粉末定性・構造評価グループ - shinshu u2.1 集中法光学系 2.1 集中法光学系...
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目 次
粉末定性・構造評価グループ i
目 次
第 1 章 概 要 ................................................................................................................................................1
第 2 章 原 理 ................................................................................................................................................3
2.1 集中法光学系 ............................................................................................................................................................ 5
2.2 平行ビーム光学系 .................................................................................................................................................... 6
第 3 章 パッケージ測定の選択 ....................................................................................................................7
3.1 [簡易広角(集中法)]パッケージ測定 ................................................................................................................. 8
3.2 [精密広角(集中法)]パッケージ測定 ................................................................................................................. 8
3.3 [汎用(集中法)]パッケージ測定......................................................................................................................... 8
3.4 [簡易広角(中分解能PB/PSA)]パッケージ測定................................................................................................ 9
3.5 [精密広角(中分解能PB/PSA)]パッケージ測定................................................................................................ 9
3.6 [汎用(中分解能PB/PSA)]パッケージ測定........................................................................................................ 9
第 4 章 補 足 ..............................................................................................................................................11
4.1 粉末X線回折法で用いられる試料の調製 ............................................................................................................ 11
4.2 測定条件の設定 ...................................................................................................................................................... 13
4.3 平行ビーム光学系を用いた測定........................................................................................................................... 17
参考文献 ..........................................................................................................................................................19
第 1 章 概 要
固体物質のほとんどは結晶状態で存在しますが、その多くは微細な結晶粒子が集まって構成されていま
す。このような試料を「多結晶体」といい、主として多結晶体を取り扱う X 線回折を「粉末 X 線回折法」
と呼びます。
粉末 X 線回折法は、通常、結晶を測定の対象としますが、結晶以外の物質でも、原子配置にある程度
の規則性があれば、気体・液体・非晶質固体などを測定の対象とすることもできます。結晶を測定の対象
とする場合、回折が起こる角度と回折強度は、その結晶に固有なものであることから、回折角度と強度を
測定することによって、物質の構造に関する以下のような知見を得ることができます。
(1) 物質の結晶構造や化合形態により、回折パターンは変化します。したがって、既存のデータと比較
して、物質の同定(定性分析)を行うことができます。粉末X線回折法では、同じ組成の化合物の
多形、例えば、石英、トリジマイト、クリストバライト、シリカガラス(化学式は全てSiO2)を区
別することができます。
(2) 結晶の格子面間隔を測定することができます。試料にもよりますが、構造が既知であれば、±0.1%
程度の精度で格子定数を求めることができます。
(3) 回折強度を測定して各成分の定量分析を行うことができます。ただし、成分が微量である場合や、
試料に配向がある場合などは、正確な定量値を得ることは困難です。
(4) 回折線の拡がりを測定して、結晶子サイズと格子歪みを求めることができます。
(5) 非晶質の回折パターンはブロードなピーク(ハロー)となります。この回折パターンより、動径分
布を求めることができます。また、結晶成分と非結晶成分の積分強度比から、結晶化度を求めるこ
とができます。
(6) Rietveld 解析法を用いて、結晶構造の精密化を行うことができます。
粉末定性・構造評価グループ 1
図 1.1 粉末 X 線回折パターンと解析によって分かること
角度(2θ)
ピーク位置
格子面間隔d → 定性分析・格子定数
dのシフト → 固溶体の分析 半価幅
結晶性・結晶子サイズと格子歪み
強度
ピークの有無
結晶質・非晶質の判定
積分強度
定量分析・結晶化度
~アンブレラ効果~
粉末試料に単色化された X 線を照射すると、入射 X 線の方向を中心とした同心円状の回折線が観
測されます。これを Debye 環といいます。通常、粉末 X 線回折測定は、シンチレーションカウンタ
などの検出器を用いて行われるため、得られる回折パターンは、Debye 環の一部を、ある大きさを
持った“窓”によりスキャンしたものです。そのため、図に示すように、Bragg の回折条件を満たす正
しい回折角度でない場所でも、X 線を観測することになります。回折角が 90°よりも小さな角度では
正しい回折角よりも低角側で、90°よりも大きな角度では高角側で X 線が観測されます。
回折角(°)0 90 180 窓
正しい回折角
さらに、SmartLab などの回折装置では線光源を用いているため、同じ面指数による回折線が線源
の長手方向に広がります。模式的には以下の図のようになり、結果としてピークの非対称性が大き
く観測されます。これをアンブレラ効果といいます。
入射X 線
試料
Debye 環
正しい回折角
2θスキャン方向
窓(スリット)
ピーク形状
ソーラースリットは、入射 X 線や試料からの回折 X 線の長手方向の発散成分を抑え、アンブレラ
効果を抑制する働きをします。開口角の小さなものほど効果的ですが、平行板の枚数が増えるため
X 線の強度が低下します。
第 2 章 原 理
粉末試料に単色かつ平行な X 線束を照射した場合について考えてみます。試料中のある結晶粒子で面
間隔 d の格子面(h k l)が、入射 X 線に対して Bragg の式 2dsinθ=nλを満足する角度θ(Bragg 角度)だけ
傾いたとすると、入射 X 線はこの格子面によって回折されます。このとき、回折線の方向は入射 X 線に
対して、格子面に対する入射 X 線の角度θと、回折 X 線の格子面に対する角度θを足し合わせた角度 2θ
(回折角度)だけ傾いています(図 2.1 (a))。
