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修士学位論文 論文題目 分光情報を用いた可視化技術に関する研究 平成 27 2 東北大学 工学研究科 通信工学専攻 山田・大寺研究室 B3TM2335 三橋将礼

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  • 修士学位論文

    論文題目

    分光情報を用いた可視化技術に関する研究

    平成 27年 2月

    東北大学 工学研究科 通信工学専攻

    山田・大寺研究室

    B3TM2335 三橋将礼

  • 1

    目次

    第 1章 序論 ...................................................................................................................... 3

    1.1. 背景 .......................................................................................................................... 3

    1.2. 目的 .......................................................................................................................... 4

    第 2章 原理 ...................................................................................................................... 6

    2.1. フォトニック結晶フィルタ ...................................................................................... 6

    2.1.1. フォトニック結晶とは ...................................................................................... 6

    2.1.2. 自己クローニング型フォトニック結晶 ............................................................ 7

    2.2. 近赤外分光イメージング ......................................................................................... 9

    2.2.1. 分光イメージングとは ...................................................................................... 9

    2.2.2. ランベルト-ベールの法則 ................................................................................. 9

    2.2.3. 主成分分析 ....................................................................................................... 11

    2.2.4. 重回帰分析 ...................................................................................................... 13

    2.2.5. ゲインとオフセットの補正(MSC) ............................................................. 16

    2.2.6. パターン化フィルタのチャンネル数 .............................................................. 19

    第 3章 水, エタノール混合溶液の濃度測定 .................................................................. 20

    3.1. 研究背景 ................................................................................................................. 20

    3.2. 光学系 .................................................................................................................... 20

    3.2.1. 測定に用いる PhCFの特性 ............................................................................ 20

    3.2.2. 測定系 ............................................................................................................. 22

    3.2.3. PhCFとイメージセンサの位置合わせ .......................................................... 24

    3.3. 主成分分析による検量線の計算 ............................................................................ 27

    3.4. 測定プログラム ...................................................................................................... 31

    3.5. 測定結果と考察 ...................................................................................................... 33

    3.5.1. 静止画による濃度, 光路長の判別画像 ........................................................... 33

    3.5.2. リアルタイム測定 ........................................................................................... 34

    第 4章 桃の糖度測定 ...................................................................................................... 37

    4.1. 研究背景 ................................................................................................................. 37

    4.2. ファイバプローブを用いた測定 ............................................................................ 38

    4.3. 二次元分光画像による糖度予測 ............................................................................ 41

    4.3.1. CCDカメラと複数の BPFを用いた測定 ...................................................... 41

    4.3.2. 主成分分析による桃と背景の識別 ................................................................. 44

    4.3.3. 観察方向の違いによる糖度の見え方の違い ................................................... 46

    第 5章 結論 .................................................................................................................... 48

    謝辞 ....................................................................................................................................... 49

  • 2

    参考文献 ............................................................................................................................... 50

    研究成果 ............................................................................................................................... 52

  • 3

    第1章 序論

    1.1. 背景

    現在、工業、農林水産業、食品製造、医薬品開発、医用診断などの各分野において、非

    接触、低侵襲な可視化手法が求められている。例として、農作物に残留した農薬の検出や、

    プラスチックのリサイクル時の選別、薬品の成分分析などがあげられる。これらの分析で

    は試料をオンラインで全数検査する必要があるため、サンプルを抽出しそれを化学分析す

    るような手法は不向きである。そこで近年では、近赤外分光法(NIRS: Near-Infrared

    Spectroscopy)による分析法が注目され導入が進められている。

    近赤外分光法とは、対象となる試料に近赤外光(おおむね波長 700~2500nm)を当て、

    その透過光(あるいは反射光)のスペクトルを測定し、対象物質の特定や定量を行う分析

    法である[1]。近赤外分光法は特に重回帰分析や主成分分析などの多変量解析の手法と組み

    合わせることで、物質の同定や濃度測定に威力を発揮する。近赤外分光の手法の中でも、

    光学フィルタなどを用いてある特定の波長領域に帯域制限された画像(分光画像)を撮影

    し、それらに演算処理を施すことで成分や濃度の分布を可視化する手法をスペクトルイメ

    ージングと呼ぶ[2,3,4,5]。本稿ではこの手法を分光イメージングと呼ぶことにする。

    分光イメージングには、音響光学素子[2]、回折格子[3]、液晶を用いた波長可変フィルタ

    [4]、誘電体多層膜を用いた複数の個別波長フィルタ[5]などをイメージセンサと組み合わせ

    る方式がよく用いられる。回折格子や波長可変フィルタを用いた方式は波長分解能が高く

    汎用性に優れているが、フィルタに用いられる素子の駆動に特殊な機構を要する。他方、

    個別波長フィルタなどを用いる方式は、特殊な機構を必要とせず、汎用のフィルタをその

    まま用いることができるため、産業分野に応用する上では有利である。

    しかし、従来の個別波長フィルタを用いる場合、1枚のフィルタはある特定の透過特性し

    か持たないか、面内で緩やかに変化する透過特性しか持ち得なかった。そのため、複数の

    波長の分光画像を得るには、フィルタを交換するフィルタホイール[5]のような機構が必要

    であった。しかしフィルタホイールを使用する場合、撮影対象が移動・変化する場合は分

    光画像間でずれが生じるため、リアルタイム測定における波長間の同時性の面で問題が残

    る。

    この問題を解決する有力な方法として、凹凸誘電体多層膜である自己クローニング型フ

    ォトニック結晶[6,7]を波長固定フィルタとして用いる方法がある(フォトニック結晶フィ

    ルタ: Photonic Crystal Filters,以下 PhCFと略す)。自己クローニング型 PhCFは平坦な

    多層膜からなる波長フィルタとは異なり、基板上の位置において透過特性を変化させるこ

    とができる[8]。この特徴を利用すると、イメージセンサの画素ごとに透過特性が周期的に

    異なるようなパターン化フィルタも作製することができる。パターン化フィルタとカメラ

  • 4

    のセンサを組み合わせた分光カメラの概念図を図 1-1に示す。パターン化フィルタを用いる

    ことで、同時に複数の分光画像を撮影できるリアルタイムな分光イメージカメラが実現で

    きる。

    自己クローニング型 PhCF は基本的には誘電体多層膜である。したがって、内部にキャ

    ビティ層を設ければファブリ・ペロー共振器型バンドパスフィルタ(Band Pass Filter: BPF)

