真空圧を利用した形状固定具* (連結型機械拘束要素の力学特性)...(mechanical...

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2226 日本 機 械 学 会 論 文 集(C編) 72巻 719 号 (2006-7) 論 文 No.05- 0854 真空圧 を利用 した形状固定具* (連結型機械拘束要素の力学特性) 隆*1,松 親*2 Shape Stabilizer Using Vacuum Pressure (Mechanical Characteristics of Articulation-Type Mechanical Constraint) Takashi MITSUDA*3 and Norichika MATSUO *3 Department of Human and Computer Intelligence, Ritsumeikan University, 1-1-1 Noji-Higashi, Kusatsu-shi, Shiga, 525-8577 Japan An articulation-type mechanical constraint is a planate bag containing articulating thin plates. It can be freely contracted and bent to fit an arbitrary rounded surface. Evacuation of the internal air renders the bag rigid so that it maintains whatever shape it has been given. The stiffness of the articulation-type mechanical constraint is proportional to the reduction in internal pressure below atmospheric pressure. The stiffness is higher and more stable than that of other passive elements that function by vacuum pressure. As an application of the new passive element, we developed an orthopedic cast that is easy to remove or change in shape. The passive element is also applicable to wearable force displays. Passive elements fixed on an operator provide a sensation of reaction force by constraining his or her motion. The new passive element is suitable for wearable mechanisms, by virtue of being lightweight, soft, and safe. Key Words : Machine Element, Medical Equipment, Robot, Actuator, Flexible Structure 1. はじめに 人間の動作 を補助す るウエアラブル ロボ ッ ト(1)は, 装着者 の負担 とな らない ように軽量でなくてはならな い.また,動作の妨げ とな らない ように柔軟でなくて はならない.さらには,破損 した場合 でも装着者を傷 つ けない安全性 が必要 である。筆者 らは,これ らの仕 様 を満たす機 械要素 として,真空圧によって剛 性を調 節で きる軽量かつ柔軟な受動要素を開発 し,受動的に 装着者 の動作を支援す るウエ アラブル ロボ ッ トの開発 を行ってきた.た とえば,下肢装具の関節を固定する ことで体重を支える体重保持装具(2)や,上 肢 に固定 し た受動要素の剛性 調節に よって上肢運動の負荷 を制御 し,手先に物体への接触や粘性を知覚 させ る力覚呈示 装置(3)な どである。 これ らのウエア ラブル ロボッ トは 本質的な受動 システムであるために,故障時 にもカを 発生 させ ることはない また,開発 した受動要素は従 来のバネや ダンパーに比べて柔軟かつ軽量であるため, 人間の多 自由度の動作に追従でき,動作の妨げとなる ことがない. 真空圧 によって剛性を調節できる受動要素 としては, これまで,積層型機械 拘束要素(4),粒 子型機械拘束要 素(3)な どが開発 され てきた.積層型機械拘束要素は薄 い フィル ムを積層 して袋 に封入 した構造で,1自由度 の 曲げ変 形が可能である.真空化 によってフィルム間 のすべ りが摩擦によ り拘束 されて形状が固定 され る. 粒子型機械拘束要素は粒子 を袋に封入 した構造 で,曲 げ,伸縮 ね じりな ど多様な変形が可能 な受動要素で ある.積層型機械拘束要素 と粒子型機 械拘束要素の剛 性は,同形状の要素で比較する と積層型機械拘束要素 のほ うが大 きい。 しか し,積層型機械拘束要素は1自 由度の曲げ変形 しか行えない欠点がある. そ こで,本研 究では,積層型機械拘束要素 と粒子型 機械拘束要素の中間的な特 性をもつ新たな機械拘束要 素 として,連結型機械拘束要素を開発 した.連結型機 械拘束要素は,伸縮 と2自由度の曲げ変形が可能であ り,粒子型機械拘束要素に比べて剛性が大 きい 本論 文では,開発 した連結型機械拘束要素の構造 と力学特 性 を実験結果 とともに示す.また,連結型機械拘束要 素の応用例 として試作 した着脱可能なギプスを示す. * 原稿 受付2005年8月12日. *1 正 員,立 命 館 大 学 情 報 理 工 学 部(〓525-8577草 津市野路東 1-1-1). *2 立 命館大 学理 工学部- E-mail:[email protected] 222

