世界の人びとのためのjica基金・業務完了報告書 · 第5回 2017年4月30日開催...

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業務完了報告書様式 (別添) 世界の人びとのためのJICA基金・業務完了報告書 1. 業務の概要: (1)事業名 インドネシア・スメダン県における小規模農家の持続可能な農業の ための人材育成事業 (2)実施団体名 耕志の会(Yayasan kuncup harapan tani) (3)実施期間 2016 年 11 月 25 日から 2017 年 8 月 31 日 (4)実施国 インドネシア (5)活動地域 インドネシア西ジャワ州 福井県 (6)活動概要 ①活動の背景: 福井県で申請代表者が経営する農園たやでは、2001 年よりインドネシア・タンジュンサリ農 業高校と福井農林高校の友好交流のお手伝いをしてきた。その結果、長期的な農業人材育成 への需要が高まり、2008 年よりタンジュンサリ農業高校の卒業生を対象に外国人技能実習生 として農業研修を開始した。さらに 2011 年より実習生や日本人有志と一緒に「耕志の会」を 組織し、実習生のニーズに合った研修の実現や、実習生の帰国後の農業分野でのアクション プラン作成を支援している。2015 年に耕志の会では、福井の農家有志と大学生によるスタデ ィツアーを行い、インドネシアと福井の地域間交流も行っている。また 2016年より実習修了 生を中心に「耕志の会」のインドネシア支部を立ち上げ、月 2 回の地域おこし勉強会を開催。 耕志の会もネット(Skype)経由で勉強会に参加し、共に地域の小規模農家が抱える問題点を 解決するような農業支援事業を模索し、環境配慮型の農業の確立を目指している。今後、イ ンドネシアに押し寄せるグローバルサプライチェーンに対抗できるような地産地消かつ小農 による環境配慮型農業の実現を目的とした農業支援事業を行う。 ②活動の目標: ・当該地でのより多くの農家や学生が勉強会に参加してくれること。特に若者の農業への関 心を高め、環境問題や貧困問題の解決につなげたい。 ・実践的な経験と新技術の知識を共有し、農業支援事業の実現に向けて議論を活発にしたい。 小農たちの組合のような相互扶助による持続可能な農業の実現。

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Page 1: 世界の人びとのためのJICA基金・業務完了報告書 · 第5回 2017年4月30日開催 勉強内容:日本の農産物産直事例 参加者:13名 日本で直接農産物を消費者に届けている産直事例について、農園たやに来ているインドネシ

業務完了報告書様式

(別添)

世界の人びとのためのJICA基金・業務完了報告書 1. 業務の概要:

(1)事業名 インドネシア・スメダン県における小規模農家の持続可能な農業の

ための人材育成事業

(2)実施団体名 耕志の会(Yayasan kuncup harapan tani)

(3)実施期間 2016年 11月 25日から 2017年 8月 31日

(4)実施国 インドネシア

(5)活動地域 インドネシア西ジャワ州 福井県

(6)活動概要

①活動の背景:

福井県で申請代表者が経営する農園たやでは、2001年よりインドネシア・タンジュンサリ農

業高校と福井農林高校の友好交流のお手伝いをしてきた。その結果、長期的な農業人材育成

への需要が高まり、2008年よりタンジュンサリ農業高校の卒業生を対象に外国人技能実習生

として農業研修を開始した。さらに 2011年より実習生や日本人有志と一緒に「耕志の会」を

組織し、実習生のニーズに合った研修の実現や、実習生の帰国後の農業分野でのアクション

プラン作成を支援している。2015年に耕志の会では、福井の農家有志と大学生によるスタデ

ィツアーを行い、インドネシアと福井の地域間交流も行っている。また 2016年より実習修了

生を中心に「耕志の会」のインドネシア支部を立ち上げ、月 2回の地域おこし勉強会を開催。

耕志の会もネット(Skype)経由で勉強会に参加し、共に地域の小規模農家が抱える問題点を

解決するような農業支援事業を模索し、環境配慮型の農業の確立を目指している。今後、イ

ンドネシアに押し寄せるグローバルサプライチェーンに対抗できるような地産地消かつ小農

による環境配慮型農業の実現を目的とした農業支援事業を行う。

②活動の目標:

