小学生に対する授業形式での睡眠教育が 睡眠, 日中の眠気...

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Bulletin of Research Center for Clinical Psychology of Hiroshima lnternational Universi 2012 ι11 21 35 -1・・3 ・十十・i ・÷やや十今++十・:・十ややや++・3 ・ややややや・3 3 ・+++-1・十・3 3 3 1 ・÷・3 ・十ややや 原著論文 小学生に対する授業形式での睡眠教育が 睡眠, 日中の眠気,イライラ感に与える効果 広島国際大学大学院心理科学研究科 広島国際大学心理科学部臨床心理学科 広島国際大学心理科学部臨床心理学科 広島国際大学心理科学部臨床心理学科 田村典久 高浜康雅 箕岡江美 田中秀樹 Sleep Education with a Class for Children in an Elementary School Promotes the Improvement of Sleep Daytime Sleepiness and Irri tation Norihisa Tamura* Yasumasa Takahama** Emi Minooka* HidekiT. laka** *Doctor's Course for Clinical Psychology Graduate School of Psychological Sciences Hiroshima Intemational University **Dep tmentof Clinical Psychology Faculty of Psychological Sciences Hiroshima Intemational University 小学生 137 名を対象に,授業形式での睡眠教育と 1 ヶ月間の目標行動の実践が睡眠や日中の状態に与える効果 について検討した。睡眠Ox クイズを用いて睡眠の重要性と睡眠改善に関する知識教育(睡眠授業)を実施後, 睡眠状態や生活習慣のチェックを行った。生活習慣のチェックを行う際は「ム」と記した習慣行動の中から目標 l つ選択させヶ月間,実践するように教示しヶ月後に効果評価を行った。授業後,睡眠の知識が向上す ることが確認できた。本研究の結果,睡眠時聞が有意に増加し,睡眠負債や起床時刻の不規則性も有意な改善が みられた。また,眠気やイライラを感じる児童も有意に減少した。特に, 1-2 年生と 3-4 年生で睡眠時間が顕著 に増加し,眠気が軽減すること, 3-4 年生では運動習慣の改善やイライラが軽減することが分った。以上,本研 究より,睡眠授業は小学校の低中学年の睡眠時間の確保やイライラ感,日中の眠気改善に有効であることが示唆 された。 Keywords:睡眠教育,生活リズム,規則性,睡眠改善,小学生 1.はじめに 近年,睡眠の悪化や日中の眠気増加が身体的,精神 的健康に悪影響を与えていることが指摘されている。 特に,児童・生徒にみられる日中の居眠りはイライラ 感の程度を強め,攻撃性を高めることが指摘されてい る(福田, 2003;原田, 2004) 。また,夜型で中途覚 躍が多く,学校での居眠りの頻度が高い者ほど,キレ やすく(原因, 2004) ,気分の調節不全を起こしやす いことも指摘されており(服部, 2012) ,子ども達の メンタルヘルスの悪化に睡眠や日中の眠気が大きく関 わっている (Calhouneta l . 2011) 。近年,生活の夜型 化に伴う睡眠時間の短縮が指摘されている子どもたち にとって (NHK 放送文化研究所, 2011) ,心身の健康 と密接に関係する睡眠の確保は,健康生活や能力発揮 の観点からも極めて重要であり,社会的急務といえる。 我々はこれまで,思春期の生徒を対象とし,心身の健 康保全に関わる適正な睡眠確保を目的とした生活習慣 について探索的研究を重ねてきた (Tanakaet al. 2002; 田中, 2006) 。その結果,生徒の睡眠健康の維持や増 進には,①朝,生体リズムを整える,②授業の合間, 昼休みの短時間仮眠,③帰宅後の仮眠を慎む,④就床 前は,脳と心身をリラックス,がポイントであると指 摘した(田中, 2006) 。また,中学・高等学校で睡眠 -21-

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Bulletin of Research Center for Clinical Psychology

of Hiroshima lnternational Universi,肌2012,拘 ι11,21・35

-1・・3・十十・i・÷やや十今++十・:・十ややや++・3・ややややや・3・・3・+++-1・十・3・・3・・3・・1・÷・3・十ややや 原著論文

小学生に対する授業形式での睡眠教育が

睡眠, 日中の眠気,イライラ感に与える効果

広島国際大学大学院心理科学研究科 広島国際大学心理科学部臨床心理学科 広島国際大学心理科学部臨床心理学科 広島国際大学心理科学部臨床心理学科

田村典久 高浜康雅 箕岡江美 田中秀樹

Sleep Education with a Class for Children in an Elementary School Promotes the Improvement of Sleep,

Daytime Sleepiness, and Irritation

Norihisa Tamura*, Yasumasa Takahama**, Emi Minooka*へHidekiT.創 laka**

*Doctor's Course for Clinical Psychology, Graduate School of Psychological Sciences, Hiroshima Intemational University

