森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述...

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1 卷第二 述少陰病 少陰病者、表裏虚寒證、是也、有 直中 焉、有 傳變 焉、是故有 專于表 、有 、然至 其重 、則倶無表裏 矣、直中者、所謂發 於陰 者也、其人陽氣 素衰、邪氣之中、不相抗 、爲其所奪、直爲 虚寒 者矣、而有 輕重之分 、蓋裏 甚衰 、表專虚寒者、邪氣相得、以稽 畱表 、故猶有 發熱 、此病爲輕、如 麻黄附 子細辛甘草二湯證 、是也、 少陰病とは、表裏虚寒證、是也、直中有る焉 、傳變有る焉、是れ故に表を專 専・もっぱ らに する者有り、裏を專らにする者有り、然 しか うして其の重きに至れば、則ち倶 とも に表裏に渉 わた らざる無し矣、直中とは、所謂陰に發する者也、其人陽氣素 もと 衰え、邪氣の中 たるや、 相抗 ソウコウ・互いにはりあう・諸橋轍次「大漢和辞典」 能わず、其の爲に奪われて、直 ただ ちに虚寒を爲す者 則・すなわち しか うして そして 輕重の分 区別 有り、蓋し おそらく 裏未だ甚だしくは衰えず、表專 ら虚寒者、邪氣相得、以て表に稽畱 留・ケイリュウ・とどまる 、故に猶發熱有り、此病輕きと爲す、 麻黄附子細辛甘草の二湯證の如き、是也、 *而有 輕重之分 、蓋裏未 甚衰 、表專虚寒者、邪氣相得、以稽 留表 、故猶有 發熱 、此病爲輕、如 麻黄附子 細辛甘草二湯證 、是也、 少陰病二十一條「少陰病 始得之 反發熱 脈沈者 麻黄附子細辛湯(麻黄 細辛 附子)主之」 少陰病において、最初から少陰の証候複合を以て發病したとき、予想に反して發熱し、脈の沈なるとき場合は、麻黄 附子細辛湯の本格的指示である。 少陰病二十二條「少陰病得之二三日 麻黄附子甘草湯(麻黄 附子 甘草)微發汗 以二三日無證 故微發汗也」 少陰病において、少陰の証候複合を以て發病し、二三日を経過したときは、麻黄附子甘草湯を以て軽度に發汗性治療 転機を起こさせよ。二三日を経過しても裏證が現れないから、軽度の發汗性治療転機を起こさせるのである。 以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當汗惡寒證 、趙氏曰、少陰發汗二方、雖 同用 麻黄附子 、亦有 加減輕重之別 、故以細辛 重、加 甘草 輕、辛散甘緩之義也、除氏於 甘草 湯下 、曰、此較 細辛 、易 甘草 調停 、其藥勢之緩多矣、因細詳 方之 、言 少陰病二三日 、比 初得 之、略多 一二日 矣、日數多而無 裏證 、寒邪所入尚淺、是以陰象不驟發 、故將 此湯 微發汗、微云者、因 病情不 即内入 、而 輕爲 外引 也、按三説並妥、 柯氏曰く、本條、當に汗無く惡寒證有るべし、趙氏曰く、少陰發汗二方、同じく麻黄附 子を用いると雖も、亦加減輕重の別有り、故に細辛を加えるを以て重と爲す、甘草を加え るを輕と爲す、辛散甘緩の義也、除氏甘草湯下に於いて、曰く、此 これ 細辛を加える者に較 べて、甘草に易 えるを調停 和解させる と爲す、其藥勢の緩 ゆるやか まさ る矣、因って細かく 方を立てるの意を詳 つまび らかにして、少陰病二三日と言う、初め之を得るに比して、略 ほぼ 一二日多し矣、日數多くして裏證無し、寒邪入る所尚淺く、是以て陰象 ありさま を驟 シュウ・にわ 發する能わず、故に此湯を將 以・もっ て微 かす かに汗を發す、微と云うは、 病情は即内入せざ

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Page 1: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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卷第二 述少陰病 少陰病者、表裏虚寒證、是也、有二直中一焉、有二傳變一焉、是故有下專于表一者上、有下專二于

裏一者上、然至二其重一、則倶無万不万渉二表裏一矣、直中者、所万謂發二於陰一者也、其人陽氣

素衰、邪氣之中、不万能二相抗一、爲万其所万奪、直爲二虚寒一者矣、而有二輕重之分一、蓋裏

未二甚衰一、表專虚寒者、邪氣相得、以稽二―畱表一、故猶有二發熱一、此病爲万輕、如二麻黄附

子細辛甘草二湯證一、是也、 少陰病とは、表裏虚寒證、是也、直中有る焉也、傳變有る焉、是れ故に表を專専・もっぱらに

する者有り、裏を專らにする者有り、然しかうして其の重きに至れば、則ち倶ともに表裏に渉

わたらざる無し矣、直中とは、所謂陰に發する者也、其人陽氣素もと衰え、邪氣の中あたるや、

相抗ソウコウ・互いにはりあう・諸橋轍次「大漢和辞典」能わず、其の爲に奪われて、直ただちに虚寒を爲す者

矣則・すなわち、*而しかうしてそして輕重の分区別有り、蓋しおそらく裏未だ甚だしくは衰えず、表專

ら虚寒者、邪氣相得、以て表に稽畱留・ケイリュウ・とどまる、故に猶發熱有り、此病輕きと爲す、

麻黄附子細辛甘草の二湯證の如き、是也、 *而有二輕重之分一、蓋裏未二甚衰一、表專虚寒者、邪氣相得、以稽二

―留表一、故猶有二發熱一、此病爲万輕、如二麻黄附子

細辛甘草二湯證一、是也、

少陰病二十一條「少陰病 始得之 反發熱 脈沈者 麻黄附子細辛湯(麻黄 細辛 附子)主之」

少陰病において、最初から少陰の証候複合を以て發病したとき、予想に反して發熱し、脈の沈なるとき場合は、麻黄

附子細辛湯の本格的指示である。

少陰病二十二條「少陰病得之二三日 麻黄附子甘草湯(麻黄 附子 甘草)微發汗 以二三日無證 故微發汗也」

少陰病において、少陰の証候複合を以て發病し、二三日を経過したときは、麻黄附子甘草湯を以て軽度に發汗性治療

転機を起こさせよ。二三日を経過しても裏證が現れないから、軽度の發汗性治療転機を起こさせるのである。

以上森田幸門「傷寒論入門」

柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

二加減輕重之別一、故以万加二細辛一爲万重、加二甘草一爲万輕、辛散甘緩之義也、除氏於二甘草

湯下一、曰、此較下加二細辛一者上、易二甘草一爲二調停一、其藥勢之緩多矣、因細詳二立万方之

意一、言二少陰病二三日一、比二初得一万之、略多二一二日一矣、日數多而無二裏證一、寒邪所万

入尚淺、是以陰象不万能二驟發一、故將二此湯一微發万汗、微云者、因三病情不二即内入一、而

輕爲二外引一也、按三説並妥、 柯氏曰く、本條、當に汗無く惡寒證有るべし、趙氏曰く、少陰發汗二方、同じく麻黄附

子を用いると雖も、亦加減輕重の別有り、故に細辛を加えるを以て重と爲す、甘草を加え

るを輕と爲す、辛散甘緩の義也、除氏甘草湯下に於いて、曰く、此これ細辛を加える者に較く

らべて、甘草に易かえるを調停和解させると爲す、其の藥勢の緩ゆるやか多まさる矣、因って細かく

方を立てるの意を詳つまびらかにして、少陰病二三日と言う、初め之を得るに比して、略ほぼ

一二日多し矣、日數多くして裏證無し、寒邪入る所尚淺く、是以て陰象ありさまを驟シュウ・にわ

か發する能わず、故に此湯を將以・もって微かすかに汗を發す、微と云うは、*病情は即内入せざ

Page 2: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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るに因りて、輕く外に引ひろがると爲す也と、按ずるに以上三説並みな妥妥当、 *病情

病情の字、素問多見多く見る、形あらわれる疾病、其情を知るなきの類たぐいの如く、情の言猶性のごとし、蓋し病の寒熱虚實、

皆之を情と謂う也、「傷寒論述義卷一・述敘」

裏陽素弱、表氣從虚者、其感万邪也、表裏徑爲二虚寒一、蓋所万謂無万熱惡寒者、此病爲万重、

如二附子湯證一、是也、 裏陽素もと弱、表氣從って虚なる者、其邪を感ずる也や、表裏徑ただちに虚寒を爲す、蓋し

所謂いわゆる熱無く惡寒者、此病重きと爲す、附子湯證の如き、是也、 附子湯二條、傳變亦有二如万此證一、其方亦在二傳變一所二必須一、故注家未敢謂為直中一、但

成氏引無万熱惡寒一以解之、似万有万所万見、今詳二其文一、曰、背惡寒、曰、身體痛、手足

寒、骨節痛、倶爲二表寒之候一、蓋陽氣素虧、筋骨乏万液、寒邪因以浸漬所万致、故不万似三

麻附證之有二發熱一、設自万非二裏虚一、何以至二此寒盛一乎、然則其兼見二裏寒證一者、亦可二

推知一也、其方與二眞武一相近、而彼主在二内濕一、此主在二外寒一、何則此附子倍用、所二以走

一万外、朮亦倍用、所二以散一万表、蓋仲景用万朮、多取万治万表、用二人參一者、固以救二素

弱之陽一、併制二朮附之燥一也、千金用二此方一、治二濕痺緩風一、及指迷方、於二本方一、加二

甘草一、用二蒼朮一、名二朮附湯一、以治二寒濕一、倶足四互徴三此證之爲二表寒一矣、先兄曰、附

子之性、雄悍燥熱、散二沈寒一壯二元陽一、生則其力特猛、救二裏陽乎埀万脱之際一、炮則其性

稍緩、走二表分一以温万經逐万寒、前輩所万辨、殊屬二踳駁一、此言能發二未万逮之秘一、但率

意論万之、似下治万表宜二力猛一、治万裏宜中性緩上、此殊不万然、蓋裏虚驟脱、非二急救一則不

万可、所三以用二生附一、寒濕纏綿、過發則無万功、所三以用二炮附一也、 *附子湯二條、傳變亦此の如き證有り、其方亦傳變に在おいて必須必ずなくてはならないとする所、

故に注家未だ敢えて謂おもうに直中と爲さず、但成氏無熱惡寒を引いて以て之を解す、見る

所有るに似る、今其文を詳つまびらかにす、曰く、背惡寒、曰く、身體痛、手足寒、骨節痛、

倶に表寒の候兆候と爲す、蓋し陽氣素もと虧かけ、筋骨液に乏とぼしい、寒邪因って以て浸漬次第に

しみこむこと致す所、故に**麻附麻黄附子細辛湯證の發熱有るに似ず、設もし裏虚に非あらもざるに自よ

り、何を以て此寒盛に至る乎や、然れば則ち其兼ねて裏寒證を見あらわす者、亦推して知るべ

き也、其方***眞武と相近かけれど、彼主に内濕に在り、此主に外寒に在り、何ぞ則ち此れ

附子倍用眞武湯(附子一枚)・附子湯(附子二枚)する、外を走る所以ゆえん、朮亦倍用眞武湯(朮二両)・附子湯(朮四

両)、表を散ずる所以、蓋し仲景朮を用いるに、多く表を治するに取る、人參を用いる者、固

く以て素もと弱の陽を救う、併せて朮附の燥を制する也、千金此方を用いるに、濕痺緩風を

治す、及び指迷方、本方に於いて、甘草を加え、蒼朮を用い、朮附湯と名づけ、以て寒濕

を治す、倶に互に此證の表寒を爲す徴しるしに足る矣、先亡兄多紀元胤曰く、附子の性、雄悍強く

たけだけしい燥熱、沈寒を散じ元本來の陽を壯さかんにす、生なまは則ち其力特に猛たけし、裏陽や脱

を垂あらわすの際界・さかいを救う、炮ほうじるは則ち其性稍緩、表分ブン・限・さかいを走り以て經を温

め寒を逐しりぞける、前輩先輩・先覚・先進辨する所、殊に踳駁シュンパク・混じり合って乱れているさまに屬すと、

此言能く未だ逮およばざるの秘深奥で知りがたいを發はなつ、但ただ率意意のままに之を論ずに、表を治

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するは力猛つよいに宜しく、裏を治するは性緩ゆるやかに宜しきに似る、此殊ことに然らず、蓋し

