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経営判断原則の理論的基礎(1)

桜 沢 隆 哉

〔目次〕

はじめに

第1章 米国における会社役員等の義務 と経営判断原則

第1節 会社役員等の義務

第1款 会社役員等の義務 と責任

第2款 注意義務と忠実義務の交錯

第2節 経営判断原則

第1款 経営判断原則の意義 ・沿革

第2款 経営判断原則の適用要件にかかる若干の検討

第3節 経営判断原則の根拠 をめぐる二つの方向性(以 上、本号)

第2章 米国法における経営判断原則の根拠

第3章 わが国における経営判断原則

はじめに

わが国の会社法において、株式会社と取締役 との関係は、一般に委任 に関

する規定に従 うものとされ(会 社法330条)、 そのため取締役は、その職務を

遂行するにつき、善良な管理者 としての注意義務を負 う(民 法644条)。 この

義務の水準は、その地位・状況にある者に通常期待 される程度のものとされ、

とくに専門的知識 を買われて取締役 に選任 された者については、期待される

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水準は高 くなると解 されている(1)。一方で、取締役は、法令 ・定款および株

主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務 を行わなければならない

と規定されている(会 社法355条)。 わが国においては、善管注意義務 と忠実

義務の要件 ・効果を区別するという発想は乏 しく、判例においても、「商法

254条3項 〔現行会社法の330条 に相当:筆 者注〕民法644条 に定める善管義

務を敷術 し、かつ一層明確にしたにとどまるのであって、……通常の委任関

係に伴う善管義務 とは別個の、高度な義務 を規定したものとは解することは

で きない」 としている(2)。すなわち、同判例の理解によれば、忠実義務の規

定の存在意義は、委任関係に伴 う善管注意義務を取締役について強行規定 と

することに意義があるとする点にすぎない(3)。

取締役 は、会社に対 し、その任務 を怠ったこと(任 務僻怠)に より生 じた

損害を賠償する責任を負う(会 社法423条1項)。 ここにいう任務IVJI怠とは、

会社に対する善管注意義務 ・忠実義務の違反を意味 している。このように取

締役は、善管注意義務違反の業務執行により会社に生 じた損害を賠償する責

任を負うが、取締役の業務執行は不確実な状況の下で迅速な決断をせまられ

る場合が多い(4)。そこで、この場合に善管注意義務が尽 くされたかどうかの

判断は、行為当時の状況に照らして合理的な情報収集 ・調査 ・検討等が行わ

れたか、および、その状況 と取締役に要求 される能力水準に照 らして不合理

な判断がなされなかったかを基準になされるべ きであり、事後的 ・結果的な

評価がなされてはならないものと解されている(5)。このようにわが国の裁判

例では、一定の要件のもとに取締役に広い裁量の幅が認め られるとする、い

わゆる経営判断原則が採用されている。 この経営判断原則は、一般に当該判

断を行った当時の状況に照 らし、判断の前提 となる事実を認識する際に不注

意な誤 りがなく、そのような事実認識に基づいてなされる意思決定について、

その過程および内容が不合理なものでなければ、取締役に広い裁量権が認め

られ、当該判断に基づ く注意義務違反は認められないとす るものである(6)。

この経営判断原則は、わが国独 自のルールであるといえ、同原則が生成され

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展開されてきた米国と比較して経営判断の 「内容の合理性」についてまで司

法審査が及ぶという点に大きな違いがある(7)。

ところで、近時一般 の事業会社においてなされた事業再編計画の一環とし

て、非上場会社の子会社株式の買取価格にかかる意思決定について、それを

行った取締役等に対する経営判断原則の適用が問題 となった裁判例が現れ

た(8)。同判決は、最高裁が経営判断原則について初めて具体的な審査基準を

示したものであり、かつ取締役の意思決定及び行為に具体的な法令違反のな

い(ま た、他の取締役や使用人等に対する監視・監督義務違反の問題もない)、

いわば純粋な経営判断が善管注意義務違反に該当するか否かが問題となった

事案であり、わが国における経営判断原則の適用及び運用についての考え方

が示 されている点で意義がある(9)。もっとも、同事案の内容をつぶさに検討

してみた場合には、必ずしもその適用について容易には疑問なしとは言い切

れない部分もある。会社経営者の経営判断の内容の不合理性について司法審

査を行 うことについて消極的な見解 もみ られるところであるが(lo)、本来会社

経営者に対する当該会社の機関による監視 ・監督等を中心 とした規律が十分

なものとなっているからこそ、その経営上の判断について会社経営者に幅広

い裁量が認められ、当該判断の内容が司法審査に服 さずに尊重されるものと

考えられるα1)。

そうであるとすれば、米国をはじめとする諸外国とは異なり、そうした規

律づけが必ず しも十分ではないと考えられるわが国においては、経営判断の

内容にも審査が及ぶ と解することについても一定の意味があるのではなかろ

うか。そこで以下では、米国における経営判断原則における制度の存在意義

および展開を参照することにより、どのような会社のガバナンスシステムの

もとでそのような法理論が導きだされてきたのか(経 営判断原則の存在意義

及びその根拠、さらにはその限界に関する検討 も含む)を 明らかにしていき

たいと思う(12)。

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第1章 米国における会社役員等の義務 と経営判断原則

第1節 会社役員等の義務

第1款 会社役員等の義務 と責任

米国でも、わが国と同様に、株式会社の取締役等は、受託者であると解 さ

れてお り、法はこのような地位にある者に特定の義務および責任を課してい

る(13)。この受託者(取 締役等)と 委託者(会 社)と の関係一いわゆる信認関

係一 とは何か ということについて明示的に定めるものはないが、一般に他者

の利益のために当該権限を利用する義務を伴 う権限を付与 された者との間に

生ずるとされている(14)。こうした関係は、様々な法的関係一信託受益者と受

託者、パー トナー相互問、代理人と本人など一 に適用があるが、信認関係が

認められるとしても、その関係に課されるべき義務の程度及び責任はそれぞ

れの状況に応 じて異なるものと解されている(15)。

信認関係は、そもそも他人の専門的能力を利用するものであるか ら、受認

者には当然に裁量が与えられるべ きであるが、あまりに広範な裁量を与える

とすれば、その者がそうした権限を濫用する可能性が生ずる。そこで、そ う

した問題を調整するために受託者には義務が課されている。こうして受託者

としての取締役の義務には、注意義務、忠実義務があると一般に解されてい

るが⑯、 この うち注意義務は、取締役等がその職務 を行うにあた り、「同様

の地位にある合理的な分別ある者であれば、同様の状況において行 うであろ

う注意、技量、慎重さをもってその義務を果たすべきことが期待 されている」

ものである(1の。これによれば、この義務は、取締役の過失行為について責任

を課す ものであると考えられるが、実際には取締役等の違法行為 と不作為の

双方 に対 して責任を課すというものである(is)。そ して、注意義務違反につい

ては、株主による代表訴訟及び直接訴訟により責任追及がなされることにな

り、実際にも多 くの取締役等の責任追及訴訟が提起 されている。9)。それにも

かかわらず、1980年 代以降、注意義務違反について取締役等の責任が肯定さ

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れ、損害賠償請求が認められた事案は、1985年 のSmith v. Van Gorkom事

