周年放牧草地における追播ギニアグラス(panicum...

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周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum maximum Jacq.)の生育を向上させる前作イタリアンライグラ ス(Lolium multiflorum Lam.)品種の選定 誌名 誌名 日本草地学会誌 ISSN ISSN 04475933 巻/号 巻/号 543 掲載ページ 掲載ページ p. 211-216 発行年月 発行年月 2008年10月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: 周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum …周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum maximum Jacq.)の生育を向上させる前作イタリアンライグラ

周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicummaximum Jacq.)の生育を向上させる前作イタリアンライグラ

ス(Lolium multiflorum Lam.)品種の選定

誌名誌名 日本草地学会誌

ISSNISSN 04475933

巻/号巻/号 543

掲載ページ掲載ページ p. 211-216

発行年月発行年月 2008年10月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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日草誌 54(3)・211-216(2008)

周年放牧草地における追播ギニアグラス CPIαnicummαximum Jacq.)

の生育を向上させる前作イタリアンライグラス

CLolium multiflorum Lam.) 品種の選定

平野清1*・中西雄二 ・小路敦2・山本嘉人l

九州沖縄農業研究センター (86ト1192熊本県合志市須屋 2421)

l現在畜産草地研究所 (329-2793栃木県那須塩原市千本松 768)

2現在 ・北海道農業研究センタ ー (062-8555札幌市豊平区羊ケ丘1)

National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region, Koshi, Kumamoto 861-1192, Japan

I Present address : National Institute of Livestock and Grassland Science, Nasushiobara, Tochigi 329-2793, Japan

2 Present address : National Agricultural Research Center for Hokkaido Region, Sapporo 062-8555, Japan

受付日:2007年6月6日/受理日 2008年4月 11日

SynopsIs

Kiyoshi Hirano, Yuji Nakanishi, Atsushi Shoji, Yoshito

Yamamoto (2008) Selection of ltalian Ryegrass (Lolium multi-

florum Lam.) Varieties that Promote the Growth of Over-

seeded Guineagrass (Panicum maximum Jacq.) in Italian

ryegrass-Guineagrass Year-round Pasture Grazing. Jpn J

Grassl Sci 54 : 211-216

To promote growth of guineagrass (Panicum maximum

Jacq.) over-seeded into ltalian ryegrass (Lolium multiflorum

Lam.) for effective vegetation change in Lolium-P,αnicum

year司 roundpasture grazing, 3 varieties of ltalian ryegrass

were evaluated. The dry-matter production and stem den-

sity of guineagrass seeded by a renovator were higher when

the varieties,‘Minamiaoba' or 'Waseyutaka' were used as

preceding Italian ryegrass rather than when the variety

‘Ace' was used. The dry-matter production and stem density

of guineagrass seeded by the hoof cultivation method were

higher with ‘Minamiaoba' rather than with ‘Ace' and vari-

ety ‘Minamiaoba' was more stable than other varieties dur-

ing the 3 experimental years.

Key words : Cultivar selection, Hoof cultivation, Lolium

multiflorum, Panicum maximum, Simple pas-

ture establishment, Year-round grazing.

緒 .... ・昌

現在日本の畜産業には,問料自給率の向上,未利用地の有

効活用,安全 ・安心で特色ある畜産物生産,低コ スト化等が

要求されており,放牧技術は,それらを持続的に行う上で核

となる技術の一つである。暖地においては,その温暖な気象

特性から冬季に寒地型牧草イタリアンラ イグラス等を放牧利

用することができ,夏季の暖地型牧草と組み合わせた周年放

牧が可能である。周年放牧の導入により家畜管理労力や畜舎

*連絡著者 (correspondingauther) : [email protected]

