産業レポート...インドのエレクトロニクス業界|2016 年9 月 2 1....

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【要 約】 インドにおいて、日系電機メーカーは、コンシューマーエレクトロニクス(以 下、コンシューマー)分野及び社会インフラ分野で幅広く事業を展開。 同国の人口・所得の増加を背景に、コンシューマー製品及びインフラ整備の需 要は拡大傾向。他地域を上回る伸びを示し、成長市場として注目を集める一 方、需給バランスをみると、ビジネス環境の未整備を背景に輸入超過が進展。 日系電機メーカーは、コンシューマー分野では韓国系・地元企業に販売シェア で劣り、苦戦を強いられてきた。社会インフラ分野では、低価格の汎用品が求 められる電力分野での存在感は小さい一方、高い技術力が求められる鉄道分野 等において存在感が大きい。 今後も、同国のエレクトロニクス製品の需要は、経済成長を背景に拡大が続く 見通し。もっとも、コンシューマー分野では顧客獲得・販売価格の両面で競合 激化が見込まれる。社会インフラ分野では、電力分野において価格競争の激化 が予想される一方、安全性が求められる鉄道分野では価格競争は比較的緩やか なものに止まるとみられる。 こうしたなか、日系電機メーカーには、分野毎に異なる対応が求められる。コ ンシューマー分野では、販売網の強化により顧客獲得競争における優位性を確 保することに加えて、製品毎の適切な生産・供給体制の構築を通じて、コスト 競争力を強化することが重要。 一方、社会インフラ分野では、発注者との接点増強、販売後のサポート体制 の整備を通じた受注体制の強化が求められる。また、特に大型のインフラ案 件では期間が長期化する傾向にあるため、適切な受注金額の見積もり、工程 管理等を通じた採算管理の徹底が重要となろう。 産業レポート 【シンガポール駐在報告】 インドのエレクトロニクス業界 ~日系電機メーカーを取り巻く環境 堀 和寛 (KAZUHIRO HORISTRATEGIC RESEARCH DIVISION (SINGAPORE) Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ A member of MUFG, a global financial group 2016 9

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Page 1: 産業レポート...インドのエレクトロニクス業界|2016 年9 月 2 1. 世界のエレクトロニクス業界におけるインドのポジション G0GFG0 成長市場として注目を集めるインド市場

【要 約】

インドにおいて、日系電機メーカーは、コンシューマーエレクトロニクス(以

下、コンシューマー)分野及び社会インフラ分野で幅広く事業を展開。

同国の人口・所得の増加を背景に、コンシューマー製品及びインフラ整備の需

要は拡大傾向。他地域を上回る伸びを示し、成長市場として注目を集める一

方、需給バランスをみると、ビジネス環境の未整備を背景に輸入超過が進展。

日系電機メーカーは、コンシューマー分野では韓国系・地元企業に販売シェア

で劣り、苦戦を強いられてきた。社会インフラ分野では、低価格の汎用品が求

められる電力分野での存在感は小さい一方、高い技術力が求められる鉄道分野

等において存在感が大きい。

今後も、同国のエレクトロニクス製品の需要は、経済成長を背景に拡大が続く

見通し。もっとも、コンシューマー分野では顧客獲得・販売価格の両面で競合

激化が見込まれる。社会インフラ分野では、電力分野において価格競争の激化

が予想される一方、安全性が求められる鉄道分野では価格競争は比較的緩やか

なものに止まるとみられる。

こうしたなか、日系電機メーカーには、分野毎に異なる対応が求められる。コ

ンシューマー分野では、販売網の強化により顧客獲得競争における優位性を確

保することに加えて、製品毎の適切な生産・供給体制の構築を通じて、コスト

競争力を強化することが重要。

一方、社会インフラ分野では、発注者との接点増強、販売後のサポート体制

の整備を通じた受注体制の強化が求められる。また、特に大型のインフラ案

件では期間が長期化する傾向にあるため、適切な受注金額の見積もり、工程

管理等を通じた採算管理の徹底が重要となろう。

産業レポート

【シンガポール駐在報告】

インドのエレクトロニクス業界

~日系電機メーカーを取り巻く環境

堀 和寛 (KAZUHIRO HORI)

STRATEGIC RESEARCH DIVISION

(SINGAPORE)

Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ A member of MUFG, a global financial group

2016年 9月

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

1

【目 次】

1. 世界のエレクトロニクス業界におけるインドのポジション ....................................2

2. インドのエレクトロニクス産業の概要 ....................................................................3

(1) 日系電機メーカーの主な事業領域.......................................................................3

(2) 需要動向 ..............................................................................................................4

(3) 生産動向 ..............................................................................................................6

(4) 輸出入の動向 .......................................................................................................9

(5) 現地生産における課題 ...................................................................................... 12

3. 業界構造 ................................................................................................................ 13

(1) 主要事業者の顔ぶれ .......................................................................................... 13

(2) 分野別にみた競争環境 ...................................................................................... 14

4. 今後の見通し ......................................................................................................... 19

(1) インドのエレクトロニクス産業の需要見通し ................................................... 19

(2) 生産・輸出入の動向 .......................................................................................... 21

(3) 競争の方向性 ..................................................................................................... 21

(4) 日系電機メーカーに求められる対応 ................................................................. 22

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

2

1. 世界のエレクトロニクス業界におけるインドのポジション

◇ 成長市場として注目を集めるインド市場

世界の主要なコンシューマーエレクトロニクス(以下、コンシューマー)製品の生産は

アジアに集中しており、なかでも中国が圧倒的な存在感を示している。こうしたなか、

世界におけるインドの生産シェアは、エアコン、冷蔵庫、TV 等いずれの製品分野におい

ても 10%未満に止まるとみられる。

需要面からみても、インドのシェアは世界全体の 3%程度(図表 1)。ただし、2001 年以

降の伸びは他地域と比べて高く、成長市場として注目を集めている(図表 2)。

図表 1:コンシューマー製品の

販売金額(2015 年)

