応用行動分析で特別支援教育が変わる」 山本淳一著

引いた視点

参考:「応用行動分析で特別支援教育が変わる」 山本淳一著

引いた視点

参考:「応用行動分析で特別支援教育が変わる」 山本淳一著

児童生徒の力を伸ばすという「個

への支援」と教師のかかわりを含め

た「環境の調整」の両面から支援を

見直すということになります。 その際に子どもの行動のみを見て

いては気付かないので,自分のかか

わりを含め,一歩引いて全体を見る

という考え方をもてないとうまくい

きません。

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<環境との相互作用で行動が増えたり,減ったりする仕組み(行動の4つの基本原理)

<例>

スーパーのお菓子売り場で,アイちゃんが泣いたので,お母さんは慌ててお菓子を買ってあげた。

すると,アイちゃんはすぐに笑顔になった。(好子出現による強化)

※ つまり,「泣く」という行動の後に,お菓子(好子)が出現することにより,

「泣く」という行動が強化されるということになります。

強 化(行動増える) 弱 化(行動減る)

行動の後に,本人にとって嬉しいこと,好きなこと

(好子)が起これば,その行動は増えていく。「好

子出現による強化」

行動の後に,本人にとって嫌なこと,嫌いなこと(嫌

子)が起これば,その行動は減っていく。「嫌子出

現による弱化」

行動の後に,本人にとって嫌なこと,嫌いなこと(嫌

子)がなくなれば,その行動は増えていく。「嫌子消

失による強化」

行動の後に,本人にとって嬉しいこと,好きなこと

(好子)がなくなれば,その行動は減っていく。「好

子消失による弱化」

問題行動を具体的に特定する

観察可能な具体的な行動を記す。(可能であれば回数が数えられるようなものを)

○教師に注意されるとキレる→ ノートをやぶる

※「教師に注意をされると」は,A:直前

○落ち着きがない → 離席する○乱暴である → 友達を蹴飛ばす○暴言を吐く → 「うるせ~」と言う

問題行動を具体的に特定する

観察可能な具体的な行動を記す。(可能であれば回数が数えられるようなものを)

○教師に注意されるとキレる→ ノートをやぶる

※「教師に注意をされると」は,A:直前

○落ち着きがない → 離席する○乱暴である → 友達を蹴飛ばす○暴言を吐く → 「うるせ~」と言う

ABC分析では,B→C→Aの順

で記入します。 まず,B「行動」の枠を考えてい

きましょう。 ここでは,いかに具体的に記述で

きるかがポイントとなります。 行動とは,観察可能な行動であ

り,誰からも見える行動です。 例えば,「勉強をしない」だけで

は行動ではありません。「勉強をし

ないでゲームをする。」と書き換え

ます。

次に,C「後続刺激」です。その行動を起こした結果どうなった

かを記入します。 Cの枠を考えるときにおさえておきたいものが行動の4つの基本

原理です。 ある行動(B)の結果(C),「よいこと」があると次第にその行動が起

こりやすくなります(強化)。「よくないこと」が起こるとだんだんそ

の行動は減っていきます(弱化)。

スーパーのお菓子売

り場で

アイちゃんが泣く

お母さんがお菓子を

買ってくれた。

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○授業(課題)が(きつい,つまらない,不明瞭,長すぎる,

わからないなど)

○先生の指示や叱責,友達のからかいや励まし,無視

○特定の場所や活動,特定の人,特定の時間など

<A>:直前のきっかけの例

「A:行動のすぐ前の状況(きっ

かけ)」よりもさらに前のベース

となる状況によって,その行動が

起きやすくなるという現象,間接

的な要因となるものを「状況事

象」と言います。 行動を理解する際は,この状況事

象についても把握しておく必要

があります。

どのような状況(A)でその行動が起こるのかを知ることも大切です。もし,不適切な行動であれば,そのような起こりやすい状況そのものを変えていくことができます。

先行刺激

きっかけ

行 動 後続刺激結果事象

直後の対応環境の変化得たもの

行動の背景

CA B

背景間接的要因

○行動の根底にある子どもの特性・困難さ

○行動を起きやすくする間接的な要因

E:状況事象

先行刺激

きっかけ

行 動 後続刺激結果事象

直後の対応環境の変化得たもの

行動の背景

CA B

背景間接的要因

○行動の根底にある子どもの特性・困難さ

○行動を起きやすくする間接的な要因

E:状況事象

課題の量を減らす

課題を簡単にする

課題に取り組む

課題が終わる

ほめられる

プリント課題が配ら

れる

破る 離席する

プリント課題をしな

くてすむ

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その行動の意味,機能を考える。

行動の適切な理解から具体的支援へ

複数推測されることも多いが,一番の機能は何か?高学年になるほど,複雑化してくる。

<特性,困難さ+環境要因 → 二次的な障害>

有効な支援策の立案のためには・問題となる行動の前後を整理し・行動の背景(特性,困難さ等)を把握し・行動の意味,機能をおさえておくことが重要

○事物の要求 ○注目の要求

○物事からの逃避・回避 ○感覚刺激

その行動の意味,機能を考える。

行動の適切な理解から具体的支援へ

複数推測されることも多いが,一番の機能は何か?高学年になるほど,複雑化してくる。

<特性,困難さ+環境要因 → 二次的な障害>

有効な支援策の立案のためには・問題となる行動の前後を整理し・行動の背景(特性,困難さ等)を把握し・行動の意味,機能をおさえておくことが重要

○事物の要求 ○注目の要求

○物事からの逃避・回避 ○感覚刺激

先行刺激

行 動 後続刺激

CA B

<背景>間接的要因

E:状況事象

ABC分析の手順(例)

