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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

エスペック技術情報 No.51 1

写真 1 スズウィスカ全体像

良好な防錆効果やはんだ付け性を得るために電子部品などにスズめっきをすると,めっき膜表面

からスズウィスカが自然に発生することがある。この問題は,信頼性問題として取り上げられて,

約 25 年前にスズめっき膜に鉛を添加することでスズウィスカの発生を劇的に止めることに成功し

て解決した。しかし,RoHS 指令(2006 年 7 月 1日に施行)により鉛の使用を禁止されたため,ウィ

スカ発生問題は再燃し,防止策を確立するためにいろいろな調査・研究が行われているが,解決法

の目途がなかなか立たない。この理由は,

(1)ウィスカ発生の現象論に終始し,材料物性を基にしたメカニズムの追求が不十分。

(2)自然発生ウィスカに加え,外部応力負荷によるウィスカの防止法が見つからない。

の二つにある。この二つを軸にして,スズウィスカ発生防止策が完成しない理由を材料技術論と信

頼性問題の取り組み方から述べる。

川中 龍介 有限会社 関西品質技術研究所 代表

ウィスカは,固体表面から針状の固体が成長する現象として古くから知られている。この新しく成

長した固体は,自然に成長することもあれば,人工的に成長させることもできる。一般に,自然に

成長するウィスカは,予期しない時に思いがけない所に成長して,部品や装置の故障を引き起こす。

今,問題になっているスズウィスカは,前者の自然成長ウィスカである。

スズウィスカの存在がはっきり認識されたのは,半世紀以上も前のことであり,電話交換機の故障

が発生したことで知られるようになった。いろいろな調査,研究が行われて,スズめっき膜に鉛を

数%添加すればウィスカ問題を克服できることが発見された。以後,四半世紀の間,平穏無事に過

ごしてきた。

2006 年 7 月 1日に、EU の RoHS 指令が施行され、鉛、カドミウム、六価クロム、水銀、PBB、PBDE

の 6 物質の使用が制限された。環境保護の動きには従わざるを得ない。スズめっき膜中の鉛を除く

ことは,スズウィスカ成長防止「方法」の要を放棄することである。これまでスズウィスカの「成

長メカニズム」「鉛の抑止メカニズム」を明らかにしてこなかったため,鉛を用いないスズウィス

カ成長防止法の代わりはすぐには見つからない。この混乱は,スズウィスカ問題を信頼性問題とし

て,次の点を正面から取り上げることの必要性を示している。

(1)スズウィスカを金属材料,結晶成長の技術問題として抜け落ちのない調査・研究をするこ

と。

(2)スズウィスカ発生・成長問題の基本である「メカニズム」を解明すること。

(3)技術の進歩・変革,顧客の要求,社会の変動から来る要請に応えられる技術力を持つこと。

寄稿記事

スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

1. はじめに

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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

エスペック技術情報 No.51 2

2-1-1 スズウィスカの自然発生

ウィスカは,自然発生するものとして知られ,ウィスカ発生による障害を除くため,いろいろな

調査・研究が行われてきた。一方,ウィスカの構造が単結晶であることから,その強度の大きいこ

とを生かした強化材として用いられている。

自然発生するウィスカは真性ウィスカといわれ,表 1のように分類できる。

表1 自然発生ウィスカの分類

ウィスカの種類 ウィスカ発生の様子

内因性ウィスカ

(intrinsic whisker)

母体物質内部の固体物性反応のみの要因で構成原子が外部に移動して,ウィスカと

して成長する。

〔例〕 スズ,亜鉛,等

外因性ウィスカ

(extrinsic whisker)

母体物質外部の要因が加わって固体物性反応が起こり,構成原子が外部に移動して

ウィスカとして成長する。

〔例〕 銀:硫化銀

内因性ウィスカは,発生要因がめっき膜内部にあり,内部で固体物性反応が自然発生的に進行す

るため,発生防止には,発生メカニズムを基に対策を立てることが必要である。

2-1-2 スズウィスカの性質

スズウィスカの発生母体はスズめっき膜であり,スズウィスカの性質や発生メカニズムを知るた

めに,スズについて,次の材料の性質を十分把握しておかなければならない。

(1)熔融凝固したスズ金属(バルクスズ)の性質を把握する。このスズは,普通に存在するスズ

金属であり,ウィスカ成長の基本性質を知るため,調査しておくことが必要である。

(2)次いで,スズウィスカの発生母体であるスズめっき膜の性質を把握する。

(3)さらに,目的の物質であるスズウィスカの性質を把握する。

これらの結果は表 2の通りである。

スズウィスカは金属材料の問題であり,信頼性の問題である。スズウィスカ発生・成長の現象は,

次の三点から解決の道を探ることができる。

(1)ウィスカの性質を金属材料技術面から把握する。

(2)スズウィスカ発生のメカニズムを解明する。

(3)スズウィスカに関する固有技術を活用する。

2-1 スズウィスカの材料技術

2. スズウィスカの材料技術論

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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

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表 2 スズ金属,スズめっき膜の性質およびスズウィスカの性質

