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ロジスティクス Keep ASEAN Moving 昭和44年9月30日 第三種郵便物認可 禁無断転載 Ⓒ海事プレス社2020 日刊、但し土・日・祝日は休刊 KAIJI PRESS CO.,LTD. Transport & Logistics News 2020 7 27 アセアン特集

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Page 1: DailyCargo別冊 200727アセアン特集 0716 · 2020-07-22 · ベトナム政府は、3月22日から全ての外国人の入国を停止を決定。これを受け、ベトナム航空は

ロジスティクスの力~Keep ASEAN Moving~

昭和44年9月30日 第三種郵便物認可 禁無断転載 Ⓒ海事プレス社2020 日刊、但し土・日・祝日は休刊

KAIJI PRESS CO.,LTD.Transport & Logistics News

2020年7月27日アセアン特集

Page 2: DailyCargo別冊 200727アセアン特集 0716 · 2020-07-22 · ベトナム政府は、3月22日から全ての外国人の入国を停止を決定。これを受け、ベトナム航空は

物流を 止めない~PRIDE OF  LOGISTICS~

MOLロジスティクス・ベトナムのハイフォンロジスティクスセンターのスタッフ

阪急阪神エクスプレスのベトナム法人で、ホーチミンロジスティクスセンターで奮闘中のスタッフ

山九が今年6月に開設したタイ・アマタナコンフレイトセンターでの作業の様子

阪急阪神エクスプレスのタイ現地法人で、タイ・バンコク経由BCP’sサービスを販売している営業チーム

近鉄ワールドエクスプレス・シンガポールはオンライン会議を積極的に進める

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 世界は一変した。 新型コロナウイルス感染防止のため、アセアン(東南アジア諸国連合)各国では移動・活動制限措置や出入国制限措置がとられ、生活、企業活動に大きな制約が出た。 「物流を止めない」—。世界の物流事業者の使命は不変だ。その使命を胸に、アセアンで奮闘する日系物流事業者の取り組みを紹介する。

物流を 止めない~PRIDE OF  LOGISTICS~

郵船ロジスティクスのベトナム現地法人で、ハノイ・ノイバイ国際空港ターミナルの現場プロジェクトメンバー

鈴江コーポレーションのミャンマー現地合弁会社のコンテナ・フレート・ステーションとスタッフ

郵船ロジスティクスのベトナム現地法人で、ハノイのエアフレイトフォワーディング(AFF)チームのオペレーションプロジェクトメンバー

フィリピン日本通運のオペレーションの様子

フィリピン日本通運の事務所内の様子

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アセアン特集4 第3種郵便物認可 2020年7月27(月)

 近鉄エクスプレスのシンガポール現地法人、近鉄ワールドエクスプレス・シンガポールは、新型コロナウイルス感染拡大防止策を通じ、“ニューノーマル”に積極的に対応していく。同国では4月7日、企業の事業所や学校に閉鎖などを求める「サーキットブレーカー」が発令した(6月2日から3段階で職場閉鎖解除)。 同社は営業部門を中心に約2割が順次、在宅勤務を開始し、オンライン会議も積極的に進めている。同社の照沼宏偉取締役社長は「キーワードは

『デジタルトランスフォーメーション』(DX)だ」とする。収集した情報を業務部門や調達・購買部門に即時展開し、今後の行動計画の立案、策定につなげる。「内容や効率性の問題はあるものの、それ以上に実践していく

メリットを感じている。“ニューノーマル”に対応していくうえで、今後も継続していく」。 サーキットブレーカー下では、同国の重点産業でもあり、また、シンガポール現法の主要顧客である半導体、エレクトロニクス、ヘルスケア 関連メーカーの操業は認められた。航空旅客便数の9割が減少する中、特に3〜5月は中国、韓国、日本、米国向け航空スペース確保が困難を極めた。同社は、運航が続く定期貨物便のレギュラースペースの確保に加え、“旅客機貨物便(旅客機で貨物のみを輸送するフライト)”のチャーター 便手配で対応。同時期、航空チャーター便は日本、韓国、米国向けで行った。 隣国マレーシアとの関係でも物流

に大きな影響が出た。マレーシアでは3月18日から全国規模の移動制限措置が始まり、厳しい出入国制限もとられた。シンガポール現法は、越境で通勤するマレーシア人社員十数人分の宿泊施設を確保。通勤費、食事代などを補助し、倉庫業務継続を図った。照沼社長は「家庭の問題があるにもかかわらず、シンガポール島内にとどまり、勤務にあたってくれた社員には本当に頭が下がる思いだ」と感謝の言葉を述べた。

星港で“ニューノーマル”実践■近鉄エクスプレス

近鉄ワールドエクスプレス・シンガポールの照沼宏偉取締役社長

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アセアン特集 52020年7月27日(月) 第3種郵便物認可

 山九は東南アジアで大型倉庫を立ち上げる。マレーシアでは、ポートクラン港(スランゴール州)のウエストポート内に2021年3月1日、「アジア・ハブセンター」を開設する予定だ。計画自体は新型コロナウイルス感染拡大以前に決定したもの。施設は平屋・高床式で、倉庫面積は2万平方メートル。 フリートレードゾーン(FTZ)内に位置する。非課税であり、荷主にとり、非居住者在庫、保管中の転売、荷姿変更、輸出入手続き免除など、コスト削減やリードタイム短縮のメリットを追求できる。同国では税関による保税運送手続きの厳格化が進んでいるという。そのため、「今後、ハブ機能型倉庫としてはFTZ内の立地が必須となる可能性が高まっている」(山九

東南アジアホールディングスの山下抄一物流事業統括部長)といい、顧客需要に対応する。 一方、同港のターミナルオペレーター、ウエストポーツ・マレーシアと契約し、今年6月1日からTSP(トランシップメント・ステージド・ポスト)サービスの提供を開始した。ウエストポーツによるTSPは優遇条件を付け、コンテナをデバンしないままコンテナヤードに保管できるもの。NVOCCとの契約は山九マレーシアが初という。無料で保管可能なフリー期間は4週間と設定。荷主は、期間中に商談を行い、成約に応じて、最終仕向け地への出荷が可能となる。 山九マレーシアでは「アジア・ハブセンター」とTSPで、顧客のサプライチェーン(SC)に柔軟性も付与す