    として用いることができ[9]、キャビティ層を設けなければエッジパスフィルタ[8]やバンド

    除去フィルタとして用いることもできる。

    図 1-1 パターン化フィルタの概念図

    1.2. 目的

    これまで、自己クローニング型 PhCF とイメージセンサを組み合わせた方式の分光イメ

    ージングに関していくつかの先行研究がなされてきた。可視領域における 4 色の長波長透

    過型エッジパスフィルタと主成分分析を用いた炎症の可視化[10,11]や、近赤外波長域にお

    ける水・エタノールの混合溶液向けのフィルタの設計と実験[12,13]などが報告されている。

    しかし、PhCFを用いた分光イメージングの大きな利点である高速なリアルタイム測定につ

    いての検討はまだなされていなかった。また、産業応用へ向けた具体的な取り組みもまだ

    行われていなかった。

    そこで、本研究では次の 2つを目標に掲げて検討を行った。

    (1) 異種透明液体の混合・拡散過程のリアルタイムな可視化

    例えばポリマーの製造工程や原油の精製工程において、各製造段階での成分濃度の可視

    化が、品質向上や生産管理などプロセス管理の観点で重視されている。また、ポリマーの

  • 5

    製造においては、均一な品質を確保するために反応物質と溶媒との混合の制御も重要な要

    素となっていることから、混合過程の可視化にも強い要求がある。

    そこで、本研究では異種透明液体の混合・拡散過程のリアルタイムな可視化について検

    討した。研究対象としては、最も基本的で身近な透明液体である水とエタノールを選んだ。

    分光画像の測定に PhCFを使用し、演算手法として主成分分析を用いることで、4つの波長

    バンドの吸光度情報から水とエタノールの混合溶液の濃度と光路長の情報を可視化するこ

    とを目指して研究を行った。

    (2) 果物の糖度分布を可視化するための要素技術の開発

    近年、青果等の生産現場で、糖度や大きさ・形といった品質情報を非破壊で測定する技

    術への要求が高まり、積極的な導入が進められている。こういった機器の中には、光(特

    に近赤外光)を測定のプローブとして用いる、いわゆる「光センサ」と呼ばれる方式があ

    る。光センサを導入することによって、今まで人の手で行っていた品質管理を科学的根拠

    に基づいて行うことが可能となるため、商品価値や産地信頼度の向上、品質不揃の改善等

    が期待されている。また、収穫前の状態の果実の糖度を知ることができれば、最適な収穫

    時期の見極めも行うことができ、鮮度管理の難しい果実の品質を高めることもできる。

    光センサが求められている果物は数多いが、特に桃は今後アジア各国への輸出の増加が

    期待されており、商品価値の向上が求められている。また、桃は他の果実と比較して傷み

    やすく鮮度管理の難しい果実であり、品質管理の改善が強く求められている。

    そこで、本研究では桃の糖度可視化を目的とした検討を行った。本研究内では PhCF を

    用いた測定までは行うことができなかったが、実現へ向けた基礎データの蓄積や必要な要

    素技術の開発を行った。ピンポイント型ファイバプローブを用いた拡散反射スペクトルと

    糖度の情報を用いて重回帰分析を行うことにより、糖度の可視化が実現可能かどうかの検

    討を行った。また、CCDセンサと複数の BPFを組み合わせて撮影した分光画像を用いた、

    二次元的な糖度予測画像の作成について検討した。

  • 6

    第2章 原理

    2.1. フォトニック結晶フィルタ

    2.1.1. フォトニック結晶とは

    フォトニック結晶(PhC: Photonic Crystal)とは、屈折率の異なる材料が光の波長以下

    の周期で規則的に並んだ構造体である。フォトニック結晶内に侵入した光は、波長λと周

    期構造の周期 a の間に、 aλ 2 の関係があるとき、ブラッグ反射によって反射される。そ

    のため、フォトニック結晶内部に光の侵入できない波長領域が存在する。これは、固体結

    晶中における電子のバンドギャップとのアナロジーから、フォトニックバンドギャップ

    (PBG: Photonic Band Gap)と呼ばれている。屈折率の周期構造には一次元周期構造、二次

    元周期構造、三次元周期構造があり(図 2-1)、通常このうち二次元以上のものをフォトニ

    ック結晶と呼んでいる。

    図 2-1 屈折率周期構造の例

    (a) 一次元周期構造(交互多層膜)

    (b) 二次元周期構造(二次元 PhC)

    (c) 三次元周期構造(三次元 PhC)

    三次元 PhC は内部の光がどの方向にも進行できない完全 PBG を構造によっては持ちう

    る。一次元、二次元周期構造ではそれぞれ一直線上、あるいは 1 つの平面内の方向に進行

    する光に対する PBG(部分 PBG)を持ちうるが、PBG を持たない方向にも別の光閉じ込

    め機構を導入すれば完全な光の閉じ込めを実現することもできる。この特異な性質を利用

    し、PhC 中の格子欠陥を導波路や共振器として利用したり、波長フィルタや反射板として

    使用したりするなどの幅広い素子応用が研究されている。

    (a) (b) (c)

  • 7

    2.1.2. 自己クローニング型フォトニック結晶

    凹凸形状多層膜である自己クローニング型 PhCの概念図を図 2-2に示す。

    図 2-2 自己クローニング型フォトニック結晶フィルタ

    上図のような凹凸形状は、あらかじめ電子ビームリソグラフィとドライエッチ等で凹凸

    パターンを形成した基板に多層膜をスパッタリング成膜することによって作製される。通

    常のスパッタリングでは多層膜を重ねるにつれて表面の凹凸が徐々に平坦化されてしまう。

    その問題を解決したのが自己クローニング法である。凹凸パターンの作製から、自己クロ

    ーニング法によって三角波形状多層膜を積み上げる工程は、次ページの図 2-3に示すような

    プロセスで行われる[14, 15]。

    スパッタリング成膜の過程では、凹凸形状の角は丸くなっていくという特徴がある。そ

    れに対してドライエッチングの過程では、ある角度の斜面が優先的に削られる傾向がある。

    これらのバランスを取りながら膜を形成する。つまり、スパッタリングとドライエッチン

    グを交互に行うことで、一定の傾斜角を持つ三角波形状を維持したまま多層膜を積み重ね

    ることができる。一旦定常形状に達した後は、数十層から百層にわたって同じ角度の斜面

    が繰り返される。

  • 8

    図 2-3 多層膜型フォトニック結晶の作製工程

  • 9

    2.2. 近赤外分光イメージング

    2.2.1. 分光イメージング

    序論でもすでに述べたが、波長選択フィルタなどを用いることにより、ある波長領域で

    帯域制限された画像(分光画像)を撮影し、それらの画像間に演算処理を施すことで撮影

    対象の成分濃度や分布といった情報を可視化する手法を分光イメージングと呼ぶ。

    紫外・可視・赤外といった分光に用いる光の波長によって様々なメリット・デメリット

    があるが、近赤外光を用いることの利点をまとめると以下のようになる[1]。

    物質の吸光度が小さいため、厚みのある試料の測定や、物質の内部の測定ができる。

    固体、紛体、繊維、フィルム、ペースト、液体、溶液、気体など様々な状態の試料に適

    用することができるため、試料の調整が容易である。

    中・遠赤外光に比べ、近赤外光は水に対する吸収がかなり小さいので、水溶液状態や水

    分を多く含む試料の計測が容易である。

    近赤外光を用いることのデメリットとしては、スペクトルの複雑さがあげられる。これ

    は、近赤外光の吸収が物質の分子振動の倍音や結合音によって生じるため、多数のバンド

    が重なるからである。そのため、近赤外分光画像から情報を取り出すためには、重回帰分

    析や主成分分析などの数学的手法や統計的な処理が多用される。このように、数学的手法

    や統計的手法を適用し、化学データから得られる情報量を最大化することを目的とした学

    問をケモメトリクス(chemometrics)と呼ぶ。

    PhCFをバンドパスフィルタとして用いる場合、分光画像から得られるデータはそのバン

    ドでの受光強度である。以下では、受光強度から得られる情報をもとに試料の成分や状態

    を分析する際に利用できる、計算手法や法則について述べる。

    2.2.2. ランベルト-ベールの法則 [1]

    ランベルト-ベールの法則(Lambert-Beer law)は、ある厚みをもった試料による光の吸

    光度と、試料に含まれる化学種の濃度とを結びつける法則である。

  • 10

    図 2-4 試料による光の吸収

    図 2-4 に示すような厚みd [cm]を持つ試料に光を入射する場合を考える。試料に入射す

    る光の強度を 0I 、試料を透過した光の強度を tI とすると、透過率T は次の式で定義される。

    0I

    IT t (2.1)

    次に、入射光の試料内部での減衰を考える。図 2-4 の試料の微小な厚みdxの領域を通過す

    る際に減衰する光の強度を diとすると、減衰量は入射光強度 i、試料の濃度c [mol/l]、距離

    dxに比例するため、以下のようになる。

    dxciεdi (2.2)

    ここで、εは比例定数である。式(2.5)を厚さ 0からd まで定積分すると、厚さ 0およびd に

    おける光の強度はそれぞれ 0I 、 tI であるから、

    tI

    I

    d

    dxcεi

    di

    0 0 (2.3)

    となる。この式を解くと、

    dcεI

    I te

    0

    log (2.4)

    と求められる。式(2.4)を常用対数で表すと、

    dcεI

    I t 0

    10log (2.5)

    となる。ただし、

    εε 434.0 (2.6)

    である。ここで、吸光度 Aは透過率の逆数の常用対数を取ることによって得られるので、

    式(2.5)は、

    dcεT

    A

    1log10 (2.7)

    と表すことができる。式(2.7)で表される吸光度と濃度、光路長の関係をランベルト-ベール

  • 11

    の法則と呼ぶ。 ε は特定の波長における吸収の強さを表す尺度であり、モル吸光係数

    [/mol・cm]と呼ばれる。このモル吸光係数は物質によって固有であるため、モル吸光係数 ε

    と光路長d がわかっていれば濃度cを求めることができる。逆に、既知のcと d から εを求

    めることもできる。

    2.2.3. 主成分分析 [16]

    分光イメージングでは、各分光画像から得られた吸光度の分布データをもとに、必要な

    情報とそれ以外の情報の S/N 比をなるべく最大化して表示することが求められる。そのよ

    うな場合、多変量解析の一つである主成分分析の利用が効果的である。主成分分析とは、

    複数のデータの中からエッセンスとなる成分を合成することでより分かりやすい指標を作

    り、その指標を用いてデータを分析する手法である。

    例として、3種類の波長フィルタを使った主成分分析の計算方法を示す。ここで、変量と

    なる各分光画像から得られた吸光度をそれぞれ x , y , z とおくと、新しい指標となる主成

    分uをそれらの線形結合で表す。

    czbyaxu (2.8)

    n種類の異なる試料を測定し n組の吸光度が得られたとき、それらの吸光度から計算され

    る主成分をそれぞれ1u , 2u ,…, nu とする。このときのuの分散が最大となるように係数a ,

    b , cを定める。分散とは、それぞれのデータの平均値からの差を合計したものであり、n

    個のデータを持つ変量 tの分散 2ts は以下の式で定義される。

    2222121

    ttttttn

    s nt (2.9)

    ここで t は変量 tの平均値を表す。したがってuの分散は以下のように計算される。

    2

    2

    111

    2

    2

    111

    22

    2

    2

    1

    2

    )()(

    )()(1

    )(

    )(1

    1

    zzcyybxxa

    zzcyybxxa

    n

    zcybxaczbyax

    zcybxaczbyax

    n

    uuuuuun

    s

    nnn

    nnn

    nu

    (2.10)

    この式を展開し、さらに分散、共分散の式を当てはめることで、以下の式を得る。

    yzxzxyzyxu bcsacsabsscsbsas 2222222222 (2.11)

    xys は変量 xと yの共分散を表しており、

    yyxxyyxxyyxxn

    s nnxy 22112 1

    (2.12)