試料中の結晶子の数が十分多く、その方向がランダムになっているとすれば、どの格子面を採ってみて
も、回折条件を満たす方向を向いた結晶子は必ず存在します。このため、図 2.1(b)に示したように、格子
面(h k l)によって回折された X 線は、2θ<90°のときは半頂角 2θ、2θ>90°のときは半頂角(180°-
2θ)であるような円錐の母線に沿って進みます。同様に、別の面間隔を持った格子面(h’ k’ l’)による回折
線は、半頂角 2θ’の円錐の母線に沿って進みます。つまり、粉末による回折 X 線は、中心角が異なる多数
の円錐を形成します。
このような円錐を、平板フィルム(図 2.2(a))または円筒フィルム(図 2.2(b))で撮影すると、入射 X
線の位置を中心とする同心円状の回折パターンが得られます。この同心円を Debye 環といいます。
粉末定性・構造評価グループ 3
(a) 1 つの結晶子による回折 (b) 粉末による回折
図 2.1 結晶による X 線回折
(a) 平板フィルム法(Laue カメラ) (b) 円筒フィルム法(Debye Scherrer カメラ)
図 2.2 粉末 X 線回折法
平板フィルム
粉末試料 コリメータ X 線源
2θ
Debye 環
回折 X 線粉末試料 円筒状フィルム
コリメータ
X 線源
A’
0 ° 180°180°
A
フィルムを開いたところ
2θ
A
A’
格子面(h k l)
θ
回折角
2θ入射 X 線
回折 X 線
θ
回折 X 線
入射 X 線 試料
2θ
第2章 原 理
図 2.3 のように、試料を中心とした円周に沿って検出器をスキャンして、各 Debye 環の X 線強度を測定
し、記録する装置を「X 線ディフラクトメータ」といいます。X 線強度は、円周に沿ってスキャンする検
出器の角度 2θの関数として出力されます。格子面間隔 d は、測定値θから Bragg の式 2dsinθ=nλを用
いて求められます。
4 粉末定性・構造評価グループ
図 2.3 ディフラクトメータの基本原理
粉末 X 線回折法の光学系には、「集中法」と、平行な X 線が得られるスリットなどを用いた「平行ビ
ーム法」があります。平行ビーム法に比べて手軽に分解能と強度が得られることから、一般に集中法が使
用されています。
2θ 計数回路
データ出力
検出器
X線管
入射X線
回折X線
試料
2.1 集中法光学系
2.1 集中法光学系
集中法では図 2.1.1 に示すように、「集中円」を仮定し、この集中円に接するような曲面を持った試料
による回折を考えます。集中円は、X 線源、ゴニオメータの回転中心および受光スリットの 3 点を通る仮
想的な円であり、その半径は図 2.1.1 に示すように、回折角 2θによって変わります。
試料は微粉末にして試料板に詰め、表面が集中円に接するように置きます。集中円上にある X 線源か
ら発散した X 線を試料に入射すると、試料からの回折 X 線は集中円上の点(集中点:ここに受光スリッ
トを置く)で集中します。これを実現するためには、ディフラクトメータが次の 2 つの条件を満たさなけ
ればなりません。
(1) X 線源-ゴニオメータの回転中心(試料表面)間距離と、ゴニオメータの回転中心-受光スリット
間距離が等しい(この長さをゴニオメータ半径という)。
(2) 入射 X 線と試料面とのなす角(θ)と、入射 X 線と回折 X 線とのなす角(2θ)とが、常に 1:2 であ
る。
(1)、(2)の条件を満たす光学系を「Bragg-Brentano の集中法光学系」といいます。
(2)の条件を満たすためには、試料は集中円と同一の曲率を持った曲面でなければなりませんが、平面の
場合も、近似的にこの条件が成り立つため、ディフラクトメータでは平板試料が使用されます。
X 線源
試料
集中点
X 線源 集中点
集中円集中円
試料
ディフラクトメータ円
X線源
図 2.1.1 集中法光学系
散乱スリット
ソーラースリット
検出器
発散スリット
受光スリット
試料
粉末定性・構造評価グループ 5
第2章 原 理
Bragg-Brentano の集中法光学系では、一般に図 2.1.1 に示すように、入射側にソーラースリットおよび発
散スリット(DS:Divergence Slit)、受光側に散乱スリット(SS:Scattering Slit)、ソーラースリットお
よび受光スリット(RS:Receiving Slit)が置かれます。
入射 X 線は散乱面内方向だけでなく、散乱面に垂直な方向にも発散(以下、「垂直発散」という)し
ているため、回折線にも広がりが生じます。これをアンブレラ効果といいます。2θ=90°では、RS が
Debye 環を垂直に受けるため、アンブレラ効果による回折線のずれはありませんが、2θが低角(または
高角)になるにつれ、回折線は低角側(または高角側)に広がります。ソーラースリットは、多数の薄い
