鋼 材 の軟 化 温 度 の研 究第9鏡 鋼材の軟化温度の研究 446...

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444 研究 第8巻 秋*須 吉婦 鋼 材 の壓 延 に 際 して鋼 片 の温 度 と ロール機 の壓 力 との關 係 は 明 か で な い 。本 研 究 はA及 びD印鋼 に就 い て實 験 室 的 に静 的 荷重 を加へてその軟化現象か ら考察 し堅延 の開始温度 とir了温 度を求めた ものである。實 際の場合 には大體 鋼片 の温度 は一 定 と見 るべ きで あ るか ら實驗 的 に決 定 した 曲 線 か ら壓 延 の開 始 され る荷 重 と終 了す る荷 重 とを 求 め て 見 た.これ等 か ら見 る と荷 重 一 定 の場 合 に鋼 片 の温 度 に 一定 の壓 延 範 園 あ る如 く,温度 一定 の場 合 に は一 定 の荷 重 範圍 が あ るこ とが判 る. こ の結 果 は 静 的 荷 重 の場 合 か ら推 考 した もの で あ るが 敢 へ て各 位 の参 考 に 供 した もの で あ る.、 (昭和19年6月9日 受 理) I.緒 鋼 材 歴延 に際 して鋼 片 の温 度 εロー ル機 の壓 力ミ の 關 係は未だ充分に明 らかにされてゐない様である.これは 鋼 片 の 温 度 測定 は 出來 て も廻轉 しつ つ あ る ロー ル の壓 力 が 測 定 出 來 ない關 係 に依 る もの で あ ら う ε思 ふ.從 つ て 此 處 に示 した結 果 は静 的 の 荷 重 を加 へ た場 合 の 塵力 εそ れ に相 當 した軟 化 温 度ミ の 關係 即 ち ロール の壓 力ミ1..延 温 度 の 關係ミ も云ふべ き もの で あ るが 比 較 的 その結 果 が 面 白 く出た の で 實際 歴延 作 業 の参 考 の 一 端 ε もなれ ば 幸 ε思 はれ る處 か らその 概略.を述べ るこミ εした. 日鐡 八幡 技 術 研 究 所 11.測 實 験 方法 ε して は從 來 當 研 究 所 に設 置 せ られ て ゐ る軟 化點測定装置を使用 した.第1圖 は全装置を示 すdので (F)は 内徑45mm,長さ250mmの黒鉛 管 電 氣爐,(R)及 (r)の 支 柱 金 具 に依 りて 自在 に位 置を上下左右 に調鰍し 得 られ る.(D)は普通 の臺秤を利用 した加 重臺で 試料に 加 は る荷重 を常 に一定 な ら しむ る指 針(n)を 有 つて ゐる. 試 料(S)は徑20mm,高 さ30mmの圓〓 状 で 同 附圖 の如 ぐ體(F)の内部中央にあつて(C)(C)な る上下 に把握 さ れ た押 棒(炭素 棒 或 は特 殊 の 高 耐 熱 性 棒)を以 て挾 む 方 の ハ ン,ド ル(H)を廻轉 する..任意の荷重が試料に 旗よ

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Page 1: 鋼 材 の軟 化 温 度 の研 究第9鏡 鋼材の軟化温度の研究 446 るこミミなる.(H)の 周園にある精密なる目盛ε軸の下 降距離 の關係はこれを嚴密に豫め測定を行つて置く

444  研究  第8巻

鋼 材 の 軟 化 温 度 の 研 究

田 所 芳 秋*須 賀 音 吉婦

鋼材 の壓延に際 して鋼 片の温度 と ロール機 の壓力 との關係は明かでない。本研究はA及 びD印鋼 に就 いて實験室的に静

的 荷重 を加へてその軟化現象か ら考察 し堅延 の開始温度 とir了温 度を求めた ものである。實 際の場合 には大體 鋼片 の温度

は一定 と見 るべ きであるか ら實驗 的に決定 した曲線か ら壓延の開始 され る荷重 と終 了す る荷重 とを求めて見た.これ等か

ら見 ると荷重一定の場合 に鋼片 の温 度に一定 の壓延範園 ある如 く,温度一定 の場合 には一定 の荷重範圍 が あるこ とが判 る.

この結果は静的荷重の場合か ら推考 した ものであるが敢へ て各位 の参考に供 した ものである.、

(昭 和19年6月9日 受 理)

I.緒 言

鋼材歴延に際して鋼片の温度 εロール機の壓力ミの關

係は未だ充分に明 らかにされてゐない様である.こ れは

鋼片の温度測定は出來ても廻轉 しつつあるロールの壓力

が測定出來ない關係に依るものであらうε思ふ.從 つて

此處に示した結果は静的の荷重を加へた場合の塵力 εそ

れに相當した軟化温度ミの關係即ちロールの壓力ミ1..延

温度の關係ミ も云ふべ きものであるが比較的その結果が

面白く出たので實際歴延作業の参考の一端εもなれば幸

ε思はれる處からその概略.を述べ るこミεした.