    と定義される。

  • 12

    式(2.11)の最大値問題を解くことで uの分散の最大値を求めるが、係数a , b , cを大きく

    すると分散も無限に大きくなってしまう。そこで係数の条件として、

    1222 cba (2.13)

    とする。条件付きの最大値・最小値問題を解く方法として、ラグランジュの未定乗数法が

    広く知られている。ラグランジュ乗数を μとすると、ラグランジュアン L は以下の式であ

    らわされる。

    )1()222(222222222 cbaμbcsacsabsscsbsaL yzxzxyzyx (2.14)

    また、式が極値を取る条件は以下の式で与えられる。

    0

    c

    L

    b

    L

    a

    L (2.15)

    この条件より、

    02222

    02222

    02222

    222

    222

    222

    cμcsbsasc

    L

    bμcsbsasb

    L

    aμcsbsasa

    L

    zyzxz

    yzyxy

    xzxyx

    (2.16)

    この連立方程式を行列式でまとめると、以下のように表せる。

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    zyzxz

    yzyxy

    xzxyx

    zyzxz

    yzyxy

    xzxyx

    sss

    sss

    sss

    S

    c

    b

    a

    μ

    c

    b

    a

    S

    c

    b

    a

    μ

    c

    b

    a

    sss

    sss

    sss

    (2.17)

    行列 S を分散・共分散行列と呼ぶ。つまり、主成分uの分散を最大にすることは、この分

    散・共分散行列の固有値問題を解くことと等しくなる。各固有ベクトルはそれぞれの主成

    分の係数となり、ローディング、またはローディングベクトルと呼ばれる。

    また式(2.11)より、主成分 uの分散 2us の式を行列で表すと、

  • 13

    μ

    cbaμ

    c

    b

    a

    μcba

    c

    b

    a

    Scba

    c

    b

    a

    sss

    sss

    sss

    cba

    bcsacsabsscsbsas

    zyzxz

    yzyxy

    xzxyx

    yzxzxyzyxu

    222

    2

    2

    2

    2222222 222

    (2.18)

    が導かれる。すなわち、固有値 μは主成分uの分散と等しくなる。

    一般に、主成分は変量の数(ここでは、使用する波長フィルタの数)と同じだけ得られ

    るが、それら全てに有益な情報が入っているとは限らない。実際の主成分分析においては、

    それぞれの主成分が持つ意味を十分に吟味し、どの主成分を採用するか検討する必要があ

    る。そこで、主成分が持っている情報の大きさを表す尺度として「寄与率」を以下の式で

    定義する。

    222

    2

    zyx

    u

    sss

    s

    データ全体の分散

    主成分の分散各主成分の寄与率

    (2.19)

    寄与率の高い主成分から順に第一主成分、第二主成分、…、と呼ぶ。第一主成分から第 i

    主成分までの寄与率の和を i番目までの累積寄与率と呼ぶが、何番目までの主成分を採用す

    るかについては、多くの場合、累積寄与率が 0.8以上という値が基準として使用される。

    2.2.4. 重回帰分析 [16]

    複数の変量で構成されるデータがあり、その中の特定の 1 変量を残りの変量を使って予

    測したい場合、多変量解析の一つである重回帰分析を利用できる。このとき、予測したい

    変量を目的変量、残りの変量を説明変量と呼ぶ、重回帰分析では一般的に、目的変量は説

    明変量の一次関数で表される。

    例として、3波長のフィルタを用いた分光画像の情報から、対象の糖度を予測する場合の

    計算方法について以下に述べる。n 個の異なる試料を測定したとき、目的変量となる Brix

    値(後に述べる糖度の指標)の実測値を B、説明変量となる各分光画像から得られた情報

    (各フィルタがカバーする波長帯の平均吸光度など)をそれぞれ x , y , z とおく。その際、

  • 14

    i番目の試料の Brix値の予測値 iBを以下の一次式で表す。

    dczbyaxB iiii (2.20)

    a, b, cを回帰係数と呼び、dは定数項である。また、式(2.20)を回帰方程式と呼ぶ。

    実測値Bと予測値Bとの差を残差と呼び、すべてのデータの残差の二乗を合計したもの

    を残差二乗和と呼ぶ。i番目のデータの残差を iε 、残差二乗和を Q とすると、それぞれ以下

    の式で表せる。

    dczbyaxB

    BBε

    iiii

    iii

    (2.21)

    2

    2

    1111

    1

    2

    dczbyaxB

    dczbyaxB

    εQ

    nnnn

    n

    i

    i

    (2.22)

    各回帰係数 a, b, c 及び定数項 dは、残差二乗和 Q が最小となるように決定する。極値条

    件より、Q が最小値となるとき、Q の a, b, c, dに関する偏微分はそれぞれ 0となる。ここ

    で、Qの dに関する偏微分は以下のようになる。

    02

    2 1111

    dczbyaxB

    dczbyaxBd

    Q

    nnnn

    (2.23)

    これを整理すると、

    02121

    2121

    ndzzzcyyyb

    xxxaBBB

    nn

    nn

    (2.24)

    両辺を nで割ると、

    02121

    2121

    dn

    zzzc

    n

    yyyb

    n

    xxxa

    n

    BBB

    nn

    nn

    (2.25)

    各分数はそれぞれ変数の平均値となっている。よって、

    zcybxaBd

    dzcybxaB

    0 (2.26)

    となる。式(2.22), (2.26)より Qに dの値を代入すると、以下の式が導ける。

    2

    2

    1111

    zzcyybxxaBB

    zzcyybxxaBBQ

    nnnn

    (2.27)

    この式を a, b, cに関して偏微分する。aに関して偏微分すると、

  • 15

    0

    2

    2

    2

    11111

    zzcyybxxaBBxx

    zzcyybxxaBBxxa

    Q

    nnnnn (2.28)

    これを展開し、整理すると、

    BBxxBBxxzzxxzzxxc

    yyxxyyxxb

    xxxxa

    nn

    n

    nn

    n

    11

    111

    11

    22

    1

    (2.29)

    両辺を nで割ることによって、各項は分散と共分散(2.2.3.参照)を用いて表すことができ

    る。すなわち、

    xBxzxyx scsbsas 2

    (2.30)

    となる。Qを b, cに関してそれぞれ偏微分した場合も同様にして、

    yByzyxy scsbsas 2

    (2.31)

    zBzyzxz scsbsas 2

    (2.32)

    が導ける。以上の式(2.30)~(2.32)をまとめると、Qが最小値となる条件を以下の式で表す

    ことができる。

    zB

    yB

    xB

    zyzxz

    yzyxy

    xzxyx

    s

    s

    s

    c

    b

    a

    sss

    sss

    sss

    2

    2

    2

    (2.33)

    この連立方程式を解くことで、各重回帰係数 a, b, c を求めることができる。また、定数項

    d は求められた a, b, c の値を式(2.26)に代入することで求めることができる。

    次に、重回帰分析の精度の評価方法について述べる。一般的に、目的変量の実測値の分

    散は、予測値の分散と残差の分散の和と等しくなる。つまり、

    222

    εBB sss (2.34)

    が成り立つ。ここで、残差の分散 2εs について以下の式が成り立つ。

    n

    Q

    n

    εεεs nε

    22

    2

    2

    12

    (2.35)

  • 16

    したがって、残差二乗和 Q が最小となるとき、残差の分散 2εs も最小となる。

    式(2.34), (2.35)より、精度が高い、つまり Q が非常に小さい場合、予測値の分散が実測

    値の分散とほぼ等しくなる。したがって、以下の値が回帰方程式の当てはまりの良さを表

    現していると考えられる。

    実測値の分散残差の分散

    実測値の分散

    予測値の分散

    1

    2R

    (2.36)

    この R2を決定係数、あるいは寄与率と呼ぶ。すなわち、

    2

    2

    2

    2

    2

    1B

    ε

    B

    B

    s

    s

    s

    sR

    (2.37)

    である。また、0≦R2≦1 である。決定係数の尺度には様々な見方があるが、おおよそ 0.5

    以上でおおむね良い精度、0.8以上で非常に良い精度とされる。

    決定係数を R2と表現するのは、回帰方程式で得られた予測値と目的変量の実測値との相

    関係数(重相関係数と呼び、記号 Rで表す)の二乗が、決定係数と等しくなるためである。

    重相関係数 Rは以下のように定義される。

    BB

    BB

    ss

    sR

    (2.38)

    2.2.5. ゲインとオフセットの補正(MSC)

