市場と経済a - takasaki city university of economics2016 年 5月2日(月)...
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市場と経済A 第4回 相互依存と交易(貿易)からの利益(教科書第3章) 2016年5月2日(月) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
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交易(取引)からの利益(1)
経済学の十大原理の第5原理:交易(取引)はすべての人々をより豊かにする。 国と国との間の貿易は、一方を勝者に、もう一方を敗者にするのではなく、両方の国をより豊かにすることができる。
各国が得意分野に特化することで、多様な財・サービスを享受することが可能になる。
国家間だけでなく、個人間、企業間、地域間等でも同様の原理があてはまる。
牛肉とジャガイモの2財しかなく、農夫と牛飼がそれらを作っている単純な経済を想定(スライド3) 牛肉とジャガイモのどちらについても、農夫よりも牛飼の方が作るのが上手であるとする。
農夫は1オンスの牛肉を作るのに60分かかり、1オンスのジャガイモを作るのに15分かかる。
牛飼は1オンスの牛肉を作るのに20分かかり、1オンスのジャガイモを作るのに10分かかる。
農夫と牛飼はそれぞれ1日に8時間働くものとする。
農夫が8時間すべてを牛肉かジャガイモのどちらかの生産にあてた場合の生産量:牛肉8オンス⇔ジャガイモ32オンス
牛飼が8時間すべてを牛肉かジャガイモのどちらかの生産にあてた場合の生産量:牛肉24オンス⇔ジャガイモ48オンス
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交易(取引)からの利益(2) 3
牛肉 ジャガイモ 牛肉 ジャガイモ農夫 60 15 8 32牛飼 20 10 24 48
1オンスの生産に必要な時間
(分)
8時間の生産でできる牛肉とジャガイモの量
(オンス)
農夫と牛飼の生産機会
交易(取引)からの利益(3)
牛肉とジャガイモの2財しかなく、農夫と牛飼がそれらを作っている単純な経済を想定(続) 農夫と牛飼の生産可能性フロンティア(スライド5)
生産可能性フロンティアの両端は、農夫と牛飼が8時間すべてを牛肉もしくはジャガイモの生産にあてた場合の生産量。
農夫と牛飼は、生産可能性フロンティアのいずれかの点において、牛肉とジャガイモの生産を行う。
もし農夫と牛飼が交換(取引)を行わなければ、それぞれ生産した分だけを消費することになり、生産可能性フロンティアは消費の可能性フロンティアにもなる。
生産可能性フロンティアは直線。すなわち、一方の財の生産量を増やした(減らした)場合に、もう一方の財の生産量が減る(増える)比率は、生産量にかかわらず常に一定。
図2-2(教科書42ページ)の生産可能性フロンティアは外側に膨らんでいる。すなわち、上記の比率は生産量によって変わる。。
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交易(取引)からの利益(4) 5
8
4
0 16 32
24
12
0 24 48
牛肉 (オンス)
ジャガイモ (オンス)
牛肉 (オンス)
ジャガイモ (オンス)
農夫の生産可能性フロンティア 牛飼の生産可能性フロンティア
交易(取引)がない時の 農夫の生産と消費
交易(取引)がない時の 牛飼の生産と消費
A
B
交易(取引)からの利益(5)
牛肉とジャガイモの2財しかなく、農夫と牛飼がそれらを作っている単純な経済を想定(続) 特化と交易
農夫と牛飼は数年にわたり、下記の量の牛肉とジャガイモを生産、消費。
農夫:牛肉4オンス・ジャガイモ16オンス
牛飼:牛肉12オンス・ジャガイモ24オンス
農夫と牛飼が生産量を上記から下記に変更
農夫:牛肉0オンス・ジャガイモ32オンス
牛飼:牛肉18オンス・ジャガイモ12オンス
生産量を変更後、農夫が牛飼にジャガイモ15オンスを渡し、牛飼が農夫に牛肉5オンスを渡すという交換を実施。その結果、農夫と牛飼の消費量は下記のように変化。
農夫:牛肉5オンス・ジャガイモ17オンス
牛飼:牛肉13オンス・ジャガイモ27オンス
交換の結果、農夫と牛飼の牛肉およびジャガイモの消費量は、いずれもそれまでの消費量より増加(スライド7、8)。
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交易(取引)からの利益(6) 7
8
4
0 16 32
24
12
0 24 48
牛肉 (オンス)
ジャガイモ (オンス)
牛肉 (オンス)
ジャガイモ (オンス)
農夫の生産可能性フロンティア 牛飼の生産可能性フロンティア
交易(取引)がない時の 農夫の生産と消費
交易(取引)がない時の 牛飼の生産と消費
