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Ⅲ 研究開発成果について 公開 Ⅲ―90 Ⅲ―2.3.4 絶縁フィルムの開発 (1)背景・目的等 産業界、なかでも高速通信分野において、耐熱性に優れ、低誘電率であり、しかも安価な樹脂 が強く求められていた。既存の樹脂では得られないこのような特性を、エンジニアリングプラス チックのアロイ化により成就することができれば、その成果は工業的に幅広く適用されるであろ う。本プロジェクトにおいては、リアクティブプロセッシングに基づき、上記の特性を有する新 規材料、具体的には、ポリフェニレンエーテル(PPE)、エポキシ基含有エチレン共重合体(住友化 学㈱製 EGMA)からなる PPE ナノアロイを創製するとともに、その基本的成形加工技術を確立し、 その実用化の可能性を探求することを目的とした。 (2)目標、設定根拠および達成度 最終目標 設定根拠 リアクティブプロセッシング技術を活用し、回路基板・ コンデンサー等の絶縁フィルムに適した、目標性能とし て耐熱性が 180℃以上かつ誘電率を 2.5 未満とするエン プラナノアロイを開発する。 加えて耐衝撃性 N.B(非破壊)を達成する。 一般にエンプラは耐熱性が高い反面、耐 衝撃性が劣り、誘電率も高い。これらの 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 ① 最終目標に対する達成度(○): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も 2.6 とほぼ目標 を達成できた。(事業原簿P.Ⅲ―94) ②実用化に向けての達成度: PPE系の成形加工の基本技術を確立するとともに、その知的財産化を促進できた。(事業原簿 P.Ⅲ―96,97) 学会発表、展示会、新聞などを介して PPE ナノアロイの成果を実用化に向けて普及させること ができた。(事業原簿P.Ⅲ―97) 実用基礎評価により、PPE系の特徴、および問題点を明確にし、実用化に向けて検討が進んだ。 プロジェクト連携各社の協力により EGMA の適用拡大がなされた。 研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光・電子材料の研究 テーマ名 実施先 <共同研究実施先> 絶縁フィルムの開発 JCII(住友化学)、 <山形大、東工大、京工大、産総研>

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Page 1: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―90

Ⅲ―234 絶縁フィルムの開発

(1)背景目的等

産業界なかでも高速通信分野において耐熱性に優れ低誘電率でありしかも安価な樹脂

が強く求められていた既存の樹脂では得られないこのような特性をエンジニアリングプラス

チックのアロイ化により成就することができればその成果は工業的に幅広く適用されるであろ

う本プロジェクトにおいてはリアクティブプロセッシングに基づき上記の特性を有する新

規材料具体的にはポリフェニレンエーテル(PPE)エポキシ基含有エチレン共重合体(住友化

学製 EGMA)からなる PPE ナノアロイを創製するとともにその基本的成形加工技術を確立し

その実用化の可能性を探求することを目的とした

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

リアクティブプロセッシング技術を活用し回路基板

コンデンサー等の絶縁フィルムに適した目標性能とし

て耐熱性が180以上かつ誘電率を25未満とするエン

プラナノアロイを開発する

加えて耐衝撃性NB(非破壊)を達成する

一般にエンプラは耐熱性が高い反面耐

衝撃性が劣り誘電率も高いこれらの

特性が共生する新規材料ができれば市

場へのインパクトは大きい

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

耐熱性は目標値を達成できた耐衝撃性も基本試験で目標値を達成誘電率も 26 とほぼ目標

を達成できた(事業原簿PⅢ―94)

②実用化に向けての達成度

PPE 系の成形加工の基本技術を確立するとともにその知的財産化を促進できた(事業原簿

PⅢ―9697)

学会発表展示会新聞などを介してPPEナノアロイの成果を実用化に向けて普及させること

ができた(事業原簿PⅢ―97)

実用基礎評価によりPPE系の特徴および問題点を明確にし実用化に向けて検討が進んだ

プロジェクト連携各社の協力によりEGMAの適用拡大がなされた

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

絶縁フィルムの開発 JCII(住友化学)

<山形大東工大京工大産総研>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―91

(3)研究開発計画課題

1)新規エンプラアロイ

探索のための少量評価

技術確立

2)エンプラアロイの

ナノ構造制御技術

成形加工技術

3)エンプラアロイのナノコン

ポジット化技術

(4)研究開発成果

① 新規エンプラアロイの探索研究

プロジェクトで購入したHaake Mini Labo押出し機を使用各種エンプラアロイの探索を促進し

PPELDPE ブレンド系と比較してPPEEGMA 系において混練時間とともに溶融粘度が著しく増加す

ることこれが両成分間で反応が進行することに起因することを明らかにした(図1) ここで

原料 PPE としては三菱エンプラ製の[η]=04 の PPE をEGMA は住友化学製のボンドファー

スト 7L(C2GMAMA=67330 wt比MFR(19010min)=8g)を使用した

年度別目標

終了後 H19年 H18年H17年 年 度

衝撃値NB

エンプラアロ

イ基本技術確

立用途基本

検討

耐熱性

gt180

誘電率

lt25

住友化学は本プロジェ

クト終了後さらに用

途展開の可能性を探求

するとともにPPE原料

メーカーなどに対して

も積極的に働きかけ

るまた具体的なビ

ジネスモデル構築を目

指していく

探索研究

ナノコンポジット高機能化研究

年度別目標達成度

(times)

H13-16年

実用性評価システム開発

精密成膜射出成形基本技術確立

ナノ構造界面評価(連携)

衝撃値gt30

新規エンプラアロイの探索研究

混練のシミュレーション技術構築

せん断ーナノ構造相関把握

成形加工基本技術深化

ナノ構造解析技術深化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―92

PPEEGMA=8020

0

5

10

0 500 1000 1500 2000Mixing time (s)

ΔP

(Pa)

times10

-6

PPELLDPE=8020

0

5

10

0 500 1000 1500 2000Mixing time (s)

ΔP

(Pa)

times10

-6

290ordmC 50rpm

図1 混練時間による溶融粘度変化

さらに東工大の連携チームは原料PPEEGMAおよび PPE ナノアロイの溶液 1H‐NMR 測定を行

い押出し機内でのPPEと EGMAとの反応はPPEの OHと EGMAのエポキシ基との反応によること

EGMAのエポキシ基の約30が PPEと結合していることを明らかにした

東工大 との連携研究成果

PPEEGMA=7030系のNMRによる解析

O H

n

co

COOco

CO2Mex y zO

+ O O

n-1

OH

EGMA

EGMAPPE

エポキシ環の減少量PPEのOHの減少量から反応率を

推定反応生成物のピークを確認

リアクティブプロセッシング

リアクティブプロセッシングによる反応生起を確認

ppm1H NMR スペクトル

PPE

EGMA

PPE-EGMA

新しく出現したシグナル(反応性物による)

PPEのOH(30減少)

エポキシ環(30減少)シグ

ナル

EGMAのエポキシ基の~30がPPEと結合している

② PPEナノアロイのナノ構造解析

京工大連携チームがPPE ナノアロイに関して三次元透過型電子顕微鏡像(TEM3-d TEM)解

析を行った結果を図 3に示す アロイのドメインが図の中心にあり界面で PPEEGMA の反応生

成物である約10nm径のナノ粒子が形成され溶融混練に伴いナノ粒子がEGMA内部へ移行したこ

とが分かる このようなナノ粒子はドメイン中で立体的に配列している これはエンプラアロ

図2 1H-NMRによるPPEナノアロイの構造解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―93

イとして初めてそのナノ構造を三次元的に把握した画像である さらに東工大連携チームは

PPE ナノアロイの粘弾性マッピング解析を行いPPE 相とドメインとの接着性が良好であることを

明らかにした

( 3D-TEM評価

連携 京工繊大との成果 core-shell salami model

CoreEGMA domain

(10nm)In PPE

ShellPPE domain (5nm)

In EGMA

(PPEEGMA=955)

100 nm

エンプラアロイのナノ粒子を初めて確認

図3 PPEナノアロイの三次元透過型電子顕微鏡像

③ PPEナノアロイの変形機構

PPEHIPS ブレンド物においては衝撃試験後には(図 4)多数のクレーズが系内に発生するこ

とが知られている ところがPPEナノアロイにおいては図5に示すように衝撃試験後に

もクレーズシェアバンドなどが認められずドメイン中にキャビテーションが発生している

即ちPPEナノアロイは非晶マトリックスが均一変形するという従来の樹脂にない特異な変形

挙動を示すことが分かった

④ PPEナノアロイのPhysical Agingの効果

PPE ナノアロイはハロゲン系溶媒などへの耐薬品性に問題があった しかしPPE ナノアロ

イをTg付近でPhysical AgingすることによりPPEナノアロイの耐薬品性が著しく向上した産

総研の連携チームがPhysical Aging後のPPEナノアロイのDSC測定小角X線解析を行い(図

6)Physical AgingによりPPEナノアロイ中に数百Å径の高次構造が新たに形成されその結果

200nm200nm200nm200nm図4 PPEHIPSの TEM像

(衝撃試験後) 図5 PPEナノアロイのTEM像

(衝撃試験後)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―94

PPEナノアロイの耐薬品性が向上することを明らかにした

図6 Physical agingによるPPEナノアロイの構造変化

⑤ PPEナノアロイの基本特性

PPE ナノアロイの耐熱性耐衝撃性誘電率などの基本特性を評価し市販の各種ポリマーと

の位置づけを明確にした図7に示すように耐熱性に優れしかも誘電率<3である樹脂はPPE

ナノアロイのみである特にPPEナノアロイはスーパーエンプラ並みの耐熱性示し低誘電率

でありそのうえ価格がスーパーエンプラの数分の一以下である(表1)ことから工業的に適

用範囲が広いものと考えられる

0

50

100

150

200

250

0 1 2 3 4 5

Dielectric constant (1 KHz)

HD

T(o

C)

PPE

PTFEPE

PES

PEI

PVC

PSU

POM

PC PPS

PA6

PBT

PPEPS

70

90

110

130

150

170

190

0 10 20 30 40 50 60 70

HD

T [1

85k

gmiddotf]

(ordmC

)

Impact strength [IzodNotched] (kgmiddotcmcm)

PPE

PPS

PC (14)

PPEHIPSPOM

PBTPA6

ABS

PC (18)

EGMA5EGMA30

図7 PPEナノアロイの物性の位置づけ

EGMA5

EGMA30

表1 PPEナノアロイとスーパーエンプラとの比較

240230220210200

70 hours301020

Heat flow

mW

02 04

0

2000

4000

6000

8000

quench

Inte

nsity

2θ ( o )

2h 70h

200ordmC physical aging

産総研との連携研究成果

Physical aging 時間とDSC曲線 Physical aging 時間と小角X線

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―95

PSU PES PEI PPS PPE alloy HDT (˚C)1 174 200 198 100~135 181 Izod (kgmiddotcmcm)2 5~7 7 5~7 3 20 Tensile strength (kgcm2) 710~810 810 1070 490~870 640 Elongation at break ()

Dielectric constant3

50~100

31

6~80

35

60

32

1~6

36

100 26

1)185kgf 2)notched 3)1kHz PPEナノアロイの組成(EGMA含量)と物性の相関を図8に示すEGMA含量が30になるとPPE

ナノアロイの流動性が急速に向上するTEM によるモルフォロジー的検討からEGMA30のアロ

イではドメインが強く配向した相構造を形成するのがわかった一方EGMA 量が増加してもア

ロイの耐熱性はあまり低下しない PPEナノアロイの用途の要求特性に応じてアロイの組成を

決定することが必要である

0

10

20

30

0 10 20 30

EGMA content (wt)

MFR(2

80

)

流動性急向上

HD

T(

185

kgL

)

100

200

Izod

Imp

act

(k

gf

cmcm2)

60

20

40

0 0

EGMA5 EGMA30

TEM像

Scale500nm

図8 PPEナノアロイの組成と特性

⑥ 成形加工基本技術の確立

プロジェクトにおいては得られたPPEナノアロイの成形加工の基礎検討も推進した

PPEナノアロイをTダイ成膜法によってフィルム化を試み厚さ20~40μmの外観良好なフィ

ルムを得ることが出来たさらに得られたPPEナノアロイフィルムを銅スパッタリングしたのち

めっきエッチング処理することで基本的回路基板を作製することができた

さらにPPEナノアロイの射出成形品押し出し成形品ケーブル成形品繊維および繊維

を使用した不織布などの成形加工にも成功した(図9)

これらの事実はPPEナノアロイが各種の成形加工に適合することを意味するものである従来

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―96

PPE単体を連続相とする樹脂の成形加工は極めて困難とされていたが本プロジェクトにおいて

そのナノアロイ化により各種の成形加工品へ展開できることが明らかにされた意義は大きいも

のがある

銅スパッタリングフィルム 回路

フィルム

射出成形品

押 し 出 し 成 形 品 繊維不織布

図9 PPEナノアロイの各種成形品

ケーブル

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―97

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 8件 2件 1件

特 許

(海外) ― ― ―

試 料

提 供 2件(2社) 2件(2社) 3件(2社)

展示プ

レス発表

10件(内新聞発表2件) 3件 3件

論 文 ― ― ―

2004年 3月 5日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」

2004年 5月 12日 日刊工業新聞「高耐熱のPPEアロイ開発」

(6)特記事項

なし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 2: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―91

(3)研究開発計画課題

1)新規エンプラアロイ

探索のための少量評価

技術確立

2)エンプラアロイの

ナノ構造制御技術

成形加工技術

3)エンプラアロイのナノコン

ポジット化技術

(4)研究開発成果

① 新規エンプラアロイの探索研究

プロジェクトで購入したHaake Mini Labo押出し機を使用各種エンプラアロイの探索を促進し

PPELDPE ブレンド系と比較してPPEEGMA 系において混練時間とともに溶融粘度が著しく増加す

ることこれが両成分間で反応が進行することに起因することを明らかにした(図1) ここで

原料 PPE としては三菱エンプラ製の[η]=04 の PPE をEGMA は住友化学製のボンドファー

スト 7L(C2GMAMA=67330 wt比MFR(19010min)=8g)を使用した

年度別目標

終了後 H19年 H18年H17年 年 度

衝撃値NB

エンプラアロ

イ基本技術確

立用途基本

検討

耐熱性

gt180

誘電率

lt25

住友化学は本プロジェ

クト終了後さらに用

途展開の可能性を探求

するとともにPPE原料

メーカーなどに対して

も積極的に働きかけ

るまた具体的なビ

ジネスモデル構築を目

指していく

探索研究

ナノコンポジット高機能化研究

年度別目標達成度

(times)

H13-16年

実用性評価システム開発

精密成膜射出成形基本技術確立

ナノ構造界面評価(連携)

衝撃値gt30

新規エンプラアロイの探索研究

混練のシミュレーション技術構築

せん断ーナノ構造相関把握

成形加工基本技術深化

ナノ構造解析技術深化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―92

PPEEGMA=8020

0

5

10

0 500 1000 1500 2000Mixing time (s)

ΔP

(Pa)

times10

-6

PPELLDPE=8020

0

5

10

0 500 1000 1500 2000Mixing time (s)

ΔP

(Pa)

times10

-6

290ordmC 50rpm

図1 混練時間による溶融粘度変化

さらに東工大の連携チームは原料PPEEGMAおよび PPE ナノアロイの溶液 1H‐NMR 測定を行

い押出し機内でのPPEと EGMAとの反応はPPEの OHと EGMAのエポキシ基との反応によること

EGMAのエポキシ基の約30が PPEと結合していることを明らかにした

東工大 との連携研究成果

PPEEGMA=7030系のNMRによる解析

O H

n

co

COOco

CO2Mex y zO

+ O O

n-1

OH

EGMA

EGMAPPE

エポキシ環の減少量PPEのOHの減少量から反応率を

推定反応生成物のピークを確認

リアクティブプロセッシング

リアクティブプロセッシングによる反応生起を確認

ppm1H NMR スペクトル

PPE

EGMA

PPE-EGMA

新しく出現したシグナル(反応性物による)

PPEのOH(30減少)

エポキシ環(30減少)シグ

ナル

EGMAのエポキシ基の~30がPPEと結合している

② PPEナノアロイのナノ構造解析

京工大連携チームがPPE ナノアロイに関して三次元透過型電子顕微鏡像(TEM3-d TEM)解

析を行った結果を図 3に示す アロイのドメインが図の中心にあり界面で PPEEGMA の反応生

成物である約10nm径のナノ粒子が形成され溶融混練に伴いナノ粒子がEGMA内部へ移行したこ

とが分かる このようなナノ粒子はドメイン中で立体的に配列している これはエンプラアロ

図2 1H-NMRによるPPEナノアロイの構造解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―93

イとして初めてそのナノ構造を三次元的に把握した画像である さらに東工大連携チームは

PPE ナノアロイの粘弾性マッピング解析を行いPPE 相とドメインとの接着性が良好であることを

明らかにした

( 3D-TEM評価

連携 京工繊大との成果 core-shell salami model

CoreEGMA domain

(10nm)In PPE

ShellPPE domain (5nm)

In EGMA

(PPEEGMA=955)