休み時間に友達とケンカ,宿題を忘れて母親に怒られ朝食抜き,計算が苦手で時間がかかる,気が散りやすい,からかわれるとキレやすい・・・

先行刺激

行 動 後続刺激

CA B

<背景>間接的要因

E:状況事象

ABC分析の手順(例)

休み時間に友達とケンカ,宿題を忘れて母親に怒られ朝食抜き,計算が苦手で時間がかかる,気が散りやすい,からかわれるとキレやすい・・・

行 動(Behavior)

後続刺激(Consequence)

先生が追いかけてくる1対1で教えてもらえる図書室で本を読む課題をやらなくてすむ

CA B

ABC分析の手順(例)

教室からとびだす

先行刺激(Antecedent)

教室で計算の問題を出した問題の量が多い友達から何か言われた

行 動(Behavior)

後続刺激(Consequence)

先生が追いかけてくる1対1で教えてもらえる図書室で本を読む課題をやらなくてすむ

CA B

ABC分析の手順(例)

教室からとびだす

先行刺激(Antecedent)

教室で計算の問題を出した問題の量が多い友達から何か言われた

A:先行刺激(きっかけ) B:行動 C:後続刺激 をできるだけ具体的に記述し

ます。

つづいて, E:状況事象(背景:間接的

要因)を整理します。行動の

根底にある児童生徒の特性

や困難さも含まれます。

具体化した行動が,どのよ

うな状況で起きやすいのか,

どういう状況では起きにく

いのかについてABC分析

をしながらその行動を観察

します。 そして,その行動がどのよ

うな機能(意味や目的)を持

っているのか把握します。

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<行動の4つの機能>

嫌子消失による強化 ①物事からの逃避・回避 嫌なものから逃げることができる

好子出現による強化 ②注目の要求 注目される,かまってもらえる

③事物の要求 欲しい物・機会が手に入る

④感覚刺激 自己刺激的感覚を得られる

ABC分析の手順(例)

この行動の機能は?

課題をやりたくない → 課題逃避先生が注目してくれて嬉しい → 注目の要求

この2つがこの行動の中心的機能であろう

コミュニケーション機能といえる

※機能は複雑に絡み合っているが,その中から中心的機能を同定する。

ABC分析の手順(例)

この行動の機能は?

課題をやりたくない → 課題逃避先生が注目してくれて嬉しい → 注目の要求

この2つがこの行動の中心的機能であろう

コミュニケーション機能といえる

※機能は複雑に絡み合っているが,その中から中心的機能を同定する。

<問題行動>

教室からとびだす

<望ましい行動>

着席して課題を行う

問題行動解決支援シート~支援計画の立案へ~

<当面の短期目標>

教えてくださいと言う課題を5問解く

B→C→Aの順に記入します

○少し頑張ればできそうな目標

○前段階の目標

○代わりとなる目標

C:後続刺激との関連を考慮

※機能を等価に

<問題行動>

教室からとびだす

<望ましい行動>

着席して課題を行う

問題行動解決支援シート~支援計画の立案へ~

<当面の短期目標>

教えてくださいと言う課題を5問解く

B→C→Aの順に記入します

○少し頑張ればできそうな目標

○前段階の目標

○代わりとなる目標

C:後続刺激との関連を考慮

※機能を等価に

行動の機能を同定します。 ここが,効果的な手立てにつ

なげるためのポイントとなりま

す。 例えば,注目要求での離席に

対して,教師が追いかけてしま

うことは,行動を強化させてし

まうことであると理解できま

す。それに加え,叱られるとい

うことも注目要求であるため,

叱ることも行動を強化させるこ

とになります。

「望ましい行動」へとすぐに

変えていくことは難しいでしょ

う。少し頑張ればできそう,代

わりにできればいいといった

「短期の目標」を具体的に示し,

その短期目標達成のために,考

えられる支援をE,A,B,C

に分けて整理していくことで,

多面的な支援ができるというこ

とになります。

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状況事象・背景要因

(機能とは,コミュニケーション,本人が伝えたいことは何か,望ましい行動には何が賞賛になるか)

(問題行動をなくすよりも,適切な行動を増や

す,同じ結果が得られる本人に可能な代替行

動は?)