金属板を狭い間隔で平行に並べたもので、入射 X 線および回折 X 線の垂直発散を制限します。図 2.1.2 に
示すように、縦長の焦点から発生した X 線は入射側のソーラースリットにより、入射 X 線の垂直発散を
抑えることができます。また、受光側のソーラースリットは Debye 環の一部分のみを取り出す働きをしま
す。
6 粉末定性・構造評価グループ
図 2.1.2 Debye 環の垂直発散
2.2 平行ビーム光学系
平行ビーム法では、図 2.2.1 に示すように、多層膜ミラーなどで平行化された X 線を試料に入射し、試
料から回折した X 線を、平行スリットアナライザ(PSA)や結晶アナライザによって、そのまま平行に取り
出します。試料の形状や光学系の幾何学的な制限を受けないため、薄膜試料の測定やコリメータを利用し
た測定などに使用されます。ただし、X 線源は発散光源であるため、X 線の平行度を高くするほど、得ら
れる強度は小さくなります。
図 2.2.1 平行ビーム光学系
極細スリット
平行スリット
多層膜ミラー
結晶アナライザ など
検出器
試料
X線源
受光側ソーラースリット
入射側ソーラースリット
粉末定性・構造評価グループ 7
第 3 章 パッケージ測定の選択
粉末定性・構造評価グループには、[簡易広角(集中法)]、[精密広角(集中法)]、[汎用(集中法)]、
[簡易広角(中分解能 PB/PSA)]、[精密広角(中分解能 PB/PSA)]、[汎用(PB/PSA)]の 6 つのパッケージ
測定が含まれています。それぞれ、どのような場合に使用するかを以下に説明します。
表 3.1 パッケージ測定の選択の目安
パッケージ測定名 パッケージ測定の選択の目安 備考
[簡易広角(集中法)] 結晶質・非晶質の判定、微量成分の
検出、定性分析、その他の分析の予
備測定として使用。
[精密広角(集中法)] 定量分析、格子定数の精密化、結晶
子サイズ、結晶化度、結晶構造の精
密化のように、回折線の強度や幅を
定量的に分析する必要がある場合に
使用。
[汎用(集中法)] 集中法光学系において、プロファイ
ルを分割して測定する場合に使用。
光学系の分解能は、入射スリット
および受光スリットの幅に依存。
[簡易広角(中分解能
PB/PSA)]
結晶質・非晶質の判定、定性分析、
その他の分析の予備測定として使
用。集中法では誤差を生じやすい試
料(粉砕や成形が難しい試料、凹凸
や曲率を持つ試料、選択配向が強い
試料など)の測定に有効。
[精密広角(中分解能
PB/PSA)]
定量分析、格子定数の精密化、結晶
子サイズ、結晶化度、結晶構造の精
密化のように、回折線の強度や幅を
定量的に分析する必要がある場合に
使用。
[汎用(中分解能
PB/PSA)]
平行ビーム光学系において、プロフ
ァイルを分割して測定する場合に使
用。
光学系の分解能は、平行スリット
アナライザ(PSA)の開口角度に依
存。対称透過測定や入射角度を固
定した非対称測定(2θスキャン)
も可能。
以下に、それぞれのパッケージ測定に含まれるパーツの機能について説明します。
第3章 パッケージ測定の選択
3.1 [簡易広角(集中法)]パッケージ測定
(1) 光学系調整(集中法)
集中法光学系におけるダイレクトビームの調整を行います。
(2) 試料位置調整(集中法)
ウェーハ試料板を使用する場合は、半割調整を行います。
参考: ガラス試料ホルダーや Al 試料ホルダーに充填した試料を高さ基準試料板に挿入
する場合は、試料位置調整の必要はありません。
(3) 簡易広角測定(集中法)
試料の種類に基づいて、スキャン範囲やスリット条件を決定し、2θ/θスキャンを行います。
3.2 [精密広角(集中法)]パッケージ測定
(1) 光学系調整(集中法)
集中法光学系におけるダイレクトビームの調整を行います。
(2) 試料位置調整(集中法)
ウェーハ試料板を使用する場合は、半割調整を行います。
参考: 高さ基準試料板にガラス試料ホルダーや Al 試料ホルダーに充填した試料をセッ
トする場合は、試料位置調整の必要はありません。
(3) 精密広角測定(集中法)
スキャン範囲、試料の幅、試料の高さから、定量的な分析で重要となるスリット条件を決定します。
また、試料の半価幅や強度に基づいて、スキャンのステップ幅や計数時間の最適値を決定し、2θ/
θスキャンを行います。
3.3 [汎用(集中法)]パッケージ測定
(1) 光学系調整(集中法)
集中法光学系におけるダイレクトビームの調整を行います。
(2) 試料位置調整(集中法)
ウェーハ試料板を使用する場合は、半割調整を行います。
参考: 高さ基準試料板にガラス試料ホルダーや Al 試料ホルダーに充填した試料をセッ
トする場合は、試料位置調整の必要はありません。
(3) 汎用測定(集中法)
集中法光学系において、ユーザーが設定した条件(管電圧・管電流設定を含む)でスキャンを行い
ます。
8 粉末定性・構造評価グループ
3.4 [簡易広角(中分解能PB/PSA)]パッケージ測定
