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キーワード アルツハイマー型認知症,BPSD, MMSE,CDR,Aβ,tau, MCI…due…to…AD(アルツハイマー病による 軽度認知障害),家族性アルツハイマー病, ADNI 研究,DIAN 研究 弘前大学大学院医学研究科 附属脳神経血管病態研究施設 脳神経内科学講座 教授 海林 幹 みき 高齢社会を迎えた日本では認知症患者さんも増加の一途をたどり,認知症は 誰もが関わらざるをえない疾患といえる.認知症はMMSEなどの認知機能測定 テストにより診断されるが,最も患者数が多いアルツハイマー型認知症では, 脳脊髄液中のアミロイドβ(Aβ)やタウ蛋白(tau)を測定することによって 疾患早期からの診断が可能になってきている.本講演では認知症の自然経過や 診断,治療薬,臨床検査,特にバイオマーカーの有用性について解説する. 認知症のバイオマーカー: 診断と予測への貢献 認知症の疫学 認知症の患者数は年々増加しており,2010年の統計 によると東アジアで870万人,北米では440万人となっ ています.現在,世界人口で60歳以上の11%に当たる 3,560万人が認知症に罹患しているといわれており, 2050年には東アジアで3,000万人,北米で1,300万人に 増加すると予想されています.これは,ヨーロッパや南 半球においても同様で,世界では毎年770万人ずつ患者 さんが増加しており,2050年には1億人を突破する見通 しです.単純計算では1分間に15人が認知症を発症す ることになります.世界全体の認知症に費やされる年間 医療費は49兆円であり,これは日本の国家予算100兆 円の約半分に当たります.日本の認知症患者数は462万 人,その予備軍である軽度認知障害(MildCognitive Impairment;MCI)が400万人ですので,合計すると65 歳以上の方の約3割を占めます.脳血管障害が270万人, 循環器疾患が200万人,悪性腫瘍が200万人ですから, 認知症患者さんがいかに多いかがお分かりいただける と思います. 認知症をとりまく環境 従来,認知症の患者さんたちに対する医療者からの 対応は「認知症は治らない」,「入院すると大変だから 講演 3 できない」,「手術やがんの適応はない」など不十分で した.しかし現在では,認知症患者さんの術後せん妄 への対応や,新しい降圧薬や糖尿病薬を処方しても患 者さんの飲み忘れによって効果がでなかったり,逆に過 量服薬によって救急車で運ばれたりするなど,医療現場 で認知症患者さんが話題になることは日常茶飯事とな りました.認知症が急に進行したと感じた家族が病院へ 連れていったところ,実は睡眠薬や抗不安薬,抗精神病 薬などの過量服薬による意識障害であったということも 経験します.最近ではグループホームを開設した整形外 科や泌尿器科の医師から,認知症について勉強したい という要望を受けたりもします.地方で暮らす認知症の 親の介護のために子どもたちが都会から通って介護さ れることも珍しくなくなりました.2014年には改正道路 交通法が施行され,医師や患者さんに関わる方々は認 知症患者さんに自動車の運転を中止してもらう責任が 加わりました.従って,認知症とは専門の医師,介護をす る人ばかりでなく,地域に住んでおられる方全員が関わ らざるをえない状況となっています. 認知症の診断基準 このような世界的な動向を受けて,2011年にNIA- AA(National Institute on Aging/Alzheimer’s Association)が27年ぶりに認知症の診断基準を改訂し 17 2014 No.81 Series

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Page 1: 講演 認知症のバイオマーカー: 診断と予測への貢献AA(National Institute on Aging/Alzheimer ’s Association)が27年ぶりに認知症の診断基準を改訂し

キーワード

アルツハイマー型認知症,BPSD,MMSE,CDR,Aβ,tau,MCI…due…to…AD(アルツハイマー病による軽度認知障害),家族性アルツハイマー病,ADNI 研究,DIAN 研究

弘前大学大学院医学研究科 附属脳神経血管病態研究施設 脳神経内科学講座 教授

東し ょ う じ

海林 幹み き

夫お

高齢社会を迎えた日本では認知症患者さんも増加の一途をたどり,認知症は誰もが関わらざるをえない疾患といえる.認知症はMMSEなどの認知機能測定テストにより診断されるが,最も患者数が多いアルツハイマー型認知症では,脳脊髄液中のアミロイドβ(Aβ)やタウ蛋白(tau)を測定することによって疾患早期からの診断が可能になってきている.本講演では認知症の自然経過や診断,治療薬,臨床検査,特にバイオマーカーの有用性について解説する.

