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B 栄養アセスメント

主なアセスメントに使用する情報として,臨床診査,臨床検査,身体計測,食事

調査,食環境などがある。対象者の栄養にかかわるいくつかの指標について,直接

的な評価方法と間接的な評価方法を併せて用い,総合的に判定する。

●静的栄養アセスメント(static nutritional assessment)とは 個人あるいは

集団の栄養状態について,ある一時点で栄養障害の有無,その程度などを把握

しようとするものであり,摂取した栄養素の過不足や疾患特有の栄養状態を把

握することができる。

・指標:身体計測,免疫能,半減期の長い臨床検査である(表 1 ─ 4 )。

●動的栄養アセスメント(dynamic nutritional assessment)とは 経時的な

栄養状態の変化を評価するもので,栄養ケア開始後の効果判定や病態の推移の

観察に役立てるものである。適切な栄養補給や病状の変化によって,短期間に

変動するような評価項目が用いられる。

免疫能免疫応答を引き起こす能力。免疫能の低下により,重篤なウイルス感染,真菌感染,悪性腫瘍の発症をみることがある。

半減期血液に分泌された物質が分解されて半分の量になるまでの日数。

標準体重比(% IBW) 90%以上:正常80~90%:軽度の栄養障害70~80%:中等度の栄養障害70%以下:高度の栄養障害

健常時(平常時)体重比(% UBW)

85~95%:軽度の栄養障害75~85%:中等度の栄養障害75%以下:高度の栄養障害

体重減少率 1 ~ 2 %以上/ 1 週間5 %以上/ 1 カ月7.5%以上/ 3 カ月10%以上/ 6 カ月以上これらの場合,有意の体重変化と判定

BMI 18.5未満:やせ18.5以上25未満:普通体重25以上30未満:肥満 1 度30以上35未満:肥満 2 度35以上40未満:肥満 3 度40以上:肥満 4 度

上腕三頭筋皮下脂肪厚 標準値*と比較して90%以上:正常80~90%:軽度の栄養障害60~80%:中等度の栄養障害60%以下:高度の栄養障害

皮下脂肪厚 上腕三頭筋部と肩甲骨下部の皮下脂肪厚の合計値成人男性40mm 以上,成人女性50mm 以上:肥満

ウエスト/ヒップ比 男性1.0以上,女性0.9以上:内臓脂肪型肥満* 金らの標準値:金昌雄,岡田正,井村賢治ら:栄養状態の把握と検査;身体計測,医学のあゆみ,120,387─395(1982)

注) 金らの標準値が発売されて30年が経過した。この間の日本人の体型の変化や60歳以上の測定対象者数増加の要求に対し,日本栄養アセスメント研究会身体計測基準値検討委員会『日本人の新身体計測基準値 JARD2001』(栄養評価と治療,19(suppl.),メディカルレビュー社(2002))が発売されている。

資料) 稲山貴代:第 3 章 栄養ケア・マネジメント,管理栄養士講座 改訂ライフステージ栄養学/藤田美明,池本真二編著,p. 59(2011)建帛社

表1─3 身体計測による栄養状態の評価(例)

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B 栄養アセスメント

2 身体計測人体は,栄養素とその関連成分の組み合わせから構成されている。しかも,骨

格,体脂肪,筋肉などは,それぞれが組織としての機能を果たしながら,栄養素の

貯蔵庫になっている。したがって,体構成成分の状態を評価すれば,栄養素の貯蔵

状態を知ることができる。

体構成成分を直接測定するのは困難であるため,実際には各種身体計測によりそ

の内容を推定することになる。一般的な身体計測の内容は,身長と体重からの各種

体格指数,皮下脂肪厚,体脂肪率,上腕周囲長,ウエスト/ヒップ比などがある。

●身長・体重 身体計測の中で一般に用いられるのが,身長と体重である。身

長と体重から対象の年齢に応じた体格指数を算出し,栄養状態や肥満の判定を

行う。また,体重そのものの変化,健常時(平常時)や標準体重との比,変化

率,さらにその変化の期間などにより,栄養状態を判定する。標準体重は,身

長(m)2×22により算出する。

一般症状 〈低栄養〉・ 乳幼児および小児:食欲不振,体重増加停止,筋肉および精神的発達の遅延,活動性の

低下,不眠,無感覚,慢性下痢あるいは便秘。・ 成人:食欲不振,吐き気,口唇・舌あるいは肛門の腫脹,眼球のかゆみ,倦怠,疲労,不眠

症,抵抗力減退,感情的な混乱,手・足・舌の知覚異常,消化機能障害,労働後の一時浮腫。〈過剰栄養〉体脂肪の増加,活動性の低下,疲労,動悸,息切れ,関節痛などを訴える。

脈拍・血圧 栄養失調の際,脈拍数は減少し, 1 分間40以下,ときに30以下になることがある。また,血圧は収縮期および拡張期とも降下する。

毛髪 重症のたんぱく質・エネルギー栄養障害では毛が形態的に違うことが立証されている。特に毛根の径は栄養状態を反映する。

眼 角膜および上皮は栄養不良によって構造的にしばしば影響を受ける。角膜はビタミン A,ナトリウムの欠乏で,水晶体はカルシウム,ビタミン B2 およびトリプトファンの欠乏で,網膜はコリン欠乏およびビタミン A 過剰で影響を受ける。

舌および口唇

鉄の欠乏により口角炎,舌炎が起こり,悪性貧血の場合,舌がすべすべとなる。ビタミンB2 の欠乏によっても口角炎が起こる。

皮膚および粘膜

角質増殖を伴った皮膚の乾燥症はビタミン A 欠乏,脂漏性皮膚炎はビタミン B2 欠乏にみられ,ニコチン酸欠乏により身体の両側に対称的にいわゆるペラグラ皮膚炎が起こる。

軟骨および骨

軟骨および骨は特殊化した結合組織であり,カルシウム,リン,ビタミン D,ビタミンA,マンガンの欠乏によって影響を受ける。

浮腫 栄養性浮腫は次の 3 つの場合が考えられる。・ビタミン B1 が欠乏し,しかも食事が炭水化物に偏し,脚気状態になった場合。・血漿たんぱく質,特にアルブミン濃度の低下,その結果,浸透圧の降下を伴った場合。・エネルギー欠乏によって起こる「飢餓浮腫」と呼ばれるもの。

貧血 鉄,たんぱく質,総エネルギーの不足によって起こる。かつて農村女性に多発したが,これは良質のたんぱく質不足と過酷な労働のため。近年,都市の若年女性に貧血がみられるが,不必要な減食,節食によるものが多いといわれている。

無月経 極端な減食により低栄養状態となり,そのために生殖機能が低下し,無月経になる場合がある。資料) 中村丁次:健康づくり指導者養成テキスト,p. 46(1999)(財)東京都健康づくり推進センターを一部改変

表1─5 栄養障害に関係した自他覚症状