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学校法人 食料 環境 健康 バイオマスエネルギー & 情報 新・実学 ジャーナル 東京農大 創立125周年 オホーツクの地域資源 Foods Who( 5 ) 東京農大農学部植物園から(37) No.130 May. 2016 月号 5

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Page 1: 食料 環境 健康 バイオマスエネルギー&情報 No.130 新・実学 … · コンテスト)に出場するなどの活動に取り組んでいる。 産学連携 公開セミナー

学校法人

食料 環境 健康 バイオマスエネルギー&情報

新・実学ジャーナル

サイバーセキュリティに関する      人材育成・研究活動/布広永示

東京農大 創立125周年

世界の生命農学の拠点に

オホーツクの地域資源 Foods Who( 5 )

オホーツクの大地の恵みをたっぷり使用-地産地消にこだわるパン職人-/菅原 優

東京農大農学部植物園から(37)

クロフネツツジ/伊藤 健

No.130

May. 2016月号5

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榎本武揚と横井時敬

創設者は、明治の英傑榎本武揚だ。明治政府で逓信相、農商務相、文相、外相、などの要職を歴任した榎本は、明治24(1891)年、東京に「私立育英黌」を設立した。その農業科が東京農学校、東京高等農学校と名を替えつつ、拡充の歴史を歩み、今日の東京農業大学となる。 東京農学校時代の明治28年、評議員として参画したのが、明治農学の第一人者横井時敬だった。「人物を畑に還す」「稲のことは稲にきけ、農業のことは農民にきけ」と唱えて、「実学」による教育の礎を築き、東京農業大学の初代学長を務めた。本学の「生みの親」は榎本、「育ての親」は横井である。

傘下に東京情報大学

 東京農業大学は、農学部、応用生物科学部、地域環境科学部、国際食料情報学部、生物産業学部、短期大学部の 6 学部22 学科からなり、大学院は 2 研究科19専攻体制が整っている。世田谷、厚木、オホーツク(北海道・網走)の 3 キャンパスに学生・院生ら約13, 000人が学んでいる。 学校法人東京農業大学の傘下に、東京情報大学(千葉)がある。総合情報学部 1 学科、大学院 1 研究科で、学生・院生は約1, 900人。傘下には、他に併設校として農大一高/中等部(東京)、同二高(群馬)、同三高/附属中学(埼玉)がある。

学校法人東京農業大学戦略室

東京農業大学の沿革

謹んで地震災害の

  お見舞いを申し上げます

 このたびの熊本地震により被害を受けられた

皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 一日も早く復旧されますようお祈りいたします。

 本法人はこの未曾有の災害からの復興に最大の

努力を惜しまない覚悟です。

学校法人 東京農業大学

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新・実学ジャーナル 2016.5 1

うに、社会で起こっているリアルな現場の状況を学生にフィードバックすることで、より実践的な教育を実現し、即戦力となる学生の育成を目指している。また、人材育成の対象を社会人に広げた公開セミナーを開催することで、サイバーセキュリティ人材不足の問題にも取り組んでいる。

2 )セキュリティコンテストへの参加 特別講義に加えて、高いレベルのセキュリティの現場経験の場を学生に与えるために、特別講義の受講者から選抜した学生メンバーと企業メンバーで構成する合同チームでMWS Cup(コンピュータセキュリティシンポジウムが主催するマルウェア解析の競技)やSECCON(経済産業省主催の学生向けセキュリティコンテスト)に出場するなどの活動に取り組んでいる。

産学連携 公開セミナー

ぬのひろ えいじ1957年島根県生まれ日本大学大学院生産工学研究科数理工学専攻修了。東京情報大学総合情報学部総合情報学科(システム開発コース)教授。同大情報サービスセンター長。工学博士。専門分野:情報処理主な研究テーマ:教育支援システム、データ解析システム、言語処理、サイバーセキュリティ。主な著書:「コンパイラとバーチャルマシン」(共著)(オーム社)、「システム設計論」(共著)(コロナ社)、「Javaオブジェクト指向プログラミング」(共著)(オーム社)、「Java/UMLによるアプリケーション開発」(共著)(オーム社)

