希少糖(d-プシコース,d-アロース,d-タガトース)の 特性とそ …

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― 17 ― オレオサイエンス 第 13 巻第 9 号(2013) Copyright Ⓒ2013 by Japan Oil Chemists’Society 435 希少糖(D- プシコース,D- アロース,D- タガトース)の 特性とその利用 Properties of Three rare Sugars D-psicose, D-allose, D-tagatose and Their Applications 連絡者:飯田 哲郎 E-mail :[email protected] 論文要旨:希少糖とは,自然界に存在量が少ない単糖とその誘導体として国際希少糖学会によって定義さ れており,近年酵素的な大量生産法も確立された。D- グルコースや D- フラクトースなどの大量にある糖は エネルギーとなるが,希少糖は代謝されにくく,様々な生理活性を示す点が特徴的である。本稿では希少糖 の内で良く研究開発されている D- プシコース,D- アロース,D- タガトースの特徴を紹介した。D- プシコー スはカロリーゼロの糖で,砂糖の 70%程度の甘味度である。α グルコシダーゼの阻害作用とグルコキナー ゼの核外移行促進作用によって食後血糖上昇抑制作用が,肝臓における脂肪合成酵素の阻害を 1 つの機序と して内臓脂肪蓄積抑制作用が認められる。 D- アロースは,D- プシコースの異性体であり砂糖の 80%程度の甘味度である。血圧上昇抑制や虚血後再 灌流障害抑制作用,癌細胞増殖抑制作用などを示すが,細胞内での活性酸素の発生を抑制し,レドックス制 御に関わることが機序の 1 つとして考えられている。D- タガトースは砂糖の 90%程度の甘味度であり,エ ネルギーは 2 kcal/g である。HDL コレステロールの上昇効果や,D- プシコースと同様の機序である食後血 糖上昇抑制作用を示す。 Abstract: Rare sugars are monosaccharides and their derivatives those rarely exist in nature, de- fined by International Society of Rare Sugars. Recently enzymatic mass production of these sugars was established. D-glucose and D-fructose are abundant in nature and act as energy source, whereas rare sugars are not easily metabolized in the living organisms, but possess beneficial effects. In this report, we dealt with rare sugars such as D-psicose, D-allose, and D-tagatose, those have been well-studied so far. D-psicose is a zero calorie sweetener and has approximately 70% sweetness to sucrose. D-psicose suppresses the postprandial blood glucose elevation by α-glucosidase inhibition and facilitating gluco- kinase translocation. D-psicose also reduces the abdominal fat accumulation through the suppression of lipogenic enzymes in liver. D-allose has approximately 80% sweetness to sucrose and gives energy value close to zero. D-allose suppresses the generation of reactive oxygen species and regulates the redox states in various cell lines, led to the suppression of elevating blood pressure, ischemia-reperfu- sion injury, and cancer cell proliferations. D-tagatose has approximately 90% sweetness to sucrose and gives energy value close to 2 kcal/g. D-tagatose increases HDL cholesterol levels and suppresses the postprandial blood glucose elevation through the same mechanism as D-psicose. Key words: Rare sugar, D-Psicose, D-Allose, D-Tagatose, Abdominal fat, Reactive oxygen species 大隈 一裕 松谷化学工業株式会社 研究所 664-8508 兵庫県伊丹市北伊丹 5-3 Kazuhiro OKUMA Research & Development Department, Matsutani Chemical Industry Co., Ltd 5-3 Kita-Itami Itami City, Hyogo 664-8508, Japan 飯田 哲郎 松谷化学工業株式会社 研究所 664-8508 兵庫県伊丹市北伊丹 5-3 Tetsuo IIDA Research & Development Department, Matsutani Chemical Industry Co., Ltd 5-3 Kita-Itami Itami City, Hyogo 664-8508, Japan

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オレオサイエンス 第 13巻第 9号(2013)

総 説 Copyright Ⓒ2013 by Japan Oil Chemists’Society

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希少糖(D- プシコース,D- アロース,D- タガトース)の特性とその利用

Properties of Three rare Sugars D-psicose, D-allose, D-tagatose and Their Applications

連絡者:飯田 哲郎E-mail:[email protected]

