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特別研究報告 省電力化のための階層型センサネットワークにおける クラスタサイズ制御に関する研究 19 2 23 大学

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特別研究報告

題目

省電力化のための階層型センサネットワークにおける

クラスタサイズ制御に関する研究

指導教官

川原 憲治 助教授

報告者

新原 竜馬

平成 19年 2月 23日

九州工業大学 情報工学部 電子情報工学科

平成 18年度 特別研究報告

省電力化のための階層型センサネットワークにおける

クラスタサイズ制御に関する研究

新原 竜馬

内容梗概

近年,ユビキタス社会の実現に向けて,周囲の環境や状況の変化を認識するためのセンサ

ネットワークの重要性が増している。多数のセンサにより広範囲の環境を随時監視するセン

サネットワークでは,各センサを電源供給が困難な場所に配置するため,バッテリによる駆

動が考えられる。したがって,電力を多く消費するデータの収集,転送における省電力化が

重要となる。

そこで,ネットワーク内に配置されたセンサが集約センサ (クラスタヘッド)となり,そ

れを中心にエリア内を小領域 (クラスタ)に分割し,集約センサが他センサ (非集約センサ)

の取得データを収集/圧縮してデータ管理ノード (シンク)へ一括転送する論理的な階層化が

有効となる。このような階層型構造にすることで,ネットワーク全体の総電力消費量の削減

は可能であるが,各センサの電力消費量の分布は一様ではなく,特にシンク付近のセンサの

それは高くなる。

そこで本研究では,クラスタサイズを制御することにより電力消費量分布の不均一性を緩

和することを目指し,クラスタサイズ決定指針についてシミュレーション評価より明らかに

する。

主な用語

センサネットワーク,階層型データ集約手法,アドホック・マルチホップネットワーク

目 次

1 はじめに 1

2 センサネットワーク 3

2.1 センサネットワークの目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.2 センサネットワークの特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.3 センサノードに要求される性能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.4 センサノードの構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

