環境と健康との関係 - hiroshima universityhicec/coe/coe/ppt/seminar15-1.pdf ·...

16
環境と健康との関係 広島大学大学院保健学研究科 健康開発科学分野 小林敏生 大学院保健学研究科・健康開発科学の紹介 教育・研究対象健康に関連する事象を幅広く教育・研究対象とし、主として疫学 的手法、生理・生化学的手法を用いた研究を実施。 教育・研究領域衛生学・公衆衛生学、産業保健、国際保健、環境保健など。 研究テーマ職場における健康管理とリスクマネジメント、ストレスの健康へ の影響、生活習慣病予防とヘルスプロモーション、開発途上国 の保健医療対策、健康生活行動の生理的・生化学的測定評価 など。

Upload: others

Post on 25-Jun-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

環境と健康との関係

広島大学大学院保健学研究科

健康開発科学分野

小林敏生

大学院保健学研究科・健康開発科学の紹介

・教育・研究対象:

健康に関連する事象を幅広く教育・研究対象とし、主として疫学的手法、生理・生化学的手法を用いた研究を実施。

・教育・研究領域:

衛生学・公衆衛生学、産業保健、国際保健、環境保健など。

・研究テーマ:

職場における健康管理とリスクマネジメント、ストレスの健康への影響、生活習慣病予防とヘルスプロモーション、開発途上国の保健医療対策、健康生活行動の生理的・生化学的測定評価など。

国際保健に関連する最近の研究・活動テーマ

1)中国:高齢者におけるQOLとその関連要因に関する日中比較(2002)

2)中国:看護師における職業性ストレスと精神的健康度

の日中比較(2003より)

3)カンボジア:復興支援における保健医療協力(広島県

事業)(2004より)

4)ラオス:人類生態学転換・健康開発調査(2005年度よ

り実施予定)

環境の要因別理解とヒトへの健康影響

環境の物理的要因、化学的要因、生物的要因、心理・社会・文化的要因

1.物理的環境

・ 温熱(熱中症、低体温症、地球温暖化など)

・ 騒音(職業性難聴、精神疲労、不眠など)

・ 振動(白ろう病、船酔いなど)

・ 赤外線・紫外線(白内障、皮膚癌の発生など)

・ 電離放射線(医療被曝)、電磁波(発癌)

・ 気圧(高圧・高酸素障害、低圧・低酸素障害)

2.化学的環境・ 生存に不可欠な物質(O2、H2O、栄養素など)・ 生存に不必要な物質(環境汚染物質、発がん物質、内分泌かく乱物質、放射性物質)・ 健康に対して間接的影響をもつ物質(フロン、CO2など)・ 健康にほとんど影響のない物質(N2、アルゴンなど)3.生物学的環境・ 微生物(ウイルス、細菌など)・ 寄生虫、衛生害虫・ 動植物4.心理・社会・文化的環境・ 政治・経済(政治体制、所得、サービスなど)・ 保健・医療・福祉・ 文化(生活習慣、芸術、宗教、道徳など)・ 施設(住居、上下水道、公共施設など)・ 人間関係、ストレスなど

高齢者におけるQOLとその関連要因に関する日本と中国の比較研究

【目的】

文化やライフスタイルが大きく異なると考えられる日

本と中国の高齢者を対象にし、

QOL(Quality of Life)とそれらに関連すると考えられ

るライフスタイル、保健行動、社会活動、ソーシャル

サポートなどについて比較することで、高齢者の

QOLに関連する要因を検討。

【対象と方法】

・2002年12月に、中国(山東省曲阜市)および日本(山口県宇部市)の高齢者(65歳以上81歳以下)それぞれ300名および200名を対象として、留置法による無記名式アンケート調査を実施。

・調査項目:属性、ライフスタイル(食習慣、運動習慣、休養とストレス、酒、タバコなど)、保健行動、社会活動、

・ADL;Activity of Daily Living(老研式活動能力指標13項目)、・抑うつ度(CES-D20項目)、

・QOL:Quality of Life(WHO QOL26項目)。

・QOL得点(日本人 vs. 中国人 )

