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栄養ケアプロセスの概要
◆ はじめに アメリカ栄養士会(ADA)は,絶えず言い続けているのであるが,戦略的な計画は栄養士会とし
ての優先的課題であり,それは委員会,ワーキンググループおよび作業部会が栄養士の専門性を向
上させるために作成しているツールである。2002年,ADA品質管理委員会は,食物・栄養の専門
職の必要性を増大させるADAの戦略的計画を達成させる目的と,彼らが市場で競争力がつくため
の援助をするために,栄養ケアモデル・ワーキンググループを創設した。このワーキンググループ
は,食物・栄養の専門職がどのように患者やクライアントにケアを提供するのかを示したシステム
化された過程を“栄養ケアプロセスとモデル”として発展させてきた※1(p.9)。
この栄養ケアプロセス(NCP)は,患者・クライアントあるいはグループのために,個々のケア
の品質と一貫性を改善し,また,患者・クライアントの結果が予期できる可能性を改善するように
デザインされている。つまり,個々の患者やクライアントの栄養ケアを単に標準化するだけではな
く,ケアを提供するための過程を標準化することを目的にしているのである。
memo
NCPにおいて,患者・クライアントという用語が使用されているが,これは,ある過程ではグル
ープという意味にも使用される。さらに,NCPでは,家族やそれぞれの介護者は,患者・クライアン
トと同様に,食物・栄養の専門職にとって重要な人材である。したがって,患者・クライアントと言
及されているとしても,患者やクライアントのグループ,家族,介護者を含んでいることになる。
その過程には,4つの段階がある。
①栄養アセスメント
②栄養診断
③栄養介入
④栄養モニタリングと評価
食物・栄養の専門職は,NCPにおける3つの段階(栄養アセスメント,栄養介入,栄養モニタリ
ングと評価)に精通し,栄養学の教科書にもすでにこれらの内容は取り扱われている。しかし,ワ
ーキンググループは,栄養ケアにおける栄養診断が一般に十分理解されていないと認識している。
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さらに,そのプロセスの第2段階において分類方法が標準化されたことにより,文書記録,情報
交換,そして栄養ケアの影響を調べる専門能力が大いに強化されたことが認められている。
以上の結果から,ADAの標準言語委員会が,専門職が用いる特別な栄養診断の用語の分類方法
を作成するために結成された。その標準用語は,2005年のFood and Nutrition Conference
and Exhibition(食品・栄養会議と展示会)の発表時に説明され,その会議の公表から利用可能
とされている※2。栄養診断の用語は,多数の研究プロジェクトで研究が進められている。さらに,今
後のさらなる研究により,用語への修正が加えられていくことになる。
標準言語委員会は,NCPの4段階を徹底的に検討し,栄養アセスメント,栄養診断,栄養介
入,栄養モニタリングと評価という用語で標準化することを公表した。
◆ 栄養ケアプロセスの段階*Step1:栄養アセスメント �
栄養アセスメントは,栄養が関係する問題,それらの原因,さらに意義を識別するために必要な
データを収得・解明・検証するためのシステマチックな方法である。それは,常に継続され,非線
形で動的な過程であり,初期のデータ収集でもある。また,特定の基準と比較することにより,患
者やクライアントの症状を継続的に再評価や分析することでもある。栄養アセスメントのデータか
ら,食物・栄養の専門職は栄養診断・問題が存在するか否かを決定することができる。食物・栄養
の専門職にはよく知られているが,この段階で同様の障害をもつ患者やクライアントの情報交換を
行う際,標準用語を使用することは,栄養アセスメントをより発展させることにつながる。
栄養アセスメントは,5つの項目に分けられる。
①食物/栄養関連の履歴
②身体計測
③生化学データ,医学検査と手順
④栄養に焦点をあてた身体所見
⑤既往歴
患者やクライアントが栄養ケアから利益を得るかもしれないと確信した際,栄養アセスメントは,
患者やクライアントが専門職に紹介された後,または,明確な栄養スクリーニングが行われた後に
始まる。栄養アセスメントは,栄養診断・問題が存在するか否かの適切な決定へと導いてくれる過
程である。このようにすれば,食物・栄養の専門職は,問題を診断して,NCPのStep2にある
“PES報告書”を適切に作成できることになる。PESとは,P(問題点),E(病因),S(徴候/症
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栄養ケアプロセスの概要
状)である。また,食物・栄養の専門職は,ケアの継続のための計画を発展させ,さらなる情報収
集や検査の必要性を伝えることができるようにもなる。もし,初期のアセスメントや再アセスメント
が完璧に行われ,栄養問題が存在しないか,さらなる栄養ケアによって修正すべきことがないと結
論づけられるならば,栄養ケアの解除または中止とすることができる※3。
標準用語を用いることは,栄養アセスメントの調査結果をより効果的に比較することができる。
そのために,標準言語委員会は,標準用語,データ収集および栄養アセスメントの評価手法を解説
してきた。栄養アセスメントは,研究に多くの機会を与え,いろいろな職域で個人や集団のために
使用すべきデータを決定するために役立つことになる。
*Step2:栄養診断 �
栄養診断は,栄養アセスメントと栄養介入の間の重要な段階である。栄養診断の用語を標準化す
る目的は,専門職やその他の者が栄養問題を明確に表現するためである。標準用語を用いることに
より,栄養ケアの情報と記録文書が強化され,将来,研究のために最低限必要なデータや共通の基
礎データを提供することができるようになる。
簡単に言えば,食物・栄養の専門職が特定の栄養診断[例:炭水化物過剰摂取]を記載すれ
ば,専門職として,その処置に対して個別に責任を負うことになる。栄養診断は,栄養介入により
問題を完全に解決できるのか,あるいは少なくとも徴候と症状を改善するのかを明らかにすること
になる。一方,医療診断は,器官や体組織の病変や病理[例:糖尿病]を表している。栄養診断で
は,食物・栄養の専門職が“嚥下障害(NC-1.1)”と診断するように,栄養の結果として出現した
機能的問題を記載することになる。食物・栄養の専門職は,医療診断を行うのではなく,栄養領域
に限られた現象を診断するのである。
ADA標準言語委員会は,栄養診断が最終的には3つの領域から構成されていると述べている。
①摂取量
②臨床栄養
③行動と生活環境
70の栄養診断が認められている。各々の栄養診断を記載し,専門職の入力と研究へのフィードバ
ックを取り入れるために参考記述がされている。
栄養診断のPES報告書が記録文書となるのは,栄養ケアプロセスにおけるこの段階である。この
報告書は,問題点(P),病因(E)および徴候/症状(S)の3つの項目から構成されている。
PES報告書は,栄養アセスメントで収集された総合的な情報から作成される。
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STEP1
栄養アセスメント
FH
4.1
◆ 定義 食物・栄養・健康に関わる内容の分野やレベル,患者・クライアントに必要な栄養に関連した情
報およびガイドライン
◆ 栄養アセスメント・栄養モニタリング・評価*指標 �
知識のレベルを特定するため,それぞれの興味の分野により,次の用語を使用する。 ・不十分 ・基本(最低限の事実を知っているだけで,実用性が少ない) ・適度(具体的な状況に対して知識を応用できる) ・理解力がある(新しい状況に対して知識を応用して総合的に評価することができる)
・知識の分野とレベル
・授乳[例:乳児の満足度のサイン]
・食物行動の結果
・病気・症状
・目標設定技術
・食品表示
・食物製品
・食物・栄養必要量
・健康知識の隔たり[例:実際の健康状態と健康や健康ガイダンスへの理解との対比]
・健康ケアへの理解力
・臨床検査値と望ましい結果を比較する
・身体症状のレベル
・栄養推奨量
・生理的機能
・自己管理のパラメータ
FH-4.1 食物・栄養知識FH-4 知識・信念・態度
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・食物の盛りつけ量の管理
・食事の準備・調理
・刺激への反応行動を管理する。[例:誘因・きっかけを認識し,計画を発展させ,環境や行
動を修正する]
・食事・軽食の計画
・健康な食物・食事の選択
・セルフモニタリング
・その他 具体例:話題と知識のレベル
・栄養に関連した特定または広範囲の知識のスコアの診断
*これらの指標の測定方法・情報源の例 �
口頭,筆記,コンピュータによる実施される介入前・介入後の試験,状況についての話し合い,
患者・クライアントによる主要情報の説明,食事記録の見直し,実践的なデモンストレーション・テ
スト,調査,栄養指標,栄養質問票,栄養アセスメント一覧表
*主に使用される栄養介入の分野 �
栄養教育,栄養カウンセリング
*変化を測定,モニタリング,評価する際に主に使用される栄養診断 �
食物・栄養に関連した知識不足,栄養に関連した提言に対する遵守の限界,望ましくない食物選
択,授乳困難,体重過多・肥満,摂取の範囲
memo
臨床判断は,指標を選択するため,また対象である患者集団や環境に対して適切な測定方法や参
照基準を決定するために利用されなければならない。これらの指標・測定方法・参照基準は一度特
定されると,患者・クライアントの記録,質や行動改善,公式な研究プロジェクトにおける方針や手
順,その他の書類の中で使用されるべきである。
具体例:�使用するツール(Type2�Diabetes�BASICs�Pre/Post�Knowledge�Testおよび
スコア)
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STEP1
栄養アセスメント
FH
4.1
◆ 評価*評価基準 �
目標や参照基準との比較
①目標(個人の必要性に合わせる)
あるいは
②参照基準
◆ 患者・クライアントの例 栄養ケア指標の1,2例(1つの指標に対して初回と再評価の記録の例を含む)
*選択された指標 �
知識の分野とレベル カーボカウント
*評価基準 �
目標や参照基準との比較
①目標:患者・クライアントは,正確に食品表示を読むことができ,1食当たりの炭水化物の総
グラム数を認識することができる。
あるいは
②参照基準:有効な基準は存在しない。
栄養アセスメント・栄養モニタリング・評価の記録の例
患者・クライアントとの初回栄養アセスメント
初めて糖尿病と診断された患者・クライアントは,カーボカウントに関する知識が不十分であった。
栄養介入後の再評価 患者・クライアントは,カーボカウントに関する基本的な知識をもち,一般的な状況で知識を適用することができる。しかし,自分自身の食事療法へ知識を活用することはできない。次の1週間後の面接で,モニタリングを継続する。