数理情報学科・2 (p)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1...

60
2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修 (P)・2単位 事務記入欄 ◎:必ず記入が必要な項目 ○:記入情報がない場合でも、「特になし」等何らかの記載を必要とする △:記入情報がない場合でも、項目名(見出し)は表示する ▲:記入情報がない場合は、項目名(見出し)も表示しない 年度 (講義概要・授業計画)用紙 管理番号: 科目名 力学 サブタイトル 質点・質点系・剛体の運動 対象学部 数理情報学科 理工学部 開講曜講時 前期 火3 配当年次 年次~ 年次 開講キャンパス 瀬田 担当者(カナ氏名) イイダ シンジ 単位 担当者(漢字氏名) 飯田 晋司 備考 講義概要 サブタイトル 【入力属性 △】 【学外公開】 質点・質点系・剛体の運動 講義概要 【入力属性 ◎】 【学外公開】 「物理数学及び演習Ⅰ・Ⅱ」に続き,質点・質点系・剛体の運動の取り扱い方やそれらの性質について説明します。 まず,大きさや形を無視して点で近似した物体(質点)に対して,運動の様子を調べる際に役立つエネルギーという概念を説明し,さらに,回転運動 の様子を調べる際に役立つ角運動量という概念を説明します。 次に,質点の集まり(質点系)の運動を考えます。相互作用する多数の質点の運動を一般的に扱うことは困難ですが,重心運動と相対運動という概念 を導入して幾つかの例を紹介します。さらに,質点相互の位置が変わらない質点系(剛体)の比較的簡単な運動を説明します。 到達目標 【入力属性 ◎】 【学外公開】 エネルギーの概念とそれによる運動の理解,力のモーメント・角運動量・慣性モーメントといった回転運動に関わる概念,質点系における重心の概 念,物体のつり合いや運動の仕組みなどを理解できるようになることを目標とします。 講義方法 【入力属性 ◎】 【学外公開】 教員が作成する資料に基づいて通常の講義形式で授業を行います 。 授業時間外における 予・復習等の指示 【入力属性 ◎】 【学外公開】 各回の講義は,それまでの講義内容の理解を前提としています。オフィスアワー,チューター,数理情報基礎演習などを利用して理解が不十分な点を 残したままにしないようにしてください。特に,講義中に説明した,あるいは配布資料に載っている問題を復習してください。それらの問題の解き方 が直ちにわからない場合は,配布資料の関連する部分を十分に 時間程度 復習してください。 系統的履修 【入力属性 ▲】 【学外公開】 物理数学及び演習Ⅰ・Ⅱ 成績評価の方法 【入力属性 ◎】 【学外公開】 種別 割合 評価基準・その他備考 平常点 小テスト レポート 定期試験 その他 予定されている 回の小テストの両方に 点以上をとるか,あるいは定期試験に 点以上をとることで合格とします。ど ちらかの基準で合格の場合,最終成績は小テストの平均点と定期試験の点数の高い方とします。 自由記載 テキスト 【入力属性 ○】 【学外公開】 著書・編集者名 書名 出版社名 定価 自由記載 参考文献 【入力属性 ○】 【学外公開】 著書・編集者名 書名 出版社名 定価 高木隆司 力学 裳華房 高木隆司 力学 裳華房 戸田盛和 力学 岩波書店 佐川弘幸/本間道雄 力学第 版 丸善出版 自由記載 履修上の注意・担当 者からの一言 【入力属性 ▲】 【学外公開】 オフィスアワー・教 員との連絡方法 【入力属性 ▲】 オフィスアワーは講義時に連絡します。 連絡先: 参考 【入力属性 △】 参考 参考 参考 参考 担当科目

Upload: others

Post on 21-Feb-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.0.1

� �力学

数理情報学科・2年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修 (P)・2単位� �

事務記入欄

◎:必ず記入が必要な項目                ○:記入情報がない場合でも、「特になし」等何らかの記載を必要とする

△:記入情報がない場合でも、項目名(見出し)は表示する ▲:記入情報がない場合は、項目名(見出し)も表示しない

 

2020年度 Syllabus(講義概要・授業計画)用紙管理番号:T118100100

科目名 力学 サブタイトル 質点・質点系・剛体の運動

対象学部 数理情報学科,理工学部

開講曜講時 前期 火3 配当年次 2年次~ 4年次

開講キャンパス 瀬田 担当者(カナ氏名) イイダ シンジ 

単位 2 担当者(漢字氏名) 飯田 晋司 

備考  

 

講義概要

サブタイトル

【入力属性:△】

【学外公開】

質点・質点系・剛体の運動

 

講義概要

【入力属性:◎】

【学外公開】

「物理数学及び演習Ⅰ・Ⅱ」に続き,質点・質点系・剛体の運動の取り扱い方やそれらの性質について説明します。

まず,大きさや形を無視して点で近似した物体(質点)に対して,運動の様子を調べる際に役立つエネルギーという概念を説明し,さらに,回転運動

の様子を調べる際に役立つ角運動量という概念を説明します。

次に,質点の集まり(質点系)の運動を考えます。相互作用する多数の質点の運動を一般的に扱うことは困難ですが,重心運動と相対運動という概念

を導入して幾つかの例を紹介します。さらに,質点相互の位置が変わらない質点系(剛体)の比較的簡単な運動を説明します。

 

 

 

到達目標

【入力属性:◎】

【学外公開】

エネルギーの概念とそれによる運動の理解,力のモーメント・角運動量・慣性モーメントといった回転運動に関わる概念,質点系における重心の概

念,物体のつり合いや運動の仕組みなどを理解できるようになることを目標とします。

 

 

講義方法

【入力属性:◎】

【学外公開】

教員が作成する資料に基づいて通常の講義形式で授業を行います.。

 

 

授業時間外における

予・復習等の指示

【入力属性:◎】

【学外公開】

各回の講義は,それまでの講義内容の理解を前提としています。オフィスアワー,チューター,数理情報基礎演習などを利用して理解が不十分な点を

残したままにしないようにしてください。特に,講義中に説明した,あるいは配布資料に載っている問題を復習してください。それらの問題の解き方

が直ちにわからない場合は,配布資料の関連する部分を十分に(1時間程度)復習してください。

 

系統的履修

【入力属性:▲】

【学外公開】

物理数学及び演習Ⅰ・Ⅱ

 

成績評価の方法

【入力属性:◎】

【学外公開】

種別 割合 評価基準・その他備考

平常点    

小テスト    

レポート    

定期試験    

その他 100%

予定されている2回の小テストの両方に60点以上をとるか,あるいは定期試験に60点以上をとることで合格とします。ど

ちらかの基準で合格の場合,最終成績は小テストの平均点と定期試験の点数の高い方とします。

自由記載

 

 

 

テキスト

【入力属性:○】

【学外公開】

著書・編集者名 書名 出版社名 定価 ISBN

         

         

         

自由記載

 

 

 

参考文献

【入力属性:○】

【学外公開】

著書・編集者名 書名 出版社名 定価 ISBN

高木隆司 力学 I 裳華房 2,100円 4785320990

高木隆司 力学 II 裳華房 1,995円 4785321008

戸田盛和 力学 岩波書店 2,625円 9784000076418

佐川弘幸/本間道雄 力学 第2版 丸善出版 2,200円 9784431100652

自由記載

 

 

 

履修上の注意・担当

者からの一言

【入力属性:▲】

【学外公開】

 

 

 

オフィスアワー・教

員との連絡方法

【入力属性:▲】

オフィスアワーは講義時に連絡します。 連絡先:[email protected]

 

参考URL

【入力属性:△】

参考URL 名 参考URL 参考URL 名 参考URL

担当科目

https://www.math.ryukoku.ac.jp/iida/lect

ure/lecture.html

   

       

Page 2: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.0.2

2020年度 Syllabus(講義概要・授業計画)用紙管理番号:T118100100

科目名 力学 サブタイトル 質点・質点系・剛体の運動

対象学部 数理情報学科,理工学部

開講曜講時 前期 火3 配当年次 2年次~ 4年次

開講キャンパス 瀬田 担当者(カナ氏名) イイダ シンジ 

単位 2 担当者(漢字氏名) 飯田 晋司 

備考  

 

講義計画

No.

回数

【入力属性:◎】

【学外公開】

担当者

【入力属性:◎】

【学外公開】

学修内容

【入力属性:◎】

【学外公開】

キーワード

【入力属性:△】

1

1回目

 

飯田 晋司

 

単振動におけるエネルギー,重力による位置エネルギー,力学的エネル

ギーが保存される運動(1次元)

 

 

 

2

2回目

 

飯田 晋司

 

力学的エネルギーが保存されない運動(1次元),仕事とエネル

ギー(1次元)

 

 

 

3

3回目

 

飯田 晋司

 

位置エネルギーによる 3 次元運動,位置エネルギーと保存力(3次元)

 

 

 

4

4回目

 

飯田 晋司

 

位置エネルギーと保存力(3次元),仕事とエネルギー(3次元)

 

 

 

5

5回目

 

飯田 晋司

 

回転運動(質点の角運動量)

 

 

 

6

6回目

 

飯田 晋司

 

回転運動(力のモーメント)

 

 

 

7

7回目

 

飯田 晋司

 

座標系の運動と慣性力

 

 

 

8

8回目

 

飯田 晋司

 

小テスト1

 

 

 

9

9回目

 

飯田 晋司

 

質点系にはたらく力(内力と外力),質量中心(重心)の運動方程式

 

 

 

10

10回目

 

飯田 晋司

 

質量中心(重心)の運動方程式,質量中心に対する質点の相対位置

 

 

 

11

11回目

 

飯田 晋司

 

質点系の全運動量と全運動エネルギ,2つの物体の衝突

 

 

 

12

12回目

 

飯田 晋司

 

質点系の角運動量,質点系にはたらく力のモーメント

 

 

 

13

13回目

 

飯田 晋司

 

剛体の回転運動,剛体の慣性モーメント

 

 

 

14

14 回目

 

飯田 晋司

 

小テスト2

 

 

 

15

15 回目

 

飯田 晋司

 

全体のまとめと補足事項

 

 

 

16

 

 

 

 

 

 

 

 

17

 

 

 

 

 

 

 

 

18

 

 

 

 

 

 

 

 

19

 

 

 

 

 

 

 

 

20

 

 

 

 

 

 

 

 

21

 

 

 

 

 

 

 

 

22

 

 

 

 

 

 

 

 

23

 

 

 

 

 

 

 

 

24

 

 

 

 

 

 

 

 

25

 

 

 

 

 

 

 

 

26

 

 

 

 

 

 

 

 

27

 

 

 

 

 

 

 

 

28

 

 

 

 

 

 

 

 

29

 

 

 

 

 

 

 

 

30

 

 

 

 

 

 

 

 

★ 成績評価の方法

・予定されている 2回の小テストの両方に 60点以上をとるか,あるいは定期試験に 60点以上をとることで合格とします。最終成績は,合格の場合は小テストの平均点 (小数点以下切り上げ) と定期試験の点数の高い方,不合格の場合は定期試験の点数,となります。

・小テストと定期試験で参考文献は持込不可です。電子機器 (携帯電話,スマートフォン,PC等)の使用はできません。

・公式等をまとめた,まとめのプリントを試験問題とともに配布します。

プリント中の�� ��高木 I は参考文献,“高木隆司,「力学 (I)」(裳華房)”を示します。�� ��高木 II は参考文献,“高木隆司,「力学 (II)」(裳華房)”を示します。�� ��戸田 は参考文献,“戸田盛和,「力学」(岩波)”を示します。�� ��佐本 はテキスト,“佐川,本間,「力学」(丸善)”を示します。�� ��三宅微積 は参考文献,“三宅『入門微分積分』(培風館)”を示します。�� ��三宅線形 は参考文献,“三宅『線形代数学』(培風館) ”を示します。�� ��川薩四 は参考文献,“川野,薩摩,四ツ谷『微分積分+微分方程式』(裳華房) ”を示します。

オフィスアワー: 月曜 6講時 (1-513),金曜 6講時 (1-513)

url: http://www.math.ryukoku.ac.jp/˜iida/lecture/lecture.html

Page 3: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.1

【注】 MKS単位系  物理量にはすべて単位がついています。単位を省略する場合もありますが,書く場合はMKS単位系を用います。すなわち,長さの単位はメートル(metre; m),質量の単位はキログラム(kilogram; kg),時間の単位は秒(second; sec)です。

1 質点の 1 次元運動  �� ��高木 I p. 92

�� ��戸田 3-4�� ��佐本 Lec. 5

1.1 質点の運動方程式

≪質点とは?≫ 物体の運動を記述するとき,その大きさが無視できる場合,その物体を 質点 (質量を持った

点) と呼ぶ�� ��高木 I p. 2

�� ��戸田 p. 25�� ��佐本 3.1.1 。無視できない程度の大きさであっても,簡単のため,大きさを無視

して質点と扱うこともある。

≪運動方程式≫ この章では x軸上を動く質点の運動を考える。質点の質量をm,時刻 tでの質点の位置を x = x(t),時刻 t で質点に働く力 (の x成分) を F = F (t) とする(力の単位は [kgm/sec2] = [N],newton(ニュートン))。すると,運動方程式 (の x成分)は

md2x

dt2= F (1.1)

となる。dx

dtは質点の速度を表すので,これを v(や vx)と書くことも多い(v ≡ dx

dt)。(1.1) は速度 v を用いて

つぎのようにも表現できる:

mdv

dt= F . (1.2)

1.2 単振動におけるエネルギー

≪復元力≫ ばねの一端を固定し,他端に質量 m の質点をつないで摩擦のない水平な面上に置く。ばねによる力の大きさはばねの伸び(縮み)に比例する.これを フック(Hooke)の法則 という

�� ��高木 I 図 4.1�� ��戸田 図 3.4�� ��佐本 図 4.5 。

F

F

図 1.1 ばねによる力

Page 4: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.2

.

sin(α+ β) = sin(α) cos(β) + cos(α) sin(β),cos(α− β) = cos(α) cos(β) + sin(α) sin(β)

ばねの力がちょうど 0 になるときの質点の位置(つりあいの位置)を原点(x = 0)とし,ばねの伸びる向きを x 軸の正の向きにとる。すなわち,x > 0 がばねが伸びている状態,x < 0 がばねが縮んでいる状態を表すようにする。時刻 t のばねの力 F = F (t) は

F (t) = −kx(t)�� ��高木 I (4.1)

�� ��戸田 (3.25)�� ��佐本 (4.33) (2.1)

となる。k は ばね定数 と呼ばれるばねに固有の正の定数である(k の単位は [kg/sec2])。ばねの力のように,

物体をつりあいの位置(x = 0)に引き戻そうとする力を 復元力 と呼ぶ。フックの法則にしたがう復元力が

はたらく質点の運動を 単振動(調和振動) という。単振動の場合,運動方程式 (1.1) は md2x

dt2= −kx とな

るが,これを整理すると

d2x

dt2= −ω2x ω =

√k

m

�� ��戸田 (3.26)�� ��佐本 (4.35) (2.2)

と書き換えられる(ω の単位は [1/sec])。

≪単振動の運動方程式の一般解≫ すべての実の定数 A,B に対して

x(t) = A cos(ωt) +B sin(ωt) (2.3)

は (2.2) の解になる。逆に,(2.2) のすべての解は (2.3) の形で表現される(A,B は初期条件などによって定ま

る)。この意味において「(2.3) は (2.2) の 一般解 である」と言われる。

【問 2.1】x0,v0 を定数とする。t = 0 での初期条件

x(0) = x0,dx

dt(0) = v0 (2.4)

を満たす運動方程式 (2.2) の解を求めなさい。

【注】dx

dt(0)を

dx(t)

dt

∣∣∣∣t=0

と書く場合もある。これは x(t)を変数 tで微分した後,tに 0を代入するという意味。

【答 2.1】

x(t) = A cosωt+B sinωt,dx

dt(t) = −ωA sinωt+ ωB cosωt (2.5)

に t = 0 を代入すれば x(0) = A = x0,dx

dt(0) = ωB = v0 である。したがって,求める解は以下となる:

x(t) = x0 cos(ωt) +v0ω

sin(ωt) .�� ��高木 I (4.7)

�� ��戸田 (3.39)�� ��佐本 (4.39) (2.6)

【問 2.2】 (2.6) の形の関数を三角関数の合成により

x(t) = C cos(ωt− θ) (2.7)

の形に書き換えなさい。ただし,C,θ は x0,v0 によって定まる定数である。

【答 2.2】C cos(ωt− θ) = C cos(ωt) cos θ + C sin(ωt) sin θ (2.8)

と (2.6)を比べると,C と θは次の等式,

C cos θ = x0 , C sin θ =v0ω

(2.9)

を満たせばよい。これより,初期条件 (2.4)を満たす単振動の 振幅 は

C =

√x20 +

v20ω2

(2.10)

であることがわかる。

Page 5: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.3

≪角振動数≫ (2.7)から分かるように,ω は 2π 秒間の振動数を表しているので 角振動数 とか 角周波数

と呼ばれる。また,ω は 1 秒間に回転する角度でもあるので 角速度 とも呼ばれる。

≪運動エネルギー・位置エネルギー・力学的エネルギー≫

【問 3.1】単振動で次の量

E =m

2

(dx

dt(t)

)2

+k

2x(t)2

�� ��戸田 (3.73) (3.1)

が 保存する (時間によらず一定になる)ことを示しなさい。ここで,

K(t) =1

2m

(dx

dt(t)

)2

≡ 1

2mv(t)2

�� ��高木 I (5.24)�� ��戸田 (3.62)

�� ��佐本 p.77 (3.2)

は時刻 t における質点の 運動エネルギー ,

U(t) =k

2x(t)2

�� ��高木 I (5.15)�� ��戸田 (3.71)

�� ��佐本 (5.17) (3.3)

は,時刻 t における,ばねの力による 位置エネルギー または ポテンシャルエネルギー と呼ばれる。

また,E = K +U は 力学的エネルギー と呼ばれる。力学的エネルギーが運動の過程で一定になることを,

力学的エネルギーが保存される という。

【答 3.1】(3.1)に (2.6)を代入すると

E =m

2

(− x0ω sin(ωt) + v0 cos(ωt)

)2+

k

2

(x0 cos(ωt) +

v0ω

sin(ωt))2

=m

2v20 +

k

2x20 (3.4)

となり,E =一定であることがわかる。

≪力学的エネルギーの保存≫実は,力学的エネルギーが保存することは,運動方程式の解 (2.6)を使わなくても,運動方程式 (2.2)だけから示すことができる:運動エネルギーの時間変化は

dK

dt=

m

2

d

dtv(t)2 = mv(t)

dv

dt= −kv(t)x(t) (3.5)