(注)Consumer Appliancesの販売金額を使用。

図表 2:コンシューマー製品の販売金額推移

(注)Consumer Appliancesの販売金額を使用。

(資料)Euromonitor資料をもとに三菱東京 UFJ銀行

戦略調査部(シンガポール)作成

金額 割合

(百万米ドル) (%)

アジア 166,815 43.6

インド 10,719 2.8

北米 71,887 18.8

中南米 35,862 9.4

西欧 69,632 18.2

東欧 14,431 3.8

その他 23,802 6.2

合計 382,428 100.0

地域

50

100

150

200

250

300

2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015

インド

アジア

中南米

世界

北米

東欧

西欧

(年)

(2001年=100)

(資料)Euromonitor資料をもとに三菱東京 UFJ銀行

戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

3

社会インフラ関連機器(設備機器、重電機器、

産業用ロボット等)

電子部品・デバイス(電子部品・部材、半導体等)

白物家電(冷蔵庫、エアコン、洗濯機等)

電子機器(AV機器、通信機器、情報端末等)

B to C B to B

コンシューマー分野

社会インフラ分野

2.インドのエレクトロニクス産業の概要

(1) 日系電機メーカーの主な事業領域

◇ コンシューマー分野及び社会インフラ分野が主な事業領域

エレクトロニクス製品は、以下の 4つに大別される(図表 3)。

① 白物家電:冷蔵庫、エアコン、洗濯機等の生活家電。

② 電子機器:AV機器、通信機器(携帯電話を含む)、情報端末等。

③ 電子部品・デバイス:多様な用途に使用される電子部品・部材、半導体等。

④ 社会インフラ関連機器:エレベーター等の設備機器、発電機等の重電機器のほか、産

業用ロボット等。

本稿では、日系電機メーカーのインドにおける主な事業領域である白物家電及び電子機

器(コンシューマー分野)、社会インフラ関連機器(社会インフラ分野)を対象とする。

図表 3:エレクトロニクス産業の分類

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

4

(単位) 2004 2010 2014

億人 11.3 12.4 12.8

米ドル 840 1,477 1,821

(インドルピー)(29,543)(65,136)(98,291)

普及率

携帯電話 % 12.3 55.7 74.0

カラーTV % 40.8 61.8 66.4

エアコン % 7.3 10.8 13.0

人口

一人当たり GDP

-40 -43 -53 -66 -72 -86 -84 -73 -79 -87 -42

-300

0

300

600

900

1,200

04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

需要 供給 需給バランス

(千 MWH)

(年度)

(2) 需要動向

◇ 人口・所得の増加を背景に高成長が続く

インドにおけるエレクトロニクス製品の需要は、同国の人口・所得の増加を背景に、過

去 10 年間で年平均 13%のペースで成長。2014 年度には 4.8 兆インドルピー(約 8 兆円)

に達した(図表 4)。

人口及び一人当たり GDPの増加に伴い、コンシューマー製品の普及率は上昇(図表 5)。

社会インフラ分野でも需要は拡大。電力を例にみると、電力需要の増加と供給過小

(図表 6)を背景に、新規プラントの建設需要は旺盛。

図表 4:インドにおけるエレクトロニクス製品の需要推移

(資料)CEICデータをもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

図表 5:インドの経済指標及び家電普及率

(資料)IMF、Euromonitorデータをもとに三菱東京 UFJ銀行

戦略調査部(シンガポール)作成

(資料)Ministry of Power Annual Reportデータをもとに

三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

図表 6:インドにおける電力需給の推移

1,398

4,762

0

2,000

4,000

6,000

04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

(10億インドルピー)

(年度)

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

5

デリー

ムンバイ

バンガロール

チェナイ

【北部】

【中西部】

【南部】

12 3

4

56

7

8

9 10

11

12 13

14

15

人口 GDP

(百万人) (10億インドルピー)

インド全体 1,275 116,671

人口 GDP

(百万人) (10億インドルピー)

1 ウッタル・プラデシュ 211.0 10,434

2 ラジャスターン 72.2 6,122

3 デリー 18.0 4,945

4 ハリヤナ 26.7 4,419

5 パンジャブ 29.1 3,680

6 ウッタラーカンド 10.6 1,620

7 ヒマーチャル・プラデシュ 7.1 1,044

北部計 375 32,262

インド全体に占める割合 (30%) (28%)

 州名

人口 GDP

(百万人) (10億インドルピー)

11 タミル・ナード 74.6 10,926

12 カルナータカ 63.5 9,201

13 アーンドラ・プラデシュ 50.2 5,329

14 ケララ 34.0 5,267

15 テランガーナ 36.8 5,220

南部計 259 35,942

インド全体に占める割合 (20%) (31%)

 州名

人口 GDP

(百万人) (10億インドルピー)

8 マハラーシュトラ 117.2 17,921

9 グジャラート 63.4 8,959

10 マディア・プラデシュ 76.5 4,845

中西部計 257 31,726

インド全体に占める割合 (20%) (27%)

 州名

10兆以上

6兆以上、10兆未満

3兆以上、6兆未満

GDP(単位:インドルピー)

◇ 主要消費地は 3 大都市圏

デリー首都圏の「北部」、ムンバイを核とする「中西部」、バンガロール及びチェナイ

を含む「南部」が主要消費地の 3 極を形成(図表 7)。これらの地域では、人口の増加、

都市化・工業化の進展を背景に、エレクトロニクス製品の需要が高まっている。

図表 7:インドの州別 GDP 分布(2014 年度)

