現代日本の都市型ホテル建築の用途複合にみる都市 …hotel, mixed-use...

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現代日本の都市型ホテル建築の用途複合にみる都市環境との融合性 Architectural Infiltration into Urban Environment - Applications and Compositions of Mixed-Use Hotel Developments in Contemporary Japan - 奥山研究室 13M30044 安藤 鷹太郎 (ANDO, Takataro) Keywords ホテル、複合開発、融合性、都市環境、現代日本 Hotel, Mixed-Use Development, Infiltration, Urban Environment, Contemporary Japan 1. 序 1-1. 研究の背景と目的  宿泊施設に宴会場やレストランなどの 都市的な機能が併設された複合施設として誕生したホテル建築 は、戦前の日本においては主に訪日外国人の宿泊全般に関わる 様々なサービスを提供する場であった。一方戦後においては高度 成長による旅行の大衆化や生活様式の西洋化、近年の大規模再 開発などの都市環境の変化に伴い、店舗街、オフィス、住宅、劇 場など様々な用途施設と複合することで、幅広い層の人たちの都 市生活における多様な活動を受容する場として変化した事例がみ られるようになった (図1) 。こうした観点から都市型ホテル建築 1) は社会における人々の活動の拠点としての建築が都市環境に如何 に浸透してきたかを考察するうえで重要な題材のひとつであると 考えられる。そこで本研究では、現代日本の都市型ホテル建築を 題材に、その用途複合と構成とを通時的に検討することで、建築 と都市環境との融合性の一端を明らかにすることを目的とする。 1-2. 資料対象  資料対象は建築専門誌 2) に戦後発表された東 京都、大阪市、名古屋市、横浜市に立地する都市型ホテル建築(全 153 資料)とする。これらの立地区分として東京都に立地するも のが全体の 2/ 3 を占めるため、資料を[東京]と[地方大都市] に大別し、さらに東京は[都心]と[都心外]とに分類した(図2)。 2. 都市型ホテル建築の用途複合の形式 研究の背景で述べたように、都市型ホテル建築はホテル 3) とし て主要な施設である宴会、料飲施設(以下、 基本集客施設)に加え、 オフィスや劇場、フィットネスなど様々な施設(以下、 追加用途施設と複合している。このことから本章では、都市型ホテル建築の施 設を基本集客施設と追加集客施設とに大別して、その用途複合の 形式から都市環境との活動的水準での関係を検討する。 2-1. ホテルの位置づけ  都市型ホテル建築には、ホテルに各種 用途が複合されたものと、ホテルが複合建築の一部となっている ものがみられため、それぞれ【多機能ホテル】、【ホテル複合】と に分類した(図3)。 2-2. 基本集客施設の複合形式   ほぼ全ての資料において宴会 施設と、ロビー階 4) に設置された料飲施設を確認できたため、基 本集客施設の複合形式としてそれらの拡張や展開を検討した。宴 会施設は大宴会場 5) の有無で分類し、また料飲施設はその配置 の単複から捉えた(図4)。 2-3. 追加用途施設の複合形式  追加用途施設をまとめたもの が図 5である。その内容 6) は、販売やサービスの提供が行われる〈商 業施設〉、文化施設や交通施設など地域の核となる〈地域中核施 設〉、オフィスや住宅のように原則特定の人に利用される〈オフィス・ 宿泊施設 宴会施設 料飲施設 プール・フィットネス ホテルロビー オフィス 料飲施設 ショールーム ギャラリー ホール ホテルエントランス 店舗群 料飲施設 基本情報 ホテル名:パークハイアット東京 建物名:新宿パークタワー 設計:丹下健三都市建築設計研究所 竣工:1994 年 4 月 敷地:東京都新宿区 ⇒ [都心外] 分析単位 建物の構成 建物の形状:〔単一マス〕 建物の分割:〔分割〕 周辺との接続形式  隣接環境要素: 交通インフラ、緑地環境⇒〔あり〕 車寄せの構成:〔大〕 用途複合の類型 〔単一マス〕 , 〔分割〕, 《混合型》 ホテルの位置づけ:【ホテル複合】 基本集客施設の複合形式 宴会施設の有無:大宴会場あり 料飲施設の配置:複数箇所にあり ⇒両施設の展開:有 追加用途施設の複合形式 追加用途施設の内容: 店舗群 ,ショールーム ⇒ 〈商業施設〉 ギャラリー,ホール  ⇒ 〈地域中核施設〉 オフィス     〈オフィス・住宅施設〉 プール・フィットネス  ⇒ 〈宿泊客用施設〉 ⇒《混合型》 2章 都市型ホテル建築の 用途複合の形式 都市環境との活動的水準での関係を検討 3章 都市型ホテル建築の 構成と接続形式 都市環境との実体的水準での関係を検討 大阪  29 名古屋 9 横浜  10 千代田 25 中央 11 港  24 区内  43 市部  2 60 45 48 図 1. 分析例 図 2. 立地区分

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Page 1: 現代日本の都市型ホテル建築の用途複合にみる都市 …Hotel, Mixed-Use Development, Infiltration, Urban Environment, Contemporary Japan 1.序 1-1.研究の背景と目的

現代日本の都市型ホテル建築の用途複合にみる都市環境との融合性

Architectural Infiltration into Urban Environment- Applications and Compositions of Mixed-Use Hotel Developments in Contemporary Japan -

奥山研究室 13M30044 安藤 鷹太郎(ANDO, Takataro)

Keywords:ホテル、複合開発、融合性、都市環境、現代日本Hotel, Mixed-Use Development, Infiltration, Urban Environment, Contemporary Japan

1. 序1-1. 研究の背景と目的  宿泊施設に宴会場やレストランなどの

都市的な機能が併設された複合施設として誕生したホテル建築

は、戦前の日本においては主に訪日外国人の宿泊全般に関わる

様々なサービスを提供する場であった。一方戦後においては高度

成長による旅行の大衆化や生活様式の西洋化、近年の大規模再

開発などの都市環境の変化に伴い、店舗街、オフィス、住宅、劇

場など様々な用途施設と複合することで、幅広い層の人たちの都

市生活における多様な活動を受容する場として変化した事例がみ

られるようになった(図1)。こうした観点から都市型ホテル建築 1)

は社会における人々の活動の拠点としての建築が都市環境に如何

に浸透してきたかを考察するうえで重要な題材のひとつであると

考えられる。そこで本研究では、現代日本の都市型ホテル建築を

題材に、その用途複合と構成とを通時的に検討することで、建築

と都市環境との融合性の一端を明らかにすることを目的とする。

1-2. 資料対象  資料対象は建築専門誌 2) に戦後発表された東

京都、大阪市、名古屋市、横浜市に立地する都市型ホテル建築(全

153 資料)とする。これらの立地区分として東京都に立地するも

のが全体の2/ 3を占めるため、資料を[東京]と[地方大都市]

に大別し、さらに東京は[都心]と[都心外]とに分類した(図2)。

2. 都市型ホテル建築の用途複合の形式 研究の背景で述べたように、都市型ホテル建築はホテル 3) とし

て主要な施設である宴会、料飲施設(以下、基本集客施設)に加え、

オフィスや劇場、フィットネスなど様々な施設(以下、追加用途施設)

