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生体分子有機化学2014年12月11日分
第10回:糖の代謝(続)
担当:岸村 顕広
- 酵素反応の触媒機構に慣れる。!- いかにして高エネルギー体を生産するか理解。! どこでATPやNAD+を使い、どうATPを作るか?!- 生体反応が連続的に機能し、生体の恒常性を維持する一例として『解糖』を理解する。!
- 発酵、その他の糖代謝の役割について理解する。
2参考書
The Art of Writing Reasonable Organic
Reaction Mechanisms!(R. B. Grossman)
『有機反応機構の書き方 基礎から有機金属反応まで』!(左の訳書; 丸善; 奥山 格・訳)
『有機電子論解説』(東京化学同人; 井本 稔・著)
大学院生向けかもしれないが、有機合成を使う方には是非読んで欲しい本。
初学者向けの古典的名著。これに類する今風の本を見つけて読むことをお薦めします。それプラス演習が、分厚い教科書より効果的。
NADHをO2で酸化してNAD+にする時の自由エネルギー変化を求めよ。また、そのエネルギーでATPを再生可能か?
Quiz
NADH + 1/2O2 + H+ →NAD+ + H2O!ΔE = (0.815) – (–0.315) = +1.13 (V)!ΔG = –2·96485·1.13 = –218 kJ/mol
→再生可能(理論上は7個再生可能だが、実際には約2.5個しか再生できない。約35%の効率。)
半反応式を2つ合わせて、
グルコース-6-リン酸 (G6P) G6P
F6P
FBP
GAP!+!
DHAPGAP DHAP
1,3-BPG
グルコースグルコース
フルクトース-6-リン酸 (F6P)
フルクトース-1,6-ビスリン酸 (F6P)
GAP DHAP+
1,3-ビスホスホグリセリン酸 (1,3-BPG)
ATP
ATP
Mg2+
Mg2+
解糖の概要(前半)
投資
投資
グルコース-6-リン酸 (G6P) G6P
F6P
FBP
GAP!+!
DHAPGAP DHAP
1,3-BPG
グルコースグルコース
フルクトース-6-リン酸 (F6P)
フルクトース-1,6-ビスリン酸 (F6P)
GAP DHAP+
1,3-ビスホスホグリセリン酸 (1,3-BPG)
ATP Mg2+
グルコース-6-リン酸イソメラーゼ!
(PGI)
解糖の概要(前半)
O H
OH
HO
H
H
OH
HO
H
CH2O-2O3P OH
O
OH
H
H
OH
HO
H
O-2O3P
H
フルクトース-6-リン酸
塩基触媒!閉環
2. グルコースからフルクトースへの異性化
H+
OH–
H+
OH–
H+ OH–
グルコース マンノース
フルクトース
cis-エンジオレート中間体
反応機構
グルコース-6-リン酸
酸触媒!開環
cis-エンジオレート中間体
塩基触媒(His-Gluデュオと! ! ! 考えられる。)
酸触媒
フルクトースへ変換することで3炭素化合物2分子へ誘導しやすくなる。
_
プロトン化したLysのε-アミノ基と考えられる。
O
ON
N
Glu
H
His
His-Gluデュオ
3. 第2のATP投資
Mg2+-ATP複合体とF6Pが反応
この過程は不可逆反応。!解糖の律速段階の一つであり、解糖の調節の上で重要。
フルクトース-6-リン酸 (F6P)
フルクトース-1,6-ビスリン酸 (FBP)
対称に見える!