裏虚驟にわかな脱ダツ・疾病の過程で陰氣、陽氣、氣分、血分が大量に減少して生命が危機に瀕する「中国漢方医語辞典」中国漢方、急

救に非ざれば則ち可にあらず、生附を用いる所以、寒濕纏綿テンメン・まとわりつきはなれないに、過い

きすぎる發すれば則ち功効無し、炮附を用いる所以也、 *附子湯二條

少陰病二十四條「少陰病得之一二日 口中和 其背惡寒者 當灸之 附子湯(附子 茯苓 人參 白朮四 芍薬)主之」

少陰病において、少陰の証候複合をもって発病したる後、一二日を経たとき、口中は和し 渴口かわき せざるをいう、患者の背

部に限局して惡寒を訴える場合は、これに灸すべきである。また附子湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

少陰病二十五條「少陰病 身體痛 手足寒 骨節痛 脈沈者 附子湯主之」

少陰病において、全身が痛み、手足は寒く感じ、骨及び関節も痛み、脈の沈なる場合は、附子湯の本格指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

**麻附麻黄附子細辛湯證

少陰病二十一條「少陰病 始得之 反發熱 脈沈者 麻黄附子細辛湯主之(麻黄・細辛・附子)」

少陰病において、最初から少陰の証候複合をもって發病したとき、予想に反して發熱し、脈の沈なる場合は、麻黄附

子細辛湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

***眞武

少陰病三十六條「少陰病 二三日不已 至四五日 腹痛小便不利 四肢沈重疼痛 自下利者 此為有水氣 其人或欬或

小便利或下利或嘔者 眞武湯主之(茯苓 芍薬 白朮二 生薑 附子)」

少陰病において、發病後二三日経ても治癒せず、四五日に至ったとき腹痛、小便不利、四肢の沈重疼痛、自下利等の

証候複合を現す場合は、これは水氣、即ち水分代謝障碍が原因するからである。この場合は、患者の体質に応じて、或

いは欬嗽、或いは小便利し、或いは下利し、或いは嘔することがあるが、眞武湯の本格指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

傳變者、有下自二太陽病一者上、有下自二少陽病一者上、有下自二太陰病一者上、大抵陽之變万陰、

皆因下其人胃氣本弱、醫不万知二回護一、汗下失上万法、而陽虚胃寒、以爲二此病一、更有下雖万

不万被二錯治一、逐爲万邪所万奪、因而變成者上、 傳變変者、太陽病自よりの者有り、少陽病自りの者有り、太陰病自りの者有り、大抵おおかた

陽の陰に變わる、皆其人胃氣本元弱、醫が回護カイゴ・害をふせぎまもるを知らず、汗下で法を失あや

まるに因りて、陽虚胃寒、以て此病を爲す、更に錯錯誤治を被こうむらざると雖も、遂に邪が爲

ために奪みだれる所、因って而すなわち變成す者有り、 其自二少陽病一、及不万經二錯治一者、並多二所験見一、然經無二明文一、豈意在二言外一者乎、

又桂枝證多變爲万陰、義述二于太陽中一、更有下盛人初得二太陽一、遂變二本病一者上、賤役勞形、

最多有万之、殆以陽有万餘二于外一、而不万足二于内一之故乎、其變自二太陰一、詳述二于前一、 其少陽病自より、及びいたり錯まちがえる治を經へざる者、並みな多く験しるし見あらわれる所、然れ

ども經に明文無し、豈どうして意意味が言外に在る者乎か・疑問、又*桂枝證多く變じて陰を爲す、

義わけは太陽中に述べている、更に盛強壮の人初め太陽を得て、遂に本病に變じる者有り、賤

役センエキ・いやしい仕事勞つかれさす形身体、最多之有り、殆ど陽が外に餘有りて、内に足らざるの故

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を以てする乎か、其變変太陰からくるは、詳しくは前述太陰病に述べている、 *桂枝證多變爲万陰、義述二于太陽中一、

傷寒論述義巻二述太陽病 「蓋し太陽病變じて陰を爲す者、必ず多くは桂枝證からくる、其理何也か、福に是表疎、之を

表實者に比して、陽氣稍弱、故に其重きこと一等者、或いは温養を須もちいれば、則ち其變じて陰と爲り易き也や、明ら

か矣、」

倘其自二太陽一、而表熱仍在者、先救二其裏一、後救二其表一、如二四逆桂枝二湯各施證一、是也、 倘もし其太陽自よりにして、表熱仍なお在る者、*先ず其裏を救い、後に其表を救う、四逆桂

枝二湯各施ほどこす證の如き、是也、 *先救二其裏一、後救二其表一、如二四逆桂枝二湯各施證一、是也、

厥陰病四十六條「下利腹脹満 身體疼痛者 先温其裏 乃攻其表 温裏宜四逆湯 攻表宜桂枝湯」

下利するとき、腹部は緊張膨満し、身体に疼痛を訴える場合は、先ずその裏を賦活し、しかる後その表を專一に治療

せよ。裏を賦活するには四逆湯の、表を專心に治療するには桂枝湯の任意指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

厥陰篇、下利淸穀、不万可万攻万表、亦爲二表裏併有者一而言、又桂枝人參湯、係二其輕證一、

程氏有万説、宜万參、桂枝加芍藥生薑人參新加湯、與万此稍異、並録二于兼變中一、 *厥陰篇、下利淸穀、不可攻表、亦表裏併有者と爲なして言う、又**桂枝人參湯、其輕證

に係わる、***程氏説有り、宜しく參すべし、****桂枝加芍藥生薑人參新加湯、此と稍やや

異なる、並皆兼變巻第四述兼變諸證中に録す、 *厥陰篇、下利淸穀、不可攻表、

厥陰病三十八條「下利淸穀 不可攻表 汗出必脹滿」

下利淸穀するときは、発汗性治療転機を起こさせて表に現れている病的反応を処置することは禁忌である。発汗性治

療転機を起こさせたために發汗するときは、必ず腹部は膨張して緊滿する。 森田幸門「傷寒論入門」

**桂枝人参湯

太陽病下三十五條「太陽病外証未除 而数下之 遂協熱而利 利下不止 心下痞鞕 表裏不解者 桂枝人参湯(桂枝

甘草 白朮 人参 乾薑)主之」

太陽病において、外証がなお解消しないにもかかわらず、数次にわたって排便性治療転機を起こさせたために、つい

に協熱して下利し、下利はよういに止まらず、心窩部は痞鞕し、表裏における病的反射の解消しない場合は、桂枝人参

湯の本格的指示である。

「協熱而利」とは、有熱炎症性病変が腸管にあるために、下利を来し膿血便を排する場合に、裏虚即ち腹内の機能が

衰弱して殆ど麻痺状態に陥らんとして、心窩部の痞鞕しているのをいう。

森田幸門「傷寒論入門」

***程氏説有り、宜しく參すべし

「傷寒論後條辨」程應旄清 太陽病外證未除、而数下之、表熱不去、而裏虚作利、是曰協熱利、下不止心下痞鞕者、裏氣虚而土来心下也、表裏不解

者、陽因痞而被格於外也、桂枝行陽於外以解表、理中助陽於内以止利、陰陽両治、総是補正、令邪自却、縁此痞無客氣

上逆動膈之陽邪、輒防陽欲入陰、故不に但瀉心中芩連不可用、并桂枝中芍薬不可用也、協熱而利、向来倶作陽邪陥入下

焦、果爾安得用理中耶、利有寒熱二證、但表熱不罷者、皆為協熱利也、

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太陽病に外証は未だ除かず、しかもしばしばこれを下したるとき、表熱は去らずして裏虚し利をなすときは、これを

協熱利という。下止まらずして心下痞鞕するものは、裏氣虚して土が心下に來るなり。表裏解せざるものは、陽が痞に

因よって外に格こばむまるなり。桂枝は陽を外に行り以て表を解し、理中人參は陽を内に助け以て利を止めて、陰陽を兩つ

ながら治す。すべてこれ正を補い邪をして自ら却せしむ、この痞は客氣上逆して膈を動かすの陽邪なきによって、輒すな

わち陽の陰に入らんと欲するを防ぐ。故に但に瀉心中の芩連は用うべからざるのみならず、併びに桂枝中の芍藥を用いる

べからざるなり。協熱して利するときは、向来従来倶に陽邪が下焦に陥入するとなす。果たして爾しからば安いずくんぞ理中

を用いるを得んや。利に寒熱の二証あり、但だ表熱の罷やままさるものは、みな協熱利たり。訓読森田幸門「傷寒論入門」

****桂枝加芍藥生薑人參新加湯

太陽病中三十二條「發汗後 身疼痛 脈沈遅者 桂枝加芍薬生薑人参湯(桂枝 芍薬 甘草 人参 大棗 生薑)主之」

発汗性治療転機を起こさせた後、全身に疼痛を訴えるとき、脈が沈遅である場合は、桂枝加芍薬生薑人参湯の本格指

示である。 森田幸門「傷寒論入門」 」

既無二表證一、一係二虚寒一者、隨万宜爲万治、如二乾薑附子湯、茯苓四逆湯、芍藥甘草附子湯

等證一、是也、 既に表證無く、一に虚寒に係つながる者、宜ギ・道理にかなうに隨したがって治を爲す、*乾薑附子

湯、茯苓四逆湯、芍藥甘草附子湯等證の如き、是也、 *乾薑附子湯、茯苓四逆湯、芍藥甘草附子湯等證、

太陽病中三十一條「下之後復發汗 晝日煩躁不得眠 夜而安静 不嘔不渇無表證 脈沈微 身無大熱者 乾薑附子湯(乾

薑 附子)主之」

排便性治療転機を起こさせた後、さらに発汗性治療転機を起こさせたために、昼間は煩躁して安眠することが出来ず、

渴夜間になって初めて安静になり、嘔氣も も訴えないで、惡寒発熱、頭痛項強、身疼腰痛等の表證もなく、脈は沈微で、

全身に大熱皮膚に触れて感じる熱のない場合は、乾薑附子湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

太陽病中三十九條「發汗 若下之 病仍不解 煩躁者 茯苓四逆湯(茯苓 人参 甘草 乾薑 附子)主之」

発汗性、或いは排便性治療転機を起こさせるも、証候複合は依然として解消せず、煩躁する場合は、茯苓四逆湯の本

格指示である。 煩は全身とくに胸部に熱寒を覚えて苦悶すること、躁は無力疲労感に満ちて転展反側すること。

森田幸門「傷寒論入門」

太陽病中三十八條「發汗病不解 反悪寒者 虚故也 芍薬甘草附子湯(芍薬 甘草 附子)主之」

発汗性治療転機を起こさせたが、病は治癒せずして、かえって惡寒を訴える場合は、生活機能が衰弱しているからで

あるが、芍薬甘草附子湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」 上二方證、從無二確解一、柯氏分爲二緩急一、實似二叶當一、其云万有二救万陽救万陰之異一者、