**Dep紅 tmentof Clinical Psychology, Faculty of Psychological Sciences, Hiroshima Intemational University

小学生 137名を対象に,授業形式での睡眠教育と 1ヶ月間の目標行動の実践が睡眠や日中の状態に与える効果

について検討した。睡眠Oxクイズを用いて睡眠の重要性と睡眠改善に関する知識教育(睡眠授業)を実施後,

睡眠状態や生活習慣のチェックを行った。生活習慣のチェックを行う際は「ム」と記した習慣行動の中から目標

をlつ選択させヶ月間,実践するように教示しヶ月後に効果評価を行った。授業後,睡眠の知識が向上す

ることが確認できた。本研究の結果,睡眠時聞が有意に増加し,睡眠負債や起床時刻の不規則性も有意な改善が

みられた。また,眠気やイライラを感じる児童も有意に減少した。特に, 1-2年生と 3-4年生で睡眠時間が顕著

に増加し,眠気が軽減すること, 3-4年生では運動習慣の改善やイライラが軽減することが分った。以上,本研

究より,睡眠授業は小学校の低中学年の睡眠時間の確保やイライラ感,日中の眠気改善に有効であることが示唆

された。

Keywords:睡眠教育,生活リズム,規則性,睡眠改善,小学生

1.はじめに

近年,睡眠の悪化や日中の眠気増加が身体的,精神

的健康に悪影響を与えていることが指摘されている。

特に,児童・生徒にみられる日中の居眠りはイライラ

感の程度を強め,攻撃性を高めることが指摘されてい

る(福田, 2003;原田, 2004)。また,夜型で中途覚

躍が多く,学校での居眠りの頻度が高い者ほど,キレ

やすく(原因, 2004),気分の調節不全を起こしやす

いことも指摘されており(服部, 2012),子ども達の

メンタルヘルスの悪化に睡眠や日中の眠気が大きく関

わっている (Calhounet al., 2011)。近年,生活の夜型

化に伴う睡眠時間の短縮が指摘されている子どもたち

にとって (NHK放送文化研究所, 2011),心身の健康

と密接に関係する睡眠の確保は,健康生活や能力発揮

の観点からも極めて重要であり,社会的急務といえる。

我々はこれまで,思春期の生徒を対象とし,心身の健

康保全に関わる適正な睡眠確保を目的とした生活習慣

について探索的研究を重ねてきた (Tanakaet al., 2002 ;

田中, 2006)。その結果,生徒の睡眠健康の維持や増

進には,①朝,生体リズムを整える,②授業の合間,

昼休みの短時間仮眠,③帰宅後の仮眠を慎む,④就床

前は,脳と心身をリラックス,がポイントであると指

摘した(田中, 2006)。また,中学・高等学校で睡眠

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田村園高浜・箕岡・田中・小学生に対する授業形式での睡眠教育が睡眠,日中の眠気,イライラ感に与える効果

教育を実施した研究では,生徒の睡眠や寝つきが改善

し,寝起きや日中の眠気,授業中の居眠りにも効果が

みられることが報告されている (Tanaka& Furutani,

2012)。一方,小学生に対する睡眠教育に関する研究は,

辻ら (2009) のグループが行った学習教材の開発研究

のみであり,現在までに睡眠教育の有効性について報

告したものは,本邦および諸外国においても,いまだ

充分ではなく,少ないのが現状である。

そこで本研究では,小学生に対して授業形式での睡

眠教育と 1ヶ月間の目標行動の実践が睡眠や日中の状

態に与える効果について検討した。

n.方法

I 対象者

広島県のA小学校に在籍する 1年生から 6年生まで

の全児童137名(I年生:20名[男子 10名,女子 10名],

2年生:21名[男子 16名,女子5名], 3年生・ 20名

[男子 11名,女子9名], 4年生・ 23名[男子 10名,

女子 13名], 5年生:29名[男子 19名,女子 10名],

6年生:24名[男子 12名,女子 12名])を対象とした。

2.測定時期

睡眠授業については 10月中旬に実施し,効果評価

を11月中旬に行った。

3.調査材料

(1)睡眠Oxクイズ

睡眠や生活リズムについての正しい知識を,子ども

たちにとって楽しく,そして分かりやすく身につけて

もらうため,睡眠の重要性と睡眠改善に関する知識を

含めた 10聞のOxクイズ形式による教材を作成した。

睡眠授業の理解度を確認するため 1問 l点として得点

化し,不正解を O点とした。

(2)生活リズムチェック

習慣行動については,睡眠障害の対応と治療ガイド

ライン(内山, 2002),および田中 (2009) を参考に,

睡眠に良好とされている 10項目の習慣行動から構成

した。各々の習慣行動に対してすでにできている

ことJには0,1頑張ればできそうなこと」にはム, 1で

きそうにないことj には×で回答を求めた。

(3) 睡眠と日中の状態調査票

平日と休日(休日前)の就床時刻や起床時刻,睡眠

不足,日中の眠気やイライラ感等で構成した,睡眠と

日中の状態に関する調査票を使用した。

4.手続き

1-2年生, 3-4学年, 5-6年生ごとに教材を作成し,

l学年ごとに 45分間の睡眠授業(以下,授業と記載)