3 階層型データ集約手法とデータ転送方式 7

3.1 階層型データ集約手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

3.2 データ転送方式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

4 提案手法 10

4.1 既存手法の問題点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

4.2 シンクからの距離に応じたクラスタサイズ制御 . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

5 シミュレーション 14

5.1 シミュレーションモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

6 決定指針 16

6.1 評価指標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

6.2 パラメータ決定指針 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

7 シミュレーション結果及び考察 18

7.1 階層化を用いない場合と既存手法の比較 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

7.2 決定指針 1におけるパラメータセットの選択 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

7.2.1 最適なパラメータセットにおける電力消費量の分布の調査 . . . . . . 22

7.2.2 最適なパラメータセットにおける中継に関する調査 . . . . . . . . . . 23

7.3 決定指針 2におけるパラメータセットの選択 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

i

7.3.1 最適なパラメータセットにおける電力消費量の分布の調査 . . . . . . 26

7.3.2 最適なパラメータセットにおける中継に関する調査 . . . . . . . . . . 27

7.4 決定指針 3におけるパラメータセットの選択 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

7.4.1 最適なパラメータセットにおける電力消費量の分布の調査 . . . . . . 29

7.4.2 最適なパラメータセットにおける中継に関する調査 . . . . . . . . . . 31

7.4.3 電力消費量削減エリアの影響 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33

8 まとめ 35

謝辞 36

参考文献 37

ii

1 はじめに

近年,安全性や快適性を提供するユビキタス社会の実現のために,人やモノ,およびそれ

らの周辺環境など様々な状況を認識し,その状況に応じた自律的にサービス/情報を提供す

るユビキタスセンサネットワークが注目されている。ユビキタスセンサネットワークの1つ

として安価なセンサデバイスを広範囲に多数配置し,災害予測,防災,防犯をはじめ,環境

モニタリングや交通制御を目的としたアプリケーションが考えられている。特に,大域環境

監視システムを構成するセンサネットワークでは,温度,湿度などの環境情報を継続的にセ

ンシングし,センシングしたデータをデータ管理ノード (シンク)へ定期的に通知する必要

がある。このようなセンサネットワークで用いられるセンサの特徴として,一般的に無線駆

動型であるためマルチホップ転送を利用してアドホックネットワークを構成できること,大

量のセンサを電源供給が困難な場所に配置されるためバッテリ駆動型であることが挙げられ

る。そのため,電力の消耗により駆動不可となるセンサが増加すると,サービスの提供が困

難となる。無線通信による電力消費量は,センシングに関わるそれよりも大きいため,バッ

テリ駆動型により保有電力量に限りのあるセンサノードで構成されるセンサネットワークを

長期間機能させるためには,データ収集,転送の効率化による省電力化が必要となる。

センシング対象エリア内に配置された各センサにおいて収集したデータを効率的に転送す

る方法として,配置されたセンサを論理的に階層化する手法が提案されている [1]。この手

法では,ネットワーク内に配置されたセンサが集約センサ (クラスタヘッド)となり,それ

を中心にエリア内を小領域 (クラスタ)に分割し,集約センサが他センサ (非集約センサ)の

取得データを収集,圧縮することで省電力化を図っている。さらに,この集約センサを階層

化し各集約センサでデータの効率的な集約および転送を行うことで,ネットワーク全体のセ

ンサの電力消費量が軽減されることが明らかにされている [2]。しかし,各センサの電力消

費量の分布は一様ではなく,特にシンク付近のセンサのそれは高くなる。文献 [2]では,同

階層のクラスタサイズは等しいものと仮定されているが,文献 [3]では,1階層クラスタリ

ングによるデータ収集において,各クラスタを異なるサイズに設定することによって,シン

ク付近の電力消費量の偏りを改善し,ネットワークの稼働期間を改善できることを示唆して

1

いる。このアイディアを既存の階層化手法 [1]に組み込むことにより,シンク付近のセンサ

の電力消費量の偏りについて更なる改善が期待される。そこで本研究では,クラスタサイズ

を制御することにより,電力消費の不均一性を緩和することを目指し,クラスタサイズ決定

指針についてシミュレーション評価により明らかにする。

以下,2章ではセンサネットワークの概要を述べ,3章で階層型データ集約手法とデータ

転送方式について説明する。4章では,3章で述べた既存手法においてシンク付近の電力

消費量の削減のために改良を加えた提案手法について説明する。5章ではシミュレーション

モデルについて,6章でクラスタサイズの決定指針についてそれぞれ説明し,7章でシミュ

レーション結果を示し考察を行う。そして,8章にてまとめを述べる。

2

2 センサネットワーク

本章では,2.1節,2.2節にセンサネットワークの目的と特徴についてそれぞれ述べ,2.3

節にセンサネットワークに要求される性能,2.4節にセンサネットワークに用いられるセン

サノードの構成についてそれぞれ説明する。

2.1 センサネットワークの目的

センサネットワークの目的は,様々な種類のセンサにより人やモノなど監視対象の状況を

認識し,自律的にその状況に応じた適切な処理を行うことにより安全性や快適性を提供す

ることである。センシングされたデータはネットワーク上のどこからでも活用でき,ユーザ

はコンピュータやネットワークを意識することなく,これらの機能を扱うことができる。こ

のようなセンサネットワークを実現するには,高度なセンシング技術と情報処理技術に加え