る。コンテナ到着後はTSPを利用し、さらに保管期間が必要な場合は「アジア・ハブセンター」の利用を提案。

「アジア域内のSC再構築の需要に対応していく」(同)方針だ。

マレーシアにアジア・ハブ■山九

山九東南アジアホールディングスの山下抄一物流事業統括部長

マレーシアの「アジア・ハブセンター」(完成イメージ)

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アセアン特集6 第3種郵便物認可 2020年7月27(月)

 阪急阪神エクスプレスのアセアン極は、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、フィリピン、インドネシアおよびインドの9カ国を管轄する。同極の日本人駐在員は、赤松弘之執行役員アセアン極総支配人を含め40人。ナショナルスタッフは1191人が在籍する。アセアン極各国では今年3月以降、移動・活動制限や出入国規制措置が次々と発出され、社会・企業活動に大きな制約が出た。赤松執行役員は、そうした厳しい状況下、「駐在員はあらゆることを必死で考え、全員が赴任地にとどまり、陣頭指揮を執ることを決めた。その責任感と使命感には心を動かされた」と振り返る。 フォワーダーが直面した大きな課題は、航空旅客便の大幅な減便・運

休に伴う航空キャパシティーの確保だ。その中で、タイでは、まだ、他国に比べて、一定のフライトが残っていた時期に、「バンコク・コネクション・プライオリティ・サービス(BCP’s)」を開発した。航空輸送が困難となったカンボジアやミャンマーなど、タイ近隣国の貨物をバンコクに集約し、日本をはじめ世界の仕向け地へ航空輸送するもの。 赤松執行役員は「顧客に評価を頂き、選ばれる物流業者として、止めない物流の一助となれたことは大きな誇り」と語る。バンコクではまた、旅客機で貨物のみを輸送する、いわゆる“旅客機貨物便”のチャーターを3月29日、バンコク・ドンムアン発成田向けで行った。同様のスキームをバンコク・ドンムアン−成田で複数回、

往復で手配。現在でも需要に応じ、いつでも対応可能としている。 終息までには時間がかかるとみられる中、見据える視線は「ウィズ・コロナ」での営業活動の本格化に注がれている。例えば、同極で日本人駐在員とナショナルスタッフそれぞれが組織横断営業チームを結成し、「ロケットスタートができるよう準備している」(赤松執行役員)。ベトナムでは今年中にハイフォンとホーチミンの倉庫を拡充する予定だ。

全駐在員が赴任地で指揮・提案■阪急阪神エクスプレス

赤松弘之執行役員アセアン極総支配人

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アセアン特集 72020年7月27日(月) 第3種郵便物認可

 郵船ロジスティクスは南アジア・オセアニア地域(SAO)で、新型コロナウイルス禍の対応に加え、新たな需要への準備も進める。同地域全体での企業活動の本格回復には時間がかかると見ており、その間、各国で喫緊の課題として、倉庫、通関、陸送など国内物流の体制整備に取り組む。 倉庫関係の引き合いは多い。例えば、eコマース(EC)関連で地域をまたぐ引き合いも多いという。倉庫運用実績や高品質なサービスを駆使し、より顧客のサプライチェーン(SC)に入り込むビジネスの展開を目指す。タイでは、自動車関連の生産回復に時間がかかるとみる一方、倉庫需要は増加しており、国内ビジネスを強化。その中で、食品物流のサービス強化に向け、既存の物流施設や

サービス網を拡充し、安定的なサービス供給を図る。 SC関連では、郵船ロジスティクスは今年度、新たにサプライチェーン・ソリューション(SCS)を事業化した。海上・航空フォワーディング、コントラクト・ロジスティクスと合わせた4つの事業領域を成長の柱とする。同地域でも、地域内の情報共有を推進し、輸送への引き合いの段階から、さらに最適な物流提案を行うよう、組織と人材強化を進めている。 新型コロナの感染拡大を受け、SCを見直すことも見込まれる。米中貿易摩擦に伴い、中国から東南アジア地域への生産拠点のシフトは一部で進んだが、新型コロナを受け、清水哲弘執行役員南アジア・オセアニア地域総括兼 Yusen Logistics(SAO

Region)社長は「SCの変更は今後、さらに進むものと考えられる。サービスの拡充を進めてきたことで、引き合いも増加している」と語る。 未曽有の状況に対しては、「物流を通じて社会に大きく貢献していくわれわれの仕事の意義深さ、使命を改めて強く感じている」。従業員は奮闘しており、「一人ひとりが誠実に対応し、顧客の信頼に応えていくことが当社の強み。また、日々、当社を信頼頂き、荷物を任せてくださる顧客に改めて感謝の気持ちでいる」と語る。

SC変更に対応・国内体制を強化■郵船ロジスティクス

清水哲弘執行役員

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アセアン特集8 第3種郵便物認可 2020年7月27(月)

表 アセアン各国・自治体の主な制限措置国 最新の主な移動・活動制限措置 主な出入国規制措置

シンガポール

職場や学校などを閉鎖する措置「サーキットブレーカー」は6月1日で終了。6月2日から職場閉鎖を3段階で解除。6月18日23時59分から第2段階に移行。小売事業者の店舗や飲食店などが再開。職場は引き続き、在宅勤務を標準とする必要あり

6月18日から日本、オーストラリア、ブルネイ、香港、マカオ、中国、ニュージーランド、韓国、台湾、ベトナムからの、就労パスとその帯同家族を含む長期ビザ保有者の入国を条件付きで認める。3月23日23時59分から、短期渡航者の入国をトランジットを含め禁止してきた

マレーシア

条件付き移動制限令(Conditional�Movement�Control�Order:CMCO)は6月9日で終了。6月10日から回復移動制限令(Recovery�Movement�Control�Order:RMCO)に移行。州をまたぐ移動、国内観光を許可。RMCO下で新型コロナウイルスの感染が継続的に抑制されれば、8月31日以降、新型コロナウイルスのワクチンが完成するまでの期間、正常化フェーズに移行する方針

ノルヒシャム保健省医務技監は6月19日の記者会見で、入国手続きに関し、グリーンゾーン国についてシンガポール、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国の6か国と発言。制度運用については相手国と規制内容(SOP)について協議する必要があるとした。制度運用、開始時期は未定。ムヒディン首相は3月16日、全国規模の移動制限を3月18日から3月31日までの期間、実施すると発表。入出国の制限などの措置を執り、外国人渡航者の入国、マレーシア人の出国禁止(外国人の出国は可能)が続いている

