社長メッセージ(2009年 3月期...

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「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革 2008 年度(2009 3 月期)の回顧 2008 年度( 2008 4 1 日~ 2009 3 31 日)は、 世界経済にとって激動の一年でした。2006 年度にスター トした中期経営計画の最終年度を迎えた富士電機グルー プもまた、かつてない急激な経営環境の変化に見舞われ、 不本意ながら計画した数値を達成することはできません でした。上期では、民間設備投資に減速感が強まるなか、 鉄鋼などの国内民需が堅調に推移するなど好調な分野も 見受けられましたが、下期に入り米国に端を発する金融 危機の世界中への波及を機に状況が一転しました。この 影響により、まず半導体、ディスク媒体の受注が酷烈な減 少を見せ、その後、インバータやモータといったコンポー ネント品など、プラント品を除くほとんどの事業分野で 深刻な落ち込みを経験することになりました。 このような下期以降の物量の急減を受けて、連結売上 高は前期比16 . 9 % 減の7 , 666 億円となりました。 営業損益は売上減に加え、為替の円高影響などにより、 前期に比べ547 億円の悪化となる188 億円の損失を計上 しました。当期純損益は184 億円の事業構造改革費用の 計上と310 億円の繰延税金資産の取り崩しなどにより、 900 億円の悪化となる733 億円の損失を計上すること となりました。 部門別では、電機システム部門はプラント分野が好調 に推移したものの、事業ポートフォリオ見直しの一環と して実施した水環境事業と情報システム事業の連結範囲 の見直しに伴う減収分に加え、コンポーネント品の市況 悪化による影響を受け、売上高は同16 . 6 % 減の4 , 903 円となりました。営業利益は同131 億円の減となる107 億円となりました。 伊藤 晴夫 富士電機ホールディングス株式会社 代表取締役社長 富士電機グループの進む べき道は決まりました。事業構造改 革により足腰を鍛え上げ、「エネルギー・ 環境」分野への経営資源の集中による事業 ポートフォリオの変革を通じ、同分野での 強固なポジションを獲得していきます。 その先に見据えるのは、循環型社会の 発展への貢献を通じた、長期的な 企業価値の向上です。   社長メッセージ 06

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Page 1: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

「新生富士電機グループ」の創生に向けて-「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

2008年度(2009年3月期)の回顧 2008年度(2008年4月1日~ 2009年3月31日)は、世界経済にとって激動の一年でした。2006年度にスタートした中期経営計画の最終年度を迎えた富士電機グルー

プもまた、かつてない急激な経営環境の変化に見舞われ、

不本意ながら計画した数値を達成することはできません

でした。上期では、民間設備投資に減速感が強まるなか、

鉄鋼などの国内民需が堅調に推移するなど好調な分野も

見受けられましたが、下期に入り米国に端を発する金融

危機の世界中への波及を機に状況が一転しました。この

影響により、まず半導体、ディスク媒体の受注が酷烈な減

少を見せ、その後、インバータやモータといったコンポー

ネント品など、プラント品を除くほとんどの事業分野で

深刻な落ち込みを経験することになりました。

 このような下期以降の物量の急減を受けて、連結売上

高は前期比16.9%減の7,666億円となりました。 営業損益は売上減に加え、為替の円高影響などにより、

前期に比べ547億円の悪化となる188億円の損失を計上しました。当期純損益は184億円の事業構造改革費用の計上と310億円の繰延税金資産の取り崩しなどにより、同900億円の悪化となる733億円の損失を計上することとなりました。

