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生活支援技術「食事介助」についての 学生の学修内容と自己評価を踏まえた教授方法の検討 Consideration of Instruction Method Based on Students' Learning Contents and Own Evaluation About Living Supporting Technology, "Meal Assistance" 梅田 弘子 Hiroko UMRDA 『広島国際大学 教職教室 教育論叢』 Hiroshima International University Journal of Educational ResearchISSN:1884-9482 10 号 抜刷 Off Print of the 10 th Edition 広島国際大学 教職教室 Issued by Hiroshima International University Teacher Education Unit 2018 12 December, 2018

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生活支援技術「食事介助」についての

学生の学修内容と自己評価を踏まえた教授方法の検討

Consideration of Instruction Method Based on Students' Learning

Contents and Own Evaluation About Living Supporting Technology,

"Meal Assistance"

梅田 弘子

Hiroko UMRDA

『広島国際大学 教職教室 教育論叢』

“Hiroshima International University Journal of Educational Research”

ISSN:1884-9482

第 10号 抜刷

Off Print of the 10th Edition

広島国際大学 教職教室

Issued by Hiroshima International University Teacher Education Unit

2018年 12月

December, 2018

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『広島国際大学 教職教室 教育論叢』第 10号 2018年 12月

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生活支援技術「食事介助」についての 学生の学修内容と自己評価を踏まえた教授方法の検討

広島国際大学 医療福祉学部 医療福祉学科 梅田 弘子

要 旨:A 大学介護福祉学専攻学生を対象に、演習科目「生活支援技術」食事の単元において、「食事に

関する学修振り返りシート」を作成し活用を試みた。学生は、利用者の状況についての判断や、利用者

の観察・やりとりから、その人に適した介助方法を導き出すことに関して自己評価が低かった。詳細な

事例を作成し、リアリティのある環境で状況的に学修できるような工夫と、事例を丁寧に分析し介助を

実施・省察できるよう授業時間の確保が必要である。利用者にとって最善の支援を思考・試行するため

に、演習において利用者・介助者、双方の立場を体験することは有意義と考えられた。

はじめに─問題の所在─

「食べることは生きること」という名言があるように、食事は、生命を維持し生活のエネルギー

を生み出す重要な役割を持ち、人間の生理的欲求である。また、それだけにとどまらず、食事は楽

しみであり人とのコミュニケーションに繋がる社会的な役割も担っている。食事は利用者の ADL

の維持・拡大や QOL の拡大に繋がる重要な日常生活動作の一つと言える。さらに、食生活は長い

人生で培われた食習慣を形成し、嗜好性によって個人差も大きく、一人ひとりの食文化として存在

する。本来、食事とは、自分の意思で献立を決め、食材を準備・調理し、配膳し摂食し片づけると

いう一連の行動を含み、数多くの意思決定を伴う行動である。加齢に伴い、視力、味覚や嗅覚など

の感覚機能が衰え、咀嚼や嚥下機能は低下する。また、認知機能や運動機能、筋力の低下などによ

って、食事摂取が困難な状況に見舞われる確率は上昇する。介護者は、先に述べた、様々な意思決

定や動作を含む食事行動のどの部分に支援が必要なのかを正しく情報収集し、自立生活を支える食

事の介護をしていかなければならない。

A 大学の介護福祉学専攻における「生活支援技術Ⅰ」の授業では、食事に関連する解剖生理学、

加齢に伴う食事機能と嗜好の変化、高齢者に負担の少ない献立、食事に必要な動作の流れ、食事の

姿勢、食事の介助におけるアセスメントの視点、実際の支援技術について授業を展開している。ア

セスメントの視点として、身体的側面、精神的側面、ADL(日常生活動作)、社会的側面、環境的側

面といった様々な視点から、介助の必要性と内容を決定していくことになる。介護者には、これら

の視点をもとに総合的に判断し、利用者の状況に応じて本人ができることはしてもらい、安全にか

つ楽しく食事ができるような支援を個別性に応じて提供していくことが求められている。

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梅田弘子:生活支援技術「食事介助」についての学生の学修内容と自己評価を踏まえた教授方法の検討

