大学生が全国へ。 地域で見つけた の〔いまじん〕...

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いまじん 大学生が全国へ。 地域で見つけた 魅力 あとがき 20159月に国連総会で採択された「持続可能な 開発目標(SDGs : Sustainable Development Goals)」を達成する上で、持続可能な開発のた めの教育(ESD : Education for Sustainable Development )や環境教育を推進していくことが 重要と考えられます。今後、どういう「人づくり」 を行う必要があるのか、次世代を担う大学生と 一緒に考えたい。このような問題意識のもと、今 般、環境省において、大学生が地域で持続可能 な社会づくりに取り組む先輩たちを取材し、その 結果をもとに、ESDや環境教育のあり方を考え るという企画を立ち上げました。 この企画の趣旨に賛同し、全国から集まった 19名の学生たちは、現地に赴き、その雰囲気を体 感しながら、先輩たちが歩んだ人生を掘り下げ ていきました。その結果、取組のキッカケは「自 分を受け入れてくれた地域に貢献したい」、「あ の人みたいになりたい」、「自分の大好きなギタ ーの原木を守りたい」、「女性に元気になっても らい た い 」、「 経 済 効 果 が ありそうだ から 」など 様々でしたが、学生たちは「自分が大切にしてい る気持ち」を「持続可能な社会を創る大きなうね りに変えている」という、皆に共通する要素に気 づき、このうねりを「創り出す力」は何かというこ とを考えていきました。 この冊子は、このプロジェクトの成果として学 生たちが取りまとめたレポートです。タイトルの Imagine」は、「『今』を生きる『人』が未来を『想像』 するための『マガジン』」という意味が込められて います。人それぞれが大切にしている気持ちを持 続可能な社会、そして未来に繋げるために、どうい う一歩を踏み出せばいいか、また、どういう「人 の力」を引き出していけばいいのかを考えるキ ッカケとしていただければ幸いです。 環境省総合環境政策局環境教育推進室 お問い合わせ先 ESD 「見える化」レポーター事務局 105-0003 東京都港区西新橋2-11-5 TKK西新橋ビル TEL03-3580-8221 FAX03-3580-8265 E-mail[email protected] 編集/発行 ESD 「見える化」レポーター事務局 発行 20173

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Page 1: 大学生が全国へ。 地域で見つけた の〔いまじん〕 大学生が全国へ。地域で見つけた「人の魅力」 あとがき 2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な

〔いまじん〕

大学生が全国へ。地域で見つけた「人の魅力」

あ と が き

 2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な

開発目標(SDGs : Sustainable Development

Goals)」を達成する上で、持続可能な開発のた

めの教育(ESD : Education for Sustainable

Development)や環境教育を推進していくことが

重要と考えられます。今後、どういう「人づくり」

を行う必要があるのか、次世代を担う大学生と

一緒に考えたい。このような問題意識のもと、今

般、環境省において、大学生が地域で持続可能

な社会づくりに取り組む先輩たちを取材し、その

結果をもとに、ESDや環境教育のあり方を考え

るという企画を立ち上げました。

 この企画の趣旨に賛同し、全国から集まった

19名の学生たちは、現地に赴き、その雰囲気を体

感しながら、先輩たちが歩んだ人生を掘り下げ

ていきました。その結果、取組のキッカケは「自

分を受け入れてくれた地域に貢献したい」、「あ

の人みたいになりたい」、「自分の大好きなギタ

ーの原木を守りたい」、「女性に元気になっても

らいたい」、「経済効果がありそうだから」など

様々でしたが、学生たちは「自分が大切にしてい

る気持ち」を「持続可能な社会を創る大きなうね

りに変えている」という、皆に共通する要素に気

づき、このうねりを「創り出す力」は何かというこ

とを考えていきました。

 この冊子は、このプロジェクトの成果として学

生たちが取りまとめたレポートです。タイトルの

「Imagine」は、「『今』を生きる『人』が未来を『想像』

するための『マガジン』」という意味が込められて

います。人それぞれが大切にしている気持ちを持

続可能な社会、そして未来に繋げるために、どうい

う一歩を踏み出せばいいか、また、どういう「人

の力」を引き出していけばいいのかを考えるキ

ッカケとしていただければ幸いです。

環境省総合環境政策局環境教育推進室

お問い合わせ先 ESD「見える化」レポーター事務局〒105-0003 東京都港区西新橋2-11-5 TKK西新橋ビルTEL:03-3580-8221FAX:03-3580-8265E-mail:[email protected]

編集/発行 ESD「見える化」レポーター事務局発行 2017年3月

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 全国から集まった大学生たちは、現地に行き、その地域や自然の雰囲気を体感しながら、先輩たちが歩んだ人生を掘り下げていきました。その結果、取組のキッカケや出身は様々でしたが、皆に共通する要素として「自分が大切にしている気持ち」を「持続可能な社会を創る大きなうねりに変えている」ということに気付きました。そこで、取材を終えた学生たちは、現地で得た「感動」を胸に、ワークショップ形式で先輩たちの魅力は何であ

ったかを共有しました。 付箋に書き出したそれぞれの言葉は、学生たちが導き出したものです。ESDが育みたい力として例示されているもの(付箋下参照)と、共通している部分が多いことがわかります。また、「静かな情熱」「物語やビジョンを作る力」「楽しむ力」「笑顔を引き出す力」「学び続ける姿勢」「価値をみいだす力」「既存の概念にとらわれない」「心の自立」など、学生ならではの気付きもあったようです。

ワークショップを終えて、学生たちはこうした「未来を創る力」をどのように引き出すのかという点を含め、各自でこのプロジェクト全体を振り返りました(p.20~23参照)。 思考力・表現力・判断力などは、学校教育の中で育まれていくものと考えられますが、一方で、学生たちは「ESDを行える場は学校だけだと思っていたのですが、みんなと話していると環境に興味をもったきっかけは親からの勧めだったという人が多かったことや、取材先で体験活動をしているということから、学校現場以外でもESDを行えることに気付くことができました」、「人の人生から学べることの大きさにも気付き驚きました」とも振り返っています。 また、ある学生は「地球を本当により良くしていくのは、〈地球をより良くしていきたい〉という気持ちより、〈自分の周りの環境をより良くしていきたい〉という気持ちの総和なのだろうな、ということを体感しました」と振り返っています。 この学生が言う「総和」とは、別の学生が言う「人々の〈体験〉と〈出会い〉から芽吹き、広がっていく」ということにも繋がりますし、その出会いを引き出す「新しい形のリーダー」の存在の重要性にも気付いた学生や、「私にもできることがある」と確信した学生もいたようです。

みんなで考えた「E S D」

◆全ての人が質の高い教育の恩恵を享受すること ◆持続可能な開発のために求められる原則、価値観及び行動が、あらゆる教育や学びの場に取り込まれること ◆環境、経済、社会の面において持続可能な将来が実現できるような価値観と行動の変革をもたらすこと

❶ ESDの目標◆持続可能な開発に関する価値観(人間の尊重、多様性の尊重、非排他性、機会均等、環境の尊重等) ◆体系的な思考力(問題や現象の背景の理解、多面的かつ総合的なものの見方) ◆代替案の思考力(批判力) ◆データや情報の分析能力 ◆コミュニケーション能力◆リーダーシップの向上