を行った。まず,睡眠に関する知識を与えていない状

態で,睡眠Oxクイズの授業前に回答を求め,回答終

了後,睡眠改善インストラクターの資格を有する者に

よって,約 20分間の睡眠に関する知識教育を行った。

次に,睡眠と日中の状態調査票や生活リズ、ムチェック

を用いて, 25分程度の睡眠状態や生活習慣のチェッ

クを行った。また,生活習慣のチェックを行う際には,

「ム(頑張ればできそうなこと)j と記した習慣行動の

中から目標を 1つ選択させヶ月間,目標行動を実

践するように教示した。最後に,睡眠の知識教育の効

果を確認するために,授業後も睡眠Oxクイズを実施

した。そして, 1ヶ月経過後に,再度,睡眠Oxクイズ,

睡眠と日中の状態調査票や生活Dズ、ムチェックを実施

した。

5 データ分析

得られた睡眠習慣のデータについて,頻度および平

均値を算出した。頻度データに対してはカイ二乗検定

を実施し,平均値には対応のある t検定を全学年,低

学年・中学年・高学年および男女別に実施し,授業の

効果を検討した。平均値への変換方法は夜8時ま

でに寝る」と回答した者を 120:00j, 18 時過ぎ~8 時

30分」と回答した者を 120: 30j として変換した。

起床時刻についても同様の方法で平均値に変換し,就

床時刻から起床時刻を差し引いた時間帯を睡眠時間と

して扱った。

6.倫理的配慮

児童の生活改善を図る取り組みの一環として,学校

長から睡眠教育の実施依頼を受けた学校にて研究を実

施した。事前に書面にて,睡眠教育の中で生活リズム

チェック,睡眠と日中の状態調査票を用いること,収

集された内容をプライパシーに充分に配慮した上で研

究目的のみに使用することなどを説明し,職員会議に

て承認が得られた上で研究を実施した。

-22-

広島国際大学心理臨床センタ一紀要第11号

m.結果

I 睡眠Oxクイズの変化

睡眠Oxクイズの内容および正解をTable1に,学

年別の正答率を Figure1にそれぞれ示した。授業前の

知識状態を把握するため,睡眠oxクイズを実施した

結果よく寝ないとドジったり,ケガしやすくなるJ,

「よく眠らないと太る」などの睡眠の重要性に関する

知識の正答率は,すべての学年で低く,知識が十分に

浸透していないことがわかった。しかし,授業の結果,

「よく寝ないとドジったり,ケガしやすくなるん「よ

く眠らないと太るJ という知識の正答率は向上し

ヶ月後もおよそ 9割の児童が正しく理解できているこ

とが確認された。カイ二乗検定の結果,すべての学年

で正答率が有意に向上し,知識教育の効果が認められ

た (pく.001)。また, 3-4年生では「よく寝ないと頭

が働かない」や「朝,太陽の光を浴びると良いJとい

う知識の正答率が有意に増加し,維持されていること

が確認できた (p<.05)。さらに, 5-6年生では「学校

から帰って,夕方,眠くなったら寝た方が良いJなど

の正答率も有意に増加しヶ月後も維持されていた

(pく.05)。

2.睡眠習慣の変化

授業前と 1か月後の睡眠習慣について検討した (Fi伊m

2)。授業前では小学生の 14.6%が8時間よりも短い睡

眠であると回答していたがヶ月後には9.7%に減少

した。また, 10 時間以上の睡眠時間を確保する児童の

割合は6.5%から 20.3%へ増加した。一方,起床時刻

(平日)をみると,授業前には朝 5時前に起床してい

る児童が 15%以上も存在していていたがヶ月後に

は4.1%に減少し, 6 時~7 時までに起床する児童lこ増

加がみられた。カイ二乗検定の結果,授業前と 1ヶ月

後で睡眠時間(平日)に有意差が認められた (χ2(18)

=35. 35, p<. 01)。残差分析の結果, 10時間以上の睡眠

を確保する児童に有意な増加が示された (p<.05)。

また,平均値で見ると,授業前における全学年の平

日の平均睡眠時間は8時間 38分であったがヶ月後

には 8時間 53分に増加した。起床時刻については授

業前に6時08分であったがヶ月後に6時25分に遅

くなったことがわかった (Table2)。対応のある t検

定を行った結果,平日の睡眠時聞が 1ヶ月後に有意に

増加した (t(122)=-3.53, pく.001)。また,睡眠時間(平

日と休日)の差は有意に減少し(t(J22)=2.35, p<. 05),

起床時刻に関しても有意に遅くなった(t(J22)=-4.81, p<.∞1)。

さらに,平Hと休Hの差,すなわち起床時刻の不規則

性や睡眠負債も 1ヶ月後に有意に減少したことが分か

Table 1 睡眠Oxクイズの内容と正解

小学生用睡眠Oxクイズ 正解

問題1 はやね、はや起き、朝ごはんは頭や体によい? 0

問題2 朝ごはんや朝うんちは元気のもと? 0

問題3 よくねないとドジったり、ケガしやすくなる? 0

問題4 よくねないと頭がはたらかない? 0

問題5 よくねむらないとふとる? 0

問題6 にんげんの体にはリズムがある? 0

問題7 朝、太陽の光をあびるとよい? 0

問題8 学校から帰って、夕方、ねむくなったらねたほうがよい? x

問題9 ねむりがたりなかったときは、休みの日は昼までねむるのがよい?x

問題10 ねる前はコンビニなど、明るいところへ行かないほうがよい? 0

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田村・高浜・箕岡・田中:小学生に対する授業形式での睡眠教育が睡眠,日中の眠気,イライラ感に与える効果

問題lはやね、はや起き、朝ごはんは、頭や体によいつ

巳竺竺J(覧)(出) 95.0 100.0 100.0 97.5 100.0 100.0

100.0 100.0 100.0 97.6 100.0 100.0 97.6 100.0 98.1 97.9 100 80 .;

60 40 20 20 。 。

1-2年 3-4年 5-ti年 1-2年 3-4年 5-6年

問題3 盛授業前 問題4

よくねないとドジったり、 隠授業後 よくねないと頭がはたらかない?

ケガしやすくなるワロ1ヶ月後

(出) 水** *** (略) *

100.0 100.0 100

100 80

80 60

60

40 40

20 20 。 。1-2年 3-4年 5-6年 1-2年 3-4年 5-ti年

問題5 |盤授業前! 問題6よくねむらないとふとる? 問時輩格 にんげんの体にはリズムがある?

(首)9*5*2 *

(百)

100

80

60

40

20

1-2年 3-4年 5-6年 1-2年 3-4年 5-6年

問題7 日五五iiil 問題8朝、太陽のひかりをあびるとよい?

(首) loo*-*o * (世) *

100 100 80 80 60 60 40 40 20 20 。 。

E包年 3-4年 5-ti年 1-2年 3-4年 5-6年

(国) (百)

100 100

80 80

60 60

40 40

20 20 。 。1-2年 3-4年 5-6年 1-2年 3-4年 5-6年

Figure 1 授業実施前後および1ヶ月後における睡眠Oxクイズの学年別正答率1-2年生(n=40),3-4年生(n=42),5-6年生(n=50)

***; pく 001, キキ ;p< .01,*; p< .05, t; p<.1

-24-

広島国際大学心理臨床センタ一紀要第11号

平日の睡眠時間軸 ロ授業前

田1ヶ月後国

40

30

20

10

7時間 7時間 7時間半 8時間 8時間半 9時間 9時間半 10時間

未満 以上

30

平日の就床時刻lMmmAU 刊。

後業ロ明

14

ロ闘

20

10

。20時 20時 20時半 21時 21時半 22時 22時半

以前 以降

平日の起床時刻 ロ授業前

瞳 1ヶ月後

:;hdL

世休日の睡眠時間 ロ授業前

開1ヶ月後

30.9

7時間 7時間 7時間半 8時間 8時間半 9時間 9時間半 10時間

未満 以上

休日前の就床時刻 ロ授業前

回lヶ月後28.5

20

20時 20時 20時半 21時 21時半 22時 22時半

以前 以降

見休日の起床時刻

**;p< .01

Figure 2 授業前と1ヶ月後の全学年における睡眠習慣の比較

5時 5時 5時半 6時 6時半 7時

以前 以降

Table 2 全学年における授業前および1ヶ月後の睡眠習慣の比較 (n=132)