バルク金属スズ スズめっき膜 スズウィスカ

原子番号 50 50 50

質量数 118.710 118.710 118.710

原子半径(nm) 15.8 15.8 15.8

格子定数(nm) 31.6 31.6 31.6

(白色スズ:β) 体心正方格子 体心正方格子 体心正方格子 結晶格子

の型 (灰色スズ:α) ダイヤモンド格子 ダイヤモンド格子 ダイヤモンド格子

成長軸の結晶方位 ― ― {001}{101}{102}等

結晶状態 多結晶 柱状晶 単結晶

結晶粒度(mm) 0.1~1.0 0.1~1.0 0.1~1.0

(白色スズ:β) 7.31 7.31 7.31 密 度

(灰色スズ:α) 5.75 5.75 5.75

硬 度 0.2~0.35 0.2~0.35 0.2~0.35

(太さ:μm) ― ― 1~2 大きさ

(長さ: mm) ― ― 0.1~10

相変態(α←→β) 13.2℃注) 13.2℃注) 13.2℃注)

格子欠陥 空孔,転位あり 空孔,転位あり 殆どなし

融 点 232.1℃ 232.1℃ ―

再結晶温度 常 温 常 温 常 温

注)実在金属では、格子欠陥、不純物、介在物等の存在や温度下降速度の影響で、低くなることが

多く、-40℃にもなることがある。

2-1-3 スズウィスカの発生・成長の材料技術的特徴

これまでの調査・研究の結果,発生・成長および形態の特徴は,それぞれ表 3および表 4のよう

にまとめることができる。

表 3 スズウィスカの発生・成長の特徴

発生・成長の特徴

(1)自然に発生する

(2)めっき後発生までに時間がかかる

(3)めっき膜に発生し易く,バルク金属や熔融金属の表面には発生しにくい

(4)根元成長である

(5)固相から固相への成長である

(6)基本的形状は針状の単結晶である

(7)ある程度成長すると成長は止まる

(8)酸素を遮断すると成長しない

(9)スズめっき膜中に鉛が数%存在すると,針状にならず塊状になる

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表 4 スズウィスカ結晶の形態

(1)大きさは,太さ~1μm,長さ数 mm の針状である

(2)屈曲しているものがある

(3)断面形状は多角形,星形である

(4)側面には筋や溝がある

(5)成長軸は低ミラー指数の特定結晶軸に集中している

ここまでに述べたことは,これまでに調査・研究されてきた事柄であり,自然発生スズウィスカ

の発生・成長は,次の表 5のように要約することができる。

表 5 スズウィスカの発生・成長のこれまでの研究結果の要約

(1)固相から固相への反応である。(スズめっき膜 → スズウィスカ)

(2)めっき膜内にウィスカを押し出す力が自然発生する。

(3)スズウィスカは,めっき後ある時間経過して発生・成長する。

(4)ある程度成長すると停止する。

スズめっき膜に締め付け・ばね押え等の外部応力を加えることによるウィスカ発生が問題となっ

ている。スズめっき膜表面を外部から機械的に圧迫すると,この応力は,一旦めっき膜内部にウィ

スカを「押し出す力」として蓄えられ,表 5の現象と同じ経過を辿ってウィスカを発生させると考

えられる。

2-2-1 メカニズム構築のための故障解析フロー

(1)故障解析フロー

改善対策には,暫定対策と恒久対策があり,解決方法には,疫学的方法とメカニズム解明方法が

ある。信頼性問題を解決する主流は,メカニズムを解明することであり,恒久対策とメカニズム解

明方法の組み合わせでなければならない。

図 1に代表的な部品の故障解析のフローを示す。

信頼性や品質問題では,故障を解決し,改善するのは当然であるが,その改善が工場生産に関わ

る場合は,一刻も早く解決し,顧客に改良品を納めることが迫られる。このため,図 1の左側のル

ート,すなわち暫定対策と疫学的方法のみで済ませてしまうことが多い。この方が,時間も,知識

も,人もすべて少なくて済み,早く納入することができる。これがメカニズムによる信頼性改善の

足を引っ張る大きな理由となっている。

2-2 スズウィスカ発生のメカニズム

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図 1 信頼性問題解決のフロー(恒久対策の確立)

(2)メカニズムの必要性

スズウィスカ発生防止問題が進まない理由は,メカニズムに関する次の点にある。

[1]スズウィスカの発生要因のいくつかは明らかになっているが,新しく採用される下地,新しい

めっき浴,等が出る度に,新しい現象として出てくる。

[2]スズウィスカ発生には,未詳の現象や固体反応が数多く存在する。メカニズムが未解明の新現

象が出ると,新しい要因と見られて,統一メカニズム確立の邪魔をする。

2-2-2 スズウィスカ発生メカニズムモデル(仮説)