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介護と近接領域にある看護学分野においては、質の高い看護を提供していくために、看護学生が、

臨地実習において看護技術を行うにあたって求められる「技術を支える構成要素」(「知識と判断」

「説明と同意」「実施方法」「安全・安楽の確保」「プライバシーの保護」「指示確認」「評価と報告」)

に基づいた、看護技術指導ガイドライン(竹尾,2005)が作成されている。このガイドラインは、看

護技術を「単なる手技の流れ」として理解するのではなく、ケアを受ける対象者の状況を総体的に

理解し、看護過程の中に位置づけて学習できるよう、先に述べたユニークな構成要素で組み立てら

れている。今回、これらの示唆に富んだガイドラインを参考に、尊厳と自立を支え、本人が望む生

活を支えていく介護福祉士のケアの視点を踏まえた、食事支援について、嚥下障害はないが全介助

を要する利用者への支援に焦点をあてて、「食事介助 学修振り返りシート」(以下、学修シートと

略す)を作成した。本研究は、学生から提出された学修シートの内容と、利用者および介助者両方の

経験から学んだことに関する記述内容を分析することで、介護福祉学専攻学生の「食事介助」の単

元の理解状況を把握するとともに、食事介助という支援の一連の流れの中でどのような視点につい

て特に教授方法の改善や強化が必要なのかについて検討することを目的とする。

Ⅰ 研究方法

1.研究デザイン:自記式質問紙調査法による量的記述研究

2.用語の概念規定

本研究における「生活支援技術」とは、「人間らしく生きることを支援する」という介護の目的を

具現化するために介護者が活用する技術を指し、その内容には、コミュニケーション、日常生活動

作、手段的生活動作、余暇活動が含まれる。

「食事介助」とは、一人でうまく食事ができない利用者のためにサポートを行うことをいい、摂食

行動だけでなく、利用者の食前・食事・食後の食事に関連する活動を総合的に支援することである。

「教授方法」とは、単元の目標や学習過程などを含んだ全体の進行形態を指し、受講学生の知識や

技術、思考力、学習への関心や意欲が最適になり、到達目標を学生自らが到達できるように組み立

てられたものを指す。

3.研究期間:倫理委員会承認後~2018年 7月 31日

4.研究対象:A 大学医療福祉学部医療福祉学科、介護福祉学専攻学生で「生活支援技術Ⅰ」の受

講学生

5.研究のすすめ方

1) 看護技術指導ガイドライン(竹尾 2005)を参考に、生活支援技術の「食事介助」の単元に関して、

学生の理解度を把握する項目や学修評価指標を検討し、調査用紙「学修シート」を作成した(表 1)。

2)生活支援技術Ⅰにおいて、2 コマ(90 分×2 回=180 分)の時間数で講義・演習を実施した。食事に

関連する基本事項(解剖生理学、食事機能と嗜好、食事動作の流れ、食事の姿勢、食事介助のアセス

メントの視点など)は事前学習を課し、講義でポイントを説明した。その後、実際に食事を配膳し、

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二名一組で食事介助を演習した。

3)授業終了前に受講学生に対して、演習の振り返りに関する調査用紙を配布し記述を依頼して後日

投函してもらい、回収データを分析した。

4)分析結果をもとに、今回調査した単元に関する、学生自身による評価と理解内容を踏まえた、教

育方法等に関する課題、改善方法について考察した。

6.データ収集の方法

1)データの収集:無記名自記式の質問紙調査用紙を配布し、回答を投函してもらう。

2)調査内容

(1)「食事介助 学修シート」と命名した、6カテゴリー14項目で構成される調査用紙(A3用紙 1枚)

