学年・学級経営の進め方-2-Ⅱ 学年経営の基本的な考え方...
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Ⅰ 学年・学級経営とは
1 はじめに
最近は、確かな学力の形成のための少人数・習熟度別学習や選択教科、総合的な学習の時間
での学習グループの編成などにより、学年内で教師も生徒も交流し合う中で学習活動が展開さ
れる機会が多くなっています。また、学力低下や生徒指導上の諸問題への保護者の関心が高ま
っており、これまで以上にアカウンタビリティ(説明責任)が求められるようになってきまし
た。
学級経営をよりいっそう充実させるためには、これまでの学級中心から学年中心の指導シス
テムへと移行することにより、マネジメントの視野を広げる必要があります。
2 学年・学級を「経営する」とは
担任教師は、学年も学級もマネジメント(経営)として考えることが重要です。マネジメント
とは、目標の実現に向けて計画をきちんと持ち 、実施し 、評価(点(Plan=P (Do=D) )
検)を行い 、改善する という流れを考えるということ(Check=C (Action=A))
です。
【学年・学級経営の基本】=PDCAサイクル
目標の設定 → 計画作成 → 実 践 → 評 価 → 改 善
学年・学級を という立場から、①明確な をもち、②その目標を達成する「経営する」 「目標」
ための具体的な方法や手だてを し、③ したことについて を行「 」 「 」 「 」
い、その後の経営の④ に努めていくことが大切です。「 」
のない学年・学級経営はない計画
のともなわない学年・学級経営はない実践
のない学年・学級経営はない評価
のともなわない学年・学級経営ではいけない改善
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Ⅱ 学年経営の基本的な考え方
学年経営に対する理解不足
1 学級経営は担任ひとりの仕事であって、学年経営は必要ない。
2 学級の仕事だけでも時間がないのに、学年で相談するのは時間の無駄である。
3 学級経営を自分の個性で進めたいが、学年で相談すると学校や学年の枠をはめ
られて窮屈だ。
4 学年会はいつも行事や進度の調整で同じパターン。つまらない。
5 学年主任の話が長く、最後は自分の考えを押しつけるのでいやだ。
1 学年経営の意味
学年の教育目標の達成に向けて、諸活動を計画・実施・評価する、学年主任を学年経営とは、
中心とする学年教師集団の 取り組みを指す。協働的な
2 学年経営の基本
学習指導や生活指導は、それぞれの担任がそれぞれ個別に指導する場面が多い。その結果密
室化し、自己流に流されやすい。それを防ぐためにも学年会等で共通認識を持つ必要がある。
方法はさまざまあってもいい。しかし、たどり着くべきゴールがさまざまでは、生徒が不幸で
ある。
基本的事項 学年経営の手順
① 学年の教育・経営の目標や方針 ① 子どもたちの生活を見つめ、その改善し
の設定と確認 たい部分・伸ばしたい点などを整理する。
② ② それらを鳥瞰して、いくつかのねらい,学年経営計画の作成と共有
③ 学校・学年行事の企画・立案お 目標にしぼる。
よび運営 ③ その目標に近づけるための手段,方法
④ を検討する。生徒を理解するための情報交換
⑤ 教科・領域の重点の設定と具体化 ④ 学年所属教職員の大まかな役割分担を
⑥ 決める。学年・学級の実態把握と指導方
⑤ 分担ごとに具体的な行動の指針を作成する。策の確立
⑦ ⑥ 学年所属教職員に示して、全員の行動生徒指導の充実(重点の設定と
計画にする。具体化)
⑧ ⑦ 実行,実践に入る。進路指導の充実
⑨ 学習環境の点検・整備 ⑧ 実践の過程で気付いたことなどの情報
⑩ 学年事務の分担 交換を密にする。
⑪ ⑨ 機会を見て、反省・評価をまとめ、計家庭・地域との連絡,連携
⑫ 画を修正する。教材研究,開発などの学年研修
⑬ ⑩ 修正、改善された計画、組織分担で新学級・学年経営の評価
⑭ 成績評価基準の明確化 たな実践に移行していく。
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3 学年経営の工夫の具体例
(1) 学年経営案を指導に生かす(学年のガイダンス機能の充実)
○ 3年間の指導構想、1年間の指導構想を明らかにし、重点化を図る
○ キーワードを用いて、教師も生徒も「意識化」できるようにする
○ 各月の最初に、学年でガイダンスを行い、月の目標を明確化し、見通しをもたせる
・先月の評価、今月のキーワードとその意味、具体的な取り組み課題、活動予定
(2) 「最上級生を見ならえ」という指導
○ 「立場が人を育てる 「頼られれば人は強くなる」」
○ 「3年生のようにはなるな 「ウチの学年だけは・・・」という発想ではダメ」
○ 3年生に教えを請う、3年生が範を示す
・朝の会や終わりの会の進め方、学級の掲示物、清掃の仕方、合唱、整列指導
・縦割り行事でのリーダーシップ、生徒総会での発言、主張のある学級新聞の発行
・1年生の評価(アンケートや学級新聞の声等)をフィードバックする
(3) 生徒の自主性を「耕す」取り組み
○ 「自主性」は教師にとっても生徒にとっても隠れ蓑になりかねない
・ やりたい人がやるのが自主性 「自主性だから生徒に任せればよい ・・・「 」 」
○ 趣旨やねらいを明確にした上で、一人一人の意見・考えをもたせる
○ 話し合いや活動に「主体者」の意識を持って参加させる
(4) 学校組織を活性化する「ミドル・アップダウン・マネジメント」
○ 学校を変えるだけの現実的な「提案」を、学年が中心になって行う
・ 学年セクト」ではなく、全校を視野に入れた提案を企画する「
・提案のルートを守り、必要な部署に働きかけを行う
・学年が率先して動く(教師が、生徒が)
・情報や成果を全校で共有し合う
(運動会、応援、生徒総会、縦割り行事)□ 3年生が活躍する場がありますか?