3.4 [簡易広角(中分解能 PB/PSA)]パッケージ測定
(1) 光学系調整(PB/PSA)
受光 PSA を用いてダイレクトビームの調整を行います。
(2) 試料位置調整(PB/PSA)
ウェーハ試料板を使用する場合は、半割調整を行います。
参考: 高さ基準試料板にガラス試料ホルダーや Al 試料ホルダーに充填した試料をセッ
トする場合は、試料位置調整の必要はありません。
(3) 簡易広角測定(PB/PSA)
試料の種類や形態に基づいて、スキャン範囲やスリット条件を決定し、2θ/θスキャンを行います。
3.5 [精密広角(中分解能 PB/PSA)]パッケージ測定
(1) 光学系調整(PB/PSA)
受光 PSA を用いてダイレクトビームの調整を行います。
(2) 試料位置調整(PB/PSA)
ウェーハ試料板を使用する場合は、半割調整を行います。
参考: 高さ基準試料板にガラス試料ホルダーや Al 試料ホルダーに充填した試料をセッ
トする場合は、試料位置調整の必要はありません。
(3) 精密広角測定(PB/PSA)
スキャン範囲、試料の幅、試料の高さから、定量的な分析で重要となるスリット条件を決定します。
また、試料の半価幅や強度に基づいて、スキャンのステップ幅や計数時間の最適値を決定し、2θ/
θスキャンを行います。
3.6 [汎用(中分解能 PB/PSA)]パッケージ測定
(1) 光学系調整(PB/PSA)
受光 PSA を用いてダイレクトビームの調整を行います。
(2) 試料位置調整(PB/PSA)
ウェーハ試料板を使用する場合は、半割調整を行います。
参考: 高さ基準試料板にガラス試料ホルダーや Al 試料ホルダーに充填した試料をセッ
トする場合は、試料位置調整の必要はありません。
(3) 汎用測定
平行ビーム光学系において、ユーザーが設定した条件でスキャンを行います。
粉末定性・構造評価グループ 9
~エスケープピーク~
入射 X 線のエネルギーが計数管の光量子吸収体(例えば、SC では Na,I など)の吸収端エネルギ
ーより大きくなると、波高分布曲線にエスケープピークが現れます。エスケープピークのエネルギ
ーは次式で表わされます。
(エスケープピークのエネルギー)=(入射 X 線のエネルギー)-(吸収体の特性 X 線エネルギー)
エスケープピークのエネルギーが PHA のウィンドウを通過しうる波高になったとき、回折パター
ン上の 2θ=5~15°付近にブロードなピークとして、エスケープピークが観測されます。SC+PHA
の組み合わせで測定した回折パターンの模式図を以下に示します。管電圧をヨウ素の Kαの励起電
圧(33.2kV)以下にするか、カウンタモノクロメータを使用すると、エスケープピークは回折パタ
ーン上に現れません。
試料が単結晶(d が一定)で、Kβフィルタ-と
PHA を併用した場合
2θ
Cu
Kα
Cu
Kβ
Ni の吸収端
エスケープ
ピーク
エスケープ
ピーク
Cu
Kα(
h 1,k
1,l1)
Cu
Kβ(
h 1,k
1,l1)
Cu
Kα(
h 2,k
2,l2)
Cu
Kβ(
h 2,k
2,l2)
Cu
Kα(
h 3,k
3,l3)
Cu
Kβ(
h 3,k
3,l3)
2θ
試料が多結晶で、Kβフィルタ-と
PHA を併用した場合
4.1 粉末X線回折法で用いられる試料の調製
第 4 章 補 足
4.1 粉末 X 線回折法で用いられる試料の調製
X 線回折法の対象となる試料は、一般的に結晶質・非晶質を問わず広範囲にわたります。このうち、粉
末 X 線回折法の対象となる多結晶体は、その形状から粉末試料と塊状試料に分類することができます。
粉末 X 線回折法で使用する試料は微細結晶であり、通常、試料ホルダー内では各結晶子の方向に偏り
がないことを前提として解析を行います。ただし、粉末試料でも、へき開性があるものもあり、また塊状
試料には集合組織を有しているものが多く、実際にはこの前提条件が満たされない場合もあります。
ここでは一般的な試料の調製法について説明します。
(1) 粉末試料
粉末試料の場合、その粒の大きさが回折強度に大きく影響します。一般に粒の大きさは、回折強度
の再現性から見て、10 μm程度が望ましいと考えられます。結晶粒が粗い場合、Debye環が斑点状
になり、回折強度の再現性がなくなります。また、粒径が 30 μm以上になると、消衰効果の影響
によって回折強度が減少します。このため、粉砕可能な試料の場合は、乳鉢や自動粉砕機などを用
いて粉砕することをお勧めします。表 4.1.1 に、α-SiO2の粒径と回折強度の再現性を示します。こ
の表からもわかるように、粒径が大きくなるほど相対標準偏差(回折強度のばらつき)が大きくな
ります。
注意: 試料によっては、粉砕することにより、結晶構造の変化、歪の発生、非晶質
への変化があるので注意してください。
表 4.1.1 粒の大きさによる回折強度の再現性の変化(単位:counts)
粒径 測定 No.