直前のきっかけ 問題行動

望ましい行動

短期目標

直後の対応・環境の変化

直後の対応・環境の変化

対応

対応

対応

対応

教室からとびだす 1対1で教えてもら

える/図書室で本を読む/やらなくてすむ

着席して課題を行う

すぐほめる

教室で算数の計算問題を出した

「教えて下さい」

5問解く

家で宿題をやらず母親に怒られる

(できる・わかる課題の工夫,日課の検討,担

当者間の連携,指示の出し方の工夫など)

できる問題の分析・わからないときの反応を

飛び出すことには対応しない。体制を整えて見守る。

「教えてほしい」/ほめられて喜ぶ・シールがたまったら図書室・本がごほうびに?

(安心できる状況づくり,家庭や施設,医療

機関との連携・構造化,日課の工夫など)

家庭との連携を深める。宿題の量の調節

行動支援計画の立案

状況事象・背景要因

(機能とは,コミュニケーション,本人が伝えたいことは何か,望ましい行動には何が賞賛になるか)

(問題行動をなくすよりも,適切な行動を増や

す,同じ結果が得られる本人に可能な代替行

動は?)

直前のきっかけ 問題行動

望ましい行動

短期目標

直後の対応・環境の変化

直後の対応・環境の変化

対応

対応

対応

対応

教室からとびだす 1対1で教えてもら

える/図書室で本を読む/やらなくてすむ

着席して課題を行う

すぐほめる

教室で算数の計算問題を出した

「教えて下さい」

5問解く

家で宿題をやらず母親に怒られる

(できる・わかる課題の工夫,日課の検討,担

当者間の連携,指示の出し方の工夫など)

できる問題の分析・わからないときの反応を

飛び出すことには対応しない。体制を整えて見守る。

「教えてほしい」/ほめられて喜ぶ・シールがたまったら図書室・本がごほうびに?

(安心できる状況づくり,家庭や施設,医療

機関との連携・構造化,日課の工夫など)

家庭との連携を深める。宿題の量の調節

行動支援計画の立案

一見同じように見える行動でも,ABC分析して整理すると行動の機能(意味や目的)がまったく

違うことが分かります。行動の機能が分かれば,自ずと効果的な対策(支援の手立て)が立てること

ができます。 「落ち着きがない」「乱暴」「集中できない」等,抽象的な事柄をあげて対応を考えても,改善は難

しいと思われます。基本は,問題行動を起きにくくするための事前の対応,環境調整が重要となりま

す。「環境との相互作用」を大切にし,児童生徒の問題とするのではなく,我々がどう変わるかという

視点が重要です。 困ったときは,聞き取り項目(別紙)を活用し,自分自身に質問をし,わからない点は改めて観察

をして情報を収集していきましょう。問題行動に振り回されず,冷静に行動を捉え,予防的に対応し

ていくことが大切です。 児童生徒に関わる教員が連携し,案を出し合い,その中から効果的なもの,実行可能なものに絞っ

て指導を進めていきましょう。

短期目標の設定の際に配慮したい点としては,問題行動で得ていた機能と近いものになると,

達成しやすくなることです。例えば,注目要求と課題逃避で離席していた場合,「教えてくださ

い」ということで注目要求の機能に近くなり,「課題を5問でよい」ということで課題逃避の機

能に近づけているということです。

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(3)ABC分析 聞き取り項目(例)

【問題行動の理解】

<B:行動について> ○「問題となっている行動,気にかかる行動は,どんなことですか?例をあげてみてください。」 「具体的にはどんなことですか?」

○「一番困っているもの,もっとも問題であると感じるものはどれですか。」 (優先順位をつけ,標的行動を1,2つ選ぶ)

○「対象とする行動を正確に把握したいと思います。詳しく具体的にどういう行動ですか?」 (観察可能な具体的な言葉で定義する)

○「その行動の程度,頻度,強度,持続時間はどのようですか?」 ○「行動を起こした後,どのようにして元の状態に戻りますか?」

<C:後続刺激について> ○「その行動をすると,どんな対応,結果となりますか?」 ○「現在,またはこれまでに行った指導での様子はいかがですか?」 ○「指導によって,行動はどのように変化していますか?」

<A:先行刺激 E:状況事象について> ○「その行動はどこでよく見られますか?」(場所をあげてもらう) ○「その行動により一番問題となっている場面を話してください。」 ○「その行動が起きる前にどんなことがありますか?(きっかけ)」 ○「その行動に関係していそうなことが,その行動の前にありませんか?」 (指示や注意等の対応,教師や友達とのかかわりなど)

○「その行動は,一日(一週間)の中でもっとも起こりやすい(にくい)のは,いつ頃ですか?」 ○「その行動が,もっとも起こりやすい(にくい)活動は?」 ○「その行動は,誰といる時に起こりやすい(にくい)ですか?」 ○「その行動は,集団場面で起こりやすいですか?」 ○「その行動のきっかけとなる状況は他にありますか?」 ○「その行動に間接的に影響していそうな原因はありますか?」 (例:朝食をとってない,体調不良,家庭でのトラブル,薬の副作用)

<行動の機能について> ○「どうして,その行動を繰り返していると思われますか?」 ○「その行動を維持している理由は,何だと思いますか?」

<具体的な行動目標の設定について> ○「その行動をどの程度改善したいですか?」「どのあたりを当面の目標に設定しますか?」 (具体的に) ○「問題行動にとって代わる望ましい行動や代わりとなる行動を設定しましょう。」