・当該地でのより多くの農家や学生が勉強会に参加してくれること。特に若者の農業への関

心を高め、環境問題や貧困問題の解決につなげたい。

・実践的な経験と新技術の知識を共有し、農業支援事業の実現に向けて議論を活発にしたい。

小農たちの組合のような相互扶助による持続可能な農業の実現。

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2. 業務実施結果:

(1)実施した内容

【農民勉強会の開催】

毎月 1 回(月末の日曜日)インドネシア・西ジャワ州タンジュンサリ農業高校を会場に、勉

強会を開催した。日本からもスカイプを繋いで勉強会に参加。営農の現場の問題点やその解

決策、また経験や知識の共有に務めた。

●第1回 2016年 12月 25日開催

勉強内容:土の中の微生物について

参加者:7名

土壌中の微生物の働きについて学び、有機物を投入し土づくりをする大切さを農家間で共有。

理論的に土壌について学ぶ。

●第 2回 2017年 1月 29日開催

勉強内容:健康と水について

参加者:11名

経済成長の著しいインドネシアでは健康ブームが起きている。それに伴い健康を謳った水ビ

ジネスが散見されるようになった。健康を科学的に説明できているかどうかを検証し、より

消費者に届く情報の在り方について学ぶ。

●第 3回 2017年 2月 26日開催

勉強内容:総合防除について

参加者:6名

病害虫の多い熱帯地域では、農薬ばかりに頼る防除法では限界がある。病害虫の抵抗性の獲

得も著しく、農薬だけでない防除法を合わせた総合的防除について学ぶ。実際に現場で使用

している技術もそれぞれの経験で紹介し合った。

●第 4回 2017年 3月 26日開催

勉強内容:農業の機械化について

参加者:12名

作業の効率化と大量生産に向け、農業の機械化について意見交換した。実際に日本でハンド

トラクターを使った場合の作業効率を研究した卒業生が、データを元に機械化への投資とそ

の資金回収の目途について説明し、効率化に向けた検証を行った。

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●第 5回 2017年 4月 30日開催

勉強内容:日本の農産物産直事例

参加者:13名

日本で直接農産物を消費者に届けている産直事例について、農園たやに来ているインドネシ

ア技能実習生が発表。インフラ整備など条件がそろわない面もあるが、産直に取り組むメリ

ットを確認できた。

●第 6回 2017年 5月 21日開催

勉強内容:ジャカルタの卸売市場へのアクセス

参加者:14名

インドネシアでは農家から消費者までのサプライチェーンの途中で、ブローカーによる利益

収奪が著しい。勉強会のメンバーが 2 月ごろから始めている市場への農産物直接持ち込みに

ついて事例を発表。農産物の量と車両の手配の難しさがあるが、農家への利益が高いことを

確認し、今後グループで出荷を検討することになった。

●第 7回 2017年 7月 30日開催

勉強内容:キノコ栽培について

参加者:7名

3 月に行われたバトゥ市への先進地視察を経て、キノコ栽培に挑戦する農家が現状を報告。

病気の発生や栽培の難しさについて経験を共有した。

*尚 6月は断食期間に入っていたため、勉強会は開催していない。

【先進地視察:東ジャワ州マラン県バトゥ市】

実施日: 2017年 2月 18日~2月 23日

参加者: 8名

目的: 農産物の付加価値を向上させるための販売戦略や加工などを学ぶため

視察地:東ジャワ州マラン県バトゥ市のリンゴ農家および生産組合

【先進地視察:西ジャワ州バンドゥン県パガレガン郡】

実施日: 2017年 7月 12日~7月 14日

参加者:7名

目的:野菜栽培の先進地を視察し、現状と問題点を学ぶため

視察地:ジャガイモ種子生産所、トウガラシ農家、牛乳生産組合など

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【外部講師によるセミナー】

5 月と 6 月に外部から講師を呼んで、タンジュンサリ農業高校でセミナーを開催した。県や

州の農業局職員による専門的なセミナーで、農業の専門知識や現場の意見と農業行政の在り

方について意見交換した。

●第 1回 2017年 5月 28日開催

セミナー内容:総合防除について

講師:アフマッド・アムブル氏(スメダン県農業局職員)

