cw6 a5370d322 m · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ...

14
2012 年の欧州経済は、金融市場における危機感が 一服した一方、実体経済では、財政健全化のための歳 出削減や増税、高失業率によって、企業や家計のマイ ンドが悪化し、生産活動や消費行動を下押しした。更 に重債務を抱えるユーロ圏周縁国のみならず、けん引 役のドイツをはじめ、比較的健全な財政状況にある国 においても、秋以降生産の低下傾向が続いた。 経済の回復が当初の予想よりも遅れる中、ユーロ圏 においては、金融および財政の安定化に向けた取組の みならず、経済成長と雇用促進の重要性が再認識され ている。以下、ユーロ圏経済および政策対応について 概観する。 欧州 2011 年秋に、ギリシャの債務問題に対する懸念に 端を発し、巨額の政府債務残高を保有するイタリアや、 住宅バブルの後遺症で金融機関が多額の不良債権を抱 えるスペインに対して国債の返済能力に対する市場の 懸念が高まり、銀行が貸出しを縮小するなど、金融市 場は緊張した。これに対し、EU・ユーロ圏当局は、 債務問題を払拭し金融市場の動揺を収めるための調整 を相次いで実施 191 し、2012 年春にはひとまず金融市 場の緊張は沈静化した。 しかし、2012 年 5 月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し た。格付け機関による各国に対する評価の下方修正(第 Ⅲ-2-2-3 図)も影響し、10 年物国債利回りはスペイ ンで最大 7%台後半、イタリアで最大 6%台後半を記 録するなど、ユーロ圏周縁国では国債利回りが軒並み 高騰し、資金調達環境が更に悪化することとなった。 加盟国の財政の悪化により、銀行が保有する国債の 価値が低下し、銀行の財務状況が悪化したり(ギリ シャ)、逆に銀行が抱える問題の大きさから当該国の 国債利回りが上昇し国の資金調達環境が悪化する(ア イルランド、キプロス)、といった金融部門と国の財 政との悪循環をたちきるため、ユーロ圏では金融部門 をはじめとする経済枠組みをより強化することに合 192 し、銀行監督一元化等の具体的な枠組みの策定 に向けた取組が進められた。また 9 月の ECB(欧州 中央銀行)による新たな国債購入スキーム(OMT) の発表や、10 月の ESM(欧州安定メカニズム)発足 1.金融市場の動向 アイルランド ギリシャ イタリア ポルトガル スペイン (年月日) 0 10 15 20 25 30 35 40 5 (%) 2011 年 1月 2012 年 1月 2012 年 7月 2011 年 7月 2013 年 1月 11.37 5.85 4.30 4.06 3.64 備考:数値は 2013 年 4 月 25 日のもの。10 年物国債利回り。 資料:Thomson Reuters Eikon から作成。 -2-2-1 図 ユーロ圏周縁国長期国債利回り推移 (%) イタリア スペイン 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 2012 年 3 月 2012 年 6 月 2012 年 9 月 2012 年 12 月 2013 年 3 月 (年月日) 3.915 4.159 備考:数値は 2013 年 4 月 29 日のもの。10 年物国債利回り。 資料:Thomson Reuters Eikon から作成。 -2-2-2 図 イタリア・スペイン長期国債利回り推移 191 ECB(欧州中央銀行)による大規模な長期資金供給(2011 年 12 月、2012 年 2 月)、ギリシャに対する二次支援の合意(2012 年 2 月)、銀 行の資本増強(2012 年6 月末までに中核的自己資本比率を9%に引き上げる。)、危機対応資金の規模拡大(ESM(欧州安定メカニズム) の設立の前倒しに合意(2011 年 12 月)、IMF の融資能力拡大(2011 年 12 月、2012 年 4 月等))。 192 2012 年 6 月欧州理事会 236 2013 White Paper on International Economy and Trade 第2章 主要国・地域の動向

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Page 1: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

 2012 年の欧州経済は、金融市場における危機感が一服した一方、実体経済では、財政健全化のための歳出削減や増税、高失業率によって、企業や家計のマインドが悪化し、生産活動や消費行動を下押しした。更に重債務を抱えるユーロ圏周縁国のみならず、けん引役のドイツをはじめ、比較的健全な財政状況にある国

においても、秋以降生産の低下傾向が続いた。 経済の回復が当初の予想よりも遅れる中、ユーロ圏においては、金融および財政の安定化に向けた取組のみならず、経済成長と雇用促進の重要性が再認識されている。以下、ユーロ圏経済および政策対応について概観する。

欧州第2節

 2011 年秋に、ギリシャの債務問題に対する懸念に端を発し、巨額の政府債務残高を保有するイタリアや、住宅バブルの後遺症で金融機関が多額の不良債権を抱えるスペインに対して国債の返済能力に対する市場の懸念が高まり、銀行が貸出しを縮小するなど、金融市場は緊張した。これに対し、EU・ユーロ圏当局は、債務問題を払拭し金融市場の動揺を収めるための調整を相次いで実施 191し、2012 年春にはひとまず金融市場の緊張は沈静化した。 しかし、2012 年 5 月以降年央にかけて、ギリシャの財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張した。格付け機関による各国に対する評価の下方修正(第Ⅲ-2-2-3 図)も影響し、10 年物国債利回りはスペイ

ンで最大 7%台後半、イタリアで最大 6%台後半を記録するなど、ユーロ圏周縁国では国債利回りが軒並み高騰し、資金調達環境が更に悪化することとなった。 加盟国の財政の悪化により、銀行が保有する国債の価値が低下し、銀行の財務状況が悪化したり(ギリシャ)、逆に銀行が抱える問題の大きさから当該国の国債利回りが上昇し国の資金調達環境が悪化する(アイルランド、キプロス)、といった金融部門と国の財政との悪循環をたちきるため、ユーロ圏では金融部門をはじめとする経済枠組みをより強化することに合意 192し、銀行監督一元化等の具体的な枠組みの策定に向けた取組が進められた。また 9月の ECB(欧州中央銀行)による新たな国債購入スキーム(OMT)の発表や、10 月の ESM(欧州安定メカニズム)発足

1.金融市場の動向

アイルランドギリシャ

イタリアポルトガル

スペイン

(年月日)0

10

15

20

25

30

35

40

5

(%)

2011 年1月

2012 年1月

2012 年7月

2011 年7月

2013 年1月

11.375.854.304.063.64

備考: 数値は 2013 年 4 月 25 日のもの。10 年物国債利回り。資料: Thomson Reuters Eikon から作成。

第Ⅲ-2-2-1 図 ユーロ圏周縁国長期国債利回り推移

(%)