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Page 1: 真空圧を利用した形状固定具* (連結型機械拘束要素の力学特性)...(Mechanical Characteristics of Articulation-Type Mechanical Constraint) Takashi MITSUDA*3 and

2226

日本機械学会論 文集(C編)

72巻 719 号 (2006-7)

論 文 No. 05- 0854

真空圧を利用 した形状固定具*

(連結型機械拘束要素の力学特性)

満 田 隆*1,  松 尾 憲 親*2

Shape Stabilizer Using Vacuum Pressure

(Mechanical Characteristics of Articulation-Type Mechanical Constraint)

Takashi MITSUDA*3 and Norichika MATSUO

*3 Department of Human and Computer Intelligence, Ritsumeikan University,

1-1-1 Noji-Higashi, Kusatsu-shi, Shiga, 525-8577 Japan

An articulation-type mechanical constraint is a planate bag containing articulating thin plates. It can be freely contracted and bent to fit an arbitrary rounded surface. Evacuation of the internal air renders the bag rigid so that it maintains whatever shape it has been given. The stiffness of the articulation-type mechanical constraint is proportional to the reduction in internal pressure below atmospheric pressure. The stiffness is higher and more stable than that of other passive elements that function by vacuum pressure. As an application of the new passive element, we developed an

orthopedic cast that is easy to remove or change in shape. The passive element is also applicable to wearable force displays. Passive elements fixed on an operator provide a sensation of reaction force by constraining his or her motion. The new passive element is suitable for wearable mechanisms, by virtue of being lightweight, soft, and safe.

Key Words : Machine Element, Medical Equipment, Robot, Actuator, Flexible Structure

1.  はじめに

人間の動作を補助するウエアラブルロボット(1)は,

装着者の負担とならないように軽量でなくてはならな

い.ま た,動 作の妨げとならないように柔軟でなくて

はならない.さ らには,破損した場合でも装着者を傷

つけない安全性が必要である。筆者らは,これらの仕

様を満たす機械要素として,真 空圧によって剛性を調

節できる軽量かつ柔軟な受動要素を開発し,受動的に

装着者の動作を支援するウエアラブルロボットの開発

を行ってきた.た とえば,下 肢装具の関節を固定する

ことで体重を支える体重保持装具(2)や,上肢に固定し

た受動要素の剛性調節によって上肢運動の負荷を制御

し,手先に物体への接触や粘性を知覚させる力覚呈示

装置(3)などである。これらのウエアラブルロボットは

本質的な受動システムであるために,故 障時にもカを

発生させることはない また,開 発した受動要素は従

来のバネやダンパーに比べて柔軟かつ軽量であるため,

人間の多自由度の動作に追従でき,動作の妨げとなる

ことがない.

真空圧によって剛性を調節できる受動要素としては,

これまで,積 層型機械拘束要素(4),粒子型機械拘束要

素(3)などが開発されてきた.積 層型機械拘束要素は薄

いフィルムを積層して袋に封入した構造で,1自 由度

の曲げ変形が可能である.真 空化によってフィルム間

のすべりが摩擦により拘束されて形状が固定される.

粒子型機械拘束要素は粒子を袋に封入した構造で,曲

げ,伸縮 ねじりなど多様な変形が可能な受動要素で

ある.積層型機械拘束要素と粒子型機械拘束要素の剛

性は,同 形状の要素で比較すると積層型機械拘束要素

のほうが大きい。しかし,積層型機械拘束要素は1自

由度の曲げ変形しか行えない欠点がある.

そこで,本研究では,積 層型機械拘束要素と粒子型

機械拘束要素の中間的な特性をもつ新たな機械拘束要

素として,連 結型機械拘束要素を開発した.連結型機

械拘束要素は,伸 縮と2自 由度の曲げ変形が可能であ

り,粒子型機械拘束要素に比べて剛性が大きい 本論

文では,開 発した連結型機械拘束要素の構造と力学特

性を実験結果とともに示す.ま た,連 結型機械拘束要

素の応用例として試作した着脱可能なギプスを示す.