と複合している。このことから本章では、都市型ホテル建築の施

設を基本集客施設と追加集客施設とに大別して、その用途複合の

形式から都市環境との活動的水準での関係を検討する。

2-1. ホテルの位置づけ  都市型ホテル建築には、ホテルに各種

用途が複合されたものと、ホテルが複合建築の一部となっている

ものがみられため、それぞれ【多機能ホテル】、【ホテル複合】と

に分類した(図3)。

2-2. 基本集客施設の複合形式   ほぼ全ての資料において宴会

施設と、ロビー階 4) に設置された料飲施設を確認できたため、基

本集客施設の複合形式としてそれらの拡張や展開を検討した。宴

会施設は大宴会場 5) の有無で分類し、また料飲施設はその配置

の単複から捉えた(図4)。

2-3. 追加用途施設の複合形式  追加用途施設をまとめたもの

が図5である。その内容6)は、販売やサービスの提供が行われる〈商

業施設〉、文化施設や交通施設など地域の核となる〈地域中核施

設〉、オフィスや住宅のように原則特定の人に利用される〈オフィス・

住宅施設〉、フィットネスや温泉など宿泊客の宿泊の質を向上させ

る〈宿泊客用施設〉の 4 つで位置づけることができた。このうち

前三者は宿泊客だけではなく、都市における様々な人々の活動を

担う施設といえることから、都市環境における活動的水準の指標と

して重要であるといえる。そこでこれら3つの組合せに着目し、追

加用途施設の複合形式を 5 つに分類した(図6)。まず、これら3

つのどれも複合しないものを《基本型》、〈商業施設〉のみと複合

するものを《商業型》と分類した。次に〈地域中核施設〉か〈オフィス・

住宅施設〉のいずれかと複合したものをそれぞれ《地域中核型》、

《オフィス・住宅型》、両施設とも複合したものを《混合型》と位

置付けた。 

2-4. 都市型ホテル建築の用途複合の形式  前節までに整理した

追加用途施設の複合形式と基本集客施設の複合形式との関係を

ホテルの位置づけと併せて検討し、都市型ホテル建築の用途複合

の形式の傾向を図6に示した。ホテルの位置づけに着目すると、《基

本型》、《商業型》は共通して【多機能ホテル】の割合が多いが、

前者は宴会場のみを展開させるものが多く、後者は宴会と料飲の

両施設を展開させる傾向がみられた。次に《混合型》、《オフィス・

住宅型》は共に【ホテル複合】が多くみられたが、前者は宴会と

料飲の両施設を展開し、後者は料飲施設を複数個所に設けるもの

が多い傾向がみられた。上述2つの傾向はそれぞれ、都市型ホ

テル建築は宿泊客に加え不特定多数の利用者を想定した際には

様々な集客機能を充実させ、オフィスや住宅のようなプライベート

な利用に特化した際には料飲施設のみ選択肢を広げ対応すると

いった、都市型ホテル建築の都市環境における活動的水準での異

なる関係の図り方の傾向を示していると考えられる。

3-3. 都市型ホテル建築の構成と周辺環境への接続形式の関係

 前節までに検討した都市型ホテル建築の構成と周辺環境への接

続形式の関係を検討した(図11)。その結果、〔基壇〕をもち追

加用途施設とホテルとが建物内で〔一体〕となった場合において、

隣接環境要素〔あり〕、車寄せ〔大〕が17資料と最多数みられた。

同様の傾向は〔複数棟〕で地上階が用途施設ごとに独立したエ

ントランスを構える場合においてもみられた。さらに〔単一マス〕

で追加用途施設とホテルとが建物として〔一体〕をなすものでは、

周囲が建物に囲まれ車寄せが〔小〕のものが過半数みられた。

これらは、ホテルとしての格式を確保した構えをとり都市空間から

自立したもの、自立したそれぞれの建物を集合させ擬似的な都市

の様相を形成し実際の都市と対峙するもの、および普遍的な建物

として実際の都市に溶け込むものといった都市環境との空間的水

準での典型的な関係性を表していると考えられる。

3-4. 都市型ホテル建築の用途複合の類型  2章の追加用途施

設の複合形式と3章の建物の構成の関係を検討し、該当資料が

集中したものを都市型ホテル建築の用途複合の類型(A から F)

として見出した(図12)。A、Bは共に《基本型》で形状が〔単一

マス〕、および〔基壇〕である。Cは〔基壇〕内に商業施設をもち、

その際ホテルとは異なるエントランスをもつ。Dは〔基壇〕をもつ

ホテルの中に地域中核施設が含まれるものである。Eは〔複数棟〕

が一体化した建物の一つにホテルが入り、それぞれが独自のエン

トランスをもつ。Fは〔単一マス〕の外見としての構えをとりなが

らも、プライベート施設とホテルとが独立して建物の中に併存して

いる。また〔単一マス〕の建物にホテルとともに〈商業施設〉や〈地

域中核施設〉が併存しているFに類似した事例もみられた(F’

とする)。

4.用途複合の類型における通時的傾向 本章では前章までに検討した都市型ホテル建築の用途複合の形

式、建物の構成、立地区分の通時的傾向 7)を検討した(図13)。

 はじめに用途複合の形式について、ホテルの位置づけの推移を

みると、80 年代以前は【多機能ホテル】が【ホテル複合】より

も極端に多い傾向がみられるが、90 年代からその割合が逆転す

る。さらに追加用途施設の複合形式の推移を検討すると、【多機

能ホテル】では、《地域中核型》は60年代から80年代にかけて

漸減すること、《基本型》は80年代にピークをとることがわかった。

また【ホテル複合】においては、90 年代、00 年代と《混合型》

が突出して多く、90 年代からは《オフィス・住宅型》が漸増傾向

にあることがわかった。

 次に建物の構成に着目する。特徴的な傾向として80年代で〔基

壇〕が増加し、その後減少する傾向、90 年代からの〔複数棟〕

の増加する傾向がみられた。〔単一マス〕では 60 年代から該当

資料数に大きな変化はみられないものの、上述の傾向と連動して

60 年代と10 年代に割合として多い傾向がみられた。次に建物の

分割に着目すると、時代を経るに従って〔分割〕が占める割合が

多くなる傾向がみられた。

 前述した用途複合の形式と建物の構成の傾向を踏まえると、【多

機能ホテル】の傾向として 60 年代から 80 年代にかけて、東京

プリンスホテルのようにホテルの〔基壇〕に《地域中核施設》を

複合したDや、ホテル・オークラにみられるような独立したエント

ランスをもつ商業施設を組み込んだ F’ から、ホテルとして特化し

た《基本型》で〔基壇〕の赤坂プリンスホテルのようなBに移っ

たと考えられる。一方【ホテル複合】では90年代における〔複数棟〕

を伴った大規模開発内での各種用途の併存を図る目黒雅叙園のよ

うなEから、近年では大手町タワーのアマン東京などにみられる

〔単一マス〕の建物内がプライベートな施設とホテルとで〔分割〕

され、その併存を図るFに傾向が移ったと推測できる。

5. 結  以上、都市型ホテル建築を対象に、用途複合の形式および建物の構成の通時的傾向を検討した。その結果、用途複合

の形式の通時的傾向として、戦後から 80年代まではホテルを中

心に不特定多数を集客する施設を複合していた(【多機能ホテル】

の《地域中核型》や大宴会場を有する《基本型》)のに対して、

90 年代以降ではプライベート性の高い施設にホテルが組み込ま

れる(【ホテル複合】の《混合型》やオフィス・住宅型)という近

年の傾向を見出した。また建物の構成の推移からは、時代を経る

にしたがって建物単位ではなく個々の施設ごとに都市環境と接続

するという傾向を見出した。これらの傾向に、都市型ホテル建築

の用途複合の類型や時代背景を照らし合わせて考察すると、戦後

からバブル期にかけて都市型ホテル建築はホテルとして高い社会

性と都市環境に対する独立した構えをもち、その後 90 年代から

は都心の複合開発や地方の大規模開発などの増加に伴って、ホ

テル用途が建築内の一施設として位置づき、都市環境から認識し

にくい隠れた存在へと変化したという都市型ホテル建築の都市環

境との融合性の2つの傾向とその通時的な変遷を明らかにした。

3. 都市型ホテル建築の構成と接続形式 本章では都市型ホテル建築と周辺の都市環境との実体的水準で

の関係を、建物の構成と周辺環境への接続形式から検討する。

3-1. 都市型ホテル建築の構成

3-1-1. 建物の形状  都市型ホテル建築を一つの建物で成立して

いる〔単数棟〕と、複数の建物が一つのヴォリュームとして成立し

ている〔複数棟〕とに大別した。また〔単数棟〕では、建物全体

を都市と関係づける構えと基壇を介して都市に相対する構えとが

みられたため、それぞれ〔単一マス〕と〔基壇〕とに分類した(図7)。

3-1-2. 建物の分割  追加用途施設を複合したことで都市型ホテ

ル建築は建物の内部に複数のビルディングタイプが共存していると

考えられる。そこで動線的に完結した用途施設による機能的な建

物の分割を追加用途施設とホテルとが地上階を共有するか否かか

ら検討した。地上階にホテルのロビーや建物としての共用のアトリ

ウムなどを有するものを〔一体〕、追加用途施設に対してホテルと

異なるエントランスを設けるものを〔分割〕として位置づけた(図8)。

3-2. 都市型ホテル建築の周辺環境との接続形式

3-2-1. 隣接環境要素  都市型ホテル建築が隣接する線的、面

的な環境要素の有無を周辺環境からの独立性として検討した。水

辺環境(河川や堀など)、緑地環境(公園や寺社など)、交通イ

ンフラ(線路や高速道路など)と隣接するものを隣接環境要素が

あるものとして捉えた(図9)。

3-2-2. ホテルの車寄せの大きさ  ホテルエントランスに面する

車寄せの大きさを、周辺から距離を取ることで都市型ホテル建築

の格式を確保したと考えられる〔大〕と、距離が近く周辺と一体と

なった建ち方をしていると考えられる〔小〕に大別した(図10)。

宿泊施設宴会施設料飲施設プー ル・フィットネスホテルロビーオフィス料飲施設ショールームギャラリーホールホテルエントランス店舗群料飲施設

基本情報ホテル名:パークハイアット東京建物名:新宿パークタワー設計:丹下健三都市建築設計研究所竣工:1994 年 4 月敷地:東京都新宿区 ⇒ [都心外]