論文要旨:希少糖とは,自然界に存在量が少ない単糖とその誘導体として国際希少糖学会によって定義されており,近年酵素的な大量生産法も確立された。D- グルコースやD- フラクトースなどの大量にある糖はエネルギーとなるが,希少糖は代謝されにくく,様々な生理活性を示す点が特徴的である。本稿では希少糖の内で良く研究開発されているD- プシコース,D- アロース,D- タガトースの特徴を紹介した。D- プシコースはカロリーゼロの糖で,砂糖の 70%程度の甘味度である。αグルコシダーゼの阻害作用とグルコキナーゼの核外移行促進作用によって食後血糖上昇抑制作用が,肝臓における脂肪合成酵素の阻害を 1つの機序として内臓脂肪蓄積抑制作用が認められる。D- アロースは,D- プシコースの異性体であり砂糖の 80%程度の甘味度である。血圧上昇抑制や虚血後再灌流障害抑制作用,癌細胞増殖抑制作用などを示すが,細胞内での活性酸素の発生を抑制し,レドックス制御に関わることが機序の 1つとして考えられている。D- タガトースは砂糖の 90%程度の甘味度であり,エネルギーは 2 kcal/g である。HDLコレステロールの上昇効果や,D- プシコースと同様の機序である食後血糖上昇抑制作用を示す。

Abstract: Rare sugars are monosaccharides and their derivatives those rarely exist in nature, de-fined by International Society of Rare Sugars. Recently enzymatic mass production of these sugars was established. D-glucose and D-fructose are abundant in nature and act as energy source, whereas rare sugars are not easily metabolized in the living organisms, but possess beneficial ef fects. In this report, we dealt with rare sugars such as D-psicose, D-allose, and D-tagatose, those have been well-studied so far. D-psicose is a zero calorie sweetener and has approximately 70% sweetness to sucrose. D-psicose suppresses the postprandial blood glucose elevation by α-glucosidase inhibition and facilitating gluco-kinase translocation. D-psicose also reduces the abdominal fat accumulation through the suppression of lipogenic enzymes in liver. D-allose has approximately 80% sweetness to sucrose and gives energy value close to zero. D-allose suppresses the generation of reactive oxygen species and regulates the redox states in various cell lines, led to the suppression of elevating blood pressure, ischemia-reperfu-sion injury, and cancer cell proliferations. D-tagatose has approximately 90% sweetness to sucrose and gives energy value close to 2 kcal/g. D-tagatose increases HDL cholesterol levels and suppresses the postprandial blood glucose elevation through the same mechanism as D-psicose.

Key words: Rare sugar, D-Psicose, D-Allose, D-Tagatose, Abdominal fat, Reactive oxygen species

大隈 一裕松谷化学工業株式会社 研究所〒 664-8508 兵庫県伊丹市北伊丹 5-3

Kazuhiro OKUMAResearch & Development Department, Matsutani Chemical Industry Co., Ltd5-3 Kita-Itami Itami City, Hyogo 664-8508, Japan

飯田 哲郎松谷化学工業株式会社 研究所〒 664-8508 兵庫県伊丹市北伊丹 5-3

Tetsuo IIDAResearch & Development Department, Matsutani Chemical Industry Co., Ltd5-3 Kita-Itami Itami City, Hyogo 664-8508, Japan

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1 はじめに

誘導体を除いた希少糖の構造上の違いは,ケトース,アルドース,糖アルコールである他は,水酸基の向きが異なることがあり,これらのことが立体構造にも影響を与えている。そして,これらの違いがそれぞれの糖が特徴的な生理活性を持つ所以となっている。

希少糖の中でも既に食品や食品添加物,医薬品として開発や利用がなされているものがあり,甘味質(度),天然での存在割合や製造法の確立し易さ,機能性,安全性など様々な点から検討されている。

これまで希少糖の開発が進まなかったのは,まずこれまで効率的な希少糖の製造法が無かったことがある。1896 年までに EmilFischer が有機合成の手法により糖の立体配置を完全に決定してから,1961 年に山中啓先生(現香川大学名誉教授)がグルコースイソメラーゼの実用化の方向性を示すまでは,食品産業へのグルコースからの単糖の利用への扉は開かれなかった。そして,何森らが 1992 年にケトース間を変換する酵素を発見し,