ウィスカ発生メカニズムの解明が必要であると考えられているにもかかわらず,あまり進んでい

ない。今,真のメカニズムに代わって,メカニズムモデルを構築し,このモデルに基づいて対策を

考えることは,一つの手段として有効である。

(1)スズウィスカ発生メカニズムモデル構築のための基本因子

ウィスカ成長のメカニズムモデル構築にあたり,次の三つの因子を基本とした。

[1]スズウィスカ固体が発生するための押し出す力がめっき膜に存在する。

[2]めっき膜からウィスカが成長する過程を,結晶成長の「二段階成長」と仮定する。

[3]核発生のためには,発生し易い条件を満たす場所が必要である。

(2)発生メカニズムモデル(仮説)の構築

この条件を基にして構築したメカニズムのモデルを表 6に記述する。

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表 6 スズウィスカ成長メカニズム仮説

仮説 (1) スズウィスカ成長のための駆動力発生

ウィスカ成長の駆動力(内部圧縮応力)

めっき膜内の固体反応や外部負荷機械的応力により,めっき膜の体積を増加させようとする現

象が生じる。体積増加に相当する分は,固体反応が進むにつれて,めっき膜内の圧縮ひずみと

して蓄積される。これを「内部圧縮応力」という。

仮説 (2) スズウィスカの発生・成長

スズウィスカの発生・成長は,「核発生」と「成長」の二段階を経るものとする。

通常の結晶成長と同じであり,成長のステップは,次の四つである。

ステップ 1:潜伏期間(応力の蓄積としきい値)

内部圧縮応力は,ある限界値を超えた時,超えた応力量に相当する原子を膜外に押し出して,

蓄積された応力を緩和する作用をする。ウィスカはこの限界値を超えるまで発生しない。この

期間をウィスカ成長の雌伏期間と見ることができる。

この応力の限界が,ウィスカを発生させる内部圧縮応力の「しきい値」であり,限界に達する

までの雌伏期間が,ウィスカが発生するまでの「潜伏期間」である。

ステップ 2:核発生(発生に適した場所があり,応力のしきい値を超える時)

内部圧縮応力が限界を超えると,「核発生」と「成長」の二段階成長をする。

核発生が始まるためには,二つ条件が整わなければならない。すなわち,

「内部圧縮応力がしきい値を超えること」

「核が発生し易い場所があること」

「核が発生し易い場所」とは,

[1] 応力集中を起こし易い「発生の起点」が膜表面に存在すること

[2]「成長し易い結晶方位」を持つ結晶粒がめっき膜に存在すること

の二つの条件を満たす場所であり,めっき膜の表面に存在することが必要である。

ステップ 3:成長(針状結晶の成長継続)

「発生・成長」の第二段階は,針状結晶が継続的に成長する段階である。

内部圧縮応力が,「しきい値」を超えてめっき膜内に生成・蓄積し続けている間は,核から成

長したウィスカが「針状結晶」として成長を続ける。

この針状結晶は単結晶であることが多い。

ステップ 4:成長停止(ウィスカ成長の終点)

固体内部反応は有限である。反応が終了すれば,内部圧縮応力の増加は起こらず,新たな応力

の生成も起こらなければ,内部圧縮応力は「しきい値」以下になるので,ウィスカの成長は

停止する。

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3-1-1 系を安定化するための自然現象

すべての物質系では,安定な系はそれを維持しようとし,不安定な系は安定な系に移ろうとする。

不安定な状態は,物質の系としてエネルギー的に高いので,固体内で反応を起こして,エネルギー

の低い,安定な系に移ろうとする。不安定な系においては,系の内部で固体反応が自然に進行して,

系内のエネルギーを下げる反応が進む。

スズウィスカの成長は,めっき膜内の内部圧縮応力の高い不安定な状態から応力の低い安定な状

態に移るために生じる自然現象である。

めっき膜内に自然の摂理に従って発生した内部圧縮応力が,めっき膜内で応力維持の限界を超え

た時,応力を緩和・軽減するために原子をめっき膜外に移動させて,めっき膜内の応力低下を図る。

この「内部圧縮応力蓄積 → 原子の押し出し」という応力低下作用が,ウィスカ成長の「駆動力」

となっている。

3-1-2 内部圧縮応力を発生させる因子

(1)応力発生因子の多様性

内部圧縮応力を増加させる因子は沢山ある。これらの因子は,めっき膜そのもの,およびめっき

膜の周りにある。ウィスカの成長の駆動力は,これらの因子が単独,または幾つかが影響し合って,

発生している。この因子のどれが作用するかによってウィスカ成長の様相は違ってくるが,内部で

自然に起こる現象であるから,どんな場合にどの因子がウィスカの成長に優勢であるかの判断がつ

きにくい。このことがウィスカ成長防止対策の取り組みを困難にしている。

めっき膜内に発生する内部圧縮応力は,めっき中にもめっき後にも独立に発生する。

めっき中に発生した内部圧縮応力は,めっきの初期に発生し,めっき膜厚さが増す中で増加する

ことは少なく,めっき後に増加することは殆どない。

めっき後では,めっき膜内の固体反応現象が時間の経過と共に膜の内部圧縮応力を増加させる。

この固体反応現象には,下地元素の拡散侵入,いろいろな固体反応,相変化等があり,これらの原

因で応力が増加する。さらに,めっき後,めっき膜外部からの押しつけ圧力や締付力により,めっ

き膜内の内部圧縮応力が増大する。

これらの応力が,ウィスカ核の発生やウィスカ成長の駆動力となる。発生する内部圧縮応力の総

量や増加速度は,応力発生の原因によりまちまちで,ウィスカ成長の様子に影響を及ぼしている。

(2)スズめっき膜内に発生する内部圧縮応力の発生源

表 7に,スズウィスカ発生成長メカニズムの仮説の中心要素である内部圧縮応力の発生源を,実

際に観察されている現象からまとめた。

3-1 駆動力の導入

3.ウィスカ発生メカニズムの三基本因子の検証(内部圧縮応力駆動論)