である。質問は 2種類あり、一つは食事介助に関する各項目についてどの程度「できるか」を自己

評価してもらうものである。具体的には、「できない」(1点)、「あまりできない」(2点)、「まぁでき

る」(3点)、「できる」(4点)の 4段階評定の中から一つを選択してもらった。もう一つの質問は、食

事介助に関する各項目の具体的な内容や介護者の行動を自由に記述してもらった(表 1)。

(2)実際に食事介助の体験をした際の、①介助を受ける利用者の立場で考え、学んだこと、②介護者

表 1 「食事介助 学修シート」

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の立場で考え、学んだこと、の 2つの視点での学びを記述してもらう調査用紙(A4用紙 1枚)である。

7.分析方法

調査用紙のデータを入力し、回答者の自己評価状況については、IBM SPSS Statistics22 for

Windowsを用いて、統計学的に処理した。各項目の自己評価得点を算出し、自己評価の高い項目と

低い項目が何であるのかを特定した。各項目の「具体的な内容・介護者の行動」に関する自由記述

内容は、類似する内容を整理し、記述していた学生の人数(割合)を算出して、学生の学修状況を把

握した。

食事介助の体験での、①介助を受ける利用者の立場で考え、学んだこと、②介助者の立場で考え、

学んだこと、の 2つについては、それぞれテキストマイニングの手法(Text Mining Studio 6.0.3使用)

を用いて、分析対象の基本統計量の算出を行い、単語頻度分析、単語の共起と係り受け関係を表す

ことばネットワーク分析を行い、学生の学びの特徴を把握した。ことばネットワーク図に示される

ノード(点)の大きさは、その単語の出現頻度に相当(ノードが大きいほど出現頻度が多い)しており、

共起性が強い単語は太い線、弱い単語は細い線で表現される(服部,2010)。ことばネットワーク図

を確認し、出現していることばそれぞれについて、原文検索(学生の記述内容の確認)を行いながら、

学びの傾向を把握した。

8.倫理的配慮

研究対象者に対して、研究目的、方法、非協力による不利益は一切ないこと、データ管理方法、

研究結果の公表、調査票の投函をもって研究協力への同意を得る旨について、文章ならびに口頭で

説明した。本研究への参加の有無が、「生活支援技術Ⅰ」を含む研究者の担当する科目の学業成績や

単位取得に一切影響を与えない旨を丁寧に説明した。「広島国際大学人を対象とする医学系研究倫理

委員会」による審査を受け,所属機関長の承認を得て実施した(倫理審査承認番号:倫 18-018)。

Ⅱ 結果

「生活支援技術Ⅰ」受講学生 16 名に調査用紙を配布し、14 部が回収された。回収率は 87.5%であ

り、回答に不備はなかったため 14部を分析の対象とした。

1.「食事介助」についての学生の自己評価

6カテゴリー14項目で構成した「学修シート」を集計し、14項目の学生の自己評価得点と自己評

価(4段階)の内訳を表 2にまとめた。

最も自己評価得点が高かった項目は「利用者が摂取している食事の種類・形態を述べる」で、平

均点は 3.36点で、14名中 13名が「まぁできる」「できる」の評価でであった。自己評価の平均点が

3 点を超えた項目は 14 項目中 7 項目であり、半数の項目について「まぁできる」「できる」と評価

していた。一方、自己評価得点が最も低かったのは「食事後の観察内容やケアを述べる」、「利用者

が食事をするうえで、自分でできることと支援が必要なことを述べる」「使用する食事用具や自助具

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が適切かを判断する視点を述べる」(いずれも平均値 2.79)であった。

