現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷...

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現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷 Modification of Technological Proposal in Contemporary Japanese High-Rise Buildings 奥山研究室 17M50556 森山 敬太 (MORIYAMA , Keita) 1. 序 1-1. 研究の背景と目的 超高層建築は現代都市の発展を象徴する建築種の1つ であり、その実現に際し多くの技術が開発、投入されて きた。日本の超高層建築の黎明期においては、1968年の 霞が関ビルで柔構造やプレハブ工法を援用した耐火被覆 技術が開発されるなど、超高層建築を成立させるための 様々な先端技術が提案されたが、近年では、東日本大震 災以降の環境配慮への社会的認識の高まりを背景に、建 物の表皮の素材や構成による省エネルギーや CO2削減 の技術提案もみられる。このように、超高層建築に用い られる技術は社会的要請を背景とした様々な建築的問題 と連関してきたといえる。そこで本研究では現代日本の 超高層建築 1) に提案される技術とその目的を時代の変遷 とともに検討することで、技術革新という側面から建築 と社会の関係の一端を明らかにすることを目的とする。 1-2. 対象資料 建築掲載誌 2) 内の超高層建築の解説文にはその設計に 際して採用された技術についての記載がみられるものが あり(全 217 件中 163 件)、ここではそれらのうち写 真やダイアグラムを用いた説明がなされている 513 の 技術提案を資料として抽出した(表1)。 2. 技術提案の内容 解説文中の技術提案に関する記述(図1)からは建築 のいかなる場所に用いられており、かつそれが建築のい かなる分野に属するものかという技術提案の内容を読み 取ることができる。そこでそれらを「技術提案の対象」 と「技術提案の種類」として抽出し検討する。 2-1. 技術提案の対象 技術提案の対象は、建物の外部を対象とする《外部》 と建物の内部を対象とする《内部》の2つに大別し、さ らにそれらが建物全体に提案されているものか限定され た局所に提案されているものかを分類した(図2)。分析 した結果、全体が大半を占めたので以降の分析では全体 のみを検討した。 2-2. 技術提案の種類 技術提案の種類は、建物の構造形式や部材の組み立て 方に関する[構造]、施工の方法や建設の際の生産組織 提案の種類 070-1 070-2 図 1. 分析例 表1.資料対象と技術提案 註)1968年の霞が関ビルは70’sに含めた。 雑誌に掲載されている超高層建築 (217) 技術提案を有する超高層建築 (163) 70’s 80’s 90’s 00’s 10’s 70’s 80’s 90’s 00’s 10’s no.070 文京シビックセンター 日建設計 (sk9502) オフィスの窓周りの執務環境を改善する点からは、日射制御のため二段庇を設置して おり、冷暖房負荷を軽減するとともにこの建築の外観上の特徴ともなっている。上段は メンテナンスデッキ、下段はルーバー庇でこの窓拭き用自動ゴンドラのためのガイドレー ルが敷設されている。 ビューウィンドウである横連窓部は、庇のルーバーに加え、南側には太陽光センサーに連 動して開閉するブラインドが装備され、窓近くの天井部分には、コールドドラフトを防ぐ ための輻射パネルが内蔵された窓回り設計で快適なオフィス空間を確保するためのハイテ ク化を追求した設計となっている。…建築コストは約 12% 増加するものの、50 年ライフ サイクルコストは約7% 削減される効果が期待できるというのが我々の試算結果であった。 【建築的水準】 93 19 12 43 13 20 121 51 37 114 65 42 156 62 57 2章 3章 提案の内容 技術提案 提案の目的 【都市的水準】 建築 技術提案 ※数は該当数 構造形式 組織 / 技能 工法 図 3. 技術提案の種類 建物の骨組やその 構成方法に関する 技術 建物の組立て方や 施工の方法に関す る技術 建築の建設の際の 組織や技能に関す る技術 衛生環境などを制 御する設備機器に 関する技術 建物の実体をつく る部品やその構成 に関する技術 96 81 13 124 66 194 133 [ 設備 ] [ 構造 ] [ 生産 ] [ 材料 ] 60 124 194 133 [ 設備 ] [ 構造 ] [ 生産 ] [ 材料 ] b. 建物の稼働・性能向上 ⅳ. 経済性の獲得 b. 建物の稼働・性能 向上 c. 都市環境への対応 ⅶ. 居住性能向上 ⅹ. 景観形成 提案の対象 提案の種類 提案の対象 提案の種類 《外部 ‒全体》 《外部 ‒全体》 [材料] [材料] 太陽センサーブラインド 二段庇 註)対象箇所なし:2件 註)図内の数は該当数を示す 図 2. 技術提案の対象 図 4. 技術提案の内容 (511) (11) 211 《外部》 218 no.061-5 no.065-2 no.032-1 no208-1 7 《内部》 304 4 300 ファンコイル ユニット 空調ダクト スパイラルチューブ スーパーウォール low-e ガラス セラミック プリントガラス フロアダクト タワークレーン 総合管理システム MAST DPG 工法 事例 事例 事例 事例 外部に出た柱梁は窓面の庇の 役目を果たし、日射カットに よる省エネ効果をもたらして いる。 大屋根広場のガラススクリー ンは、ドットポイント工法に より透明感の高いものとし… メガトラスと連層コアブレー スからなるスーパーフレーム ホール残響可変装置:平面 の GRC パネルに開口を開け、 躯体の間に吸音材を入れる - 114 10 39 21 29 104 58 136 211 300