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表 7 スズめっき膜に発生する内部圧縮応力の発生源

発生時期 応力発生源 応 力 発 生 原 因 ウィスカ

への影響

[1]格子不整合 めっき膜と下地金属の結晶格子定数の違いに

より生じる応力。 ・初期発生源

(1)めっき膜

成長中 [2]介在物

光沢剤がめっき膜の結晶粒界に取り込まれ,

不定形結晶粒になったひずみにより生じる応

力。

・潜伏期間

[3]再結晶

光沢剤の取り込みにより生じた不定形結晶粒

が再結晶する時に生じる応力。この現象は常

温でも進行する。

[4]金属間化合物

下地の原子がめっき膜中に拡散してスズと金

属間化合物を形成し,体積変化により生じた

応力。

(2)めっき後

(自然発生)

[5]酸化物 めっき膜表面近傍の結晶粒界に生じた粒界酸

化物による体積増加起因のひずみ。

・潜伏期間

・ウィスカの

総量

[6]機械的応力 リード端子をナットで締め付けるような機械

的外部応力がめっき膜内に発生させる応力。 (3)めっき後

(外部圧力)[7]繰り返し熱応力

温度サイクル試験のような熱的膨張収縮の繰

り返しにより生じる機械的ストレス。

・ウィスカの

総量

メカニズムモデルでは,ウィスカ成長の基本型を「二段階成長」とし,核発生とその後の成長の

二段階を考える。

スズウィスカの核発生から成長が終了するまで,四つのステップを仮定した。

(1)ステップ 1:潜伏期間

(2)ステップ 2:核発生

(3)ステップ 3:成 長

(4)ステップ 4:成長停止

3-2-1 潜伏期間

スズ原子は,めっき膜からウィスカとなって外へ出て行く。しかし,スズ原子をめっき膜から押

し出す力は,いくら小さい力でも,スズ原子を外へ押し出せるというものではない。

金属結晶の表面に在る一つの原子に着目しよう。着目した原子は,結晶格子を構成している原子

であるから,周りの原子および内部の原子とつながっている。この原子が,周りの原子とのつなが

りを振り切って外へ出るためには,押し出し力となる内部圧縮応力が,周りのつながり力の総量以

上となることが必要である。この限界の力を,ウィスカ発生のために必要な内部圧縮応力の「しき

い値」とした。押し出されるまでの期間が,「潜伏期間」である。

潜伏期間に長短が生じるのは,固体反応の種類やめっき膜の性質・条件によって応力蓄積の速さ

に差があるためであり,また,しきい値も変わるためである。すなわち,

[1]めっき膜を成膜する条件(成膜条件,下地の種類)

[2]めっき膜の状態(膜の性質:めっき浴による)

[3]めっき膜内の固体反応の種類

によって決まるため,潜伏期間を簡単に推定することはできない。

3-2 スズウィスカの二段階成長(発生と成長)

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3-2-2 核発生:二段階結晶成長の第一段

(1)核発生

ウィスカの成長は自然現象であるから,自然の結晶成長の原理に従っている。結晶成長には,相

の変化から考えて次の三つの形がある。

[1]気相から固相, [2]液相から固相, [3]固相から固相

スズウィスカの場合,これまでに解析されたデータから考えて,固相から固相の形を考える方が

自然である。固相から固相の結晶成長には,析出,金属間化合物形成,多結晶から単結晶,粉体か

ら固体等の種類がある。ウィスカの発生は,多結晶から単結晶である。

(2)ウィスカ核発生の三条件

核発生の起こり易い条件は,表 8の三条件が揃う場合である。

表 8 ウィスカ発生の起点のための条件

発生因子 発 生 条 件

い つ めっき膜内の内部圧縮応力がしきい値を超えた時

ど こ か ら めっき膜表面の応力集中を起こし易い点(酸化膜の欠陥部分等)