    測定によって得られたスペクトルには、しばしば試料の吸光度由来とは異なる強度の差

    が表れることがある。これは、光源強度の揺らぎや、測定機器のオフセット、光学系と試

    料の位置ずれなどに由来するものである。スペクトルを用いて分析を行うためには、この

    強度差を補正しなければならない。その補正方法の一つに、MSC(Multiplicative Scatter

    Correction)と呼ばれる手法がある[17]。この手法は、本来測定されるべきスペクトルを

    λX 、実際に測定されたスペクトル λY と置いたとき、両者の関係を bλaXλY と

    定義する(λは波長である)。係数 a と b を求めることで、本来のスペクトルを求めること

    ができる。このとき、a をゲイン、bをオフセットと呼ぶ。MSCでは、本来のスペクトル λX

    を測定されたスペクトルの平均値 λY と仮定して、 λY と bλYa との誤差が最小とな

    るように最小二乗法を用いて係数を計算する。

    具体的に、測定で得られた吸収スペクトルからゲインとオフセットを計算する方法につ

    いて述べる。図 2-5は 6つの異なる試料の吸収スペクトルを λ =1000~1700nmまで 50nm

    おきに 15 点測定した場合の例である。i(=1~6)番目の試料の吸光度を λYi 、波長 λに

  • 17

    おける 6つの吸光度の平均値を λY として、

    λebλYaλY iiii (2.39)

    が成り立つと仮定する。ここで、 λei は誤差である。

    図 2-5 強度差のある吸収スペクトルの例

    係数ia , ib をスペクトルごとに計算する。i=1の場合、誤差の二乗和は以下のように計算

    できる。

    2

    111

    2

    1 λλ

    bλYaλYλe (2.40)

    極値条件より、式(2.40)が最小となるとき、1a , 1b に関する偏微分はそれぞれ 0となること

    から連立方程式を解くことで、係数1a , 1b を求めることができる。係数 1a , 1b はそれぞれ、

    図 2-6に示したように、横軸に測定スペクトルの平均値 λY 、縦軸に測定値 λY1 をプロッ

    トし、それに対してもっともらしい直線を引いた際の傾きと切片にそれぞれ対応している。

  • 18

    図 2-6 平均値と測定値の関係

    求めた係数ia , ib を用いて補正後の各スペクトル λYi は以下の式で表すことができる。

    i

    ii

    ia

    bλYλY

    (2.41)

    図2-5の各スペクトルに対してMSCによる補正を行うと、図2-7のような結果が得られる。

    各スペクトルの強度差が減少し、吸光度の微妙な違いを比較できるようになっていること

    が分かる。

    図 2-7 MSC後のスペクトル

  • 19

    2.2.6. パターン化フィルタのチャンネル数

    パターン化フィルタは、複数の透過波長のフィルタが周期的に並んだ構造であるが、あ

    る透過波長のフィルタの集合をチャンネルと呼び、フィルタの種類の数をチャンネル数と

    呼ぶ。すなわち、4種類の透過波長をもつフィルタを 4チャンネルフィルタと呼ぶ。フィル

    タのチャンネル数によって主成分、重回帰係数の個数や情報の質が変化するが、チャンネ

    ル数を増やすことには利点と欠点がある。

    利点としては、情報量が多くなることがあげられる。ターゲットとなる試料に含まれる

    色素や吸光性媒質の種類によって、必要なフィルタの最小チャンネル数がおおむね決まる

    が、チャンネル数が多くなれば、スペクトルの変化が複雑である場合や、試料の種類が多

    くなった場合にも対応できるようになる。逆に試料を特徴づける吸光物質の数がわずかで

    あれば、さほどフィルタのチャンネル数は必要ないということになる。

    欠点としては、画像の解像度が減ることがあげられる。PhCFの 1チャンネル当たりのフ

    ィルタの個数は、基本的には総画素数をチャンネル数で割った値になる。つまり、チャン

    ネル数と 1チャンネルから得られる画像の解像度は反比例の関係にある。

    したがって、PhCFのチャンネル数は、必要な情報量と解像度との間でうまく折り合いを

    つけて決めなければならない。

  • 20

    第3章 水, エタノール混合溶液の濃度測定

    3.1. 研究背景

    PhCFを用いたリアルタイム分光イメージングを実現するために、主成分分析を用いた水

    とエタノールの濃度、光路長の判別について検討を行った。測定対象を水とエタノールの

    混合溶液とした理由は、産業の現場において、アルコール飲料や石油、ポリマーなどの透

    明な物質の質的情報の可視化が求められていることがあげられる。また、この 2 種類の液

    体は近赤外領域での吸光度の差が大きく、測定が比較的容易であるため、リアルタイム測

    定を検討する上で課題の把握が容易になると考えた。

    3.2. 光学系

    3.2.1. 測定に用いる PhCFの特性

    図 3-1 PhCFの外観とモザイク領域の拡大図

    使用した PhCF の外観を図 3-1 に示す。実際に測定に使用する領域は①のモザイク領域

    であり、4チャンネルのロングパスフィルタである。②の領域はモザイク領域の各チャンネ

    ルを大面積で作製した領域であり、透過特性を測定するために使用する。また③は各チャ

    ンネルを並べて作成した領域であり、この領域を横切るように切断することにより、多層

    膜フィルタの断面を観察することができる。

    モザイク領域のチャンネルの配置間隔は 30μmであり、近赤外カメラのピクセルピッチに

    対応している。チャンネルの開口部分は直径 25μmであり、その周囲は各チャンネルよりも

  • 21

    長波長側にカットオフ波長をもつ遮光領域となっている。また、モザイク領域の総画素数

    は 318×252である。

    この PhCFの層構造を図 3-2に示す。Siと SiO2の多層膜となっており、メインとなるエ

    ッジパスフィルタの両面には反射防止層(AR層)が積層されている。また、基板上に作製

    した凹凸構造を徐々に三角波形状へと変化させるために、基板側 AR 層と SiO2基板の間に

    は SiO2のバッファ層が設けられている。また、チャンネル 1~4(ch. 1~4)の基板上の凹

    凸の間隔はそれぞれ 400, 440, 480, 520nmであり、遮光領域の凹凸の間隔は 580nmであ

    る。

    図 3-2 使用した PhCFの層構造

    ハロゲン光源と光ファイバを用いた光学系とスペクトルアナライザを用いて、②の領域

    に光を透過させることで各チャンネルと遮光領域の透過スペクトルの測定を行った。測定

    で得られた、ch. 1~4と遮光領域の透過特性を図 3-3に示す。各チャンネルと遮光領域は、

    カットオフ波長が少しずつ異なる BPFとなっている。短波長側のカットオフ波長は、長波

    長側のカットオフ波長と比較してチャンネルごとの差が大きく、また鋭い特性となってい

    る。したがって、PhCF とともにカットオフ波長 1250nm のロングパスフィルタ(LPF:

    Long-Pass Filter)とカットオフ波長 1600nmのショートパスフィルタ(SPF: Short-Pass

    Filter)を併用することによって、PhCF自体をロングパスフィルタとして機能させること

    ができる。

    一方、図 3-4 は測定試料である水とエタノールの近赤外領域の吸収スペクトルである。

    測定波長領域である 1250~1600nm の間に水の大きな吸収ピークが存在することが分かる。

    PhCFの各チャンネルのカットオフ波長はこの吸収ピークの前後に設計してあるため、光の

    吸収度合いの違いからこの 2つの液体を見分けることができる。

  • 22

    図 3-3 使用した PhCFの透過特性

    図 3-4 水とエタノールの近赤外領域の吸収スペクトル

    3.2.2. 測定系

    水、エタノール混合溶液の測定系を図 3-5に示す。ハロゲンランプから出た光を拡散板に

    よって拡散し、試料に透過させることで測定を行う。対物レンズの前後に LPFと SPF、お

    よび偏光子を設置した。試料の像は、対物レンズによって PhCF 上にいったん結像された

    後、倍率 1 倍の両側テレセントリックリレーレンズによって近赤外カメラのセンサに再び

    結像している。そして、近赤外カメラからの情報を用いてパソコン内で演算処理を行う。

  • 23

    図 3-5 水、エタノール混合溶液の測定系

    各光学素子の詳細を以下に示す。また、近赤外カメラの波長感度を図 3-6に示す。

    光源:東芝ライテック 100/110V 150W RFK赤外線家畜用電球

    拡散板:Edmund Optics社製 TECHSPEC 擦りガラス(ソーダ石灰ガラス基板)150mm

    ×150mm

    偏光子:Edmund Optics社製 TECHSPEC 近赤外偏光子(1300~1600nm)

    SPF: Edmund Optics社製 TECHSPEC OD2ショートパスフィルタ 1600nm, φ25mm

    LPF:THORLABS社製 FEL1200(カットオフ波長 1200nm)

    対物レンズ:Edmund Optics社製 TECHSPEC 0.5X Silver Series Telecentric Lens

    テレセントリックレンズ:株式会社オプトアート製 1.0 倍両側テレセントリックレンズ

    TCLF1000-F

    近赤外カメラ:デルフトハイテック株式会社製NIR-300PCL

    解像度:320×256ピクセル

    波長感度域:900~1700nm

    InGaAsセンサ

    ピクセルサイズ:30μm×30μm

  • 24

    14-Bitデジタル(出力画像は 12bit)

    フレームレート:50フレーム/秒

    インターフェース:Camera Link

    C-マウントレンズ

    ペルチェ冷却

    図 3-6 近赤外カメラ NIR-300PCLの波長感度

    (デルフトハイテック社資料より)