授業前 1ヶ月後 t値 P

全学年 睡眠時間 平 日 8時間38分 (45分) 8時間53分 (52分) -3.53 0.001梓*

休 日 8時間44分 (56分) 8時間47分 (51分) -0.40 O. 693

睡眠負債 6分 (51分) 7分 (48分) 2. 35 0.020 *

就床時刻 平 日 21時29分 (48分) 21時32分 (48分) 一O.59 O. 554

休日前 21時53分 (54分) 21時58分 (50分) 一1.19 0.238

就床時刻(平日と休日)の差 24分 (36分) 28分 (34分) -0.92 O. 360

起床時刻 平 日 6時08分 (22分) 6時25分 (32分) -4.81 O. 001柿*

休 日 6時38分 (43分) 6時46分 (42分) 一1.93 0.056

起床時刻(平日と休日)の差 30分 (37分) 21分 (38分) 2.15 0.034 *

注)睡眠負債…休日の睡眠時聞から平日の睡眠時間を差し引いたもの。値が大きいほど睡眠不足を示す。

Mean( )=SD, ***;pく.001, *;pく.05

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田村・高浜・箕岡・田中:小学生に対する授業形式での睡眠教育が睡眠,日中の眠気,イライラ感に与える効果

った(t(122)=2.15, Pく.05; t(122)=2. 35, Pく.05)。

次に,学年別の睡眠習慣をみると, 1-2年生につい

ては,授業前に平日の睡眠時聞が 8時間 57分であっ

たが, 1ヶ月後に9時間 29分に増加したことが示され

た (Table3) 0 3-4年生に関しでも平日の睡眠時聞が8

時間 37分から 8時間 53分に増加し, 5-6年生でも 8

時間 21分から 8時間 26分に睡眠時聞が増加した。さ

らに,平日の起床時刻をみると, 1-2年生では5時49

分から 6時 19分に, 3-4年生では6時8分から 6時 23

分に起床時刻が遅くなったことがわかった (Table4)。

対応のある t検定の結果, 1-2年生と 3-4年生において,

平日の睡眠時間に有意な増加が示された (t(36)=-

4.88,pく.001;t(39)=-3. 07, p<. 01)。さらに, 1-2年生と

3-4年生では平日の起床時刻にも有意差がみられ

(t(36) =-4. 45, p<. 001 ; t(39) =-2. 85, Pく.01), 1ヶ月後に

有意に遅くなったことがわかった。

さらに,低学年・中学年・高学年および男女別に検

討したところ, 1-2年生の男子における平日の睡眠時

間は,授業前では8時間 52分であったがヶ月後に

は9時間 31分に増加した (Table3)。また,女子でも,

授業前は 9時間 4分であったがヶ月後に 9時間 26

分に睡眠時間が増加した。さらに, 3-4年生の男子で

も8時間 36分から 8時間 52分に,女子では8時間 40

分から 8時間 53分に睡眠時間が増加した。平日の起

床時刻に関して, 1-2年生の男子では5時42分から 6

時 18分に遅くなり,女子では5時58分から 6時22分

に遅くなった (Table4)。また, 3-4年生の女子でも,

6時 15分から 6時 28分に起床時刻が遅くなった。対

応のある t検定の結果, 1-2年生の男女および 3-4年

生の男子において,平日の睡眠時間に有意な増加が示

された (t(2!)=-4.11, Pく001;t(!4)=-2. 75, p<. 05; t(!7)=

2. 27, p<. 05)。さらに, 1-2年生の男女および3-4年

生の女子では,平日の起床時刻が有意に遅くなった

(t(ZI)=一3.95,p<. 001;t(J4)=一2.18,pく.05; t (21) =-2. 34, p<. 05)。

Table 3 授業前および1ヶ月後の低学年・中学年・高学年および男女別の睡眠時間の比較

授業前 1ヶ月後 t1i直 P

1-2年生 全体 睡 眠時間平 日 8時間57分 (47分) 9時間29分 (52分) -4.88 0.001 林事

休 日 8時間57分 (1時間10分) 9時間6分 (59分) -0.81 0.426

男子 睡 眠時間平 日 8時間52分 (49分) 9時間31分 (58分) -4.11 0.001 林事

休 日 8時間49分 (1時間17分) 8時間55分(1時間11分) -0. 32 o. 754

女子 睡 眠時間平 日 9時間4分 (44分) 9時間26分 (44分) -2. 75 0.016 *

休 日 9時間6分 (1時間) 9時間22分 (31分) -0.97 O. 349

3-4年生 全体 睡 眠時間平 日 8時間37分 (38分) 8時間53分 (35分) -3.07 0.004梓

休 日 8時間38分 (49分) 8時間38分 (47分) O. 10 0.924

男子 睡眠時間平日 8時間36分 (36分) 8時間52分 (34分) -2.27 0.036ホ

休 日 8時間37分 (54分) 8時間37分 (46分) 0.00 1. 000

女子 睡 眠時 間平 日 8時間40分 (41分) 8時間53分 (36分) 一2.02 0.057

休 日 8時間40分 (46分) 8時間38分 (49分) O. 12 0.906

5-6年生 全体 睡 眠時 間平 日 8時間21分 (45分) 8時間26分 (47分) -0.63 0.535

休 日 8時間40分 (50分) 8時間39分 (43分) O. 14 0.886

男子 睡 眠時 間平 日 8時間27分 (40分) 8時間35分 (41分) -0.71 0.483

休 日 8時間44分 (1時間1分) 8時間41分 (48分) 0.15 0.882

女子 睡 眠時 間平 日 8時間14分 (48分) 8時間14分 (52分) 0.00 1. 000

休 日 8時間36分 (32分) 8時間36分 (48分) O. 00 1. 000