て,センシングされたデータの効率的な収集や利用環境に柔軟に対応できるように,センサ

ネットワークに適したネットワーク技術が求められる。

そこで,以降ではセンサネットワークを構築する際に利用されるネットワーク技術につい

て説明する。また,センサノードに求められる性能および一般的なセンサノードの構成につ

いても解説する。

2.2 センサネットワークの特徴

センサネットワークでは,次に挙げる2つのネットワーク技術が重要な役割を果たす [4] [5]。

• ブロードキャスト

• アドホック・ネットワーク

ブロードキャストとは,1つの送信ノードが周囲の全ノードに対して同一のデータを一度

に送信することである。センシングしたデータを複数のデータ管理ノードへ送信したり,構

築されているネットワークの維持やセンサノードが移動することによるトポロジの変化に対

3

応するために,ネットワークを制御するためのデータをセンサノード間で相互に交換する場

合にブロードキャストが用いられる。

また,アドホック・ネットワークとは,通信を行うための特別なネットワーク設備を必要

とせず,端末相互間で動的にネットワークを構築し,マルチホップ転送を利用して通信を行

うネットワーク形態である。アドホック・ネットワークを利用したセンサネットワークでは,

災害地のようにネットワーク設備が利用できない環境でもセンサノードにより容易にネット

ワークを構築することができ,災害状況の把握や負傷者の発見が容易になるといった利点が

ある。

アドホック・センサネットワークにおける経路制御方式は以下に挙げる二通りに分類でき

る [4]。

• リアクティブ型プロトコル

• プロアクティブ型プロトコル

リアクティブ型プロトコルは,通信開始を契機として経路を探索する方式であり,代表的

なものには DSR(Dynamic Source Routing),AODV(Ad-hoc On Demand Vector)などが

挙げられる。一度経路が確立されると,送信先との通信が不可能になるか不要になるまで

経路が維持される。そのため,経路を維持するための制御メッセージが帯域を圧迫すること

がなく,帯域の有効利用が可能になる。しかし,通信開始時に経路の探索が行われるため,

データ転送を開始するまでに遅延が起こる。したがって,通信開始までの遅延が重視される

利用形態には適さない。

一方,プロアクティブ型プロトコルとは定期的に情報を交換することで随時経路の再計算を

行う方式であり,代表的なものにはOLSR(Optimized Link State Routing)やTBRPF(Topology

Broadcast Based on Reverse-Path Forwarding)が挙げられる。このプロトコルでは常に最

新の経路情報を保持することができるため,センサノードの移動や電力の消耗により駆動不

可になったセンサノードが出現した場合に,柔軟かつ迅速に新たな経路を確立することがで

きる。さらに,予め経路が決定されているため,通信開始時の遅延がほとんど発生しない。

しかし,トポロジの変動が頻繁に起こるようなネットワークでは,経路を維持するための経

4

路情報の交換が増加し,帯域が圧迫される可能性がある。したがって,このような利用形態

ではプロアクティブ型プロトコルは適さない。

2.3 センサノードに要求される性能

センサネットワークは,都市や山間部,および災害地など様々な環境での利用が想定され

る。したがって,どのような環境でも利用できるよう,設置場所に関する制約を少なくする

ために,小型かつ軽量であることが求められる。また,安定した電源を確保できない環境に

おいてセンサを長時間駆動させるためには,低消費電力であることが要求される。さらに,

多数のセンサノードにより一つのセンサネットワークを構築する場合では,センサノードを

個別に管理することは非常に困難である。そのため,個々のセンサノード自身が自律的に動

作し,さらにそれぞれが必要に応じて協調して動作することが求められる。

2.4 センサノードの構成

一般的なセンサノードは,以下の要素から構成される。

• 通信モジュール

• センサ機能

• 電源

通信方式として無線を用いるか有線を用いるかによって,これらを構成する機器の性質は

異なる。広範囲の環境を監視するためにセンサノードを分散配置するセンサネットワークで

は,多数のセンサを用いるため有線によるネットワークの構築および個々のセンサノードに

電力を供給することは困難である。そのため,一般的に無線通信によりネットワークが構成

され,バッテリ駆動であることが前提となる。また,通信機能に関しては低消費電力による

通信が要求されるため,通信距離が短い微弱電力通信モジュールが用いられる。

一方,屋内や公園などの公共施設のように比較的範囲が狭い環境では,個別のセンサノー

ドについて電力の供給が可能であるため,高性能なセンサおよび通信モジュールを利用する

5

ことができる。したがって,より複雑な処理を行うことができ,多様なサービスを提供する

ことが可能となる。

6

3 階層型データ集約手法とデータ転送方式

本章では,文献 [1]に示されている階層型データ集約手法について説明する。ここで,監

視対象エリアは最終的な送信先であるシンクを中心とする半径 a [m] の円形であるとし,エ

リア内で n個のセンサが配置され,センサネットワークを形成していると仮定する。

3.1 階層型データ集約手法

本手法の処理手順を以下に示す。なお,データ転送時に必要であれば他のセンサを介して

マルチホップ転送を行う。

1) 集約センサの選出 (第 1段階)

配置されたセンサは確率 p1 ∈[0, k

n

]で集約センサとなる。ここで kは集約セ

ンサ数である。また,集約センサに選出されなかったセンサを非集約センサと

呼ぶことにする。

2) クラスタの形成 (第 1段階)

集約センサは自身が集約センサであることを周囲のセンサに通知する。非集約

センサはそれを検知し,最も近くに存在する集約センサをデータの送信先とす

る。これにより,集約センサを中心とするクラスタが形成される。このとき,

集約センサが周囲へ通知する信号の有効範囲,すなわちクラスタ半径 b [m]は

次の式によって与えられる。

b =2a√k

(3.1)

3) 集約センサの選出 (第 2段階)

非集約センサのうち,集約センサからの通知を検知できず,どのクラスタにも

含まれないセンサは,それぞれ確率 p2で自身が集約センサになる。このとき,

7

p2は次の式を満たす式となる。

p1 + p2(1 − p1)(

1 − p1b2

a2

)n−1

=k

n(3.2)

ここで,右辺は全センサ中にしめる集約センサの割合である。また,左辺第 1

項は全センサ中に占める第 1段階で選出される集約センサの割合であり,左辺

第 2項はどのクラスタにも含まれないセンサが集約センサに選出される割合で

ある。確率 p2が式 (3.2)を満たすことで,選出される集約センサ数が概ね kで

あることを保証することができる。

4) クラスタの形成 (第 2段階)