一部は日本草地学会第 58回発表会 (2003年3月)において発表。

の制限が小さくなることから飼養頭数の増大も可能となる。

これまでに,冬季のイタリアンライグラス放牧において,

放牧育成牛の高い増体が得られることが示されており(進藤

ら2002),冬子生産が可能なことも実証されてきた(中西ら

2001)。一方,冬季イタリアンライグラスと組み合わせる夏季

放牧用車種として,従来用いられているパヒアグラス等より

高栄養の牧草として一年生暖地型牧草種を組み合わせる研究

がなされており, 山本ら (2004)は一年生 4草種を比較し,

年間生産量,被食量,茎数密度および栄養価から,ギニアグ

ラス品種ナツコマキ(松岡ら 2001)が最も適していることを

明らかにした。これら高牧養力の草地を組み合わせることに

より,育成牛をも対象とした,高牧養力の周年放牧草地の開

発が期待されている。

一方,周年放牧では放牧草地を夏季と冬季で別の圃場に用

意する必要があるが,同一圃場において夏季草地と冬季草地

の切り替えが出来れば,単位面積当たりの生産性向上につな

がり,特に草地面積が放牧飼養の制限要因である場合には,

効果が高いと考えられる。また,それら草地の切換時に牧養

力の低下を少なくすることが,補助飼料給与を最低限に抑え

た低コスト放牧飼養を実施する上で必要となる。この視点か

ら,通常の耕起造成法では,次の草地が出来るまでの約 1ヶ

月聞は全く草地が使えないことか ら適当ではなく,既存草地

への追播による方法が適当と考え られる。その際,既存草地

への次草種の追播方法には, リノベータ(簡易草地更新機)

による方法,牛を利用した蹄耕法が適当と考えられる。これ

らの方法を用いて冬季草地と夏季草地を変換するにあたり,

前植生の生育途中に,次植生を播種し生育させることが必要

となるが,この際次植生と前植生との間で競合が生じ牧養力

が低下する。そこで, これらの競合を最小限に抑えつつ次植

生の生育を向上させる必要があり,その方策のーっとして品

種選定が有効と考えられる。

本研究では,冬季高栄養寒地型牧草イタ リアンライグラス

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212 日本箪地学会誌第 54巻第3号 (2008)

草地に,夏季高栄養暖地型牧草ギニアグラスを追播する際

に,牧養力の低下を少なく草地を切り替えることを目的と

し,それに適したイタリアンライクラス 3品種を比較検討し

た。

材料と方法

試験圃場は九州沖縄農業研究センター内の放牧試験地(熊

本県合志市,標高 80m)を用いた。本試験圃場に,イタリア

ンライグラス極早生品種ミナミアオノイ,早生品種ワセユタカ,

および晩生品種エ ースの 3品種を,それぞれ 2001年 9月 18

日, 2002年 9月 26日, 2003年 9月 30日 (以下放牧等の日時

はこの品種順に示す)に 4kg/l0 a播種した。耕起前に全面

ロータリ耕起し,カルチパッカをかけた後,種子を散布後

ローラで鎮圧した。基肥として窒素リン酸カリを 5-5-5

kg/l0 a施用した。 この草地を放牧利用した後, ギニアグラ

ス品種ナツコマキを, 2002年 5月 22日,2003年 5月 19日,

2004年 5月 21日に,蹄耕法では 4kg/l0 aで,リノベータ法

では 2kg/l0 a播種した。 両造成法において,播種と同時に

施肥として窒素ーリン酸ーカリを 5-5-5kg/l0 a施用した。 リ

ノベータ法による草地造成では,NIPRO社製簡易草地更新

機 PRN-801を用い,条間 27cm・作溝幅 4cm のロ ータリに

よる部分耕 ・施肥 ・播種 ・鎮圧を一工程で行った(山名ら

1998)。蹄耕法では,播種後 24時間重放牧(繁殖牛22頭110a)

を行った。各処理において反復を 2つ設けた。播種後の 1回

目放牧の開始は,イ タリアンライクラス生長による追播幼植

物の被覆程度を勘案し, 2002年 7月 2日,2003年 6月 16日,

2004年 6月 28日に行った。 放牧は輪換放牧を想定して 1週

間の放牧と 2週間の休牧を交互に繰り返し 2回目放牧は

2002年 7月 23日, 2003年 7月 7日, 2004年 7月 20日に, 3

回目放牧は 2002年 8月 12日, 2003年 7月 28日, 2004年 8

月9日に,それぞれ開始した。各試験区の放牧前後に,反復

内任意4点の 50cm x50 cm枠において草丈を測定した後,

30

25

monthly mean air temperatu問

ーベ〉ー 2002・企・ 2003四時四唱~ 2004

(υ。)nU

J

n

υ

今,,“

l

'