15~50μm 5~50μm 5~15μm <5μm
1 7612 8688 10841 11055
2 8373 9040 11336 11040
3 8255 10232 10046 11386
4 9333 9333 11597 11212
5 4823 8530 11541 11460
6 11123 8617 11336 11260
7 11051 11598 11686 11241
8 5773 7818 11288 11428
9 8525 8021 11126 11406
10 10255 10190 10878 11444
平均値 8513 9027 11168 11293
標準偏差 2081 1164 485 158
相対標準偏差 24.4% 12.6% 4.35% 1.4%
H.P.Klug and L.E.Alexander : “X-ray Diffraction Procedures” 2nd Edition, John Wiley & Sons, New York,
p.336 (1974). より作成。
粉末定性・構造評価グループ 11
第4章 補 足
12 粉末定性・構造評価グループ
(2) 塊状試料
塊状試料には、金属、焼結体、ポリマーおよび凝固体などがありますが、粉砕可能なものについて
は粉末にして測定します。粉末 X 線回折法の測定における重要な要素の 1 つとして、試料測定面の
平坦度があり、特に集中法の場合には、この影響を大きく受けます。測定面が凹凸している場合や、
湾曲している場合は、回折角度のずれや回折線の変形(分裂や広がり)などの現象が起こります。
このため、少なくとも測定面の平坦度は 0.02 mm 程度以下に抑える必要があります。やむを得ずこ
の条件が満たされない試料を測定する場合は、回折パターンに影響があることを考慮して測定デー
タを解析する必要があります。
4.2 測定条件の設定
4.2 測定条件の設定
同じ試料を測定しても、測定条件によって回折パターンが大きく変化します。このため、測定の目的や
試料などに応じて適切な測定条件を設定することが重要です。良質の粉末 X 線回折データを得るには、回
折角度、バックグラウンド強度に対するピーク強度比(P/B 比)、積分強度、半価幅などを考慮して、適
切な条件を設定する必要があります。定性・定量分析など、全ての測定目的に共通した条件の設定方法を
以下に示します。
Peak
I max
I 1/2 半価幅
積分強度 P/B比
Background
Peak
I max
I 1/2 半価幅
積分強度 P/B比
図 4.2.1 積分強度と半価幅と P/B 比
(1) P/B 比が良くなるように、条件を設定する
ピーク強度に対してバックグランド強度が高いデータでは、微小ピークの検出が困難です。
粉末定性・構造評価グループ 13
0
2500
5000
7500
32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44
2θ(deg)
x10^3
50
100
Hematite, syn - Fe2O3
P/B 比が良い
P/B 比が悪い
強度
(CPS)
図 4.2.2 P/B(ピーク/バックグラウンド)比
(2) 統計変動が小さくなるように(X 線回折強度が強くなるように)、条件を設定する
統計変動が大きいデータの場合は、回折角度、積分強度、ピーク幅を正確に求めることができませ
ん。また、微小ピークの検出も困難です。
図 4.2.3 統計変動と X 線回折強度
0
500
1000
63.0 63.5 64.0 64.5 65.0 65.5 66.0 66.5 67.0
2θ(deg)
0
500
1000
強度
(Cou
nts)
0
1000
2000
3000 強度が強い 統計変動が小さい
統計変動が大きい 強度が小さい 3000
強度
(CPS)
2000
1000
63.0
0