 部門別では、電機システム部門はプラント分野が好調

に推移したものの、事業ポートフォリオ見直しの一環と

して実施した水環境事業と情報システム事業の連結範囲

の見直しに伴う減収分に加え、コンポーネント品の市況

悪化による影響を受け、売上高は同16.6%減の4,903億円となりました。営業利益は同131億円の減となる107億円となりました。

伊藤 晴夫富士電機ホールディングス株式会社代表取締役社長

富士電機グループの進む べき道は決まりました。事業構造改

革により足腰を鍛え上げ、「エネルギー・

環境」分野への経営資源の集中による事業

ポートフォリオの変革を通じ、同分野での

強固なポジションを獲得していきます。 その先に見据えるのは、循環型社会の

発展への貢献を通じた、長期的な

企業価値の向上です。  

社長メッセージ

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Page 2: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

 電子デバイス部門は、下期以降、半導体分野、ディスク

媒体分野ともに鋭角的な落ち込みを示し、売上高は同

23.4%減の1,416億円となりました。営業損益は、需要減に伴う減産影響、価格下落、為替の円高影響などによ

り、310億円の営業損失を計上しました。 リテイルシステム部門も、たばこ自動販売機の成人識

別改作作業の需要終息と下期以降の需要減により売上高

は同14.0%減の1,364億円となり、4億円の営業損失の計上という結果となりました。(部門別業績の詳細なご報告については部門別概況(P22からP37)で取り上げていますので、そちらをご参照ください。)

持続的な発展に向けて富士電機を 「生まれ変わらせる」 事業環境が全方位的に厳しさを増すなか、当社グルー

プはキャッシュ・フローの確保を柱とする緊急対策を打

ち出しました。人的経費の削減や、研究開発費、設備投資

額の減額などにより2008年度当初計画に比べ総額約

300億円の総経費を緊急的に圧縮するとともに、工場の一時帰休や操業停止等により同約160億円のたな卸資産

を圧縮しました。加えて、収益が悪化しているディスク媒

体事業や半導体事業、ドライブ事業などにおいて、184億円を投じ拠点再編や海外生産シフトの加速、機種統廃

合等の抜本的な構造改革を推し進めました。

 しかし、総経費の圧縮は、市場環境の変化が想定を上

回るスピードで進んだことから、いまだ十分ではないと

考えています。また、今後数年間は不透明な経営環境が

続くことも覚悟せねばならず、2008年度に実施した施策を継続・強化し、市況変動への耐性を、今以上に高めて

いくことが不可欠です。

 加えて、富士電機グループの企業価値を持続的に向上

させていくためには、中長期的かつ広い視点で市場環境

の変化を捉えるとともに、自身の強みを今一度見つめ直

し、経営リソースを競争優位が発揮できる市場に集中し

ていくことが必要だと考えました。

 次ページ以降、私たちが足元の厳しい状況をいかに克

服していこうとしているのか、そしてその先にどのよう

な「新生富士電機グループ」を描き、それをどのように実

現していこうとしているのかをご説明していきます。

連結決算概要 (単位:億円)

2007年度実績 2008年度実績 増減(対前期)

売上高 9,221 7,666 –1,555

営業利益 358 –188 –547

経常利益 358 –207 –565

税金等調整前当期純利益 305 –466 –771

当期純利益 167 –733 –900

8,561

2003年度

8,4428,972 9,080 9,221

7,666

10,000

2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 中期経営計画2008年度目標

2008年度

億円 %

売上高(左軸) 営業利益率(右軸)

売上高・営業利益率の推移

2.03.2

4.6 5.13.9

−2.5

7.0

2003年10月純粋持株会社制へ移行

0

2,500

5,000

7,500

10,000

0

4

8

12

–4

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Page 3: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

2010年度の黒字化を目指し、総経費の圧縮、財務体質の

強化を一段と推し進めるとともに、

事業構造改革を完遂させます。

2010年度の黒字化達成を目指し 事業構造改革を完遂

 2009年度は、主要各国の大型経済対策による景気浮揚効果が期待されていますが、世界経済の冷え込みは当

面続く公算が大きいと考えています。そのため、2009年度の連結業績予想としては、売上高が2008年度比

10.0%減となる6,900億円、営業損失は120億円、経常損失170億円、当期純損失170億円を見込んでいます。 これに対し、当社グループは、2010年度の黒字化を目指し、前期に着手した収益構造の再構築を一段と推し進