件⑳が最後 となっているようである⑳。というのもこれは、注意義務 に関す

る取締役 の意思 決定 のほ とん どが、 いわゆ る経営判 断原則(Business

Judgment Rule)に より保護されているためであり、これは一定の要件の下

で裁判所の会社の経営判断に対する審査を制限するための推定を生み出すも

のであると解 されている。

他方で、忠実義務は、受託者が会社の最善の利益にために誠実に行動する

ことを義務付けるものである(22)。これは、会社と受託者(ま たは受託者 と関

係する者)と が利益相反的な状況にあ り、個人的な利益を会社のそれよりも

優先 させ ようとする状況に焦点を当てている。この場合、裁判所は、利益相

反取引が公正か どうかを判断し、 より具体的には公正性の証明責任を取締役

に負わせるだけではな く、決定手続 と決定内容の双方を審査するということ

になる(い わゆる 「完全な公正性」テス ト)。

このように米国では、注意義務 と忠実義務 とを分けることの意義は、前者

に比べて後者はより多 くの司法による関与 と審査がなされるという点にあ

る㈱。すなわち、注意義務違反が問題 となつている事件では、会社の利益を

増大 させ ようとした経営判断を裁判所は保護 しようとするが、忠実義務違反

が問題 となっている事件においては、取締役の個人的な利益に動機づけられ

ているため、裁判所の関与が正当化される㈱。

第2款 注意義務 と忠実義務の交錯

ところで、注意義務 と忠実義務はどのような性格のものとして位置づける

ことができるのだろうか。 このような性格の違いを明らかにすることは、経

営判断原則の適用 において重要である。この点につき、注意義務は積極的な

義務であ り、忠実義務は消極的な義務であるという指摘がある。すなわち、

注意義務は、当該義務を履行するに際 して、何かをしなければならないとい

うものであり、忠実義務は、何かをしてはならないとい うものである⑳。経

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営判断原則が信認義務違反の うち注意義務にのみ適用されるということも、

こうした義務の性質によるものと解されよう。何かの行為をしなければなら

ない場面において、取締役が経営判断をしたときは、それをなすに際して義

務を尽 くしたか否かのみが判断され、裁判所は後知恵でこれを判断すべきで

はないが、忠実義務の問題 となる場面においては、本来的に禁止されている

行為をして しまったこと自体が問題であ り、裁判所が経営判断原則の適用さ

れる場面のような審査をすることになじまないためである。

このように注意義務 と忠実義務が個々の事件において明確 に区別できる場

合には経営判断原則の適用において問題は生じないが、双方の義務が衝突す

る(重 なりあう)場 合にはどのように考えるべ きなのであろうか。デラウェ

ア州最高裁判所が、述べているように、信認義務はいかなる固定的な尺度に

もおさまるものではな く、その状況によって特定されるものである(26)。裁判

所は、双方の義務が衝突する場面において適用 されるべ き法的ルールを確定

する際には、受託者が行為 ・取引する必要性 と株主保護 との問でバランスを

とろうとしてお り、原告が広範な司法審査 を求め、被告が最低限の司法審査

を求める事件では、司法審査の程度が問題 となる。完全な公正性テス トの場

合には、被告側に証明責任があ り、内容と手続の双方について積極的な司法

の審査がなされることになるため、原告側はこれを求めることになるであろ

う。一方被告側は、経営判断原則による保護に基づいて司法による経営判断

への関与を制限することをもとめることになるであろう。

裁判所は、以上のような前提に立って、双方の義務が衝突する場面におい

て適用されるべ き法的ルールを確定する。デラウェア州およびそれを支持す

る州の裁判所では、支配権をめ ぐる争いが生じてお り、防衛策を実施する際

に取締役がとる行為の審査に適用される第三の中間的な基準を発達させた。

これは、支配権をめぐる争いが生 じている場合には、会社の存続をめ ぐる重

要な経営上の決定と、取締役 らが自らの地位を守ろうとする利益相反の可能

性の双方を含むことを考慮 したものであ り、被告に行為の正当化をさせるた

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めの責任 を負わせるという、いわば修正された経営判断原則が適用されるこ

とになる。すなわち、取締役は、会社方針 に対する危険があると信ずる合理

的根拠があ り、かつそれに対する対応もまた引き起 こされた脅威 ・危険に対

して合理的であることを証明することが必要であるとするものである吻。こ

のようにデラウェア州では、三つの司法審査一注意義務にかかる経営判断原

則、忠実義務にかかる完全な公正性、そして修正 された経営判断原則一が存

在 しており、個々の場面に応 じてその適用 を判断していることになる圏。

第2節 経 営判断原則

第1款 経営判断原則の意義 ・沿革

取締役が訴訟による不当な責任追及のおそれから解放され、安心して会社

経営に専念することができるための方策 として米国では、いわゆる経営判断

原則(Business Judgment Rule)が 認め られてきた。同原則は、裁判所が

取締役に会社経営に際 して幅広い裁量を認めるものであり、主として判例法

において生成 ・発展を遂げてきた法原則である。またこの原則は、取締役が

会社及び彼 自身の権限の範囲内において、ある業務上の決定をした場合に、

その決定に合理的な根拠があ り、かつ彼が会社の最善の利益であると正直に

信 じた事柄以外には影響を受けずに、彼独 自の裁量 と判断の結果 として、当

該決定を下 したのであれば、裁判所は経営の内部事項には干渉せず、裁判官

の判断をもって取締役の決定に代替せ しめることはしないというものとされ

ている㈲。この定義によれば、経営判断原則は、取締役が自己の権限の範囲

内において、合理的に注意義務を尽 くして(た だし忠実義務違反はない)判

断をした場合には、裁判所がこれを事後的に判断することは望ましくないと

の立場を明 らかにしているものと考えられる。そ して、その根底には、会社

が営利の事業組織であることから、その経営には多かれ少なかれリスクが伴

うものであることを考慮し、それに関する知識 も経験 も欠 く裁判官が事後的

に判断することは適切ではないこと考えたためである(30)。

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経営判 断原則 の意義お よびそれが果たす機能 を知 る上では、 この原則がい