2.「知識と判断」に関する自己評価と記述内容

4 項目のうちの 3 項目(「利用者が摂取している食事の種類・形態を述べる」「利用者の食事に対

する意欲や嗜好について確認する」「食事介助を必要とする状態・症状を述べる」)は自己評価の平

均点が 3点を超えていた。食事の種類・形態は、概ね記述できていた。治療食(例えば、塩分制限食

やカロリー制限食など)についての記述はなかった。食事への意欲や嗜好の確認は、「食欲はあるか

確認する」6名(42.9%)、「献立を説明する」4名(28.6%)、「しっかり覚醒しているか体調を確認する」

3 名(21.4%)、の記述が多かった。食事介助を必要とする状態・症状では、上肢の麻痺、認知障害、

咀嚼や嚥下機能の低下、摂食の姿勢が取れない、口腔内の異常、拘縮、筋力低下、の記述があった。

「利用者が食事をするうえで、自分でできることと支援が必要なことを述べる」(2.79±0.58)は、「で

きることはやってもらう」「麻痺がない側の手で食べてもらったり、口を拭いてもらったりする」の

記述があった。

3.「説明と同意」「プライバシーの保護」に関する自己評価と記述内容

「利用者の食事介助への同意を得るための説明の留意点を述べる」は、「どのような介助をする

のか内容を説明する」4名(28.6%)、「どのように介助してほしいか利用者の希望を確認して決める」

3名(21.4%)、「なぜ介助が必要なのかを説明する」2名(14.3%)、「○○が担当します。宜しいですか?

と尋ねる」1名(7.1%)等があった。

プライバシーの保護について、「利用者の希望にあわせた食事環境への配慮を述べる」については、

「一人で食べたい場合は無理に皆で食べず部屋で食べてもらう」3名(21.4%)が多かった。

表 2 食事介助 学修シートの各項目の評価の内訳と 4段階評価得点

度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 平均値 標準偏差

実施方法 食事後の観察内容やケアを述べる 0 0.0 5 35.7 7 50.0 2 14.3 2.79 0.70

知識と判断 利用者が食事をするうえで自分でできることと支援が必要なことを述べる 0 0.0 4 28.6 9 64.3 1 7.1 2.79 0.58

安全安楽の確保 使用する食事用具や自助具が適切かを判断する視点を述べる 0 0.0 4 28.6 9 64.3 1 7.1 2.79 0.58

説明と同意 利用者の食事介助への同意を得るための説明の留意点を述べる 0 0.0 5 35.7 6 42.9 3 21.4 2.86 0.77

評価と報告 食事介助の報告内容を述べる 1 7.1 2 14.3 9 64.3 2 14.3 2.86 0.77

実施方法 食事中の利用者の観察や支援の内容について述べる 0 0.0 3 21.4 10 71.4 1 7.1 2.86 0.54

実施方法 配膳のときの留意点を述べる 0 0.0 3 21.4 9 64.3 2 14.3 2.93 0.62

プライバシーの保護 利用者の希望にあわせた食事環境への配慮を述べる 0 0.0 2 14.3 10 71.4 2 14.3 3.00 0.56

実施方法 利用者の状態にあった食事の際の体位の工夫や留意点を述べる 0 0.0 3 21.4 8 57.1 3 21.4 3.00 0.68

知識と判断 食事介助を必要とする状態・症状を述べる 0 0.0 3 21.4 8 57.1 3 21.4 3.00 0.68

実施方法 食事前に必要な利用者の様々な準備について述べる 0 0.0 0 0.0 12 85.7 2 14.3 3.14 0.36

知識と判断 利用者の食事に対する意欲や嗜好について確認する 0 0.0 2 14.3 7 50.0 5 35.7 3.21 0.70

安全安楽の確保 食事中の利用者の安全・安楽をまもるための方法について述べる 0 0.0 1 7.1 8 57.1 5 35.7 3.29 0.61

知識と判断 利用者が摂取している食事の種類・形態を述べる 0 0.0 1 7.1 7 50.0 6 42.9 3.36 0.63

※4段階評価得点は「できない」(1点)、「あまりできない」(2点)、「まぁできる」(3点)、「できる」(4点)で平均点を算出した

※4段階評価得点

(n= 14)