第 2段階で集約センサに選出されたセンサは自身が集約センサであることを

周囲のセンサに通知する。どのクラスタにも含まれず,第 2段階で集約センサ

に選出されなかったセンサはそれを検知し,最も近くに存在する集約センサを

データの送信先とする。このとき,形成されるクラスタの半径は第 1段階と同

様に b [m]である。また,この第2段階においてもクラスタに含まれないセン

サが存在する。

5) クラスタ内でのデータ集約

クラスタ内の各センサは,センシングしたデータを集約センサへ送信する。ま

た,集約センサ自身もセンシングを行う。

6) エリア全体でのデータ集約

集約センサは自身が属するクラスタ内の非集約センサから送信されたデータと

自身がセンシングしたデータを収集,圧縮しシンクへ送信する。

3.2 データ転送方式

本節では,データ転送手法について説明する。データ転送時に送信元ノードから宛先ノー

ドまでの距離が長い場合,その距離に応じて指数関数的に電力消費量が増加してしまう。し

8

たがって,あるノードからデータを転送する場合,宛先ノードまでの距離が遠い場合はマルチ

ホップ転送を用いる。文献 [1]では,このようなデータ転送方式としてCDPR(Characteristic

Distance Progressive Routing)を用いている。これは送信元から受信先までの直線沿いに,

固有長の距離 (これを dcharとする)ごとにノードを経由してマルチホップ転送を行う方式で

ある。ここで,この dcharは消費電力の面から最も効率よくデータの送信を行うことができ

る距離である。図 3.1に CDPRによるマルチホップ転送の様子を示す。

����������

�� ����

� � ��

� � � ��

� � ��

図 3.1: CDPRによるマルチホップ転送の様子

9

4 提案手法

本章では,前章で述べた階層型データ集約手法に関して問題点を明らかにし,その改善の

ために提案した手法について説明する。

4.1 既存手法の問題点

既存手法では,エリア全体で同じクラスタサイズに設定しており,データ集約に関する電

力消費量はエリア内で一様となるが,全てのデータがシンクへ向かって転送されるため,シ

ンク付近では中継回数が増加し,これに伴う電力消費量の増加が原因となり,電力消費量の

分布の不均一性が生じる。シンク付近の電力消費量が増加し,駆動不可となるセンサが増加

するとセンサネットワークを長時間機能させることが困難となってしまう。このようにシン

ク付近のセンサにおいては特に省電力化が必要となる。ここで,中継されるデータの種類を

考えると2つに分類することができる。

• クラスタ内データ

非集約センサから集約センサへ転送されるデータ。

• クラスタ間データ

集約センサが自身の属するクラスタの非集約センサのデータを収集,圧縮

した後に,シンクへと転送されるデータ。

シンク付近でクラスタ間データの中継回数が増加してしまうことを考慮すると,シンク付

近でのクラスタ内・クラスタ間データのデータ量と転送回数を減少させるような手法が必要

となる。

4.2 シンクからの距離に応じたクラスタサイズ制御

前節で述べたシンク付近の電力消費量における問題点を解決するために,シンクからの距

離に応じ,クラスタサイズを割り当てる手法を考える。これにより,クラスタ内・クラスタ

10

表 4.1: 提案手法のパラメータ

センシング領域半径 a

センサ数 n

クラスタサイズ変更距離 t

内側,外側センサ数 n1, n2

内側・外側クラスタサイズ b1, b2

内側,外側集約センサ数 k1, k2

�����

����

�� ���

�����

��������� ��� ���!� �"�#%$'&

�)(+*-,

図 4.1: 提案手法のモデル

間データの転送回数とデータ量を調整し,集約・中継に関する電力消費量の削減が期待され

る。具体的には,エリア全体をクラスタサイズ変更距離 tを用いて 2つに分け,tより内側で

は b1外側では b2というクラスタ半径をそれぞれ与える。表 4.1に各パラメータを示し,図

4.1に提案手法のモデルを示す。

本手法では,クラスタサイズ変更距離である tを境にエリアを 2つに分けるため,内側と

外側のエリアで処理手順が多少異なる。なお,次章で詳しく述べるが,本手法ではエリア内

のセンサの密度を一定とするため n,tが決まれば n1,n2はそれから計算することが可能で

ある。以下に処理手順を示すが,今回はクラスタサイズ b1,b2とクラスタサイズ変更距離 t

がどのような影響を与えるかについて主眼をおいているため,これらはパラメータとして与

11

えられているものとする。

既存手法では,クラスタに含まれないセンサ数が最小となるような kの個数が与えられそ

れを利用して bを算出していたが,提案手法では b1,b2の値が与えられるため,集約センサ

数を予め算出しておかなければならない。既存手法と同じように各エリアでクラスタに含ま

れないセンサ数を最小とするための k1,k2は,式 (3.1)より次の式で求められる。クラスタ

サイズ変更距離より外側のエリアに関しては,ドーナツ型となるため面積が同一となる半径√

a2 − t2の円として扱う。

• クラスタ変更距離より内側のエリア

k1 =4t2

b12 (4.1)

• クラスタ変更距離より外側のエリア

k2 =4

(a2 − t2

)

b22 (4.2)

以下に提案手法の処理手順を示す。

1) 集約センサの選出 (第 1段階)

クラスタサイズ変更距離より内側に配置された各センサは確率 p11 ∈[0, k1

n1

]

で,外側に配置された各センサは確率 p21 ∈[0, k2

n2

]で集約センサとなる。

2) クラスタの形成 (第 1段階)

集約センサは自身が集約センサであることを内側,外側のエリアでそれぞれ b1

,b2 [m]の範囲のセンサに通知する。非集約センサはそれを検知し,最も近く

に存在する集約センサをデータの送信先とする。これにより,集約センサを中

心とするクラスタが形成される。

3) 集約センサの選出 (第 2段階)

非集約センサのうち,集約センサからの通知を検知できず,どのクラスタにも

含まれないセンサは,それぞれ確率 p12,p22で自身が集約センサになる。この

とき p12,p22は内側,外側のそれぞれで次の式を満たす値となる。

12

• 内側

p11 + p12(1 − p11)(

1 − p11b12

t2

)n1−1

=k1

n1(4.3)

• 外側

p21 + p22(1 − p21)(

1 − p21b22

a2 − t2

)n2−1

=k2

n2(4.4)

以下のクラスタ形成 (第 2段階),クラスタ内でのデータ集約,エリア全体でのデータ集約に

ついては既存手法と同じ方法で行われる。

4) クラスタの形成 (第 2段階)

5) クラスタ内でのデータ集約

6) エリア全体でのデータ集約

以上が提案手法の処理手順である。

13

5 シミュレーション

本章では,本研究のシミュレーションのモデルについて説明する。

5.1 シミュレーションモデル

図 4.1に示すエリア内に n個のセンサが配置された後,t,b1,b2をそれぞれパラメータと

して与えることで,集約センサが選出され階層構造が形成される。文献 [1]では,エリア内

のセンサの密度はエリア中心から端にかけて少しずつ小さくなるという配置を仮定している

が,前節で述べたように,より現実的にエリア全体のセンサの密度が均一であるようなセン

サの配置方式を用いる。全センサは同期してセンシングを行い,1周期の処理内容はセンシ

ング,集約センサへのデータ送信,集約センサによるデータの収集,圧縮とシンクへのデー

タ送信である。この 1周期についてシミュレーションを行いその結果を評価する。センシン

グされたデータは毎分 16 [bit]で蓄積され,10分経過すると自身が属するクラスタの集約セ

ンサへ一括して送信される。よって,非集約センサが送信するデータサイズは r = 160 [bit]

となる。集約センサは受信したデータと自身がセンシングしたことにより得られたデータを

統合し,圧縮率 γで圧縮を行う。集約センサも含めたクラスタ内のセンサ数をmとすると,

圧縮後のデータサイズ ri [bit]は次の式によって与えられる。

ri = m× r×γ + c (5.1)

ここで c [bit]は圧縮時に付加されるオーバヘッドである。また,rc [bit]のデータ圧縮に必

要な電力は次の式で与えられる。

Ec = β× rc (5.2)

ここで,βは 1 [bit]のデータを圧縮するために必要な電力消費量である。データを送信す

る際に必要な電力は,送信距離を d [m],送信データサイズを r [bit]とすると次式によって

与えられる。

14

表 5.1: シミュレーションに用いるパラメータ

エリア半径 a [m] 1000

センサ数 n 10000

通信時の回路電力消費係数 α1 [J/bit] 5× 10−8

通信時のアンテナ電力消費係数 α2 [J/bit/m2] 1× 10−10

電播減衰係数 l 2

圧縮時の電力消費係数 β [J/bit] 5× 10−8

データレート r [bit] 160

データ圧縮率 γ [%] 25

データ圧縮時のオーバヘッド c [bit] 32

E = r×(α1 + α2× dl

)(5.3)