かな る経緯 で 生成 され て きたのかを知 る ことが有益 である。 そ こで以下で

は経営判 断原則 の生成の経緯 につい て検討 したい。 この判例法 にお いて発展

を遂げ て きた経営判 断原則 の起 源 をどこに求め る ことが で きるか につ いて

は、学説 上対立 している。学説 で は、Percy v. Millaudon判 決Gりに求め る見

解 があ る(32)。この見解 に よれば、 当初 の判例 における この原則 の主要 な 目的

は、誠実 な義務 の履行 によ りなされた事業上の決定の誤 りに対 する責任か ら

取締役 らを保護す ることにある とす る㈱。 また、この ような理解 の背景 には、

そ もそ も事 業上 の決定 に対す る評価 を裁判所 がす るこ とは不 適任 である こ

と、 お よび、仮 にこうした保護が なけれ ば、会社の取締役 として従事す るも

のがいないこ と、事業上の リスクを とるこ とを差 し控 えることになるためで

ある と考 え られ ている(34)。もっ とも、上記 の点が指摘 されてい たこ とを踏 ま

えれば、 その起源 をPercy v. Millaudon判 決 に求め ることには疑 問が ないで

はない。 す なわち、 同判決 は、会社法 の混乱期 に当たる時期 の事 案であ り、

また経営判 断原則 の適用場面の議論 とも焦点がずれてい る事案 である と考 え

られる。 そ もそ も同判決 は、銀行 の社長 と現金係が銀行資金 を横領 したこ と

に関 して、取締役 の責任が追及 された事案で あるためである(代 理 人の責任

に対す る代位(求 償)責 任 の問題)。

他 方で、Easterbrook&Fische1は 、その論文 の中(35)で、 「裁判所 よ りもむ

しろ経営者 の方 が株主の利益 を最大化す るための事業上の決定 をなす のに適

任 であ り、したが って裁判所 は経営者が な した事業上の決定を事後 的に批判」

すべ きではない と述べ、そ もそ も裁判所 は経営の専 門家ではな く、事業上 の

決定をす るのには不適任である との前提が経営判断原則 にはあ るとされてお

り、 む しろ この前提 を出発点 として考 えるべ きであ る と考 え られ る。 また

Easterbrook&Fischelは 、やや法 と経済学 に よる考 えが強いが、 よ り具体

的には次の よ うに述べ ている。 すなわ ち、「裁判所が、 一般 に経営者の業務

を改善 で きる と考 えるべ きいかなる理 由 も存在 しない。裁判所 は、事業上 の

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決定をなすのに必要な経験 と情報を欠いている。時には裁判所が、拙劣な決

定や委任費用に気付 きうるとしても、事件の最終的な取 り調べの負担は、ほ

とんど裁判所が事態を改善しうるごくわずかな事件で獲得 しうる利益よりも

費用が多額のものとなる。たとえ裁判官が事業上の決定についての再度吟味

するという職務に十分適任であったとしても、改善される点に対する訴訟費

用の割合は高いものとなる。原告たる株主も裁判所 と同様に、経営者の決定

について理由をもって争 う必要な情報を欠いているためである剛 とされる。

ここで述べられていることは、そもそも、経済社会の発展にともない複雑化

かつ多様化 していく事業経営に対 して、裁判所が専門家でなく、またそうで

ない以上、そこに干渉することも差 し控えるべ きであることが指摘されてい

る。このような指摘の背景には、経営判断原則の着想は、19世紀後半の自由

放任主義のもとでの経済及び政治の時代 に発展 し始め、この基本的な原理は、

人間の諸動機の自由な発現が、それ自体が利己的、物欲的なものであったと

しても、すべて社会に対する最高の利益 を生み出すことを助長するものとし

て作用するというものである。 したがって、法律 による介入は、ある状況で

は必要悪としてみなされることはあるとしても、基本的には経済制度に混乱

をもた らしがちであると考えられていたためである㊨の。そして、会社法の側

も、1780年代から1820年 までの間は、アメリカ会社法の改革が立法作業によっ

て具体化された時代であ り、その後の1830年代から1870年代は実務 と理論の

間での混乱が生 じた時期、 さらに1880年 代にはそれ以前に実務が採用 してき

た ものについて理論 との均衡が図られ立法化された時代であった圏ことも考

慮すべきであろう。

そのように考えると、問題のある担保物件 をもとに軽率な貸付を取締役が

行ったために会社が支払不能に陥ったとして、破産管財善人が取締役に対し

て責任を追及した事案について、取締役は重大な過失や不注意についてのみ

責任を負うのであって、判断の誤 りについては、たとえそれが極めて馬鹿げ

た判断であった ように見 えても責任を負わないとす る、Spering's Appeal

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判 決(39)にそ の起 源 を求め るこ とが適切 では なかろ うか。 その後 も、Hum V.

Cary事 件(40)では、「Spering's Appealに おい て、 Shearswood判 事 は、取 締

役が誠実で あ り、 かつ経営陣に正 当に委任 された権 限 と裁量 の範 囲内で ある

な らば、 わ らわれに馬鹿げて愚か しくみ えるものであ って も、判 断の誤 りに

ついて責任 は負 わない」と述べ た上で、「私が これ を理解 す るところに よれば、

いかなる程度 においてもこれを して取締役の責任 を適切 に認めた もの とす る

ことには同意 で きない。取締役が なぞ らえて きた受任者同様 、彼 は適切 な注

意 と勤勉 さ とを行使すべ き義務のみ ならず、通常の手腕 と判 断を もまた行使

しなければな らない。」 と判示 されてい る。 また、Pollitz v. Wabash R. R.事

件㈹において も、 経営判断原則 の もとで は、 「経 営 の方針 、契約お よび決議

の適切性、対価 の妥 当性、会社 の利益 を増大 させ るための会社 資金 の合法 的

な拠 出 といった問題 は、取締役 の正直で、かつ非利己的 な裁埜 に委 ね られて

いる。 なぜ な ら、 それ に関 して、彼 らの権限 は、何 らの制限 も、制 限か らの

自由 もな く、会社 の通常の一般 的利益のための取締役 の権 限の行使 は、 その

結果が不適切 で不 当であ ることを示す ものであ るあ って も、問題 とされない

か らである。」 とされてい る。

また、United Copper Securities Co. v. Amalgamated Copper Co.事 件(42)

では、 「あ る会社が損害 につ いての訴権 を裁判所 にお いて行使 す る途 を選 ぶ

べ きか どうかは、経営上の他 の問題 と同様、通常 は会社 の内部の経営 の問題

であ り、株 主の議決 による指示が ない限 り、取締役の裁量 に委 ね られている。

取締役が信託違反 に も著 しい違法行為 によって有責の場合、あ るいは公正 な

判 断を妨 げる二重 の法律関係 にある場合 を除 き、会社の能力内 にある裁量 を

管 理す るため に裁判所 が 干渉す るこ とはほ とん どない。」 とされ、 さ らに

Ashwander v. T. V. A.事 件(43)では、 「不 誠実、構 成員の相対 的権利 の無視、

またはその財産権 を著 し く脅 かす行為が ない限 り、裁判所 は、会社経営 に干

渉すべ きではない。 この原則 は、過誤や事実や法の誤認の結果であれ、単 に

不適切 な経営上 の判 断の結果であれ、適用 され る。 とくに主張 された過誤 が

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一見 明白な訴権 の行使 に対す る拒 絶である場合、 あるい はそれ を危殆に陥れ