分析単位

■建物の構成建物の形状:〔単一マス〕建物の分割:〔分割〕

■周辺との接続形式 隣接環境要素:交通インフラ、緑地環境⇒〔あり〕車寄せの構成:〔大〕

■用途複合の類型〔単一マス〕,〔分割〕,《混合型》

⇒宿泊客用施設⇒プライベート施設⇒商業施設⇒地域中核施設⇒商業施設

■ホテルの位置づけ:【ホテル複合】

■基本集客施設の複合形式宴会施設の有無:大宴会場あり料飲施設の配置:複数箇所にあり

⇒両施設の展開:有

■追加用途施設の複合形式追加用途施設の内容:店舗群 ,ショールーム ⇒ 〈商業施設〉ギャラリー,ホール  ⇒ 〈地域中核施設〉オフィス     ⇒ 〈オフィス・住宅施設〉プール・フィットネス  ⇒ 〈宿泊客用施設〉

⇒《混合型》

2章  都市型ホテル建築の    用途複合の形式

都市環境との活動的水準での関係を検討

3章 都市型ホテル建築の   構成と接続形式

都市環境との実体的水準での関係を検討

﹇東京﹈

﹇都心﹈

﹇都心外﹈

﹇地方大都市﹈

大阪  29名古屋 9横浜  10

千代田 25中央  11港   24

区内  43市部  2

60

45

48図 1. 分析例 図 2. 立地区分

Page 2: 現代日本の都市型ホテル建築の用途複合にみる都市 …Hotel, Mixed-Use Development, Infiltration, Urban Environment, Contemporary Japan 1.序 1-1.研究の背景と目的

1. 序1-1. 研究の背景と目的  宿泊施設に宴会場やレストランなどの

都市的な機能が併設された複合施設として誕生したホテル建築

は、戦前の日本においては主に訪日外国人の宿泊全般に関わる

様々なサービスを提供する場であった。一方戦後においては高度

成長による旅行の大衆化や生活様式の西洋化、近年の大規模再

開発などの都市環境の変化に伴い、店舗街、オフィス、住宅、劇

場など様々な用途施設と複合することで、幅広い層の人たちの都

市生活における多様な活動を受容する場として変化した事例がみ

られるようになった(図1)。こうした観点から都市型ホテル建築 1)

は社会における人々の活動の拠点としての建築が都市環境に如何

に浸透してきたかを考察するうえで重要な題材のひとつであると

考えられる。そこで本研究では、現代日本の都市型ホテル建築を

題材に、その用途複合と構成とを通時的に検討することで、建築

と都市環境との融合性の一端を明らかにすることを目的とする。

1-2. 資料対象  資料対象は建築専門誌 2) に戦後発表された東

京都、大阪市、名古屋市、横浜市に立地する都市型ホテル建築(全

153 資料)とする。これらの立地区分として東京都に立地するも

のが全体の2/ 3を占めるため、資料を[東京]と[地方大都市]

に大別し、さらに東京は[都心]と[都心外]とに分類した(図2)。

2. 都市型ホテル建築の用途複合の形式 研究の背景で述べたように、都市型ホテル建築はホテル 3) とし

て主要な施設である宴会、料飲施設(以下、基本集客施設)に加え、

オフィスや劇場、フィットネスなど様々な施設(以下、追加用途施設)

と複合している。このことから本章では、都市型ホテル建築の施

設を基本集客施設と追加集客施設とに大別して、その用途複合の

形式から都市環境との活動的水準での関係を検討する。

2-1. ホテルの位置づけ  都市型ホテル建築には、ホテルに各種

用途が複合されたものと、ホテルが複合建築の一部となっている

ものがみられため、それぞれ【多機能ホテル】、【ホテル複合】と

に分類した(図3)。

2-2. 基本集客施設の複合形式   ほぼ全ての資料において宴会

施設と、ロビー階 4) に設置された料飲施設を確認できたため、基

本集客施設の複合形式としてそれらの拡張や展開を検討した。宴

会施設は大宴会場 5) の有無で分類し、また料飲施設はその配置

の単複から捉えた(図4)。

2-3. 追加用途施設の複合形式  追加用途施設をまとめたもの

が図5である。その内容6)は、販売やサービスの提供が行われる〈商

業施設〉、文化施設や交通施設など地域の核となる〈地域中核施

設〉、オフィスや住宅のように原則特定の人に利用される〈オフィス・

住宅施設〉、フィットネスや温泉など宿泊客の宿泊の質を向上させ

る〈宿泊客用施設〉の 4 つで位置づけることができた。このうち

前三者は宿泊客だけではなく、都市における様々な人々の活動を

担う施設といえることから、都市環境における活動的水準の指標と

して重要であるといえる。そこでこれら3つの組合せに着目し、追

加用途施設の複合形式を 5 つに分類した(図6)。まず、これら3

つのどれも複合しないものを《基本型》、〈商業施設〉のみと複合

するものを《商業型》と分類した。次に〈地域中核施設〉か〈オフィス・

住宅施設〉のいずれかと複合したものをそれぞれ《地域中核型》、

《オフィス・住宅型》、両施設とも複合したものを《混合型》と位

置付けた。 

2-4. 都市型ホテル建築の用途複合の形式  前節までに整理した

追加用途施設の複合形式と基本集客施設の複合形式との関係を

ホテルの位置づけと併せて検討し、都市型ホテル建築の用途複合

の形式の傾向を図6に示した。ホテルの位置づけに着目すると、《基

本型》、《商業型》は共通して【多機能ホテル】の割合が多いが、

前者は宴会場のみを展開させるものが多く、後者は宴会と料飲の

両施設を展開させる傾向がみられた。次に《混合型》、《オフィス・

住宅型》は共に【ホテル複合】が多くみられたが、前者は宴会と

料飲の両施設を展開し、後者は料飲施設を複数個所に設けるもの

が多い傾向がみられた。上述2つの傾向はそれぞれ、都市型ホ

テル建築は宿泊客に加え不特定多数の利用者を想定した際には

様々な集客機能を充実させ、オフィスや住宅のようなプライベート

な利用に特化した際には料飲施設のみ選択肢を広げ対応すると

いった、都市型ホテル建築の都市環境における活動的水準での異

なる関係の図り方の傾向を示していると考えられる。

3-3. 都市型ホテル建築の構成と周辺環境への接続形式の関係

 前節までに検討した都市型ホテル建築の構成と周辺環境への接

続形式の関係を検討した(図11)。その結果、〔基壇〕をもち追

加用途施設とホテルとが建物内で〔一体〕となった場合において、

隣接環境要素〔あり〕、車寄せ〔大〕が17資料と最多数みられた。

同様の傾向は〔複数棟〕で地上階が用途施設ごとに独立したエ

ントランスを構える場合においてもみられた。さらに〔単一マス〕

で追加用途施設とホテルとが建物として〔一体〕をなすものでは、

周囲が建物に囲まれ車寄せが〔小〕のものが過半数みられた。

これらは、ホテルとしての格式を確保した構えをとり都市空間から

自立したもの、自立したそれぞれの建物を集合させ擬似的な都市

の様相を形成し実際の都市と対峙するもの、および普遍的な建物

として実際の都市に溶け込むものといった都市環境との空間的水

準での典型的な関係性を表していると考えられる。

3-4. 都市型ホテル建築の用途複合の類型  2章の追加用途施

設の複合形式と3章の建物の構成の関係を検討し、該当資料が

集中したものを都市型ホテル建築の用途複合の類型(A から F)