63.5 64.0 64.5 65.0 65.5 66.0 66.5 67.02θ(deg)
第4章 補 足
14 粉末定性・構造評価グループ
(3) 分解能が高くなるように、条 す
分解能が低いデータの場合は、回折角度、積分強度、ピーク幅を正確に求めることができません。
図 4.2.4 分解能の違いによるプロファイルの違い
(4) 入射 X 線が、試料からはみ出さないように条件を設定する
特に、回折線の強度比が重要な解析(定量分析、結晶化度、Rietveld 解析など)には、この条件を
満たす測定が必要になります。対称反射測定(X 線の入射角と出射角が等しい)では、入射 X 線の
照射幅は、回折角度 2θに依存して変化します。
(a) X 線が試料からはみ出さない (b) X 線が試料からはみ出す
図 4.2.5 回折角度 2θと照射面積
件を設定 る
20mm
試料ホルダー 照射幅
試料
(回折角度が低い時) (回折角度が高い時) (回折角度が低い時) (回折角度が高い時)
0
1000
2000
3000
67.0 67.5 68.0 68.5 69.02θ(deg)
0
2000
4000
強度
(CPS)
分解能が高い
分解能が低い
4.2 測定条件の設定
光学系と入射 X 線の照射幅
集中法、平行ビーム法ともに、通常は 2θ/θスキャンの対称反射測定を行います。ただし、平行ビ
ーム法で 能です。
集中法測
は、対称透過法測定や入射角度固定(ω固定)2θスキャンによる非対称測定も可
定では、照射幅 W は、入射スリットの開口角度により、次式で計算されます。
注意: これまでのリガク製の粉末回折装置に比べて、SmartLab のゴニオメータ半
径(標準値:300 mm)が長いため、入射スリットの開口角度に対する照射
幅には注意が必要です。
[集中法光学系における入射スリット IS の開口角度に対する X 線照射幅]
⎟⎠⎝⎥
⎟⎞
⎜⎛ −⎟
⎞+ 2sin ISIS θθ
⎞⎜⎛
⎥
⎥⎥⎤
⎢⎢⎢⎢⎡
+⎜⎛
= sin
2
1
2sin
1)( ISRmmW
⎦⎣ ⎠⎝⎠⎝
θ : =回折角度 2θ/2(deg)
IS : 入射スリットの開口角度(deg)
R : ゴニオメータ半径(mm)
0
5
10
15
20
25
0 10 20 30 40 50 62θ(deg)
照射
幅W
(m
m)
0
図 4.2.6 ゴニオメータ半径 300 mm の集中法光学系における入射 X 線の照射幅
IS=1/4°IS=1/3°
IS=1/2° IS=2/3°
試料幅
IS=1IS=1/8°
/6°
粉末定性・構造評価グループ 15
第4章 補 足
平行ビーム法では、多層膜ミラーから出射された約 1 mm 幅の平行 X 線ビームを使用するため、散
[平行ビーム光学系における入射スリット IS の開口角度に対する X 線照射幅]
乱線除去の目的で IS=1 mm を使用します。また、RS1、RS2 は Open にして回折線を遮らないよう
にします。試料面での照射幅 W は、次式で計算されます。
θsin)( ISmmW =
θ : =回折角度 2θ/2(deg)
IS : 入射スリットの幅(mm)、通常は 1 mm で計算
0
5
10
16 粉末定性・構造評価グループ
15
m)
20
25
0 20 30 40 50 602θ(deg)
照射
幅W
図 4.2.7 ゴニオメータ半径 300 mm の平行ビーム光学系における入射 X 線の照射幅
試料の幅
(m
IS=1 mmIS=0.5 mm
0 1
4.3 平行ビーム光学系を用いた測定
4.3 平 ビ
X線 り、測定目的に応じて数々の光学系が
使用されています。集中法は分解能と強度を手軽に得られる光学系として最も頻繁に用いられ、現在のX
線回折光学系の基本となっています (1)。しかし、集中法は簡便に使用できる一方で、次のような欠点をも
っています 。
(1) 入射角度を任意に設定することができない。