イタリアスペイン

3.5

4.0

4.5

5.0

5.5

6.0

6.5

7.0

7.5

8.0

2012 年 3 月 2012 年 6 月 2012 年 9 月 2012 年 12 月 2013 年 3 月(年月日)

3.9154.159

備考: 数値は 2013 年 4 月 29 日のもの。10 年物国債利回り。資料: Thomson Reuters Eikon から作成。

第Ⅲ-2-2-2 図 イタリア・スペイン長期国債利回り推移

191 ECB(欧州中央銀行)による大規模な長期資金供給(2011 年 12 月、2012 年 2 月)、ギリシャに対する二次支援の合意(2012 年 2 月)、銀行の資本増強(2012 年 6 月末までに中核的自己資本比率を 9%に引き上げる。)、危機対応資金の規模拡大(ESM(欧州安定メカニズム)の設立の前倒しに合意(2011 年 12 月)、IMFの融資能力拡大(2011 年 12 月、2012 年 4 月等))。

192 2012 年 6 月欧州理事会

236 2013 White Paper on International Economy and Trade

第2章 主要国・地域の動向

Page 2: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

 ユーロ圏では、財政健全化に向けた取組により、2010 年以降財政状況が改善した国が多い(第Ⅲ-2-2-5 図)一方で、需要は減退し、長引く雇用環境の悪化や不透明な経済見通しと相まって、経済が低迷している。 2012 年第 4四半期のユーロ圏の実質GDP成長率

は、季節調整済み前期比 -0.6%と、5四半期連続のマイナスを記録した。需要項目別に見ると、個人消費、政府消費、設備投資の内需が、引き続き前期比で減少したほか、2010 年第 2四半期以降堅調に拡大していた域外純輸出も、輸出の減少により前期からの増加が0.1%にとどまり、GDPを押し上げることができな

2.GDP の動向

など前向きな政策対応が相次いだことを背景に、金融市場は安定し、国債利回りが低下した(第Ⅲ-2-2-1 図、

Ⅲ-2-2-2 図)。またユーロ圏の総合的な経済信頼感は11 月以降 4か月連続で改善した(第Ⅲ-2-2-4 図)。

S M F イタリア スペイン アイルランド ポルトガル ギリシャ キプロス

高い AAA Aaa AAA

AA Aa1、Aa2、Aa3 AA

A A1、A2、A3 A S M FM F

S M F

S M F S M

S M

F

F

M

S F

S

M

S FS M FBBB Baa1、Baa2、Baa3 BBB

BB Ba1、Ba2、Ba3 BB

B B1、B2、B3 B

CCC Caa1、Caa2、Caa3 CCC

CC Ca、C CC

低い C

〈長期信用格付けの定義(主要3社)〉

信用力

投機的

第Ⅲ-2-2-3 図 主要格付け 3社によるユーロ圏重債務国格付けの推移(2012 年 3月→ 2013 年 3月)

備考: ・S: スタンダード&プアーズ、M:ムーディーズ、F:フィッチによる、長期国債格付け。   ・3社の格付け定義の比較は、各社HPの記述を参考に作成。   ・ ギリシャは 2012 年 3 月時点では民間債務交換の実施が決定していたことから、S&P は同国長期信用格付けに対

し「選択的債務不履行」の評価をしていたが、同時に民間債務交換完了後に CCCに格上げする方針を表明していたことから、CCCに格上げした 5月 2日時点を比較対象(1年前)とする。

資料: Thomson Reuters Eikon、スタンダード&プアーズ、ムーディーズ、フィッチ各社のウェブサイトから作成。

2009

ユーロ圏 ドイツ フランス イタリア スペイン

ポルトガル ギリシャ キプロス 英国

2010 201320122011 (年月)

60

70

80

90

100

110

120(季調済指数、(1990 以降平均)=100)

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4

第Ⅲ-2-2-4 図 ユーロ圏諸国と英国の景況感 (ESI)

備考: アイルランドの数値は非公表。資料: 欧州委「Economic Sentiment Indicator (ESI)」、CEIC データベースか

ら作成。

第2章

第Ⅲ部

通商白書 2013 237

第2節欧州

Page 3: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

かった(第Ⅲ-2-2-6 図)。2012 年通年の実質GDP成長率は、前年比 -0.6%と減少に転じた。 国別では、2012 年に入り堅調に推移していたドイツが、輸出の減少により第 4四半期にマイナス成長に陥ったほか、第 4四半期にはフランス、オランダなど主要国がことごとくマイナス成長を記録した。スペイン、イタリア、ポルトガル等重い債務を抱える周縁国は、2011 年半ば以降、著しく低下している(第Ⅲ-2-2-7 図、第Ⅲ-2-2-8 表)。

第Ⅲ-2-2-5 図 ユーロ圏諸国の財政収支の推移

-35

ユーロ参加条件(GDP比3%以内)

2008 2009 2010 2011 2012

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

5(GDP 比、%)

フランス ドイツ イタリア スペイン ギリシャアイルランド ポルトガル キプロス 英国

資料: Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-6 図ユーロ圏の実質GDP成長率及び需要項目別寄与度の推移

201320081Q 1Q

▲0.2

20132Q 3Q 4Q

20091Q 2Q 3Q 4Q

20101Q 2Q 3Q 4Q

20111Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q

2012 (年期)

-3

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

-2

-2.5

-1.5

(季調済前期比、%)

GDP

在庫等純輸出固定資本形成政府消費個人消費

資料:CEIC データベース(Eurostat)から作成。

第Ⅲ-2-2-7 図ユーロ圏諸国と英国の実質GDPの推移

1Q 1Q 1Q 1Q3Q 1Q 3Q 3Q3Q3Q

2008 2009 2010 2011 2012 (年期)

90

102

100

98

96

94

92

(指数、2008Q1=100、季調済)

フランス ドイツ イタリアユーロ圏スペイン

ポルトガル

ギリシャ

英国 キプロス

アイルランド

備考: ギリシャは 2011 年 Q2 以降、季節調整後の数値が未公表。資料: Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-8 表 ユーロ圏諸国と英国の実質GDP成長率の推移

(季調済み、前期比、%)

2011 年 2012 年 (参考)1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q GDP(実額) ソブリン格付け