身体的QOL(3.54 vs. 3.56)には両者に差を認めなかった。

心理的QOL(3.43 vs. 4.00)、社会的QOL(3.44 vs. 3.76)、

環境QOL(3.47 vs. 3.74)、全般的QOL(3.19 vs. 3.59)、

全QOL平均得点(3.45 vs. 3.73)において中国人で高値で

あった。

・ADL得点

男性では中国人で高く(9.56 vs. 10.67) 、

女性では日本人で高かった(11.28 vs. 9.94) 。

【結果1】

属性とライフスタイル

日本人(107) 中国人(124)

仕事あり(%) 41.6% 10.0% ##

配偶者あり(%) 68.9% 86.0% ##

独居(%) 19.8% 9.8% #

日常よく体を動かす 36.3% 78.7% ##

運動を毎日する 42.0% 76.3% ##

昼寝を毎日する 16.5% 82.9% ##

ストレスを感じる 33.3% 21.3% #

タバコを吸う 16.2% 18.7% n.s.

酒を毎日飲む 26.0% 16.5% n.s.

旅行に行く 28.2% 26.2% n.s.

風呂に毎日入る 73.1% 2.6% ##

## p<0.01, # p<0.05

・ライフスタイル:「日常生活で体をよく動かす」、「運動を毎日す

る」、「昼寝を毎日する」が中国人で、「ストレスを感じる」、「風呂に

毎日入る」は日本人で高率であった。

・保健行動:「病院、民間・伝統医療に定期的に通う」頻度が日本

人で高く、「健康診断受診」は中国人で高かった。

・社会活動:「ボランティア活動」、「学習活動」、「趣味の集い」、

「社交的な活動」、「老人クラブ活動」のすべての活動への参加頻

度が中国人において高率であった。

【結果2】

・QOLとの関連:

日本人:

「子供の数」、「年収」 、「睡眠時間」、「ボランティア活動参加頻

度」、「社会活動参加頻度」が正の相関を、「病院受診頻度」、

「民間医療受診頻度」、「疾病数」、「抑うつ得点」が負の相関を

示した。

中国人:

「睡眠時間」 、「学習活動参加頻度」が正の相関、「病院受診頻

度」、 「疾病数」、「抑うつ得点」が負の相関を示した。

【結果3】

QOLとの相関中国

睡眠時間 病院受診頻度学習活動参加頻度

疾病数 抑うつ得点

身体的QOL 0.244## -0.211# n.s. -0.305## -0.229#

心理的QOL 0.191# n.s. n.s. n.s. -0.465##

社会的QOL n.s. n.s. 0.25## n.s. n.s.

環境QOL n.s. n.s. 0.244## n.s. n.s.

全般的QOL n.s. -0.236# n.s. -0.374## n.s.

QOL平均得点 0.239## -0.195# 0.228# -0.203# -0.301##

## p<0.01, # p<0.05

・日本人 F=9.412***, R2=0.366

説明変数 標準化偏回帰係数

ストレスを感じる -0.412***

ボランティア活動に参加する 0.379**

病院の受診頻度 -0.270*

F-test; ***p<0.001, **p<0.01, *p<0.05

・中国人 F=7.883***, R2=0.351

説明変数 標準化偏回帰係数

ストレスを感じる -0.314**

社交的な集いに参加する 0.257**

睡眠時間 0.230*

家族と話しながら食事をする 0.221* 風呂に毎日入る 0.220*

F-test; ***p<0.001, **p<0.01, *p<0.05

QOL平均得点関連要因の重回帰分析

・QOL平均得点および心理的QOL、社会的QOL、環境QOL、全般的QOL、について中国人高齢者が日本人高齢者より高い値を示し、高齢者のQOLは中国において高いことが示唆された。