認知症のバイオマーカー:診断と予測への貢献

認知症の疫学 認知症の患者数は年々増加しており,2010年の統計によると東アジアで870万人,北米では440万人となっています.現在,世界人口で60歳以上の11%に当たる3,560万人が認知症に罹患しているといわれており,2050年には東アジアで3,000万人,北米で1,300万人に増加すると予想されています.これは,ヨーロッパや南半球においても同様で,世界では毎年770万人ずつ患者さんが増加しており,2050年には1億人を突破する見通しです.単純計算では1分間に15人が認知症を発症することになります.世界全体の認知症に費やされる年間医療費は49兆円であり,これは日本の国家予算100兆円の約半分に当たります.日本の認知症患者数は462万人,その予備軍である軽度認知障害(MildCognitiveImpairment;MCI)が400万人ですので,合計すると65歳以上の方の約3割を占めます.脳血管障害が270万人,循環器疾患が200万人,悪性腫瘍が200万人ですから,認知症患者さんがいかに多いかがお分かりいただけると思います.

認知症をとりまく環境 従来,認知症の患者さんたちに対する医療者からの対応は「認知症は治らない」,「入院すると大変だから

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できない」,「手術やがんの適応はない」など不十分でした.しかし現在では,認知症患者さんの術後せん妄への対応や,新しい降圧薬や糖尿病薬を処方しても患者さんの飲み忘れによって効果がでなかったり,逆に過量服薬によって救急車で運ばれたりするなど,医療現場で認知症患者さんが話題になることは日常茶飯事となりました.認知症が急に進行したと感じた家族が病院へ連れていったところ,実は睡眠薬や抗不安薬,抗精神病薬などの過量服薬による意識障害であったということも経験します.最近ではグループホームを開設した整形外科や泌尿器科の医師から,認知症について勉強したいという要望を受けたりもします.地方で暮らす認知症の親の介護のために子どもたちが都会から通って介護されることも珍しくなくなりました.2014年には改正道路交通法が施行され,医師や患者さんに関わる方々は認知症患者さんに自動車の運転を中止してもらう責任が加わりました.従って,認知症とは専門の医師,介護をする人ばかりでなく,地域に住んでおられる方全員が関わらざるをえない状況となっています.

認知症の診断基準 このような世界的な動向を受けて,2011年にNIA-AA(National Institute on Aging/Alzheimer’sAssociation)が27年ぶりに認知症の診断基準を改訂し

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ました1).この診断基準は大きく下記の5項目から成っています.

1.仕事や日常活動の支障2.以前の水準に比べ遂行機能が低下3.せん妄や精神疾患によらない4.病歴と検査による認知機能障害の存在5.…次のa〜eの中から2領域以上の認知機能や行動の障害

 a…記銘記憶障害 b…論理的思考,遂行機能,判断力の低下 c…視空間機能障害 d…失語 e…人格,行動,態度の変化

 以上の場合に認知症と診断されます.前提として脳の病気に罹患していることが重要で,具体的には表1に示した症状を確認することから始まります.これらの障害のうち2つ以上の組み合わせが認められれば認知症になります.

認知症の自然経過と問題点 認知症は「もの忘れ」ですから,最初に気付くのは当人ということになります(図1赤枠の緑字).最初は「自分はアルツハイマー病ではないか」と不安を感じる時期があります.

5.以下の2領域以上の認知機能や行動の障害 a. 記銘記憶障害

①何度も同じことを聞く,繰り返す②置き忘れ,行事・約束を忘れる③よく知った道で迷う

 b. 論理的思考,遂行機能,判断力の低下①危険性の理解低下②財産管理ができない③判断力低下④複雑・連続的な仕事ができない

 c. 視空間機能障害①顔や一般的な物の識別ができない②簡単な道具が使えない,服が着られない

 d. 失語①会話中に簡単な単語の理解ができない②言葉や単語が出てこない,書き間違い

 e. 人格,行動,態度の変化①焦燥のような感情の変動②�モチベーションや自発性低下,無関心,活力低下,引きこもり,以前の活動への興味低下,思いやりの欠如,強迫行動,反社会的行動

もの忘れ・捜し物,失敗,不安・恐怖,うつ,怒りっぽい

自分のことができない,歯磨き・洗顔,服,風呂,トイレ(FFT),無為

仕事,家事,人付き合いの障害(炊事,掃除,洗濯:3S)病態失認,遂行障害診断・投薬,生活設計,

介護保険,デイケア,成年後見制度

服薬,食事,FFTの介護,BPSD対応,家族会による支援

グループホーム介護施設

対症療法寝たきり介護 排尿障害,肺炎,

転倒・骨折,せん妄,合併症

被害妄想火の不始末質問反復,作り話

興奮,拒否,運転,不眠,仮説作業,つきまとい,うつ

暴言,暴力,帰宅欲求,徘徊,不潔行為

どうしてこんなことに?今後どうなるか早く確実に知りたい!治す薬は?きちんとしているのにみんなが非難する!