として見出した(図12)。A、Bは共に《基本型》で形状が〔単一

マス〕、および〔基壇〕である。Cは〔基壇〕内に商業施設をもち、

その際ホテルとは異なるエントランスをもつ。Dは〔基壇〕をもつ

ホテルの中に地域中核施設が含まれるものである。Eは〔複数棟〕

が一体化した建物の一つにホテルが入り、それぞれが独自のエン

トランスをもつ。Fは〔単一マス〕の外見としての構えをとりなが

らも、プライベート施設とホテルとが独立して建物の中に併存して

いる。また〔単一マス〕の建物にホテルとともに〈商業施設〉や〈地

域中核施設〉が併存しているFに類似した事例もみられた(F’

とする)。

4.用途複合の類型における通時的傾向 本章では前章までに検討した都市型ホテル建築の用途複合の形

式、建物の構成、立地区分の通時的傾向 7)を検討した(図13)。

 はじめに用途複合の形式について、ホテルの位置づけの推移を

みると、80 年代以前は【多機能ホテル】が【ホテル複合】より

も極端に多い傾向がみられるが、90 年代からその割合が逆転す

る。さらに追加用途施設の複合形式の推移を検討すると、【多機

能ホテル】では、《地域中核型》は60年代から80年代にかけて

漸減すること、《基本型》は80年代にピークをとることがわかった。

また【ホテル複合】においては、90 年代、00 年代と《混合型》

が突出して多く、90 年代からは《オフィス・住宅型》が漸増傾向

にあることがわかった。

 次に建物の構成に着目する。特徴的な傾向として80年代で〔基

壇〕が増加し、その後減少する傾向、90 年代からの〔複数棟〕

の増加する傾向がみられた。〔単一マス〕では 60 年代から該当

資料数に大きな変化はみられないものの、上述の傾向と連動して

60 年代と10 年代に割合として多い傾向がみられた。次に建物の

分割に着目すると、時代を経るに従って〔分割〕が占める割合が

多くなる傾向がみられた。

 前述した用途複合の形式と建物の構成の傾向を踏まえると、【多

機能ホテル】の傾向として 60 年代から 80 年代にかけて、東京

プリンスホテルのようにホテルの〔基壇〕に《地域中核施設》を

複合したDや、ホテル・オークラにみられるような独立したエント

ランスをもつ商業施設を組み込んだ F’ から、ホテルとして特化し

た《基本型》で〔基壇〕の赤坂プリンスホテルのようなBに移っ

たと考えられる。一方【ホテル複合】では90年代における〔複数棟〕

を伴った大規模開発内での各種用途の併存を図る目黒雅叙園のよ

うなEから、近年では大手町タワーのアマン東京などにみられる

〔単一マス〕の建物内がプライベートな施設とホテルとで〔分割〕

され、その併存を図るFに傾向が移ったと推測できる。

5. 結  以上、都市型ホテル建築を対象に、用途複合の形式および建物の構成の通時的傾向を検討した。その結果、用途複合

の形式の通時的傾向として、戦後から 80年代まではホテルを中

心に不特定多数を集客する施設を複合していた(【多機能ホテル】

の《地域中核型》や大宴会場を有する《基本型》)のに対して、

90 年代以降ではプライベート性の高い施設にホテルが組み込ま

れる(【ホテル複合】の《混合型》やオフィス・住宅型)という近

年の傾向を見出した。また建物の構成の推移からは、時代を経る

にしたがって建物単位ではなく個々の施設ごとに都市環境と接続

するという傾向を見出した。これらの傾向に、都市型ホテル建築

の用途複合の類型や時代背景を照らし合わせて考察すると、戦後

からバブル期にかけて都市型ホテル建築はホテルとして高い社会

性と都市環境に対する独立した構えをもち、その後 90 年代から

は都心の複合開発や地方の大規模開発などの増加に伴って、ホ

テル用途が建築内の一施設として位置づき、都市環境から認識し

にくい隠れた存在へと変化したという都市型ホテル建築の都市環

境との融合性の2つの傾向とその通時的な変遷を明らかにした。

3. 都市型ホテル建築の構成と接続形式 本章では都市型ホテル建築と周辺の都市環境との実体的水準で

の関係を、建物の構成と周辺環境への接続形式から検討する。

3-1. 都市型ホテル建築の構成

3-1-1. 建物の形状  都市型ホテル建築を一つの建物で成立して

いる〔単数棟〕と、複数の建物が一つのヴォリュームとして成立し

ている〔複数棟〕とに大別した。また〔単数棟〕では、建物全体

を都市と関係づける構えと基壇を介して都市に相対する構えとが

みられたため、それぞれ〔単一マス〕と〔基壇〕とに分類した(図7)。

3-1-2. 建物の分割  追加用途施設を複合したことで都市型ホテ

ル建築は建物の内部に複数のビルディングタイプが共存していると

考えられる。そこで動線的に完結した用途施設による機能的な建

物の分割を追加用途施設とホテルとが地上階を共有するか否かか

ら検討した。地上階にホテルのロビーや建物としての共用のアトリ

ウムなどを有するものを〔一体〕、追加用途施設に対してホテルと

異なるエントランスを設けるものを〔分割〕として位置づけた(図8)。

3-2. 都市型ホテル建築の周辺環境との接続形式

3-2-1. 隣接環境要素  都市型ホテル建築が隣接する線的、面

的な環境要素の有無を周辺環境からの独立性として検討した。水

辺環境(河川や堀など)、緑地環境(公園や寺社など)、交通イ

ンフラ(線路や高速道路など)と隣接するものを隣接環境要素が

あるものとして捉えた(図9)。

3-2-2. ホテルの車寄せの大きさ  ホテルエントランスに面する

車寄せの大きさを、周辺から距離を取ることで都市型ホテル建築

の格式を確保したと考えられる〔大〕と、距離が近く周辺と一体と

なった建ち方をしていると考えられる〔小〕に大別した(図10)。

Ⅲ地域中核型

Ⅱ商業型

Ⅰ基本型

分類名

Ⅴオフィス・住宅型

Ⅳ混合型

◆あり・■なし

●のみあり

■なし

◆なし・■あり

あり

なし

基本集客施設の複合形式

註:カッコ内は建物や施設名を表す

宴会場のみ展開

料飲のみ展開

両施設の展開:有

両施設の

展開:無

準 具体例

グランドハイアット東京( 六本木ヒルズ)

大阪マリオット都ホテル(あべのハルカス)

ヨコハマ ロイヤルパーク ホテル(横浜ランドマークタワー)

アマン東京 ( 大手町タワー)丸の内ホテル( 丸の内オアゾ)フョーシーズンズホテル 丸の内

赤坂東急ホテル

フョーシーズンズホテル 椿山荘東京ステーションホテル ( 東京駅 )都ホテル 大阪ホテル グレイスリー 新宿

( 新宿東宝ビル) 

ザ・ペニンシュラ東京帝国ホテル 新館ホテル オークラ東京全日空ホテル (アークヒルス )゙新宿ワシントン ホテル

高輪プリンスホテル さくらタワーホテル日航東京新高輪プリンスホテル都ホテル 東京ウェスティンホテル大阪

・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

38

32

28

29

26 多機能ホテル ホテル複合

17

1

6 3

7 14 2

6 7 4

5 1

3

1

2 5 3

1 1

3 18 5

3

3 1

1

3 2

3 9 2

4

7

(ハ シ゚フィック センチュリーフ レ゚イス丸の内)