(資料)CEICデータをもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

6

(3) 生産動向

◇需要拡大を背景に増加基調で推移

インドにおけるエレクトロニクス製品の生産額は、需要拡大を背景に過去 10 年間で年平

均 14.2%増加(図表 8)。内訳をみると家電(29%)が最も多く、電子部品(21%)、産

業用機器(21%)が続く。

また、同国政府による産業振興策を背景に(図表 9)、外資系企業による生産拠点の新

設・拡張の動きも進展(次頁図表 10)。

図表 8:インドにおけるエレクトロニクス製品生産額の推移と 2014 年度の生産内訳

(資料)CEICデータをもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

図表 9:インドにおける製造業振興策

(資料)新聞記事、各種資料より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

家電29%

電子部品21%

産業用機器21%

通信用機器10%

コンピューター10%

その他9%

505

1,904

0

500

1,000

1,500

2,000

04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

(10億インドルピー)

(年度)

(注)コンシューマー製品、社会インフラ製品の合算。

時期 政策 概要

2011年 国家製造業政策

同国初の本格的な製造業振興策。大規模な経済特区を創設し、域内で適用される労働法、環境規制などを緩和することで、外資系企業を中心に投資を促進。同国のGDPに占める製造業の割合を16%から25%へ引上げること及び、2025年までに1億人の雇用を創出することが目標。

2012年 国家電子産業政策電子機器の内需拡大に伴う貿易赤字の解消を目的とした産業振興策。生産拠点のインフラ整備に対する補助金、生産設備への投資に対する税金還付、同国政府による国産品の優先調達などにより、電子機器産業を支援。

2014年 Make in Indiaインドへの製造業の集積及び同国の輸出拠点化を目的とした政策。外資系企業による出資比率の緩和、税制優遇、行政手続きの簡素化などの環境整備により、国内外の企業による工場設立を支援。

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

7

さらに、こうした動きに合わせて、需要が堅調な携帯電話、TV、エアコン等の製造を受

託する地元の EMS(電子機器受託製造サービス)企業が生産を拡大している模様。

図表 10:インドにおける近年の主な工場新設・拡張の動き

(資料)新聞記事、各種資料より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

時期 企業 国 製品分野 概要

2012.12 パナソニック 日本 家電北部ハリヤナ州で家電生産拠点「パナソニックテクノパーク」開設

2014.11 東芝 日本 社会インフラ 発電所向けの変圧器・ガス遮断装置の製造ラインを建設

2015.5 Haier 中国 家電エアコンなど家電の生産工場を新設。同年8月には追加投資も発表

2015.5 三菱電機 日本 社会インフラ エレベータ製造の新工場設置

2015.9 Gionee 中国 携帯電話Foxconn(台)、Dixon(印)と提携し、携帯電話の現地生産を開始

2015.11BSH Bosch und Siemens

Hausgeraeteドイツ 家電

家電の現地生産を含め、向こう5年間で、1億ユーロの投資を計画

2015.11 三菱電機 日本 社会インフラ 南部カルナータカ州で鉄道部品工場を稼働

2015.12 Micromax インド 携帯電話2018年までの完全国内生産(現在約3割)を目指し、3工場(北西部ラジャスターン州、南部テランガーナ州、南部アーンドラ・プラデシュ州)を設置

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

8

◇主要生産地は 3 大都市圏に集中

「北部」、「中西部」、「南部」に主要電機メーカーの工場は集中(図表 11)。

北部では、首都デリーへの近接性、国道等比較的整備された陸上輸送網を背景に工

場の集積が進展。

中西部は、金融・商業の中心都市であるムンバイに加えて、同国最大のコンテナ港

(ジャワハルラール・ネルー港)を有する。

南部には、州政府による誘致策により工場団地が集積。また、チェナイは東海岸に

面する巨大港湾施設を有する。

ウッタラーカンド

ハリヤナ

ウッタル・プラデシュラジャスタン

グジャラート

マハラーシュトラ

カルナータカ

タミル・ナード

西ベンガル

テランガーナ

アーンドラ・

プラデシュ

【北部】

【中西部】

【南部】

デリー首都圏

デリー

ムンバイ

チェナイ

図表 11:インドにおける主要電機メーカーの工場立地

(注)◇はコンシューマー製品、◆は社会インフラ製品の工場を示す。

(資料)新聞記事、各種資料より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

9

7

21 26

67

-19 -24

-33 -35 -32 -37

-48 -43

-38 -43 -46 -60

-40

-20

0

20

40

60

80

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

輸出額 輸入額 輸入超過額

(10億米ドル)

(年度)

(4) 輸出入の動向

◇輸入超過額は概ね拡大傾向

エレクトロニクス製品の貿易動向をみると、輸入額が輸出額を大きく上回る状況が続い

ているうえ、輸入超過額は拡大傾向にある(図表 12)。

アジア主要国との比較においても、インドのエレクトロニクス製品の輸出額は小さく、

輸出額に対する輸入額の割合は 3倍超と突出して高い(図表 13)。

213 169

82 66

34 21 16

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

0

100

200

300

400

500輸出額(2015年)

輸出に対する輸入の割合(輸入/輸出)(右目盛)

(10億米ドル)(965)

(倍)

図表 12:インドのエレクトロニクス製品の輸出入額推移

(注)コンシューマー製品、社会インフラ製品の合算。

(資料)CEICデータをもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

図表 13:アジア主要国のエレクトロニクス製品輸出規模と輸入/輸出額の比率

(注)1. コンシューマー製品、社会インフラ製品の合算。

(資料)CEIC、各国統計資料をもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

2. インドネシアのみ 2014年のデータを使用。

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

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輸入相手国 千台 割合 輸入相手国 千台 割合 輸入相手国 千台 割合 輸入相手国 千台 割合