    3.2.3. PhCFとイメージセンサの位置合わせ

    すでに述べたように、PhCFのモザイク領域の 1チャンネルと近赤外カメラのイメージセ

    ンサの 1ピクセル(間隔 30μm)は 1対 1に対応しているため、フィルタとカメラの位置を

    正確に調整(アラインメント)しなければならない。アラインメントの際、近赤外カメラ

    を固定した状態で、PhCF の位置を微動ステージによって調整することになる。このとき、

    PhCFを映したカメラの映像をもとに調整を行うが、カメラから送られてくる映像そのまま

    の状態では調整は困難であった。そこで、カメラの映像からアラインメントに必要な情報

    を抜き出すプログラムを作製した。このプログラムで表示されるのは、以下の情報である。

    1. 全体画像の 4隅をズームした画像(倍率調整可)

    2. それぞれのチャンネルに対応したピクセルごとの強度差分の画像

    3. それぞれのチャンネルに対応したピクセル強度のヒストグラム

    それぞれの情報を用いた位置合わせの手順を以下に述べる。

  • 25

    1. 全体画像の 4隅を拡大した画像(倍率調整可)

    図 3-7 は全体画像の 4 隅を 8 倍に拡大した画像である。左図は角度がずれた状態の画

    像であり、各画像の境界のずれから角度のずれを容易に知ることができる。この画像を

    用いることで、おおよその角度の調整をすることができる。角度調整後、画像は右図の

    ようになる。

    図 3-7 四隅のズーム画像(左:角度ずれ状態 右:調整後)

    2. それぞれのチャンネルに対応したピクセルごとの強度差分の画像

    PhCF と近赤外カメラの画素の位置がきちんと合っているとき、各チャンネルに相当

    するカメラの各ピクセルから得られる強度を I1, I2, I3, I4とする。PhCFの各チャンネル

    は透過帯域が異なることから、白色光源を用いた場合の強度は、I1が最も大きく、I4が最

    も小さくなる。また、それぞれのチャンネルのカットオフ波長は等間隔であり、強度差

    分も等間隔となると予想できる。そこで、隣接するチャンネル間での強度の差分を取る

    ことで、フィルタの位置とカメラのセンサの対応関係を知ることができる。図 3-8 は、

    それぞれのチャンネル強度の差分を計算し、画像化したものである。 強度を一定とする

    ために、(I1-I3)の場合と(I2-I4)の場合は差分を 2で割り、(I1-I4)の場合は差分を 3で割

    っている。図 3-8 の上図より、イメージセンサのピクセルがフィルタのチャンネルと 1

    対 1 に対応していない場合は差分画像の強度が負となり、その領域は黒で表示される。

    一方、フィルタとカメラの画素の位置が合っている場合は、図 3-8 の下図のように全て

    の差分画像は明るく表示される。これらの画像をもとに調整を行うことで、フィルタと

    センサを正確に 1対 1に対応させることができる。

    図 3-8 を見ると、フィルタとセンサの画素の位置がほぼ合っている場合でも、画像の

    中心で強度差が大きく、周囲では強度差が小さいことが分かる。これは、画像の中心よ

    りも周囲の方の強度が小さいためと考えられる。この理由として、2つのレンズを組み合

    わせた際、対物レンズから PhCF に大きな角度で侵入した光がリレーレンズに入ること

    ができず、センサに届かない光が存在することが原因と考えられる。3.3.で述べるが、今

    回の測定では予め撮影した画像によって規格化を行うため、この強度差の影響は少ない

    と考えられる。よって、本測定ではこの状態のまま測定を行った。

  • 26

    図 3-8 各チャンネルの強度差分

    3. それぞれのチャンネルに対応したピクセル強度のヒストグラム

    図 3-9 はカメラの各チャンネルに対応したピクセルごとのヒストグラムであり、横軸

    がピクセルの受光強度、縦軸がその強度を受光したピクセルの数となっている。画像強

    度が完全に一様であるような理想的な状態では、各ヒストグラムはデルタ関数状になる。

    また、PhCF 各チャンネルの帯域幅は一定の差があるため、フィルタの各チャンネルと

    センサが正確に対応していれば、各チャンネルのヒストグラムは一定の間隔ずつずれる

    ことになる。一方、フィルタの各チャンネルとセンサが少しでもずれた場合、ヒストグ

    ラムの位置が変化し、間隔が一定ではなくなる。そのため、ピクセル単位以下の微妙な

    ずれをこのヒストグラムによって判断することができる。上記で述べたように、画像の

    中心と端で若干の強度差があるため、実際にはヒストグラムは完全なデルタ関数状とは

  • 27

    ならないが、調整は十分可能であった。

    図 3-9 各チャンネルのヒストグラム

    3.3. 主成分分析による検量線の計算

    各チャンネルから得られた吸光度の情報から、未知の試料の濃度や光路長を判別するた

    めには、その判断基準となる指標(検量線)を作成しなければならない。分析手法に主成

    分分析を用いる場合、まず濃度や光路長が異なる試料の吸光度の情報をもとに主成分ロー

    ディングを求める必要がある。そこから、各主成分が試料のどのような情報を反映してい

    るか判断し、検量線を作成することになる。

    検量線を作成するために、濃度、光路長を調整したエタノール水溶液を用意し、それぞ

    れの吸光度を図3-5の測定系を用いて測定した。測定対象となる水, エタノール混合溶液は、

    エタノールのモル濃度を 0~100%まで 10%刻みにしたものを用意した。それらを光路長

    1mm, 2mmの 2種類のガラスセルに入れてそれぞれ測定を行った。以下にその測定手順を

    示す。

    1. 空のガラスセルを置いた状態で、規格化用の画像を撮影する。

    2. セルを液体で満たした(カメラの画面全体が液体を映した)状態で、試料の画像を撮

    影する。

    3. 式(2.7)より、ピクセルごとに吸光度を計算する。

    4. 中心 32×32pixelのチャンネルごとの平均値を計算する。

    表 3-1に、濃度、光路長別に各チャンネルの平均吸光度 A1~A4を計算した結果を示す。

  • 28

    表 3-1 水, エタノール混合溶液の吸光度

    光路長 エタノー

    ル濃度 A1 A2 A3 A4

    1mm

    0% 0.3054 0.3635 0.3044 0.2788

    10% 0.2691 0.3191 0.2771 0.2530

    20% 0.2345 0.2748 0.2429 0.2213

    30% 0.2013 0.2342 0.2106 0.1921

    40% 0.1801 0.2090 0.1931 0.1793

    50% 0.1576 0.1824 0.1734 0.1624

    60% 0.1436 0.1656 0.1629 0.1550

    70% 0.1308 0.1503 0.1534 0.1480

    80% 0.1107 0.1279 0.1363 0.1320

    90% 0.1020 0.1175 0.1306 0.1281

    100% 0.0884 0.1025 0.1197 0.1186

    2mm

    0% 0.4591 0.5623 0.4849 0.4582

    10% 0.4190 0.5154 0.4565 0.4295

    20% 0.3827 0.4705 0.4223 0.3973

    30% 0.3444 0.4177 0.3805 0.3576

    40% 0.3167 0.3822 0.3555 0.3384

    50% 0.2866 0.3426 0.3273 0.3123

    60% 0.2605 0.3092 0.3037 0.2916

    70% 0.2347 0.2758 0.2803 0.2693

    80% 0.2136 0.2499 0.2641 0.2568

    90% 0.1917 0.2226 0.2444 0.2374

    100% 0.1752 0.2036 0.2347 0.2308

    表 3-1の吸光度のデータをもとに主成分分析を行ったところ、表 3-2のような係数が求め

    られた。この係数を用いて、濃度、光路長別の試料の画像をもとに、各ピクセルの主成分

    スコア(PCスコア)を計算した。図 3-10は、撮影した画像の中心 32×32pixel の各ピクセ

    ルの第一、第二主成分スコア(PC1, PC2)を図示したものである。光路長に関して分布が

    はっきりと分かれており、またエタノール濃度の変化に応じてスコアがほぼ等間隔に変化

    していることが分かる。

  • 29

    表 3-2 主成分とローディングベクトル

    第一主成分 第二主成分 第三主成分 第四主成分

    係数 a 0.47 −0.20 0.85 0.13

    係数 b 0.59 −0.65 −0.48 −0.01

    係数 c 0.48 0.47 −0.03 −0.74

    係数 d 0.45 0.56 −0.22 0.66

    寄与率 95.9% 1.9% 1.2% 1.0%

    4321 dAcAbAaAu

    図 3-10 濃度、光路長別の水, エタノール混合溶液の PCスコアプロット

    この PC1, PC2スコアの値をもとにして濃度や光路長の判別が可能であると考えられるが、

    各主成分の軸が濃度や光路長と直接対応しているわけではないため、ここからさらに新し

    い軸を設ける必要がある。そこで、以下のような計算を行った。表 3-1の値から求めた PC1,

    PC2の各点を原点に対して回転させた(回転行列を作用させた)場合の値を計算し、元の第

    一、第二主成分の軸に対する分散を計算した。分散は、1mm と 2mmのデータで別々に計

    算を行った。すると、回転角度に対する分散の変化は図 3-11のようになった。1mmと 2mm

    の分散の和を考えた場合、約 0.078 [rad] ≒ 4.47°回転させた場合、PC1スコアの分散が

    最大になると同時に、PC2 スコアの分散が最小値となることが分かった。そこで、図 3-10

    の各プロットに対して原点を中心に 0.078 [rad] の回転行列を作用させたところ図 3-12の

    ようなプロットが得られた。横軸が濃度に、縦軸が光路長に、それぞれ対応していること

    が分かる。また、主成分ローディングは、回転行列を作用させたことによって表 3-3のよう

    になった。以上の操作は、複数の群の所属を判断する判別分析における、群のプロットの

    重なりが最小となるような判別軸を見つける操作に相当している。

  • 30

    図 3-11 回転角度による PCスコアの分散の変化

    (上:PC1方向 下:PC2方向)