図 3. ホテルの位置づけ

など など

図 4. 基本集客施設の複合形式

図 5. 追加用途施設の内容と分類

80

85

17

ショッピングアーケードショッピングモールショールーム百貨店量販店

銀行証券医療施設

その他

基本集客施設以外で主に販売やサービス提供が行われる施設

店舗群

商業施設○ 57

10

53美術館 , 図書館音楽ホール, 舞台展望台

アミュー ズ メント施設映画館

文化施設娯楽施設

交通施設駅

船着き場バスターミナル

公益性が高く、地域の中核としての機能する施設

地域中核施設◇

オフィス

55

47

15

貸オフィス事務室シェア・オフィス実験場

住宅賃貸住宅分譲住宅

サービス付アパートメント

特定の利用者に限定され、宿泊客の利用が前提とされていない施設

オフィス・住宅施設□ 92

その他温泉 ,サウナ会員制クラブ観光案内所

65

4920

フィットネスプールスポーツジムテニスコート

運動施設

庭園

宿泊客用施設

ホテルの宿泊客の宿泊体験を豊かにすることに主眼が置かれた施設

料飲施設 ロビー周辺のみ 94 59

大宴会場

大宴会場

45

108

料飲施設 複数箇所にあり

両施設の展開:有 宴会場のみ展開

両施設の展開:無料飲のみ展開

大宴会場の有無

料飲施設の配置

66 42

1728

多機能ホテル

ホテルが様々な施設を複合

ホテルが様々な施設と複合

ホテル複合89 64

office

SHOP

CUlture

CUltureSHOP

office

図 6. 追加用途施設の複合形式と基本集客施設の複合形式との関係図 5. 追加用途施設の内容

Page 3: 現代日本の都市型ホテル建築の用途複合にみる都市 …Hotel, Mixed-Use Development, Infiltration, Urban Environment, Contemporary Japan 1.序 1-1.研究の背景と目的

1. 序1-1. 研究の背景と目的  宿泊施設に宴会場やレストランなどの

都市的な機能が併設された複合施設として誕生したホテル建築

は、戦前の日本においては主に訪日外国人の宿泊全般に関わる

様々なサービスを提供する場であった。一方戦後においては高度

成長による旅行の大衆化や生活様式の西洋化、近年の大規模再

開発などの都市環境の変化に伴い、店舗街、オフィス、住宅、劇

場など様々な用途施設と複合することで、幅広い層の人たちの都

市生活における多様な活動を受容する場として変化した事例がみ

られるようになった(図1)。こうした観点から都市型ホテル建築 1)

は社会における人々の活動の拠点としての建築が都市環境に如何

に浸透してきたかを考察するうえで重要な題材のひとつであると

考えられる。そこで本研究では、現代日本の都市型ホテル建築を

題材に、その用途複合と構成とを通時的に検討することで、建築

と都市環境との融合性の一端を明らかにすることを目的とする。

1-2. 資料対象  資料対象は建築専門誌 2) に戦後発表された東

京都、大阪市、名古屋市、横浜市に立地する都市型ホテル建築(全

153 資料)とする。これらの立地区分として東京都に立地するも

のが全体の2/ 3を占めるため、資料を[東京]と[地方大都市]

に大別し、さらに東京は[都心]と[都心外]とに分類した(図2)。

2. 都市型ホテル建築の用途複合の形式 研究の背景で述べたように、都市型ホテル建築はホテル 3) とし

て主要な施設である宴会、料飲施設(以下、基本集客施設)に加え、

オフィスや劇場、フィットネスなど様々な施設(以下、追加用途施設)

と複合している。このことから本章では、都市型ホテル建築の施

設を基本集客施設と追加集客施設とに大別して、その用途複合の

形式から都市環境との活動的水準での関係を検討する。

2-1. ホテルの位置づけ  都市型ホテル建築には、ホテルに各種

用途が複合されたものと、ホテルが複合建築の一部となっている

ものがみられため、それぞれ【多機能ホテル】、【ホテル複合】と

に分類した(図3)。

2-2. 基本集客施設の複合形式   ほぼ全ての資料において宴会

施設と、ロビー階 4) に設置された料飲施設を確認できたため、基

本集客施設の複合形式としてそれらの拡張や展開を検討した。宴

会施設は大宴会場 5) の有無で分類し、また料飲施設はその配置

の単複から捉えた(図4)。

2-3. 追加用途施設の複合形式  追加用途施設をまとめたもの

が図5である。その内容6)は、販売やサービスの提供が行われる〈商

業施設〉、文化施設や交通施設など地域の核となる〈地域中核施

設〉、オフィスや住宅のように原則特定の人に利用される〈オフィス・

住宅施設〉、フィットネスや温泉など宿泊客の宿泊の質を向上させ

る〈宿泊客用施設〉の 4 つで位置づけることができた。このうち

前三者は宿泊客だけではなく、都市における様々な人々の活動を

担う施設といえることから、都市環境における活動的水準の指標と

して重要であるといえる。そこでこれら3つの組合せに着目し、追

加用途施設の複合形式を 5 つに分類した(図6)。まず、これら3

つのどれも複合しないものを《基本型》、〈商業施設〉のみと複合

するものを《商業型》と分類した。次に〈地域中核施設〉か〈オフィス・

住宅施設〉のいずれかと複合したものをそれぞれ《地域中核型》、

《オフィス・住宅型》、両施設とも複合したものを《混合型》と位

置付けた。 

2-4. 都市型ホテル建築の用途複合の形式  前節までに整理した

追加用途施設の複合形式と基本集客施設の複合形式との関係を

ホテルの位置づけと併せて検討し、都市型ホテル建築の用途複合

の形式の傾向を図6に示した。ホテルの位置づけに着目すると、《基

本型》、《商業型》は共通して【多機能ホテル】の割合が多いが、

前者は宴会場のみを展開させるものが多く、後者は宴会と料飲の

両施設を展開させる傾向がみられた。次に《混合型》、《オフィス・

住宅型》は共に【ホテル複合】が多くみられたが、前者は宴会と

料飲の両施設を展開し、後者は料飲施設を複数個所に設けるもの

が多い傾向がみられた。上述2つの傾向はそれぞれ、都市型ホ

テル建築は宿泊客に加え不特定多数の利用者を想定した際には

様々な集客機能を充実させ、オフィスや住宅のようなプライベート

な利用に特化した際には料飲施設のみ選択肢を広げ対応すると

いった、都市型ホテル建築の都市環境における活動的水準での異

なる関係の図り方の傾向を示していると考えられる。

3-3. 都市型ホテル建築の構成と周辺環境への接続形式の関係

 前節までに検討した都市型ホテル建築の構成と周辺環境への接

続形式の関係を検討した(図11)。その結果、〔基壇〕をもち追

加用途施設とホテルとが建物内で〔一体〕となった場合において、

隣接環境要素〔あり〕、車寄せ〔大〕が17資料と最多数みられた。

同様の傾向は〔複数棟〕で地上階が用途施設ごとに独立したエ

ントランスを構える場合においてもみられた。さらに〔単一マス〕

で追加用途施設とホテルとが建物として〔一体〕をなすものでは、

周囲が建物に囲まれ車寄せが〔小〕のものが過半数みられた。

これらは、ホテルとしての格式を確保した構えをとり都市空間から

自立したもの、自立したそれぞれの建物を集合させ擬似的な都市

の様相を形成し実際の都市と対峙するもの、および普遍的な建物

として実際の都市に溶け込むものといった都市環境との空間的水

準での典型的な関係性を表していると考えられる。

3-4. 都市型ホテル建築の用途複合の類型  2章の追加用途施

設の複合形式と3章の建物の構成の関係を検討し、該当資料が

集中したものを都市型ホテル建築の用途複合の類型(A から F)

として見出した(図12)。A、Bは共に《基本型》で形状が〔単一

マス〕、および〔基壇〕である。Cは〔基壇〕内に商業施設をもち、

その際ホテルとは異なるエントランスをもつ。Dは〔基壇〕をもつ

ホテルの中に地域中核施設が含まれるものである。Eは〔複数棟〕

が一体化した建物の一つにホテルが入り、それぞれが独自のエン

トランスをもつ。Fは〔単一マス〕の外見としての構えをとりなが

らも、プライベート施設とホテルとが独立して建物の中に併存して

いる。また〔単一マス〕の建物にホテルとともに〈商業施設〉や〈地

域中核施設〉が併存しているFに類似した事例もみられた(F’