Mean( )=SD, ***;pく.001, **;pく.01, *;pく.05

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広島国際大学心理臨床センタ一紀要第11号

Table 4 授業前および1ヶ月後の低学年・中学年・高学年および男女別の就床・起床時刻の比較

授業前 1ヶ月後 t値 P

1-2年生全体就床時刻平 日 20時49分 (37分) 20時50分 (40分) -0. 12 0.903

休日前 21時19分 (54分) 21時30分 (56分) 1. 22 0.230

起床時刻平 日 5時49分 (41分) 6時19分 (41分) -4.45 0.001 柿本

休 日 6時15分 (49分) 6時36分 (46分) -2.29 O. 028 *

男子就床時刻平 日 20時46分 (39分) 20時46分 (47分) 0.00 1. 000

休日前 21時20分 (59分) 21時33分 (1時間2分) -0.96 0.346

起床時刻平 日 5時42分 (41分) 6時18分 (45分) -3. 95 0.001 *紳

休 日 6時09分 (47分) 6時27分 (52分) 一1.50 O. 147

女子就床時刻平 日 20時54分 (34分) 20時56分 (25分) -0. 24 0.818

休日前 21時18分 (48分) 21時26分 (48分) -0. 75 0.469

起床時刻平 日 5時58分 (40分) 6時22分 (27分) 2. 18 O. 047 *

休 日 6時24分 (52分) 6時24分 (32分) -1. 74 O. 104

3-4年 生全体就床時刻平 日 21時29分 (32分) 21時32分 (26分) -0. 70 0.486

休日前 21時59分 (44分) 22時08分 (39分) -0.20 0.841

起 床時刻平 日 6時08分 (32分) 6時23分 (26分) -2.85 0.007柿*

休 日 6時38分 (39分) 6時38分 (43分) 一0.11 0.911

男子就床時刻平 日 21時22分 (27分) 21時28分 (22分) 一0.89 0.386

休日前 22時00分 (45分) 22時00分 (41分) 0.00 1. 000

起 床時刻平 日 6時00分 (37分) 6時17分 (33分) -1. 76 0.096

休 日 6時37分 (48分) 6時37分 (48分) 0.00 1. 000

女子就床時刻平 日 21時35分 (35分) 21時35分 (30分) 0.00 1. 000

休日前 21時58分 (45分) 22時01分 (38分) -0.42 0.680

起 床時刻平 日 6時15分 (28分) 6時28分 (17分) -2. 34 0.029 *

休 日 6時38分 (31分) 6時40分 (41分) -0. 16 0.877

5-6年 生全体就床時刻平 日 22時01分 (43分) 22時04分 (46分) -0. 35 O. 732

休日前 22日寺16分 (49分) 22時21分 (43分) -0.62 0.541

起 床時刻平 日 6時23分 (33分) 6時30分 (27分) -1. 28 0.207

休 日 6時56分 (32分) 7時00分 (34分) O. 70 0.486

男子就床時刻平 日 21時54分 (46分) 21時53分 (44分) O. 10 0.924

休日前 22時05分 (55分) 22時09分 (46分) 0.32 O. 754

起床時刻平 日 6時22分 (35分) 6時28分 (30分) 0.80 0.433

休 日 6時48分 (38分) 6時51分 (38分) 0.26 O. 799

女子就床時刻平 日 22日寺10分 (38分) 22時18分 (45分) 0.93 0.367

休日前 22時30分 (34分) 22時36分 (36分) 1. 17 0.258

起床時刻平 日 6時24分 (30分) 6時32分 (23分) 1. 16 0.262

休 日 7時06分 (21分) 7時12分 (25分) 1. 07 0.297

Mean( )=SD, ***;pく.001, *;pく.05

一一27一一

田村岡高浜・箕岡・田中:小学生に対する授業形式での睡眠教育が睡眠,日中の眠気,イライラ感に与える効果

また,習慣行動について学年別に検討したところ

(Table 5), 1-2年生では「毎朝ほぼ決まった時間に起

きる」や「学校から帰って,夕方寝ないJ,r眠る前に,

ゲームをしない」などの習慣行動に対して, 1ヶ月後

に rO(すでにできている)Jと回答している者の割

合に増加がみられた。 3-4年生では「朝起きたら,太

陽の光を浴びるJ,r眠る前に,テレビやビデオを見な

いJ,r毎日よく体を動かす,運動する」に対して rOJ

の割合に増加が示された。また, 5-6年生でも「朝起

きたら,太陽の光を浴びるj や「学校から帰って,夕

方寝ない」などに rOJ と回答した児童の割合が増加

した。カイ二乗検定の結果, 3-4年生の「毎日,よく

体を動かす,運動する」に有意差が認められ (χ

2(2)=6. 58,p<. 05),残差分析の結果ヶ月後に rOJ

の割合が有意に増加した (p<.05)。

(Figure 3),授業前に「眠い」と訴えた児童は全体の

31. 5%も存在し, rいらいらするJについては 16.5%

に認められた。 1ヶ月間,目標行動を実践するよう教

示した結果 (Figure3), r眠い」は 19.7%に, rいらい

らする」に関しては 7.9%に軽減したことが判明した。

カイ二乗検定の結果眠いj や「いらいらするJ と

訴えていた児童は 1ヶ月後に有意に減少し (χ2(1)=

5. 32,pく.05;χ 2(1)=5.21,Pく.05),r横になりたいJと

回答していた児童の割合にも有意な改善がみられた (χ

2 (1) =8. 02, Pく.01)。有意差のみられた項目について,