_ホスホフルクトキナーゼ (PFK)!Mg2+
+ ATP
+ ADP + H+
4. アルドラーゼにより3炭素の化合物へ分解
ジヒドロキシアセトンリン酸 (DHAP)
グリセルアルデヒド3-リン酸 (GAP)
C2
C4
C3
C3
_
_
アルドラーゼ
アルドール開裂/縮合
もし、グルコースにそのまま作用してしまったら…
_
_
アルドラーゼの触媒反応機構
フルクトース-1,6-ビスリン酸
Lys 229
Asp 33
H2Oプロトン化シッフ塩基形成
アルドール開裂
H2Oシッフ塩基加水分解
エナミン中間体
NH
R'R
HN
R'R + H+
イミン-エナミン互変異性
DHAP
GAP
_
基質結合
ジヒドロキシアセトンリン酸 (DHAP)
5. DHAP(ケトース)とGAP(アルドース)の異性化
エンジオール中間体
G6PとF6Pの関係と同様。
H+
OH–
H+
OH–
グリセルアルデヒド3-リン酸 (GAP) トリオースリン酸イソメラーゼ(TIM)
Glu 165とHis 95が酸、塩基触媒として働き、Lys 12が負電荷を持つ遷移状態を安定化するらしい。
中間体
遷移状態 遷移状態
DHAP-TIM複合体
GAP-TIM複合体
GAPとDHAPが平衡関係にあることがポイント。
解糖前半から後半へ:ATP, NADHの回収前半のまとめ 後半
5. 等価交換
1. リン酸化
2. 異性化
3. リン酸化
4. 開裂
PFK
HK
アルドラーゼ
6. 高エネルギー化合物生成
7. 基質レベルのリン酸化
8. リン酸基の移動
9. 高エネルギー化合物生成
10. 基質レベルのリン酸化
投資
投資
解糖の概要(後半):いよいよATP回収
3-ホスホグリセリン酸 (3PG)
1,3-BPG
2PG
PEP
GAP DHAP
ピルビン酸
ホスホエノールピルビン酸 (PEP)
GAP DHAP
1,3-ビスホスホグリセリン酸 (1,3-BPG)
ATP
ATP
Mg2+
Mg2+, K+
グリセルアルデヒド-3-リン酸DH
3PG
2-ホスホグリセリン酸 (2PG)
ピルビン酸
6. 第一の高エネルギー化合物形成
1,3-ビスホスホグリセリン酸 (1,3-BPG)
アルデヒドの酸化のエネルギーを利用して、リン酸化する。
アシルリン酸も高エネルギー化合物である。
NAD+ + Pi
NADH + H+
グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ (GAPDH)
酸化還元酵素
ホスホクレアチン
ホスホエノールピルビン酸
1,3-ビスホスホグリセリン酸
ADPをATPに再生するのが目標。
グルコース-6-リン酸 (G6P)
グリセロール-3-リン酸
“~”は高エネルギー結合の意味
14アシルリン酸
アシルリン酸も高エネルギー化合物である。
- 加水分解により、共鳴安定化し、水和エネルギーが増す。!
- チオエステル結合よりも置換反応に対する活性が高い。
- Mg2+のようなルイス酸金属カチオンとの錯形成でさらに置換反応への活性が高まる。
反応性
“~”は高エネルギー結合の意味
グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ (GAPDH)システインの-SHが重要
チオヘミアセタール中間体!(基質固定)
チオエステル中間体酵素ー基質複合体
CHO
C OHH
CH2OPO32–
GAP
R
PDB 2CZC
1,3-ビスホスホグリセリン酸 (1,3-BPG)
NAD+
NADH
NADH
NAD+
NAD+
NAD+
NADH
リン酸!イオン
NAD+
7. ホスホグリセリン酸キナーゼによるATP生成
ホスホグリセリン酸キナーゼ (PGK)
Mg2+ATP
ホスホグリセリン酸キナーゼ (PGK)
ヘキソキナーゼ
エネルギー収支
全体として発エルゴン的に進む
リン酸基一つを転移。
8. ムターゼによるリン酸基転位
リン酸化したHisを介した分子間のリン酸基転位。
H8がリン酸化される。
ホスホエノールピルビン酸
グルコース-6-リン酸
9. 第2の高エネルギー化合物生成:ホスホエノールピルビン酸脱水してエノール化することで高エネルギー化合物となる。
残ったもう一つのリン酸を使う準備が整った!
ホスホエノールピルビン酸
エノラーゼ!(脱水)
またもやMg2+が重要(基質のカルボン酸を固定)。!Liイオン、Hisも反応に寄与すると考えられている。
脱水前 脱水後エノラーゼ
PDB 2ONE
10. 最終ステップ:2つ目のATP生成
ATP
ピルビン酸キナーゼ(PK)
ピルビン酸
加水分解
異性化
全反応
ΔG°’ = –16 kJ/mol
ΔG°’ = –46 kJ/mol
ΔG°’ = –61.9 kJ/mol
ホスホエノールピルビン酸
ADP
ADP-Mg複合体
互変異性化
ATP
α-ケト酸の一種
Mg2+Mg2+
K+
20
PDB 1a3w!(酵母由来だそうです。)
制御サイト
活性サイト!緑:金属イオン(Mn, K)! *これらのキナーゼでは、Mgでなく、Mnが活性サイトにあることもあるらしい。