ユーロ圏 0.6 0.2 0.1 ▲ 0.3 ▲ 0.1 ▲ 0.2 ▲ 0.1 ▲ 0.6 2,126,437 AA+、Aa1、AAAドイツ 1.2 0.5 0.4 ▲ 0.1 0.5 0.3 0.2 ▲ 0.6 615,756 AAAフランス 0.8 0 0.2 0.1 ▲ 0.1 ▲ 0.1 0.2 ▲ 0.3 449,453 AAA、AA+、Aa1オランダ 0.5 -0.1 ▲ 0.2 ▲ 0.6 0.1 0.2 ▲ 1.0 ▲ 0.4 136,524 AAAベルギー 0.8 0.2 0.0 ▲ 0.1 0.2 ▲ 0.5 0.0 ▲ 0.1 81,681 AA~Aa3オーストリア 0.6 0.3 0.0 0.2 0.4 0.1 0.1 ▲ 0.1 67,920 AAA~AA+フィンランド 0.2 0.3 0.7 0.1 0.4 -1.3 0.1 -0.5 41,765 AAAルクセンブルク 0.4 -0.5 0.6 ▲ 0.5 0.0 0.5 ▲ 0.5 1.6 8,548 AAAイタリア 0.1 0.3 -0.1 -0.8 -0.9 -0.7 -0.2 -0.9 344,151 BBB+、Baa2スペイン 0.3 0.2 0 -0.5 -0.4 -0.4 -0.3 -0.8 232,592 BBB-、Baa3、BBBアイルランド 0.5 2.1 ▲ 0.6 0.9 ▲ 0.3 0.7 ▲ 0.4 0.0 42,545 BBB+、Ba1ポルトガル -0.9 -0.1 ▲ 0.5 ▲ 1.6 ▲ 0.1 ▲ 1.0 ▲ 0.9 ▲ 1.8 37,002 BB、Ba3、BB+キプロス 0.2 0.1 ▲ 0.8 ▲ 0.1 ▲ 0.7 ▲ 0.9 ▲ 0.6 ▲ 1.1 3,707 CCC+、Caa3、Bギリシャ※ -8.8 -7.9 ▲ 4.0 ▲ 7.9 ▲ 6.7 ▲ 6.4 ▲ 6.7 ▲ 5.7 40,737 B-、C、CCC

英国 0.5 0.1 0.6 -0.1 -0.1 -0.4 0.9 -0.3 481,950 AAA、Aa1備考 1:ギリシャの数値は、前年同期比、季節調整前。備考 2:実額は、2012 年 4Qの数値(10 億ユーロ)。備考 3: 格付けは、主要 3社(S&P 社、ムーディーズ、フィッチ)による(4月 12 日時点)。下線は「投機的」

とみなされる。資料:Eurostat から作成。

238 2013 White Paper on International Economy and Trade

第2章 主要国・地域の動向

Page 4: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

 ユーロ圏の鉱工業生産は、2009 年前半を底として2010 年まで緩やかな回復を続けたあと、2011 年には欧州債務危機の深まりによって停滞した。2012 年の秋口には、新興国における景気減速や米国の生産活動の低迷を背景に減少し、世界経済危機以前のピーク時を約 15%下回った水準で推移している。 国別に見ると、ドイツは 2009 年以降順調に回復していたものの、2012 年には自動車分野をはじめとする生産の落ち込みが影響し、9月以降減少している。

他方南欧諸国は、回復のペースが元々鈍かった上に、2012 年に入り軒並み減少傾向に転じており、スペインとポルトガルが既に 2009 年の水準を下回っているほか、イタリアとフランスも 2009 年の水準に近づきつつある(第Ⅲ-2-2-9 図)。 なお、製造業企業の景況感は、EU当局の政策対応により金融市場が安定した 2012 年秋以降、改善していたが、キプロス支援をめぐる混乱等を背景に、足下で悪化している(第Ⅲ-2-2-10 図)。

3.生産

 ユーロ圏の失業率は、2012 年 4 月に 11.1% 193とユーロ導入以来最悪の水準を記録したが、その後も緩やかに悪化を続けており、2013 年 2 月には 12.0%を記録した(第Ⅲ-2-2-11 図)。また 24 歳以下の若年層の失業率は更に高く、2013 年 1 月には 24.0%に達している(第Ⅲ-2-2-12 図)。 国別に見ると、ギリシャ及びスペインでは 2011 年半ば以降悪化の一途を辿っており、労働者の 4人に一人が職の無い状態にある 194ほか、ポルトガルとキプロスも 2011 年半ば以降、著しい悪化が続いている。また、スペインの失業者数の多さが突出している(第

Ⅲ-2-2-13 図)。一方、ドイツの雇用環境は 2012 年に入り改善が続いており、東西ドイツ統一後の最低水準で推移している。

4.雇用

10 10 10 10 10

ドイツユーロ圏 イタリアフランス スペインアイルランド ポルトガル ギリシャ 英国

(年月)

70

9095100105110115120

858075

(季調済、指数(2005 年1月=100))

2008 2010 20112009 2012 20131 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

資料: Eurostat から作成。

(年月)

-45

-10-50510

-20-15

-30-25

-40-35

(季調済、%)

製造業信頼感指数長期平均 (-7.0)

20081 4 7 10 10 10 10 101 4 7 1 4 7 1 4 7 1 4 7 1 4

2010 20112009 2012 2013

消費財非耐久消費財 食品・飲料 製造業

中間財 投資財 耐久消費財

備考: 受注状況、在庫状況、生産見通しに関するアンケート回答に基づく業種別信頼感指数。

資料: 欧州委員会「Industry / Business Climate Indicator (BCI)」から作成。

第Ⅲ-2-2-9 図 ユーロ圏諸国と英国の鉱工業生産推移 第Ⅲ-2-2-10 図 ユーロ圏の企業景況感(製造業)第2章

第Ⅲ部

193 季節調整済み。194 ギリシャの失業率は 2013 年 1 月時点で 27.2%、スペインは 2013 年 3 月時点で 26.7%に達した。

通商白書 2013 239

第2節欧州

Page 5: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

第Ⅲ-2-2-12 図ユーロ圏諸国と英国の若年失業率の推移

10 10 10 10 10

(年月)

0

40

50

60

70

30

20

10

(季調済、%)

1 10 1 10 1 10 1 10 1 10 14 74 74 74 74 7

59.1

55.9

38.4

38.3 32.330.326.524

20.7

7.6

2008 2010 20112009 2012 2013

ドイツユーロ圏 イタリアフランス スペインアイルランド ポルトガル ギリシャ キプロス英国

備考: 15~24 才の失業率。数値は、英国、ギリシャは 2013 年 1 月、その他は 2013 年 3 月。

資料: CEIC データベース(Eurostat)から作成。

(年月)

