看護が支える 地域共生社会 · 看護が支える...

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看護が支える 全員参加型社会の実現を目指して 地域共生社会 「住み慣れた地域で暮らしを楽しむ。その暮 らしを地域のみんなで支えたい」。その思いを 胸に、2003 年から北海道鹿追町で訪問看護を 始めた訪問看護ステーションかしわのもりの統 括所長の松山なつむさん。 松山さんは兵庫県立こども病院で勤務した 後、北海道に移住した。1994 年に帯広市で保 健師として活動した際、訪問看護と出会った。 当時はまだ「最期は病院で」と考える住民が多 く、住み慣れた家や地域で最期を迎えたい人の 思いをかなえることができる訪問看護に心を動 かされた。 4 年間、帯広市内にある訪問看護ステーショ ンで勤務をした後、一念発起し、2002 年に住 まいのある鹿追町に NPO 法人かしわのもりを 立ち上げた。翌年から看護師 3 人、事務職 1 人 で訪問看護事業を開始した。4 年目までは収益 の安定化に奔走したが、その後は収益も安定し、 現在では茅室町・更別村に 2 カ所のサテライト 事業所を構え、活動範囲を広げている。 みんなで考え・支え合う文化づくり 2011 年、親交のある株式会社ケアーズ代表 取締役の秋山正子さんが始めた「暮らしの保健 室」を知った。そこは、誰でも無料で医療、健康、 暮らしの相談ができる拠点。そこから着想を得 て、自ら出向く暮らしの保健室として 2014 年 に「ケアカフェ」を開催した。初回には約 40 人が参加。看護師 3 人が参加者との何気ない話 の中で、相談対応を行った。 住民が集まる場で、看護職がニーズの掘り起 こしを行うことも大切だが、より重要なのは「自 立と互助の文化」をつくることだという。医療・ 介護従事者だけで住民の暮らしを支えるには限 界がある。災害時など専門職がいない状況でも、 住民の望む生活を継続させるには地域が骨太で なければならない。「主役は住民一人一人です。 皆さんに『自身の望む暮らしは何か』を考えて もらい、それぞれの暮らしをみんなで支えるに はどうしたら良いか、知恵を出し合うような文 化が必要です」と松山さん。看護職はあくまで 黒子。医療に関する正しい情報を示し、新たな 選択肢を提示する程度にとどめる。 地域での活動・連携構築は長い目で 訪問看護の収益を充てながら、鹿追町内で年 間 3 ~ 4 回の頻度でケアカフェを実施している が、文化の醸成は一朝一夕でできるものではな い。行政保健師の経験がある松山さんは、長い 目で取り組む意義を感じていたが、成果が出な い中で活動を続けるスタッフと議論になったこ ともあった。「地域がすぐに変わることはあり ません。変化も緩やかですから、思いを持って 継続的に関わり続けることが大事です」。取り 組みを重ね、少しずつではあるが、変化を感じ るようになったことで、今はスタッフも長い目 で取り組む意義を共有しているという。 長い目で取り組む姿勢はケアカフェに限った ことではない。開設当初から医療的ケア児への 訪問看護に関心寄せてきた松山さん。当時は 医療的ケア児の認知度が低く、行政や教育関係 者との連携に苦心した。しかし、医療・福祉関 係者らと継続的に取り組んだ結果、自治体によ る小児の在宅医療に向けた連携拠点事業の実施 に結び付いた。2018 年4月には、「地域の子ど もたち一人一人の個性を大切にしたい」という スタッフの思いを基に「ここから実験室」とい う事業を開始した。公的サービスである障害に 関する相談支援を中心に、「たいそう教室」な どを実施している。これは、帯広市を拠点に活 動している子ども向け体操教室を主軸とした団 体とのコラボレーション企画だ。 「ないからできないではなく、どうすればで きるか」という発想で取り組みを行ってきた松 山さん。「チャンスが巡ってきた時に、すぐに 動けるかが重要です」との言葉どおり、多方面 と連携体制を築いてきたからこそ、時機を捉え て成果に結び付けてきた。「ここから実験室」 をはじめ、地域のニーズに沿ったサービス提供 を今後も行うかしわのもり。みんなで考え・支 え合う文化の醸成に向け、その取り組みは続く。 第2回 訪問看護ステーション かしわのもり (北海道)