め、需要が低迷するなかでも利益を確実に創出できる収

益体質へと鍛え上げていきます。

 まず、2009年度を「事業構造改革の仕上げの年」と位置付け、2008年度より着手したディスク媒体事業や半導体事業、ドライブ事業などの構造改革を完遂する考えです。

そして、そのための一時的費用を2008年度と2009年度に集中的に投入する方針です。具体的には、2009年度には70億円を構造改革費用として投入し、これに2008年度の184億円を加えた254億円が事業構造改革の遂行のために投じる費用ということになります。これに加えて、

賃金の見直しや人員の再配置、工場の一時帰休・操業調

整等により人的経費を2008年度に比べ10%程度削減し

ていくほか、設備投資額、研究開発費などあらゆる分野

で聖域を設けずに総経費の圧縮に取り組んでいきます。

構造改革と総経費の圧縮により2008年度に比べ430億円の経費圧縮を見込んでおり、これに原価低減などによ

るコスト削減効果270億円を加えた700億円が、2008年度と2009年度の総合的な経費の圧縮により期待している効果です。

収益基盤の再構築

社長メッセージ:「新生富士電機グループ」の創生に向けて

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 以上の取り組みにより、2008年度の損益分岐点売上高8,090億円を2009年度には7,190億円、2010年度には6,800億円にまで引き下げていき、2010年度の黒字化に繋げていく考えです。

損益分岐点の引き下げにより収益体質を強化 連結ベースでの損益分岐点売上高の引き下げのカギを

握るのは、市況変動による影響を大きく受けるディスク

媒体事業や半導体事業、コモディティ化の進展により

コンポーネント品で継続的な価格下落圧力にさらされて

いる器具事業やドライブ事業、オートメーション事業の再

建です。人的経費を含めた総経費圧縮のほか、生産拠点

の集約や海外への生産シフトの加速、不採算機種の撤退

などにより、損益分岐点を引き下げていくことで、市況

が大きく変動するなかでも利益を出すことができる体質

へと改革を進めていきます。

 ディスク媒体事業は、すでに完了した国内の開発・生産

拠点の集約に加え、2009年度中に国内からマレーシアへの生産シフトを進めるなど海外生産比率を2008年度の50%から75%へと高めていくことで、2009年度第4

四半期の損益分岐点売上高を2008年度第4四半期の

75%にまで引き下げていく方針です。これらの取り組み

により、2010年度には損益ゼロの水準まで改善していきたいと考えています。

 半導体事業では、不採算事業であるPDPドライバ IC

からの撤退をすでに完了しました。2009年度には、国内拠点を4拠点から2拠点に集約を進めるとともに、マレーシア、フィリピンへの生産シフトを推し進めていくこと

で、損益分岐点売上高を2008年度第4四半期比73%の

水準に引き下げていきます。

 器具事業ではさらなる構造改革を推進し、同88%の損

益分岐点売上高を目指します。国内生産拠点の再編と中国

への生産シフトを推進していくことで、これを実現する計

画です。

 ドライブ事業およびオートメーション事業については、

汎用品の中国への生産シフトを加速するとともに、不採

算機種からの撤退にも取り組みます。これらの施策によ

り両事業ともに同72%の水準にまで損益分岐点売上高

を引き下げていく方針です。

期待効果

重点施策

0

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

10,000

・事業構造改革の完遂

・総経費の徹底圧縮

・財務体質の強化

構造改革費用 2009年度の期待効果

構造改革+総経費圧縮

コスト削減等

430億円

270億円

700億円2年間の合計 合計

収益基盤の再構築 ~損益分岐点の引き下げ~

9,221

8,480

2007年度 2008年度 2009年度(見通し)

2010年度(狙い)