l

22EaguH』足ロ

52

5

枠内の植物体地上部を高さ 5cmで刈り取った。刈り取った

植物体は,イ タリアンライグラス,キ、ニアグラス,その他の

草種および枯死部(全ての草種込み)の 4つに分けて乾物重

を測定した。また,放牧前にはギニアグラスの茎数も測定し

た。得られた結果については,分散分析 (ANOVA)を行っ

た。処理間の比較には Fisher'sLSDを用いた。図 lに,近隣

値となる菊池市のアメタスデータ(気象庁 2008)から作成し

た 2002年から 2004年にかけての月毎の平均気温および、降水

量を示した。2003年は本試験期間となる 6月から 8月にかけ

て 2002年および 2004年と比較し気温が低い傾向にあった。

結果と考察

リノベータ法および蹄耕法による,前作イタリアンライグ

ラス品種と追播ギニアグラス乾物重の,生育にともなう推移

を図 2に,それら乾物重の分散分析結果を表 lに,それぞれ

示す。 リノベータ法および蹄耕法において,ギニアグラス追

播後ギニアグラスは出芽し生育するが,前植生であるイタリ

アンラ イグラスはギ二アグラス以上に生育し,約 1カ月後の

l回目放牧前にはギニアグラスよりイタリアンライグラスが

優占した草地となり,ギニアグラスの平均優占度(ギニアク

ラス乾物重I(ギニアグラス+イタリアンライグラス乾物重))

は 14%であった。その後週間にわたる l回目の放牧によ

り,主にイタリアンライグラスが採食された。次の 2週間の

休牧の聞にギニアグラスはイタリアンライグラスをはるかに

しのいで生育し,ギニアグラスの平均優占度は 86%とな っ

た。2回目の放牧を 1週間行った後, 2週間の休牧期聞をおい

た3回目の放牧直前にはギニアグラスの平均優占度は 96%

となり,ギニアグラス優占草地となった。既存草種の生育が

まだ旺盛な時期に次季牧草種を追播する場合,追播直後から

放牧すると,発芽直後の幼植物が牛の踏み付けにより衰退す

ることが予想されるが,一方で追播後に放牧を長期間しない

場合には,既存草穫による被覆により追播草種が十分に生

700 monthly total preclpltalIon

c::コ2002 ト600

応~2003

医翠墨田2004 ~ 500

400z ac e co h h

300

200

100

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

Fig. 1. Meteorological data near the experimental field from 2002 to 2004. Drawn from

Automated Meteorological Data Acquisition System in Kikuti region.

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213 平野ら:周年放牧用イタリアン品種選定

~It阻凶山a剖l

. Gωu川 a叩gr問悶a出s

Hoof Cultivation Method Renovater Method

300

Grazing ..... ・E・..

Grazing 争-ー吟

Grazing ..... ・E・..

Grazing ..... ・E・..

内ノ-NE

¥叫)

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。玄垣 E

Pre叫 ns EE対

Italian ryegrass ~. g. 。"'-vanelles g- Q

Before Af¥er Before After Bcrorc Before After Before After 日c目。rC

3rd time 2nd time

Seasonal changes in the average dry matter weight of sown Guineagress and preceding three

Italian ryegrass varieties (average three years).

1st time 3rd time 2nd time 1st time

Fig.2.

Grazing lImc after GUIneagrass ovcr-scedling

The ANOV A F-value of dry matter weight before grazing of Guineagrass and Italian ryegrass. Tabl巴 L

Guineagrass + Italian ryegrass

12.8**

3.5事

27.5**

16.2**

0.6

7.9帥

14.6**

2.3

7.4**

29.7**

Italian ryegrass

15.3料

37.8**

40.0帥

252.8**

2.5

7.1**

6.3*'

2.7*

3.8**

26.6**

Guineagrass

29.7**

20.4**

66.9**

92.1**

0.4

3.3事

9.6叫

1.4

3.6**

10.7“

Method

Varieties

Grazing time

Year

Method X Varieties

Method X Year

Method X Grazing time

V arieties X Year

Varieties X Grazing time

Year X Grazing tim巴

Factor

前作イタリアンライグラス品種の違いに着目すると, ミナ

ミアオバ, ワセユタカを用いた場合に,エースを用いた場合

よりギニアグラス乾物重は有意に高く (p<O.Ol, p<0.05),

ミナミアオパとワセユタカの聞には有意差は認められず, こ

の2品種を前作に用いた場合エースに比べ追播ギニアグラス

乾物重が高くなることが明らかになった。草地の不耕起造成

による簡易更新を実施する際には,前植生の抑圧と播種後の

競合の解決が要点である(農林水産技術会議事務局 1975)。

前作イタリアンライグラスとして極早生品種や早生品種を用

いた方が,晩生品種を用いるよりも生育の衰退が早く,キ、ニ

アクラス播種後の競合の点で有利に働く 。このことがエース

に比べ他の 2品種を用いた場合に追播ギニアグラスの生育が

Signi自cancelevel :叫;p<0.01,本;p<0.05.