アロステリック制御になっている!(図中では、フルクトース-1,6-ビスリン酸; FBPが制御分子)
高濃度のATPで不活性化、!高濃度のAMPで活性化、!するらしい。
ピルビン酸キナーゼ(PK)
解糖:まとめ前半 後半
グルコース + 2NAD+ + 2ADP + 2Pi → 2ピルビン酸 + 2NADH + 2ATP + 2H2O + 4H+全反応:
x 2
1. リン酸化
2. 異性化
3. リン酸化
4. 開裂
6. 高エネルギー化合物生成
7. 基質レベルのリン酸化
8. リン酸基の移動
9. 高エネルギー化合物生成
10. 基質レベルのリン酸化5. 等価交換
PFK
PK
GAPDH
エノラーゼ
PGK
HK
アルドラーゼ
酸化
ADP
NAD+
ADP
還元力投資
投資
解糖の調節
ΔG
(標準) (実際)
近平衡
近平衡
流量調節に有効
代謝流量の制御・調節は生体の恒常性維持に必須である。
ホスホフルクトキナーゼによるATP生産量の調節は…!- 基質のATPによるアロステリック制御!- AMPによる阻害解除!- 基質サイクル!(- 遺伝子発現の調節)
筋肉では、休んでいる時と激しく活動している時で、ATP濃度は10%しか変わらないが、流量は100倍近く変わることがある。
ヘキソキナーゼ
PFK
PK
筋肉におけるホスホフルクトキナーゼ(PFK)の調節ATPによるアロステリック制御
AMPによる阻害の解除が可能。
2ADP ATP + AMPアデニル酸キナーゼ
基質サイクル
基質サイクルは、一見無駄に見えるが、高活性を持続的に発揮する状態に急激に移るために有用。また、体熱の大部分を基質サイクルによりまかなっているらしい。K =
[ATP][AMP][ADP]2
= 0.44
ATPが不足するとADP2つから供給。 その際にAMP濃度が上昇し、効果的に阻害解除。
阻害剤なし(低ATP濃度)
1 mM ATP + 0.1 mM AMP
1 mM ATP
不可逆反応にける、別経路の逆向き反応によるサイクル。
FBPアーゼ
FBPアーゼ
PFK PFK↑
FBPアーゼ: フルクトース-1,6-ビスホスファタ−ゼ
ホスホフルクトキナーゼの活性
フルクトース-6-リン酸濃度 (mM)
休息時 活動時
発酵嫌気条件(酸素のない条件)で、NAD+を再生するためのプロセス。!動物では筋肉でホモ乳酸発酵が起こる。酵母ではアルコール発酵が起こる。
→解糖は、とても速いプロセスなので、筋肉などのATP消費が速い組織でよく行われる。1グルコースあたりの燃費の意味では、酸化的リン酸化(次回以降; 速度は解糖の100分の1)の方が良い。→乳酸は、肝臓などでグルコースへと戻される。
2ATP 解糖
32ATP
酸化的リン酸化
O2が必要。 O2不要。
発酵
ピルビン酸は残りカスではない!!
アルコール発酵(酵母)CO2 パン
酒エタノール
ピルビン酸!(アセチル+炭酸)
アセトアルデヒド
NADH NAD+
『アメリカ版 大学生物学の教科書』!p. 223-226参照。
モデル化合物(乳酸とNAD+を共有結合でつないだ物質)と酵素の複合体のX線構造解析結果
細胞から放出された乳酸脱水素酵素(LDH)を高感度に測定することにより、細胞障害を測定することが可能。LDHは細胞質に存在する酵素で、通常は細胞膜を透過しないが、細胞膜が障害を受けると細胞外に放出される。この放出されたLDHを次の原理で測定することができる。 ! LDHは乳酸の脱水素化を触媒し、ピルビン酸とNADHを生成する。このNADHはDiaphoraseの触媒によりテトラゾリウム塩(ITN)を還元し、490 nmの吸収をもつ赤色のホルマザン色素を形成する。これによりLDH活性を490 nmの吸光度量の増大で測定することができる。
LDH放出に基づく細胞障害測定
グルコースが関連する代謝のまとめ
ペントースリン酸経路核酸合成用のペントースを合成するだけでなく、NADPHを生産するという重要な役割を担っている経路。
ATP:エネルギー通貨。NAD+/NADH:ATP生産に必須の酸化力通貨。!NADP+/NADPH:生合成系のための還元力通貨。!! 例) コレステロールの生合成系(以前に紹介済み)
[NAD+]/[NADH]~1,000[NADP+]/[NADPH]~0.01
NADPH + H+
NADP+
NADPH + CO2
NADP+
リボース-5-リン酸イソメラーゼ
以下、可逆反応で解糖プロセスへ
3G6P + 6NADP+ + 3H2O ! → 6NADPH + 6H+ + 3CO2 + 2F6P + GAP全反応:
脱炭酸
グルコース-6-リン酸(G6P)
リブロース-5-リン酸!(Ru5P)
6-ホスホグルコノ-δ-ラクトン 6-ホスホグルコン酸
リボース-5-リン酸!(R5P)
グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ
6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