普通の生活に戻りたい?デイケア(風呂,リハ?),外来リハ?認知症カフェ?毎日テレビの前でうとうと

自分のことが分からない,失語,見当識障害,相貌失認(SOS)

放尿・便,基本動作の崩壊,寝たきり

表 1 認知症:主要臨床診断基準

図 1 アルツハイマー病:自然経過と問題点

そのうち,仕事や家事ができなくなります.家事は,炊事,掃除,洗濯の順番で忘れていき,頭文字のSを取って“3S”がまず障害されます.その後,ちゃんとできているのかどうか自分でも分からなくなり,「ちょっとできないけど,まあ何とかやっている」と思い込む状態が続きます(病態失認).

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 さらに進行すると,朝起きて,歯を磨いて,顔を洗って,服を着て,お風呂に入って,トイレに行って,という自分自身のことができなくなります.これも,服,風呂,トイレの動作が障害されることから,頭文字をとって“FFT”の障害といわれます. 高度認知症まで進むと,自分自身のことが分からなくなります.言葉も使えず(失語),自分が今どこにいるかが分からなくなります(失見当識).見当識(Orientation)の障害は,時間,場所,人の順に認められます.また,人の顔が分からなくなります(相貌失認).これも頭文字を取ると“SOS”となり,ここまでくると,患者さんは本当にSOSを発している状態となります.最終的には,歩くことを忘れ,食べる動作を忘れ,人が言うことも分からなくなる状態になり,合併症などにより亡くなられます. 認知症とは,興奮,問題行動と思われがちですが,本来の病態は物事ができなくなることです.物事ができない状態の中,周りから「あれしなさい」,「これしなさい」,「いけないじゃないの」と言われるため,カッとして切れてしまい興奮などの反応が出ます(図1青枠).このような反応性に起きる問題行動を,最近では認知症の行動・心理症状(BehavioralandPsychologicalSymptomsofDementia;BPSD)といい,専門医,介護スタッフと家族が最も対応に困難を感じるところです.BPSDに対応しながら何年か経過し,家族では対応しきれなくなると,グループホームや介護施設を紹介するというのが現状です(図1黄色枠).

 日本では介護保険が始まって10年以上になりますが,その間にデイケアやグループホームなどの施設が開設され,大きく改善しました.患者さんはデイケアでお風呂に入ってレクリエーションなどをしているのですが,家では一見ボーッとテレビをみているだけの状態と思われていますが,患者さん自身は,「どうしてこんなことになってしまったのだろうか」,「早く治りたい.どうしたらいいのか」と必死に悩んでいますし,根本的治療薬が早く欲しいと考えています. 弘前大学もの忘れ外来における2006〜2012年の患者さんの内訳を示します(表2).現在,もの忘れ外来に来られる方の37%はアルツハイマー病(Alzheimer'sDisease;AD)[P33参照]で,17%がその予備軍であるMCIです.レビー小体型認知症[P33参照]が9%で,血管性認知症[P33参照]は5%,それ以外はまれな神経内科の疾患か,治療可能な認知症[P33参照]です.この割合は全国のもの忘れ外来とほぼ同様で,日本における現在の認知症患者さんの動向を示しているものと思います.

アルツハイマー型認知症の症状進行抑制薬と早期診断の重要性

 アルツハイマー型認知症における認知症の進行抑制薬として,1999年にドネペジル(アリセプト®)が,2011

年にガランタミン(レミニール®),リバスチグミン(リバスタッチ®,イクセロン®),メマンチン(メマリー®)の4種類が承認されました(表3).ドネペジル,ガランタミン,リバスチグミンはアセチルコリン(ACh)を分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の活性を阻害し,脳内のアセチルコリン濃度を上昇させることで記憶力を高める薬剤で,メマンチンはグルタミン酸受容体のサブタイプであるNMDA受容体への拮抗作用により,グルタミン酸神経系の機能異常を抑制させる薬剤です.認知症の治療薬が誕生したことにより,多くの医師が患者さんを診察するようになり,また患者さんをとりまく諸制度も整うようになりつつあります.ここ2〜3年は治療薬が増えたことにより,この状態に拍車が掛かりました.