となる。最後の等式で運動方程式 (2.2)を用いた。一方,位置エネルギーの時間変化は

dU

dt=

k

2

d

dtx(t)2 = kx(t)

dx

dt= kx(t)v(t) (3.6)

なので,dK(t)

dt= −dU(t)

dtより

d

dt

(K(t) + U(t)

)= 0 (3.7)

が得られる。この式は K(t) + U(t)の t に対する変化率が常に 0,つまり K(t) + U(t)が一定であることを意味する。

Page 6: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.4

≪質点が運動する範囲≫ 力学的エネルギーが保存されることを利用して,初期条件 (2.4) を満たす質点が x 軸上のどの範囲を運動するか求めることができる。

【問 4.1】初期条件 (2.4) を満たす質点が x 軸上のどの範囲を運動するかを求めなさい。

【答 4.1】力学的エネルギー保存則を書き換えると

E − k

2x(t)2 =

m

2v(t)2 (4.1)

となるが,1

2mv(t)2 ≥ 0なので

E − k

2x(t)2 ≥ 0 (4.2)

より

−√

2E

k≤ x(t) ≤

√2E

k(4.3)

という不等式が運動の過程で常に成り立っている。初期条件よりE =m

2v20+

k

2x20 なので,この物体は−

√x20 +

v20ω2

から

√x20 +

v20ω2の範囲を運動することがわかる。

0xx

0

2

0

1(0)

2U kx=

2

0

1(0)

2K mv=

( ) (0) (0) (0)E t E K U= º +

物体が運動する範囲

0K = 0K =

0v = 0v =

21

2U kx=

図 4.1�� ��戸田 図 3.9

�� ��佐本 図 5.2

解 (2.6)は (2.7)と (2.10)より次の形,

x(t) = x0 cos(ωt) +v0ω

sin(ωt) = C cos(ωt− θ) (4.4)

C =√x20 + v20/ω

2 , cos(θ) =x0

C, sin(θ) =

v0Cω

, (4.5)

に書き換えることができるので,確かに質点が (4.3)の領域を全て運動することがわかる。

【注】一般には,力学的エネルギー保存則から得られる不等式 (4.3) を満たす領域の全てを質点が運動するとは限らない:

(質点が運動する領域) ⊂ (力学的エネルギー保存則から得られる領域) . (4.6)

しかし,この場合は (4.4)からわかるように質点は領域 (4.3)を全て運動する。

Page 7: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.5

1.3 重力による位置エネルギー

重力のみが働く鉛直線上の質点の運動を考える�� ��高木 I §2.3

�� ��佐本 2.2 。x 軸を鉛直上向きにとると,運動方程式は

md2x

dt2= −mg (5.1)

となる。g は重力加速度(単位は [m/sec2])の大きさを表す.重力による位置エネルギーは

U(t) = mgx(t)�� ��高木 I (5.13)

�� ��戸田 (3.66)

であり,力学的エネルギー

E(t) = K(t) + U(t) =1

2mv(t)2 +mgx(t) (5.2)

が保存される。

【問 5.1】(5.2) の E(t) を t で微分して,この力学的エネルギーが保存されることを示しなさい。

【答 5.1】運動エネルギーの時間変化は

dK(t)

dt=

m

2

d

dtv(t)2 = mv(t)

dv(t)

dt= −mgv(t) (5.3)

となる。最後の等式で運動方程式 (5.1)を用いた。一方,位置エネルギーの時間変化は

dU(t)

dt= mg

d

dtx(t) = mgv(t) (5.4)

なので,dK(t)

dt= −dU(t)

dtより

d

dt

(K(t) + U(t)

)= 0 (5.5)

が得られる。この式はK(t) + U(t)が一定であることを意味する。

単振動の場合と同じように力学的エネルギーが保存されることを利用して,質点が運動する範囲を求めることができる。

【問 5.2】位置 x = 0 から,初速度 v0 ≥ 0 で質量 m の質点を鉛直上向きに投げ上げたときに,物体の到達する最大の高さ h を,力学的エネルギー (5.2) が保存されることを利用して求めなさい。

【答 5.2】初期条件より力学的エネルギーは

E =m

2v20 (5.6)

となる。質点が最高の高さに達したときには,質点の速度は 0なので,力学的エネルギーの保存則より

m

2v20 = mgh (5.7)

が成り立つ。従って,物体の到達する最高点 h は

h =v202g

(5.8)

となる。

Page 8: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.6

1.4 力学的エネルギーが保存される運動

x 軸上を動く質量 m の質点の運動エネルギーは常に1

2m

(dx

dt

)2

≡ 1

2mv2 だが,位置エネルギーは物体に働く力

によって様々な形をとる。

x軸上を運動する質点の位置エネルギー (力のポテンシャル)'

&

$

%

質点に働く力が質点の位置 x の関数 F (x) である場合を考える。この力に対して位置エネルギー U(x) を等式

−dU

dx(x) = F (x)

�� ��高木 I (5.35)�� ��戸田 (3.60)

�� ��佐本 (5.12) (6.1)

を満たす関数として定義する。このような関数 U(x) は (力の)ポテンシャル とも呼ばれる。このとき,力

学的エネルギー E = K + U は保存される,すなわち,

E(t) =1

2mv(t)2 + U(x(t)) (6.2)

は時間に依らず一定となる。�� ��戸田 (3.64)

�� ��佐本 (5.14)

【問 6.1】(6.2) の E(t) を t で微分すると 0 になることを示しなさい。これによって,力学的エネルギー E(t) が保存されることが分かる。

【答 6.1】運動エネルギーの時間変化は

dK(t)

dt=

m

2

d

dtv(t)2 = mv(t)

dv(t)

dt= v(t)F (x(t)) (6.3)

となる。最後の等式では,運動方程式 (1.1)と,力が x を通して時刻 t に依存することを用いた。一方,位置エネルギーの時間変化は

dU(x(t))

dt=

dU(x)

dx

∣∣∣∣x=x(t)

dx(t)

dt= −F (x(t))v(t) (6.4)

となる。最後の等式で,(6.1) を用いた。dK(t)

dt= −dU(t)

dtより

d

dt

(K(t) + U(t)

)= 0 (6.5)

が得られる。この式はK(t) + U(t)が一定であることを意味する。

≪位置エネルギーの計算方法≫ (6.1) を満たす U(x) は積分

U(x) = −∫ x

x0

F (s)ds�� ��戸田 (3.64)

�� ��佐本 (5.14) (6.6)

によって計算できる。ただし,(6.6) では U(x0) = 0 となるように位置エネルギーの基準点を選んだ。U(x) に定数を加えても (6.1) を満たす。すなわち,位置エネルギーの関数形 U(x) には定数だけの不定性があることに注意しよう。

≪力の向きと位置エネルギーの増減≫ (6.1) から分かるように,力 F (x) は位置エネルギー U(x) が減少する向きに働く。

【問 6.2】位置 x にある質点に働く力がF (x) = −4x3 + 4x (6.7)

である場合について,位置エネルギー U(x) を求めなさい。ただし,x = 1を位置エネルギーの基準点としなさい。

Page 9: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.7

.

【答 6.2】(6.6)より U(x) はつぎのように計算される:

U(x) = −∫ x

1

F (s)ds = −∫ x

1

(−4s3 + 4s)ds =[s4 − 2s2

]x1= x4 − 2x2 − (1− 2) = (x2 − 1)2 . (7.1)

確かに U(1) = 0となっている。

x軸上を運動する質点の動く範囲'

&

$

%

x軸上を力のポテンシャル U(x)から導かれる力 F (x) = −dU

dx(x) のみを受けて運動する質量 m の質点を考え

る。このとき,力学的エネルギーが保存するので,任意の時刻 t で

m

2v(t)2 + U(x(t)) = E0 (7.2)

が成り立つ。ここで,初期条件より決まる力学的エネルギーの値を E0とした。運動エネルギーは負にならないので,質点が運動する範囲は,不等式

U(x) ≤ E0 (7.3)

を満たす領域の一部または全部となる。

また,質点の速さ (速度の大きさ)が最大になるのは,質点が運動する領域内で U(x)が最小になる位置を質点が通る時である。

【問7.1】x軸上を力のポテンシャル U(x) = (x2 − 1)2 のもとで運動する質量mの質点を考える。(力 F = −dU/dx =

−4x3 + 4xを受けて運動することをこのように表現する。) 時刻 t = 0 での初期条件が

x(0) = −1, v(0) = v0 (7.4)

であるとき,質点は x 軸上のどの範囲を運動するかを答えなさい。

【答 7.1】初期条件より決まる力学的エネルギーの値は

E0 =1

2mv20 + U(−1) =

1

2mv20 (7.5)

となる。

x

2 2( 1)U x= -

-1

1

1O

0 1E >

A B

0 1E <

C DE F

図 7.1 U(x)の図

(7.3)で決まる領域の端点では運動エネルギーが 0,すなわち,物体の速度が 0 となる。この位置は

U(x) = E0 (7.6)

より求めることができる.ポテンシャル U(x) = (x2 − 1)2 は x = 0 で極大値 U(0) = 1 をとるので,物体が運動する範囲は E0 > 1 の場合と E0 < 1 の場合では大きく異なる。

Page 10: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.8

(7.3)で決まる領域の端点は,E0 > 1 の場合は

x = ∓√

1 +√

E0 (図 7.1の点 A,B) (8.1)

となり,一方,E0 < 1 の場合は

x = ∓√1 +

√E0 (図 7.1の点 C,D), x = ∓

√1−

√E0 (図 7.1の点 E,F)

となる。したがって,物体が運動する範囲は

−√

1 +√

E0 ≤ x ≤√1 +

√E0 (E0 =

m

2v20 > 1の場合) (8.2)

−√

1 +√

E0 ≤ x ≤ −√1−

√E0 (E0 =

m

2v20 < 1の場合) (8.3)

となる。

E0 < 1 の場合,点 F と点 D の間の領域 (

√1−

√E0 ≤ x ≤

√1 +

√E0) も (7.3) を満たしている。しかし

ながら,出発点 x = −1 から FD の領域に到達するには,(7.3) を満たさない点 E と点 F の間の領域を通らなければならないので,物体は FD の領域には到達できない。

(参考) ≪力学的エネルギーがポテンシャルの極大値に等しいときの運動≫ E0 = 1 のときはつぎのように運動する。v0 < 0 の場合は,いったん x = −

√2 に行った後,x(t) は t とともに増加し lim

t→∞x(t) = 0 となる。一方,

v0 > 0 の場合は,当初から x(t) は t とともに増加し limt→∞

x(t) = 0 となる。いずれの場合も,物体は x = 0 にい

くらでも近づくが x = 0 に達することはない。.運動する範囲はつぎのようにまとめられる.

−√2 ≤ x < 0 (E0 = 1, v0 < 0の場合) (8.4)

−1 ≤ x < 0 (E0 = 1, v0 > 0の場合) (8.5)

1.5 力学的エネルギーが保存されない運動

≪重力と速度に比例する抵抗が働く場合≫ (5.1) を拡張して,重力に加えて速度に比例する抵抗

−bdx

dt≡ −bv

�� ��高木 I (3.12)�� ��戸田 p.55

�� ��佐本 (8.1))

(b > 0:定数,単位は [kg/sec])が働く質点の鉛直線上の運動を考える。このとき,運動方程式は

md2x

dt2= −mg − b

dx

dt(8.6)

となる。

【問.8.1】運動 (8.6) について力学的エネルギー E(t) =1

2mv(t)2 +mgx(t) を t で微分すると −bv(t)2 になるこ

と,すなわち,

dE

dt(t) = −bv(t)2 (8.7)

であることを示しなさい。これによって,質点が運動している限り(v = 0)力学的エネルギーが減少することが分かる。

【答.8.1】dx

dt= v と運動方程式 m

dv

dt= −mg − bv を利用すればつぎが得られる:

dE

dt= mv

dv

dt+mg

dx

dt= v

(mdv

dt+mg

)= v(−bv) = −bv2 . (8.8)

Page 11: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.9

≪終端速度≫ 自由落下 (5.1) では時刻の経過とともに物体の速さ(速度の絶対値)はどんどん大きくなるが,速

度に比例する抵抗も働く場合には速度は一定値( 終端速度 )に近づく。

簡単な議論によって (8.6)の解については limt→∞

dx

dt(t)が存在することがわかるので,これを v∞ と置く。t → ∞

のとき (8.6) の右辺は −mg − bv∞ に収束するから左辺も定数に収束する.ただし,左辺 =(質量)×(加速度)であり,加速度が 0 以外の定数に収束したら速度は定数には収束しないので,左辺は 0 に収束しなければならない。したがって,終端速度は

v∞ = −mg

b

�� ��高木 I (3.24)�� ��戸田 (3.97)

�� ��佐本 (8.15)’ (9.1)

である。

(参考) 物体の速さが大きくなると速さの 2乗に比例する抵抗力が重要になる。�� ��佐本 (8.25)

≪力のポテンシャルによる力と速度に比例する抵抗が働く場合≫

力のポテンシャル U(x) から導かれる力 F (x) = −dU

dx(x) に加えて,速度に比例する抵抗,

− bdx

dt≡ −bv ,

�� ��高木 I (3.12)�� ��戸田 p. 55

�� ��佐本 (8.1) (9.2)

が質点に働く場合を考える。このとき,運動方程式は

md2x

dt2= F (x)− b

dx

dt(9.3)

となる。

【問 9.1】運動 (9.3) について力学的エネルギー E(t) =1

2mv(t)2 + U(x(t)) を t で微分すると −bv(t)2 になるこ

と,すなわち,dE

dt(t) = −bv(t)2 (9.4)

であることを示しなさい。これによって,質点が運動している限り(v = 0),力学的エネルギーが減少することが分かる。

【答 9.1】

dE

dt=

m

2

d

dtv(t)2 +

dU(x(t))

dt= mv(t)

dv(t)

dt+

dU(x)

dx

∣∣∣∣x=x(t)

dx(t)

dt

= v(t)(F (x(t))− bv(t)

)− F (x(t))v(t) = −bv(t)2 . (9.5)

【問 9.2】(9.3)において F (x) = −4x3 + 4x = − d

dx(x2 − 1)2 である場合を考える。時刻 t = 0 での初期条件が

x(0) = 1 , v(0) = v0 ただし,m

2v20 < 1 (9.6)

である場合,時間が十分経過した後の質点の位置 x∞ = limt→∞

x(t) を求めなさい。

【答 9.2】ここでは,時間の経過とともに質点の速度 v(t) =dx

dtと加速度

d2x

dt2がともに 0 に収束する(厳密な議

論を行えばこれが正しいことを示せる)と仮定して,x∞ の候補をまず見つけよう。

Page 12: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.10

仮定により,t → ∞のとき (9.3)の左辺と右辺の第 2項は 0に収束するから,x∞ はF (x∞) = 4x∞(1−x2∞) = 0

を満たすものである。したがって,x∞ は −1,0,1 のいずれかである。時刻 t の質点の力学的エネルギーを E(t) とする。

E(t)− U(x(t)) =m

2v(t)2 ≥ 0 (10.1)

より,時刻 t で質点は領域U(x) ≤ E(t) (10.2)

の中に存在することがわかる。t とともに E(t) は減少するので,物体の存在できる領域の範囲は狭まり,物体は位置エネルギー U(x)が極小となる位置に近づいていく。E(0) < 1より,時刻 t = 0 で物体の運動できる領域内に U(x)の極小は1つしかないので,x∞ = 1であることがわかる。尚,E(0) > 1の場合は,時刻 t = 0 で物体の運動できる領域内に U(x)の極小が2つ (x = ±1)あるので,時間の経過とともに物体がどちらの極小に近づくかはエネルギーの考察だけからはわからない。

(参考) E(0) > 1 の場合の振る舞いはかなり複雑である。力学的エネルギーは減少し続けるが E(t) < 1 になった瞬間に質点が力のポテンシャルの左側の谷 (−

√2, 0) にいるか右側の谷間 (0,

√2) にいるかによって x∞が決ま

る。左側の谷にいれば x∞ = −1,右側の谷にいれば x∞ = 1 である。特別な初期条件の場合には x∞ = 0 となることもある。

x

v

図 10.1 初期条件 (x0 , v0)と x∞ の関係

図 10.1はm = 5,b = 1としたときに初期条件 (x(0) = x0 , v(0) = v0)と x∞ の関係を示す。(x0 , v0)が図の影をつけた領域にあれば x∞ = −1,白い領域にあれば x∞ = 1となる。2つの領域の境界に初期条件がある場合は x∞ = 0となる。2つの領域の境界は不安定な平衡点 (x0 = 0, v0 = 0)の安定多様体と呼ばれる。図 10.1 には

(x0 = 2, v0 = 0)から出発した軌道 (赤の曲線)と E(0) =m

2v20 + U(x0) = 1となる (x0 , v0)の集合 (青の曲線)を

重ねて描いている。

≪熱エネルギーとエネルギー保存則≫ (8.6) や (9.3) のように (速度に比例する)抵抗や摩擦力が働く場合には,力学的エネルギーは保存されず減少するが,熱エネルギーまで含めて考えるとエネルギー保存則が成り立つことが知られている。

�� ��高木 I (5.33)�� ��佐本 p. 96

Page 13: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.11

2 質点の 3 次元運動  �� ��高木 I p. 92

�� ��戸田 3-5�� ��佐本 Lec. 6, 7

2.1 3 次元の運動方程式

≪転置ベクトル,内積,外積≫ この資料ではベクトル (α , β , γ)の 転置ベクトル を (α , β , γ)T で表す。すな

わち,

(α , β , γ)T=

αβγ

(11.1)

である。2 つのベクトル a = (ax , ay , az)T,b = (bx , by , bz)

T の 内積 (スカラー積) は a · b で表し,

外積 (ベクトル積) は a× b で表す:

a · b = axbx + ayby + azbz ,�� ��高木 I (1.11)

�� ��戸田 (3.126)�� ��佐本 (1.24)(11.1)

�� ��三宅線形 6.1 (11.2)

a× b = (aybz − azby , azbx − axbz , axby − aybx)T.