❷育みたい力◆「関心の喚起 → 理解の深化 → 参加する態度や問題解決能力の育成」を通じて「具体的な行動」を促すという一連の流れの中に位置付けること ◆単に知識の伝達にとどまらず、体験、体感を重視して、探求や実践を重視する参加型アプローチをとること ◆活動の場で学習者の自発的な行動を上手に引き出すこと

❸学び方・教え方

持続可能な開発目標(SDGs)とは、平成28(2016)年から平成42(2030)年までの国際社会共通の目標で、17項目のゴールのうち、少なくとも12項目が環境に関連しています。

みんなで考えたESDとは……

「みんながそれぞれに〈守りたいもの〉」+「未来を創る力」+「感動的な体験・出会い」

= 持続可能な社会の担い手

ESDの目指すこと(『我が国における「国連持続可能な開発のための教育の10年」実施計画 』より抜粋)

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自分なりの「地域の楽しみ方」を見つけよう

 最初に話を伺った、トドマツの葉から精油をつくっ

ている「フプの森」の田邊真理恵さん。下川に移住す

るまで生き方に迷いながら、今では地域に溶け込み、

ひたむきに「下川らしさ」を香りで表現したプロダク

トをつくって暮らしている女性です。彼女からは自分

の話以上に、下川森林組合の組合長の方や、普段お手

伝いいただいている住民の方など、お世話になってい

る方の名前がでてきて、そんな話を聞いているだけで

下川がハッピーに満ちた地域であると確信できました。

田邊さんが話してくれた人に会ってみたい。少しでも

下川の楽しげな輪に足を踏み入れてみたい。取材の終

わりに早速、ある人に会いたいと相談しました。その

人は、女所帯のフプの森を力仕事で手伝ってくれてい

る中山誠一さんです。親の仕事だった酪農を継いだ中

山さんでしたが、そのかたわらで仲間と山も買いました。

「山を持つと、山が違って見えてくる。今でも若い人

は山を買ったほうがいいと思うんだけどな」と語る姿

取材対象者

◯ 株式会社フプの森田邊真理恵さん

◯ 下川フォレストファミリー株式会社 山下邦廣さん

◯中山誠一さん

には、山と木の可能性を信じ

てきた下川の人の強さがにじ

み出ています。

 下川森林組合の元組合長の山下邦廣さんは、「責任

はおれが取るから」と言ってフプのエッセンシャルオ

イル開発をはじめ、様々な企画を若い人に任せてきま

した。「おれが若かったら今やりたいことがあるんだけ

どなあ」と言って、新しい山での企画も教えてくれた

山下さんも、底抜けに山と下川に移住してくる人を信

じている人物です。下川が気に入って、しばらく下川

に短期滞在で暮らしてみるという人も多いといいます。

そんな話を楽しげに語る山下さんにとって、下川は地

図で示されているよりも大きな町で、日本中いたると

ころに下川町民がいるのかもしれません。都会にいて

も下川町民になれるとしたら、移住ほど大きな決断を

せず、人と自然が繋がる生活を体感できるでしょう。

人や自然との区切りをつくらず、おおらかに、近すぎ

ず遠すぎない距離で付き合う下川の暮らしは、あたり

まえのように人にとっても自然にとってもサステナブ

ルなものでした。

Massage F rom Students . . . . . .

去る者は追わず来るものは拒まず

1.トドマツを蒸留するフプの森の田邊さん。作業場には良い香りが充満しています 2.中山さん、素敵なお話をありがとうございました! 3.下川の冬は時にこのような寂しい景色を見せます 4.フプの森が買った山では将来どんな光景が見られるでしょうか

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5.トドマツの葉っぱは、つやっつやです6.トドマツの葉っぱの足湯は、やわらかい肌触りで最高です 7.カフェの中でもフプの森の商品が売られています 8.田邊さんに紹介して頂いた下川のカフェ 9.山下さん。優しさの中にも、仕事ができる男! というオーラを放っていました 10. 田邊さん、中山さんありがとうございました!

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事業概要

下川町で多く植えられているトドマツの、木材生産の際に使われていなかった葉の部分を活用して精油事業を行う。アロマテラピーで用いるエッセンシャルオイルやアロマウォーターなどを生産し、それらを使った化粧品や雑貨の自社商品も販売している。

株式会社フプの森下川町の森林組合において実施されていた集成材加工事業が事業移管された。集成材加工のほか、木工加工品、木材製品の生産などを行っている。

下川フォレストファミリー株式会社

ファンと共に森の恵みを育む人たち〔 北海道上川郡下川町 〕

取材した学生:飯塚陽美、工藤大貴

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ESD Report 02

取材した学生:田開寛太郎、米山知奈津

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自分の心と人の心に耳を傾け、行動を起こそう

取材対象者

◯ NPO法人アスヘノキボウ小松洋介さん・後藤大輝さん

◯宮城県女川町産業振興課公民連携室  山田康人さん

 私たちが取材したのは、東日本大震災を機にNPO法

人「アスヘノキボウ」を立ち上げ女川町の復興に携わ

り続ける小松洋介さん。彼は、人々には地域の未来を

創り上げる力があると信じ、その力を引き出すために

様々な事業を展開しています。小松さんには、自分の

心に素直になって道を開拓する勇気と、人の想いをて

いねいに汲み取り全力で応援する優しさ、そしてそれ

らを裏付ける圧倒的な行動力がありました。

 2011年3月11日、震災発生当時、小松さんは札幌で

働いていました。以前担当していた仙台のクライアン

トのことが無性に心配になり、彼は仙台へ足を運びま

した。その後も札幌で働いていて「何かすっきりしな

かった」小松さん。独立して仕事を始めた会社の元上

司に会い、話をしました。「自分の思う道を歩んでい

る人は格好良かった」。そう感じた彼は、自分が本当

にしたいことをよく考えた末、退社を決意し、女川町

へ移住してアスヘノキボウを立ち上げたのです。

 小松さんは、地方に漠然と興味がある人から、そこ

で創業したいという志をもつ人まで、全国の様々な人

たちを応援する事業を手掛けています。その一つが、

女川町に計4回通って、3ヵ月かけて創業準備を行う「創

業本気プログラム」。国内外で創業経験を有する社会

人たちが、講義や個別メンタリングを通して参加者の

サポートにあたります。能力とやる気が抜群の人材を

講師に集め、地方で創業したい人たちを最善の体制で

全力で応援する小松さん。「最強のチームをつくって

やると決めている」と胸を張って話されていました。

そんな彼の持論は、「リーダーはファシリテーターであ

れ」。リーダーたるものは「皆を受け入れ、後押しして

あげることが大事なんだ」と彼は言います。

 小松さんは、本当に活き活きとしていました。私た

ちは、自分が心からワクワクするような人生をすべて

の人に送ってほしい。だから、「自分の心と人の心に

耳を傾け、行動を起こそう」。

Massage F rom Students . . . . . .