1 中国 957 55% 1 タイ 122 43% 1 中国 472 93% 1 中国 5,594 93%

2 タイ 721 41% 2 中国 100 35% 2 トルコ 12 2% 2 インドネシア 159 3%

3 マレーシア 53 3% 3 韓国 28 10% 3 タイ 10 2% 3 シンガポール 86 1%

4 香港 4 0% 4 トルコ 18 6% 4 韓国 5 1% 4 マレーシア 40 1%

5 韓国 3 0% 5 インドネシア 10 4% 5 ベトナム 3 1% 5 韓国 20 0%

その他 3 0% その他 6 2% その他 3 1% その他 89 1%

TV洗濯機冷蔵庫エアコン

輸出相手国 千台 割合 輸出相手国 千台 割合 輸出相手国 千台 割合

1 アラブ首長国連邦 51 45% 1 ネパール 409 37% 1 モロッコ 38 15%

2 ナイジェリア 11 10% 2 スリランカ 128 12% 2 インドネシア 29 12%

3 オマーン 11 10% 3 アラブ首長国連邦 107 10% 3 スリランカ 20 8%

4 スリランカ 10 9% 4 ナイジェリア 45 4% 4 ナイジェリア 18 7%

5 イラク 6 5% 5 サウジアラビア 45 4% 5 アラブ首長国連邦 15 6%

その他 23 20% その他 357 33% その他 127 51%

エアコン 冷蔵庫 洗濯機

◇コンシューマー製品は主に中国及びアセアン各国から輸入

コンシューマー製品の輸入相手国は、主に中国及びアセアン各国(図表 14)。

中国は、エアコン、洗濯機、TV で過半を占めるほか、冷蔵庫についても 3 割超の輸

入シェアを占める。

また、エアコン、冷蔵庫については、電機産業の集積が進むタイからの輸入比率が

高い。

一方、輸出は、中東、アジア、アフリカ向けが主体(図表 15)。

アフリカ向け輸出は中長期的には高成長が見込まれる。これは、地理的近接性に加えて、

気候、嗜好等において共通点が多いため(図表 16)。

図表 14:インドの主要エレクトロニクス製品の輸入相手国(2015 年度)

(資料)Ministry of Commerce Exim Databankをもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

図表 15:インドの主要エレクトロニクス製品の輸出相手国(2015 年度)

(資料)CEIC、各国統計資料をもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

メリット

商品開発東・南・西アフリカ地域と気候、風土、嗜好などで共通点が多く、求められる製品の品質・機能も比較的似ている。

生産 生産拡大による経済合理性を享受。安価な人件費。

販売 東・南・西アフリカ地域の印僑ネットワーク活用による販売網の確立。

輸出 物理的に距離が近い。輸出支援策が活用可能。

図表 16:インドをアフリカ向け輸出拠点 とするメリット

(資料)新聞記事、各種資料より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

11

【輸入】

輸入相手国 百万米ドル 割合 輸入相手国 百万米ドル 割合 輸入相手国 百万米ドル 割合 輸入相手国 百万米ドル 割合

1 中国 302 41% オマーン 36 49% 中国 81 41% 1 日本 24 35%

2 韓国 81 11% 中国 27 36% ドイツ 40 20% 2 韓国 15 21%

3 ドイツ 76 10% ドイツ 3 4% 日本 38 19% 3 中国 8 12%

4 日本 46 6% 韓国 2 3% 米国 10 5% 4 イタリア 6 9%

5 メキシコ 31 4% ベトナム 2 3% イタリア 6 3% 5 ドイツ 6 8%

その他 191 26% その他 4 5% その他 24 12% その他 10 15%

【輸出】

輸出相手国 百万米ドル 割合 輸出相手国 百万米ドル 割合 輸出相手国 百万米ドル 割合 輸出相手国 百万米ドル 割合

1 米国 101 24% フィリピン 27 10% インドネシア 10.0 10% 1 ドイツ 0.4 28%

2 ドイツ 33 8% タイ 21 7% ケニア 8.2 8% 2 アラブ首長国連邦 0.2 18%

3 サウジアラビア 32 8% グアテマラ 15 6% アラブ首長国連邦 8.0 8% 3 スウェーデン 0.2 17%

4 中国 23 5% バングラデシュ 15 5% トルコ 7.9 8% 4 米国 0.1 8%

5 メキシコ 19 4% カナダ 15 5% エチオピア 7.3 7% 5 日本 0.1 6%

その他 214 51% その他 186 67% その他 61.1 60% その他 0.3 23%

電力分野

電力分野 産業用ロボット

発電機 ボイラー タービン

発電機 ボイラー タービン

産業用ロボット

◇社会インフラ製品では日本のシェアが高い製品も存在

社会インフラ製品の輸入についても、中国のシェアが高い(図表 17)。一方、産業用ロ

ボット等高い技術が求められる製品については、日本が高いシェアを占める。

また、輸出相手国は、世界各地に分散している。

図表 17:社会インフラ製品の輸出入相手国(2015 年)