3

15

18

24

21

27

30

12

9

6

(季調済、%)

ドイツユーロ圏 イタリアフランス スペインアイルランド ポルトガル ギリシャ キプロス英国

27.2

26.7

17.5

14.214.1

12.111.5

5.4

7.8

11

2008 2010 20112009 2012 201310 10 10 10 101 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4

備考: 数値は、英国、ギリシャは 2013 年 1 月、その他は 3月。資料: CEIC データベース(Eurostat)から作成。

第Ⅲ-2-2-11 図 ユーロ圏諸国と英国の失業率の推移

0

1

2

3

4

5

6

7

0

5

10

15

20

25

30

失業者数 3 月失業率 3 月(右軸)

(百万人) (%)

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

アイルランド

ポルトガル

ギリシャ

キプロス

その他ユーロ圏

英国

備考: 英国、ギリシャは 1月の数値。資料: CEIC データベース(Eurostat)から作成。

第Ⅲ-2-2-13 図 ユーロ圏諸国と英国の失業者数(3月)

240 2013 White Paper on International Economy and Trade

第2章 主要国・地域の動向

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 ユーロ圏の域外向け輸出は、世界経済危機以降、ユーロ安の進行による輸出競争力の向上や中国等の新興国需要に支えられ、2009 年を底に大幅に回復し、2011年には世界経済危機以前のピークを大きく上回る水準に達した。但し 2011 年秋に伸びが鈍化し、2012 年秋には、新興国における景気減速や米国の生産活動の低迷を背景に減少した。また、輸入については、やはり2011 年には世界経済危機以前のピークを上回る水準

まで回復していたが、2012 年に入り、重債務を抱える周縁国を中心とした緊縮政策の実施と、景気低迷を背景としたユーロ圏内の需要減退から、緩やかながら低下している。貿易黒字は拡大した(第Ⅲ-2-2-15 図)。 輸出について国別に見ると、ドイツは自動車と機械類 195に支えられ、2009 年以降堅調に回復していたが、2011 年後半から伸びが停滞しており、2012 年は数量ベースで前年比 0.1%増にとどまった。ギリシャは2010 年後半から石油製品が著しく伸びているほか、ポルトガルは中国やアフリカ向けの機械類と自動車等の伸びによって大きく拡大、更にスペインも機械類や衣料品等の伸びによって回復傾向にある(第Ⅲ-2-2-16 図)。他方、イタリア、フランスおよびアイルランドについては、ユーロ圏内向けが低迷しているだけでなく、ユーロ圏外向けの伸びも低い(第Ⅲ-2-2-17 図、第Ⅲ-2-2-18 図)。 ユーロ安に加え、労働コストの低下を背景に価格競争力が向上した南欧諸国をはじめとして、各国はユーロ圏外向けの輸出割合を拡大しているものの、輸出額の半分近くを占めるユーロ圏の需要の減退が、特にドイツ、フランス、イタリアといった主要国の輸出を下

6.貿易

 債務問題の長期化により欧州ならびにユーロ圏の経済が低迷する中、物価上昇圧力は和らいでおり、ユーロ圏の消費者物価指数は、2013 年 2 月、消費者物価指数の上昇率は前年比 1.8%と、2010 年 11 月以降初めて、欧州中央銀行(ECB)が目標としているインフレ水準(2%をやや下回る水準)に達した(第Ⅲ-2-2-14 図)。

5.消費者物価指数

10 10 10 10 10

ドイツユーロ圏(全品目) イタリアフランス スペイン

ユーロ圏(コア物価)アイルランド ポルトガル ギリシャ 英国キプロス

(年月)

-3

1

2

3

4

6

5

0

-1

-2

(前年比、%)

20081 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

2010 20112009 2012 2013

第Ⅲ-2-2-14 図ユーロ圏諸国と英国の消費者物価上昇率の推移

備考: 各国数値は全品目が対象。コア物価は、食料、たばこ、アルコール、エネルギーを除く。英国は 2013 年 2 月まで、その他は 2013 年 3 月までのデータ。

資料: Eurostat から作成。

資料: Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-15 図 ユーロ圏の貿易収支推移

10 10 10 10 10 10

201320071 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

201320092008 2010 2011 2012 (年月)

40

120

140

160

180

-12

8

-8

4

-4

0

12

16

80

60

100

(10 億ユーロ、季調済)

輸入(域外)輸出(域外)域外貿易収支(右軸)

第2章

第Ⅲ部

195 Global Trade Atlas より。

通商白書 2013 241

第2節欧州

Page 7: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

第Ⅲ-2-2-16 図 ユーロ圏諸国と英国の輸出の推移(対世界)

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 160

80

100

120

140

160

180

200

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 12008 2009 2010 2011 2012 2013

(季調済数量指数、2000 年=100)

(年月)

ドイツ英国

フランスアイルランド

イタリアポルトガル

スペインギリシャ

資料: Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-17 図ユーロ圏諸国と英国の輸出の推移(対ユーロ圏)

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 160

80

100

120

140

160

180

200

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 12008 2009 2010 2011 2012 2013

(季調済数量指数、2000 年=100)

(年月)

ドイツ英国

フランスアイルランド

イタリアポルトガル

スペインギリシャ

資料: Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-18 図ユーロ圏諸国と英国の輸出の推移(対ユーロ圏外)

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 160

80

100

120

140

160

180

200

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 12008 2009 2010 2011 2012 2013

(季調済数量指数、2000 年=100)

(年月)

ドイツ英国

フランスアイルランド

イタリアポルトガル

スペインギリシャ

資料: Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-19 図ユーロ圏諸国と英国の輸出の伸び(2012/2008)

0

-40

-20

60

80

100

120

140(%)

40

20

域内向け輸出額域内向け輸出量域外向け輸出額域外向け輸出量

ドイツ

フランス

イタリア

英国

スペイン

アイルランド

ポルトガル

ギリシャ

キプロス

備考: 域内:ユーロ圏内、域外:ユーロ圏外。資料: Eurostat から作成。

2008 2012ドイツ 42.9% 37.6%

フランス 50.2% 46.6%

イタリア 44.5% 40.8%

スペイン 57.1% 51.7%

アイルランド 40.8% 38.8%

ポルトガル 64.5% 61.2%

ギリシャ 44.5% 28.9%

キプロス 53.2% 45.8%

英国 49.9% 44.4%

備考:各国の輸出額(ユーロ)のうちユーロ圏向けが占める割合。資料:Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-20 表 ユーロ圏向け輸出が占める割合