成長軸方位 低ミラー指数で,結晶が成長し易い結晶軸方位

[1]発生開始時期(いつ):発生開始時期は,めっき膜中の内部圧縮応力がめっき膜内に蓄積し,

ウィスカ発生応力のしきい値を超えたときである。

[2]発生場所(どこから):一般的な二段階結晶成長理論では,通常,「核」または「芽」ができ,

ここを起点に成長を始める。

応力集中点:スズウィスカ発生起点となる条件の一つは,表面またはその近くにある応力分

布の低い場所と考える。めっき膜内は圧縮内部応力が高くなっているため,表

面のある場所に応力の低い所ができると,ここは応力集中を起こし易い場所と

なる。ここに内部圧縮応力が集中して,めっき膜内のスズ原子が集まり,めっ

き膜外に押し出されて,応力緩和の出口になると考えた。めっき膜表面の酸化

膜の不均一部や欠陥部,めっき膜結晶粒界の特定部等が,内部圧縮応力分布を

不均一にすると考えられている。

[3]ウィスカの成長軸:発生条件の三つ目は,ウィスカ成長方向とその結晶方位である。

金属の結晶はどの結晶方位にでも成長できるものではない。 も成長し易い結晶方位から,極

めて成長しにくい結晶方位まで結晶毎に決まっており,この順に優先的に選択されて成長す

る。スズウィスカは,単結晶として成長の容易な特定結晶面で成長する。ウィスカ根元の成長

面は,めっき膜内にある結晶粒の結晶面を受け継ぐと考えるのが普通である。

スズウィスカのようにいくつかの特定方位のみが成長することは当たり前の現象である。

応力集中を起こし易い場所に成長し易い結晶軸を持った結晶粒が存在すれば,ウィスカの核が発

生する。

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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

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3-2-3 成長:二段階結晶成長の第二段

(1)ウィスカの成長

ウィスカの核が形成されると,これを起点としてウィスカの成長が始まる。

めっき膜内に内部圧縮応力がしきい値を超えて存在する限り,めっき膜内のスズ原子は,内部圧

縮応力の集中し易いウィスカ核の底部に集まり,ウィスカとしてめっき膜外に押し出しが継続され

ていく。これがウィスカの成長現象である。

(2)ウィスカ断面の形状,太さ

ウィスカ断面の形状や太さは,自由成長の天然結晶のような結晶学的な形をしていない。

これは,スズウィスカは押し出される時に結晶の周囲を酸化膜欠陥部のような孔で機械的に制約

され,トコロテン式に下から押し出されて成長すると仮定する。このように考えると,いろいろな

断面形状(多角形,星形等)があること,側面に溝等の模様があることは当然といえる。この時,

側面方向への結晶成長はない。

通常,成長する単結晶の太さは,成長結晶の縦軸と横軸の成長速度のバランスで決まる。

成長したスズウィスカの太さは 1μm前後で,極端に大きなモノも小さなモノも見られない。この

寸法は,酸化膜欠陥部の大きさで決まるとする時,いろいろな寸法があってもよいはずである。あ

る寸法で収まっているのは,次の三つの要因からと考える。

[1]押し出される孔が大きいと応力集中しにくくて押し出されにくくなる。

[2]小さすぎると,結晶成長面を確保しにくく,核生成や単結晶成長の継続が難しくなる。

[3]押し出された瞬間,単結晶の側面は酸化されて横方向成長が困難になる。

これらのため,スズウィスカの成長が容易な条件の範囲では現在観測されている寸法,形状

で納まっていると考えられる。

(3)成長したウィスカの結晶方位(ウィスカの成長軸)

ウィスカとして成長した単結晶は,結晶学的な特定の結晶方位を持っている。

一般に,低ミラー指数のものほど成長しやすいといわれている。成長したスズウィスカの成長軸

の結果では,結晶方位のバラツキは,めっきの条件でいろいろ変わる。このバラツキは,発生密度,

発生時期とも関連がある。この様子の一例を,三種のめっき浴を比較して表 9に示す。

表 9 ウィスカ成長容易性

めっき浴の種類 めっき浴(1) めっき浴(2) めっき浴(3)

出現率

(%)

{001}

{101}

{102}

{103}

{115}

50

15

7

21

7

60

25

15

86

7

7

結 晶 軸

多 様 性 大 中 小

ウィスカ成長

の状態

潜伏期間

発生密度

長 さ

めっき膜の結晶粒度(mm) ~0.1 ~0.1 ~1.0

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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

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3-2-4 成長停止:成長の終点

ウィスカ成長の駆動力は,めっき膜内の内部圧縮応力であるため,ウィスカの成長によって内部

圧縮応力が減少してしきい値以下になると,スズ原子を押し出す力は無くなり,ウィスカとして成

長しなくなる。内部圧縮応力は有限の固体反応で生じるため,応力の追加や新規応力発生の因とな

る固体内反応が生じなければ,ここがウィスカ成長の終点となる。

スズめっき膜への鉛添加は,スズウィスカ対策の救世主であった。鉛の添加によってウィスカの

発生・成長は完全に止められたとしばらくの間は信じられてもいた。

しかし,鉛の抑止メカニズムは次のとおりである。

[1]スズめっき膜内の内部圧縮応力形成は,鉛の有無に関わらず進行する。

[2]スズ原子の押し出しも生じている。ここまではウィスカ成長過程と変わらない。

[3]めっき膜表面に押し出されたスズ原子は,横方向の成長も可能になり,針状とならず塊状にな

る。

これは、めっき膜に鉛が存在すると,めっき膜外に押し出されたスズ原子は酸化されにくくなっ

て横方向成長が可能になり,針状に成長しない。このため,長い針状結晶による電気的短絡事故は

なくなり,信頼性故障問題は落着した。

写真 2 塊状突起物

4-1-1 故障改善

(1)改善対策が不十分な原因(応急対策・暫定対策・恒久対策)

