特別レポート 立教大学経営学部のblpのねらいと実...

2014 / 4 学研・進学情報 -12- -13- 2014 / 4 学研・進学情報 ●特別レポート 立教大学経営学部のBLPのねらいと実際 沿図1

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Page 1: 特別レポート 立教大学経営学部のBLPのねらいと実 …BBLは経営学部国際経営学 当時に本誌でも取材したが、ビ科のコアプログラムでスタート

2014 / 4 学研・進学情報 -12--13- 2014 / 4 学研・進学情報

は立教大経営学部だけであった。

 

その目的は、グローバル社会

でリーダーシップを発揮できる

人材の養成だ。と言っても、単

なるリーダーの養成ではない。

現在の社会やビジネスの現場で

求められるのは、他人に気を配

り、小さなチームをまとめて、

全体で成果を上げられる人材で、

それこそがリーダーシップであ

るという考えだ。権限やカリス

マ性で指導する従来のリーダー

は、特殊で限定されたリーダー

シップでしかない。

 

立教大キャリアセンター部長

で、経営学部教授でもある石川

淳先生は次のように説明する。

 「現代社会では、権限がなく

てもエマージェント(自然発生

的)なリーダーシップを持つ人

材が多くの場で必要とされてい

ます。チームの中で、その能力

やスキルから自然発生的にリー

ダーシップを発揮できる人材で

す。東日本大震災では、そのよ

うな多くのリーダーが生まれま

した。絶えず新たな対応を求め

られることの多い国際社会や起

業では、最も必要な人材です」

 

ビジョンを示し、周囲を巻き

込んでいくリーダーシップであ

るから、そのスキルを備えた人

材は、チームに何人いても多す

ぎるということはない。

 

一般的にリーダーが多いと、

「船頭多くして、船山に登る」

ということになるが、あるテー

マや場面で、様々な人が、それ

ぞれの得意分野でリーダーシッ

プを発揮するようになれば、

チームワークはスムーズに形成

され結果的にチームはパワー

アップする。

リーダーの育成ではなく、

リーダーシップを養うことが目的

 

今、立教大経営学部のBBL

(バイリンガル・ビジネスリー

ダー・プログラム)とBLP(ビ

ジネス・リーダーシップ・プロ

グラム)が注目されている。と

もに文部科学省の「質の高い大

学教育推進プログラム」に選ば

れた教育だ。

 

BBLは経営学部国際経営学

科のコアプログラムでスタート

当時に本誌でも取材したが、ビ

ジネスの専門分野を3割の日本

語の授業と7割の英語の授業で

学ぶ。英語力の強化を目的にし

ているのではなく、英語で表現

された経営学の知識を英語で学

ぶもので、あくまで英語はツー

ルに過ぎない点に特徴があった。

 

一方のBLPは、経営学科の

コアカリキュラムで、2011

年度の教育GPの取り組みの中

でも、「特にすぐれており波及

効果が見込まれる取り組み」と

して文部科学省から認定されて

いる。首都圏の私立大での認定

自然にリーダーシップを

発揮する人材を育成

  

立教大学

経営学部のBLPの

ねらいと実際

 

経済がグローバル化し、雇用を創出する起業や

事業創造が求められる現在、チームの知恵をうま

くまとめるリーダーシップの育成が求められてい

る。そのような問題意識から生まれたのがBLP

で、立教大学経営学部の試みを取材した。

●特別レポート 立教大学経営学部のBLPのねらいと実際

など、業界を代表する企業から

の課題に沿って問題解決企画に

取り組んだ。日本経済新聞から

は「将来の新聞は電子発行がメ

インになるのか」というような

テーマが出された。

 

企業から提案されるテーマの

ほかにも、学生たちが自ら立て

た企画を、企業や公共団体、N

POなどに提案することも多い。

経営学部でBLPの主査を勤め

る日向野幹也教授は、理工系の

産学連携とは違い、「ビジネス

の即効的な成果を求めるのでな

く、あくまでBLP教育の一環

として考えています」という。

 

このようなプロジェクトが企

業などの評価水準に達するには、

実践的な専門知識が必要になり、

スキルも強化しなければならず、

学習意識も高まる。

 

このスキル強化の期間が各学

年の秋学期に設定されている。

例えば2年秋学期のBL3では、

はっきりしてきた自分の強みや

弱点をもとに、長所を集中的に

伸ばすこともできるし、逆に弱

点を補強してもよい。各自の必

要性と希望に応じて選択制と

ビジネス・リーダーシップを

段階的に身に付ける

 