100 nm

エンプラアロイのナノ粒子を初めて確認

図3 PPEナノアロイの三次元透過型電子顕微鏡像

③ PPEナノアロイの変形機構

PPEHIPS ブレンド物においては衝撃試験後には(図 4)多数のクレーズが系内に発生するこ

とが知られている ところがPPEナノアロイにおいては図5に示すように衝撃試験後に

もクレーズシェアバンドなどが認められずドメイン中にキャビテーションが発生している

即ちPPEナノアロイは非晶マトリックスが均一変形するという従来の樹脂にない特異な変形

挙動を示すことが分かった

④ PPEナノアロイのPhysical Agingの効果

PPE ナノアロイはハロゲン系溶媒などへの耐薬品性に問題があった しかしPPE ナノアロ

イをTg付近でPhysical AgingすることによりPPEナノアロイの耐薬品性が著しく向上した産

総研の連携チームがPhysical Aging後のPPEナノアロイのDSC測定小角X線解析を行い(図

6)Physical AgingによりPPEナノアロイ中に数百Å径の高次構造が新たに形成されその結果

200nm200nm200nm200nm図4 PPEHIPSの TEM像

(衝撃試験後) 図5 PPEナノアロイのTEM像

(衝撃試験後)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―94

PPEナノアロイの耐薬品性が向上することを明らかにした

図6 Physical agingによるPPEナノアロイの構造変化

⑤ PPEナノアロイの基本特性

PPE ナノアロイの耐熱性耐衝撃性誘電率などの基本特性を評価し市販の各種ポリマーと

の位置づけを明確にした図7に示すように耐熱性に優れしかも誘電率<3である樹脂はPPE

ナノアロイのみである特にPPEナノアロイはスーパーエンプラ並みの耐熱性示し低誘電率

でありそのうえ価格がスーパーエンプラの数分の一以下である(表1)ことから工業的に適

用範囲が広いものと考えられる

0

50

100

150

200

250

0 1 2 3 4 5

Dielectric constant (1 KHz)

HD

T(o

C)

PPE

PTFEPE

PES

PEI

PVC

PSU

POM

PC PPS

PA6

PBT

PPEPS

70

90

110

130

150

170

190

0 10 20 30 40 50 60 70

HD

T [1

85k

gmiddotf]

(ordmC

)

Impact strength [IzodNotched] (kgmiddotcmcm)

PPE

PPS

PC (14)

PPEHIPSPOM

PBTPA6

ABS

PC (18)

EGMA5EGMA30

図7 PPEナノアロイの物性の位置づけ

EGMA5

EGMA30

表1 PPEナノアロイとスーパーエンプラとの比較

240230220210200

70 hours301020

Heat flow

mW

02 04

0

2000

4000

6000

8000

quench

Inte

nsity

2θ ( o )

2h 70h

200ordmC physical aging

産総研との連携研究成果

Physical aging 時間とDSC曲線 Physical aging 時間と小角X線

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―95

PSU PES PEI PPS PPE alloy HDT (˚C)1 174 200 198 100~135 181 Izod (kgmiddotcmcm)2 5~7 7 5~7 3 20 Tensile strength (kgcm2) 710~810 810 1070 490~870 640 Elongation at break ()

Dielectric constant3

50~100

31

6~80

35

60

32

1~6

36

100 26

1)185kgf 2)notched 3)1kHz PPEナノアロイの組成(EGMA含量)と物性の相関を図8に示すEGMA含量が30になるとPPE

ナノアロイの流動性が急速に向上するTEM によるモルフォロジー的検討からEGMA30のアロ

イではドメインが強く配向した相構造を形成するのがわかった一方EGMA 量が増加してもア

ロイの耐熱性はあまり低下しない PPEナノアロイの用途の要求特性に応じてアロイの組成を

決定することが必要である

0

10

20

30

0 10 20 30

EGMA content (wt)

MFR(2

80

)

流動性急向上

HD

T(

185

kgL

)

100

200

Izod

Imp

act

(k

gf

cmcm2)

60

20

40

0 0

EGMA5 EGMA30

TEM像

Scale500nm

図8 PPEナノアロイの組成と特性

⑥ 成形加工基本技術の確立

プロジェクトにおいては得られたPPEナノアロイの成形加工の基礎検討も推進した

PPEナノアロイをTダイ成膜法によってフィルム化を試み厚さ20~40μmの外観良好なフィ

ルムを得ることが出来たさらに得られたPPEナノアロイフィルムを銅スパッタリングしたのち

めっきエッチング処理することで基本的回路基板を作製することができた

さらにPPEナノアロイの射出成形品押し出し成形品ケーブル成形品繊維および繊維

を使用した不織布などの成形加工にも成功した(図9)

これらの事実はPPEナノアロイが各種の成形加工に適合することを意味するものである従来

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―96

PPE単体を連続相とする樹脂の成形加工は極めて困難とされていたが本プロジェクトにおいて

そのナノアロイ化により各種の成形加工品へ展開できることが明らかにされた意義は大きいも

のがある

銅スパッタリングフィルム 回路

フィルム

射出成形品

押 し 出 し 成 形 品 繊維不織布

図9 PPEナノアロイの各種成形品

ケーブル

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―97

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 8件 2件 1件

特 許

(海外) ― ― ―

試 料

提 供 2件(2社) 2件(2社) 3件(2社)

展示プ

レス発表

10件(内新聞発表2件) 3件 3件

論 文 ― ― ―

2004年 3月 5日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」

2004年 5月 12日 日刊工業新聞「高耐熱のPPEアロイ開発」

(6)特記事項

なし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
            • 業務の高度化等の自己改革を促進する
              • 評価書
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                  • 評価書
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                      • 評価書
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Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―92

PPEEGMA=8020

0

5

10

0 500 1000 1500 2000Mixing time (s)

ΔP

(Pa)

times10

-6

PPELLDPE=8020

0

5

10

0 500 1000 1500 2000Mixing time (s)

ΔP

(Pa)

times10

-6

290ordmC 50rpm

図1 混練時間による溶融粘度変化

さらに東工大の連携チームは原料PPEEGMAおよび PPE ナノアロイの溶液 1H‐NMR 測定を行

い押出し機内でのPPEと EGMAとの反応はPPEの OHと EGMAのエポキシ基との反応によること

EGMAのエポキシ基の約30が PPEと結合していることを明らかにした

東工大 との連携研究成果

PPEEGMA=7030系のNMRによる解析

O H

n

co

COOco

CO2Mex y zO

+ O O

n-1

OH

EGMA

EGMAPPE

エポキシ環の減少量PPEのOHの減少量から反応率を

推定反応生成物のピークを確認

リアクティブプロセッシング

リアクティブプロセッシングによる反応生起を確認

ppm1H NMR スペクトル

PPE

EGMA

PPE-EGMA

新しく出現したシグナル(反応性物による)

PPEのOH(30減少)

エポキシ環(30減少)シグ

ナル

EGMAのエポキシ基の~30がPPEと結合している

② PPEナノアロイのナノ構造解析

京工大連携チームがPPE ナノアロイに関して三次元透過型電子顕微鏡像(TEM3-d TEM)解

析を行った結果を図 3に示す アロイのドメインが図の中心にあり界面で PPEEGMA の反応生

成物である約10nm径のナノ粒子が形成され溶融混練に伴いナノ粒子がEGMA内部へ移行したこ

とが分かる このようなナノ粒子はドメイン中で立体的に配列している これはエンプラアロ

図2 1H-NMRによるPPEナノアロイの構造解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―93

イとして初めてそのナノ構造を三次元的に把握した画像である さらに東工大連携チームは

PPE ナノアロイの粘弾性マッピング解析を行いPPE 相とドメインとの接着性が良好であることを

明らかにした

( 3D-TEM評価

連携 京工繊大との成果 core-shell salami model

CoreEGMA domain

(10nm)In PPE

ShellPPE domain (5nm)

In EGMA

(PPEEGMA=955)

100 nm

エンプラアロイのナノ粒子を初めて確認

図3 PPEナノアロイの三次元透過型電子顕微鏡像

③ PPEナノアロイの変形機構

PPEHIPS ブレンド物においては衝撃試験後には(図 4)多数のクレーズが系内に発生するこ

とが知られている ところがPPEナノアロイにおいては図5に示すように衝撃試験後に

もクレーズシェアバンドなどが認められずドメイン中にキャビテーションが発生している

即ちPPEナノアロイは非晶マトリックスが均一変形するという従来の樹脂にない特異な変形

挙動を示すことが分かった

④ PPEナノアロイのPhysical Agingの効果

PPE ナノアロイはハロゲン系溶媒などへの耐薬品性に問題があった しかしPPE ナノアロ

イをTg付近でPhysical AgingすることによりPPEナノアロイの耐薬品性が著しく向上した産

総研の連携チームがPhysical Aging後のPPEナノアロイのDSC測定小角X線解析を行い(図

6)Physical AgingによりPPEナノアロイ中に数百Å径の高次構造が新たに形成されその結果

200nm200nm200nm200nm図4 PPEHIPSの TEM像

(衝撃試験後) 図5 PPEナノアロイのTEM像

(衝撃試験後)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―94

PPEナノアロイの耐薬品性が向上することを明らかにした

図6 Physical agingによるPPEナノアロイの構造変化

⑤ PPEナノアロイの基本特性

PPE ナノアロイの耐熱性耐衝撃性誘電率などの基本特性を評価し市販の各種ポリマーと

の位置づけを明確にした図7に示すように耐熱性に優れしかも誘電率<3である樹脂はPPE

ナノアロイのみである特にPPEナノアロイはスーパーエンプラ並みの耐熱性示し低誘電率

でありそのうえ価格がスーパーエンプラの数分の一以下である(表1)ことから工業的に適

用範囲が広いものと考えられる

0

50

100

150

200

250

0 1 2 3 4 5

Dielectric constant (1 KHz)

HD

T(o

C)

PPE

PTFEPE

PES

PEI

PVC

PSU

POM

PC PPS

PA6

PBT

PPEPS

70

90

110

130

150

170

190

0 10 20 30 40 50 60 70

HD

T [1

85k

gmiddotf]

(ordmC

)

Impact strength [IzodNotched] (kgmiddotcmcm)

PPE

PPS

PC (14)

PPEHIPSPOM

PBTPA6

ABS

PC (18)

EGMA5EGMA30

図7 PPEナノアロイの物性の位置づけ

EGMA5

EGMA30

表1 PPEナノアロイとスーパーエンプラとの比較

240230220210200

70 hours301020

Heat flow

mW

02 04

0

2000

4000

6000

8000

quench

Inte

nsity

2θ ( o )

2h 70h

200ordmC physical aging

産総研との連携研究成果

Physical aging 時間とDSC曲線 Physical aging 時間と小角X線

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―95

PSU PES PEI PPS PPE alloy HDT (˚C)1 174 200 198 100~135 181 Izod (kgmiddotcmcm)2 5~7 7 5~7 3 20 Tensile strength (kgcm2) 710~810 810 1070 490~870 640 Elongation at break ()

Dielectric constant3

50~100

31

6~80

35

60

32

1~6

36

100 26

1)185kgf 2)notched 3)1kHz PPEナノアロイの組成(EGMA含量)と物性の相関を図8に示すEGMA含量が30になるとPPE

ナノアロイの流動性が急速に向上するTEM によるモルフォロジー的検討からEGMA30のアロ

イではドメインが強く配向した相構造を形成するのがわかった一方EGMA 量が増加してもア

ロイの耐熱性はあまり低下しない PPEナノアロイの用途の要求特性に応じてアロイの組成を

決定することが必要である

0

10

20

30

0 10 20 30

EGMA content (wt)

MFR(2

80

)

流動性急向上

HD

T(

185

kgL

)

100

200

Izod

Imp

act

(k

gf

cmcm2)

60

20

40

0 0

EGMA5 EGMA30

TEM像

Scale500nm

図8 PPEナノアロイの組成と特性

⑥ 成形加工基本技術の確立

プロジェクトにおいては得られたPPEナノアロイの成形加工の基礎検討も推進した

PPEナノアロイをTダイ成膜法によってフィルム化を試み厚さ20~40μmの外観良好なフィ

ルムを得ることが出来たさらに得られたPPEナノアロイフィルムを銅スパッタリングしたのち

めっきエッチング処理することで基本的回路基板を作製することができた

さらにPPEナノアロイの射出成形品押し出し成形品ケーブル成形品繊維および繊維

を使用した不織布などの成形加工にも成功した(図9)

これらの事実はPPEナノアロイが各種の成形加工に適合することを意味するものである従来

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―96

PPE単体を連続相とする樹脂の成形加工は極めて困難とされていたが本プロジェクトにおいて

そのナノアロイ化により各種の成形加工品へ展開できることが明らかにされた意義は大きいも

のがある

銅スパッタリングフィルム 回路

フィルム

射出成形品

押 し 出 し 成 形 品 繊維不織布

図9 PPEナノアロイの各種成形品

ケーブル

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―97

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 8件 2件 1件

特 許

(海外) ― ― ―

試 料

提 供 2件(2社) 2件(2社) 3件(2社)

展示プ

レス発表

10件(内新聞発表2件) 3件 3件

論 文 ― ― ―

2004年 3月 5日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」

2004年 5月 12日 日刊工業新聞「高耐熱のPPEアロイ開発」

(6)特記事項

なし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 4: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―93

イとして初めてそのナノ構造を三次元的に把握した画像である さらに東工大連携チームは

PPE ナノアロイの粘弾性マッピング解析を行いPPE 相とドメインとの接着性が良好であることを

明らかにした

( 3D-TEM評価

連携 京工繊大との成果 core-shell salami model

CoreEGMA domain

(10nm)In PPE

ShellPPE domain (5nm)

In EGMA

(PPEEGMA=955)

100 nm

エンプラアロイのナノ粒子を初めて確認

図3 PPEナノアロイの三次元透過型電子顕微鏡像

③ PPEナノアロイの変形機構

PPEHIPS ブレンド物においては衝撃試験後には(図 4)多数のクレーズが系内に発生するこ

とが知られている ところがPPEナノアロイにおいては図5に示すように衝撃試験後に

もクレーズシェアバンドなどが認められずドメイン中にキャビテーションが発生している

即ちPPEナノアロイは非晶マトリックスが均一変形するという従来の樹脂にない特異な変形

挙動を示すことが分かった

④ PPEナノアロイのPhysical Agingの効果

PPE ナノアロイはハロゲン系溶媒などへの耐薬品性に問題があった しかしPPE ナノアロ

イをTg付近でPhysical AgingすることによりPPEナノアロイの耐薬品性が著しく向上した産

総研の連携チームがPhysical Aging後のPPEナノアロイのDSC測定小角X線解析を行い(図

6)Physical AgingによりPPEナノアロイ中に数百Å径の高次構造が新たに形成されその結果

200nm200nm200nm200nm図4 PPEHIPSの TEM像

(衝撃試験後) 図5 PPEナノアロイのTEM像

(衝撃試験後)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―94

PPEナノアロイの耐薬品性が向上することを明らかにした

図6 Physical agingによるPPEナノアロイの構造変化

⑤ PPEナノアロイの基本特性

PPE ナノアロイの耐熱性耐衝撃性誘電率などの基本特性を評価し市販の各種ポリマーと

の位置づけを明確にした図7に示すように耐熱性に優れしかも誘電率<3である樹脂はPPE

ナノアロイのみである特にPPEナノアロイはスーパーエンプラ並みの耐熱性示し低誘電率

でありそのうえ価格がスーパーエンプラの数分の一以下である(表1)ことから工業的に適

用範囲が広いものと考えられる

0

50

100

150

200

250

0 1 2 3 4 5

Dielectric constant (1 KHz)

HD

T(o

C)

PPE

PTFEPE

PES

PEI

PVC

PSU

POM

PC PPS

PA6

PBT

PPEPS

70

90

110

130

150

170

190

0 10 20 30 40 50 60 70

HD

T [1

85k

gmiddotf]

(ordmC

)

Impact strength [IzodNotched] (kgmiddotcmcm)

PPE

PPS

PC (14)

PPEHIPSPOM

PBTPA6

ABS

PC (18)

EGMA5EGMA30

図7 PPEナノアロイの物性の位置づけ

EGMA5

EGMA30

表1 PPEナノアロイとスーパーエンプラとの比較

240230220210200

70 hours301020

Heat flow

mW

02 04

0

2000

4000

6000

8000

quench

Inte

nsity

2θ ( o )

2h 70h

200ordmC physical aging

産総研との連携研究成果

Physical aging 時間とDSC曲線 Physical aging 時間と小角X線

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―95

PSU PES PEI PPS PPE alloy HDT (˚C)1 174 200 198 100~135 181 Izod (kgmiddotcmcm)2 5~7 7 5~7 3 20 Tensile strength (kgcm2) 710~810 810 1070 490~870 640 Elongation at break ()

Dielectric constant3

50~100

31

6~80

35

60

32

1~6

36

100 26

1)185kgf 2)notched 3)1kHz PPEナノアロイの組成(EGMA含量)と物性の相関を図8に示すEGMA含量が30になるとPPE

ナノアロイの流動性が急速に向上するTEM によるモルフォロジー的検討からEGMA30のアロ

イではドメインが強く配向した相構造を形成するのがわかった一方EGMA 量が増加してもア

ロイの耐熱性はあまり低下しない PPEナノアロイの用途の要求特性に応じてアロイの組成を

決定することが必要である

0

10

20

30

0 10 20 30

EGMA content (wt)