インドネシア

アニス・バスウェダン・ジャカルタ特別州知事は6月4日の記者会見で、6月5日から6月末まで、大規模社会制限の移行期間フェーズ1に移行すると発表。同期間に順次、制限付きで経済活動を再開する。従業員数はキャパシティの50%を上限とすることなどを定めた。6月8日からオフィス、工場、倉庫は従業員数の半数を上限に出社可能に

インドネシア政府は4月2日午前0時から、全ての国・地域を対象に、全ての外国人の訪問・トランジットを原則的に禁止。4月24日にはジャカルタ首都圏などの感染拡大地域とそれ以外の地域の人の移動を5月31日まで禁止。同措置を受け、4月25日からスカルノ・ハッタ国際空港の国内旅客便の運航は停止。国際航空便による人の移動や、国内の物資輸送は認めている

タイ

タイ政府は6月12日、夜間外出禁止措置の撤廃や、一部の例外を除く商業活動の再開などを発表、6月15日から適用。県をまたぐ移動の緩和策では、着席・乗客数制限について基準を明示した。具体的には、国内線はおおむね1時間程度の飛行であり、感染拡大の目安となる2時間に満たないため、全座席数を販売可能とした

プラユット首相は3月24日の記者会見で、3月26日から非常事態措置を適用すると発表。期間は4月30日まで(ただし、3カ月を超えない範囲で複数回の措置延長が可能)。全ての外国人のタイへの陸路・海路・空路での入国を禁止。タイ民間航空公社(CAAT)は6月29日、国際便のタイへの乗り入れ条件に関する通達を発出。CAATは4月4日以降、政府・軍用機や人道・医療目的での飛行、貨物機などの例外を除き、全ての国際便のタイ乗り入れを禁止する措置を実施していた。今回の通達では、それらの分類に加え、条件付きで旅客機の離発着も認めることを発表。7月1日から有効

フィリピン

フィリピン政府は6月15日、マニラ首都圏が6月16日から6月30日まで一般的隔離措置(GCQ)の対象地域にとどまると発表。同首都圏は6月1日付けで修正広域隔離措置(MECQ)からGCQに移行、制限を緩和した。隔離措置の強度は、広域隔離措置(ECQ)、MECQ、GCO、修正一般隔離措置(MGCQ)の順。ECQ、MECQ下では航空は限られた国際便のみ運航を許可

フィリピン外務省は3月19日、国籍を問わず外国人への査証(ビザ)の新規発給と、日本を含む157カ国・地域に現在付与しているビザ免除措置について一時停止すると発表

ベトナムベトナム政府は4月25日、新型コロナウイルス感染予防に関して新たな対応方針を示し、制限措置を継続する活動を発表。宿泊施設やレストランなど一部業種の営業再開は可能とした。国内の航空便は、段階的な増便とする

ベトナム政府は、3月22日から全ての外国人の入国を停止を決定。これを受け、ベトナム航空は3月25日までに全ての国際線の運航を停止することを発表。同政府は、外国の航空会社を含み、ベトナムに到着する国際線を随時制限する方針も示し、継続中

ミャンマー

新型コロナウイルス予防・制御・治療国家中央委員会は6月27日、外出時のマスク着用義務や、午前0~4時までの夜間外出禁止、ヤンゴン地域インセイン地区の外出禁止、仕事の集まりや飲食店での飲食などを除く5人以上の集会の禁止などの各種制限措置を、期限としていた6月30日から7月15日まで延長すると発表

新型コロナウイルス予防・制御・治療国家中央委員会は6月27日、国際旅客機の乗り入れや外国人の陸路入国、入国ビザの発給などの各種制限措置の期限を6月30日から7月31日まで延長すると発表

カンボジア

カンボジア政府は4月9日、国内での移動制限を発表。プノンペンおよび同都市を囲むカンダール州への出入りおよび、州間の移動を禁止。ただし、プノンペンおよびガンダール州内の移動は可能。4月10日午前0時から4月17日午前0時まで適用

カンボジア保健省は5月20日、欧米など6カ国からの入国禁止を解除すると発表。入国禁止国はゼロに。一方、全ての外国人を対象とした入国制限は継続。カンボジア外務国際協力省は3月28日、すべての外国人に対し、一時的なビザの発行停止や新型コロナウイルスへの非感染証明の提出などの入国制限を発表。3月30日午後11時59分から発効

ラオス ラオス政府は5月29日、6月2日から6月30日まで,一定の条件の下、各種商業活動・工場等の通常営業、学校の再開、スポーツ競技の開催等を認めると発表

ラオス外務省は3月19日、外国人に対する観光ビザの発給を制限するとする告示。同措置は3月20日午前0時発効、4月20日まで有効

(注)日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信、各国日本国大使館を発表を基に本紙作成(2020年7月1日時点)。時間はいずれも現地時間

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、グローバルサプライチェーン(SC)に大きな影響を与え続けている。 アセアン各国の貿易は中国、日本、欧米経済の影響を大きく受ける。移動・活動制限や出入国制限措置も各国で異なり、各国自治体の独自制限措置への対応も求められる。状況が目まぐるしく変化する中、物流事業者は感染防止を徹底しながら、情報収集を進め、SC維持に向け、現在も奮闘を続けている。 国際物流では航空旅客便の大幅

な減便・運休が大きな課題だ。国際航空貨物の過半は旅客便ベリーで輸送されている。その中で、世界的に9割近くの航空旅客便が減便となり、アセアンでは3月以降、航空キャパシティーが大幅に減少。比例して、航空運賃が大幅に高騰した。航空旅客便で、アセアン域内のハブ空港や、香港、韓国・仁川経由で欧米への接続が困難となった。アセアン各国で企業活動が段階的に再開する中、入国制限措置や国際旅客便運航禁止措置が続けば、航空キャパシティーの需給ひっ迫度合いはさらに強まる。

 新型コロナ禍、物流への影響は多くある。移動・活動制限措置の下での生産・消費停滞もあり、在庫が積み上がり、短期的な倉庫需要の高まりも見られる。また、航空と海運の中間商品である、トラックでの越境陸送需要の大幅減もある。さらに、ウィズ・コロナ、アフター・コロナの戦略では、中国や制限措置が強いフィリピンやインドネシアなどから、ベトナムなどへの生産シフトが進むとの声もある。 物流事業者のアセアン戦略では、移動・活動制限措置や出入国制限措置への対応が、引き続き、オペレーション、また、事業展開での大きな鍵となる。

制限措置対応がSC戦略の鍵に

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アセアン特集 92020年7月27日(月) 第3種郵便物認可