BLPは、その目的から誰で

もリーダーシップを段階的に身

に付けられるようなカリキュラ

ムになっている。チームでのプ

ロジェクト実行やスキル強化の

時期を相互に設定し、ビジネス・

リーダーシップを段階的に身に

つけていく(図1参照)。

 

1年春学期の「リーダーシッ

プ入門」をスタートとして、3

年春学期のBL4まで、5学期

2年半にわたって行われ、プロ

ジェクトの実行とスキルの強化

を交互に学んでいく。

 

毎年、入学直後の4月に1泊

2日のキャンプを実施している

が、400人ほどが参加する。

石川教授は、

 「このキャンプに参加し、そ

の後の『リーダーシップ入門』

によって、新入生が大きく変わ

ることがとても多いですね。彼

らは、『高校までに学んできた

授業に比べ、大学の勉強は大変

だけどおもしろい。この学部に

入ってよかった』と実感するよ

うです」と話す。

 

そのリーダーシップ入門は経

営・国際経営の両学科の1年生

が全員履修する。その内容は、

チームでビジネス課題の解決に

取り組み、リーダーシップと専

門知識の必要性を学ぶもので、

BLPの基本を身につける。こ

のリーダーシップ入門をスター

トに、図1のように、学年が上

がるごとに課題の内容や目標は

高度になる。

 

過去にも松竹芸能や日本経済

新聞社、サイバーエージェント

図1

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なっている。図1にあるように、

BLPを通して学ぶリーダー

シップを自転車の前輪、BLP

と並行して履修する専門選択科

目で学ぶ専門知識を自転車の後

輪として、前に進んでいくイ

メージである。

BLPの教育効果と強み

 

BLPのようなサイクルは、

学生が能動的で、積極的でない

と、学生自身にとって大きな負

担になってしまうし、教員の負

荷も大きくなる。日向野教授は、

その著書『大学教育アントレプ

レナーシップ』で、その大きな

負担を上回るBLPの教育メ

リットを次のように指摘する。

 

まず第1に、経営学部の専門

科目との連携をふまえた双方

向・多方向のアクティブラーニ

ングであるため、学生がBLP

の問題解決プロジェクトに使え

るツールを専門科目の中に見い

だすなど、専門科目の学習意欲

を高められること。

 

第2に、370人に対して18

クラスという少人数クラスによ

る課題解決型授業が生むメリッ

トである。近年、PBL(問題

解決型プロジェクト学習)を採

用する大学が増えているが、そ

の多くは希望参加で、学生調査

では、「何だか大変そう」と敬

遠する学生も少なくない。

 

しかしBLPでは、1年次前

期の「リーダーシップ入門」は

原則全員受講で、BLPの基本

を避けて通ることはできない。

春のキャンプで先輩のSA(ス

チューデント・アシスタント)

が作ったプログラムに沿って学

ぶうちに、「やってみようかな」

という意識が芽生え、自分で動

き、課題に取り組もうという意

欲がわいてくるのだという。

 

第3に、教員の横の交流が高

まり、絶えず授業のレベルアッ

プが図られるため、教員の能力

向上につながる。取材した日も、

担当の先生たちとSAたちが集

まり、BL1について、問題点

を出し合い、今後の方針につい

て議論していた。

 

また、専門演習と並行してB

LPがあるため、学生が相談し

やすい教員が常時複数いること

になる。経営学部では、学業や

就職について「教員に相談した

い」と考える学生の割合が、全

学の中でずば抜けて高い結果が

出ている(キャリアセンターの

全学アンケート調査結果)。

 

第4に、前述したSAの役割

が大きく、その活動参加で、S

A自身のリーダーシップが高ま

る。プログラムの計画とその運

営・実行をSAが担当するのだ

が、実施日のかなり前から打ち

合わせを重ねて準備する。この

SAを経験すると、人間的にひ

と回り成長するという。

 

また先輩のSAたちの奮闘ぶ

りを目のあたりにして、「あの

先輩のようになりたい」と刺激

を受ける学生も多く、教育効果

を発揮するロールモデルにも

なっている。

 

第5に、「経営学で得た知識

を具体的な問題解決に活用」

「リーダーシップの養成」とい

う学習目標が明確なため、PB

Lにありがちな、「学生の意欲

は高まったが、その学習成果は

測定しにくい」という弱点が出

てこない。

 