(資料)UN Comtrade資料をもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

12

順位 国 評点

1 シンガポール 87

18 マレーシア 79 税金の種類が多く、毎年見直しされる。

34 日本 75 また、州毎に固有の税制が存在し、頻繁に変更される。

49 タイ 71 ◇脆弱なインフラ

84 中国 63 電力供給が不安定で停電が頻発。鉄道網が未整備かつ

90 ベトナム 62 貨物輸送の定期運行が無いため、製品の納期遵守が困難。

103 フィリピン 60 ◇頻発する労働争議

109 インドネシア 58 労使交渉を発端とするスト・暴動が度々発生。

130 インド 55 また、従業員の解雇は困難で、柔軟な人員配置ができない。

主な問題点

◇複雑な税制

(5) 現地生産における課題

◇税制、インフラ、雇用面等ビジネス環境の整備が課題

同国電機メーカーが内需に見合う生産量を確保できていない理由として、国内における

税制、インフラ、雇用面といったビジネス環境の未整備が大きい。

世界銀行のランキングで、インドは 189か国中 130位とアジアのなかでも極めて評価

が低い(図表 18)。複雑な税制、脆弱なインフラ、頻発する労働争議がビジネスを

行ううえでの大きな課題となっている(図表 19)。

また、工場設立後に土地の権利関係に起因するトラブルが多く発生することも投資

拡大の阻害要因となっている。

実際、コンシューマー製品を例にみると、日系をはじめとする電機メーカー各社は、

既に大規模な生産拠点を有するタイ、マレーシア等で生産した製品をインドに輸出

するケースが多い。

図表 18:世界銀行による

ビジネス環境ランキング

図表 19:インドにおけるビジネス上の主な問題点

(資料)世界銀行「Doing Business 2016」

をもとに三菱東京 UFJ銀行

戦略調査部(シンガポール)作成

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

13

エアコ

冷蔵庫

液晶T

V

携帯電

洗濯機

P

C

エアコ

プリン

ター

日立製作所 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

東芝 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

三菱電機 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

パナソニック ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

シャープ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

ソニー ✔ ✔ ✔

NEC ✔ ✔

GE ✔ ✔

Siemens ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

Whirpool ✔ ✔ ✔

LG ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

Samsung ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

Haier ✔ ✔ ✔ ✔

TCL ✔ ✔ ✔

Acer ✔ ✔ ✔

Shanghai Electric ✔

SEPCO ✔

SEC ✔

Videocon ✔ ✔ ✔ ✔ ✔

IFB Industries ✔ ✔ ✔

Micromax ✔ ✔

Bharat Heavy Electricals ✔ ✔ ✔ ✔

BGR Energy Systems ✔ ✔

Thermax ✔ ✔ ✔

地元

エレベー

ター

太陽光発電

石油・ガス

社会インフラ

中国系

コンシューマーエレクトロニクス

家庭用 事務用 鉄道システム

電力分野

日系

韓国系

欧米系

プロジェクター

3.業界構造

(1) 主要事業者の顔ぶれ

◇日系電機メーカーはコンシューマー、社会インフラ双方に幅広く事業展開

インドでは日系のほか、欧米系、韓国系、中国系及び地元の電機メーカーが事業を手が

けている(図表 20)。

日系企業は総じてコンシューマー製品を幅広く手掛けているが、日立製作所、東芝、三

菱電機は社会インフラ分野における存在感が大きい。

図表 20:インドで事業を手がける主要企業の事業範囲

(資料)各社 HP、報道資料をもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

14

(2) 分野別にみた競争環境

① コンシューマー分野

◇韓国系・地元企業のシェアが高く、日系企業のシェアは小さい

インドにおける冷蔵庫、TV 及び携帯電話の販売シェアをみると、各製品ともに韓国系・

地元企業が合計で 6~7割を占める(図表 21)。

インドでは、アセアン各国と比べて地元企業(Videocon、Godrej、Micromax 等)のシェ

アが高い。

アセアン各国が、90 年代後半のアジア通貨危機以降、各種優遇政策を通じて外資系

企業の誘致を進めた一方、インドでは自国産業の保護が優先されたため、外資系企

業の参入が本格化しなかった。

こうしたなか、地元企業は、機能の簡素化により価格設定を抑えた製品を投入し、

低所得層を中心にシェアを獲得。

足元では、地元メーカーの Ringing Bellsが 251インドルピー(約 400円)のスマート

フォンを発売する等、低価格を訴求した製品を投入。

46.8 21.7インド

タイ

マレーシア

インドネシア

ベトナム

日本 韓国 地元 中国 欧米

47.1 14.1 23.5 52.0

冷蔵庫 TV 携帯電話

68.5 61.2 75.5

図表 21:アジア各国における主要家電製品及び携帯電話の販売シェア(2015 年)