* 原稿受付2005年8月12日.*1 正 員,立 命館 大 学情 報 理 工 学 部(〓525-8577草 津 市 野路 東

1-1-1).*2 立命館大学理工学部-

E-mail:[email protected]

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真 空 圧 を 利 用 し た 形 状 固 定 具 2227

2.  連結型機械拘束要素の構造

図1に 連結型機械拘束要素の構造 を示す.積 層 され

た長 円形状の薄板が,交 互 に噛み合いなが ら直列に連

結 されている,薄 板は両端 に位 置す る長方形の貫通穴

を通 してワイヤによ り連結 され,各 関節 は回転 と並進

が行 える.各 関節の動きが組み合 わされることによっ

て,連 結体は図2に 示す よ うに伸縮 した り,曲 がった

りす る.図3に 示す ように薄板の短軸方向のスライ ド

によって,連 結ワイヤに沿 って も曲が るため曲面も形

成できる.図4に 連結体が曲面を形成 している様子 を

示す.連 結型機 械拘束要素 は,こ の連結体を,連 結体

の変形 を妨 げない適度な柔軟性をもった膜 によ り密封

したものである.任 意の形状 において連結体の内部 の

空気 を排出 して真空化する と,大 気圧によって薄板 ど

うし,お よび薄板 と外膜が密着 して各関節 が固定 され

るこ とで形状が固定 される.

3.  連結型機械拘束要素の力学特性

連結型機 械拘束要素 の内部 を真空化 した ときの各

関節 の拘束力は,主 として薄板 ど うしの摩擦によ り生

じる拘束 と,外 膜の伸びに よって生 じる拘束に分 けら

れる.前 者 は円板型デ ィクスブ レーキ と同じ原理 によ

る拘 束で あるので,接 触面を半径rの 円,薄 板 の枚数

をn,摩 擦係数 をμ,密 着 面の圧 力 をPと す ると拘

束 トル クTdは 次式によ り表 され る(5).

(1)

式(1)よ り連結型機械拘束要素の拘束力は,薄 板の枚

数を増や し,真 空度を上げ ることによって増す と予想

され る。後者の拘束力は,外 膜 の弾性係数,外 膜 と薄

板間の摩擦力,変 形時に伸びる外膜の範 囲により決ま

ると考えられる.図5に 示す よ うに,薄 板の回転 中心

か ら外膜への距離をr,連 結体(外 膜)の 幅をw,外

膜の厚み をt,外 膜 の弾性係数 をEと し,長 さlの外膜

が均一に薄板 との摩擦 を生 じるこ とな く伸び るとす る

と,外 膜の伸びに よって関節 に生 じる トル クTfは 回

転角度 θを用いて次式で表 される.

(2)

式(1),式(2)の モデルは回転中心が固定の回転 運動 を

想定 してい る.し か し,連 結型機械拘束要素は長方形

の穴の部分で連結 されているため回転中心が一定 とは

限 らない.ま た,薄 板 自体 も微 小なが ら変形す る.そ

こで以下の実験で は,実 際 に本要素 を使 用す る状態 に

近い拘束力 を調べ るために,連 結型機械 拘束要素の一

端 を固定 して隣接 した薄板 を押 し下げた時の力 と変位

を計測 し,関 節 の拘束力 を曲げ剛 性として検証 した.

Fig. 1 Structure of the articulation-type

mechanical constraint

Fig. 2 Contraction and bending

Fig. 3 Bending along the connection wires

Fig. 4 Articulation-type mechanical constraint

fitting an rounded surface

223

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2228 真 空 圧 を 利 用 し た 形 状 固 定 具

4.  剛性計測実験

4・ 実験条件 連結型機械拘束要 素の関節 の拘束

力を以下の実験によ り計測 した.実 験には,図6(a)