る ことであ る場合 に適用 され る」 とした上 で、「株 主が役 員 に対 してすべ て

の法 的権利 の実現 を強制 しうるなら、選任 された役員 の代 わ りに裁判所 が会

社 の運命 の裁定者 となって しまう」 として、不介入 である旨を述べた。その

後 も、Bayer v. Beran事 件㈲では、取締役 は、事業上 の決定 をす るにあた り、

注 意 を尽 くす ことが類似の状況 において、 自己の取 引に関す る行動 において

とるであろ う程度 の注意 ・判断の種 類が もめ られている との一般論 にふれた

上 で、「法 は、そ れが会社 の富以外 の何 らの個 人的利益や そのほかいかなる

配慮 に よって も影響 されるこ との ない 自由で正直な行使 に したが って取締役

等 に よって経営 されている限 り会社の 内部の事項 に干渉 する ものではないだ

ろ う。」 と述べ られている。

以上の判例 法の変遷及 び蓄積 を経て、経営判断原則 は、内容 に不 明確 な部

分 を残 しつつ も一応 の確立 をみ た。 この流れ にそって、現在 では制定法上の

規定 を設 けている州 もあれば、そ うで ない州 もある(45)。と りわけ、 アメリカ

法律協 会(ALI)は 、経営判断原則 にかか るリーデ ィング ・ケースの中に

現 われてい る諸要素 を整理 して定型化 してい る。す なわち、 〔ALI§4.01

(c)〕 は、「以下 の要件 を満 たす場合 には、誠実 に(in good faith)経 営判

断 をなす取締役 または役員 は、 このセクシ ョンの も とでの義務 を尽 くしたも

の とす る」 と した上で、「(1)そ の取締役 または役員が、経営判断の対象 に

利害 関係 を有 していない こと、(2)そ の取締役 または役 員が、経営判断の

対象 に関 し、 当該状況下で適 当である と合理的(reasonably)に 信 ずる程度

に情報 を得て いたこ と、(3)当 該 経営判断が会社 の最 善の利益 になる と相

当に(rationany)信 じていた こ と」 と規定 している。 すでに述べ た ように、

取締役 の信認義務 には、注 意義務 及び忠実義務が あ り、後者 について は 「完

全 な公正性」 テス トによって よ り厳格 な司法審査 に服す るこ とになる。そ こ

で上記ALI§4.01(c)(1)は 、 ここで問題 となってい る事案 が注 意義

務 のケースなのか、それ とも忠実義務 のケースなのかを分 けるための要件で

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170 京女法学 第1号

ある。一方、(2)(3)の 要件は、それぞれ経営判断を、その過程 と内容と

に区別 し、前者には合理性を、後者には相当性 という基準 を要件づけるもの

である。 もっとも、 この両規定によれば、誠実な判断を行 つたとされる取締

役が適切な情報を得ていたかどうか、また経営判断の内容が会社の最善の利

益になると取締役が信 じていたことが相当であったかどうかを、裁判所が事

後的に審査することになるため、米国の伝統的な経営判断原則の理解 とは異

なるものと考えられる(46)。

第2款 経営判断原則の適用要件にかかる若干の検討

取締役が負 う注意義務は、取締役が意思決定をする際に、情報の提供 を受

け、かつ慎重であることを要求する。このことは、取締役が、意思決定をす

る際にこうした義務を尽 くしていなければ一過失がある又は賢明でない決定

をするのであれば一注意義務違反として責任が問われることになる。もっと

も、そうした決定は司法審査の一方式である経営判断原則 による審査に服す

ることになるので、意思決定過程に過失のない取締役については司法審査が

制限され、保護されることになる。経営判断原則の適用がある場合には、裁

判所は、取締役の決定に誤 りがあったか、またはそれが杜撰なものであった

としても、その決定内容を審査することはせず、決定の手続のみが審査 され

ることになる㈲。

この点につ き、デラウェア州では、経営判断原則は意思決定を行う際に取

締役は情報に基づ き誠実に行為 し、当該決定が会社の最善の利益になると正

直に信 じたものとの推定が与えられるとされている。この場合、手続として

は、原告側に証明責任が課され、原告側がそれを証明できなければ、経営判

断原則により取締役はその責任追及から保護されるが、他方で、そうした推

定について反証がなされなければ、デラウェァ州では完全 な公正性(公 正な

取引及び公正な価額であること)を 証明することを取締役 に課すことにな

る(48)。

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経営判断原則の理論的基礎(1)(桜 沢) 171

経営判断原則が適用 された結果として、裁判所は、取締役の決定を尊重 し、

当該決定を後知恵で判断することはしない。このような結果が導き出される

のは、裁判所は経営に関する専門的知識を欠き、また経営上の決定をするの

は裁判所の役割ではないと解されているためである。また一方で株主も、仮

に経営の誤 りによって自己の投資 した資金を失うことはあっても、むしろ取

締役 に経営上の決定をさせ、利益を生むためにリスクを取ってもらう方が望

ましい。したがって、裁判所が後知恵で経営判断を審査 し、取締役に責任を

課すことを認めるとすれば、取締役は利益を生むためのリスクを取ることを

差 し控 えてしまい、結果として株主価値の低下をもたらすことになってしま

う(49)。

このように取締役による意思決定を争 う原告は、経営判断原則が適用され

るのを阻止するためには、次の前提条件ついて、いずれか一つが認められな

いことを証明する必要がある。ここで確立されている準則は、「取締役会に

おける決定について経営判断原則を適用するための前提条件は、経営上の決

定を行う際に、取締役等は、十分な情報を得た上で誠実に、その決定が会社

の最善の利益になると誠実かつ正直に信 じて決定を行った」ことであるとい

うものであ り、Aronson事 件 において確立 された ものである(50)。そのため、

第一に、取締役がそ もそも経営上の決定を行っていないこと、または十分な

情報を得て、誠実かつ正直に経営上の決定を行っていないことを立証する必

要がある。第二に、取締役等が当該決定を会社の最善の利益になると誠実か

つ正直に信 じて決定を行ったのではないことを立証する必要がある。なお取

締役が、権限外の行為(ultra virus)、会社財産の浪費、違法行為又は不誠実、

不正の意図をもって行為 した場合、利益相反の状況におい決定をなした場合、

及び取締役等が情報開示義務または忠実義務に違反した場合には、経営判断

原則は適用 されず取締役を保護されない㈱。

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172 京女法学 第1号

第3節 経 営 判 断原則 の根拠 をめ ぐる二 つ の方 向性

上記 のよ うに、会社取締役 は、会社 に対 して、デ ラウェア州 をは じめ とし

た州において採用 されてきた3つ の義務 を負 うことになるが、経営判 断原則

は注 意義務 に関連 して議i論され る(52)。デラウェア州最高裁 も定義 しているよ