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Page 1: 現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷 Modifi cation of Technological Proposal

  現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷Modifi cation of Technological Proposal in Contemporary Japanese High-Rise Buildings

奥山研究室 17M50556 森山 敬太 (MORIYAMA , Keita)

1. 序1-1. 研究の背景と目的   超高層建築は現代都市の発展を象徴する建築種の1つであり、その実現に際し多くの技術が開発、投入されてきた。日本の超高層建築の黎明期においては、1968年の霞が関ビルで柔構造やプレハブ工法を援用した耐火被覆技術が開発されるなど、超高層建築を成立させるための様々な先端技術が提案されたが、近年では、東日本大震災以降の環境配慮への社会的認識の高まりを背景に、建物の表皮の素材や構成による省エネルギーや CO2削減の技術提案もみられる。このように、超高層建築に用いられる技術は社会的要請を背景とした様々な建築的問題と連関してきたといえる。そこで本研究では現代日本の超高層建築 1)に提案される技術とその目的を時代の変遷とともに検討することで、技術革新という側面から建築と社会の関係の一端を明らかにすることを目的とする。1-2. 対象資料   建築掲載誌 2) 内の超高層建築の解説文にはその設計に際して採用された技術についての記載がみられるものが

あり(全 217 件中 163 件)、ここではそれらのうち写真やダイアグラムを用いた説明がなされている 513 の技術提案を資料として抽出した(表1)。2. 技術提案の内容 解説文中の技術提案に関する記述(図1)からは建築のいかなる場所に用いられており、かつそれが建築のいかなる分野に属するものかという技術提案の内容を読み取ることができる。そこでそれらを「技術提案の対象」と「技術提案の種類」として抽出し検討する。2-1. 技術提案の対象 技術提案の対象は、建物の外部を対象とする《外部》と建物の内部を対象とする《内部》の2つに大別し、さらにそれらが建物全体に提案されているものか限定された局所に提案されているものかを分類した(図 2)。分析した結果、全体が大半を占めたので以降の分析では全体のみを検討した。2-2. 技術提案の種類 技術提案の種類は、建物の構造形式や部材の組み立て方に関する[構造]、施工の方法や建設の際の生産組織

提案の種類

070-1

070-2

図 1. 分析例表1.資料対象と技術提案 註)1968年の霞が関ビルは70’sに含めた。

雑誌に掲載されている超高層建築 (217) 技術提案を有する超高層建築 (163)70’s

80’s

90’s

00’s

10’s

70’s

80’s

90’s

00’s

10’s

no.070文京シビックセンター日建設計 (sk9502)

