csr長期ビジョン 柱2 資源循環型社会の構築 車社会 …...csr長期ビジョン 柱2...

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近年、資源循環に大きな関心が寄せられています。1993 年の環境基本法の制定以来、容器包装リサイクル法、家電 リサイクル法、循環型社会形成推進基本法、食品リサイクル 法、自動車リサイクル法が成立し資源循環が促されていま す。この背景には、膨大に発生する廃棄物に対して、最終処 分場の確保が困難になってきたことと不法投棄が増大して きたことがあります。 自動車のリサイクルでは、シュレッダーダスト(ASR)をリサ イクルすることが困難で、車両リサイクル率が80%程度にと どまっていました。2005年1月に施行された自動車リサイク ル法により、フロン類、エアバック類、ASRの引き取りとリサ イクル・適正処理が自動車メーカーなどに義務付けられまし た。これにより2009年度には車両リサイクル率が約95%に 向上しました。しかし、金属などの資源回収後に最終残さと して残るASRについてはそれでもマテリアルリサイクルが技 術的・経済的に容易ではないものであったことから年間約 14万トンが単純焼却や埋め立て処分されていました。この ASRをセメントの原燃料として利用を進めることで、「再生 利用」(マテリアルリサイクル)および「熱回収」を可能としリ サイクル率の大幅な向上につなげることができました。 ASRをセメント原燃料としてリサイクルするためには、いく つかの課題がありました。上磯工場業務部の坂部さんは 「ASRには塩素が含まれ、それが製造工程に悪影響を及ぼ すので克服しなければなりませんでした。塩素バイパスに よってこの塩素を工程から抽出することで解決を図りまし た。」と改善策を説明します。また、「ASRはプラスチック、ウレ タン、ワイヤーなどが混在しているためハンドリングが悪く 安定処理が課題でした。また、成分面では塩素が入ってお り、セメント成分に支障が出ないようにきめ細かな製造管理 を行なっています。」と上磯工場製造部の大永さんが管理に よる取り組みを指摘します。また、様々な課題の解決を通じ て「ASR受け入れを契機に施した対策は、今後、様々な廃棄 物由来の副産物を受け入れることのできる対応力を強化す ることになった。」と、循環型社会の構築により積極的に貢献 できる可能性についても前出の坂部さんは話しています。 ASRの処理に関しては、自動車リサイクル法に則った処理 が義務付けられています。上磯工場はリサイクル施設として 登録され、破砕業者で発生したASRを受け入れています。マ テリアルリサイクルを適正に推進するためには、上磯 工場内での処理だけではなく、前処理の破砕 業者とも協力して適正なリサ イクル を回す必要 があります。上磯工場への 搬入を行なってい る株式会社クロダリサイクルの 佐野邦光氏からは「2004年に使用済自動車処理をはじめ ましたが、北海道という地域特性もあり、ASRは埋め立て処 分を前提としていました。ASRの再資源化のため、2008年 からは、上磯工場でのセメント原燃料化をはじめました。セメ ント原燃料化に対応するための徹底した分別や置場の管理 などの施策は、従業員の意識向上にもつながり、業務レベル の向上にも役立っています。2011年には新たなシュレッ ダーも導入し、安定した量を確実にリサイクルしていきた い。」と伺いました。また、環境事業部の花田さんは「はじめ のうちはトラブルもありましたが半年くらいかけて、クロダリ サイクル様と協力体制をつくり上げました。」とネットワーク 構築の重要性を説きます。 フォーカス2 資源循環型社会の構築 CSR長期ビジョン 柱2 「資源循環の環」におけるセメント産業の役割 リサイクルネットワークの構築 ASRのリサイクルにおける課題 車社会の難題を 解決するセメント TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 2011 12

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Page 1: CSR長期ビジョン 柱2 資源循環型社会の構築 車社会 …...CSR長期ビジョン 柱2 「資源循環の環」におけるセメント産業の役割 リサイクルネットワークの構築