うに、注意義務 は、取締役 に通常 の注意力及 び慎重 さを有 す る者 が、類似 の

状況及 び立場 にお いて行使す るであろう注意 をもって行動 すべ きことを要求

す る(53)。ここでは合理 的な注意(reasonable care)の 語 を用 いる ことに よって、

取締役が単 に会社 のために主観 的に信 じて行 うだけでは十分ではな く、取締

役 が負 っている義務 を果た しているか どうか については、客 観的に も判断 さ

れるこ とになる。 したが って、客観 的に取締役 が不注 意で行 動 した場合 には

いつで も違反 となる し、取締役の不作 為 に対す る責任 も同様 とな る㈱。 もっ

とも、経営判 断原則 は、会社取締役 または役 員が、その行動 が十分 な,情 報

に基づ いて、会社 の最善の利益 になる と誠実 に、かつ正直 に信 じて行動 した

とい う推定 を一定 の要件の下で認 めることによって、取締役 らの過失に基づ

く責任 を免 責す る という結果 を もた らす もので ある(55)。この ように、裁判所

が従来か ら、経営判断原則 を注意義務 に違反 したか どうかが問題 となる事件

において採用 して きたことは明 らかであ るが、 この背 景には どの ような説 明

あるいは理 由づ けをす ることがで きるのであ ろうか。 また この原則 がそ もそ

もどの ような機能 を有 してい るのだろうか。

この点 につ き、 デラウェア州の判例 ・裁判例では、大 き く分けて二つ の流

れがある とい う指摘が ある(56)。す なわち、 その一 つは、裁判所が、経営判断

原 則 を 取 締 役 の 責 任 の 有 無 を 判 断 す る た め の 「責 任 基 準 」(Liability

Standard)と 解 す る立場 で あ る。 この 立場 を とって い る と解 され るの は

Cede&Co. v. Technicolor Inc.事 件6のであ る。 この見解 によれば、取締役が

誠実 に経営上の判断 を下 したのであれ ば、裁判所 は信 認義務 違反の責任か ら

保護 しよう とす る ことになる鯛。 た とえばTechnicolor判 決 で は、経営判断

原則 を取締役会の意思決定へ の司法の介入 に対 して強力 な推 定 を提供す る も

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経営判断原則の理論的基礎(1)(桜 沢) 173

の と解 した上で、 この推定 を覆すため には、原告側 としては三つの信 認義務

のいずれかに違反 したこ とを立証 しなければな らない とす る ものであ る。 そ

して、立証 に成功 しなか った場合 に は、経営判 断原則 が適用 され、取締役 は

保護 されるこ とにな り、裁判所 は取締役 の当該決定 を後知恵で判断す るこ と

は しない、 とす る(59)。もう一つ は、経営 判断原則 を、 司法 の 「不介 入法理」

(Abstention doctrine)と して理解す る立場 であ る。 この立場 による判決群

と して は、Shlensky v. Wrigley事 件㈹お よびKamin v. American Express

Co.事 件㈹が挙 げ られ る。 この立場 に よれ ば、株 主代 表訴訟 の原告株 主が、

注意義務事件 におけ る司法の推 定 を覆 さない限 り、裁判所 は、取締役会 によ

る行動 の実質的 な内容 を審査す ることを差 し控 える とい うもの一 裁判所 は事

実審理 をせ ずに原告 の訴 えを斥 ける とい うもの一 であ る(62)。この ように経営

判 断原則の機能 について は、主 として二つ の立場が存在 してい るが、いずれ

の立場が妥当 なのであ ろうか。以下 では、判例 の理解 を参照 しつつ、検討 を

してい きたい と思 う。

(1)江 頭 憲 治郎 『株 式会 社 法 〔第3版 〕』(有 斐 閣、2009年)399頁 、石 山卓 磨 『最 新判 例

にみ る会 社 役 員 の義 務 と責 任』(中 央経 済 社 、2010年)57-58頁 、 同 「英 国会 社 法 に

お け る取締 役 の義 務規 定 の改 革一 取 締役 の注意 ・技 量 ・勤 勉 義務 を中心 に して一 」石

山卓磨=川 島いつ み=上 村 達 男=尾 崎 安央 編 『酒 巻俊 雄 先生 古稀 記 念 ・21世 紀 の企業

法 制』(商 事 法務 、2003年)81頁 な ど参照 。

(2)最判 昭和45・6・24民 集24巻6号625頁 参照 。

(3)江 頭 ・前掲 注(1)401頁 参 照。 なお 、 強 行規 定 で は あ る が、 総 株 主 の 同 意 に よ り、

会社 に対 す る責任 は免 除す る こ とがで き(会 社 法424条)、 また完 全子 会社 ・合 同会社

等 は、 実際 に は免 除 され るこ とが多 い(江 頭 ・前掲 書)。

(4)江頭 ・前 掲注(1)433頁 参 照。

(5)江頭 ・前 掲注(1)433頁 参 照。

(6)こ の経 営判 断 原則 は、 わが 国の 下級 審判 例 に おい て数 多 く と り上 げ られて きた ところ

で あ るが、 そ の根 拠 とす る と ころ は、 東 京 地判 平 成16・9・28判 時1886号111頁 に お

いて述 べ られ て い る よう に、 企 業経 営 に 関す る判 断 は複雑 か つ多 様 な諸 要素 を対 象 と

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174 京女法学 第1号

した総合 的な判 断 が必 要 とされ、 またそ の活動 に は一定 リス クを伴 う もので あ るか ら、

取 締役 が 委縮 す る こ とな く経 営 に専 念す るため に は裁量 を認 め るべ きで あ る とい う こ

とで あ る。

(7)江 頭 ・前 掲 注(1)434頁 の注(3)、 上柳 克 郎e鴻 常 夫=竹 内 昭 夫(編)『 新 版 注釈

会 社法(6)株 式 会 社 の機i関(2)』(有 斐 閣、1989年)276頁[近 藤 光 男 執筆]、 吉 原

和 志 「判 批 」会社 法 判例 百選123頁 参照 。

(8)最 一小 判 平成22・7・15金 判1353号26頁 参 照。 なお、 本 判決 の 評釈 ・解 説 は、奈 良 輝

久 「本 件 判 批 」 金 判1368号7頁(2011年)、 和 田宗 久 「本 件 判 批 」 金 判1363号2頁 以

下(2011年)、 落 合 誠 一 「アパ マ ンシ ョ ップ株 主 代 表 訴 訟 最 高 裁 判 決 の意 義 」 商 事

1913号4頁 以 下(2010年)、 大 塚和 成=高 谷 裕 介=伊 藤 菜 々子 「本 件 判 解 」 ビ ジ ネス

法 務10巻11号12頁(2010)、 弥 永 真 生 「本 件 判 解 」 ジユ リ1406号110頁(2010年)、 石

井 亮 「本 件判 解 」 奈 良輝 久=清 水 建成 一日下 部 真 治=十 市 崇(編 著)『 最新M&A判

例 と実 務一M&A裁 判 例及 び買収 規制 ル ール の現代 的展 開』(判 例 タイム ズ社 、2009年)