認知症のバイオマーカー:診断と予測への貢献

講演 3

疾患 患者数 比率(%) 受診年齢 MMSEアルツハイマー病 349 37 76±8 19±5軽度認知障害 161 17 74±8 25±3レビー小体型認知症 89 9 77±7 18±6血管性認知症 45 5 75±7 19±5進行性核上性麻痺 26 3 73±7 19±5前頭側頭葉変性症 21 2 70±10 21±6うつ病 18 2 65±12 27±4混合型認知症 20 2 80±6 18±5認知症を伴うパーキンソン病 18 2 77±7 19±7アルコール性認知症 11 1 66±10 19±5正常圧水頭症 10 1 74±7 17±8大脳皮質基底核変性症 10 1 72±7 21±6Creutzfeldt-Jakob病 7 1 71±7 10±10健常者 51 5 69±11 27±3その他 112 12 69±15 23±5

合計 948 100 74±10 21±6

表 2 弘前大学もの忘れ外来(2006 〜 2012 年:948 例)

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 認知症は治療薬が登場したことにより,早期に服薬を開始すれば進行を遅らせることが可能となりました.従って,早期診断をすれば原疾患に基づく適切な治療と介護が可能になります.アルツハイマー型認知症であればもの忘れを介助すればよいし,血管性認知症であれば脳血管障害の後遺症をリハビリで再発防止すればよいということになります.また,早期診断は早期の治療開始を可能にすることから,家族も介護計画や将来設

計が立てやすくなり,余裕が生まれます.これにより,患者さんも穏やかに経過を過ごすことができます. 診断はMMSE(Mini-MentalStateExamination)で行われますが,これは世界中で実施されている一般的な簡易認知症検査法で,各国の言語に訳されています(図2).30点満点で,23点で認知症の疑い,20点以下はほぼ認知症で,診断の感度は83%,特異度は93%です.

薬剤 アリセプト®

Donepezilレミニール®

Galantamineリバスタッチ®,イクセロン®

Rivastigmineメマリー®

Memantine

作用機序 AChE阻害AChE阻害

nAChRアロステリック増強作用

AChE/BuChE阻害 NMDA受容体拮抗剤

適用 ①軽〜中等度…5mg②高度…10mg 軽〜中等度…24mg 軽〜中等度…18mg 中等〜高度…20mg

処方量 ①3mgを2週後5mgへ増量②5mgを1月後10mgへ増量

8mgから24mgへ1月ごとに増量

4.5mgから18mgへ1月ごとに増量,パッチ剤

5mgから20mgへ1週ごとに増量

用法 1日1回 1日2回 1日1回 1日1回

半減期(時間) 70〜80 5〜7 3.4 60〜80

最高濃度到達(時間) 3〜5 0.5〜1 8 1〜7

代謝 肝臓CYP2A6,3A4

肝臓CYP2D6 腎排泄 腎排泄

副作用 食欲不振,嘔気,嘔吐,下痢,ピペリジン系過敏,徐脈

悪心,嘔吐,食欲不振,下痢,頭痛,徐脈, 紅斑,悪心,嘔吐 めまい,ふらつき,眠気,

頭痛,便秘,

表 3 アルツハイマー型認知症の症状進行抑制薬

時間の見当識場所の見当識3単語の記銘注意計算3単語の遅延再生物品呼称復唱3段階命令読字書字構成

全世界で最も一般的な簡易認知症検査法30点満点23点以下:認知症の疑い20点以下:ほぼ認知症認知症と診断できる感度83%正常を除外できる特異度93%

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今年は何年ですか。いまの季節は何ですか。今日は何曜日ですか。今日は何月ですか。今日は何日ですか。ここはなに県ですか。ここはなに市ですか。ここはなに病院ですか。ここは何階ですか。ここはなに地方ですか。(例:関東地方)物品名3個(相互に無関係)検者は物の名前を1秒間に1個ずつ言う。その後、被検者に繰り返させる。正答1個につき1点を与える。3個すべて言うまで繰り返す(6回まで)。何回繰り返したかを記せ___回100から順に7を引く(5回まで)、あるいは「フジノヤマ」を逆唱させる。3で提示した物品名を再度復唱させる。(時計を見せながら)これは何ですか。(鉛筆を見せながら)これは何ですか。次の文章を繰り返す。「みんなで、力を合わせて綱を引きます」(3段階の命令)「右手にこの紙を持ってください」「それを半分に折りたたんでください」「机の上に置いてください」(次の文章を読んで、その指示に従ってください)「眼を閉じなさい」(なにか文章を書いてください)(次の図形を書いてください)

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(5点)

質 問 内 容 得 点0   10   10   10   10   10   10   10   10   10   1

(5点)

(3点)

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(3点)

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(1点)

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0 1 2 3 4 5

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図 2  Mini-Mental State Examination(MMSE)ミニメンタルテスト

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 被検者が例えば医師や臨床心理士などで,このテストを知っている場合には診断できないこともあります.そこで,CDR(ClinicalDementiaRatingScale)という検査も実施します(表4).記憶力,見当識,判断力,社会適応,家庭状況,介護状況について,患者さんと家族にそれぞれ30分ずつ聞き取りを行い,認知症の診断をします.CDRは0が正常で,0.5では認知症の疑いがあり,1,2,3と数値が高くなるほど認知症の程度が強くなります. この2つの検査で認知症あるいはMCIと診断された後は,臨床検査を実施し二次性認知症(治療できる認知症)を除外します.