・ライフスタイルおよびQOLに関連する要因は中国

および日本の高齢者で異なる可能性がある。

【まとめ】

日本と中国の看護師における職業性ストレスと精神的健康度の比較

• 交代勤務に従事する病棟看護師の職業性ストレスや抑うつ度は高く、これまでに特に日本の看護師は諸外国に比べて高いとの報告がある。

• 日中の看護師のストレス、ストレス対処行動の特徴および精神的健康度を比較検討し、看護師のストレス軽減方法のための基礎資料を得ることを目的とした。

職場のストレスの原因となる作業環境職場組織および物理化学的環境

1. 作業環境仕事の負荷が大きすぎる。あるいは少なすぎる。長時間労働である(過重労働)。あるいはなかなか休憩時間がとれない。仕事上の役割や責任がはっきりしていない。労働者の技術や技能が活用されていない。繰り返しの多い単純作業ばかりである。労働者に自由度や裁量権がほとんど与えられていない

2. 職場組織上司・同僚からの支援や相互交流がない。(人間関係:メンタルストレス)職場の意志決定に参加する機会がない。昇進や将来の技術や知識の獲得について情報がない。

3. 職場の物理化学的環境重金属や有機溶剤などへの暴露。換気(喫煙問題含む)、照明(VDTなど)、騒音、温熱。作業レイアウトや人間工学的環境。

対象と方法横断的質問紙調査。平成15年8月に実施。対象者:病棟女性看護師。

中国 四川省成都市内と郊外の総合病院各1箇所、計445名。

日本 中国地方の都市部総合病院1箇所、計360名。

調査内容(アンケート調査):・職業性ストレス (34項目、 NSS: Nurse Stress Scale)

錦戸らのストレス問診票短縮版に看護師特有のストレスを追加・ストレス対処(18項目、SCS: Stress Coping Scale )

影山らのストレス対処特性簡易尺度・精神的健康度 CES-D(20項目)・その他のストレス関連要因、個人属性

精神的健康度(CES-D)・日本の看護師が悪い(18.8 点 VS. 14.8点)。16点以上の抑うつ傾向者の割合は日本が高い(日本56%、中国40%)。

職業性ストレス(NSS):因子分析結果より・日本が高い因子(4因子)「人命に関わる仕事」「患者の死との直面」

「対人関係困難」「医師との関係困難」・中国が高い因子(2因子)「裁量度」「患者・家族との関係困難」・有意差なし(3因子)「仕事の負荷」「達成感」「同僚・上司の支援」

ストレス対処方法(SCS)・中国が高い因子(2因子)「積極的問題解決」「問題解決のための相談」・日本が高い因子(2因子)「情動対処」「感情抑圧」・有意差なし(2因子) 「気分転換」「発想転換」

仕事以外のストレス 日本と中国で有意差なし。

結果

まとめ日本の看護師が中国看護師と比べて精神的健康度が低い理由:日本の看護師においては、

職業性ストレス

「裁量度」が低く、「対人関係困難」が高い。

「人命に関わる仕事」、「死との直面」などのストレスが大きい。

ストレス対処方法

「問題中心型対処」が少なく、「情緒中心型対処」が多い。

日本においては裁量度の向上あるいはストレス対処行動の変容によって、精神的健康度の改善の可能性があると考えられる。

看護師のストレスおよび精神的健康度の日中差については、

社会経済的、文化的相違を含めて、今後さらに検討が必要。

「ひろしま平和貢献構想」と「ひろしま平和貢献構想」とカンボジア復興支援カンボジア復興支援

広島県

「ひろしま平和貢献構想」とは?「ひろしま平和貢献構想」とは?