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【支援計画の立案】

<B:行動への手立て> ○「C(結果事象)をどう変えれば,短期目標に設定した行動が身に付いていくでしょうか?」 (強化子の価値を操作)

○「その行動を促すためには,どんな支援が考えられますか。」「まずは,思いつくものを挙げていきまし

ょう。」 ○「もし,問題行動が起きてしまったときは,どう対応しましょうか?」「まずは,思いつくものを挙げて

いきましょう。」

<C:後続刺激への手立て> ○「子どもの長所,得意なこと,好きなことは何ですか?」 ○「子どもが好きな物事,活動,やりたいことは何ですか?」 ○「目標とする行動を強化するためには,どのような対応が考えられますか?」 ○「周囲ができるプラスの対応は何ですか?」

<A:先行刺激 E:状況事象への手立て> ○「その行動の生起に関連しているE(状況事象)について,何をどう変えれば,行動が起きにくくなる

でしょうか?」「まずは,思いつくものを挙げていきましょう。」 ○「その行動がおきにくくするために,A(直前のきかっけ)をどのように変えればいいでしょうか?」「ま

ずは,思いつくものを挙げていきましょう。」 ○「目標とする行動が起きやすくするためには,どのような支援が考えられますか?」

<計画立案に向けて> ○「今後の支援にむけてたくさんのアイディアが出されました。その中から,現在の体制(いつ,誰が・・・)

を踏まえて,実行可能なもの,すぐにできそうなものを選んでいきましょう。」 ○「記録方法はどのようにしますか?」 ○「支援開始後の行動観察は,実施できますか?」 ○「いつ,誰が,どうやって,どれくらいの期間行うか,どんな資源を活用するか等,整理しましょう。」 ○「支援による行動の変化が見られないこともありますが,一定期間支援を継続してください。 その評価が,支援修正に際しての大切な情報となります。支援の継続と観察をできる範囲で行ってみて

ください。」 ○行動の前後,背景等を丁寧に観察し,行動の機能を推測しましょう。多角的な視点から情報を収集する

ことが大切です。 ○「落ち着きがない」等,全般的,抽象的な事柄への対応を考えても改善は難しいですね。特定の場面で

の具体的な行動に焦点をあて,スモールステップで目標を設定し対応を考えていきましょう。誉める場

面が増え,具体的行動の改善が他の場面にもつながっていきます。 ○問題行動をなくすことばかりに目がいくとうまくいきません。問題行動を減らしつつ,望ましい行動や

代わりとなる行動を教えていくことが大切です。 ○このABC分析聞きとり項目(例)を活用し,必要な情報を短時間で整理していきましょう。不明な点

は,その視点で観察を続けましょう。

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9 事例を通じた研修

事例を用いた演習を通して,対応力・指導力の向上を! 体罰に対しては,各学校において,日頃から通知文や新聞等の資料を活用しながら,全

教職員で体罰防止に取り組んでいただいております。 しかしながら,学校現場から体罰がなくならないという厳しい現実があります。教職員

一人一人の心に響く取組を行わないかぎり,体罰を根絶することはできません。 そこで,各学校の実態に応じた「演習を用いた研修事例」を提示いたしますので,この 資料を1つの参考例としていただき,各学校の体罰根絶に向けた教職員の研修に活用願い ます。 そして,この実践が,教職員一人一人の心に響き,「体罰ゼロの信頼される学校づくり」

につながることを願います。

□ 研修の流れ(50分程度) ① 各問に対して,自分自身の考えをまとめる。<5分> ② どんな問題があるか,グループで話し合う。<15分> ③ グループの話し合いで,どのような意見が出たか発表する。<10分> ④ 発表されたなかで,共通すること,重要なことなどを整理する。<10分> ⑤ 問題への対応策・改善策(学校全体・個人)について話し合う。<10分>

□ 討議の視点(例)

○ 体罰に対する校内体制はどうだっただろうか? ○ 体罰を指摘し合う教職員間の関係はどうだっただろうか? ○ 発生した体罰行為の報告に問題はなかっただろうか? ○ 体罰が発覚した場合,どんな対応が必要だろうか? ○ 体罰を未然に防止するためには,何が必要だろうか? □ グループ編成の留意点

○ 年齢や教職員が偏らないようにグループ編成する。 ○ 気の合う仲間だけでのグループ編成にならないようにする。 □ 対応策・改善策の留意点

○ 実践につながるような対応策・改善策をつくること。 ○ 学校全体で取り組む対応策・改善策を作成するときは,教職員の意見がまとまるま

で,繰り返し研修を行うなど時間をかけて行うこと。 ○ 参加していない教職員へも研修の内容や雰囲気を伝え,理解させること。

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(1) 事例を通じた研修Ⅰ・Ⅱ(小学校)