1. Camass前にて(左から田開・小松さん・米山・後藤さん) 2.プログラム参加者で賑わうフューチャーセンター「Camass(カマス)」 3.行政と民間が二人三脚で進める駅前商業エリアの整備について熱く語る山田さん 4.「小松さんは外向きだとキレ者キャラですが、内向き(町内)だといじられキャラ」と山田さんは言います 5.「自分の手で幸せを創り出す」と将来の目標を語る後藤さん 6.女川駅から海に向けてまっすぐ伸びるプロムナード

言葉や思考に寄り添いみんなを受け入れる

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7. 「どんどん自分らしく自由になっていった」と人生を振り返る小松さん 8.港町・女川ならではの産物が勢ぞろい 9.Camassは「未来志向で議論する場」だと小松さんは言います 10.山田さん曰く、ここは「町内外の人が集って繋がれる空間」 11.トレーラーハウス宿泊村。小松さんが最初に手掛けた復興事業です

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女川町の震災復興を「持続可能なまちづくり」という視点で行政・民間企業・町民を繋ぐ立場から実施している。町内の人々を対象とした活動だけでなく、外部の人たちを招き入れ関係性を築き上げるための多様な活動を行っている。例えば、場所を問わず創業を支援するプログラムや、女川への移住の体験を促進するプログラム等がある。

NPO法人アスヘノキボウ女川町の震災復興を「持続可能なまちづくり」という視点で、民間主導・公民連携で進めている。特にアスヘノキボウとは密に連携し、行政と民間、非営利、互いの長所を活かしながら復興まちづくりを進めている。女川駅前商業エリア整備や活動人口創出を担当している。

宮城県女川町産業振興課公民連携室

事業概要

最高のチームワークで未来を共創する人たち〔 宮城県牡鹿郡女川町 〕

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ESD Report 03

取材した学生:大垣柚月、小川由希子、原智美

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取材対象者

◯ 株式会社東京・森と市庭  菅原和利さん◯ 株式会社まちづくり立川  (立川シェアオフィスKODACHI)   岩下光明さん

Massage F rom Students . . . . . .

1.丸太を持って森の説明をする菅原さん 2.社有林のツリーハウス。のぼると東京とは思えない景色が広がっていました 3.ツリーハウスから見える森。一層清々しく感じられます 4.ここから森と都市をつなぐ床材『モリユカ』が生まれます 5.シェアオフィス「KODACHI」。入った瞬間に木の香りに包まれます 6.株式会社まちづくり立川、代表の岩下さん

社会の繋がり、世代の繋がり。「循環」をイメージして次への一歩を踏み出そう!

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7.看板も森と市庭が手掛けました。メンテナンスも欠かさず行われるそうです 8.森と市庭の奥多摩オフィス。古民家を再利用しています 9.奥多摩・古里の魅力を発信する「コリフェス」 10.立川シェアオフィスKODACHIにて、岩下さん、菅原さんと 11. KODACHIでの取材風景。菅原さんも同席してくださいました

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「東京の森と都市を繋げる」ことをミッションに掲げ、奥多摩の森林の管理と森林資源の活用を行っている。木材をフローリング材としたモリユカの販売、レンタルのほか、企業研修の受け入れなどの機会の場を提供している。

株式会社東京・森と市庭「立川を〈ファン〉であふれる街にする」をコンセプトに、農産物の販売やシェアオフィスの運営など、地域活性化に関わる様々な事業を実施している。平成28年4月に、東京・森と市庭の材木を利用して施工したシェアオフィス、KODACHIをオープンした。

株式会社まちづくり立川(立川シェアオフィスKODACHI)

事業概要

 コンクリートジャングルといわれることもある東京。

ここに森があることをご存知ですか? 新宿から中央線

一本で行ける地に、東京都とは思えないような風景が

広がっています。

 「東京・森と市庭」の菅原和利さんは、都心の床を「モ

リユカ」という東京の森の間伐材でつくった無垢材に

変えることで、東京の森と私たちの暮らしを豊かにし

ようとしています。しっかりと手

入れされたモリユカのふるさとは、

太陽の光がさんさんと差し込み、

鬱蒼としている森のイメージが覆

されます。その中で、モリユカを

使ったオフィスで働く人々を集めて、落語会も開いて

いるのだとか。床材と癒しを森から都会へ送り届け、

人に都会から森へ戻ってきてもらう。そうした「上流

と下流を繋ぐ循環」が森に関心をもつ人を育てていき

ます。

 そんなモリユカが菅原さんに新たな出会いをもたら

しました。シェアオフィスで若者を支援していた「まち

づくり立川」の岩下光明さんです。とある講演会で意

気投合した二人は、床だけでなく、壁や机にも「東京

・森と市庭」の材木を使ったシェアオフィスをつくりま

した。「やる気のある若者にここから巣立ってもらいたい」

と話す岩下さんの姿からは、50~60年前に未来を想っ

て木を植えた先人たちと同じ、温かな眼差しを感じま

した。過去から現在、現在から未来へ繋がる姿勢が、

持続可能な社会をつくっていくのだと思います。

 常に新しいこと、おもしろいことを追い求めている

お二人。岩下さんの「人や物事を動かすには想いと

情熱が必要。やる! と決めること、やれない理由で

はなく、やるための情熱をもつ

ことが大事なんです」という言

葉には謙虚ながらも力強さを感

じました。

 菅原さんはこれまでの活動を振

り返り、「ESDという言葉を意識していなくても、やっ

ていることが結果的にESDに繋がっていた」と語って

くれました。難しい定義を覚えなくても、一人ひとりが

未来を見つめ、一歩を踏み出していく。そうすれば、

持続可能な大きな流れが生まれるはずです。

上流の森から下流の都市へ

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森の可能性を信じ、癒しとぬくもりのサイクルを創り出す人たち〔 東京都西多摩郡奥多摩町、東京都立川市 〕

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ESD Report 04

取材した学生:礒本菜緒、福田真穂

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取材対象者

◯ naori なおり  大岡千紘さん◯ 株式会社カミツレ研究所  北條裕子さん

環境を通して暮らしを見つめ、環境を通して素の自分と向き合おう

Massage F rom Students . . . . . .