とする)。

4.用途複合の類型における通時的傾向 本章では前章までに検討した都市型ホテル建築の用途複合の形

式、建物の構成、立地区分の通時的傾向 7)を検討した(図13)。

 はじめに用途複合の形式について、ホテルの位置づけの推移を

みると、80 年代以前は【多機能ホテル】が【ホテル複合】より

も極端に多い傾向がみられるが、90 年代からその割合が逆転す

る。さらに追加用途施設の複合形式の推移を検討すると、【多機

能ホテル】では、《地域中核型》は60年代から80年代にかけて

漸減すること、《基本型》は80年代にピークをとることがわかった。

また【ホテル複合】においては、90 年代、00 年代と《混合型》

が突出して多く、90 年代からは《オフィス・住宅型》が漸増傾向

にあることがわかった。

 次に建物の構成に着目する。特徴的な傾向として80年代で〔基

壇〕が増加し、その後減少する傾向、90 年代からの〔複数棟〕

の増加する傾向がみられた。〔単一マス〕では 60 年代から該当

資料数に大きな変化はみられないものの、上述の傾向と連動して

60 年代と10 年代に割合として多い傾向がみられた。次に建物の

分割に着目すると、時代を経るに従って〔分割〕が占める割合が

多くなる傾向がみられた。

 前述した用途複合の形式と建物の構成の傾向を踏まえると、【多

機能ホテル】の傾向として 60 年代から 80 年代にかけて、東京

プリンスホテルのようにホテルの〔基壇〕に《地域中核施設》を

複合したDや、ホテル・オークラにみられるような独立したエント

ランスをもつ商業施設を組み込んだ F’ から、ホテルとして特化し

た《基本型》で〔基壇〕の赤坂プリンスホテルのようなBに移っ

たと考えられる。一方【ホテル複合】では90年代における〔複数棟〕

を伴った大規模開発内での各種用途の併存を図る目黒雅叙園のよ

うなEから、近年では大手町タワーのアマン東京などにみられる

〔単一マス〕の建物内がプライベートな施設とホテルとで〔分割〕

され、その併存を図るFに傾向が移ったと推測できる。

5. 結  以上、都市型ホテル建築を対象に、用途複合の形式および建物の構成の通時的傾向を検討した。その結果、用途複合

の形式の通時的傾向として、戦後から 80年代まではホテルを中

心に不特定多数を集客する施設を複合していた(【多機能ホテル】

の《地域中核型》や大宴会場を有する《基本型》)のに対して、

90 年代以降ではプライベート性の高い施設にホテルが組み込ま

れる(【ホテル複合】の《混合型》やオフィス・住宅型)という近

年の傾向を見出した。また建物の構成の推移からは、時代を経る

にしたがって建物単位ではなく個々の施設ごとに都市環境と接続

するという傾向を見出した。これらの傾向に、都市型ホテル建築

の用途複合の類型や時代背景を照らし合わせて考察すると、戦後

からバブル期にかけて都市型ホテル建築はホテルとして高い社会

性と都市環境に対する独立した構えをもち、その後 90 年代から

は都心の複合開発や地方の大規模開発などの増加に伴って、ホ

テル用途が建築内の一施設として位置づき、都市環境から認識し

にくい隠れた存在へと変化したという都市型ホテル建築の都市環

境との融合性の2つの傾向とその通時的な変遷を明らかにした。

3. 都市型ホテル建築の構成と接続形式 本章では都市型ホテル建築と周辺の都市環境との実体的水準で

の関係を、建物の構成と周辺環境への接続形式から検討する。

3-1. 都市型ホテル建築の構成

3-1-1. 建物の形状  都市型ホテル建築を一つの建物で成立して

いる〔単数棟〕と、複数の建物が一つのヴォリュームとして成立し

ている〔複数棟〕とに大別した。また〔単数棟〕では、建物全体

を都市と関係づける構えと基壇を介して都市に相対する構えとが

みられたため、それぞれ〔単一マス〕と〔基壇〕とに分類した(図7)。

3-1-2. 建物の分割  追加用途施設を複合したことで都市型ホテ

ル建築は建物の内部に複数のビルディングタイプが共存していると

考えられる。そこで動線的に完結した用途施設による機能的な建

物の分割を追加用途施設とホテルとが地上階を共有するか否かか

ら検討した。地上階にホテルのロビーや建物としての共用のアトリ

ウムなどを有するものを〔一体〕、追加用途施設に対してホテルと

異なるエントランスを設けるものを〔分割〕として位置づけた(図8)。

3-2. 都市型ホテル建築の周辺環境との接続形式

3-2-1. 隣接環境要素  都市型ホテル建築が隣接する線的、面

的な環境要素の有無を周辺環境からの独立性として検討した。水

辺環境(河川や堀など)、緑地環境(公園や寺社など)、交通イ

ンフラ(線路や高速道路など)と隣接するものを隣接環境要素が

あるものとして捉えた(図9)。

3-2-2. ホテルの車寄せの大きさ  ホテルエントランスに面する

車寄せの大きさを、周辺から距離を取ることで都市型ホテル建築

の格式を確保したと考えられる〔大〕と、距離が近く周辺と一体と

なった建ち方をしていると考えられる〔小〕に大別した(図10)。

10

4 6

6

2

14 7

5 4

9

17

9

1 2 1 3

5

912

9

1 4

4

9

28

35

39

26

7

18

地上階に共有空間あり

〔一体〕

地上階が施設ごとに独立

〔分割〕

74 79 図 8. 建物の分割

図 7. 建物の形状

図 10. 車寄せの大きさ

図 9. 隣接環境要素

〔なし〕隣接環境要素〔あり〕交通インフラ水辺環境 緑地環境

64 89

単数棟〔単一マス〕 〔基壇〕 〔複数棟〕

25 65 63

〔大〕 〔小〕小 無

68 85

註 : 道路とエントランスの間に駐車場や植栽、噴水などがあるもの

〔基壇〕建物の形状

〔複数棟〕〔単一マス〕

〔一体〕

〔大〕

〔小〕

〔大〕

〔小〕

〔分割〕

建物の分割

車寄せの大きさ

〔あり〕隣接環境要素

〔なし〕 〔あり〕 〔なし〕 〔あり〕 〔なし〕

地域中核型

Ⅱ商業型

Ⅰ基本型

オフィス・住宅型

Ⅳ混合型

建物の構成〔単一マス〕〔基壇〕〔複数棟〕 〔一体〕

〔分割〕

構成

用途複合

都市型ホテル建築の用途複合の類型

AB

B

CC D

D

EE

F

F商業型地域中核型 プライベート型

混合型分割一体

基壇・一体基本型

単一マス・一体基本型

基壇・一体地域中核型

基壇・分割商業型

複数棟・分割混合型

単一マス・分割オフィス・住宅型

凡例

F’

F’

18 18 2

2 5 1

8 13 3

3 11 1

9 5 0

5 5 13

2 2 2

13 3 2

4 3 1

図 11. 建物の構成と周辺環境への接続との関係 図 12. 都市型ホテル建築の用途複合の類型

Page 4: 現代日本の都市型ホテル建築の用途複合にみる都市 …Hotel, Mixed-Use Development, Infiltration, Urban Environment, Contemporary Japan 1.序 1-1.研究の背景と目的

註:1)『都市型ホテル建築』とは市街地に建ち宿泊施設に加え 2つ以上の用途施設を複合したものと定義した。 2) 建築専門誌のうち新建築、近代建築の 1946 年から 2015 年 8月号を対象とした。 3) 建築大辞典第二版では『ホテル』を『一般には…行き届いた設備と高級な食事、宴会のできる施設   をもつ』と述べられている。ここでは宿泊、宴会、料飲施設をホテルの主要な施設として扱う。 4) 建築大辞典第二版では『ロビーフロア』を『ホテルにおけるロビーのある階。…エントランスホール、   フロント、クロークを持ち、…などがある。』と説明されている。ここではそのためエントランスとし  ての空間はロビー階として扱わない。 5) 大宴会場を 100 ㎡以上、もしくは『大宴会場』と記載されているものと定義する。 6) ここでは付属的な施設(宴会場に併設されるチャペルや撮影スタジオなど)は除いている。 7) 通時的傾向の時代区分は 50年代の資料が 2資料であったため、数的バランスを考慮し 50年代は    60 年代に含み扱っている。 既往研究:・田村正 : 複合建築のホテルの増加 - その 3. 空間構成上の特徴 -, 宮城事業構想学紀要第 8号 ,2006・毛谷村英治 , 巽和夫 , 高田光雄 : ホテル建築の複合化に関する研究 - その 2.ホテルの類型と特性 -, 建 築学会近畿支部研究報告集 , 1993・勝木祐仁 , 篠野志郎 : 大正・昭和初期におけるホテルの概念の展開 - 都市施設としてみた日本のホテルの史的研究 -, 日本建築学会計画系論文集 第 520 号 ,1999 参考文献:・ニコラウス・ペブスナー, 越野武 訳 ; 建築タイプの歴史〈2〉ホテルから工場まで , 中央公論美術出版 ,2015・長谷川堯 : 日本ホテル館物語 , プレジデント社 ,1994