参加者:10名

●第 2回 2017年 6月 18日開催

セミナー内容:良質の種子と農業グループ化の利点について

講師:クマラ・デウィ・エルマワティ女史(西ジャワ州農業局職員)

参加者:11名

(2)実施成果:*上記実施内容ごと、あるいは、全体を通しての成果を記載下さい。

【農民勉強会の実施】

同地ではこれまで、勉強会の実施は行政主体で、農家は参加させられる存在でしかなかっ

た。農家間でのインフォーマルな情報交換は行われてきたが、経験が整理されていなかった

り、情報が噂の域を出ないこともしばしばあった。

今回の農民勉強会では、インドネシアや日本(農園たや)の農民自らが主体的に勉強会を

開催するという画期的な機会になった。また、勉強会ではそれぞれの経験をただ話すだけで

なく、その分野の書籍や論文と照らし合わせて、科学的に検証した内容を議論し合う場とな

った。発表者の準備負担は大きかったが、いずれの勉強会でも活発に意見が交換され、参加

者たちは学んだことをそれぞれ実践に移し、営農の改善につながっていった。また農民勉強

会では述べ 70名の参加が得られた。

日本(農園たや)の農家やそこに来ている技能実習生も参加し、議題についてローカルか

つグローバルに考えることができたことも大きな成果だろう。日本の先進事例(産直や有機

農業)なども紹介し、今後インドネシアの地方で展開される農業の在り方のヒントにもなっ

た。

【先進地視察:東ジャワ州マラン県バトゥ市】

① KTMA農家グループ訪問

リンゴの収穫体験を 2002年より行っている農家グループ。もともとはインドネシアの一般的

な農家と同じように、中間業者に農産物(リンゴ)を販売をしていたが、価格が低迷し、付

加価値を付けていくためにリンゴの加工品を手掛けるようになった。またリンゴ販売も市場

出荷ではなく、体験農園化して消費者に直接販売できるようにしている。農業観光と加工販

売で農家収入も天候に左右されず安定的になった。

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② リンゴ農家スマンティ氏訪問

スマンティ氏はバトゥ市のリンゴ栽培のリーダー的存在で、20年以上のリンゴ栽培経験があ

る。同氏から同市のリンゴ栽培の普及の変遷や栽培法について学ぶ。接ぎ木苗の作るタイミ

ングや市場のトレンドを見ながらの品種選び、防除、施肥のタイミングなど栽培に関して議

論を交わした。視察の参加者たちの西ジャワ州スメダン県でもリンゴ栽培は可能だとし、同

氏からリンゴの優良品種を分けてもらった。

③ ミラアルジュナ農家グループ訪問

ミラアルジュナは同市の先進的農家グループ。リンゴ栽培だけでなくキノコ栽培やそれらの

農産物加工もおこなっている。キノコ栽培のグループ見学では、キノコ栽培の優位性や栽培

の難しさなどを学ぶ。キノコ販売では、加工によって付加価値が上がること、キノコのお菓

子づくりなどを見学。リンゴ栽培のグループでは、リンゴチップスの加工を見学した。加工

することで、販売価値の向上することを学んだ。

④ アルジュナフロラ社訪問

農産物輸出で活躍する同市の経済をけん引する農業会社。1997年のインドネシアの経済危機

の時、日系企業の撤退によりルキ氏が地元に戻って農業を始めたのがきっかけ。日系企業の

知り合いからムラサキさつまいもの輸出を持ちかけられてから、さまざまな輸出品目を生産

販売するようになる。サクセスストーリーの中で、新しい挑戦には不安はあるかもしれない

が、思い切ってやってみることが大切だという言葉に一同感銘を受けた。

【先進地視察:西ジャワ州バンドゥン県パガレガン郡】

①ジャガイモ種子生産農場見学

途上国の農業において、品質の良い種子を手に入れることは、栽培への最大の成功であり、

もっとも困難なことでもある。ジャガイモ種子生産農場では、2002 年に JICA の技術協力プ

ロジェクトが入っており、品質の良い種子生産の条件や現場について学ぶことができた。種

子生産農場と協力して種子生産をしてる農家とも意見交換した。

②南バンドゥン牛乳生産組合

1981年より続く牛乳生産組合を見学。