に示す,厚 さ0.15mm,10×20mmの ポ リエステル フ

ィル ムの薄板 を10個 直列に連結 し,50~150枚 を積層

してプラスチックワイヤで連結 した連結型機 械拘束要

素を用いた.図6(b)に 示す ように連結型機械拘束の一

端を固定 し,剛 性を計測す る関節に隣接 した関節上 よ

り垂直下方向に試 験機 によって力 を加 えて変位 と反力

を計測 した.図6(b)は,実 験構成 をわか りやす くす る

ために,連 結型機械拘束要素の外膜を取 り除いた図 を

示 してい る.こ の とき,連 結型機械拘束要素は最 も伸

びた状態 つ ま り隣接 す る薄板が最 も離れた状態で接

触面積が小 さく,剛 性が最 も小 さい状態 で計測を行っ

た.こ の ときの回転中心 と作用点 との距離は13mm

である。

4・2内 圧 と剛性の関係 真 空圧 を-10kPa,-30kPa,

-50kPa,-70kPaの4種 類に設定 して連結型機 械拘束

要素の剛性 を計測 した結果を図7に 示す.実 験 には,

150枚 の薄板 を重ねた計1500枚 の薄板で構成す る連結

体をQ.2mm厚 の ウレタンシー トで覆 った連結型機械

拘束要素を用いた.図8に5mm,10mm,15mm押

し下げた ときの反 力 と真空圧 の関係を示す.連 結型機

械拘束要素の剛性 ば粒子型機械拘束要素や積層型機 械

拘束要素 と同じく,真 空圧に比例 して増加す ることが

わか る.

4・3 枚数 と剛性の関係 薄板の積層枚数が50枚,

100枚,150枚 である3種 類 の連結型機械拘束要素を

用いて内部真空圧 を-70kPaで 計測 した剛性 を図9に

示す.外 膜は0.2mm厚 の ウレタンシー トを用いた.

図10に5,10,15mm押 し下げた ときの反力 と薄 板の枚

数の関係 を示す.押 し下げ量が15mmの ときは,剛

性 は薄板 の枚数 に比例 し,式(1)の モデル と一致 した.

しか し,押 し下げ量が5,10mmの ときは,枚 数が増え

ると剛性 は増すが,両 者の線形性は崩れた.外 膜の影

響が原 因と考えられるが,さ らなる検証が必要である.

薄板の摩擦による拘束力 と外膜 の弾性 による拘束力の

関係は4.5節 で考察す る.

Fig. 5 Elongation of covering film caused byarticular rotation

Fig. 6 (a) Size of a plate (b) Experimental setup

Fig. 7 Stiffness at various internal air pressures

Fig. 8 Relation between stiffness and internal air

pressure

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真 空 圧 を 利 用 し た 形 状 固 定 具 2229

4・4外 膜 と剛性の関係50層 に重ねた機械拘束要

素の外膜の素材 を様 々に変えて剛 性を比較 した結果を

図11に 示す.外 膜 には ウレタン(0.2mm厚),飴 ゴ

ム(0.3mm厚),ビ ニル コーテ イング布(0.2mm厚),3

種 類の厚 さの ビニル(0.1,0.2,0.3mm厚)を 用 いた.

連結型機械拘束要素の剛性は外膜によって大きく変化

す ることがわかる.図12に10mm幅 で50mmの 長 さ

のそれぞれの素材を用いて引っ張 り弾性 を計測 した結

果 を示す.次 節に示す よ うに,図6(b)に 示す実験にお

いて,15mm押 し下げて剛性 を計測 したときには,約

50mmの 外膜が約4mm伸 びる.図12に おいて,4

mmの 伸び における各素材 の引張 り弾性の順位 が,図

11に 示す連結型機械拘束要素の剛性の順位 とほぼ一

致 していることか ら,外 膜の弾性 と連結型機 械拘束要

素の剛性 に相関があることがわか る.