7,666

8,090

6,900

黒字回復

7,1906,800

2008年度実績

184億円

億円

売上高

売上高に依存しない収益体質を実現損益分岐点売上高

2009年度計画

70億円

254億円

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Page 5: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

 既述の総経費圧縮とこの事業構造改革については可能

な限り前倒しで施策を進めています。2009年度の上期中には、計画に目処をつけ、2010年度の黒字化に向けた道筋を確かなものとしていきたいと考えています。

フリー・キャッシュ・フローの確保など 財務体質を強化

 金融市場の混乱は収束の兆しを見せてはいますが、不

測の事態に備えるための流動性の確保は重要課題である

と認識しています。また今後、事業構造改革や事業ポー

トフォリオの変革を進めていく過程では、そのための資

金も確保する必要があります。そのためフリー・キャッ

シュ・フローの確保を経営上の最大の課題に位置付け、

先に述べました総経費の圧縮に取り組むとともに、間接

市場からの調達も必要に応じて実施していきます。

 設備投資額を2008年度に比べ40%減額となる199億円とし、研究開発費も同21%減となる239億円を計画しています。グループの経営戦略上、重要性の高い領域に

的を絞り、内容を厳選しながら投資を実行していきます。

 また、グループ全体でサプライチェーン改革を推し進

め、たな卸資産の圧縮や売上債権の早期回収の促進にも

取り組むとともに、土地や投資有価証券などの資産売却

等も視野に入れながら、将来の投資に関する柔軟性を堅

持していく方針です。

事業構造改革の内容と進捗

事業構造改革の内容 損益分岐点2009年度第4四半期目標*

ディスク媒体 • 国内からマレーシアへの生産シフト(海外比率50%→75%)• 国内開発・生産拠点の集約  完了 75%

半導体 • 国内からマレーシア、フィリピンへの生産シフト (海外比率 前工程0%→20%、後工程20%→60%)• 国内拠点を4→2拠点に集約• PDPドライバ ICの撤退  完了

73%

器具 • 国内生産拠点の再編および中国への生産シフト 88%

ドライブ • 汎用品の中国への生産シフト加速(モータ、インバータ)• 不採算機種の撤退

72%対象はコンポーネント

オートメーション • 国内生産拠点の集約および中国への生産シフト• 不採算機種の撤退

72%対象はコンポーネント

*2008年度第4四半期を100とする

0

100

200

300

400

0

200

400

600

800

325312 303

239

714752

334

199

2006年度 2007年度 2008年度 2009年度(見通し)

研究開発費億円

2006年度 2007年度 2008年度 2009年度(見通し)

設備投資額億円

社長メッセージ:「新生富士電機グループ」の創生に向けて

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Page 6: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