育 ・定着できなくなる可能性がある。追播後の適切な時期に

放牧することが追播牧草の定着 ・生育にとって重要である。

山本ら (2003) は,センチピードグラス追播後の禁牧期聞を

15日とすると, 47日とした場合より被度が高 くなることを

報告している。また,村山・高杉 (1970)は,蹄耕法で/毘播

草地を造成する際に,放牧頻度が多いほど初年度の牧草率が

高くなることを報告している。これらの報告と本研究とは,

播種後一定期聞をおいた後に放牧を行うことにより追播車種

へ効率的に変更できる点で一致している。今回は 1週間放牧

後 2週間休牧を繰り返す方式を採ったが,今後既存草種と

追播草種の特性を踏まえ,最適な播種後放牧時期,放牧圧等

を検討していく必要があると考えられる。

Page 5: 周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum …周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum maximum Jacq.)の生育を向上させる前作イタリアンライグラ

214 日本草地学会誌第 54巻第3号 (2008)

Table 2. Seasonal changes in stem density of overseeding Guineagrass and preceding

three Italian ryegrass varieties (average three years).

Species Method Preceding Itallan Ryegrass Varieties

Guineagrass

Renovator Method

Minamiaoba

Waseyutaka

Ace

Hoof Cultivation Method

Minamiaoba

Waseyutaka

Ace

Italian ryegrass

Renovator Method

Minamiaoba

Waseyutaka

Ace

Hoof Cultivation Method

Minamiaoba

Waseyutaka

Ace

Stem density (number/m2) of each grazing time

1st 2nd 3rd

444.0 (0.2) 576.0 (0.1) 844.7 (0.5)

302.0 (0.3) 665.3 (0.2) 808.7 (0.3)

126.0 (0.8) 524.7 (0.2) 536.0 (0.3)

239.3 (0.5) 773.3 (0.3) 741.3 (0.5)

119.3 (1.2) 378.7 (1.0) 355.3 (0.6)

9.3 (0.7) 159.3 (0.6) 181. 3 (0.7)

650.7 (0.6) 9.3 (1.3) 0.0 (ー)

656.0 (0.4) 2l.3 (1.2) l. 3 (1.4)

98l.3 (0.2) 304.0 (0.6) 236.7 (1.1)

763.3 (0.5) 5.3 (1.2) 0.7 (1.4)

780.7 (0.4) 76.0 (0.8) 0.0 (-)

1224.0 (0.3) 776.7 (0.3) 406.0 (1.1)

) : Coefficient of variance of 3 years experiment.

優れた要因と考えられる。また,品種と造成方法との聞に交

互作用が認められなかったことから,本試験で用いた 2つの

造成方法の間では,上記の傾向は基本的には同様であること

が示された。

一方,放牧期間に牧養力の低下を少な くして,草穫の転換

を図るという視点か ら,イ タリアンライグラスとギニアグラ

スの合計乾物重に着目すると回目放牧と 2回目放牧前で

は,イタリアンライグラス乾物重が高い区ほどギニアグラス

乾物重が低い傾向にあり,両草種が補償的に働いているが,

3回目放牧前では品種エース区の合計乾物重は他の 2品種の

区より少なく推移し,放牧時期と品種との聞に 1%水準で有

意な交互作用が認められた(表 1)。本試験期間 3回を込みに

した放牧前の合計乾物重に着目した場合も, ミナミアオパが

エースより 1%水準で高く,草種変換時における品種選定の

重要性が示された。

造成方法の違いに着目した場合, リノベータ法では蹄耕法

より,追播ギニアグラス乾物重は高く (p<O.01),逆に前作

イタリアンライグラス乾物重は低くな った (p<0.01)。造成

方法と放牧時期と の聞には 1%水準で有意な交互作用が認め

られ,ギニアグラス乾物重は, リノベータ法で蹄耕法と比較

し l回目放牧や 2回目放牧より 3回目放牧で特に高かった。

これらのことから, リノベータ法は蹄耕法より追播ギニア グ

ラスの定着が優れることが示された。また,蹄耕法では 3回

目の放牧前乾物重 (ギニアクラス+イタリアンライグラス)