�� ��高木 I (6.12e)�� ��戸田 (5.27)

�� ��佐本 (11.7) (11.3)

≪ 3 次元空間における運動方程式≫ 3 次元空間を運動する質量 m の質点を考える。時刻 t における質点の 位置ベクトル を r(t) = (x(t) , y(t) , z(t))

T,質点に働く力を F (t) = (Fx(t) , Fy(t) , Fz(t))T とすれば,

質点の運動方程式は

md2r

dt2(t) = F (t) (11.4)

となる。これを成分毎に表記すれば

md2x

dt2(t) = Fx(t), m

d2y

dt2(t) = Fy(t), m

d2z

dt2(t) = Fz(t) (11.5)

となる。速度 (ベクトル) v(t) = (vx(t) , vy(t) , vz(t))T=

dr

dt(t) と速さ v(t) は,それぞれ,

v(t) = (vx(t) , vy(t) , vz(t))T=

dr

dt(t) =

(dx

dt(t) ,

dy

dt(t) ,

dz

dt(t)

)T

, (11.6)

v(t) = |v(t)| =√vx(t)2 + vy(t)2 + vz(t)2 (11.7)

である。速度 v(t) = (vx(t) , vy(t) , vz(t))T を利用すれば (11.4),(11.5) は,それぞれ,

mdv

dt(t) = F (t) , (11.8)

mdvxdt

(t) = Fx(t), mdvydt

(t) = Fy(t), mdvzdt

(t) = Fz(t) (11.9)

とも表現できる。運動エネルギー K(t) は

K(t) =1

2m|v(t)|2 =

1

2m(vx(t)

2 + vy(t)2 + vz(t)

2) (11.10)

であり,これを t で微分するとつぎのようになる:

dK

dt(t) = mv(t) · dv

dt(t) . (11.11)

Page 14: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.12

.

d

dt

(a(t) · b(t)

)=

da

dt(t) · b(t) + a(t) ·

db

dt(t) ,

da

dt(t) =

(dax

dt(t) ,

day

dt(t) ,

daz

dt(t)

)T

【問 12.1】(11.11) が成り立つことを示しなさい。

【答 12.1】(11.11) の左辺と右辺を個別に計算して,等しいことを示す:

dK

dt=

d

dt

(1

2m(v2x + v2y + v2z)

)= m

(vx

dvxdt

+ vydvydt

+ vzdvzdt

)(12.1)

mv · dvdt

= m(vx , vy , vz)T ·(dvxdt

,dvydt

,dvzdt

)T

= m

(vx

dvxdt

+ vydvydt

+ vzdvzdt

). (12.2)

(11.11)と運動方程式 (11.8)から次式が得られる:

dK

dt(t) = F (t) · v(t) .

�� ��戸田 (3.139)�� ��佐本 (6.20) (12.3)

2.2 力のポテンシャルによる 3 次元運動

保存力�� ��高木 I (5.38)

�� ��戸田 (3.153)�� ��佐本 (7.1)'

&

$

%

位置 r = (x , y , z)T にある質点にはたらく力が質点の位置の関数である場合,すなわち,

F (r) = (Fx(r) , Fy(r) , Fz(r))T

(12.4)

である場合を考える。3 つの関数 Fx(r),Fy(r),Fz(r) が 1 つの関数 U(r) から

Fx(r) = −∂U

∂x(r), Fy(r) = −∂U

∂y(r), Fz(r) = −∂U

∂z(r) (12.5)

によって導かれるとき,U(r) を位置エネルギーあるいは力のポテンシャルと呼ぶ。関係式 (12.5) を満たす U

が存在するような力 F を 保存力 と呼ぶ。質点に保存力のみが働く場合,質点の力学的エネルギー

E(t) =1

2m|v(t)|2 + U(r(t)) (12.6)

は保存される。(運動の過程で一定の値をとる。)

【注】ナブラと呼ばれるベクトルの形をした微分演算子∇ =

(∂

∂x,∂

∂y,∂

∂z

)T

を用いると,(12.5) は

F (r) = −∇U(r) (12.7)

とまとめて書ける。なお,∇U(r) は U(r) の 勾配(gradient) と呼ばれ, grad U(r) と書かれる

こともある。

【問 12.1】(12.6) の E(t) を t で微分して 0 になることを示しなさい。

【答 12.1】運動エネルギーの時間微分は (12.3)となる。位置エネルギーの時間微分は多変関数の合成関数の微分法�� ��三宅微積 p.86 定理 4.2.4 によってつぎのように計算できる:

dU(r(t))

dt=

∂U

∂x(r(t))

dx

dt+

∂U

∂y(r(t))

dy

dt+

∂U

∂z(r(t))

dz

dt(12.5)= −Fx(r(t))vx(t)− Fy(r(t))vy(t)− Fz(r(t))vz(t) = −F (r(t)) · v(t) . (12.8)

以上よりd

dtE =

d

dt

(K(t) + U(t)

)= 0 となることがわかる。

Page 15: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.13

.

Ax

Ay

Az

×

Bx

By

Bz

=

Ay Bz −Az By

Az Bx −Ax Bz

Ax By −Ay Bx

1 次元運動では位置 x の関数である力 F (x) に対して F (x) = −dU

dx(x) となるポテンシャルが存在するから,

F (x) は必ず保存力であるが,3次元運動では力 F が位置 r の関数であっても,いつでも保存力になるわけではない。

保存力であるための条件'

&

$

%

位置 r の関数である力 F (r) が保存力であるための必要十分条件,すなわち,力のポテンシャルを持つための必要十分条件は

∂Fx

∂y(r) =

∂Fy

∂x(r),

∂Fy

∂z(r) =

∂Fz

∂y(r),

∂Fz

∂x(r) =

∂Fx

∂z(r)

�� ��佐本 (7.25) (13.1)

が成り立つことである。

【注】位置 r の関数である力 F (r) = (Fx(r) , Fy(r) , Fz(r))T の 回転 (rotation) は外積を利用して

∇× F (r) =

(∂Fz

∂y(r)− ∂Fy

∂z(r)

∂Fx

∂z(r)− ∂Fz

∂x(r)

∂Fy

∂x(r)− ∂Fx

∂y(r)

)T

(13.2)

と定義される。回転(rotation)は rot F (r) と書かれることもある。回転を使えば条件 (13.1) は

∇× F (r) = 0 (13.3)

と表現できる。

【問 13.1】力 F (r) = (Fx(r) , Fy(r) , Fz(r))T に対して (12.5) が成り立つポテンシャル U(r) が存在すれば,F (r)

は (13.1) を満たすことを示しなさい。

【答 13.1】2次の偏導関数が偏微分の順序を逆にしても変わらないこと�� ��三宅微積 p.92 定理 4.3.1 から,つぎのように

示される:

∂Fx

∂y− ∂Fy

∂x=

∂y

(−∂U

∂x

)− ∂

∂x

(−∂U

∂y

)= 0 , (13.4)

∂Fy

∂z− ∂Fz

∂y=

∂z

(−∂U

∂y

)− ∂

∂y

(−∂U

∂z

)= 0 , (13.5)

∂Fz

∂x− ∂Fx

∂z=

∂x

(−∂U

∂z

)− ∂

∂z

(−∂U

∂x

)= 0 . (13.6)

【問 13.2】�� ��佐本 p.103

以下に与えられる力が保存力かどうかを判定しなさい。また,保存力の場合は力のポテンシャルを求めなさい。

(1) F (r) =(7yz , 7zx+ 5z , 7xy + 5y + 6z

)T, (13.7)

(2) F (r) =(ky , −kx , 0

)T, k は定数 . (13.8)

【答 13.2】

(1)

∇× F (r) =

(∂(7xy + 5y + 6z)

∂y− ∂(7zx+ 5z)

∂z,∂(7yz)

∂z− ∂(7xy + 5y + 6z)

∂x,∂(7zx+ 5z)

∂x− ∂(7yz)

∂y

)T

= (7x+ 5− 7x− 5 , 7y − 7y , 7z − 7z)T= 0 (13.9)

となるので,この力は保存力である。

Page 16: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.14

次に,力のポテンシャルを求める。まず,∂U

∂x= −7yzの両辺を xについて積分する:

U = −7

∫yzdx = −7xyz + C1(y, z) . (14.1)

ここで,C1(y, z)は xの積分に対する積分定数なので,y や z の関数である可能性がある。次に,上式を∂U

∂y= −7zx− 5zの左辺に代入する:

∂U

∂y= −7xz +

∂C1

∂y(y, z) . (14.2)

これより,C1(y, z)が満たすべき条件∂C1

∂y(y, z) = −5z (14.3)

が得られる。この式を y について積分して

C1(y, z) = −∫

5z dy = −5yz + C2(z) (14.4)

が得られる。C2(z)は yの積分に対する積分定数なので,zの関数である可能性がある。さらに,得られた

結果 U = −7xyz − 5yz + C2(z) を∂U

∂z= −7xy − 5y − 6zの左辺に代入すると

∂U

∂z= −7xy − 5y +

dC2(z)

dz(14.5)

となり,C2(z)が満たすべき条件,dC2

dz(z) = −6z,が得られる。この式を z について積分して

C2(z) = −∫

6z dz = −3z2 + C (14.6)

が得られる。C は積分定数である。以上より,力のポテンシャルは

U(r) = −7xyz − 5yz − 3z2 + C (14.7)

となる。C は任意の定数である。

(2)

∇× F (r) =

(∂0

∂y− ∂(−kx)

∂z,∂(ky)

∂z− ∂0

∂x,∂(−kx)

∂x− ∂(ky)

∂y

)T

= (0 , 0 , −2k)T = 0 (14.8)

となるので,この力は保存力ではない。

保存力ではないので,力のポテンシャルは存在しないが,無理に (1) と同じように積分してみる。まず,∂U

∂x= −kyを xについて積分する:

U = −k

∫ydx = −kxy + C1(y, z) . (14.9)

次に,上式を∂U

∂y= kxの左辺に代入する:

∂U

∂y= −kx+

∂C1

∂y(y, z) . (14.10)

これより,C1(y, z)が満たすべき条件は∂C1

∂y(y, z) = 2kx (14.11)

となるが,C1(y, z)は yと z の関数なので,この等式を満たすことはできない。従って,F (r) = −∇U(r)となる U が存在しないことが確かめられた。

Page 17: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.15

.

d

dx

∫ x

a

f(x′)dx′ = f(x) ,

∫ b

a

dF

dx(x′)dx′ = F (b)− F (a) .

�� ��三宅微積 p.56

(参考) 【問 13.1】より (12.5)が成り立てば (13.1)が成り立つことがわかる。逆に,(13.1)が成り立てば (12.5)を満たす U(r)が存在することは,ベクトル場 (ベクトルの形の関数)の線積分と面積分の間に成り立つストークスの定理やグリーンの定理 (「ベクトル解析」の後半で説明があると思います。)を用いて示すのが自然であるが,ここでは【問 13.2】のように,F (r)を積分して U(r) を求めることができるかどうか,というように考えてみる。Fx(r)を Fx(x, y, z)等と書く。

まず,(12.5)の第 1式,∂U

∂x= −Fx(x, y, z),を xについて x0 から xまで積分する:

U(x, y, z) = −∫ x

x0

Fx(x′, y, z)dx′ + U(x0, y, z) . (15.1)

次に,上式を (12.5)の第 2式,∂U

∂y= −Fy(x, y, z),の左辺に代入する:

∂U

∂y(x, y, z) = −

∫ x

x0

∂Fx

∂y(x′, y, z)dx′ +

∂U

∂y(x0, y, z) . (15.2)

これより,U(x0, y, z)が満たすべき条件は

∂U

∂y(x0, y, z) = −Fy(x, y, z) +

∫ x

x0

∂Fx

∂y(x′, y, z)dx′ (15.3)

となる。もし上式の右辺が xに依存しなければ,(15.3)を満たす U(x0, y, z)が得られる。実際,(13.1)の第 1式を (15.3)右辺の第 2項に代入すると

− Fy(x, y, z) +

∫ x

x0

∂Fy

∂x(x′, y, z)dx′ = −Fy(x, y, z) + Fy(x, y, z)− Fy(x0, y, z) = −Fy(x0, y, z) (15.4)

となり,(15.3)の右辺が xに依存しないことがわかる。以上より,(15.3)を y について y0から yまで積分して次を得る:

U(x0, y, z) = −∫ y

y0

Fy(x0, y′, z)dy′ + U(x0, y0, z) . (15.5)

上式を (15.1)に代入して,

U(x, y, z) = −∫ x

x0

Fx(x′, y, z)dx′ −

∫ y

y0

Fy(x0, y′, z)dy′ + U(x0, y0, z) (15.6)

となる。上式を (12.5)の第 3式,∂U

∂z= −Fz(x, y, z),の左辺に代入して得られる式,

∂U

∂z(x, y, z) = −

∫ x

x0

∂Fx

∂z(x′, y, z)dx′ −

∫ y

y0

∂Fy

∂z(x0, y

′, z)dy′ +∂U

∂z(x0, y0, z) , (15.7)

より,U(x0, y0, z)が満たすべき条件,

∂U

∂z(x0, y0, z) = −Fz(x, y, z) +

∫ x

x0

∂Fx

∂z(x′, y, z)dx′ +

∫ y

y0

∂Fy

∂z(x0, y

′, z)dy′ , (15.8)

が得られる。(13.1)の第 2,3式より,(15.8)の右辺は

−Fz(x, y, z) +

∫ x

x0

∂Fz

∂x(x′, y, z)dx′ +

∫ y

y0

∂Fz

∂y(x0, y

′, z)dy′

= −Fz(x, y, z) + Fz(x, y, z)− Fz(x0, y, z) + Fz(x0, y, z)− Fz(x0, y0, z) = −Fz(x0, y0, z) (15.9)

となり,xと yに依存しないことがわかるので,(15.8)を zについて z0 から zまで積分して

U(x0, y0, z) = −∫ z

z0

Fz(x0, y0, z′)dz′ + U(x0, y0, z0) (15.10)

が得られる。以上より (13.1)を満たす力 F (r)に対して力のポテンシャルが

U(x, y, z) = −∫ x

x0

Fx(x′, y, z)dx′ −

∫ y

y0

Fy(x0, y′, z)dy′ −

∫ z

z0

Fz(x0, y0, z′)dz′ + U(x0, y0, z0) (15.11)

と得られた。

Page 18: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.16

【問.16.1】α を定数,r = |r| =√

x2 + y2 + z2 とする。力

F =α

r3r =

( α

r3x ,

α

r3y ,

α

r3z)T

(16.1)

が力のポテンシャルを持つための条件 (13.1)を満たすことを確かめなさい。また力のポテンシャルを求めなさい。

【答 16.1】

∂r

∂x=

∂x

(x2 + y2 + z2

)1/2=

ds1/2

ds

∣∣∣∣s=x2+y2+z2

∂(x2 + y2 + z2)

∂x=

(1

2

)s−1/2

∣∣∣∣s=x2+y2+z2

2x =x

r(16.2)

となる。同様に以下が得られる:∂r

∂y=

y

r,

∂r

∂z=

y

z. (16.3)

従って,∂Fx

∂y=

∂y

(αxr3

)= αx

∂r−3

∂y= αx

dr−3

dr

∂r

∂y= −3α

xy

r5. (16.4)

同様に,∂Fy

∂x= −3α

xy

r5,

∂Fz

∂y=

∂Fy

∂z= −3α

yz

r5,

∂Fx

∂z=

∂Fz

∂x= −3α

zx

r5(16.5)

が得られ,(13.1)が成り立つことがわかる。

次に力のポテンシャル U(r) = U(x, y, z) を求める。まず,∂U

∂x= −α

x

r3の両辺を xについて積分する:

U = −α

∫x

r3dx . (16.6)

積分変数を xから r =(x2 + y2 + z2

)1/2に変換しよう。(16.2)より,

U = −α

∫x

r31∂r∂x

dr = −α

∫r−2dr = αr−1 + C(y, z) (16.7)

が得られる。ここに C(y, z) は x による積分に対する積分定数なので,y や z の関数である。(16.7)を y や z で偏微分すれば,(16.3)を用いて

∂U

∂y= − α

r2∂r

∂y+

∂C

∂y(y, z) = − α

r3y +

∂C

∂y(y, z) , (16.8)

∂U

∂z= − α

r2∂r

∂z+

∂C

∂z(y, z) = − α

r3z +

∂C

∂z(y, z) (16.9)

となる。−∇U(r) = F (r) となるためには∂C

∂y(y, z) = 0,

∂C

∂z(y, z) = 0 でなければならないので,求めるべき力

のポテンシャルはU(r) =

α

r+ C (16.10)

である(C は定数)。

(参考) α = −Gm1m2 の場合,(16.1) は,原点に固定された質量 m2[kg] の物体が,位置 r にある質量 m1[kg] の物体に及ぼす 重力

( 万有引力 ) を表す。ここに,

G = 6.67 · · · × 10−11 m3/(kg sec2)�� ��高木 I (5.7)

�� ��戸田 (4.50)�� ��佐本 (10.2) (16.11)

は 万有引力定数 である。

α =q1q2

4πε0の場合,(16.1)は,原点に固定された電荷 q2[C]を持つ物体が,位置 rにある電荷 q1[C]を持つ物体に及ぼす クーロン力

を表す (電荷の単位は [C],クーロン (Coulomb))。ここに,

ε0 = 8.85 · · · × 10−12 C2 sec2/(kg m3) (16.12)

は 真空の誘電率 である。

Page 19: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.17

中心力�� ��高木 I (6.1)

�� ��戸田 (3.144)�� ��佐本 p.136'

&

$

%

位置の関数である次のような力

F (r) = f(r)r

r=(f(r)

x

r, f(r)

y

r, f(r)

z

r

)T, r =

√x2 + y2 + z2 (17.1)

は,向きは常に原点と質点の位置(r)を結ぶ直線に沿っており,大きさは原点までの距離 r だけで決まる。このような力を 中心力 ,原点を 力の中心 と呼ぶ。f(r) > 0の場合は力は質点を力の中心から遠ざける向

きに働く 斥力 となる。f(r) < 0の場合は力は質点を力の中心の方に近づける向きに働く 引力 となる。中心力は保存力であり,力のポテンシャルは

U(r) = −g(r) (17.2)

で与えられる。ここに,g(r) はdg

dr(r) = f(r) を満たす関数である。rが増加するとき U(r)が減少する場合は

斥力,増加する場合は引力となる。つまり,力は U(r)が減少する向きに働く。

2.3 質点が運動する範囲

保存力を受ける質点が運動する範囲'

&

$

%

質点が保存力を受けて運動する場合,力学的エネルギー (12.6) は保存される。すなわち,時刻 t = 0 における物体の力学的エネルギーを E(0) とすれば,すべての時刻 t に対して

1

2m|v(t)|2 + U(r(t)) = E(0) (17.3)

である。運動エネルギーは負にならないので,物体が運動できる範囲は不等式

U(r) ≤ E(0) (17.4)

を満たす領域の一部または全部となる。

≪物体が運動する範囲:例1≫

U(x, y, z) =1

2(x2 + y2) + 3x2y2 + y4 (17.5)