4・5要 素剛性に対する枚数と外膜の寄与度 連結

型機械拘束要素の剛性に対する,薄板の摩擦による拘

東力と外膜の弾性による拘束力の関係を調べるために,

次の2種 類の方法によって外膜が生成する拘束力を推

測した.一 つ目の方法では,図5を 用いて幾何学的に

外膜の伸び量を仮定し,図12で 得られた外膜の弾性

力から式(2)によって拘束力を推定した.こ のとき曲

げ変形中の外膜の観察から,長 さ50mmの 外膜が伸

びていると仮定した.二 つ目の方法では,連結型機械

拘束要素の剛性と内部真空圧の関係から推定した.素

材毎の連結型機械拘束要素の剛性と内部真空圧の関係

を図13に 示す.本 図より剛性は内部真空圧に比例す

ることがわかる.式(1)よ り薄板の摩擦による拘束力

は内部真空圧に比例すると予想されるので,図13の

各比例直線の0kPaに おける切片を外膜の生成する拘

束力と推定した.こ こで,外 膜の生成する拘束力は内

部真空圧の影響を受けないと仮定している.図13の

各比例直線は0kPaに おいて切片をもつが,0kPaで

Fig. 9 Stiffness of the passive elements, consisting

of various numbers of stacked plates

Fig. 10 Relation between number of stacked plates

and stiffness

Fig. 11 Effect of the covering film

Fig. 12 Elongation stiffness of the covering films

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2230 真 空 圧 を 利 用 し た 形 状 固 定 具

は外膜は薄板に拘束 されずに滑るので,実 際の剛性は

0で あるこ とに注意 されたい.

以上,2種 類の方法で推定 した外膜の拘束力を図14

に示す.本 図よ り2種 類の方法で推定 した各素材 の拘

束力は一致するこ とがわか る.つ ぎに一70kPaに おけ

る連結型機 械拘束要素の剛性において,全 体剛性に占

める外膜の拘束力 と,薄 板の摩擦による拘束力の割合

を図15に 示す.薄 板の摩擦による拘束力 は,全 体剛

性か ら外膜の拘束力を引いた残 りであると仮定 してい

る.同 じ素材 と枚数の薄板 を用いた連結型機械拘束要

素の実験であるので,薄 板 の摩擦による拘束力は外膜

の素材に関わらず一定 となるはずである。図15よ り,

0.2mm厚 と0.3mm厚 のビニルを除 き,薄 板の摩擦

による拘束力 と考えられる部分はほぼ等 しいことか ら,

外膜の拘束力の推定値はおよそ妥当で あると思われる.

一方,0.2mm厚 とO.3mm厚 の ビニルで大きな剛性

が得 られ てい るのは,連 結型機械拘束要素の側面にお

ける薄板 と外膜の接触が,薄 阪どうしの接触力に影響

している可能性がある。 これ らの分析 には さらな る検

証が必要である.

4・6ま とめ 剛性計測実験か ら得 られた知見 と要

素設計への指針を以下にまとめる.

1.剛 性 は真空圧 に比例 して増加す る.よ って,連 結

型機械拘束要素は リアル タイムに剛性 を調節す るアプ

リケーシ ョンに利用可能 である.

2.剛 性 は主に薄板の摩擦 と外膜の弾性 によって生 じ,

薄 板の摩擦が剛性 と真空圧の比例関係の主因である.

高弾性 の外膜を用い ると,大 気圧近傍において剛性が

急激に減少す るため,真 空圧に対す る剛性の非線形性

が大き くなる.よ って,低 弾性 の外膜を用いたほ うが,

真空圧 と剛性の線形性を高めることができる.一 方で,

高弾性 の外膜を用いたほ うが要素の剛性は大き くなる.

3.要 素の剛1性は薄板の枚数 にほぼ比例す る.し か

し,要 素の変形量が小 さい場 合には,剛 性 と枚数の線

形性は崩れ る.

5連 結型機械拘束要素を利用 したギ プス

5・1ギ プスの概要 図6(a)の 小片を20個 直列に接

続 し,両 端を接続 した ものを1400層 に重ねた円筒形

の連結型機 械拘束要素 を着脱可能ギプス として製作 し

た.図16に 写真 を示す.直 径は85mm,長 さは220

mm,厚 みは10mm,重 量は566gで ある.写 真 よ り,

連結体の伸縮特性 によって手首部では直径 が小 さくな

り,肘 部で直径が大 きく変形 し,要 素が前腕の曲面形

状にフィッ トしている様 子がわかる.従 来のギプスは

一度固定を行 うと,グ ラインダーなどで切断 しなけれ

ば取 り外す ことができない.こ のため,ギ プス装着後

の形状調節が不可能であった.ま た,切 断作業は患者

に とって不快である問題 もあった.こ れに対 して連結

型機 械拘束要素で製作 したギプスは容易に形状を調節

した り,剛 性 を調節 した りす ることができる.