砦 日鐡 八幡技術研究所

11.測 定 方 法

實験方法 εしては從來當研究所に設置せ られてゐる軟

化點測定装置を使用 した.第1圖 は全装置を示すdの で

(F)は 内徑45mm,長 さ250mmの 黒鉛管電氣爐,(R)及 び

(r)の支柱金 具 に依 りて自在 に位置を上下左右に調鰍し

得 られる.(D)は 普通の臺秤を利用した加重臺で試料に

加はる荷重を常 に一定ならしむる指針(n)を 有つてゐる.

試料(S)は徑20mm,高 さ30mmの 圓〓状で同附圖の如

ぐ體(F)の 内部中央 にあつて(C)(C)な る上下に把握さ

れた押棒(炭素棒或は特殊の高耐熱性棒)を以て挾む 上

方のハン,ドル(H)を 廻轉 する..任 意の荷重が試料に 旗よ

Page 2: 鋼 材 の軟 化 温 度 の研 究第9鏡 鋼材の軟化温度の研究 446 るこミミなる.(H)の 周園にある精密なる目盛ε軸の下 降距離 の關係はこれを嚴密に豫め測定を行つて置く

第9鏡 鋼 材 の 軟 化 温 度 の 研 究 446

るこミミなる.(H)の 周 園にある精密なる目盛 ε軸の下

降距離 の關係はこれを嚴密に豫め測定を行つて置 く.

而して試料の加熱速度は實験上の種々の點を考慮して毎

分40が最も適切である.

1今 實驗の順序を述ぶるに先づ電氣體 を整備し臺秤(D)

上に載せた金屬製臺上に(C')な る押棒を立 て次 に熔 内

蚕・に於て試料(S)が 丁度熔の中央に來る標に置いた後.上方

の押棒(C)を 載せる.(C)の上端は上方の加歴軸に篏 入す

る.斯くして熔(F)の 中央にある徑9mmの 孔にはPt-

Pt.Rh熱 電封を挿入しその尖端を試料に接せ しめて 置

く.測温計εしては1300。迄熱電封を使用し,1300。以上

は補正した正確な光高温計を用ひる.

試料の軟化現象は歴延の良否より見てこれを(1)歴 延開

始點,(2)歴延終點 εの二つに分 ち得るものである。

III.壓 開始點 と歴延終點との決定

第2圖 は上記の如くして測定 したる鋼の軟化温度測定

の一例であるが横 に温度を取 り縦に膨脹牧縮曲線を描い

第2圖A鋼 軟化點測定 曲線

第1圖 軟 化 點 測 定 躾 置

以上の如 くして装置が準備出來れば上方のハンドル

(H)を廻轉 しτ任意の荷重,例 へば30kg/cm 2を試料に加

乱へ臺秤に附しfi指針(n)を零點に合せ る.斯 くして一定の

加重を加へた後電氣櫨の濃度を前記加熱速度に依つて上

昇せしむれば試料並に押棒はこれに從つて膨脹 しその結.

果自然荷重は増加するを以つて上方の(H)を 廻轄 して常

に荷重の一定ミ なる様即 ち指針零が動かない様に調節す

る.焼 内温度が 2上 昇すれば試料は黒鉛棒 ε共 に漸次

膨脹を綾け試料の軟化温度に達するごき初めて牧縮の現

象を表はす.即 ち初め(H)な るハン ドルを膨脹の際の一・

1定方向即ち膨賑に依る荷重の壇加を輕減調節する方向に

のみ廻轉せしめる.こ の操作に依つて廻轉 目盛より試料

並に押棒の膨脹量を測定 し得 られるこ..な る.次 に試

斜 が牧縮を始むるεき,即 ち所定あ荷重より輕 くなるミ

きは(H)を 逆の方向に廻轄 し荷重を壇加 して所定の例へ

ば30kg/cm2を 始終保持せしむべきでこの點が牧縮即 ち

軟化現象の始まる點ε見做し得 られ る.こ の際使用せる

上下の(C)及 び(C')な る押棒は1700。 附近迄は温度に封

して直線的に膨脹する性状を有するものなるこミは豫め

測定保證してあるに依 りその途中に於ける牧縮は試料の

軟化たるこミは明 らかである.而 して鋼の場合に於ては

た圖で荷重30kg/Cm2の 場合である.(1)曲 線はこれを示

,す.而してこの曲線より軟化點を決定す るのである.即ち

曲線(IDは 温度1。 に封する膨脹牧縮の變化の割合即 ち

A鋼

荷重(kglc㎡)

第3圖(1)鋼 材 の軟 化温度 と荷重 との關係曲 線

借 軸 を(x)ε し,縦 軸 を(y)ミ た場 合 の

この曲線の

曲線 で あ る.

點1268。(M)は 軟 化 の著 し く進 み 始

める温度或は座延性の開始温度即ち壓延温度を表はす も

のであろ.