アルツハイマー病(AD)とは 高齢者認知症の主因となるADは認知症患者462万人の半分以上を占める疾患で,約1%は遺伝子異常による家族性です.海馬,側頭・頭頂葉が障害されるため,記憶,物事の判断能力の低下が最初にあらわれ,発症後は症状が緩徐に進行します. ADはAβとtauという2つの不溶性蛋白質が脳内に蓄積することにより,神経細胞が障害され発症します.Aβは40〜42個のアミノ酸から成り,シナプスより分泌され

シナプス間隙に蓄積します.tauは神経細胞骨格をつくる微小管に結合している蛋白質で,リン酸化され神経細胞の中に蓄積します. 最近では,アミロイドイメージング剤であるP i B(11C-Pittsburghcompound-B)や18F-AV-45を用いることにより,アミロイド蓄積の画像診断が可能となりました.これらを注射してアミロイドPETを撮影すると,健常老人の約4割,MCIの約6割,ADの7〜9割は陽性になります.現在,日本でこの検査を実施できるのは約10施設のみとなっています. 2013年にはtauの蓄積および神経原線維変化のPETによる画像化に成功しました.放射性核種にはPBB3,[18F]THK-5105/5117,T-807/808の3種類があり,今後臨床応用が進むものと考えられます. Aβやtauは脳に蓄積するものの,体表や患者さんの試料からは検出できないと考えられていました.しかし,1991年に私どもは脳脊髄液のAβを測定できることを発見し,1998年にはELISA法により患者さんの診断が可能になることを発表しました.1995年には脳脊髄液のtauも測定できるようになったことから,私たちはAβ40,Aβ42,tauの測定結果を発表しました2).日本の患者さん約300例から脳脊髄液を採取し測定した大規模スタディで,感

認知症のバイオマーカー:診断と予測への貢献

講演 3

健康(CDR 0)

認知症の疑い(CDR 0.5)

軽度認知症(CDR 1)

中等度認知症(CDR 2)

重症認知症(CDR 3)

記憶記憶障害なし時に若干のもの忘れ

一貫した軽いもの忘れ出来事を部分的に思い出す良性健忘

中等度記憶障害,特に最近の出来事に対するもの,日常生活に支障

重度記憶障害,高度に学習したものは保時,新しいものはすぐに忘れる

重度記憶障害断片的記憶のみ残存

見当識

見当識障害なし 同左 時間の障害あり,検査で場所,人物の失見当なし,時に地誌的失見当あり

常時,時間の失見当,時に場所の失見当あり

人物への見当識のみ

判断力と問題解決

適切な判断力,問題解決

問題解決能力の障害が疑われる

複雑な問題解決に関する中等度の障害,社会的判断力は保持

重度の問題解決能力の障害,社会的判断力の障害

判断不能問題解決不能

社会適応

仕事,買い物,ビジネス,金銭の取り扱い,ボランティアや社会的グループで,普通の自立した生活

左記の活動の軽度障害もしくはその疑い

左記の活動のいくつかに関わっていても自立した機能が果たせない

家庭内(一般社会)では独立した機能は果たせない

同左

家庭状況および趣味・関心

家での生活・趣味,知的関心が保持されている

同左,もしくは若干の障害

軽度の家庭生活の障害,複雑な家事は障害,高度の趣味・関心の喪失

単純な家事のみに限定された関心

家庭内不適応

介護状況セルフケア完全 同左 ときどき激励が必要 着衣,衛生管理などの

身の回りのことに介助が必要

日常生活に十分な介護を要するしばしば失禁

表 4 Clinical Dementia Rating Scale(CDR)