『イズモリング』を構築することで全ての単糖を効率的に作ることが出来るようになった 1)。全ての単糖を大量に生産できる道が開かれ,ここ 20 年程で希少糖の生理機能に関する研究は著しく進み,食品産業は新たな糖質食品素材としての選択肢の枠が広がることとなった。

イズモリングに沿った実用化の順番であるが,当然大量に存在する糖である果糖やガラクトースを起点としてイズモリングの順に生産していくこととなる。本報告では,イズモリング上で D- フラクトースの隣に位置するD- プシコースと,D- プシコースの隣に位置する D- アロース,D- ガラクトースの隣に位置する D- タガトースを紹介したい。

2 D- プシコース

2・1 構造D- プシコースは D- フラクトースの C-3 エピマーであ

り,Fig. 1 に , フィッシャー投影式を示す。2・2 製造方法

酵素 D- プシコース 3- エピメラーゼもしくは,D- タガトース 3- エピメラーゼによって,D- フラクトースを原料とし作ることができる。反応後疑似移動クロマトによる分離,精製,濃縮,乾燥を行い,純度 98%以上の製品を得る。2・3 分析方法

HPLC 法では,カラムは通常の単糖分析カラム(例えば HitachiGL-C611)と示差屈折率検出器を用いる。低濃度の検出では,PAD,蛍光検出器等を用いたポストカラム法を用いる 2)。2・4 一般的な性質

物性は同じケトースである D- フラクトースと似ているが,溶解度は D- フラクトースよりも低く,100 g の水に 270 g(20℃)程度溶解する。非(抗)齲蝕性で,甘味度は砂糖の 7 割程度であり,清涼感がありキレのいい甘さを示す。

加工食品中では,D- フラクトースを含む食品の加熱などにより生じ,糖蜜やソース,コーラなど多くの食品中に D- プシコースが確認されている 2)。また,植物の中にも D- プシコースを作るものがあり,食用植物ズイナ(Itea japonica)葉に約 2.7% D- プシコースが含まれることから,D- プシコースは天然の糖である。安全性に関しては,動物試験,臨床試験を通して確認されており,人における緩下作用に対する最大無作用量は 0.55 g/㎏体重程度である(Fig. 2)3-7)。2・5 利用

D- プシコースは , 主に 3 つの機能が報告されている。1 つ目は 0 kcal/g のエネルギー換算係数である。ラット

Fig. 1 幾つかの糖のフィッシャー投影式

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による生長曲線法を用いた実験,Whistler らが行った放射性同位体を用いた実験,臨床試験による体内動態・エネルギー試験から,D- プシコースが資化されず尿及び糞に排泄されることが示されている 6)。

2 つ目としては食後血糖上昇抑制作用があり,このヘルスクレームで特定保健用食品に申請されている。D-プシコースの食後血糖上昇抑制作用機序は主に 2 つあり,1 つは小腸における α- グルコシダーゼの阻害作用で,も う 一 つ は 肝 細 胞 に お け る グ ル コ キ ナ ー ゼ

(Glucokinase:GK)転移作用による肝糖代謝促進作用である。2 型糖尿病モデル動物である Goto-Kakizaki ラットを用いた検討では,2 g/kg 体重 D- グルコース溶液に対して 0.2 g/kg 体重 D- プシコース添加で有意な血糖上昇抑制効果が認められている 8)。糖尿病境界域を含むヒトを対象とした菓子パンと 5 gD- プシコースを負荷した試験においても同様な結果が得られている(Fig. 3)7)。

3 つ目として,D- プシコースの内臓脂肪蓄積抑制作用

は,多くの動物試験で報告されている。例えば,炭水化物の過剰摂取によって引き起こされる肥満の報告は近年異性化糖,特に D- フラクトースの過剰摂取を起因としている報告が多い。この異性化糖食に対するD-プシコースの効果に関して,6%以上の用量で体重増加量に,4%以上の用量で脂肪重量に差が認められていることが報告されている(Fig. 4)9)。抗肥満作用の機序としては,肝臓における脂肪酸シンターゼ活性と D- グルコース 6 リン酸デヒドロゲナーゼ活性の抑制が示され 10),エネルギー消費量の向上効果も示されている(第 67 回日本栄養・食糧学会(2013);3F-13a)。病態動物を用いた例では,C57BL/6Jdb/db マウスを用いた報告や,OLETFラットを用いた検討では,有意な体重,内臓脂肪の減少が 認 め ら れ て お り, 第 133 回 日 本 薬 学 会(2013);29T-am10S では,ob/ob マウスを用いた脂肪肝抑制作