1.地域おこし協力隊として、手づくりコスメの体験教室を開いている大岡さん 2.宿から少し足を延ばせば広大な自然に出会うことができます 3.スキンケアシリーズ「華密恋」の原料として使われるカモミール 4.八寿恵荘オーナーの北條さん(八寿恵荘内の本棚をバックに)

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 「ビューティーツーリズム」、「ハーバルヘルスツーリ

ズム」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。私

たちは、それらを通して、訪れる人を家族のように迎え

入れ、人や自分と向き合う大切さや地元の魅力をていね

いに伝え、人を元気にしようとする方々にお会いしてき

ました。

 日本で唯一、ファンデーション

の原料となる鉱物を採掘している

愛知県東栄町。大岡千紘さんは、

伝統芸能「花祭り」や東栄町の

人の温かさに魅せられ、地域おこ

し協力隊として東栄町にやってきた若い女性です。東栄

町で採れた鉱物を利用した手づくりコスメの体験教室を

開いています。「手づくりコスメ体験を通して東栄町の良

さをていねいに伝えたい」、「生活を見つめ直すきっかけを

提供し、女性に元気になってもらいたい」と大岡さんは

語ります。コスメを通して自然の恩恵を体感し、身も心も

美しくなるビューティーツーリズム。東栄町の自然や人と

触れ合うことで、暮らしの中でのものの見方も変化し、

自分自身に対する優しさも育まれるのです。

 長野県北安曇郡で出会った北條裕子さんは、自然の力

や心地良さを五感すべてで感じることのできるBIO

HOTEL®認証を受けた宿、「八寿

恵荘」を経営されています。北

條さんは、「いつも様々な人から

学ばせていただいている」とい

う謙虚な姿勢をおもちで、さら

に現状に満足することなく、誰

かのために常に挑戦し続ける素敵な方でした。そんな想

いの詰まった八寿恵荘は、内装に地元長野の無垢材を使

用しており、裸足で歩くことで木のやさしい感触とぬく

もりを感じることができます。また、自社農園で採れる

無農薬野菜を中心とした料理を楽しみ、宿の目の前に広

がるカミツレ畑のカモミールを使った天然由来のスキン

ケアアイテムでリラックスすることで、ハーブの癒しを

活かしたハーバルヘルスツーリズムを体感できるでしょう。

 忙しい日々の中でも、一歩立ち止まり、環境という

観点から暮らしを見つめることで、素の自分と向き合っ

てみませんか。

人も自然も元気になってもらいたい

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ファンデーションの原料となる鉱物「セリサイト(別名・絹雲母)」を日本で唯一採掘している東栄町で、利用者自身がコスメティックのルーツをたどり体験をする、世界で唯一のビューティーツーリズムを企画、実施している。

naori なおり1982年より続く薬用入浴剤「華密恋」の製造、販売をはじめ、医薬部外品、化粧品、茶類・清涼飲料水の販売を行う。社員向け保養施設であった「八寿恵荘」をリニューアルし、2015年5月に日本初のBIO HOTEL®認証を取得した。

株式会社カミツレ研究所

事業概要

5.BIO認証基準を満たした食材を使用した昼食 6.八寿恵荘の「だいにんぐ」。ともに食事することでほかの宿泊者とも交流できます 7.八寿恵荘の前で従業員の皆さんと 8.ファンデーションの原料となるセリサイト鉱山の三崎社長と、鉱山の前で 9.天然由来成分でつくられているスキンケアシリーズ「華密恋」 10.セリサイト鉱山の内部の様子 11.ファンデーションの原料となるセリサイト

環境を「心の豊かさ」に繋げる人たち〔 愛知県北設楽郡東栄町、長野県北安曇郡池田町 〕

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Massage F rom Students . . . . . .

「好き」は地域や社会を変える原動力となる!

取材対象者

◯ 株式会社熊野古道おわせ  伊東将志さん◯ NPO法人SESSION with EARTH (A.G.Rock Café)  都谷享さん

 三重県尾鷲市で地域の特産や魅力を発信している熊

野古道おわせの伊東将志さんと、アグロフォレストリ

ーで育てた農産物を提供するカフェを大阪・梅田で運

営しているA.G.Rock Café(アグロックカフェ)の都

谷享さんと話をさせていただきました。お二人とも信

念をもって地域の課題解決や環境の改善に取り組まれ

ています。しかし、そこには、「環境問題を解決する

んだ」や「地球環境をもっと良くするんだ」といった

強い想いが必ずしも存在するわけではありませんでした。

むしろ、そこにあったのは、ただただ「好きだから」

という気持ちです。

 伊東さんは自分が生まれ育った尾鷲の町への愛、も

っと良くしていきたいという気持ちをもっていましたし、

都谷さんは自分の大好きなギターの原木を守っていき

たいという気持ちをもっていました。お二人とも「好き」

という気持ちが活動の原動力になっているのです。活

動を始めてから、伊東さんは会社を離れたり、都谷さ

んはお客さんに活動を理解してもらえないなどの苦労

もあったようですが、彼らの「好き」という原動力が

実際に地域や社会を変えはじめています。

 私たちは、実際にそういった活動をされている方を

目の前にすると、活動の内容に圧倒され、「なぜリス

クを冒すの?」「私にはムリ」なんて思ってしまうこと

も少なくないと思います。でも、活動の始まりは、ほ

んとに些細な「好きだから」という気持ちだったりす

るんです。その気持ちが自分を動かし、人を巻き込む

力になっていくんです。

 今、世の中にはいろんな活動や事業が展開されてい

ます。しかし、そうしたものの一つひとつは誰かの些細

な気持ちから生まれています。現代は確かに、やらな

ければならないことが多くて、自分のやりたいこと・好

きなことに打ち込む時間は少ないです。周りからの批

判を恐れて多数派に流されてしまうこともあるでしょう。

だからこそ、一度立ち止まって、「自分は何が好きなん

だろう」「自分は何を守りたいんだろう」と心に問いかけ

てみてください。そして「好き」と言葉に出してみてく

ださい。その気持ちがあなたの原動力になるはずです。

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1.「夢古道おわせ」の仕掛け人、伊東将志さん 2.外を眺めると、すばらしい尾鷲の景色が広がります 3.地元のお母さん手づくりの食を通じて、尾鷲を味わいます 4. A.G.Rock Café(アグロックカフェ)の2階へと上がる階段の手すりに、ギターのネック部分が使われていました 5.こだわりのコーヒー豆挽き機とギター 6. A.G.Rock Caféのコーヒー、ごちそうさまでした!

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好きだから動く、動くから変わる

7.皆さん、ぜひ一度尾鷲に来てみてください! 8.「好きだから、守る。使うから、守る」A.G.Rock Caféオーナー、都合享さん 9.すべては誇れる「地域」を創るため。元気な「尾鷲」を創るため 10.こんなにありました! 尾鷲の特産物や地域の魅力! 11.アグロフォレストリーの農作物を手軽に楽しもう! A.G.Rock Café! 12. A.G.Rock Caféの2Fのスペースはとっても広々

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「地場特産品情報交流センター」、「夢古道の湯」の2つの施設を用い、尾鷲市の特産品の販売や地元の食材を使った食事の提供などを行う。地域内外の人たちに尾鷲の魅力を発信している。

株式会社熊野古道おわせ母体であるSESSION with EARTHはギターの材木、マホガニーの保全のために、マホガニーの原産国でのアグロフォレストリー推進の活動を行っている。アグロフォレストリーで得られた農産物を多くの人に提供したいという想いから、A.G.Rock Caféを開始した。

NPO法人SESSION with EARTH(A.G.Rock Café)

事業概要

地域と地球を「好き」で繋げる人たち〔 三重県尾鷲市、大阪府大阪市 〕

取材した学生:駒野永樹、馬場亮輔、山形晃平

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ESD Report 06

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「心の自立」から見える突破口

取材対象者

◯ 村楽エナジー株式会社  井筒耕平さん◯ 西粟倉村役場  上山隆浩さん

7.社員さんと、村楽エナジーの井筒耕平さん 8.「あわくら温泉 元湯」は、のんびりと里山の時間を楽しめる天然温泉のゲストハウス 9.木のぬくもりにあふれたアットホームな空間でお話を伺いました。ありがとうございました!