Fig. 13 Relation between stiffness and internal air pressure

Fig. 14 Stiffness values estimated by two methods

Fig. 15 Breakdown of stiffness

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真 空 圧 を 利 用 し た 形 状 固 定 具 2231

つ ぎに,従 来開発 した粒子型機械拘束要素(3)と連結型

機械拘束要素の剛性 を比較す るため,同 形状のギプス

を発泡スチ ロール ビーズお よびナイ ロンショッ トを用

いた粒子型機械拘束要素に より製作 した.図17に 構

造 を示す.粒 子 を封入 した ドーナツ型の布製 チューブ

を重ねて 円筒形状 とし,ビ ニル コーティングした布で

密閉 してい る.円 筒 の直径,長 さ,厚 みは連結型機械

拘束要素に よるギプスと同一 とした.発 泡スチロール

粒子を内蔵 したギプスの重 さは70g,ナ イ ロンシ ョッ

トを内蔵 したギプスの重 さは312gで ある.

5・2ギ プスの剛性評価 連結型機械拘 束要素 と粒

子型機械拘束要素で製作 したギプス と,市 販 されるギ

プスの剛性 を計測 した.ギ プス中央部 を試験機にて直

径200mmの 円板 で押 し下げ圧縮 した ときの反力 と圧

縮率の関係を図18に 示す.連 結型機械拘束要素を用

いたギプスは粒子型機械拘束要素 と比べて,大 きな剛

性 が得 られ ていることがわか る.ま た,連 結型機械拘

束要素を用いたギプスは,14%以 下の圧縮率では市販

ギプスより高い剛性が得 られた.し か し,市 販ギブス

の反力が圧縮率に対 して指数関数的 に増加 しているの

に対 して,連 結型機械拘束要素や粒子型受動要素で製

作 したギプスは,反 力の上昇がゆるやかになっている

ことがわかる.こ れは受動要素を用いたギプスは摩擦

によって反力 を生成 しているためである.ギ プスには

多様 な使途が あるために,必 要な剛性 値は使途によ り

異なる.試 作 した着脱可能 ギプスは腕を固定するには

十分な剛性であったが,連 続的な外力に対 しては弱い

傾向が見 られた.圧 縮率が大 きい場合 の剛性 強化 とと

もに,厚 み と重量の削減が実用化に向けた課題である.

6. おわ りに

本論文 では,真 空圧に よって剛性調 節可能 な受動

要素 として連結型機械拘束要素を開発 し,要 素 を構成

す る薄板 と外膜 が拘束力に及ぼす影響 を実験的に検証

した.ま た,連 結型機械拘束要素を用いて取 り外 しが

繰 り返 し可能なギプスを試作 し,圧 縮率が小 さい範囲

では市販 ギプス と同等の剛性 が得 られ ることを示 した.

連結型機械拘束要素は,ギ プス以外に もリハ ビ リ用装

具や,VR用 力覚提示装置な どに応用が考えられる.

これ らの応用の実用化のためには,連 結型機械拘束要

素の軽量化 と剛性強化 が課題 である.本 研 究は2004

年度NEDO産 業技術研究助成事業の助成 を受けて行

われ た.

文 献

(1) Kawamura, S., Actuators and Systems for Wearable Robots, Journal of the Robotics Society of Japan, Vol.20, No.8(2002), pp.783-786.

(2) Mitsuda, T. et al., Development of a wearable chair using pneumatic passive elements, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.16, No.3(2004), pp.256-263.

(3) Mitsuda, T. et al., Wearable force display using a Particle Mechanical Constraint, Presence, Vol.11, No.6(2002), pp.569-577.

(4) Kawamura, S. et al., Development of Passive Elements with Variable Mechanical Impedance for Wearable Robots, Prof of Mt. Conf On Robotics and Automation, (2002-5), pp.248-253.

(5) The Japan Society of Mechanical Engineers ed., JSME Data Handbook: Bl Applications, (1987) p.208.

Fig. 16 Reusable cast composed of articulation-type

mechanical constraint

Fig. 17 Reusable cast composed of particle

mechanical constraint

Fig. 18 Stiffness of four different casts

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