1. 序1-1. 研究の背景と目的  宿泊施設に宴会場やレストランなどの

都市的な機能が併設された複合施設として誕生したホテル建築

は、戦前の日本においては主に訪日外国人の宿泊全般に関わる

様々なサービスを提供する場であった。一方戦後においては高度

成長による旅行の大衆化や生活様式の西洋化、近年の大規模再

開発などの都市環境の変化に伴い、店舗街、オフィス、住宅、劇

場など様々な用途施設と複合することで、幅広い層の人たちの都

市生活における多様な活動を受容する場として変化した事例がみ

られるようになった(図1)。こうした観点から都市型ホテル建築 1)

は社会における人々の活動の拠点としての建築が都市環境に如何

に浸透してきたかを考察するうえで重要な題材のひとつであると

考えられる。そこで本研究では、現代日本の都市型ホテル建築を

題材に、その用途複合と構成とを通時的に検討することで、建築

と都市環境との融合性の一端を明らかにすることを目的とする。

1-2. 資料対象  資料対象は建築専門誌 2) に戦後発表された東

京都、大阪市、名古屋市、横浜市に立地する都市型ホテル建築(全

153 資料)とする。これらの立地区分として東京都に立地するも

のが全体の2/ 3を占めるため、資料を[東京]と[地方大都市]

に大別し、さらに東京は[都心]と[都心外]とに分類した(図2)。

2. 都市型ホテル建築の用途複合の形式 研究の背景で述べたように、都市型ホテル建築はホテル 3) とし

て主要な施設である宴会、料飲施設(以下、基本集客施設)に加え、

オフィスや劇場、フィットネスなど様々な施設(以下、追加用途施設)

と複合している。このことから本章では、都市型ホテル建築の施

設を基本集客施設と追加集客施設とに大別して、その用途複合の

形式から都市環境との活動的水準での関係を検討する。

2-1. ホテルの位置づけ  都市型ホテル建築には、ホテルに各種

用途が複合されたものと、ホテルが複合建築の一部となっている

ものがみられため、それぞれ【多機能ホテル】、【ホテル複合】と

に分類した(図3)。

2-2. 基本集客施設の複合形式   ほぼ全ての資料において宴会

施設と、ロビー階 4) に設置された料飲施設を確認できたため、基

本集客施設の複合形式としてそれらの拡張や展開を検討した。宴

会施設は大宴会場 5) の有無で分類し、また料飲施設はその配置

の単複から捉えた(図4)。

2-3. 追加用途施設の複合形式  追加用途施設をまとめたもの

が図5である。その内容6)は、販売やサービスの提供が行われる〈商

業施設〉、文化施設や交通施設など地域の核となる〈地域中核施

設〉、オフィスや住宅のように原則特定の人に利用される〈オフィス・

住宅施設〉、フィットネスや温泉など宿泊客の宿泊の質を向上させ

る〈宿泊客用施設〉の 4 つで位置づけることができた。このうち

前三者は宿泊客だけではなく、都市における様々な人々の活動を

担う施設といえることから、都市環境における活動的水準の指標と

して重要であるといえる。そこでこれら3つの組合せに着目し、追

加用途施設の複合形式を 5 つに分類した(図6)。まず、これら3

つのどれも複合しないものを《基本型》、〈商業施設〉のみと複合

するものを《商業型》と分類した。次に〈地域中核施設〉か〈オフィス・

住宅施設〉のいずれかと複合したものをそれぞれ《地域中核型》、

《オフィス・住宅型》、両施設とも複合したものを《混合型》と位

置付けた。 

2-4. 都市型ホテル建築の用途複合の形式  前節までに整理した

追加用途施設の複合形式と基本集客施設の複合形式との関係を

ホテルの位置づけと併せて検討し、都市型ホテル建築の用途複合

の形式の傾向を図6に示した。ホテルの位置づけに着目すると、《基

本型》、《商業型》は共通して【多機能ホテル】の割合が多いが、

前者は宴会場のみを展開させるものが多く、後者は宴会と料飲の

両施設を展開させる傾向がみられた。次に《混合型》、《オフィス・

住宅型》は共に【ホテル複合】が多くみられたが、前者は宴会と

料飲の両施設を展開し、後者は料飲施設を複数個所に設けるもの

が多い傾向がみられた。上述2つの傾向はそれぞれ、都市型ホ

テル建築は宿泊客に加え不特定多数の利用者を想定した際には

様々な集客機能を充実させ、オフィスや住宅のようなプライベート

な利用に特化した際には料飲施設のみ選択肢を広げ対応すると

いった、都市型ホテル建築の都市環境における活動的水準での異

なる関係の図り方の傾向を示していると考えられる。

3-3. 都市型ホテル建築の構成と周辺環境への接続形式の関係

 前節までに検討した都市型ホテル建築の構成と周辺環境への接

続形式の関係を検討した(図11)。その結果、〔基壇〕をもち追

加用途施設とホテルとが建物内で〔一体〕となった場合において、

隣接環境要素〔あり〕、車寄せ〔大〕が17資料と最多数みられた。

同様の傾向は〔複数棟〕で地上階が用途施設ごとに独立したエ

ントランスを構える場合においてもみられた。さらに〔単一マス〕

で追加用途施設とホテルとが建物として〔一体〕をなすものでは、

周囲が建物に囲まれ車寄せが〔小〕のものが過半数みられた。

これらは、ホテルとしての格式を確保した構えをとり都市空間から

自立したもの、自立したそれぞれの建物を集合させ擬似的な都市

の様相を形成し実際の都市と対峙するもの、および普遍的な建物

として実際の都市に溶け込むものといった都市環境との空間的水

準での典型的な関係性を表していると考えられる。

3-4. 都市型ホテル建築の用途複合の類型  2章の追加用途施

設の複合形式と3章の建物の構成の関係を検討し、該当資料が

集中したものを都市型ホテル建築の用途複合の類型(A から F)

として見出した(図12)。A、Bは共に《基本型》で形状が〔単一

マス〕、および〔基壇〕である。Cは〔基壇〕内に商業施設をもち、

その際ホテルとは異なるエントランスをもつ。Dは〔基壇〕をもつ

ホテルの中に地域中核施設が含まれるものである。Eは〔複数棟〕

が一体化した建物の一つにホテルが入り、それぞれが独自のエン

トランスをもつ。Fは〔単一マス〕の外見としての構えをとりなが

らも、プライベート施設とホテルとが独立して建物の中に併存して

いる。また〔単一マス〕の建物にホテルとともに〈商業施設〉や〈地

域中核施設〉が併存しているFに類似した事例もみられた(F’