カテゴリー 項目できない あまりできない まぁできる できる

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4.「実施方法」に関する自己評価と記述内容

自己評価得点は、高い順に、「食事前に必要な利用者の様々な準備について述べる」(3.14±0.36)、

「利用者の状態にあった食事の際の体位の工夫や留意点を述べる」(3.00±0.68)、「配膳のときの留意

点を述べる」(2.93 ±0.62)、「食事中の利用者の観察や支援の内容について述べる」(2.86±0.54)、「食

事後の観察内容やケアを述べる」(2.79±0.70)であった。「食事前に必要な利用者の様々な準備につい

て述べる」では、食器やエプロン、タオルの準備だけでなく、食器の位置を整える、体調や座位の

安定感の確認、排泄や手洗いを済ませる、ベッドの高さ、水分補給をする、唾液の分泌を促すトレ

ーニングをする、といった幅広い内容の記述があった。「利用者の状態にあった食事の際の体位の工

夫や留意点を述べる」では、「(誤嚥を予防するために)座位で行う」8 名(57.1%)が最も多く、「麻痺

側の上肢がテーブルの上にのっているか、体幹の傾きはないか確認する」「座位の安定のためにひざ

下にクッションを入れる」「頭が前傾姿勢になるようまくらなどを使い調整する」「起立性低血圧に

気を付けて上体を起こす」という記述も見られた。「配膳のときの留意点を述べる」については、「色

どり」「栄養バランス」「適温か確認する」「本人のものかしっかり確認する」「食べやすいものを手

前に置く」「利用者からよく見える位置に置く」「取りやすい位置に置く」という記述があった。

「食事中の利用者の観察や支援の内容について述べる」では、観察視点として、「食物を口に運ぶ機

能はどうか」「咀嚼運動や嚥下はどうか」「口腔内に食物がたまっていないか確認する」「むせ込みは

ないか」「楽しく食事ができているか」「食器を適切に扱えているか」「姿勢は良いか」「疲労感はな

いか」などが多く記述されていた。支援の内容については、「主食・副食・水分を交互に摂取しても

らう」「利用者のペースに合わせる」の記述があり、スプーンの挿入方法については記述がなかった。

「食事後の観察内容やケアを述べる」では、「口腔ケア(歯磨き、義歯みがき、うがいなど)の実施」

と「すぐに横にならないようにする」「摂取量の観察」「トイレに行きたくないか観察する」の記述

が多かった。衣服の汚れや悪心・嘔吐・腹痛などの症状観察についての記述はなかった。

5.「安全・安楽の確保」に関する自己評価と記述内容

自己評価得点の平均値は、高い順に「食事中の利用者の安全・安楽をまもるための方法について

述べる」(3.29±0.71)、「使用する食事用具や自助具が適切かを判断する視点を述べる」(2.79±0.58)で

あった。食事中の利用者の安全・安楽をまもるための方法については、「安定した姿勢を保つ」「嚥

下ができているか確認する」「食事の進行に合わせて食器の位置を変える」「骨をとる」「皮をむく」

「食べるぺースを観察する」「一口の量に注意する」「急かさない」との記述があった。

使用する食事用具や自助具が適切かを判断する視点については、「もちやすいもの」「口への運びや

すさ」「工夫されたスプーンやフォーク」「安定感があるもの」という記述で、どのような場合にど

のような用具を使うかについては、1 名のみ「リウマチでは手指の拘縮のため、手で握る部分をス

ポンジ状にする、自分で食べ物を切れるようにハサミ型のスプーンを使う」という記述があった。

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6.「指示の確認と評価・報告」に関する自己評価と記述内容