 日本は、○○県、○○市、○○町、という1718の

自治体でできています。そして、その多くが、少子

高齢化、過疎化など、難しい問題を多く抱えていま

すが、そのような中でも課題と向き合い、解決策を

見出そうとしています。

 私たちは、内閣府から「環境モデル都市」に選ばれ、

地方創生の分野でも全国から注目を集める岡山県西

粟倉村へ取材に行きました。

西粟倉村は95%が森林に覆

われた人口1500人の村で

す。林業の衰退による人口

流出、過疎化、高齢化が問

題となっていました。その

西粟倉村で今回は、ローカルベンチャーとも呼ばれ

る株式会社村楽エナジーを経営する井筒耕平さん、

村役場で35年働いている上山隆浩さんにお話を伺い

ました。

 西粟倉村は、2004年に合併ではなく自立という選

択をし、村で50年以上守られてきた森林をこれから

50年先へ残そうと「百年の森林構想」を掲げています。

「合併をしないという選択をした以上、モデルをつく

る必要がありました」。そう語る上山さんの言葉からは、

村の未来を考える覚悟が感じられました。村の面積

の多くを占める森林。それらでつくられる質の高い家

具、道の駅で売られる地域の杉を使った割りばしの

一本まで、そのすべては西粟倉の地域の財産なのです。

村楽エナジーの井筒さんは「子どもたちが帰って来

たくなるような町にしていく必要がある」と語ってく

ださいました。また、村役

場の上山さんは「村楽エナ

ジーはIターンの人たちに

よる森林事業のローカルベ

ンチャー。それによって呼

び起こされた西粟倉のアイ

デンティティは、今後Uターンにも繋がるだろう」と

話してくださいました。

 国からの補助金に頼りきると一度きりになってしま

い、次には繋がりにくくなります。そのため、地域資

源から価値を生み出せる「プロデューサー」と、住

民一人ひとりの「心の自立」がこれからの日本には

必要だと取材の中で伺いました。それを見つけた時、

そこには明るい未来があると私たちは感じました。

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1.地域資源をバイオエネルギーで活用するローカル起業家、村楽エナジーの井筒耕平さん 2.西粟倉村の風景。村楽エナジーの元湯前 3.バイオエネルギーとして使われる薪 4.井筒さんとともに 5.暮らしに溶け込む、西粟倉村の地域資源を活かした商品たち(ヒトテマキット等) 6.西粟倉村出身。大学卒業後から村役場の公務員として、民間との柔軟な連携をしている上山隆浩さん

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西粟倉村で伐り出した木材のうち、材木等に向かない低質な木材を利用してエネルギーをつくる、バイオマスエネルギーの供給事業を行っている。生産した熱を用いて、村の交流スペースともなっている「元湯」というゲストハウスを営んでいる。

村楽エナジー株式会社岡山県の北東に位置する西粟倉村役場。平成20年に、50年後の森林の管理と村の持続を見据えて、森林の保全・再生と村の活性化に町ぐるみで注力をする「百年の森林構想」を打ち立てた。

西粟倉村役場

事業概要

地方にも人は居る。だからこそ、人が要る

取材した学生:松岡沙生、中嶋路央

森林という贈り物を、未来に進む原動力(エネルギー)としている人たち〔 岡山県英田郡西粟倉村 〕

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ESD Report 07

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「森」はすべてに通じて、すべてまかなえる。なんでもできるよ

 私たちは今回、高知県で自伐型林業を実践している

「シマントモリモリ団」の宮崎聖さんのもとを訪れ、話

を伺いました。正直な話、これまで林業はおろか、山

や森なんてものもよく知らず、「木を切るだけでどうや

って生活できるの?」という印象しかありませんでした。

そのような中で、宮崎さんが活き活きと話してくれた

のが、森の「可能性」の話です。

 林業というと、大型の車両や機械を使って山を切り

崩し大規模な伐採を行っていくイメージがありますが、

宮崎さんの行う自伐型林業は、山を管理しながら計画

的、持続的に材木を切るような手法です。その大きな

特徴として、宮崎さんは、「環境の保全と経済の活性

化を両立することができる」と話してくれました。実

際に宮崎さんが林業を始めた動機も、「経済効果に繋

がる」という点が大きかったようです。また、宮崎さ

んは「林業はすべてに通じて、すべてまかなえる。な

んでもできるよ」と話してくれました。既存の概念に

とらわれない柔軟性や視野の広さ、そして、可能性を

追求しようとする姿勢にとても魅力を感じました。

 使用する車両や機械も大型のものを必要とせず、チ

ェーンソー等の取り扱いをしっかりと研修することで、

誰にでも取り組みが可能となるそうです。また、障が

い者の方の就労機会の創出にも繋がっているとのこと

です。宮崎さんは「林業×スポーツ選手、芸能人なん

てのもおもしろいね」と話していました。まったく想

像のつかない大胆な発想ですが、それを活き活きと話

す宮崎さんの目は非常に輝いていました。

 宮崎さんの話に限らず、既存のもの同士を組み合わ

せることで、まったく新しいものが生まれるのではな

いでしょうか。一見相反するものでも、アイディア次

第で既存の概念を破壊することができるような何かが

できあがり、そこからたくさんの可能性や活路を見出

すことができるのではないでしょうか。

 小学生の時以来に入った森の風景は、普段街なかで

暮らしている身としてはとても新鮮でした。匂いも良く、

とても気持ちが良く、落ち着きました。また気軽に友

達を誘って森に来たいと思える、そんな気持ちになり

ました。

Massage F rom Students . . . . . .

取材対象者

◯ シマントモリモリ団  宮崎聖さん・直美さん 高知県四万十市で自伐型林業を行ってい

る。冬は林業、夏は観光・宿泊業をメインに組み合わせたライフスタイルで、計画的、持続的に森と山を管理し、材木を伐採する自伐型林業を実施している。

シマントモリモリ団

事業概要

1.宮崎さんの山の中で 2.自伐型林業を行っているシマントモリモリ団の宮崎聖さん 3.自分でできる!「じばつがたりんぎょう」相談の受付看板 4. 宮崎さんの山の中。思ったよりも急な斜面

自伐型林業は、既存の概念との戦い

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5.宮崎さんの山の中。連れて行ってもらいました 6.シマントモリモリ団の宮崎直美さん

取材した学生:稲積尚希、鳴川真央

環境で経済成長を創り出す人たち〔 高知県四万十市 〕

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ESD Report 08

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人と人が繋がる喜びを、好きなことを好きなだけやる楽しさを

取材対象者

◯ UMIHICO(千綿駅)  堀越一孝さん◯ ハイホー♪ファーム  山口雅史さん・純子さん◯ 千綿食堂  湯下龍之介さん

事 業 概 要

長崎県東彼杵町内でデザイン事務所を経営する一方、2016年11月まで町内の千綿駅の構内でカフェを運営。駅は地域の人たちの交流の場としても活用されたほか、写真や本などを用いて、駅や町の魅力を発信するホットスポットになった。