 社会インフラ、農業、医療などにおける膨大な情報、いわゆるビッグデータを利活用するために必要となる情報通信技術の発展や普及に伴い、企業や政府機関に対するサイバー攻撃による情報漏えいなど、セキュリティ事故が社会的な問題になっている。これらの事故について分析すると、サイバー攻撃に対する技術的な対策の不足だけではなく、サイバー攻撃を受けた後に何をすれば良いのかを適切に判断できるサイバーセキュリティ人材の不足が問題であることが分かる。マイナンバーをはじめとする重要な情報の増加に伴い、サイバーセキュリティに対する重要性は高まっており、サイバーセキュリティ人材の育成が急務となっている。ここでは,産学連携で実施しているサイバーセキュリティに関する人材育成と研究活動を紹介する。

産学連携による人材育成・研究活動 サイバーセキュリティ人材の育成には、セキュリティ技術の理論ではなく、企業の現場で起きている問題を活用して実践的な技術を学ぶことが必要と考え、2012年より株式会社 日立システムズとセキュリティ技術に関する産学連携の取り組みを開始し、2013年度から産学連携の特別講義「ITシステムセキュリティ・インシデントレスポンス概論」などを開講している。また、サイバーセキュリティの研究活動として、東京情報大学 花田真樹准教授、岸本頼紀准教授、山口崇志嘱託助教、河野義広助教などをメンバーとする研究グループと日立システムズのエンジニアが連携し、サイバーセキュリティに関する技術研究を進めている。

人材育成について1 )特別講義と公開セミナーの開講 サイバーセキュリティに関する教育を行うためには、実際にどのような手口でサイバー攻撃が行われ、それに対してどのような防御を行ったらいいかといった、実際に起きた事故などを分析・研究し、教育素材として蓄積していくことが必要である。本講座では、日立システムズのサイバーセキュリティリサーチセンタのエンジニアが、インシデントハンドリング(セキュリティ事故に対する挙動)など、企業でサイバー攻撃を受けた際に行うべき行動や考え方などの実践的な内容を解説するとともに、現場で発生したインシデント対応のノウハウを演習形式で取り入れている。このよ

サイバーセキュリティに関する人材育成・研究活動

東京情報大学 総合情報学部 教授 布広永示

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2 新・実学ジャーナル 2016.5

により可視化することで、直感的に配布元の地理空間情報の分布や密集具合を評価し,長期的な時間的推移を考慮した分析が可能となった。CCCデータセット(Cyber Clean Center Dataset)を使用して解析したマルウェア配布元の時系列遷移をヒートマップにより可視化した結果を図 2に示す。

 現在は、SIASの基盤としてオープンソースのデータ管理基盤を応用し、システムの導入・運用の容易性の向上や人工知能の技術を応用した自然言語処理の精度向上を試みている。また、広大なWeb空間から悪意のあるWebサイトを発見する為に、複数のWebクローラによる自律分散探索手法や仮想化技術を応用したWebクローラでマルウェア解析を自動化する処理の検討を進めている(図 1 研究③)。3 )サイバー犯罪者のプロファイリング手法 リバプール型(データを計量的、客観的に分析して結論を出す)プロファイリングを参考にして、Anonymous、LulzSecの文献やチャットログなどのデータからサイバー犯罪者の発言や行動パターンを抽出し、犯罪者のモデル化の可能性について検討する。更に、SIASを活用して,サイバー犯罪者の心理や指向と社会情報との関連性に基づくサイバー犯罪者像について研究する。