「食事介助の報告内容を述べる」(2.86±0.77)は全項目中、4番目に自己評価が低かった。記述内容

は少なかったが、内容としては、「摂取量」「利用者の様子」「食事中に変わったことがなかったか」

「食べにくかったものは何だったか」という記述が見られた。介助方法の振り返り等の省察に関す

る記述は見られなかった。

7.介助を受ける利用者を体験して考え、学んだこと

テキストマイニングを用いた分析の結果、総行数 61行、平均行長 16.0 字、延べ単語数 222であ

った。共起関係を 2回以上とした、ことばネットワーク分析の結果、【A】自分で食べることの意義

と見られることへの抵抗、【B】嚥下の難しさ、【C】座位の意義、【D】介護者の目線、【E】とろみ

による飲み物の誤嚥回避、【F】食事を楽しく感じない、の 6つのクラスターに分けられた(図 1)。学

生は、【A】自分で食べる量を調整できる、自分で食べるのが一番良いと考え、食べているのを見ら

れていることに抵抗があると感じていた。また、【B】仰臥位、側臥位での嚥下を難しいと感じ、口

を開けるのが難しく、大きさが小さく柔らかめのものは嚥下が楽だと感じていた。嚥下に時間がか

かり、せかされているようにも感じていた。【C】座位は献立が見やすく食べやすいと感じ、【D】介

護者の目線が同じであることが安楽で、【E】飲み物はとろみがある方が誤嚥しにくいと学んでいた。

【F】食事を楽しいと感じられなかったという意見もあった。

図 1 介助を受ける利用者を体験して考え、学んだこと

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図 2 介助者を体験して考え、学んだこと

8.介助者を体験して考え、学んだこと

テキストマイニングを用いた分析の結果、総行数 68行、平均行長 16.0 字、延べ単語数 258であ

った。共起関係を 2回以上とした、ことばネットワーク分析の結果、【A】利用者に対する介助の留

意点、【B】介助の難しさ、【C】 座位の食べやすさ、【D】利用者と目線を合わせる意義、の 4つの

クラスターに分けられた(図 2)。学生は、【A】利用者の希望や嚥下を確認したり、利用者の立場で

考えたり、利用者の見える位置に食べ物を置く必要性を学んでいた。誤嚥性肺炎を引き起こさない

ように注意することについての記述が多く、水分摂取の必要性にも気づいていた。【B】利用者の口

に食物を運ぶ時の量、角度、スピードの調節について難しいと感じ、介助時にスプーンに食物が付

着して残ることをも難しさとして挙げていた。【C】利用者にとって座位が食べやすいこと、【D】利

用者と目線を合わせると介助しやすいことを学んでいた。

Ⅲ 考察

1.「知識と判断」に関する学生の理解度と教授方法の検討

「利用者が摂取している食事の種類・形態を述べる」「利用者の食事に対する意欲や嗜好について確

認する」「食事介助を必要とする状態・症状を述べる」の 3項目は、学生の自己評価も 3点台を超え

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ており、記述内容からも概ね理解できていることが推察された。但し、食事の種類・形態について