MFR(2

80

)

流動性急向上

HD

T(

185

kgL

)

100

200

Izod

Imp

act

(k

gf

cmcm2)

60

20

40

0 0

EGMA5 EGMA30

TEM像

Scale500nm

図8 PPEナノアロイの組成と特性

⑥ 成形加工基本技術の確立

プロジェクトにおいては得られたPPEナノアロイの成形加工の基礎検討も推進した

PPEナノアロイをTダイ成膜法によってフィルム化を試み厚さ20~40μmの外観良好なフィ

ルムを得ることが出来たさらに得られたPPEナノアロイフィルムを銅スパッタリングしたのち

めっきエッチング処理することで基本的回路基板を作製することができた

さらにPPEナノアロイの射出成形品押し出し成形品ケーブル成形品繊維および繊維

を使用した不織布などの成形加工にも成功した(図9)

これらの事実はPPEナノアロイが各種の成形加工に適合することを意味するものである従来

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―96

PPE単体を連続相とする樹脂の成形加工は極めて困難とされていたが本プロジェクトにおいて

そのナノアロイ化により各種の成形加工品へ展開できることが明らかにされた意義は大きいも

のがある

銅スパッタリングフィルム 回路

フィルム

射出成形品

押 し 出 し 成 形 品 繊維不織布

図9 PPEナノアロイの各種成形品

ケーブル

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―97

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 8件 2件 1件

特 許

(海外) ― ― ―

試 料

提 供 2件(2社) 2件(2社) 3件(2社)

展示プ

レス発表

10件(内新聞発表2件) 3件 3件

論 文 ― ― ―

2004年 3月 5日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」

2004年 5月 12日 日刊工業新聞「高耐熱のPPEアロイ開発」

(6)特記事項

なし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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              • 評価書
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Page 5: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―94

PPEナノアロイの耐薬品性が向上することを明らかにした

図6 Physical agingによるPPEナノアロイの構造変化

⑤ PPEナノアロイの基本特性

PPE ナノアロイの耐熱性耐衝撃性誘電率などの基本特性を評価し市販の各種ポリマーと

の位置づけを明確にした図7に示すように耐熱性に優れしかも誘電率<3である樹脂はPPE

ナノアロイのみである特にPPEナノアロイはスーパーエンプラ並みの耐熱性示し低誘電率

でありそのうえ価格がスーパーエンプラの数分の一以下である(表1)ことから工業的に適

用範囲が広いものと考えられる

0

50

100

150

200

250

0 1 2 3 4 5

Dielectric constant (1 KHz)

HD

T(o

C)

PPE

PTFEPE

PES

PEI

PVC

PSU

POM

PC PPS

PA6

PBT

PPEPS

70

90

110

130

150

170

190

0 10 20 30 40 50 60 70

HD

T [1

85k

gmiddotf]

(ordmC

)

Impact strength [IzodNotched] (kgmiddotcmcm)

PPE

PPS

PC (14)

PPEHIPSPOM

PBTPA6

ABS

PC (18)

EGMA5EGMA30

図7 PPEナノアロイの物性の位置づけ

EGMA5

EGMA30

表1 PPEナノアロイとスーパーエンプラとの比較

240230220210200

70 hours301020

Heat flow

mW

02 04

0

2000

4000

6000

8000

quench

Inte

nsity

2θ ( o )

2h 70h

200ordmC physical aging

産総研との連携研究成果

Physical aging 時間とDSC曲線 Physical aging 時間と小角X線

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―95

PSU PES PEI PPS PPE alloy HDT (˚C)1 174 200 198 100~135 181 Izod (kgmiddotcmcm)2 5~7 7 5~7 3 20 Tensile strength (kgcm2) 710~810 810 1070 490~870 640 Elongation at break ()

Dielectric constant3

50~100

31

6~80

35

60

32

1~6

36

100 26

1)185kgf 2)notched 3)1kHz PPEナノアロイの組成(EGMA含量)と物性の相関を図8に示すEGMA含量が30になるとPPE

ナノアロイの流動性が急速に向上するTEM によるモルフォロジー的検討からEGMA30のアロ

イではドメインが強く配向した相構造を形成するのがわかった一方EGMA 量が増加してもア

ロイの耐熱性はあまり低下しない PPEナノアロイの用途の要求特性に応じてアロイの組成を

決定することが必要である

0

10

20

30

0 10 20 30

EGMA content (wt)

MFR(2

80

)

流動性急向上

HD

T(

185

kgL

)

100

200

Izod

Imp

act

(k

gf

cmcm2)

60

20

40

0 0

EGMA5 EGMA30

TEM像

Scale500nm

図8 PPEナノアロイの組成と特性

⑥ 成形加工基本技術の確立

プロジェクトにおいては得られたPPEナノアロイの成形加工の基礎検討も推進した

PPEナノアロイをTダイ成膜法によってフィルム化を試み厚さ20~40μmの外観良好なフィ

ルムを得ることが出来たさらに得られたPPEナノアロイフィルムを銅スパッタリングしたのち

めっきエッチング処理することで基本的回路基板を作製することができた

さらにPPEナノアロイの射出成形品押し出し成形品ケーブル成形品繊維および繊維

を使用した不織布などの成形加工にも成功した(図9)

これらの事実はPPEナノアロイが各種の成形加工に適合することを意味するものである従来

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―96

PPE単体を連続相とする樹脂の成形加工は極めて困難とされていたが本プロジェクトにおいて

そのナノアロイ化により各種の成形加工品へ展開できることが明らかにされた意義は大きいも

のがある

銅スパッタリングフィルム 回路

フィルム

射出成形品

押 し 出 し 成 形 品 繊維不織布

図9 PPEナノアロイの各種成形品

ケーブル

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―97

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 8件 2件 1件

特 許

(海外) ― ― ―

試 料

提 供 2件(2社) 2件(2社) 3件(2社)

展示プ

レス発表

10件(内新聞発表2件) 3件 3件

論 文 ― ― ―

2004年 3月 5日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」

2004年 5月 12日 日刊工業新聞「高耐熱のPPEアロイ開発」

(6)特記事項

なし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
            • 業務の高度化等の自己改革を促進する
              • 評価書
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                  • 評価書
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                      • 評価書
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Page 6: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―95

PSU PES PEI PPS PPE alloy HDT (˚C)1 174 200 198 100~135 181 Izod (kgmiddotcmcm)2 5~7 7 5~7 3 20 Tensile strength (kgcm2) 710~810 810 1070 490~870 640 Elongation at break ()

Dielectric constant3

50~100

31

6~80

35

60

32

1~6

36

100 26

1)185kgf 2)notched 3)1kHz PPEナノアロイの組成(EGMA含量)と物性の相関を図8に示すEGMA含量が30になるとPPE

ナノアロイの流動性が急速に向上するTEM によるモルフォロジー的検討からEGMA30のアロ

イではドメインが強く配向した相構造を形成するのがわかった一方EGMA 量が増加してもア

ロイの耐熱性はあまり低下しない PPEナノアロイの用途の要求特性に応じてアロイの組成を

決定することが必要である

0

10

20

30

0 10 20 30

EGMA content (wt)

MFR(2

80

)

流動性急向上

HD

T(

185

kgL

)

100

200

Izod

Imp

act

(k

gf

cmcm2)

60

20

40

0 0

EGMA5 EGMA30

TEM像

Scale500nm

図8 PPEナノアロイの組成と特性

⑥ 成形加工基本技術の確立

プロジェクトにおいては得られたPPEナノアロイの成形加工の基礎検討も推進した

PPEナノアロイをTダイ成膜法によってフィルム化を試み厚さ20~40μmの外観良好なフィ

ルムを得ることが出来たさらに得られたPPEナノアロイフィルムを銅スパッタリングしたのち

めっきエッチング処理することで基本的回路基板を作製することができた

さらにPPEナノアロイの射出成形品押し出し成形品ケーブル成形品繊維および繊維

を使用した不織布などの成形加工にも成功した(図9)

これらの事実はPPEナノアロイが各種の成形加工に適合することを意味するものである従来

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―96

PPE単体を連続相とする樹脂の成形加工は極めて困難とされていたが本プロジェクトにおいて

そのナノアロイ化により各種の成形加工品へ展開できることが明らかにされた意義は大きいも

のがある

銅スパッタリングフィルム 回路

フィルム

射出成形品

押 し 出 し 成 形 品 繊維不織布

図9 PPEナノアロイの各種成形品

ケーブル

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―97

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 8件 2件 1件

特 許

(海外) ― ― ―

試 料

提 供 2件(2社) 2件(2社) 3件(2社)

展示プ

レス発表

10件(内新聞発表2件) 3件 3件

論 文 ― ― ―

2004年 3月 5日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」

2004年 5月 12日 日刊工業新聞「高耐熱のPPEアロイ開発」

(6)特記事項

なし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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Page 7: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―96

PPE単体を連続相とする樹脂の成形加工は極めて困難とされていたが本プロジェクトにおいて

そのナノアロイ化により各種の成形加工品へ展開できることが明らかにされた意義は大きいも

のがある

銅スパッタリングフィルム 回路

フィルム

射出成形品

押 し 出 し 成 形 品 繊維不織布

図9 PPEナノアロイの各種成形品

ケーブル

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―97

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 8件 2件 1件

特 許

(海外) ― ― ―

試 料

提 供 2件(2社) 2件(2社) 3件(2社)

展示プ

レス発表

10件(内新聞発表2件) 3件 3件

論 文 ― ― ―

2004年 3月 5日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」

2004年 5月 12日 日刊工業新聞「高耐熱のPPEアロイ開発」

(6)特記事項

なし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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Page 8: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―97

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 8件 2件 1件

特 許

(海外) ― ― ―

試 料

提 供 2件(2社) 2件(2社) 3件(2社)

展示プ

レス発表

10件(内新聞発表2件) 3件 3件

論 文 ― ― ―

2004年 3月 5日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」

2004年 5月 12日 日刊工業新聞「高耐熱のPPEアロイ開発」

(6)特記事項

なし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 9: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―98

Ⅲ-24 表面構造制御による高性能高機能材料の開発(九州大学集中研)

(1) 集中研の基本概念

研究目的と基本原理種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評

価に基づき接着性制御技術超撥水撥油表面の創製など表面高機能材料を開発することを目

的とする

基盤技術要素技術高分子固体の表面構造制御表面構造解析表面ナノレオロジー特性解

析に関して本集中研において独創的な研究成果の蓄積がありこれらの基盤技術に基づき表面高

機能材料の開発をおこなう表面ナノレオロジー特性解析に関しては走査粘弾性顕微鏡測定と斜

め切削技術接着性制御技術に関しては表面脆弱層(WBL)への表面処理技術の適用超撥水撥油

表面の創製では表面ナノ形状の賦与と表面への疎水性基の配向が要素技術である

(2) 実用化テーマへの展開

種々の高分子材料の表面構造制御表面構造解析表面ダイナミクス評価に基づき接着性制御

技術超撥水撥油表面などの機能性表面の創製を行った本研究で確立した走査フォース顕微

鏡を用いた粘弾性特性評価技術は局所領域の凝集構造と分子運動性の解析を可能としそ

の技術は様々な企業での実用材料の表面物性解析に利用されている接着制御技術では表面

WBL 層の除去が技術を確立し車載部品の接着技術への応用へ展開している超撥水撥油表面

の創製では表面ナノ構造と表面フルオロアルキル化により対水接触角 149deg対ドデカン接触角

139degの撥水撥油防汚性に優れた実用性の高い表面処理技術へ展開している

研究題目①「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究

(b)光電子材料の研究

集中研テーマ名 実施場所

表面構造制御による高性能高機能材料の開発 九大集中研

デンソー 接着制御技術の開発

最終目標

(自動車部品における)

接着信頼性向上

接着寿命向上

製品適用

日油 超撥水超撥油性材料の開発

最終目標

超撥水性

接触角(水)>170 deg

超撥油性

接触角(ドデカン)>140 deg

材料技術

微細加工技術

構造解析制御技術 構造解析制御技術

九州大学集中研 表面界面構造解析制御技術

SVM LFM SAICAS nano-TA GIXD EFTEM XCT

九大東洋紡績 京工繊大産総研(連携)

共通基盤技術開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 10: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―99

Ⅲ―241 超撥水超撥油性材料の開発

(1)背景目的等

自動車分野建築分野において撥水撥油性を持つ材料が使用されているしかし性能におい

て必ずしも満足のできるものではなくまた透明性が無いため用途も限定されている

本研究において従来材料では達成されない超撥水超撥油表面を構築することを目的とする

とともに超撥水超撥油性を有する透明性の高い塗膜の開発を目的とするまた本研究の最終目

標値が達成されれば既存の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機能を備えた処理剤としても幅広い

用途に適用可能となる

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

表面構造(物理的形状及び化学的性状)をナノ

レベルで制御することにより従来では達成さ

れていない最高レベルの超撥水超撥油性を発

現させ住設自動車等々の超撥水超撥油が

望まれる各種部材へ応用が可能となるコーテ

ィング剤またはコーティング部材を開発する

超撥水性接触角≧170deg(対水)

超撥油性接触角≧140deg(対ドデカン)

従来材料では達成されていない最高レベルを

目指すこのレベルの表面濡れ特性を達成するこ

とで従来の撥水撥油剤の枠を超えて防汚機

能を兼ね備えた処理剤として幅広い用途に適用

可能であるさらに既存製品の高付加価値化に

つながる

達 成 度

①最終目標に対する達成度()

超撥水性能水に対する接触角149degを達成(事業原簿PⅢ―101)

目標値は170degであるが水滴は転がり付着しないため実質的に目標を達成した

超撥油性能最適な凹凸パターン上に開発した超撥水材料を塗布しドデカンに対する接触

角139degを達成(事業原簿PⅢ―101102)

②実用化に向けての達成度

超撥水性能を低コストで実現する方法を開発した(事業原簿PⅢ―101)

高透明(ヘイズ値44)な超撥水フィルムの開発に成功した(事業原簿PⅢ―101)

超撥水材料については現在社内に持ち帰り担当部署で実用化に向けて検討中

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光電子材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

超撥水超撥油性材料の開発 JCII(日油)

<九州大学>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 11: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―100

(3) 研究開発計画課題

年度 H13-16年 H17年 H18年 H19年 終了後

年度目標 水の接触角>130deg

ドデカンの接触角>90deg

水の接触角≧170deg

高透明かつ安価な方法により生産可能な超撥水塗膜

ドデカンの接触角

≧140deg

年度別目標達成度

(times)

(実質的に水滴が付着しない)

実用化に

向け個別

の材料に

ついて最

適化検討

を行い撥

水撥油性

コーティ

ング部材

として広

く社会に

還元する

フッ素系ブロック共重合体による高撥水撥油表面構築

(1)基本材料開発

(連携研究)

①表面分子鎖凝集構

造制御

②表面形態評価制御

(2)超撥水性材料

①実用化技術の開発

②ユーザー評価

(3)超撥油性材料

①性能向上

②実用化技術の開発

ゾルゲル技術を利用した超

撥水高撥油表面構築

モデル表面による撥油性極限値の

見極め(パターニングの最適化)

超撥油表面の実用化材

料への適用検討

塗工技術検討

ユーザーでの評価と改良

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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              • 評価書
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                  • 評価書
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                      • 評価書
                        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
Page 12: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―101

(4)研究開発成果

1基本材料の開発(主として前半の成果)

H13-14年度までにパーフルオロアルキル基の分子鎖凝集構造

と撥水撥油特性の関係について詳細に検討を行ったその結果

接触角ヒステリシス(前進接触角と後退接触角の差で表されこの

差が小さいほど安定な撥水撥油表面が形成されていることを示

している)の点で既存品性能を大きく上回るブロック共重合体組

成の最適化を行うことができた

H15-16 年度はゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子及び

フッ素系シランカップリング剤を分散し製膜を行った表面は

透明性を維持しており図1に示すようにコロイダルシ

リカ添加量 20-60の範囲で水に対する接触角は 149 度ドデカンに対する接触角は 110 度(コロ

イダルシリカを添加しない場合の接触角はそれぞれ100度と70度)と超撥水高撥油表面を構築

することができたまた本塗膜はヘイズが 44と透明性が高い事から本塗膜が形成される

物品の意匠性において有利となる

2超撥水性材料の開発

①実用化技術の開発

超撥水材料を実用化するために量産化を考慮する必要がある基礎検討ではスピンコーティ

ング法にて最適化を行ってきたしかしながら本方法であると連続生産ができず製造方法に

制限がありまたコストもかかってしまうそこで生産性向上並びにコスト低減の観点より塗

工方法について諸種の検討を行いスピンコートでの組成を若干変更することで実用的な連続塗

工方法の可能性を見出した

②ユーザー評価状況および開発材料の位置づけ

超撥水技術については数社より問い合わせがありそのうち一件に対して対応先方での一次

評価は良好

3超撥油性材料の開発

①表面パターニング最適化検討

超撥油表面構築及びその実用化検討を行った1stステ

ップとしてモデル的に形成した凹凸形状を作製しその

表面の疎水処理を行うことで撥油特性に及ぼす凹凸形

状の影響について詳細に検討した使用した凹凸パター

ンを図2に示す表面疎水化はCVD法によるフッ素コー

ティング処理超撥水塗料をコーティングしたコロイダ

ルシリカコーティング処理により行ったその結果高

撥油特性を示す形状及びその表面処理方法が明確となっ

た図3に凹凸間隔(b値)と接触角の関係を示すb=20

図 1 撥水処理した PET フィルム

上の水滴

図 2 凹凸パターン

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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                  • 評価書
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                      • 評価書
                        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
Page 13: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―102

