偏光制御型軟 x線光源による 鉄磁性ナノ薄膜の l端...

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偏光制御型軟 X 線光源による 鉄磁性ナノ薄膜の L 端共鳴磁気光学効果の研究 L-edge resonant magneto-optic effect of a Fe nanofilm by polarization-controlled soft X-ray source 久保田雄也, 田口宗孝 A , 山本真吾, 染谷隆史, 横山優一, 山本航平, 田久保耕, 平田靖 , 山本達, 宮脇淳, 荒木実穂子, 角田匡清 B , 原田慈久, 大門寛 A , 和達大樹, 松田巌 (東大物性研, 奈良先端大 A , 東北大工 B Y. Kubota, M. Taguchi A , Sh. Yamamoto, T. Someya, Y. Yokoyama, K. Yamamoto, K. Takubo, Y. Hirata, S. Yamamoto, J. Miyawaki, M. Araki, M. Tsunoda B , Y. Harada, H. Daimon A , H. Wadati and I. Matsuda (ISSP, the Univ. of Tokyo, A NAIST, B Department of Electronic Engineering, Tohoku Univ.) 磁気光学カー効果(MOKE)とは、磁性体に直線偏光した光を入射すると反射光は楕 円偏光となり、その主軸の向きが入射光の偏光方向から回転する現象である。偏光方向 の回転角であるカー回転角は磁性体の磁気モーメントの大きさに比例するため、 MOKE 測定は物質の磁性情報を抽出する手法の一つである。さらに、入射する光を磁性元素の 吸収端に合わせることで、元素選択的測定が可能であるとともに、従来の可視光レーザ ーを用いた測定よりも巨大なカー回転角を観測できることが知られている[1, 2]我々のグループでは、SPring-8 BL07LSU にて世界唯一の分割型クロスアンジュレー タを整備し、偏光制御された高輝度軟 X 線を発生することに成功した[3]。本光源をも とに様々な偏光軟 X 線を鉄ナノ薄膜に照射し、それぞれの共鳴 MOKE を測定した。s 偏光入射時の鉄の L 殻吸収端におけるカー回転角スペクトルを図 1 に示す。また、鉄の 光学定数から[4]、現象論に基づくカー回転角スペクトルの計算を行い、実験結果を再 現する結果が得られた。さらに、共鳴 X 線散乱理論を用いたクラスター計算結果[1]の比較も行い、ミクロとマクロの両視点から磁気光学効果の理解を試みた。 また、SPring-8 BL07LSU では、分割 型クロスアンジュレータを用いた 10 Hz の高速偏光スイッチングを世界で初 めて成功した。この手法を用いること で、より高精度な X 線磁気円二色性 XMCD)吸収分光や共鳴 MOKE 測定 が可能である。さらに、MOKE 測定に 偏光スイッチングを適用した光学遅延 変調法にも期待が寄せられている。本 講演では、偏光スイッチングを用いた XMCD、共鳴 MOKE 結果も合わせて報 告する。 [1] Sh. Yamamoto et al., Phys. Rev. B 89, 064423 (2014). [2] S. Valencia et al., Physica B 345, 189-192 (2004). [3] S. Yamamoto et al., J. Synchrotron Rad. 21, 352-365 (2014). [4] H.-Ch. Mertins et al., J. Magn. Magn. Mater. 240, 451-453 (2002). 1L 殻吸収端における鉄ナノ薄膜のカ ー回転角スペクトル。実験結果(黒丸)と 現象論に基づく計算結果(白丸)を示す。

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Page 1: 偏光制御型軟 X線光源による 鉄磁性ナノ薄膜の L端 …...偏光制御型軟X線光源による 鉄磁性ナノ薄膜のL端共鳴磁気光学効果の研究 L-edge

偏光制御型軟 X線光源による 鉄磁性ナノ薄膜の L端共鳴磁気光学効果の研究

L-edge resonant magneto-optic effect of a Fe nanofilm by polarization-controlled soft X-ray source

久保田雄也, 田口宗孝 A, 山本真吾, 染谷隆史, 横山優一, 山本航平, 田久保耕, 平田靖透, 山本達, 宮脇淳, 荒木実穂子, 角田匡清 B, 原田慈久, 大門寛 A, 和達大樹, 松田巌

(東大物性研, 奈良先端大 A, 東北大工 B) Y. Kubota, M. TaguchiA, Sh. Yamamoto, T. Someya, Y. Yokoyama, K. Yamamoto, K. Takubo,

Y. Hirata, S. Yamamoto, J. Miyawaki, M. Araki, M. TsunodaB, Y. Harada, H. DaimonA, H. Wadati and I. Matsuda

(ISSP, the Univ. of Tokyo, ANAIST, BDepartment of Electronic Engineering, Tohoku Univ.)

磁気光学カー効果(MOKE)とは、磁性体に直線偏光した光を入射すると反射光は楕

円偏光となり、その主軸の向きが入射光の偏光方向から回転する現象である。偏光方向

の回転角であるカー回転角は磁性体の磁気モーメントの大きさに比例するため、MOKE

測定は物質の磁性情報を抽出する手法の一つである。さらに、入射する光を磁性元素の

吸収端に合わせることで、元素選択的測定が可能であるとともに、従来の可視光レーザ

ーを用いた測定よりも巨大なカー回転角を観測できることが知られている[1, 2]。

我々のグループでは、SPring-8 BL07LSU にて世界唯一の分割型クロスアンジュレー

タを整備し、偏光制御された高輝度軟 X 線を発生することに成功した[3]。本光源をも

とに様々な偏光軟 X 線を鉄ナノ薄膜に照射し、それぞれの共鳴 MOKE を測定した。s

偏光入射時の鉄の L殻吸収端におけるカー回転角スペクトルを図 1に示す。また、鉄の

光学定数から[4]、現象論に基づくカー回転角スペクトルの計算を行い、実験結果を再

現する結果が得られた。さらに、共鳴 X 線散乱理論を用いたクラスター計算結果[1]と

の比較も行い、ミクロとマクロの両視点から磁気光学効果の理解を試みた。

また、SPring-8 BL07LSUでは、分割

型クロスアンジュレータを用いた 10

Hz の高速偏光スイッチングを世界で初

めて成功した。この手法を用いること

で、より高精度な X 線磁気円二色性

(XMCD)吸収分光や共鳴 MOKE測定

が可能である。さらに、MOKE 測定に

偏光スイッチングを適用した光学遅延

変調法にも期待が寄せられている。本

講演では、偏光スイッチングを用いた

XMCD、共鳴 MOKE結果も合わせて報

告する。

[1] Sh. Yamamoto et al., Phys. Rev. B 89, 064423 (2014).

[2] S. Valencia et al., Physica B 345, 189-192 (2004).

[3] S. Yamamoto et al., J. Synchrotron Rad. 21, 352-365 (2014).

[4] H.-Ch. Mertins et al., J. Magn. Magn. Mater. 240, 451-453 (2002).

図 1:L 殻吸収端における鉄ナノ薄膜のカ

ー回転角スペクトル。実験結果(黒丸)と

現象論に基づく計算結果(白丸)を示す。