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Page 1: 看護が支える 地域共生社会 · 看護が支える 全員参加型社会の実現を目指して 地域共生社会 「住み慣れた地域で暮らしを楽しむ。その暮

3協会の活動・看護関連ニュースVol.623 2019.10.15

看護が支える

全員参加型社会の実現を目指して

地域共生社会

 「住み慣れた地域で暮らしを楽しむ。その暮らしを地域のみんなで支えたい」。その思いを胸に、2003 年から北海道鹿追町で訪問看護を始めた訪問看護ステーションかしわのもりの統括所長の松山なつむさん。 松山さんは兵庫県立こども病院で勤務した後、北海道に移住した。1994 年に帯広市で保健師として活動した際、訪問看護と出会った。当時はまだ「最期は病院で」と考える住民が多く、住み慣れた家や地域で最期を迎えたい人の思いをかなえることができる訪問看護に心を動かされた。 4年間、帯広市内にある訪問看護ステーションで勤務をした後、一念発起し、2002 年に住まいのある鹿追町にNPO法人かしわのもりを立ち上げた。翌年から看護師 3人、事務職 1人で訪問看護事業を開始した。4年目までは収益の安定化に奔走したが、その後は収益も安定し、現在では茅室町・更別村に 2カ所のサテライト事業所を構え、活動範囲を広げている。

みんなで考え・支え合う文化づくり

 2011 年、親交のある株式会社ケアーズ代表取締役の秋山正子さんが始めた「暮らしの保健

室」を知った。そこは、誰でも無料で医療、健康、暮らしの相談ができる拠点。そこから着想を得て、自ら出向く暮らしの保健室として 2014 年に「ケアカフェ」を開催した。初回には約 40人が参加。看護師 3人が参加者との何気ない話の中で、相談対応を行った。 住民が集まる場で、看護職がニーズの掘り起こしを行うことも大切だが、より重要なのは「自立と互助の文化」をつくることだという。医療・介護従事者だけで住民の暮らしを支えるには限界がある。災害時など専門職がいない状況でも、住民の望む生活を継続させるには地域が骨太でなければならない。「主役は住民一人一人です。皆さんに『自身の望む暮らしは何か』を考えてもらい、それぞれの暮らしをみんなで支えるにはどうしたら良いか、知恵を出し合うような文化が必要です」と松山さん。看護職はあくまで黒子。医療に関する正しい情報を示し、新たな選択肢を提示する程度にとどめる。

地域での活動・連携構築は長い目で

 訪問看護の収益を充てながら、鹿追町内で年間 3~ 4回の頻度でケアカフェを実施しているが、文化の醸成は一朝一夕でできるものではない。行政保健師の経験がある松山さんは、長い目で取り組む意義を感じていたが、成果が出ない中で活動を続けるスタッフと議論になったこともあった。「地域がすぐに変わることはありません。変化も緩やかですから、思いを持って継続的に関わり続けることが大事です」。取り組みを重ね、少しずつではあるが、変化を感じるようになったことで、今はスタッフも長い目で取り組む意義を共有しているという。