の場合を考える。この場合 U(x, y, z)は z に依存しないので xy 平面上の運動として取り扱う(z(0) = 0,vz(0) = 0ならばすべての t に対して z(t) = 0 である)。図 18.1(a)の赤い曲線は U(x, y, z) = 6 となるすべての点 (x, y) をプロットしたものである。同様に,青の曲

線は U(x, y, z) = 1 となるすべての点 (x, y) を,緑の曲線は U(x, y, z) = 12 となるすべての点 (x, y) をプロット

したものである。このような曲線を 等ポテンシャル線 という。赤い等ポテンシャル線上では U = 6,その内側では U < 6,外側では U > 6 である。質量を m = 1 とし,初期値が x(0) = y(0) = 1,vx(0) = vy(0) = 1 の場合の (11.5) の解 x(t),y(t) を計算し,集合 {(x(t), y(t)); 0 ≤ t ≤ 500} をプロットしたのが図 18.1(b)の青い曲線 (質点の軌道)である。E(0) = 6 であるから,この集合 {(x(t), y(t)); 0 ≤ t ≤ 500} は等ポテンシャル線 U = 6とその内部に含まれる。

Page 20: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.18

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-4 -2 0 2 4 x

y

1U =

12U =

6U =

図 18.1(a) U =一定の曲線

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-4 -2 0 2 4 x

y

6U =

図 18.1(b) U = 6の曲線と質点の軌道

≪物体が運動する範囲:例2≫

U(x, y, z) =1

2(x2 + 2y2) (18.1)

の場合を考える。例1の場合と同様に,U(x, y, z)は z に依存しないので xy平面上の運動として取り扱う(z(0) = 0,vz(0) = 0 ならばすべての t に対して z(t) = 0 である)。

図 18.2(a)の赤い曲線,青の曲線,緑の曲線は,それぞれ,等ポテンシャル線 U =3

2,U =

1

4,U = 3 である。

質量 m = 1 とし,初期値が x(0) = y(0) = 1,vx(0) = vy(0) = 0 の場合の (11.5) の解 x(t),y(t) を計算し,集

合 {(x(t), y(t)); 0 ≤ t ≤ 200} をプロットしたのが図 18.2(b)の青い曲線 (質点の軌道)である。E(0) =3

2である

から,この集合 {(x(t), y(t)); 0 ≤ t ≤ 200} は等ポテンシャル線 U =3

2とその内部に含まれる。

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-2 -1 0 1 2 x

y

3

2U =

1

4U =

3U =

図 18.2(a) U =一定の曲線

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-2 -1 0 1 2 x

y

3

2U =

図 18.2(b) U = 3/2の曲線と質点の軌道

例1の場合は等ポテンシャル線とその内部が青い曲線 (質点の軌道)によって埋め尽くされるの対して,例2の場

合は等ポテンシャル線の内部に広い空白部分がある。これは,例2の場合にはE(t) =1

2m|v(t)|2 + U(x(t), y(t), z(t))

に加えて,1

2mvx(t)

2 +1

2x(t)2 ,

1

2mvy(t)

2 + y(t)2 (18.2)

も保存され,質点の運動する範囲が (17.4)よりもさらに限定されるからである。

Page 21: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.19

≪ポテンシャルの勾配と等ポテンシャル面≫ 力のポテンシャル U(r) の値が与えられた定数と等しくなる点 r 全

体は,一般には, 等ポテンシャル面 と呼ばれる面になる。

任意に一点 r0 = (x0 , y0 , z0)T を選び固定しよう。点 r0を含む等ポテンシャル面上の任意の点を r = (x , y , z)

T

とする。すると,U(r) = U(r0) であるから,多変数関数のテイラーの定理 (�� ��三宅微積 §4.3 )から

U(r)− U(r0) = (x− x0)∂U

∂x(r0) + (y − y0)

∂U

∂y(r0) + (z − z0)

∂U

∂z(r0) + o(|r − r0|) = 0 (19.1)

となるので,長さ 1 のベクトル

−−→r0r|r − r0|

=

(x− x0

|r − r0|,

y − y0|r − r0|

,z − z0|r − r0|

)T

(19.2)

∇U(r0) =

(∂U

∂x(r0) ,

∂U

∂y(r0) ,

∂U

∂z(r0)

)T

(19.3)

の内積は r → r0 の極限において 0 になる。

【注】 limh→0

g(h)

hn= 0 が成り立つとき,g(h) を hn よりも 高次 (高位)の無限小 と呼び,g(h) = o(hn) と書く。�� ��三宅微積 p.47

U(r)と∇U(r)の関係��

��

・∇U(r)は U(r) =一定の面 (等ポテンシャル面)に直交し,U(r)が最も急激に増加する向きを向いている。

・保存力は力のポテンシャル (位置エネルギー)が一定の面に直交し,ポテンシャルが最も急激に減少する向きにはたらく。

≪ポテンシャルの勾配と等ポテンシャル面:1つの例≫

図 19.1(b)には U(r) =1

2(x2 + 2y2 + 2z2) の1つの等ポテンシャル面の一部(上半分)と力 F (r) = −∇U(r) =

−(x , 2y , 2z)T が矢印で示されている。また,図 19.1(a)にはいくつかの等ポテンシャル面を平面 z = 0 で切断し

た断面(等ポテンシャル線となる)と力 F (r) が矢印で示されている。(矢印の大きさは正確ではない。)

図 19.1 (a)x-y 平面での U(r) の等高線と F (x, y, 0)

図 19.1 (b)U(r) = 4 の等高面とベクトル場 F (r)

Page 22: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.20

2.4 仕事とエネルギー�� ��高木 I § 5.1, 5.2�� ��戸田 3-8

�� ��佐本 § 6

質量 m の質点が力 F (t) を受けて運動しているとする。運動エネルギー K(t) =1

2m|v(t)|2 の時間変化は

dK

dt(t) = mv(t) · dv

dt(t) = F (t) · v(t)

�� ��戸田 (3.139)�� ��佐本 (6.20) (20.1)

であるから,基準の時刻 t0 から時刻 t までの運動エネルギーの変化分は

K(t)−K(t0) =

∫ t

t0

dK

ds(s)ds =

∫ t

t0

F (s) · v(s)ds (20.2)

となる。(20.2) の右辺を時刻 t0 から t までの間に 質点に力 F がした仕事 という。

運動エネルギーの変化分と仕事'

&

$

%

K(t)−K(t0) = W (t)

(質点の運動エネルギーの変化分) = (質点にはたらく全ての力のした仕事)�� ��佐本 (6.24) (20.3)

が成り立つ。ここで,K(t) =m

2|v(t)|2 は時刻 tの質点の運動エネルギー,

W (t) =

∫ t

t0

F (s) · v(s)ds�� ��高木 I (5.4)

�� ��戸田 (3.130)�� ��佐本 (6.22) (20.4)

は時刻 t0 から t までの間に質点に力 F がした仕事である。単位時間あたりになされる仕事

dW

dt(t) = F (t) · v(t)

�� ��高木 I (5.9)�� ��佐本 (5.33) (20.5)

を 仕事率 という。

【注】質点に複数の力がはたらく場合,例えば F = F 1 + F 2 の場合,Wi(t) =

∫ t

t0

F i(s) · v(s)ds , i = 1, 2 を時

刻 t0 から t の間に i番目の力が質点にした仕事と呼ぶ。この場合K(t)−K(t0) = W1(t) +W2(t)となる。

【注】仕事の単位:エネルギーの単位と同じで [J] = [N ·m] = [kg ·m2/sec2]。仕事率の単位:[J/sec] = [W]。ワット (Watt)という。

≪力 F が一定の場合の仕事≫ この時の仕事は,

W (t) =

∫ t

t0

F · v(s)ds = F ·∫ t

t0

dr

ds(s)ds = F · (r(t)− r(t0)) (20.6)

によって示されるように,力 F と 変位ベクトル r(t)− r(t0) の内積になる。F と r(t)− r(t0) のなす角を θ

とすればW (t) = |F ||r(t)− r(t0)| cos θ

�� ��高木 I (5.2)�� ��戸田 (3.121)

�� ��佐本 (6.1) (20.7)

である。これは

(仕事) = (力の大きさ)×(力の方向の物体の移動距離) (20.8)

= (力の物体の移動方向の成分)×(物体の移動距離) (20.9)

であることを示している。

Page 23: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.21

(参考) 力が位置の関数 F (r)である場合,(20.4)は時刻 t0 での質点の位置 r0 = r(t0)から時刻 t での質点の位

置 r1 = r(t) までを質点の軌道に沿って結んだ経路についての F (r)の 線積分 となる:

W =

∫ t

t0

F (r(s)) · v(s)ds =∫ t

t0

F (r(s)) · dr(s)ds

ds =

∫ r1

r0

F (r) · dr . (21.1)

この場合,W の値は,質点が経路をどのような速度で運動するかに無関係となる。

さらに,力が保存力の場合 (F = −∇U),力が行う仕事は経路の端点 r0 と r1 だけに依存し,端点を結ぶ経路には無関係になる:

W =

∫ r1

r0

F (r) · dr = −∫ r1

r0

∇U(r) · dr = U(r0)− U(r1) . (21.2)

このとき (20.3)と (21.2 ) より,力学的エネルギー保存則

K(t) + U(r(t)) = K(t0) + U(r(t0)) (21.3)

が得られる。

なお,質点に保存力以外の力 ( 非保存力 )がはたらく場合

(質点の力学的エネルギーの変化分) = (質点にはたらく非保存力のした仕事)�� ��佐本 (6.34) (21.4)

となる。

r0を位置エネルギー (力のポテンシャル)の基準点,r1を任意の位置と考えて,F (r)の線積分 (21.2)を用いて,U(r1)を計算することができる。

例えば,(16.1)の場合は r1 = (x , y , z)T と無限遠を結ぶ直線 {r(s) = (sx , sy , sz)

T; 1 ≤ s < ∞} に沿っ

た線積分より

U(r1) = −∫ 1

∞F (r(s)) · dr(s)

dsds =

∫ ∞

1

α

r3s2r1 · r1ds =

α

r

∫ ∞

1

1

s2ds

r

[−1

s

]s=∞

s=1

r(21.5)

が得られる。また,(13.7)の場合は原点と r1 = (x , y , z)T を結ぶ直線 {r(s) = (sx , sy , sz)

T; 0 ≤ s ≤ 1}

に沿った線積分より

U(r)− U(0) = −∫ 1

0

F (r(s)) · dr(s)ds

ds

= −∫ 1

0

(7yzs2 , 7zxs2 + 5zs , 7xys2 + (5y + 6z)s

)· (x, y, z)T ds

= −∫ 1

0

(21xyz s2 + (10yz + 6z2)s

)ds = −

[7xyz s3 + (5yz + 3z2)s2

]s=1

s=0

= −7xyz − 5yz − 3z2 (21.6)

となる。

Page 24: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.22

3 回転運動  �� ��高木 I § 6

�� ��戸田 § 5�� ��佐本 § 11

3.1 質点の角運動量

≪運動量≫ 質量が大きいほど,速く動くほど質点の運動は「激しい」といってよいだろう。このような観点から,質量 m と速度 v(t) の積として 運動量 p(t) が定義される:

p(t) = mv(t) .�� ��高木 I (2.21)

�� ��戸田 (2.4) (22.1)

運動量の単位は [kgm/sec]。

≪角運動量≫ 回転する質点に関しては,回転軸からの距離が長いほど,質量が大きいほど,速く動くほど質点の回転は激しいといってよいだろう。ただし,回転の腕と直交する速度の成分のみが回転の激しさに寄与する。このような観点から,質量 m の質点の位置ベクトルが r(t),速度が v(t) のとき,原点 O に関する質点の 角運動量L(t) が

L(t) = mr(t)× v(t) ≡ r(t)× p(t) ≡ mr(t)× dr

dt(t)

�� ��高木 I (6.14)�� ��戸田 ((5.26)

�� ��佐本 (11.25) (22.2)

と定義される。角運動量の単位は [kgm2/sec]。

( )tr

( )tL

Oq

( )tr

( )tL ( )tL

図 22.1 角運動量の概念図

角運動量 L(t) の大きさは回転の激しさを表し,その向きは回転軸の向きを表す。つまり,r と v のなす角をθ とすれば v(t)

|L| = m|r||v| sin θ, L ⊥(r と v を含む平面) (22.3)

である。図 22.1は,このことを視覚的に表現したものであるが,つぎの問によって数式的にも理解しよう。

Page 25: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.23

.

d sin(ωt)

dt= ω cos(ωt) ,

d cos(ωt)

dt= −ω sin(ωt)

【問 23.1】xy 平面内で,原点 O を中心に半径 r,角速度 ω で等速円運動

r(t) = (r cos(ωt) , r sin(ωt) , 0)T

(23.1)

をしている質量 m の質点を考える。この質点の原点 O に関する角運動量を計算しなさい。

【答 23.1】

v(t) =dr(t)

dt(t) = (−rω sin(ωt) , rω cos(ωt) , 0)

T(23.2)

なので,L(t) =

(0 , 0 , mr2ω

)T(23.3)

となる。

【注】質点が x-y平面内を運動する場合,z(t) = 0 , vz(t) = 0なので, Lx

Ly

Lz

= m

y vz − z vyz vx − x vzx vy − y vx

=

00

m(x vy − y vx

) (23.4)

となり,角運動量は z 軸方向を向く。z > 0 の方から x-y 平面を見ると,

Lz > 0 の場合 : 質点は z 軸のまわりに反時計回りに運動する ,

Lz < 0 の場合 : 質点は z 軸のまわりに時計回りに運動する . (23.5)x

y

z

角運動量の基準点 r0 が原点 O と異なる場合は,位置ベクトル r の代わりに r − r0 を用いて計算すればよい。すなわち,

L(t) = m(r(t)− r0)×d(r(t)− r0)

dt≡ m(r(t)− r0)× v(t) (23.6)

となる。なお,ここでは r0 は空間に固定された (動かない)点としている。

【問 23.2】質量mの質点が xy 平面内で x軸上を正の向きに一定の速さ v0 で運動している。この質点の点 A(0, a, 0)に関する角運動量 LA を求めなさい。さらに,この質点の点 B (0,−a, 0) に関する角運動量 LB を求めなさい。

O x

y

aA

a-B

0v

【答 23.2】質点の位置ベクトル r(t),速度ベクトル v(t) は

r(t) = (v0t+ x(0) , 0 , 0)T, v(t) = (v0 , 0 , 0)

T(23.7)

である。

Page 26: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.24

.

Ax

Ay

Az

×

Bx

By

Bz

=

Ay Bz −Az By

Az Bx −Ax Bz

Ax By −Ay Bx

したがって.点 A(0, a, 0) に関する角運動量は

LA(t) = m

v0t+ x(0)−a0

×

v000

=

00

mav0

, (24.1)

点 B (0,−a, 0) に関する角運動量は

LB(t) = m

v0t+ x(0)a0

×

v000

=

00

−mav0

(24.2)

となる。

3.2 力のモーメント

≪角運動量の時間変化≫ 質量 m の質点の原点 O に関する角運動量の時間変化は

dL

dt(t) =

d

dt(r(t)× p(t)) =

dr

dt(t)× p(t) + r(t)× dp

dt(t) (24.3)

であるが,ベクトルの外積の性質より

dr

dt(t)× p(t) = mv(t)× v(t) = 0 (24.4)

となる。また,質点にはたらく力を F (t)とすると,質点の運動方程式はdp

dt(t) = F (t)なので,

dL

dt(t) = r(t)× F (t)

�� ��高木 I (6.16)�� ��戸田 (5.25)

�� ��佐本 (11.30) (24.5)

となる。なお,(24.5) の右辺

r(t)× F (t) = N(t)�� ��高木 I (6.13)

�� ��戸田 (5.26)�� ��佐本 (11.12) (24.6)

は質点にはたらく点 O に関する 力のモーメント ,または, トルク と呼ばれる。(24.5) は

角運動量の時間変化が力のモーメントに等しい

ことを表している。力のモーメント N は物体にはたらく力が物体をどう回転させようとするかを表すベクトルである。

質点の角運動量と力のモーメント'

&

$

%

質量 m の質点の位置ベクトルを r(t),速度を v(t)とするとき,点 r0 に関する 角運動量 は

L(t) = m(r(t)− r0)×d(r(t)− r0)

dt= m(r(t)− r0)× v(t) (24.7)

となる。質点にはたらく力を F (t)とすると,角運動量の時間変化は

dL

dt(t) = N(t) , N(t) = (r(t)− r0)× F (t) (24.8)

となる。N は点 r0 に関する 力のモーメント またはトルクと呼ばれる。【注】ここでは r0 は空間に固定された (動かない)点としている。【注】角運動量の単位は [kgm2/sec],力のモーメントの単位は [kgm2/sec2]である。

Page 27: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.25

≪中心力による運動と角運動量の保存≫ 質点に中心力がはたらく場合を考える。力の中心 Oを座標系の原点とすると,中心力は

F (r) = f(r)r

r=(f(r)

x

r, f(r)

y

r, f(r)

z

r

)T �� ��高木 I (6.1) (17.1)

と表される。ここで,r =√

x2 + y2 + z2 は力の中心から質点までの距離である。力のモーメントは

N = r × F =f(r)

rr × r = 0 (25.1)

なので,(24.8)より,点 Oに関する角運動量は時間が経過しても変化せず一定の値をとることがわかる。

中心力が働く場合の角運動量の保存�� ��質点に中心力が働いて運動する場合,力の中心に関する角運動量は保存する。

≪角運動量が保存される運動≫ 原点 Oに関する質点の角運動量 L = 0が保存される場合を最初に取り扱う。L = 0であるから,原点 O を含み,L と直交する平面 H が 1 つだけ存在する。L は位置ベクトル r とも速度ベクトルv とも直交するから,r も v も平面 H に含まれる。つぎに,原点 O に関する質点の角運動量 L が恒等的に 0 である場合を考える.この場合は,r と v が平行

か,r = 0 か v = 0 である.いずれにしても質点は直線上を運動することが分かる。

角運動量が保存される場合の質点の運動する範囲��

��

原点 Oに関する質点の角運動量 Lが保存する場合,・L = 0なら,質点は点 Oを含み Lと直交する平面内を運動する。・L = 0なら,質点は点 Oを通る直線上を運動する。

3.3 極座標系での角運動量

角運動量 Lが保存する場合,質点は力の中心を含み L と直交する平面内を運動するので,この平面が x-y平面となり,力の中心を原点 Oとするように座標系をとる。この場合,角運動量は z軸に平行となる:

L = (0 , 0 , Lz)T . (25.2)