生産ラインの現場や市場において不具合が生じると,応急対策,暫定対策,恒久対策のいずれか

が取られる。どの対策を取るかは,その時の解決の必要性,すなわち,生産数確保,納期,顧客の

欠品状況,改善の技術的可能性等に応じて決まる。恒久対策には手を付けずに済ませてしまうこと

が多い。信頼性問題の対策が不十分となる原因は,恒久対策を取らないことから起こっている。こ

の三つの対策の役割・効果を表 10 に示す。

3-3 鉛によるスズウィスカ成長の抑止効果

4-1 故障改善と再発防止

4. ウィスカ発生防止に必要な技術活動

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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

エスペック技術情報 No.51 12

表 10 故障の改善

故障対策

の種類 役 割 効 果

応急対策 ・目先の不良を食い止める ・生産を止めないための一時しのぎである

・顧客は満足しない

暫定対策

・早く生産可能な状態を取り戻す

・時間と技術力が少なくて済む

・生産のための対策に限定される

・不良対策の提案条件の中から 適解を選ぶ

・選んだ条件も含め,どの一つも変更不可

・外部の変更・変動に弱い

恒久対策 ・故障の再発が防止できる

・安定生産が余裕を持ってできる

・メカニズムを基に構築された不良対策

・時間,技術,人手を多く必要

・外部の変動に強い

(2)暫定対策の脆さ

暫定対策は,調査した実験条件組み合わせの中で, も成績の優秀な一組の条件を採用するが,

故障メカニズムは判らない。暫定対策で生産を続ける場合,この条件を順守しなければならない。

鉛/スズめっきから鉛を除いた時,代替えの対策がすぐに取れないのは,鉛添加による防止メカ

ニズムが確立できていない,すなわち,暫定対策であったからである。

(3)恒久対策の必要性

信頼性故障問題の解決には,メカニズムを明らかにした恒久対策を取らなければならない。この

ため,メカニズム解明を中心にして,技術を活用した次の活動を行わなければならない。

[1]故障の状況・原因を知ること。

[2]故障を生じた対象物がどのようにして製作され,どんな性質を持っているかの調査。

[3]故障が材料破壊を起こしているかの確認,その現象のメカニズムをどう説明するかの検討。

4-1-2 再発防止

(1)故障問題解決の方法

通常,故障原因の解明と改善には表 11 に示す疫学的方法かメカニズム方法のいずれかが用いられ

る。後者は時間がかかること,解析と対策に高度の技術と知識を必要とすることから,敬遠されが

ちである。故に,生産ラインの改善には前者を,信頼性問題の解決には後者を用いることが多い。

これまで,スズウィスカ発生の改善に鉛添加以外の方法が見つからなかった理由は,鉛の添加に

安心して,ウィスカ発生抑止メカニズムを解明して来なかったためである。

表 11 故障問題解決の方法と特徴・欠点

(1)疫学的方法 (2)メカニズム方法

方法

・要因と結果から出した方法を

順守する

・暫定的対策である

・故障の原因を調査して,メカニズムを解明

・恒久的対策である

・信頼性問題の再発防止に極めて有効

特徴・

欠点

・故障原因の解明・防止対策は不十分

・生産優先では,根本的解決の時間が

ない

・生産条件の全てを順守すること

・生産条件を順守できないと故障再発

・ウィスカ発生成長のメカニズムが明確になる

・メカニズムに基づいた改善対策が確立できる

・材料,金属の幅広い知識を応用する

・故障が再発しにくい,再発しても素早く対応

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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