μmコロイダルシリカコーティング処理で対ドデカン接触角として139degを達成できた図4

にモデル図を示すコロイダルシリカコーティングにより凹部にドデカンが浸入しないために

高い接触角となったと考える

4連携研究

連携先である九州大学及び東洋紡グルー

プが確立した表面界面ナノレオロジー解析

手法が撥水撥油表面の熱安定性評価に利

用できることを確認したさらに本プロジ

ェクトにより開発した超撥水表面に本評価手

法を適用することによりその熱安定性を評

価することができたこのことは実用化を

推進するに当たりユーザーに対して大きな

アピールポイントになると考えられるまた

連携先保有のナノレベル微細加工技術を適用

することで従来解明されていない表面形態

と撥油性能との関係を明らかにできると考え

ている

九州大学 高原研究室の合成技術を利用す

ることで高純度(異性体を含まない)フッ素

系シランカップリング剤の合成に成功した

本シラン化合物を撥水性材料に適用すること

ができた一方で随時ディスカッションを行い研究の方向修正及び最新の技術情報提供を

受けている

図 4 超撥油表面モデル図

フッ素コーティング処理

コロイダルシリカコーティング処理

水 C12

図 3 凹凸ピッチ間距離と

撥水撥油性の関係

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
            • 業務の高度化等の自己改革を促進する
              • 評価書
                • 業務の高度化等の自己改革を促進する
                  • 評価書
                    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
                      • 評価書
                        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
Page 14: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―103

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内) 2 1 - -

特 許

(海外) - - - -

試 料

提 供 1 - - -

展示プレス

発表等 3 1 1 1

論 文 3 - - 1(2)

注) ()内の数値は投稿審査中または投稿準備中の論文数

(6)特記事項

特になし

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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Page 15: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―104

Ⅲ―242 接着性制御技術の開発

(1)背景目的等

近年の自動車業界では燃費向上のための部品の小型化や排ガス抑制のためのエレクトロニク

ス化が進展しているこれに伴い使用される材料は金属から樹脂に変わりエレクトロニクス部

品は小型高密度化が進み接合方法は従来の金属接合か

ら接着接合に変わりつつある

一方自動車部品は高度の信頼性が要求され接着接

合においては初期の接着強度と長期寿命の両者が必要と

なる(図1参照)しかし接着性能に対するユーザー

の高い信頼を得るにはこれまでの技術的経験の積み重ね

だけでは不十分であり明確な科学的計測に裏付けられ

た証拠を提示していくことが不可欠である最近になってこれまで困難とされた表面界面のナ

ノメートルオーダーの構造解析に関する科学技術が著しく進歩して接着技術を科学的解明できる

ようになり特に九州大学では世界に先駆けて表面界面構造の解析表面構造制御技術につい

て独自の高い研究成果を挙げてきた

このような背景のもと本研究では九州大学での研究成果を基盤として高分子材料の接着性発

現に必要な表面構造と表面分子運動との関係を明らかにしまたこれらの特性と接着耐久性

化学的特性機械的特性の関係を解明することを目的とするその成果に基づいて市場における

高い信頼を獲得しつつ自動車部品の接合を金属接合から接着接合へと変換し接着プロセスの改

革も含めて大規模な省エネルギーを実現できると期待している

用いる材料は被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)接着剤としてエポキシを選択

したこれらは自動車用接着部品にもっとも多く使用される組み合わせであるまたPBTは成型

後接着前に歪みを低減し寸法安定性を向上する目的でガラス転移点以上の温度で熱処理を行う

がこのときエポキシ接着剤との接着性が低下するという課題がありその原因解明と対策が急務

であったそこで本プロジェクトでは分子レベルでの被着体表面の構造物性解析により熱処理

に伴う接着性能低下のメカニズムを解明しそれに基づく新しい接着性制御技術の開発を目指し

研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a) 構造材料の研究

テーマ名 実施先

<共同研究実施先>

接着性制御技術の開発 JCII(デンソー)

<九大京工大産総研>

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

時間

接着部破壊

接着強度

樹脂劣化

凝集破壊

界面剥離

界面部破壊

接着性制御

高信頼性長寿命

寿命向上(12年16万km)

自動車

図1自動車用途の信頼性

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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Page 16: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―105

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子表面および界面の構造と物性を垂直方向(Z

軸)に10nmオーダでかつ水平方向(XY軸)に

100nm オーダの空間分解能で解析可能な手法を構造

評価技術研究チームとの連携により確立する本技

術を用いて高分子の接着性発現メカニズムを解析

し接着信頼性と化学的特性機械的特性の関係を

明らかにするさらに接着耐久性について接着寿命

を定量化し本接着信頼性技術の実用化を目指す

樹脂の接着において従来行っていたミクロ

ンオーダでの解析では不十分でありまた

樹脂の表面とバルクで物性が異なる報告が

されたことからナノオーダの解析手法の確

立を設定したまた実用化に伴い製品寿命

までに受ける熱負荷を積算しArrhenius

則の適用による劣化速度の見積と CAE 解析

による強度見積から接着強度の目標値を設

定した

達 成 度

① 最終目標に対する達成度()

SPMXPSGIXDTEM-EELS 等の解析手法を適用することにより最終目標に掲げた空間分解能で

樹脂表面接着界面構造の解析を達成した本手法を用いてポリブチレンテレフタレート(PBT)の

表面凝集構造と接着性の関係を明らかにしたさらに製品の市場寿命を12年16万Kmと設定

して大気圧プラズマにより表面処理された PBT が市場寿命に対して定量的に十分な接着性能を

有することをプラズマ処理表面の構造解析および実用材テストピースを用いた接着強度試験等

から確認した(事業原簿PⅢ―107~113)

②実用化に向けての達成度

大気圧プラズマによる表面処理を自動車用各種部品に適用し接着性向上を確認の上5種のプラ

ズマ処理部品を上市した

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
            • 業務の高度化等の自己改革を促進する
              • 評価書
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                  • 評価書
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                      • 評価書
                        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
Page 17: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―106

(3) 研究開発計画課題

年度 H13minus16年度 H17年度 H18年度 PJ終了後

課題熱処理による

PBTの接着性低下

原因の解明と新規

接着技術の開発

Step 1解析技術の

開発

Step 2表面界面

の構造物性解明

Step 3接着性制御

年度別目標

ナノ解析に基づ

く接着性低下要

因解明

深さ方向20nm

水平方向200nm

の解析技術

WBLの本質解明

接着性制御指針の

確立

深さ方向10nm水

平方向 100nm の解

析技術

信頼性向上技術

市場寿命(12年 16

万 km)対応技術

実製品への適用

年度別目標達成度 (times)

開発した接

着性制御技

術を新規製

品 に 適 用

し自動車

部品の軽量

化による燃

費向上を図

さらに本技

術 を 展 開

し硬化に

おける加熱

工程を削減

することに

よりCO2低

減と省エネ

化を推進す

PBTポリブチレンテレフタレート

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

ーC-

=O

ーC-

= O

-C-O-(CH2)4-Oー

=O

-C-O-(CH2)4-Oー

=

n

Step 1

1表面形態変化

2接着力評価

3界面構造評価

4破面解析 Step 2

1表面結晶性解析

2表面官能基解析

3接着特性

4界面構造解析

5表面改質

Step 3 1接着強度向上 (プラズマ処理)

2寿命向上 (12年 16万 km)

3製品適用

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

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Page 18: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―107

(4)研究開発成果

①Step 1ナノ解析に基づく接着性低下要因解明

PBT を空気中または減圧中 180でアニーリング処理

すると時間に伴って接着強度は低下した(図 2参照)

アニーリング前後でPBTの物性を測定したところ表

面自由エネルギー表面粗さ分子量結晶化度はい

ずれも向上した通常はこれらの物性変化は接着性向

上に有利に働くはずであるが実際に

は接着強度は低下した

アニーリングによる接着性低下

の要因を明らかにするためにまず X

線光電子分光(XPS)法による破面の

解析を行ったPBTのエステル基に由

来するC1sピーク(289eV)およびエポ

キシの硬化剤に由来する N1s ピーク

(399eV)に着目するとエポキシ側か

らは両方のピークがまた PBT 側か

らは 289eV のピークのみが確認され

たこのことは破壊モードが界面破

壊と PBT の凝集破壊の複合破壊であ

ることを示しているまたアニーリン

グ前後で差は見られなかったことから接着強度の低下は

PBT 表面の材料強度が低下したためと考えられる(図3

参照)

さらにAFMにより引張試験後の破面と未接着面との段

差を計測するとアニーリング処理前はほぼ 0nm(界面破

壊)であったがアニーリング処理(減圧下 20 時間)後は

PBT側約4nmで凝集破壊していたことからアニーリング

処理によりPBT表面約 4nmに弱い層いわゆるWBL(Weak boundary layer)層が生成していると考

えられた(図4および図2参照)

②Step 2表面界面の構造物性解明

WBL 層としては低分子物質の表面凝集表面のアモルファス化等が考えられたがアニー

リングによりPBT表面の分子量は大きくなっており低分子物質の表面凝集ではないと考えられ

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

Inte

nsity

a

u

C1S

-C-C-C--O-C-

a) Epoxy side

-CO-O= O=

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

275280285290295300Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

c) PBT side C1S

Inte

nsity

a

u

390395400405410415Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

d) PBT side N1S

Inte

nsity

a

u

Cure agent

Inte

nsity

a

u

N1Sb) Epoxy side

Binding energy eV

1200 min

Annealing0 min

390395400405410415

図3XPS 分析による PBTEpoxy 接着破面の解析

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

アニーリング時間 min

引張

接着

強度

M

Pa

0

1

2

3

4

5

6

7

101 102 103 104

接着力の低下

0

1

2

3

4

5

破壊深さの増加

(38nm)接

着破

壊深

さ 

nm

図2接着強度および接着破壊深さに

およぼすアニーリングの影響

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

相対

高さ

n

m

距離 μm

未接着領域

0

5101520

5 10 15 20

破壊破面

38nm

図4AFM 分析による PBTEpoxy 接

着破面段差の解析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 19: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―108

そこで表面の結晶性を評価するため

SPring-8にて視斜角入射X線回折 (GIXD)

測定を行ったこれはX線をPBT表面で

全反射する角度(約 01 度)で入射しエバ

ネッセント波からの回折を測定することに

より表面約10nmの結晶性評価が可能な手法

である(図5参照)

まず入射角を01度と02度として

表面およびバルクの結晶性を測定した

アニーリングにより表面バルク共に

見かけの結晶化度は向上したが表面

の結晶化度はバルクのそれよりも低く

なっており表面に非晶層が残存して

いることが示唆された(図6参照)

アニーリングによりPBT表面に非晶

層が残存することが示唆されたので

九大との連携により表面界面切削解析

装置(SAICAS)による斜め切削と走査

粘弾性顕微鏡(SVM)による表面および

バルクの弾性率測定を行ったその結

果アニーリング前には表面とバルク

の弾性率に差は見られなかったがア

ニーリング後には表面の弾性率はバル

クよりも低いことが明らかになった

また表面処理(プラズマ処理)後には表面

とバルクの弾性率は同等であることを確認した

すなわちアニーリングにより表面に弾性率の低い

層が生成し表面処理によりその層が分解された

と考えられる(図7参照)

さらに表面PBT分子の配向性を評価した結果

アニーリング処理により(010)面由来の反射が減

少しており結晶の配向性が変化することが明

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

ai

qxy

af

Diffracted X-ray

2θin-plane

Incident X-ray2θout-of-plane

(q = 4πsinθλ)

in-plane測定

out-of-plane測定

図5GIXD 測定の原理

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

a)Original

SVM振幅像

AFM形状像

b)Anneal c)Plasma

20μm

20μm

PBTPBT 振幅像 明高弾性率暗低弾性率

図7PBT 表面の弾性率におよぼすアニーリングとプラズマ

処理の影響(九大との連携成果)

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

非晶由来

surface

bulk

b) Annealingsurface52

bulk57

0 10 20 30

q nm- 1

Inte

nsit

y

a) Originalsurface35

bulk41

surface

bulk

図6GIXD 測定による PBT 表面バルクの結晶化度評価

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

0 10 20 30

q nm-1

Inte

nsi

ty

Original

Annealing

(010)

(100)

図8GIXD 測定による PBT 表面の結

晶配向性評価

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 20: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―109

らかとなった(図8参照)この配向性の変化を

PBTの結晶格子とあわせて解析した結果アニーリ

ング処理前にはPBTのエステル結合のC=O基がPBT

表面に対して垂直になっている結晶と水平な結晶

が混在しているのに対してアニーリング処理後

にはほとんどの結晶分子のC=O基はPBT表面に対

して水平になっており膜内にもぐりこんでいるこ

とが明らかとなった(図9参照)

PBTとエポキシとの接着性はPBT表面に露出し

ているC=O基とエポキシのOH基との間の相互作用

によって生じると考えられXPS測定によるPBT表

面のC=O基濃度と接着性に相関があることを確認し

ている

以上の結果から接着性低下メカニズムを以下の

ように結論づけたすなわちアニーリング処理

前にはPBT表面に露出しているC=O基とエポキシ

の水酸基が相互作用して接着するアニーリング

処理によりPBT全体の結晶性は向上するが表面に

非晶層が残存し同時に表面近傍の結晶の配向性

が変化してPBT表面に露出していたC=O基が分子

内にもぐりこみ WBL が生成するエポキシ接着剤は WBL に浸透して接着する破壊時には WBL

とバルクの界面で破壊し接着強度が低下する(図 10参照)

またこの知見を元に表面に生成した WBL 層を分解することで接着性が向上すると考えて表面

処理を行った後に接着性を評価した結果予想通り接着性は向上したこの際に XPS により表

面官能基が増加したことを確認した以上の結果より接着性制御の指針を得た(図 11参照)

b

aa

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

b

a

b

aa

b

a

b

a

b-C=O

-C

=O

-C=Oc

c

c

図9アニーリングによる PBT 表面官

能基の配向性変化

アニール

C=O C=O C=O

C=O C=O C=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=O C=O C=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

アニール

C=OC=O C=OC=O C=OC=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C

=O

-C

=O

-C

=O

C=OC=O C=OC=O C=OC=O-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

-C=O -C=O -C=O

接着

PBT

WBL

表層剥離を伴う 凝集破壊

エポキシ接着剤の拡散

結晶化

官能基の潜込

4nm

WBL

4nm

図 10アニーリングによる PBT の接着

性低下メカニズム

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

BeforeVac-20hPlasma

BeforeVac-20hPlasma

00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

BeforeVac-20h

UV15mUV30m

UV60m00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Before Vac-20hPlasma50mms

Plasma10mms

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

Adh

esiv

e Str

eng

th

MP

a

Before Vac-20h Etching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Before

Vac-20h

UV

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

00

20

40

60

80

100 150 200 250

C=O ratio

Adh

esiv

e Str

eng

th

 M

Pa

BeforeVac-20hEtching

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

化学的エッチング処理 UV処理 プラズマ処理

エッチング液(H2SO4 08gH3PO4 12g KMnO4 15mg H2O 05g)rt60s

254nm8Wm2rt900s1800s3600s

条件

処理条件VS接着性

官能基VS接着性

(ArO2(955vol)φ5mm25mmピッチ50mms10mms)

図 11表面処理による PBT

の接着性向上検討

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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                      • 評価書
                        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
Page 21: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―110

③Step 3接着性制御

表面処理によるWBL分解と官能基付

与の効果を期待して初期接着性およ

び接着寿命におよぼすプラズマ処理の

影響を検討した表面処理方法として

プラズマ処理を選択したのはドライ

プロセスであることと処理時間が短い

ことによる

まずプロセスガスの種類および濃度

を変化してPBTの表面を処理し初期

接着性との関連を検討したプラズマ

処理により接着性は向上したがその

効果は条件により変化した

(図 12参照)

この差をプラズマ処理により表面

官能基が変化したためと考えXPS に

よる官能基濃度と接着性との相関を検

討した表面官能基は通常のXPS法に

より主鎖中の官能基をまた気相修飾

XPS 法により末端の官能基を分析した

気相修飾XPS法は樹脂分子の末端基

をフッ素を含む修飾剤で修飾すること

により末端官能基量を分析する手法で

あるこの結果接着性は主鎖中のエ

ステル基(COO)末端のカルボキシル基

(COOH)アミノ基(NH2)の量と相関する

ことを確認した(図 13参照)エポキシ

は COO基と水素結合によりまたカルボ

キシル基アミノ基とは共有結合により

接着性を発現すると考えられる

(図14参照)