恐不万然也、今玩二文勢方意一、以万臆測万之、其病輕而來急者、屬二乾薑附子湯一、何則晝

日煩躁不万得万眠、比下之躁無二暫安時一之孤陽絶陰上、有二夜而安靜之異一、況未万至二厥逆一、

其方亦藥單捷而劑小、蓋單味則其力專一、可三以奏二効于咄嗟一、而劑小則不万足三以對二大敵

一矣、其病重而來緩者、屬二茯苓四逆湯一、何則云二病仍不一万解、蓋是緩詞、其方亦藥重複而

劑大、蓋重複則其力泛應、少二直搗之勢一、而劑大則可三以廻二倒瀾一矣、芍藥甘草附子湯、

互擧二于兼變中一、又甘草乾薑湯、爲二虚寒輕證一、亦列在二兼變中一、 上二方證、從したがう確解無し、柯氏分けて緩急と爲すは、實に叶かなうに當あたるに似る、其

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陽を救い陰を救うの異ちがい有るを云うは、恐らく然らざる也、今文勢文章の勢い方意を玩研究し、

臆推量を以て之を測はかるに、其病輕くして來急者、乾薑附子湯に屬す、何なんとなれば則ち晝昼

日煩躁眠を得ず、之を躁して暫しばらくの安時無きの孤陽絶陰に比し、夜にして安靜の異ちが

い有り、況ありさま未だ厥逆には至らず、其方亦藥單單味捷はやくして劑小、蓋し單味なれば則ち

其力專一センイチ・ひとすじでまじりけがない、以て咄嗟トッサ・たちどころに奏効ききめがあらわれるあるべきも、劑

小なれば則ち以て大敵に對するには足らず矣、其病重けれども來ること緩ゆるやかなるは、 *茯苓四逆湯に屬す、何となれば則ち病仍なお解せずと云う、蓋し是緩やかなる詞ことば、其方

亦藥重複して劑大、蓋し重複すれば則ち其力泛あまねく應答、直すぐに搗たたくの勢少なれども、劑

大なれば則ち以て倒瀾くずれた波を廻もどすべし矣、芍藥甘草附子湯、互いに兼變中に擧げる、又

**甘草乾薑湯、虚寒輕證と爲す、亦列して兼變中に在り、 *茯苓四逆湯

太陽病中三十九條「發汗 若下之 病仍不解 煩躁者 茯苓四逆湯(茯苓四両 人参一両 甘草二両 乾薑一両半

附子一枚)主之」

発汗性、あるいは排便性治療転機を起こせるも、証候複合はいぜんとして解消せず、煩躁する場合は、茯苓四逆湯

の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

**甘草乾薑湯

太陽病上二十九「傷寒脈浮 自汗出 小便数 心煩 微悪寒 脚攣急 反與桂枝 欲攻其表 此誤也 得之便厥 咽中

乾 煩躁吐逆者 作甘草乾薑湯(甘草 乾薑)與之 以復其陽 若厥癒足温者 更作芍薬甘草湯與之 其脚即伸 若胃

氣不和讝語者 少與調胃承氣湯 若重發汗 復加焼針者 四逆湯主之」

傷寒において、脈は浮で、自然に發汗し、尿利は頻數に、心煩し、軽度の惡寒を訴え、下肢が攣急痙攣して疼痛を覚えるする

とき、法則に反して、桂枝湯を与えて、もっぱらその表証を処置しようとするのは誤りである。桂枝湯を服用するとき

は、直ちに身体は厥冷し、咽中は乾燥し、煩躁煩のために四肢をばたばたさせることし、吐逆嘔吐のことするが、この場合には甘草乾薑

湯を作って与え、その陽を回復せよ機能障害を回復せよ、陽とは生命活動の基礎をなす機能のこと。もし厥冷が回復して足が温まる(が、下肢

の攣急の癒えない)場合には、改めて芍藥甘草湯を作って与えるとき、患者の上肢はそこで初めて伸びる。もし(最初

に桂枝湯を誤って与えたために)胃氣消化管の機能のことが調和せずして、讝語を發する場合には、調胃承氣湯を少量与えよ。

もし、再度發汗性治療転機を起こさせ、その上に焼鍼を以て治療した場合には、四逆湯の本格的指示である。

森田幸門「傷寒論入門」 ○*茯苓、前輩稱爲万益万陰、愚謂滲利之品、恐無二其功一、蓋脾胃喜万燥而惡万濕、其燥必

煖、陽氣以旺、其濕必冷、陽氣以衰、水穀淤澑溜、津液不万行、苓之滲利、能去二水濕一、此

所下以佐二薑附一、以遂中内寒上、與二理中之朮一、其理相近矣、 ○*茯苓、前輩先輩稱して陰を益すると爲す、愚謂おもうに滲利の品、恐らく其功無し、蓋し

脾胃は燥を喜びて濕を惡む、其燥必ず煖あたたまる、陽氣以て旺さかん、其濕必ず冷える、陽

氣以て衰える、水穀淤とどこおる澑溜、津液行めぐらず、茯苓の滲利、能く水濕を去る、此以て薑

乾薑附附子を佐たすけ、以て内寒を逐う所、**理中の朮と、其理相近い矣、 *茯苓

伏苓、味は甘・平。胸脇・逆氣・憂恚・驚邪・恐悸・心下結痛・寒熱・煩滿・欬逆を治し、口焦げ舌乾くを止め、小便

Page 7: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

7

を利す。久しく服すれば、魂魄を安んじ、神を養い、飢えず、年を延ぶ。 神農本草經上品

森立之輯松本一男編「新刻校補神農本草経」

茯苓無毒止消渇好唾大腹淋瀝膈中痰水水腫淋結開胸腑調藏氣伐腎和長陰益氣力保神守中

茯神甘平主辟不祥療風眩風虚五勞七傷口乾止驚悸多恚怒善忘開心益智安魂魄養精神 「名医別録」

鎮静、利尿藥として、胃内停水、心悸亢進、筋肉の痙攣、小便不利、口渇、眩暈などの症状に応用する。

難波恒雄「原色和漢藥図鑑」保育社

**理中

霍亂病五條「霍亂頭痛發熱 身疼痛 熱多欲飲水者 五苓散(猪苓 白朮 茯苓 桂枝 澤瀉)主之 寒多不用水者

理中丸(人參 乾薑 甘草 白朮)主之」

コレラ様疾患で(嘔吐下利し)、頭痛、発熱、身体疼痛を訴えるとき、熱多く水を飲むとことを要求する場合は五苓散

の本格指示であり、寒多く水を飲むことを要求しない場合は理中丸の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

傳變、無下專二表寒一者上、 傳變、表寒を專もっぱらにする者無し、 傳變必經二表熱一、則其理明矣、 傳變必ず表熱を經経れば、則ち其理明らか矣、 直中麻黄附子證、或差二其法一、必爲二裏寒一、如二太陽中篇四逆湯證一、 *直中麻黄附子證、或いは其法を差たがえば、必ず裏寒を爲す、太陽中篇四逆湯證の如し、 *直中麻黄附子證、或差二其法一、必爲二裏寒一、如二太陽中篇四逆湯證一、

金匱水氣病十四「水之爲病、其脈沈小、屬少陰、浮者爲風、無水、虚脹者爲氣、水、發其汗即已、脈沈者、宜麻黄附子

湯、(麻黄 甘草 附子) 浮者宜杏子湯」

浮なる場合は風である。水腫がなくて、いたずらに腫れたような感じのする場合は感覚障害である。水腫は發汗性治

療転機を起こさせるときは治癒するが、脈が沈なる場合は麻黄附子湯の任意指示である。脈の浮なる場合は杏子湯処方内

容の記載無しの任意指示である。 森田幸門「金匱要略入門」

太陽病中六十三條「傷寒醫下之 續得下利 清穀不止 身疼痛者 急當救裏 後身疼痛清便自調者 急當救表 救裏宜

四逆湯 救表宜桂枝湯」

傷寒において、医師が治療法則に反して排便性治療転機を起こさせたために、引き続いて下利が止まらず、食物は全

く消化せられずにそのまま排泄せられ、身体の疼痛する場合は、当然至急に下利対する処置をせねばならない。下利に

対する処置をなした後、大便は平常のごとくなっても、身体の疼痛する場合は、当然至急に身体疼痛に対する処置をな

すべきである。下利に対しては四逆湯を、身体疼痛に対しては桂枝湯を選用すべきである。森田幸門「傷寒論入門」

太陽病中六十四條「病發熱、頭痛、脈反沈、若不差、身體疼痛、當救其裏 宜四逆湯(甘草 乾薑 附子)」

証候複合が發熱、頭痛を訴え、脈は予想に反して沈なるときは、治療を加えても軽快せず、身体に疼痛を訴えるとき

は、当然その裏を救わねばならない。その場合は四逆湯の任意指示である。

病が陰陽両位に渉る場合の治法を論ずる。 淺田宗伯は、蓋しその始め發熱頭痛し脈浮にして身体痛するものはま

さに麻黄湯を与うべくして、今は脈は反って沈なるものは少陰の表熱に属す。麻黄細辛附子湯及び甘草湯も亦これあり、

しかしてその疼痛において附子湯、あるいは眞武湯もまたこれあり、という。

森田幸門「傷寒論入門」

Page 8: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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此條、周氏注爲万優、又曰、若不万差、必會服二汗藥一矣、亦似万是、蓋雖万列二太陽中一、實