学年別に検討したところ眠い」に関しては, 1-2

年生で有意な改善が示され (χ2(1)=5.16, Pく.05),3-4

年生では改善傾向が確認された (χ2(1)=2.92,pく.1)。

さらに r"、らいらする」や「横になりたし、Jに関し

ては, 3-4年生で有意な改善が確認された (χ2(1)=

6. 82,pく.01;χ2(1)=7.86,Pく.01)。

4. 日中の状態の変化

小学生の訴える日中の状態について検討した結果

Table 5 授業前および1ヶ月後の習慣行動における学年別比較

)-2年生 3-4年生 5-6年生 χ2fj直 選択率生活リス、ムチェック項目

O ム x 0 ム x 0 ム X )-2年 3-4年 5-6年全体

1.毎朝、ほぽ決まった時間に起きる

2.朝、起きたら、太陽の光をあびる

3.朝、ごはんを毎日、きちんと食べる

4 学校から帰って、夕方、ねない

5.休みの日に、朝ねぼうしない

授業前 55.3 36.8 7.9 72.5 25.0 2.5 77.6 20.4 2.0

1ヶ月後 65.8 31. 6 2.6 70.0 25.0 5.0 67.3 32.7 0.0

授業前 60.5 18.4 21. 1 42.5 47.5 10.0 38.8 51. 0 10.2

1ヶ月後 55.3 28.9 15.8 47.5 32.5 20.0 42.9 46.9 10.2

授業前 97.2 2.8 0.0 89.7 5. 1 5. 1 89.8 8.2 2.0

1ヶ月後 91. 7 8.3 0.0 89.7 10.3 目 85.7 14.3 0.0

授業前 89.2 8. 1 2.7 90.0 10.0 0.0 83.7 16.3 0.0

1ヶ月後 97.3 0.0 2.7 82.5 17.5 0.0 85.7 12.2 2.0

授業前 80.6 19.4 0.0 60.0 25.0 15.0 40.8 38.8 20.4

lケ月後 75.0 19.4 5.6 57.5 35.0 7.5 38.8ι14.3

6.ねむる前に、コンビニなど明るいところに行 授業前 81. 6 15.8 2.6 87.5 7.5 5.0 91. 8 8.2 札。

かない

7.ねむる前に、テレビやビデオを見ない

8 ねむる前に、ゲームをしない

9.毎晩、ほぼ決まった時間にねる

10.毎日、よく体を動かす、運動する

*;pく.05

1ヶ月後 86.8 7.9 5.3 90.0 7.5 2.5 98.0 2.0 0.0

授業前 63.2 31. 6 5.3 40.0 47.5 12.5 26.5 49.0 24.5

1ヶ月後 63.2 26.3 10.5 55.0 35.0 10.0 且 57.1 14.3

授業前 71. 1 18.4 10.5 82.1 5.1 12.8 81. 6 14.3 4.1

1ヶ月後 76.3 13.2 10.5 79.5 丘 5.1 81. 6 12.2 丘1

授業前 56. 8 35. 1 8. 1 60. 0 35. 0

1ヶ月後 62. 2 29. 7 8. 1 59. 0 33. 3

5. 0 55. 1 32. 7 12. 2

7.5 54.2 41. 7 4.2

授業前 86.8 5.3 7.9 60.0 35.0 5.0 75.5 22.4 2.0

1ヶ月後 68.4 23.7 7.9 82.5 17.5 0.0 71. 4 24.5 4.1

-28-

1. 50 O. 35 2. 74 11. 8

1. 27 2. 57 O. 18 22. 7

1. 06 2. 67 1. 87 3. 4

3. 13 0.95 1. 30 6.7

2. 07 1. 69 O. 94 8. 4

1. 40 O. 35 1. 90 5. 0

0.85 1. 82 1. 66 16.8

0.41 3.30 0.28 4.2

。.26 O. 25 2. 45 8. 4

5.29 6.58* 0.43 12.6

広島国際大学心理臨床センタ一紀要第11号

5 睡眠不足群と非睡眠不足群の群間比較

授業の効果をより詳細に検討するため,授業前に「睡

眠不足」および「眠い」に対していずれも「該当」と

回答している児童(以下,睡眠不足群)と,いずれも

「非該当」と回答している児童を,全体から(1年生

から 6年生まで)52名ずつ抽出し,群間比較を行った

(Figure 4)。睡眠不足群では,授業前, r朝起きたら,

70 1 T 60 -i 58.3

50

40

30

20

10

。あくびがでる 睡眠不足 H民し、

H民し、 ロ授業前

% 国1ヶ月後T

50

40 * 38.836.7

30

20

10 。1-2年生 3-4年生 5--6年生

あくびがでる 口授業前

出 ** 隠 1ヶ月後

80 74.4

60

40

20

。1-2年生 3-4年生 5-6年生

太陽の光を浴びる」という習慣行動に対して rOJ と

回答している児童は 30.8%で、あったがヶ月後には

44.2%に増加したことがわかった。また寝る前に,

ゲームをしないJという習慣行動についても rOJ

の割合は 69.2%から 78.8%に潜加していることが確

認された。カイ二乗検定の結果,睡眠不足群の「休み

の日に朝寝坊しないJは有意支部みられ(χ2(3)=8.31,pζ05),

ロ授業前

周 1ヶ月後

横に 頭が いらいらする やる気がなりたい まとまらない 出ない

いらいらする ロ授業前

出題1ヶ月後

** 40 30.0

30

20

10 四 2一.一6司 0.0。1-2年生 3-4年生 ふ6年生

横になりたい ロ授業前

首 * 扇 1ヶ月後

50 47.5

40

30

20

10 。1-2年生 3-4年生 5-6年生

**;p< .01, *;pく 05, t;pく.1

Figure 3 眠気,イライラ感に関する低学年・中学年・高学年の授業前と1ヶ月後の変化

1-2年生(n=41), 3-4年生(n=43),5-6年生(n=52)