314頁 な ど。

(9)こ れ まで の多 くの事 例 は金 融機 関 の融 資 に関す る もの が多 く、 い わ ばバ ブ ル経 済崩壊

後 の 病理 的現 象 で あ る。 た とえ ば旧拓 銀 カ ブ トデ コム事 件(最 判平 成20・1・28判 時

1997号148頁)で は、財 務 内 容が 不 透 明で 借入 金 が 過 大 な状 況 下 で の融 資 及 び破 綻 時

期 を遅 らせ る に過 ぎない融 資 の判 断は、 著 し く不 合 理 な もの であ る と して い る。 この

よ うに解 す るの は、 一般 に金融機 関の経 営者 は、事 業会 社 の経 営 者 に比べ て裁量 の幅

は狭 い ため で あ る。 この点 につ き、 岩原 紳作 「金融 機 関取 締役 の注 意義 務 一会 社 法 と

金 融 監 督法 の交 錯 」 『落合 誠 一先 生 還暦 記 念 ・商 事 法へ の提 言 』(商 事法 務 、2004年)

216頁 参 照。 そ の ほか 、 金融 機 関役 員 の融 資 に関 す る注 意義 務 を扱 っ た論 文 と して 、

神 吉 正三 『金 融 機 関役 員 の融 資決裁 責任 』(酒 井書 店 、2005年)、 同 『融 資判 断 に お け

る銀行 取締 役 の責任 』(中 央 経済 社、2011年)参 照 。

⑩ 落 合 ・前掲 注(8)商 事1913号9頁 参 照。 同 論文 で は、 裁判 官 が 経営 判 断 に対 して積

極 的 な吟 味 ・介 入 を行 い、 善管 注意 義務 を広 く認 め る態 度 を とっ てい た とす れ ば、会

社 に よる富 の創 出 に不都 合 な事 態 とな り、裁 判 官 の常 識 と経営 者 の 常識 とは必 ず しも

一 致 しない か ら、 ビ ジネス の常 識か らみて著 し く不 合 理 であ るか を問題 とすべ きで あ

る と して 、本 判決 を評 価す る。

(11)この 点 につ き、 和 田 ・前掲 注(8)金 判1363号2頁 以 下参 照。 なお 、 わが 国 の会社 法

の改 正が 本文 の よ うな規律 づ けの ため に な され て い た こ とを論ず る もの と して、和 田

宗 久 「公 開型株 式 会社 に関す るガバ ナ ンス制 度 の変遷 と課 題」稲 葉威 雄=尾 崎安 央 『改

正 史 か ら読 み解 く会社 法 の論点』(中 央経 済社 、2008年)108頁 以 下。 なお、森 田果 「わ

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経営判断原則の理論的基礎(1)(桜 沢) 175

が 国 に経営 判 断原則 は存 在 して いた の か」商 事1858号11頁(2009年)参 照。

⑫ なお、 経 営判 断原 則 に 関 して はす で に多数 の 先行研 究が存 在 してい る。 近藤 光男 「取

締役 の責 任 とその救 済(2)」 法学 協 会雑 誌99巻7号1060頁 以下(1984年)、 同 『経営

判 断 と取 締 役 の 責任 』(中 央 経 済社 、1994年)参 照。 その ほ か、 柴 田和 史 「経 営 判 断

の 原則 ・研 究 序 説」 柴 田和 史=野 田博 編著 『会社 法 の実践 的課題 』(有 斐 閣、2011年)

57頁 以 下 、 宮本 航 平 「取 締役 の経 営判 断 に関 す る注 意 義務 違 反 の責 任 」 法 学新 報115

巻5=6号37頁 、115巻7ニ8号49頁(2008年)、 仮 屋 広郷 「取締 役 の注 意 義務 と経営

判 断原 則:人 間観 と法 の役 割」 一橋 法学3巻2号451頁 以 下(2004年)、 坂 田桂 三 「取

締役 の経 営判 断上 の義 務 と経営 判 断 の 原則 」法 学 新報109巻9=10号285頁(2003年)、

新 井修 司 「ア メ リカ法律 協会 『コーポ レー ト ・ガバ ナ ンスの 原理 』 にお け る取締 役 及

び役 員 の注 意義 務 と経営 判 断の原 則:メ ル ビ ン ・A・ ア イゼ ンバ ー グの所説 を参 考 に」

阪大 法 学46巻1号11頁 以 下(1996年)、 三 浦 治 「わが 国 におけ る 『経営 判断』の原則(一)

(二。 完)」Artesliberales 53号223頁 以 下(1993年)、54号177頁 以 下(1994年)、 春 田

博 「ア メ リカ法 にお け る経 営判 断 の原 則 の一 考 察」 早 法35巻343頁 以 下(1985年)、 川

浜 昇 「米 国 にお け る経 営判 断原 則 の検討(1)(2完)」 法学 論叢114巻2号79頁 以 下(1983

年)、114巻5号5号36頁 以下(1984年)、 並 木 俊 守 「ア メ リ カの 「経 営 判 断 の 原 則 」

と代 表 訴訟 」 日本法 学48巻2号175頁 以下(1983年)な ど多数(詳 細 は第3章)。

(13) Arthur R. Pinto & Douglas M. Branson, UNDERSTANDING CORPORATE LAW,

p.199 (Sec. ed.2004) ; William A. Klein & John C. Coffee, Jr., Business Organization

and Finance, p.157 (Tenth ed.2007) .

(14) Pinto & Douglas, supra note (13) p.199; J. C. Shepherd, The Law of Fiduciaries, The

Carswell Company Ltd., p.97 (1982) .

(15) Pinto & Douglas, supra note (13) p.199; Shepherd, supra note (14), p.97.

⑯3FIETCHER, CYCLOPEDIA OF THE PRIYATE CORPORATIONS,§837.50.な

お 、本 文 にお いて は、注 意義 務 お よび忠実 義 務 の二 つ の義務 に言及 してい るが 、デ ラ

ウ ェ ァ州 で は、 第 三 の 義務 と して 誠 実 義務(duty of good faith)が 認 め られ てい る

(Melvin A. Eisenberg, The Duty of Good Faith,31, DeL J. Corp. L 1(2006))。 デ ラ

ウ ェァ州最 高 裁判所 は、取締 役 の違 法行 為 の うち最 も程度 の ひ どい もの につい て 誠 実

義 務違 反 の成 立 を認 め、 その 法 的効果 として個 人責任 を認 めて い る(た とえばInre

The Walt Disney Co. Derivative Litig. NO.411,20052006 Del. LEXIS 307))。 この誠

実 義務 を含 め た取締 役 の義務 と責任 に関 す る一般 論 につ い て は稿 を改 めて 論 じた い と

思 う。

(17) Pinto & Douglas, supra note (13), p.200; Klein & Coffee, supra note (13), p.157;

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176 京女法学 第1号

Melvin A. Eisenberg, CORPORATIONS AND OTHER BUSINESS

ORGANIZATIONS CASES AND MATERIALS (Ninth ed. 2005) p.515, 527, 539;

Robert W. Klein & Jonathan R. Macey, CASES AND MATERIALS ON

CORPORATIONS INCLUDING PARTNERSHIP AND LIMITED LIABILITY

COMPANIES (Tenth ed.2007) p.670; Stephen A. Radin, THE BUSINESS

JUDGMENT RULE, pp.1 — 2 (6th ed. 2009) .