エスペック技術情報 No.51 13

(2)故障再発防止の留意点

[1]暫定対策で放置しない

生産現場の改善では,原因,メカニズムを完全に追究しなくても,緊急生産に必要な「応急対

策」や「暫定対策」を確立すれば,生産対応の解決方法が得られる。しかし,その製品の周囲で

何か変化が起こると,同じ不具合が新しい問題であるかのような顔をして発生したり,別の新し

い故障が発生することも多い。技術的な変化や社会からの要請がなければ,暫定対策でも鉛添加

スズめっきのように,長年生産を続けることができる。

[2]再発の三つの原因

ウィスカ問題のような古い故障問題が再発する原因は,表 12 に示すような三つの再発ケースの

一つ以上に該当することが多い。再発を防ぐためには,三つともに技術的に十分な手を打ってお

かなければならない。FTA も FMEA もその他もろもろの信頼性手法も,技術的解決を完全・迅速・

便利にするための道具であって,技術的解決に取って代わるものではない。

設計標準や作業標準にやるべきことをきちんと決めておいたから再発はしない,と思いがちで

あるが,現実にあちこちの会社で起こっている。古くて新しい問題はまた始まるのである。「古

き」を十分に解決しておかないから,「新しき」故障として取り上げなければならなくなる。

今,解決手段を見つけるために悪戦苦闘しているスズウィスカの問題は,「変化」と「不十分」

と「風化」の三つが複合した再発の総合的ケースといえる。

表 12 信頼性問題再発のケース

ケース 原 因 事 例

(1)変 化 ・技術,使用環境,規制に追従不可能 ・SMT,宇宙,鉛フリー

(2)不十分 ・メカニズムの追究不十分

・メカニズムを生産に生かせない ・生産できれば一件落着,で放置

(3)風 化 ・時間が経つと職場から消える ・人事異動

4-2-1 故障改善に用いる技術

(1)故障改善のための技術の種類

ウィスカ故障問題を解決する恒久対策を立てるためには,故障メカニズムの解明に必要な技術の

知識が必要となる。これらの技術を表 13 に示す。

表 13 故障問題を効果的に解決する技術

(1)固有技術の活用:信頼性故障は固有技術の問題である。解決には技術に頼らねばならない。

(2)解析技術の利用:故障解析技術を知らないと,間違った答を掴んでしまう。

(3)材料技術の活用:寿命に関係する問題は材料破壊と深い関係があり,材料技術を活用する。

(2)材料技術の重要性 8), 9), 10)

信頼性で重要なことは,故障メカニズムの解明に必要な知識を持つことである。ウィスカの成長

は,結晶成長の問題である。材料技術を用いずに行えるものではない。

4-2 技術の活用

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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

エスペック技術情報 No.51 14

4-2-2 技術力のレベルアップ

(1)技術の三要素

メカニズム解明に必要な技術力は,表 14 に示す三つの要素についての条件を満たすものである。

個人の持つ技術,会社として持っている技術を必要な時期に棚卸しをして,製品を作るレベルに対

して十分であるかチェックし,不足がある時は補強しなければならない。

予期しない変化で生じた問題にも迅速に対応できる力があると,確実な対策を打つことができる。

変化にいつでも対応できるためには,メカニズムが解明できる技術力を持たなければならない。そ

れにより,

[1]故障再発の恐れがなくなる。

[2]変化に強い対策ができたことになる。応用力の高い技術となる。

表 14 技術力の要素と満たすべき条件

要 素 条 件

(1)強い技術 ・要素技術およびそのメカニズムが明確にされている。

・めっきとウィスカ成長のメカニズムが科学で裏打ちされている。

・周囲の変動,変化に強い技術になっている。

(2)証明された技術 ・要素技術が有用であることを,実験・実用で証明されている。

・めっき浴の使用実績,ウィスカの成長・防止の実験データがある。

・失敗,不良,故障を少なくするために,証明されたデータを活用する。

(3)余裕のある技術 ・工程能力が 1.5 以上あり,技術にゆとりがある。

・設計部門は、製造で作り易く、バラツキ・不良が少なくなるように設計し、

製造部門の負荷・作り損ないが小さくなるようにする。

・バラツキ,不良が少ないことは,信頼性が高いことにつながる。

4-2-3 科学の活用

(1)科学と技術の違い

科学と技術は,それぞれどんなものか表 15 に示す。私たちは,科学と技術を混同してはいけな

い。

表 15 科学と技術

項 目 内 容

科 学 ・自然現象の原理,法則であり,真理を表そうと努力した結果である。

・その時点での科学・技術の水準で出した結果である。

技 術 ・もの作りの方法,手段である。

・一つの目的には,いくつもの技術がある。

(2)スズウィスカ発生防止対策への科学の必要性

スズウィスカ成長のメカニズムは,実験事実と推論で仮説を構築するが,仮説は,さらなる実験

事実と科学で裏打ちし,真実に向かって科学的原理・法則で固めることが大切である。

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スズウィスカ発生問題は何故終息しないか

エスペック技術情報 No.51 15

表 16 科学を活用する

(1) 科学は,物事・現象の原理,法則を表したものであり,メカニズムの確立には,これらをで

きる限り利用・引用することが望ましい。

(2) ウィスカのように,多くの要因を持っている不具合の改善には,時間がかかろうとも,メカ

ニズムを基にした根本的な解決が必要である。

(3) メカニズムの確立に科学的知見をどこまで入れられるかによって,そのメカニズムの確かさ

が向上する。

信頼性故障問題の解決には,故障メカニズムを知ることが基本である。さらに,故障を引き起こ

した部品や装置の材料特性,設計構造,製造メカニズムが判って,初めて正しい解決策が生まれる。

スズウィスカ問題では,ウィスカの発生・成長メカニズムは勿論,めっき膜の本性,ウィスカの

本性も十分には判っていない。このような状態では,恒久対策は立てようがないので,この小論で

は,ウィスカ故障防止の恒久対策を考えるための発生・成長メカニズムの仮説を立てることを試み

た。一応の仮説作りには成功していると思っている。

今までに発表されているデータを基に作った仮説ではあるが,十分とはいえず,恒久対策作りに

は役立たない。科学での裏付けが不足しているのであろう。材料物性工学,電気化学,熱力学等を

十分使っていないために,この面からの補強を考えなければならない。

信頼性故障問題は,材料破壊問題でもある。材料問題を誌面の都合で割愛したが,故障という見

地から,故障物理よりもっと広く化学や生物を加えた「材料信頼性工学」を考えることが必要であ

ると思っている。メカニズム解明には固有技術も不可欠であり,これらについては,今後本誌で報

告する予定である。

〔参考文献〕

1)長谷川知治,村田安裕,川中龍介,南郷重行:「錫ウィスカの発生と防止対策」,三菱電機技

報,Vol.53,P.781-785,(1979)