【事例Ⅰ(小学校グループ討議資料)】

小学校4年生のAさんは,登校班で登校中に同じ班で同じクラスのBさんにちょっかいを出

し,班長から注意を受けた。Aさんは,班長から注意されている間,Bさんがくすくす笑って

いるように見えたのでBさんの胸ぐらをつかみ顔を殴った。

学校に着いたとき,泣きながら歩いていたBさんは,担任のC教諭に呼び止められ,泣いて

いる理由を話した。理由を聞いたC教諭は,AさんがBさんを殴ったことを確認し,Bさんに

謝るように話した。しかし,Aさんは素直に聞き入れようとしなかった。

C教諭は一人でAさんを別室に連れて行き「何だ,その態度は。自分が悪いことをしたとは

思わないのか。」と怒鳴りながら,平手で頬を2回叩いた。

その日の夜,C教諭のところへ,Aさんの父親から電話が入った。

【事例Ⅱ(小学校グループ討議資料)】

B男は人との関係を結ぶことが不得意で,自分の思いどおりにならないと奇声をあげ,教室

内を走り回ることもあった。昨年度までの指導の様子について十分な引継ぎはなく,担任のA

教諭は日々の指導に悩んでいた。教頭に相談をしたが,具体的な助言はなかった。

ある日のことであった。「なんだ,その態度は!うるさい,静かにしなさい!」A教諭は興

奮を抑えることができずに,パニックを起こしているB男を頭ごなしに怒鳴りつけた。B男は

ますます泣きじゃくった。そんな担任の言動に,C子は激しく抗議した。「B男はとってもや

さしい子よ。ゆっくり話をしてあげれば,わかるんだから。去年のクラスはうまくいっていた

のに・・・」「お前もうるさい!生意気なことを言うな!先生を比較するのか!」A教諭は,

C子を両手で力いっぱい突き飛ばした。

Q1 それぞれの事例で,なぜ体罰が発生したのか,考えてみましょう。

Q2 事例を自分に置き換えて,どうしたら体罰を防げたのか話し合ってみましょう。

Q3 事例Ⅰ,事例Ⅱの担任について,どのようなことを感じましたか。

◆ 討議の視点

① 体罰に対する校内体制はどうだったろうか?

② 発生した体罰行為の報告体制は問題なかっただろうか?

③ 体罰が発覚した場合,どんな対応が必要だろうか?

④ 体罰を未然に防ぐためには,何が必要だったのだろうか?

<体罰につながる感情>

○ 裏切り ○ 不信感 ○ 空しさ ○ 焦り ○ 思い上がり ○ 怒り

○ 支配欲 ○ 距離感の喪失 ○ 独りよがり ○ 教師のプライド

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(2) 事例を通じた研修Ⅲ・Ⅳ(中学校)

【事例Ⅲ(中学校グループ討議資料)】

A男の属する○○部は,3年連続で県大会に進出するなど,練習が厳しいことで知られ

ていた。A男は中心選手としての活躍を期待されて入部した。彼は,そのことを鼻にかけ

ず黙々と練習に打ち込むタイプであった。

しかし,冬休み明けごろからA男の様子が変わってきた。心配した顧問のB教諭や担任 のC教諭が話を聞いても「べつに」と無表情に答えるだけであった。そのうち,練習を休 むようになった。

そんなある日,B教諭とC教諭は授業離脱を繰り返す上級生のグループと一緒にタバコ を吸っているA男に出くわした。B教諭は驚き,A男を激しく叱った。 「なにをやってるんだ!お前のことを心配しているのに,ふざけるな!」言うよりも早く, B教諭はA男を殴った。 その時,C教諭は,傍観しているだけであった。

【事例Ⅳ(中学校グループ討議資料)】

部活動顧問のD教諭は,日曜日の校中学校体育館での他校との練習試合で,中学校2年

生のEさんのミスが多いことに憤慨し,当該部員を呼び,「気合いが入っていない。ふが

いないプレーをするな。」と怒鳴りつけた。

さらに,その後のプレーも思うようでなかったため,練習試合後にD教諭は体育館通路

にEさんを呼び出し,当該部員の左頬を右手の平手で数回叩いた。D教諭の近くには同部

副顧問のF教諭がおり,Eさんを呼び出して通路に連れて行くD教諭の姿を目撃していた。

2ヶ月後,練習試合の会場にいた者から,県教育委員会に「体罰があった。」との匿名

の電話があり,この体罰が発覚した。

Q1 なぜ,それぞれの事例で体罰が発生したのか,考えてみましょう。

Q2 事例を自分に置き換えて,どうしたら体罰を防げたのか話し合ってみましょう。

Q3 体罰を行った顧問と,それを見ていた副顧問・担任について,どのようなことを

感じましたか。

◆ 討議の視点

① 体罰に対する校内体制はどうだったろうか?

② 体罰を指摘し合う教職員間の関係はどうだったろうか?

③ 発生した体罰行為の報告体制は問題なかっただろうか?

④ 体罰が発覚した場合,どんな対応が必要だろうか?

⑤ 体罰を未然に防ぐためには,何が必要だったのだろうか?