□ 3年生が活躍できるよう (陰で)どのような指導をしていますか?、
□ 生徒会の提案に対する学級の話し合いを、どのように行っていますか?
□ 役員選挙への取組を、学級・学年でどのように行っていますか?
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2学期の学年指導構想を基に、月ごとのキーワードを設定してみよう。【演習1】
第 学年
1
学
期
の
状
況
月 主な行事 ねらい・指導の重点 キーワード(生徒をどう育てたいか)
8
月
9
月
10
月
11
月
12
月
目
標
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Ⅲ 学級経営を中心とした具体的指導の工夫
1 学級経営で求められること
(1) 学級経営とは
21世紀の学校像
1 子どもたちがのびのびと過ごせる場
2 興味・関心のあることにじっくり取り組める場
3 分からないことが分からないと言え、試行錯誤できる場
4 子どもたちの人間関係や子どもと教師の信頼関係が
確立され、学級の雰囲気も明るく、子どもたちが安心
して自分の力を発揮できる場
【教育課程審議会答申・冒頭 平成10年7月】
のびのびと過ごすためには、子ども同士や教師との信頼関係が必要です。興味・関心を広げ
、 、 。るためには 間違うことをおそれず 分からないことを分からないと言えなければなりません
分からないことがあれば互いに教え合い、助け合う、そういうことを自然に行われる集団づく
りが学級経営の基本となります。学級での話し合いを多くもち、全ての生徒に発言の機会を与
え、一人ひとりを尊重することを教え合い、多くのことに取り組んでいけば、やがて何でも話
せる信頼し合える学級になっていきます。
そのような学級が実現すれば、自ずと、学級が楽しい場所となり、みんなが自分の居場所を
見つけることができ、仲間を認め合いながら自分も生かすことができる集団になるのです。
(2) 学習指導要領にみる学級経営
イ 中学校学習指導要領 総則 第6 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項
・ 教師と生徒の信頼関係及び生徒相互の好ましい人間関係を育てるとともに生徒
理解を深め、生徒が自主的に判断、行動し積極的に自己を生かしていくことがで
きるよう、生徒指導の充実を図ること。
(3) 望ましい学級づくりのポイント
①一人ひとりに居場所(役割)があること
②集団の規範があること
③感情交流を促進すること
④自己開示ができる集団であること
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① 居場所(役割)を与え、その時その場でほめること
学級内に居場所がないと、存在の基盤ができません。子どもたちの居場所とは、学級内に自
分の役割が与えられていることです。清掃の役割分担や係の仕事など、全員が役割責任を果た
せるようにします。そのためには、役割上の責任や仕事内容を明確に示すことが大事です。
また、与えられた役割を遂行したときには、できるだけその場でほめます。このことで、子
どもは、役割を遂行できたときう達成感を味わうとともに、自尊感情も高めることができるか
らです。
② 集団の規範ができてきること
学級集団がその集団の望む方向に動こうとするとき、集団の規範が確立していなければ烏合
の衆となってしまいます。学級担任は、楽しい学級づくりのために、集団の規範づくりを意図
的に繰り返し行う必要があります。規範づくりの際は、過去の体験を基にしたり、ブレーンス
トーミングなどの手法を用いたりして、合意形成をしてルールづくりをします。集団の規範に
ついては、毎日繰り返し繰り返し守れれたことをお互いにほめ合うことが大事です。
規範を守れないときは、その場でしっかり指導します。規範を守れないときほど規範をはぐ
くむチャンスです。
③ 感情交流を促進する
感情交流がなされる学級は集団の凝集性が高まりやすく、仲間づくりがしやすい学級となり
ます。ゲームやグループワークなどを実施し、自分の気持ちを伝えたり、他者の気持ちに気付
くような体験をたくさんするようにします。
④ 自己を開くことができる集団をつくる
自分の考えや感情を開き、それらを受け入れてくれる仲間のいる集団には帰属意識が生まれ
ます。また、仲間の感情を受け入れることが他者を支えることにもつながり、集団での存在の