係二少陰一、顧是其初發熱頭痛、脈反沈者、麻黄附子二湯、所万宜二酌用一、而醫失二其法一、

故至二身體疼痛一、其證殆與二附子湯一相同、而用二四逆一者、或是以三其既經二誤治一、陽虚殊

甚、而更有二厥冷等證一耳、三陰無二頭痛一、是就二經絡一而言、戴原禮既辨三其非二正法一、頭

痛固有下因二陰寒上沖一者上、此即是已、又上條四逆桂枝先後證、謂二表裏異万病者一、此條、

謂下虚寒似二表熱一者上、其意互發、陽明篇小柴胡、亦有二其例一、 此條太陽病中六十四條、周氏「傷寒論三註」周揚俊清注を優まさると爲す、又曰く、若し差ざる、必ず會た

またま汗藥を服す矣、亦是に似る、蓋しおそらく太陽中に列すると雖も、實は少陰と係つながる、

顧みるに是其初め發熱頭痛、脈反沈とは、*麻黄附子二湯、酌用はからいもちいるに宜しき所、而

しかるるに醫其法を失す、故に身體疼痛に至る、**其證殆んど附子湯と相同じにて、四逆を

用いる者、或いは是其既に誤治を經るを以て、陽虚殊ことに甚だしいくて、更に厥冷等證有

る耳、三陰頭痛無し、是經絡に就いて言う、戴原禮既に其正法に非ざるを辨ず、頭痛固た

く陰寒上沖湧に因る者有り、此即ち是已のみ、又***上條四逆桂枝先後證、表裏で病を異こと

にする者を謂う、此條、虚寒が表熱に似る者を謂う、其意互發互いに明らかにする、陽明篇小柴胡、

亦其例有り、 *麻黄附子二湯、酌用に宜しき所、

少陰病二十一條「少陰病 始得之 反發熱 脈沈者 麻黄附子細辛湯主之」

少陰病において、最初から少陰の証候複合をもって発病したとき、予想に反して發熱し、脈の沈なる場合は、麻黄附

子細辛湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

少陰病二十二條「少陰病得之二三日 麻黄附子甘草湯微發汗 以二三日無證 故微發汗也」

少陰において、少陰の証候複合をもって発病し、二三日を経過したときは、麻黄附子甘草湯をもって軽度に発汗性治

療転機をおこさせよ。二三日を経過しても證が現れないから、軽度に発汗性治療転機を起こさせるのである。

森田幸門「傷寒論入門」

**其證殆與二附子湯一相同

少陰病二十四條「少陰病得之一二日 口中和 其背悪寒者 當灸之 附子湯(附子 茯苓 人參 白朮 芍藥)主之」

少陰病において、少陰の証候複合を以て發病したる後、一二日を経たるとき、口中は和し咽乾舌燥等無き、患者の背部に

限局して悪寒を訴える場合は、これに背上に灸すべきである。また附子湯の本格的指示である。森田幸門「傷寒論入門」

少陰病二十五條「少陰病 身體痛 手足寒 骨節痛 脈沈者 附子湯主之」

少陰病において、全身が痛み、手足は寒く感じ、骨及び関節も痛み、脈の沈なる場合は、附子湯の本格指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

***上條四逆桂枝先後證、表裏で病を異にする者を謂う、其意互發、陽明篇小柴胡、亦其例有り、

太陽病中六十三條「傷寒 醫下之 続得下利清穀不止 身疼痛者 急當救裏 後身疼痛 清便自調者 急當救表 救裏宜

四逆湯 救表宜桂枝湯」前頁既出

陽明病四十八條「陽明病 發潮熱 大便溏 小便自可 胸脇満不去者 與小柴胡湯」

陽明病において、潮熱を發し、大便は泥状軟便で、小便は平常のごとく快通し、胸部及び側胸部の充満感は依然とし

て存在する場合は、小柴胡湯を与えよ。 森田幸門「傷寒論入門」

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陽明病四十九條「陽明病 脇下鞕満 不大便而嘔 舌上白胎者 可與小柴胡湯 上焦得通 津液得下 胃氣因和 身濈

然汗出而解」

陽明病において、側胸下部が鞕く充満し、大便はせず、そのために嘔氣を訴え、舌上に白色の胎のある場合は、小柴

胡湯の任意指示である。小柴胡湯を服するときは、上焦の機能は回復して嘔氣は止み、津液は腹内に潤すことができて

大便は通じ、消化管の機能はそれによって調和し、全身に濈然として汗出して解す。

前條と同じく、少陽陽明合併病の証治を論ずる。 森田幸門「傷寒論入門」

陽明病五十條「陽明中風 脈弦浮大而短氣 腹都満 脇下及心痛 久按之 氣不通 鼻乾不得汗 嗜臥 一身及目悉黄

小便難 有潮熱 時時噦 耳前後腫 刺之小差 外不解 病過十日脈続浮者 與小柴胡湯 脈但浮無餘證者 與麻黄湯

若不尿腹満加噦者不治」

陽明の軽症である中風において、脉は弦、浮、大で、之に加うるに呼吸は短少で、腹は全体に膨満し、側胸下部及び

心臓部が疼痛するとき、容易に治癒しないから、その部を圧しても快よくならないで、鼻腔は乾燥し、發汗はなく、ひ

たすら橫臥して睡眠を欲し、眼球結膜はもとより全身の皮膚は黄色になり、小便は出がたく、潮熱を發し、ときどき噦

し、耳を前後が腫脹するようになったとき、その腫脹した部分を鍼を以て刺すときは、全体の証候は少し快愈する。發

病後十日を経過しても外證は解消せず、脉が引き続いて弦浮なる場合は小柴胡湯を与えよ。

三陽合病が壊証を起こした場合の証治を論ずる 森田幸門「傷寒論入門」

要万之至二病重者一、則直中傳變、證治無万二、倶*皆以二脈微細沈、心煩欲万寐、自利而渇、 之を要するようするに病重き者に至れば、則ち直中傳變、證治二無し、倶に皆脈微細沈、心

煩寐と欲し、自利にて渇す、 *皆以二脈微細沈、心煩欲万寐、自利而渇、

少陰病一條「少陰之爲病 脈微細 但欲寐也」

少陰の証候複合は脈は微、細で、嗜シ・むさぼる眠を欲する。 森田幸門「傷寒論入門」

少陰病二條「少陰病 欲吐不吐 心煩但欲寐 五六日自利而渇者 属少陰也 虚故引水自救 若小便色白者 少陰病形

悉具 小便白者 以下焦虚有寒 不能制水 故令色白」

少陰病において、嘔氣を催して、心臓部において煩を訴え、一途に睡眠を欲し、發病後五六日を経過したとき自然に

下利し、これに加えるに渇を覚える場合は、病は少陰の屬する。腎臓の機能不全を起こしているから渇を訴え、水を飲

んで自ら苦痛を救うのである。若しその時、尿の色が無色であるときは、少陰の証候は全部出そろうのである。小便が

無色であるのは腎臓細尿管の濃縮機能が衰えているために、尿の比重は軽く色も淡白となるためである。

森田幸門「傷寒論入門」

此渇爲二津脱之故一、程氏謂二上熱一者、誤矣、 此の渇は津脱の故と爲す、程氏上熱と謂うは、誤り矣、 厥冷外熱等、爲二其正證一、而四逆湯、以温万經回万陽、實係二對治一、 厥冷四肢の末端から冷える・創医会学術部「漢方用語大辞典」燎原外熱等、其の正證と爲して、四逆湯、以て經

を温め陽を回めぐらす、實に對応答の治に係つながる、 本病僅以二脈微細但欲一万寐爲二提綱一、

*四逆所万主、於二本篇一、則唯是脈沈、與下鬲上有二

寒飮一乾嘔者上二條已、**然其證候散二―見各條一、則宜二會而通一万之、如二四逆湯一、實是温

補諸方之祖、其爲二少陰正治一、誠不万待万辨焉、

Page 10: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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本病僅わずかに脈微細但欲寐を以て提綱事の主要な点を挙げたものと爲す、四逆主る所、本篇に於い

ては、則ち唯是脈沈と鬲上に寒飮有り乾嘔者と二條已のみ、然れども其證候各條に散見すれ

ば、則ち宜しく會あつめるして之に通精通ずべし、四逆湯の如き、實に是温補諸方の祖、其を少

陰正治と爲すは、誠に辨を待たざる焉也、 *四逆所万主、於二本篇一、則唯是脈沈、與下鬲上有二寒飮一乾嘔者上二條已、

少陰病四十三條「少陰病 脈沈者 急温之 宜四逆湯(甘草 附子 乾薑)」

少陰病において、脈が沈である場合には、急いで賦活せよ。これは四逆湯の任意指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

少陰病脈沈者急温之というは、これを陰盛陽損甚だしきの候となす急に陽を救わざれば陽氣まさに絶えんとほっす故

に急温之と謂う温之とは則ち陽を救うでだてのこと。 荒木性次「方術説話」

少陰病四十四條「少陰病 飲食入口則吐 心中温温欲吐 復不能吐 始得之手足寒 脈弦遅者 此胸中實 不可下也

當吐之 若膈上有寒飲 乾嘔者 不可吐也 當温之 宜四逆湯」

少陰病において、浸食物が口に入るときは、たちまち吐し、胸中はむかむかし、吐こうと思ってもかえって吐くこと

が出来ないとき、もし發病後まもなく、手足は寒く感じ、脈が弦、遅である場合は、それは胸中に病変があるのである

から、排便性治療転機を起こさせることは禁忌であって、当然嘔吐性治療転機を起こさせるべきである。もし横隔膜の

付近に寒臓器の機能が麻痺状態にあること飲分泌物の過多があって、乾嘔を訴える場合は、嘔吐性治療転機は禁忌で、当然これを賦活

せねばならない。このときは四逆湯の任意指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

**然其證候散二―見各條一、則宜二會而通一万之、

太陽病上二十九條「傷寒脈浮 自汗出 小便数 心煩 微悪寒 脚攣急 反与桂枝湯 欲攻其表 此誤也 得之便厥

咽中乾 煩燥吐逆者 作甘草乾薑湯与之 以復其陽 若厥癒足温者 更作芍薬甘草湯与之 其脚即伸 若胃気不和讝語

者 少与調胃承気湯 若重発汗 復加焼針者 四逆湯主之」

傷寒において、脈は浮で、自然に發汗し、尿利は頻數に、心煩し、軽度の惡寒を訴え、下肢が攣急痙攣して疼痛を覚えるする

とき、法則に反して、桂枝湯を与えて、もっぱらその表証を処置しようとするのは誤りである。桂枝湯を服用するとき

は、直ちに身体は厥冷し、咽中は乾燥し、煩躁煩のために四肢をばたばたさせることし、吐逆嘔吐のことするが、この場合には甘草乾薑

湯を作って与え、その陽を回復せよ機能障害を回復せよ、陽とは生命活動の基礎をなす機能のこと。もし厥冷が回復して足が温まる(が、下肢

の攣急痙攣して疼痛を覚えるの癒えない)場合には、改めて芍藥甘草湯を作って与えるとき、患者の上肢はそこで初めて伸びる。

もし(最初に桂枝湯を誤って与えたために)胃氣消化管の機能のこと 讝が調和せずして、 語を發する場合には、調胃承氣湯を少

量与えよ。もし再度發汗性治療転機を起こさせ、その上に焼鍼を以て治療した場合には、四逆湯の本格的指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