-29-

田村・高浜町箕岡・田中:小学生に対する授業形式での躍眠教育が睡眠,日中の眠気,イライラ感に与える効果

残差分析の結果 rOJの割合が有意に増加した (p<.05)。

さらに「朝起きたら,太陽の光を浴びるj および「寝

る前に,ゲームをしなしリについてはそれぞれ rOJ

の割合が増加傾向を示した (χ2(1)=6.67,pく.1;χ2(1)=

6.57,pく.1)。日中の状態については,授業前,睡眠不

足群では83%の児童が「睡眠不足」を訴え, 65%が「眠

し、」と回答していた (Pigure5) 0 1ヶ月間,目標行動を

実践するよう教示したところ,睡眠不足群において,

睡眠不足を訴えていた児童は 57%に, 日中の眠気を

報告していた児童は 35%に減少したことが判明した。

またし、らいらする」や「頭がまとまらなし、」と回

答していた児童も減少したことが確認できた。カイ二

出 習慣2.朝、起きたら、太陽の光をあびるロ授業前

AU

AU

Fhυ

00

• ro TO 、z

nu au

翻 1ヶ月後50.0

40

20

O

明 習慣5 休みの日に、朝ねぼうしない口授業前

80 寸cn <) 滋1ヶ月後

U

4

の白

同 習慣8.ねむる前に、ゲームをしない

100 l86.586.5

80

60

40

20

O

口授業前

密1ヶ月後

O

非睡眠不足群

Figure 4 睡眠不足群と非睡眠不足群における授業前と1ヶ月後の

生活習慣の比較

* ;p< . 05, t;pく.1

-30-

広島国際大学心理臨床センタ一紀要第11号

睡眠不足一←非睡眠不足 いらいらする ー←非睡眠不足

一@一睡眠不足

眠い 一+ー非睡眠不足目

一@一睡眠不足百

801 4

40

60

¥¥J** 30

40 20

時一@一睡眠不足

;一¥¥----.J*

;;j………〆fT¥¥J t

20 付可f 竺… 1

授業前 1ヶ月後

10

o で 7 →一一一一m … ω mω町一一

授業前 1ヶ月後

横になりたいー←非睡眠不足

一@一睡眠不足

1111i3Asiil寸4441442!