ここで lは信号が空気中を電播する際に減衰する割合を示す係数である。また,α1は 1 [bit]

のデータを処理するために必要な電力消費量であり,α2は 1 [bit]のデータを送信するために

必要な電力消費量である。シミュレーション実行時に与えるパラメータ設定を表 5.1に示す。

既存手法におけるシミュレーション実行時には,集約センサ数 kの値を与えなければなら

ない。文献 [1]では,階層数が 1の場合の最適な kの値として,k = 855という値が得られ

ているため既存手法のシミュレーションではこの値を用いた。

15

6 決定指針

本章では,シミュレーション結果の評価指標について説明し,それらの指標を用いてクラ

スタサイズ変更距離 t,内側・外側クラスタ半径 b1,b2の最適値を導出し,センサネットワー

クにおける制御パラメータを決定するための指針について説明する。

6.1 評価指標

本節では,実際にどのような指標を使用して評価を行うかについて説明する。本研究では,

主として以下に示す3つの指標を評価に用いる。

• 総電力消費量

エリア全体に配置された全センサで消費した電力の合計値を示す。

• シンク付近の電力消費量

特に電力消費量の増加が顕著にみられるシンクからの距離 100 [m]までに存

在するセンサについての電力消費量を示す。

• 非カバー率

クラスタを形成した際にクラスタに含まれないセンサの割合を示す。

6.2 パラメータ決定指針

以下に省電力化のためのクラスタサイズ変更距離 t,内側・外側クラスタサイズ b1,b2の

最適なパラメータセットを決定するための指針を3つ挙げる。本研究での最終的な目的は,

シンク付近の電力消費量の削減と電力消費量の分布の不均一性を緩和することであるが,以

下に示すような指針を設け前節で説明した評価指標に関する最も有効なパラメータセットを

調査する。

16

• 決定指針 1

非カバー率が既存手法より改善されるパラメータセットの中で最も総電力

消費量が改善されたパラメータセットを選択する。

• 決定指針 2

総電力消費量,シンク付近の電力消費量,非カバー率の3つ全てが既存手

法を改善するパラメータセットを選択する。

• 決定指針 3

シンク付近の電力消費量が最も削減されているパラメータセットを選択する。

以上の決定指針で各結果を検討していく。

17

7 シミュレーション結果及び考察

本章ではまず,階層化を用いない場合と階層型データ集約手法を用いた場合を比較し,階

層型データ集約手法の省電力効果について調査を行い,更なる省電力化の必要性を確認した

上で,既存手法と提案手法における詳細な電力消費量の調査を行う。

また,提案手法のシミュレーションについてはクラスタサイズ変更距離 tを t = 100, 200, . . . , 900 [m]

と 100~900 [m]まで 100 [m]ずつ,クラスタサイズ b1,b2は b1, b2 = 20, 30, . . . , 100 [m]と

20~100 [m]まで 10 [m]ずつ変化させた。その結果と 既存手法との比較を前章で説明した

決定指針を用いて行う。さらに,個々のセンサの電力消費量についての調査を詳細に行い,

エリア内のどの位置に存在するセンサが改善されているかを明らかにする。また,実際に転

送されるデータの種類と中継回数にも焦点を当て転送回数とデータ量が与える省電力化の影

響も調査する。

7.1 階層化を用いない場合と既存手法の比較

まず,階層化を用いない場合と既存手法との電力消費量の違いを明らかにする必要があ

る。表 7.1に階層化を用いない場合と既存手法における主要な結果を示す。表 7.1からもわ

かるように,階層化を用いない手法ではクラスタを形成しないため,非カバー率は 0にな

る。しかし,総電力消費量は既存手法の 3.41倍,総ホップ数は約 8.22倍にも及ぶ。

図 7.1にセンサをシンクからの距離が 100 [m]ごとにグループ化した場合の,各グループ

のセンサについての電力消費量の平均値を示す。図 7.1から,階層化することによりエリア

全体で電力消費量が削減されていることがわかる。

しかし,既存手法の場合でもシンク付近の電力消費量はシンクからの距離 900~1000 [m]

までのセンサの 42.92倍にも及び,特にシンク付近での電力消費量の更なる削減が必要で

ある。

ここで,既存手法をさらに階層ごとに分け,電力消費量の平均値についてのグラフを図

7.2に示す。グラフ内の「sensing node」は非集約センサを,「cluster head」は集約センサを

示す。図 7.2より,エリアのどの位置でも集約センサの電力消費量が高いことがわかる。こ

18

表 7.1: 階層化を用いない場合と既存手法の比較

総電力消費量 [J] 非カバー率 [%] 総ホップ数

階層化を用いない場合 6.8747822 0 354706

既存手法 2.2013563 0.1537 43150

のため,集約センサについて特に電力消費量の削減が必要である。これらのことからシンク

付近の電力消費量と,集約センサにおける電力消費量が顕著にみられるため,これら2つに

おいて改善が必要である。

また,次節からは異なるクラスタサイズを用いるが,既存手法のクラスタサイズは式 (3.1)

で示したように以下のように求められ,約 68.40 [m] となる。

b =2a√k

=2× 1000√

855= 68.39855681 [m] (7.1)