242 2013 White Paper on International Economy and Trade

第2章 主要国・地域の動向

Page 8: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

押ししており、ユーロ圏経済の冷え込みの要因となっている(第Ⅲ-2-2-19 図、第Ⅲ-2-2-20 図)。 輸入について国別に見ると、2012 年は、長引く景気低迷を背景に、ドイツとフランスがともに数量ベースで前年比 -3%、イタリアが同 -9%と大きく落ち込

んだ(第Ⅲ-2-2-21 図)。また輸入元については、多くの国からの輸入が 2008 年に比べ低下しているが、特に日本からの輸入は、円高を背景に著しく落ち込み、数量のみならず実額も 15%以上低下した。

 ユーロ圏の 2012 年の設備投資は、前年比 -4.1%と顕著に減少した(第Ⅲ-2-2-25 表)。 重債務を抱えるユーロ圏周縁国では、不透明な経済見通し、需要の低迷、資金調達環境の厳しさ等を背景として、2011 年以降大幅に減少している(第Ⅲ-2-2-26 図)。特に厳しい財政緊縮措置が進められているギ

リシャでは、2010 年以降毎年 15%以上減少しているほか、不動産・住宅バブル後のバランスシート調整を抱えるスペインをはじめ、南欧諸国では需要の減退と銀行の貸出金利の高止まりにより、2012 年の減少幅が前年よりも拡大した。他方、アイルランドはスペインと同様にバランスシート調整を抱え、2010 年・

7.設備投資の動向

輸入元 伸び(2008 年比) 実額ユーロ圏 1.6% 1565

中国 15.5% 214

英国 1.7% 168

アフリカ 11.1% 157

米国 9.7% 150

ロシア 16.2% 143

日本 -15.6% 48

ブラジル 2.7% 31

インド 26.6% 28

韓国 -6.3% 27

備考:実額の単位は 10 億ユーロ。資料:Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-22 図ユーロ圏の輸入推移(輸入元・数量)

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1

2013(年月)

(季調済数量指数、2000 年=100)

50

70

90

110

130

150

170

190

210

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

200

250

300

350

400

450

500

ユーロ圏 米国 英国 日本ロシア中国(右軸) インド(右軸)

ブラジル 韓国 アフリカ

備考: 後方 3ヶ月移動平均。資料: Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-21 図ユーロ圏諸国と英国の輸入の推移(対世界)

ドイツ フランス イタリア スペイン英国 アイルランド ポルトガル ギリシャ

2008 20091 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 15 9

201220112010 2013(年月)

60

100

110

120

130

140

150

80

90

70

(季調済数量指数、2000 年=100)

資料: Eurostat から作成。

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1

2013

(季調済、10 億ユーロ)

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

0

50

100

150

200

250

ユーロ圏 米国 中国韓国 アフリカロシア ブラジル インド

英国 日本

(年月)

資料: Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-23 表 ユーロ圏の輸入額(2012 年) 第Ⅲ-2-2-24 図 ユーロ圏の輸入推移(輸入元・実額)

第2章

第Ⅲ部

通商白書 2013 243

第2節欧州

Page 9: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

2011 年に大幅な減少を見せていたが、2012 年には底打ちの兆しが見られ、小幅ながら前年よりも増加した。 ドイツは 2009 年以降 2011 年まで堅調に回復してきたが、2012 年には輸出受注の低下等を背景として前年比 -2.5%と減少に転じた。また緩やかな回復基調に

あったフランスは 2012 年にはゼロ成長となった。両国における企業の資金調達コストは歴史的な低水準にあり、南欧諸国と異なり企業は有利な資金環境にあると言えるが、域内需要の低迷と不透明な経済見通しが設備投資意欲を損なっているとみられている 196。

第Ⅲ-2-2-25 表ユーロ圏諸国と英国の設備投資(前年比)

2010 2011 2012ユーロ圏 ▲ 0.4 1.5 ▲ 4.1

ドイツ 5.9 6.2 ▲ 2.5

フランス 1.2 3.5 0.0

イタリア 0.6 ▲ 1.8 ▲ 8.0

スペイン ▲ 6.2 ▲ 5.3 ▲ 8.9

アイルランド ▲ 22.7 ▲ 12.2 0.9

ポルトガル ▲ 3.1 ▲ 10.7 ▲ 14.5

ギリシャ ▲ 15.0 ▲ 19.6 ▲ 19.2

キプロス ▲ 4.9 ▲ 13.1 ▲ 23.0

英国 3.5 ▲ 2.9 1.5

備考:前年比(%)。資料:Eurostat から作成。

第Ⅲ-2-2-26 図ユーロ圏諸国と英国の設備投資の推移

1Q 1Q 1Q 1Q3Q 1Q 3Q 3Q 1Q 3Q3Q3Q

2007 2008 2009 2010 2011 2012 (年月)

40

140

90100110120130

80706050

(季調済指数、2005 年=100)

フランス ドイツ イタリアユーロ圏スペイン

ポルトガル

ギリシャ

英国 キプロス

アイルランド

備考: ギリシャは 2011 年 Q2 以降、季節調整後の数値が未公表。資料: Eurostat から作成。

-80

-40

-20

0

20

40

60

80

100

-4

12

10

8

6

4

2

-2

0

16

14

-60

(10 億ユーロ) (年率、%)

2009 2010 20132012201120052004 2006 20082007 (年月)1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1

保険会社・年金基金その他金融機関家計企業(非金融)家計(残高年率):右軸企業(非金融)(残高年率):右軸

第Ⅲ-2-2-27 図 ユーロ圏銀行の民間向け貸出額の推移

備考: 棒グラフは純取引額。折れ線は残高の前年比。季節調整済み。資料: ECB から作成。

196 European Commission(2013a)

244 2013 White Paper on International Economy and Trade

第2章 主要国・地域の動向

Page 10: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

 なお、銀行貸し出しに対する企業による需要は、固定資本形成の低下等を要因として、2011 年以降大きく落ち込んでいる(第Ⅲ-2-2-27 図、第Ⅲ-2-2-28 図)。

第Ⅲ-2-2-28 図ローン需要(企業向け)の変化と変更要因

 ユーロ圏の民間消費支出は、長引く雇用情勢の悪化や各国における増税措置、不透明な経済見通し等を背景に低迷が続いており、2012 年は前年より 1.3%減少した(第Ⅲ-2-2-29 表)。実質小売売上高は、欧州債務危機が深刻化した 2011 年以降低下が続いており、2012 年は前年よりも減少幅が拡大した(前年比-1.9%)(第Ⅲ-2-2-30 図)。消費者信頼感指数は、2012 年秋以降改善傾向にあるものの、長期平均を下回っている(第Ⅲ-2-2-31 図)。 国別では、高失業率と厳しい資金調達環境を抱えるユーロ圏周縁国は、2011 年以降、家計の消費が大幅