[ART] 自動車破砕残さリサイクル促進チーム 総括(日産自動車株式会社)佐藤 康典氏

 近年、資源循環に大きな関心が寄せられています。1993年の環境基本法の制定以来、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、循環型社会形成推進基本法、食品リサイクル法、自動車リサイクル法が成立し資源循環が促されています。この背景には、膨大に発生する廃棄物に対して、最終処分場の確保が困難になってきたことと不法投棄が増大してきたことがあります。 自動車のリサイクルでは、シュレッダーダスト(ASR)をリサイクルすることが困難で、車両リサイクル率が80%程度にとどまっていました。2005年1月に施行された自動車リサイクル法により、フロン類、エアバック類、ASRの引き取りとリサイクル・適正処理が自動車メーカーなどに義務付けられました。これにより2009年度には車両リサイクル率が約95%に向上しました。しかし、金属などの資源回収後に最終残さとして残るASRについてはそれでもマテリアルリサイクルが技術的・経済的に容易ではないものであったことから年間約14万トンが単純焼却や埋め立て処分されていました。このASRをセメントの原燃料として利用を進めることで、「再生利用」(マテリアルリサイクル)および「熱回収」を可能としリサイクル率の大幅な向上につなげることができました。

 ASRをセメント原燃料としてリサイクルするためには、いくつかの課題がありました。上磯工場業務部の坂部さんは「ASRには塩素が含まれ、それが製造工程に悪影響を及ぼすので克服しなければなりませんでした。塩素バイパスによってこの塩素を工程から抽出することで解決を図りました。」と改善策を説明します。また、「ASRはプラスチック、ウレタン、ワイヤーなどが混在しているためハンドリングが悪く安定処理が課題でした。また、成分面では塩素が入っており、セメント成分に支障が出ないようにきめ細かな製造管理を行なっています。」と上磯工場製造部の大永さんが管理に

よる取り組みを指摘します。また、様々な課題の解決を通じて「ASR受け入れを契機に施した対策は、今後、様々な廃棄物由来の副産物を受け入れることのできる対応力を強化することになった。」と、循環型社会の構築により積極的に貢献できる可能性についても前出の坂部さんは話しています。

 ASRの処理に関しては、自動車リサイクル法に則った処理が義務付けられています。上磯工場はリサイクル施設として登録され、破砕業者で発生したASRを受け入れています。マテリアルリサイクルを適正に推進するためには、上磯工場内での処理だけではなく、前処理の破砕業者とも協力して適正なリサイクル

を回す必要 があります。上磯工場への搬入を行なってい る株式会社クロダリサイクルの佐野邦光氏からは「2004年に使用済自動車処理をはじめましたが、北海道という地域特性もあり、ASRは埋め立て処分を前提としていました。ASRの再資源化のため、2008年からは、上磯工場でのセメント原燃料化をはじめました。セメント原燃料化に対応するための徹底した分別や置場の管理などの施策は、従業員の意識向上にもつながり、業務レベルの向上にも役立っています。2011年には新たなシュレッダーも導入し、安定した量を確実にリサイクルしていきたい。」と伺いました。また、環境事業部の花田さんは「はじめのうちはトラブルもありましたが半年くらいかけて、クロダリサイクル様と協力体制をつくり上げました。」とネットワーク構築の重要性を説きます。

フォーカス2 資源循環型社会の構築CSR長期ビジョン 柱2

「資源循環の環」におけるセメント産業の役割

リサイクルネットワークの構築

ASRのリサイクルにおける課題

車社会の難題を解決するセメント

ASRの性状

樹脂33%

ウレタン16%

繊維15%ゴム7%

木材3%

紙2%

鉄8%

非鉄金属4%ワイヤーハーネス5%ガラス7%

出典:産構審 自動車リサイクルWG資料(平成15年5月)