太陽病中六十四條「病発熱 頭痛 脈反沈 若不差 身体疼痛 当救其裏 宜四逆湯」

証候複合が発熱、頭痛を訴え、脈は予想に反して沈なるとき、治療を加えても軽快せず、身体に疼痛を訴えるときは、

当然その裏を救わねばならない。その場合は四逆湯の任意指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

陽明病四十四條「脈浮而遅 表熱裏寒 下利清穀者 四逆湯主之」

脈は最初浮であったが、今は遅となり、身体表層部に熱を發するが、身体中心部の働きはほとんど麻痺状態に陥り、

そのために不消化便を下利する場合は、四逆湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

厥陰病二十七條「大汗出 熱不去 内拘急 四肢疼 又下利厥逆而悪寒者 四逆湯主之」

Page 11: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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多量に發汗したるにかかわらず、解熱せずして、腹部に拘攣性急迫と、四肢の疼痛を訴えるとき、及び下利するとき、

厥逆しこれに加えるに惡寒を訴える場合は、四逆湯の本格的指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

内拘急 内とは身体の中の義にて主として筋をいう、拘は曲がる、急はこわばること、拘急は曲がって伸びな

いこと。 荒木性次「方術説話」

厥陰病二十八條「大汗 若大下利而厥冷者 四逆湯主之」

大量に發汗するか、あるいは大量に下利し、そのために全身の厥冷する場合は、四逆湯の本格指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

厥陰病四十六條「下利腹脹満 身体疼痛者 先温其裏 乃攻其表 温裏宜四逆湯 攻表宜桂枝湯」

下利するとき、腹部は緊脹膨満し、身体に疼痛を訴える場合は、先ずその裏を賦活し、しかる後その表を治療せよ。

裏を賦活するには四逆湯の、表を専心に治療するには桂枝湯の任意指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

厥陰病五十一條「嘔而脈弱 小便復利 身有微熱 見厥者 難治 四逆湯主之」

嘔氣があり、そのために脈は弱で小便は予想に反して快通し、一身に微熱を訴えるときは、四逆湯の本格指示である。

もしこの湯を服用しても全身に厥冷を現す場合は予後不良である。 森田幸門「傷寒論入門」

霍乱病七條「吐利汗出 発熱悪寒 四肢拘急曲がって伸びない・荒木性次「方術説話」 手足厥冷四肢の末端から冷える・創医会学術部「漢方用語

大辞典」燎原者 四逆湯主之」

嘔吐下利するとき、發汗し、發熱し、惡寒を訴え、四肢は拘急し、手足の厥冷する場合は、四逆湯の本格指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

○陶隱居曰、附子烏頭若干枚者、去万皮畢、以二半兩一準二一枚一、按半兩、充二今一分七氂四

豪一、比二他藥一殊輕、陶説可万疑、 ○陶隱居陶弘景「本草経集注」曰く、附子烏頭若干枚者、皮を去り畢おわり、半兩を以て一枚に準

ひとしいと、按ずるに半兩、今一分七氂リ四豪ゴウ・毫に充てる、他藥に比して殊に輕い、陶説

疑うべし、 *其重一等者、通脈四逆湯證、是也、下利甚者、更温二其内一、白通湯證、是也、而重一等者、

加二猪膽人尿一、 其の重おもい一等一番者、通脈四逆湯證、是コれ也、下利甚だしき者、更に其内を温める、

白通湯證、是也、而しかも重き一等者、猪膽人尿を加える、 *其重一等者、通脈四逆湯證、是也、下利甚者、更温二其内一、白通湯證、是也、而重一等者、加二猪膽人尿一、

少陰病三十七條「少陰病 下利清穀 裏寒外熱 手足厥逆 脈微欲絶 身反不悪寒 其人面色赤 或腹痛 或乾嘔 或

咽痛 或利止脈不出者 通脈四逆湯主之(甘草 附子大者一枚生 乾薑)」

少陰病にて、下利清穀し、裏寒外熱、手足は厥逆し、脉は微にて絶せんと欲し、身は反って惡寒せず、その人の面色

赤き(面色朱は戴タイ陽である)とき、或いは腹痛し、或いは乾嘔し、或いは利止むも脉の出ざるものは、通脉四逆湯之

を主る。 森田幸門「傷寒論入門」

少陰病三十四條「少陰病 下利 白通湯主之(葱白 乾薑 附子一枚生)」

少陰病三十五條「少陰病 下利 脈微者 与白通湯 利不止 厥逆無脈 乾嘔 煩者 白通加猪胆汁湯主之 服湯 脈

暴出者死 微続者生」 「白通加猪胆汁湯方(葱白 乾薑 附子一枚生用去皮破八片 人尿 猪胆汁)右五味 以水三

升 煮取一升 去滓 内膽汁 人尿 和令相得 分温再服 若無膽 亦可用」

Page 12: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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少陰病で、下利し、脉の微なる場合は、白通湯の任意指示である。白通湯を服しても、下利は止まず、四肢は厥逆し、

脉は触れず、乾嘔し煩する場合は白通加猪胆汁湯の本格指示である。この湯を服したる後、脉が暴急に現る場合には患

者は死亡するが、徐徐に回復する場合には患者が回復する場合には患者は回復する。 森田幸門「傷寒論入門」

「右の五味の内人尿と猪胆汁以外の藥を水120で煮て40に煮つめ、猪胆汁と人尿を加えて混和し、温めて二回に

分服する。もし猪胆がなければ入れなくてもかまわぬ(人尿のみでよい荒木性次「方術説話」)。」 龍野一雄「国語訳傷寒論」

霍乱病九條「吐已下断 汗出而厥 四肢拘急不解 脈微欲絶者 通脈四逆加猪膽湯主之(甘草 乾薑 附子大者一枚生

猪膽汁)」

嘔吐はやみ、下利も(また排泄すべきものがなくなったために)止んだとき、發汗して、そのために全身は厥冷四肢の

末端から冷える・創医会学術部「漢方用語大辞典」燎原し、四肢の筋肉の痙攣は緩解せず、脈は微で今にも停止するばかりである場合は、

通脈四逆加猪膽湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

加猪膽湯、成氏注以二反治一、非万是、蓋加二猪膽一之意、通脈四逆加猪膽湯呉氏注、尤爲二

切實一、其用万尿者、亦可二類推一、又猪膽汁、或急遽難万辨、所三以有二若無万膽亦可万用之

語一、不三必所万重在二人尿一也、 加猪膽湯、成氏注は反治通常の治法に相反する治療を以てす、是正しいに非あらず、蓋しおそらく猪膽を

加えるの意意味、通脈四逆加猪膽湯の呉氏注、尤も切實ぴったりとよく当てはまっていると爲す、其の尿

を用いる者、亦類推異なるものの中から互いに類似した点によって推測する・諸橋轍次「大漢和辞典」すべし、又猪膽汁、

或いは急遽キュウキョ・いそぎあわてる辨じ難し、若し膽無き亦可用うべしの語有る所以は、必ずし

も重んじる所人尿に在らざる也、 ○陶隱居曰、薤白、葱白、除万靑令万盡、 ○陶隱居曰く、薤白らっきょうの鱗茎、葱白ねぎは、靑を除き盡尽・なくせしむ、 此少陰病要領也、 此これ少陰病要領肝要なところ也、 四逆變方、更有万如下當歸四逆湯之兼二滋養一、通脈四逆加猪膽湯之兼万和万陰、四逆加人參

湯之兼上万救万胃、皆在二本病一亦可酌用一也、 四逆變方、更に當歸四逆湯の滋養を兼ね、通脈四逆加猪膽湯の陰を和するを兼ね、四逆

加人參湯の胃を救うを兼ねるが如き有り、皆本病に在り亦酌用はからいもちいるすべき也、 *四逆變方、更有万如下當歸四逆湯之兼二滋養一、通脈四逆加猪膽湯之兼万和万陰、四逆加人參湯之兼上万救万胃、

厥陰病二十六條「手足厥寒 脈細欲絶者 當帰四逆湯主之(當帰 桂枝 芍薬 細辛 甘草 通草 大棗)」

手足が厥寒し脈は細で、ほとんど停止せんとする場合は、當帰四逆湯の本格指示である。

厥寒は厥冷と異なって、厥冷四肢の末端から冷える・創医会学術部「漢方用語大辞典」燎原は他覚的証候であるが、厥寒は患

者の自覚的証候である。 森田幸門「傷寒論入門」

霍乱病九條「吐已下断 汗出而厥 四肢拘急不解 脈微欲絶者 通脈四逆加猪膽湯主之(甘草 乾薑 附子 猪膽汁)」

嘔吐はやみ、下利も(また排泄すべきものがなくなったために)止んだとき、發汗して、そのために全身は厥冷し、

四肢の筋肉の痙攣は緩解せず、脈は微で今にも停止するばかりである場合は、通脈四逆加猪胆汁湯の本格的指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

霍乱病四條「悪寒 脈微而復利 利止亡血也 四逆加人參湯主之(甘草 附子 乾薑 人參)」

Page 13: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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(嘔吐下利が止んで)惡寒を訴え、その脈は微に、しかも再び下利するとき、下利が自然に止まるのは亡血、即ち体液

欠乏のためである。この場合は四逆加人參湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

此他、有下兼二水氣一者上、眞武湯證、是也、 此この他、水氣を兼ねる者有り、眞武湯證、是これ也、 此條既曰二自下利一、而又曰二或下利一、語意重複、中西惟忠曰、或字下、疑脱二不字一、此脱

是、曰小便不万利、曰或小便利、其例一也、 *此の條既に自下利と曰いて、又或いは下利と曰う、語意重複、中西惟忠曰く、或字の下、

疑うに不の字を脱すると、此の説是正しいとする、曰く小便不利、曰く或いは小便利、其の例

一つ也、 *此の條既に自下利と曰いて又或いは下利と曰う

少陰病三十六條「少陰病 二三日不已 至四五日 腹痛小便不利 四肢沈重疼痛 自下利者 此爲有水氣 其人或欬

或小便利 或下利 或嘔者 眞武湯主之(茯苓 芍薬 白朮 生薑 附子炮)」 少陰病において、發病後二三日経ても治癒せず、四五日に至ったとき腹痛、小便不利、四肢の沈重疼痛、自下利等の

証候複合を現す場合は、これは水氣、即ち水分代謝障碍が原因するからである。この場合は、患者の体質に応じて、或

いは欬嗽、或いは小便利し、或いは下利し、或いは嘔することがあるが、眞武湯の本格指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

○程知論二附子生熟一、本二于張兼善一、蓋此方證、不似二四逆證之陽脱一、故附子炮用、 ○程知は附子生熟を論ず、張兼善を本とす、蓋し此方證、四逆證の陽脱に似ず、故に附