2次元の 極座標系 (円座標)では,質点の位置を原点からの距離 r と x 軸

に対する角度 θ で表す (�� ��高木 I p.131

�� ��佐本 §1.11.2�� ��三宅微積 p.88

�� ��川薩四 7.4 ):

x(t) = r(t) cos(θ(t)) , y(t) = r(t) sin(θ(t)) . (25.3)

x

y

θ

r

O

極座標での速度は

vx(t) =d

dt(r(t) cos(θ(t))) =

dr(t)

dtcos(θ(t))− r(t) sin(θ(t))

dθ(t)

dt, (25.4)

vy(t) =d

dt(r(t) sin(θ(t))) =

dr(t)

dtsin(θ(t)) + r(t) cos(θ(t))

dθ(t)

dt(25.5)

となるので,極座標で表した角運動量の z 成分は

Lz = m r(t)2dθ(t)

dt(25.6)

となる。

Page 28: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.26

(参考)�� ��高木 I (6.19)

�� ��佐本 (10.18)

|L|2m

=1

2r(t)2

dθ(t)

dt(26.1)

は 面積速度 と呼ばれ,原点 Oと質点を結んだ直線 ( 動径 と呼ばれる)が単位時間に覆う面積を表す。

図 26.1 ケプラー (Kepler)の法則 「物理」(啓林館)

3.4 極座標系での運動エネルギー

極座標での速度の式 (25.4),(25.5)より,極座標で表した運動エネルギー K は

K =m

2

{(dr(t)

dt

)2

+ r(t)2(dθ(t)

dt

)2}

(26.2)

となる。角運動量 Lが保存し,質点がLと直交する平面内 (これを x-y平面とする)を運動する場合,L = (0, 0, Lz),

Lz = mr(t)2dθ(t)

dtなので,運動エネルギーは角運動量の大きさ |L| = |Lz|を用いて

K =m

2

(dr(t)

dt

)2

+|L|2

2mr(t)2(26.3)

と表される。

力のポテンシャル U(r) から導かれる中心力 F (r) = −dU(r)

dr

r

rのはたらく質量 m の質点の運動では,力学

的エネルギー E と角運動量 Lが保存する。式 (26.3) より,力学的エネルギー E は

E =m

2

(dr(t)

dt

)2

+|L|2

2mr(t)2+ U(r(t)) (26.4)

と書けるので,力の中心から質点までの距離 r(t) の動く範囲は,不等式

E ≥ |L|2

2mr(t)2+ U(r(t)) (26.5)

を満たす領域の内部となる。

Page 29: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.27

(参考) ここでは,関係式 (26.3)を角運動量が保存する場合に導いたが,(26.3)は一般に成り立つ。次の等式(A×B

)·(C ×D

)=

(A ·C

)(B ·D

)−

(A ·D

)(B ·C

) �� ��戸田 p.141 (27.1)

より,角運動量の大きさの 2乗は以下のように表せる:

|L|2 = L ·L =(r × p

)·(r × p

)=

(r · r

)(p · p

)−

(r · p

)2

= r2|p|2 −(r · p

)2

. (27.2)

ここで,r = |r|。また,r · p = mr · dr

dt=

m

2

d

dt

(r · r

)=

m

2

d

dtr2 = mr

dr

dt(27.3)

より,

|L|2 = r2{|p|2 −m2

(dr

dt

)2}

(27.4)

と書ける。K =1

2m|p|2 なので,(26.3)が得られる:

【問 27.1】�� ��佐本 p.106 [2]

原点 Oに固定された質量 M の物体からの万有引力を受けて運動する質量 m の物体の角運動量の大きさが L であるとする。力学的エネルギー E を変えたときの原点 Oから質点までの距離 r(t) の動く範囲はどうなるか?また,r(t)が一定となるのは E がどの値のときか?

【答 27.1】この場合の位置エネルギーは

U(r) = −GmM

r(27.5)

となる。Gは 万有引力定数 と呼ばれ,以下の値を持つ:

G = 6.67 · · · × 10−11 m3/(s2kg) .�� ��高木 I (5.7)

�� ��戸田 (4.50)�� ��佐本 (10.2) (27.6)

物体の力学的エネルギーの値を E とすると

E =m

2

(dr(t)

dt

)2

+|L|2

2mr(t)2−G

mM

r(t)

�� ��高木 I (6.23)’�� ��戸田 (4.69) (27.7)

より,r(t) の動く領域はE ≥ Ueff(r(t)) (27.8)

となる。ここで

Ueff(r) = −a

r+

b

2r2, a = GmM , b =

|L|2

m(27.9)

とした。Ueff(r)の 1次の導関数dUeff(r)

dr=

a

r2− b

r3=

ar − b

r3(27.10)

の符号と 0となる点を表にまとめると

r 0 · · · b/a · · · ∞dUeff (r)

dr − 0 +

Ueff(r) ∞ ↘ −a2

2b↗ 0

極小

(27.11)

となる。これから Ueff(r) の概形を次のように描くことができる:

Page 30: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.28

arb

2 eff

bUa

0 E≤

A

B

C

D

2

02

aE

b− < <

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

-0.5

0.5

2

b

aU

図 28.1 Ueff(r) の概形�� ��戸田 図 4-20

これより,E を変えたときの r(t) の動く範囲は次のようになる:

(1) E < −a2

2b:この場合,E ≥ Ueff(r)となる r が存在しないので,このような運動は起きない。

(2) E = −a2

2b:原点 Oからの距離は一定値 r(t) =

b

a(点 Bに対応)となり,質点は円周上を運動する。また,

(25.6)より,角速度 dθ(t)/dtも一定となるので,質点は 等速円運動 を行う。

(3) −a2

2b< E < 0:dr(t)/dt = 0となるのは,Ueff(r) = E より,

r± = − a

2E

(1±

√1 +

2bE

a2

)(28.1)

となる。原点 Oからの距離は r−(点 Aに対応)と r+(点 Cに対応)の間を繰り返し往復する。

(4) 0 ≤ E:初期値が dr/dt > 0である場合,質点の原点Oからの距離は単調に増加して,r → ∞へと遠ざかる。

初期値が dr/dt < 0である場合,質点の原点Oからの距離は,まず減少して r− =a

2E

(√1 +

2bE

a2− 1

)(点

Dに対応)まで近づく。その後 r は増加に転じ r → ∞へと遠ざかる。

Page 31: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.29

(参考) 万有引力がはたらく場合の質点の軌道は

r =ℓ

1 + e sin(θ + α),

�� ��高木 I (6.29)�� ��戸田 (4.62) (29.1)

となる。ここで,

h =|L|m

, ℓ =h2

GM, e =

√1 +

2Eℓ2

mh2=

√1 +

2bE

a2, α は積分定数 . (29.2)

軌道は E < 0の場合は楕円,E = 0の場合は放物線,E > 0の場合は双曲線,となる。

図 29.1 万有引力がはたらく場合の質点の軌道�� ��高木 I p.135

Page 32: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.30

(参考) 軌道が閉曲線になるのは,位置エネルギーが力の中心からの距離に反比例する場合 (力の大きさは距離の2乗に反比例) に特徴的な結果。この場合,エネルギーと角運動量に加えて,ラプラス (Laplace)ベクトルと呼ばれる次の保存量が存在する;

A =1

m2p×L−GM

r

r. (30.1)

Aの大きさを A とし,Aと rの間の角度を θ とすると,Aと rとの内積,

r ·A = rA cos θ =1

m2r · (p×L)−GMr =

|L|2

m2−GMr , (30.2)

から,r と θの関係式 が得られる;

r =|L|2

GMm2

1 + AGM cos θ

. (30.3)

この式は (29.1)と同じ内容を表す。

逆 2乗力以外の力が働く場合,一般に軌道は閉曲線とはならない。例えば,下図は U(r) = − 1

r1.1の場合

の軌道。r(t)は有限の範囲を動くが軌道は閉じない。

-1 -0.5 0.5 1

-1

-0.5

0.5

1

( )U r E=

図 30.1 m = 1,U(r) = − 1

r1.1の場合の軌道。

初期条件は x(0) = 1 , y(0) = 0,vx(0) = 0 , vy(0) = 0.5 .

Page 33: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.31

4 座標系の運動と慣性力  �� ��高木 I § 7.2

�� ��戸田 § 8-6

≪座標系の運動≫ 静止している直交直線座標系 O-xyz(K 系)に対して,原点が運動している直交直線座標系O′-x′y′z′(K′ 系)を考える。O に関する O′ の位置ベクトルを

−−→OO′ = r0(t) = (x0(t) , y0(t) , z0(t))

T(31.1)

とすると,質点 P の K 系での位置ベクトル r(t) と K′ 系での位置ベクトル r′(t) =(x′(t) y′(t) z′(t)

)Tには

r(t) = r0(t) + r′(t)�� ��高木 I (7.10)

�� ��戸田 (8.99) (31.2)

Ox

y

z

x¢O¢

P

0 ( )tr

( )tr

( )t¢r

という関係がある。加速度については次の関係式が成立する:

d2r

dt2(t) =

d2r0dt2

(t) +d2r′

dt2(t) . (31.3)

運動する座標系での慣性力'

&

$

%

静止している直交直線座標系 O-xyz(K 系)に対して,原点 O’が運動している直交直線座標系 O′-x′y′z′(K′

系)を考える。O に関する O′ の位置ベクトルを−−→OO′ = r0(t) とすると,K系での運動方程式m

d2r

dt2(t) = F (t)

は K′ 系での位置ベクトル r′(t) = r(t)− r0(t)を用いて

md2r′

dt2(t) = F (t)−m

d2r0dt2

(t)�� ��高木 I (7.12) (31.4)

と表され,O′ が加速度運動をしている場合には,右辺に −md2r0dt2

(t) = 0という項が追加される。この項は加

速している電車内や減速しているバスの中などで感じる見かけの力を表す。加速度運動をしている座標系で物体の運動を記述する際に現れるこのような見かけの力を 慣性力 と呼ぶ。K′ 系の基底ベクトルが K 系の基底ベクトルと一致している場合には,K′ 系での運動方程式をつぎのように成分ごとに表現できる:

md2x′

dt2(t) = Fx′(t)−m

d2x0

dt2(t) , (31.5)

md2y′

dt2(t) = Fy′(t)−m

d2y0dt2

(t) , (31.6)

md2z′

dt2(t) = Fz′(t)−m

d2z0dt2

(t) . (31.7)

Page 34: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.32

≪電車内やバスの中で感じる力とみかけの力≫ 電車は x 軸上を正の向きに走行しているものとする。時刻 t における電車の位置を x0(t) する。すると,上で論じたように,外力が働かない場合(Fx′(t) = 0)の運動方程式を電車内(K′ 系)での位置 x′(t) で表現すると

md2x′

dt2(t) = −m

d2x0

dt2(t) (32.1)

となる。電車が加速しているときは加速度d2x0

dt2は正だから,(32.1) の右辺は負であり,私たちは電車の進む向

きとは逆向きの力を感じる。逆に,電車が減速しているときは加速度d2x0

dt2は負だから,(32.1) の右辺は正であ

り,前のめりになりそうな力を感じる。

【問 32.1】演習問題 No.8で考えた単振り子がエレベータ内に設置されているとする。鉛直上向きの大きさ αの加速度でエレベータが運動する場合の,単振り子の運動方程式を求めなさい。

【答 32.1】(31.4)でd2r0dt2

(t) = (0 , α , 0)T なので,慣性力 F in は

F in = (0 , −mα , 0)T

(32.2)

となる。重力 F g とあわせて,F g + F in = (0 , −m(g + α) , 0)

T(32.3)

となるので,解 7-1の (p7.10)で gを g + αに置き換えた結果が得られる:

d2θ

dt2(t) = −g + α

ℓsin(θ(t)) . (32.4)

Page 35: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.33

5 質点系の運動

5.1 質点系にはたらく力

≪質点系とは?≫ 質点系 とは質点の集まりのことである。大きさを持つ物体も,多数の質点の集まりと考えて扱うことができる。

≪内力と外力≫�� ��高木 II p. 5

�� ��戸田 p. 144�� ��佐本 p.163

質点系にはたらく力には,質点系の外から作用する力( 外力 と呼ぶ)と,質点系内の質点相互の間に作用す

る力( 内力 と呼ぶ)がある。

N 個の質点からなる質点系を考える。それぞれの質点の質量を mj(j = 1, 2, · · · , N)とすると,質点系の運動方程式は

mjd2rjdt2

(t) = F j(t) +∑k =j

fkj(t) (j = 1, 2, · · · , N)�� ��高木 II (9.7)

�� ��戸田 (6.8)�� ��佐本 (12.56) (33.1)

となる。ここで,rj(t) は時刻 t での j 番目の質点の位置ベクトル,F j(t) は時刻 t に j 番目の質点にはたらく外力,fkj(t) は時刻 t に k 番目の質点が j 番目の質点におよぼす内力を表す。

作用・反作用の法則 によって

fkj(t) = −f jk(t)�� ��高木 II (9.6)

�� ��戸田 (2.11) (33.2)

が成り立っている。したがって,(33.1) の各運動方程式の和をとると

N∑j=1

mjd2rjdt2

(t) =

N∑j=1

F j(t)�� ��高木 II (9.7)

�� ��戸田 (6.8)�� ��佐本 (12.56) (33.3)

となる。

≪質点系:例1( 2 つの質点と 1 つのばね)≫ 最初の例は図 33.1に示すように,質量 m1 の質点1と質量 m2 の質点2がばね定数 k,自然長 ℓ のばねでつながれている系である。2 つの質点は摩擦のない水平な面上に置かれたものとし,質点はばねの復元力だけを受けて x軸上を運動するものと考える。

1m 2mk ℓ

1( )x t 2 ( )x t x

図 33.1 2つの質点からなる質点系

時刻 t における質点1の位置を x1(t),質点2の位置を x2(t) とする。常に x1(t) < x2(t) であると仮定すれば,時刻 tでのばね長さは x2(t)− x1(t),ばねの伸び(負ならば,縮み)は x2(t)− x1(t)− ℓ であるから,質点1および質点2の運動方程式 (の x成分)は,それぞれ,

m1d2x1

dt2(t) = k(x2(t)− x1(t)− ℓ) , (33.4)

m2d2x2

dt2(t) = −k(x2(t)− x1(t)− ℓ) (33.5)

となる。この質点系の質点数は N = 2,外力は F1(t) ≡ 0,F2(t) ≡ 0,内力は f21(t) = k(x2 − x1 − ℓ),f12(t) =−k(x2 − x1 − ℓ) である。もちろん,作用反作用の法則 f21(t) = −f12(t) が成立している。

Page 36: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.34

ばねにつながれた質点にはたらく力�� ��高木 I p.66

�� ��戸田 p.37�� ��佐本 p.63'

&

$

%

ばね定数 k, 自然長 ℓ のばねの長さが L である場合,ばねが質点におよぼす力の大きさと向きは

・大きさ:k|L− ℓ| ( フックの法則 )

・向き: |L− ℓ|が減少する向き,つまり,ばねが伸びている場合 (L > ℓ)はばねが縮む向き,ばねが縮んでいる場合 (L < ℓ)はばねが伸びる向き

となる。

図 28.1の場合,ばねの左端の座標が x1(t),右端の座標が x2(t)なので,時刻 tのばねの長さはL = x2(t)−x1(t)となる。質点 1にはたらくばねの力,f21(t),を考えると,この力の大きさは k|L− ℓ| = k|x2(t)− x1(t)− ℓ|となる。力の向きは

x2 − x1 > ℓ ばねは伸びている 力は x軸の正の向き ⇒ f21 = +k|x2 − x1 − ℓ| = k(x2 − x1 − ℓ) , (34.1)

x2 − x1 < ℓ ばねは縮んでいる 力は x軸の負の向き ⇒ f21 = −k|x2 − x1 − ℓ| = k(x2 − x1 − ℓ) (34.2)

となる。結局,どちらの場合もf21(t) = k(x2(t)− x1(t)− ℓ) (34.3)

と書ける。

≪質点系:例2( 2 つの質点と 2 つのばね)≫ もう一つの例は下の図 34.1に示すように,質量 m1 の質点1と質量 m2 の質点2がばね定数 k2,自然長 ℓ2 のばねでつながれ,さらに,質点1は一端が壁に固定されたばね定数k1,自然長 ℓ1 のばねでもつながれている系である。2 つの質点は摩擦のない水平な面上に置かれたものとし,質点はばねの復元力だけを受けて一直線上を運動するものと考える。

1m 2m

1( )x t 2 ( )x t

1k 1ℓ

0x =

2k 2ℓ

x

図 34.1 壁につながれた 2つの質点からなる質点系

【問 34.1】質点系:例2について,質点が x軸上を運動するとする。壁の位置を x = 0,時刻 t における質点1の位置を x1(t),質点2の位置を x2(t) とする。常に 0 < x1(t) < x2(t) であると仮定し,質点1および質点2の運動方程式を,それぞれ,書きなさい。さらに,この質点系の外力と内力を明示しなさい。

【答 34.1】左側のばねの伸び (縮み)は x1 − ℓ1,右側のばねの伸び (縮み)は x2 − x1 − ℓ2 だから,運動方程式は

m1d2x1

dt2= −k1(x1 − ℓ1) + k2(x2 − x1 − ℓ2) , (34.4)

m2d2x2

dt2= −k2(x2 − x1 − ℓ2) (34.5)

である。外力はF1 = −k1(x1 − ℓ1) , F2 = 0 , (34.6)

内力はf21 = −f12 = k2(x2 − x1 − ℓ2) (34.7)

である。

Page 37: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.35

5.2 質量中心(重心)の運動方程式

質量中心 (重心)の運動方程式'

&

$

%

N 個の質点からなる質点系を考える。j 番目の質点の質量を mj,位置ベクトルを rj とするとき

rG =1

M

N∑j=1

mjrj�� ��高木 II (9.1)

�� ��戸田 (6.15)�� ��佐本 (12.36) (35.1)

で定まる位置をこの質点系の 質量中心 (重心) と呼ぶ。ここに

M =N∑j=1

mj (35.2)

は質点系の全質量である。質量中心は質点系を代表する位置と考えられる。(33.3) より,質量中心の運動方程式 は

Md2rGdt2

(t) =

N∑j=1

F j(t)�� ��高木 II (9.10)

�� ��戸田 (6.14)�� ��佐本 (12.7) (35.3)

となる。すなわち,

質点系の質量中心 (重心)は,その点に全質量が集まっていて,その点にすべての外力を合成した力がはたらいたとした場合の質点と同じ運動をする。

図 35.1 重心の放物運動と,重心のまわりの回転運動

「物理」(啓林館)

≪質量中心と質量中心の運動方程式の例≫ 質点系:p.28 例1の質量中心 (の x座標) xG(t) は

xG(t) =m1

m1 +m2x1(t) +

m2

m1 +m2x2(t) , (35.4)