    図 3-12 回転後の PCスコアプロット

  • 31

    表 3-3 回転行列を作用させた主成分ローディングベクトル

    PC’1 PC’2

    係数 a 0.50 −0.38

    係数 b 0.63 −0.45

    係数 c 0.45 0.45

    係数 d 0.40 0.67

    今後、このスコアを用いて濃度と光路長の判別を行うこととする。まず、縦軸(PC’2)の

    値をもとに光路長の判別を行う。ここで、d=1mmと 2mmの各データに関して、縦軸(PC’2)

    の平均値( 1μ , 2μ )と標準偏差( 1σ , 2σ )をそれぞれ計算すると、

    3

    22

    3

    11

    1068.3,099.0

    1061.3,049.0

    σμ

    σμ (3.1)

    となった。スコアどうしの統計学的な距離は、プロット上の距離を標準偏差で割った値と

    なる。そこで、d=1mm と 2mm のスコアの中間となる PC’2の値を Y とすると、以下の式

    が成り立つ。

    074.0

    21

    2112

    1

    1

    2

    2

    σσ

    μσμσY

    σ

    μY

    σ

    (3.2)

    以上より、光路長の閾値を PC’ 2=0.074とした。

    次に、光路長の値に応じて縦軸(PC’ 1)の値をもとにして濃度の判別を行う。今回は、

    d=1mm と 2mm の PC’ 1 の最大値と最小値の値をもとに濃度を判別することとした。

    d=1mmの場合 0.18≦PC’ 1≦0.62の範囲で、光路長 d=2mmの場合 0.38≦PC’ 1≦0.99の範

    囲で、線形的にエタノール濃度 0%-100%となるよう検量線を作成した。

    以上をまとめると、エタノール濃度を計算する式は以下のようになる。

    074.0,2%3.62164

    074.0,1%9.40227

    21

    21

    CPmmdCP

    CPmmdCPc (3.3)

    3.4. 測定プログラム

    カメラの画像の取得し、内部で主成分分析を行い、結果を画像として出力するプログラ

    ムを Visual C++を用いて作成した。測定プログラムの流れは図 3-13のようになっている。

  • 32

    まず試料を測定する前に、規格化画像として、液体を入れない状態のセルを写した画像を

    あらかじめ撮影しておく。カメラから取得した画像は、積算処理を行って時間ノイズを低

    減する。続いてその強度を規格化画像の強度で割ることによって透過率に変換し、その常

    用対数を取ることで吸光度を求めた。この節では、積算処理の方法、主成分スコアの計算

    方法、及び画像の出力方法について述べる。

    図 3-13 測定プログラムの処理の流れ

    積算処理とはセンサや光源のランダムノイズの影響を抑えるために、複数枚の画像の強

    度の平均値を求める処理のことであり、アベレージングとも呼ばれる。積算処理によって

    信号とノイズの強度比である S/N 比は積算回数の平方根倍となる。積算処理の回数と動画

    のフレームレートはトレードオフとなるため、動画測定の際には必要に応じて積算処理を

    省略する。

    各吸光度データと、表 3-3 のローディングベクトルを用いて式(2.8)より主成分スコアを

    計算することができるが、カメラの各ピクセルから送られてきたデータはそれぞれ 1 つの

    波長バンドの吸光度しか持っていない。そのため、主成分スコアを計算するためには複数

    のピクセルのデータを用いなければならない。今回は、各ピクセルの周囲 8 ピクセルの各

    チャンネルの吸光度平均値を用いて主成分スコアを計算した。

  • 33

    図 3-14 PCスコアの計算

    例として上の図 3-14の中央のピクセルの主成分スコアを計算する場合を考える。バンド

    2, 3 の吸光度は隣接する 2 つのピクセルの平均値を用い、バンド 4 の吸光度は隣接する 4

    つのピクセルの平均値を用いて計算を行う。以上より、図 3-14の中央のピクセルの主成分

    スコアu を次のように計算する。

    4

    2

    2

    4444

    4

    33

    3

    222

    4321

    IVIIIIII

    III

    III

    AAAAA

    AAA

    AAA

    AdAcAbaAu

    (3.4)

