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理解と支援の最前線(1) 広島修道大学/東京大学大学院教育学研究科 黒田美保

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Page 1: 理解と支援の最前線(1)...理解と支援の最前線(1) 広島修道大学/東京大学大学院教育学研究科 黒田美保 発達障害の人の行動の特徴を知る

理解と支援の最前線(1)

広島修道大学/東京大学大学院教育学研究科

黒田美保

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発達障害の人の行動の特徴を知る

発達障害の人のものの考え方の特徴を知る

➢ もののとらえ方や考え方を知ることで,行動を予測でき,有効な支援を行うことができる

発達障害といっても、人それぞれ。個人の行動や考え方の個人の特徴を把握するために、きちんとアセスメントを行う

個人のアセスメントの結果を踏まえ,支援を考える

発達障害を理解し支援するためには何が必要か

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発達障害に特化したアセスメント・ツール自閉スペクトラム症

3

2次スクリーニングSCQ

診断・評価ADI-R(自閉症診断面接改訂版)&ADOS-2

1次スクリーニングM-CHAT

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注意欠如・多動症

子ども 成人

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生活全体の適応を調べる:Vineland-II適応行動尺度

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領域 下位領域

コミュニケーション領域

受容言語

表出言語

読み書き

日常生活スキル領域

身辺自立

家事

地域生活

社会性領域

対人関係

遊びと余暇

コーピングスキル

運動スキル領域粗大運動

微細運動

不適応行動内在化問題

外在化問題

その他

不適応行動重要事項

3歳〜

1歳〜

〜6歳, 50歳~

オプション3歳~

1歳〜

1歳〜

適応行動総合点

不適応行動指標

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なぜWISCやWAISだけでは、だめなのか?

全体的な知的水準、知的な部分の認知プロフィールがわかる。

検査結果からは、発達障害かどうかはわからない。 日常生活の適応もわからない。

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発達障害(自閉スペクトラム症)に共通するプロフィールを見いだそうとした研究

(Bartak&Rutter.,1976 Ohta,1987等)

VIQ<PIQ

言語性検査:

数唱>理解

動作性検査:

積木模様/組合せ>絵画配列/符号

FIQ>100ではVIQ>PIQの傾向,下位検査の特徴にも多様性がある(Siegel,1996)

高機能になるほど特異的プロフィールは認められなくなる(太田ら,1998)

アスペルガー症候群ではVIQ>PIQが50%,高機能自閉症では35%(Ozonoff,2000)

自閉症スペクトラム特定のプロフィールはない

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発達障害(自閉スペクトラム症)の早期発見! 米国では・・・

-Combating Autism Act(2006)

-アメリカ小児医学会(AAP)による早期スクリーニング(18-24ヵ月)の推奨(2006)

日本では・・・

-既存の乳幼児健診(18ヵ月、24ヵ月)システムおよびフォロー体制の活用 ⇒事後の保育所フォローを含む地域ネットワークの活用も考えていく

-“診断前支援”の考え方(発達障害施策の推進に係る検討会報告

書, 2008)

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社会性発達評価装置(Gazefinder:ゲイズファインダー):かおテレビ

日本独自に開発された装置で、子どもが約2分画面を見ることで、社会性発達を評価できる。

1歳6か月健診で、自閉スペクトラム症の可能性のある子どもをスクリーニングできる。

客観的指標であり、

効果が実証されている。

協同開発大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 研究科長大阪大学大学院 教授 片山 泰一 氏浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 特任准教授 土屋 賢治 氏

JVCKENWOOD

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支援の第一歩がアセスメント

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違いを認め,尊重する

➢ 目標は定型発達になることではない

➢ 発達障害と定型発達は,相互に歩み寄ることが重要

➢ 実生活に困らない具体的な工夫についてのアドバイスが重要

➢ ヘルプを求めるスキルを身につける,キーパーソンを作る

支援のために

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Structure(構造化):ASDの人の認知特性を踏まえ,理解しやすく環境を構造化