より専門的な牛乳生産を行うために獣医師や畜産学修士号を持つ職員を雇用している。生乳

だけでなく、ヨーグルト、牛乳羹、ミルクせんべいなどの加工品にも力を入れている。同組

合にはオランダからの補助が入っており、若き畜産課の育成を行っていた。種牛の育成にも

力を入れており、独自品種の開発も行っていた。農民自らがグループ化することで、大きな

組織となり、牛乳の生産や商品開発を続けていることに感銘を受けた。

③トウガラシ農家訪問

同地ではトウガラシ栽培が有名であるが、連作のためトウガラシの収量が落ちている。同地

のトウガラシ栽培農家のリーダーであるアエップ氏は、化学肥料だけに頼らず、長年有機肥

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料を投入し、土壌の回復に努めていた。その甲斐あって、同氏の圃場では連作障害が発生し

ておらず、収量も他の農家を上回っていた。有機肥料の有効性の実例を実際に見学すること

ができ、参加メンバーも地力回復のために有機肥料の活用していくことを確認できた。

【外部講師によるセミナー】

耕志の会がセミナーを主催。県や州の農業局職員を外部講師として招いた。実際の農業技術

について学ぶことができた。それ以上に大きな効果として、農民がグループになって主体的

にセミナーを開いたことについて、県や州から大きな評価をいただいた。農業行政について

の意見交換もでき、耕志の会メンバーがそれぞれ県や州の農業局との関係を作れたことも大

きかった。

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(3)得られた教訓など:

農民が主体となって学びたいことを学ぶという試みで、行政から高く評価された。農家のや

る気も喚起され、勉強会での発表も質の高いものが多かった。その反面、農家の作業の都合

で開催が日曜日に限定されたことで、勉強会に参加するであろう学生や行政職員の参加が少

なかった。平日に開催となれば、野菜の出荷などの関係で農家の参加が難しくなる。また農

繁期には農家の参加も少なくなり、今後の多くの人を巻き込むための課題が残った。

(4)今後の活動・フォローアップの方針:

今後も月一回の勉強会を開催する予定。多くの参加者を得られるように開催曜日や日時を変

更する。また農園たや園主による年 1回の現地巡回指導も続けていく。

3.その他(エピソード・感想・写真など)

(1)活動中のエピソード・感想など

*今回の事業を通して経験したエピソード、感じたことなどがありましたらご記入下さい。

農家レベルの小さな取り組みだったが、勉強会ではタンジュンサリ農業高校の先生たち、先

進地視察ではマラン県のムハマディア大学講師、セミナーでは県や州の農業局職員など多く

の協力を得られた。今回の取り組みが農家同士だけでなく、行政や他の団体とのネットワー

ク作りにもつながった。

(2)活動の写真

①勉強会の様子(インドネシア側) ②勉強会の様子(日本側)

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③勉強会の様子 日本の産直事例プレゼン ④先進地視察バトゥ市 リンゴ農家と意見交換

⑤先進地視察バトゥ市 キノコ農家と意見交換 ⑥先進地視察バトゥ市 リンゴ加工場

⑦りんご農家グループ訪問 ⑧先進地視察パガレガン郡 種子農場見学

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⑨先進地視察 パガレガン郡

種子農場見学

⑩先進地視察 パガレガン郡

ジャガイモの種子

⑪先進地視察 パガレガン郡

牛乳生産組合見学

Page 10: 世界の人びとのためのJICA基金・業務完了報告書 · 第5回 2017年4月30日開催 勉強内容:日本の農産物産直事例 参加者:13名 日本で直接農産物を消費者に届けている産直事例について、農園たやに来ているインドネシ

⑫先進地視察 パガレガン郡

トウガラシ農家アエップ氏の圃場見学

⑬外部講師 総合防除を学ぶ ⑭外部講師 農家グループについて勉強