    最後にこの値を Bitmapデータに変換して画像出力する。

    3.5. 測定結果と考察

    3.5.1. 静止画による濃度, 光路長の判別画像

    3.4.のプログラムを用いて、実際に試料の濃度, 光路長の判別実験を行った。測定サンプ

    ルとして、モル濃度 0%(純水), 50%, 99%のエタノール水溶液を用意し、それぞれを 1mm、

    2mmのセルに入れて撮影実験を行った。エタノール濃度の違いを色の違いとして、光路長

    の違いを色の暗さの違いとして表示した。また、濃度 10%ごとに 1 色を用いている。その

    結果を図 3-15に示す。なお、1枚の分光画像を得るために、連続で撮影した画像 20枚を用

    いて積算している。

  • 34

    図 3-15 水、エタノール混合溶液の濃度, 光路長の判別画像

    上図より、水、エタノール混合溶液の濃度, 及び光路長が正しく判別できていることが分

    かる。しかし、エタノール濃度はガラスセル内で一様であるはずであるが、一部の画像で

    は濃度予測値が一様となっていない。この理由として、対物レンズの表面の反射が考えら

    れる。対物レンズは可視光用のものを使用しているため、近赤外光では多少の反射光が存

    在すると思われる。対物レンズ表面で反射した戻り光が試料に当たり、再び反射した光が

    カメラに入射しているため、本来得られる光量とのずれが生じてしまっていると考えられ

    る。したがって、近赤外領域に AR加工を施したレンズを使用することによって同一画像内

    の予測値のむらを抑制できる可能性がある。また、サンプルによってむらの大きさが異な

    る原因は、画像全体の明るさの違いによる SN比の違いが考えられる。図 3-4より、近赤外

    領域において水の吸収の大きさはエタノールよりも大きい。そのため、エタノール濃度が

    小さく純水に近づくほどむらが大きくなり、また、光路長が長いほどむらが大きくなる。

    この SN 比の違いは、図 3-12 の各プロットの分布の大きさの違いでも確認することができ

    る。

    3.5.2. リアルタイム測定

    次に、水とエタノールの混合の様子のリアルタイム測定を試みた。使用するセルは光路

    長 1mmのもののみを用いた。そのため、光路長の判別は行っていない。静止画での撮影で

    は連続で撮影した分光画像 20枚を積算して 1枚の画像としたが、今回の動画撮影では積算

    を行わずに測定を行った。また、吸光度の計算と主成分分析の処理は、カメラから画像デ

    ータが送られるごとに毎回行った。

    図 3-16は、エタノールを半分入れたセルに、シリンジを用いて純水を加えた場合の様子

    である。シリンジの先端から注入した水がどのように拡散してゆくのかを観測できたほか、

    徐々にエタノール濃度が変化してゆく様子を撮影することができた。

  • 35

    一方、図 3-17は、逆に純水を半分入れたセルに、シリンジを用いてエタノールを静かに

    加えた場合の境界面の様子である。先ほどとは異なり、2種類の液体はすぐには混ざり合う

    ことなく、境界面がしばらく残り続けることが分かった。また、図 3-18はこの境界面の様

    子を 10 分おきに 30 分間撮影したものである。境界面で 2 種類の液体が徐々に拡散してい

    く様子を観察することができた。

    図 3-16 エタノールに純水を加えた様子

    図 3-17 純水にエタノールを静かに加えた様子

    上記の測定時のフレームレートは、平均 24fpsであった。したがって、十分にリアルタイ

    ム性を維持しながら測定が行えたといえる。ただし、カメラのもともとのフレームレート

    が 50fpsであることから、演算と画面表示の処理によってフレームレートがおおよそ半減し

    ていることが分かる。しかし、主成分分析の計算処理は対数計算と一次式の計算のみであ

    るため、フレームレートへの影響は少ないものと考えられる。

    また、動画撮影時に画面のチラつきがあることが確認できた。これは、光源の揺らぎや

    カメラのノイズによるものと考えられる。この時間ノイズの影響について調べたところ、

  • 36

    ノイズの大きさの標準偏差 σは、12bit(0~4095)の情報に対して約 9.8であり、受光強度

    にかかわらずほぼ一定であることが分かった。この結果から、ノイズの影響で濃度予測の

    結果にどれほど差があるかを計算したところ、純水のサンプルでは約 4.9%、エタノール 99%

    のサンプルでは約 3.1%の誤差が生じることが分かった。また、光路長に対する影響は約

    0.5mm であった。このノイズは積算処理により軽減することが可能であるが、その分フレ

    ームレートが減少してしまう。そのため、より精度の高い測定を行うためには、安定化電

    源を使用するなどのチラつき防止が必要であると考えられる。

    図 3-18 水、エタノール境界面の変化

  • 37

    第4章 桃の糖度測定

    4.1. 研究背景

    第 1 章でもすでに述べたが、近年、青果等の生産現場で、糖度や大きさ・形といった品

    質情報を、光(特に近赤外光)を用いて測定する、いわゆる「光センサ」と呼ばれる機器

    の積極的な導入が進められている。これまで、青果を対象とした光センサとして、メロン

    の糖度分布測定や、梨の糖度測定、選果場での糖度測定器(図 4-1 左)、手持ちタイプの小

    型の糖度計(図 4-1右)などが実現されている。選果場での光センサは、主に糖度による等

    級の決定や不良品、欠陥品の検出等に使用されている。手持ちタイプの小型の糖度計は、

    屋外で使用することもでき、収穫前の青果に使用することで最適な収穫時期の見極めを行

    うことができる。図 4-1 右の糖度計は複数の LED と Si フォトディテクタを用いており、

    およそ 1100nm 以下の比較的短波長の近赤外光のみを用いて糖度の可視化が可能であるこ

    とが分かる。

    以上のように、現在まで近赤外光を用いた糖度センサが多く実用化されている。しかし

    これまで、

    ・持ち運び可能なほど小型である

    ・二次元の分布を調べられる

    ・経皮的に非破壊で糖度を調べられる

    という条件を全て満たすような測定器はまだ実現されていない。収穫前の糖度を簡単かつ

    正確に知るためには、以上の条件をすべて満たす必要がある。

    そこで本研究では、桃の糖度測定をターゲットとし、屋外で使用できるような簡便な測

    定系で二次元な糖度分布を可視化できるような機能の実現を目指して検討を行った。実用

    化を考える上で化合物半導体を用いたセンサは高価(640×480画素程度で約 300万円)で

    あることから、CCD センサ(メガピクセル級で数万円程度)を用いた糖度の可視化を目指

    した。本研究では PhCF を用いた測定の実現まで研究を進めることができなかったが、実

    現へ向けた基礎データの蓄積や必要な要素技術の開発を行った。まず、比較的短波長の近

    赤外光を用いた糖度測定が可能であることを示すため、ファイバプローブとスペクトルア

    ナライザを用いた糖度予測について検討した。測定した拡散反射スペクトルと糖度データ

    を用いて重回帰分析を行い、桃の糖度が予測できることを示す。その後、複数の BPF と

    CCD カメラを用いた分光画像から桃の糖度予測画像が作成できることを示す。また、屋外

    での使用を想定して観察方向による桃の糖度の見え方の違いについても検討を行った。

  • 38

    図 4-1 光センサの導入例

    左:選果場の近赤外センサ型糖度計(福島県伊達みらい選果場)

    右:小型の糖度計(株式会社メカトロニクス製 N-1糖度計)

    4.2. ファイバプローブを用いた測定

    二次元での糖度予測画像を作成する前段階として、ピンポイント型ファイバプローブと

    光スペクトルアナライザを用いて得た分光情報から、糖度を予測する実験を行った。

    桃の拡散反射スペクトルの測定系を図 4-2 に示す。ハロゲン光源からの光は Y 型ファイ

    バプローブを通り試料へ入射する。試料内で反射した光(拡散反射光)は Y 型ファイバの

    別の経路を通り、光スペクトルアナライザへ入力される。光スペクトルアナライザは近赤

    外波長(700~980nm)用の Ocean Optics社製USB-4000型を用いた。

    図 4-2 桃の拡散反射スペクトルの測定系

    図 4-2 の測定系を用いて、予め測定しておいた標準白色板の強度を基準とし、16 個の桃

    の拡散反射スペクトルの測定を行った。拡散反射スペクトルは、図 4-3 に示すように 1 個

    の桃につき 8 か所で測定した。測定後、測定位置と一致するように桃を 8 つのブロックに

    切断し、それぞれのブロックを絞った果汁を Brix 糖度計(株式会社アタゴ製 糖度・濃度

    計 PEN-1st)によって測定した。

    Brix 値とは、飲料や果実農業などの産業で糖度として用いられる物理量であり、ショ糖

  • 39

    (砂糖)の質量百分率に相当する値で定められている。Brix 値は液体の屈折率により定義

    される値であり、ショ糖 1g のみを溶質として含むショ糖水溶液 100g と同じ屈折率の液体

    を Brix 値 1%と定義する。そのため、糖以外の成分によって屈折率が変化した場合も Brix

    値が変化したとみなされるので、必ずしも糖の量を表しているわけではないということに

    注意が必要である。

    図 4-3 桃のスペクトル測定位置と切断方向

    桃の近赤外域での拡散反射スペクトルの例を図 4-4に示す。このように、各スペクトルの

    強度に差があることが分かる。これは主にファイバプローブと桃との間の距離が測定ごと

    に異なるために生じたものである。そこで、2.2.5.で述べた MSC を用いて、スペクトル強

    度の補正を行った。

    図 4-4 桃の拡散反射スペクトルの例

    図 4-5に、MSCによって補正された後の拡散反射スペクトルの例を示す。700nm付近に

  • 40

    は可視光(赤色)の吸収量の違いによるスペクトルの違いが見えるほか、糖や水の吸収ピ

    ークである 970nm付近に反射率の差があることが分かる。そこで、次節ではこの吸収ピー

    ク波長域に焦点を当てて、糖度の予測を行っていく。

    図 4-5 MSC後の拡散反射スペクトル

    MSCによって補正した拡散反射スペクトルから吸光度を求め、BPFを通した場合を想定

    して、波長ごとの平均吸光度を計算した。今回は、中心波長 900~980nmまで 10nm 刻み

    の理想的な BPFを想定した。それらの帯域での平均吸光度データと、糖度計によって測定

    した Brix 値をもとに、式(2.33)を解くことで重回帰係数を求めた。その結果を表 4-1 に示

    す。また、決定係数は 0.61となった。

    表 4-1 拡散反射スペクトルを用いた場合の重回帰係数

    平均化なし 平均化あり

    波長 重回帰係数

    (×103)

    重回帰係数 (×10

    3)

    900nm 1.89 −1.05

    910nm 2.22 6.94

    920nm 0.72 0.26

    930nm 0.61 2.65

    940nm 1.57 −1.98

    950nm −0.02 0.19

    960nm −0.02 −2.48

    970nm 0.26 5.21

    980nm 0.18 −1.86

    定数項 −0.99 −1.06

    決定係数 0.61 0.81

  • 41

    図 4-6 重回帰分析による糖度予測

    左:全てのデータをそのまま用いた場合

    右:データを桃ごとに平均した場合

    重回帰分析による Brix予測値と実測値との関係をプロットしたものを図 4-6 の左図に示

    す。実線は予測値と実測値が等しい場合の線を表している。この図から、おおよそ糖度の

    予測はできていることが分かる。しかし、ある程度の実測値とのずれが生じていることが

    見て取れる。この原因は、糖度の測定がブロックごとであったのに対し、拡散反射スペク

    トルの測定位置は比較的狭い領域であり、両者が完全には対応していないためと考えられ

    る。

    測定位置ごとの誤差をなくすために、別々に用いていた糖度と拡散反射スペクトルのデ

    ータを桃 1 個ごとに平均し、そして平均値を用いて改めて重回帰係数を求めた。その結果

    が、図 4-6の右図である。決定係数は 0.81となり、誤差が小さくなっていることが分かる。

    このことから、精度を高めるためにはある程度の平均化処理が必要であると考えられる。

    4.3. 二次元分光画像による糖度予測

    4.3.1. CCDカメラと複数の BPFを用いた測定

    続いて、CCD カメラと複数の BPF を用いた糖度分布の可視化を検討した。その測定系

    を図 4-7 に示す。白色板の前に置いた桃を 2 つのハロゲンランプで照射する。その反射光

    をフィルタホイールに収めた BPFによって各波長に分光し、CCDで画像として記録する。

    今回の検討では、BPF は半値全幅 10nm、中心波長 850~1100nm まで 50nm 刻みの計 6

    種類(Thorlabs 社製 近赤外域バンドパスフィルタシリーズ)を使用した。また、CCD カ

    メラは SONY 社製 CCD, ICX-205AL(1360×1024 画素)を搭載した ARTRAY 社製

    ARTCAM-150PⅢを用いた。桃の分光画像の計測後、先ほどの実験と同様に計 8 ブロック

  • 42

    に切り、果汁の Brix値を糖度計によって測定した。

    図 4-7 分光画像の測定系(上から見た図)