(18) Pinto & Douglas, supra note (13), p.200; Klein & Coffee, supra note (13), p.158.

(19) Robert Charles Clark, CORPORATE LAW, pp.639 — 640 (1986) ;

(20)Smith v. Van Gorkom,488 A.2d.858(DeL l985).同 判 決 は、 トラ ンス ユ ニオ ン社 の会

長 兼CEOで あ るVan Gorkomが 主 導 して 、マ ー モ ン社 の市 場価 格38ド ル の株 式 に対

して 一株 あ た り55ド ル の現金 を対 価 と した会社 の合 併 を トラ ンス ユ ニ オ ン社 の取 締役

会 で承 認 された こ とにつ いて、 同社 の株 主が 取締 役 に注 意 義務 違 反が あ っ た 旨を主 張

し、取締 役 に損害 賠 償 を請求 した とい うもので あ る。 同判 決 で は、取締 役 会 の承 認時(意

思 決定 過程)の 事 実 に焦 点 を 当て、 そ こ に重 大 な過 失 あ りと して責 任 を肯 定 した。 こ

の判 断基準 は も とも と、Aronson v. Lewis,473 A.2d 805(DeL 1984)に お いて、 経

営 判 断原則 の適用 に際 しては、 意思 決定 過程 の情 報 収集 を してい た か否 か が審査 の対

象 とされ る こ とを明確 に した こ とを引 き継 ぐもので あ る。

剛 比 較 的 最 近 の 研 究 と して は、Bernard Black, Brian Cheffins&Michael Klausner,

Outside Director Liability,58 Stan. L. Rev.1055, l l 12(2006).ま た古 い文 献 につ い

ては、Henry Ridgely Horsey, The Duty of Care Component of the Delaware

Business Judgment Rule, 19 Del. J. Corp. L. 971, 982 (1994); Stuart R. Cohn, Demise

of the Director's Duty of Care: Judicial Avoidance of Standards and Sanction

Through the Business Judgment Rule, 62 Tex. L. Rev. 591, 594 (1983); Joseph W.

Bishop Jr., Sitting Ducks and Decoy Ducks: New Trend in the Indemnification of

Corporate Officers and Directors, 77 Yale L. J. 1078, 1099 (1968).

(22) Pinto & Douglas, supra note (13), p.200, 221; Klein & Coffee, supra note (13), p.162.

(23) Ahmed Bulbulia & Arthur R. Pinto, Statutory Responses to Interested Directors `Transa ctions: A Watering Down of Fiduciary standards?, 53 Notre Dame L. Rev.;

201 (1977).

(24) Pinto & Douglas, supra note (13), p.200.

(25) Laby & Arthur B., Resolving Conflicts of Duty in Fiduciary Relationship, 54

American Univ. L. Rev.75 (2004) .

(26) Guth v. Loft, 5 A.2d 503 (Del. 1961).

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経営判断原則の理論的基礎(1)(桜 沢) 177

(27) Unocal v. Mesa Petroleum, 493 A.2d 946 (Del. 1985).

(28) Pinto & Douglas, supra note (13), p.201; Klein & Coffee, supra note (13), p.159.

0)Henri W. Ballantine, On Corporation, pp.160-161 (rev. ed.1946); Michael A.

Schaeftler, The LIABILITIES of OFFICE = INDEMNIFICATION and INSURANCE

CORPORATE OFFICERS and DIRECTORS, pp.94 — 95 (1976); Harry G. Henn

&John R., Law of Corporation 661 (3d. ed. 1983).

(30) Thomas W. Dunfee, Janice R. Benace & David Barrett Cohen, Business and its Legal

Environment 239 (1991).

(31) Percy v. Millaudon, 8 Mart. (n. s.) 68, 1829 WL 1592 (La.).

(32) Stegemoeller, "The Misapplication of the Business Judgment Rule in Contests for

Corporate Control", 76 Nw. U.L.R. 980 (1982); Block & Prussin, "The Business

Judgment Rule and Shareholder Derivative Actions; Viva Zapata?", 37 Bus. Law, 27

(1981).

(33) Stegemoeller, supra note (29) , p.980-981.

(34) Stegemoeller, supra note (29) , p.980 —981; Block & Prussin, supra note (29) , p.32.

(35) Frank H. Easterbrook & Daniel R. Fischel, "Takeover Bids, Defensive Tactics, and

Shareholders' Welfare", 36 Bus. Law 1733, 1745 (1981).

(36) Frank H. Easterbrook & Daniel R. Fischel, "The Proper Role of Target's

Management in Responding to a Tender Offer", 94 Harv. L. Rev., 1161, 1196 (1981).

(37) Arbuckle, "The Continuing Viability of the Business Judgment Rule as a Guide for

Judicial Restraint", Protecting Corporate Officers and Directors against Liability, 251

(1971).

(38) James W. Hurst, The Legitimacy of the Business Corporation in the Law of the

United States 1780-1970, 13 (1970).

(39)Spering's Appea1,71 Pa.11,10 A。 Rep.684,693(1872). Spering's Appea1判 決 の 要

旨 は 、Whitters v. Soweles,31 Fed.1(C. C. D. Vt.1887)以 降 の 事 件 に た び た び 現 わ

れ て くる 。

(40)Hum v. Cary,82 N. Y.65(1880).同 判 決 は 、 支 払 不 能 に 瀕 した 銀 行 の取 締 役 が 、 銀 行

の 信 用 と預 金 を確 保 す る こ と を 目 的 と し て 、 土 地 を購 入 し、 建 物 を建 築 す る計 画 を 立

て て 、 他 の 会 社 か ら借 金 を し た と こ ろ 、 結 局 そ の 弁 済 が で き な く な っ て し ま っ た と い

う事 案 に つ い て 、 本 文 の よ う に述 べ て 取 締 役 の 不 注 意 が 肯 定 さ れ て い る 。

(41) Pollitz v. Wabash R.R., 207 N. Y. 113, 124, 100 N. E. 721, 724 (1912).

(42) United Copper Securities Co. v. Amalgamated Copper Co., 244 U. S. 261.37 S. Ct., 509,

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178 京女法学 第1号

510 (1917).

(43) Ashwander v. T. V. A., 297 U. S. 288.56 S. Ct. 466,481 (1936).

(44) Bayer v. Beran, 49 N.Y.S. 2d 2, at 6 (Sup. Ct. 1944) .