「エネルギー・環境」に経営資源を集中 これまでお話ししてきた収益基盤の再構築と並行し、

富士電機グループが中長期的に確かな成長軌道を描いて

いくための事業ポートフォリオの抜本的な変革も推進し

ていきます。具体的な取り組みの方針をご説明する前に、

近年の当社グループが抱えてきた課題と経営戦略の策定

に至った背景をご説明します。

 富士電機グループは、各事業会社の自己責任経営の

実現や、意思決定の迅速化を目的として、2003年10月より純粋持株会社制を導入しています。以来、「業界最

強の専業」の有機的集合体を目指し、各事業会社が得意

分野への積極投資により事業を拡大・成長させてきまし

た。これにより、損益責任が明確化し、また、戦略展開の

スピードも向上したことで、個別では競争力の向上と

いう成果に結びつけることができました(業績の推移

はP7をご参照ください)。その一方、事業会社間での

人的交流の停滞や横の連携の不足などにより十分な

シナジーを創出できないという課題や、マーケットが

変貌を遂げるなかでグループ全体が迅速にその変化に対

応できないという課題が、急速な市況悪化を受け浮き彫

りとなってきました。そのため、2008年6月に、中核事業会社の社長が持株会社の取締役を兼務する経営体制

へと移行し、グループの求心力をこれまで以上に高め、

グループが一丸となって戦う領域を定めて、その領域へ

大きく舵を切ることとしたのです。

 そして、富士電機グループが、総力を結集することで

自身のポテンシャルを最大限に発揮できる領域として狙

いを定めた分野が「エネルギー・環境」です。

 「エネルギー・環境」問題は、人類共通の課題であり、

国際社会が英知を結集し、その解決に向けて動き出して

います。主要各国の「グリーン・ニューディール」などの政

策的な後押しにより、再生可能エネルギー産業をはじめ、

グループの求心力を高め、

「電気を自在にあやつる技術」で

優位性を発揮できる

「エネルギー・環境」の領域を

一丸となって攻めていきます。

事業ポートフォリオの変革

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Page 7: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

「エネルギー・環境」に関する巨大なマーケットの形成が

期待されています。

 当社グループは、長年にわたり、供給サイドでは発電プ

ラント事業、需要サイドではモータ、インバータ、半導体

といった、最小のエネルギー消費で最高の効率を追求す

る製品を提供してきました。その間、蓄積してきたパワー

エレクトロニクス技術を中核に据え、半導体技術や回路

技術、制御技術といったコア技術―「電気を自在にあや

つる技術」―を融合すれば、当社グループのこの分野にお

ける可能性は大きく拡がっていくものと確信しています。

複数の事業会社を束ね システム・ソリューションを提供

 多くのプレイヤーが参入してきており、競争激化が予想

される「エネルギー・環境」の分野において、マーケットが

求めるのはコンポーネント品の商品提供ではなく製品を

複合的に組みあわせ、顧客ニーズに対応した製品・サービ

スをワンストップで提供することのできるシステム・ソ

リューション力です。当社グループのように太陽光発電や

地熱発電などの「エネルギー供給(創エネルギー)」や、

インバータや半導体などの「省エネルギー」に資する製品

を一元的にシステム化し、「エネルギー・環境」のニーズに

応えることができる企業はそう多くはありません。この

ような考えに基づき、富士電機グループは、各部門が個別

に市場攻略を進めていくのではなく、複数の事業会社の

リソースを融合し、一体的に「システム・ソリューション」

を提供する事業推進体制へと変えていくこととしました。

電機システム部門と半導体事業の統合 当社グループの電機システム部門のコンポーネント品

やプラント・システム品は、消費電力の効率化や環境負荷

低減の面では高い競争力を誇っています。また、独自の

フィルム型アモルファスシリコン太陽電池モジュールと

パワーコンディショナを活用した太陽光発電システムな

ど、新エネルギー分野でも大きなポテンシャルを有して

います。これらに高効率・低損失の電力変換を得意とす

る当社グループのパワー半導体を組みあわせ、コンポー

ネントとシステムの一層の高効率化、省エネ化を実現す

るシステム・ソリューションを提供していきます。

 事業を推進していくに当たり、2009年10月1日付で、コンポーネント品を中心とした事業展開を行ってきた

富士電機デバイステクノロジー(株)の半導体事業を、電

機システム部門に統合することとしました。この統合に

より、太陽光発電や風力発電などの新エネルギー、鉄道

などの社会インフラ向け市場でシナジーを活かした事業

展開を行っていくとともに、電力消費量を削減し、環境負

荷低減を実現する「グリーン IDC(インターネット・データ

センター)」や、次世代電力網「スマートグリッド」といった

今後の需要拡大が見込まれるグリーン市場での事業拡大

を図っていく考えです。

「エネルギー・環境」を軸とする事業にリソースを集中注力事業

成長環境ソリューション

発電プラント 産業プラント 自販機

ドライブ&オートメーション 半導体

新エネルギー 太陽光発電システム 地熱発電

半導体を活用しシステム化

*持分法適用

安定

ディスク媒体再建事業

器具 水環境*協業強化

事業ポートフォリオ変革

社長メッセージ:「新生富士電機グループ」の創生に向けて

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Page 8: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