Fig. 2 D- プシコース,D- アロースの安全性試験

Fig. 3 糖尿病境界型 15 名での単回摂取による食後血糖値への影響 7)。〔ダブルブラインド・クロスオーバー試験〕

Fig. 4 異性化糖食に対する D- プシコースの抗肥満作用-量設定試験 9)。35 匹の 4 週齢雄性ウィスターラットを5 週間飼育

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用が報告されている 11,12)。D- プシコースはその他でも,単 球 走 化 性 蛋 白 質(MCP-1:MonocyteChemotacticProtein-1)の発現抑制,高血糖状態で発現が抑制されるCLA-1(CD36andLIMP Ⅱanalogous-1)の発現低下抑制,糖尿病における膵 β 細胞の劣化抑制など,糖代謝,脂質代謝改善に対する様々な作用点を持ちそれらが影響を及ぼし合いメタボリックシンドローム改善の方向に進めていることが推察される。D- プシコースの糖質,脂質代謝改善作用のポイントを Fig. 5 にまとめた。

3 D- アロース

3・1 構造D- アロースは D- グルコースの C-3 エピマーであり,

Fig. 1 に , フィッシャー投影式を示す。3・2 製造方法

酵素 L- ラムノースイソメラーゼは,L- ラムノースとL- ラムヌロース間の変換を触媒し,この酵素により D-アロースは D- プシコースから作られる。精製等は 2・2と同様。3・3 分析方法

2・3 と同様であるが,前記カラムではタガトースとアロースのピークが重なるので,CARBOSepCHO-682

(東京化成工業)等のカラムを用いる。3・4 一般的な性質

物性は同じアルドースである D- グルコースと似ているが,溶解度は D- グルコースよりも高く,100 g の水に 100 g(20℃)程度溶解するが,時間と共に 2 水和物の結晶が析出する。甘味度は砂糖の 8 割程度で味質も砂糖に近い。6 ヵ月のラットにおける反復投与試験で安全性が確かめられ,代謝に関しては,90%以上の D- アロー

スが尿中に排泄されることから,摂取した大部分の D-アロースはエネルギーとして利用されずに排泄されることが推察される(Fig. 2)13,14)。これまで,天然に存在する D- アロースの報告は殆ど無かったが,最近,インドの海藻中に 3.67%程度存在することや,胎児の臍帯血に含まれていることが報告され,D- アロースの自然界での新たな役割の発見に繋がる可能性が広がってきた 15,16)。3・5 利用

D- アロースは,細胞内のレドックス制御への影響が共通した機序である。そのため医薬品として,また全く新しい機能を持つ甘味料として開発できる可能性がある。

D- アロースの抗酸化作用は,カテキンやビタミン Cなど還元力を機序とする抗酸化剤とは異なり,種々のストレス時に細胞から発生する活性酸素発生を抑制することが特徴である。例えば,生活習慣病の重要な危険因子である高血圧症を誘発する一因として,血管内皮から発生する活性酸素の関与が知られている。4%食塩食で 4週間飼育した Dahl 食塩感受性高血圧ラットの高血圧に対して,収縮期拡張期血圧共に2 g/kg体重/日D-アロース投与によって有意な低下が認められている 17)。D- アロースの活性酸素発生阻害作用機序としては,NADPHオキシダーゼの発現抑制及び,生体内の活性酸素のリーク源の 1 つであるミトコンドリアの酸化的リン酸化の過程で生成する活性酸素の発生抑制作用が示されている18)。

この様な活性酸素の発生抑制作用は,虚血再灌流障害の予防に特に有効であり 19),レドックス制御系の誘導因子ともなりうることで,癌細胞や破骨細胞などの分化増殖抑制などへも影響を与える 20)。このように糖は単にエネルギーや細胞の構成成分以上の働きがあり,特に

Fig. 5 D- プシコースの作用部位

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レドックス制御の視点から捉えることで新しい利用法の可能性を開くものと考えられる。