(資料)Euromonitorデータをもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

15

日系 韓国系 地元

2000年代前半までの注力市場

中国、アセアン 中国、インド インド

インドへの投資スタンス

消極的 積極的 大規模投資は限定的

主要販売チャネル 家電量販店個人商店、家電量販店、直営店

個人商店中心

価格帯 高価格 低~高価格 低価格

販売製品 世界共通モデル中心 現地対応モデル 現地対応モデル

製品設計 日本、タイ インド インド

日系企業の販売シェアが総じて低迷する一方、韓国系企業(LG、Samsung)は冷蔵庫及

び TVで約 5割、携帯電話で 2割超のシェアを確保。

韓国系企業は、進出当初(90 年代半ば)からインドでの製品設計・生産を前提に積

極的な投資を実施(図表 22)。現地法人への権限委譲、インド人幹部の登用等を併

せて進めた。

また、韓国系企業は、主要販売チャネルである個人商店への積極的なインセンティ

ブの付与、直営店の拡大を通じて営業力を強化。幅広い価格帯で現地対応モデルの

製品を揃え、中間層を主体に顧客基盤を広げた。

一方、日系企業は、中国・アセアン市場への投資を優先したことから、販売チャネ

ル、製品ラインアップの拡充で韓国系企業に劣後。高価格帯の製品が中心となるな

か、顧客基盤は所得が比較的高い一部の層に限られている。

その他、Nokia、Apple 等の欧米系企業が、富裕層から上位中間層向け製品を主体に携帯

電話で 1 割近いシェアを有するほか、中国系企業も低価格製品の投入により、冷蔵庫、

携帯電話で販売シェアを拡大している。

図表 22:インドで事業を手がける日系・韓国系・地元企業の特徴

(資料)新聞記事等より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

16

◇日系企業は富裕層から上位中間層向けに販売

参入企業には、顧客の所得層に応じた緩やかな棲み分けがみられる(図表 23)。

日系・欧米系企業は高品質・高機能の製品を富裕層から上位中間層向けに販売。

韓国系企業は、商品ラインアップが幅広く、主要ターゲットの中間層に加えて富裕

層、低所得層にも販売。

地元・中国系企業は、低所得層をターゲットに最低限の機能に特化した安価な製品

を投入。

また、足元では、日系・欧米系企業が販売ボリュームの確保を目的に製品ラインアップ

拡充を計画する等、従来の棲み分けを超えた動きもみられる。

日本

欧米

韓国

インド

中国

富裕層

中間層

低所得層

商品ラインアップ充実

により幅広い所得層の

顧客を獲得。

近年、中国企業が

低価格製品でシェア

を伸ばしている。

製品ラインアップ拡充

図表 23:インドにおける参入企業間の顧客層別にみた競合状況

(資料)各種資料より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

17

事業内容

Shanghai Electric 中国最大の電力設備事業者の1社。発送電設備機器が主力

SEPCO 電力プラントの設計、建設を手掛ける世界有数の重電メーカー

SEC 中国最大の電力設備事業者の1社。蒸気タービンに強み

Bharat Heavy Electricals 国営重電メーカー。インド電力設備機器分野においてシェアトップ

L&T インドを代表する大手建設事業者。電力設備、電子機器の製造も手掛ける

BGR Energy Systems 電力に加え、石油、ガス設備機器を手掛ける大手重電メーカー

中国系

地元

企業名

② 社会インフラ分野

◇電力分野では中国・地元系の存在感が大きい

社会インフラ分野には、日系・欧米系の総合電機メーカーのほか、中国系・地元の重電

専業メーカーが参入。こうした重電専業メーカーは、電力分野を中心に事業を手がけて

いる(図表 24)。

インドにおいては、発注者が価格を重視する傾向が極めて強く、低価格を強みとする中

国系・地元企業が高い受注シェアを確保している模様。

中国系企業は、ボイラー・タービンといった汎用品を大量生産することにより低価

格を実現。地元企業も、発注者との強固なネットワークを通じて低価格製品を販売

し、受注シェアを確保。

一方、日系企業は、工場用の自家発電設備、無停電電源装置(注)等特定分野における

シェアが高い模様。これは、顧客毎に製品のカスタマイズが必要なほか、電力の安

定供給のため製品の性能が第一に重視されることが大きい。

図表 24:インドで事業を手がける主な中国系・地元系重電メーカー

(資料)各種資料より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

(注)入力電源が停止した場合でも、一定時間、接続された機器に対して電力供給を続ける

装置で、工場、病院等で多く使用される。

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

18

時期 企業名 受注製品 金額 受注概要

2010.5 Siemens車両、信号、運行制御システム

- グルガオン都市高速鉄道PJ

2011.7 三菱電機 鉄道車両部品 45億円 デリー地下鉄向け鉄道車両部品

2015.11 Alstom 電気機関車 3,700億円 インド国鉄向け電気機関車800台

信号設備北部ハリヤナ州~中西部グジャラート州(総距離915km)における貨物専用鉄道PJ

自動列車制御システム

北部ハリヤナ州~中西部マハラーシュトラ州(総距離1,337km)における貨物専用鉄道PJ

2015.12 Siemens 機関車用電動機 70億円 インド国鉄のディーゼル電気機関車向け主電動機1,890基

日立製作所三井物産

2015.12 390億円

企業名 属性Johnson Lifts 地元

Blue Star Elevators 地元

Mitsubishi Elevator India 日系

Hitachi Lift India 日系

Fujitec India 日系

KONE Elevator India 欧米系

Otis Elevator 欧米系

Schindler India 欧米系

ThyssenKrupp Elevators India 欧米系

◇鉄道分野では日系・欧米系企業の存在感が大きい

鉄道分野においては、高い技術力を有する日系・欧米系企業の存在感が大きい(図表

25)。これは、安全性が最優先されるほか、プロジェクト毎のオーダーメイド製品が求

められるため。

日系企業は、オフィス・商業施設向けのエレベーターを主力とするビルソリューション

分野、産業用ロボット・工作機械向け制御部品を中心とする FA(ファクトリー・オート

メーション)分野でも事業を手がけている。

エレベーター分野では、最大手の Johnson Lifts(地元)を筆頭に、地元、日系、欧米

系が競合(図表 26)。

一方、FA 分野の製品は、高速かつ精緻な動作が求められる等開発・製造の難度が高

く、日系企業の存在感が大きい。

図表 25:インドにおける鉄道プロジェクト受注状況

(資料)各種資料より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

図表 26:インドにおけるエレベーター分野の参入企業

(資料)各種資料より三菱東京 UFJ銀行

戦略調査部(シンガポール)作成

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

19

2015 2016 2017 2018 2019 2020

(実績) (予測) (予測) (予測) (予測) (予測)

家電市場 10億 米ドル 34 35 38 41 47 54 9.7%

GDP成長率 % 7.3 7.5 7.5 7.6 7.7 7.7 -

米ドル 1,617 1,747 1,875 2,027 2,208 2,402 8.2%

(インドルピー) (105,452)(116,384)(128,844)(143,018)(158,914)(176,678) (11.1% )