治療食の記述がなかったことは、加齢に伴い慢性疾患を抱えながら生活する人が増加することや、

発症が予測される疾病にどのようなものがあるのかについての知識の不十分さ、学んだ知識を介護

場面でどう活用するのかに繋げられていない状況が推察された。しかし、看護学分野では知識が不

十分であっても、対象の生活に視点をおいて、学生の習得した知識のレベルで対象を理解して援助

を考えることに重点を置いた日常生活援助技術演習(竹内ら 2014) が報告されている。演習は一つ

の事例を基にすべての援助について実施方法の検討ができるように設定され、学生が患者役になり

ロールプレイを実施し、評価・振り返りを行うというものである。竹内ら(2014)は、事例を 1~2事

例に絞り様々な技術を検討する中で、情報整理・アセスメントによる方法の検討→実施→評価→フ

ィードバックを繰り返すことで、技術提供をする際のアセスメントの強化につながり、学生の思考

力の強化につながると述べている。学生が、疾患、症状を関連付けて支援方法を考え、介助の具体

性や個別性を技術演習の中で実施するためには、事例を用いて状況的に学ぶ方法を取り入れ、自ら

が学習課題を発見し、知識の不足を補い、判断・実施・評価するという学修の仕組みを構築するこ

とが重要と思われる。知識をどのように活用して判断し、支援したのか、その一連の流れが途切れ

ることのない演習の展開が必要である。

2.「説明と同意」「プライバシーの保護」に関する学生の理解度と教授方法の検討

学生は、「利用者の食事介助への同意を得るための説明の留意点を述べる」に関する自己評価が

低かった。説明の留意点を明確にするためには、利用者の理解度を正しく把握しておくことが重要

となる。ここで、利用者の認知機能についての正しい理解が学生には求められるのである。さらに、

利用者が説明を理解はできても、介助を必要とすることに対して羞恥心を抱く場合や自尊心が傷つ

く場合もある。これらの利用者の言葉にし難い感情を表情・態度の観察で捉える力や、コミュニケ

ーション力で引き出すことができなければ、倫理的な説明と同意には至らない。介護福祉・看護学

生のコミュニケーション能力に関する調査では、「相手がはっきりと表現していない感情を明確化で

きる」技術が低い(福士ら 2013)ことが報告されている。これらの能力を高めるために演習において、

利用者と介助者のコミュニケーションを促進するロールプレイ等の導入も必要である。また、「利用

者の立場で考え、学んだこと」の記述で「自分で食べることの意義と見られることへの抵抗」や「食

事を楽しく感じない」体験をしていた。説明と同意やプライバシーの保護という倫理的配慮につい

ては、実際に利用者の立場になって考えることが、利用者の意向を引き出し尊重する関わりに繋が

るものと思われる。具体的には、「利用者としてどう感じたか」に留まらず、「どのように言葉かけ

や説明をされたら納得できるのか」を考えるよう促し、学生間で議論し、利用者の尊厳を十分に考

慮した関わりを選択できるよう教授していきたい。

3.「実施方法」および「安全・安楽の確保」に関する学生の理解度と教授方法の検討

食事前の様々な準備の中で「唾液の分泌を促すトレーニングをする」という記述があったことは、

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梅田弘子:生活支援技術「食事介助」についての学生の学修内容と自己評価を踏まえた教授方法の検討

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唾液の減少が味覚の低下、さらには食欲低下へと影響することが考えられており、解剖生理学的知