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度71〜91%,特異度83%であったことを報告しました. 2000年代後半には,群馬大学,鳥取大学,東北大学とともに,アルツハイマー型認知症,正常対照,非AD型認知症,認知症のない神経疾患の患者さん全620例の脳脊髄液中の総tau(t-tau),Aβ40,Aβ42,Aβ比(Aβ40/Aβ42)を測定しました(図3).赤線は平均値です.アルツハイマー型認知症ではtauは上昇し,Aβ40は少し上昇するものの,他との差はあまりありません.Aβ42は下降し,Aβ比は上昇することが分かりました.つまり,tauとAβ比の2つから診断が可能であるということが明らかになりました. 各種神経疾患における脳脊髄液中のAβ42,t-tau,リン酸化tau(P-tau)について表5にまとめます.ADではAβ42が減少し,t-tauとP-tauが増加します.レビー小体型認知症でもAβ42の減少とt-tauおよびP-tauの増加が認められ,血管性認知症などは変化が認められません.このような臨床検査の結果を用いることで,アルツハイマー型認知症の臨床診断基準である「非AD型認知症の除外」が可能となります.

 2014年4月より認知症の診断目的でのP-tauの測定と,クロイツフェルト・ヤコブ病[P34参照]の診断のためのt-tauの測定が保険適応となりました.ただし,Aβ40および42は両方ともまだ保険適応の対象となっていません.

疾患 Aß42 総tau(t-tau)

リン酸化タウ(P-tau)

Alzheimer病 ↓↓ ↑↑ ↑↑Lewy小体型認知症 ↓ ↑ ↑血管性認知症 — or ↓ — or ↑ —前頭側頭型認知症 — or ↓ ↑ or — —大脳基底核変性症 — ↑ —進行性核上性麻痺 — ↑ —Creutzfeldt-Jakob病 ↓ ↑↑↑ — or ↑AIDS認知症 — ↑ —アルコール性認知症 — — —急性期脳梗塞 — ↑↑↑ —筋萎縮性硬化症 — or ↓ — —多発性硬化症 - ↑ —髄膜脳炎 — or ↓ ↑↑↑ —Parkinson病 — — —うつ病 — — —脳外傷 — or ↓ ↑ —正常加齢 — — —-:変化無し,↑:増加,↓:減少

表 5 各種神経疾患における脳脊髄液中の Aβ42,t-tau,P-tau

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(pg/mL)

NDAD NC NA

tau

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(fmol/mL)

NDAD NC NA

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(fmol/mL)

NDAD NC NA

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0NDAD NC NA

Aβ比(Aβ40/Aβ42)

図 3 脳脊髄液(CSF)バイオマーカーとしての t-tau,Aβ40,Aβ42,Aβ比(Aβ40/Aβ42)

GTT3症例(620例)疾患 対象 男/女 平均年齢AD 227 58/168 69NC 88 42/46 52NA 151 84/67 66ND 154 90/64 53

AD:Alzheimer型認知症NC:正常対照NA:非AD型認知症ND:認知症のない神経疾患

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認知症のバイオマーカー:診断と予測への貢献

講演 3

アルツハイマー病(AD)の発症予測

 米国ADNI(Alzheimer'sDiseaseNeuroimagingInitiative)研究は,健常高齢者229例,MCI患者402例,軽度AD患者188例を対象とし,さまざまな心理的検査や画像検査,脳脊髄液検査を半年ごとに実施し,予測に最も適したマーカーを調査した大規模研究です3,4).この研究により,MCIからADを発症するのは1年後で16%,2年後が24%,3年後が49%という結果が得られました. 各バイオマーカーの変化を図4に示します5).脳脊髄液のAβ42は疾患の進行に伴い徐々に低下しているのが分かります.FDG-PET,海馬体積,ADAS-cog(認知機能の検査)よりもバイオマーカーの方が先に変化しています.ADNI研究ではカットオフ値をAβ42で192pg/mL*,tau/Aβ42で0.39とすると,3年後には70%がADを発症するという結果が出ました6).

 最近の話題として,ADによるMCI(MCIduetoAD)の予測があります.NIA-AAによる診断基準を表6に示します7).臨床と認知機能診断基準とAD脳病理(AD-P)を伴うMCIの検索があります.また,バイオマーカーによる研究用診断基準を表7に示します.ADによるMCIと診断できるのは,脳脊髄液Aβ42かアミロイドPET陽性で,脳脊髄液tauかFDG-PET,MRIで陽性となった場合となります. 脳脊髄液マーカーだけでなく,認知症患者の日常を知るための一般医療機器として“ゲイト君”という歩行分析計もあり,患者さんの活動状態や歩行分析ができます(図5).実際,私の患者さんで,1日に4時間だけは普通の人と同様に動けるのですが,他の時間はパーキンソン病で無動のため車いすで生活している方がいました.同意を得てゲイト君で検討したところ,患者さんと御家族が訴えられたそのままに1日に4時間だけ活動していることが確認できました.脳脊髄液マーカーによる予

図 4  CSF Aβ42, FDG uptake, Hippocampal volume, ADAS-cog の NC 群(健常),MCI 群,AD 群における 35 カ月間の変化

Lo RY, et al.: Arch Neurol. 2011; 68(10): 1257-66.