に落ち込んでいる。労働者に手厚い賃金や雇用条件が維持されているフランスでは、賃金の伸びを背景に、小売売上高、個人消費とも比較的堅調に推移している。 各国の自動車販売動向を確認すると、2012 年にはドイツが減少に転じたほか、フランス、イタリア、スペイン、アイルランドは前年比で 10%以上減少した。更にギリシャとポルトガルでは、前年に続き著しく落ち込み、40%を超える減少となった。欧州全体での登録台数は前年より 5.6%の減少となった(第Ⅲ-2-2-32図、第Ⅲ-2-2-33 表)。

8.個人消費の動向

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

2010Q1

2010Q4

2011Q3

2012Q2

2013Q1

2010Q2

2011Q1

2011Q4

2012Q3

2010Q3

2011Q2

2012Q1

2012Q4

2010Q1

2010Q4

2011Q3

2012Q2

2013Q1

2010Q2

2011Q1

2011Q4

2012Q3

(%)

固定資産投資 内部資金調達 銀行以外からの借入れ

在庫

(需要の増加要因となったとの回答が大)

(需要の減少要因となったとの回答が大)

(需要の増減)

過去 3ヶ月需要変動要因 今後 3ヶ月見通し

(年期)

備考: 銀行に対するアンケート調査における、「増加」と「減少」との回答のシェアの差。

資料: ECB「Bank Lending Survey, January2012」から作成。

第Ⅲ-2-2-29 表ユーロ圏諸国と英国の個人消費成長率

2010 2011 2012ユーロ圏 1.0 0.1 ▲ 1.3

ドイツ 0.9 1.7 0.6

フランス 1.5 0.3 0.0

イタリア 1.5 0.1 ▲ 4.2

スペイン 0.7 ▲ 1.0 ▲ 1.9

アイルランド 0.5 ▲ 2.3 ▲ 0.9

ポルトガル 2.5 ▲ 3.8 ▲ 5.6

ギリシャ ▲ 6.2 ▲ 7.7 ▲ 9.1

キプロス 1.5 0.5 ▲ 3.0

英国 1.3 ▲ 0.8 1.2

備考:前年比(%)。資料:Eurostat から作成。

10 10 10 10 10

(年月)

70

80

90

110

100

120

130(季調済指数、2005 年1月=100)

フランスユーロ圏 イタリアドイツ スペインギリシャ アイルランド ポルトガル キプロス英国

2008 2010 20112009 2012 20131 10 1 10 1 10 1 10 1 10 14 74 74 74 74 7

第Ⅲ-2-2-30 図ユーロ圏諸国と英国の小売数量の推移

備考: 自動車販売を除く。資料: Eurostat から作成。

第2章

第Ⅲ部

通商白書 2013 245

第2節欧州

Page 11: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

 ギリシャの財政赤字の過小評価を契機としたユーロ圏における金融市場の混乱は、2012 年 9 月以降、やや落ち着きを取り戻したものの、各国の経済は未だ回復に至らず、EU・ユーロ圏当局による取組も道半ばである。以下、EU・ユーロ圏当局による主な取組を概観する。 まず、各国の財政健全化に向けた、財政と経済政策を監視するための枠組みが整備された(第Ⅲ-2-2-34表)。相次いで合意されたこれらの枠組みに基づいて、2011 年以降、EUによる各国の予算計画や経済政策に対する監視・評価が実施されている。

 2012 年 6 月には、銀行が抱えるリスクの早期発見と介入を可能にするため、各国ごとに実施していた銀行に対する監督と銀行規則を統一する銀行監督メカニズムと、銀行の破たん処理に対応するメカニズムの策定等を内容とする銀行同盟の枠組み策定に向けて取り組むことが合意された。なお銀行同盟はユーロ圏の金融枠組みを強化するためのものであるが、金融面に加えて財政面、経済政策面、政治的側面における統合を通じ、現在の経済通貨同盟(EMU)を更に強化するための報告書が、ファンロンパイ欧州理事会議長により示されている 197。

9.EU・ユーロ圏当局による政策対応

第Ⅲ-2-2-32 図ユーロ圏諸国と英国の新車登録台数推移

20072006 2008 2009 201220112010 (年)0

200

250

300

350

400

450 35

30

25

20

15

10

5

0

100

150

50

(万台) (万台)

ドイツ フランス イタリア スペイン英国欧州全体(10万台:左軸)アイルランド(右軸)

ポルトガル(右軸)ギリシャ(右軸)

備考: 乗用車、トラック、バスの登録台数。資料: マークラインズから作成。

第Ⅲ-2-2-33 表ユーロ圏諸国と英国の新車登録台数の伸び

2010 2011 2012 ドイツ ▲ 21.4 9.5 ▲ 3.2

英国 3.2 ▲ 1.9 3.8

フランス 0.9 ▲ 0.4 ▲ 13.6

イタリア ▲ 10.3 ▲ 10.2 ▲ 20.9

スペイン 3.0 ▲ 17.5 ▲ 15.4

ポルトガル 29.0 ▲ 29.7 ▲ 40.7

アイルランド 47.0 2.5 ▲ 10.5

ギリシャ ▲ 36.0 ▲ 31.6 ▲ 40.2

備考:前年比(%)。乗用車、トラック、バスの登録台数。資料:マークラインズから作成。

備考: 家計状況見通し、経済見通し、貯蓄見通しは、消費者アンケートにおける、「改善する/悪化する」、また「貯蓄する/貯蓄しない」の回答の割合の差。消費者信頼感指数は、上記3指標等による合成指数。

資料: 欧州委員会「Business and Consumer Survey」から作成。

(年月)

-50

-10

0

-20

-30

-40

(季調済、%)

消費者信頼感指数長期平均(-13.2)

1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 1 35 7 9 11

2010 20112009 2012 2013

消費者信頼感指数 家計状況見通し国の経済見通し 貯蓄見通し

第Ⅲ-2-2-31 図 ユーロ圏における消費者の景況感

246 2013 White Paper on International Economy and Trade

第2章 主要国・地域の動向

Page 12: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

 重債務国を支える枠組みとしては、期限付きであったEFSF(欧州金融安定ファシリティ198)に代わる 199

恒久的な救済基金として、ESM(欧州安定メカニズム)が 2012 年 10 月に発足したほか、ECB(欧州中央銀行)は、スペインやイタリア等重債務国の国債利回りの高騰に対応し、2012 年 9 月に新たな国債購入スキーム(OMT)を発表した 200。 こうした取組は、各国の財政及び銀行部門の健全化を図るとともに、必要に応じて支援の実施を可能にす