とする)。

4.用途複合の類型における通時的傾向 本章では前章までに検討した都市型ホテル建築の用途複合の形

式、建物の構成、立地区分の通時的傾向 7)を検討した(図13)。

 はじめに用途複合の形式について、ホテルの位置づけの推移を

みると、80 年代以前は【多機能ホテル】が【ホテル複合】より

も極端に多い傾向がみられるが、90 年代からその割合が逆転す

る。さらに追加用途施設の複合形式の推移を検討すると、【多機

能ホテル】では、《地域中核型》は60年代から80年代にかけて

漸減すること、《基本型》は80年代にピークをとることがわかった。

また【ホテル複合】においては、90 年代、00 年代と《混合型》

が突出して多く、90 年代からは《オフィス・住宅型》が漸増傾向

にあることがわかった。

 次に建物の構成に着目する。特徴的な傾向として80年代で〔基

壇〕が増加し、その後減少する傾向、90 年代からの〔複数棟〕

の増加する傾向がみられた。〔単一マス〕では 60 年代から該当

資料数に大きな変化はみられないものの、上述の傾向と連動して

60 年代と10 年代に割合として多い傾向がみられた。次に建物の

分割に着目すると、時代を経るに従って〔分割〕が占める割合が

多くなる傾向がみられた。

 前述した用途複合の形式と建物の構成の傾向を踏まえると、【多

機能ホテル】の傾向として 60 年代から 80 年代にかけて、東京

プリンスホテルのようにホテルの〔基壇〕に《地域中核施設》を

複合したDや、ホテル・オークラにみられるような独立したエント

ランスをもつ商業施設を組み込んだ F’ から、ホテルとして特化し

た《基本型》で〔基壇〕の赤坂プリンスホテルのようなBに移っ

たと考えられる。一方【ホテル複合】では90年代における〔複数棟〕

を伴った大規模開発内での各種用途の併存を図る目黒雅叙園のよ

うなEから、近年では大手町タワーのアマン東京などにみられる

〔単一マス〕の建物内がプライベートな施設とホテルとで〔分割〕

され、その併存を図るFに傾向が移ったと推測できる。

5. 結  以上、都市型ホテル建築を対象に、用途複合の形式および建物の構成の通時的傾向を検討した。その結果、用途複合

の形式の通時的傾向として、戦後から 80年代まではホテルを中

心に不特定多数を集客する施設を複合していた(【多機能ホテル】

の《地域中核型》や大宴会場を有する《基本型》)のに対して、

90 年代以降ではプライベート性の高い施設にホテルが組み込ま

れる(【ホテル複合】の《混合型》やオフィス・住宅型)という近

年の傾向を見出した。また建物の構成の推移からは、時代を経る

にしたがって建物単位ではなく個々の施設ごとに都市環境と接続

するという傾向を見出した。これらの傾向に、都市型ホテル建築

の用途複合の類型や時代背景を照らし合わせて考察すると、戦後

からバブル期にかけて都市型ホテル建築はホテルとして高い社会

性と都市環境に対する独立した構えをもち、その後 90 年代から

は都心の複合開発や地方の大規模開発などの増加に伴って、ホ

テル用途が建築内の一施設として位置づき、都市環境から認識し

にくい隠れた存在へと変化したという都市型ホテル建築の都市環

境との融合性の2つの傾向とその通時的な変遷を明らかにした。

3. 都市型ホテル建築の構成と接続形式 本章では都市型ホテル建築と周辺の都市環境との実体的水準で

の関係を、建物の構成と周辺環境への接続形式から検討する。

3-1. 都市型ホテル建築の構成

3-1-1. 建物の形状  都市型ホテル建築を一つの建物で成立して

いる〔単数棟〕と、複数の建物が一つのヴォリュームとして成立し

ている〔複数棟〕とに大別した。また〔単数棟〕では、建物全体

を都市と関係づける構えと基壇を介して都市に相対する構えとが

みられたため、それぞれ〔単一マス〕と〔基壇〕とに分類した(図7)。

3-1-2. 建物の分割  追加用途施設を複合したことで都市型ホテ

ル建築は建物の内部に複数のビルディングタイプが共存していると

考えられる。そこで動線的に完結した用途施設による機能的な建

物の分割を追加用途施設とホテルとが地上階を共有するか否かか

ら検討した。地上階にホテルのロビーや建物としての共用のアトリ

ウムなどを有するものを〔一体〕、追加用途施設に対してホテルと

異なるエントランスを設けるものを〔分割〕として位置づけた(図8)。

3-2. 都市型ホテル建築の周辺環境との接続形式

3-2-1. 隣接環境要素  都市型ホテル建築が隣接する線的、面

的な環境要素の有無を周辺環境からの独立性として検討した。水

辺環境(河川や堀など)、緑地環境(公園や寺社など)、交通イ

ンフラ(線路や高速道路など)と隣接するものを隣接環境要素が

あるものとして捉えた(図9)。

3-2-2. ホテルの車寄せの大きさ  ホテルエントランスに面する

車寄せの大きさを、周辺から距離を取ることで都市型ホテル建築

の格式を確保したと考えられる〔大〕と、距離が近く周辺と一体と

なった建ち方をしていると考えられる〔小〕に大別した(図10)。

用途複合の形式

64

2

5

6

21

18

12

14

17

23

19

11

6

89

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ ⅤⅠⅡⅢⅣⅤ【多機能ホテル】

Ⅰ:基本型, Ⅱ:商業型, Ⅲ:地域中核型, Ⅳ:混合型, Ⅴ:オフィス・住宅型追加用途施設の複合形式

【ホテル複合】ホテルの位置づけ

【ホテル複合】,《Ⅳ:混合型》〔複数棟〕;〔分割〕

['90s];[地方大都市]

【ホテル複合】,《Ⅴ:オフィス・住宅型》〔単一マス〕;〔分割〕['10s];[東京都心]

【多機能ホテル】,《Ⅰ:基本型》〔基壇〕;〔一体〕

['80s];[東京都心]

【多機能ホテル】,《Ⅱ:商業型》〔単一マス〕;〔分割〕['60s];[東京都心]

【ホテル複合】,《Ⅳ:混合型》〔複数棟〕;〔分割〕

['90s];[東京都心外]

【ホテル複合】,《Ⅴ:オフィス・住宅型》〔単一マス〕;〔分割〕['10s];[東京都心]

【多機能ホテル】,《Ⅰ:基本型》〔基壇〕;〔一体〕

['80s];[東京都心]

【多機能ホテル】,《Ⅲ:地域中核型》 〔基壇〕;〔一体〕

['60s];[東京都心]

太線:ホテル , ○:商業施設 , ◇:地域中核施設 , □:プライベート施設店:店舗街 ,娯:娯楽施設 ,展:展示場 ,会:国際会議場 ,美:美術館 ,オ:オフィス ,住:住宅 ,〔公〕:公園 ,〔社〕:寺社 ,〔高〕:高速道路 ,〔川〕:目黒川 ,〔堀〕:外濠 , △・▲:地上階の共有性 凡例

〔社〕

〔高〕

〔高〕 〔川〕

〔堀〕

〔社〕

〔公〕

ホテル大阪ベイタワーE

赤坂プリンスホテルB

東京プリンスホテルD

アマン東京 ザ キャピトル東急ホテルF F

目黒雅叙園E

ロイヤル パーク ホテルB

ホテル オークラF’

( 東急キャピトルタワー )

(ORC200)

(大手町タワー)

立地区分東京都心

東京都心外

地方大都市

(2020. 東京オリンピック開催)

2008. 観光庁設置

2013. 赤坂プリンスホテル取壊2013. 訪日外国人   1000 万人突破

2015. ホテル オークラ取壊

1989- バブル景気

1991. バブル崩壊

1995. 汐留貨物駅跡地の    再開発 開始

1990- 新御三家の登場(パーク ハイアット東京 ウェスティン ホテル東京 フォーシーズンズホテル椿山荘 )

1982. ホテル・ニューシ ャ゙ハ ン゚火災

1979. カプセルホテルの登場

1978. サンシャインシティ開業   (サンシャイン プリンス ホテル)

1964. 東京オリンピック 開催

1970. 大阪万博 開催

1971- 新宿副都心の開発1970- 一億総旅行者時代

1968. 帝国ホテルライト館取壊

1952. ホテルの接収解除1960. 初の外資系ホテル

東京ヒルトン ホテル 開業

2000- 外資系ホテルの増加2003- ビジット ジャパン キャンペ-ン 実施

153

時代区分

1952|2015

註:表のバーの高さは年代ごとの資料数に、内訳は各年代の資料数に比例する。 数字は資料数を示す。

〔一体〕

建物の分割〔分割〕

建物の構成建物の形状

〔単一マス〕〔基壇〕〔複数棟〕

3

5 7 8 27 17

28 39 7

182635

144

55

15

175

155

1107

4510

342

974

1118

347

121

33261929

7 5 4 1

11

8

4 2 2 1 1

1

31 2 1 1 5 5

1 10 6

5 4 1 1 4 2 2 3 10

7 3 2

2 2 2

2 1 1 1

4 5 2

11

11 7 4

9 7 13

7 17 16

15 8 4

7 5 7

1 4

60 45 48

1 1

図 13. 都市型ホテル建築の用途複合の類型の通時的傾向