人口 億人 12.9 13.1 13.3 13.4 13.6 13.8 1.4%

一人当たり GDP

(単位)CAGR

(5年)

4.今後の見通し

(1) インドのエレクトロニクス産業の需要見通し

① コンシューマー分野

◇需要は底堅く成長する見通し

インドのコンシューマー分野は、今後も拡大基調を辿る見通し(図表 27)。

同国における白物家電及び AV・通信機器の普及率はアジア主要国と比べて低水準に止ま

っており(図表 28・29)、今後の経済成長に伴いコンシューマー製品の普及率が上昇す

るとみられる。

図表 27:インドにおける家電市場と主要経済指標の推移

(資料)IMF、Euromonitor資料より三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

図表 28:アジア主要国の白物家電普及率

(2015 年)

図表 29:アジア主要国の AV・通信機器普及率

(2015 年)

(注)普及率は、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、掃除機の平均値。

(資料)Euromonitor資料より三菱東京 UFJ銀行

戦略調査部(シンガポール)作成

(注)普及率は、TV、携帯電話、PCの平均値。

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60

(千米ドル)

(%) 日本 シンガポールベトナム マレーシア

フィリピンタイ

中国

インドネシア

インド

縦軸:普及率

横軸: 一人当たり名目GDP

(資料)Euromonitor資料より三菱東京 UFJ銀行

戦略調査部(シンガポール)作成

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60

シンガポール

日本

ベトナム

(%)

インド

フィリピン

インドネシア

マレーシア

中国

タイ

縦軸:普及率

横軸: 一人当たり名目GDP(千米ドル)

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

20

② 社会インフラ分野

◇需要拡大が続く公算が大きい

社会インフラ分野においても、多くの大型プロジェクトが計画されるなか、需要は拡大

が続く公算が大きい(図表 30)。

電力分野では、深刻な電力供給不足を背景に、今後も供給能力の拡大が続く見通し

(図表 31)。

鉄道分野においても、旅客、貨物両面で輸送需要の拡大が見込まれるなか(図表

32)、鉄道網整備が重要な政策課題となっている。

図表 30:インドにおける今後の大型プロジェクト

(資料)新聞報道等により三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

(単位) 20152022

(予測)

CAGR

(7年 )

GW 267 350 3.9%

10億米ドル 6.7 27.5 14.5%

電力供給能力

火力発電向け設備需要

図表 31:インドにおける電力供給能力及び火力発電向け設備需要の見通し

(資料)Central Electrical Authority、各種資料をもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

図表 32:インドにおける年間輸送客数と輸送貨物量見通し

(単位) 20152020

(予測)

CAGR

(5年 )

10億人 8.4 15.2 12.6%

百万トン 1,101 2,165 14.5%

年間輸送旅客数

年間輸送貨物量

(資料)Ministry of Railways、各種資料をもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

プロジェクト 概要

高速鉄道計画鉄道網の近代化・高度化を目的にデリー、ムンバイ、バンガロールなど複数都市で計画されている高速鉄道計画。2015年12月に一部区間(ムンバイ~アーメダバード)における日本の新幹線システム導入について両国の首脳間で合意済。

デリー・メトロ拡張首都デリー近郊を結ぶ地下鉄の拡張計画。現在の総営業距離190kmから2021年には400km超へ拡張する予定。

貨物専用鉄道計画同国における貨物輸送能力の強化を目的とした鉄道計画。デリー~ムンバイ間を結ぶ西回廊とデリー~コルカタ間を結ぶ東回廊で構成。

電力新規供給計画インド電力省が、第12次5カ年計画(2012年4月~2017年3月)のなかで、76,000MWの発電能力増強を計画(投資総額10兆インドルピー超)。

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

21

(2) 生産・輸出入の動向

◇生産増加は緩やかなペースに止まり、輸入超過が続く見通し

こうしたなか、コンシューマー分野、社会インフラ分野のいずれも、生産増加のペース

は内需の伸びと比べて緩やかなものに止まる見通し。これは、税制・雇用面におけるビ

ジネス環境の整備が急速に進む可能性は低いとみられるため。

したがって、大幅な輸入超過が続くとみられる。

(3) 競争の方向性

① コンシューマー分野

◇顧客獲得・販売価格の両面で競合激化が見込まれる

今後、インドのコンシューマー分野においては、顧客獲得・販売価格の両面で競合激化

が見込まれる。

日系・欧米系企業において中間層向け製品のラインアップ拡充により顧客層の拡大

を図る動きが予想される。

また、中国系企業の低所得層向け市場への新規参入が増加すると見込まれる。これは、

中国系企業が自国内での需要減速を背景に、インドへの輸出を拡大するとみられる

ため。

販売価格についても、顧客獲得競争の激化を背景に、下押し圧力が強まる可能性が

高い。

② 社会インフラ分野

◇製品の特性に応じて分野毎に異なる方向性が予想される

社会インフラ分野においては、製品の特性に応じて分野毎に異なる方向性が予想される。

汎用品の販売が中心となる電力分野では、技術的な参入障壁が低いため、中国系・

地元の重電メーカーによる新規参入が進むとみられる。また、多くの発注者が価格

を極めて重視する点を踏まえると、価格競争の一段の激化が予想される。

一方、鉄道分野等オーダーメイド製品が求められる分野では、発注者が安全性の高

さ、過去の納入実績等を第一に評価するため、新規参入は少ないと考えられる。こ

うしたなか、価格競争も比較的緩やかなものに止まるとみられる。

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

22

(4) 日系電機メーカーに求められる対応

① コンシューマー分野

◇販売網の強化、コスト競争力の強化が求められる

顧客獲得・販売価格の両面で競争激化が見込まれるなか、日系電機メーカーには、(a)