るものであり(第Ⅲ-2-2-35 図)、金融市場における不安を軽減することに成功し、2012 年 9 月以降、重債務国の国債利回りは低下し(前掲第Ⅲ-2-2-1 図、第Ⅲ-2-2-2 図)、金融市場は安定を取り戻している。 他方、欧州経済は低迷が続き、特に重債務国は需要の低迷から歳入が減少し、更に財政が悪化するという悪循環に陥っていることから、経済成長を重視する政策が打ち出されており、EUは、2012 年 6 月に、EIB(欧州投資銀行)の資本増強等を含む 1200 億ユーロ

第2章

第Ⅲ部

197 Van Rompuy, Herman.(2012)198 2010 年 5 月 EU経済財務理事会合意に基づき設立。融資可能額 4,400 億ユーロ。199 2013 年 6 月までは EFSFと併存する。200 ECB 「2012 年 9 月 7 日プレスリリース」(http://www.ecb.int/press/pr/date/2012/html/pr120906_1.en.html)

経済通貨同盟(EMU)の強化

〈背景〉欧州債務危機においてユーロ圏金融市場の機能が不安定になったことを背景に、単一通貨の保有に相応の枠組みとなるよう、ユーロ圏の経済的な枠組みをより強化することが求められた。

・ 金融枠組みの強化(銀行同盟*1)、各国財政の監視強化や共通予算確保(財政統合)、経済政策枠組みの統合、EUレベルでの政治的説明責任の強化の 4要素により、現在の経済通貨同盟を強化を図るもの。

  (2012 年 6 月及び 10 月の欧州理事会合意、欧州委員会や欧州議会の案や意見を踏まえ、12 月に、ファンロンパイ欧州理事会議長が行程表を含む最終報告書を提出。)

(*1) 銀行同盟

・ 一銀行の問題が経済全体に波及することを防止するため、銀行に対する監督を強化(*2)し、銀行破綻処理のメカニズムを作り、銀行預金の保証を確保することで、ユーロ圏の銀行の安定性を確保するもの。

 (2012 年 6 月の G20、欧州理事会での合意に基づく)。

・ 破綻処理メカニズムについて欧州委員会が 2013年中に提案予定。

(*2) 銀行の単一監督メカニズム(SSM)

・ 銀行同盟の柱の一つ。ECB が、各国の監督機関の協力を得つつ、ユーロ圏の全ての銀行を監督することにより、リスクの早期発見 /介入を可能にし、また域内の銀行ルールの単一化をはかるもの。非ユーロ圏の EU加盟国も参加可能。

  (2012 年 6 月欧州理事会の合意を踏まえ、9月に欧州委員会が提案。12 月に欧州理事会で大枠合意。)

・ 2014 年中頃に稼働予定。

財政と経済政策に対する監視の強化

〈背景〉従来の健全財政確保の枠組み(安定・成長協定に基づき、財政赤字・政府債務残高の基準が設定されている。)では欧州各国の財政悪化を防ぐことができなかったことから、財政と経済政策を監視する枠組みが必要とされた。

・ ユーロ・プラス協定(競争力強化を含む幅広い分野における政策協調を促す。2011年 3 月合意。)・ ヨーロピアンセメスター(各国の経済政策や予算案を EUが事前に審査、勧告する。2011 年より実施。)

・ six-pack(財政規律強化、マクロ経済指標に基づき不均衡是正を早期に促す。2011 年12 月発効)

・ 財政協定条約(財政均衡化を各国が憲法等により担保することを義務づける。英国とチェコを除く 25 カ国で 2013 年 1 月発効。)・ two-pack(財政状況に応じ各国財政状況の監視を強化する。2013 年 5 月発効。)

・ 財政条約:各国は 2013年中に憲法等国内法に規定する。

OMT(ECB による新たな国債購入枠組)

〈背景〉 信用不安による国債利回り高騰により、重債務国の資金調達が困難となった。

・ 国債市場不安定化に対するバックストップとして ECB(欧州中央銀行)が発表した、従来の証券市場プログラム(SMP)に代わる、新たな国債買い取りスキーム。

  ①問題国の財政再建や構造改革の履行を促すインセンティブ設計を重視、②優先弁済権がない、③透明性が確保されている、という特徴がある。

 (2012 年 9 月発表)

ESM(欧州安定メカニズム)

・恒久的な救済基金。最大支援可能額は 5000 億ユーロ。・ 2012 年 10 月発足。EFSF と併存する 2013 年 6 月までは、EUの支援枠組み全体で最大 7000 億ユーロの支援が可能。

・ 銀行への直接の資本注入の枠組みが 2013 年上半期に合意予定。

ECB(欧州中央銀行)による金融緩和措置

・ 銀行への流動性供給の拡大(3年物資金供給オペ(2011 年 12 月、2012 年 3 月実施)等)。・ 政策金利の引き下げ(2011 年 11 月・12 月、2012 年 7 月、2013 年 5 月)。

 

資料: 欧州委員会報道資料、ECB 報道資料、欧州理事会議長「EMU強化に向けた報告書」、経済産業省「2012 通商白書」、第一生命経済研究所「EU Trends」等から作成。

第Ⅲ-2-2-34 表 欧州債務危機に関する主な政策対応

通商白書 2013 247

第2節欧州

Page 13: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

規模の成長促進策をはじめ、成長・投資・雇用を刺激し欧州の競争力強化をはかる措置を規定する「成長・雇用協定」に合意した 201ほか、10 月には単一市場として競争力の向上を図るための重点策を掲げた単一市場法案Ⅱを発表した 202(第Ⅲ-2-2-36 表)。  また緊縮財政の緩和を求める各国国民の声が強まる中、2013 年 3月の欧州理事会において、加盟各国の事情に応じた成長志向型の財政再建を追求することが、取り組むべき課題の一つとして確認された 203。2013 年4月には、アイルランドとポルトガルの国債市場へのスムーズな復帰を支援するためとして、支援融資の返済期限の延長 204が認められた(第Ⅲ-2-2-37 表)ほか、欧州委員会は5月にフランスとスペインを含む 6か国について、財政健全化目標の緩和を勧告した 205。

銀行

各国政府

ECB(欧州中央銀行)

支援(問題行に資本注入)

支援(問題国に融資等)