19

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

referenceno-hierarchy

図 7.1: 階層化を用いない場合と既存手法の電力消費量の分布

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster head

図 7.2: 既存手法:階層ごとの電力消費量の分布

20

表 7.2: 決定指針 1におけるパラメータセットの比較

t b1 b2 総電力消費量 [J] 非カバー率 [%] 集約センサ数 総ホップ数

既存手法 2.2013563 0.1537 887 43150

100 20 60 2.1919440 0.1006 1211 50120

200 30 60 2.1895681 0.1065 1245 50226

300 30 60 2.1893943 0.0869 1374 51796

400 40 60 2.1847623 0.0920 1325 51569

500 50 60 2.1882257 0.0797 1268 51582

600 50 60 2.1884289 0.0807 1323 52810

700 50 70 2.1873841 0.0978 1218 48599

800 50 70 2.1912650 0.0878 1337 52415

900 60 70 2.1905658 0.1270 1089 47656

7.2 決定指針 1におけるパラメータセットの選択

クラスタサイズ変更距離 t = 100, 200, . . . , 900 [m]ごとに決定指針 1により選択されたパ

ラメータセットを表 7.2に示す。表 7.2の中で,総電力消費量が最も低いパラメータセット

は t = 400 [m],b1 = 40 [m],b2 = 60 [m]の場合である。このパラメータセットを決定指針 1

での最適なパラメータセットとして,さらに詳細な調査を行う。

21

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.3: 決定指針 1の最適なパラメータセットの電力消費量の分布 (t = 400, b1 = 40, b2 = 60)

7.2.1 最適なパラメータセットにおける電力消費量の分布の調査

ここからは,決定指針 1により選択されたパラメータセットについてエリア内で電力消費

量の削減が可能な箇所を調査するために,シンクからの距離 100 [m]ごとにセンサをグルー

プ化し,各グループ内のセンサについて既存手法と比較しながら詳細な調査を行う。

図 7.3にシンクからの距離 100 [m]ごとにグループ化した電力消費量の平均値のグラフを

示す。図 7.3から,総電力消費量の削減はエリアの中心ではなく,シンクからの距離が 200

~1000 [m]までのエリアでの電力消費量の削減によるものだということがわかる。エリア

内にセンサは一様に配置されているため,シンクからの距離が遠い方がセンサの数が多くな

る。そのため,シンクから遠方の電力消費量の削減はシンク付近での削減に比べ,総電力消

費量に大きく影響することになる。

22

7.2.2 最適なパラメータセットにおける中継に関する調査

表 7.2の総ホップ数に着目すると,提案手法が既存手法に比べ 8000回以上増加している。

実際にどのようなデータがどのくらいホップされているか詳細な検討が必要である。図 7.4

にシンクからの距離 100 [m]ごとのセンサによって中継されたクラスタ内,クラスタ間の

データの合計中継回数を示す。なお,図 7.4内の「intercluster-data」はクラスタ内データ,

「intracluster-data」はクラスタ間データを示す。図 7.4から,クラスタサイズが既存手法よ

りも小さいため,クラスタ内データについてはクラスタサイズ変更距離よりも内側・外側の

エリア両方で,転送回数も減少していることと,クラスタサイズ変更距離 tを境に回数が増

加していることがわかり,クラスタ内データはクラスタサイズを小さくすることで中継回数

を削減できていることがわかる。また,クラスタ間データについては,クラスタサイズが小

さいため多くのクラスタがエリア内に形成されるため,エリア全体で中継回数が増加してい

る。このことから総ホップ数の増加はクラスタ間データの増加によるものであるということ

がわかった。

図 7.5に各階層のデータを中継したために消費した電力消費量の平均値を示す。図 7.5よ

りデータ中継による電力消費量がシンク付近で非集約センサにおいて 36.61 [%],集約セン

サにおいて 39.30 [%]増加している。これは,サイズは大きくは既存手法よりも小さいが,

クラスタ間データの中継回数の増加により電力消費が増加したと考えられる。

23

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Tota

l num

ber o

f dat

a re

lay

Distance from Sink[m]

reference-intercluster-datareference-intracluster-dataproposal-intercluster-dataproposal-intracluster-data

図 7.4: 決定指針 1の最適なパラメータセットのデータ中継回数の分布 (t = 400, b1 = 40, b2 =

60)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.5: 決定指針 1の最適なパラメータセットのデータ中継における電力消費量の分布 (t =

400, b1 = 40, b2 = 60)

24

表 7.3: 決定指針 2におけるパラメータセットの比較

t b1 b2 総電力消費量 [J] 非カバー率 [%] 集約センサ数 総ホップ数

既存手法 2.2013563 0.1537 887 43150

200 30 70 2.2010991 0.1515 956 42380

400 50 70 2.1963902 0.1289 966 42869

600 60 70 2.1930990 0.1394 950 43254

7.3 決定指針 2におけるパラメータセットの選択

決定指針 2を用いて選択されたパラメータセットで,特にシンク付近の電力消費量が削減

されたパラメータセットを表 7.3に示す。前節でも述べたが,集約センサでの電力消費量が大

きいため,特にシンク付近の集約センサの電力消費量の改善率から選択すると,t = 400 [m],

b1 = 50 [m],b2 = 70 [m]のパラメータセットを決定指針 2における最適なパラメータセッ

トとする。以下,前節と同じようにシンクからの距離 100 [m]ごとに各センサをグループ化

し,エリア内を詳細に調査していく。

25

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.6: 決定指針 2の最適なパラメータセットの電力消費量の分布 (t = 400, b1 = 50, b2 = 70)