経営課題

経営のスピード化とグループ経営

ガバナンス強化

持株会社の求心力強化

グループ構造改革

媒体事業の直接ガバナンス•専業会社化  •収益力再建&競争力維持をスピーディーに実行•グループ視点での戦略強化

●■は、構造改革がどのような経営課題に対する取り組みであるのかを示しています。

電機システム部門と半導体事業の統合•コンポーネントからシステム・ソリューションまで一体化•成長事業(エネルギー・環境)に集中

営業の構造改革•顧客ニーズに対応した製品・サービスのワンストップ提供•営業リソースの集約により戦略の徹底

研究開発体制改革•持株会社に研究開発機能を統合•顧客視点の事業展開に即したグループ研究開発の推進•グループシナジーと効率的研究開発の実現

サプライチェーン改革•全体プロセスの見える化(たな卸資産の大幅圧縮)

マーケット視点での経営

ソリューションビジネスへ注力

エネルギー・環境へ注力

リスクマネジメント

経営の見える化の徹底

再建事業の取り組み強化

最適な事業推進体制への変革

事業戦略と整合性のとれた営業・研究開発体制への改革 ソリューション型への事業構造の転換にあわせ、顧客

ニーズを起点としたソリューション営業を推進するため

に抜本的に構造を変えていきます。

 2009年7月1日付で、富士電機デバイステクノロジー(株)の半導体営業部門、販売子会社である富士電機イー・

アイ・シー(株)、西日本富士電機(株)、中部富士電機(株)、

九州富士電機(株)、そして東北富士電機(株)の5社を

富士電機システムズ(株)に統合しました。その目的は、

第一に、営業リソースを「エネルギー・環境」分野に傾注し、

顧客視点で戦略を徹底していくことにあります。

 第二に、エンジニアリング部門と営業部門を一体化する

ことにより、当社グループが推進するシステム・ソリュー

ション展開との組織的な整合性をとることも目的として

います。

 さらに、マーケットと経営との距離を縮めることで、営

業・生産・調達・開発など、マーケットの変化にすべての事

業活動が連動するサプライチェーンを構築することも狙

いとしています。

 加えて、研究開発体制にもメスを入れます。基礎研究

や新製品・新事業の開発やグループ共通のコア技術の開

発を独立事業会社として行っている富士電機アドバンス

トテクノロジー(株)を2009年10月1日付で持株会社に

統合する予定です。グループ経営戦略と技術戦略の一体

化による、研究から事業化までのスピードアップがその

目的です。

ディスク媒体事業の再建に向けた直接ガバナンス 2008年度に急激に収益が悪化したディスク媒体事業については、収益力の向上をグループの経営課題と位置

付け、再建に向けて全力で当たっていく考えです。同事

業は非常に市場環境の変化が激しく、技術革新のスピー

ドが速いという事業特性を有しているため、オペレー

ションと技術開発の迅速性が求められます。そのため、

2009年10月1日付で専業会社体制とし、私が同社の社長を兼任することで、グループ全体の視点から強いリー

ダーシップを持って戦略的な意思決定をスピーディーに

行っていく考えです。

「攻める」領域 創業以来、「エネルギー・環境」分野において極めて特色

のある事業を展開してきた富士電機グループには技術力

を背景とした先行優位性があります。そのため、これまで

の事業内容に連続性を持たせながら環境対応製品のス

トックを拡充していくことで、新たな需要を獲得してい

きたいと考えています。以降、具体的な戦略領域のいくつ

かをご説明します。

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Page 9: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