識を食事介助に活用している点で評価できる。「食事中の利用者の安全・安楽をまもるための方法」

は、姿勢や嚥下、食事内容、量、ペースなどに言及しており基本的な観察視点は理解できていた。

但し、具体的な介助技術としてどのような位置や高さから介助するのか、それはなぜか、利用者の

食事中の安楽が保たれにくくなる要素には何があるのか、などは利用者の状況(麻痺の有無や疲労感、

自立度など)に応じて個別性の高い内容となる。堀之内ら(2018)は、脆弱な高齢者への食事摂取を促

し支える介助者の技術に関する研究において、「高齢者ゆえの事故発生の可能性を意識した患者把

握」の重要性を報告している。食事における誤嚥は誤嚥性肺炎に繋がり、高齢者の命にかかわる事

故といえる。学生の記述では、利用者の体幹が傾いていないか、咀嚼運動の観察、嚥下の確認、む

せ込みの観察等が挙げられていたが、頚部進展位置を取らないように、目線を合わせた位置から介

助するなどの具体的な介護者の技術とその根拠については記述がなく理解が浅いことが推察された。

おそらく、高齢者ではない学生同士で利用者役を担い演習をしたため、気づきに限界があったと思

われる。模擬患者を導入した演習(本田ら 2009、古村ら 2009、佐野ら 2014)は多数あり、効果が報

告されている。今後は、模擬患者の活用等、学生がリアリティのある対象を介助しながら考察し、

根拠も併せて考えられるような授業を検討したい。「使用する食事用具や自助具が適切かを判断する

視点を述べる」は自己評価が低かった。講義で見せた食事用具や自助具の種類が少ないことや、実

際に使用していないことが理解を低くさせたと考えられる。食事用具や自助具の目的および基本的

な構造と活用例を提示し理解を促していきたい。

4.「指示の確認と評価・報告」に関する学生の理解度と教授方法の検討

「食事介助の報告内容を述べる」は自己評価が低く記述内容も少なかった。摂取量や利用者の様

子を報告できることは最低限必要だが、普段と比較して今日の利用者の食事の様子がどうであった

か、変化に気づくことや、その変化に応じて介助方法を変更や改善したことについての報告も重要

となる。なぜなら、利用者は自立に向けてできることが拡大しているかもしれないし、反対に調子

を崩して摂食動作や機能に低下をきたしているかもしれないため、その変化に応じて介助内容は変

化しなければ適切な介護とは言い難い。Schon(1983)は反省的実践家(reflective practitioner)モデルを提

唱し「行為の中の知(knowing-in-action)」「行為の中の省察(reflection in action)」「状況との対話

(conversation with situation)」の 3つを反省的実践家の知を捉える概念として提示した。基礎教育の学

生には「行為についての省察(reflection on action)」さえも困難に感じるかもしれない。しかし、将来、

介護福祉士としてその専門性を発揮していく彼らには、Schon のいう反省的実践家の姿勢を自らに

求めていける人であって欲しい。そのために、自分の考えや行為を利用者の反応を受け取りながら

スローモーションで実施し、一つ一つの行為を丁寧に振り返ることができるような演習時間の確保

が必要と思われた。さらに、報告をチームで共有することが利用者の QOL に大きな影響を及ぼす

ため、演習での省察を言語化し報告する経験を取り入れていきたい。

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『広島国際大学 教職教室 教育論叢』第 10号 2018年 12月

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5.「利用者の立場」と「介助者の立場」を経験することによる学修

実際に介助するという体験は、想像以上に介助の難しさを実感することとなったが、利用者(学生

ペア)の反応を捉えたり、やりとりをしたりする相互作用の中から、誤嚥性肺炎を引き起こさないよ

うに注意する必要性や、座位が食べやすいこと、目線を合わせると介助しやすい点など多くの気づ

きを得ていた。中村(1992)は、「一人ひとりの経験が真にその名に値するものになるには、われわれ

が何かの出来事に出会って、<能動的に><身体を備えた主体として><他者からの働きを受け止

めながら>振舞うことだということになるだろう」と述べ、<臨床の知>を「個々の場合や場所を

重視して深層の現実にかかわり、世界や他者がわれわれに示す隠された意味を相互行為のうちに読

み取り、捉える働きをする」とし、「所感覚の協働にもとづく共通感覚的な知である」と述べている。

このような<知>的活動に繋がる経験を、授業にどれだけ取り入れられるかが、実践の科学を体現

する介護福祉士の能力の向上にとって重要と思われる。さらに、利用者の立場の体験では、座位が

最も食べやすいことや嚥下の難しさを実感し、先行研究と同様に「自分で食べるのが一番いい」と

自分で食べられることへの感謝(細谷 2006) の記述が多数あった。食べている姿を介助者に見られ

ることへの抵抗を感じ、「嚥下に時間がかかり、すぐに次の食べ物がくるとせかされているように感

じた」、「介護者から見下ろされているようで食べにくい」、「目線が同じだと楽に食べられる」など

の記述から、学生は、利用者が食事介助を受けることでどのような気持ちにさせられるのかについ

て知ることができた。本当は自分で食べるのが一番いいと思いながらも介助なしには食事摂取が困

難であるという利用者の立場を実感できたのは意義深い。学生の思考が、介助者と利用者の立場を

行きつ戻りつしながら、利用者にとって最善の支援を思考・試行できる演習を継続していきたい。

Ⅳ おわりに─まとめに代えて─

介護福祉学専攻学生を対象とした、生活支援技術の授業で食事の単元において「食事介助 学修

シート」を用いて、学生の学修内容と自己評価を把握した結果、以下の知見が得られた。

学生の自己評価は「利用者が摂取している食事の種類・形態を述べる」が最も高かった。一方、

利用者の状況についての判断を求められる項目や、利用者の観察、あるいはやりとりの中から、そ

の人に適した介助方法を導き出す必要がある項目の評価は低く、記述も少なかった。詳細な事例を

作成し、模擬患者の導入を検討することで、リアリティのある環境で状況的に学修できるように工

夫が必要である。その場合、学生同士での議論を促進し、事例を丁寧に分析して、介助を実施・省

察できる時間の確保が必要である。利用者にとって最善の支援を思考・試行するために、利用者・

介助者、双方の立場を体験することは有意義と考えられた。

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梅田弘子:生活支援技術「食事介助」についての学生の学修内容と自己評価を踏まえた教授方法の検討

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引用文献

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大塚眞理子編著、カラー写真で学ぶ高齢者の看護技術、医歯薬出版株式会社、22-40、2012.

謝 辞:本研究に協力いただきました学生の皆様に深謝いたします。