子炮用いる、 *有下兼二寒逆一者上、呉茱萸證、是也、

寒逆を兼ねる者有り、呉茱萸證、是也、 *有下兼二寒逆一者上、呉茱萸證、是也、

陽明病六十一條「食穀欲嘔属陽明也 呉茱萸湯(呉茱萸一升 人參 生薑 大棗)主之 得湯反劇者 属上焦也」

穀物を食したとき嘔氣を催すのは、病が陽明に属している。この場合は呉茱萸湯の本格指示である。もし呉茱萸湯を

服用して嘔氣の増劇する場合は、病が上焦軀幹の上三分の一の部分に属する。 森田幸門「傷寒論入門」

少陰病二十九條「少陰病 吐利 手足逆冷 煩躁欲死者 呉茱萸湯主之」

少陰病において、嘔吐下利し、手足は逆冷末端部より中止部にむかって次第に冷える・創医会学術部「漢方用語大辞典」燎原し、煩躁を訴えて、

今にも死するがごとき苦悶を覚える場合は、呉茱萸湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

欲万死二字、不万過三形二容煩躁之状一、與二奔豚病、發作欲万死復還止一、同語例、陶隱居曰、

呉茱萸一升者、五兩爲万正、

死せんと欲すしそうだ二字、煩躁の状かたちを形容状態を言いあらわすするに過ぎず、**奔豚病、發

作死せんと欲し復還止と、同語例、陶隱居曰く、呉茱萸一升とは、五兩を正しいと爲す、

**欲万死二字、不万過三形二容煩躁之状一、與二奔豚病、發作欲万死復還止一、同語例、

金匱奔豚氣病八「師曰.奔豚病從少腹起.上衝咽喉.發作欲死復還止.皆從驚 恐得之」

奔豚の証候複合は、下腹部から一種の絞扼ヤク圧迫感が起こって、上に昇って咽喉に衝つきあがり、發作の時は死ぬ

ような思いをするが、暫くすると再び平静になる。これらの証候はみな、驚愕キョウガク・おどろきおそれる、恐怖によって

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誘發される。

奔豚のときに、異常感覚が下から上へ衝きあがり、胸部、腹部に痛みを訴え、往來寒熱さむけと発熱とが交代に往来すること

「方術説話」を發するときは、奔豚湯の本格指示である。 奔豚氣病とは即ちヒステリーのことである。

森田幸門「金匱要略入門」

○肘後、療三卒厥上氣、淹淹欲万死、此謂二奔豚病一、於二本方一、去二大棗一、加二桂、半夏、

甘草一、千金、名二奔氣湯一、千金、呉茱萸湯、治下胸中積冷、心嘈煩滿、汪汪不万下二飮食一、心

胸應万背痛上方、於二本方一、加二半夏、桂心、甘草一、

○「肘後備急方」葛洪晋、卒厥急に人事不省になり四肢が冷える・創医会学術部「漢方用語大辞典」燎原上氣呼気多く吸

気が少なく、気息が急につまる「中国漢方医語辞典」中国漢方、淹淹エンエン・気力のないさま死せんと欲すしそうだを療いやす、

此これ奔豚病と謂うと、本方に於いて、去大棗、加桂半夏甘草、*千金、名奔氣湯、千金、呉茱萸

湯、胸中積冷、心嘈ソウ・さわがしい煩滿胸腹部が膨満して煩わしい・創医会学術部「漢方用語大辞典」燎原、汪汪たまってい

るさま飮食下らす、心胸から背に應じる対応する痛みを治するの方、本方呉茱萸湯に、半夏、桂心、

甘草を加える、

*千金方巻十七肺藏 奔氣湯(半夏 呉茱萸 生薑 桂心 人參 甘草)

有二大腸滑脱者一、桃花湯證、是也、 大腸滑脱滑泄・頻回な下利者有り、桃花湯證*、是也、 *桃花湯

少陰病二十六條「少陰病、下利便膿血者、桃花湯主之、(赤石脂 乾薑 粳米)」

下利して膿血を排泄するとき、少陰の証候複合を現す場合は、桃花湯の本格指示である。

森田幸門「傷寒論入門」

少陰病二十七條「少陰病、二三日至五日、腹痛、小便不利、下利不止、便膿血者、桃花湯主之」

少陰病において、発病後二三日より四五日を経たとき、腹痛を訴え、尿量は減少し、下利は止まらないで、膿血便

を排出する場合は、桃花湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

案裏寒便膿血之機、蓋自二下利數日、大腸滑脱、氣益内陷、血隨下澑一而來、巣源曰、血滲二

入於腸一、腸虚則泄、故爲二血痢一、可二以見一也、錢氏謂二大腸傷損一、恐無二其理一、又便膿

血、非二眞有一万如二腸癰之膿血雜下一、蓋腸垢與万血同出者、巣源痢候、有二膿涕、及白膿如

万涕語一、可万徴、 案ずるに裏寒便膿血の機きざし、蓋しおそらく下利數日、大腸滑脱滑泄・頻回な下利、氣益ますます内陷、

血隨って下澑留に自よりにて來る、巣源「諸病源候論」巣元方隨曰く、血が腸に參入、腸虚せば則ち

泄す、故に血痢を爲す、以て見るべき也、錢氏大腸傷損を謂うも、恐らく其理道理無く、又別

にまた便膿血、眞に腸癰ヨウの膿血雜下の如き有るに非ず、蓋しおそらく腸垢コウ・あかと血と同出者、

巣源痢候、膿涕、及び白膿涕の如き語有り、徴しるしとすべし、 ○案此三證、雖万有万所万兼、然不万外二于虚寒一、故敢列二于此一、

○案ずるに此三證、兼ねる所有ると雖も、然而・しかして虚寒の外には出ず、故に敢あえて

此に列つらねる、

*案此三證、雖万有万所万兼、然不万外二于虚寒一、故敢列二于此一、

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少陰病二十六條「少陰病 下利便膿血者 桃花湯(赤石脂 乾薑 粳米)主之」

下利して膿血便を排泄するとき、少陰の証候複合を現す場合は、桃花湯の本格指示である。

少陰病二十九條「少陰病 吐利 手足逆冷 煩躁欲死者 呉茱萸湯(呉茱萸 人參 生薑 大棗)主之」

少陰病において、嘔吐下利し、手足は逆冷し、煩躁を訴えて、今にも死するがごとき苦悶を覚える場合は、呉茱萸湯

の本格指示である。

少陰病三十六條「少陰病 二三日不已 至四五日 腹痛小便不利 四肢沈重疼痛 自下利者 此爲有水氣 其人或欬

小便利 或下利 或嘔者 眞武湯(茯苓 芍藥 白朮 生薑 附子)主之」 少陰病において、發病後二三日より四五日を経たとき、腹痛、小便不利、四肢の沈重疼痛、自下利等の症状複合を現

わす場合は、此は水氣、即ち代謝障害が原因するからである。この場合あ、患者の体質に応じて、或いは欬嗽、或い

は小便利し、或いは下利し、或いは嘔することがあるが、眞武湯の本格指示である。

以上森田幸門「傷寒論入門」

至二其變一、則有二變爲万陽者一、或自二表寒一、 其變を至極めれば、則ち變じて陽と爲る者有り、或いは表寒に自よる、 此出二臆揣一、蓋表寒而陽鬱二于裏一之人、其始得万邪、爲二直中輕證一、及二其傳一万裏、變爲

二熱候一、是也、但表寒裏熱、理似万可万疑、然附子瀉心湯證、固爲二表陽虚、而裏有万熱者

一、其機與万此相近、堅嘗見二數人一、冬月薄衣犯万寒、始得二麻附細辛湯證一、用万之五六日、

變爲二胃實一、與以二承氣一而愈、於万是知二病之爲万變、無一万所万不万有也、 此臆揣臆測を出おし進めるに、蓋し表寒にて陽が裏に鬱こもるの人、其始め邪を得、直中輕證を

爲して、其の裏に傳わるに及び、變じて熱候と爲す、是也、但表寒裏熱、理疑うべきに似

たり、然して*附子瀉心湯證、固もとより表陽が虚して、裏に熱有る者と爲す、其の機此と相

近い、堅たしかに嘗て數人を見る、冬月薄衣で寒に犯され、始め**麻附細辛湯證を得る、之を

用いて五六日、變じて胃實と爲す、與ともに承氣を以て愈ゆ、是に於いて病の變を爲すは、

有らざる所無きを知る也、

*附子瀉心湯證

太陽病下二十七條「心下痞 而復悪寒 汗出者 附子瀉心湯(大黄 黄連 黄芩 附子)主之」

心窩部が痞え、しかも再び惡寒を訴えて發汗する場合は、附子瀉心湯湯の本格指示である。森田幸門「傷寒論入門」

**麻附細辛湯證

少陰病二十一條「少陰病始得之 反發熱 脈沈者 麻黄細辛附子湯(麻黄 細辛 附子)主之」

少陰病において、最初から少陰病の証候複合を以て發病したとき、予想に反して發熱し、脉の沈なる場合は、麻黄細

辛附子湯の本格的指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

或自二裏寒一、 或いは裏寒に自よる、 亦出二臆揣一、蓋病未篤、而温補過甚、或陽既復、而仍用二薑附一、遂生二鬨熱一者、是也、孫

兆曰、有下本是陰病、與二温藥一過多、致二胃中熱實一、或大便鞕、有二狂言一者上、亦宜万下也、

可二以徴一焉、 亦臆揣臆測を出おし進めるに、蓋し病未だ篤病気が重いならざるに、温補過甚、或いは陽既に復し

Page 16: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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て、仍なお薑附を用い、遂に鬨さわがしい・たたかう熱を生じる者、是也、孫兆宋代曰く、*本是陰病、