質量中心の運動方程式は

(m1 +m2)d2xG

dt2(t) = 0 (35.5)

である。したがって,質量中心の運動は 等速直線運動 となる。

Page 38: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.36

【問 36.1】2つの質点 m1,m2 の質量中心はm1 からm2 に引いた直線をm2 : m1 に内分する点となることを示しなさい。

【答 36.1】

rG =m1r1 +m2r2

m1 +m2= r1 +

m2

m1 +m2

(r2 − r1

)(36.1)

なので,図 36.1の

−→AG =

m2

m1 +m2

(r2 − r1

)=

m2

m1 +m2

−→AB (36.2)

となる。また,

−→GB = r2 − rG =

m1

m1 +m2

(r2 − r1

)=

m1

m1 +m2

−→AB (36.3)

である。以上より,点 Gは直線 AB上にあり,

|−→AG||−→GB|

=m2

m1, (36.4)

つまり |−→AG| : |

−→GB| = m2 : m1 であることがわかる。

図 36.1 2つの質点の重心�� ��戸田 図 6-2�� ��佐本 図 12.7

【問 36.2】N 個の質点 (j = 1 , · · · , N)からなる質点系を2つの部分,すなわち Aグループ (j = 1 , · · · , L)と Bグループ (j = L+1 , · · · , N)に分ける。Aグループの質量中心を rA,Bグループの質量中心を rBとすると,全体の質点系の質量中心は

rG =MArA +MBrB

MA +MB, MA =

L∑j=1

mj , MB =

N∑j=L+1

mj (36.5)

となることを示しなさい。

【答 36.2】それぞれの部分系の質量中心は

rA =

∑Lj=1 mjrj∑Lj=1 mj

=

∑Lj=1 mjrj

MA, rB =

∑Nj=L+1 mjrj∑Nj=L+1 mj

=

∑Nj=L+1 mjrj

MB, (36.6)

なので,MArA +MBrB

MA +MB=

∑Lj=1 mjrj +

∑Nj=L+1 mjrj

M=

∑Nj=1 mjrj

M, M = MA +MA (36.7)

となり,(35.1)の質量中心の式と一致する。

質量が空間に連続的に分布している場合の質量中心 (重心)'

&

$

%

時刻 t の (質量)密度を ρ(r, t)とすると,質量中心の位置ベクトルは次の体積積分 (3重積分)

rG(t) =1

M

∫ ∫ ∫r ρ(r, t)dxdydz (36.8)

で与えられる。

M =

∫ ∫ ∫ρ(r, t)dxdydz (36.9)

は全質量を表す。M は時間によって変化しない。

Page 39: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.37

【問37.1】図 37.1に示すような,一様な密度 ρ0 の物質で作られた,厚さ d,辺の長さが a と b の直角3角形の物体の質量中心の位置を求めなさい。

【答 37.1】直角をはさむ 2辺に沿うように x,y軸を定める。0 ≤ z ≤ dの範囲に物体を置く。この様に座標系をとると,物体の密度は

ρ(r) =

{ρ0 ; 0 ≤ x ≤ a , 0 ≤ y ≤ b− b

ax , 0 ≤ z ≤ d

0 ; 上記以外(37.1)

となる。ここで,r = (x , y , z)T。まず,全質量は

M = ρ0

∫ d

0

dz

∫ a

0

dx

∫ b− bax

0

dy = ρ0d

∫ a

0

(b− b

ax

)dx

= ρ0d

[bx− b

2ax2

]x=a

x=0

= ρ0abd

2(37.2) 図 37.1 直角3角形の重心

となり,確かに (密度)×(体積)となっている。

rG = (xG , yG , zG)T=

ρ0M

∫ d

0

dz

∫ a

0

dx

∫ b− bax

0

dy (x , y , z)T

(37.3)

の各成分を計算する:

xG =ρ0M

∫ d

0

dz

∫ a

0

dxx

∫ b− bax

0

dy =ρ0d

M

∫ a

0

x

(b− b

ax

)dx =

ρ0d

M

[bx2

2− b

3ax3

]x=a

x=0

=ρ0d

M

a2b

6=

a

3, (37.4)

yG =ρ0M

∫ d

0

dz

∫ a

0

dx

∫ b− bax

0

ydy =ρ0d

M

∫ a

0

dx

[y2

2

]y=b− bax

y=0

=ρ0d

2M

∫ a

0

(b− b

ax

)2

dx

=ρ0d

2M

∫ a

0

(b2 − 2

b2

ax+

b2

a2x2

)dx =

ρ0d

2M

[b2x− b2

ax2 +

b2

3a2x3

]x=a

x=0

=ρ0d

2M

ab2

3=

b

3, (37.5)

zG =ρ0M

∫ d

0

zdz

∫ a

0

dx

∫ b− bax

0

dy =ρ0M

[z2

2

]z=d

0

∫ a

0

(b− b

ax

)dx =

ρ0d2

2M

[bx− b

2ax2

]x=a

x=0

=ρ0d

2

2M

ab

2=

d

2. (37.6)

以上より,質量中心の位置ベクトルは以下となる;

rG =

(a

3,b

3,d

2

)T

. (37.7)

【問 37.2】一様な密度 ρ0 の厚さ d の板で作られた3角形の物体の質量中心の位置を求めなさい。3角形は底辺の長さが a + b,高さが hで,図 37.2のように z軸に垂直に底辺が x軸上にあるように置かれている。物体の密度は

ρ(r) =

{ρ0 ; −a ≤ x ≤ b , 0 ≤ y ≤ f(x) , 0 ≤ z ≤ d

0 ; 上記以外(37.8)

となる。ここで,r = (x , y , z)T。また

f(x) =

h+ hax ; −a ≤ x ≤ 0

h− hb x ; 0 ≤ x ≤ b

(37.9)

である。

O

x

y

z

a− b

h

図 37.2 3角形の板の質量中心

Page 40: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.38

【答 37.2】左側 (x < 0)の直角3角形を A,右側 (x > 0)の直角3角形を Bとする。【問 37.1】の結果より,物体Aと Bの質量中心の位置ベクトル,rA と rB は以下のようになる;

rA =

(−a

3,h

3,d

2

)T

, rB =

(b

3,h

3,d

2

)T

. (38.1)

物体 Aおよび Bの質量は,それぞれ

MA =ρ0dah

2, MB =

ρ0dbh

2(38.2)

なので,(36.5)より,この3角形の質量中心は

rG =a

a+ brA +

b

a+ brB =

(b− a

3,h

3,d

2

)T

(38.3)

となる。

【注】3角形を分割せずに,【問 37.1】のように積分計算をしても同じ結果が得られる:

xG =ρ0M

∫ d

0

dz

∫ b

−a

dxx

∫ f(x)

0

dy =ρ0d

M

(∫ 0

−a

dxx

∫ h+hax

0

dy +

∫ b

0

dxx

∫ h−hb x

0

dy

)

=ρ0d

M

(∫ 0

−a

x

(h+

h

ax

)+

∫ b

0

x

(h− h

bx

))=

ρ0d

M

([hx2

2+

hx3

3a

]x=0

x=−a

+

[hx2

2− hx3

3b

]x=b

x=0

)

=ρ0d

M

(−ha2

2+

ha2

3+

hb2

2− hb2

3

)=

ρ0d

M

h(b− a)(b+ a)

6, (38.4)

yG =ρ0M

∫ d

0

dz

∫ b

−a

dx

∫ f(x)

0

dyy =ρ0d

M

(∫ 0

−a

dx

∫ h+hax

0

dyy +

∫ b

0

dx

∫ h−hb x

0

dyy

)

=ρ0d

M

(∫ 0

−a

dx

[y2

2

]h+hax

y=0

+

∫ b

0

[y2

2

]y=h−hb x

0

)=

ρ0d

2M

(∫ 0

−a

dx

(h+

h

ax

)2

+

∫ b

0

dx

(h− h

bx

)2)

=ρ0d

6M

[ah

(h+

h

ax

)3]x=0

x=−a

[b

h

(h− h

bx

)3]x=b

x=0

=ρ0d

6Mh2(a+ b) , (38.5)

zG =ρ0M

∫ d

0

dzz

∫ b

−a

dx

∫ f(x)

0

dy =ρ0M

[z2

2

]z=d

z=0

(∫ 0

−a

dx

∫ h+hax

0

dy +

∫ b

0

dx

∫ h−hb x

0

dy

)

=ρ0d

M

(∫ 0

−a

dx

(h+

h

ax

)+

∫ b

0

dx

(h− h

bx

))=

ρ0d2

2M

([hx+

hx2

2a

]x=0

x=−a

+

[hx− hx2

2b

]x=b

x=0

)

=ρ0d

2

2Mha+ b

2. (38.6)

M = MA +MB = ρ0dha+ b

2なので,

xG =b− a

3, yG =

h

3, zG =

d

2(38.7)

となり,(38.3)と同じになる。

Page 41: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.39

5.3 質量中心 (重心)に対する質点の相対位置ベクトル

≪相対位置ベクトル≫ N 個の質点からなる質点系を考え,それぞれの質点の質量を mj,位置ベクトルを rj(j = 1, 2, · · · , N)とする。質点系の運動は,質量中心の運動と質量中心に対する質点の相対運動を考えるとわかりやすくなる。質量中心の位置ベクトルを rG とする。j 番目の質点の質量中心に対する相対位置ベクトルを r′j (rG を始

点,rj を終点とするベクトル)とすると

rj = rG + r′j�� ��高木 II (9.2)

�� ��戸田 (6.39)�� ��佐本 (12.37) (39.1)

という関係が成り立つ。

≪相対位置ベクトルで捉えた質量中心≫ 質点系の全質量を M =N∑j=1

mj とする.(39.1) の両辺に mj をかけて,

すべての質点について和をとると

N∑j=1

mjrj =N∑j=1

mjrG +N∑j=1

mjr′j =⇒ MrG = MrG +

N∑j=1

mjr′j (39.2)

となる。したがって,N∑j=1

mjr′j = 0

�� ��高木 II (9.5)�� ��戸田 (6.41)

�� ��佐本 (12.39) (39.3)

である。(39.3) は,極めて当たり前のことであるが,相対位置ベクトルで考えたときの質量中心(重心)は原点0 であることを示している。

(例) N = 2 の場合

r′1 =m2

m1 +m2

(r1 − r2

), r′2 =

m1

m1 +m2

(r2 − r1

). (39.4)

(例) N = 3 の場合

r′1 =m2(r1 − r2) +m3(r1 − r3)

m1 +m2 +m3, r′2 =

m1(r2 − r1) +m3(r2 − r3)

m1 +m2 +m3,

r′3 =m1(r3 − r1) +m2(r3 − r2)

m1 +m2 +m3. (39.5)

Page 42: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.40

5.4 質量系の運動量とエネルギー

≪運動量による運動方程式の表現≫ 3 章 回転運動の冒頭で,質点の運動の「激しさ」を表現するものとして,質量 m と速度 v(t) の積である運動量 p(t) を導入した:p(t) = mv(t)。

この質点に力 F (t) が作用するときの運動方程式 mdv

dt(t) = F (t) は運動量 p(t) によって

dp

dt(t) = F (t) とも

表現できる。これによって

力がはたらかないとき質点の運動量は保存される

ことがわかる。

≪質点系の全運動量≫ N 個の質点からなる質点系を考え,それぞれの質点の質量を mj,位置ベクトルを rj(t),

速度ベクトルを vj(t) とする(j = 1, 2, · · · , N)。それぞれの質点の運動量の総和を 質点系の全運動量 という。質点系の全運動量 P (t) については,質点系の質量中心を rG(t),全質量を M とすれば

P (t) =N∑j=1

mjvj(t) =N∑j=1

mjdrjdt

(t) = Md

dt

1

M

N∑j=1

mjrj(t)

= MdrGdt

(t) (40.1)

が成り立つ。質点系の全運動量'

&

$

%

質量 m1 , m2 , · · · ,mN を持つ N 個の質点系を考える。質点系の全運動量を P とすると

P =N∑i=1

midri(t)

dt= M

drG(t)

dt

�� ��高木 II (8.9)�� ��戸田 (6.19) (40.2)

となる。すなわち(質点系の全運動量) = (質量中心の運動量) (40.3)

となる。つまり質点系の全運動量はすべて質量中心の運動で表すことができる。さらに,(35.3) より,つぎの運動量保存則も得られる。

すべての外力を合成した力が 0 のとき,質点系の全運動量は保存され,質量中心は等速直線運動を行う。

Page 43: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.41

.

|a|2 = a · a (a+ b) · (a+ b) = a · a+ 2a · b+ b · b

≪質点系の全エネルギー≫ 質点系の全運動量は質量中心の運動量に等しいが,質点系の全運動エネルギー K(t)と質量中心の運動エネルギー KG(t) についてはどのような関係があるだろうか?

j 番目の質点の質量中心に対する相対位置ベクトルを r′j とすると∣∣∣∣drjdt

∣∣∣∣2 =

∣∣∣∣drGdt +dr′jdt

∣∣∣∣2 =

∣∣∣∣drGdt∣∣∣∣2 + ∣∣∣∣dr′jdt

∣∣∣∣2 + 2drGdt

·dr′jdt

(41.1)

であるから,質点系の全運動エネルギー K(t) について

K(t) =1

2

N∑j=1

mj

∣∣∣∣drjdt

∣∣∣∣2 =1

2

N∑j=1

mj

∣∣∣∣drGdt∣∣∣∣2 + 1

2

N∑j=1

mj

∣∣∣∣dr′jdt

∣∣∣∣2 + N∑j=1

mjdrGdt

·dr′jdt

=1

2M

∣∣∣∣drGdt∣∣∣∣2 + 1

2

N∑j=1

mj

∣∣∣∣dr′jdt

∣∣∣∣2 + drGdt

· d

dt

N∑j=1

mjr′j

(41.2)

が得られる。右辺の第 1 項は質量中心の運動エネルギー (質量中心に全質量が集まって運動する場合の運動エネルギー) KG(t) であり,第 3 項は (39.3) より 0 であるから,

K(t) = KG(t) +1

2

N∑j=1

mj

∣∣∣∣dr′jdt

∣∣∣∣2 �� ��高木 II (9.12)�� ��戸田 (6.43))

�� ��佐本 (12.40) (41.3)

となる。

質点系の全運動エネルギー'

&

$

%

(質点系の全運動エネルギー)

= (質量中心の運動エネルギー) + (質量中心に対する相対運動エネルギー) . (41.4)

質点系の全運動量はすべて質量中心の運動で表すことができるが,全運動エネルギーはすべてを質量中心の運動で表すことはできない。

【問 41.1】≪質点と質点系の衝突≫�� ��高木 II p.36

図 41.1に示すように,摩擦のない水平な面上で一直線 (x軸)上を運動する 3 つの質点を考える。質量 m2 の質点2と質量 m3 の質点3はばね定数 k,自然長 ℓ のばねでつながれ,静止している。時刻 t = 0 に,質量 m1

の質点1が質点2の左側から速度 V (> 0) で衝突した。この衝突が 弾性衝突 ( 衝突する 2つの質点の全運動量と全運動エネルギーが衝突の前後で保存するような衝突) であったと想定して,衝突後の 3 つの質点の運動を調べなさい。

1m 2m k ℓ

1( )x t 2 ( )x t x

V3m

3( )x t

図 41.1 質点と 2質点系の衝突

【答 41.1】時刻 t における質点1の位置を x1(t),質点2の位置を x2(t),質点3の位置を x3(t) とする。x2(0) = 0とすれば,x1(0) = 0,x3(0) = ℓ である.また,以下では,質点1から成る “質点系”を「質点系1」,質点2と質点3から成る質点系を「質点系2」と呼ぶ。

Page 44: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.42

衝突直後の質点1の速度を v1,質点2の速度を v2とする。なお,衝突直後の質点3の速度は 0 である。衝突の前後での運動量と運動エネルギーの保存

m1V = m1v1 +m2v2 ,m1

2V 2 =

m1

2v21 +

m2

2v22 (42.1)

より

v1 =m1 −m2

m1 +m2V, v2 =

2m1

m1 +m2V

�� ��高木 II (9.26)’ (42.2)

が得られる。これより,衝突直後の質点系 1,2の質量中心の速度を VG1 および VG2 とすると,

VG1 = v1 =m1 −m2

m1 +m2V , VG2 =

m2v2m2 +m3

=2m1m2

(m2 +m3)(m1 +m2)V (42.3)

となる。衝突直後の質点系 1,2の質量中心の運動エネルギーは

KG1 =m1

2V 2G1 =

m1

2

(m1 −m2)2

(m1 +m2)2V 2 , KG2 =

m2 +m3

2V 2G2 =

2m21m

22

(m2 +m3)(m1 +m2)2V 2 (42.4)

となり,質点系 1,2の質量中心の運動エネルギーの和

KG1 +KG2 =m1

2V 2 − 2m2

1m2m3

(m2 +m3)(m1 +m2)2V 2 (42.5)

は衝突の直前に比べて減少することがわかる。一方,質点系 1,2の質量中心の運動量の和は

m1VG1 + (m2 +m3)VG2 = m1V (42.6)

となり,衝突の直前と同じである。

次に衝突後の質点の運動を考える。以下では,t > 0 においては,常に x1(t) < x2(t) < x3(t) であると仮定する。(したがって質点間の衝突はおきないとする。) すると,t > 0 では外力が働かないため,それぞれの質点系1,2の質量中心は等速直線運動をする。すなわち,質点1は等速直線運動をし,質点系2の質量中心

xG2(t) =m2

m2 +m3x2(t) +

m3

m2 +m3x3(t) (42.7)

も等速直線運動をする:

x1(t) = VG1t , (42.8)

xG2(t) = xG2(0) + VG2t =m3

m2 +m3ℓ+ VG2t . (42.9)

t > 0 における質点2と質点3の運動方程式は

m2d2x2

dt2= k(x3 − x2 − ℓ) , (42.10)

m3d2x3

dt2= −k(x3 − x2 − ℓ) (42.11)

である。(42.10) の両辺に1

m2を,(42.11) の両辺に

1

m3を乗じ,その後,2つの方程式の差をとれば,質点2に

対する質点3の相対位置

r(t) = x3(t)− x2(t)�� ��高木 II (8.19)

�� ��戸田 (6.26) (42.12)

に対する運動方程式

µd2r

dt2= −k(r − ℓ) (42.13)

が得られる。ここで,µ =

m2m3

m2 +m3

�� ��高木 II (8.21))�� ��戸田 (6.28)

�� ��佐本 (9.43) (42.14)