UMIHICO(千綿駅)東彼杵町で、無農薬・無施肥での農業を営む。普段市場や小売店ではなかなか見かけないレアベジタブル(レアベジ)の栽培を中心に実施している。

ハイホー♪ファーム2016年12月から千綿駅構内で食堂を経営。それまでは駅付近の複合ショップ施設で店を出していたが、UMIHICOが千綿駅を離れるにともない店を移転し、新しく駅構内での営業を開始した。

千綿食堂

7.UMIHICOの看板と同じ、大村湾の色をした駅名標 8.「はじめまして、キャベツです。コールラビっていいます!」 9.ハイホー♪ファームの山口さんご夫妻と 10.東彼杵町出身の森一峻さん。東彼杵町に欠かせない中心人物 11.東彼杵町でお茶農家を経営し、盛り上げる東坂さん

 好きなことを仕事に、と将来を考えた時に夢みたこ

とがあります。自分の腕の立つ領域で自由に暮らすと

いうことは、とても幸せなことのように思います。訪ね

た東彼杵町では、「好き」を実際に行動に移した方々と

たくさんお会いすることができました。

 町で環境にやさしい無農薬・無施肥農業をしている「ハ

イホー♪ファーム」の山口さんご夫妻は、園芸が趣味

のご主人が奥様と野菜づくりに取り組まれたのがはじ

まりで、農薬をいっさい使わないピュアなおいしさに惹

かれ、今も楽しんで続けています。町のシンボルであ

る「海にいちばん近い駅」、JR大村線千綿駅の無人の

駅舎に地域おこし協力隊としてやってきた堀越一孝さ

んは、人が集う場として駅カフェ「UMIHICO」をオー

プンしました。また、本業である写真家として地元住

民との様々なカットをフィルムに収め、画家でもある奥

様と、近隣のお店のロゴマークを考案しました。堀越

さんからバトンを受け継ぎ駅舎に入った千綿食堂の湯

下龍之介さんも、自慢の料理を駅の訪問客にふるまい、

小さなお子さんと終始笑顔で駅を賑わせています。

 皆さんに共通することは、「好きなことを楽しむ」と

いうことです。食べる楽しさ、写真を撮るおもしろさ、

料理をつくって人が集まる喜び。今、自分を抑えて生

活していたり、自分が楽しんでいることをなかなか周り

に感じ取ってもらえない、ということはないでしょうか。

堀越さんの言葉、「常におもしろくやる」がとても印象

的でした。自分が楽しく暮らしていることで、自然と誰

かの心を動かし、楽しさが広がっていくのです。この

広がりが一つのコミュニティの持続可能性で、忘れか

けていた大切なことを、小さな町の楽しい人たちが教

えてくれています。積み上げられた楽しさが、そして多

くの人が往来し繋がった喜びが、次の人に、次の世代に、

バトンとして渡されていく。そんな素敵な一瞬は、今も

どこかで生まれているはずです。こうしたことが町をサ

ステナブル(持続可能)に、そして、きっと世界をサ

ステナブルにできるのです。

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縛られないで好きなことを

1.千綿駅外観。木造建築として町のシンボル 2.堀越さんご夫妻。奥さんの美貴さんは画家でもあります 3.UMIHICOカフェ内。デザイン系の本が中心にあります 4.森さん(右)と、千綿駅で千綿食堂を営む湯下さん(左)。東彼杵町を盛り上げる先駆者 5.湯下さんがつくった日替わりカレー 6.千綿駅のホーム。青い空へ、青い海へと消える線路

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取材した学生:濱津優、朱暁、武元恵美

未来にバトンを繋ぐコミュニティを創る人たち〔 長崎県東彼杵郡東彼杵町 〕

Page 11: 大学生が全国へ。 地域で見つけた の〔いまじん〕 大学生が全国へ。地域で見つけた「人の魅力」 あとがき 2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な

中 部

関 東

東 北

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 森と都会とを繋げる菅原さん、上の世代と下の世代とを繋げる岩下さんへの取材を通し、私の中で、今まで点で捉えていたESDのイメージが、線で繋がる面のイメージに変わったように思います。今さえ良ければいい、自分さえ良ければいいというような自己中心的な考えではなく、時間や空間を越えた広い視野をもつことの重要性を改めて認識させられました。 また、今回の取材で何よりも感銘を受けたのが、お二人の人柄です。学生の私から見ると、地域のため、人のため、そして未来のために、憧れてしまうようなお仕事をされているにも関わらず、おごり高ぶらず、謙虚であること。また、その謙虚な姿勢の裏に、より良いものを追い求める情熱を感じることができました。「ミッション・パッション・アクション(与えられた課題に熱意をもって行動する)」という言葉を耳にしたことがありますが、まさにこのお二人の姿勢は、これから社会に出ていく身として、手本にしたい姿であると感じました。

 福山雅治さんの『東京にもあったんだ』という歌があります。上京して都会に染まったり傷ついたりしてきた「僕」が、東京の夕陽や月を見て「君」に思いを馳せるという歌です。奥多摩にはまさに「君」に見せたくなるような風景が広がっています。一面の緑、澄んだ空気、森からあふれ出る生命のエネルギー……。東京にもあるのです。それも、新宿から中央線一本で行ける距離に。 皆さんは木目の匂いを嗅いだことがありますか? おそらく、ない人が多いと思います。私が初めて嗅いだのは、森と市庭さんを取材した時でした。工房にあるヒノキの板だったのですが、森の中にいるような芳醇な香りにとても驚きました。同時に「板になってもなお、こんなに生命力に満ちあふれているのか」と感動しました。 この活動に関わって、森の魅力を再発見できたのはとても大きな収穫でした。私事ですが、これから就職活動の時期に入ります。疲れた時、苦しい時には、また奥多摩の森に元気をわけてもらおうと思います。

 私は大学院で教育政策について勉強していたので、以前は「ESDという名の政策がトップダウンで各学校現場に降りていく」という固いイメージをもっていました。しかし今回、取材先の菅原さんや岩下さん、また全国から集まった大学生の仲間との出会いを通して、そのイメージは正反対になりました。 特に印象に残ったのは、「ESDという難しい言葉を意識しなくても、自分たちが行っていた活動が結果的にそうだった」というお話です。ESDは、人々の「体験」と「出会い」から芽吹き、広がっていくものでした。一人ひとりが自分なりの一歩を踏み出せばそれがESDであり、持続可能な社会に繋がっていきます。トップダウンでは決してできないこうしたボトムアップの取り組みとその繋がりこそが、ESDの良さであり懐の広さなのだと思いました。 自分が普段感じていることや実際に経験したことをもとに、未来を見つめて皆で歩んでいく。私も森からもらった「癒し」を原動力にして、身近な所から自分にできることをしていきたいです。