2)川中龍介:「錫真正ホィスカの発生と成長機構」(綜合報告),日本結晶成長学会誌,Vol.8,

№34,P.145-155,(1981)

3)川中龍介,南郷重行,長谷川知治,村田安裕:「錫めっきのホィスカ防止と信頼性」,第 13

回日科技連信頼性・保全性シンポジウム,P.215-220(1983)

4)川中龍介:「錫ウィスカの発生メカニズム」,電子情報通信学会 信頼性研究会, 信学技報 R2005

-20,P.35-40(2005)

5)川中龍介:「錫ウィスカの結晶学」,日本信頼性学会関西支部講演会 予稿集,(2005)

6)川中龍介,南郷重行,長谷川知治,大谷 誠:「錫真正ホィスカ成長における鉛の抑制作用と

ホィスカ成長機構」,日本結晶学会誌,Vol.10,№2,P.148-156,(1983)

7)R. Kawanaka,K. Fujiwara,S. Nango,and T. Hasegawa: JJAP“Influence of Impurities on

the Growth of Tin Whiskers”Vol.22,№6,PP.917-922,(1983)

8)川中龍介:「材料信頼性技術と評価試験」,日本信頼性学会第 7回シンポジウム,信頼性 Vol.16,

№4,P.31-34,(1994)

9)川中龍介:「材料寿命に影響を与える材料特性」,マテリアルライフ学会,第 11回研究発表会

予稿集,P.49-52,(2000)

10)川中龍介:「製品・部品長寿命化のための材料選定プログラム」,マテリアルライフ学会,第

12 回研究発表会予稿集,P.107-110,(2001)

5. まとめ

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公益信託 エスペック地球環境研究・技術基金 -平成 19 年度 助成対象者 選考結果-

エスペック技術情報 No.51 16

表1 平成19年度 助成対象者一覧

研究代表者 所 属 研究テーマ 助成金額

村山 憲弘

関西大学

環境都市工学部

エネルギー・環境工学科 専任講師

アルミ再生工程で生じる廃棄物

を原料に用いるリン酸アルミ系

多孔性材料の創製

50万円

中野 伸一

愛媛大学

農学部

物質循環生物学研究室 教授

アオコを摂食するアメーバの生

態の解明とアオコ制御技術への

応用

60万円

竹林 英樹

神戸大学大学院

工学研究科

建築学専攻 助教

上空気象データを用いたヒート

アイランド対策技術導入効果の

簡易評価方法の検討

50万円

大橋 友恵

福井大学

工学部

生物応用化学科 学士過程

ごみの減量化,再利用に取り組む

環境教育の促進 30万円

松永 信博

九州大学大学院

総合理工学研究院

流体環境理工学部門 教授

生物化学的環境評価に基づいた

諫早湾底泥の健康診断 60万円

頭士 泰之

横浜国立大学大学院

環境情報学府

環境リスクマネジメント専攻 博士課程

フッ素系アルキル化合物による

環境汚染の歴史的変遷の解明 40万円

近江戸 伸子 神戸大学

人間発達環境学研究科 准教授

環境電磁波による植物成長の影

響に関する研究 25万円

倉光 英樹 富山大学大学院

理工学研究部 講師

土壌由来天然有機成分を利用し

た新規水処理剤の開発 30万円

岩本 伸司

京都大学大学院

工学研究科

物質エネルギー化学専攻 助教

可視光応答型光触媒による水中

硝酸イオンの浄化処理 70万円

岩花 剛 北海道大学大学院

工学研究科 特任助教 日本の山岳永久凍土環境の監視 65万円

高橋 正知

九州大学大学院

農学研究院 水産増殖学研究室

学術特定研究者

黒潮親潮移行域におけるウナギ

目レプトケパルス幼生の分布特

性と環境変動との対応に関する

研究

50万円

胡 柏 愛媛大学

農学部 教授

転作田をバイオエタノール原料

生産に活用するための事業化条

件に関する研究

60万円

市井 和仁 福島大学

共生システム理工学類 准教授

熱帯雨林における炭素循環モデ

ルの向上 60万円

大槻 浩 環境管理部 EM 推進グループ

№49 で掲載しました本基金の助成対象者の募集に際し,多数の応募をいただきありがとうござい

ました。運営委員会による厳正な審査・選考の結果,表 1のとおり 13 件の助成対象者を決定しま

したのでご報告いたします。

次回の募集は,2008 年 4 月 1日から 5月 31 日の予定です。

また,過去の研究報告書を弊社ホームページで公開していますのでご覧ください。

エスペック地球環境研究・技術基金より,「過去の助成対象テーマ一覧表」をクリックしてくださ

い。

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