 表 オペレーションへの影響と課題国 内容

アセアン全般 ・�旅客便運休に伴う供給減により、スペース確保、航空運賃の高騰、運賃の変動(時には日替わりで変動)

シンガポール

・�半導体、製造装置、ヘルスケア関連顧客はエッセンシャル企業として継続操業し、現場は航空スペース確保に大変苦慮

・�マレーシア政府の突然の通達でマレーシア再入国時に隔離措置が発生。マレーシアからの越境通勤者用にシンガポール島内で宿泊施設を手配。通勤費、食事代などを補助し、倉庫業務継続に支障が出ないよう措置

・�共同上屋の作業員不足による、荷捌き業務遅延

・�海運での倉庫作業員の確保、下請業者やパートナー企業へのBCP教育の徹底。また、海運特有の商慣習によるオリジナル書類(B/Lや小切手など)の受取りおよび返却などの取り扱い

・�倉庫は、小売店の営業ができないため、出荷配送が大きく減少。一方、入庫は続いており、保管スペース不足が生じている。ラックなどの設備業者の事業開始できない、または、人員が確保できないことなどから、新規に取扱開始予定のプロジェクトに影響

マレーシア ・�主要客先が軒並み操業停止や販売停止などであり、倉庫業・輸送業・国際物流ともに取扱量激減。ただし、工場操業停止ながら貨物は輸入されてくることもあり、倉庫は満庫状態

インドネシア ・�企業活動制限の影響で、輸出入貨物量が大幅に減少。また、販売系企業の店舗閉鎖の影響でトラック配達業務も激減した 

タイ

・�主に自動車関連客先にてタイおよび各国の工場休止、生産調整の影響で物量大幅減少。一方、他業界客先の一部では、販売不振により出荷量減も、保管量増により倉庫は満庫 

・�4月4日からタイ発着の国際線運航が減便となり一時的に90%以上の貨物スペース減に。一方、航空運賃は仕向地によっては通常時よりも5~7倍の高騰もある。運賃高騰で、海上にシフトする事例も多々、見受けられる

・�自動車部品関連、電機関連の国内外需要が落ち込み、輸出入、国内輸送、クロスボーダーの貨物量が大幅に減少。工場生産量の減少により、原材料、製品の外部倉庫の内製化が進み、保管需要が大幅に減少した。一方、生産、出荷量の減少による材料、製品の保管需要も発生するケースも散見

フィリピン

・�国内配送トラックのドライバー確保 

・�航空貨物スペースの確保、創出。マニラ発は4月から約93%のフライトがキャンセル。6月に入り約90%。もともとフレイターの運航便数が少なく、スペース不足は深刻。顧客貨物需要もおおむね5~7割程度で推移していると見るが、明らかに供給不足。結果として航空運賃の高騰が続く。旅客の往来制限が緩和されるまでは、同傾向が継続すると見る。フィリピンの感染拡大状況に照らし、長期化するものと思われる

・�国の指針に基づき必要書類を準備するも、各バランガイ(最小行政単位)による規制・制限により、配送トラックが通行できない場合が生じ、配送の遅延につながった。各バランガイによる外出・移動禁止等に加え、公共交通機関の運行停止に伴い、スタッフの出勤にも影響が出ている

・�規制強化で、海上輸出入業務は、税関、港湾、通関業者、船会社、銀行、フォワーダーあらゆるところで最低人員でのオペレーションとなり、業務完了までに通常の数倍の時間を要した

・�多くの工場がその生産活動を制限せざるを得ない中で、既にオーダーされていた輸入コンテナが港湾に滞留。政府主導で外部デポへの強制移動を実施し、破綻は免れた。一方、税関職員もコロナに感染し、一時閉鎖。新税関ポータルシステムを活用した自宅勤務となった。このシステムの立ち上げがうまくいかず、多くの輸出入通関書類が滞留した。また、港湾作業員、通関業者、船会社、銀行、フォワーダーも感染拡大防止のため、スケレタル対応(人員を絞っての対応)となる。業務が進まず、コンテナが港湾に滞留、強制移動の流れに。輸入者にそれらの追加費用負担がかかる結果となった

・�顧客、顧客クライアント生産稼働率低下により倉庫オペレーションが大幅に減少。一時的な入庫過多による保管スペース不足�

ベトナム

・�航空キャパシティーは対前年で30~40%減少している一方、航空運賃は2~3倍程度まで上昇。減産と生産停止による輸入部材保管の増加、製品の出荷減と停止による保管の増加で、倉庫の需要が急増し、倉庫スペースの確保も苦労

・�北米での日系自動車メーカーの操業停止に伴い、客先部品メーカーの出荷激減。また、ベトナム国内自動車メーカーの生産調整により取扱量減

・�新型コロナの蔓延を食い止めたことから、工場のロックダウンは発生せず、生産への影響は限定的。一方、サプライチェーンへの影響は甚大。2月は中国からの原材料(電子部品メーカー・縫製業者など)、3月以降はフィリピンからの資材(電子部品メーカー・自動車関係)がそれぞれ入りにくい状況が続いた。これにより、多くの産業で航空貨物物量が減少。特に、主要産業であるアパレル(衣服・履物)、電子部品の落ち込みが大きくなった

・�フィリピン、マレーシアなど、ロックダウン措置が行われた国の生産拠点の代替をベトナムが担うケースが散見。特に自動車関係ではSCMの調整(生産地変更)が行われ、航空輸送の需要が伸長した

ミャンマー ・�社員の出勤のための送迎車両確保

カンボジア・�越境トラック輸送の運賃上昇、輸送業者の確保�

・�越境トラック輸送は、タイーカンボジア、ベトナムーカンボジアともに問題ない。しかし、ベトナムーカンボジアの越境はドライバーが”0ポイント”で交代する。”0ポイント”とはベトナム税関とカンボジア税関の間、貨物で例えると保税地帯であり、コロナ以前にはない手配。これが無くなれば正常に戻った、と言える

(注)現地日系フォワーダーからヒアリング(回答内容は5月中旬から6月中旬時点。一部は7月上旬)

 日本通運は、新型コロナウイルス禍、航空、海上、トラック、鉄道を駆使し、サプライチェーン(SC)維持へ総力を挙げて取り組む。  施策 の ひとつ は 積極的 な 航空チャーターの手配だ。新型コロナ感染拡大当初、中国線の航空キャパシティー減への対応で、まず今年2月23日に開始した。その後、アセアン各国の入国制限が厳格化し、東南アジア域内や東南アジアと日本を結ぶ航空キャパシティーが大幅に減少。ハブ空港の機能低下もあり、シンガポールやバンコクに貨物を集約し、欧米も含めた東南アジア域外に輸送するスキームを見直し、各国発のチャーターへと迅速に方針転換した。今年2月以降の仕立機材数は6月契約済み(6月中旬時点)で500機超に上