<体罰につながる感情>

○ 裏切り ○ 不信感 ○ 空しさ ○ 焦り ○ 思い上がり ○ 怒り

○ 支配欲 ○ 距離感の喪失 ○ 独りよがり ○ 教師のプライド

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(3) 事例を通じた研修Ⅴ(特別支援学校)

① 研修のねらい

障害のある児童生徒が,自傷行為や他傷行為などの行動上の問題を起こすケースについて,

教職員が体罰を起こすことのないよう,指導の在り方について共通理解する。 どのような行動が問題なのか,何がそのような問題行動を引き起こすのか,そのようなこ

とを避けるためにはどのように対応し,指導体制を改善すればよいかを,研修を通して考え

る。 ② 研修で押さえるポイント

○体罰は許されない行為であるということを再認識すること。 ○児童生徒の気持ちを理解すること ○児童生徒の行動を分析して,適切な指導方法を考えていくこと。 ○計画的に指導を全教職員で進めていくこと。 ○校内の体制整備,保護者との連携等の大切さを知ること。 ○自分の怒りの気持ちをコントロールする方法を学ぶこと。

③ 研修における工夫点

ア テーマを明確に,話し合いの資料を用意する 体罰が起きる原因,体罰がもつ不当性など,研修のテーマを明確に設定し,教員一人一

人の体験談など話し合いのしやすい資料を用意する等の工夫をする。 イ 一人一人が参加できる方法を工夫する

アンケート調査を実施したり,小グループ形式で協議したりするなど,話し合いの方法

を工夫し,体罰について意見を出しやすい研修会にする。 ウ 具体的な事例で,多角的に検討する

体罰の具体的な事例を取り上げ,なぜ体罰に及んだのか,体罰を行わない指導方法はど

うあったらよいのか,どのような責任が追及されたのかなど多角的に検討する。

【事例1】

小学部3年生のAさんは,自分の気に入っている活動(好きな絵本を見る)を中

断させられると,癇癪を起こし,近くにいる人に噛みついたり,爪を立ててつねっ

たりする。

休み時間が終わっても,好きな絵本を見ており,授業への気持ちの切り替えがで

きていなかったことから,絵本を取り上げ,授業を始めることを告げたところ,突

然,左手に噛みついてきた。

「やめなさい」と怒鳴るとともに,右手の手のひらで,児童の頬を叩いた。

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【参考1】体罰をおこさないために

○冷静に対処する。

自傷行為や他傷行為,暴言,指示に従わないなど,教職員もつい怒りの感情をもってし

まいがちである。しかし,怒りの気持ちを児童生徒にぶつけても,児童生徒は行動を改善

することはできない。 ○児童生徒の安全を第一に考える

他傷行為を制止するときは,複数の教職員で対応し,被害の児童生徒との間に入って落

ち着かせる。頭を壁にぶつけるなど危険な自傷行為は,クッション等のやわらかい物を置

くなど,けがを避けるように工夫する。 ○行動を分析する。

児童生徒の気持ちを考え,どのように指導すれば行動上の問題がなくなるか分析し,計

画的に指導する。 児童生徒が行動を起こしたときの状況や,それに至るまでの背景,周囲との関係性の理

解・分析が重要である。行動の理解と分析により,行動の予測がつき,未然防止に役立つ。

また,行動上の問題をなくすための指導方法や指導技術等について,先行事例などを参

考にしながら,個別の指導計画を立てて対応することも有効である。 ○すべての教職員が連携して取り組む(教職員間のコミュニケーションの向上)

学校全体で児童生徒の指導方針を共有化することが大切である。指導方針の共有化によ

り,教職員の連携が図られ,いざというときの協力が得られる。また,児童生徒の混乱を

減少させることができる。 ○専門性の向上

障害の特性や個々の状況に応じた対応ができるよう知識や技術を習得する。 ○人権に対する意識の向上

大切なことを忘れないようお互い確認し合い,常に意識の向上を図る。

【参考2】アンガーマネージメント

自分の中に生じた怒りの対処法を段階的に学ぶ方法です。「きれる」行動に対して「きれ

る前の身体感覚に焦点を当てる」「身体感覚を外在化しコントロールの対象とする」「感情の

コントロールについて会話する」などの段階を踏んで怒りなどの否定的感情をコントロール

可能な形に変えます。 また,呼吸法,動作法などリラックスする方法を学ぶやり方もあります。

(平成22年3月 文部科学省 生徒指導提要 P109)

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(4)事例を通じた研修Ⅵ(高校)

