経済のグローバル化と t先生の 現代社会 a アプローチ ·...

3
1 今回のテーマは「経済のグローバル化 とどう向き合うか」です。ギリシャをは じめとするヨーロッパの経済危機など日本にも大 きな影響があると考えられます。単に経済的な影 響にとどまらず、さまざまな観点から多面的に考 えるために、次の三つの観点をあげてみました。 一つ目は「日本企業の観点」から。グローバル 化が進むなかで、製造業を成長の原動力としてき た日本経済を取りまく環境に変化が生じています。 そのなかで日本企業はグローバル化にどう向き合 っていけばよいのでしょうか。 二つ目は「地域的経済統合の観点」から。昨今、 EUをはじめとして世界各地で地域的経済統合が 進められつつあります。そのような状況のなかで、 日本がどのような対応をとるべきかについては、 多角的に考えることが大切です。 三つ目は「国家の役割の観点」から。世界経済 では多国籍企業など、国家以外の経済主体の影響 が大きくなっているとはいえ、地域的経済統合へ の参加の是非には国益の視点が欠かせませんし、 世界経済の安定のためには国際協調が必要です。 グローバル化時代における国家の役割に焦点をあ てます。 このような三つの観点から「経済のグローバル 化」について生徒に理解させ、考えさせる授業の くふうを教えてください。 Q 日本企業の観点から… 「経済のグローバル化とどう向き合うか」というテ ーマは、現代社会を担当する公民科教師として“血が 騒ぐ”感があります。これからを担う高校生に「持続 可能な社会の形成に参画するのだ!」、「現代社会に生 きる人間としてのあり方生き方を考えるのだ!」との 強烈なメッセージを届けることのできる題材と感じま す。彼らがどのような進路を決定したとしても、経済 のグローバル化と無縁であるはずがありません。今回 は新課程用教科書の最後をかざる第Ⅲ部「共に生きる 社会のために」において、使えそうなアイデアを紹介 します。ぜひ、高校生の考察を深めさせていただきた T先生の A 地域的経済統合の観点から… 経済のグローバル化によって地域的な経済のつなが りは密接になっており、日本でもTPPへの参加の是非 をめぐって熱い議論がかわされています。そこで、地 域的経済統合に焦点をあてて、日本がFTAやEPAを積 極的に進めるべきか否かについて、考えさせる授業を 展開してみましょう。 まずは前提として、経済のグローバル化とは何かを 確認しておきます。 『アクセス現代社会 2012』(以 下、資料集)p.251には、「モノ・ヒト・カネが国境 を越えて自由に活動し、市場経済が地球規模に広がっ ていく」ことと書いてありますが、具体的なイメージ M先生の A 国家の役割の観点から… 世界的な視点から経済をみるときに、国境の 壁が低くなる「ボーダーレス化」が進み、「国 際」(international :国 際 的 な ) か ら「 グ ロ ー バ ル 」 (global :地球全体の)へと視座が転換されたとはいえ、 「国」というわく組みがある以上、それぞれの国の国 益(national interest)を無視するわけにはいきませ ん。そこで、経済のグローバル化が進むなかで求めら れる国家の役割について、考えを深める授業を展開し てみましょう。 経済のグローバル化における国家の役割を考えると き、グローバル化した国際経済の一番の担い手が、多 Q先生の A リーマン・ショック以来、日本ではデフレ、円 高不況、格差拡大など経済上の問題が次々と現れ ています。日本に限らず世界でも、ギリシャの経 済危機やユーロの問題など、同様に問題が発生し ています。そこで今回は経済のグローバル化が世 界の国々に与える影響と、経済のグローバル化と どのように向き合うかについて、生徒たちに考え させるくふうを先生方にお答えいただきます。 現代社会 への アプローチ 経済のグローバル化と どう向き合うか

Upload: others

Post on 14-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 経済のグローバル化と T先生の 現代社会 A アプローチ · しょう。「ガラパゴス化」については、少々、教師か ら説明を加えてあげたほうがよいかもしれませんが、