オフィスの窓周りの執務環境を改善する点からは、日射制御のための二段庇を設置しており、冷暖房負荷を軽減するとともにこの建築の外観上の特徴ともなっている。上段はメンテナンスデッキ、下段はルーバー庇でこの窓拭き用自動ゴンドラのためのガイドレー

ルが敷設されている。ビューウィンドウである横連窓部は、庇のルーバーに加え、南側には太陽光センサーに連動して開閉するブラインドが装備され、窓近くの天井部分には、コールドドラフトを防ぐための輻射パネルが内蔵された窓回り設計で快適なオフィス空間を確保するためのハイテク化を追求した設計となっている。…建築コストは約 12% 増加するものの、50 年ライフサイクルコストは約7% 削減される効果が期待できるというのが我々の試算結果であった。 【建築的水準】

9319 12

431320

12151 37

11465 42

15662 57

2 章 3 章提案の内容技術提案 提案の目的

【都市的水準】

建築技術提案

※数は該当数

構造形式 組織 / 技能工法

図 3. 技術提案の種類

建物の骨組やその構成方法に関する技術

建物の組立て方や施工の方法に関する技術

建築の建設の際の組織や技能に関する技術

衛生環境などを制御する設備機器に関する技術

建物の実体をつくる部品やその構成に関する技術

96 81 13124 66 194133 [ 設備 ][ 構造 ] [ 生産 ] [ 材料 ]

60124 194133 [ 設備 ][ 構造 ] [ 生産 ] [ 材料 ]

b. 建物の稼働・性能向上

ⅳ. 経済性の獲得

b. 建物の稼働・性能向上

c. 都市環境への対応

ⅶ. 居住性能向上 ⅹ. 景観形成

提案の対象 提案の種類

提案の対象 提案の種類

《外部 ‒全体》

《外部 ‒全体》

[材料]

[材料]

太陽センサーブラインド

二段庇

註)対象箇所なし:2件 註)図内の数は該当数を示す図 2. 技術提案の対象 図 4. 技術提案の内容

(511)

全体

(11)

局所

211

《外部》 218no.061-5

no.065-2 no.032-1

no208-1

7

《内部》 304

4

300

ファンコイルユニット 空調ダクト

スパイラルチューブ スーパーウォール  low-e ガラス セラミックプリントガラスフロアダクト タワークレーン

総合管理システム MASTDPG 工法

事例

事例

事例

事例

外部に出た柱梁は窓面の庇の役目を果たし、日射カットによる省エネ効果をもたらしている。

大屋根広場のガラススクリーンは、ドットポイント工法により透明感の高いものとし…

メガトラスと連層コアブレースからなるスーパーフレーム

ホール残響可変装置:平面の GRCパネルに開口を開け、躯体の間に吸音材を入れる

セラミック

提案の対象-

全体 114

10

39

21 29104

58

136

外部

内部

211

300

Page 2: 現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷 Modifi cation of Technological Proposal

のあり方に関する[生産]、建物の実体をつくる部材やその構成に関する[材料]、そして建物に設置された衛生機器自体やそのコントロールの仕組みといった設備機器に関する[設備]の4つに分類した(図3)。2-3. 技術提案の内容   技術提案の対象と、技術提案の種類の組み合わせについて検討したところ、[構造]と[設備]では《内部》が、[材料]では《外部》が多くみられた(図4)。これから架構形式や設備機器の仕組みに関する技術は建物の内部に多く提案される一方で、ガラスやルーバーといった建築の構成部材や構成方法に関する技術は建物の外部に多く提案されるという、内部と外部によって異なる種類の技術を投入する、専門分化に基づいた技術が投入されていると推測される。3. 技術提案の目的  技術提案に関する記述中から、その技術を提案した目的について明確に読み取れる意味内容を抽出し、KJ 法 3)