(2) 試料形状が平板であることや、試料内部で回折することによって光学収差を生じる。
(3) 試料面の凹凸の度合いによって、回折パターンが変化する。
料面 。
(5) 回折ピークが非対称になりやすい。
(6) 分解能を向上させるには、X 線焦点の幅や発散角を可能な限り小さくし、ゴニオメータ半径を大き
くする必要があるが、強度低下と試料結晶の平均化を考えると容易ではない。
以上の理
・
・
・
・ Rietveld
・
・
行 ーム光学系を用いた測定
回折装置において、光学系は最も重要な構成要素の 1 つであ
(2)
(4) 得られる情報が、試 に対して平行な回折面を持つ結晶子に限定される
由から、次に挙げる測定の場合は、平行ビーム光学系を使用することをお勧めします。
低角度入射を必要とする薄膜試料の測定
選択配向の強い試料の測定
粉砕や成形が不可能な試料の測定
法 (3) やPawley法
(4) などのプロファイル解析の測定
回折ピークの位置や幅の精密測定
特殊環境下(温度・雰囲気調整など)での測定
粉末定性・構造評価グループ 17
第4章 補 足
18 粉末定性・構造評価グループ
集中法は、円周角の定理に基づいていま
置が上下
す。しかし、実際の試料は平板状に成形されるうえ、試料の内
部で回折が起こります。試料面の基準位 にずれている場合や凹凸がある場合には、偏心と呼ばれ
る
線内は平行ビーム光学系でも生じる)
これに対して平行ビーム法は、試料の形状に由来する誤差要因が殆ど無いため、誤差要因は、図 4.3.1
に示すように、a) X 線焦点による誤差、c) X 線ビームの垂直発散による誤差、d) 受光スリットによる誤
差の 3 つに限定されます。また、X 線焦点による誤差要因も、集中法が無限小の焦点幅を必要とするのに
対して、平行ビーム法では入射モノクロメータなどで発散角を小さくすれば抑えることができます。
近年の粉末回折法では、Rietveld法やPawley法に代表されるプロファイル解析が最も重要な分野の一翼
を担っています。プロファイル解析では、測定した回折パターンをPseudo-Voigt関数や PearsonⅦ関数など
を非対称化した解析型プロファイル関数で近似するのが主流ですが、非対称性が強いプロファイルには、
一致度が低いのが現状です (5) 。しかし、平行ビーム法では非対称要因が軸発散に起因する誤差(アンブレ
ラ効果)に限定されるため、この要因を抑えれば分解能の高い、対称なプロファイルを得ることができま
す。また、X線焦点や受光スリットによる対称誤差要因を抑えれば、回折角度の絶対値に対する精度が向
上し、格子定数の決定や指数付けなどを容易にできるものと考えられます。
+ε
誤差を生じます。また、X 線源や受光スリットも有限の幅を持っていることから、理想的に調整された
光学系であっても、図 4.3.1 に示すような 6 つの誤差要因を持っています。
図 4.3.1 集中法光学系の系統誤差(点
-ε 0
b.平板状試料による誤差
0 +ε -ε c. X線ビームの垂直発散による誤差
0 +ε -ε
e.試料透過による誤差 f. 偏心誤差
0 +ε -ε
+ε - 0ε a. X線焦点による誤差
+ε - 0ε
d.受光スリッ による誤差 ト
参考文献
(1)
(2) L. E. Alexander , J. Appl. Phys. , 25 , 155 (1954).
(3)
(4)
(5)
J. C. M. Brentano , J. Appl. Phys. , 17 , 420 (1946).
H. M. Rietveld , J. Appl. Cryst. , 2 , 65 (1969).
G. S. Pawley , J. Appl. Cryst. , 14 , 357 (1981).
R. A. Young and D. B. Wiles , J. Appl. Cryst. , 15 , 430 (1982).
粉末定性・構造評価グループ 19