図 12PBT の接着性におよぼすプラズマ処理条件の影響

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

R2 = 043R2 = 067

0

2

4

6

8

10

12

0 10 20 30 40

[C-O][COO][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

C-OC

COOC

R2 = 045R2 = 085R2 = 076

0

2

4

6

8

10

12

00 10 20 3 0

[COH][COOH][NH2][C]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

COHC

COOHC

NH C

a)主鎖中官能基組成と接着性の相関 b)末端官能基組成と接着性の相関

2

図 13PBT の接着性と表面官能基の関係

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

C

O

C O (C H2)4

O

O n

O HC

O

C O (C H2)4

O

O n

O H

O OO OO

HO

n

OH

共有結合

水素結合末端官能基

主鎖中官能基

図 14PBT とエポキシ接着剤との接着メカニズム

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

2

4

6

8

10

12

06 18 25 50[O2]

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

a) ガス種の影響

0

2

4

6

8

10

12

Ori Ann O2 N2 H2

Adhesiv

e s

trength

M

Pa

b) 酸素濃度の影響

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Annea

l ing

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 h r1501000hr85851000hr

0

5

10

15

20

25

30

35

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

Adh

esiv

e s

tre

ngth

M

Pa

0 hr1501000hr85851000hr

図 15PBTPPS 実用材の初期および耐久試験後の接着強

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

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Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 22: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―111

耐久試験では市場寿命(12 年 16 万 km)相当の耐久試験条件と目標値を以下の要領で設定した

まず自動車にかかる

12 年分の熱量を積算

しこれに Arrhenius

則を適用して材料の劣

化速度を見積もった

さらにCAE解析により

製品の強度を見積もり

耐久試験後に必要な強度を設定したPBT および PPS の

実用材テストピースを用いて初期および高温(150)耐

久および高温高湿(8585)耐久試験を行ったプラズ

マ処理は大気圧の酸素プラズマを用いて処理回数を変

化することにより処理効果を変化させた初期接着強度

は処理回数に従って向上しばらつきも低減する傾向を

示したが過度の処理を行うと接着性は低下しばらつき

も大きくなった(図 15参照)この結果より過度の処理

により樹脂表面の分子が切断されて低分子化し新たな

WBL が生成したことが示唆されたまた耐久試験後の接

着強度が目標値を大幅にクリアすることを確認し本技

術を製品に適用する目処付けができたこのときXPS による表面官能基分析によりプラズマ

処理で含酸素官能基が増加することにより接着性が向上することを確認した(図16参照)この

ほかに自動車用途に用いられる樹脂(ポリアミド66ポリアセタールポリプロピレン)の表面を

プラズマ処理して初期接着性を確認したところポリアセタールを除いてプラズマ処理により接

着性が向上し破壊モードは界面破壊から接着剤の凝集破壊に変化した(図 17参照)ポリアセ

タールの接着性向上については残された課題として継続検討を行う予定である

④連携の成果(九州大学)

②で述べたようにアニーリングにより PBT

表面に非晶層が残存することが示唆されたの

で表面界面切削解析装置(SAICAS)による

斜め切削と走査粘弾性顕微鏡(SVM)による表

面およびバルクの弾性率測定を行った(図7

参照)

0

5

10

15

20

25

PPS PBT PA66 POM PP

Adh

esiv

e S

tre

ngth

M

Pa

Or iginal

Plasma

図 17自動車用樹脂材料の接着性に

およぼすプラズマ処理の影響

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

60

80

100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

S SO SO2

0

20

40

60

80

100

Or ig

inal

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

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Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O C OO

0

20

40

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100

Orig

inal

Annea

l

Plasm

a-01

Plasm

a-03

Plasm

a-06

Plasm

a-10

Plasm

a-20

C-C C-O C=O COO

図 16PBTPPS 実用材のプラズマ処理後の表面官能基組成

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

284K

220 270 320 370

Temperature K

Late

ral

forc

e

au

310K

アニーリング前 アニーリング後

図 18温度可変 LFM による PBT 表面の Tg 測定

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 23: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―112

さらに温度可変水平力顕微鏡(LFM)によるPBT表面のTg測定を行ったところアニーリング前

のTgが 310K(37)に対してアニーリング後は284K(11)と低下していた(図 18参照)図7

のSVM測定は室温(298K)で行っていることからアニーリング前のPBT表面はガラス状態アニ

ーリング後はガラスからゴムに変化する状態にあり弾性率に差が見られたSVM測定結果を支持

することを確認した

⑤連携の成果(産総研)

PBTEpoxy 接着界面をエネルギーフィ

ルター型透過電子顕微鏡(EF-TEM)を用い

て解析したアニーリング前後の接着界

面のN元素(接着剤の硬化剤由来)マッピ

ングを行い接着界面の厚さを評価した

この際にサンプルの傾きによる誤差を考

慮してサンプルを傾斜させて測定しア

ニーリング前の界面厚が約20nmアニー

リング後が約 30nm であることを確認し

た(図19参照)AFMや GIXDの結果から

考えられる界面厚(10nm 以下)と比較す

ると大きい値であるがこれは表面の粗さ

を含んでいるためと考えられる

⑥連携の成果(京都工芸繊維大学)

③で述べたようにプラズマ処理によりほとんどの樹脂において接着性が向上し接着剤の凝

集破壊が生じることを確認した今後接着接合の強度を向上するためには被着体および接着剤

の強度を向上する必要があるそこで京工繊大との連携により接着面を延伸しながら X 線 CT 観

察を行い破壊のメカニズムを解析する検討を行った

PBT をシリコーン接着剤で接着したサンプルを延伸しながら X 線 CT により観察したところ

未延伸状態ではクレイズは観察されなかったがひずみ 059 で複数のクレイズが発生し延伸

により成長して破断に至る様子が観察された破壊モードは接着剤の凝集破壊であった(図 20

参照)

100nm

エポキシ

エポキシ

PBT

PBT

約20nm

約30nm

図 19EF-TEM による PBTEpoxy 接着界面の分析

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 24: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―113

図 20X 線 CT による PBTEpoxy 接着界面の動的観察

引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面引張り方向は紙面に垂直方向

(a) (b)

(c) (d)

小さなクレイズ

クレイズが成長し端に到達する

ひずみ059

ひずみ094 ひずみ094(破断)

未延伸観

察方

CT断面

観察

方向

CT断面CT断面

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 25: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―114

(5)外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

なし

なし

3件

なし

特 許

(海外)

なし なし なし なし

試 料

提 供

連携先(九大京工繊大産総研)

に提供

連携先(九大京

工繊大産総研)

に提供

連携先事業

部に提供

材料メーカと

共同開発

連携先事業部

に提供

展示プ

レス発表

論 文

論文2件

著書1件

なし 論文2件 論文2件

著書1件

(6)特記事項

受賞第36回信頼性保全性シンポジウム 推奨報文賞(2007717日本科学技術連盟)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 26: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―25 高磁場による高性能材料の開発

研究開発項目 「高機能高分子材料の実用化技術開発」

テーマ名 実施先

高磁場による高性能材料の開発 ポリマテック株式会社

(1)背景目的

研究目的

三次元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した

重合法等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握す

るとともに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液

晶エポキシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電

気的磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材

料調製加工プロセスに関わる要素技術を検討する

基本原理

従来サーモトロピック液晶ポリエステルを主体とする高分子については加熱溶融状態から

冷却過程で強磁場を印加させると磁場配向し弾性率等が向上することが知られている反磁性

体である高分子のなかでこれらのように分子鎖の磁気異方性が極めて大きくなおかつ液晶状

態で分子鎖が同一方向に集まったドメイン構造を発現する高分子については強磁場中で芳香環

が磁力線と平行になるように磁場配向する本研究においては熱液晶性高分子の加熱溶融系

ライオトロピック液晶高分子の溶液系メソゲン含有モノマーの合成及びその重合系に大きく分

けて高磁場を印加させることによって三次元構造制御が可能である系を見出すとともに得ら

れた異方性機能の達成を目標とする

技術背景(基盤技術要素技術)

磁気異方性を有する有機高分子繊維やグラファイト粒子炭素繊維カーボンナノチューブ

酸化アルミニウム窒化ケイ素炭化ケイ素等の反磁性体は強磁場雰囲気では一定方向に配向

制御させることが可能であるポリマテック株式会社ではこのメカニズムを応用しこれらの

反磁性体を高分子前駆体中に分散して任意の方向に配向制御させ異方性機能を有する高分子複

合体に関する基礎および応用研究を実施してきた具体的には力学的性質電気的性質熱的

性質摩擦磨耗特性熱膨張係数の制御などが可能となるので特定用途については大型の超

伝導マグネットを用いて世界に先駆けて量産技術を確立しているこれらの研究成果については

学会発表(20件以上)や特許出願(20件以上登録4件)を実施しているこれらのような磁

気的性質の評価応用技術や高分子材料の成形加工技術を基盤技術として研究を進めた三次

元構造を精密に制御した高機能高分子材料の創製を目的として高磁場反応場を利用した重合法

等を研究開発し制御可能な高分子構造と得られる異方性機能との相関を系統的に把握するとと

もに実用化を視野に入れた要素技術を構築する具体的には加熱溶融系溶液系液晶エポ

キシの熱硬化系を主体に高磁場を印加して高分子構造の制御を試み機械的熱的電気的

磁気的性質等で著しい特徴のある高分子材料を開発するまた実用化に際して必要な材料調製

加工プロセスに関わる要素技術を検討する

Ⅲ―115

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 27: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

終目標 設定根拠

強磁場によって実用的で著しい特性を有する

高性能高分子を創出し強磁場成形プロセスの

要素技術を構築する具体的には熱可塑性樹

脂においては熱伝導率が既存材料の5倍以上

で強度や弾性率などの異方性の欠点が無い実

用的材料熱硬化性樹脂においては3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下の超低熱応

力材料その他熱伝導率が既存有機高分子の

30 倍以上の実用的な電気絶縁性耐熱性フィル

ムを開発する基盤技術(新規強磁場成形プロセ

ス技術)を構築する

これらは現状有機高分子系では競合技術は

皆無であり達成できればマルチメディア分

野に不可欠な高分子材料として革新的イノベ

ーションとなる

既存の高分子材料の熱伝導率は 03WmK 程度で

あり薄型軽量化高密度化の著しい電子機器等

においては熱対策が大きな課題であるこれらを

解決するには基板材料樹脂部品の更なる高熱

伝導化が必須であるまた回路配線基板や半導

体周辺材料先進複合材料の分野では超低熱応力

材料の開発が求められている(例えば3方向の

線膨張係数が 30times10-6()以下)また機器

の軽量化や絶縁対策として高分子フィルムによ

る金属材料の代替を視野に入れた場合既存材料

の熱伝導率の約 30 倍にあたる 10WmK 程度が必

要とされるいずれの系においても生産性や実用

化を視野にいれた新規強磁場成形プロセス技術

を研究開発する必要がある

達 成 度

① 終目標に対する達成度()

熱可塑溶融系材料rarr熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)(事業原簿PⅢ―118)

(耐摩耗性については3倍向上)

ガラスクロス含浸熱硬化エポキシ硬化物(事業原簿PⅢ―118)

rarr三次元で等方的な低熱膨張係数(15~23times10-6K)を有する複合材

高熱伝導性フィルムrarr驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)

(事業原簿PⅢ―118)

ガラス短繊維ガラスクロス複合磁場配向試料の作製(事業原簿PⅢ―120)

rarr良好な熱伝導性と曲げ強さの改善線膨張係数の低減等方化を同時に実現

[目標以外の達成成果]

磁場配向液晶性エポキシrarrネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が形成され

た(事業原簿PⅢ―118)

②実用化に向けての達成度

標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築(事業原簿PⅢ―119120)

溶液系大容量混練押出機の導入

1回の溶液混練で大型超伝導マグネットで大面積熱伝導性フィルムが調製可能

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加

従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等特性が得られることを確認

実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

大面積試料(110mm従来比約6倍)が作製可能となった(事業原簿PⅢ―121)

加圧機構の無い装置で問題となっていた発泡による密度低下が抑制された(事業原簿PⅢ―

121)

Ⅲ―116

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 28: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 平成13年度~平成16年度 平成17年度 終了後(平成18年度~)

①溶融系における磁場配向

②溶液系における磁場配向

③重合系における磁場配向

④標準試料の絞込み

⑤複合化による特性バランス

⑥実用強磁場成形プロセスの構築

(プロジェクト後実用化検討)

磁場内射出成形プロセスの構築

高熱伝導性耐熱フィルムの基本製法の確

立応用研究

年度別目標

溶融系溶液系メソゲン含有モ

ノマー重合系のいずれか 1 種の

高分子において磁場配向によっ

て3倍以上の異方性機能(熱伝導

率熱膨張係数(13)磁化率

誘電率弾性率等1つ以上)を達

成する

(熱可塑性樹脂)熱伝導率が既存材料

の5倍以上で強度や弾性率などの異方

性の欠点が無い実用的材料(熱硬化

性樹脂)3 方向の線膨張係数が 30times

10-6()以下の超低熱応力材料熱伝

導率が既存材料の 30 倍以上の実用的

な電気絶縁性耐熱性フィルムの開発

を達成する

磁場内で加熱溶融押出可能なシ

リンダ構造の材料選定および設

計実用途を想定した小型部品形

状にて寸法安定性特性を評価

特殊混練押出機を使用し原料の

溶液調製条件フィルム作製条件

を見極め実際の用途を想定した

実用評価を進める

年度別目標達成度

(times)

100を達成

溶融系試料の熱伝導率が約 7 倍

を達成(H15年度)

溶液系試料熱伝導率(13WmK)を

達成(H16年度)

100を達成

(熱可塑性樹脂)

熱伝導率は未処理品の約8倍を達成

(熱硬化性樹脂)

三次元で等方的な低熱膨張係数(15~

23times10-6K)を達成

(高熱伝導性フィルム)

熱伝導率が従来比50倍以上を達成

磁場内での溶融押出構造を考案

設計ただし部品形状での成形

性確認にとどまり特性評価は未

混練押出機によって大容量で安定

した溶液を調製可能な条件を見極

めたしかしフィルム化過程に

おける欠陥が完全に解決できてい

ない

Ⅲ―117

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 29: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4) 研究開発成果

①溶融系における三次元構造制御

熱液晶性芳香族ポリエステルを加熱溶融中で面方向または厚み方向に強磁場を印加させ各条

件で得られる高分子の構造と異方性を調査したX線回折測定によって分子鎖間が 044nmで配向

制御されていること等が判明した10Tで磁場配向させた数種の熱液晶性ポリエステルの配向度と

その異方性機能(弾性率線膨張係数磁化率熱伝導率誘電特性耐摩耗性)を評価した高

弾性率化などの従来同様の傾向に加え熱伝導率の増大耐摩耗性の向上(3倍以上)が顕著であ

り特に熱伝導率は未処理品の約8倍(256W(mK)板状試料の厚み方向)を達成した発熱す

る半導体デバイスや電子部品の熱対策材料への応用が期待される

②溶液系における三次元構造制御

本系では数種の方法で磁場配向高熱伝導性フィルムを調製する条件を検討した強磁場を印

加して配向制御することによって厚み方向に驚異的な熱伝導率(20WmK従来比50倍以上)を

有するフィルムが調製できた

③メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応による三次元構造制御

数種の液晶エポキシ化合物(例Terephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)

diglycidylether 以下DGETAMと略す)にアミン系硬化剤(44rsquo-diamino-12-diphenylethane

以下DDEと略す)を添加し強磁場を印加させながら熱硬化反応させた硬化物の構造をX線回折で

解析し貯蔵弾性率破壊靭性線膨張係数熱伝導率耐摩耗性等を測定した磁場を印加し

て熱硬化した試料は磁場方向の貯蔵弾性率熱伝導率は約2倍に増加し逆に各々の垂直方向

の値は低下した破壊靭性特性は磁場方向に対して垂直方向の値が約2倍に向上した線膨張

係数は磁場方向が大幅に低下し垂直方向は増大したX線回折分析によれば磁場印加系は

2θ=19~20degにメソゲン基含有分子鎖間の距離(d1=044nm)に起因すると推測される回折ピー

クが磁力線と平行方向に配向して見られたさらに2θ=約3deg(d2=294nm)に鋭い回折ピーク

が現れ新たな異方性が確認された無磁場硬化物ではこの小角の回折は見られず磁場を印加

しながら熱硬化反応させるとネマチック相から規則性の高いスメクチック相に構造が変化した

またガラス繊維クロスを複合して調製した液晶エポキシ磁場配向複合材は面方向および厚み

方向の線膨張係数を均一に低減できることを見出したこの手法によれば三次元での低熱膨張

化が可能な複合材料が調製できる

④標準試料の絞込み検討材料加工プロセスの構築

上記の基礎研究課題のなかから実用化を視野に入れた検討へと発展させるため特に実用化

が見込める磁場配向高分子系として以下の系に絞り込んだ

溶融系サーモトロピック液晶ポリエステル2種

溶液系芳香族系高分子溶液1種

メソゲン含有モノマー(液晶性エポキシ)の磁場熱硬化反応系

モノマーTerephthalylidene-bis-(4-amino-3-methylphenol)diglycidylether(DGETAM)

アミン硬化剤44rsquo-diamino-12-diphenylethane(DDE)

Ⅲ―118

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 30: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