7.3.1 最適なパラメータセットにおける電力消費量の分布の調査

前節と同じように,図 7.6にシンクからの距離が 100 [m]ごとにグループ化したときの各

センサにおける電力消費量の平均値について詳細な調査を行う。図 7.6より,集約センサに

おける電力消費量の平均値はシンクからの距離が 0~700 [m]まで削減されているおり,特

にシンク付近においては 11 [%]削減されている。しかし,非集約センサにおいてはシンク

からの距離が 200 [m]までのセンサで平均値がわずかに増加している。

26

7.3.2 最適なパラメータセットにおける中継に関する調査

図 7.7にクラスタ内,クラスタ間データのシンクからの距離ごとの合計中継回数を示す。

図 7.7より,クラスタ内データに着目するとクラスタサイズ変更距離を境に増加しているこ

とがわかる。これは,既存手法に比べ,わずかにクラスタサイズが大きいためであると考え

られる。

図 7.8に,シンクからの距離ごとのデータ中継による電力消費量の平均値を示す。図 7.8

より,シンク付近でのデータの中継による電力消費量は集約センサでは減少し,非集約セン

サでは増加している。これは外側クラスタサイズが大きいことによるクラスタ間データ量の

増加が原因だと考えられ,前節のシンク付近での非集約センサの電力消費量の増加にも影響

していると考えられる。

27

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Tota

l num

ber o

f dat

a re

lay

Distance from Sink[m]

reference-intercluster-datareference-intracluster-dataproposal-intercluster-dataproposal-intracluster-data

図 7.7: 決定指針 2の最適なパラメータセットのデータ中継回数の分布 (t = 400, b1 = 50, b2 =

70)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.8: 決定指針 2の最適なパラメータセットの中継における電力消費量の分布 (t = 400, b1 =

50, b2 = 70)

28

表 7.4: 決定指針 3によるパラメータセットの比較

t b1 b2 総電力消費量 [J] 非カバー率 [%] 集約センサ数 総ホップ数

既存手法 2.2013563 0.1537 887 43150

100 40 90 2.2597600 0.2238 532 35519

100 50 100 2.2975645 0.2344 435 34796

7.4 決定指針 3におけるパラメータセットの選択

決定指針 3により特にシンク付近の電力消費量が大きく削減されたパラメータセットについ

ての結果を表 7.4に示す。表 7.4より,クラスタサイズ変更距離はどちらの場合も t = 100 [m]

であることがわかる。総電力消費量は既存手法より約 2.5 [%]以上増加するという結果になっ

た。しかし,シンク付近の電力消費量の削減は 15 [%]と大きな改善がみられた。

7.4.1 最適なパラメータセットにおける電力消費量の分布の調査

表 7.4に示した2つのパラメータセットについての電力消費量の分布を図 7.9,図 7.10に

示す。図 7.9,図 7.10と表 7.4より,t = 100 [m],b1 = 40 [m],b2 = 90 [m]のパラメータ

セットの方が t = 100 [m],b1 = 50 [m],b2 = 100 [m]より総電力消費量,非カバー率とシン

クから遠方の消費電力が抑制されているため,決定指針 3における最適な値を t = 100 [m]

,b1 = 40 [m],b2 = 90 [m]とする。次にパラメータセットにおける詳細な調査を行う。

29

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.9: 決定指針 3におけるパラメータセットの電力消費量の分布 (t = 100, b1 = 40, b2 = 90)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.10: 決定指針 3におけるパラメータセットの電力消費量の分布 (t = 100, b1 = 50, b2 =

100)

30

7.4.2 最適なパラメータセットにおける中継に関する調査

表 7.4からもわかるように既存手法に比べ,総ホップ数が 8000回以上減少している。中

継に関して,さらに詳細に調査するためにシンクからの距離 100 [m]ごとのクラスタ内,ク

ラスタ間データの中継回数の合計を図 7.11に示す。図 7.11から,シンク付近のクラスタ内

データ中継回数は既存手法より小さいクラスタサイズを割り当てたために減少し,クラスタ

サイズ変更距離 t = 100 [m]より外側のエリアでは大きいクラスタを割り当てたため,クラ

スタ内データ中継回数が増加していることがわかる。これに伴い,クラスタ間データはより

大きなデータ量となるが,既存手法で中継回数の増加が顕著にみられたシンクからの距離

が 100~200 [m]のセンサにおけるクラスタ間データの中継回数を 41 [%]減少することがで

きた。

図 7.12には,階層ごとの各センサが中継した際に消費された電力の分布を示す。図 7.12よ

り,特に集約センサについてデータ転送処理の際の電力消費量がシンクからの距離 100 [m]

において 32 [%]の改善がみられ,ホップに用いられるエネルギーが集約センサにおいて特

に削減されるという結果が得られた。このことから,シンク付近で集約における電力消費量

の削減と,中継における電力消費量の削減が行われたことで,前節で示したようなシンク付

近での大幅な改善が得られたと考えられる。

また,本研究では受信にかかる電力消費が考慮されていない。実際のセンサは受信の際も

電力を消費するため,ホップ数の減少は実環境においてさらなる省電力効果が期待できる。

31

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Tota

l num

ber o

f dat

a re

lay

Distance from Sink[m]

reference-intercluster-datareference-intracluster-dataproposal-intercluster-dataproposal-intracluster-data

図 7.11: 決定指針 3 の最適なパラメータセットのデータ中継回数の分布 (t = 100, b1 =

40, b2 = 90)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.12: 決定指針3の最適なパラメータセットの中継における電力消費量の分布 (t = 100, b1 =

40, b2 = 90)