図 2 マルウェア配布元のヒートマップ左:2008年12月、中:2009年12月、右:2010年12月赤の点はマルウェア配布元を示す。

MWS Cup2014では、参加チーム11中で優勝、MWS Cup2015では15チーム中で 4位の成績を果たした。

研究活動について1 )マルウェア検知手法 マルウェアの一種であるボットの検知手法を研究する。まず、正規のプログラムとボットの振る舞いの違いを(a)空間的な側面、(b)時間的な側面、(c)通信の側面の 3つ側面から分析し、分析結果を用いて、ボットの検出手法について提案する。ここで、正規のプログラムとはマルウェアに感染していない通常のソフトウェアのことであり、ボットとはネットワークを通じて外部から操ることを目的として作成された悪意のあるプログラムのことである。現在、「(b)時間的な側面」に着目して実際の検体の挙動を調査し、新たなマルウェア検知手法を検討中である。2 )セキュリティインシデント解析の基盤システム 日本国内の企業ではサイバー攻撃への遭遇率が増加しており、特に特定の団体を狙い多様な手法で攻撃する標的型攻撃と考えられる事例が多く報告されている。標的型攻撃は、攻撃手法の多様性から、初期での検知と対応が難しく、事後の分析により標的型攻撃であったと判断されることが多い。また、これらの分析は、分析に関わったセキュリティ技術者の経験や経済、国際情勢などに関する幅広い知識に依存することが多く、多様な情報を関連付ける解析をサポートする仕組みが必要である。そこで、サイバー攻撃や社会情勢の兆候を早期につかむ為、即時性の高いWebからの情報抽出に注目して、サイバーセキュリティに関する解析をサポートするデータマイニング基盤SIAS(Security Incident Analysis System)を開発し、サイバーセキュリティに関するイベントサマリ抽出や社会情勢を考慮した攻撃者の分析、Webを介して配布されるマルウェアの解析を進めている。 SIASは、データ基盤を中心にデータの収集と解析、可視化などを行うモジュールが連携するデータマイニングのプラットフォームである(図 1 研究①)。Webサイトに書かれた文章を解析するために、Webブラウザと同様にスクリプトが実行可能なWebクローラや代表的な自然言語処理が行えるよう自然言語処理モジュールを開発した。さらに、異なる解析処理の連携や可視化を容易にするために、収集したデータや解析結果などの形式を定義した。 実応用に即した基礎実験としては、通信ログデータの解析と地理空間への可視化を行っている(図 1 研究②)。解析結果を別途開発した時系列地理空間情報可視化システムと連携し、地理空間情報をヒートマップ

図 1 サイバーセキュリティに関する分析処理の流れ

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新・実学ジャーナル 2016.5 3

東京農業大学 125年史 2001年に刊行された「東京農業大学 110年史」を基礎として、1991年4 月から2015年 3 月までの資料(大学行事や大学院・学部・学科の構成やカリキュラム構成の推移、スポーツでの活躍など)を中心に編集されている。本文前の口絵には、最近建てられた施設「農大アカデミアセンター(2013年11月)」「 1号館(2011年 7 月)」「常磐松学生会館(2008年 9 月)」「桜丘アリーナ(2006年 2 月)」(世田谷キャンパス)、「学生会館(2015年10月)」「第 2講義棟(2006年 3 月)」(厚木キャンパス)、「臨海研究センター(2006年 4 月)」「11号館(同)」(オホーツクキャンパス)を中心に最新の 3キャンパスの姿をカラー写真で紹介している。 東京農大は、これまでに「50年史」「70周年史」「80周年略史」「90周年略史」「100年史」「110年史」を刊行しており、「125年史」は 7刊目。

世界の生命農学の拠点に 日本で初めて設立された私立の農学校であり、農学を専門に扱う日本で唯一の大学である東京農大。1891年(明治24年) 3月 6日、東京市麹町区(現・千代田区)の飯田河岸に東京農大の原点・徳川育英会育英黌農業科が設立されてから125年周年を迎えた。長い年月の間、日本の農業をはじめ、さまざまな分野や地域、また、国内だけでなく世界の各地で大きな功績を刻んできた東京農大の教育・研究。輝かしい歴史に「世界の生命農学の拠点」を目指した新たな頁が加えられていく。

東京農大 創立125周年

学校法人東京農業大学理事長大澤貫寿

 東京農大は、学祖・榎本武揚の建学精神「冒険は最良の師である」とのもと、初代学長・横井時敬の「稲のことは稲に聞け」の実学教育を旨とし、多くの有為な人材を世界に輩出し続け、125周年を迎えることができた。戦後最大の東日本大震災(2011年 3 月11日)に際しては、建学の使命のもと、被災農林地再生を最優先課題と考え、全学協力による東日本大震災プロジェクト研究を立ち上げ、福島県相馬市で復旧支援活動に取り組んだ。農地再生に成果を上げ、復興のモデルとして社会から高い評価を得た。 質の高い教育研究機関として、改革に取り組んできたが、今後も、少子化時代に対応した学部改革、新学部設置が計画されている。これからの東京農大は、国際的な教育機関として、その機能を高め、世界の生命農学の拠点大学として飛躍すべく、教育・研究の充実と環境の整備に努めていく。