ハυnυ

ハυAυAυnu

nυn6aud笠

n,“

あくびが出るーひー非睡眠不足 頭がまとまらないー←非睡眠不足

一@一睡眠不足相

一@一睡眠不足見

30 60

ト~--JT 20 ベl40

。『ーー-0 10 20

授業前 1ヶ月後 授業前 1ヶ月後

¥¥J ** 出

授業前 lヶ月後

Figure 5 睡眠不足群と非睡眠不足群における綬業前と1ヶ月後の日中の眠気,イライラ感の比較

神 ;p < .01, *; p < .05, t ; p < .1

乗検定の結果,睡眠不足群における「眠いJ,r睡眠不

足Jの割合が lヶ月後に有意に減少しいらいらする」

や「あくびが出るJについても有意に改善した (p<.05)。

一方,非睡眠不足群には,習慣行動および日中の覚醒

状態がともに良好に保たれている児童が多かった。

W.考察

本研究では, Oxクイズを用いた授業形式での睡眠

教育と, 1ヶ月間の目標行動の実践により,睡眠に関

する適正な知識獲得,睡眠習慣および日中の状態の改

善を狙った。その結果,睡眠時間の有意な増加や睡眠

負債,また起床時刻の不規則性の改善がみられた。ま

た,眠気やイライラを感じる児童も有意に減少した。

まず,睡眠知識に関して,詳細にするためにOxク

イズの正答率について検討した。睡眠Oxクイズの「早

寝,早起き,朝ごはんは頭や体に良い ?Jや「朝ごは

んや朝うんちは元気のもと ?J をみると,いずれの学

年でも,授業前から「はやね,はや起き,朝ごはん」

は頭や体に良いこと,元気の素であることを把握して

いる児童が多かった。一方でよくねむらないと,

ふとるjや学校から帰って,夕方ねむくなったら

ねたほうがよい」などの睡眠のメカニズムや睡眠改善

に関する知識は十分に浸透していなかったが,授業後

に正答率が有意に向上した。またよくねないとド

ジったり,ケガしやすくなる」などの睡眠の重要性に

関する知識は,授業直後だけでなく, 1か月後も維持

されていることが示された。さらに, 3-4年生と 5-6

年生では「朝,太陽の光をあびると良いJなどの睡眠

改善に関する知識の正答率も向上し, 1カ月後も維持

され,知識教育の効果が示唆された。このことは,本

研究で使用した睡眠教材が,小学生の睡眠に関する正

しい理解を促進させるのに,有効であったことを示唆

させる。

睡眠に関する適正な知識が獲得された上で, 1ヶ月間,

目標行動を実践するよう教示したところ, 3-4年生の

「毎日,体を動かす,運動する」という習慣行動が有

意に改善し,運動習慣の重要性が示唆された。睡眠時

間については,特に 1-2年生と 3-4年生において有意

に増加し,イライラ感や日中の眠気が軽減した。さら

に,睡眠不足の度合いを反映する睡眠負債が有意に減

少し,平日と休日の起床時刻の不規則性も軽減したこ

とがわかった。一方, 5-6年生では起床時刻に変化が

みられなかったことから,単に季節の影響による睡眠

習慣の改善とは考えにくい。このことを考え合わせる

と,今回, 1-2年生と 3-4年生で認められた起床時刻

一一31一一

田村・高浜町箕岡・田中・小学生に対する授業形式での睡眠教育が睡眠,日中の眠気,イライラ感に与える効果

の後退は,マイナスな結果ではなく,早朝覚醒の軽減,

言い換えれば早すぎる起床習慣が改善されたと考えら

れ,睡眠時間の確保と解釈することができる。また,

平日と休日の起床時刻を一定に保つ指導が有効であっ

た可能性を示唆し,不規則性軽減に寄与しているもの

と考えられる。

睡眠不足群において「朝起きたら,太陽の光をあび

るJや「休みの日に朝ねぼうしなし、」という習慣行動

に改善がみられた。人間の生体リズムは約 1日を単位

とした概日リズムをもつため,毎朝,決まった時刻に

起床し,光や食事,運動などを手掛かりに生体リズム

を24時間の環境周期に同調させ,睡眠覚醒リズムを

一定に保つことが重要である。特に,光は視床下部,

視交叉上核を介し,眠気に関するホルモンの抑制や自

律神経系の交感神経に作用して覚醒度を上昇させるこ

と (Dijk& Edger, 1999),夜間睡眠中のメラトニン分

泌を増加させることが報告されている (Mishima巴tal.,

2001)。本研究の結果はリズムを整える習慣行動を 1

ヶ月間実践することの有効性を小学生において実証し

たと同時に,睡眠時間の確保,イライラ感や眠気軽減

に,少しでも今より睡眠時間を増やすことが有効であ

ることを示唆している。

就床時刻については有意な変化が見られなかったが,

睡眠不足群,つまり授業前に「睡眠不足Jおよび「眠

し、」に対して,いずれも「該当」と回答した児童にお

いて朝起きたら,太陽の光をあびる」などの習慣

行動に対する rOJの割合が増加し,睡眠不足や日中

の眠気が軽減した。また,睡眠不足群では「休みの日

に朝ねぼうしないJという習慣行動に対して「ム」と

回答する児童の割合も増加した。このことは,夜型化

防止のためには,まず生活習慣の不規則化を軽減する

必要性を示唆している。つまり,ただ早寝をしましょ

組んでいくことで,子ども達の生活リズムの乱れの防

止や心身健康の確保に効果が期待できると示唆される。

本研究の限界と課題

本研究は,小学生に対する睡眠教育の効果を検討し

た新しい試みで、あったが,統制群との比較が行なえな

かった。本研究を行った時期は睡眠時間,就床・起床

時刻が夏・冬に比べ比較的安定している秋季(白)11ら,

1993)で、あったが,今後,統制群との比較,あるいは

異なる時期や季節での比較検討することが課題である。

また学年 1クラスという比較的小規模の小学校で

実施したため,各学年の効果および習慣行動の獲得,

維持・促進について詳細に検討することができなかっ

た点も挙げられる。今後,各学年のサンプル数を増や

し,睡眠教育の効果を検討することが課題である。

一方,本研究で実施した睡眠教育の結果, 5-6年生

では,生活習慣や睡眠習慣に加え,日中の状態に改善

が示されなかった。このことは, 5-6年生にとって教

材が容易で、あった,実施期間が短かった,あるいは動

機づけが維持しなかったなどの可能性が示唆される。

今後は,教材に生体リズムの調整を促す内容を充実さ

せると同時に,日誌記録などセルフモニタリングを用

いた睡眠教育の効果を検討していくことが重要である。

特に,睡眠教育単独の効果と比較検討していくことが

課題であり,学校側のニーズに応じた方法論の提案が

可能となるよう継続して取り組んでいく必要性が示唆

される。本研究では,小学校の先生方と連携し,日々

の学校教育の中で子どもたちに生活リズムの重要性を

意識してもらうことを重視した。こうした取り組みを

継続することにより,知識の浸透や睡眠習慣の改善に

つながるものと考えられる。

うという指導では無理があり,まずは身体のリズムを 謝辞

整える指導,つまり朝,太陽の光を浴びることや食事,

運動とあわせて睡眠指導を行うことが重要である。 本研究にご協力くださいました,小学校の児童の皆

以上,本研究の結果は,睡眠の知識教育だけでも睡 さま,先生方に心より感謝申し上げます。また,本研

眠時間確保や日中の状態改善に一定の効果があり,学 究の実施に当たりご協力を頂いた広島国際大学心理科

校や地域で睡眠教育など睡眠に関する正しい知識や意 学部臨床心理学科の土田紗矢香氏,吉島恭子氏,原田

識を普及させる取り組みが重要であることを示してい 晃典氏に感謝いたします。

る。また,小学生の時期から継続して睡眠教育に取り

-32-

広島国際大学心理臨床センタ一紀要第11号

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-33-

田村・高浜・箕岡・田中:小学生に対する授業形式での睡眠教育が睡眠,日中の眠気,イライラ感に与える効果

付録1 睡眠教育教材(3-4年生用)

zム⑤よくねむらないとふとるつ

①~⑤のまとめ①O ②O ③O ④O ⑤O

豊容や給、早8唱さ脅し官:書;1:1'&ラみとっ穆噌ろ

{本の時計を合わせる

d事1日は249寺問

G

¥iji

hv

器片

teoしむ

O⑩

×

Asu

d」

-34-

広島国際大学心理臨床センタ一紀要第11号

付録 2 生活リズムチェックの項目と睡眠Oxクイズ

せいかっ

・生活'1:湾u(;)千z・''1'1 I

年(男・女)

『芭e'Cいるごとに陪:OJ~ r芭e'C,い穆いけれど.がI&.f#tLをう捗ごと6J

「芭去をろに穆いこと陪XJ奄つけ号長しよう。

組 番

番号 生活リズムのチェック チェックしてみよう

ま毎い朝あさ, ほぽ決さまった時じか間んに起おきる O ム ×

2 議,長きたら,実蔭の32Jをあびる O ム ×

3 話,ごはんを輩旨,きちんと食べる O ム ×

4 準語から繕って,歩芳,ねない O ム ×

5 休みの臼に,笥ねぼうしない O ム ×

6 ねむる前まえに, コンビニなどあ明かるいとこに行いかない O A ×

7 ねむるま前えに,テレビやビデオを見みない O ム ×

8 ねむる前まえに,ゲームをしない O ム ×

9 詰ばん,ほほ:主まった織にねる O ム XI 1 0 霊包よく官を轟かす,差議する O ム

ムの中から・がんばってみようと嘗うことを1つ選んで、番号を轟いてください。l 番1-睡眠Ox'1ィ~I疋 疋おち おち

正しいと思うものにはO.ちがうと思うものには×をつけてください。

①(

②(

③(

@

@

あさ あたまからだ朝ごはんは,頭や体によい?

げんき

元気のもと?

ケガしやすくなる?

)はやね,はや起き,あさ あさ

)朝ごはんや,朝うんちは,

)よくねないとドジったり,めた主

よくねないと頭がはたらかない?

よくねむらないとふとる?

)にんげんの体にはリズムがある?あさ たし、ょう

)朝,太陽のひかりをあびるとよい?

)学校から帰って,夕方,ねむくなったらねたほうがよい?やす ひひる

)ねむりがたりなかったときは,休みの日は昼までねむるのがよい?まえ あカ・ い

)ねる前はコンビニなど,明るいところへ行かないほうがよい?

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