次のような体罰の事例について, どのように指導すればよかったかなど,別の対応方法

を考えてみましょう。

1年生9月の英語の授業中,教室の後方に座っている生徒Bが隣の女子生徒とおしゃべりを

している様子だったので,A教諭は生徒Bに対して,「静かにしろ!」と叱責した。それに対

し,生徒Bは不満顔で,返事もしてこなかった。

A教諭は気を取り直し,板書をして振り返ると,生徒Bが先ほどの女子生徒に微笑みかけて

いて,何かを呟いていた。その直後,A教諭は生徒Bと目があった。A教諭は生徒Bに近づき,

「何がおかしいんだ!」と言い,右手で生徒Bの頭を1回拳骨した。生徒Bは教室を出て行っ

た。A教諭は授業を続け,しばらくしてチャイムが鳴り授業が終わった。

A教諭は帰宅し,家族と夕食をとっていたところ,教頭から電話が入り,生徒Bの保護者が

学校にきて,抗議を申し立てているとのことであった。

○ 生徒の正しくない行為に対し,注意をしたりして改めさせることは必要だが,状況を正確

に把握しているだろうか。

○ 生徒は不満顔で返事もしなかったのには,何か理由があるのではないだろうか。

○ 教師のプライドが許さないのかもしれないが,拳骨をして問題は解決したのだろうか。

○ A教諭は管理職だけでなく,他の職員にも何も話さず,帰宅してしまった。また,保護者

にも,説明していなかった。

○ 生徒に対する理解を含め,状況を正確に把握する必要がある。実際,女子生徒Bはその後

の担任の聞き取りによると,隣の女子生徒に「この話,知ってるよ。」と教科書の題材につ

いて話しかけられ,それに応じていたとのことであった。しかし,頭ごなしに叱られ,隣

の生徒に「ごめんね。」と言われ,「大丈夫。」と微笑みかけているところ,A教諭と目があ

ってしまったとのことだった。

○ 生徒Bだけでなく,日頃からA教諭の一方的な授業方法や指導方法に納得がいかない生徒

が多かったが,今回のことで,保護者も我慢ができず,仕事後に学校に抗議に来たとのこ

とであった。

○ A教諭は状況を勝手に決めてかからずに「どうした?」と余裕を持って対応すれば,その

後の展開も変わっていたかもしれない。また,管理職に報告しなくてはいけない。

A教諭の行為について

職員会議等で出された対応方法

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(5)事例を通じた研修Ⅶ(授業,部活動以外 高校)

2年生4月,始業式終了後に頭髪服装検査を各クラスごとに担任と副担任で実施した。担任

が男子生徒Bに対し,髪を染めてきている様子だったので,注意をしたところ,「隣のクラス

の生徒Cがよくて,なんで俺のことだけ注意するんだ。」と反抗的な態度をとったので,部活

動の顧問でもある副担任のA教諭はその場で2回生徒Bの頬を平手打ちした。A教諭は「直し

て,明日の朝,職員室に見せに来なさい。」と伝えた。

しかし,翌日,生徒Bは欠席で,保護者からの連絡も入っていなかった。担任が昼休みや放

課後に家庭に電話をしたが,応答はなかった。A教諭は部活動の指導後,生徒B宅に電話をす

ると,生徒Bは,「確かに髪を染めたことは悪い。だけど,もっと赤い奴がいるのに俺だけ注

意されるのは理解できない。それを言って殴られるのはもっと分からない。部活も辞めたい。」

と言ってきた。

○ 部活動の顧問として,生徒の反抗的な態度が許せなかった。

○ 生徒のことを日頃から面倒を見てやっているので,信頼関係ができており,体罰という意

識がなかった。

○ 頭髪服装検査の進め方自体に問題がなかったか。

○ なぜ,頭髪服装検査をやるのか,生徒や保護者に理解させるよう努めてきたか。

○ 教師側が生徒と信頼関係ができていると思っても,そうとは限らない。このぐらいは指導

のうちと思っても,生徒や保護者の理解があるとは限らない。 ○ 言わなくても分かっていると過信しすぎると,そのギャップがトラブルの原因となること

がある。 ○ 頭髪服装検査の際,その場で注意をして終わりにするよりも,問題がある生徒をその場に

残し,学年全体でその生徒達に指示をするなど,組織的に指導する方法を模索すべき。

○ 機を捉えて,保護者や生徒に頭髪服装検査が必要な理由を説明し,理解を求める工夫が必

要である。学校としては毎年やっているから,特に説明の必要はないと考えてしまいがち

なことでも,入学してくる生徒や保護者の考え方も同じではないので,理解や協力を求め

ることは大切である。

A教諭の行為について

職員会議等で出された対応方法

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(6)事例を通じた研修Ⅷ(運動部活動)

次のような体罰の事例について, どのように指導すればよかったかなど,別の対応方法

を考えてみましょう。

3年生にとっては最後となる総体を再来週にひかえ,部活動顧問のA教諭は,最終調整のた

め他校と練習試合を組んだ。

その最中に,怠慢なプレーをしてミスが多かった部員がいたため,喝を入れる必要があると

考え試合後呼び出した。そして「ふがいないプレーをするな。3年生にとって最後の総体なん

だぞ。」と怒鳴り,これからグランドを10周走るよう指示を出したところ,不服そうな態度を

見せたため,当該部員の左頬を右手の平手で1回叩いた。

A教諭の近くには同部副顧問のB教諭がいたが,その状況を傍観しているだけであった。

翌日,相手チームの保護者からA教諭の勤める学校に,その様子を知らせる電話が入った。

○ 大会に向けて,目的を持って組んだ練習試合で,十分な成果を得られなかったことが,選

手のふがいなさに結びつけていた。

○ 生徒に対して,試合内容の反省を促すために,ランニングを命じた。

○ 生徒のためを思って,指示したことに対して,反抗的な態度が見られたため,今までの信

頼関係が裏切られたと思った。

○ 練習試合で指導者が考えている意図が,生徒に十分伝わっていたか。事前に,生徒に十

分説明することが必要である。(ミーティングなどでの話し合いなど)