意味が増し、学級が楽しいと思えるようになります。
、 。 、自分の考えや感情を開くことのできる子どもは 自尊感情が育っている子どもです 担任は
子どもたちの自尊感情を高めるために、毎日学級での子どもたちの良いところ探しをしほめる
ことが大事です。
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2 望ましい学級集団づくりに向けて
(1) 今、なぜ学級集団育成なのか
今の子ども
集団遊びをしなくなった
↓
人間関係能力が未熟
↓
すぐに傷つく
↓
仲間づくりが苦手
望ましい学級
お互いが気持ちよく生活できるためのルールが定着している学級・
・ 一人ひとりが自分の存在が認められている学級
・ 自分がみんなの役に立っていると実感できる学級
人間関係を育てる場=学級
学級担任の計画的支援
学級の状態の把握
課題に対する手だての吟味
実践
軌道修正
集団として組織され
た学級づくり
学級で心配される生徒の状態
級友とうまくかかわり合えない・
・級友とのかかわりに距離がある
・主体性がなく集団に同調している
・自己肯定感が低く無気力である
心配される学級の状態
生活集団の不成立
学習集団の崩壊
学級集団の中で学ぶこと
親和的な人間関係の中での自己の確立
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(2) 教育力のある学級集団づくり
(3) 教師のリーダーシップ
教育力のある学級集団を育成するために、教師は集団のリーダーとして、次のようなリーダー
シップを発揮することが求められます。
ただし、このリーダーシップの発揮をどのように展開すれば効果的かということが重要です。
教師のリーダーシップ発揮の有効性は、生徒の特性や学級集団の状況等により異なります。した
がって、生徒や学級の状態をしっかりと把握したうえで、適切なスタイルでリーダーシップを発
揮する必要があるのです。
ルールの確立
・学級内の対人関係のトラブルが減少する
・傷つけられないという安心感の中で、仲間
との交流が促進される
リレーションの確立
・学級内に仲間意識が生まれる
・集団活動が協力的で活発になる
*リレーション・・・ふれあいのある本音の感情交流
生徒の学級生活満足感・充実感の向上
心身の安全 所属感認められ
る場面
・集団の目標を具体的に設定し、明確化すること
・集団の目標を達成するための具体的な方法を示すこと
・集団の目標達成に向けて動機付けをすること
・生徒相互の好ましい人間関係を形成し、集団としてまとめること
・集団内外の資源を有効に活用すること
どの学級でも通用する唯一のやり方はない!
ある学級集団でとてもうまくいった対応方法が、別の学級手段で同じように
うまくいくとはかぎらない。学級経営のポイントは、学級集団の状態と、教師の
対応方法のマッチングの 如何にかかっている。学級集団の状態に応じて、教師
は柔軟に対応方法をアレンジしていくことが求められている。
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3 学級経営の具体的な工夫
(1) 日常生活と教科指導等の有機的連携・発展
豊かな心や主体的な問題解決能力、対人関係調整能力等は、日常の学級生活のなかで徐々に
培われていくものである。したがって、学級経営を構造的にとらえ、学級の温かい人間関係の
なかで、学級活動と当番・係活動やその他の日常活動および教科学習等との有機的関連・発展
を図っていくことが重要である。
4月 スタート 学級教育目標の設定
A B C D E
日常の教科学習 生徒会活動
行 事
学級活動 運動会
係活動 文化祭
清掃活動 SHR
学級会 校外活動
※A~Eは、生徒個人
3月 ゴール 学級目標の達成
(2) 目的を明確にし、過程を重視した取り組みを
① 学級の組織づくり 「立場が人を育てる」
・担任は「係 「班」などの組織をつくる目的を明確にとらえること」
○当番活動 みんなが行う活動で、生活する上で必要とされる「やらなくてはならない」活動
○係活動 その仕事がなくては困らないが、あると集団活動が楽しくなり豊かになる活動
(子どもの選択を優先させる活動)
・学級会の組織づくり → リーダー育成(全員を対象とすることが前提)
② 毎日の生活を重視する
・一日の始まりである朝の会と楽しい明日につなぐ帰りの会
・人間形成および学級文化につなぐ清掃活動