東京農業大学学長髙野克己

 創立125年を迎えた今、東京農大は、創立150年、200年と未来に向けて進化し続けなければならない。そのためには、社会の変化を見据え、社会と人々の期待に応えるために、生命・食料・環境・健康・エネルギー・地域創成をキーワードにして学びの領域や仕組みを含めた大胆な改革を確実に実現していく必要がある。 人類の英知により自然の恵みを享受し、現代は高度に複雑化した社会に発展した一方、地球規模の環境変化、食料危機、経済格差など人類の生存を脅かす課題に直面している。こうした課題を解決するのは東京農大の使命であり、この使命を果たすのは未来を創る学生たちだ。「生命(いのち)」に関わる学問を学ぶ東京農大生に「農のこころ」を育み「生きるを支える」教育を行っていきたい。「農学には社会を変える力がある」──その事実と世界の人々の期待を真正面から受け止め、東京農大をさらなる進化へと導きたい。

東京農業大学125年の歩み1891(明24)  徳川育英会私立育英黌農業科を設置、管理長に榎本武揚1893(明26)  私立東京農学校と改称、校主に榎本武揚1897(明30)  大日本農会の附属となり、横井時敬が教頭となる1911(明44)  専門学校令による私立東京農業大学と改称し、横井時

敬が初代学長となる1925(大14)  大学令による東京農業大学となり、農学部農学科、予

科を設置1946(昭21)  渋谷常磐松から世田谷キャンパスに移転1949(昭24)  学校教育法による新制大学となる1950(昭25)  東京農業大学短期大学開設1953(昭28)  東京農業大学大学院農学研究科開設1962(昭37)  厚木農場開設1984(昭59)  総合研究所開設1989(平元)  東京農業大学生物産業学部を網走市に開設1990(平 2)  東京農業大学短期大学を東京農業大学短期大学部に名

称変更1991(平 3)  東京農業大学創立100周年記念式典挙行1998(平10)  学部改組(農学部、応用生物科学部、地域環境科学部、

国際食料情報学部の 4学部に改組)1998(平10)  東京農業大学厚木キャンパスを厚木市に開設、農学部

が移転2016(平28)  学部改組(生命科学部、地域創成科学科、国際食農科

学科/ 2017年 4 月開設予定、設置認可申請中)       東京農業大学創立125周年を迎える

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4 新・実学ジャーナル 2016.5

国際センター建設 創立125周年を機に、東京農業大学国際センター(仮称・写真はイメージ図)を世田谷キャンパスに建設する。同センターは、農学分野における世界の拠点大学として、また、長年にわたり育んできた知的財産を世界に発信していく役割を担うシンボル的な建物になる。建物のコンセプトは自然・生物・国際社会・地域社会との共生。国際会議に対応した大小のホール(円卓会議ホール、多目的ホール)のほか、交流ラウンジ、国際資料室、レストラン、研究員室、校友会事務所などの施設を整備する計画。国際資料室には、協定校、海外活動史、校友会海外支部、学卒移住の歴史、国際協力への貢献などを展示する予定。

「生命科学部」の設置 農と生命を科学し、〝生きる〟を支えるエシカル(環境保全・社会貢献など)な社会の構築をめざし進化する東京農大は、新しい学部「生命科学部」設置(来年4月、世田谷キャンパス)に向け準備を進めている。生命の本質を科学する新学部は、基盤をなす分子・遺