○ ふがいないプレーが見受けられたときに,タイムをとるなどして,生徒に指示する必要

がある。(本人の気持ちを確認する。具体的に指示する。など)

○ ふがいないプレーを行ったことと,ランニングを行わせることとの関連(必要性)を

生徒に納得させることが必要である。(技術面,精神面の改善につながる,納得できるほ

かの方法を検討する。)

A・B 教諭の行為について

顧問会議等で出された対応方法

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10 学校における体罰の実態把握に係る調査について

1 調査結果の内容

○ 体罰件数 122件

(内訳)

学校種(学校数)

体罰

件数

体罰が行われた場面

|

|

市町村立小学校(549校) 17(1) 8 1 3(1) 0 0 3 2

市町村立中学校(232校) 51(2) 6 9 4 27(2) 2 1 2

県立高等学校等(102校) 52(2) 5 9 3 21(2) 6 0 8

県立特別支援学校(21校) 2 2 0 0 0 0 0 0

合計(904校) 122(5) 21 19 10(1) 48(4) 8 4 12

※表中の( )は,内数で第1次報告の件数を示す。

2 調査の概要

(1) 趣旨

児童生徒に対する体罰の実態を把握し,体罰禁止の徹底を図るもの。

(2) 調査対象

公立小・中学校,県立学校におけるすべての教育職員,児童生徒及び保護者

(3) 調査対象期間

ア 第1次報告 平成24年4月から平成25年1月に発生したもの

イ 第2次報告 今回新たに実施した調査の結果把握したもの(6月の最終確認報告数)

※平成24年4月から平成25年3月まで

(4) 調査方法

ア 教育職員,小学校第4学年以上の児童生徒及び保護者 アンケート調査

イ 小学校第1学年から第3学年の児童 聞き取り調査

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<引用・参考文献>

○茨城県教育研修センター特別支援教育課研修資料「LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒

の行動理解と対応 ~ABC 分析を通して~ 」 http://www.center.ibk.ed.jp/contents/kenshuushiryou/tokubetsushien/tokubetsushien.htm

○「応用行動分析で特別支援教育が変わる」山本淳一・池田聡子著.図書文化社.2005 ○「問題行動解決支援ハンドブック」R・E・オニール他著.学苑社.2003 ○「特別支援教育を支える行動コンサルテーション」加藤哲文・大石幸二著.学苑社.2004 ○「発達障がい ABAファーストブック」上村裕章・吉野智富美著.学苑社.2010 ○「生徒指導提要」文部科学省 平成22年3月 ○「体罰禁止の徹底及び体罰に係る実態把握について(依頼)」平成25年1月23日付け24文科初

第1073号

○「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)」平成25年3月13日付け

25文科初第1269号

○ 茨城県教育庁義務教育課リーフレット

「これくらいなら・・・ 行き過ぎた指導・体罰」平成24年1月24日

○ 茨城県教育庁義務教育課リーフレット

校内研修資料「体罰のない学校づくりのための研修を!」平成25年1月23日

○「体罰防止マニュアル」改訂版 大阪府教育委員会 平成19年11月

○「体罰ゼロの学校づくり」宮崎県から体罰をなくそう 宮崎県教育委員会 平成21年10月

<発行>

初版 平成 25年5月 17日 改訂版 平成 25年8月 26 日

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体罰発生時の対応

体罰発生

児童生徒への速やかな誠意ある対応

状況の把握・学校長への報告

被害児童生徒及び保護者への報告・謝罪

関係機関への報告(第一報)

全職員への説明・再発防止の話し合い

児童生徒・保護者への心のケア

・けがの有無の確認 ・保健室での処置 ・専門医の診察 ・他の教職員に協力を求める。

・事故当事者の聞き取り ・事故関係者(事故対応者,目撃者,

保護者等)からの事情聴取 ・他の教職員に協力を求める。

・その場で児童生徒への謝罪 ・複数の教職員の立ち会いのもと,

児童生徒への謝罪 ・保護者へ電話連絡後,家庭訪問し

て謝罪

・教育委員会への報告(事故関係者

等の意見,その後の状況,学校の

対応状況等)

・児童生徒への声かけ ・保護者にその後の状況を聞く。 ・スクールカウンセラーの活用

[体罰防止策]

自分で・・・ 学校で・・・

○ セルフチェックする。 ○ 教職員間での相互チェック

○ 深呼吸・冷静になり対応する。 ○ 職員会議,学年会議,顧問会議での共通理解

○ その場で解決しようとしない。 ○ 職員研修

○ 本人からの報告 ○ 児童生徒,保護者からの相談 ○ 教職員からの報告 ○ アンケート等の調査

関係機関への報告(最終)

・教育委員会への報告(事故の客観

的状況,学校の対応状況等)

・教職員への報告と共通理解 ・学年会での児童生徒の情報の共 有 ・いじめ解消サポーターの活用