③ 学校行事への取り組みにより成長する学級
・意図的な活動を仕組む
・自主性という言葉を隠れ蓑にしない
・学級の生徒に何を身につけさせるのかを常に考える
(3) 意図的な活動を仕組む
人間関係ができるのは、群集から「共通の目的に向かって活動する」集団へと移行しなければ
ならない。そのために、小集団あるいは学級単位で、協力し合うことで達されるような共同体験
活動を仕組んでいく集団づくりが大切である。
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(4) 自己実現の場づくり
① 自己評価・相互評価を取り入れる
② 自己判断・自己決定の場を与えること
③ かげながら援助すること
④ やる気をおこさせる評価をすること
⑤ 年間・月間の教育活動の流れの中に一人一人を生かす場を位置づけること
⑥ 問題を投げかけること
⑦ 学級の特徴・特色を見つけ、それを伸ばすこと
(5) よさを生かす評価
上手にほめよう 「ほめないことは教育の罪である」
① 言葉を惜しまずすすんでほめる小さなことでも、当たり前のことでも
② すばやくほめるタイミングよく
③ よさを意味づけ、 となるようにほめる学級全体の共感
④ よさの をする伝え合い
(教師間でよさを伝え合い、担任から本人に、学級へ、そして父母へ伝える)
⑤ 事実を ほめる具体的に
(次の向上へと生きる、よく見ないとほめられない)
⑥ 成果だけでなく 見逃さずほめる過程や努力も
(見えないよさにスポットを当て、よさを映し出す)
⑦ を見いだしながらほめる次の課題や改善点
⑧ ことばだけでなく、 ほめる体全体で
(笑顔とジェスチャー、握手、肩たたきなどのスキンシップ)
⑨ を感知して、工夫してほめるT(時)P(場)O(状況)
⑩ 役割を与えて意図的・計画的にほめる
よさを見つけ、ほめる教師がモデルとなって、生徒へ感化されていく
※しかり方も考えよう
・子どもの心理を理解したしか
り方をすること
・罪を憎んで人を憎まず
・叱る時と場所を選ぶこと
・生徒の立場を叱らない
○男くん、
今日で忘れ物なしを3日
続けたね。
すごい進歩だよ。
○○先生が、委員会
でのあなたの司会ぶ
りをとてもほめてい
たよ。みんなをまと
める力はとっても大
事な力ですよ。
A子さんが、あなたに励ましても
らってうれしかったと言っていた
よ。先生までうれしくなったよ。
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【演習2】学級経営上の教育課題解決のための手だての構想(文化祭の活動をとおして)
A あなたの学級(学年・学校)の児童生徒の実態(問題点)は何ですか?
その要因は?
C 児童生徒にどんな力をつけたいですか? そのために文化祭で何をしますか?(手立て)
B どんな○○ にしたいですか? 児童生徒に育てたいですか?(ゴールの明確化)学級等
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【主な引用・参考文献】
河村茂雄(2000 ,育てるカウンセリング実践シリーズ1『学級崩壊予防・回復マニュアル ,) 』
図書文化 pp.38-39
河村茂雄 編(2001),育てるカウンセリング実践シリーズ3『グループ体験によるタイプ別
学級育成プログラム ,図書文化 pp.8-10 pp.22-24』
杉田儀作 編著(1987 ,教師必携実践資料1「学級経営の計画と展開 ,日本文化科学社ほか ) 」
高階玲治 編(2002 ,学年・学級経営『教職研修4月増刊号学校経営相談12ヶ月』第6巻,)
教育開発研究所, pp.12-13、 pp.24-25 p.43、pp.62-63
松岡 寛ほか共編(1988 ,中学校「学級担任必携 ,文教書院) 」
山崎林平(1982 ,学級経営双書12「学級経営の内容と方法 ,明治図書) 」
「北海道教育」135号 1996.3,142号 1998.7,144号 1999.3,北海道立教育研究所
「教育じほう」1998年4月号,東京都立教育研究所
「教職研修」1995.2増刊,1997.7増刊,1998.10増刊1999.4増刊,教育開発研究所
「学級崩壊」指導の手引き,教育開発研究所(2001)教職研修11月増刊スクールカウンセリングの実践技術№6
「生徒指導・進路指導 ,教育開発研究所(2001)教職研修11月増刊号学校経営相談12カ月第2巻 」