Positive(approaches and expectations)(肯定的):肯定的で適切な対応や期待

Empathy(共感):ASDのある人たちの視点にたって世界を見,歩み寄っていく

Low arousal(穏やか):対応や環境は穏やで,ストレスになる感覚刺激を統制する

Links(連携):家庭,コミュニティー,多機関など生活のすべての領域の連携

イギリス自閉症協会が推奨するASDへの支援の基本:SPELL

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発達障害の支援の種類

医学的支援(薬物療法)

社会福祉的支援(就労・家庭・地域)

家族への心理的介入

教育的支援

発達障害のある成人・子どもへの心理的介入

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包括型

•構造化(TEACCH)

•応用行動分析(ABA: Applied behavior Analysis)➢DTT(Discrete Trial Training)

➢PRT(Pivotal Response Training)

➢ESDM(Early Start Denver Model )

標的スキル獲得型

• PECS(Picture Exchange Communication System)

• ソーシャル・スキル・トレーニング

•認知行動療法:感情制御(不安や怒り)

• JASPER(Joint Attention, Symbolic Play, Engagement, and Regulation)

• Social Thinking

• PEERSプログラム

• ペアレント・トレーニング

エビデンス・ベイスト・プラクティス:効果の実証された心理的介入法

(Lai M-C, et al., 2014を改変)

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今後の支援の方向性:コミュニティー・ベイスト・プラクティス

• 医療機関や大学の研究室などコミュニティーを離れた施設で、療育をやっていてもなかなか汎化しない

• コミュニティーでの療育が求められている。

-大学と連携したコミュニティーの療育施設など

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コミュニティー・ベイスト・プラクティスの例:ペアレントプログラム

• ペアレント・トレーニング(ペアトレ)

応用行動分析(ABA)を基本に,目標行動の設定,行動の機能分析,環境調整や子どもへの肯定的な働きかけを習得していく支援技法

ペアレント・プログラム(ペアプロ)ペアトレの入門編「行動で考える/行動で見る」ことに特化し,保護者の認知的な枠組の修正を目指したプログラム

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0 1 3 5 保育園 小学校 中学校 高校・成人・・・

ペアプロ

学校での支援

引きこも

りへの支援

ペアプロペアトレ

ペアトレ

ペアトレ

・保健センター・子どもセンター・発達支援センター・学校

・特別支援校

目指すは全年齢対応で

生涯発達支援!

ペアプロの主な対象は,小さい子を持つ母親。

乳幼児期における子育てのコツを学ぶ。

健診フォロー・就園前支援・園での支援

ペアプロ

ペアプロ

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ペアプロの3本柱1.「行動」で考える

現状把握表の作成:行動でみる習慣をつける

2.できたことをほめて対応する

叱って適切な行動を身につけるのは困難:ほめることで適切な行動を身に着けさせることを学ぶ、いろいろなほめ方の学ぶ

3.お母さんの子育て仲間をみつける

母親が一人で抱え込んでしまいやすい

「私だけじゃないんだ!」という確認

*子育て支援枠で行える親支援

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ペアレント・プログラムの様子

日本経済新聞社提供

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コミュニティー・ベースト・プラクティスの例:JASPER プログラム

• Joint Attention, Symbolic Play,

Engagement, & Regulation

• Joint Attention: 共同注意

Symbolic Play: 象徴遊び

Engagement:関わり

Regulation:感情調整

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JASPERの概要• 自然な発達的行動介入(Naturalistic

developmental behavioral intervention:NDBI)といわれる方法で、遊びという自然な状況で子どもの発達を促していく

• UCLA(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)のConnie Kasari教授らが開発

• コミュニティーベースのプログラム:ー保育園(preschool)で保育士によるアセスメントと介入実施ー家庭での親による実施

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入口

園庭

TEACCHの構造化の中にJASPERを取り入れている

自立課題 JASPER

クールダウン

お集まり

プリスクール:発達障害の子どものクラス

感覚遊び

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まとめ:日本の発達障害支援の問題点

• 発達障害の正しいアセスメントができるところが非常に少ない:アセスメントが周知されていない

• 就学前の子どもに対して、地域の療育はある:しかし、

エビデンス・ベイスト・プラクティスではない

• 発達段階に応じた連続性のある支援が乏しい:特に機能の高い小学生以上(成人まで)の支援が乏しい 24