に基づいて比較検討した結果(図5)、建物の自重の支持や、施工の簡便化といった建物を組み立てるための「建物の実体化」、防災・生活環境の向上といった建物の中で生活する人々を支えるためやランニングコスト削減といった経済性を獲得するための「建物の稼働・性能向上」、そして超高層建築周辺の景観や環境との対応や、発電によるエネルギー生産と供給、CO2 削減といった省資

源のための「都市環境への対応」という3つの大枠で捉えることができた。また技術提案には複数の目的を持つものがあることから、技術提案単位における目的の組み合わせから技術提案の目的の水準について検討したところ、「建物の実体化」、「建築の稼働・性能向上」またその両方の目的のみを有する技術提案を【建築的水準】とし、「都市環境との対応」の目的を含む技術提案を【都市的水準】として2つの目的の水準に分類した(図6)。4. 超高層建築の技術提案 ここでは2章で検討した技術提案の内容と3章で検討した技術提案の目的の組み合わせから超高層建築の技術提案について検討した(図 7)。その結果、【建築的水準】において、「建築の実体化」では《内部》かつ[構造]の組み合わせが多くみられ、「建築の稼働・性能向上」では《内部》の全体かつ[設備]が多くみられた。一方で、【都市的水準】においては《外部》かつ[材料]の組み合わせが多くみられた。このことから超高層建築の技術提案は、前者においては建物として自立することや居住性能の向上を目的とする際、建築の内部で、トラスシステムを用いたスーパーストラクチャシステムといった建物の骨組みとなる架構形式やその組み立て方の技術や、情報ネットワークシステムによる衛生管理といった建物の内部環境を調整する設備機器の技術を用いることで超高層建築自体を建築物として成立させるのに対し、

提案内容

図 5. 技術提案の目的

図 6. 技術提案の目的の組み合わせ 図 7. 超高層建築の技術提案

(189) (303) (150)a. 建物の実体化 b. 建物の稼働・性能向上 c. 都市環境への対応

(77)

(66)

(46)

a1. 建築の自立

a2. 外力への抵抗

a3. 建物の建設

a3. 建物の建設

ランニングコスト削減レンタブル比の増加施工のコストの削減 (13)

CO2 削減

地域へのエネルギー供給自己発電

環境負荷軽減

建物の圧迫感抑制ヒートアイランド現象の抑止

(48)

(38)

(36)

(181)

b1. 経済性の獲得

b2. 建築の維持管理

b3. 防災・避難

b4. 居住性能向上

b4. 居住性能向上

【建築的水準】

(68)

(47)

(5)

(17)

c1. 省資源

c1. 省資源

c2. エネルギー生産

c3. 景観との対応

c4. ビル風の発生の抑制

c5. 外部との繋がりの形成

メンテナンス性能向上建物内の安全性の確保建物の長寿命化

避難時の移動の向上建物内での位置把握

通風・換気 熱負荷軽減日射制限・光環境の調整次世代のニーズへの対応

周辺地域の人々への開放建物の長寿命化の達成

自重を支える

構造と設備の一体化

自由度の高い空間の獲得新しい構造手法の獲得

耐震耐風

防音電波遮蔽

施工の簡便化施工の安全化施工のコストの削減

a+ca b+cba+b ca+b+c30 623 801

no.001-10

施工にあたっては、継手形式の簡略化、特殊加工機の利用、高性能揚重機の開発などをはかり作業の能率化と精度向上につとめ、初期の目的を達成した。

中間期の最も条件の良い時期の100%自然力による換気まで、無段階に、入居者が気づかないうちに、最適室内環境を自動制御で提供することに挑戦した。

照明適光適時制御…パソコン作業主体に適した 500lx、色温度 3500k の照度設定により照明の CO2 排出量を46%削減した。

霞が関ビルディング no.115-2 汐留メディアタワー no.156-5 富士ゼロックス R&Dスクエア

179147

【都市的水準】

提案目的

a

b

c

a

b+

【建築的水準】

【都市的水準】

168

146

27

を含む

[ 設備 ][ 構造 ] [ 生産 ] [ 材料 ]