4 D- タガトース

4・1 構造D- タガトースは D- ソルボースの C-3 エピマーであり,

Fig. 1 に , フィッシャー投影式を示す。4・2 製造方法

L- アラビノースイソメラーゼは,L- アラビノースとL- リブロース間の変換を触媒する酵素で,この酵素により D- タガトースは D- ガラクトースから作ることが出来る。また,カルシウムと D- タガトースとが効率良く複合物を形成する特質を利用して,水酸化カルシウムの存在下,D- ガラクトースを異性化する工業的生産方法も用いられていた。なお,原料となる D- ガラクトースは乳糖を加水分解して得られる。4・3 分析方法

3・3 と同様。4・4 一般的な性質

物性は同じケトースである D- フラクトースと似ているが,溶解度は D- フラクトースよりも低く,100 g の水に 130 g(20℃)程度溶解する。

D- タガトースは,砂糖の 9 割程度の甘さを持ち,食経験に関しては乳製品中に微量であるが広範に認められる。50%程度が小腸から吸収されるが,D- プシコースと異なり,細胞内でリン酸化された後アルドラーゼの基質となるため細胞内でエネルギーとなる。そのため,エネルギー換算係数としては 2 kcal/g とされる 21)。

多数の毒性学的試験が行われており,海外では,2001年 GRAS,2005 年 Novel food として認められており安全性は高いと考えられる。人における緩下作用に対する最大無作用量は 0.25 g/kg 体重程度である 21)。4・5 利用

D- タガトースは,食後血糖値上昇抑制作用が認められ,この機能をヘルスクレームとした特定保健用食品に申請された経緯がある。作用機序としては,D- プシコースと同様な α- グルコシダーゼ阻害と肝臓でのグルコキナーゼの核外への転移促進作用が推測されている。ケトースのリン酸化体にはグルコキナーゼの核外転移促進作用が認められるが,リン酸化体への成りやすさ,その後の代謝の経路によって活性化の程度が異なると考えられるが,この点に関しては今後の研究を待つ必要が有る。また,1 年間の 2 型糖尿病患者への長期投与試験においては,HbA1c の低下作用,HDL- コレステロールの上昇効果,体重の減少が認められ,糖尿病薬としての開発も進むメタボリックシンドロームに対応する食品成分

として期待される 22)。

5 おわりに

希少糖は産学官連携の研究開発事業として国や県の研究開発支援事業(科学技術庁「地域先導研究」,文部科学省「知的クラスター創成事業」,「都市エリア産学官連携促進事業」,香川県「糖質バイオクラスター構想」,経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業」など)に採択され事業が進められてきたが,最近,生産技術の確立と応用研究に関して新しい方向性も見出されている。生産面では,イズモリングが 1,2 及び 2,3- エンジオール反応を酵素で進めるのに対して,19 世紀後半にロブリー・ドブリュイン-ファンエッケンシュタイン(LobrydeBruynandAlberdavanEkenstein)転位反応(Ldb反応)と呼ばれる,アルカリ条件下でのアルドース,ケトースの異性化反応が報告されている。この反応をぶどう糖,果糖を出発として利用すると,5%程度 D- プシコースを含む混合糖が得られる。上記より D- プシコースを数%程度含めば内臓脂肪蓄積抑制効果が認められる結果が得られているので,この反応を利用することで肥満予防の甘味料が製造でき,商品化が成されている。

研究面に関しては,近年のアンチエィジングの研究では,カロリー制限が着目されているが,希少糖には線虫の寿命延長効果や,その機序としてサーチュイン遺伝子の関与が報告された(2013 年度日本農芸化学会)。希少糖の基盤となる機序が内臓脂肪の低減やレドックス制御である以上,最終的には寿命と一本の線で結ばれ,この研究分野がターゲットとなって来るものと考えられる。

最後に,希少糖は糖であるにも関わらず,種々の疾病に関わる脂質代謝や活性酸素の発生に影響を与える点が研究としても,産業化の面からも興味深い。まだまだ解明されていないことも多いことから,これまで希少糖の研究に尽力して頂いております大学の諸先生方に感謝申し上げると共に,更に多くの研究者の方々の助力を乞えれば幸いです。

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