250

200

150

100

pg/mL

CSF Aβ42 FDG uptake

Hippocampal volume ADAS-cog

35251550NC, mo

35251550MCI, mo

35251550AD, mo

2.0

1.5

1.0

0.5

0.0Normalized Intensity

35251550NC, mo

35251550MCI, mo

35251550AD, mo

4,500

4,000

3,500

3,000

2,500

2,000

mm2

35251550NC, mo

35251550MCI, mo

35251550AD, mo

40

30

20

10

0

Score

35251550NC, mo

35251550MCI, mo

35251550AD, mo

*192pg/mL≒42.5fmol/mL(Aβ42分子量4514.08として換算)

23 2014 No.81

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取り付け例

着地した時や蹴り出した時に地面から受ける反力が下肢を伝わって腰に届くため,加速度センサーがこの反力を記録します.下の図のような加速度波形が観測できます.

3軸加速度センサーで歩行解析10msec(1秒間に100回のサンプリング)体の前後,左右,上下の動きを記録24時間以上の長時間記録も可能位置情報,活動状態,健康状態への応用

上(Y)

左(X)前(Z)

表 6 MCI due to AD 診断基準(NIA-AA)

図 5 ゲイト君の可能性

①臨床と認知機能診断基準1.以前と比較して明らかに認知機能が低下していることに対して,患者,家族,医師が指摘2.記憶,遂行機能,注意,言語,視空間機能のひとつ以上で年齢や教育歴から予想されるレベルより明らかに低下3.複雑な仕事は以前より難しいが日常生活は自立4.認知症ではない

②AD脳病理(AD-P)を伴うMCIの検索1.血管性,外傷性,他疾患の除外…2.認知機能の継続的低下の確認3.APP,PSNE-1/2,ApoE4

表 7 バイオマーカーを用いた MCI due to AD 研究用診断基準

Albert MS, et al.: Alzheimers Dement. 2011; 7(3): 270-9.

診断 バイオマーカーによるADらしさ

Aβ蓄積(アミロイドPET,CSF Aβ42)

神経細胞障害(CSF tau,FDG-PET,MRI)

MCICore…clinical…criteria 情報なし 疑わしい

未検査疑わしい未検査

MCI…due…to…ADIntermediate…likelihood 中間 陽性

未検査未検査陽性

MCI…due…to…ADHigh…likelihood 高 陽性 陽性

MCIUnlikely…due…to…AD 低 陰性 陰性

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認知症のバイオマーカー:診断と予測への貢献

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測だけでなく,患者さんの場所,徘徊,活動状態,生命などをモニターできる機器が今後有用になる可能性があります.

今後の展望 現在,ADの根本的な治療薬が開発されています.アミロイドに対するモノクローナル抗体[P34参照]5種類が第Ⅰ相から第Ⅲ相で開発中,また,β蛋白のN末端を切断する酵素(β-セクレターゼ[P34参照])の阻害剤が第Ⅰ相から第Ⅲ相で開発中です.tau凝集阻害薬は第Ⅲ相です.また,インスリン[P34参照]は認知機能を改善することから,インスリンの点鼻薬がアメリカで開発中です.弘前大学ではAβ4-10を経口免疫で投与する治験が前臨床段階で,抗Aβオリゴマー抗体は第Ⅰ相となっています. 家族性ADの遺伝子を持つ人を対象としたDIAN(Dominantly InheritedAlzheimerNetwork)研

究は,ドイツのヴォルガ川流域からアメリカに移住したReiswig家が40〜50代になると認知症により若くして死亡していたため,一族の一人がワシントン大学に原因究明を依頼したことが発端です.ワシントン大学のThomasBirdとGerardSchellenbergは遺伝子解析により遺伝子異常を解明しました.ADの重要な遺伝子異常には,βアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursorprotein;APP)遺伝子,presenilin-1/2遺伝子,ApoE遺伝子があります. 家族性ADは原因となる遺伝子変異が常染色体優性遺伝であるため,キャリアの浸透率は100%で,45歳前後に確実にADを発症します.ノンキャリアは発症しません.この家系を追跡すれば,遺伝子異常の有無,MCI発症年齢,ADの発症年齢,死亡年齢の観察研究が可能となります.ワシントン大学ではこの家系を対象とした研究が現在も進行しており,2013年からは治療薬の臨床試験が開始されました.