広島県が「創り出す平和」の理念に基づき,国際平和協力の具体的貢献を図るための新たなる指針として,平成15年3月に策定

平和貢献プロジェクトの実施

ひろしま平和推進ネットワークの構築

カンボジア復興支援プロジェクトカンボジア復興支援プロジェクト「紛争終結地域における復興支援」のモデルプロジェクト

支援ニーズの大きい教育・保健医療分野での復興支援

16年度調査における取組み16年度調査における取組み(教育分野)(教育分野)

拠点

シェムリアップ州 プク郡 ササー・スダム中核小学校

教員数:23名

児童数:1,163名

クラス数:1~5年-各4,6年-3, 障害児-1

主な活動

学校運営・授業の実態把握

児童に対する算数の授業

教員同士の模擬授業

保健医療分野の状況保健医療分野の状況

保健医療従事者の不足ポルポト政権下で全国の医師数が約40人まで減少

東南アジアで最も低いレベルの保健衛生指標・平均寿命:57歳(日本:81歳)

・妊産婦死亡率:100,000人中450人(日本:10人)

・乳児死亡率:1,000人中96人(日本:3人)

・安全な飲料水を入手できる人の比率:30%

主な疾病感染症(結核,下痢,マラリア、AIDS等)

16年度調査における取組み16年度調査における取組み(保健・医療分野)(保健・医療分野)

拠点

シェムリアップ州 プク郡 ササー・スダム保健センター

スタッフ:看護師6名

施設:診察室,分娩室,妊婦検診室,薬局等

業務:診療,予防接種,健康教育等

利用者数:1日80~120人

主な活動

保健医療サービスの実態把握

村落及び小学校における保健衛生教育の実施

村落住民を対象とした健康調査

村落住民を対象とした健康調査村落住民を対象とした健康調査

・調査期間:平成16年9月27日~10月8日

・調査方法:

ササー・スダムHC管内の村落の保健ボランティアを介して,住民に対する健康状況を聞き取り調査を実施

・調査対象:

村民から保健ボランティアによって無作為抽出した700人を対象 ーー有効回答数:663人

健康調査の結果(1)健康調査の結果(1)

HEALTHY

54 8.1 8.7 8.7

407 61.4 65.8 74.5

158 23.8 25.5 100.0

619 93.4 100.0

44 6.6

663 100.0

yes

no

don't know

合計

有効

システム欠損値欠損値

合計

度数 パーセント 有効パーセント 累積パーセント

主観的健康感

健康調査の結果(2)健康調査の結果(2)

Toilet use

74.1%

13.9%

6.5%

5.6%

never

rarely

sometimes

often

健康調査の結果(3)健康調査の結果(3)

Washing Hand After Defecation

4.5%

15.7%

7.1%

22.2%

14.2%

36.3%

無回答

always

most of the time

sometimes

rarely

never

村落における健康調査の結果:まとめ村落における健康調査の結果:まとめ

・トイレの使用、手洗いは日常的ではなく、下痢症などの疾患に罹患していることが多い

・ヘルスセンターの認知度や利用度は比較的高い

・健康だと思うもの(8.7%)の割合が非常に低い

1717年度以降の支援内容案年度以降の支援内容案

(保健・医療分野)(保健・医療分野)方向性保健センター及び上位組織の圏域保健事務所等の機能強化を支援し,国内のモデルとなる住民参加型の効率的な地域保健システムの確立をめざす。

主な活動広島の医師・保健師等による現地スタッフとの協働によって、

村落の保健ボランティアの資質向上をめざした、研修による人材の育成

衛生環境の改善を目的にした、小学校の児童を対象とした保健衛生教育、および教員を対象としたワークショップの実施 など

COEプログラムにおける今後の健康に関わる調査研究の可能性

・現地における、環境問題(公害による大気汚染、水質汚濁など)の変遷とそれに伴う健康事象の変化(呼吸器疾患、消化器疾患の変化など)

--健康データ(保健省など)の収集、文献調査など

・環境汚染の地域格差と健康や疾病発生状況との関係

--健康データの収集、アンケート調査の実施など

・住民の環境に対する認識と健康感、健康状況の関連性

--アンケート調査、聞き取り調査など