 自動車リサイクルを推進する上で、ASRの再資源化は、大きな課題でした。法律の施行当初からサーマルリカバリーを中心にリサイクルをしてきましたが、現在は、セメント化の実現によりASRを製品原料にリサイクルできるようになってきました。塩素や重金属対応などリサイクル施設として技術的な改善を太平洋セメントには、ぜひ取り組んでいってもらいたいと思っています。今後とも、自動車メーカーとして、ASRからの金属、樹脂などの資源循環を継続的に取り組んでいきますが、その中でも最終残さ物の資源化を担っていただけるセメント業界は、今後とも重要なパートナーと考えています。また、資源循環型社会の構築を考えた場合、保管・運搬などロジスティック全般を構築する必要も強く認識しており、船舶も含めた物流のインフラが整備されたセメント業界は、リサイクルネットワークの観点でも魅力があると感じています。

VOICEASR%20

上磯工場に搬入されたASR

燃料やセメント原料としてキルンへ

破砕業者にてシュレッダーで破砕後、金属とASRに分離されます。

ASRとは

 自動車の解体は、まずエンジンなど中古部品として使えるものや分別可能なものを取り出し、最後に残った廃車ガラを細かく粉砕して金属類を取り除きます。そこで残ったものがASRです。自動車のリサイクル率は重量比で約80%、残りの20%が ASR で、プラスチックなど様々な材質が混じっているので分別が難しく、ほとんどの ASR が埋立て処分されてきました。

(Automobile Shredder Residue)自動車破砕残さ

 自動車リサイクルで発生するASRは、工場搬入後、確認などをしたうえで保管施設に保管(防塵・臭気対策等)します。その後、適正な調整をしたうえで燃料や、セメント原料として利用されます。

太平洋セメントの工場平均

95% 自動車リサイクル法40%以上

製鉄所 B77% 焼却溶融

施設A49%

※ASR 投入施設活用率施設内でエネルギーや原材料として利用されたASR を統合的に評価するために自動車リサイクル法で算定方法が定められている指標。投入された量と資源として回収された量から算出。図中の焼却溶融施設 A と製鉄所 B のデータは Web サイトで公表されているデータを収集したもので、ある事例を代表しているものではありません。

AS Rからセメントへ

■ASR 投入施設活用率※

TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 201112

Page 2: CSR長期ビジョン 柱2 資源循環型社会の構築 車社会 …...CSR長期ビジョン 柱2 「資源循環の環」におけるセメント産業の役割 リサイクルネットワークの構築

[ART] 自動車破砕残さリサイクル促進チーム 総括(日産自動車株式会社)佐藤 康典氏

 近年、資源循環に大きな関心が寄せられています。1993年の環境基本法の制定以来、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、循環型社会形成推進基本法、食品リサイクル法、自動車リサイクル法が成立し資源循環が促されています。この背景には、膨大に発生する廃棄物に対して、最終処分場の確保が困難になってきたことと不法投棄が増大してきたことがあります。 自動車のリサイクルでは、シュレッダーダスト(ASR)をリサイクルすることが困難で、車両リサイクル率が80%程度にとどまっていました。2005年1月に施行された自動車リサイクル法により、フロン類、エアバック類、ASRの引き取りとリサイクル・適正処理が自動車メーカーなどに義務付けられました。これにより2009年度には車両リサイクル率が約95%に向上しました。しかし、金属などの資源回収後に最終残さとして残るASRについてはそれでもマテリアルリサイクルが技術的・経済的に容易ではないものであったことから年間約14万トンが単純焼却や埋め立て処分されていました。このASRをセメントの原燃料として利用を進めることで、「再生利用」(マテリアルリサイクル)および「熱回収」を可能としリサイクル率の大幅な向上につなげることができました。

 ASRをセメント原燃料としてリサイクルするためには、いくつかの課題がありました。上磯工場業務部の坂部さんは「ASRには塩素が含まれ、それが製造工程に悪影響を及ぼすので克服しなければなりませんでした。塩素バイパスによってこの塩素を工程から抽出することで解決を図りました。」と改善策を説明します。また、「ASRはプラスチック、ウレタン、ワイヤーなどが混在しているためハンドリングが悪く安定処理が課題でした。また、成分面では塩素が入っており、セメント成分に支障が出ないようにきめ細かな製造管理を行なっています。」と上磯工場製造部の大永さんが管理に