金融政策

国債購入

(OMT)

出資

出資

監視

銀行の単一監督メカニズム

(*2)

(*1)

(*3)

(*4)

EFSF/ESM(ユーロ圏のセーフティネット)

監視

EU の財政規律・ガバナンススキーム

(*1)  予算の事前評価制度であるヨーロピアン・セメスター(2011 年より実施)や、財政均衡化を憲法等に盛り込むことを義務づける財政条約(2012 年 3 月に署名)など。

(*2)  ECB による非伝統的金融政策として、新たな国債買い取りスキーム(OMT)が 2012 年 9 月 6日に決定。

(*3)  恒久的なセーフティネットである欧州安定メカニズム(ESM)が2012 年 10 月 8日に発足。

(*4)  ECB が各国監督機関と協力してユーロ圏の銀行を監督する銀行監督メカニズムが 2014 年中頃に稼働予定。

第Ⅲ-2-2-35 図ユーロ圏の財政および金融の安定を支える枠組み

成長・雇用協定

〈背景〉長引く不況と高失業率を背景に、財政健全化だけでなく経済成長と雇用の促進をはかることが重要との認識。EIB(欧州投資銀行)の資本増強、プロジェクトボンドの試行段階開始(エネルギー、輸送、情報インフラ分野)等を内容とする、1200 億ユーロ規模の成長促進策をはじめ、域内市場統合を強化し、貿易投資と雇用の促進をはかり財政金融の安定をはかる等の措置を規定。(2012 年 6 月欧州理事会で合意。)

単一市場法案Ⅱ

〈背景〉市場の統合をより深化させて単一市場としての潜在性を引き出すことが、欧州の「新たな成長」を促進させるという認識。以下の 4つの主要課題と、12 の優先措置を規定。①十分に統合されたネットワークの発展。②市民とビジネスの国境を越えた移動の促進。③欧州全体のデジタル経済化の支援④社会的起業精神の強化・結束・消費者信頼感の強化。(2012 年 10 月発表。2011 年 4 月に発表された、より包括的な単一市場法案Ⅰに基づき、具体的に優先課題を提示したもの。)

資料:欧州委員会資料、ジェトロ通商弘報から作成。

第Ⅲ-2-2-36 表 欧州の経済成長に向けた主な合意・提案

ギリシャ

・ 2010 年 5 月、EU・IMF による第一次支援実施を決定(総額 1,100 億ユーロ)。・ 2012 年 3 月、EU・IMF による第二次支援実施を決定(総額 1,300 億ユーロ)。また民間部門が保有する同国国債の債務削減を実施。

・ 2012 年 12 月、大幅な緊縮予算案と引き替えに、EU・IMF による支援継続、財政赤字と政府債務削減の期限延長、債務削減のための支援に合意。また同国銀行等が保有する同国国債の債務削減を実施。

アイルランド・ 2010 年 11 月、EU・IMF による支援決定(総額 675 億ユーロ)。・ 財政再建の取り組みが評価され、2012 年 7 月以降、国債市場に徐々に復帰。・ 2013 年 4 月、EUは同国の国債市場復帰を支援するため、支援融資の返済期限を平均 7年延長することで合意。

ポルトガル

・ 2011 年 5 月、EU・IMF による支援決定(総額 780 億ユーロ)。・ 2012 年 9 月、歳入の大幅な減少を背景に、EUは財政赤字削減目標を緩和。・ 2013 年 4 月、同国憲法裁判所が緊縮措置の一部に違憲判決を下したものの、政府による調整プログラム遵守の方針を評価し、EUは同国の国債市場復帰を支援するため、支援融資の返済期限を平均 7年延長することで合意。

スペイン

・ 2012 年 7 月、ユーロ圏は金融部門に対する支援を決定(最大 1000 億ユーロ)。財政赤字削減目標期限を緩和。同国は、これと引き換えに、2014 年までの緊縮予算を作成し、付加価値税の引き上げ等、新たな歳入増加・歳出削減措置の導入を発表・実施。

・ 9 月以降、MOUに従い銀行の資本増強プログラムを実施。

キプロス・ 2012 年 6 月、EUに対し緊急融資を要請する意向を表明。・ 2013 年 4 月、EUと IMF は、同国とユーロ圏財務相会合との合意に基づき、同国の大手二銀行の再編および大口預金者による損失負担による資金拠出と引き替えに、支援を決定(総額 100 億ユーロ)。

資料:経済産業省「2012 通商白書」、欧州委員会資料、報道資料から作成。

第Ⅲ-2-2-37 表 EU・ユーロ圏当局による個別国への支援

201 2012 年 6 月欧州理事会。202 ジェトロ(2012d)。203 ジェトロ(2013)。204 平均 7年延長することが承認された。205 ほかに、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロベニア。(European Commission ウェブサイト (http://europa.eu/rapid/press-release_SPEECH-13-384_en.htm、http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-13-463_en.htm)より。)

248 2013 White Paper on International Economy and Trade

第2章 主要国・地域の動向

Page 14: CW6 A5370D322 M · しかし、2012年5月以降年央にかけて、ギリシャ の財政問題とユーロ圏離脱の可能性、またスペインの 銀行問題等をきっかけとして金融市場は再び緊張し

 但し財政健全化政策の維持は、通貨ユーロの安定のために、特に、資金を拠出する側の国々にとっては、引き続き欠かすことのできない要素である。加盟各国が取り組むこととされた「成長志向型」の財政再建も、限られた財源を成長分野に効率よく投資するというものであって、財政緊縮政策の実施が前提にある。財政健全化目標達成期限が一部延長されるにせよ、緊縮財政に取り組みながら、各国がいかに実体経済の回復を実現していくのか注目される。 ここまで概観したように、2011 年に債務危機が深刻化したユーロ圏経済は、2012 年に金融市場の安定を取り戻しており、各国の緊縮財政は財政赤字の縮小

に貢献しているものの、域内需要は長期にわたり低迷し、各国のGDPは縮小している。金融分野をはじめとする経済通貨同盟(EMU)の枠組み強化は、ユーロという単一通貨の安定性をもたらすものとして期待されているが、関係各国の意見の相違を背景に進捗が遅れる可能性が懸念されている。更に緊縮財政に対する反発から各国政権によるEU当局の政策支持が困難となる可能性もある。市場の不安を払拭し実体経済の回復を取り戻すため、EU当局には、持続可能な財政健全化と、銀行同盟の実施に向けた取組を迅速に進めることが求められている。

第2章

第Ⅲ部

通商白書 2013 249

第2節欧州