第2圖 に於て曲線(1)を 仔細 に観察すれば前述の歴延

點(M)を 過ぎて曲線は漸次軟化の進むに件ひ下向 ミなり

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446  研 究  第8巻

遂 に 一點(P)に 達 して 全 く直 線 的ミ な る.こ の分 岐點(P)

以 下 で は軟 化 島 し くこの荷 重 の許 で は軟 化の 領 域 を 過 ぎ

て 全 く腰 の な い 状 態 ごな る點 で あ るミ へ られ る.從

つ て3Qkg/cmzの 場 合(M)な る1268。 に 於 て 軟 化 容 易

ミ な り(P)な る1450。 に於 て 全 く壓延 性 を失 ふ こ ミ を 意

味 す る.即 ちロー ル の荷 重30kg/cm2の 場 合 は鋼 材 の淵

度12680に 於 て 壓 延 容 易 εな り11450。以 上 に於 て は金 く

軟 弱 こな り自由 な る壓 延 不可 能 εな る.鋼 材 の加熱 灘度

が30kg/cm2荷 重 下 に あつ て は この温 度範 隅 に於 て の み

D 鋼

荷 重(k9/Gm2)

第3圖(2)鋼 材 の軟化温度 と荷重 との關係 曲線

壓延は可能である.

IV.2種 の鋼材の壓延温度の測定

前に測定方法に於て述べた如 くして次の化學成分を有

する

C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu

A…0忌270・241σ520'0130'0073'000・900.320・22

D…0'2;0'290.520・0200'0182'860・810・150・21

2種 の鋼材A及 びDの 壓 延 温 度 を 測定 した 結 果 に 就 い

て 論 ず れ ば實驗 條 件 ミして,(1)試 料 の 太 さ樫20mm,高

さ30mmの 圓〓 状 を使 用 し,(2)荷 重2~140kg/cm2,(3)

加 熱 速 度4。/minの 場 合 に於 て撒 拾 回 試 験 の結 果 第3圖

(1),(2)の 如 き曲線 を得 る こミ が出 來 た.何 れ の 曲 線 に於

て も(M)は 各 荷 重 の下 に於 け る軟 化 或 は壓 延 濃 度,(P)は

壓 延 終 點 を示 す もので あ る.

先 づA鋼 に就 い て は(M)曲 線 上 に 見 る に 荷 重20kg/

cm2の 場 合 は鋼 材 の温 度 犯85。 に達 して 軟 化 即 ち壓 延

容 易 εな り(P)曲 線 上 の1410ーに 加熱 す る ミ きは 全 く軟

弱 ε な り壓延 は 不 可能 で あ る.次 に 荷重 が60kg/cm 2さ

な る ミ き は1160。 に 至 りて 壓延 可能 ミな り,12600附 近

に於 て不 可 能 ざな る.荷 重尚 ほ大 εな り100k鮮cm 2の 場

合 は1020l。 に於 て 壓 延 し得 られ1790 に於 て 不 可能Vな

る こミを 示 す.

同じくD鋼 の場合に於てもそれぞれ(M)及 び(P)醜 線

上のこれに相當 した荷重の下に於ける壓延温度範圓を推

定するこ ミが出來 る.而 してその塵延温度は圖示する如

く荷重の大 なる程低 くなわ淵度範圍 は廣 くなるこミを示

す.

以上は荷重を一定εして鋼材の加熱温度を種々變更し

た場合の壓延状況を論じた ものであるが實際の壓延作業

の場合には鋼材の温度は略々一定ξ見るべきであるか5

加熱温度一定の場合5し て論ず るがよい.D鋼 の曲線か

ら例へば温度1350。 の場合に(M)曲 線及び(P)曲 線より

考察 して荷重19kg/cm2に 於て壓延容易ミ なり,52kg/

cm 2に 至つて全 く軟弱 ごなり壓延不可能 εなる.訳 に温

度12(}00の 場合に於ては56kg/cm2に 於て壓延可能εな

り,110kg/cm2に 於て荷重過大4な る.同 圖A鋼 に就い

て も同様の槻察を示し得 られるは當然である.尚 温度低

くなる程荷重範圍 の廣 くなるこεも當然考へ得 られる所

である.即 ち荷重一定の場合に一定の7度 範圍のある如 mく,温 度一定の場合には一定の荷重範圍のあるこミが明

らかである.

以上は實験室に於て行つた静的荷重の場合の實験結果

から敷街 した壓延状況の推定であるが實際ロールの廻轉

する場合の荷,3は 正應 な測定は不可能であるから,.これ,

が要當性を持つ ものか否かは保證の限りでないが各種壓

延作業に於ける何等かの示唆を與へるもの 思1まれる.

V.結 言

Ni-C1鋼 の2種A及 びD印 鋼 に就いて静的荷重に於

ける荷重 ε軟化温度4の 關係を求め壓延作業に際 しての

参考 εした.前 述 した如 く實験室的の研究であるから實 「

作業の場合ミ矛盾した點 もあるや も知れないが敢へて各

位の参考に供した次第である.