よる取り組みを指摘します。また、様々な課題の解決を通じて「ASR受け入れを契機に施した対策は、今後、様々な廃棄物由来の副産物を受け入れることのできる対応力を強化することになった。」と、循環型社会の構築により積極的に貢献できる可能性についても前出の坂部さんは話しています。

 ASRの処理に関しては、自動車リサイクル法に則った処理が義務付けられています。上磯工場はリサイクル施設として登録され、破砕業者で発生したASRを受け入れています。マテリアルリサイクルを適正に推進するためには、上磯工場内での処理だけではなく、前処理の破砕業者とも協力して適正なリサイクル

を回す必要 があります。上磯工場への搬入を行なってい る株式会社クロダリサイクルの佐野邦光氏からは「2004年に使用済自動車処理をはじめましたが、北海道という地域特性もあり、ASRは埋め立て処分を前提としていました。ASRの再資源化のため、2008年からは、上磯工場でのセメント原燃料化をはじめました。セメント原燃料化に対応するための徹底した分別や置場の管理などの施策は、従業員の意識向上にもつながり、業務レベルの向上にも役立っています。2011年には新たなシュレッダーも導入し、安定した量を確実にリサイクルしていきたい。」と伺いました。また、環境事業部の花田さんは「はじめのうちはトラブルもありましたが半年くらいかけて、クロダリサイクル様と協力体制をつくり上げました。」とネットワーク構築の重要性を説きます。

フォーカス2 資源循環型社会の構築CSR長期ビジョン 柱2

「資源循環の環」におけるセメント産業の役割

リサイクルネットワークの構築

ASRのリサイクルにおける課題

車社会の難題を解決するセメント

ASRの性状

樹脂33%

ウレタン16%

繊維15%ゴム7%

木材3%

紙2%

鉄8%

非鉄金属4%ワイヤーハーネス5%ガラス7%

出典:産構審 自動車リサイクルWG資料(平成15年5月)

 自動車リサイクルを推進する上で、ASRの再資源化は、大きな課題でした。法律の施行当初からサーマルリカバリーを中心にリサイクルをしてきましたが、現在は、セメント化の実現によりASRを製品原料にリサイクルできるようになってきました。塩素や重金属対応などリサイクル施設として技術的な改善を太平洋セメントには、ぜひ取り組んでいってもらいたいと思っています。今後とも、自動車メーカーとして、ASRからの金属、樹脂などの資源循環を継続的に取り組んでいきますが、その中でも最終残さ物の資源化を担っていただけるセメント業界は、今後とも重要なパートナーと考えています。また、資源循環型社会の構築を考えた場合、保管・運搬などロジスティック全般を構築する必要も強く認識しており、船舶も含めた物流のインフラが整備されたセメント業界は、リサイクルネットワークの観点でも魅力があると感じています。

VOICEASR%20

上磯工場に搬入されたASR

燃料やセメント原料としてキルンへ

破砕業者にてシュレッダーで破砕後、金属とASRに分離されます。

ASRとは

 自動車の解体は、まずエンジンなど中古部品として使えるものや分別可能なものを取り出し、最後に残った廃車ガラを細かく粉砕して金属類を取り除きます。そこで残ったものがASRです。自動車のリサイクル率は重量比で約80%、残りの20%が ASR で、プラスチックなど様々な材質が混じっているので分別が難しく、ほとんどの ASR が埋立て処分されてきました。

(Automobile Shredder Residue)自動車破砕残さ

 自動車リサイクルで発生するASRは、工場搬入後、確認などをしたうえで保管施設に保管(防塵・臭気対策等)します。その後、適正な調整をしたうえで燃料や、セメント原料として利用されます。

太平洋セメントの工場平均

95% 自動車リサイクル法40%以上

製鉄所 B77% 焼却溶融

施設A49%

※ASR 投入施設活用率施設内でエネルギーや原材料として利用されたASR を統合的に評価するために自動車リサイクル法で算定方法が定められている指標。投入された量と資源として回収された量から算出。図中の焼却溶融施設 A と製鉄所 B のデータは Web サイトで公表されているデータを収集したもので、ある事例を代表しているものではありません。

AS Rからセメントへ

■ASR 投入施設活用率※

TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 2011 13