    分光画像からの情報をもとに重回帰係数を計算する必要があるが、分光画像だけでは透

    過率を計算することができないため、吸光度を求めることができない。白色板を撮影した

    画像を規格化画像として使用することも考えられるが、屋外での使用を想定した場合は規

    格化画像を測定の度に撮影するのは不便である。そこで、今回の検討では分光画像の強度

    のみを分析に使用することにした。強度の計算に使用した領域と桃の切断方向を図 4-8に示

    す。領域のピクセル数は 512×512である。また、糖度に関しては画像内のブロック(図 4-8

    の場合は 4 つのブロック)の平均値を用いることで、強度計算に使用した領域と対応させ

    ている。

    分光画像にも明るさ(ゲインやオフセット)に違いがあるため、先ほどと同様にMSCに

    よる補正を行った。MSCに使用した、分光画像の波長ごとの平均強度を表 4-2に示す。補

    正後の強度と糖度のデータをもとにし、重回帰係数を計算したところ、表 4-3のようになっ

    た。なお、決定係数は 0.57であった。

    図 4-8 桃の切断方向と強度の計算に使用した領域

  • 43

    表 4-2 分光画像強度のMSCに使用した、分光画像の平均強度(0~255)

    波長 平均強度

    850nm 93.7

    900nm 155

    950nm 81.8

    1000nm 53.6

    1050nm 18.4

    1100nm 15.6

    表 4-3 分光画像情報を用いた場合の重回帰係数

    波長 重回帰係数

    850nm 0.13

    900nm −0.33

    950nm −0.02

    1000nm 0.50

    1050nm −0.26

    1100nm 0.28

    定数項 28.3

    決定係数 0.57

    表4-3の重回帰係数を用いて作成した、二次元の糖度予測画像を図4-9に示す。各糖度は、

    画像中心の 512×512 ピクセルの平均糖度である。ここから、ある程度の糖度予測が可能で

    あることが示された。ただし、最大で 2%ほどの誤差が存在する。実際の桃の生産現場では、

    選果段階で糖度 10.5%、12.5%、15.0%を境として特秀、特選といった品質階級に分けられ

    ることから、測定誤差はおおよそ±1%以内であることが望ましいと考えられる。したがっ

    て、ここで得られた推定制度は実用に耐えられる範囲ではないため、改善の余地がある。

    また、背景にも糖度の値が表示されていることが分かる。これは、糖度を式(2.20)によっ

    て与えるため、各分光画像強度の値に関わらず、糖度を計算してしまうためである。工場

    などの屋内で用いられる場合には背景との区別は容易であると考えられるが、測定位置が

    毎回異なる屋外での使用を想定した場合には、桃の糖度のみを抜き出して表示するために、

    桃と背景とを識別する必要がある。次節では、その方法について述べる。

  • 44

    図 4-9 Brix値予測画像

    4.3.2. 主成分分析による桃と背景の識別

    上述のように、重回帰分析では桃と背景を識別することは困難である。しかし、桃と背

    景とは反射スペクトルの形が異なるため、その違いを利用すれば、識別が可能と考えられ

    る。そこで、主成分分析(PCA)を用いた桃と背景との識別について検討した。

    図 4-10 に示したように、MSC による補正後の分光画像中の、桃と背景の領域の各ピク

    セルの強度を用いて主成分分析を行った。その結果、第一、第二主成分ローディング、及

    び寄与率は表 4-4のようになった。主成分は第六主成分まで計算されているが、寄与率(分

    散)の値が小さいため、今回は無視している。

    図 4-10 PCAに使用した領域(赤: 桃, 緑: 背景)

  • 45

    表 4-4 桃と背景識別の際の主成分ローディングベクトル

    波長 第一主成分 第二主成分

    850nm −0.27 −0.09

    900nm −0.29 0.03

    950nm 0.75 −0.41

    1000nm 0.32 0.82

    1050nm −0.12 −0.39

    1100nm −0.40 0.05

    寄与率 79.2% 17.8%

    これらのローディングをもとに、式(2.8)を用いて桃のある部分のピクセルと、背景の部

    分のピクセルの第一主成分スコア(PC1)と第二主成分スコア(PC2)を計算した結果を図

    4-11 に示した。この結果より、桃と背景の特徴の違いが PC1の差として最大化しているこ

    とが分かる。そこで、PC1の値に閾値を設けることによって、桃と背景との識別が可能であ

    ると考えられる。3.3.の水とエタノールの場合と同様にして、桃と背景の分布から等距離に

    ある線を計算すると、(PC1)=10.7と求められた。

    分光画像の全てのピクセルに対してPCAを行い、求められた閾値を用いて判別を行った。

    (PC1)>10.7となった画素を背景と判断し、そのピクセルを灰色で表示したところ、Brix

    値の予測画像は図 4-12のようになった。桃と背景の識別がおおむねできていることが分か

    る。影の部分ではうまく識別ができていないが、これは強度がMSCによって補正しきれな

    いほど小さいためではないかと考えられる。

    図 4-11 桃と背景の PCスコアプロット

  • 46

    図 4-12 PCスコアによる背景の識別と除去

    (左:元画像 右:背景識別後の画像)

    4.3.3. 観察方向の違いによる糖度の見え方の違い

    分光画像を利用した糖度計を屋外で使用することを想定した場合、ある桃をある角度か

    ら撮影したときの予測値と、別の角度で測定したときの予測値の間にずれがあるのは実用

    上問題となってしまう。そこで、同一の桃を異なる角度から撮影した場合の糖度の見え方

    の違いについて調べた。同じ桃を約 22.5°刻みで 16方向から分光画像を撮影し、それぞれ

    の場合について同じ重回帰係数を用いて糖度を計算し、糖度分布予測画像を作成した。そ

    の結果を図 4-13に示す。おおよそ桃の回転に合わせて糖度の分布も移動していることが分

    かり、撮影方向による影響は比較的小さいことが分かった。なお、一部の方向(番号 8. 前

    後)の予測画像では、予測値の値が他の角度と比較して大きく異なっている。この原因と

    して、撮影時の光源のスペクトルの揺らぎや、フィルタホイールを手動で動かした際のフ

    ィルタとカメラとの位置ずれ等が考えられる。光源のスペクトルの揺らぎに関しては、安

    定化電源を使用することで軽減することができる。また、今後 PhCF を用いた測定を行う

    際、PhCFは CCDセンサに紫外線硬化樹脂等を用いて接着することができるので、フィル

    タとカメラとの位置ずれに関しては解決できると考えられる。

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    図 4-13 観察方向の違いによる、糖度予測画像の変化(16方向)

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    第5章 結論

    本論文では、(1) PhCFと主成分分析を用いた、水とエタノールの混合過程のリアルタイ

    ムな可視化、(2) 分光画像を用いた桃の糖度の可視化へ向けた要素技術の開発、を目指して

    研究を行った。

    (1) PhCFと主成分分析を用いた、水とエタノールの混合過程のリアルタイムな可視化を

    目指して検討を行った。PhCFと近赤外カメラの位置を μm単位でアラインメントするため

    に、チャンネル間差分画像やヒストグラム表示用のプログラムの作成を行った。また、近

    赤外領域の 4 チャンネル PhCF を用いて撮影した濃度、光路長の異なるエタノール溶液の

    分光情報を用いて、主成分分析を行うことで検量線の作成を行った。さらに、その検量線

    を用いて実際に光路長と濃度を判別できることを確認できた。

    リアルタイム測定では、水とエタノールの混合過程を平均 24fpsという高フレームレート

    で可視化することができた。また、水にエタノールを静かに加えた場合に境界面が徐々に

    拡散してゆく様子を撮影することができた。このことから、PhCFを用いたリアルタイムイ

    メージングが実現できたといえる。

    (2) 分光画像を用いた桃の糖度の可視化へ向けた要素技術の開発では、ファイバプローブ

    を用いて測定した桃の表面の拡散反射スペクトルと、屈折率計を用いて測定した糖度の情

    報から、重回帰分析を行うことで重回帰係数を求めた。桃ごとにデータを平均化した場合、

    計算した糖度予測値と実際の糖度の値に R2=0.81という高い相関が得られた。

    6 種類の BPF と CCD カメラを組み合わせて撮影した分光画像の情報を基にした糖度の

    予測でも、重回帰分析による予測値について R2=0.57 という比較的高い相関が得られた。

    また、桃の糖度分布の予測画像を作成し誤差 2%以内の精度での糖度予測が可能であること

    を示した。

    屋外の使用を想定した撮影方向の違いによる糖度予測値の変化の検討では、撮影方向の

    影響は比較的少なく、糖度の予測がある程度実現可能であることが確認できた。

    以上より、PhCFと近赤外カメラを組み合わせたリアルタイムな分光イメージングの実現

    を示したほか、CCD カメラを用いた分光画像を用いて桃の糖度を二次元的に予測できる可

    能性を示した。このことから、CCDカメラに PhCFを組み合わせることで、簡便な構造を

    用いて二次元かつリアルタイムな桃の糖度予測の実現可能性を示すことができた。

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    謝辞

    本研究を進めるにあたり、研究方針や学会発表、修士論文執筆に至るまで熱心にご指導、

    ご助言いただきました山田博仁教授に深く感謝いたします。

    本論文を完成させるにあたり、貴重なご助言を頂きました梅村晋一郎教授、大町真一郎教

    授に心より感謝いたします。

    本論文の技術の産業応用について多大なご支援を頂きました、本学情報知能システム研究

    センターの鹿野満特任教授、小関亨特任教授に厚く御礼申し上げます。

    本研究テーマの担当教員である大寺康夫准教授には、研究討論をはじめ、学会発表の準