1

 今回のテーマは「経済のグローバル化

とどう向き合うか」です。ギリシャをは

じめとするヨーロッパの経済危機など日本にも大

きな影響があると考えられます。単に経済的な影

響にとどまらず、さまざまな観点から多面的に考

えるために、次の三つの観点をあげてみました。

 一つ目は「日本企業の観点」から。グローバル

化が進むなかで、製造業を成長の原動力としてき

た日本経済を取りまく環境に変化が生じています。

そのなかで日本企業はグローバル化にどう向き合

っていけばよいのでしょうか。

 二つ目は「地域的経済統合の観点」から。昨今、

EUをはじめとして世界各地で地域的経済統合が

進められつつあります。そのような状況のなかで、

日本がどのような対応をとるべきかについては、

多角的に考えることが大切です。

 三つ目は「国家の役割の観点」から。世界経済

では多国籍企業など、国家以外の経済主体の影響

が大きくなっているとはいえ、地域的経済統合へ

の参加の是非には国益の視点が欠かせませんし、

世界経済の安定のためには国際協調が必要です。

グローバル化時代における国家の役割に焦点をあ

てます。

 このような三つの観点から「経済のグローバル

化」について生徒に理解させ、考えさせる授業の

くふうを教えてください。

Q

日本企業の観点から…

 「経済のグローバル化とどう向き合うか」というテ

ーマは、現代社会を担当する公民科教師として“血が

騒ぐ”感があります。これからを担う高校生に「持続

可能な社会の形成に参画するのだ!」、「現代社会に生

きる人間としてのあり方生き方を考えるのだ!」との

強烈なメッセージを届けることのできる題材と感じま

す。彼らがどのような進路を決定したとしても、経済

のグローバル化と無縁であるはずがありません。今回

は新課程用教科書の最後をかざる第Ⅲ部「共に生きる

社会のために」において、使えそうなアイデアを紹介

します。ぜひ、高校生の考察を深めさせていただきた

T先生の

A

地域的経済統合の観点から…

 経済のグローバル化によって地域的な経済のつなが

りは密接になっており、日本でもTPPへの参加の是非

をめぐって熱い議論がかわされています。そこで、地

域的経済統合に焦点をあてて、日本がFTAやEPAを積

極的に進めるべきか否かについて、考えさせる授業を

展開してみましょう。

 まずは前提として、経済のグローバル化とは何かを

確認しておきます。『アクセス現代社会 2012』(以

下、資料集)p.251には、「モノ・ヒト・カネが国境

を越えて自由に活動し、市場経済が地球規模に広がっ

ていく」ことと書いてありますが、具体的なイメージ

M先生の

A

国家の役割の観点から…

 世界的な視点から経済をみるときに、国境の

壁 が 低 く な る「 ボ ー ダ ー レ ス 化 」 が 進 み、「 国

際」(international:国際的な)から「グローバル」

(global:地球全体の)へと視座が転換されたとはいえ、

「国」というわく組みがある以上、それぞれの国の国

益(national interest)を無視するわけにはいきませ

ん。そこで、経済のグローバル化が進むなかで求めら

れる国家の役割について、考えを深める授業を展開し

てみましょう。

 経済のグローバル化における国家の役割を考えると

き、グローバル化した国際経済の一番の担い手が、多

Q先生の

A

 リーマン・ショック以来、日本ではデフレ、円高不況、格差拡大など経済上の問題が次々と現れています。日本に限らず世界でも、ギリシャの経済危機やユーロの問題など、同様に問題が発生しています。そこで今回は経済のグローバル化が世界の国々に与える影響と、経済のグローバル化とどのように向き合うかについて、生徒たちに考えさせるくふうを先生方にお答えいただきます。

現代社会への

アプローチ

経済のグローバル化とどう向き合うか

Page 2: 経済のグローバル化と T先生の 現代社会 A アプローチ · しょう。「ガラパゴス化」については、少々、教師か ら説明を加えてあげたほうがよいかもしれませんが、