また実用化に必要な材料加工プロセスとして以下を構築した

大容量混練押出機の設計製作および高分子溶液の調整条件整備

本検討では②の検討により得られる高分子溶液についてより高性能な溶液加熱混練装置

を導入して高分子の溶液調製方法を適正化し磁場配向方法などのプロセス要素技術を研究

開発し高性能で均質な超高熱伝導性耐熱フィルムを得る基本的な製造条件を調査した高分

子溶液を調製するための装置として従来は小型の混練装置である微量ミキサーローラーを使

用していたしかしこの微量ミキサーローラー装置は混練容量が少さく不活性ガスパー

ジおよび真空状態における混練が困難である

以上の理由から大容量混練押出機を作製した作製した混練押出機はA基本仕様を向上

させたので研究用途から量産試作段階まで対応できるB不活性ガスパージおよび真空状態に

て高容量の材料を高せん断で混練できる等の様々な利点がある装置である従来の装置(微量

ミキサーローラー)と本装置(大容量混練押出機)の仕様を表1で比較した

表1 微量ミキサーローラーと大容量混練押出機の仕様

機種 微量ミキサーローラー 大容量混練押出機

回転速度又はスクリュー回転数 120rpm 30~100120rpm(5060Hz)

混練容量 lt 10cc 50cc

設定温度(最高) 300 250

混練雰囲気 大気 大気不活性ガスパージ

真空状態可能

ホッパー なし 有り

その他 - 連続混練が可能

大容量混練押出機を導入して諸条件を検討した結果従来よりも大容量で均質な高分子溶液

が混練でき磁場で配向する条件を明らかにした本混練押出機で調製した高分子溶液を用い

て磁場配向させポリイミドフィルムや無磁場フィルムと比較して厚み方向に約 20 倍も高い

熱拡散率を有する大面積フィルムの調製条件を見出した

また電子顕微鏡観察等によって高分子の主鎖が磁場方向と同方向に配向していることが示

唆された

熱硬化系 Bステージ状態からの本硬化時への磁場印加プロセス構築

本検討では③において評価した液晶性エポキシの反応硬化系についてBステージ化(半

硬化)後に磁場中で硬化させるプロセスによっても高分子の配向が充分に達成されるかどう

かを検討した

液晶性エポキシ(DGETAM)とジアミン系硬化剤(DDE)系において表2に示すとおりBステ

ージ化後の本硬化反応時のみに磁場を印加させる新たなプロセスで調製した硬化物によっ

ても従来の一段硬化磁場印加プロセスと同等の配向度および異方特性が得られることが判

明した以上のように液晶性エポキシとアミン系硬化剤をBステージ化した後に低い磁場

で熱硬化反応させる実用的なプロセスによっても反応後の高分子の配向が充分に達成され

て良好な特性の硬化物が得られた本処方はプレプリグ系等を含めて実用化する際に非常に

Ⅲ―119

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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              • 評価書
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                  • 評価書
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                      • 評価書
                        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
Page 31: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

有用なプロセス要素技術である

表2 通常硬化物とBステージ経由硬化物の特性比較

通常硬化 Bステージ経由

硬化温度 () 170 170

硬化時間 (分) 10 10

磁束密度 (T) 10 0 10 0

配向度 072 ― 073 ―

線膨張係数 x方向 972 671 986 411

(times10-6 K) y方向 928 603 987 590

z方向 277 620 -673 580

熱伝導率 (WmK) 0831 0400 0730 0306

⑤複合化による特性のバランス化

磁場配向によって熱伝導率等の特性が著しく向上

することを見出したが一方で機械的強度などの特性

が低下し実用上問題となることが懸念されるこの

問題を改善するための新たな技術開発すなわち複数

の特性をバランス化する技術を開発する必要がある

本年度は充填材等を用いた複合化による特性のバラ

ンス化を検討した具体的にはガラス短繊維やガラ

ス長繊維クロスと液晶高分子を複合化させこの複合

材を磁場配向させることにより機械的強度の低下を

改善し線膨張係数を3方向でバランス化することを 図1ガラスクロス含浸磁場配向試料の断面SEM像

試みた図1に得られた試料のSEM像を示す

ガラス短繊維やガラスクロスと熱液晶ポリエステルの磁場配向複合材において複合化するガ

ラス短繊維の繊維長やガラスクロスの織り密度を適切に選定することにより複合材の曲げ強

さを改善し3 方向の線膨張係数を低減させて等方的にするとともに1 方向に高い熱伝導性

を持つ複合材を創製することができた

線膨張係数の低減の効果はx 方向と y 方向についてはガラス繊維などの充填剤z 方向につ

いては磁場配向した高分子鎖に依存する今回の検討でガラス短繊維の長さやガラスクロスの

織り密度などが重要であることが判明した

Ⅲ―120

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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                  • 評価書
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                      • 評価書
                        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
Page 32: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

⑥実用強磁場成形プロセスの調査

実用化が可能な高磁場加熱加圧装置の設計製作試料調製

高磁場環境下で金型や各種機械装置を用

影響を受けて想像以上の力が発生して事

故や故障の原因となる特に装置や金型等

の寸法が大きくなると磁場の影響を受け

る力も格段に大きくなるため構成する材

料選定に留意する必要がある本項ではこ

のような高磁場下での実際の成形加工プ

ロセスを構築するために大口径の大型マ

グネット内に加熱加圧成形装置を組込む

ための各種金型や装置に必要な要素を調

査して高磁場加熱加圧装置を設計作製し

た図2に高磁場加熱加圧装置の模式図を

示す

本装置を組み込ん

いると非磁性体の金属を使用しても強い磁場の

だ大口径の超電導

磁石を用いて試料を作製し実用的な大面

積の磁場配向試料(110mm従来比約6倍)

を調製できたさらに加熱加圧装置を用

いることで問題となっていた発泡による

密度低下が抑制された高密度でかつ実用評価が可能 調製できた

最大推進力5ton

試料

ヒーター

磁場中心

8T

図 3 高磁場加熱加圧装置模式図 図2

な試料を

Ⅲ―121

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 33: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

( )外部発表成果(件数)

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特許(海外) 16件(10件) 2件 0件 1件

試料提供 3件 5件 8件 8件

展示プレ 2ス発表等 2件 5件 4件 3件

論 文 6件 0件 0件 0件

学会発表 (nanotech)等で 響とその後 部)

展示サンプル研究内容 来 場 者 特 記 事 項

展示会 の具体的な反 の対応(一

A社 熱伝導性樹脂サンプル希望 熱液晶性高分子の磁場配向

B社 10WmK品を要望

C社 高出力MPU放熱ニーズ聴取

D社 LCPの適正化による性能向上

磁束密度と熱伝

サーモグラフィー観察(図3)

導性デモ

X線回折による構造解析

LED ベース部成形品電熱ヒータの

銅貼積層板

E社 H社開発品との差異を質問

F社 ルミとの高熱伝導性接着剤用途 ア

G社 磁場配向可能な分子構造に興

熱硬化性樹脂の磁場配向

磁束密度と熱

H社 高熱伝導性接着剤に興味

伝導性デモ

充填材配合効果

X線回折による構造解析

銅貼積層板

複合化による低熱応力化

I社 動車部材用への応用を検討 自

J社 高発熱デバイスへの展開に興味

超高熱伝導性フィルム(図4)

ステンレス相当の熱伝導率

モグラフィー観察 フィルム電熱ヒータのサー

(関連学協会等) 分子学会 高分子ナノテクノロジー 会 依頼講演(2004318) 高 研究

分子学会 ポリマー材料フォーラム ポスター発表で優秀賞受賞(20041111)高

日本塑性加工学会 PP分科会 依頼講演(20041112)

IPF(国際プラスチックフェア)2005 先端技術セミナー 依頼講演(2005926)

高分子学会 ポリマーフロンティア 21 依頼講演 (2006125)

6)

特になし

( 特記事項

図3 サーモグラフィーによるLCP熱伝導性成形体比較(nanotech2006)

従来品 構造制御品

図4 大面積 高熱伝導性フィルム(nanotech2006)

ヒーター 樹脂成形品

銅板

Ⅲ―122

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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Page 34: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―123

III-3 高分子材料の共通基盤技術開発

III-31 配列制御共重合体の精密合成法の確立

(1)背景目的等

本プロジェクトの基本計画にも述べているように高耐熱高強度低誘電損失低環境負荷など

高機能高性能な高分子材料を開発するには分子設計だけではなくナノレベルの高次構造制御を行

うことが重要である高分子特有のナノレベルの高次構造を発現させるためには高分子の一次構造

中でも高分子鎖に沿ってその配列を制御されたポリマーつまりブロック共重合体グラフト共重合

体末端の官能基や機能性基を導入したテレケリックポリマー等の合成を実用レベルで実現出来る手

法並びにブレンドや結晶化など実際に高次構造制御された材料を製造する新しいプロセスの開発が必

要であるこのような背景のもと共通基盤技術mdash高分子合成技術チームでは前者に焦点を絞り共

重合体の配列を精密に制御する基盤技術を研究開発するとともに本プロジェクトで高性能高機能高

分子材料実用化技術を開発している各チームと連携して材料開発に貢献することを目的とする

既にブロックポリマーやテレケリックポリマーなどの合成にはイオン重合法の開発が進み典型

的な例として熱可塑性エラストマーの製造等に広く利用されていることは良く知られているしかし

この重合法が適用できるポリマーには制限があり特に高性能高機能材料として最も利用されて

いるポリオレフィン類やエンジニアリングプラスチック等への応用は進んでいないのが現状である

また多様なビニル系ポリマーの高機能化をはかるためにはラジカル重合法による配列制御法の開

発も重要であるそこで共通基盤技術としてラジカル重合配位重合重縮合分野での配列制御

共重合体の合成法を研究開発することとした上述のようにブロック共重合体やテレケリックポリ

マーが配列制御の典型的な例であるが基本的に共重合が難しい配位重合ではその特徴である高い立

体特異性を維持しつつランダムコポリマーの成分比を制御することも重要な課題であるまたブロ

ック共重合がほとんど実現していない重縮合分野では基礎的な重合法の開発から始める必要があった

一方ラジカル重合分野の開発研究は十分な成果を達成し本プロジェクト前半で終了したがその成

果を継承してブロック共重合体合成の研究を進めている名古屋大学と本プロジェクト実用化技術開発

チームが連携して反射防止膜材料開発をおこなってきた第IV章で述べるように本チームは7

つの材料開発チームと連携研究を行っており配位重合分野ではポリオレフィン類の結晶非晶ブロ

ック共重合体を用いて高耐熱光学材料を開発するチームとの連携重縮合分野ではエンジニアリング

プラスチックに官能基を導入して低誘電損失材料を開発するチームとの連携等が典型例であるまた

山形大学集中研ではリアクティブブレンディングによりグラフトポリマーを形成して高性能材料を開

発しているがこの新しい成形プロセスにおける高分子反応の解析に関する連携研究を進めてきた

基盤技術チームの役割としてこれらプロジェクト内の貢献に加えて人材育成も重要な使命である

研究開発項目 ②「高分子材料の共通基盤技術開発」(a) 高分子合成技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

配列制御共重合体の精密合成法の確立 東工大広島大産総研京大

<実用化技術開発 7チーム>

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 35: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―124

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

新規の光構造材料に有用な配列制御共重合体をリビングラジ

カル法配位リンビング重合法および縮合的連鎖重合法等を

用いて創出し精密合成技術として確立する

配位リビング重合①リビング性立体特異性共重合性

連鎖移動反応性の同時制御②連鎖移動剤併用による一次構造

の制御された高分子鎖の触媒的合成

縮合的連鎖重合重縮合系高分子の分子量分子量分布制御

ブロック共重合体の合成

リビングラジカル重合①(メタ)アクリル酸エステル系ブ

ロック共重合体の合成②水中でのリビング重合法の基盤確立

とMngt50000MwMnlt13を実現する

ナノマテリアルとしてナノレベル

の高次構造を有する共重合体のミ

クロ相分離構造が有望であるそ

こで精密に配列制御されたブロ

ック共重合体の合成法を確立し

て従来の高分子合成法で得られ

難いすなわちナノレベルの高

次構造がもたらす高結晶性高耐

熱性高強度高弾性低誘電損

失などを有する新規材料開発の基

盤技術を確立する

達成度

最終目標に対する達成度()

配位リビング重合プロピレンのイソ特異的高イソ特異的および高シンジオ特異的高速リビング

重合系の開発高速リビング重合系を用いた単分散ポリプロピレンおよびプロピレン-ノルボルネン

ブロック共重合体の触媒的合成法の開発さらにはこれらリビング重合系と連鎖移動剤を組み合わ

せ極性モノマーとの共重合で共重合体の分子量ならびに極性基の位置を制御する手法を開発した

(事業原簿PⅢ―126~129)

縮合的連鎖重合炭素―ヘテロ結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリアミドブロッ

ク共重合体を炭素―炭素結合生成による縮合系ブロック共重合体としてポリチオフェンロック共

重合体の合成法を確立しその相分離構造をはじめて観察した

以上の結果より最終目標をほぼ100達成することが出来た(事業原簿PⅢ―129~131)

リビングラジカル重合RuFe 錯体等によるリビングラジカル重合系を見いだしメタクリル酸系

トリブロック共重合体(Mngt400000)の合成を実現し熱可塑性エラストマーへの応用の見通しを明

らかにしたRuFe 錯体により水中で(メタ)アクリル酸エステル類スチレン等のリビング重合法

を確立しMngt100000MwMnlt11 を達成した(本プロジェクト前半平成16年度までに達成

(事業原簿PⅢ―132133))

②連携研究および波及効果についての達成度

配位リビング重合プロピレンの高イソ特異的重合を進行させる C2対称を有するジルコノセン触媒

のリビング化ならびに CS対称フルオレニルアミドチタン触媒による高シンジオ特異的高速リビング重

合を達成したまた高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体を触媒的に

合成しうる手法を開発した(事業原簿PⅢ―126127) Ti錯体によるノルボルネンスチレン共重

合を実現し高耐熱光学材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―10)

縮合的連鎖重合これまで重縮合系高分子合成の原理から合成が困難と考えられてきた縮合系高分

子のブロック共重合体の合成法を確立した(事業原簿PⅢ―131) アリル化PPEの大量効率的重合

法を実現し低誘電損失材料開発に貢献液晶トリマーの分子設計合成法の開発を行いホログラム記

録材料開発に貢献(事業原簿PⅢ―2331)

リビングラジカル重合この分野において世界で最も顕著な成果を挙げThe Arthur K Doolittle

賞(ACS2001 年)を受賞引用度の上位1以内の ACS 2007 Highly Cited Papers として ACSHP で紹

介本プロジェクト後半では同重合技術を継承している名古屋大学へ反射防止膜材料のためのポリ

マー合成を再委託(事業原簿PⅢ―3637)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 36: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―125

(3) 研究開発計画課題

H13mdash16年 H17年 H18年 H19年 PJ終了後

配位重合による配列

制御技術の開発

重縮合による配列制

御技術の開発

ラジカル重合による

配列制御技術の開発

各年度の目標 注1 注2 注3

目標の達成度

高分子共重合体の配

列制御技術の3課題

を担当した3大学

(広島大東工大

京大)が企業大

学産総研等公的研

究機関と共同して材

料開発研究を実施す

る拠点としてさらに

合成技術基盤の充実

をはかる

注1 H17年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング重合系シンジオ特異性プロピレンブロック共重合

技術及びプロピレンと機能性モノマーの共重合技術の開発

重縮合 炭素―ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

注2 H18年度目標

配位重合イソ特異性プロピレンリビング系担持型リビング重合触媒およびシンジオ

タクチック末端機能化ポリプロピレンの触媒的合成法の開発

重縮合 炭素―炭素結合生成による縮合系共重合の確立

注3 H19年度目標

配位重合イソ特異性担持型リビング触媒の開発及びイソタクチック末端機能化ポリプロピ

レンの触媒的合成法の開発

重縮合 各ブロック共重合体のキャラクタリゼーション

一次構造

制御技術

配位重合による配列制御

技術の開発

重縮合による配列制御

技術の開発

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 37: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―126

(4)研究開発成果

① 配位重合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では本プロジェクトにおける高性能材料開発に必要なプロピレンブタジエン

共重合体cis-14-ポリブタジエンスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ポリイン

デン等を合成するTiおよびZr触媒系の開発研究をおこなうとともにプロピレンのイソ特異的リビ

ング重合と連鎖移動反応を組み合わせて分子量分子量分布を制御した重合系およびプロピレンのシ

ンジオ特異的高速リビング重合系の基盤的研究を行って来た後半ではこれらの成果を基に本プロ

ジェクトにおける配位重合分野における共通基盤技術としてプロピレンの高立体特異的リビング重合

およびプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合の2点に焦点を絞って研究開発を行った

プロピレンの高立体特異的リビング重合

高イソ特異的重合を進行させるC2対称を有するジルコノセン触媒によるプロピレン重合において

錯体活性化剤溶媒重合温度が活性種の寿命に与える影響を検討した結果1をdMMAOで活性化

した系によりヘプタン中- 40 でプロピレン重合を行うと分子量分布は広い(MwMn ≒ 2)もの

の分子量は重合時間に比例して増加し15分で数平均分子量(Mn)75万イソタクチックペンタド

(mmmm)98 のポリプロピレンを与えることを見いだした(図1)