の年次聞の CV値が 0.6であり,リ ノベータ法での CV値 0.4

と比較し大きい傾向を示した (p<0.05)。特に蹄耕法で 3回

目放牧開始時点において,ワセユタカの CV値は 0.8であり,

これはミナミアオパの 0.4,エースの 0.5と比較し高く,蹄耕

Table 3. The ANOVA F.value of stem density before

grazing of Guineagrass and Italian ryegrass

Factor Guineagrass Italian ryegrass

Method 24.18** 10.77**

Varieties 22.49** 48.88**

Grazing time 8.17** 22.63**

Year 29.33** 140.96**

Method X Varieties 4.13率 4.57ホ

Method X Year 3.77* 0.53

Method X Grazing time l. 29 0.85

Varieties X Year 5.84*' 2.49・Varieties X Grazing time 0.40 0.98

Year X Grazing time 5.32* 12. 12'*

Significance level 帥 ;p<O.OI,傘;p<0.05.

法で前作にワセユタカを用いた場合のギニアクラス生育につ

いて,年次間変動が大きい傾向が認め られた。

追播ギニアグラスと前作イタリアンライグラスの茎数密度

の放牧にともなう推移を表 2に, その分散分析の結果を表 3

に,それぞれ示す。追播ギニアグラスの茎数密度は放牧 l回

目か ら2回目にかけて増加し (p< 0.01), 2回目から 3回目

にかけて増加の程度は少なかった (nふ)。 追播ギニアグラス

の茎数密度が高くなる前作イ タリアンライグラス品種はミナ

ミアオパ>ワセユタカ >エースの順であり,各 3品種聞に

1%水準で有意差が認められた。そして,リノベータ法では蹄

耕法と比較し茎数密度が高くなる傾向があ った (p<0.01)。

また,蹄耕法において,イタリアンライグラス品種ワセユタ

カを用いた場合に l回目放牧および 2回目放牧の CV値が

Page 6: 周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum …周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum maximum Jacq.)の生育を向上させる前作イタリアンライグラ