32

表 7.5: シンクからの距離 200 [m]までの電力消費量削減を考慮したパラメータセットの比較

t b1 b2 総電力消費量 [J] 非カバー率 [%] 集約センサ数 総ホップ数

既存手法 2.2013563 0.1537 887.39 43150

200 40 100 2.2877421 0.2441 494.77 34676

200 20 100 2.2900771 0.2204 713.98 36008

7.4.3 電力消費量削減エリアの影響

決定指針 3では,シンクからの距離 100 [m]について電力消費量が削減されているもの

について検討してきたが,シンクからの距離が 200 [m]まで電力消費量を削減したいといっ

た要望も考えられる。本節ではこういった場合には適切な t,b1,b2の選択方針について検討

する。

表 7.5にシンクからの距離 200 [m]までの電力消費量の削減が特にみられた t,b1,b2のパ

ラメータセットを示し,図 7.13,図 7.14にそれぞれのパラメータセットのシンクからの距離

ごとの電力消費量の平均値を示す。表 7.5,図 7.13,図 7.14より,シンクからの距離 200 [m]

までの電力消費量を削減したい場合は,クラスタサイズ変更距離 t = 200 [m]の場合に特に

改善がみられることがわかる。また,シンクからの距離が 200 [m]までの距離におけるセン

サで約 10 [%]の改善が得られた。前節では,シンクからの距離 100 [m]までのセンサが改

善されているパラメータセットを調査したところ,t = 100 [m]であり,今回は t = 200 [m]

の場合に改善がみられた。

前節と本節の結果から,改善を望む距離を境界に内側と外側でそれぞれことなるクラスタ

サイズを設定することで,電力消費量の不均一性の緩和が可能であることがわかった。

33

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.13: t = 200, b1 = 20, b2 = 100のパラメータセットにおける電力消費量の分布

0

0.5

1

1.5

2

2.5

100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

Ave

rage

con

sum

ed e

nerg

y[m

J]

Distance from Sink[m]

reference-sensing nodereference-cluster headproposal-sensing nodeproposal-cluster head

図 7.14: t = 200, b1 = 40, b2 = 100のパラメータセットにおける電力消費量の分布

34

8 まとめ

広範囲の環境を定期的に監視するセンサネットワークにおいて,監視対象エリアを複数の

クラスタに分割し,各クラスタごとに選出された集約センサがデータの収集を行う手法が

提案されている。本研究では,まずそれらを用いる場合と階層化を行わない場合と比べ,セ

ンサネットワーク全体の総電力消費量における省電力化が可能であることを確認した。さら

に,既存の階層化手法において個々のセンサの電力消費量の偏りについて調査を行った。シ

ミュレーションより,以下の結果が明らかにされた。

• シンク付近に配置されたセンサほど電力消費量が大きい

• 非集約センサに比べ集約センサの電力消費量の方が大きい

これらの結果から,特にシンク付近のセンサの省電力化を行い,電力消費量の分布の不均

一性を緩和することを目的とし,クラスタサイズ変更距離に応じてクラスタサイズを制御す

る手法を提案した。シミュレーションより以下のような結果が得られた。

• シンク付近において集約/中継に関する電力消費量を削減でき,電力消費量分布の不均

一性の改善が可能

• クラスタサイズ変更距離に応じて電力消費分布を分散可能

さらに,総電力消費量,非カバー率,電力消費量の偏りを考慮したクラスタサイズ変更距

離,内側・外側クラスタサイズの最適なパラメータセットの決定指針を示した。

以上の結果により,多数のセンサを用いて定期的に環境情報を監視するセンサネットワー

クでは,本研究で提案したようにクラスタサイズを制御することで集約/中継に関する電力

消費量を削減し,電力消費量の分布の不均一性が緩和可能であることを示した。

なお,最終的に全データがシンクまで転送されるため,シンク付近のセンサが他のセンサ

に比べて多く電力を消費することは避けられない。今後の課題として,さらにエリア全体の

電力消費量の不均一性を改善するデータの転送方式の検討が必要である。

35

謝辞

本研究を進めるにあたり,熱心にご指導,ご教授頂きました川原憲治助教授に深く感謝い

たします。また,数々の貴重なご助言をいただきました尾家祐二教授,鶴正人教授に深く感

謝いたします。そして,日々丁寧にご指導頂き,研究および論文執筆に御助力頂きました田

村瞳女史並びに塚本和也氏,又吉哲次氏に心より御礼申し上げます。また日頃からお世話に

なりました吉木智絵事務補佐員,金丸明未事務補佐員をはじめとする尾家研究室,川原研究

室,鶴研究室の皆様に心から感謝致します。

36

参考文献

[1] Y. P. Chen, A. L. Liestman, and J. Liu, “Energy-Efficient Data Aggregation Hierarchy

for Wireless Sensor Networks,” Proc. Qshine 2005, August 2005.

[2] 高江 信次 “アドホック・センサネットワークにおける階層型データ集約センサの選択

手法に関する研究,” 九州工業大学 情報工学部 電子情報工学科 卒業論文,Feb 2006.

[3] T. Shu, M. Krunz, and S. Vrudhula, “Power Balanced Coverage Time Optimization

for Clustered Wireless Sensor Networks,” Proc. ACM Int’l. Symp. Mobile and Ad

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[4] 安藤 繁, 田村 陽介, 戸辺 義人, 南 正輝, “センサネットワーク技術~ユビキタス情報環

境の構築に向けて,” 東京電機大学出版局, May 2005.

[5] 阪田 史郎, 田中 成興, 西室 洋介, 川崎 光博測 福井 潔, “Zigbeeセンサーネットワー

ク-通信基盤とアプリケーション,” 秀和システム, July 2005.

37