ZrSiMeMe

Cl

ClTiSi

MeMe

NMe

Me

tBu

But tBu

TiSiMeMe

N Me

Me

C

MeH

1 2 3

図1 プロピレンの高立体特異的リビング重合触媒

また本プロジェクトで見いだしたプロピレンの高シンジオ特異的高速リビング重合に有効な錯体

2(ヘプタン中0 重合時間3分でMn = 20万MwMn = 13シンジオタクチックトリアド =

93)を基盤に一連の錯体を合成し検討した結果錯体3をdMMAOで活性化した系がトルエン中

0 20分でMn =10万(MwMn = 13)イソタクチックトリアド(mm)61のリビングポリプロピレ

ンを与えることがわかった上述したように錯体と活性化剤を選択することによりプロピレンの立体

特異的リビング重合を達成したリビング重合の特長は単分散ポリマーの生成と共重合体の精密な連

鎖制御にあるが配位リビング重合ではポリマー鎖1分子を合成するために錯体1分子を必要とする

しかし非常に高速なリビング重合系において適切な連鎖剤を適当量加えモノマーが消費した後初

めて連鎖移動を起こす状況を作り出すことができれば同量のモノマーを逐次添加することにより単

分散ポリマーが触媒的に得られることになる(図2)そこで2-dMMAO系に適当量のトリイソブチ

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 38: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―127

Ti

2

Me

MeTi n Ti+

iBuiBu2Al n

dMMAO-iBu3Al

n iBu3Al+

n - 1

X 回 逐次添加

X+1

末端Al化単分散ポリプロピレン

2 43 5 6 7 8

ルアルミニウムを共存させ30分間隔でプロピレンを逐次添加した結果本概念が単分散ポリマーの

触媒的合成に有効性であることが明らかになったさらに2-dMMAO系はノルボルネンのビニル付加

重合も高速でリビング的に進行させることからノルボルネンとプロピレンのブロック共重合体につ

いて検討し本手法がノルボルネン-プロピレンジブロック共重合体の触媒的合成に対しても有効で

あることを確認したすなわち高速リビング重合系において単分散ポリマーやブロック共重合体

を触媒的に合成しうる手法を見出した

プロピレンと極性基含有モノマーとの共重合

本プロジェクトで開発したリビング重合用触媒系を用いてプロピレンと極性基含有モノマーの共重合

を行い各種配列制御共重合体の合成を検討したシンジオ特異的チタン錯体触媒系を用いて得られ

た結果を図3に示す長いメチレンスペーサーを有するBH1をコモノマーとして共重合を行うと水

酸基をポリマー中に含むシンジオタクチックランダム共重合体が高活性で得られた一方極性アリ

ルモノマーBSあるいはMAMをコモノマーとしてアルキルアルミニウムを含有する未処理のMMAOを

助触媒として共重合を行うとチオール基あるいはアミノ基がポリマー末端に選択的に導入された末

端官能基化ポリプロピレンが生成することを見出したまたこれは極性アリルモノマーのチタン

種への挿入ドーマント種の形成とそれに続く連鎖移動反応により得られたものであるが本触媒系

ではアルキルアルミニウムによる連鎖移動反応のみが存在するためモノマーの仕込み比およびアル

キルアルミニウム濃度を変えることで末端官能基化ポリプロピレンの分子量を任意に制御できること

を明らかにした

1回目rarr

log M

GPC curves

larr3回目 2回目rarr

MwMn ~ 14 図2 単分散末端Al化ポリプロピ

レンの触媒的合成法(3回に分けて

プロピレンを逐次供給した結果い

ずれの場合も同一の分子量分子量

分布を持つポリマーが得られた)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

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    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 39: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―128

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+

H+

SiN

Ti MeMe

(1)

SiN

Ti MeMe

t-But-Bu

(2)

OAl

i-Bu

i-Bu

BH1

SAl

i-Bu

i-Bu

HN

AlMe

MeBS MAMor

OH OH

+H3N

HSor

+ MMAO

+ MMAO

ランダム共重合体高活性(1000~2000kg-PPmol-Tih)シンジオタクチック(rr = 70)

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能シンジオタクチック(rr = 80)

H+H+

H+H+

図3 シンジオ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

次にイソ特異的チタン錯体触媒系を用いて検討を行った(図4)その結果極性アリルモノマー

を用いた共重合ではややイソ規則性が低下するもののシンジオ特異的触媒系と同様に極性基がポ

リマー末端に選択的に導入された末端官能基化ポリプロピレンが得られることを明らかにしたまた

ベンズインデニル骨格を配位子とするジルコノセン触媒が低温ヘプタン中でプロピレンのリビング

的重合を進行させることを先に見出しているがジルコノセン触媒(4)とアルキルアルミニウムを

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+

H+

SAl

i-Bu

i-BuBS

+ MMAO

+ MMAO末端官能基化ポリプロピレン~ランダム共重合体末端選択性は低い(ポリマー内部へも極性基導入)高イソタクチック(mm gt 98)

Si

N

Ti MeMe

(3)

Si ZrClCl

(4)

HN

AlMe

MeMAM

末端官能基化ポリプロピレン高い末端選択性(ポリマー内部への極性基導入なし)モノマー仕込み比により分子量制御が可能イソタクチックリッチ(mm = 35)

HS

+H3N+H3N

H+H+

H+H+

図4 イソ特異的チタン錯体触媒系によるプロピレンとの共重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Page 40: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―129

含有するMMAOからなる触媒系にて極性アリルモノマーとプロピレンの共重合を行うとポリマー末

端だけでなくポリマー鎖中にも極性基が導入された高イソタクチックな共重合体が得られることを明

らかにしたすなわち本プロジェクトにて開発したリビング重合触媒系において極性モノマー

触媒また連鎖移動剤を選択することにより種々の配列制御共重合体を作りわけ可能であることを見

出した

また波及的な研究成果として水酸基含有ポリプロピレンの力学特性評価を行いこれが新規な高

強度材料となることを見出したこれより塗料用途だけでなくバルク材料用途においても水酸基含

有ポリプロピレンが有用となることを明らかにした

② 重縮合による配列制御技術の開発

プロジェクト前半では高性能材料の分子設計と重合反応の基盤を開発することを目的として①

[結合位置制御技術]②[分子量制御技術]③[分岐構造制御技術]の3テーマの縮合系精密高

分子の研究開発を行った結合位置制御技術では酸化カップッリング重合を用いたカップリング位

置制御によりポリフェニレンポリナフチレンポリ(フェニレン-エーテル)の合成に成功した

また分子量制御技術では縮合的連鎖重合を用いて単分散のポリアミドやポリ(エーテル-ケト

ン)を合成した更に分岐構造制御技術では簡便なデンドリマー合成法を開発したそこで後

半ではこれらの成果を基に配列制御共重合体の精密合成法の開発すなわち縮合系ブロック共重

合体の合成法の確立を目指した縮合系高分子合成は基本的には炭素-ヘテロ結合生成と炭素-炭素結

合生成から成り立っているそこで下記の二つの方法の検討を行った

炭素-ヘテロ結合生成による縮合系共重合の確立

p-アミノ安息香酸誘導体とフッ素有p-アミノ安息香酸誘導体からポリアミドブロック共重合体の合

成法の確立を目指す

p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合について検討を行ない分子量分布が11のポリアミド

合成に成功した(図5)

HN

N

O

O

S

O2NCOCl

N

O

n

LiCl EtMgBrTHF -40 degC 05 h

-78 ~ 25 degC 3 h1 20

1

図5 p-アミノ安息香酸誘導体の縮合的連鎖重合

この知見を基にこのフッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーのブロック共重合について検討

した1H NMRGPCより理論分子量12600に対して1H NMRより算出した分子量は14000と近い値を取

りまた分子量分布は128と狭い値であった(図6)以上にように炭素-ヘテロ結合生成による

縮合系共重合体の合成法を確立できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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Page 41: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―130

LiCl

HNO

C8H17

ON

S

EtMgBr

LiCl

HNO

C6F13

ON

S

EtMgBr

THF

THF

HN

O2NO

Cl

O2NO

NO

N

C6F13

NO

C8H17

O2NO

NO

C8H17

ON

S

TEA

n

n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

炭素-炭素結合生成による縮合系共重合の確立

ポリチオフェン系ブロック共重合体(C-C結合)の合成法の確立を目指す

アルキルチオフェン誘導体のホモポリマーの合成について検討を行い分子量および分子量分布がそ

れぞれ10000程度11のポリヘキシルチオフェンを得ることができた(図7)

S

R

BrBri-PrMgCl

S

R

BrClMg THFTHF S

R

S

R

BrNi(dppp)Cl2

n

図7 アルキルチオフェン誘導体の縮合的連鎖重合

次にブロック共重合体の合成を検討したその結果分子量11600分子量分布は113と狭いブ

ロック共重合体を得ることができた(図8)

図6 p-アミノ安息香酸誘導体

のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線に示すように

共重合により分子量分布がほ

とんど変化せずに高分子量側へ

移動しておりブロックポリマ

ーが生成したことが確認でき

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
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                      • 評価書
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Page 42: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―131

S

C6H13

BrIi-PrMgCl

THF S

C6H13

S

C6H13

Br THF

S BrClMg

O

S

C6H13

S

C6H13

S Br

O

Ni(dppp)Cl2n n m

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 10Elution volume (mL)

Prepolymer Mn=7800

MwMn=118

Block copolymer Mn=15100

MwMn=128

6 7 8 9 106 7 8 9 10Elution volume (mL)

ブロック共重合体の相分離構造の観察

縮合系ブロック共重合体の合成例はないのでその相分離構造の観察例はないそこで今回得られ

た縮合系ブロック共重合体の相分離について検討を行い初めて明確な相分離構造を観察することが

できた図9にポリチオフェンブロック共重合体のAFM像を示す明るい部分が結晶性ポリ(3-ヘキ

シルチオフェン)(P3HT)部そして暗い部分はアモルファスのポリ(3-フェノキシメチルチオフェ

ン)(P3PT)部に対応している相分離はP3HTの結晶化に誘起され続いてアモルファスのP3PTが

P3HTの結晶ドメインに占有されていない空間を埋めることで形成されているこれまでの相分離構造

の研究はコイルーコイルロッドーコイル共重合体であり今回初めてロッドーロッド共重合体か

らの相分離構造が観察されたことは今後の相構造の詳細な研究の展開を促しさらには光電子

材料たとえば薄膜太陽電池燃料電池高熱伝導性絶縁材料などへの応用展開が大いに期待される

図9 ポリチオフェンブロック共重合体のAFM像

図8 アルキルチオフェン誘

導体のブロック共重合体合成

(左のGPC曲線より図6と

同様にブロックポリマーの

生成が確認できた

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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          • 評価書
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              • 評価書
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Page 43: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―132

③ リビングラジカル重合による配列制御技術

これまでに見いだしてきた遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の基盤(図10)を基に材

料への応用を目指して触媒の活性モノマー選択性(重合反応環境への)適応性ブロック共重

合体合成等について「金属触媒の進化」を追求して来た図10に示すように金属触媒は一電子酸

化還元サイクルによりポリマー鎖末端の炭素mdash臭素結合(ドーマント種)からラジカル種(活性

種)を可逆的に生成させリビング重合を進行させると考えられるつまりドーマント種とラジカル活

性種の可逆的平衡により生長ラジカル種の濃度が減少する結果ラジカル種同士の二分子停止反応が

抑制されてリビングラジカル重合が実現するのであるここで金属錯体の配位子が中心金属の電子

状態を変化させドーマント種とラジカル活性種の平衡状態ひいては重合活性に影響を与えると考

えられることから種々の配位子を有するRuFe錯体を合成しその重合活性モノマー選択性等

を調べてきたその結果を図11にまとめたリビングラジカル重合系では実質的なラジカル種の濃

度を抑制しているため重合速度は低くなるが配位子を工夫することで高活性な触媒が得られ水

中でもその活性は維持されることが分かったさらにこれまでリビングラジカル重合では十分な活

性が得られていなかったオレフィン類や酢酸ビニルなどのモノマーに対しても高い活性を示すFe錯

体が見いだされたことは特筆すべき成果である以下にまとめたようにリビングラジカル重合に関

する配列制御技術は本プロジェクト前半においてその目標を達成したのでH16年度において研究

開発を終了した

高重合度分子量分布制御ブロック共重合体の合成について

活性なRu錯体を用いてドデシルメタクリレート(DMA)とメチルメタクリレート(MMA)からトリブロッ

ク共重合体(PMMA)-(PDMA)-(PMMA)(分子量約400000分子量分布MwMnlt12)を合成できることが

分かったこのブロック共重合体は染色性耐候性極性表面への接着性圧縮永久歪特性などに優

れた熱可塑性エラストマーとしての応用が有望である

図10 遷移金属によるリビングラジカル重合

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

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Page 44: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―133

水中でのリビングラジカル重合系高分子量分子量分布の制御

RuFe錯体いずれも水中で安定であり重合活性も維持されることが分かった特にポリオキシエ

チレン鎖を有するRu錯体は低温で水溶性高温で油溶性であることから水油懸濁状態でMMAの

重合が可能である重合は懸濁液の液滴中同触媒によるトルエン中の重合よりも高速で進行し分子

量>100000分子量分布MwMnlt11のPMMAを得ることが出来たさらに反応後系を冷却すると

触媒は容易に水層に移動しポリマーとの分離は極めて容易に高効率で行うことが出来触媒の再利用

法として有用である

αmdashオレフィンと極性モノマーのランダム共重合

α-オレフィン類とアクリル酸エステル類との共重合は当初目標の対象としていなかったが特にFe

錯体は共重合活性が高く材料への応用も関心が持たれていることから検討したところ主としてアク

リル酸エステル類単位からなるポリマー鎖にα-オレフィン類を導入することができ分子量制御も

可能であることが判明した

BrFeII

Br PPh3PPh3

PPh3

RuII

Cl PPh3

ClPh3P

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

RuIICl

PPh3

PPh3

NMe2

FeIII CO

CO

Me2NPPh2

OCFeI

CO

OC

FeICO

RuIICl

Cl

PPh2 NaPPh2

SO3

RuII

PPh3

PPh3+Active

Versatile

Acrylates Styrene

Active

Very ActiveVersatile

CationicOlefin-PolarMonomers

Vinyl Acetate

BidentatePN-Ligand

Water Soluble

Evolution of Metal Catalysts in Living Radical Polymerization

Methacrylates

Methacrylates

PPh2

SO3 NaO O CH3n

RuIICl

RuIICl

In WaterThermosensitiveReady Removal

Olefin-PolarMonomers

Very Active

Acrylamides

Ru

Fe

図11 リビングラジカル重合における金属触媒の進化

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

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Page 45: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―134

(5)外部発表成果

年 度 H13minus16年 H17年 H18年 H19年

特 許

(国内)

20件(配位重合)

27件(重縮合)

6件(ラジカル重合)

1件(配位重合)

1件(重縮合)

特 許

(海外)

試 料

提 供 1件(配位重合)

展示プレス

発表等 1件(配位重合)

論 文

35(配位重合)

34(重縮合)

30(ラジカル重合)

11(配位重合)

2(重縮合)

9(配位重合)

1(重縮合)

12(配位重合)

4(重縮合)

(6)特記事項

本プロジェクトの研究開発成果により下記の表彰を受けた

The Arthur K Doolittle 賞(アメリカ化学会2001年)(澤本光男)

化学バイオつくば賞(平成18年度)「ポリカーボネートの環境調和型製造触媒の開発 」竹

内 和彦杉山 順一長畑 律子(産総研)奥山健一上田 充(東工大)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoDirect Synthesis and Properties of the

Functionalized Polypropylenerdquo萩原英昭飯塚豊(産総研)尾崎裕之ホアンテバン

(JCII)塩野毅(広島大学)

Asian Polyolefin Workshop ポスター賞(2007年)ldquoSynthesis and Application of C1-symmetrical

Cyclopentadienylamido Complexes for a Propylene Polymerization Catalystsrdquo

蔡 正国中山祐正塩野 毅(広島大学)

Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Ⅲ 研究開発成果について 公開

Ⅲ―32 構造ダイナミックス評価技術の確立

研究開発項目② 「高分子材料の共通基盤技術開発」

(b) 構造ダイナミックス評価技術の研究

テーマ名 実施先

<連携先>

構造ダイナミックス評価技術

の確立

JCII(日本電子東洋紡績)東工大

京工大九大産総研

<実用化技術開発 全チーム>

(1) 背景目的等

本研究は本プロジェクト(PJ)において共通基盤技術開発と位置づけられ本 PJ の材料実用

化技術開発に是非必要とされる高分子ナノテクノロジーに特化した材料計測評価技術材料構造

制御技術の研究開発を行っている

本 PJ内の各実用化技術開発チームが創成を目指している高分子ナノ材料は結晶性高分子ポリ

マーアロイ複合材料のようにナノスケールで不均一系でありそれらの三次元構造あるいは表

面界面構造のナノスケールでの制御が材料開発のキーテクノロジーとなるそこで図1に示し

たように不均一系をナノスケールでかつ定量的に三次元観察し(三次元ナノ計測)各部分の物

性を調べ(ナノ物性評価)そこに何があるのかを知る(ナノスペクトロスコピー)技術を確立

し材料開発に資することを目的とした図1にはそれぞれのカテゴリーに属すると考えられる

計測評価技術とその技術が目標とすべき計測範囲を記載した

本 PJでこれら全ての計測評価技術を開発することは困難であったので選択と集中の原理に則

図1 高分子材料評価技術の分類とその計測範囲

Ⅲ―135

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
          • 評価書
            • 業務の高度化等の自己改革を促進する
              • 評価書
                • 業務の高度化等の自己改革を促進する
                  • 評価書
                    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
                      • 評価書
                        • 業務の高度化等の自己改革を促進する
Page 47: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