伝子・細胞からまるごとの微生物・動植物まで幅広い理解をベースに、それらの解析と革新的な活用法の探求に主眼を置き、「バイオサイエンス学科」「分子生命化学科」「分子微生物学科」で構成される。 また、地域環境科学部に「地域創成科学科」、国際食料情報学部に「国際食農科学科」の新設も計画されている。これらの構想が実現すると世田谷キャンパスの応用生物科学部、厚木キャンパスの農学部、オホーツクキャンパスの生物産業学部と合わせ、 3キャンパスでより多様な農学分野をカバーすることになる。(新学部・学科は仮称。2017年 4 月設置認可申請中。概要等は予定であり、変更する場合がある)

東京農業大学 by AERA 朝日新聞出版発行の「AERA」と東京農大がコラボレーションしたムック本。髙野学長ブラジル紀行「遠い異国の地を拓く 逞しき先駆者たち」、最新研究リポート「稲のことは稲にきけ」、農業実習密着ドキュメント「富士で育つ農の心」、卒業生インタビュー、東京農大今昔物語など満載。写真がふんだんに使われ東京農大の設立から現在までの125年の歴史、教育体制と研究内容、地域や社会への貢献事業、卒業生の活躍などを全116㌻にわたって紹介している。

 ネパール映画研究の第一人者で東京情報大の伊藤敏朗教授(専門:映像表現論。東京農大OB)の監督作品『カトマンズに散る花』(2013年製作)が、ネパール大地震復興支援として日本で上映された( 4月23日~5月 8日、渋谷ユーロライブ)。同作品は、1960年代のカトマンズを舞台に、第二次世界大戦で日本軍と戦い、心に傷を負った男と、カトマンズの館で思索に耽る謎の女との秘められた愛の物語。原作はネパールの文豪・パリジャート女史の「シリスコフル」(シリスの花)。 ネパールは2015年 4 月25日、大地震に襲われ甚大な被害を被った。カトマンズの伝統建築の街並みも大き

く傷ついたが、同作品には震災前のカトマンズの美しい姿が残されている。大震災からの復興を支援する活動を通じて、日本上映の機運が高まり、震災 1周年に合わせて日本公開となった。 伊藤教授がネパールで、最初に映画製作したのは2008年の『カタプタリ 風の村の伝説』。神の山から降りてきた妖精と、人間の子どもとの心の交流を描いたファンタジーで、ネパール政府国家映画賞、ネパール短編映画祭批評家賞などを受賞した。そして今、ネパール大地震で現地に派遣された日本の国際緊急援助隊の隊員と、現地ネパール人との友情の絆、被害の苦難と復興の姿を描く『カトマンズの約束』の撮影が進んでいる。同作品は来年春の公開を予定している。

掲 示 板伊藤敏朗・東京情報大教授の監督作品『カトマンズに散る花』日本で公開

創立125周年記念式典と祝賀会日時: 5月21日(土)11時~会場:東京農業大学世田谷キャンパス   百周年記念講堂/桜丘アリーナ* 卒業生を母校に招く第16回ホームカミングデーも同時開催

公開初日舞台挨拶をする伊藤教授(中央) 写真提供 遠藤湖舟氏

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パン用小麦の一大産地・オホーツク オホーツクというと海産物が豊富というイメージがあるが、農産物だって負けていない。 2013(平成25)年の漁業生産高は過去 5年で最高の715億7,879万円に対して、農業生産額は1,723億7,800万円となっており、地域の一次産業における農畜産物の生産ウエートは非常に高い。 しかも、オホーツクの冷涼で雨が少ないという気候条件は、小麦を栽培する環境に非常に適している。小麦には、タンパク質含有率が高くパンや中華麺に向いた品種、タンパク質含率が中程度のうどんに向いた品種がある。製パン適性に優れた小麦粉は「強力粉」と言って、粘りと弾力のあるグルテンを形成するもととなる。この製パン適性に優れた小麦品種として、北海道で栽培面積が最大となっているのが春まき小麦「春よ恋」で、香りも良く吸水性に優れ、ふっくらとしたボリュームのあるパンに仕上がる。オホーツクはこの「春よ恋」の一大産地となっている。日本の小麦の自給率は約13%で、パン用に限れば 3%程度しかない。