図 6  家族性 AD の遺伝子変異キャリアとノンキャリアを対象にした臨床的,認知的,構造的,代謝および バイオマーカーの変化

Bateman RJ, et al.: N Engl J Med. 2012; 367(9): 795-804.

86420-2

Score

-30 -20 -10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

Clinical Dementia Rating-Sum of BoxesA

30

25

20

15

Score

-30 -20

Noncarriers

-10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

Mini-Mental State ExaminationB20

15

10

5

0

Score

-30 -20 -10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

Logical MemoryC

10,000

9,000

8,000

7,000

6,000

mm3

-30 -20 -10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

Hippocampal VolumeD2.42.22.01.81.61.41.21.0

SUVR

-30 -20 -10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

Glucose Metabolism in the PrecuneusE1.41.21.00.80.60.4

SUVR

-30 -20 -10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

Aβ Deposition in the PrecuneusF

250200150100500

pg/mL

-30 -20 -10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

CSF TauG700600500400300200100

pg/mL

-30 -20 -10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

CSF Aβ42H55504540353025

pg/mL

-30 -20 -10 0 10 20Estimated Yr from Symptom Onset

Plasma Aβ42I

Carriers

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参考文献

1) McKhann GM, et al.: Alzheimers Dement. 2011; 7(3): 263-9.2) Kanai M, et al. :Ann Neurol. 1998; 44(1): 17-26.3) Petersen RC, et al.: Neurology. 2010; 74(3): 201-9.4) Shaw LM, et al.: Acta Neuropathol. 2011; 121(5): 597-609.5) Lo RY, et al.: Arch Neurol. 2011; 68(10): 1257-66.6) Shaw LM, et al.: Acta Neuropathol. 2011; 121(5): 597-609.7) Albert MS, et al.: Alzheimers Dement. 2011; 7(3): 270-9.8) Bateman RJ, et al.: N Engl J Med. 2012; 367(9): 795-804.9) Benzinger TL, et al.: Proc Natl Acad Sci U S A. 2013; 110(47): E4502-9.

略歴 …東海林……幹夫…(しょうじ みきお)1980年 群馬大学医学部 卒業 同年 群馬大学神経内科教室入局1983年 前橋老年病研究所附属病院神経内科1984年 群馬大学 助手1990年 群馬大学神経内科 講師(医学博士)1991年 Case Western Reserve University 留学1992年 群馬大学神経内科 講師復職2001年 岡山大学神経内科 助教授2006年 弘前大学医学部脳血管病態研究施設 神経統御部門(神経内科) 教授2007年 弘前大学大学院医学研究科 脳神経内科学講座(神経内科) 教授現在に至る

 このような研究の結果から,45歳前後の発症時を0とすると,MMSEとCDRは発症する約15年前から,論理機能は約15年前,海馬は約10年前,糖代謝は約15年前,Aβの蓄積は約25年前,tauは約15年前,Aβ42も25年前から変化していることが分かり,家族性ADでは,脳脊髄液のAβ比,tau,P-tau,tau/Aβ,P-tau/Aβ1-42などのバイオマーカーが発症する15〜20年前から変化していることが分かりました(図6)8). アミロイドPETでは,Aβは発症15年前から蓄積が認められ,発症5年前には黄色になるほど大量に蓄積しています(図7)9).発症10年前からはFDGで糖代謝が低下し,発症5年前からはMRIで脳の萎縮が確認できます.これらの検査により経過が全て解明されました.

 2013年,アメリカのオバマ大統領は,今後10年間でADを治すと宣言しました.このために,ADを確実に発症する人で,バイオマーカーに変動がある人にAβに対するモノクローナル抗体を使用する研究など8つのプロジェクトに多額の予算が割り当てられています. 日本でも2013年,家族性ADに関するアンケートを実施した結果,約150人の患者さんがいることが分かりました.2014年6月には,日本でもアメリカのDIAN研究と協力して,2年間の観察研究およびバイオマーカーの変動を確認したのちに,アメリカと同様に根本的治療の試験に参加することが決まりました.本試験が順調に進み,ADの根本的な治療が可能になることを希望しています.

Statistical significance (P value) maps on medial /lateral left cortical gray surface showing differences between carriers and noncarriers in PiB (A), FDG (B), cortical thickness (MRI, C) at -15, -10, and 0y before predicted symptom onset.

EYO:estimated years from symptom onset(推定発症前期間:年)

PiB

FDG

MRI

図 7 常染色体優性アルツハイマー病家系の脳画像の経時的変化

Benzinger TL, et al.: Proc Natl Acad Sci U S A. 2013; 110(47): E4502-9.

26 2014 No.81

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