2

られそうです。

 ②携帯電話以外で、どんなものがあるのかを調べさ

せることで、生徒はスタートが切りやすくなるはずで

す。安全性の高い軽自動車、世界有数の耐震性を誇る

建設技術、最先端技術を生かし急速に拡大するカーナ

ビゲーション、非接触ICカード(電子マネー)、デジ

タル放送などは著名ですが、ハブ空港化できない成田

空港までをガラパゴス化と指摘するものまであるよう

です。多様化に気づかせ自ら課題を設定させましょう。

 ③国内専用と化す製品をひとつあげさせながら、経

済のグローバル化が進展していくなかで、日本企業の

あるべき姿を考えさせたいものです。

 日本独自の規格をつくり、日本人のニーズにこたえ

ながら、「ガラパゴス化」製品は右肩上がりの日本経

いです。来年度は新学習指導要領実施元年ですから、

一斉授業オンリーから脱却して課題探究活動に積極果

敢なチャレンジをしてみませんか。

 第Ⅲ部は多様な方法が考えられるとされています。

新課程用教科書p.182(以下、教科書)に提案されて

いるレポートの作成にトライさせてみましょう。自宅

で取り組ませる形の小論文の作成でもかまいません。

 ①課題の設定は日本の「ガラパゴス化」でいかがで

しょう。「ガラパゴス化」については、少々、教師か

ら説明を加えてあげたほうがよいかもしれませんが、

「ガラケー(ガラパゴス携帯の略語)」が流行語になっ

たくらいですから、携帯電話の普及により、ある程度

ならわかる生徒もいることでしょう。身近な題材です

から、日常生活と交差させることで、生徒自身で考え

 次に、地域的経済統合の抱える課題をみていきます。

資料集p.251の導入「国家経済の破綻(ギリシャの

例)」を使います。写真から、ギリシャ国内で政府と

国民が対立しているようすがわかります。ここから、

「なぜギリシャは財政危機におちいったのか」、「なぜ

ドイツは支援に難色を示すのか」、さらに「なぜギリ

シャの問題がポルトガルやスペインに波及するのか」

などの疑問点を生徒に考えさせたいです。また、資料

集p.260「EUとは」でEUの成り立ちを確認しつつ、

教科書p.154の導入「EU、加盟国間での格差の拡大

とくすぶる不満」を取りあげて、「EU加盟国の国民が

不満を感じていることは何か」を発問してみます。地

域的経済統合の現状と課題についてイメージがつかめ

るのではないでしょうか。

をつかませたいところです。生徒たちに、「人が国境

を越えるとはどのようなことか」、と投げかけてみま

す。旅行や、外国人労働者や移民の問題など、さまざ

まな回答が返ってくるでしょう。同様に、「金が国境

を越えるとはどのようなことか」についても、旅行に

行ってお金を使うこと、外貨預金のことなど、具体的

な回答が返ってくるでしょう。

 以上をふまえて、地域的経済統合の学習に入ってい

きます。

 はじめに、なぜ地域的経済統合が進んでいるのかを

理解するために、そのメリットをみていきます。資料

集p.240のコラム「最恵国待遇とFTA」が有効です。

ここで、FTA発効前と発行後で貿易にどのような変化

があるかを考えさせます。

国籍企業に代表される「民間の企業」であることに難

しさがあります。すなわち、20世紀後半に多くの国

が財政上の理由から「小さな政府」へと回帰し、経済

でも規制緩和などが進められる21世紀になって、国

家が経済に介入する度合いはますます小さくなってき

ています。それでも①「グローバル化をうながす国家

の動き」として、FTAやEPAの締結(資料集p.262)、

サミット(資料集p.261)やOECDなどでの討論、が

あります。逆に、②「グローバル化のなかで自国を保

護する動き」として2001年の対中国農産物のセーフ

ガードの発動(資料集p.241コラム)などもありま

す。

 経済のグローバル化についての学習は、国際政治・

経済分野の総まとめとなるところです。貿易や外国為

替の知識はもちろん、冷戦構造、第三世界の問題、南

北問題や地域的経済統合などで学んだ知識を総動員し

ながら考えていくことになります。教科書p.156-

157と資料集p.251-252をあわせ見ることで、グロ

ーバル化の特徴と問題点を確認できます。そのうえで、

資料集p.262の「FTA・EPAの効果と課題」を使っ

て、「国家の役割は何か」を話し合わせたり、文章に

まとめさせたりする学習をしてみるのはどうでしょう

か。さらに、サミットで話しあわれた過去の議題(資

料集p.261)を使って、“模擬サミット”をロールプ

レイングの形で生徒にやらせることも考えられます。

このような活動によって、「日本の国益」「世界への貢

献」という観点から国家はどのような役割を果たすの

かを考える学習に展開できるのではないでしょうか。

Page 3: 経済のグローバル化と T先生の 現代社会 A アプローチ · しょう。「ガラパゴス化」については、少々、教師か ら説明を加えてあげたほうがよいかもしれませんが、

3

 そうやって地域的経済統合の利点と課題についての

基礎的な知識を学習したあとに、日本のこれからにつ

いて考えさせます。まず資料集p.259の導入「TPP

で日本はどう変わる」から、TPPで何が争点になって

いるのかを整理させます。そのうえで、TPPあるいは

FTA、EPAについて、賛成・反対などを考えさせて発

表させたり、討論させたりしてみてはどうでしょうか。

済のなかで成功をおさめました。しかし、経済のグロ

ーバル化の進展により、これから成長する途上国の市

場も視野に入れた開発が求められています。第Ⅲ部に

ついて新学習指導要領で示されている着眼点の一つ、

「社会と社会」の関係として、日本的発展と世界的発

展という対立構図も読み取らせたいものです。高い技

術力をもちながらも世界で苦戦するモノづくり日本の

今後の方向性を見いださせるのです。世界規格にもと

づいた海外の低価格製品の大量流入という来襲が将来

世代の危機とみることができれば、現役世代であるわ

れわれ大人たちの喫緊の課題、すなわち「現役世代と

将来世代」の関係ともとらえられますね。

T先生の

A

M先生の

A

Q先生の

A

『アクセス現代社会 2012』p.259 「活性化する地域主義」

『アクセス現代社会 2012』p.262「FTA・EPAの効果と課題」

『アクセス現代社会 2012』p.261「先進国間の結びつき」

『アクセス現代社会 2012』p.251導入「国家経済の破綻(ギリシャの例)」