215

種エースで多く推移したが,早生品種ワセユタカでは年によ

り変動が大きく, 02年はミナミアオパ並に少なかったが,03

年は相対的に多かった。これは, 03年の本試験期間である 6

月と 7月の平均気温が,他の 2年と比較し 6月で 0.80

C以上,

7月で 1.50C以上低く,このことが寒地型牧草であるイタリ

アンライグラス品種ワセユタカの生育が例年より衰えなかっ

たため乾物重が多くなり,追矯ギニアグラスの生育を抑圧

し,他の年より追橋ギニアグラス乾物重が減少する要因と

なったと考えられる。このことから,蹄耕法で夏の気象条件

にかかわらず安定した追播造成するには,今回供試した品種

の中では極早生品種のミナミアオパが適している。

リノベータ法について,放牧 3回目のギニアグラス乾物重

のcvは,ワセユタカで O目3, ミナミアオパで 0.4であり,ど

ちらの品種を選択しでも年次を通じて相対的に安定した生産

が出来た。結果として年次聞の変動を小さくした要因と考え

られるのは,イタリアンラ イグラス品種ワセユタカの生育が

優れた 03年の夏季冷涼年においても, リノベータ法では作

溝によりワセユタカの生育が抑圧されたことと,それにより

ギニアクラスの生育の促進につながったことである。

これらのことから,イ タリアンラ イグラス草地にギニアグ

ラスを追播し草地を造成 ・利用する場合,今回供試したイタ

リアンライグラス品種の中では,大規模草地などでリノベー

タ法が使える場合には,極早生品種ミナミアオパおよび早生

品種ワセユタカを, トラクタの入ることが出来ない傾斜地や

耕作放棄地等で蹄耕法を用いる場合には極早生品種ミナミア

オパをそれぞれ用いることが望ましいことが示された。

本放牧試験の実施にあたっては九州、|沖縄農業研究センター

企画調整部業務第 l科田村利男氏源真生氏,松崎純一郎

氏に,採取試料の草種分別, 分析等では九州、|沖縄農業研究セ

ンタ ーの山中信子氏および中島由美子氏に御尽力願った。こ

こに併せて謝意を表する。

辞謝

平野ら:周年放牧用イタリアン品種選定

1.0以上であり, 他の品種より高い傾向を示した。イタリアン

ライグラスの茎数密度は,放牧時期,品種,方法について追

矯ギニアクラスの茎数密度と逆の傾向を示した。イタリアン

ライグラス茎数密度は,放牧 l回目から 2回目にかけて減少

し (p<O.Ol),2回目から 3回目の減少の程度は少なか った

(n.s.)。また,茎数密度が最も高い品種はエースで他の2品種

との聞に 1%水準で有意差が認められ, ワセユタカとミナミ

アオパとの聞に有意差は認められなかった。また,蹄耕法で

はリノベータ法より茎数密度は高く推移した (p<O.Ol)。

本試験ではリノベータ法が蹄耕法より追播ギニアグラスの

乾物重および茎数密度で優れる傾向が観察された。これはシ

パ草地に対するイタリアンライクラス追播造成においても,

リノベータ法は蹄耕法に近い鎮圧処理を加えた散播法と比較

し,乾物重(粛東ら 2001)および茎数密度(池尻ら2001)が

高いことが報告されており,これらの報告と同様であ った。

本研究で用いたリノベータ法では 4cm幅のロ ータリによる

帯状の耕起過程があり,この帯状の耕起が前植生である イタ

リアンライグラスの乾物重と茎数を少なくし,前作イタリア

ンライグラスの生育を押さえるとともに, リノベータにより

キ‘ニアグラス種子が覆土されることが,乾物重および茎数密

度の増加に有利に働いたと考え られる。

蹄耕法を用いてギニアグラスを追播した場合の前作イタリ

アンライグラス品種にワセユタカを用いた場合,その乾物重

および茎数密度について年次聞の変動が多くなる傾向が認め

られた (表 2)。図3に各試験年次の蹄耕法における,放牧 2

回目の前作イタリアンライグラス乾物重と,放牧 2回目およ

び3回目の追播ギニアグラスの乾物重の関係を示す。 放牧 2

回目のイタリアンラ イグラス乾物重と, 放牧 2回目および 3

回目のギニアグラス乾物重との回帰の傾きは負の値をとり,

蹄耕法においては放牧 2回目のイタリアンライグラス乾物重

が少ない方が,その後のギニアグラス生育が優れる傾向に

あった。その際,試験期間のいずれの年も,イタリアンラ イ

グラス乾物重は,極早生品種ミナミアオパで少なく ,晩生品

弘、aa曹

、、

AU

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、、h3

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Relationship between dry matter weight of Italian ryegrass of the 2nd grazing and

that of Guineagrass of the 2nd and 3rd grazing on hoof cultivation method

Fig.3.

Page 7: 周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum …周年放牧草地における追播ギニアグラス(Panicum maximum Jacq.)の生育を向上させる前作イタリアンライグラ

216 日本草地学会誌第 54巻第3号 (2008)

引用文献

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わせ周年放牧草地の家畜生産量およびエネノレギ一転換効率 日

草誌 48(別): 148-149

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における周年放牧用夏季一年生高栄養草種の選定 日草誌 50:

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山名伸樹・亀井雅浩 ・平田 晃 ・竹内愛国 ・広兼信夫(1998)作溝型

簡易草地更新機の開発ー日草誌 44: 30-37

要 ヒ己目

平野 清 ・中西雄二 ・小路敦・山本嘉人 (2008)周年放牧草地にお

ける追矯ギニアグラス (Panicummaximum Jacq.)の生育を向上さ

せる前作イタリアンライグラス (Loliummultiflorum Lam.)品種の

選定.日草誌 54:211-216

同一回場で周年放牧を効率的に実施できる技術を|摘発するため,

省力的造成法であるリノベータ (簡易草地更新機)法および蹄耕法を

用い.冬季イタリアンライグラス草地ヘギニアグラス種子を追掃し,

紋牧利用しつつ夏季草地を造成する場合に有効な,前作イタリアン

ライグラス品種について検討した。 リノベータ法での前作イタリア

ンラ イグラス品種には,極早生品種ミナミアオパおよび早生品種ワ

セユタカを用いた方が,娩生品種エースより,追橋ギニアグラスの乾

物重と茎数密度が優れていた。蹄耕法での追播ギニアグラスの乾物

重と茎数密度は,前作に極早生イタリアンライグラス品種ミナミア

オパを用いた場合に多く ,早生品種ワセユタカでは年次l剖の変動が

大きく,晩生品種エースはリ ノベータ法と同様に少なかった。

キーワード イタリアンライグラス.簡易草地造成,ギニアグラス,

周年放牧,蹄耕法,品級選定.