新エネルギー(地熱発電、太陽光発電) 循環型社会の実現に向けて、化石燃料の代替エネル

ギーとしてCO2の排出量が極めて少ない自然エネルギー

を利用した新エネルギーの市場拡大が期待されています。

 1927年の発電事業の開始以降、高い技術力により電力・エネルギーの安定供給に貢献してきた当社グループ

は、1960年、蒸気タービンの製造により地熱発電事業に参入、反動式のタービン翼や、耐腐食技術といった他を圧

倒する技術力を強みに、過去10年以上にわたり継続的にトップクラスのシェアを獲得しています。

 エンジニアリング機能の強化や耐腐食性、発電効率等

の技術開発の強化によりさらに事業を拡大していき、現

在約40%の世界シェアを50%へと拡大していきたいと

考えています。ターゲット市場としては、政府助成により

再生可能エネルギー産業の育成を積極的に進めている米

国をはじめ、インドネシア、フィリピン、ニュージーランド、

エルサルバドルといった受注実績がある国を重点市場と

定めていきます。また、火山帯が多い地域には大きな潜

在需要が見込め、これらの地域での新規受注も目指し、

営業活動を強化していきます。

 太陽光発電も同様に各国政府の助成に後押しされ急

拡大している市場であり、2015年の市場は4兆円規模

に拡大するとも予想されています。結晶系太陽電池

が主流のなか、当社グループは2006年に量産を開始した独自のフィルム型アモルファスシリコン太陽電池で、

事業の成長を図っていく方針です。当社グループの太陽

電池は、「軽い、曲がる、薄い」という特長を有している

ため、結晶系が設置できない場所にも設置が可能です。

つまり、極めて広範な分野でアプリケーションの開拓が

可能なのです。当社グループのパワー半導体を搭載した

高効率のパワーコンディショナと組みあわせることで、

幅広い領域でトータルソリューションの提供を進めてい

く考えです。

グリーン IDC、スマートグリッド 現在、インターネットの接続やサーバー運用を行う施

設であり常に大量の電力を使用する IDCの省電力化

「グリーン IDC」に対する需要が拡大しています。高効率

UPS(無停電電源装置)やモールド変圧器で業界トップク

ラスのシェアを有し、産業インフラ向け監視・制御システ

ムで省エネに関するソリューションを長年にわたり提供

してきた当社グループがまさに得意とするところです。

 また、次世代電力網「スマートグリッド」に対する需

要拡大も当社グループにとって大きな商機になります。

FHC富士電機ホールディングス

FES富士電機システムズ FES

FDT富士電機デバイステクノロジー

半導体

半導体

ディスク媒体

ディスク媒体

FDTFCS富士電機機器制御

FCSFRS富士電機リテイルシステムズ

FRS

統合(09/7/1)

事業統合(09/10/1)営業統合(09/7/1)

専業会社化(09/10/1)

統合(09/10/1)FAT富士電機アドバンストテクノロジー

旧体制(2009年3月末)

FHC+FAT

直接ガバナンス

新体制(2009年10月1日)

新事業推進体制(概念図)

販社

販社

販社

事業シナジー追求

社長メッセージ:「新生富士電機グループ」の創生に向けて

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Page 10: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