るもようだ。 日本通運グループとして、一定のリスクを取りながら、同グループのネットワークを活用し、チャーターの運用を迅速かつ効率的に決定できる点を強みとする。地域統括会社の南アジア・オセアニア日本通運(本社=シンガポール、NSAO、竹添進二郎社長)では、「意思決定の速さにより、顧客が必要なタイミングにまとまったスペースを提供できている」。 航空キャパシティー不足への対応は引き続き、業界全体の課題でもある。そのため、同グループとして、需要に応じた航空チャーターの手配も進めながら、他の輸送モードも駆使する方針だ。例えば、シンガポール日本通運の海運部門では、同国の地理的・法制度の優位性も活用し、ファスト

ファッションの部材供給でシー・アンド・エアサービス拡充を図る。また、シンガポール日本通運、フィリピン日本通運、ベトナム日本通運などは欧州向けで、シー・アンド・レール、エア・アンド・レールサービスの提案も進める。 フィリピン日本通運は「海外でも責任ある物流リーダー企業として、スタッフの安全を確保し、すべての顧客オーダーに対応するだけではなく、緊急時に必須の物流情報の提供を継続してきた」と語る。未曽有の状況下で、動線が限られる中、グループのネットワークを駆使し、SC維持に貢献していく。

SC維持へ陸海空の総力発揮■日本通運

フィリピン日本通運の事務所内の様子

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アセアン特集10 第3種郵便物認可 2020年7月27(月)

職場閉鎖を3段階で解除する方針の下、6月18日から第2段階に移行。小売事業者の店舗や飲食店などが再開した。職場自体は引き続き、在宅。写真は、再開したショッピングモール「グレートワールドシティ」のドリンク店舗

シンガポール①

 海上混載世界最大手のイーキューワールドワイド(ECU Worldwide)は、日本初全世界向 けで 週当 たり159便の海上混載サービスを提供している。全世界約160カ国・300拠点以上を有し、2400のトレードレーンで提供するサービスネットワークが強みで、海上混載事業者としては世界最大手だ。全世界7カ所のトランシップハブを活用してリ・コンソリを行っており、日本発着では釜山をハブとして活用。近年は輸入も重点的に強化。多くのダイレクト便と釜山経由サービスを利用し、海外拠点と連携して取り扱い増を目指している。 新型コロナウィルスの影響で荷動きや業務には大きな影響が出たが、イーキューワールドワイドではグループ全体で各拠点の営業状況や港湾の

状況を日々更新し、グループ全体で共有。顧客への情報提供の強化だけでなく、テレワーク中の社員全員に対するアンケート調査を通じて日々の輸送業務を着実に維持・提供してきた。 昨年以来の動きでは、伊予商運を代理店として起用し、松山に四国初のCFSを開設。11月には鹿児島と大分、八戸発の輸出で海上混載サービスもそれぞれ開始した。これらはいずれも、釜山でリ・コンソリし、ECUの混載ネットワークに接続して各仕向地まで輸送している。また、ECUジャパンとして特に力を入れているのが九州マーケットの開拓だ。他の主要港に比べ、まだ海上混載サービスの利用が浸透しきっておらず、一方でマーケット規模として京浜や阪神、名古屋に次ぐ規模を持つことから、CFS拠

点開設も含めたサービス強化に力を入れる。昨年11月には、これまで釜山経由でリ・コンソリしていた門司発の香港、レムチャバン向けサービスをダイレクト混載へと変更。これまで直航便を立てるのが数量的に難しかったが、取扱量が増えてきたことでダイレクト化できるめどが立った。 またアセアンを含む海外から、日本向け輸入の取り扱い増にも力を入れている。現在、関東や関西、中部、九州の主要7港における海外からのダイレクト輸入サービスの便数は合計で137港。輸入港である東京が43便、大阪は23便とそれぞれ充実しており、それ以外にも横浜18便、名古屋19便、神戸19便、博多9便、門司6便を高いサービス頻度を誇る。このほか地方港でも、釜山経由でコンテナ船の直航サービスがある港ではほぼ全てでダイレクト混載を提供している。

門司発東南アジア向けを直航化■イーキューワールドワイド

シンガポールのドン・キホーテでの検温の様子

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アセアン特集 112020年7月27日(月) 第3種郵便物認可

飲食店 も 再開した。現地日系 フ ォ ワ ーダーからは、「5人までであればレストランで会食もできるようになった。各テーブルは1メートルずつ距離を置く制約はあるが、それでもレストランで食事ができるのはうれしい」との声も

シンガポールのショッピングモール「グレートワールドシティ」で再開したZARAの店舗入り口には、入店者用のQRコードが掲示

シンガポール②

 商船三井ロジスティクスのベトナム現地法人、MOLロジスティクス・ベトナム(本社=ホーチミン)は、新型コロナウイルス感染防止を徹底しながら、通常時と同じサービスの提供に取り組んでいる。 同国政府は今年3月31日、首相指示16号を発出し、4月1日から15日間、全国民に自宅待機を要請。マスク着用と消毒の実施を義務付けた(同月23日には外出制限措置は一部緩和)。同社は事務系社員の半数(約70人)を在宅勤務とした。業務面では、まず、情報伝達はeメール中心となった。伝達内容を明確化し、各担当が的確に対応したことで、顧客への負担を極力抑えながら、全員が事務所に出社している体制と同じサービスレベルを維持した。ビデオ

会議を積極的に開催し、拠点間の情報共有も問題なく行えたという。 同社の鈴木譲司ゼネラルダイレクターは「規制が厳しい状況でも、全社員が情報伝達の重要性を理解していることから、通常時と同じサービス提供を続けることが可能だった」と述べた。 オペレーション面では航空キャパシティーの確保は大きな課題だ。4月以降、航空キャパシティーは前年比30〜40% 減の一方、航空運賃は2〜3倍程度、上昇しているといい、「日々、状況が変化するため、顧客へ航空便の運航状況を案内し、顧客の出荷計画に沿ってスペースを確保している」とする。中国向けではチャーター便も手配した。日本向け