 どうしてこんなに自分のことを、活き活きと、話せるのだろう。取材をした小松さんから受けた、わたしの率直な感想です。小松さんは、東日本大震災をきっかけに女川町に移住しました。「俺についてこい」といったスタンスは時代遅れだとし、「リーダーはファシリテーターであれ」という想いの中、様々な地域おこし活動を行ってこられました。小学生の時にサッカーを始め、競うことが大好きで負けず嫌いな少年時代を振り返ります。そんな経験が今も団体のスタッフや地域の人々など、活動で関わる人とのチームワークに役立っているのだろうと思います。そして、「自分の目指したいことをチームで実現していく」といった熱い想いは、多くの人を巻き込み導いています。こうした熱量に対して、地域現場に思いやりを寄せ、相手に対する気遣いを深めるクールな一面が、小松さんの大きな魅力の一つだと思うのです。ええ、素敵な、出会い(ESD)に感謝です。

 持続可能な発展型の社会構築は、現代を生きる人々にとって最大の課題ともいえるだろう。しかし、どれだけの人々がスクリーンの中から見られる、広大な自然が破壊される様子と、目の前に繰り広げられている生活を結びつけることができるのだろうか。また、それらをどう手放すことができるのだろうか。目標にすることが大きすぎて、小さな振る舞いに意味を見出すのが難しいのが実情かもしれない。 今回の事業を通じて、実際に持続可能な発展型の社会構築に尽力する方々や、ESDに関する活動を熱心に行っている学生に出会うことができた。人々の多くは、日々の生活を繊細に、奥ゆかしく、そして小さな楽しみを忘れることなく送っている印象を受けた。そんな、洗練された生活形式には思わず一線を画してしまいそうだが、大抵の人々はこちら側の人間であったことに思いを留めると、かすかな安心感とともに私自身にもできる何かの存在と、その責任の香りを感じずにはいられないのであった。

飯塚 陽美

大垣 柚月

小川 由希子

原 智美

礒本 菜緒

福田 真穂

田開 寛太郎

 下川町での2回の取材で感じたことは「おおらかさ」でした。取材者である私たちに部外者としてよそよそしく接するわけでもなく、なれなれしくするわけでもなく、下川の人は適度な距離でゆったりと構えていました。また、森林組合のトップだった山下さんが、出て行った移住者に対してもフラットなスタンスなのが素敵でした。地図で書かれている下川町というエリア以上の大きさで下川を捉えていて、例えば商品開発に必要な資源も様々な所から集めています。その姿は「今あるものを活かす(RedesignやReuseなど)」という最近のローカルな潮流とは違うように見えましたが、先祖代々の歴史が薄い北海道だからこその、シンプルで正しいやり方に見えました。おおらか故、1回目の研修で語った「下川の仲間になりたい」という目標が達成できたかわかりませんが、仲間になることに意識的になる必要もなく、またいずれふらっと訪れたい町となりました。

工藤 大貴

米山 知奈津

 今回の取材で、私は心からしびれるような感覚を味わいました。話が本当におもしろくて、こんなに魅力的な人が日本にいるんだと思うと、ワクワクが止まりませんでした。この取材を通して、人の人生から学べることの大きさに気付き驚きました。そして、これこそ実学だと思いました。私は、人の生き様に感動し、そこから学び続ける人でありたいです。そして取材した小松さんのように、自分の心にも人の心にも向き合って行動を起こし続ける人でありたいです。そしていつの日にか、この自分の行動が、次世代の人たちのワクワクや感動に繋がっていってほしいと強く思います。 今、大学卒業までにやりたいことがあります。それは、小松さんのもとで活動をすることです。お試し移住かもしれないし、インターンかもしれない。活動の形はまだわからないけれど、自分が会って話して心の底からワクワクした人のもとに絶対にいつか飛び込んでみる。そう決めているんです。

 中部での取材と研修会を通して感じたことは、「信念をもって活動している人は輝いている」ということです。取材先の方々の行っている事業はもちろん興味深かったのですが、それに加えて皆さん人としての魅力にあふれていると感じました。人への思いやりを忘れずに、謙虚でありながらも、挑戦し続ける姿勢に感銘を受けました。将来への不安を抱えていた私にとって、憧れとなる大人を見つけることができたことが、大きな収穫の一つであると思います。 また、ESDに対する理解も深めることができました。以前は、ESDに対して「座学で講義を受ける教育」という難しいイメージがありましたが、今回のプロジェクトを通して自然の中でその仕組みについて学んだり、環境のことを考えて日々の生活を少し見直す、ということも含まれるのだと考えるようになりました。ESDにおいては持続することが重要だと思うので、日々の生活の中に少しずつでも環境という視点を取り入れ、考え続けたいと思います。

 私は、本事業を通して、言葉のもつ影響力の強さを再認識しました。広報委員の方々の書いた記事を拝見しましたが、スッと心に入ってくる素直で美しい言葉に感動をおぼえました。自分の想いを言葉にすることは難しいですが、飾らずシンプルな言葉で素直に気持ちを伝えることが、相手にいちばん伝わるのではないかと感じるようになりました。 また、本事業を経験する前までは、環境教育とは、ごみの分別の仕方や地球温暖化が進むとどうなるかなどを教える、というイメージしかもてていませんでした。しかし、研修や取材を通して、子どもたちが環境について考えたり、実際に行動したりする力を引き出すサポートをしていきたいと思うようになりました。そのため、休日は家にこもってばかりではなく、今回の取材で学んだことを活用したり、新たな発見のために積極的に外に出て、様々なかたちの“環境”に触れていきたいと思っています。

取材を終えて、思うこと…

北 海 道

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関西/近畿

中 国

九 州

四 国

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 少しだけ気持ちが軽くなったように思います。今まで、周りのことばかりを気にして、周りの人に「これが好きだ」と言うことが怖い自分がいました。 しかし、カフェの手すりをギターのネックにするほどこだわっている都谷さんや、地域の良いところを残すために周りの人を巻き込んでいる伊東さん、お二人とも「好き」の気持ちがお話の中から伝わってきました。そして、お二人とも続けていくための努力をとてもされていて、続けていけなくなるたびに違う方法を探して続けていこうとされていました。やはり、続けることがいちばん大切で、いちばん難しいことだと改めて感じました。なので、僕ももう少し、ほんのもう少しだけ、周りの人に「これが好きだ」という気持ちを言葉にしていこうと思いました。そして、その気持ちをもとに動いて、続けていこうと思います。

 今回のプロジェクトを通して様々な気付き、学びがありましたが、特に大きかったことは、普段自分が接する機会がない人たちと、たくさん接する機会をもてたことです。僕は、自分の所属している学生団体でもイベントを開きますが、あまり関心はないけどとりあえず来てみる、という人が多かったです。一方で、今回の研修で集まった学生は、みんな明確な意思をもっていました。同じ大学生でも、まったく異なる世界に住んでいる人たちと交流をもてたことは、僕の中でとても大きな成果です。 また、「非現実的」なことをたくさん経験することもできました。研修や取材、普段の自分の生活からかけ離れていて、機会がなければ関わることもできない「非現実」の世界。今回、その世界に足を踏み入れ、体験し、おもしろさに気付くことができました。新しい価値観や楽しさを、このプロジェクトを通してたくさん得ることができました。 取材したお二人の共通点は、自分の興味や関心・好きなことから行動を始めた、ということ。だから続くし、成果