温藥を與えるに過多おおすぎる、胃中熱實を致す、或いは大便鞕、狂言有る者有り、亦下すに

宜しき也と、以て徴とすべし焉、 *本是陰病、温藥を與えるに過多おおすぎる、胃中熱實を致す、或いは大便鞕、狂言有る者有り、亦下すに宜しき也と、以

て徴とすべし焉、 少陰病四十條「少陰病得之二三日 口燥咽乾者 急下之 宜大承氣湯」

少陰病において、最初から少陰の証候複合をもって發病し、發病後二三日経過したとき、口燥、咽乾を訴える場合は

急いで排便性治療転機を起こさせよ。それは大承氣湯の任意指示である。

少陰病四十一條「少陰病 自利清水 色純青 心下必痛 口乾燥者 可下之 宜大承氣湯」

少陰病で、自然に水様便を下利するとき、その色は固有の糞色なく汚水のごとく主として暗緑靑色で、心窩部は必ず

痛み、口中が乾燥する場合は、急いで排便性治療転機を起こさせよ。それには大承氣湯の任意指示である。

少陰病四十二「少陰病六七日 腹脹不大便者 急下之 宜大承氣湯」

少陰病で、發病後六七日を経過したとき、腹部が膨満し、大便が秘結する場合は、急いで排便性治療転機を起こさせ

よ。これは大承氣湯の任意指示である。

以上森田幸門「傷寒論入門」

而*熱壅二半表裏者一、四逆散證、是也、 而しかして熱が半表裏を壅ふさぐ者、四逆散證、是也、 *熱壅二半表裏者一、四逆散證、是也、

少陰病三十八條「少陰病 四逆 其人或欬 或悸 或小便不利 或腹中痛 或泄利下重者 四逆散(甘草 枳實 柴胡

芍薬)主之 」 少陰病で、四肢は絶えず冷えやすく、患者の体質によって、或いは欬を發し、或いは動悸を覚え、或いは尿利は不良、

或いは疼痛を訴え、或いは粘液血便を排泄して裏急後重を訴える場合は、四逆散の本格的指示である。

四逆とは四肢が温ならずをいう。四肢の血管の循環が不良であるからである。四肢特に露出する手足は冷えやすく、

夏でも足に靴下を要するものがある。このような体質は腹部内臓の機能は麻痺性であるから、この場合の四逆は寒厥と

いう。対して腹部内臓に炎症性病変があって、そのために心臓血管の機能不全を来たし、四肢への循環が不良となって

四肢が温和ならざる場合の四逆を熱厥という。本条の四逆はその熱厥に属するものである。

森田幸門「傷寒論入門」

此の方は大柴胡の変方にして、少陰の熱厥を治す。 淺田宗伯「勿誤藥室方函口訣」

柴田良治「黙堂柴田良治処方集」

此證不万用二小柴胡一者、以下其壅鬱、非二枳實芍藥一、不上万能二開洩一、不万用二大柴胡一者、

以三胃無二實結一、蓋邪壅二半表裏一、而爲万厥者、何啻少陰變來、其掲二于本篇一者、亦在万

使下人與二寒厥一對看上乎、 此證小柴胡を用いざるは、其壅鬱、枳實芍藥に非ざれば、開洩泄能わざるを以てにもかかわら

ず、大柴胡を用いざるは、胃に實結無きを以てす、蓋し邪が半表裏に壅ふさぎて、厥を爲す者、

何ぞ啻ただ少陰變変來ならん、其れ本篇に掲かかげるは、亦人をして寒厥と對看せしむるに在

り乎、

Page 17: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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*胃家熱實者、大承氣湯證、是也、 *胃家熱實者、大承氣湯證、是也

傷寒論述義卷二 述陽明病「陽明病者、裏熱實證、是也、邪熱陷万胃、燥屎搏結うちむすぶ、即所万謂胃家實者也、」

少陰病四十條「少陰病得之二三日 口燥咽乾者 急下之 宜大承氣湯」

少陰病において、最初から少陰の証候複合をもって發病し、發病後二三日経過したとき、口燥、咽乾を訴える場合は

急いで排便性治療転機を起こさせよ。それは大承氣湯の任意指示である。

少陰病四十一條「少陰病 自利清水 色純青 心下必痛 口乾燥者 可下之 宜大承氣湯」

少陰病で、自然に水様便を下利するとき、その色は固有の糞色なく汚水のごとく主として暗緑靑色で、心窩部は必ず

痛み、口中が乾燥する場合は、急いで排便性治療転機を起こさせよ。それには大承氣湯の任意指示である。

少陰病四十二「少陰病六七日 腹脹不大便者 急下之 宜大承氣湯」

少陰病で、發病後六七日を経過したとき、腹部が膨満し、大便が秘結する場合は、急いで排便性治療転機を起こさせ

よ。これは大承氣湯の任意指示である。 以上森田幸門「傷寒論入門」

郭雍有下初與二四逆一、後用二承氣一按上、及孫氏所万云、即此也、以愚測万之、此證自二表寒一

變來者爲万多、如裏寒者、政使二温補太過一、恐不三遽變爲二胃實一也、周氏曰、自利至二淸水

一、而無二后滓一、明係二旁流之水一可万知矣、痛在二心下一、口且乾燥、其燥屎攻万脾、而津

液盡爍、又可万知矣、故當三急下、以救二陰津一、此解頗妥、中西惟忠曰、自利淸水之淸、當

與二淸穀淸血之淸一、均爲二圊字一看上、始與二色純淸一文順、 郭雍初め四逆を與え、後に承氣を用いる按案有り、及び孫氏云う所、即ち此也、以て愚私

之を測おしはかるに、此證表寒自より變変來する者多と爲す、如もし裏寒者、政まさに温補太過せし

めるに、恐らく遽にわかな變で胃實を爲すことあらざる也、*周氏曰く、自利が淸水に至りて、

后サ(さんずい+査)滓シ・かす無し、明らかに旁流の水に係つながるを知るべし矣、痛が心下に在り、

口且つ乾燥、其燥屎が脾を攻めて、津液盡ことごとく爍シャク・いためそこなうするを、又知るべし矣、

故に當に急下、以て陰津を救うべし、此解頗すこぶる妥妥当、中西惟忠曰く、自利淸水水様便の下利・

森田幸門「傷寒論入門」の淸は、當に淸穀食べたものが消化されずそのまま下る淸血大便中に出血することの淸と、均ひとし

く圊厠字と爲して看るべし、始はじまるに色純淸(少陰病四十一條)固有の糞色なく汚水の如く暗緑青色・森田幸門「傷

寒論入門」と文順あとにつづく、 *周氏曰、自利至二淸水一、而無二后滓一、明係二旁流之水一可万知矣、痛在二心下一、口且乾燥、其燥屎攻万脾、而津液盡

爍、又可万知矣、故當三急下、以救二陰津一、

少陰病四十條「少陰病得之二三日 口燥咽乾者 急下之 宜大承氣湯」

少陰病において、最初から少陰の証候複合をもって發病し、發病後二三日経過したとき、口燥、咽燥を訴える場合は

急いで排便性治療転機を起こさせよ。それは大承氣湯の任意指示である。

銭天來は、この條を得てわずかに二三日にて即ち口燥咽乾し、しかも急いで下すべきの証となるものは、すなわち少

陰の変にて少陰の常にあらずして、ただ口燥咽乾するは、まだ必ずしも即急ぎ下すべきの証にあらず、亦必ず胃実の証、

実熱の脈あり、その見証は少陰といえども、邪氣のまた陽明に帰するあり、胃家実の証拠となす。まさに急ぎ下すべく

して大承氣湯を用いるなり、という。 森田幸門「傷寒論入門」

少陰病四十一條「少陰病 自利清水 色純青 心下必痛 口乾燥者 可下之玉函經・急下之 宜大承気湯」

Page 18: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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少陰病で、自然に水様便を下利するとき、その色は固有の糞色なく汚水のごとく主として暗緑青色で、心窩部は必ず

痛み、口中が乾燥する場合は、急いで排便性治療転機を起こさせよ。それには大承氣湯の任意指示である。

少陰病四十條に続き本条もまた少陰における熱裏下利の証治を論ずる。 森田幸門「傷寒論入門」

飮熱相併者、*猪苓湯證、是也、 *少陰病三十九條「少陰病下利 六七日 欬而嘔渇 心煩不得眠者 猪苓湯主之(猪苓 茯苓 阿膠 澤瀉 滑石)」

少陰病において、下利すること六七日、欬し 渴、これに加えるに嘔氣と とを訴え、心臓部において煩し、安眠のでき

ない場合は、猪苓湯の本格指示である。 淺田宗伯は、下利は蓋し裏熱下奔の致すところ、裏熱が下に奔はしるときは

則ち津液乏しくて渇す、渇するとき則ち飲を引いて水を畜たくわえる、畜水するときは則ち欬して嘔す、心煩眠るを得ざ

るも亦飲熱が心に薫蒸・むす擾みだすするの候なり、という。 森田幸門「傷寒論入門」

更出二兼變飮邪搏聚一、 更に述義巻四兼變の飮邪搏聚に出る、 *熱併二血分一者、便血、及便膿血可万刺證、是也、 熱が血分に併列・つらなる者、便血、及び便膿血は刺すべき證、是也、 *熱併二血分一者、便血、及便膿血可万刺證、是也、 少陰病二十八條「少陰病 下利便膿血者 可刺」

少陰病において、下利し、膿血便を排泄する場合は、鍼をもって刺すとよい。 森田幸門「傷寒論入門」

刺法即ち少陰経上の治熱利諸穴是也、猶先刺風池風府却與桂枝湯上廿五 及び血熱詀語刺期門中八五下十五下十六の

例のごとし、蓋し復溜・幽門を指して言う歟か、 森立之「傷寒論攷注」

熱在二膀胱一、即熱結二下焦一之義、不三是斥二言浄府一、桃核承氣抵當二條、可万徴也、然則

便血亦大便血明矣、 熱が膀胱に在るは、即ち熱が下焦に結ぶの義、是言浄府膀胱を斥さ・指さず、*桃核承氣抵當

二條、徴しるしとすべし也、然れば則ち便血亦大便血明らか矣、 *桃核承氣抵當二條、徴とすべし也、然れば則ち便血亦大便血明らか矣、

太陽病中八十條「太陽病不解 熱結膀胱 其人如狂 血自下 下者癒 其外不解者 尚未可攻 當先解其外 外解已

但少腹急結者 乃可攻之 宜桃核承氣湯」

太陽の証候複合は解消しないで、炎症性病変は下腹部に波及し、患者は脳証を發して一見狂者のごとく、(尿道或いは

肛門、或いは子宮より)自然に出血する。このとき桃核承気湯をを与えて排便性治療転機を起こさせるときは病は治癒

する。そのとき、外証の解消しないでいる場合は、(桃核承気湯で)攻撃することは禁忌である。当然先ず外証を解消せ

しめるべきで、外証が解消し終わって、たんに下腹部が炎症のために充血し痙攣的に疼痛する場合には、積極的に治療

を加えるべきで、桃核承気湯の任意指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

陽明病五十五條「陽明證 其人善忘者 必有畜血 所以然者 本有久瘀血 故令喜忘 屎雖鞕 大便反易 其色必黒

者 宜抵當湯下之」

陽明の証候複合を現すとき、患者がしばしば記憶障害を起こす場合は、必ず畜血がある。その理由は、患者が平素か

ら瘀血を有しているから記憶を喪失するのである。この時は大便が鞕くても予想に反して排出し易く、その色は必ず黒

い。かかる場合は抵當湯をもって排便性治療転機を起こさせるがよい。 森田幸門「傷寒論入門」

Page 19: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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○陰之變万陽、王履既曰、或有二直傷即入、而寒便變万熱、及始寒而終熱者一、其言雖万是、

猶未二明鬯一、如二注家傳經熱邪之説一、則輯義既辨二其謬一矣、或以爲本篇熱證、本係二陽病一、

不三必自二變成一、以二其相似一、仍對二―示之一耳、*然以二承氣三條一言万之、如二口燥咽乾、

自利淸水一、猶可万云万爾、至三腹脹不二大便一、則少陰豈有二此證一、其説不万可万從、 ○陰の陽に變わる、王履既に曰く、或いは直すぐに傷やぶり即ただちに入して、寒が便ち熱に變