では、航空の代替輸送ルートとして、エアー・アンド・フェリー輸送など、新たな輸送ルートを提案中だ。 倉庫需要の増加にも対応する。背景には、同国内の減産・生産停止に伴う輸入部材保管量の増加、また、製品の出荷量減・停止があり、一時保管などを提案中だ。鈴木ゼネラルダイレクターは「ベトナム国内物流のサポートとして、顧客へのアドバイス、一時保管場所 の 提供、緊急輸送対応、自社倉庫、トラックなどを駆使して、サプライチェーン維持に社員一丸となり対応している」とする。

越で情報共有徹底、輸送・倉庫提案■商船三井ロジスティクス

MOLロジスティクス・ベトナムのトラック、トレーラー、運転手と管理者

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アセアン特集12 第3種郵便物認可 2020年7月27(月)

 マレーシアの銀座と呼ばれる、クアラルンプールのブキ・ビンタン地区にある「パビリオン・クアラルンプール」。現地日系フォワ ー ダ ー からは、

「 政府主導 の アプリで人の動きを追跡することが可能となり、ショッピングモールや外食産業も活気を取り戻しつつある」との声が聞かれる

マレーシア①

 鈴江コーポレーションはアセアンでミャンマーの事業を着実に拡充している。  現地合弁会社「KMA-Suzue Logistics Myanmar」(以下、KMA鈴江)は今年4月、ヤンゴン市ダゴンセイッカン地区で運営しているコンテナ・フレート・ステーション(CFS)の増設を完了し、同月、稼働した。同地は、同市内から東に約15キロ、バゴー川右岸に位置する。同市と日系企業が多く進出するティラワ経済特区

(SEZ)との中間地でもある。各国際ゲートウエーとの距離は、ヤンゴン港が15キロ、ティラワ港が20キロ、ヤンゴン国際空港が20キロ。 CFSは、現地合弁先のKMAグループ(KMA Group of Companies)が確保する土地に整備しており、第1

期開発の CFSは2018年1月、稼働した。ミャンマー外国投資委員会が倉庫投資を認可した初の案件という。同グループは、コンテナ船社KMAシッピングを傘下に置くほか、銀行、航空会社、ホテル、病院、不動産、建設などの事業を展開する。鈴江は13年2月、KMAシッピングと物流業、倉庫業、冷凍倉庫事業に関する現地合弁プロジェクトに関する了解覚書を締結し、同国に進出した。 CFSはKMA鈴江が運営し、KMAシッピングが総合的にサポートをする。 第1期開発分 は 敷地面積1万8211平方メートル、延べ床面積は1559平方メートル。年間貨物取扱能力は1500TEU。ドックレベラーは6基。今年4月稼働の第2期開発では、CFS平屋2棟を新設した。延

べ床面積は約6900平方メートル。年間貨物取扱能力 は3000TEU を見込む。 同国では海上、航空フォワーディング、国内物流にCFSも加え、多様なニーズに対応していく。KMA鈴江の岸山明央社長は新型コロナウイルス禍で奮闘するスタッフについて「雨季に入り体力的にも厳しい中、感染防止に気を使いながら頑張っており、心から感謝している。彼らがミャンマーの発展に寄与していくことを願う」。

ミャンマー・ヤンゴンでCFS増設■鈴江コーポレーション

KMA鈴江の岸山明央社長

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アセアン特集 132020年7月27日(月) 第3種郵便物認可

マレーシア②

 マレーシア・クアラルンプールの 大型ショッピンモー ル「スリアKLCC」。写真左は来場者への呼び掛け。写真右はモール内の映画館。入館にはアプリを登録する。来客者数はまだ少ないという

 伊勢湾海運はアセアンで、鉄鋼製品を主軸に、大型機械設備などの輸出入取り扱いに力を注いでいる。タイで計約2万7000平方メートル、インドネシアで計1万4000平方メートルの重量物倉庫・一般倉庫を運営しており、コロナ禍での庫内の空きスペース減少にも対策を打ちながら、各国で輸出入に付随して通関・保管・梱包作業も展開し、自社車両も活用して輸送、顧客工場で生産設備機械の据え付け業務も行っている。 タイ現地法人のイセワンタイランドは、レムチャバン港に近い「ピントン2工業団地」でグループ会社を含み、重量物倉庫 と 一般倉庫計1万8000平方メートル、バンコク郊外、スワンナプーム国際空港近郊の「アジア工業団地」で9000平方メート

ル の 重量物倉庫 を 運営。トラック・トレーラー20台を保有、鉄鋼製品、大型機械設備を中心に自動車部品なども取り扱い、「日本をはじめとした当社グループの海外拠点をフル活用した一貫輸送を得意としている」(同社)。同国内では4月ごろから顧客の出荷が減少する一方、入荷は例年並みで保管貨物が増加。「『レムチャバン物流センター』は満庫が継続し、

『スワンナプーム物流センター』で代替保管をお願いしている」(同)。 インドネシア現地法人のイセワンインドネシアは、ジャカルタ東部の

「デルタマス・GIIC工業団地」で重量物倉庫 と 一般倉庫計1万4000平方メートルを持ち、トラック・トレーラー10台を運行。同国では2014

年から通関事業に参入し、「輸入ライセンスの取得代行など、きめ細かいサービスで評価をいただいている」(同社)。同国内でも「5月ごろから滞留貨物が激増し、倉庫に空きスペースがない状態が続いた。6月ごろから徐々に工場の再稼働が報道されているが、元の稼働率に戻るには数カ月を要すると見ている」(同)。 駐在員・現地社員はタイが4人・88人、インドネシアが4人・70人。両国ともに現法設立時から日本人作業員が駐在して倉庫作業を指導し、作業品質の向上に取り組んでいる。

タイ・インドネシアに重量物倉庫■伊勢湾海運

イセワンインドネシアの大城戸勇貴バイスプレジデント

イセワンタイランドの久野芳彦マネージングダイレクター

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アセアン特集14 第3種郵便物認可 2020年7月27(月)

 7月上旬の早朝、インドネシア・ジャカルタのビジネスの中心地、スディルマン通り。現地日系フォワーダーからは「自転車利用者が増加の一途」との声。理由は①ジャカルタでの大規模社会制限(PSBB)に伴う運動不足解消②バイクタクシーが禁止され、公共交通機関の密を避けるため、自転車通勤に切り替え③健康志向の高まり−と推測している