を出すことができる。これはあたりまえのようだけど、いざやってみるとそれは、あたりまえではなくなる。私たちも彼らと同じように興味関心はもっているし、好きなこと・得意なことを活かして将来働きたいと思っている。また一方で、彼らを突き動かしているものも、私たちと何ら変わらないものだった。 この違いは何だろう。 それは、自分をどれだけ信じられるか。そのゆるぎない気持ちが周囲を巻き込み、より大きな力を生み出す。凛とした、まっすぐなその視線の先を見てみたい。そう思わずにはいられない衝動に駆られたのは、私だけではないはずだ。経営者? 町おこし? 国際貢献?“なかなかできることじゃない”というイメージは、やったことがない人のプロパガンダ。本当に好きなこと、成し遂げたいことならば、身近な所からでいい、行動を起こしてみることだ。それがあなたにとってのいちばんの幸せだって、気付いているでしょう。

 一言でいうと、人の「守りたいもの」の範囲を考慮できるようになってきたのかなと思います。僕は地球という大きな対象を守りたいと感じているけれど、みんながそうなわけではないし、むしろ、「地域」や「モノ」といった小さな対象を守りたいと感じる人の方が圧倒的に多いです。 この事業を通じて、地球を本当により良くしていくのは、「地球をより良くしていきたい」という気持ちより、「自分の周りの環境をより良くしていきたい」という気持ちの総和なのだろうな、ということを体感しました。 地球を守りたいと思って、地球全体を視野に入れて考える人はもちろん必要ですが、みんながそうなる必要はなくて、個々がそれぞれに「守りたいもの」を見つけること、そしてそれをリアリティをもって守りたいと感じることが大事なんだ、ということを感じました。 小さくてもいいから、そういった気持ちをたくさん醸成していくことが、僕の守りたい地球を守ることに繋がるのだ、ということを学ばせてもらいました。

 この半年間、私は様々な経験を得ることができました。それと同時に「地方」というものに対する想いも大きく変化したように思います。以前私は、「過疎化なんて、時代や経済の流れの中で生じてしまうものだから仕方ない」「それなのに、時代に逆らうなんて、なんか無駄」と考えていました。しかし、取材を通して変わりました。今、地方で行われていることは時代に逆らうのではなく、「どうしても変えることのできない時代の流れの中で、新たな〈カタチ〉を生み出すこと」だと。そして、地方にはその地域を引っ張る人が必要なことを知りました。だからこそ、その人についていく人も必要なのだと感じましたし、その人が来た時、地方には明るい未来があるのだと確信しました。 最後に、この機会を与えてくださった、環境省はじめ、関係者の方々、一緒に取材に行ってくれた沙生ちゃん。本当にありがとうございました。

 ESDとは、「上昇思考の循環」だと感じるようになった。あらゆるものが次の世代に伝え残し、それを受け継ぐ。次の世代(私たち)は受け取ったものと現実をよく見て、何が大切なのか、何が現状課題の根本なのかを考え、改革して、私たちやさらに次の世代の暮らしが、ほんの少し進化していく。そのように感じた。この事業を通して、取材先の方々、また集まった仲間たちからもたくさんの刺激を受けた。心からありがとうございます。  仲間と出会い、彼らの実行力に衝撃を受けた。「私にもできることがあるんだ」と思い、新たに自分で行動に移すきっかけになった。取材先の方々からは「人の想定を越える誠実さ」が、大きな力を生み出していると強く心に刻まれるように感じ、学んだ。財政の削減時に少しでも節約するために、市役所の人たちが郵便局へ頼まず、自ら配達物を届けていた、というお話を伺った。たしかに小さな村だから可能だったが、私自身も含め、誰に話しても驚く。やれることをし尽くしても不可能な場合にはお願いするしかない、という考え。この考え方はあたりまえなのかもしれないが、少なくとも私の想定を越えた行動だった。この行動の裏にある「人の想定を越える誠実さ」が多くの信頼関係をつくり、西粟倉村に大きな力を生み出していると、私は取材を通して感じた。これは、取材したお二人から共通して感じたことだ。

 長崎県東彼杵町、穏やかな海に面したこの町はおよそ3年前、消滅可能性都市に挙げられました。人がいなくなる、そんな事実が先走る中で、それを全力で否定するかのように若い世代が町を動かしている、そんな熱意を感じました。千綿駅でお会いした方々は皆、町がどうしたら活気づくのか、どうしたら人が来てくれるのか、写真・料理・農業など各々の手で町の価値を創り出している、そんな印象でした。人が来れば町は盛り上がる。盛り上がれば町の人がもっと活きてくる。そうすれば町はもっと元気になる。これこそが私の気付いたSustainableです。 ESDが知られているわけではありません。それでも、今回お会いした方々は好きなことを形にし、それを周囲の力を借りて魅せようとしています。気付かない所でSustainableが生まれ、どこかで人を動かしている、そう思いました。その地域の人ではない私ができること。それは、「魅せられる」こと、「伝える」こと、そして「気付かぬうちにSustainableの輪を広げている」こと。

 私は、環境教育を専門としているゼミの先生の紹介でこの事業について知り、参加させていただきました。この事業に参加する前は、ESD=「持続可能な開発のための教育」であり、環境について特化して学校で行われている教育のことだと認識していました。そのため、取材先も環境に関する所ばかりだと思っていました。 しかし、実際はESDとは環境だけではなく、自分の地域を残していくために実施している町おこしなども、ESDの一環なのだとわかりました。また、ESDを行える場も学校だけだと思っていたのですが、研修会でみんなと話していると、環境に興味をもったきっかけは親からの勧めだったという人が多かったことや、取材先で体験活動をしていることから、学校現場以外でもESDを行えることに気付くことができました。 そして、自分の好きなことを実行しながらESDに繋がっている方に取材を行えたことで、私自身も自分の好きなことを見つけて、それを実行しながら次世代の子どもたちにESDを繋げていきたいと感じました。

 最初、ESDという言葉が耳慣れませんでした。また、ESDは定義が多く、自分の中で定義付けることが困難でした。でも、私は思います。難しく考えすぎず、シンプルに考えることが、きっと大事なのです。人と話す時、必ず気付きを得ることができると思っています。この人ってこんなこと考えるんだ。この人の考えはすごい。どんな生き方をしてきたんだろう。人に興味をもつことからすべてが始まるのだと思います。人の姿から学ぶこと、これがいちばんの学びだと感じます。人を通しての学び、その人が通ってきた人生、経験を聞くことって贅沢だと思いませんか? 今回、長崎県東彼杵町で2回の取材を通して、様々な方と出会い、教えてもらうことがたくさんありました。町への想い、人生経験を聞き、私自身の生きるヒントを教えてもらったと思っています。学ぶことは、何も机に向かって知識を覚えるだけではありません。人から学ぶことも、一つの学びのあり方なのではないでしょうか。

駒野 永樹 稲積 尚希

朱 暁

武元 恵美

濱津 優

鳴川 真央

馬場 亮輔

山形 晃平

中嶋 路央

松岡 沙生