り最重要と思われる技術を開発してきたそれらが可能になると本PJが目標としている具体的

な高分子ナノ材料開発より具体的には実用化技術開発チームとの連携研究に資することができ

るようになる

以上の目的に合わせ本研究は特にPJ後半においてチーム構成を再編し図2のように高分子

材料の構造(スタティック)評価技術ダイナミックス評価技術および(ナノ)構造制御技術の

3つのグループで構成することとした

構造(スタティック)評価技術では高分解能の元素識別型三次元電子顕微鏡(3D-TEM)三

次元X線顕微鏡(X-CT)ナノ力学物性評価システムエネルギーフィルターTEM(EF-TEM)を開

発する

ダイナミックス評価技術では走査粘弾性顕微鏡(SVM)固体 NMR ダイナミクス解析技術を

開発する以上で上記図1の三次元ナノ計測ナノ物性評価ナノスペクトロスコピーの主要技

術が過不足なく実現できる

ナノ構造制御技術ではミクロ相分離結晶化過程特異場を利用したナノ構造制御法を開発す

ると共に実用化技術開発チームと連携し材料開発に貢献する

構造制御

九大高原 産総研三好

ミクロ相分離利用結晶化過程

利用特異場利用

構造(スタティック)評価 3D-TEMmicroX-CTナノ力学物

性評価システムEF-TEM

ダイナミックス評価 SVM固体NMRダイナミクス解

構造計測 京工大陣内東工大西産総研堀内

産総研横山東工大野島産総研李

図2 共通基盤技術(構造ダイナミックス評価技術)チームのグループ構成

Ⅲ―136

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

  • 評価書
    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
      • 評価書
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Page 48: 公開 - nedo.go.jp · 特性が共生する新規材料ができれば市 場へのインパクトは大きい。 達成度 ① 最終目標に対する達成度( ): ・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(2)目標設定根拠および達成度

最終目標 設定根拠

高分子材料の構造評価および構造制御技術を

確立する構造評価のため高分解能の三次

元元素識別型電子顕微鏡変形形状観察可能

な三次元X線顕微鏡等を開発するまた自

己組織化外場等による高分子材料の三次元

構造形成の機構解明と制御技術確立を行う

ダイナミックス評価技術では高分子固体表

面界面ナノ領域の粘弾性レオロジーなど

の物性を高分解能かつ定量的に評価できるプ

ローブ顕微鏡(SVM)等の技術を確立するま

たEF-TEM等の解析手法により接着機構を解

明し接着信頼性向上に繋げるさらに固体

NMR距離解析システムを開発する

さらに弾性率凝着エネルギー等のマッピン

グ技術を実装した AFM(ナノ力学物性評価シ

ステム分解能数10 nm)の開発を行う

具体的な分解能目標を以下に設定する

三次元元素識別電子顕微鏡(3D-TEM識別

元素Si S X 分解能05 nm)

三次元X線顕微鏡(分解能500 nm)

EF-TEM(分解能10 nm)

SVM水平方向深さ方向分解能10 nm

固体NMR距離解析システム(数 nm-数 100 nm

領域の距離解析結晶ダイナミックス解析)

また上記の各基盤技術を実用化技術開発チ

ームとの連携研究に積極的に応用する

高分子 1 本のサイズは 10~数 10nm であり

高分子材料特有の自己組織化構造や表面界面

構造を同レベルの分解能で計測解析し分子

レベルの構造と特性機能の関係を解明するこ

とは高分子ナノ材料開発のために本質的な意義

がある各計測手法の制限も考慮してそれぞれ

の目標分解能を設定した従来材料開発に重

要でありながら実現が困難であった三次元構造

や表面界面構造の観察計測に重点を置いた

3D-TEM では Si や S 等充てん材や金属触媒の

三次元的所在も解明するため元素識別機能を

付与したナノ力学物性評価システムではナノ

アロイナノコンポジット等の相分散構造が十

分可視化され各相部分およびそれぞれの界面

の力学物性が評価できるように仕様を設定して

いるEF-TEMでの元素マッピングの理論的空間

分解能は約1 nm(加速電圧200 kV)であるが

高分子試料は電子線に不安定性なため理論値

到達は困難であり10 nm は高い数値目標であ

SVM を用いて高分子材料において分子レベ

ル(10 nm オーダー)での運動性凝集構造の

正確な評価が可能になれば機能発現機構の詳

細解明や新規機能性材料の設計指針につなが

る固体 NMR 距離解析システムでは顕微鏡や X

線解析では困難な数nm~数100nm規模の分散状

態や結晶の不規則構造解析など材料開発に重要

な手法開発に挑戦する

達 成 度

①最終目標に対する達成度

構造評価技術ダイナミックス評価技術および構造制御技術の 3 グループいずれも上記最終目標

を達成しPJ 実用化技術開発チームとの連携(下記に各チームとの連携研究の数を示す)を積

極的におこない材料開発に貢献した

<構造(スタティック)評価技術>

3D-TEM山形大集中研4件九大集中研1件

ナノ力学物性評価システム山形大集中研3件東工大集中研(1)1件

EF-TEM東工大集中研(1)1件九大集中研1件

<ダイナミックス評価技術>

SVM山形大集中研1件東工大集中研(1)1件九大集中研2件東工大集中研(2)1件

NMR山形大集中研1件東工大集中研(2)1件

<ナノ構造制御技術>

ミクロ相分離利用東工大集中研(1)1件

結晶化過程利用山形大集中研1件東工大集中研(1)1件

特異場利用山形大集中研1件

Ⅲ―137

Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

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Ⅲ 研究開発成果について 公開

構造(スタティック)評価技術元素識別型3D-TEMの開発が完了し3Dイオウ元素マッピン

グに成功するなど設定最終目標を達成することができたまた(4)研究開発成果の項で詳

述するように高分子学会Wiley賞やドイツ顕微鏡学会Ruska賞を受賞するなど高分子分野

や顕微鏡分野から世界的に高い評価を受けているナノ力学物性評価システムでは数 10 nm

の分散構造をもつ高分子ナノ材料への適用が可能となり弾性率および凝着エネルギーマッ

ピングに関する分解能の目標を達成できたこちらも日本ゴム協会CERI若手奨励賞受賞(内

定)同優秀論文賞(内定)国際会議における2件のベストポスター賞など評価を得ている

EF-TEMでは異種元素(酸素と窒素)を含む高分子積層界面を10 nm以下の空間分解能におい

て濃度変化を測定することに成功した本件については高分子学会Polymer Journal論文

賞受賞がある

ダイナミックス評価技術高性能化させた SVM による粘弾性評価において表面の水平方向

深さ方向の分解能を10 nm まで向上させることに成功したまた同装置により高分子材料表

面のばね定数の測定を可能とし表面力学物性の定量的な評価を実現したその結果高分

子表面はバルクと比較し一桁程度ばね定数が低くなるなど高分子材料の特異な表面特性を

捉えることに成功した(4)研究成果の項で詳述するように本テーマについては文部科学大

臣表彰若手科学者賞や高分子学会Polymer Journal 論文賞受賞を始め多数の表彰を受けて

いるまた数 10 nm~数 Aring の空間分解能で距離解析を行う固体NMR距離解析システムを

構築した高分子鎖の分子運動の幾何学的構造と時間スケールを正確に捉えることができる

ツールを開発した

ナノ構造制御技術についてはミクロ相分離における 1000 nm 以上の長距離秩序化を薄膜試

料に対してソフトモールディング手法を開発して達成したまたミクロ相分離構造の利用に

よる(サブミクロンまで構造制御された)結晶化した透明材料の創成に成功したさらに流

動成形中に動的架橋を組み合わせまたブレンド系に流動配向を誘起させることで優れた

力学的性質や高度な異方性をもつ新規エラストマーを創成することができた

以上いずれも最終目標をほぼ100達成することが出来た

② 波及効果についての達成度

プロジェクトで開発してきた3D-TEMは日本電子株式会社より販売され既に日本企業の分析

部門に多数導入されている

3D-TEMナノ力学物性マッピングSVMなど本PJの共通基盤技術として開発した解析手法は

PJ以外からの評価依頼も多数あり別途共同研究を進め産業界への貢献を行った

三次元電顕ナノ力学物性マッピング表面界面解析手法固体 NMR 解析などの世界初の

成果は世界的に注目され①でも述べたように多くの研究者が表彰され招待講演依頼を多数

受けるなど材料開発のための基礎的な成果として広く認められるところとなった

PJ内の連携研究を通じて多くの企業研究者と共同研究をおこなってきた結果今後の産官学

共同の材料開発研究の拠点として活動できるいくつかの体制等を形成できるに至った

Ⅲ―138

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

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    • 業務の高度化等の自己改革を促進する
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Ⅲ 研究開発成果について 公開

(3)研究開発計画課題

年 度 H13-16年度 H17年度 H18年度 H19年度 PJ

終了後

① 静的構造評価

技術の開発

② ダイナミック

ス評価技術の開

発 ③ 構造制御技術

年度別目標

最終目標の再

確認と評価装

置の性能高度

連携研究の強

最終目標の達成

評価精度の更なる

向上

連携研究の強化

連携研究継

続強化

連携研究に

よる実際の

材料評価法

の確立

集中研で開

発した評価

装置と評価

技術の確立

により企

業大学産

総研等公的

研究期間と

共同して材

料開発研究

を実施する

拠点として

充実を図る

年度別目標達成度

(times)

材料評価技術 静的構造評価技術

表面界面構造制御技術 ダイナミックス評価技術

構造制御技術 三次元構造制御技術

当初連携研究は H17-18 年度としていたが連携研究は非常に効果があったと判断し予定を

変更してH19年度まで継続とした

Ⅲ―139

Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

Ⅲ―142

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Ⅲ 研究開発成果について 公開

(4)研究開発成果

① 構造(スタティック)評価技術

3D-TEM

近年高分子材料に求められる性能は高機能化微細化が進みナノスケールで材料

設計研究開発されている材料の構造評価技術もそれに対応した複雑なナノ微細構造

を詳細に明らかにする手法の確立が望まれているナノ構造を三次元実空間観察できる

ようになれば高機能材料の三次元構造と機能発現との相関関係を明らかにし新規先

端ナノ材料の創出に貢献できる

本 PJで開発した3D-TEMはTEMとコンピュータトモグラフィー(Computerized tomography CT)

を組み合わせることにより高分子材料のナノ構造の三次元観察を可能にしている厚い試料でも

三次元観察ができるように輝度が高くエネルギー分散の少ない電界放出型電子銃を採用し定量

性の高い電顕像を得るためにインカラム型のオメガフィルタを装備している試料ステージはplusmn

70degまで回転できるように設計されており三次元観察に特化した仕様構成になっている

高精度な三次元再構成像を得

るために三次元再構成のソフ

トウェアの改良も行っている

独自の画像自動撮影ソフトウェ

アを三次元電子顕微鏡に組み込

み短時間で三次元観察できるた

め電子線ダメージを軽減した

鮮明な画像を取得できるように

なっている高分子材料は電子

線ダメージに強くないので撮

影時間の短縮は非常に重要であ

るまた撮影した連続傾斜像をフィディシャルマーカー法により高精度で位置合わせを行うソフ

トウェアを開発し定量性の高い三次元データが取得できるようになっているこれらソフトとハ

ード両面の三次元再構成システムの構築したことにより京都工繊大では分解能 1nm を達成した

これらの改良によりナノスケールでの三次元観察技術は確立されたといえる三次元観察例として

図3にABC三元系ブロック共重合体の明視野像とその三次元再構成像を示す明視野像では判別す

ることができない複雑な二重らせん構造でも三次元化することによりその構造の同定が容易に行

うことができるのである

図 3 二重らせん構造の ABC ブロック共重合体の明視野像

(左)と三次元再構成像(右)

三次元電子顕微鏡に装備されているオメガフィルタはエネルギーの違う透過電子を分光するこ

とができるので特定の元素を抽出した元素マッピングをすることができる透過電子が試料と相

互作用して失うエネルギーは量子化されており元素ごとに決まっているためである京都工繊大

では三次元再構成システムと元素マッピング取得技術を組み合わせ三次元元素マッピング取得

技術の開発も平行して行ってきた平成 17 年にはシリカの三次元元素マッピングに成功し平成

Ⅲ―140

Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

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Ⅲ 研究開発成果について 公開

図4 Polysulfone-block-Polyamide 6の三次元観察 (a)明視野像 (b)イオウの二次元元

素識別像 (c)イオウの三次元元素識別像

19 年度には高分子中に分散したイオウの三次元元素マッピングの取得に成功している(図 4)元

素マッピングするには長時間電子線に晒されるため三次元像を取得するためには電子線ダメー

ジを軽減することが最も重要である電子線ダメージの軽減に成功したのは平成 18 年度に高感

度検出器を三次元電子顕微鏡に導入し短時間露出による画像取得が可能になったことによるもの

である

X-CT

X 線による三次元イメージング手法(X-CT)はすでに多くの研究者により光学系再構成法

などが十分に検討されておりさまざまな研究分野に用いられてきたしかしこれらの研究では

目標物の静的な三次元構造を観察するに留まっており動的な構造観察はなされてこなかった

しかし高分子物性の研究分野では外場による微視的な三次元構造の変化を動的に観察すること

は材料の三次元構造と物性の相関関係を明らかにする上で非常に重要である高分子ナノ構

造の形成過程相分離の構造形成応力下での構造変化などのリアルタイム観察が可能になれば

基礎研究応用研究の両面で期待できる本プロジェクトで開発した X-CT 引張り試験機は X-CT

装置に組み込むことにより三次元イメージングを取得しながら試料に応力を印加し破壊までの

三次元構造を非破壊で動的に観察することを可能にする装置である全方位からX線の透過像を

取得できるようアクリル管で上下のチャックを固定しロードセルにより応力を測定しながら三

次元観察できるようになっているX-CT 装置は断面像を取得できるため真応力-真ひずみ曲線

が得られるのが特

徴である

図 5 180 度でアニールした PS-PMMA の相分離粗大化過程を示す三次元

像アニール時間はそれぞれ(a)400分 (b)410分 (c)420分

X-CT を用いた

高分子試料の動的

観察例として高分

子混合系の相分離

構造の三次元観察

を挙げる図5に

スピノーダル分解

Ⅲ―141

Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

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Ⅲ 研究開発成果について 公開

後期過程の X-CT による三次元観察結果を示す試は Polystyrene(PS) Poly(methyl

methacrylate)(PMMA)のブレンド試料を用いたPSと PMMAの構成元素はCHOであり両者の間

に X線吸収係数の差がほとんど無いためPS に臭素を付加することにより PS 相の X線吸収係数

を大きくしコントラストを得ている混合系を 180で加熱を行い加熱時間による同一位置

の三次元構造の変化をX-CTにより観察したアニール時間を増やしていくとPMMA相(白い相)

が細くなり2つの領域に分かれ平坦になっていく様子が観察された今後の詳細な解析により

現在まで明らかにされていない界面の運動を直接観察することが可能になると期待される

ナノ力学物性評価システム

材料開発において構造と物性の相関を研究

することは必要不可欠のことであるがナノ

スケールで物性評価が可能な技術はこれまで

ほとんど存在しなかった原子間力顕微鏡

(AFM)タッピングモードでの位相像がそれに

対応するものであると広く知られているが

この方法は定量性にかけるとともに複数の物

性が結果に関与することが多く間違った解釈

に結びつけられることが少なくないそこで

本評価システム開発においてはAFM を単な

る構造解析ツールとして利用する以上のツー

ルとして発展させるべく弾性率凝着エネ

ルギーなどの力学物性のマッピングを行える

技術を開発することを目的とした

本 PJ で開発したナノ力学物性評価システ

ムは試料の二次元的な 64times64 点上(平成 19

年度後半最新バージョンで 128times128 を実

現)でフォースカーブを測定するモードであ

るひとつのフォースカーブからは試料と

AFM 探針の局所的な力学相互作用に関する情

報として試料自身の応力minusひずみ曲線(実際には力minus試料変形量曲線)がひとつ得られる適切

な力学モデルを仮定すると応力minusひずみ曲線から弾性率や凝着エネルギーが算出される本測定

法では探針による試料表面変形の影響を含んだ凹凸像(通常のAFM像は多かれ少なかれ試料変形

のアーティファクトを含んでいる)各点での試料変形量像これらを加え表面変形効果を補正し

た真の凹凸像および弾性率像凝着エネルギー像が取得できるそのために従来の構造のみが

観察できるAFMの限界を超え興味深い解析が行えるようになった例えば図6に示した伸長した

天然ゴムの研究ではこれまで信じられてきたアフィン変形の仮定が現実の系では全く成立して

いないということを示すことができたゴムはナノスケールで見て一様ではなく伸長率にして

も弾性率にしてもナノスケールで不均一であるのである

図 6 伸長天然ゴムの(a)真のトポ像と(b)弾性

率像

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