交易(取引)がある時の 農夫の生産
交易(取引)がある時の 農夫の消費
5
17
A
A*
B 13
27
交易(取引)がある時の 牛飼の消費 18
12
交易(取引)がある時の 牛飼の生産
B*
交易(取引)からの利益(6) 8
牛肉 ジャガイモ 牛肉 ジャガイモ(オンス) (オンス) (オンス) (オンス)
取引がないケース 生産および消費 4 16 12 24取引があるケース 生産 0 32 18 12 取引 0+5 0-15 0-5 0+15 消費 5 17 13 27取引からの利益 0+1 0+1 0+1 0+3
牛飼農夫取引による利益
絶対優位と比較優位(1) ある財を生産する時に、より少ない投入量しか必要としない生産者は、その財の生産に絶対優位を持っているという。 牛飼は牛肉とジャガイモを農夫よりも短時間で生産できるので、両方に対して絶対優位を持っている(スライド3)。
投入量ではなく、機会費用で財の生産費用を測る。 二人の生産者を比較した場合に、一方の生産者が他方の生産者に比べて、ある財を生産する際の機会費用が小さい場合、その生産者はその財の生産に比較優位を持っているという。
農夫にとって、牛肉1オンスの機会費用はジャガイモ4オンスで、ジャガイモ1オンスの機会費用は牛肉1/4オンス。牛飼にとって、牛肉1オンスの機会費用はジャガイモ2オンスで、ジャガイモ1オンスの機会費用は牛肉1/2オンス(スライド10)。
農夫はジャガイモの生産に、牛飼は牛肉の生産にそれぞれ比較優位を持っている。
農夫が牛肉の生産を行うことによって失うジャガイモの生産量(機会費用)は大きいが、牛飼のそれは小さい。一方、農夫がジャガイモの生産を行うことによって失う牛肉の生産量(機会費用)は小さいが、牛飼のそれは大きい。
一人の生産者が二つの財の生産に絶対優位を持つことはできるが、比較優位を持つことはできない。 一方の財の機会費用は他方の財の機会費用と逆数の関係にあるので(スライド10)、一方の財の機会費用が相対的に高ければ、他方の財の機会費用は必ず相対的に低くなる。
aとbを正の数とすると、a>bならば1/a<1/bとなる。
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絶対優位と比較優位(2) 10
牛肉1オンス ジャガイモ1オンス農夫 ジャガイモ4オンス 牛肉1/4オンス牛飼 ジャガイモ2オンス 牛肉1/2オンス
機会費用牛肉とジャガイモの機会費用
絶対優位と比較優位(3)
各生産者がそれぞれ比較優位を持つ財の生産に特化することにより、総生産量が増加し、経済のパイの規模が拡大して、すべての人の生活水準の向上に役立つ。 牛飼は牛肉とジャガイモの両方の生産に対して絶対優位を持っているが、比較優位に基づいて、牛飼は牛肉の、農夫はジャガイモの生産に特化した方が良い。
特化による生産と取引から利益を得られる理由:自分自身の機会費用よりも低い価格で財を入手できるため 農夫:ジャガイモ15オンスと引き換えに牛肉5オンスを入手
すなわち、牛肉1オンスをジャガイモ3オンスで購入。農夫が牛肉1オンスを自分で作る場合、その機会費用はジャガイモ4オンスであるから、それよりも低い価格で入手したことになる。
牛飼:牛肉5オンスと引き換えにジャガイモ15オンスを入手
すなわち、ジャガイモ1オンスを牛肉1/3オンスで購入。牛飼がジャガイモ1オンスを自分で作る場合、その機会費用は牛肉1/2オンスであるから、それよりも低い価格で入手したことになる。
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絶対優位と比較優位(4)
取引をする二人が利益を得るためには、取引の価格は両者の機会費用の間になければならない。 農夫の機会費用は「牛肉1オンス=ジャガイモ4オンス」で、牛飼の機会費用は「牛肉1オンス=ジャガイモ2オンス」。
取引の価格が「牛肉1オンス=ジャガイモ1オンス」の場合、農夫だけでなく牛飼も牛肉を買おうとする。
牛飼は自分の機会費用よりも安く牛肉を買えるため。
取引の価格が「牛肉1オンス=ジャガイモ5オンス」の場合、牛飼だけでなく農夫も牛肉を売ろうとする。
農夫は自分の機会費用よりも高く牛肉を売れるため。
取引の価格が「牛肉1オンス=ジャガイモ3オンス」の場合、農夫はジャガイモを売って牛肉を買い、牛飼は牛肉を売ってジャガイモを買おうとする。
農夫は自分の機会費用よりも安く牛肉を買うことができ、牛飼は自分の機会費用よりも高く牛肉を売ることができるため。
比較優位は人と人の間だけでなく、国と国の間(国際間)でも成立する。 機会費用が小さい財の生産に特化し、それを輸出して、機会費用が大きい財を他国から輸入する。
国際貿易は戦争のように、勝利する国と敗北する国を生み出すのではなく、すべての国を繁栄させる。
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