は 換算質量 と呼ばれる。

Page 45: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.43

この運動方程式 (42.13)の,初期条件 r(0) = ℓ,dr

dt(0) = −v2 を満たす解は

r(t) = ℓ− v2ω

sinωt (43.1)

である。ここに,ω =√k/µ である。

以上によって,質点2と質点3の質量中心 xG2(t) の挙動 (42.9) と質点2に対する質点3の相対位置 r(t) の挙動 (43.1) が示された。質点2と質点3の位置 x2(t) および x3(t) は (42.7),(42.12) から

x2(t) = xG(t)−m3

m2 +m3r(t) , (43.2)

x3(t) = xG(t) +m2

m2 +m3r(t) (43.3)

である。これは,質点2も質点3も振動しながら右方向に進むこと,質点2と質点3の間隔は周期2π

ω= 2π

õ

k

で大きくなったり小さくなったりすることなどを示している。�� ��高木 II 図 9.7

質点系1と質点系2の質量中心の運動エネルギーの和は衝突の前後で保存しないが,質点系1+2の全力学的エネルギーは

E =m1

2

(dx1(t)

dt

)2

+m2

2

(dx2(t)

dt

)2

+m3

2

(dx3(t)

dt

)2

+k

2(x3(t)− x2(t)− ℓ)

2=

m1

2V 2 (43.4)

となり,保存していることがわかる。上の中央の式の第4項は,ばねの弾性力の位置エネルギー

U(x2, x3) =k

2(x3 − x2 − ℓ)

2(43.5)

を表す。これは質点系2の内力に対する力のポテンシャルとなっている:

(質点2に働く内力) = −∂U(x2, x3)

∂x2= k

(x3 − x2 − ℓ

), (43.6)

(質点3に働く内力) = −∂U(x2, x3)

∂x3= −k

(x3 − x2 − ℓ

). (43.7)

【問 43.1】演習問題 10-1で考えた 3質点系について,力のポテンシャル U(x1, x2, x3) を求めなさい。

【答 43.1】2つのばねの弾性力の位置エネルギーの和となる:

U(x1, x2, x3) =k12

(x2 − x1 − ℓ)2+

k22

(x3 − x3 − ℓ)2. (43.8)

U(x1, x2, x3)の微分より,それぞれの質点にはたらく力が得られる:

(質点1に働く内力) = −∂U(x1, x2, x3)

∂x1= k1(x2 − x1 − ℓ) , (43.9)

(質点2に働く内力) = −∂U(x1, x2, x3)

∂x2= −k1(x2 − x1 − ℓ) + k2(x3 − x2 − ℓ) , (43.10)

(質点3に働く内力) = −∂U(x1, x2, x3)

∂x3= −k3(x3 − x2 − ℓ) . (43.11)

Page 46: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.44

5.5 2物体の衝突におけるはねかえり係数 (反発係数)

【注】ここでは,mi は (質点ではなく)質点系 i の全質量を表す。また,xi,vi はそれぞれ質点系 i の質量中心のx座標と速度 (の x成分)を表す。

(質点ではなく)大きさのある物体の位置や速度とは,その物体を構成する質点系の質量中心の位置や速度を意味する。§5.4でみたように,2つの質点系 (物体)の衝突では,衝突の前後で,質点系の質量中心の運動量は保存するが,質量中心の運動エネルギーは保存しない。衝突の前後での運動エネルギーの変化を特徴づけるはねかえり係数 (反発係数)と呼ばれる量を紹介する。

1m 2m

1( )x t 2 ( )x t x

1m 2m

1( )x t 2 ( )x t x

1v

2v

2vɶ

1vɶ

図 44.1 x軸上を運動する 2物体の衝突

簡単のために質点系1 (物体 1)と質点系2 (物体2)が x軸上を運動する場合を考える。物体 iの全質量をmi,物体 iの質量中心の座標を xi とする (i = 1, 2)。2つの物体 (質点系1+2)の質量中心の座標を xG とすると

xG =m1x1 +m2x2

M, M = m1 +m2 (44.1)

より,2つの物体 (質点系1+2)の全運動量は

m1v1 +m2v2 = MdxG

dt, vi =

dxi

dt(44.2)

となる。

µ =m1m2

m1 +m2(44.3)

は物体1と物体2の 換算質量 と呼ばれるが,これについては

m1 = µ+m2

1

m1 +m2, m2 = µ+

m22

m1 +m2(44.4)

という関係がある。換算質量 µ を用いると,物体1と物体2のそれぞれの質量中心の運動エネルギーの和は

1

2m1v

21 +

1

2m2v

22 =

µ

2

(v21 + v22

)+

m21v

21 +m2

2v22

2(m1 +m2)=

µ

2(v1 − v2)

2+ µv1v2 +

m21v

21 +m2

2v22

2(m1 +m2)

2(v1 − v2)

2+

(m1v1 +m2v2)2

2(m1 +m2)=

µ

2(v1 − v2)

2+

M

2v2G (44.5)

となる。ここで,vG =dxG

dtは物体1と物体2の質量中心の速度である。物体 1からみた物体 2の相対座標

x = x2 − x1 (44.6)

を用いるとdx

dt= v2 − v1 なので,

m1

2v21 +

m2

2v22 =

M

2v2G +

µ

2

(dxdt

)2(44.7)

と書ける。

Page 47: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.45

2つの物体の衝突を考える。衝突直前の 2物体の速度が v1,v2 であり,衝突直後に 2物体の速度が v1,v2 になったとする。衝突の前後で全運動量は変わらないから

m1v1 +m2v2 = m1v1 +m2v2 (45.1)

である。したがって (44.2)より, 衝突の前後で2つの物体の質量中心の速度 vG は同じである:

vG =m1v1 +m2v2m1 +m2

=m1v1 +m2v2m1 +m2

. (45.2)

更に,2つの物体の運動エネルギーの和も保存する場合は,(44.7)から相対速度の大きさが衝突の前後で変わらないことがわかる。衝突するのだから,相対速度の向きは,衝突の前後で逆になるので

e ≡ v1 − v2v2 − v1

�� ��高木 II (9.24)�� ��戸田 (2.20)

�� ��佐本 (5.5) (45.3)

で定義された はねかえり係数 (反発係数) を用いると,衝突の前後で2つの物体の運動エネルギーの和は(m1

2v21 +

m2

2v22

)−(m1

2v21 +

m2

2v22

)=

µ

2(v2 − v1)

2 − µ

2(v2 − v1)

2 =µ

2

(1− e2

)(v2 − v1)

2 (45.4)

だけ減少することがわかる。衝突の前後で運動エネルギーの和が減少しない e = 1の場合を 弾性衝突 (完全弾性衝突)

,0 ≤ e < 1 の場合を 非弾性衝突 ,衝突後に2つの物体の速度が一致して一緒に動く e = 0 の場合

を 完全非弾性衝突 と呼ぶ。

直線上を動く 2物体の衝突前後の速度'

&

$

%

質量 m1 と m2 の2つの物体の衝突直前の速度が v1,v2であり,衝突直後に速度が v1,v2になったとする。はねかえり係数 (反発係数)を eとすると

v1 = vG − m2

M(v2 − v1) = vG +

m2

Me(v2 − v1) =

m1 − em2

Mv1 +

m2(1 + e)

Mv2 , (45.5)

v2 = vG +m1

M(v2 − v1) = vG − m1

Me(v2 − v1) =

m1(1 + e)

Mv1 +

m2 − em1

Mv2 (45.6)

という関係がある。

≪壁や床との衝突≫ 質量が相対的に極めて大きい壁や床に物体が衝突する場合を考える。衝突前,壁や床は静止していると考えてよいだろう。図 37.1において m2 は m1 に比べて極めて大きく,v2 = 0 と考えよう。すると,(45.5)と (45.6) から

v1 =m1 − em2

m1 +m2v1 =

m1/m2 − e

m1/m2 + 1v1 , (45.7)

v2 =m1 + em1

m1 +m2v1 =

(1 + e)m1/m2

m1/m2 + 1v1 (45.8)

である。ここで,m1

m2→ 0 の極限を踏まえて

v1 = −ev1, v2 = 0 (45.9)

となる。

Page 48: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.46

(参考) はねかえり係数の値

Colin White, “ Projectile Dynamics in Sport ”,

(Routledge, 2013)

「物理」(啓林館)

h1 の高さから初速度 0で落としたボールのはねかえりの高さ h2 からはねかえり係数を

e =

√h2

h1

により計算した。

図 46.1 硬い床に落とされた場合のはねかえり係数の値

Rod Cross, “Physics of Baseball and Softball”, (Springer, 2011)

図 46.2 ボールの速さによるはねかえり係数の値の変化40 mph (時速 40マイル) ≈ 時速 64km ≈ 18 m/s

Page 49: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.47

6 質点系の角運動量と力のモーメント

6.1 質点系の角運動量

N 個の質点からなる質点系を考え,j 番目の質点の質量を mj,位置ベクトルを rj,速度ベクトルを vj =drjdt

とする(j = 1, 2, · · · , N)。原点 O に関する,質点系を構成する各質点の角運動量の和

L =N∑j=1

mjrj × vj

�� ��戸田 (6.52) (47.1)

を原点 O に関する 質点系の角運動量 という。質量中心の位置ベクトル rG と質量中心に対する相対位置ベクトル r′j = rj − rG を用いると各質点の角運動量は

mjrj × vj = mj(rG + r′j)×(drGdt

+dr′jdt

)= mj

(rG × drG

dt+ rG ×

dr′jdt

+ r′j ×drGdt

+ r′j ×dr′jdt

)(47.2)

と表現できる(j = 1, 2, · · · , N)。M =

N∑j=1

mj とすれば

L =N∑j=1

mjrj × vj =N∑j=1

mj

(rG × drG

dt+ rG ×

dr′jdt

+ r′j ×drGdt

+ r′j ×dr′jdt

)

= MrG × drGdt

+ rG × d

dt

N∑j=1

mjr′j

+

N∑j=1

mjr′j

× drGdt

+N∑j=1

mjr′j ×

dr′jdt

(47.3)

であるが,(39.3) によりN∑j=1

mjr′j = 0 であるから

L = MrG × drGdt

+N∑j=1

mjr′j ×

dr′jdt

= LG +L′�� ��高木 II (8.37)

�� ��戸田 (6.64)�� ��佐本 (12.55) (47.4)

となる。ここに

LG = MrG × drGdt

�� ��戸田 (6.61) (47.5)

は原点 O に関する質量中心の角運動量,すなわち,質点系の全質量が質量中心に集中したと考えた場合の角運動量であり,また,

L′ =

N∑j=1

mjr′j ×

dr′jdt

�� ��戸田 (6.63) (47.6)

は質量中心に関する各質点の角運動量の和である。以上は

(原点 O に関する質点系の角運動量) = (原点 O に関する質量中心の角運動量)

+(質量中心に関する各質点の角運動量の和) (47.7)

とまとめられる。たとえば,太陽のまわりを回る地球の角運動量については

(原点[太陽]に関する地球の角運動量)) = (地球の中心が原点[太陽]を公転する角運動量)

+(地球の中心に関する相対運動[地球の自転]の角運動量) (47.8)

ということを示している。�� ��高木 II p.28

Page 50: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.48

6.2 質点系にはたらく力のモーメント

原点 O に関する質点の角運動量の時間変化が原点 O に関する質点にはたらく力のモーメント (位置ベクトルと質点にはたらく力の外積)に等しいことが (24.5),(24.6) に示されている。

N 個の質点からなる質点系を考え,j 番目の質点の位置ベクトルを rj,この質点にはたらく外力を F j とする(j = 1, 2, · · · , N)。また,k 番目の質点が j 番目の質点におよぼす内力を fkj とする(k = j)。すると,j 番目の質点にはたらく力の和は

F j +∑k =j

fkj (48.1)

だから j 番目の質点にはたらく原点 O に関する力のモーメントN j は

N j = rj ×

F j +∑k =j

fkj

(48.2)

である(j = 1, 2, · · · , N)。質点系の角運動量は各質点の角運動量の和であるから,質点系の角運動量の時間変化は各質点にはたらく力のモーメントの和

dL

dt=

N∑j=1

N j =N∑j=1

rj × F j +N∑j=1

∑k =j

rj × fkj (48.3)

に等しい。しかしながら,すべてのペア k = j について f jk = −fkj(作用・反作用の法則)であり,また,f jk = −fkj は rj − rk と平行であるから

rj × fkj + rk × f jk = (rj − rk)× fkj = 0 (48.4)

となっている。以上より, 質点系の角運動量の時間変化は外力の力のモーメントのみによって決まる:

dL

dt= N =

N∑j=1

rj × F j .�� ��高木 II (9.18)

�� ��戸田 (6.57)�� ��佐本 12.33 (48.5)

質量中心の位置ベクトル rG と質量中心に対する相対位置ベクトル r′j = rj − rG を用いると,質点系にはたらく外力のモーメント N は

N =N∑j=1

(rG + r′j)× F j = rG ×N∑j=1

F j +N∑j=1

r′j × F j = NG +N ′�� ��戸田 (6.68) (48.6)

と表現できる。ここに,

NG = rG ×N∑j=1

F j

�� ��戸田 (6.66)�� ��佐本 (13.55) (48.7)

は外力がすべて質量中心にはたらくと捉えたときの,原点 O に関する外力のモーメントであり,また,

N ′ =

N∑j=1

r′j × F j (48.8)

は質量中心に関する各質点にはたらく外力のモーメントの和である。

質点系の角運動量 L と質点系にはたらく外力のモーメントN については,dL

dt= N という関係 (48.5)が成

り立つが,質量中心の角運動量 LG と外力のモーメント NG や質量中心に関する各質点の角運動量の和 L′ と外力のモーメントの和 N ′ についても同様な関係があるのか調べてみよう。

Page 51: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.49

M =N∑j=1

mj とする。質量中心の運動方程式 (35.3) Md2rGdt2

=N∑j=1

F j より

dLG

dt=

d

dt

(rG ×M

drGdt

)=

drGdt

×MdrGdt

+ rG ×Md2rGdt2

= rG ×N∑j=1

F j

= NG

�� ��高木 II (9.20)�� ��戸田 (6.70)

�� ��佐本 (13.54) (49.1)

が成り立つ。従って,(47.4)と (48.6)より,

dL′

dt= N ′

�� ��高木 II (9.21)�� ��戸田 (6.71)

�� ��佐本 (13.54) (49.2)

が得られる。(49.1)と (49.2)により,角運動量に対する運動方程式は質量中心 (重心)に関する式と,質量中心のまわりの角運動量に対する式に分離して捉えることができる。

質点系の角運動量'

&

$

%

N 個の質点からなる質点系を考え,j 番目の質点の質量を mj,位置ベクトルを rj,速度ベクトルを vj =drjdt

とする(j = 1, 2, · · · , N)。原点 O に関する,質点系を構成する各質点の角運動量の和 (質点系の角運動量)

L =

N∑j=1

mjrj × vj

�� ��戸田 (6.52) (49.3)

に対して,以下が成り立つ:

L = LG +L′ ,�� ��高木 II (8.37)

�� ��戸田 (6.64)�� ��佐本 (12.55) (49.4)

LG = MrG × drGdt

, L′ =

N∑j=1

mjr′j ×

dr′jdt

. (49.5)

ここに,r′j = rj − rGは質点 j の質量中心に対する相対位置ベクトル,LGは原点 O に関する質量中心の角運動量,L′ は質量中心に関する各質点の角運動量の和である。

質点系の角運動量の時間変化は外力の力のモーメントのみによって決まり,以下が成り立つ:

dLG

dt= NG , NG = rG ×

N∑j=1

F j .�� ��高木 II (9.20)

�� ��戸田 (6.70)�� ��佐本 (13.54) (49.6)

ここに,NG は外力がすべて質量中心にはたらくと捉えたときの,原点 O に関する外力のモーメントである。

dL′

dt= N ′ , N ′ =

N∑j=1

r′j × F j .�� ��高木 II (9.21)

�� ��戸田 (6.71)�� ��佐本 (13.54) (49.7)

ここに,N ′ は質量中心に関する各質点にはたらく外力のモーメントの和である。

Page 52: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.50

7 剛体の運動

7.1 剛体

≪剛体とは≫ 変形を無視できる物体を 剛体 と呼ぶ。変形を無視できなくても,簡単のため剛体として取り扱うことも多い。剛体は,すべての質点と質点の距離が時間的に変化しない質点系としても捉えることができる。

≪空間配置の自由度≫ 1 つの質点の位置を決めるには,たとえば,x 座標,y 座標,z 座標というように 3 つの数が必要である。直交座標系ではなく,円柱座標系や球座標系を使う場合であっても,1 つの質点の位置を決めるには 3 つの数が必要である。このことを「質点の 自由度 は 3 である」という。

1 つの質点の自由度が 3 であるので,N 個の質点から構成される質点系の自由度は,もし制約がなにもなければ 3N となる。一方,大きさを持ったり,数多くの質点から構成される剛体の自由度はたったの 6 である。大きさを持ったり,数多くの質点から構成されるけれども,すべての質点と質点の距離が時間的に変化しないしないという制約のためため,自由度はたったの 6 にとどまるのである。

それではどのような 6 つの数によって剛体の空間配置を決定できるだろうか?例えば,剛体内の異なる 2点 A,Bの座標 (xA, yA, zA),(xB , yB , zB)と点 A,B を通る直線のまわりでの剛体の回転角 θ によって剛体の空間配置は決定される。一見すると 7 つの数が必要のようであるが,A と Bの間の距離が一定であることから,(xA, yA, zA),(xB , yB , zB) のうちの1 つの数は他の 5 つの数で表現できるので,剛体の自由度は 6 である。�� ��高木 II §10.1

A

B

q

図 50.1 剛体の自由度

≪剛体の運動の表現≫ 一般に,剛体の運動は剛体の質量中心の運動を表す 3 つの方程式と質量中心のまわりの回転運動を表す 3 つの方程式によって決定される。

7.2 固定軸のまわりを回転する剛体

剛体が固定された軸のまわりを回転する運動を考える.この場合,剛体の空間配置は固定軸のまわりの回転角だけで定まる.すなわち,固定軸のまわりを回転する剛体の自由度は 1 である.このことは,回転角の時間変化によってこの剛体の運動を完璧に理解できることを示す。剛体の角運動量は,剛体を多数の微小部分に分け,それぞれの微小部分を質点と見なして計算した角運動量の

和として求める。

( )j

tq a+

x

y

z

q

O

jℓ

jℓ

( )jtr

jz

( ) jt xyr

図 50.2 固定軸のまわりに回転する剛体

固定軸を z 軸とする。剛体内の 1 つの微小部分の角運動量の計算から始めよう。微小部分の質量を mj とする。微小部分は z 軸のまわりを回転するから,xy 平面に平行な面の上を運動する。したがって,z 軸からの距離ℓj は一定であり,位置ベクトル rj(t) は