外部 内部外部外部

外部

内部 内内110

84 9 14 14

8

8

5 3

3

410

10

12 28

45 45276

27 79

3 34 6 2

518

34 97 55 1362621

1

1

1

10

no.015-1

《内部ー全体》:[ 構造 ]

両側のオフィス部分のラーメンを6階ごとにブレースで結ぶと全体として良い性状になるので実施案とした。

レースアップストラクチュア新宿三井ビル

【建築的水準】

②no.118-2

《内部ー全体》:[ 設備 ]

BAS では次世代情報環境の要となるオール IPネットワークが新規に開発導入された。これにより…効率の良い画期的なネットワークを実現している。

BAS- オール IPネットワークNTT データ品川ビル

【建築的水準】

① no.162-1

《外部ー全体》:[ 材料 ]

潜熱を利用して冷却するシステム・本計画では、打ち水効果によって建物周囲を冷やして、ヒートアイランド効果を抑制する「すだれ」状の外装システムを新たに開発した。

バイオスキンソニーシティ大崎

【都市的水準】

都市環境との対応を含まない 都市環境との対応を含む

145

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後者においては環境配慮やエネルギーの消費・生産を目的とする際、透過度を上げることで景観との対応を図りながら熱負荷を軽減するといったガラスプリントの開発や自然現象を利用した周辺地域の環境にも影響を与える外装材の開発といった建築の表皮で建物を構成する素材や構成に関する技術を用いることで、超高層建築と都市の関係性を構築するという、大きく2つの傾向があることを見出した。5. 超高層建築の技術提案の変遷   前章までの分析を時代背景と合わせて横断的に検討することで、現代日本の超高層建築の技術提案の変遷について考察する(図8)。5-1. 超高層建築の技術提案の各年代の傾向 技術提案を各年代ごとに整理し、その推移について分析したところ、70 年代では【建築的水準】が大きな割合を占めていたが年代を経るごとに【都市的水準】の割合が増加していた。【建築的水準】では「建物の実体化」が 80年代以外はどの年代においても一定の割合を占めており、その内訳も一定であり、[構造]が大きい割合を占めている。一方で、「建物の稼働・性能向上」は 80年代に最も大きな割合を占め、その後割合は減少傾向にり、その内訳は[設備]が 80年代で最も大きく、その後[材料]の割合が増加していることが読みとれる。【都市的水準】の内訳については各年代を通して[材料]と[設備]が大きな割合を占めている。5-2. 超高層建築の技術提案の変遷 以上の分析を社会背景と合わせて検討することで、現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷について考察する。まず「建物の実体化」が各年代において一定の割合を占めていることから、建物を構築するための技術は超高層建築を実現する上で、どの時代においても重要なテーマであったと考えられる。内訳では[構造]の提案が多くみられ各年代を通して巨大な架構形式の提案が多くなされてきたが、新耐震基準の施行や阪神淡路大震災を背景として 90年代以降では免震・制振の技術も多く提案されるようになった。このことは建物を高くすること自体を重要とすると同時に建物の持続性にも着目した技術提案がなされるようになってきたと推測できる。次に70-80年代にかけて割合が大きい「建築の稼働・性能向上」が、90年代以降減少傾向にある一方で、【都市的水準】は 90年代以降増加している。これらのことから超高層建築の黎明期においては、超高層建築という