インドネシア

 フジトランス コーポレーションはアセアンで、フィリピンでの内航RORO船事業や、ミャンマーでの倉庫事業に力を注いでいる。フィリピンでは今年、現地法人のFUJITRANS LOGISTICS PHILIPPINES が、同国 バタンガスを基点とする自社 RORO船によるウイークリーサービスを開始した。ミャンマー現地法人のFUJITRANS LOGISTICS (MYANMAR) は同国ヤンゴン郊外のティラワ経済特区(SEZ)で自社倉庫を運営しており、今年3年目を迎える。 フィリピンでは、バタンガス−イロイロ−バコロド−セブ−カガヤン・デ・オロ−バタンガス航路で週1便のRORO船サービスを始めた。これまで日本で運航していた9851総トン型RORO船「Pearl Asia」(乗用車

650台積み)をフィリピン船籍に転籍して配船した。FUJITRANS LOGISTICS PHILIPPINES は 2015年設立で、フォワーディングや完成車の陸上輸送を展開してきたが、事業領域を拡大。フジトランス コーポレーションは日本で半世紀以上にわたって内航RORO船事業を手掛け、培ったノウハウを島しょ国の同国に横展開する。 ミャンマーでは、日系企業の集積も進むティラワSEZで敷地面積約3万5000平方メート ル、倉庫面積5100平方メートル、ヤード面積6000平方メートルの「ティラワSEZロジスティクスセンター」を17年から運営している。トラックドック6基、冷凍コンテナの給電設備も完備し、保税を含む貨物の保管や完成車

ヤード、梱包作業などを展開。今年1月には、フォワーディング、通関事業の拡販のため、タイ国境の同国ミャワディーに連絡事務所を開設し、タイ−ミャンマー間のクロスボーダー輸送も強化している。 同社はアセアンでは両国に加えて、タイ、シンガポール、インドネシア、ベトナムに現地法人を置く。各国で活動制限令や都市封鎖、緊急事態宣言などが実施される中、検温や事務所・食堂の飛沫対策・消毒などを実施し、感染症対策マニュアルを作成・更新、マスクの調達や備蓄を図り、各国で在宅勤務も取り入れている。

フィリピンでRORO船、ミャンマーで倉庫■フジトランス コーポレーション

フィリピンで運航するRORO船「Pearl Asia」

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アセアン特集 152020年7月27日(月) 第3種郵便物認可

ベトナム

 名港海運は、アセアン事業を着実に前進させている。タイではバンコク郊外の自社倉庫によるサービスの充実に努め、フォワーディング、輸出入通関、国内輸送と総合物流サービスを提供できる体制を整えて、インドなど周辺地域とのネットワークも強化しつつある。ベトナムでは昨年、ハノイに現地法人を立ち上げ、同社の海外事業の柱である欧米拠点との連携を深めて、フォワーディング案件の獲得に注力している。 タイで倉庫事業を展開する現地法人、メイコー・アジアは2017年8月、バンコク郊外の「アジア工業団地」内で自社倉庫のオペレーションを開始した。スワンナプーム国際空港近郊に立地し、倉庫面積約9300平方メートル。また、レムチャバン港

近郊に8300平方メートルのフリーゾーン倉庫を賃借している。グループ会社が所有する自社トラックで、国内配送やミルクランを行っている。コロナ禍で保管スペースが不足したが、5月半ばにラックを増設するなど庫内スペースの捻出に努めている。 同社とフォワーディング事業のメイコー・トランス(タイランド)のタイ現地法人2社は、今年1〜3月に輸出入取り扱いの落ち込みもなく、増収増益と堅調だった。国内輸送は4月に大きく落ち込んだが、5月は回復傾向。タイは同社の東南アジア事業の中心で、海外研修生制度を続けて将来の駐在員候補を育成している。同国での非常事態宣言、夜間外出禁止令などに伴い、国内輸送は政府指定フォームの使用や配車頻度の見直

しを行い、一部従業員のテレワークやオフィス内の分散体制・往来制限、消毒などを実施した。 ベトナムでは、14年に設置したホーチミン駐在員事務所を経て、昨年3月にフォワーディング事業のメイコー・トランス(ベトナム)をハノイに設立した。駐在員1人、現地従業員3人の体制で、営業開始後の売り上げは伸長。コロナ禍でも4月まで取扱量の大きな落ち込みはなく、5月から顧客の日本国内工場の生産調整などの影響が出ている。同国では4月から全国で隔離措置が行われ、リモートワークなどで対応した。

タイ自社倉庫注力、越に現地法人■名港海運

タイ・アジア工業団地内の自社倉庫

ホーチミンではバイク通勤が主流。排ガス問題もあり、もともとマスクと日焼け防止のスタイルという。現地日系フォワーダーからは「マスク文化と通勤形態は、新型コロナの市中感染防止でも良い面での影響があった」との声

バイク通勤時のマスク着用の習慣があるベトナムでは、新型コロ ナ 対策用 の 布マスク・布帛マスク・使い捨てマスクも販売。新型コロナ禍でもマスクが枯渇することはなかった

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アセアン特集16 第3種郵便物認可 2020年7月27(月)

 表 産業動向の見通し

国 回答内容

アセアン全般

・�中国の企業活動再開とともに、アセアン地域でも徐々に貨物が動き始めることを期待。ただ、感染者の増加国もあり、また、中国と米国の対立が出ている状況下では、回復には時間がかかると見込む。業界によってはV字回復の期待もあるが、自動車関連など、概ね中期U字での回復と予想

・�アパレル関連は厳しい状況が続くと予想。消費地での店舗休業、消費落ち込みに始まり、生産地での生産減少と、多くの国で影響が出ている

・�アセアン域内における電子部品やモジュールの輸送需要は底堅く存在すると見ている

・�各国とも自動車メーカーの操業停止や生産調整(下方)により客先自動車部品メーカーの取り扱いが減少。新型コロナの影響次第だが回復は来年以降の見込み

・�化学品関連業界はシンガポール、タイともコロナの影響が少なく、今後も通常操業が見込まれる

・�中国から東南アジア地域へ生産施設が一部移管されるなど、サプライチェーンの変更は、今後さらに進むものと考えられる

シンガポール

・�データセンターのサーバー需要の世界的な高まりや、新たな通信5Gインフラの開始に伴い、半導体需要が拡大している。現時点では好調に推移している

・�米国の中国企業制裁強化に伴い、半導体ファウンドリー事業の競争が世界的に激化。今後の動向如何では、サプラーチェーンの再編が加速することは確か。シンガポールは最先端の製造装置や半導体の世界的な製造拠点でもあり、日本、韓国、台湾向け、さらには製造業の米国回帰により米国向け貨物も今後、徐々に増えていくと予想