Page 53: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.51

rj(t) = (ℓj cos(θ(t) + αj) , ℓj sin(θ(t) + αj) , zj)T

(51.1)

で与えられる。ここに,zj は微小部分の z 座標,θ(t) + αj は時刻 t において,rj(t) を xy 平面に射影したベクトルと x の正の向きがなす角である.微小部分の速度ベクトルは

vj(t) =drjdt

(t) = ℓjω(t) (− sin(θ(t) + αj) , cos(θ(t) + αj) , 0)T

(51.2)

となる。ただし,

ω(t) =dθ

dt(t)

�� ��戸田 (7.3) (51.3)

は剛体の 角速度 である。したがって,原点 O に関するこの微小部分の角運動量 Lj(t) は

Lj(t) = mjrj(t)× vj(t) = mjℓjω(t) (−zj cos(θ(t) + αj) , −zj sin(θ(t) + αj) , ℓj)T

(51.4)

である。微小部分の角運動量の和である剛体の角運動量 L(t) についても,その z 成分 Lz(t) は

Lz(t) =

N∑j=1

mjℓ2j

ω(t) = Iω(t)�� ��高木 II (11.3)

�� ��戸田 (7.6)�� ��佐本 (13.9) (51.5)

と定まる。ここに,

I =N∑j=1

mjℓ2j

�� ��高木 II (11.4)�� ��戸田 (7.5) (51.6)

は剛体の 慣性モーメント と呼ばれる。

剛体が,棒,輪(リング),円板,円柱,中空円柱,円筒(パイプ),球,球殻(サッカーボール),直方体のような長さや面積や体積を持つ連続体である場合には,剛体を微小部分に分けるという操作を限りなく細かく行う必要があり,(51.6)の和は積分になる。このことについては,具体的な例を通してつぎの節で解説する。

時刻 t において剛体にはたらく外力のモーメントが N(t) =(Nx(t) Ny(t) Nz(t)

)Tであれば,(51.5) から

角運動量に関する方程式dL

dt= N の z 成分が θ の時間変化を定める方程式

Id2θ

dt2(t) = Nz(t)

�� ��高木 II (11.5)�� ��戸田 (7.8)

�� ��佐本 (13.11) (51.7)

となる。この方程式 (51.7) が固定軸のまわりを回転する自由度 1 の剛体の運動を記述するものとなる。

この剛体の運動エネルギー K は (51.2) より

K =N∑j=1

1

2mj |vj(t)|2 =

1

2|ω(t)|2

N∑j=1

mjℓ2j =

1

2I|ω(t)|2

�� ��高木 II (11.40)�� ��戸田 (7.18)

�� ��佐本 (13.14) (51.8)

と,慣性モーメントと角速度によって表現できる。

Page 54: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.52

固定軸のまわりに回転するする剛体の慣性モーメント'

&

$

%

固定軸 (z軸とする)のまわりに角速度 ω(t)で回転する剛体の角運動量の z成分は

Lz(t) = Iω(t)�� ��高木 II (11.3)

�� ��戸田 (7.6)�� ��佐本 (13.9) (52.1)

となる。ここに,

I =N∑j=1

mjℓ2j

�� ��高木 II (11.4)�� ��戸田 (7.5) (52.2)

は剛体の 慣性モーメント と呼ばれる。ℓj =√x2j + y2j は固定軸から質点までの距離である。質量が連続的

に分布している場合は,慣性モーメントは次の体積積分,

I =

∫ ∫ ∫(x2 + y2)ρ(r)dxdydz (52.3)

で定まる。ここに ρ(r)は質量密度である。剛体にはたらく外力の力のモーメントの z成分を Nz(t)とすると,剛体の回転運動の方程式は以下となる:

Idω

dt(t) = Nz(t) .

�� ��高木 II (11.5)�� ��戸田 (7.8)

�� ��佐本 (13.11) (52.4)

この剛体の運動エネルギー K は以下のように慣性モーメントと角速度によって表現できる:

K =

N∑j=1

1

2mj |vj(t)|2 =

1

2|ω(t)|2

N∑j=1

mjℓ2j =

1

2I|ω(t)|2 .

�� ��高木 II (11.40)�� ��戸田 (7.18)

�� ��佐本 (13.14) (52.5)

7.3 剛体の慣性モーメントの計算

この節では,単純な形状を持つ剛体の慣性モーメントを計算する。

≪ 1 質点の慣性モーメント≫ 質量が無視できる伸び縮みしない長さ a の棒の先端に質量 m の質点がつながれている。図 52.1(a)のように,棒のもう一方の端を回転軸である z 軸につなぐ。棒と z 軸がなす角を θ とする。このとき,質点と z 軸の距離は a sin θ であるから,この質点の慣性モーメント I は

I = m (a sin θ)2= ma2 sin2 θ (52.6)

である。

≪ 2 質点の慣性モーメント≫ 質量が無視できる伸び縮みしない長さ a の棒の両端に質量 m1 の質点1と質量 m2

の質点2がつながれている。図 52.1(b)のように,この棒の質点1からの距離が b(0 ≦ b ≦ a)のところを回転軸である z 軸につなぐ。棒と z 軸がなす角を θ とする。この質点系の慣性モーメント I はつぎのようになる:

I = m1 (b sin θ)2+m2 ((a− b) sin θ)

2= (m1b

2 +m2(a− b)2) sin2 θ . (52.7)

z

q

O

m

a

z

q

O

1m

2m

a b-

b

(a) (b)

図 52.1

Page 55: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.53

.

limN→∞

∆N∑

j=1

f(α+∆j) =

∫ β

αf(x)dx , ∆ =

β − α

N

�� ��三宅微積 定理 3.4.2’,p.75

≪棒の慣性モーメント≫ 長さ a,線密度 (単位長さあたりの質量)ρ0 の棒 (質量はM = ρ0a)の端から b (0 ≤ b ≤ a)の位置に回転軸である z 軸を棒に垂直にとりつけた場合の慣性モーメントを計算しよう。

z

O

a b-b

図 53.1 z軸のまわりに回転する棒

N を自然数として棒を N 等分し,∆ =a

Nとする。棒が x軸上にあると考える。z 軸から j 番目の微小部分

の右端の位置は xj = −b+ j∆,微小部分の質量は ρ∆ である。棒をこの N 個の微小部分から構成される質点系

と考えれば,その慣性モーメントはN∑j=1

ρ∆x2j となる。ここで,N → ∞ とすれば,剛体の本当の慣性モーメント

がつぎのように得られる:

I = limN→∞

∆N∑j=1

ρx2j =

∫ a−b

−b

ρx2dx = ρ

[x3

3

]a−b

−b

= ρ(a− b)3 − (−b)3

3=

ρ0a

3(a2 − 3ab+ 3b2)

=M

3(a2 − 3ab+ 3b2) =

M

12

(a2 + 12

(b− a

2

)2). (53.1)

棒の慣性モーメントは回転軸を棒の端にとりつけた場合 (b = 0)に最大値

I =Ma2

3

�� ��高木 II (11.11) (53.2)

になり,回転軸を棒の中心 (質量中心の位置)にとりつけた場合 (b = a/2)に最小値

I =Ma2

12

�� ��高木 II (11.12)�� ��佐本 (13.45) (53.3)

となる。

≪輪 (リング)や円筒 (パイプ)の慣性モーメント≫ 半径 aの輪や円筒を考える。回転軸である z 軸がこの輪の中心を垂直に貫くように輪を xy 平面の上に置く (図 53.2)。輪や円筒をN 個の部分に分割してN → ∞の極限を考える。このとき,分割された j 番目の部分の質量をmj,回転軸からの距離を ℓj とすると,すべての部分について ℓj = aなので,(52.2)より

I = limN→∞

N∑j=1

mjℓ2j = lim

N→∞a2

N∑j=1

mj = Ma2�� ��高木 II (11.10) (53.4)

となる。ここでM は輪あるいは円筒の質量である。

z

O

aa

図 53.2 半径 aの輪

Page 56: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.54

≪円柱の慣性モーメント≫ 半径 a,高さ h,密度 ρ0 の円柱の質量は M = πρ0a2h である。回転軸である z 軸が

円柱の中心軸と一致するとき (図 54.1)の慣性モーメントはつぎのように計算される:

I =

∫ h/2

−h/2

∫ ∫x2+y2≤a2

ρ0(x2 + y2)dxdydz = ρ0h

∫ ∫x2+y2≤a2

(x2 + y2)dxdy . (54.1)

ここで円柱の質量中心が座標系の原点に一致するように z 軸を定めた。極座標 x = r cos θ,y = r sin θ を用いれば,dxdy → rdrdθ (

�� ��三宅微積 p.118 )であるから

I = ρ0h

∫ a

0

∫ 2π

0

r2rdθdr = 2πρ0h

[r4

4

]a0

=1

2πρ0ha

4

=1

2Ma2

�� ��高木 II (11.15)�� ��戸田 (7.30)’

�� ��佐本 (13.46)’ (54.2)

となる。回転軸に近いところに質量が分布しているので同じ質量の円筒より慣性モーメントの値は小さくなる。

z

O

aa

h

図 54.1 半径 aの円柱

7.4 剛体の回転運動

この節では固定軸のまわりの回転運動について一つの例を考える。図 54.2に示すように,中心軸を固定軸として回転できる,半径 a,高さ h,密度 ρ0 の円柱を取り扱う(固定軸を z 軸とする)。円柱に伸び縮みしない軽い糸を巻いて一定の大きさ F の力で引くものとする。時刻 t = 0 で円柱は静止していたものとして,時刻 t での円柱の回転角 θ(t) を求めたい。

z

F

F

y

x

( )tq

図 54.2 糸で引っ張られ回転する円柱

力が作用する点が xy 平面上にあるよう,図 47.2の右の図のように x 座標,y 座標をとる。すると,力が作用する位置は

r = (−a , 0 , 0)T, (54.3)

作用する力はF = (0 , −F , 0)

T(54.4)

であるから外力のモーメント N は

Page 57: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.55

N = r × F = (−a , 0 , 0)T × (0 , −F , 0)

T= (0 , 0 , aF )

T(55.1)

である。一方,(54.2) よりこの円柱の慣性モーメント I は

I =1

2Ma2, M = πρa2h:円柱の質量 (55.2)

である。したがって (52.4) よりこの円柱の運動方程式は

Id2θ

dt2= aF ⇐⇒ d2θ

dt2=

2F

Ma

�� ��高木 II (11.26) (55.3)

となるので円柱の角速度は一定の割合で増加する (等角加速度運動)。角加速度は2F

Maであるが,これは,質量が

同じなら半径が大きいほど回しにくいこと,半径が同じなら質量が大きいほど回しにくいことを示している。

z

m

F

F

mg

図 55.1 おもりで回転する円柱

以上の考察で扱った糸を引く力 F が図 55.1のように糸の先につながれた質量 m のおもりによって生じるものとしてその大きさ F を求めよう。おもりは z 方向のみに運動するものとし,時刻 t におけるおもりの z 座標を z(t) とする。重力加速度の大きさを g とすると,おもりの運動方程式は

md2z

dt2(t) = F −mg

�� ��高木 II (11.25) (55.4)

となる。また,糸は伸び縮みしないので

dz

dt(t) = −a

dt

�� ��高木 II (11.27) (55.5)

という関係が成り立つ。この 2式から得られる

−mad2θ

dt2(t) = F −mg (55.6)

と (55.3) から

−ma2F

Ma= F −mg (55.7)

となる。したがって,力 F,等角加速度運動をする円柱の回転角の角加速度 aθ (単位は [rad/sec2]),おもりの加速度 am(単位は [m/sec2])は,それぞれ,

F =M

M + 2mmg, aθ =

2F

Ma=

2m

M + 2m

g

a, am =

F

m− g = − 2m

M + 2mg

�� ��高木 II (11.29)’,(11.30)’ (55.8)

となる。

Page 58: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.56

7.5 回転と移動を含む剛体の運動

前節で扱った剛体の運動では,回転軸が固定されていた.この節では,剛体の質量中心が時間とともに移動しながら回転運動も起きているような一つの例を考える。

x

y

z

a

F

a

h

NF

MG

図 56.1 斜面を転がり落ちる円柱

図 56.1のように,水平から α だけ傾いた粗い斜面を,密度 ρ0,半径 a,高さ h の円柱(質量は M = πρ0a2h)

が滑らずに転がる状況を取り扱う。�� ��高木 II p.114

�� ��戸田 p.178�� ��佐本 p.196, 例題 6 時刻 t = 0 において円柱を静かに

離すとき,時間の経過ととも斜面に沿って円柱が進む距離を求めたい。斜面に平行で下向きに x 軸を,斜面に垂直で下向きに y 軸を,紙面の裏から表の向きに z 軸をとる。時刻 t における円柱の質量中心の位置ベクトルをrG(t) = (xG(t) , yG(t) , 0)

T,x 軸から反時計回りの回転角を θ(t) とする。

重力加速度の大きさを g とすると,円柱にはたらく外力は

重力:MG , G = (g sinα , g cosα , 0)T

(56.1)

斜面からの垂直抗力:FN = (0 , −FN , 0)T

(56.2)

静止摩擦力 F = (−F , 0 , 0)T

(56.3)

である。運動する物体にはたらく摩擦力が 静止摩擦力 というと,ちょっと気になるが,滑らないで転がる状況を設定しているので,円柱と斜面が接するところでは相対的な運動がないので静止摩擦力がはたらくことになる。

最初に,質量中心の運動方程式 (35.3) をこの問題に適用する。外力は MG,FN,F であるから質量中心の運動方程式は

Md2rGdt2

= MG+ FN + F (56.4)

となり,この x 成分,y 成分は,それぞれ,

Md2xG

dt2= Mg sinα− F ,

�� ��高木 II (12.6)�� ��佐本 (13.70) (56.5)

Md2yGdt2

= Mg cosα− FN

�� ��佐本 (13.71) (56.6)

である。この問題では yG(t) ≡ −a であるから,FN はつぎの通りである:

FN = Mg cosα . (56.7)

次いで,質量中心に関する角運動量 L′ と質量中心に関する外力のモーメント N ′ の間に成り立つ式 (49.7),dL′

dt= N ′ をこの問題に適用する。質量中心に関する角運動量 L′(t) やその z 成分 Lz(t) は (51.2)-(51.6),(54.2)

と同様に計算でき,Lz(t) は

Page 59: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.57

Lz(t) = Iω(t), I =1

2Ma2, ω(t) ≡ dθ

dt(t) (57.1)

となる.重力は質量中心にまとめてはたらくと考えることができる。垂直抗力と静止摩擦力は円柱が斜面に接するところではたらく。さらに,円柱は z = 0 を中心にして高さ方向に対称だから,垂直抗力と静止摩擦力がはたらくの点の質量中心に対する相対位置ベクトルは (0 , a , 0)

T としてよい。したがって,質量中心に関する外力のモーメント N ′ は

N ′ = (rG(t)− rG(t))×MG+ (0 , a , 0)T × (FN + F ) = (0 , 0 , aF )

T(57.2)

となる。このようにして,(57.1) と (57.2) から θ の時間変化を定める方程式

Id2θ

dt2(t) = aF (57.3)

が得られる。

質量中心の運動方程式 (56.5),(56.6) と質量中心に関する角運動量の時間変化から得られた (57.3) を円柱が斜面を滑らずに転がるという条件から関連付けよう。円柱が斜面を滑らずに転がるという条件は,斜面と接する円柱上の点と斜面の相対速度が 0 であることを意味する。この問題の場合,斜面は静止しているので,斜面と接する円柱上の点の速度が 0 となる。円柱上のある点の位置ベクトル r(t) は t

r(t) = (xG(t) + a cos θ(t) , −a+ a sin θ(t) , z0)T, z0 :定数 (57.4)

と表現でき,速度ベクトル v(t) は

v(t) =

(dxG

dt(t)− a

dt(t) sin θ(t) , a

dt(t) cos θ(t) , 0

)T

(57.5)

となる。この点が斜面に接するのは sin θ(t) = 1 のときだから,円柱が斜面を滑らずに転がるという条件は

dxG

dt(t) = a

dt(t)

�� ��高木 II (12.8)�� ��戸田 (7.41)

�� ��佐本 (13.73)’ (57.6)

と表現される。(56.5)に a2 を掛ければ,(57.3),(57.6) から

Ma2d2xG

dt2= Ma2g sinα− a2F = Ma2g sinα− I

d2xG

dt2(57.7)

を経て,d2xG

dt2=

Ma2

Ma2 + Ig sinα

�� ��高木 II (12.10)�� ��戸田 (7.46)

�� ��佐本 (13.74) (57.8)

が得られる。これは,質量中心が等加速度運動をすること,すなわち,円柱が転がり落ちる運動は等加速度運動であることを示している。加速度は

Ma2

Ma2 + Ig sinα =

Ma2

Ma2 +Ma2/2g sinα =

2

3g sinα

�� ��高木 II (12.11) (57.9)

となり,質点が摩擦がない状態で斜面を滑り落ちる場合より小さくなることがわかる。

剛体の運動エネルギーは質量中心の運動エネルギーと質量中心のまわりの回転運動の運動エネルギーの和となる。この例の円柱の場合は

K =M

2

(dxG

dt

)2

+I

2

(dθ

dt

)2

(57.10)

となる。運動エネルギーの時間変化を考えると,

dK

dt=

M

2

d

dt

(dxG

dt

)2

+I

2

d

dt

(dθ

dt

)2

= MdxG

dt

d2xG

dt2+ I

dt

d2θ

dt2

= Mg sinαdxG

dt+ F

(adθ

dt− dxG

dt

). (57.11)

最後の等式では (56.5)と (57.3)を用いた。

Page 60: 数理情報学科・2 (P)・2単位iida/lecture/mech1/2020/... · 2020. 7. 20. · 2020 力学.0.1 力学 数理情報学科・2 年次配当・前期・学科固有科目・コア選択必修(P)・2単位

2020力学.58

重力の位置エネルギーをU = −Mg sinαxG (58.1)

とすると,(57.11)はd

dt(K + U) = F

(adθ

dt− dxG

dt

)(58.2)

となる。円柱が斜面を滑らずに転がる場合は,(57.6)より (58.2)の右辺は 0となり,摩擦力 F は仕事をしない。この場合,剛体の力学的エネルギー

K + U =M

2

(dxG

dt(t)

)2

+I

2

(dθ

dt(t)

)2

−Mg sinα xG(t) (58.3)

が保存することがわかる。�� ��高木 II (12.13)

�� ��佐本 (13.83)