日本においてまだ新しい建築種に対しいかに快適な内部環境を成立させることが重要なテーマであったが、90年代以降は環境基本法の公布や京都議定書の採択など、省エネルギーを主軸とした持続的な社会を目指す風潮を背景に、エネルギーを過剰に使って内部環境を快適にすることより、都市や地球環境に対して開かれたテーマへと移行してきたと考えられる。 各年代の特徴的な技術について着目すると 70年代では戦後の高度経済成長に伴い、大阪万博に代表されるような技術全体の発展と急速な都市化を背景に、建物を超高層化する上で地震に耐えうる新しい構造形式の提案や熱源ヒートポンプの提案がみられた。80 年代では石油危機を契機に工業化社会から情報化社会への移行に対する意識が高まったことを背景に、端末によって空調設備や照明設備をコントロールする技術など超高層建築のインテリジェント化を図った技術提案がみられた。90 年代ではバブル景気の崩壊からの規制緩和によって超高層建築の建設が促進される中、環境基本法の公布や阪神淡路大震災によって持続的な都市や建築のあり方に対する意識が高まったことを背景に、制振装置の開発や、自然の空気循環を利用した省エネと快適性の両立を図った提案がみられた。00 年代以降、環境省の設立や京都議定書発行など、地球資源や都市環境に対する意識が高まる中、00 年代では素材に加工を施すことによってランニングコスト削減と省エネを図る技術提案が、さらに 10年代ではエネルギー生成や外皮と一体となった環境装置による周辺環境の調整を図る技術提案がみられた。6. 結 以上、超高層建築の技術提案を内容と目的から検討した上で、その変遷について考察した。その結果、超高層建築という建築種を包括的な計画のもと成立させるため開発・投入されてきた技術提案は、その後、環境問題に対する意識の高まりを背景に、エネルギー生成や周辺環境の調整によって都市に貢献するものとして提案される傾向にあることを明らかにした。このことは超高層建築は建つことで新しい技術を発信するという目的に加え、環境問題の側面からも都市に貢献するといった、社会との連関をさらに強く要求されるようになったことを示していると考えられる。註1)建築基準法20条1項一号においては、超高層建築物を「高さが60mを超える建築物」と読み取れるが、  本研究における超高層建築は最高高 100mを超える建物を対象としている。また注視すべき超高層建   築の技術提案をもつ作品に関しては、100mを超えないものも対象資料としている。註 2) 資料選定の際、建築掲載雑誌「新建築」「建築技術」「近代建築」「ディテール」を参考とした。註 3) ここでは川喜田二郎「発想法」( 中央公論社 ) の KJ 法を参照して、超高層建築の技術提案の目的を  整理分類している。

Page 4: 現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷現代日本の超高層建築にみられる技術提案とその変遷 Modifi cation of Technological Proposal

165

139

33

技術提案

建物の実体化

﹇構造﹈

﹇生産﹈﹇材料﹈

﹇材料﹈

﹇設備﹈

﹇設備﹈

﹇材料﹈

﹇材料﹈

﹇設備﹈

﹇設備﹈

建物の稼働・性能向上

都市環境への対応

ab+

bor

c

a+

【建築的水準】

【建築的水準】

【都市的水準】

【都市的水準】

P

P

ME

S

S

P

P

S

S

b.

a.

c.

74

68

●大阪万博博覧会 (1970)●第一次石油危機 (1973)

●第二次石油危機 (1979)●東日本大震災 (2011)

●環境基本法の公布 (1993)●環境庁の発足 (1971)●新耐震基準施行 (1982)

●阪神淡路大震災 (1995)

●京都議定書の採択 (1997) ●京都議定書発行 (2005)●環境省設立 (2001)

高度経済成長 (~1973) バブル景気

図 8. 超高層建築の技術提案にみられる通時的傾向

事例

事例

1968~1979 1980~1989 1990~1999 2000~2009 2010~2018

1968~1979 1980~1989 1990~1999 2000~2009 2010~2018

凡例外部

内部

[ 構造 ]:[ 生産 ]:[ 材料 ]:[ 設備 ]:

種類対象

SP

ME

Ⅶ Ⅷ Ⅸ Ⅹ

no.186-2エコヴェール

no.196-4 SENEMS

no.162-1バイオスキン

no.106-1セラミックプリントガラス

no.078-2エアフローシステム

no.070-1 二段庇

no.030-1小型空調機

no.058-2中水道設備の導入

no.070-2太陽光センサーブラインド

no.185-1スカイボイド

no.191-3防災・減災情報システム

no.118-2BAS- オール IPネットワーク

no.059-4NTT-SCATシステム

no.043-7オープンダクト

no.096-2電動木製ブラインド

no.044-4インテグレイテッド

・ペリメーター

no.075-4調湿多重ガラスシステム

no.007-8TACNES-HR 複合 ヒートポンプ

no.027-1ハーフミラー・ガラスカーテンウォール

no.015-1レースアップストラクチャ

no.007-9WASC-2P ゾーニングシステム

no.008-7予測・最適化制御 (OPC) 方式

no.038-1メカニカル・ウォール

no.043-3スーパーフレーム構造

no.078-3高減衰オイルダンパーHiDAM

no.121-2ハイブリッド免震システム

no.212-3オイルダンパーHiDAX-R

no.136-4鹿島チェーンド

・チューブno.155-2スーパーフレックスチューブ

no.036-1 パネル端末 (BISIS-WINDOW)

no.008-10OWS-SOLETANCHE

no.004-3PC カーテンウォール

no.013-1外殻構造体

no.023-8NS トラス

no.001-11石綿成形版接着工法

高層ビルでは、特に問題となる地震力に対して、このビルのために新しく開発したクロス・ストラクチュア (OCS) と呼ぶ構造方式を採用した。

…全館で約 300 台設置されたこの端末は、自由に照明や空調のコントロールを行い、さらに必要な生活情報を画面に指で触れるだけで簡単に取り出せるものである。

…本工法は、1ユニットの矩形チューブ架構を桁行方向に連続させて地震力等の水平変形を抑えることで、板状の超高層建築を実現する構法である。

no.008-5

sk7304 sk8908 sk9608 sk0704 sk1505大阪大林ビル

クロス・ストラクチュアno.036-1

新宿エルタワー

BISIS-WINDOW

事務室の後部には新たに開発された小型空調機を並列し、…きめこまかく制御管理がなされ,コージェネレーション・システムと共に、著しい省 エネルギー効果をあげている。

no.030-1

ツイン 21

小型空調機…ウォ ーミングアップなどの一辺倒熱源の要求までを無段階、動的にやってのける性能をもち…エネルギー使用効率がよく,また全電力のために燃焼排気公害が絶無である。

no.007-8

大阪国際ビルディング

TACNES-HR 複合ヒートポンプ快適性の確保という観点から提案されたエアーフローシステムは、…ぺリメーターゾーンの快適性とともに省エネ空調システムとして期待される。

no.078-2

JAL ビルディング

エアフローシステム外皮に大きなガラス面積を用いながら室内の熱・光環境を良好に保ち、省エネルギーを実現するためにメインファサードをセラミックプリントガラス使用のエアーフローウィンドウとした。

no.106-1

電通新社屋

セラミックプリントガラスエコヴェールは、環境を調整する複数のパネル ( 緑化パネル、二種類の太陽光パネル、リサイクル木材を用いたルーバー ) から構成されている。

no.186-2

としまエコミューゼタウン

エコヴェール

フレーム構造に高減衰オイルダンパー /HiDAM を組み込んだ制震構造である。…地震及び強風に対し安全性及び居住性の向上を図っている。

no.078-3

JAL ビルディング

高減衰オイルダンパー /HiDAMno.136-4

TORANOMON TOWERS

鹿島チェーンド・チューブ太陽光自動追尾採光装置 T ソレイユを備え、光をエントランスと基準階コアに届け、給気ルートとして風を取り込む。

no.185-1

品川シーズンテラス

スカイボイド

no.008-5クロス

・ストラクチュア

no.169-1デュアルフレームシステム

sk7304 sk8608 sk9608 sk0212 sk1505

no.097-2等圧フルユニットカーテンウォール

no.118-3デジタルバー

no.165-4デュアルロータ型デシカント空調機

no.023-8制震ダンパー( 摩擦 )

no.025-2複合化工法 no.155-1

APCコンクリート

no.143-1セラミックルーバー

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