第6に、BLPを実施する中

で、教員チームと学生のリー

ダーシップが相互に育っていく

ということがある。学生にとっ

ては、課題解決に向けて具体的

に提案する創造的な思考が育ち、

クライアント企業や教員に対し

て、どのように現実的に提案す

れば採用されるかという判断力

が育まれる。SAも教員に対し

て授業運営に関する提案を自然

な形で行っている。

 

経営学部では、持続的に提案

を行う学生団体が自発的に結成

されている。またメンバーを変

えて繰り返し行われるグループ

ワークによって、学生同士が学

部内に多数の友人を持つように

なり教員との距離も近くなる。

日向野幹也先生の著作

『大学教育アントレプレナーシップ』

●特別レポート 立教大学経営学部のBLPのねらいと実際

見を述べていく。意見はだらだ

らと述べるのでなく、「要は~」

「なぜなら~」「例えば~」とい

うポイントに沿って発表されて

いた。これらはそれまでの授業

で学んできた手法で、主張の要

旨と理由、例証を明確に意識す

ることで、意見の説得力が増す

ことを学んできているのだ。

 

この最後の授業では、これま

で学んできたBL1のテーマの

内容とリーダーシップの関係を

カードに記述し、机上のマト

リックスにプロットし、グルー

プごとに発表していく。既習の

再確認とチームワークも強まる。

 

授業の最後では、この半年間

のBL1で学んだことを全員が

述べたが、「物事を論理的に考

え、社会的現象のメカニズムを

理解するようになった」や「発

言やレポートで説得力を持って

コミュニケーションできるよう

になった」「違う意見もよく理

解し、人を動かすリーダーシッ

プの大切さを学んだ」などの意

見が出された。2年の4月から

始まるBL2の実行に期待を抱

かせる内容であった。

 

国際経営学科の学生は、1年

の秋学期から語学授業がメイン

のBBLが始まるので、BL1

の参加者は半数前後になる。英

語授業の受講は、相当の努力を

要するからだ。

 

経営学科の学生もBBLを学

べるし、国際経営学科の学生も、

3年春学期までBLPを学ぶこ

とができる。両方を学ぶ学生が

優秀であることは想像でき、ま

さにリーダーシップをとれるグ

ローバル人材にふさわしい人材

と言えるだろう。

 

BLPによって鍛えられた学

生は、クライアント企業や公共

団体、NPOに課題を提案する

うちに、社会や企業を見る目が

変わり、消費者相手のBtoC系

の大企業に偏った就職活動を行

わないという。企業相手のBto

B企業やベンチャー企業にも多

数就職しているのはそのためだ。

 

経営学部の学生が就活などの

面接で、職場や国際社会で必要

となるリーダーシップの能力を

評価され、就職状況も順調だ。

実際、取材した日にも、NTT

やサントリーなどの担当者が見

学に来ていた。さらに、近年は

受験生からも評価され、入試難

易度も上がっている。

 

立教大経営学部では、昨年秋

に高校生を集めて、BL1と同

じ手法でグループワークをする

イベントがあった。自らが教え

る立場になり、自分たちが学ん

だことを客観的に見たわけだ。

大学では、一般の高校生の参加

を求めているので、その時期に

なったら、大学のホームページ

で確認してみるとよい。きっと、

高校生にとっても、論理的思考

力を育む体験は、プラスに作用

するだろう。

 

経営学部のBLPが成功した

ので、その全学版GLPも20�

13年度からスタートした。当

初4クラス分しか用意していな

かった初学期の授業定員枠に約

3倍の学生から応募があって、

次年度からは増クラスすること

になった。

 

BLPによって、現在、経営

学部は立教大をリードする存在

になっている。今後の同学部の

動きに注目していきたい。

(取材・執筆/木村誠)

チームワークを重視したBL1

 

1月21日に、1年秋学期のB

L1の最後の授業があるという

ので見学した。約束した時間の

少し前に行くと、にぎやかな

パーティのような雰囲気。聞く

と、女性SAの誕生日のお祝い

をしているという。大学の授業

前とは思えない雰囲気だ。

 

担当の稲垣憲治講師のリード

にしたがって授業が始まると、

1チーム=4~5人のグループ

に分かれ、1人30秒で、それぞ

れ与えられたテーマについて意BL1のグループワークの授業