販売網の強化に加え、(b)コスト競争力の強化が求められる。

(a)販売網の強化

顧客獲得競争における優位性を確保するうえで、販売網の強化が不可欠であることから、

主要販売チャネルとなる個人商店及び地元卸売業者との取引関係強化等地道な営業活動

が重要。

インドでは、全国に販売ネットワークを有する業者が存在せず、州毎に主要な販売

業者が存在。このため、各地域に精通した営業人材の確保が必要。

特に需要が集中する 3大都市圏を優先的に強化することが有効。

(b) コスト競争力の強化

コスト競争力を強化するためには、製品毎の戦略に応じた供給体制を構築することが

重要。

富裕層向けの製品については、周辺国からの輸入が有効。これは、タイ、マレーシ

ア等の既存工場で生産することによりスケールメリットが得られるため。

一方、中間層向け製品については、インドでの生産が重要。これは、顧客が求める

価格、機能にあった製品の設計・開発が不可欠なため。短期的には EMS 企業への生

産委託を活用し、中長期的には、ビジネス環境の整備に合わせて自社工場の拡張が

重要となろう。

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

23

② 社会インフラ分野

◇受注体制の強化と採算管理の徹底が重要

社会インフラ分野では、鉄道等日系電機メーカーが強みを持つ分野における(a)受注体

制の強化、(b)採算管理の徹底が重要となる。

(a)受注体制の強化

受注体制の強化に向けては、地元企業との連携に加え、サポート体制の拡充が求めら

れる。

新規受注の安定的獲得には、発注者との接点増強が重要。プロジェクトの主な発注者

となるインド国営企業、地元財閥に加えて、各業界で強固なネットワークを有する地

元企業との連携強化が有効。

また、発注者に対する販売後のサポート体制の拡充も重要。具体的には、インド国内

での販売拠点・代理店網の拡充により、きめ細かい技術サポートが可能な体制を整備

することが求められる。

(b)採算管理の徹底

特に大型のインフラ案件においては、採算管理の徹底が重要となる。

大型のインフラ案件では、製品の受注契約から生産、納品、代金回収までの期間が長

期化する傾向にあるうえ、受注後に契約期間の延長を求められるケースも多い。

こうした期間の延長は採算悪化に直結。これは、インドでは、期間の延長に関して、

コストの増加分を発注者が負担する旨の規定が契約に盛り込まれないことが多い

ため。

こうしたなか、発注者の信用リスク、プロジェクトの遅延リスク、契約上の法務リス

ク等を適切に評価したうえで受注金額を見積もり、工程管理等を通じた採算管理の徹

底が必要となろう。

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インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

24

シェア シェア シェア

1 LG (韓) 24.2% 1 LG (韓) 24.2% 1 LG (韓) 24.2%

2 Samsung (韓) 23.2% 2 Samsung (韓) 22.8% 2 Samsung (韓) 22.6%

3 Godrej (地) 12.5% 3 Godrej (地) 12.3% 3 Godrej (地) 12.6%

4 Whirlpool (欧) 12.1% 4 Whirlpool (欧) 12.2% 4 Whirlpool (欧) 12.5%

5 Videocon (地) 8.8% 5 Videocon (地) 8.6% 5 Videocon (地) 8.4%

上位5社計 80.8% 上位5社計 80.1% 上位5社計 80.3%

その他 19.2% その他 19.9% その他 19.7%

1 Samsung (韓) 25.4% 1 Samsung (韓) 22.8% 1 Samsung (韓) 24.4%

2 LG (韓) 23.3% 2 LG (韓) 19.9% 2 LG (韓) 22.7%

3 ソニー (日) 12.4% 3 ソニー (日) 15.4% 3 ソニー (日) 17.4%

4 Videocon (地) 10.8% 4 Videocon (地) 10.0% 4 Videocon (地) 9.3%

5 Onida (地) 5.1% 5 Onida (地) 10.0% 5 Philips (欧) 5.0%

上位5社計 77.0% 上位5社計 78.1% 上位5社計 78.8%

その他 23.0% その他 21.9% その他 21.2%

1 Samsung (韓) 23.8% 1 Samsung (韓) 22.1% 1 Samsung (韓) 21.5%

2 Nokia (欧) 16.7% 2 Micromax (地) 15.8% 2 Micromax (地) 16.1%

3 Micromax (地) 11.8% 3 Nokia (欧) 11.7% 3 Karbonn Mobile (地) 9.0%

4 Karbonn Mobile (地) 9.0% 4 Karbonn Mobile (地) 9.3% 4 Intex (地) 8.2%

5 Lava (地) 6.0% 5 Lava (地) 6.5% 5 Nokia (欧) 8.1%

上位5社計 67.3% 上位5社計 65.4% 上位5社計 62.9%

その他 32.7% その他 34.6% その他 37.1%

2015年

企業名

T

V

携帯電話

2013年 2014年

企業名 企業名

冷蔵庫

付表:インドにおける主要家電製品及び携帯電話の販売シェア

(注)(韓)は韓国系、(地)は地元、(欧)は欧米系、(日)は日系を指す。

(資料)Euromonitorデータをもとに三菱東京 UFJ銀行戦略調査部(シンガポール)作成

Page 26: 産業レポート...インドのエレクトロニクス業界|2016 年9 月 2 1. 世界のエレクトロニクス業界におけるインドのポジション G0GFG0 成長市場として注目を集めるインド市場

インドのエレクトロニクス業界|2016年 9 月

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