地産地消にこだわり地域の素材を生かすパン職人 こうした小麦の栽培に恵まれたオホーツクの環境にほれ込み、地元の素材の使用にこだわったパンづくりをしているのが、女満別空港のある大空町でパン店「ブランジェ・アンジュ(フランス語で“天使のパン屋”)」を2003年12月に開業した平岡映二さんである。 平岡さんは神奈川県の出身で、開業以前は東京都内のベーカリー店で働いていたが、原材料の小麦が生

産されている現場を普段意識していなかったことに疑問を持ち、北海道の畑作農家(本別町の前田茂雄氏・東京農大世田谷キャンパスOB)で半年間の研修を行っている。そこで食と農を結ぶ地産地消の考えに触れ、生産現場が近い北海道でのパン店を開業することを決意するのである。 パンづくりに不可欠な材料は小麦粉、イースト、塩、水の 4つ。主原料となる小麦粉は女満別産「春よ恋」をはじめとしたオホーツク産・北海道産の小麦粉、塩は湧別町産「オホーツクの塩」、水は百名山に数えられる斜里岳に湧く「来運の水」を使用するというこだわりようである。他にも地域の素材として、牛乳は網走市・楠目牧場の「オホーツクあばしり牛乳」、卵は網走市・杉村農園の「あばしりピースたまご(有精卵)」や北見市の養鶏会社、バターは十勝発祥の乳業メーカー・よつ葉乳業のフレッシュバターを使用する等、原料は地元産・オホーツク産・北海道産に徹底的にこだわっている。 パンの種類は20~30種、大型のハードタイプのパンをはじめとして、食パン、メロンパン、クリームパン、くるみパン、あんパン、ソーセージパン、ブルーベリーパン、クロワッサン、りんごのデニッシュ、さくら豚のミートピザパンなど実に多様な品ぞろえとなっていて、お客様を楽しませてくれている。 また、こうした地域の食材にこだわったパンづくりが注目されて、札幌の地下街や旭川のデパート等でも販売されるようになってきた。こうした取り組みは、地域の生産者や加工業者など地域の小企業者とのネットワークに支えられているという。オーナーの平岡さんは「地域の素材にこだわるという基本理念は変えずに、人との出会いを大事にしていきたい」と語ってくれた。

オホーツクの地域資源 Foods Who( 5 )

オホーツクの大地の恵みをたっぷり使用-地産地消にこだわるパン職人-

東京農業大学生物産業学部准教授 菅原 優

「ブランジェ・アンジュ」のオーナー・平岡映二さん

女満別空港から網走に向かう国道沿いにある店舗

すがわら まさる東京農業大学生物産業学部地域産業経営学科(環境ビジネス研究室)准教授専門分野:生物産業ビジネス

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東京農大農学部植物園から(37)

クロフネツツジRhododendron schlippenbachii Maxim.

(ツツジ科)

 淡い緑の葉が輪生状に展開すると共に、枝先につく 1個の花芽に径 6 cmとやや大きい花を 3~ 6個散形状に咲かせます。花冠は淡い桃色または白色の漏斗形で先端部は 5つに裂け上部の裂片の内側には赤い斑が見られます。雄

蕊しべ

は10本。優雅さが漂います。 「ツツジの女王」と呼ばれることにも納得がいきます。 中国東北部、ロシア極東部および朝鮮半島に自生する樹高 1 ~ 4.5mほどの落葉低木。特にお隣り韓国では「チョルチュク( )」

と呼ばれ、江原道、光州広域市、議政府市など多くの自治体でその自治体を象徴する花として制定されています。 江戸時代初期の1668年に朝鮮半島から渡来した黒船と呼ばれる外国船によって日本に導入されたことにより「クロフネツツジ」と呼ばれます。 現在、日本国内で販売されているものは、全て実生から栽培したもので丈夫で栽培しやすく、実生だと約 8年で開花します。

(東京農大農学部植物園 伊藤健)

8160501

新・実学ジャーナル2016年 5 月号 No.1302016年 5 月 1 日発行編集・発行 学校法人東京農業大学戦略室〒156‒8502 東京都世田谷区桜丘 1 ‒ 1 ‒ 1TEL.03‒5477‒2300 FAX.03‒5477‒2707http://www.nodai.ac.jp/hojin/

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2016 東京農大創立125年

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