わる、及び始め寒にして終わり熱者有りと、其言是と雖も、猶未だ明鬯メイチョウ・論旨がはっきりと

のびて通っていることならず、注家傳經熱邪の説の如きは、則ち輯義多紀元簡「傷寒論輯義」既に其の謬誤謬

を辨ず矣、或人以爲おもへらく本篇熱證、本元陽病に係つながり、必ずしも變成に自よるにあら

ず、其相似を以て、仍ち之を對示する耳、然れば承氣三條を以て之を言う、口燥咽乾、自

利淸水の如く、猶なお爾しか云う可べし、腹脹大便せずに至れば、則ち少陰豈あに・どうして此の證

有らんやと、其説從うべからず、 *然以二承氣三條一言万之、如二口燥咽乾、自利淸水一、猶可万云万爾、至三腹脹不二大便一、則少陰豈有二此證一、

少陰病四十條「少陰病 得之二三日 口燥咽乾者 急下之 宜大承気湯」

少陰病四十一條「自利清水 色純青 心下必痛 口乾燥者 可下之 宜大承気湯」

少陰病四十二條「少陰病 六七日 腹脹 不大便者 急下之 宜大承気湯」

訳文は前頁参照

有下變爲二厥陰一者上、蓋少陰之極、更有二二端一、有下陰陽倶敗、以就二暴脱一者上、有二下利亡

万陰、而孤陽上燔者一、如二心中煩不万得万臥、咽痛咽瘡一、並係二上焦燥熱一、*故黄連阿膠、

猪膚、苦酒諸湯、皆爲二潤法一、蓋病既渉二厥陰一者也、

變じて厥陰を爲す者有り、蓋し少陰の極、更に二端始有り、陰陽倶ともに敗れ、以て暴脱に

就く者有り、下利陰を亡うしなうして、孤陽上燔ハン・乾かす者有りて、心中煩して臥するを得ず、

咽痛咽瘡の如き、並みな上焦燥熱に係つながる、故に黄連阿膠、猪膚、苦酒諸湯、皆潤うるおす

法を爲す、蓋し病既に厥陰に渉およぶ者也、 *故黄連阿膠、猪膚、苦酒諸湯、皆爲二潤法一、

少陰病二十三條「少陰病得之二三日以上 心中煩 不得臥 黄連阿膠湯(黄連 黄芩 芍薬 鷄子黄 *阿膠)主之」

少陰病において、少陰の証候複合をもって發病した後、二三日以上を経たとき、胸郭内に煩を訴えて、安臥すること

が出来ないときは、黄連阿膠湯の本格指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

*阿膠

阿膠、味は甘・平。心腹・内崩・労虚・洒々として瘧状の如きもの・腰腹痛・四肢酸疼・女子の下血を治し、胎を

安んず。久しく服すれば、身を軽くし、氣を益す。 神農本草経上品

森立之輯松本一男編「新刻校補神農本草経」昭文堂

阿膠微温無毒丈夫小腹痛虚労羸痩陰氣不足脚酸不能久立養肝氣 「名医別録」

ウマ科のろば及びラバ、その他ウシ科のウシなどの皮膚を水で煮て製した膠を正品とする。

難波恒雄「原色和漢藥図鑑」保育社

金匱婦人妊娠病二十「師曰、婦人有漏下者、有半産後因續下血不絶者 有妊娠下血者 假令妊娠腹痛 爲胞阻

膠艾キョウガイ湯(芎藭川芎 阿膠 甘草 艾葉 當歸 芍藥 黃乾地 )」

Page 20: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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婦人が生殖器から出血するものがあり、流産した後、それが原因となって続いて出血し全く止まらないものがあ

り、妊娠して出血するものがある。妊娠して出血し、腹痛を訴えるときは胞阻妊娠腹痛「漢方用語大辞典」である。膠艾湯

の本格指示である。 森田幸門「金匱要略入門」

虛金匱産後婦人病二十一「産後下利 極、白頭翁加甘草阿膠湯(白頭翁 甘草 阿膠 秦シン皮)主之」 褥婦産婦が下

利して疲労昏憊コンパイ・心がくらくつかれるするとき白頭翁加甘草阿膠湯の本格指示である。森田幸門「金匱要略入門」

少陰病三十條「少陰病 下利 咽痛胸満心煩 猪膚湯(猪膚)主之」

少陰病において、下利し、咽は痛み、胸部に充満した感じを覚え、心臓部において煩するときは、猪膚湯の本格指示

である。 森田幸門「傷寒論入門」

猪膚は味甘温肺を温め燥を潤す 荒木性次「方術説話」

少陰病三十二條「少陰病 咽中傷生瘡 不能語言 聲不出者 苦酒場主之(半夏 雞子)」 少陰病において、咽に潰瘍が生じ、そのために声が出ず、言語を發することが出来ない場合は苦酒湯の本格指示である。

森田幸門「傷寒論入門」 此實懸料之言、然此諸方證、皆以万潤爲万主、不万似下變陽諸證之必要二淸涼一者上、知是亡

陰虚燥、稍近二厥陰一矣、醫學讀書記曰、少陰陽虚、汗出而厥者、不万足万慮也、若并傷二其

陰一則危矣、是以少陰厥逆、舌不乾者生、乾者死、斯言稍是、然似下不知少陰之變爲二厥陰一

者上矣、*黄連阿膠湯、與二梔豉一一類、然此以万潤爲万主、蓋以万非二邪熱壅鬱一故耳、程氏

曰、少陰之有二咽痛一、皆下寒上熱、津液搏結使万然、無二厥陰撞氣一、故不万成万痺、但視二

氣勢之微甚一、或潤或解或温、總不三用二―著涼藥一、此説頗當、蓋治万咽諸方、要是治万標之

法已、又勞瘵病極爲二咽痛一、其理則一、除大椿注二苦酒湯一曰、疑即陰火喉癬之類、爲万當、

此實に懸心にかける料リョウ・推量するの言、然れども此諸方證、皆潤うるおすを以て主と爲す、變陽

諸證の必ず淸涼を要する者には似ず、是亡陰虚燥を知る、稍やや厥陰に近い矣、醫學讀書記清

尤怡曰く、少陰陽虚、汗出して厥するは、慮詳しく考えめぐらすに足らざる也、若もし并あわせて其陰

を傷やぶれば則ち危うい矣、是これ以て少陰厥逆、舌乾かざる者生き、乾く者死す、斯この言

稍やや是ただしい、然れども少陰の變が厥陰と爲るを知らざる者に似る矣、黄連阿膠湯、梔豉梔

子豉湯と一同類、然り此潤を以て主と爲す、蓋し邪熱壅鬱に非ざるを以て故耳、程氏曰く、少

陰の咽痛有るは、皆下寒上熱、津液搏結が然らしむ、厥陰撞トウ・うちたたく氣無し、故に痺を成

さず、但氣勢の微甚だしきを視る、或いは潤或いは解結を解散する或いは温、總て著明に涼藥を

用いず、此説頗すこぶる當あたる、蓋し咽を治する諸方、要するに是標を治するの法已、又勞

瘵サイ・疲病極まり咽痛を爲す、其理則ち一、「傷寒類方」清徐大椿が苦酒湯に注して曰く、疑うに

即ち陰火喉癬インカコウセン・喉頭結核「漢方用語大辞典」の類、當ると爲す、

*黄連阿膠湯、與二梔豉一一類、

少陰病二十三條「少陰病得之二三日以上 心中煩 不得臥 黄連阿膠湯主之(黄連 黄芩 芍薬 鷄子黄 阿膠)」

訳文前頁参照

厥陰病四十九條「下利後更煩 按之心下濡者 爲虚煩也 宜梔子豉湯(肥梔子 香鼓)」

虛下利したる後に、煩は一層劇しくなるとき、心窩部を圧診して軟らかである場合は、 煩である。この場合は梔子豉

湯の任意随意・氣まかせ指示である。 森田幸門「傷寒論入門」

Page 21: 森立之「傷寒論攷注」原文と案文の訓読 - 卷第二 述 …shoukanronkouchu.com/docs/jg8.pdf以上森田幸門「傷寒論入門」 柯氏曰、本條、當万有二無万汗惡寒證一、趙氏曰、少陰發汗二方、雖三同用二麻黄附子一、亦有

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○*猪膚、諸説不万一、按儀禮聘禮、膚鮮魚鮮、腊設二扄鼎一、注曰、膚、豕肉也、唯燖者有

万膚、疏曰、豕則有万膚、豚則無万膚、故十喪禮、豚皆無万膚、以其皮薄一故也、又禮記内

則疏曰、麋膚魚醢者、麋膚、謂二麋肉外膚一、食万之以二魚醢配一万之、今合攷万之、則膚是

爲二肉之近万外多万脂者一、古義了然、無庸二別解一矣、又銭氏、以二熬香一屬二猪膚一、誤、

○猪膚、諸説一ならず、按ずるに儀禮經書の一つで周代の禮の実際を明記した典籍の聘ヘイ禮礼、膚豕の生肉鮮

魚鮮魚の生肉、腊セキ・干し肉を扄ショウ・門の扉につけた大きな鐶鼎テイ・三本足の鉄の釜・かなえに設設置す、注曰く、

膚、豕シ・いのしし肉也、唯燖シン・にる者膚有り、疏曰く、豕則ち膚有り、豚則ち膚無し、故に十

喪禮、豚皆膚無し、其皮薄きを以ての故也、又禮記内則疏曰く、麋膚ビフ・鹿の切り肉魚醢ギョカイ・

魚のしおから者、麋膚、麋肉外膚を謂う、之を食し魚醢に之を配するを以てす、今合せて之を攷

考へ調べるすれば、則ち膚は肉の外に近く脂多い者と爲す、古義了然リョウゼン・あきらかなさま、別解

を庸もちいる無し矣、又銭氏、熬ゴウ・炒る香を以て猪膚に屬すと、誤り、

*猪膚、諸説不万一、

少陰病三十條「少陰病 下利 咽痛胸満心煩 猪膚湯主之(猪膚一斤 右一味 以水一斗煮取五升 去滓 加白蜜一升

白粉五合熬香、和令相得、温分六服)」 訳文前頁参照

猪膚即猪之皮下 森立之「傷寒論攷注」

○*苦酒湯、刀環、刀、即古錢、今猶傳万世、其形狹長、柄端有万環、以安二雞卵一、甚適好、 ○苦酒湯、刀環刀のつば、刀、即ち刀錢の古錢、今猶世に傳わる、其形狹長、柄端に環有り、

以て雞鶏ケイ・にわとり卵を安んじるに、甚だ適好、 *苦酒場

少陰病三十二條「少陰病 咽中傷生瘡 不能語言 聲不出者 苦酒場主之 半夏洗 破如棗核 十四枚 雞子一枚 去

黄 内上苦酒 著雞子殻中 右二味 内半夏 著苦酒中 以雞子殻置刀環中 安火上 令三沸 去滓 少少含嚥之 不

差 更作三剤」 訳文前頁参照

完 2009/12/05

改訂 2014/11/30 再改訂 2018/03/25 再改訂 2018/11/10