センサや系統連系などのコア技術や電力の需給をコント

ロールするシステム、同時同量技術などを駆使し、国家規

模でプロジェクトを推進する米国市場を中心に展開して

いく方針です。

輸送ソリューション 省電力化・環境負荷低減という観点では、社会インフ

ラの領域でビジネス機会が期待できます。新幹線などの

車両向け、船舶向けのインバータやモータ、IGBTなどの

パワー半導体を活用した高効率輸送システムの提供など

はその一例です。

 特に、パワー半導体は、インバータ向けなど、産業用IGBT

で世界トップクラスのシェアを確保する地位にあります。

今後、IGBTは「エネルギー・環境」に関する事業分野へと

製品ポートフォリオを大きくシフトしていき、同分野での

強固なプレゼンスを確立していきたいと考えています。

 そのなかでも、特に IGBTで強みを発揮するのは、ハイ

ブリッド車や電気自動車の領域であり、今後、当社グルー

プにとって、大きなビジネスチャンスになることは間違

いありません。高度なデバイス技術や量産化技術などを

差別化要素にそのチャンスを確実に掴んでいく考えです。

環境対応型自動販売機 当社グループが国内で50%という圧倒的なトップシェ

アを有する自動販売機では、スタンダード機に比べ約

41%(当社2009年モデル)もの消費電力削減を実現した超省エネ性能のヒートポンプ方式の缶自動販売機を提

供するなど環境対応を進めています。今後は、環境対応

技術の向上とさらなる拡販に取り組むことで2009年度には環境対応機の販売台数構成比を60%に引き上げ、

2011年度には90%を目標に定めています。

独自のソリューション展開により「エネルギー・環境」で強いポジションを構築

コア技術の融合 シナジー例

パワーコンディショナ

太陽電池セル

システム・ソリューション展開

狙う市場

新エネルギー

グリーン IDC

スマートグリッド

輸送ソリューション

社会・産業インフラ

系統連系

半導体

電源

車両・船舶

インバータ モータ

工業電熱

インバータ

IT、計測 冷却、保護

半導体

半導体

半導体

パワーエレクトロニクス

電気を自在にあやつる技術

エネルギー

環境

半導体

回路

制御

事業シナジーのイメージ

用語集

・ パワーコンディショナ:発電された電力(直流)を家庭やビルなどで使える電力(交流)に変換する装置。

・ IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistorの略語。絶縁ゲートバイポーラトランジスタ。大電力の高速スイッチングが可能な半導体素子。

・ スマートグリッド:分散型エネルギー源と集中型エネルギー源を効率的に管理・供給する次世代電力網。

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Page 11: 社長メッセージ(2009年 3月期 アニュアルレポート)「新生富士電機グループ」の創生に向けて -「エネルギー・環境」を軸とした事業ポートフォリオの変革

株主還元と資本政策 当社グループは、事業活動により得られた利益につい

ては、安定的かつ継続的に剰余金の配当を実施すること

とし、さらに株主資本の充実を図ったうえで、研究開発、

設備投資など中長期的な企業価値向上のための投資に向

けた内部留保の確保を図ることとしています。

 2008年度については、上期の営業損益は電子デバイス部門を中心として前年同期に比べ大幅に悪化しました

が、繰越利益剰余金の状況等を考慮し、1株につき4円の中間配当を実施しました。しかしながら、下期に入り世

界的な需要後退の影響を受け、下期の6ヶ月間で当期純損失625億円の計上を余儀なくされたことにより、株主資本は上期末に比べ654億円減の1,220億円と大幅に減少しました。この状況に鑑み、株主資本の早期回復を資

本政策上の最優先事項と位置付け、遺憾ながら期末配当

は見送らせていただきました。

 この結果、年間配当額としては中間配当のみの4円となりました。2009年度の配当額については、不透明な経営環境に鑑み、現時点では未定とさせていただきます。

 これまでご説明しました事業構造改革を着実に推し進

め、2010年度の黒字化を確実に実現することで、早期に復配を実現し、株主の皆様のご期待にお応えしていきた

いと考えています。

循環型社会の発展に貢献し 長期的な企業価値向上を実現

 これまでも「エネルギー・環境」に対して極めて特色の

ある事業を展開してきた富士電機グループ。そのポテン

シャル、すなわち「電気を自在にあやつる技術」を駆使し、

「エネルギー・環境」分野で強固なプレゼンスを確立し、

事業を通じて循環型社会の発展に貢献できる企業になる

こと。これが、グループが目指すべきものであり、長期的

な企業価値の向上に向けた道筋だと考えています。

 目指すゴールに向けて、私は富士電機グループを不断

の決意で「生まれ変わらせる」所存です。ステークホルダー

の皆様には、引き続きご支援のほどよろしくお願い申し

上げます。

2009年7月

富士電機ホールディングス株式会社

代表取締役社長

長期的な企業価値向上を目指して

社長メッセージ:「新生富士電機グループ」の創生に向けて

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