・�航空貨物では、新型コロナの影響に伴い、多くの企業・産業で、部品調達・製造・販売のSCMが乱れている。少なくとも今年一杯は新型コロナ前の水準には戻らないと見込む

・�新型コロナ影響の長期化を睨んだ中国から生産拠点の一部シフトとサプライチェーンの変化を見込む。これに伴い海運では、少量多品種輸送の増加、LCL混載便輸送が増加を予想。また、輸出、輸入とも非居住者在庫制度などを利用した在庫拠点の拡充を想定。アジア域内輸送は7月以降、徐々に回復する見通し

マレーシア ・�顧客の多くがリカバリーするのは2021年度と予測されている場合が多い。マレーシアはグローバルでのSCMに組み込まれており、欧州とのビジネスが多い。欧州、中国、日本の経済状況次第

インドネシア

・自動車関連は2カ月近く生産停止となっており、先行き不透明 

・�日系家電製品製造業では、部材輸入、製品輸入ともに継続中。ただ、主力工場が4月から、感染防止のため、2シフト勤務と時間短縮を実行。工場稼働を30%ダウンした。この影響で倉庫も時間短縮を実施。倉庫入出庫数量、トラック輸送数量ともに大幅に減少した。6月からの生産活動の段階的回復に合わせた物量増に期待

・�日系二輪車製造業では4月に工場一時操業停止が発表され、オートバイ完成車および部品の海上輸送業務は停止。6月初旬から工場生産を再開。ただ、新型コロナ禍での二輪新車需要ダウンによる在庫過多状態が予測されるため、工場出荷量回復は慎重に見ている

・�日系大手小売業は、4月からの外出自粛で客足が鈍化。ショッピングモールの閉鎖による全店休業決定通知を受け、倉庫入出庫数量、配達数量が大幅に減少。一部地方店舗は営業を徐々に再開したが、ジャカルタ等大都市圏の主要店舗は休業を継続。大規模社会的制限の段階的解除による、ショッピングモールの再開に合わせ、主要店舗も営業再開中。今後、販売数量は戻ってくると思われるが、顧客側も客足回復には慎重な見方をしており、現時点では、明確な販売量回復時期の予測が困難

タイ

・�タイではコロナ以前から自動車産業に落ち込みが見られたが、コロナにより悪化、2020年の生産量が前年比半減するのではという予想もある

・�自動車産業はグローバルで生産調整を行っており、それに伴い輸出入の動きも鈍化がしており7月一杯はこの状況が続く。8月から各社生産回復基調に向かうが、新型コロナ以前の状態に戻る時期は2021年第3四半期以降と予想

・�5G関連に関わる商材は引き続き好調。特にHDDはタイが集約生産地であることから、2021年第2四半期までは、こうした商材がタイ航空マーケット牽引する。電子部品関連はスマートフォン市場の伸び悩みに加え、自動車関連部材の不調で、輸出入の落ち込みは続く。自動車産業の回復と同期化するものと考える

・�小売関連は、非常事態宣言期間中の店舗閉鎖の影響で、入荷や出荷の停止が続いていたが、タイ国内店舗向けの輸入、海外店舗向けの製品の輸出がようやく再開

フィリピン

・�製造業の操業が再開されたものの、ソーシャルディスタンスを維持しなければならないため、工場での生産効率が上がらず、当分は低生産率が継続される見込み

・�北部カラバルソン地方が一般的隔離措置(GCQ)に緩和された6月に入り、各顧客とそのクライアントともに濃淡はあるものの、概ね生産稼働率は上昇。�8月までには、各社生産稼働率は100%近くまで戻ると見られる。ただし、生産数自体が当初計画レベルに戻るまでには、まだ時間を要する

・�フィリピン発航空貨物の電子部品は需要が半減していると見る。コロナ直前のマニラ近郊火山噴火から影響を受け、生産が停滞していた一部自動車関連貨物では在庫調整のため、旺盛な航空需要が見られたが、7月以降、次第に収束の見込み

・�公共交通機関への制限があるため、従業員の出勤への影響に加え、消費者のモールなどへの移動も制限されることから、売り上げの回復には時間を要すると考えられる。販売低迷の影響から、各企業での在庫が増加しているため、一時的に、国内消費財に対する倉庫需要が上昇すると見込まれる

・�規制緩和後、多くの企業が工場生産を再開。多くの輸出バックログを抱えた企業は、フル生産に向け舵を切るが、感染予防のためのソーシャルディスタンスを工場内で守ることで、生産効率が低下。以前のような生産が出来ていないところが多い。現在は、バックログの解消に向けての動きとなっているが、その後は、先の見えない世界での需要次第との声が多い

ベトナム

・�米中貿易摩擦の影響で、中国から生産移管を検討する企業が増えたが、新型コロナ拡大に伴い、多くの国のサプライチェーンの中国依存が判明。依存度を引き下げる目的で、生産拠点を中国からベトナムへ移管させる動きは加速すると予想

・�アジア域内では、ベトナムは新型コロナの影響が軽微な国のひとつとみられる。被った影響が大きかった中国、フィリピン、インドネシアなどから、ベトナムへの生産シフトが発生すると想定される

・�ベトナム単体では、生産能力に大きな影響は出なかったが、原材料の供給では遅延などの影響が顕著に表れた。今回の新型コロナ禍の教訓から、アパレル・電子部品などについては、国内調達の強化が行われるものと思われる

・�EU・ベトナム自由貿易協定(FTA)発効で、欧州発着貨物の貿易を後押しすることを期待

・�輸出加工貿易企業は、世界経済の影響を大きく受けるため、新型コロナの影響による取扱量の減少はしばらく続くことが予想されるが、年末に向けて輸出入量は回復していくことを期待

・�早期コロナ対策が功を奏し、2020年度もGDPプラス成長を維持するとの見方もあるが、成長鈍化は避けられないと思われる。コロナによる失業者、求職者が増え、国内消費が落ち込んでいる。生産減少、部材の輸入減少と波及する可能性がある。製造業の工場がフル稼働までは戻っておらず、5月から輸出量にかげりが見え始めている。秋口ぐらいには上向きに転じると思われる

カンボジア ・�外出規制効果でDIY関連や家庭用ゲーム機器が増産中

(注)現地日系フォワーダーからヒアリング(回答内容は5月中旬から6月中旬時点)