 長い目で取り組む姿勢はケアカフェに限ったことではない。開設当初から医療的ケア児への訪問看護に関心を寄せてきた松山さん。当時は医療的ケア児の認知度が低く、行政や教育関係者との連携に苦心した。しかし、医療・福祉関係者らと継続的に取り組んだ結果、自治体による小児の在宅医療に向けた連携拠点事業の実施に結び付いた。2018 年4月には、「地域の子どもたち一人一人の個性を大切にしたい」というスタッフの思いを基に「ここから実験室」という事業を開始した。公的サービスである障害に関する相談支援を中心に、「たいそう教室」などを実施している。これは、帯広市を拠点に活動している子ども向け体操教室を主軸とした団体とのコラボレーション企画だ。「ないからできないではなく、どうすればできるか」という発想で取り組みを行ってきた松山さん。「チャンスが巡ってきた時に、すぐに動けるかが重要です」との言葉どおり、多方面と連携体制を築いてきたからこそ、時機を捉えて成果に結び付けてきた。「ここから実験室」をはじめ、地域のニーズに沿ったサービス提供を今後も行うかしわのもり。みんなで考え・支え合う文化の醸成に向け、その取り組みは続く。

第2回

法人スタッフの皆さん

(前列の左から2人目が

松山さん)

訪問看護ステーション かしわのもり(北海道)

 2020 年 4 月より、看護研修学校と神戸研修センターで特定行為研修を組み入れた新たな認定看護教育(B課程)を開講します。 詳細は、10 月中旬以降に本会HP>生涯学習支援>認定看護師教育をご参照ください。

新たな認定看護師教育課程を開講2020年度の受講生を募集

看護研修学校

学科(定員) クリティカルケア(30人)、皮膚・排泄ケア(30人)、感染管理(20人)、糖尿病看護(20人)、認知症看護(20人)

応募期間 11月25日(月)~12月12日(木)入試日 2020年 1月29日(水)または30日(木)のいずれか1日

神戸研修センター課程(定員) がん薬物療法看護(20人)応募期間 11月25日(月)~12月12日(木)受講試験日 2020年 1月29日(水)

2019年度 特定行為研修秋期入学コース開講式を挙行

ヘルシーワークプレイスセミナーを開催ハラスメントのない職場づくりへ

 日本看護協会は9月 18日、看護研修学校(清瀬市)と神戸研修センター(神戸市)で、2019年度特定行為研修秋期入学コースの開講式を行った。 看護研修学校には、全

 10 月 2 日、日本看護協会は、昨年度に続き 2 回目となるヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)セミナーを JNAホールで開催した。福井トシ子会長は冒頭のあいさつで、5 月に「労働施策総合推進法」が改正されたことに触れ「今後も制度による整備とマネージメントの両面から、看護職が安心して、安全に働ける職場の実現に向けて取り組んでいく必要がある」とした。 続いて、厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課の山岸隆太郎係長がハラスメントの現状と対策、改正法について説明した。それを受け

い実践能力を身に付けてほしい」と祝辞を述べた。続いて、登壇した島根大学医学部附属病院の遠藤篤也氏(救急看護認定看護師)が、研修生代表として受講への意欲を語った=写真。 一方、基本モデルのみ開講する神戸研修センターの開講式には 10 人の研修生が出席。荒木暁子常任理事が研修生へ期待の言葉を贈り、研修生代表として、神戸アドベンチスト病院の足立光生氏(緩和ケア認定看護師)が研修に臨む決意を述べた。

て、熊谷雅美常任理事は、ハラスメント防止に対する本会の活動を説明し「ハラスメントがないだけではなく、生じない組織づくりが重要だ」と述べた=写真。 今回のセミナーでは、好事例として 3人の講師を招き、ハラスメント対策への具体的な対応を紹介した。

春期入学コース修了式研修修了者の総数500人に 9 月 24 日には、JNA ホールで本年度の看護研修学校の春期入学コース修了式を行い、117 人の研修生に修了証が授与された。科目履修生として、6人の研修生も修了した。同日、神戸研修センターでも 11 人が修了式を終えた。これにより、本会が 15 年度から実施している認定看護師を対象とした特定行為研修の修了者は、500 人になった。

識と技術に加え、病態判断や臨床推論力を強化し、今の自分を超える高

7受講モデルの研修生108人が入学。福井トシ子会長は「認定看護師の知