(45)経営 判 断原則 の 審査基 準 の その後 につ いて は、後 掲注(58)参 照 。

模 範事 業会 社 法(以 下MBCAと 略 記)は これ まで 、経 営 判 断の 原則 を構 成 す る要 素

及 び その 適用 基準 は判例 法理 の 蓄積 によっ て進化 す るべ き もので あ って 、 こ う した概

念 を制 定 法 と して 固定化 す るこ とは望 ま し くない と して、 経営 判 断原 則 を条 文 で定 め

る こ とを避 け て きた。 しか し、1998年 改正 で §8.31を 設 け、 経 営判 断 原則 の うち、取

締役 の個人 的責 任 にか か る部分 に関 して規 定 を設 けて い る。

な お、Zapata Corp. v. Maldonado,430A.2d 779,788-89(DeL 1981)で は、い わゆ る

2段 階審査 とい う準 則 が創 出 され てい る。 デ ラウ ェア 州最 高裁 は、忠 実 義務 違反 に よ

り過半 数 の取 締役 が 被告 として訴 え られて い る場 合 で あ って も、取 締 役 会 は特 別 訴 訟

委 員 会 を任 命 して訴 訟 却 下 の 申立 て を裁 判 所 にす る こ とが で きる と した。 もっ と も、

この場 合 には、 第一 に、会 社 は、委 員 会の独 立 性、 誠 実性 、調 査 の合 理性 、 委員 会 の

決 定及 び代表 訴 訟 の却 下 が会社 の最 善 の利益 にな る とい う こ との合理 的な根 拠 を証 明

す る責 任 を負 う(証 拠 を取 締 役 が提 出)。 これ に基 づ い て、 第 二 に、 裁 判所 は当 該 中

立 て を認 め るか否 か の決定 をす る とい う審 査 であ る(MBCA§8.310fficial Comment,

at8-199 -200))o

(46) Eisenberg, supra note (17), pp.539 — 544; Melvin A. Eisenberg, The Divergence of

Standards of Conduct and Standards of Review in Corporate Law, 62 FORDHAM L.

REV.437,444.445.な おEisenberg教 授 は、経 営判 断原 則 に よる司 法審 査 は取締 役 に期

待 され るべ き役 割 を規 律 づ け るた めの行 為 規 範 を 明確 にす る もの で あ る と指 摘 す る。

す な わ ち、 デ ラウ ェア 州 の判決 群 が明 らか に して い る よう に、 これ は注 意義 務違 反 の

存 否 を決定す る判 決 は、取締役 に対 して行動 指針 を示す ことで、取締 役 を取 り巻 く社 会

の規範 に働 きか け、取 締役 が適 切 に行 為 す る よう促 す とい う機 能 を有 す る もの とす る。

(47) Pinto & Douglas, supra note (13), p.201; Klein & Coffee, supra note (13), p.157;

Schaeftler, supra note (29), p.94; James D. Cox & Thomas Lee Hazen, TRETISE ON

THE LAW OF CORPORATIONS Vol.2 (third.ed. West 2010) pp.134-141; Edward

Brodsky & M. Patricia Adamski, LAW OF CORPORATE OFFICERS AND

DIRECTORS; Rights, Duties and Liabilities (West 2011) pp.39 — 45.

(48) Klein & Coffee, supra note (13), p.158; O'Kelly Thompson, CORPORATIONS AND

OTHER BUSINESS ASSOCIATION Case and Materials (Forth ed. 2003), p.233.

(49) Klein & Coffee, supra note (13), pp.161-162; Schaeftler, supra note (28), p.95. なお

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経営判断原則の理論的基礎(1)(桜 沢) 179

前 出 のVan Gorkom事 件 以 後 、 注 意 義 務 違 反 に か か る 責 任 を 回 避 す る た め に、 多 くの

州 で 会 社 法 改 正 が な さ れ た と さ れ る(Thompson, supra note(49),pp,260-261)。

(50)3FLETCHER, CYCLOPEDIA OF THE PRIVATE CORPORATIONS,§1040.な お 、

後 掲 注(58)参 照 。

(51) 3 FLETCHER, CYCLOPEDIA OF THE PRIVATE CORPORATIONS, § 1040.

(52) Douglas M. Branson, Intracorporate Process and the Avoidance of Director Liability,

24 Wake Forest L. Rev. 97 (1989); Alan Palmiter, Resharping the Corporate

Fiduciary Model: A Director's Duty of Independence, 67 Tex. L. Rev. 1351,1437

(1989).

(53)Graham v. Alis-Chalmers Mfg. ca.188 A2乱125,130(Del,1963).同 判 決 は、 従 業 員

が 反 トラ ス ト法 違 反 の 行 為 を し た こ と を取 締 役 が 知 ら な か っ た こ と、 す な わ ち 不 作 為

が 問 題 と さ れ た 事 案 で あ り、 積 極 的 な 経 営 判 断 が 問 題 と な っ た も の で は な い が 、 取 締

役 が 注 意 義 務 を 負 うべ き こ と、お よ び そ の 内 容 を示 した 判 決 と し て 重 要 で あ る(Horsey,

supra note(21),982)。 な お 、 Model Business Corporate Act§8.03(2002).

(54) Flanklin A. Gevurtz, Corporation Law 274 (2000) .

(55) Joy v. North, 692F.2d 880 (2d Cir. 1982) .

(56) Stephen M. Bainbridge, The Business Judgment Rule as Abstention Doctrine, 57

Vand. L. Rev. 83, 84, 87 — 89 (2004).

勧Cede&Co. v. Technicolor Inc.,634 A.2d 345(DeU993).な お 、 こ こで 示 さ れ た 審 査

基 準 は 、Smith v. Van Gorkom, supra note(20)以 降 、 上 記 判 決 及 びMcMullin v.

Beran,765 A.2d 910(2000)を 経 て 、 In re The Walt Disney Co. Derivative Litig.,

supra note(16)へ と引 き継 が れ 維 持 さ れ て い る 。

(58)Eisenberg教 授 の 諸 説 に つ い て は 、 前 掲 注(47)を 参 照 。 な おWilliam T, Allen et. al.,

Realigng the Standard of Review of Director Due Care with Deraware Pubilic

Policy: A Critique of Van Gorkom and its Progency as a Standard of Review

Problem, 96 NWU. L. REV. 449 (2002).

(59) Gevurtz, supra note (55) , 282. 284, 286.

(60) Shlensky v. Wrigley, 237 N. E. 2d 7768 (Ill App. Ct.1968) .

(61) Kamin v. American Express Co., 383N.Y.S.2d 807 (Sup. Ct. 1976), aff'd 387 N.Y.S. 2d

993 (App. Div. 1976) .

(62) Lyman Johnson, The Modest Business Judgment Rule, 55 Bus. Law 625, 632 (2000) ;

WT Allen, JB Jacobs & LE Strine, Jr., Function Over Form: A Reassessment of

Standards of Review in Delaware Corporation Law, 56 Bus. Law 1287 (2000) .